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ジンとカナトが復帰する話(後編)
出演:フィルさん、カロンさん

ロケ地:ECOタウン

あらすじ
隠密で護衛していたフィルに、存在を気づかれてしまった3人は残りの二日間をフィルとともに過ごすことになる。
ゆっくりと心を開いてくれる彼女に、ジンは戸惑いながらも仕事を続けるが、部屋の見張りをしていた事がフィルにばれてしまう。

前回:ジンとカナトが復帰する話



 

日付が変わり、仕事慣れをしているカロンは、ジンが交代に来てから部屋へと戻る。
ジンは朝の5時ごろから、再びフィルの部屋の前で見張りをはじめ、三時間ほど待機していたところ、朝の8時にフィルが部屋からでてきた。

「ぐっどもーにん! フィルちゃん!」
「じったん。ストーカーもほどほどにしてよ」
「ストーカーじゃねぇって……昨日、カナトに部屋番を教えただろ? せっかくだし迎えにきたんだ。メシいこう」
「いいけど、かなとんは? 相方なんじゃ……」
「あいつなんて放っておいていいって……朝に弱いし、どうせ昼までおきてこねぇよ」
「へぇ~、かなとんって朝弱いんだ」
「そそ、いつも昼までおきてこねぇし、付き合ってたら日がくれちまうぜ?」
「じゃあなんでじったんは、かなとんと一緒に組んでるの?」
「ま、まぁいろいろあってね」

濁る返答にフィルがジト目で睨んでくる。 呆れたのかそっぽも向かれてしまった。

「かなとんもじったんもさぁ、私の事はいっぱい聞いてくるのに、自分たちの事、全然話してくれないんだもの。これじゃあ、ストーカーにしかみえないのも仕方ないっていうか……」
「は? それとこれとは話はべつじゃねぇ?」

フィルがぐるりとこちらを向く、じっと顔を近づけ睨む瞳は、金と赤のオッドアイをしており、奥にはどこか寂しさが伺えた。

「ナンパして来たくせに、どうしてそんな事言えるかなぁ、私と遊びたいんじゃないの!?」
「え"、それはその……遊びたいぜ? その為に声かけたんだから」
「情けない。もっとガツガツきてもいいんだからね!」

意味がわからない。だがなんだろうこの微妙な気分は……。

「じったん早く、一人で行っちゃうよ」
「今いくって……!」

そうして、二人で朝食をとった後、午後からも遊ぶ約束を取り付けた。
普段よりも早く起こされたカナトは、起きてすぐ水着に着替える羽目になり、ジンはコーヒーだけ飲ませてビーチへと連れて行く。
睡眠は十分な筈だが、なれない寝床で熟睡は出来なかったらしく、ジンは仕方なくパラソルの日陰にカナトを寝かせた。

「かなとんにじったん! おまたせー!」
「お、フィルちゃん! まってたぜ!」
「あれ? かなとん、どうかしたの?」
「起きたばっかでダウンしてんだ。先に海にはいってようぜ!」
「えー、でもかなとんとも一緒がいい」
「……さいですか」

心地よさそうな寝息を立てるカナトを、フィルがまじまじと覗き込む。
このタイミングで目を覚ませば、きっとまた悲鳴でもあげるだろうか、そうなれば面白いのに、等の本人は熟睡して、目を覚ます気配がない。

「かなとん……昨日よく眠れなかったの?」
「いや、ちょっとした癖さ。睡眠障害だと」
「すいみんしょうがい? 」
「俺は医者じゃねぇからわかんねぇけど、普通の奴よりもよく寝るっつーかなんつーか……病気自体はもう治ってるみたいなんだけどな」
「なんでそんな病気を?」

言うべきかちょっと迷った。
しかし、先ほど言われたフィルの言葉が頭によぎり、ジンは数年ぶりに過去のことを口に出す。

「1年とちょっと前か……俺とこいつが始めてあったのは、ディメジョンダンジョンっていう、普通の場所とはちょっと違う場所だったんだ。俺は、迷い込んで一日ちょっとで抜け出せたけど……カナトは、俺と出会う一週間ぐらい前からそこに閉じ込められてて」
「それが、じったんとのかなとんの?」
「そそ、ファーストコンタクトってやつ? そっから二人で抜け出してさ、そのまま終わると思ったんだけど、カナトが頼ってきて……そっからだな。病気はそんときからだったらしい」
「らしいって……あいまいね」
「聞いてなかったんだよ。なんでかしらねーけど……」
「ふふ、じったんって、意外と面倒見がいいんだね」
「は? 俺はやることもなかったし……助けろって言われたから助けただけ――」
「それを面倒見がいいっていうの。ちょっとみなおしちゃった」
「何が?」
「普通できないよ、そういうの……」
「……でも俺も、カナトと出会えなかったら、今もあそこに閉じ込められてたかもしれねぇしなぁ……そう思えば、よく一週間も生きてられたとおもうぜ?」
「どうやって生き残ったんだろう……かなとん」
「さぁー、俺と会ってからの飯で、三日ぶりって聞いたし、そん時には、もう感情がなくなってたのかもしれない……」

思い出せばあの時、カナトはいろんな意味で普通ではなかったとおもう、口にする言葉の全てが平坦で、無感情。話す言葉のすべてにカナト自身の考えは含まれていなかった。

1という言葉に1しか帰ってこない会話。まるで機械のようだと思ったのは今でもよく覚えている。

そう考えると「脱出する」と言う言葉に素直に従ったのも、論理的な思考しか行えない、心身的な負傷の症状か。

「感情がないってどういうこと?」
「閉じ込められておかしくなってたってこと、今はもう平気だけどな。たまムカつくけど……」
「なかいいじゃん」
「よくねぇよ!!」

そう嬉しそうに笑うフィルを直視できず、目をそらしてしまう。
飲み物でも買いに行こうと思った時、横になっていたカナトがようやく体を起こした。
当然、目の前に居たフィルに再び悲鳴を上げ、パラソルの軸に頭をぶつけたが、そのおかげで落ち着き、ようやく3人で行動できるようになる。

その後、ビーチバレーとか桟橋からの飛び込みなどをして遊んだが、ビーチバレーがエミルのジンにとって容赦がなく、散々空中からボールを掴まれ、ぶつけられた。
午後からは、カロンもビーチで合流し、ジンと二人で競泳をやることになったが、意気揚々と参加したにも関わらず、ジンが途中で足がつって沈みかけたので、カナトに空から引き上げてもらい一命を取り留めた。
かっこ悪いところを見られはしたが、一人だった時よりも生き生きとしてきたフィルに、三人はどこかしらの安心を覚える。
ただ見ているより、やっぱりこちらの方がいいと思った。

一日中ビーチで遊んだ彼らだったが、夕食後に、花火大会が開かれるきき、4人はオープンラウンジの席の予約取る。

「なんかもう完全に旅行だな」
「仕事です」
「悲鳴しか上げてねェ癖に……」

フィル部屋の付近で待っていた3人は、出てきた彼女と共に、オープンラウンジの席に向かう。
薄暗いラウンジは、施設ならではの衣装をまとったウェイターやメイドが数人おり、訪れた4人を笑顔で迎えてくれた。
メニューには、フルーツ付のカラフルなカクテルドリンクから、定番のメロンソーダまでさまざまな種類の飲み物があり、何を頼めばいいのか迷ってしまう。

「”ジン”って名前の酒があるぞ。頼んでみろよ」
「ほんとだ。うまいんすかこれ?」

「馬鹿、安易に頼むな!」
「”ジン”はすっごい強いから、慣れてないなら、やめといたほうがいいよ」
「フィルちゃん。酒詳しいんだ?」
「ううん。旅行に連れてってもらった時によく見るから、覚えていただけ……」
「へぇ~、俺、前にカロンさんからもらった悪路酒以外のんだことねーや」
「じったんって、庶民派なんだね」

「普段はこんな贅沢できねぇしな」
「貴様は普通のものにしておけ、後が怖い」
「なんだよカナト……」

意味深だ。
でも確かに以前、悪路酒を飲んだ時の記憶がほとんどないのである意味怖いこともある。

「かなとんが許してくれないなら、こっちのノンアルコールにすればいいとおもうよ。ジュースみたいなものだし」
「へぇー、というかフィルちゃん何歳?」
「乙女に年齢なんて聞くんだ。サイテー!」
「そ、そういう意味じゃねぇよ!!」
「馬鹿が……」

結局、カナトとジンはノンアルコールを頼み、フィルもワイングラスに入ったフルーツ付きのソフトドリンクをオーダーする。
カロンは一人、小さなグラスにはいった青色のカクテルを頼み、ちびちびとそれを口に含んでいた。

「せっかく来たんだから、このくらいはね」
「旨いんすか?」
「ん~。うまいとかそういうレベルの話じゃねぇんだよ。まだまだ子供だな。ジン」
「なんすか……それ」

「じったんじったん!! ほらほら花火始まるよ!!」

フィルが指差す先を見た直後。浜辺の方角から白い光が上がり、暗い夜空に巨大な花が咲いた。
フィルは、思わず耳をふさぐが、恐る恐る顔をあげて、明るい夜空にぱぁっと笑顔を見せる。
一瞬で散っていく花は、どこまでも儚くて、思わず頬杖をついてしまった。

「じったん、きれいだよ! あれ……どうしたの?」
「え、あ……なんでもねぇよ。夏にも見たけど久々だなぁとおもっただけ」
「そっか……誘ってくれてありがとう。じったん」
「へ?」

にっこりと笑うフィルの表情に、思わず見入ってしまう。背中から照らされる彼女は、昼間見たときよりもどこか違ってみえた。
花火が終わり、フィルを部屋まで送ろうとした所、突然彼女が、はっとして足を止めた。

「ショップゾーンでアクセサリー見に行くんだった……」
「露店?」
「うん……。今日だけの限定露店で……わたし、ちょっとショップゾーンにいってから部屋にもどるよ。また明日ね」
「お待ちを、おひとりでは心細いでしょう。同行しましょう」
「え、でも……かなとん」
「構いません。私がそうしたいだけですので」

気に障ると思ったが、ジンは昼間の競泳でへとへとだ。隠しては居たが、疲れ過ぎて付き合う気にもなれない。

「いいのか? ジン」
「なんすか……?」
「とられちまうぜ?」
「べ、べつにそんな……」
「まぁ、ほどよくがんばれ!」

同じく泳いだ筈なのに、カロンは疲れている様子もない。もう少し体力をつけたいと思った。
その間カナトは、フィルと共にショップゾーンへと向かい、薄暗いライトに照らされる露店を回る。
閉店しかけている店が多いが、ギリギリで間に合ったらしく、露天商は快く商品をみせてくれた。

「どこか不思議な雰囲気だね。かなとん」
「フィル嬢もそう思いますか?」
「かなとんも?」
「えぇ……私は夜もすぐ眠ってしまうもので、最近はあまりでていませんでしたから……」
「……睡眠障害のこと、じったんから聞いたよ」
「……そうですか、奴も口が軽い」
「なんでじったんに黙っていたの?」
「……当時、考えていたのは、これ以上世話になりたくはなかった……というものでしょうか。今思い返せば同じだったとは思いますが」
「どういうこと?」
「ダンジョンに閉じ込められた話は?」
「少し聞きました」
「なら話は早い。無事脱出できた私たちは、一度アイアンサウスの病院へ搬送されました。そこで一応休息していたのですが……羽を負傷した私は、契約期間内での治癒が間に合わなかった。そこにジンが私に治療費を……」
「翼を……それって、下手したら死んでいたのじゃ」
「結果的に救われました。しかしそれでも私は、自身の生命の意味が解らなかった。何故生かされたのか、どうして生かしたのか解らず、ただ生きろと言われたようなそんな気がして、再びジンへ連絡を取った」
「……」
「ジンなら、生きるという意味をもう一度教えてくれるのではないかと……そう思っただけです」
「じゃあ言わなかったのは、心配かけたくなかっただけってこと?」
「そんなかんじですね」
「なんだか不思議だなぁ。私は生きるってそんなに深く考えたことないし……」
「私も、今思えばどうしてそんなことを考えていたのか疑問に思います」
「あはは、でもなんか、二人についてすこしわかった気がする」
「そうですか?」
「うん。二人のうち片方欠けたらダメみたいな、そんな感じがした」
「それは……」

こちらをじっと見るフィルに、カナトはそれ以上の言及をやめた。確かに彼女の言うとおりで、ジンがいなければ今の自分はいない。そう考えると、今自分がここにいる意味を理解できる気がした。
フィルを部屋まで見送り、カナトも部屋にもどると、疲れたのか、ジンも布団で熟睡しており、深夜の担当は満場一致でジンになった。
夜の11時頃にたたき起こされたジンは、コーヒーを飲んで警備へと向かう。
夜の冷たい空気を浴びたが、未だに頭がボーっとする。目を覚まさなければと、ナビゲーションデバイスのパズルゲームへタップしたとき、突然目の前の扉が開いた。

「あれ? じったん?」

息を飲んだ。フィルは11時以降、部屋から出ないと聞いていたのに……。

「フィ、フィルちゃんどうしたの?」
「眠れなくて……外の空気を吸いに行こうと思ってさ」
「そ、そっか。俺もたまたま通りかかったんだ、よかったら一緒にーー」
「たまたま……? 明らかにずっといたような雰囲気だったけど……」
「そ、そんな面倒な事するわけねーだろ……」

疑いの視線を向けられ思わずたじろいでしまう。隠し通す事自体、ある意味無謀な気がしてきた。
何か考え事をしているのか、虚ろな瞳を見せるフィル。昼間とは打って変わって、寂しそうな表情だ。

「……じったん」
「何?」
「……いいや。部屋にきて、そこじゃ迷惑になっちゃう」
「え……外の空気吸いに行くんじゃ……」
「じったんの顔みたら、どうでもよくなっちゃった。お茶ぐらいだすよ……どうぞ」
「え、でも、それは……」
「いいから、早く!」

腕を掴まれ、ジンは無理矢理、フィルの部屋へ引っ張り込まれた。
薄暗い広い部屋だ。カロンとカナトの三人で使ってる部屋の二倍はある。
フィルは着替えを簡単に片づけ、テーブルにお茶を出すと一人ベッドの上へ腰かけた。

「おかしいよね……私」
「……なにが?」
「だって、こんな時期に一人でここだよ。おかしい以外なにもないじゃん……」
「……そりゃ、人はすくねぇけどさ。珍しくはないと思うぜ?」
「そうかな……」
「そそ、俺らがいるじゃん!」

笑って返してくれたフィルに、ほっとした。やっぱりこっちの方がいい。

「…ねぇ、じったんなんで私を誘ってくれたの?」
「……それは、一人だったし、寂しいんじゃないか思って」
「寂しい……? そう見えたの?」
「俺は、そう感じただけだぜ? 誰だって一人は寂しいしな」
「……じったんって優しいね」
「だろー。もっとモテてもいいと思うんだけどなぁっ!」
「やっぱり……前言撤回する」
「なんだよ、それ……」
「あはは……、私ね。家出してきたの……」
「……なんで?」
「……おねぇちゃんと喧嘩して……私。ずっと悩んでてさ、タイタニアで養子になれて、とても幸せだけど、いつかはお父さんもお母さんも先にいなくなっちゃう。……それなら、いっそ最初からいない方ががいいんじゃないかって……」
「それは……」
「そしたら、おねぇちゃんが馬鹿って……私のこと妹じゃないって……どうしたらいいかわかんなくなって」
「……フィルちゃん」
「じったんは、冒険者なんでしょう」
「え、そ、そうだけど……」
「あのさ、私を、仲間にいれてくれないかな……」
「えっ!?」
「私、今はまだ弱いけど強くなるから……! じったんの事助けられるようになるから……お願い」
「でも、家出してきたなら、絶対心配してるって……一度帰ってあげた方が」
「家に私の居場所なんてないよ……タイタニアは私だけ、いつか絶対一人になっちゃう……」
「それは……俺も、エミル族だぜ?」
「じったんは、私に声をかけてくれた。守ってくれた……だから……、わたし……じったんと一緒に居たい」

述べられた言葉の意味に、ジンは思わず息を呑む。
どれ程までに夢に見ただろう、普段から憧れて気にして、一度でもいいから言われて見たいと思っていた。
だけどその言葉は彼女にとってあまりに重い。こんな浮ついた場所で安易に結論を出してはいけないとジンは心からそう思った。
ベッドから立ち上がり、ゆっくりと近づいてきたフィルは、そっとジンの目の前へ足をつく。
腕を支えにして背伸びをした彼女は、キスをせがみ、ジンはそれをそっと避け、彼女を抱きしめた。

「ごめん。フィルちゃん……連れていけない」
「……どうして?」
「仕事なんだ……俺、ここに来たのは……」
「どんな……お仕事?」

そっとフィルを離し、目を逸らすジン。
フィルはそれにどこか失望したような表情を見せて、ジンから離れた。

「そっか……ごめん、じったん」
「……」

何も言わず、何も言えず、ジンは一人フィルの部屋を出た。
閉じた扉の音があまりにも大きく。思わず壁にもたれうなだれる。
軽い気持ちだったのに、なんてことをしてしまったのだと、己の後悔と罪悪感へ溺れる。
考えることもできず、ずっと座り込んでいると、カロンに肩を叩かれようやく顔を上げた。
いつのまにそんなに時間がたったのか……。

「初の深夜勤務どうだい?」
「……きついっすね」
「だろ? 交代だぜ。戻って休みな」
「……」

何も言わず立ち上がりふらつく、カロンは眠気が限界なのかと思ったが、それだけにしては、元気が感じられない。

「なんかあったか?」
「……平気っす。あとよろしくお願いします」
「おう、次は9時だぜ。来いよ」
「はい……」

カロンはあえて何も聞かなかった。

@

心地よい朝の光に照らされ、フィルはゆっくりと目を開けた。
時刻は10時半。

朝食の時間も、すでに終わってしまっている。
チェックアウトの時間は、宿泊券で15時。
それまでここに居て、また一人で何処かに行きたい。
そう考え、フィルがベッドの上で、膝を抱えていると、窓を軽く叩く音が聞こえた。
テラスに出ることができる窓。ベランダから聞こえたが、音の先に主はいない。
不思議に思い、フィルは寝巻きのままゆっくりベランダへと歩み寄った。
窓をあけて、裸足で外にでるが、下には、庭園と海が広がっているだけで誰もいない。
おかしいなと思い、振り返ろうとした直後、首筋にひんやりとしたものが押し付けられた。

「おやすみ」

背中から聞こえた声。始めて聞く、低い声だった。
振り返ろうにも遅い。
何かに刺されたような鋭い痛みを感じ、フィルはベランダへもたれる形で、再び眠りについた。



午前三時からジンと交代したカロンだったが、もう11時になるのに、フィルがなかなか部屋から出てこない。
昨日遊ばせすぎたか。カナトと何かあったのか。それ以前に9時に交代といったジンが、未だに来ないことへ苛立ちも感じる。
交代したときに様子はおかしいと思ったが、あの男がそう簡単に女性へ手を出せるとは思えないし、仕事をきちんとこなすことは一応認めている。
おそらくただの寝坊だろう。起きて来たらいびってやるか。

そう考え、カロンはもう一度手首の時計を見る、11時もすぎてしまった。
どっちもお寝坊さんだなぁと、ため息もついたが、昨日のジンの話でフィルが起きてきたのは朝の8時。
チェックアウトは、一般客では10時、特別宿泊券の自分たちとフィルは優待で15時までだ。
朝御飯は食べなくても、そろそろ昼食時ではあるし、いい加減出てきてもいいはずだが……、そこまで考え、カロンの中にふっと嫌な予感がよぎる。

まさかとおもい、カロンはカラーサンダルのまま入り口から外へとでて、二階のベランダのあるフィルの部屋を覗き込んだ。

窓が空いている。

ベッドには、人が寝ていた痕跡もあるのに何故か部屋には人の気配がなかった。
クローキングを使って侵入もした、が居ない……。この時点でカロンはすべてを察した。

やられた。
即座にナビゲーションデバイスを握り、アドレス帳からジンへ通信を飛ばす。
カナトに起こされたのか、ジンは着替えている最中だったらしく、遅かれど応答がきた。

「ジン、フィルが消えた」
「"な……まじっすか"」
「見事にやられたぜ、俺たちが部屋に入れないことをいいことにな……おまえ、フィルのアドレスを登録してただろう、位置情報分かるか?」

ジンが即座にデバイスの画面を切り替える。昨日の花火を見ながら、教えてもらったものだ。
表示された位置は、明らかにフィルの部屋ではなく、大きく移動している。

「北東の建物……」
「"上出来だ。ジン。俺達にケンカ売ったこと、後悔させてやろうぜ"」

そう言ってカロン通信を切ってしまった。
横では、コーヒーを飲んでいたカナトが、長剣を取り出し、私服のまま背中に背負う。
ジンも烈神銃・サラマンドラを二丁と、バレットセイバーをカバー付きのまま手に持った。

「対人は、貴様に任せる」
「おう……」
「? どうかしたか?」
「なんでもねぇ、フィルを頼んだぜ」
「善処する……」

二人も部屋を出て、北東の建物へと向かった。
建物は、物資を保管する倉庫。業務用の食器から洗剤。食べものも大量に保管されている場所。酒樽も積み上げられており、隠すにはもってこいだろう。
周辺に植えられている草木に隠れ、ジンとカロンがパーティー通信を繋ぐ。

「従業員の中にも紛れ込んでやがったみたいだな」
「"グルっすかね……?"」

「いや、一部だろう。脅されでもしたんだろうさ」

話しながら弾倉を装填し、戦闘に備える。
手に持っていたバレットセイバーの弾倉も確認し、
デバイスの位置情報から、周辺地域をスキャンして、倉庫内の障害物を把握、移動経路も確認する。
フィルのデバイスの位置は倉庫の最奥。壁際に面しており上には小さな窓がある。
カロンはカナトへ、突入の混乱に乗じて奪取するよう指示をだした。
倉庫の窓から中を覗きこむと、作業をしているらしい人間が正面からはいってくる。

全員が腰に銃をもち、背中には短剣を装着している人間もいた。

「倉庫にいくのに武器ねぇ……発想が新しいな」
「”カロンさんついたっすよ”」
「OK、ジン。大方、俺たちがいないことに気付いて、見張りを増やしたんだろう。このド素人集団が、舐められた気分だぜ。でもま、連中はにわかだ。やっても骨折ぐらいで勘弁してやれよ」
「”そんな加減できてたら、苦労してないっすよ。俺だって久しぶりなんですから!”」
「そういえばそうだったな。なら、セオ大尉に叱られてよけりゃ、好きにしろ」
「”どんな釘の挿し方っすか……”」

なんて気楽な会話だろう。だが緊張をほぐしてくれているのはありがたい。
会話を聞いていたカナトから、予定位置の到着を確認したところで、カロンが動いた。
窓をぶち破り、驚いた人間にむけて手裏剣を投棄。持っていた武器を落とさせて接近。三名を、首元と腹などへ打撃をいれて、床へと倒す。
うしろから素手で向かってきた二人には、ジンが足を撃って動きを止めた。

窓ガラスが割れる音に気付き、奥にいた見張りが続々とでてくる。
ざっと数えて10名。
少ないが、奥にまだいるだろうかと考え、ジンは奥で銃を構える相手の射線から外れて、両足腿へ発砲。すべて命中した。

「お、やるねぇ」

カロンの言葉に自信を感じ、ジンは銃を捨て、腰のバレットセイバーを抜く。
慣れているように見えて、動きが顕著だ。カロンより弱い。
腰を落とし、腹に刃を滑らせると、赤い液体が飛び散って相手は悲鳴を上げて倒れる。
また奥から来たもう一人も、上段からふりおろし、右腕を切り落とした。
それを見たもうひとりが、向かってくる足を止めた直後。ジンはバレットセイバーの筒へ弾丸を装填。足に向けて発砲した。

「強いぜ、ジン。もっと強くしてやるよ」

カロンに続き奥へ進む。どんどん出てくる敵へ、さらに武器を構えた直後、カロンの足元へ、巨大な光の魔法陣が出現、みどりの光が二人を包む。


「”アヴォイド・コミュニオン!!”」

直後、見えるものが変わった。
前衛とするカロンをかいくぐり、こちらを狙う銃口。ジンは即座に射線から外れ、弾丸が周りの資材へ当たる。
ジンも回避した場所から発砲し、銃を落とさせ、カロンが回し蹴りをいれて倒した。
周りの人間が止まって見える。これが"コミュニオン"か。


そうして、ほとんどの敵がジンとカロンの元に集まっていき、カナトはフィルの周辺にいる見張りがいなくなったとき、そっと窓から中へと侵入した。
床には布の上に寝かされるフィルがおり、カナトはそっと彼女へと呼びかける。

「……フィル嬢」

ゆっくりと目を開けたフィルは、目の前にいるカナトに「ひゃっ」と声をあげたが、すぐに落ち着いてほっと息を付いた。

「かなとん……」
「怪我は?」
「大丈夫……」
「何もつけられていませんか?」
「平気……でも怖くて出られなくて……」

下手に逃げ出そうとすれば銃で撃たれるか。しかし、今は見張りが全員ジンとカロンのもとへ行っているため、この周辺には誰もいない。

「今すぐ、ここから出ましょう」
「どうやって……?」

フィルに言われカナトが、背中の大剣を抜く。
天井はトタン板で薄い、このぐらいならぶち破ることができるだろう。
カナトはフィルを下がらせ、久しぶりに魔法を唱える。

「"スタイルチェンジ・ソード"、"神の加護"」

ぐっと床を踏みしめ、カナトが一瞬、武器を離した。
床を蹴り、勢いよく武器を掴んだカナトは、全力でそれを唱える。

「"ジョーカー!!"」

トタン板がぶち破られ、薄暗い倉庫の天井に大穴が空く。
カナトは即座に、フィルの手を取り天井から外へと向かった。
それを見つけた敵が、即座に銃を構えたが、ジンに肩を撃たれ武器を落とす。
赤い血の染み込んだ服を纏うジンを見てフィルも思わず、目を背けた。

カナトはそんな様子を見てフィルを足から抱き上げると、風を押し上げ倉庫から脱出する。



一通りの敵を片づけ、気が付いた時には、何十名もの人間が倒れていて、ジンも血だらけ、カロンも無傷ではあるが、返り血を浴びていた。
後ろからは応援によって駆けつけた、治安維持部隊のウァテス系達が、負傷者の応急処置にあたっており、ジンは呆然とその様子を見渡す。
また、やってしまった……。
座り込みただ担架で運ばれて行く彼らを見送っていると、カロンが、後ろから声をかけてくれる。
突き出されているのは、袋に入った従業員用の新品のシャツだ。

「フィルに会うんだろ? 着替えとけ」

受け取り、ジンは赤く染まった服を脱ぎ捨て、代わりにそれを羽織る。
肌についた血は汚れた服で綺麗に拭い
数秒間は呆然としていた。
何とも思わない自分がおかしいと思う。つらくもない、むしろ倒せて、自分が無事であることにホッとしている。

これではいけないと心から思った。

再びうな垂れ、大きくため息をつくと、カロン指さした先へ視線を向ける。
そこにはじっとこちらをみるフィルが居て、思わず俯いて目を逸らした。
フィルはそんな事お構いなしに歩み寄り、うつむくジンの手を引き、立たせる。そしてそのまま、体へ抱きついてきた。

「馬鹿……じったん」
「え、フィルちゃん……!?」

じわじわとフィルの目にたまる涙。
ふと下を見ると、ズボンにもべっとりと血がしみ込んでおり、ジンはすべてをあきらめた。
怖がらせてしまったのだろうか……。
「ごめんね……ありがとう」
「え、へ……?」

そのまま泣き出してしまったフィルを、そっと撫でる。怖がらせてしまったわけでは無いらしい。

照れ臭さも感じつつフィルを落ち着かせていると、目の前にカナトがふわりと舞い降りてきた。
よく見ると、腕が真っ赤になっていてジンも思わず苦笑。蕁麻疹だ。

「気にするな。これぐらいしかできない」
「わりぃな、助かったぜ。カナ」

「よかったな。ジン」
「……何がっすか」

カロンの小声にむっと顔をしかめる。ともかく無事で良かった。
ようやく落ち着いたフィルは、そっとジンから離れたが、後ろから聞こえた声に振り返る。
そこに居たのは、3人へ仕事を依頼した富豪と、妻であろう女性。そしてもう一人。長身のエミルの女性は、振り返ったフィルへ駆け寄り抱きついた。


「フィルの馬鹿!! 心配かけて……」
「おねぇ……ちゃん?」
「お父さんもお母さんもずっと心配してたのよ……あなたがいなくなったら、私……」
「おねぇちゃん……ごめん。フィル、悪い子だった……」
「私もひどい事いってごめんなさい。フィル」

再会した姉妹は、お互いに涙をこぼし、目の前の家族の再会に羨さも感じる。
カロンとカナトも、依頼主と話を進めており、ジンはそのまま床へ座り込んでしまった。

「フィル、お願いだから帰ってきて……」
「え……」
「ずっと一緒に、おねえちゃんと暮らそう。大丈夫、もう一人にはしないから……お父さんもお母さんもずっと一緒にいてくれるから」
「……」

確証のない言葉だと、フィル自身もわかっているだろう。
だが、切実に、泣きながら述べる姉の言葉は、どこまでも説得力があり、ジンは少しうらやましくも感じてしまう。
帰る場所がある事は、とても当たり前で、大切な事だから……、
しかしこの言葉を聞いたフィルは、少し表情をかえて一度姉から離れる。
ジンの前へ来た彼女は、そっと手を差し出して、立ち上がれと促した。

「じったん。お願い、私も一緒につれてって……」

カナトとカロンが、げっ、としたのがわかる
普段の自分なら「喜んで」とでも言ってそうだが、本気である彼女に冗談を言うのも失礼だ。

「こんなさみしがりの御嬢さんを連れて行けるわけないだろ。足手まといだよ……」
「……貴様」
「一緒に来たかったら、もっと強くなって、俺を倒せるようになってから、来いよ」

これ以上先の言葉は、思うかばなかった……。
本当にかっこ悪い。これだからアドリブは苦手なのだ。
背中を向けるとフィルはさらに大粒の涙をこぼす。

「じったんの馬鹿……ばかぁ……」

後ろから姉に抱き着かれ、フィルがさらに涙をこぼす、手を引かれ、家族のもとへ帰る彼女を背中で送った。


「好きだよ……じったん」

ようやく振り返ると家族といるフィルが見える。これでよかったんだと思った。
フィルにはフィルの居場所があって、ジンにはジンのあるべき姿がある。

「おつかれさん。本部に来いってさ」
「いつっすか?」
「今日中だと、ホライゾン隊長からだから、セオの説教はなしだと思うぜ。よかったな」

いろんな意味でほっとした。
カナトはウァテス系の評議会員に、蕁麻疹の塗り薬をもらい。
三人は、カナトのかゆみがおさまった後、現地をあとにした。
その後ジンとカロンは、本部の事情聴取を受けるため、三日ぶりにアクロポリスへと戻る。
先に帰宅したカナトだったが、後から戻ったジンにどこかしら元気がなく、カナト自身もそれに機嫌を崩して、夕食が珍しくまずかった。
結局会話もできず、ジンが"ナビゲーションデバイス"のつぶやきツールばかりを凝視していると、メールが一通届いた。
何気無い気持ちで開くと、家族とともに、ドレスをまとうフィルの写真が送付されていて、ジンはほっとデバイスをポケットに直す。
彼女なりに幸せがあるなら、それでいいか。

「どうかしたか? ジン」
「なんでもねぇよ」

「はーい! ただいまぁ! 月光花ちゃんきたよー!」
「……ゲッカさん上機嫌っすね」
「ふっふー、三日間のお仕事ご苦労様! 今日は二人のために月光花ちゃんがお疲れ様のクッキー焼いてきたの! たべてたべて」

ひきつった二人の表情に、月光花は微動だにしない。
にこにこ笑う彼女の好意を、二人は拒否することもできず、その日はクッキーを受け取り、一日を終えた。
その次の日は案の定、動けなくなったことは言うまでもない。

END



*GEST
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タイタニア・エクスプローラーのフィル

年齢:95歳(見た目15歳前後)

性格
ジンに一目惚れした、軽いノリの女の子。
告白して、結局振られたが諦めたりはしないのよ!(
自分の事よりも他の人を優先したりする事が多く無理しがち。
過去に賊に囚われたりして怖い思いをたくさんしたりした為エミル族が苦手
所謂対人恐怖症に近いが、人と話す事が好きで体が震えても話す事は止めない。
戦闘能力は低くない 寧ろ高い方だが 人を傷付けたりするのは苦手。
過去の経験も合い在って攫われたりしても抵抗出来ない事が多い、らしい。

Chara:水の都フィルさん
カナジン可愛いのよ! hshs

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本編 | 【2013-01-22(Tue) 18:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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