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セオさんのイリスカードの話(前編)
出演:セオさん、カロンさん、リアスさん、カルネオルさん、リゼさん(名前だけ)

ロケ地:ギルド元宮。アクロニア平原

あらすじ
治安維持部隊の大尉、セオに呼び出されたジンは、部隊へ導入される新しい新兵器のガイダンスを受けるため元宮へと向かう。
イリスカードとして渡されたものを他のランカー達と試すジンだが、セオにもらったイリスカードが高価なものであると知り……


 
時刻は午前10時。
エミル・ガンナーのジンは、複雑な心境で一つの扉の前に立っていた。
背中には、ボルトアクション式の対物ライフル、光砲・エンジェルハイロゥを背負い、ギルド元宮の三階にある第一資料室の前で立ち尽くす。
ギルド評議会の人間なら、誰でも入室が可能だが、治安維持部隊では、述べ少尉以上の人間しか自由に出入りすることはできない。
ジンは実働兵だか、ランカーの権限がある為、入室もできないわけではないのだか……。
認証コードを発行してもらった"ナビゲーションデバイス"を、扉前のロックへ何度も近づけては踏みとどまる。
出来れば来たくはなかった。
むしろ来なくていいのに、なぜ来てしまったのかと自問自答する。
一通り考えが一周して、はぁとため息をついた時、動かした"ナビゲーションデバイス"が音を鳴らし、認証用完了の文字が流れる。
しゅっと扉がひらいて、思わずたじろいだ。

「おや、ようこそ。ジンさん」
「ど、どうも、セオ大尉」
「時間より30分早いですね。すこし見直しました」
「と、当然っすよ!!」

部屋の前で15分以上たむろしていたなど言えない。
目の前にいるのは、ギルドランク6th、エミル・アストラリストのセオだ。
未だ20才にも満たない彼は、たった数年で大尉にまで上り詰めたエリートでもある。
今日、ジンが呼び出されたのは、ここ最近導入された特殊な兵器のガイダンスを受けるためだった。

「本来ならば、もう数ヶ月も前のガイダンスだったのですが、貴方は療養中で受けられませんでしたからね。今回特別に、僕がガイダンスをさせていただこうかと」

療養中ということは、腕を怪我していた時期か。確かにあの時は、色々ありすぎてガイダンスなど受けられなかった。
しかしそれでも、忙しい立場なのに、時間を割く余裕があったのかと思ってしまう。

「貴方だけではないです。ジンさん」
「うわぁあああ!」

唐突に響いた新しい声に、思わず悲鳴を上げた。
真横に出現したのは、茶髪に銀縁メガネをかける。ギルドランク8th、エミル・イレイザーのリアス。

「てんめぇ!! 突然湧くんじゃねぇよ! リアス!」
「人を虫みたいに言うのはやめてください。久しぶりに会ったのに」

「リアスさんも、ジンさんと同じく参加できませんでしたから」
「そ、そうっすか……」
「セオ大尉、あと一人来られると聞きましたが」
「えぇ、まだ時間前でもありますし、場所を作りましょう。手伝ってください」

そう言って2人は、資料室の脇にある長机を動かし、黒板と向かい合うように並べる。
簡単な事務椅子も用意していると、再び資料室の入口が開いた。

「あれ? カロンさん」
「お、ジンじゃねぇか。早いな」

「ギリギリですね。カロンさん」
「別にいいだろー? 命取られるわけじゃねぇしな」
「まぁ、いいでしょう。時間前ですし、座ってください」
「おう」

いつも通りだ。
カロンがそのまま並べられた椅子へ座ろうとした時。
歩き出した彼をじっと見つめている視線がある。リアスだ。
リアスと二週間一緒にいたジンには分かる。あの目は興味を持った目だ。

「なんだよ。リアス、俺の顔になんかついてっか?」
「カロンさん。ホライゾン隊へ入られた噂は、本当ですか?」
「あぁ、本当だけど……?」
「どんなオファーがあっても無視を決め込んできた貴方が、どういう風の吹きまわしでホライゾン隊へ?」
「そりゃあ、勧誘されたからに決まってんだろ?」
「ホライゾン隊は、100人規模の大隊。人数は常にいっぱいで空きが無いとよく聞きます。今回貴方は、諜報としての特別枠を得て所属したみたいですが、なぜそこまで?」
「よくしらべたなぁ……でも俺は誘われた側だし、深い所はしらないぜ?」
「なら何故受けたんです?」
「誘われたからだよ」
「集団行動は苦手ではないのですか?」
「おいおい、決めつけんなよ。好きじゃないが、出来ねぇわけじゃないぜ?」
「……」

リアスがむっとした。
ジンはそれをみて、カロンの交わし方に感心する。

「広く深く! それこそ、スカウト系の重要なとこだぜ? しりたがりもいいがリアス、お前はもうちょい、幅をひろげねぇとな」
「どういう意味ですか?」
「情報収集力は流石だが、隠れんの苦手だろ? クロキンしてても気配でモロバレなんだよ」
「な……」
「もうちょい気を引き締めねぇとなぁ……」
「貴方に言われる筋合いは、ありません!!」

完全にカロンのペースだ。
言われてから気づいたが、確かにリアスは、イレイザーなのにあまり"クローキング"を使う所をみない。カロンなら、それでこそ遊び心で使うのに、リアスはからっきしだ。
ジンがリアスの事をイレイザーらしくないと思ったのも、要スキルである"クローキング"を使わないからかもしれない。

「ま、悔しいなら、結果出してみろよ。ホライゾン隊へはいりたいなら、聞いてやってもいいぜ?」
「おれは、おれで好きにします! 構わないでください!」

上手いと、心から思った。参考にしたい。

「早く座って下さい。始めますよ」

苛立ちをみせるセオの言葉に、三人はいそいそと席にすわる。
ジンはズボンのポケットからメモ帳をとりだし、2人も簡易な筆記用具を取り出した。

「では、今回の要である武器。イリスカードについてのガイダンスを、はじめます」

イリスカード。
ジンは始めて聞いた言葉だが、横の2人は表情を変えず黒板をみている。
カロンは既に椅子へ深く腰掛け、眠そうにしていた。

「イリスカードのイリス、この名称の語源は、古代アクロニアの科学者、イリス博士より付けられました。彼女が作成した当時の研究資料”イリスレポート”には、”思いの力”を結晶化しそれを武器として使用する技術が記載されており、ギルド元宮は、その"イリスレポート"を元に、研究と開発を進めてきました。結果、イリスカードが完成しましたが、このイリスカードの元となる"思いの力"の更に元となるもの、それが心です」

セオが黒板の中央に赤いチョークでハートを描き、中央に心と書く。

「心とは、この世界にある全ての生命に宿るものであり、その心が発する"思い"を板状、カードの形状へ結晶化したもの、それがイリスカード」

ジンが目を点にしている。リアスは無表情だが、カロンは首を天上へ向けていた。
セオはそれに構わず、自分のポケットから緑のカードを取り出す。

「これがイリスカードです。本日はこれを使ったガイダンスと実技を行います」

手渡されたカードを、ジンが受け取る。裏面は緑だが、表面は真っ黒だ。
紙かと思ったが、曲がらないガラスの様な硬さがある。

「ギルド元宮公認のカードは、表面に一般公募のイラストがプリントされています。それは印刷前のサンプルなので、あしからず」

ジンは大方の質感を確かめた後、リアスにそれを回すが、彼は何もせず、カロンの前へ回した。当然カロンは無反応を決め込み、上をみたまま戻ってこない。

「それは、人の心に限らず、様々な心が発する"思い"を結晶化したもの。たった一枚でも強力な力を得る事が出来きます」
「あの、なんでそんなもんが今更? 俺が本部にいる時は、なかったきがするんすけど?」
「イリスカードの力は、使い用によっては兵器にもなりかねない。その為ギルド評議会は、各国の軍事利用を防ぐため、冒険者へ秘密裏な普及を進めました。もう十分すぎる程に浸透しましたが、ここ最近、捕縛にかかった評議会員を、イリスカードを使って撃退する冒険者が見えはじめた」
「そう言う事っすか……」
「よって我々も、急遽導入に踏み切ったという事です」

そう言い切ったセオは、カロンの前に置かれたイリスカードを手に取る。
ぐぐぐ、といびきをかき出したカロンは、口かよだれを流して熟睡しているようにも見える。
セオは左足を後ろへ滑らし、黒面のイリスカードを弾いた。

「"イリス・基礎知力強化"!」

パキンと、カードが粉砕。中から紫の光が溢れ、セオの胸に灯る。

「"フロスティゲイル"」

囁いた矢先。
カロンの真上の空気が結晶化し、一瞬で長さ一メートルの氷柱が完成する。
周りの冷気も尋常ではなく、ジンは思わず身をすくめ、くしゃみをした。
そして完成した氷柱は、引力に任せ、落下。
額から数センチでカロンが目を覚まし、椅子ごとひっくりかえって交わす。
氷柱がカロンのわき腹ギリギリに突き刺さった。
下の階から悲鳴が聞こえる。

「このように、一時的な魔力強化などが行えます」
「セオ、てめぇ殺す気か!? マジで生きた心地しなかったぞ!!」

カロンの抗議なんて聞きもしない。

「今お見せしたのは、あくまで一例であり、"思い"の形は様々です。中には体力強化や単純な筋力の強化、珍しい物では詠唱の単純化やシールドを発生させるものまであります。どれも効果は数十分ではありますが、兵器としては十分すぎる。扱いにはきをつけてください」

ここまで話した所でリアスが手を上げた。

「リアス君。なんでしょう?」
「体力や魔力は、本来その体に応じたものしか発生させる事が出来ませんが、イリスカードを使用した場合。肉体が許容できる範囲以上の物を発生させることになります、反動はないのですか?」
「火事場の馬鹿力と言う言葉がある様に、”思い"は時には強大な力にもなり得る。これはそんな強力な"思いの力”を、任意で発生させるものです。しかし、魔法が不得手の貴方方が、魔力強化のイリスカードを使用したとしても、私と同じ効果はでません」
「つまり、肉体に比例して強化されるということですか?」
「ほぼ正解でしょう。カードによっては、そのような壁も超える物もありますが……」
「おいおい、それじゃあ普段から訓練してる俺達はどうなんだよ。立場ねぇぞ」
「貴方方の訓練の参加率をおいてお話しすると、効果はあくまで数十分。それに、そのような効果をもつイリスカードは、未だ数枚しか発見されていません。一回使い捨てと考えるなら、市場には出回らないでしょう」

再びリアスが手を挙げ、セオは感心した。

「イリスカードは、使い捨てですが、一体どうやって生産されているのですか?」
「主に使い古された武器や、モンスターが持つ心を取り出して実験を行っています。心そのものがあれば、より沢山のイリスカードが生産できますが、モンスターの心は弱く、効果的には弱いものが大半です。しかし、人が使った武器や防具。また先祖代々使い古されたものからは、抽出する”思いの力”はすくなかれど、強力なイリスカードが生産できます」
「なるほど」
「”思い”を形として残す事も出来ますので、額縁に飾りたいと、貴族殿から要望もきています」

どうでもいい。

「でも、そういうのって結構気持ちが大事って言うし、使い捨てで消えちまうのはもったいなくないっすか……?」
「それはあくまで、考え方の問題ですね。取り出したいという人は取り出すでしょうし、そのまま使いたいという人は使うでしょう。しかし、取り出すことで”使用できる”ということになれば、判断の違いがでるのは当然です。ここまでで、ほかに質問はありますか?」

セオがイスに座る三人をみると、突っ伏して顔だけ上げていたカロンが、ひらひらと手をふっていた。
セオはジト目でそれをにらみ、何も期待せず当てた。

「なんですか?」
「なんでそんな危ないもんつくったんだよ? こうなることは予測できただろ?」

核心だ。
普及させる時点で、悪用されることは目に見えている。それなのになぜ浸透させる必要があったのか。

「中立的な立場をもつ冒険者へ持たせることで、戦争の回避を行おうとした……とでもいえば、納得していただけますか?」
「意味わかんねぇな。その程度で回避できたら誰も苦労しねぇよ」
「少なくとも、各国との力関係は均等になります」
「同じじゃねぇか今までと……ただ致死率が上がっただけに見えるが?」
「真実をお話しするのであれば、隠し通せなくなったといえばいいでしょう。”イリスレポート”は数年前、アクロポリスの発掘担当が偶然発見した資料。ギルド元宮はそこから、秘密裏に研究を進めてきました。しかし実用化が達した段階で、身内の中で実験を行っていましたが、そこから人から人へのうわさで広がった結果……」
「馬鹿じゃねぇの……?」
「それはあなた自身が、勝手に上に申し上げてください。私に言ってもなにも変わらない」

カロンが舌打ちをする。今更回収しても間に合わないだろう。
使い捨てであることが唯一の救いだが……。

「他にないですか。特にジンさん、さっきから黙っていますがちゃんと理解できてます?」
「え”、えぇ、とりあえずまぁなん、とか」
「……仕方ないですね。また何かあれば聞いてください……では実技に移りましょう。北アクロニア平原に移動します」

そうして、リアス、ジン、カロンの三人は臨時で出していた机を片づけ、先に平原へ移動することになった。
途中、アップタウンで、羽根つき帽子のエミルの男性と話すリゼロッテを見かけたが、リアスに急げと促され、ジンも駆け足で平原へと向かう。
持たされた八つ当たりカカシを並べていると、後ろからセオが新しい顔を二人連れて現れた。

「こんにちは!」
「あれ、カルネ君」

「アップタウンで会いました。手伝ってくれるそうです。あなた方とは違い、カルネ君はちゃんと正規ガイダンスをうけているので、安心できます」
「え、えっとぉ……」

胸を貼るカルネオルは先輩か。確かにここの三人に比べたら一番真面目かもしれない。

「そっちのドミニオンは?」
「あ、は、初めまして、イリスカードの生産、実用を研究している。ドミニオン・カバリストのカインロストです。カイトと呼んでください」
「彼は、イリスカードについて研究する研究員の一人です。カードについてわからないことがあれば、きっと十分すぎるほど話してくれますよ」

「あはは」と話すカインロストは、青い髪にメッシュの入った髪型をしている。
白衣だけを見れば、どこかの病院にでもいそうだ。

「では始めましょう。カイト、イリスカードを出せますか?」
「はい。強さもまちまちでもってきました。今回は近接の方が多いと聞いたので、おもに近距離強化系を……」
「あの、俺ガンナーなんですけど……」
「え” そうなんですか!? あ、でも命中補正のものがありますので、そっちで」

カロン、リアスに継いで渡されたイリスカードは、束にされて輪ゴムがかけられている。
一番上のカードが違うのをみると、中身も全て違うようだ。

「アビリティベクトルについては、"ナビゲーションデバイス"のアプリケーション、コードリーダーを使用して確認してください。カメラで表面を映すとそのカードのアビリティベクトルが表示されます」
「アビリティベクトル?」
「イリスカードへ個別に付いている"思いの力"の名称です。たとえば、”基礎体力強化”、”ショートレンジバースト”、”アーマープラス”、近距離系だと、”アサルトブレイズン”などですね、えっと、ガンナーさんはどれがいいかな」
「エミル・ガンナーのジンっす」
「ジンさん。ならジンさんには、命中補正のアビリティベクトル”ロックオン”のカードをどうぞ」

追加で渡された一枚を、ジンは束へと加える、広げて見たが全部みるとカラフルで面白い。

「……そうですね。とりあえずジンさんからやってみてください、銃ならわかりやすいでしょう」
「どうするんすか?」
「一度使わずに射撃を行い、もう一度はカードを使用する。それによって違いをみせてください」
「えっと……カードは?」
「手に持って弾き、粉砕すれば結晶化した思いが心へ付与されます」

感覚的すぎてわからない。
ともかく、やってみなければ始まらないので背中に持ってきたエンジェルハイロウをおろし、ジンは座って用意されたカカシを狙った。
距離は30m、この距離ならスコープなしのオープンサイトで十分狙える。

命中補正のアビリティベクトル。そんなものはいらないと証明したくて、ジンはいつも以上に真剣にオープンサイトをみた。
自分ならできる、そう言い聞かせ、ジンは引き金を引く。

ドンっと爆発音が響き、弾丸が発射。
筒を出た弾丸は、八つ当たり案山子へ命中し、何十メートルも奥へと吹っ飛ばした。

「ジンさん……」
「こ、これ対物ライフルで……」
「距離を取りましょう。どのくらいがちょうどいいですか?」
「ちょうどいいのはこのくらいっすけど……」

「大体目視だと40mが限界だといわれていますよ、セオ大尉」
「では50mにしてください」

鬼だ。
リアスが歩数で距離を図り八つ当たりかかしを立てる。
悔しい。まるで失敗の見世物じゃないか。
イリスカードの性能を見せるために、自分の下手さを証明するなどやってられない。
そんな闘争心が芽生え、ジンは小さく見える案山子を再び狙った。
額、胴体、手、距離を測り照準をあわせる。反動はこの一年間使って覚えた。距離はあるが、ここまで時間がかけられるなら、なおさら外したくはない。

「カカシの顔を狙ってください」

大尉のご命令だ。なおさら外せない。
ジンは一度目をつむり、一瞬気持ちをリセットすると、もう一度確認し、引き金を引いた。

どんっという爆発音に、カルネオルが耳をふさぐ。
再び発射された弾丸は、軌道を正確にとらえ、八つ当たり案山子へ命中。威力のまま吹っ飛ばし、うしろの木へ直撃した。
カルネオルが持ち前の飛行能力で確認しにいくと、カカシの顔へ見事に命中しており、セオは無言でジンを睨みつける。
またカロンもジンの背中を蹴った。

「す、すんません」
「もういいです。イリスカードなど必要無いと言いたいのでしょう?」
「へ?」
「よく考えれば、もっとわかりやすいやり方がありましたね」

その後ジンは「アクロニア平原を3周して来い」といわれ、一人平原でマラソンをさせられる羽目になった。
残された3人は、カインロストに渡されたイリスカードを使い実践を始める。

「俺、投機は苦手だぜ? セオ」
「なら、ちょうどいいでしょう。”ロックオン”のカードを使ってみてください」

セオに言われ、カロンが投機武器を何も使わずに投げる。20m離れている案山子へ投げたところ、流石に当たらず、肩の付近を掠った。
そこでカロンは、渡されたカードを使い、弾く。

「イリス・ロックオン!!」

唱え、数枚の手裏剣を投機した。真っ直ぐな軌道を得た手裏剣は、正確に飛び、三枚全てが案山子の額付近へ突き刺さる。

「当たった!」
「この様に、命中率補正が可能です」
「便利だなぁ」
「アビリティベクトル、ロックオンの特性は、遠距離と近距離の両方に命中補正が可能な凡庸性の高いカードです。今は投機が苦手だと言って使用しましたが、近距離でも効果は発揮できるので、覚えておくといいでしょう」

感心したが、ふと後ろを見るとリアスの姿が見えない。
どうやら基礎技術強化をつかい、"クローキング"の持続率を測っているそうだ。苦手な癖に、可愛いやつだと思う。

カルネオルは放置されている案山子へ向けて、居合いの連続斬りを練習していた。
その後ろには、マラソンをするジンが目にはいる。

「大尉大尉。ジンのやつ体力ないんで、あのままやらせると倒れるぜ?」
「分かってます」
「あいつも、なんだかんだで負けず嫌いだしな」
「……いえ、私も少し彼を見誤っていました」
「と言うと?」
「当たり前の事に気づけなかった。当然の行動だと思いましたよ」
「ならなんで、マラソン?」
「イリスカードを使う事で、相対した危険を回避できる事を知って欲しかった。それだけです」

そう話しているうちに、ジンは足がもつれて倒れてしまった。
準備運動をさせたが、このコースはフェンサー系の訓練コースでもあり、アーチャー系ではとても走りきれない。
二週目で息が上がり、酸欠を起こしているようだ。
カインロストはそれを見て、ミネラルウォーターを持ってきてくれる。

「ジンさん、大丈夫ですか!?」
「あ、あと一周……」
「必要ありません」
「へ?」

セオが懐から取り出した一枚のカード。
渡されたそれは、先ほど束とは違うイラストがプリントされている。

「使って下さい」

受け取り、まじまじと見たがイラストが違うぐらいで大差がない。
恐る恐る弾くと、パキンと砕け淡い白の光が溢れた。

「イリス・親愛の絆。回復力を大幅に引き上げます。これで疲労はすぐ抜けるでしょう」
「あ、ありがとう、ございます……」

「体力も向上させるので、大分楽になりませんか?」

カインロストに言われたが、確かに、疲れが何処かに消えたきがする。

「親愛の絆は、未だ数が少ないので、改良の仕方によってはもっとすごい効果が望めますよ」
「それって、かなり高価って事じゃ……」

「セオのお詫びだってさ、もらっとけよ。ジン」

何かしただろうか……?
無礼を働いたのはこちらなのに、謝られても困ってしまう。
結局その日は、簡単なイリスカードの使い方を教わり、カインロストに遠距離系のカードとカードフォルダをもらってジンは帰宅した。
リビングに座り、珍しく本のようなものを見ているジンをみて、カナトが首を傾げる。
エプロンのまま除きこんできて、納得したようだった。

「イリスカードか」
「お前知ってんの?」
「……むしろ貴様が知らなかった事が驚きだが」
「なんで……?」
「冒険者にとっては、日用品にも近い物だぞ」
「は? 兵器だって聞いたけど?」
「そんな話は聞いたことがないな」

思わず言葉を失った。
火を止めたカナトは、一旦自室へと戻るとA4サイズ程度のカードフォルダを持ってくる。中身を見せてもらうと、ジンに渡されたカードとは全く別の絵柄が沢山並んでいた。

「集めてんの?」
「違う。属性だ」
「属性?」
「武器へ属性を付与する事で、反属性の敵に、より効果的なダメージを与える。お前の色付き弾丸と同じ考え方だ」
「へぇー」
「補助系のイリスカードとは違い、属性は一度付与すると一日は持続する。コロンよりも効果低いのが欠点だがな」
「便利だなぁ……」
「常識だぞ……」

少しむっとしたが、デバイスを通してみると確かに属性がメインのイリスカードだ。
中にはアビリティベクトルも一緒に付いているものもあり、便利そうにも思えた。

「そいや、この数字ってなんなんだ? アビリティベクトルの」
「効果値だ。その数値が高ければ高いほど効果が高い希少なカード。だいたい一枚だと40前後が最高値か……」
「お前集めんの好きそうだな」
「べ、別に必要なだけだ」

そうは言うが、なんだかんだでカードフォルダの八割は埋まっている。特に最後の方には、セオに使ってもらった絵柄と同じカードがあって驚いた。
周りには数値の高いイリスカードが並んでおり、希少なカードだと分かる。

「カナト、このカードって珍しいの?」
「あぁ、とても希少なカードだ、一瞬でどんな怪我も治癒し、身体のありとあらゆる疲労も回復させることから、万が一の時の為に持ち歩く冒険者もいる。ただ価値がありすぎるのが困りものだが……」

突然冷や汗を流すジンに、カナトが首を傾げる。
とんでもないものを使ってしまったのかもしれない。

「カナト、これいくらしたの?」
「欲しいのか?」
「ま、まぁ……」
「もう一枚あれば譲っても良かったが、生憎一枚しかない、悪いな」
「お、おう。きにすんな」

どうしよう。
何も考えず使ってしまったが、今思い出すとカインロストのケースではなく、懐から出てきていた。
私物だった可能性もある。
カナトは教えてくれなかったが、価値が気になり、ジンはアビリティベクトルからそのカードの価値を調べた。
すると同じものが数枚引っかかり、単純計算でも、ジンの給料の三ヶ月分。
なぜこんなものを使わせてくれたのかと、むしろそれを譲ってもいいという相方の言葉にも疑問を覚えたが、同じ家に暮らして居るし、場所が変わるだけで大差ないとでも思ったのだろうか……。
考えれば考えるほど意図が読めず、思わず頭を抱えてしまう。

「さっきから何を考えている?」
「わかる?」
「表情がコロコロとかわっている、話せ」

考えるのも面倒だ。この際自分より頭のいい相方へ頼った方がいいか。
結局ジンは、イリスカードについて話し、セオとの関係性なども掻い摘んで説明した。
カナトは珍しく嫌な顔もせず、淡々とそれを聞いてくれる。

「なるほど、それであのカードか……」
「わりぃ」
「構わない。唯、カードの価値を知らせぬまま渡すとは、裏があるのかそうではないのか……」
「裏?」
「主に外交戦略で使われる手だ。過剰な支援を行うことで、自らに逆らえない心理を作り出す」
「そんなん……」
「……私は貴様と彼らの関係はよくわからない……だが、お前自身が納得できないのなら、唯の好意だと受け取り、お礼をすればいいだろう」
「お礼か……何を渡せばいい?」

真剣に聞いてくるジンも珍しい。
あまり深く関わって欲しくないが、下手に恩を売りすぎるのも困りものだ。
本来なら借りたものを返すとして、同じものを持っていくが、それでは好意を棒に振ることになる。
しかも、相手は大尉。自分より上の階級の人間なら"面倒を見る"という意味合いも含まれるだろう。その上でのお礼か……。
カナトは少し考えて、自分が実家へいた頃を思い出す、そして一つの結論を出し、それをジンへ助言しその日を終える。


後編へ続く
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本編 | 【2013-03-21(Thu) 12:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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