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(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

裏切りの背徳者:エピローグな話 後編
出演:リアスさん、グランジさん、カロンさん、カルネオルさん

ロケ地:アクロポリス・アップタウン

あらすじ
事件から一週間がたち、腕もほぼ完治したジンは、没収された武器の前倒し返却を求めるために、本部へとむかう、
しかし、結局返却されることはなく、リアスと共に帰路へとついたが、実包を購入した帰り道。
猫の鳴き声が響き駆けつけると、右目に眼帯をつける長身のエミルが倒れていた。

前回:裏切りの背徳者
第一話 第二話 第三話 第四話 第五話 第六話 

エピローグな話 前編


 
「ぁあー、やっぱ無理かぁ……」

そう、大きく伸びをして両腕を頭の後ろへ回したのは、アクロポリスを拠点に活動する一般冒険者、エミル・ガンナーのジンだ。
寒空が広がるアクロポリスの広場を歩き、白い息を吐く。

「武器返却の前倒しなど、無理に決まってます。ただでさえ降格と監視処分なのに」

冷静で無感情な言葉は、やはり気に障る。
そう述べたのは黒のベルトコートを着て銀縁のメガネをかけるエミル。エミル・イレイザーのリアスだ。
誘拐事件の発生から、約一週間。
ようやく腕が治癒したジンは、総隊長へ没収武器の前倒し返却を求めたが、笑顔で断られ現在に至る。

「普段あんなへらへらしてる総隊長なのに……」
「へらへらしてるから、真面目な所は真面目なんです」

何故そこまで擁護するのか、ジンには理解ができない。
それでも、リアスは総隊長が気に入っているのだろう。

「腕が治ったからと言って無茶は厳禁ですよ?」
「はぁ? なんで?」
「回復魔法とは、細胞の活性化によって人間の自然治癒能力を一時的に高めるものです。それを急激な早さで行うのですから当然、治癒したばかりの部分は弱い。油断は禁物ですよ」
「……」

確かに、治癒したにも関わらず、右腕に腱鞘炎の様な痛みが残っている。完治したとはいいがたい。

「せいぜいあと一週間ですね」
「うっせぇ、お前こそ一応治ったんだからさっさと帰れよ」
「いやです」
「なんで!」
「カナトさんの件があります」
「どうでもいいじゃねぇか……」
「気になります」

ため息がでる。この数日で一体何度くりかえしただろう。
ジンは早く帰って欲しいのに、リアスはカナトの機嫌の取り方を覚えたのか。
すでに違和感なく馴染んできている。
カナトとルシフェルの関係が知りたいなら、直接聞きに行けばいいのに……、

「はい。なので先日、ルシフェル殿に個人的なメールアドレスを伺ったので現在返信待ちです」
「は? 」

冗談かと思ったが、何かよくわからない効果音と共にリアスの”ナビゲーションデバイス”が音を鳴らす。
即座にポケットから取り出して画面を凝視すると、視線を動かさずに述べた。

「丁度返信がきました」
「な……まじかよ。ちょっとみせろ」
「いやです。これはおれの情報です。知りたいなら自分で調べてください」
「細かいこと気にすんなって」
「いやです!! あげません!」

デバイスを必死で隠すリアスに、ジンは大人気なさを感じ諦めた。
画面を見られないようカバーをかけ懐へデバイスをいれたリアスは、呆れた表情のジンへ向けて口を開く。

「それより、さっきの総隊長の話もきになります」
「通り魔の奴か?」
「はい」

先ほど会ってきた総隊長に言われたことそれは忠告だった。
それは昨日の夕方。ランキング10thのカルネオルが、突然襲われた事からはじまる。
話によると、ランカーであるかどうかを聞かれたらしい。
それで、現在でカルネオルから、犯人の身なりの情報を聞き出していることから、
今日中にランカー全員へ情報が行くそうだ。

「襲うなら対人慣れをしているランカーより、一般冒険者を狙った方が効率がいいはずです。なのに……」
「ふーん。割とどうでもいいわ俺」
「気になります」
「別にカルネ君みたいに有名じゃねぇしなー」
「ランカーの情報は、毎回治安維持部隊の組織雑誌Rankで特集されてますよ?」
「なんだそれ?」
「先月はナハトさんの特集で、即日完売だったとか……」
「ちょ、言えよ! 俺も欲しい!!」
「あげません。そしてみせません」

買ったのか。

「ジンさんは右端のちっさくプロフィールだけ載ってました」
「……俺の本部から扱いなんてそんなもんさ」

ナハトの記事は気になるが、別にそれ以外はどうでもいい。
所詮内部で作成する娯楽雑誌だ。あまり有用な情報もないだろう。
そっけない態度をとったジンに、リアスは首をかしげると遅れ取った距離を詰めて横に並ぶ。

「実包かって帰るぜ」
「どうしてジンさんは、本部の話になるといつもそっけないのです?」
「お前みたいなのがいるからだよ!」
「嫌われるのはあなた自身にも問題があったからでは?」
「んなことわかりきってるよ。当たり前のこと言わせんな」

荒げた声で言うとリアスはようやく黙って、ダウンタウンまでついてきた。
なんでも屋にいって、発注した実包を受け取ろうとすると、横からリアスに取り上げられて帰路へつく。

「そいやリアス、お前はなんで本部にいるんだ?その性格ならレンジャー系のがむいてんじゃねぇの?」
「世界史や情勢、事情などは調べれば安易に情報が手に入ります。このアクロポリスには、各国との均衡を保つために集められた資料が膨大にありますから……はじめはその情報を手に入れるために部隊へはいりました。でも」
「?」
「それらはすべて調べればわかることです。本部へ所属する人たちのそれぞれ人間関係や経歴、その人の行動方針などは、本人に聞くか、周りの人間へ問いただすしかありません。治安維持部隊には、さまざまな覚悟で所属した人たちがたくさんいます。おれはそれが知りたい」
「どうでもよくね……」
「ならジンさんは、なぜ総隊長が総隊長で在る理由を考えたことありますか?」
「キリヤナギ総隊長?」
「はい。治安維持部隊の最高管理者でありながら、あの人の経歴、実績などの情報はほとんどありません。ただ"総隊長"という肩書をもっている、謎ばかりの人物です」
「なにもやってないのに、総隊長?」
「真意はわかりません。実力も定かではなく、戦ったという記録もわずかで、どれもあいまいな記録であったり、いい加減にやっていたりと参考になりません。そんな人物が、何故総隊長であるのか気になりませんか?」
「別に……総隊長は総隊長だろ? それでいいんじゃね?」
「気になります」

ジト目でにらまれジンが冷や汗をかく。
どうやら分かり合えないとあきらめられたようだ。

「ならお前が、そんな謎だらけの人物のいうこと聞くのはなんでだよ?」
「あなた方の護衛任務を終えたら、多少なれど個人的な情報をくれると約束しています」
「あ……そう。やっぱ俺、お前嫌いだわ」
「おれは嫌いじゃないですよ」
「うれしくねぇよ!!」

うんざりする。
何を話しても気分が悪いので当分無視してやろうかと思ったが、カナトが居るのでそうも行かない。

そんな半ば諦めの境地で、アクロポリス行きの階段を上がろうとした時、
突然、人間のものでは無い高い鳴き声が聞こえた。
振り返るとリアスも聞こえるらしく、挙動不審に辺りを見回す。
場所はダウンタウン西階段だ、しかしここに鳴き声の主は見当たらない。
リアスが耳を澄まし、動いたかと思うと、突然階段の傍から、下へ飛び降りた。
ジンはそれに驚き、続けて下をみると階段下の隙間をじっと見つめるリアスがいる。
驚いたような表情でじっと見つめるリアスを面倒だなぁと思い、渋々降りて見ると、階段下にうつ伏せでたおれている人間。
思わず言葉を失ったが、リアスに静止させられた。

「死んでません」

ほっとした。
思わずぞっとしてしまった自分へ後悔するも何故こんな場所でたおれているのか。
立場的な意味合いで放っては置けないため、リアスが耳元へ声をかける。
黒髪に長身の男性。180はあるだろうか。
ハードレザーコートに身を包んでおり、背中には赤いマントと王冠をのせた小さな黒ネコが泣いている。
肩を軽く揺らし、リアスが声をかけると、男性はぐっと苦しそうな声を上げる。
一瞬、怪我をしているのかと不安になったが、直後響いた異音にリアスが顔をあげた。

「はら、減った……」

それが男性の最初の言葉だ。



「何故ここへ連れてきた……」
「実包で散々ぼったくられて金なかったんだよ。本部は関係者以外はいれねぇし……」

白米と焼き魚、そして大根いりの味噌汁をすするジンは、カナトと目を合わさずに述べた。
いつもなら常に一つ空いている四人掛けのリビングテーブルが、今日珍しく埋まっている。

ジンの向いへ座っているのは黒髪に眼帯を付けるエミル。
焼き魚から丁寧に身を剥がし、上品に口へと運んでいた。
肩には先程発見のきっかけになった猫が、ごろどろと喉を鳴らし、時々魚の身を猫へ食べさせる。

「聖堂は?」
「行きたくねえ……」

ジト目でにらむカナト。何も言わないのは気持ちを察してくれているのだろうか。
何も言わず音も立てず、黙々と食べていたエミルだったが、すべてのおかずを食べ終えたところで、ハンカチをとりだし口を拭くと、ようやく口を開いた。

「ごちそうさま。とてもいい食事だった」
「ありがとうございます」

「あの、なんであんな場所で倒れたんすか……?」
「……武器が特殊で、闇商人へ修理を頼んだが、有り金のほとんどを持って行かれてしまった」

「よくありますね」
「よくあんの!?」
「冒険者狙いの闇商人は数をしれん。一般販売されていない武器を使用していた場合、よく引っかかる」

「申し遅れてすまない。俺はエミル・ホークアイのグランジだ」
「あ、エミル・ガンナーのジンっす」
「カナトです。お見知りおきを」
「エミル・イレイザーのリアスです」
「カナトさんは、後輪からタイタニアと見受けるが……」
「……」
「えっとその、グランジさん。武器が特殊ってどういう事っすか?」

思わず口にした言葉。
カナトの事を言及されたくない意味もあるが、
彼を連れてきた時から気になっていた。
見たことのない装飾のついた銀の銃を右腰に吊り、左腰には予備なのか小型の自動式。こちらも普通とは違う形状をしている。

グランジは無表情でジンをみると何かに納得したのか、腰のホルスターを外した。
机には食器があるのでグランジが席を立ち、ジンも追う形で床の絨毯へ座る。

「片手撃ちを想定したの小型のライフルだ。装填できる弾は少ないが自動式と変わらない威力であるとともに、より長距離の的を狙える」
「それってもしかして……」
「デュアルハンドライフル。2丁拳銃のライフル版ともいえる。この銃はそれを可能にするため、知り合いが開発した武器だ」

カナトは既についていけないので、食器の片付けに入っている。

「でも、一丁しかないっすよね? もう一丁は?」
「二丁用に開発されたと言っても、両手撃ちはあまり理想的ではない。戦闘においての選択肢は広がるが……」
「……普通そうっすよね。マガジンは?」
「弾は直に詰めるタイプでマガジンはない、装填弾数は五発だ」
「へぇー、始めてみた……少ないと使いづらくないっすか?」
「大体はミラージュ効果で何とかなる。それでも不備が発生すれば此方で代用をしている」

取り出されたのは左越しのハンドガンだ。
一見普通の拳銃だが銃口の部分に折り畳まれた刃物がある。
ジンはそれを見てさらに目を輝かせた。
トリガー付近にあるスイッチを押すと、折り畳まれた五センチほどのブレードが飛び出す。
ハンドガンソードだ。

「かっけぇ……!」
「近接用も想定されたハンドガン。マガジンから装填数は30発。一度切り替えたブレードは、手動でもどす必要があるが、近接も遠距離も対応する万能な銃だ。これも知り合いが開発した」
「その知り合いさん。紹介して欲しいんですけど……!」
「今はもう連絡も取れない……縁もない。しかし修理が出来なくなり難儀をしている」

闇商人へ頼むのも治せる人間が居ないからか。
それなら引っ掛てしまう理由もあながち分からないこともない。

「あの……良かったら撃たせてもらえないっすか?」
「……構わないが、ここ数年まともに修理ができていない。金属疲労が怖いので治してからでも構わないか?」
「あれ? 修理に出して戻ってきたんじゃ」
「中身が特殊すぎて手に負えなかったらしい、部品も交換もせず多少の埃を取っただけで戻ってきた」

それで飢えるほどの賃金を巻き上げるとは、闇商人は恐ろしい。
撃てるのは嬉しいが壊してしまっても大変なので、ジンは渋々諦める。
するとカナトが、座り込んでいる2人へコーヒーを持ってきてくれた。

「さんきゅ」
「カナトさん」
「地を歩く私を、タイタニアだと言っていただいた気持ちです。ごゆっくりお寛ぎを……私は自室に戻ります」

それだけ述べて、二階へゆっくりと自室へ戻ってしまった。
グランジはカナトの言葉に意味深な表情を浮かべたが、珍しい武器に興味津々のジンへ視線をもどす。
すると、マントを翻した黒猫が、グランジの肩へ飛び乗りにゃぁごと甘えるように鳴いた。

「ラオ……」
「珍しいっすね。黒猫……初めて見た」
「俺も他に連れている人間は見たことはない……そう珍しくないと思っていた」

ごろごろと顎を擦り付ける。
一瞬ラオと呼ばれた猫と目が合ってジッとこちらを睨みつけた。
ジンは首をかしげたがラオはグランジのあぐらに乗り丸くなる。
そうしてコーヒーをのみつつ武器についてもう少し話して居たところ、
ふと時計を見てグランジが立ち上がった。

「では今日はもうお暇させてもらう」
「あ、はい。あの良かったらアドレスを教えてくれないっすか?」
「心苦しくはあるが、安易な登録は避けている。もう少し時間をおきたいのだが……」
「そ、そうっすか。残念……」
「いつも此処へ庭を?」
「あぁ、良くズレるけど大体ここです」
「また伺っていいか?」
「飯とか食べにくるなら、カナト喜ぶと思います。あいつ自炊好きなんで」
「ありがたい。また伺おう」
「今度こそ武器触らせてください!!」

無表情を通していたグランジが、ふっと笑った。
武器を直し出て行くグランジを見送ると後ろで見ていたリアスが、リビングテーブルのイスを跨ぎジト目で述べた。
ほっとかれて退屈だったらしい。

「ジンさん、何でそんなに銃がすきなのです?」
「かっこいいじゃねぇか! こすれる金属に手元の爆発。最高だろ?」
「理解できません。好きなのは分かりますが、その趣味、昔からのものではないでしょう?」
「あぁ、本部に入ってから……だな」
「性格的に、剣士の方が適正かと思うのですが、何で銃なんです?」

良く言われる言葉だ。カナトにも出会った当初はよく聞かれた。
たしかにその通りなのかもしれないが……。

「お前には言いたくねえなぁ……」
「気になります」
「絶対いわねぇ」

教えたら負けな気がした。

「ジンさん。黒猫いましたよね?」
「あぁ、いたな名前忘れたけど、猫すきなのか?」
「いえ、猫は絶滅したと思っていたので、気になっただけです」

首をかしげるジンにリアスは目を合わせず、”ナビゲーションデバイス”へ視線を戻した。
グランジが帰り、銃を触りたくなったので自室へ戻ろうとしたが、
同じタイミングで二人の”ナビゲーションデバイス”が音を鳴らす。
一斉送信か。送られてきたのは昨日の通り魔の情報。
黒髪に眼帯、ハードレザーコートをきたエミル。銀の変わった銃を所持しており、王冠を載せた黒猫を連れているらしい。
この情報を見て、ジンとリアスは顔を見合わせた。
見覚えがある、というかすべてに当てはまる人間が今ここに居た。
そんな気がした。

「カナト!! わりぃ、ちょっと出かけてくる!!」
「突然だな……」
「カロンさん呼んでるから、後は頼んだぜ!」

そう叫んでリアスと自宅を飛び出した。
カロンに通信をいれて、きてくれるように頼むと、横に並ぶリアスが口を開く。

「心配性ですね」
「誰のせいだよ。裏切り者」
「えっと……照れます」
「ほめてねぇよ!!」

どんな返しだと思ったが、リアスも同じランカーだ。
イレイザーの跳躍力を使い、アップタウンの街頭の上へ飛び乗って周辺を捜した。
ジンは、上から見えない路地裏を確認しつつ町を見回しながら走る。
すると、上から見るリアスから通信がはいった。

「”北東側を捜します”」
「じゃあ俺、南東いくわ」
「”戦わないでください。下手に怪我されたらあとで責任追及されるので”」
「うるせー!! 戦わせたくないならついてこいよ馬鹿!!」

切ってやった。
思いつきのままに言ったが、武器がないのだから、ランカーとしての説得力が欠ける。
せめてバレットセイバーを持ち出せばよかったとも思ったが、血を吸いすぎてしまったあの武器を再び人に向けるのが嫌だった。

アクロポリスの中央広場にたどり着き、ジンは人ごみの中を走る。
飛行庭空港の付近は、定期便を利用する人々や店番をするゴーレム、またそれを見に来る人だかりで人が多い。
今日は休日の所為か、いつも以上に人が多く、間をすり抜けるのに難儀した。
階段付近まできてようやく人だかりを抜けることはできたが、ここまで来て気配すら見つからない。
すでに町の外にでてしまったのかと思ったが、突然後ろから、聞き覚えのある鳴き声が響いた。
にゃぁごと特徴的な鳴き声を響かせたのは、頭へ王冠を乗せた黒猫。
マントを翻し、東へと駆け出した。

「猫!? 待てよ!」

黒猫は、スキップをするように路地裏を駆ける。
時々、障害物を軽やかに飛び越えるが、その小さい体で狭い隙間に入ることはせず、まるで道案内をしてくれるようだ。
見失いそうになると、足を止めてこちらを確認し首の鈴を鳴らす。
名前があったはずだが、思い出せない。
そうして南階段から、東階段へまわり、気が付けばここは北階段だ。
速度を上げても追いつけないので、催涙でも撃ってやりたいが、路地裏で銃なんて打てば、大騒ぎになることは間違いない。
仕方なくジンは、猫に誘われるがまま後を追い、ようやく止まったのは、南階段だった。
アクロポリスの外周を一周回らされ、すでにへとへと、息も上がってしまい膝を持った。
目の前をみると、自分を待っているのか猫が立ち止っている。
悔しい……。

捕まえようと、さらに追いかけようとしたが、黒猫は南階段を飛び下りてアクロポリスを出ていく。
こうなればもう意地だ。絶対捕まえる覚悟で、ジンもアクロポリスを出る。
平原なら銃を使える。
稼働橋にきて、右腰の銃を抜くと安全装置を外し、筒へ催涙ガスのはいったグレネード弾を装填した。
平原へでて、北軍騎士団のいる駐屯地を抜けたところで、ジンは銃口を猫に向けたが、その先に出てきた人影に息をのんだ。
床に手を差し出し、猫を肩に乗せるエミル。
右腰に銀の長銃を吊っているのは、先程話をしたエミル・ホークアイのグランジだった。

「捜したか? ジン」
「はい……すごく……」

正直体力は限界だ。戦える自信はない。
でもそれでも見つけてしまったのだから仕方がない。
ジンはポケットに手を突っ込み、グランジへみえないようにして、デバイスの応援信号を発信させた。

「……ラオが、捜していたといっている。忘れ物でもしたか?」
「いえ、違います……」
「じゃあ。他に何の用が?」

無表情で淡々と述べる姿は先ほどと何の変りもない。
戦うことになるかもしれないが、ジンは力をぬいて弾丸を装填した銃を下した。

「グランジさん。昨日、人を襲いましたか?」
「……襲った?」
「タイタニアのグラディエイター……」
「あぁ、あの少年か……治安維持部隊のランキング10位とは、どの程度のものなのかと興味があった。それがどうかしたか?」
「俺は5th。エミル・ガンナーのジン。よかったら本部にきてくれないっすか? 事情聞きたいんで……」
「……ランカー」

名乗った直後、グランジの声のトーンが変わった。
まずい。と思う。追いつめられて動揺したわけではなく、嬉しそうなトーンだ。
この手の人間は、戦うことを好み興味本位で向かってくる。

「なるほど、そういえば特集サイトで名前があった気がする」
「……」
「5thは戦い方に容赦がなく、関われば血を見るとも書いてあった」

間違ってはいないと思った。
対人において手を抜いた記憶はなく、戦えばためらいなく引き金を引く。
すでに何年も続けてきたことだ。

「面白いな。ジン」
「……っ!」
「お前なら、俺をもう一度。殺してくれるか?」
「何言って……」
「その前に、ジンが俺を殺すに値するか、試させてくれ」

そう口にされた直後。グランジが左腰の銃を抜いた。
唐突に向かってこられて何が起こるかと思ったが、一瞬で右手に持ち替え、スイッチをプッシュ。
刃が飛び出し、下段から上段へ振りぬかれた。
即座に一歩後退したが、遅くタートルネックが避ける。

「遅いな……」
「ちっ……」

反応ができない。一週間何もできておらず、動き方が分からない。
後ろに跳んで距離を取り、銃を構えたが間合いが狭すぎて打てず、銃を払いのけられてしまった。
無防備になった胴へ刃が刺されると思ったが、来たのは肘。
ドスっと思いっきり殴られ、ジンが派手に横へ倒れる。
動けない。

「弱い……本当に5thか?」

悔しい。
しかしそれでも痛みと嗚咽感で起き上がることができない。
再び向けられる銃口は何度目だろうか。
撃たれるかと思ったが、グランジはゆっくりとそれをおろす。

「非道の5thでも俺を殺してくれないか……」

どういう意味だろうと考えたとき、ジンの手前に三本のクナイが突き立つ。
リアスだ。
騎士団の駐屯地の上からそれを投げたリアスは、さらに立て続けにクナイを投機する。
グランジはさらに後退し、右腰の銀の銃を抜いた。
そして迷わず発砲、銃声にジンがはっと意識を取り戻す。
狙われたリアスは、"幻視空蝉"でそれをかわし一瞬でグランジの後ろへと回った。
着地しその場から”バックアタック”。突き出された爪だが、まるで空気のようにグランジがそれを交わす。
リアスがこれに苦い表情を浮かべると、後退したグランジに向けて”フラッシュグレネード”を投棄。
真っ白な煙を巻き上げた。

「……ってぇ」
「馬鹿ですか? ……あなたは馬鹿なのですか? あれほど戦うなと」
「うっせぇ! 繰り返すな馬鹿!!」

「リアス……お前もか」

リアスは答えない。
グランジは、ナビゲーションデバイスを確認すると何かに納得し再びこちらを見た。

「8th……そうか」
「何故ランカーを?」
「2回も言うつもり無い」
「……」
「お前なら俺を殺せるか?」

向けられた銃口。
聞かれた言葉に、リアスはグランジをじっと見る。
その視線に答えるように、グランジは一歩前へ進み出た。
靴底から展開したのは巨大な魔法陣。二人ともその光に思わず言葉を失う。

「終わらせてくれ、全てを……"ヒット・コミュニオン"」

青い光がグランジを包む。
”コミュニオン”は、アークタイタニアや、イクスドミニオン、上位種族のみの魔法。エミル族は使えない筈なのに……。
だが考える暇もなく、発砲された弾丸は、同じくグレネード弾で、白い煙が視界を遮った。
リアスは即座にその場から離れ、上へ跳躍。
白煙から出てきたリアスへグランジは銃口を向けた。
空中の敵へ当てるなど、そんな事ができる人間が居るのか。
片手で構えられた長銃は、真っ直ぐに狙いを定め、リアスを狙う。


どんっ
直撃した。が、空に靡くベルトコートに息を呑む。
再び"幻視空弾"を唱え、ベルトコートのみをのこし、リアスが消えた。

グランジは即座に振り向いて背後を確認したが、誰もいない。
困惑したが、上から感じた気配にはっと顔を上げた。
"幻視空弾"で空中移動したリアスは、上から毒薬を構え、唱える。

「"ヴェノムブラスト!"」

グランジを中心に毒が飛び散った。
紫の粉末が錯乱し、ジンは巻き込まれないよう後退する。
終わったかとも思ったが、土煙が晴れたその場所へ人影を確認することができなかった。
見えてくるのゆっくりと体を起こすリアスのみで、ジンは思わず辺りを見回す。

「時空の鍵ですね。上から見た時に一瞬確認しました」
「……」
「取り逃がしましたね」
「あぁ……そうだな」
「怪我ないです?」
「ねぇよ……」

腹に思いっきり食らい、少し気分が悪いぐらいだ。

「戻りましょう。少し休んだ方がいいとおもいます」
「お前に心配される筋合いねぇよ!」
「なんで悔しいんですか?」
「な……」
「いつも通りならともかく、治ったばかりで相手にしようと思うこと自体、無謀だとおもいますが?」
「お、俺が悪いのかよ……」
「護衛してるのは、おれです」

つまり、勝手に怪我するなと言いたいのか。
そうは言われても、何もできなかったことが、情けない。

「そんな事より、グランジさん。”コミュニオン”を使っていました」
「そう言えば……エミルなのに珍しいな」
「珍しくないです。在り得えません。”コミュニオン”はエミルならざる上位種族、アークタイタニアとイクスドミニオンにのみ許される魔法。エミルが使えるものではありません」
「そ、そうなのか……あんまもらった事ねぇしなぁ」
「気になります」

意味が分からない。
その後、リアスと2人で本日、二度目の本部へ行き、報告書はジンが書く事になった。
面倒ではあるが、体が本調子戻るまで素直にデスクワークでもやって居ろとスイレンに言われ、服も軽く縫い直してもらった後、帰路についた。

カナトの家に戻ると、大富豪をするカナトとカロン、何故かカルネオルも居て、二人もそこに混ざって散々遊んだ。
三回連続で大貧民になったジンは、四人掛けのリビングテーブルへ座らせてもらえず、罰ゲームとして床で夕食を食べることになった。

「じゃ、俺そろそろ帰るわ」
「僕も、暗いのでそろそろ帰ります!」
「ジン、報告書大変だろうけどがんばれ」
「すっげぇ嫌味にしかきこえないっすけど……」
「普段暴れすぎなんだよ。痛み引くまではおとなしくしとけ」

「カロン殿」
「んあ?」
「先日は言い忘れてしまったが……ジンからいろいろ聞いた」
「……」
「ありがとう。貴方がいてくれなければどうなっていたか、解らなかった……」

カロンは一瞬、何を言われたか分からなかった。
でもそんな動揺を、見せることはできなくて……、

「おう! またいつでも呼べよ」
「ではジンさん! また本部で!」

振り返らず、家を出る。
締め付けられる胸に、どうすればいいかわからなくなった。
ただ前に進むことしかできず、付きまとう心を振り払う。

「カロンさん。足早いです」
「あぁ、わりぃ。折角だし送ってやるよ。カルネ坊」
「むー、そんなに心配されるほど弱くないですってば!」
「ははっ、そうだったな!」

日も完全に落ちた夜。そうして二人は暗い街へ消えて行く。
が、同時刻。
トンカヘの定期便が最終を迎える一つ前だろうか。白いナイト正装を纏うエミルが、定期便から一人で降り立った。
今日の業務もなんとか終わり、何時もなら自宅で寛いで居る時間だが、ちょっとした野暮用だ。
報告を受けた、名前、種族。
アーチャーギルドに所属していることから身元は全て割れた。
"ナビゲーションデバイス"の通信記録からの位置情報を割り出し、特定された場所はトンカ。
噴水広場の脇にハードレザーコートを纏うエミルが座っている。

そうして近づいてくる人影にグランジは顔を上げた。
強い光を落とす街灯の下に立った影は、長身でナイトの正装アレスプレートを纏うエミル族。

「こんばんは」
「……誰だ?」
「初めまして、ぼくは治安維持部隊総隊長。エミル・ガーディアンのキリヤナギ。よろしくね、グランジ君」

にっこりと笑うキリヤナギ。
その姿を確認した直後。グランジの肩へ乗っていた黒猫が、威嚇する様に毛を逆立てた。

「ケット・シーか、懐かしいね。でもぼくにとっては、ほんの数年前に感じてしまう」
「何故俺の名前を?」
「報告を受けたんだよ。"コミュニオン"を使える、エミルが居るってね」
「……」
「そうか。君たちにとって、ぼくはやっぱり異質か」
「!?」
「君がこうして現れたのも、ぼくを消すためかい?」
「ラオの言葉がわかるのか?」

噛み合わない会話だとグランジは分かっていた。
だが、目の前にいるもう人間は、もう一匹へ言葉に返したのだ。

「にゃ、グランジ。見つけたにゃ、こいつにゃ」

言葉を話す猫。ケット・シーは古より在り、常人には存在すら把握出来ないとも言われている。
言葉が分かると言う事は、ケット・シーと同等か、それに属する人間である証だ。

「このケット・シーは、姿を隠すのが苦手なのかな? 今はだれにでも見えそうだね」

身を逆立てるケット・シーをキリヤナギが屈んで見下ろす。
手を差し出すと、指先を噛みつかれキリヤナギはおもわず尻餅をついた。

「痛い……」
「……六年前。俺はこいつに誘われた」
「……」
「世界のパワーバランスを崩しかねない。ハイエミルの力を持った人間を倒し、殺せと……」
「なるほど、確かにぼくは、現代で在りえない存在だからね。……君は、この力の欲しさに彼らの誘いをうけたのかい?」
「……嫌になったんだ。この世界が……、救いの無い世界で救いを求めてもそれすら叶わない。ならせめて、世界へ貢献し救われたいと思った」
「そうか……世界に絶望し希望を失った人間へ、同じ人間を殺させる。
なかなか面白い考え方じゃないか、ケット・シー……。そんなに僕を殺したいかい?」
「にゃ……ハイエミルはハイエミル出なければ倒すことはできにゃいからにゃ」

ハイエミルと同等の力を持つ、アークタイタニアやイクスドミニオンは、エミル界の妖精であるケット・シーの選択肢にはなり得ないのか、
古来よりエミル族の繁栄を見てきた彼らが、今更他の種族に頼ることもない。

「僕を殺させたその後は、グランジ君も死と言う救いを得る。君たちケット・シーにとってはそれが一番の成り行きか。本当に希望もなにもない……」
「……どうでもいい。ハイエミル・キリヤナギ、お前こそ俺を殺してくれるか?」
「僕は戦うのは嫌いだよ。それに、死は誰も救わない。それは君自身が一番分かってる事じゃないのかい?」
「……」
「僕と言う異分子を消すために、新たな異分子が作られ、殺し、残ったものを殺す為に、また新たな異分子が作られる。絶望しかないじゃないか……」
「俺は救われる、だから調和は保たれる」
「君は自分自身が理解出来ていないだけだよ……。ケット・シーも未だに人間を理解出来て居ない……いや、彼らは人間を利用しているだけか」
「どうでもいい、俺は俺の救われる道を探すだけだ」
「そうか、なら仕方ないね……"オリジナル"の力だけを見せてあげよう……」

そうキリヤナギが一歩踏み出した直後。
周辺が一気に闇へ包まれた。
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本編 | 【2012-12-10(Mon) 18:00:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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