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(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

ジンとカナトが復帰する話(前編)
出演:フィルさん、カロンさん

ロケ地:ECOタウン

あらすじ
十分な休息を取り、ようやく翼が完治したカナト。
ジンも怪我が治り、復帰を視野に入れ始めた二人は、酒場に登録されていたとある人物の護衛する仕事を請け負う。
依頼主はイーストの富豪、護衛対象はアークタイタニアのさみしがりの少女だった。

参考:裏切りの背徳者


 「あぁー、やっぱり銃はいいものだなぁ……」
「真っ昼間から気分が悪い。慎めジン」
「なんだよ。お前こそ引きこもりだった癖に……治った途端、態度でかくなりやがって……」
「治ったからこそだ。ぼーっとも、してられん」

アクロポリス、アップタウンへ停泊している飛行庭。
普通の庭より一回りほど大きな庭に住む、エミル・ガンナーのジンは2階からおりてきた家主を睨みつけた。
背中に四枚の黒羽をもち、黒ジャケットを羽織っているのは、生え変わったばかりの翼を羽ばたかせている、タイタニア・ジョーカーのカナトだ。

「本当に大丈夫か?」
「問題はない。そもそも飛ぶ為に作られている。飛べさえすれば、不自由は感じない」
「ならいいけど、なんかすんの?」
「昨日眠る前に、酒場依頼で簡単なものでも受けられないかと探していた」
「へぇー、いいのあったか?」
「ファーイースト地方の令嬢の護衛。話によると、家出したタイタニアの女性を三日間隠密で護衛しろということだ。場所は、ECOタウン」
「家出ってか、旅行じゃね? それ」
「だからこそ、復帰には丁度いいとは思った」
「護衛ねぇ……対人だろ? 大丈夫かよ?」
「受注人数は三人、貴様の知り合いで、お願いしようと思うお方がいる」
「……まさか」



「よーぅ! ジンにカナト! 久しぶりだなぁ!」

鷲掴みにするように二人と肩を組んだのは、顔に大きな傷跡を持つドミニオン。治安維持部隊。ギルドランク2ndのイクスドミニオン・イレイザーのカロンだ。
ここはECOタウンのショップゾーン。
時空間がゆがみ常夏の空間であるこの場所は、娯楽を求めた冒険者が年中観光にくるリゾート施設だ。

観光客として溶け込む為、カナトはサマーシャツとサンダル。ジンは、頭にサングラスとアロハシャツ。カロンもまた、カラーサンダルに短パンというラフな格好で現れる。

「なんかひさしぶっりすね」
「だなぁ……ホライゾン隊長に頼まれて出張にね。一週間ぐらい」
「そいや、部下になったんでしたっけ?」
「おう、気楽でいいぜ。忙しいけどな」

意気揚々と話すカロン、久しぶりにみた彼は、顎の無精ひげをすべてそり、シュッとした輪郭がよく見えた。

「ヒゲどうしたんすか? いつも生やしてたのに……」
「イメチェンだよ。イメチェン、俺も晴れて部隊の一員だからなぁ、身だしなみもちゃんとしようと思ってね」
「へぇー」
「で? どんな仕事なんだよ。その護衛っての」

「詳しくはロビーで、ついでにチェックインも済ませましょう」

「このご時世で、宿泊料金もだしてくれるなんざ。何か裏があるんじゃねぇかとぞくぞくするぜ」

楽しそうに笑うカロンに、ジンは苦笑する。
酒場ネットワークにおいての受注は、"酒場"という一つの仲介屋を通して発注されるもので、アクロニアの各地に点在する、クエストカウンターでの受け付けが可能となっている。
簡単に言えば、依頼主が酒場に発注し、酒場側が店の掲示板やデバイスのWeb専用掲示板に掲載、それをみた冒険者が自分にあった依頼を受けるという形だ。
基本的な討伐や採取、運搬のような依頼は、報酬を"酒場"へ預け、受注者が完遂したと"酒場"が判断した場合に支払われるのが一般的だが、護衛や警備など、派遣にも近いものは、依頼主と直接連絡を取る”紹介”という形で、進める必要があるので、仲介屋の手間賃が余計にかかり、基本経費は受注者側の自費である事が殆どだ。

自費が当たり前の仕事なのに、経費も滞在費もでるとは、一つの依頼としてあまりにも不信すぎるので、受注前に依頼主へ問いあわせた所。
依頼主はイースト地方の富豪で、緊急の依頼なのに、話がよすぎて誰も受けてくれる人が居ないと泣きつかれ、2人はカロンに同行を頼み、依頼を受けた。

「依頼はイーストの屋敷の令嬢の護衛。ご姉妹の妹君が、姉上と喧嘩して家を飛び出してしまったらしい、最初は家の使用人たちが監視を続けていたみたいだが……。三日ほど前、ついにイーストの国境を超えてしまったそうだ」
「おてんばなお嬢さんだな……」
「この三日間も、使用人が一人ついてきていたようだが、昨日の朝。ついにその使用人も振り払ってしまったらしい。残された荷物から、ここの数日分の宿泊券だけがなくなっていたそうだ」
「で、昨日の朝から発注してあったけど、夜まで誰もこなかったって事か」
「そう言うことです」

テーブルの上に置かれた顔写真を、カロンが手に取って眺める。
黒髪に白いヴェールを付けた、白羽のタイタニアの女性。年齢はさておき少女だ。
写真を確認した後に、ふと横に視線を流すと、中央の案内カウンターでチェックインをしているタイタニアの少女がいて、カロンはふーんと鼻を鳴らした。
服装は変わっているが、目の色と髪の色からして同じ人物だろう。

「ま、苦労はなさそうだな。三人で交代してやっぜ」
「はい」
「了解しました」

そこから、3人で一人の女性を護衛する仕事が始まる。
カロンに部屋番号を割りだしてもらい、三人で交代して部屋の付近を張ることにした。

ECOタウンの施設にて、チェックインを済ませた彼女は、即座に水着に着替え、外出する。

ECOタウンの目玉でもある、海水浴をするつもりらしく、カナトとジンもさっそく水着に着替えてビーチへと出た。

「外は真冬なのに、あっちぃなここ」
「暑すぎないあたりが、この空間の特徴ともいうべきか……気味が悪い」
「考えててもしかたねぇ。というか何でまたブーメランなんだよ?」
「動きやすいからだ」
「だっせぇ……」

そうは言いつつ、海に入るのは久々だ。カナトは上羽が濡れないよう浮き輪につかまり、遠くから彼女へと視線を送る。
ジンは、ビート板につかまって、仰向けでプカプカと浮いていた。

「あー……暇だぜ」
「遊びに来たわけじゃないんだぞ」
「だってよー。時期的にも人がいねーし、じっと見てても怪しまれるだけだろ? いっそこっちはこっちで適当に遊んどいたほうが、怪しまれなくていいんじゃね?」

確かに、世間は真冬、定例イベントもあり、この時期は町のほうがにぎわっている。
それなのに、たった一人で海にきて海水浴というのも変な話だ。
彼女自身、シャチフロートにつかまって、楽しそうに泳いではいるが……。


「さみしいんじゃねぇかなぁ。なんだかんだで……」
「同情している?」
「別にそういうわけじゃねぇし、仕事だし」

相手が女性であることから、声をかけたくて仕方がないのか。
むすっとするジンをジト目で眺め、カナトはジンへ期待するのをやめた。
しかしそれでも、観光客はほとんど見当たらない。
砂浜でシャワーを浴びる人々や、トレーニングにきた冒険者らしき人物は見かけるが、海水浴をする観光客は、ジンにカナトと護衛対象の少女ぐらいだ。

つまり、仕事で来ている自分たちを除けば、観光客はほぼ彼女だけということになる。
だが一応、観光客を装っているので、振りだけはしないといけないのだが、暑い日差しと海水の所為で、日焼け止めがほとんど流れている。
そろそろ上がりたいと思うが、ふと前へ視線を戻すと、目の前に居たはずのジンの姿がない。
ビート板だけが波紋を残しており、カナトは思わず周辺を見渡した。

「ジン?」


そう焦った直後。
足元から突然引力を感じ、カナトは水の中へ引きずり込まれた。



「楽しかったかいジン?」
「えぇ、まぁ……カロンさん」

ECOタウン大浴場でカロンと落ち合ったジンは、目が笑ってないカロンにぎくっとする。
浮き輪に捕まっていたカナトを、ふざけて海に引きずり込んだのは良かったのだが……、

「カナト、部屋でダウンしてたぞ。後で謝れよ」
「か、カナヅチだって知らなかったっすよ!? 普通に水ん中入ってたし!」
「羽根付きは大体およげねぇよ。そもそも文化がちげぇし……俺らだったら、救助訓練ぐらい受けてっけどさ」
「……す、すいません」

がっかりしたジンに、カロンは一息つくと、相変わらず一人でお湯に浸かる彼女へと視線を向けた。
確かに、たった一人で行動している彼女をみると、気を引きたくもなる気持ちもわかる。
ぶくぶくと鼻まで浸かるジンは、機嫌を損ねたのか何も話そうとしない。

「本当に一人でここにきたんだな」
「みたいっすね」
「こんな場所にきても、楽しくないだろうに」
「カロンさんも、そう思います?」
「まぁな、でも喧嘩して飛び出してきたなら、丁度いい場所だとは思うね。程よく安全だし、外界から切り離されてるしな。ここは」

ふーんと鼻で返した返事。
このままのんびり仕事を終えられれば万々歳ではあるが、見ているだけの自分が居るのもどこかもどかしい。
そうして水着のまま湯へ浸かっていたが、初めて見たカロンの素肌に、ジンは少し言葉を迷った。
傷だらけの体。新しいものは肩の傷だろうか。
応急処置もあったおかげで、命に別状はなかったものの、傷つけてしまったことには代わりはなく、ジンは無言でカロンから視線をそらす。

「あー、気分いいぜ。ついでだし頭洗ってくるわ。監視頼んだぜ」
「了解っす」

カロンが離れていき、再び護衛対象をみようとすると、先ほどまでいた場所に彼女の姿が見えない。
「あれ?」と思い、周辺を見渡すが、広い大浴場に姿を確認できず思わず、背筋を伸ばした。
すると突然後ろから、「すいませんっ」と強気な声が響く。

「あの、さっきからちらちら視界に入るんですけど、何か御用ですか!?」

げっとした。
振り返ると護衛対象の少女がこちらを見下ろし、眉間に皺を寄せている。
後輪があるにも関わらず、腰から生えている黒いドミニオンのような翼は、タイタニアの冒険者の間で流行している翼の変形アクセサリーらしい。
水着をつける小さな体は、綺麗な曲線を際立てていて、ジンは思わず目をそらした。


「えっと、その……たまたまっすよ! ここに観光に来てて……人が居ないから珍しいなーって」
「観光? たしかに人は少ないですけど……一人ですか?」
「三人……っすね。あそこのドミニオンの人ともう一人黒羽の……」

彼女は納得したのか、「ふーん」と鼻で返事をする。
ジンはどうすべきかと混乱したが、はっと我に帰り冷静に考えた。ある意味チャンスなのかもしれない。

「そいや。タイタニアさんも一人っすよね」
「え、はい。そうですけど」
「へぇー、俺も冒険者やってて、夏に来れなくて今っていうか……。あ、俺、エミル・ガンナーのジンです」
「タイタニア・エクスプローラーのフィルです。一応冒険者です」
「フィルちゃん……。良かったらいっしょに回らないっすか?」
「え……」
「一人だと心細いでしょ? いつまで居るかわかんねーけど、せっかく出会えたし!」
「でも、他に友達がいるんじゃ……」
「気にしない気にしない!」

「じーん君。なんだよ、楽しそうだな? 俺もまぜろ」
「カロンさん。フィルちゃんらしいっすよ」
「ほぉ、俺はカロン。ちょっと聞いたけど、俺もこいつと遊びにきたところでね。男ばっかでむさ苦しいと思ってたんだ。よろしく頼むぜ」
「は、はぁ……っていうか。あなた達かなり怪しいですね」
「へ……」
「この時期に男三人で観光って……あんまり居ませんし、というか聞いたことないですよ?」
「そ、そうかな……」
「それに、なんで私が一人って知ってるんですか? それってずっと見てたってことですよね!」
「え、えっとぉ……」
「可愛いからみてたんだろ? ジンは」
「えっ、そりゃまぁそうっすね!」
「むー、怪しすぎます貴方たちは! ただのストーカーならやめてください」
「ストーカーじゃねぇって……」

たじたじするジンにフィルは、さらに詰め寄ってくる。ストーカー呼ばわりされて逃げられるのだけは勘弁してほしい。
引き下がることもできず、ジンはどう返答すべきか迷った。
その間にもフィルはどんどん距離を詰め、間近にジンの顔を見てくる。

「ナンパ師にしては、いかにもフツメンですね」
「ふつめん?」
「普通ってことです、かっこいいわけでもなく、不細工でもなみたいな」
「そ、それ俺どうなの……」
「カロンさんはかっこいいです。ワイルド系というか」
「お、サンキュー。だってよ、残念だったな。ジン」

こういうときだけノリがいいカロンには、ある種の殺意すら覚える。
気にしてはいたが、こうも真正面から言われると、心のどこかに傷がのこりそうだ。

「そうだ。もう一人の人も紹介してください」
「へ?」
「ストーカーじゃないならできるでしょう?」

そうフィルに言われ、二人は3時間後の夜のパーティーへカナトの参加を取り付けられた。
カロンには、護衛がやりやすくなったと絶賛されたが、女性嫌いのカナトには、あからさまに嫌な顔をされ「だらしない」だの「誠意がない」だの、散々嫌味を言われたが、変にこそこそするよりかは動きやすいと言う事になり、何とか容認して貰えた。

”クローキング”を使えるカロンに、フィルが部屋に戻ったことを確認して貰うと、三人は夜のパーティーイベントの貸衣装の手続きを始める。
ECOタウンへと訪れた観光客へ、上流貴族の雰囲気を楽しんでもらおうと言う企画らしく、衣装はすべて正装。女性はドレスでくることがルールらしい。

「めんどくせぇ……」
「早く選べ、着付けに時間がかかるものもあるんだ」

そう述べて、カナトが取っ手付きケースを机に置く。見慣れたケースだが、久しぶりに見た気がする。

「おまえそれ……」
「ちょっとした演奏会に一般客も参加できるらしい。せっかくなので持ってきた」

そうしてケースから取り出されたのは、煌びやかに艶を出すバイオリン。
ハーモニカを使い、チューニングまでやりだすので、ジンもある意味呆れてしまう。結局楽しむ気満々だったようだ。
カナトの貸衣装は、裏地が赤の燕ジャケット。中に白タイが付いたレースのブラウスを纏う。元貴族ともあるせいか、気品にあふれる雰囲気をだすカナトに、ジンは感心してしまった。
服そのものは、誰でもが着ても似合うように設計されているようだが、同じものを選んだジンは、まともに着ることもできず、肩直しからタイ結び方まで全部カナトにやってもらった。

「七五三だな」

カロンの言葉に返答すらできない。フレアロングコートに身を包む彼も、着慣れているのか驚くほど似合っており、恥ずかしさと情けなさのダブルパンチを食らった気分だ。
そんな散々な時間を終えて、三人はフィルと待ち合わせをしているパーティー会場、ショップゾーンへ向かう。
一面をライトアップされたその場所は、昼間の出店が片付けられ、数名の楽器弾きや、歌い手たちがスタンバイをしていた。
テーブルに置かれた料理もライトの光を浴びてキラキラと輝いている。

「元本筋の人から見たらどうだい? カナト」
「そこそこ、だが頑張っているとは思います」

ジンからすれば、この空間自体が異質だ。
服が違う事は分かってはいるが、ついいつもの癖で、思わずポケットへ手を突っ込んでしまう。
振り返れば、カロンがカナトヘバイオリンのブランドがどうとか、木の乾き具合がどうとか、よく分からない話をしているので、ジンは一人、フィルを見つける為、見晴らしのいい場所をさがした。
すると脇から、聞き覚えのある声が響く。

「じったん。おっそーい!」

一瞬何を言われたかわからなかった。
振り向くと黒のドレスを纏うフィルのが居て、目の前にふわりと舞い降りる。

「もう、レディ待たせるなんてサイテーよ。じったん!」
「じった……なにそれ?」
「ジンのこと。かわいいでしょ」
「へ?」

生まれて初めて呼ばれた。それでも、綻んだ笑顔になにも言えなくなってしまう。
目を逸らしてしまったジンに首を傾げ、フィルが、後ろのタイタニアへと視線を向けた。
目が合ったカナトは、フィルへスッと一礼すると、にっこりと笑って見せる。

「お初にお目にかかります。アークタイタニア・カナトです。以後お見知りおきを……」
「カナトさん……。フィルです。初めまして」

「フィル嬢。今宵はお会いできて光栄です」
「こちらこそ、アークタイタニア様だったのですね……」」
「このエミル界で、上位種族の違いなどありません。こうして出会えただけでも奇跡でしょう……」
「カナトさん……」
「私は、幸せに思います」
「……ありがとうございます!」

なんだろうこの雰囲気は、まるで出会えるべくして出会ったような二人へ、カロンは某立ちしていたジンを引き離す。

「なんすか! カロンさん!」
「ばーか、接待中だよ。邪魔すんな!」

訳がわからない。
一定の距離を保ち、フィルを気遣うカナトは、優しい表情でフィルへ飲み物を渡す。
冷静に考えるとフィルは令嬢で、カナトは元貴族。お互い分かり合えるところがあるのだろう。

「あの、じったんとはどんな関係なんですか?」

「恩人です、組んで一年ほどでしょうか。いろいろありまして現在まで」
「へぇー……、あの、もう少し詳しく聞きたいです……」

面白くない。
声を掛けたのはジンなのに、彼女はずっとカナトの隣だ。
女性嫌いでいつも避けている癖に、こういう時だけいい顔をするのは、卑怯だとおもう。

そんな苛立ちを露骨に出すジンを見て、カロンが必死に笑いを堪えた。
子供か。

「あの、よかったら一緒に回ってもらえませんか?」
「え”……」
「私……一人でここに来たのはよかったんですけど、やっぱりさびしくて……」
「……」
「カナトさんたちと、よかったら一緒に」

思わず引きつったカナトへ、フィルがきょとん首を傾げる。
一歩下がり、距離を取ろうとするカナトヘ近づくと、カナトが更にもう一歩さがる。フィルはそれを見て面白がり、笑いながら距離をつめてきた。ジンはそれを見つけ、にやりと笑う。

「い、いえあの、不可抗力です。それ以上近づかないでいただけないでしょうか……」
「ごめんなー、フィルちゃん。そいつ女性恐怖症でさぁ~」

「女性恐怖症?」
「ば、馬鹿!! ジン!!」
「女の人苦手なんですか?」

じりじりと詰め寄られるたびに、カナトは後退する。
フィルは楽しくなってきたのか、笑顔で距離を進めてきて、ついにカナトを壁へと追いつめてしまった。

「なんで苦手なんですか?」

「フィ、フィル嬢。どうか距離を……」
「カナトさんって、しっかりしてるようにみえて……かわいい!」
「うわぁぁぁあああ!!」

抱きつかれたカナトは、悲鳴をあげてひっくり返る。
ジンとカロンが吹き出し、カナトはそのまま失神してしまった。
結局、ジンがおぶってベンチへと連れて行き、取り残されたフィルをカロンが横から連れ出す。

「扱い方わかってんなぁ~。フィルちゃん」
「そ、そんなつもりは……」
「カナトの女嫌いは天性だからなぁ、でも気使われるだけ面倒だろうし、普通でいいとおもうぜ?」

グラスに口づけ、豪快にワインを飲むカロン。そんな彼を見上げ、フィルは渡された料理を口へ運んだ。

「そいや、なんで一人なんだい? 寂しいっていうなら、だれか友達でも誘えばよかったんじゃないか?」
「……私、イーストのエミル族の貴族さんに、小さいころ養子でひきとってもらったんです。それで周りはみんなエミル族なのに、私だけタイタニアで……」

「……」
「やっぱりちょっと違うというか、それで、友達になってくれる人もいなかったというか……信頼できるのは、エミル族の義理のおねぇちゃんぐらいしかいなくて……」
「……そっか。確かに、周りが全員同じ種族なら、疎外感は感じるよなぁ」
「それに、私が一瞬に感じる時間は、エミルの人たちにとってはとても長くて……、結局一人になっちゃうんだと思うと、さびしくてどうしたらいいかわからなくなって」
「……」
「あ、ごめんなさい。カロンさん貫禄があるので、つい色々話ちゃいました」
「いや、いいさ。そうだなぁ……俺はドミニオンだから、タイタニアの事は理解しきれねぇけど……今が楽しいなら、精一杯楽しんでいいとおもうぜ? 長さはちがっても寿命はあるし、つらい別れもあれば、いい出会いもある。ならその一つ一つを大事にしときゃ、後悔はねぇとおもうな」
「……出会い?」
「そそ、俺はフィルちゃんに出会えた運命に感謝して、楽しい時を過ごしております」
「っ! 私も、カロンさんに出会てうれしい」
「ありがたき幸せ、お嬢様」

にっこりと笑うフィルの表情は、淡いライトに照らされとてもまぶしい。
こんな穏やかな時が続けばいいと思ったが、数分後、ジンが二人のところに戻ってきた。

「カロンさん。何話してたんすか? 俺も俺も!」
「ジンには100年早い話だよ」

「えぇ……つまんねぇ」
「ははは、カナト大丈夫か?」
「あぁ、とりあえず辻リザもらったんで、一応は」
「連れてこなかったのか?」
「いるっすよ、あっちのステージに」

ジンが指差した先には、一段上げられた簡易のステージがあり、脇には赤い絨毯の上へピアノも置かれている。
その後ろから現れた赤いドレスの女性は、一礼してピアノへと座ると、スポットライトが左へと移った。
バイオリンを持ち、数名の楽器引きと並ぶのは、先ほど失神していた天使。カナトだ。

「あぁ、なるほど」
「なんだかんだで楽しんでる見たいっすよ。あいつも」

「いいじゃねぇか」

中央にいる指揮者がお辞儀をして、昼間見えなかった観光客たちも声を静める。
掲げられた指揮棒が、しゅっと振り下ろされ、ピアノを先導に演奏が始まった。
ありきたりな曲だ、どこでも聞ける誰もが知る曲。家でカナトもよく弾いている。
奏者ならだれもが習う曲で、基礎的なものだが、人数がそろうとそれなりに壮大になるらしい。
いつもカナトだけの演奏を聴いていたのに、それは全く別物に感じられる。

「楽しそうだな」
「そうっすね」

一人ではなく、共に奏でられる音は、奏者の感情をダイレクトに伝え、聞き手すらもその感情へ誘う。
音楽を愛し、楽しむ彼らの心は、素直に聞き手へと伝わっていた。
引き終えた奏者たちと共に一礼をして、カナトがステージから降りてくる。
フィルは、そんなカナトの元へ向かい、距離をとりつつなにかを話していた。
やっぱり面白くない。

「嫉妬かい? ジン君」
「そんなんじゃねぇっすよ……ただなんで女嫌いのあいつが……」
「それが嫉妬っていうんだよ。カナトはあー見えて、言葉を選んで話すからな。女にとっちゃそんな気遣いが嬉しいんだとおもうぜ?」
「……カロンさんは、何も思わないんすか?」
「俺は本命がいるし、求められない限り何もしねぇよ」
「本命!? 誰っすか!?」
「いわねぇ」

むっとするジンを横目に流し、ウェイターにワインを貰いに行くカロン。
カナトもリクエストを受けたらしく、観客へバイオリンを披露していた。

話す相手も居らず、はたまたやる事も無く。ジンは一人途方に暮れる。
こんな浮ついた場所で、一体何をしろと言うのか。 銃ぐらいしか取り柄がないのに、これではいい所も見せられない。

「何すねてるの? じったん」
「うわぁあ! びっくりさせんな!」
「じったんが勝手にびっくりしたんでしょ。何してるの?」
「べ、別になんもしてないし、フィルちゃんこそ、カナトと話してたんじゃ?」
「じったんが一人でいるから、気になって……」
「……別にきにしなくていいぜ、カナトのが楽しいんだろ?」
「あれ、じったんヤキモチ? かわいい……」
「そんなんじゃねえし、フィルちゃんを誘ったのは俺だから納得が――」

きょとんとしたフィルに、ジンがようやく我に帰った。本人にぶっちゃけてどうする。

吹き出し、声をあげて笑い出したフィルに、ジンは何も言えず背を向けた。
恥ずかしくて帰りたい気分になったが、後ろからそっと腕に手を回されて驚く。寄り添われ、感じる体温は、とても小さくて暖かい。

「そうだね、ありがとう。じったん」
「フィルちゃん……?」
「ちょっと潮風に当たりたいな……一緒にきて」

そう促され、2人は外壁のアーチをくぐり、夜のビーチへとでていく。
カロンはそんな彼らを、口笛を吹いて見送り、演奏を終えたカナトも戻ってきた。

「カロン殿。私も同行しましょうか?」
「平気さ。あの男が手をだせるとも思えねぇしな」
「そういう意味では……」
「はっはっはっ、分かってるよ。やっぱ心配かい?」
「いえ、気のせいかもしれないので、黙っていたのですが……」
「へぇ……。やっぱおまえ優秀だな。カナト」
「……」
「ま、平気さ。それより、お前はどうなんだよ?」
「どうとは?」
「色恋沙汰」
「……どうかお察しを」
「ほぅやるねぇ。流石天下のアークタイタニアさんだ」
「……」
「そうだな。15分待って戻ってこなかったら、様子見に行くか」

そんな二人の会話をよそに、ジンとフィルは2人で夜のビーチを歩く。
真っ直ぐな水平線は、月の光に照らされ、夜とは思えないほどに明るい。
海に映る月光は、波のうごきできらきらと輝いている。

「綺麗……」
「そのドレス寒くない?」
「ううん。暑いぐらいだし、大丈夫。ありがとう」

聞こえるのは、ビーチの砂の音と海のさざ波、ショップゾーンからのバイオリンの音色は、カナトだろうか。
水平線を見るフィルの瞳へ、うっすらと月の光が写り、しばらくはそれに見入る。

「そいや、フィルちゃんって、エクスプローラーって言ってたけど、一応冒険者なんだよな?」
「そうだよ。イーストには総本山があるから、そこの試験で通ったの……」
「へぇー……」
「じったんは?」
「俺は気がついたらなってたなぁ……あんま覚えてない」
「なにそれ、おもしろくないなぁ……」

ぐっと何かを堪えた。嫌われるより傷つく言葉だ。

「ガンナーってことは、銃でしょう? 弓の方が便利って聞くけど……」
「趣味だよ。趣味! かっこいいだろ?」
「私は弓の方がスマートだしきれいだと思うなぁ」
「わかってないなぁ、フィルちゃん。銃っていうのは、人類が開発した最強の武器で――」

どこから話そうかと考えた矢先。目の前のフィルの表情が変わり、ジンが言葉をやめた。
そこには豪華な貴族服をきたドミニオンが、まるで進路を塞ぐように仁王立ちしている。

「……誰っすか?」
「こんばんはっ、ちょっとに見かけてね。気になってたんだ」

馴れ馴れしい。ただの観光客か。それにしては柄が悪い。

「そこのお嬢さん。かわいいね。明日からよかったらオレらとあそばない?」
「は、はぁ……?」
「オレここの常連でさー。鯨岩ツアーとかクルージングとかの予約とってんだ。良かったら招待するよ?」
「いきなり現れてなんだ、てめぇ」
「あ、まだ居たんだ。悪いけど、今はオレが話してるからほっといてくれる?」

気に障る。よくあるナンパ師だ。
遊びたい女の子は、大体この手の奴に絡まれるとどこかへ行ってしまうが……。

「クルージングかぁ……楽しそう……」
「は? ちょ、フィルちゃんを誘ったのは俺だって!」
「最初か後かなんて、どうでもいいでしょー、オレらと行こうぜ?」

強引に距離を縮めようとする相手に、ジンはフィルの腕を掴んで、後ろへと隠す。半ば意地もあるが嫌な予感も感じた。

「何? やんの? エミルさん」
「馴れ馴れしいんだよ。失せろ……」
「あんたその子の何? 彼氏かなんか?」
「ち、ちげーよ!」
「じゃあ別にどうでもいいじゃん、どいてよ」

「えっと、あの……じったん?」

何をしているのだろうと思った。まるで子供だ。
間に立ち、動かないジンへ、相手はふぅとため息を着くと、ジャケットを脱ぎ捨て拳を構える。

「男ならこっちでやる?」
「んなガキ見たいなことしねぇよ……」
「怖い?」
「勝手に言っとけ」
「あれ、じったんって運動苦手なの?」
「ち、ちが……そんなことねぇってフィルちゃん!」
「へぇ、運動できないんだ。かわいそうだなぁ……仕方ない。カジノでもいいよ?」

こいつ……。口からでる言葉の全てが気に障る。
取っ組み合いをするのはいいが、手加減ができない。カロンやリゼロッテなら、気にすることもないが、相手の構えをみるにどう見ても素人。下手に動けば半殺しにしかねない……。
だが、ここで引いても、明日また声をかけてきそうな気がして、ジンは諦め混じりにため息をつく。

「はぁ……。俺、手加減できないんだけどいい?」
「は? 俺はスカウトリングのサブマス候補だぜ? 手加減なんかしたら……」
「そっか、なら安心だ」

そう言って、ジンが燕ジャケットのボタンを外し、ゆっくりと襟を下ろす。
ブラウスの左脇腹があらわになった時、現れた金の装飾に、相手は言葉を失った。
月の光を浴び、鈍く光を反射するのは金の装飾銃。
ジャケットが脱げて分かったのは、左わき腹へ一丁と、左腰に同じものがもう一丁。ボディタイプのホルスターに釣られている。
ジンはそれを、うなじから外し、さらに背中腰の自動式拳銃も安全装置を確認してフィルへと預けた。
そうした一連の動作を終えて再び相手をみると、すでに顔が引きつっているのが分かる。サラマンドラを見てしまったのだから、仕方ないか。
「これで一応全部……」
「じったん。こんなに持ってたの……」
「護身用、フィルちゃんを守る為だぜ?」

上手い事言えたと思ったが、フィルはどうみても困惑している。
カナトに着せてもらう時、銃を目立たない用にしてもらったのが変な意味で効いたか……。

「エミルさん。一体何もんだよ……アンタ……」
「俺? 俺は、治安維持部隊。ギルドランク5th、エミル・ガンナーのジンだ。……来いよ。ただ手加減は苦手だから骨折ぐらいは覚悟してな……」
「……上等!」

逃げない勇気は賞賛に値するとおもった。
ビーチの砂を蹴る音は、以前リゼロッテと組手をしたことを思い出させる。
何日も何回も走らされ動かされ、散々な一週間ではあったが、あの特訓のお陰で、自分でも驚く程に強くなれた。
接近してくる敵は、リゼロッテの何倍も遅い。
ジンは、ゆっくりと体を傾け、拳を交わすと、無防備になった敵の腹へ、膝を入れた。
飛び込んだ勢いと蹴りの威力が二乗され、ゴッと鈍い音が聞こえる。
仰け反り、逆に倒れた相手は、声も上げず失神し白目を向いた。

「あ、あの、ドミニオンさーん。大丈夫っすか?」

息はしていた。
音からして肋骨をやってしまった気もする。

「じったん……」
「ふぃ、フィルちゃん。ご、ごめんえっと俺……」
「ううん……。ありがとう」

どこか嬉しそうにジャケットを抱くフィルへ、ジンも言葉がない。
ホルスターを受け取ってジャケットを羽織り直していると、ショップゾーンの方向からカロンとカナトが様子をみにきた。
相手が負傷している事にジンはお咎めを覚悟したが、フィルが間に入ってくれたおかげで、非が無いことを認めてもらえた。
そうして夜のパーティが終わり、フィルを部屋に送った三人は、カロンだけを部屋の周辺に残し、自室へと戻る。
女性と長時間一緒に居た事で、カナトも相当疲れたのか、貸衣装のまま眠ろうとするので、ジンは無理矢理それを脱がせて寝かせた。
カロンと交代する為、ジンは私服に着替え移動したが、交代の際に、フィルを監視する人間がいると言われ、ジンは腰の銃をあえて見えるように持ち、フィルの部屋の付近で待機した。
そうやって、日付が変わるまで、フィルの部屋の付近を歩き、眠ったであろうという時刻に再びカロンと交代。床に着いた。


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本編 | 【2013-01-19(Sat) 18:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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