プロフィール

詠羅P

Author:詠羅P
Lupi鯖:ダウンタウン
アイコン:セロさん

*更新情報
eco_JK ログ
カウンター
最新記事
お話一覧(時系列順
カテゴリ
拍手
web拍手 by FC2
リンク
JKツイッター
最新コメント
アンケート
QRコード
QR
権利表記

(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

裏切りの背徳者:エピローグな話 前編
出演:リアスさん、

ロケ地:アクロポリスシティ

あらすじ
事件から一日、その日は聖堂へ泊まり帰宅したカナトとジンだったが、
ジンは、負傷した右手を治癒しきれなかったため、療養の意味を踏まえて主力の武器を本部へ預ける決意をする。
しかし、武器がなくなり完全に無力化てしまうなか、護衛として最後のランカーが現れた。

前回:裏切りの背徳者
第一話 第二話 第三話 第四話 第五話 第六話 


 
「本当にいいの?」

「……はい。俺も少し頭を冷やしたいので」

ギルド評議会。治安維持部隊本部、ギルド元宮にて、エミル・ガンナーのジンは、部隊総隊長。エミル・ガーディアンのキリヤナギと向かい合わせに座っていた。
ジンは右腕を首から吊り、右袖を通さず黒のファージャケットを羽織っている。
こうなってしまったのも全て、先日の事件が発端であり、
急増していたアークタイタニア誘拐事件へ、カナトが巻き込まれてしまった事から始まった。
ギルドランク2nd、イクスドミニオン・イレイザーのカロンから情報を得たジンとリカルドは、
他のランカーたちと共に、辛うじてカナトを救出する事ができたものの、
救出の際にジンは加害者を致死寸前に追いやったとして、降格。
そして……、

「二週間の進呈武器の没収。たしかに、行使はされるけれど、ランカーに義務はないから、あくまで形だけで、実行力はないんだよ?」

「……わかっています」
「とりあえず、なにかしとけば、あっちに顔が立つだけで、二週間はおとなしくしとけってことだけなのだけどなぁ」
「……」
「それでもいいの?」
「はい……」

目の前にトレイへ置かれて居るのは、六丁の銃。
穿竜砲・ヤタガラス、魔神銃・アキシオン、光砲・エンジェルハイロゥそして、烈神銃・サラマンドラの計六丁。
今日、本部へきたのは、これらの武器を提出するためでもあり、現場指揮に当たったホライゾンとセオへ、個人的なお礼を言いたかったのもあった。

「わかった。そこまで言うなら預かるよ」
「ご迷惑をおかけします」
「うーん。僕が怒っているのは、国境沿いであんだけどんぱちやっちゃったことかな?
放棄区域だからよかったけど、越えてたらどうなってたかわかんないし……」
「……」
「一言言ってくれても、良かったんじゃないの?」
「ごめんなさい……」
「……でも、こういう事ができるのがランカーの強みでもあるから、
これ以上はなにも言わないよ。ジンも反省してるみたいだしね」
「……」
「二週間、どうするの?」
「カナ……相方が外に出たがらないので、とりあえず落ち着くまでは、アクロポリスで休息します」
「そっか、その腕で大丈夫? 武器もないのに、襲われたらどうするの?」

そう問われ、ジンは返答が出来なくなってしまった。
主力の武器がない上、この腕ではまともに戦うことなど出来ない。
ランカーの強みは、ギルド評議会が進呈するこの武器を使えることでもあり、
それが没収され、手元にないということは、言葉通り、牙を抜かれた飼い犬だ。

「わかりません……」
「ジンは素直だね。じゃあ僕から久しぶりの命令といこうか」
「!?」
「リアス…」

とんっと静かな音が響いたのはジンの背後。
はっとして体をひねると、ブラウンの髪にオッドアイを持つ一人の青年が、ゆっくりと顔をあげた。
銀縁のメガネをかける顔にジンは見覚えがあったが、一度も話したことがないため、何をいうべきか迷ってしまう。
彼は治安維持部隊。ギルドランク8thのエミル・イレイザーのリアスだ。
普段からイレイザーの諜報部におり、顔を合わす機会などないと思っていたのに、こんな場所で会うとは思わなかった。
リアスと呼ばれたイレイザーは、目の前のキリヤナギへ一礼すると、まっすぐに視線を固定する。

「本日より二週間。エミル・ガンナーのジンへ監視をつけさせてもらう。
これは今回の事件において、君が国家間の関係に影響を及ぼす人間であると危惧されたからのものであるが、
行動制限のないランカーに行使権限は薄いため、同じランカーである人間をつける」
「……!」
「ギルドランク8th、エミル・イレイザーのリアス、頼んだよ」
「はい」

息をのんだ。まさか、とは思う。
だが再びキリヤナギに向き合ってみると、先ほどの真剣な表情から一転笑顔に変わっていた。

「護衛、よろしくね」
「そ、総隊長! 意味わかんないっすよ!?」
「ぇー、だってジン。一応組織一個つぶしてるんだよ? なんかあったら大変じゃない。そんな腕でさ」
「そ、それは……」

後ろには真顔のエミルがじっと総隊長を見つめている。
黒服、裾の長いベルトコートをまとう彼は、まるで銅像のように動かない。

「それとジンの友達だっけ? さらわれた子」
「え”……」
「ジョーカーなんだよね? しかもアークタイタニアで、ルシフェルさんとこの長男なんでしょ?」
「えっと……な、なんで……」
「上層部で色々と話してる時にさー。
ルシフェルさんが被害者の情報みて、『これ俺の息子だわ』って笑うもんだから、正直こっちも無視できなくなっちゃったんだよね」
「……」
「その子の護衛もリアスに頼んであるから、二週間は仲良くしてね」

言えば断ることもできるだろう。
しかし、断ったとしても、リアスはランカーでスカウト系。
性質上言われたことは何としてもやり遂げようとするだろう。
つまり、リアス自身が命令を聞く限り、ジンが断っても、リアスは命令に従いってついてくる。
目の前には機嫌を直したキリヤナギ。そんないつもの笑顔を見せられたら、何も言えなくなってしまうじゃないか。

その後、総隊長と別れたジンは、セオには散々いびられ、ホライゾンにもやんわりと叱られたが、どちらも、リアスの護衛を勧めるので、
結局その日は、護衛兼監視のリアスを連れて元宮をでる事になった。
大きくため息をついて、後ろから感じる視線に肩をすくめる。

茶髪に左右で違う色の瞳。オッドアイとは、エミルにしては珍しい。
無表情で何もしゃべらないのは、イレイザー系の典型的なものだが、どうやってカナトへ話をつけよう。

「……あの、どこまでついてくるんすか?」
「どこでも、命令ですので」

命令、同じ立場であるせいか、言い返せない。

「家の中までくんの?」
「許していただけるのなら、入れていただけなくともかまいません。自分なりに行動します」
「それ大差なくね?」
「命令ですので」

いやな態度だ。
向こうは仕事だからだろうが、こちらとしては苦しいものがある。
しかし、相手がランカーであるなら、下手に隠そうとするよりも、話をつけて帰ってもらうこともできるだろう。

「なんて命令されてんだ? そっから教えてくれよ」
「あなた方、二名の護衛です」
「じゃあ、家から出ないって言えば、帰ってくれんの?」
「自宅は安全ではあります。しかし……カナトさんが連れ去られた組織の資料に、庭の精細な情報記録がありました」

「!?」
「他にもジンさんの本部の登録情報、階級、実績、その他カナトさんの出生から現在までの経過……この情報からみるに、あなた方は数日間監視されていたともいっても過言ではないでしょう」
「マジかよ……」
「カナトさんに至っては、精神疾患を持っておられたと……ジョーカーであった分、大変だったのでは?」
「は? 何の話だ……」
「……御存知ありませんか?」
「気に食わねぇな。あることないこと吹き込まれて、あんたこそ精神疾患もってんじゃねぇの?」

背中を向けた。
なぜそんなことを言ってしまったのは自分でもわからない。
しかしそれでも、同情されたことが気に食わなかった。
自宅へ戻るため、飛空庭の合鍵をポケットから取り出したとき、後ろからまるで嗚咽のような声が響く。
まさかと思い恐る恐る振り返ると、リアスが両手を顔に持っていき、ぼろぼろと涙をこぼしていた。

「な”……」
「う”ぁ……ジンさんずびまぜん。そ、そんなつもりなかっなぐて……」
「は? え……」
「お、おれ……ジンさんが困ってるって総隊長から、きいて……それで……」
「ちょ、待て待て待てぇ! なんで泣くんだよ!」
「ごめんなざい……」
「わ、わ、わかった!! わかったから泣くな!」

こんな町のど真ん中で泣かれたら、まるで自分が泣かせたみたいじゃないか。
いや、現実そうではあるが……。

「と、とにかく、中は入って落ち着け。話はそれからだ!!」

泣き出してしまったリアスを、大急ぎで庭へ連れていき、一息。
庭にあげるつもりはなかったのに、何をしているのだろう……。
自宅に戻ると、いつも通りの風景があるが、簡単に用意した昼食へ手を付けられておらず、ジンはそれに嘆息した。
時刻は14時。先ほど聖堂から、カナトを無理やり憑依させて連れ帰った所だが、起きているはずなのに、リビングにすら降りてこない。

リアスを落ち着かせるため、彼をソファに座らせる。
ティッシュをもらって、鼻をかむ彼の涙はとまらず、顔も真っ赤になってしまっていた。

「男だろ……」
「ずびまぜん……」

一応来客なのでコーヒーでも淹れようとはおもったが、左手しか使えないので、うまくいかない。
辛うじてカップを取り出し、注ごうとしたところ、後ろからリアスが歩いてきて、代わりに入れてくれた。

「……サンキュー」

渡されたが、リアスの分なので座って飲むように促す。
彼は嬉しかったのか、勧められたテーブルチェアにすわった。

「総隊長から……右腕にもなるように言われているので……」
「……総隊長から?」
「はい、許される限りの支援を、復帰できるまで……」
「そっか……、わりぃ、俺も少し言いすぎたな」
「……お茶を濁すようではありますが、カナトさんの件は、ご存知ないのですか?」
「きいてねぇ、っていうかそんな事……ないはずだ」
「……直接伺いましょう」
「やめろよ。あんま深入りすんな……どこまで知ってるかはしんねーけど」
「気になります」
「しつけぇ……」
「誤解を生みたくないだけです」

リアスの態度に、ジンは再びそっぽを向いた。
やはり気に入らない。

「今日は帰れ、俺の機嫌がマシなうちに」
「なら家の前に居ます」
「帰れよ……」
「帰りません」
「命令だからか?」
「……」
「気にいらねぇんだよ、そういうの!
何が上の命令だ、下が苦労したって結局手柄横取りするだけの給料泥棒だろうがっ、そんな連中に尻尾ふって昇格したいなら、欲しい情報はいくらでもくれてやるよ。帰れ」

机を殴り怒鳴り込んだジンだが、リアスは表情を変えない。
先ほど泣き出したのは、家に上がりこむための演技か、そう思った途端、腹の底からにえぐり変える何かを感じた。
何も話さなくなった相手へジンはため息をつくと、席を立ってリアスから離れた、だが、数歩進んだ所で、進行方向を遮られる。

「なんだよ……」
「真面目な方だと聞いていたので、論理的に話せば理解を得られると思っておりました」
「分かったなら帰れ、今日はもう家から出ない。これでいいだろ?」
「自宅で、何をされるのです?」
「家事だよ。銃のメンテもな。左手だけなら、終わる頃には夕方だろうさ」
「やります」
「は?」
「おれが全部変わりにやります」
「何言って……」
「右腕になります」
「……命令だからだろ?」
「ぶっちゃけ上官をばかにされキレたい気分です。が、貴方方の現状を放置するのは、様々な意味合いで危険です」

「どういう意味だ?」
「一つは、ジンさんはランカーであり、貴方の死亡は本部に取っての戦力の損失につながる事、もう一つは、カナトさんが現ルシフェル殿の息子であること、本部がカナトさんの素性を把握した上で、何かあった場合、混成騎士団は必ず我々組織へ責任をなすりつけるでしょう。
そうなればエミル界と天界の友好に亀裂が入りかねない」
「意味がわかんねぇ、結局自分のためじゃねぇか……」
「ぇえ、だからこそ、失いたくないのは同じです。ジンさん」

言葉がなくなった。確かに同じと言えば同じか……。
利き腕を壊してでも、守りたかったもの。
取り戻しはしたが、そのために失ったものは、あまりにも大きかった。

「二週間すべてとは言いません。せめて腕が治癒されるまで……」

妥協点か……。
利害関係は一致している、断る理由もない。
しかし、リアスを受け入れたくないのはもう一つ理由があった。

「カナトには会わない。これまもれっか?」
「それはできません」
「なんでだよ」
「お二人を守れと、仰せつかっているので」

帰る気配がない。
ジンはもう、色々と言い返すのが、面倒になってきていた。
ため息をついて頭をかき、脇のソファに座り込む。

「しかたねぇ……。じゃあ其処のメシ。あっためてくれ、カナトにもってくから」
「はい。しかしこの卵焼き、どう見てもスクランブルエッグにしか見えないので、作り直します」
「うっせぇ!右手が使えねぇんだよ!」

そうして、リアスが作り直している間、ジンは自分で作った卵焼き兼スクランブルエッグの処理に勤しむ。
料理中に塩をぶちまけてしまったので、酷くしょっぱくてまずい。

水で無理矢理流し込み、ため息を着くとリアスが表面へツヤをだすキレイな卵焼きを焼いてテーブルへと持ってきた。

「お、お前、器用だな……」
「セオ大尉に鍛えて頂きました」

そういえば料理好きだったか……。
頻繁に通ってはいないため、ランカー達の交友関係は未だに理解できない。

「……じゃあ俺、ちょっとカナト起こしてくるし待っててくれ」
「会わせてもらえませんか?」
「聞いてやるから、絶対くんな。呼んだら持って来い」

起きてはいるはずだ。
ここ数日はだいぶ早く起きられていたし、声をかければ起こすこともできるだろう。
しかし、カナトが外に出たがらない理由は、ジンにとってある意味理解しづらいものがあった。
知り合いの夕太の話によると、翼のない鳥は鳥と言わないように、飛べない天使は、タイタニアだとは言わない。
羽を負傷し失ったタイタニアは、その存在を否定されてしまえば、その言動を否定することができないのだ。
つまり、羽のないカナトを『タイタニアではない』と言えば、カナトは、それを否定できる理由を失っているため、存在価値をみいだせなくなる。

誰にも会いたがらないのは、タイタニアとしての当然の反応なのだと、何度も重ね重ね説明された。
しかしそんなもの、エミルであるジンには理解ができるわけがなく。
困惑はしたが、カナト自身のタイタニアの在り方として考えると、羽を抜いてしまった意味の深さを改めて痛感した。

そう思って、ノックしても帰ってこない返答を無視し、そっと扉を開けると、
めくった布団があるにもかかわらず、カナトの姿はない。
一瞬驚いたが、扉の脇に気配があり、そちらへと視線を向けた。

顔をうずめ体育座りのまま、羽をしならせるカナトが扉の陰にいた。

「カナト……」
「……」

相当凹んでいる。
背中の翼は風切り羽がなく、羽であっても羽には見えない。
こんな様子を別の人間に見せることができるだろうか。

「何やってんだよ……」
「……誰が来た?」
「本部の関係者」
「出たくない」
「それはわかったから、飯ぐらい食えよ」
「いらない」

こんな調子だ。
気持ちはわかるが体調を崩してもらっても困る。

「会わせたいんだけど」
「会いたくない……」

どうすべきか……。
思わず頭を抱えたところで、突然、真横に黒い影が現れた。
クローキングから姿を見せたのは先ほどリビングへおいてきた筈のリアス。

「こんにちは、初めましてカナトさん」

響いた声に、ジンがおもわず固まった。
反射的に腰の銃に触ったが、自制心で抑える。

「あなた方二名の護衛を預かったリアスです。お見知りおきを」
「出てけ、リアス!!」
「ジン。同じだ」

カナトに言われて黙った。
すべてに諦めたような喪失の瞳。見覚えのある表情で懐かしくも思える。

「お会いするには、こうするしかないと思いまして」
「わかっている。もう好きにしてくれ」
「こうしかないって……」
「……」
「自分から人前にでるような事をすれば、自己否定をしているようなものです」

しれっと言い放つリアスへ、むっと顔をしかめる。
終わった会話に、数秒間の沈黙が流れるが、それをやぶったのはリアスだった。

「ご体調は? 翼の消耗は免疫力も低下すると聞いています」
「悪くはない」
「なら確認としてもう一つ。カナトさんのお持ちの病気の方は……」
「おまえまた――」
「治癒はしている……そう聞いた」

ジンの息が止まったのがわかる。如何いうことだ?
言葉を失ってしまった彼に、リアスは続ける。

「つい先ほど、ジンさんへカナトさんの持病についてお話したのですが、ご存じなかったようで……お話されていなかったのでしょうか?」
「話していなかった。……すまない」
「どういうことだよ……」
「黙ってたんだ……」

頼むからわかるように話してほしい。
ゆっくりと立ち上がり、前へ歩こうとしたカナトだったが、バランスがとれず前へと倒れる。
ジンは支えて目の前のベッドへ座らせた。

「すまない……」
「話せよ……」
「私の口からでは言えない……」
「なんで――」
「軽度の鬱症と睡眠障害。一年前にダンジョンへ閉じ込められた時に患ったものですね……」
「よくご存じだな」

何を問えばいいのか。それすらもわからなくなってくる。
しかし、睡眠障害ときいてジンは思わず口をつぐんだ。
思い当たる節があり過ぎて、言葉が見つからない。

「睡眠障害はまだしも、鬱症は患者本人が発することに説得力がない、その為、代わりに申し上げました」
「……」
「確認が取れて幸いです。ウォーレスハイム様から、状況を伺うよう仰せつかってまいりました」
「なぜ父上が? わたしは既に勘当されている筈だ……」
「? そのようなお話は聞いておりませんが……?」

カナトが頭を抱える。
無論ジンは、何の話をしているのかほとんど理解ができない。
分かったことはカナトの父の名前がウォーレスハイムと言うぐらいだ。

それだけを理解して、ジンは一人、部屋を出る。
二人で話すならそれでいい、だがどうしてこんなにもイラつくのか。
追ってきたリアスに、ジンは背中を向けたままため息をつく。

「くんなよ……」
「カナトさんは、心配をかけたくなかっただけでは?
見たところ思い当たる節があるのでしょう? ジンさんも」
「……」

思い当たるも何も、ずっと一緒にいたのだからわかる。
ただの体質だとおもっていたのに……。

「どんな病気なんだ?」
「鬱症は、無気力、心の喪失、思考力の低下、感情欠落が主ですが、睡眠障害は過眠や不眠など、主に睡眠に関するものが大半です」
「……」
「しかし、現在のカナトさんは鬱症における典型的な症状を確認することができない。睡眠障害に至っても、突然眠ってしまったり、何日も不眠という状況ではないのでしょう?」
「あぁ……」
「ならば、完治しているといっても過言ではありません」
「そうかよ……」

ジンの思う問題は、そこではなかった。
どうして気づかなかったのか、何度も不信に思ったのに、何かと理由をつけて病院に連れていかなかった。

「ジンさん。鬱症は完治したとしても、再発の可能性があります。だから……」
「もういいリアス……わかった」

どんな顔で会えばいいのか。
振り返るとリアスは目をそらし、申し訳なさそうな表情を浮かべている。
悪気はなかったのか。ただの気遣いが裏目に出ているだけで、申し訳なさを感じているらしい。
かける言葉もなく、一度家をでようと出口へ向かったとき、
自室からカーディガンを羽織ったカナトがゆっくりと出てきた。
あんなにも外へ出たがらなかったのに……。

壁に支えを得ながらゆっくりと歩く。自室はロフト上の二階にあって、その先は階段だ。
ひやひやした気分で見守っていると、こちらに気を取られていたカナトは、案の定足を踏み外し前へ落下。
反射的に階段を上り、ジンはカナトに押し倒される形で床へたたきつけられた。

「いってぇ……」
「ジンっ」
「腕、中途半端に神経つながってて痛いんだよ……」
「……大丈夫か?!」

見上げれば今にも泣きそうなカナトがいる。
罪悪感があるのか、それとも心配してくれているのか……。
どちらにもとれるその表情に、すこしほっとした。思ったより元気そうだ。

「まぁ、無事だしよかったんじゃね?」

そう笑うと、カナトは床へ座りこんでしまった。
細かい事はいい。今はこうして無事であった事を、幸いと想う。
治っているのなら、心配することもないか。

気を取り直し、カナトを座らせ遅めのコーヒーをだす。
リアスはカナトの向かいに座ってじっと彼を見つめていた。

「改めまして、ギルドランク8th、エミル・イレイザーのリアスです」
「ジョーカーのカナトだ……」

タイタニアだと明言しない事に、ジンは意味を感じ、複雑な気分になる。
しかし気にしても仕方が無いか……。

「総隊長から、お二人の護衛を仰せつかっています」
「何故?」
「ギルド評議会の上層部における外交大使。アークタイタニア・ウォーレスハイム殿の実子であると……」

カナトが苦い顔を浮かべる。

「ウォーレスハイム様からは、現状報告を、護衛は総隊長の気遣いです」
「恩を売りたいの間違いではないのか?」
「存じません。命令されただけですので」
「……」

カナトがリアスを睨みつける。
横で首をかしげるジンにカナトは吐息すると、カップを置いて口を開いた。

「大方、護衛と言う大義名分を掲げ、私達に近づき、現状を見てこいと言う事だろう。弱みとして握るつもりか……」
「存じません」
「貴様の組織もなかなかえげつない方法を使う」

「わりぃ、カナト……よくわかんねぇ」
「簡単にいえば、上層部へ口出しするためのコネを作ろうとしていると言う事だ。
息子は守ってやっているから、いう事を聞けと……」
「存じません」
「部下が知らされていないのは当然の話。貴様もだ、ジン」
「俺も!?」
「好意だと思って受けたのだろう? これだから……」
「うっせぇ! 断りたいよ俺だって、でもリアスはランカーで、断ってもくるんだよ!」
「ほぅ、ならリアス殿。一つ提案しよう」
「なんですか?」
「戦争をしたくなければ、今後私に関わるのはやめた方がいい」

二人が黙った。
リアスが思わず返答に困っている。

「そういう意味だ。少なからずとも、可能性の話をさせてもらっただけだが」
「……てか、いきなり話がぶっ飛んだようにしか」
「貴様のそういうところが馬鹿だといっている。散々利用されておきながら……」
「お、お前……助けてもらっといて……」

カナトが黙る。
ジンもまた、地雷を踏んだと思った。
しかし、昼食へ手をつけ出したカナトにほっとする。
リアスはそんな様子をみて、沈黙を破った。

「総隊長が、何を考えているのかは存じません。しかし、事件が収束して未だ一日。報復の可能性も十分に有り得るのでは?」
「……」
「ジンさんが負傷している限り、今の貴方方の自衛手段は皆無……。何かあればどうされる気ですか?」
「そこの男次第だな」
「は?」
「今の私にとやかく言う権利はない……。好きにしてくれ」

そう言ってふらふらと自室へ戻ってしまった。
呆然とするジンの横で、リアスがもくもくと食器を片付け始める。

「わりぃ……」
「気になさらず、そんなことより包帯を変えに行く時刻では?」
「……なんで知ってんの?」
「本部からある程度の情報を渡されています」

何処まで知らされているのか……。
ジンはそのあとカナトへ外出のメールをいれて、リアスと聖堂へ向かった。
少なくとも一日一回の治癒魔法と包帯の交換をするように言われている。
面倒な上、魔法治癒が当たり前のこのご時世。腕を吊った冒険者の方が珍しい。
おまけに目立つので変な視線を感じる。

「さっさと直してもらえねぇかなぁ……」
「魔法がなければ、腕を切断しなければいけないレベルの怪我ですよ?」
「それは何度も聞いたよ。でも一番早くて五日って、かかりすぎじゃね?」
「神経は人体の感覚を司るものです、慎重な治癒が必要かと」
「よくわかんねぇな。でも知り合いがやってくれてっし、信頼はしてるけど……どうも納得がいかねぇ」

ずっと守ってきたのに、守られている今が落ち着かない。
何もできないしがらみが強すぎて、安心できないのだ。
だから一刻も早く、治してもらいたい。

「早くですか?」
「なんとかならないかなぁ。ヴィネちゃん。あいつ何処でもついてくるし、色々知ってて怖いというか……」
「お気持ちは、解らないわけでは有りませんが、本来なら入院して頂きたいのですけど……」
「え、そ、それは勘弁……」
「ならあと四日、きてくださいね」
「は、はい……」

がっくりとしたジンの包帯を、ヴィネーラが丁寧にほどいて行く。
痛み止めを処方されているが、徐々に支えがなくなり、ズキズキと痛みが響いてきた。

「……月光花さんが、寂しがっておられましたよ」
「え……」
「カナトさんの件で自宅へ行けないと、気を使って……」
「……」
「せめて顔だけは、見せて差し上げてください」

そう言ってヴィネーラが”サルベイジョン”を唱える。
ヴィネーラは、月光花の先輩カーディナルらしい。

痛みが酷く、こらえるのに必死だが、なんとか乗り切る事はできた。
包帯も替えてもらって、気分もかわり、ジンはリアスをつれて聖堂の控え室へ向う。
女友達に囲まれていた月光花は、ジンが四年前、故郷でみていた風景と告示していて、思わず息を止めてしまう。

「なーに? 珍しいじゃん。ジンから会いに来るなんて」
「そうか? 何回か来た気がするけど?」
「まだ二回目だよ? こっちに着てから」
「そんな少ねえ?」
「覚えも無いくせに」

お見通しか、知ったかはもうやめよう。

「腕、痛いでしょ」
「痛くねぇよ」
「うそばっかり……」

そっぽを向かれた。
嘘なんて言うつもりは無いのに、彼女の前では素直になれない。

「ジンは嘘しか言わないもんね」
「そんな事ねぇし……」
「バカだなぁ……」
「ば……」

不意打ちの笑みに言葉が詰まった。確かに色んな意味で、馬鹿だ。
だから、肯定する為に述べる。

「馬鹿じゃねぇよ……」
「はいはい」

目を合わせられない。
背中をむけ、何を言おうかと思ったが、背中に感じた体温に顔を上げた。

「気をつけてね。私は此処にいるから……」
「……当たり前だろ」
「じゃあ、ヴィネ先輩に、もっと痛くしてもいいって言っちゃおーっと」
「は? 何言って……」
「あは、それじゃ私はそろそろ持ち場にもどるね」
「あぁ、またあと……明日か」
「うん。またね」

そうして月光花と別れ、ジンはリアスと帰路へとつくが、カナトからメールが入っており、食材を買ってこいと指示がでていた。
だいこんのマークがついているのは、遠回しなリクエストか……。

「あいつ、絶対右手壊してるの忘れてるよな……」
「おれが持ちます」

そうして、簡単な食材を買い込んだ時には、すでに日は落ちてしまい空には星が輝いている。
リアスはリアスで、追い出しても玄関に留まるのが目に見えている。
五日間だけの辛抱か。

「ジンさん」
「? どした?」
「少し付き合って頂けませんか?」
「どこへ?」
「捨て犬のエサやりに、南平原へ……」

……。

「えっとぉ……」
「雨の中震えていて……」
「いや、それはいいし、突っ込んで欲しいならもっとわかりやすくしてくれねぇと……」
「南平原に……」
「わ、分かったよ。暗いしすぐ帰るぜ?」

何を考えているのか、ますますわからない。
連れて行きたい理由があるなら言えば良いのに、嘘が下手だと思うが、よく考えると人の事も言えなかった。

何も言わず、何もしゃべらず連れてこられたのは、人通りの少ない南平原の外れ。
当然のように捨て犬などおらず、ジンはリアスがこちらを向くのを待つ、が、リアスが振り向く前に暗闇からがガタイいい男たち数名、ジンを囲うように出てきた。

「なんのつもりだよ。リアス」
「おれは知りません。ただジンさんをここに連れて来いといわれただけで……」
「だれの命令だ?」
「だれの命令? しりません。おれはこうしたかっただけですので」
「なんだと……?」

「俺たちはお前らが潰したグループの下っ端だよ。……てめぇのせいで兄貴の腕が無くなったんだ。
人質にしてアークタイタニアが引き渡されるまで、同じ目に合わせてやる」

穏やかではないなと思った。
持ってきた銃は左腰と、背中の二丁。素手は右腕が痛むので動けない。打開は絶望的だ。

「試させてください。ジンさん」
「意味わかんねぇよ」

そんな事の為に、今まで散々演技をしていた?
ふざけるな。

「ちょっといいやつだと思って、心許したらこれか、
全く……本部の奴はろくなのがいねぇ……これだから嫌いなんだ」
「ろくなやつがいないですか……そうみたい……ですね……」

「人質?ふざけんな、こっちだって腹くくって突っ込んだんだ。
お前らに捕まるぐらいなら、今ここで死んだ方がマシだよ!!」


左手の銃を抜いた。持ってきたのは、6発装填式のレボルバー。
親指のみで装填できるため、片手で扱える。
ジンはその銃のぬくと、躊躇わず自分のこめかみへ突きつけた。

「いいのですか? ここで貴方が死亡すれば、カナトさんが再び無防備になりますよ」
「そんな事はねぇよ」
「!?」
「俺だけじゃねえ。あいつだってもう一人じゃないんだ」



ジンが出かけ、自室にてバイオリンを引いていたカナトは、ナビゲーションデバイスの着信音に演奏をやめた。
通信元は見覚えがあり、カナトは躊躇いなく受信ボタンを押す。
ジンの友人。ギルドランク9thのイクスドミニオン・ガーディアンのリカルドだ。

「”ご機嫌よう。カナトさん、おられるか?”」
「リカルド殿。先日はお世話になり……」
「“体調は?”」
「……悪くは、ありません」
「“……今、庭の下に参りました。お見舞いに物をを持っています”」
「……!?」
「“……見られたくないなら、無理せず”」

すこし、迷った。
だがリカルドは、すでに翼のない自分を見たと聞いている。
見られてしまっているなら同じ話か。

「……いえ、開けましょう。上がってください」
「“……感謝致します”」

カーディガンを羽織り、カナトはリカルドを迎えた。
私服で現れた彼は、フォーマルな衣服に身を包み。
両手いっぱいに野菜を抱えている、中には白い大根混ざっていた。

「下町で特売をしていたもので……買いすぎてしまいました」
「ありがとう。気を使わせてしまった」

リカルドは笑みを見せ、キッチンへ野菜をおきにいく。
するとキョロキョロと当たりを見回し、もう一人の気配を探った。

「ジンはどこへ?」
「つい先ほど聖堂に行くと言って出て行きました。用事ですか?」
「特に用事は……。しかし、洗い物が残っていますね」
「申し訳ない。ここ数日、まともに家事が出来ておらず」
「少し済ませてもいいですか?」
「? 構いません。が、申し訳なく……」
「元使用人で、残っているのをみると片づけたくなるのが……」
「そ、そうなのですか……。ありがたくありますが……。今、コーヒーを入れますので」

そう言って、カナトはコーヒーメーカーのスイッチをいれた。
キッチンのシンクについたリカルドは、「家にいれてもらえた」とジンへメールを出し、生きようようと食器を洗い始めた。
すると、カナトの”ナビゲーションデバイス”が、立て続けにお知らせ音を鳴らす。

「……アラームですか?」
「あぁ、すまない。リプライがあれば、知らせるよう設定しているんだ」
「リプライ……?」
「つぶやきツールというのだが、リカルド殿はご存じないか?」

聞いたことはあるが、”ナビゲーションデバイス”そのものをあまり見ないので、眼中にはなかった。
楽しそうに家事を始めるリカルドを、カナトは不思議そうにみつめる。




「なるほど、裏切ることを考慮していた……ということですね」
「……」
「しかし、月光花さんは……」
「もう伝えたよ。明日はいかない、ってな……」
「!?」

嘘の裏返し。我ながら、野暮だなと思う。
そんな方法でしか伝えられない自分が情けなくてもどかしい。
しかし、自分のせいでこれ以上失うのは嫌だった。

「止めろ!!」

そう叫び、男たちが向かってくる。
握り、温まった金属へ力を込め、ハンマーが動いた直後。
目の前のリアスが、”マーシレスシャドウ”を唱え、ジンの手からレボルバーを弾き出す。
どんっという発砲音が響き、弾丸が柔らかい地面へ食い込んだ。
着地したリアスは、背後に向かってきた男の顔面を殴りつけ、後退させる。
ジンは”マーシレスシャドウ”を食らった勢いで、後ろへと倒れ左肩を地面へぶつけた。

「息を20秒。目をぐっと閉じてください」

言われた通りに顔をふせて目をつむる。
唱えられたのは”ヴェノムブラスト”、催涙効果のあるものだ。
真っ白な煙に巻かれ、リアスは伏せたジンの左肩を担ぐと、白煙の外へ飛び出す。

「なんで……」
「気が変わりました。貴方は死ぬには惜しい人だ」
「…!?」

アクロニア小学校校舎の影に連れて来られると、リアスは腰の爪を手に装着する。
ジンは催涙をすこし吸い込み、意識が朦朧としてきた。
すると、リアスがなにかの液体が入った小瓶を取り出す。

「オリジナルの催涙です。死には至りませんが毒があります。
解毒薬を服用してください」
「まて……リア……」

言い終える前にリアスは消えた。
酷く気分が悪く周りが幻覚にようにゆがんで来て、座ってすらいられない。
解毒薬と言われた小瓶は、飲むことなどできず、ジンはそのまま意識を手放した。



最初に見えたのは白いシーツだった。
ぼやけた視界は少しずつ鮮明になり。目の前に銀の髪が見えてくる。
数秒眺めて気づいたが、銀髪のエミルから憶測し、リアスだと理解した。
ジンが横になっているベッドへ突っ伏し静かに寝息を立てている。
右手は未だ痺れて殆ど動かない。
痛みが引いている事に少し驚いたが、脇のテーブルに置かれた空の小瓶と錠剤パックで、大体把握できた。
知らない内に飲まされたか……。

そうして体をおこすと、突っ伏していたリアスが顔をあげる。
よくみればベルトコートを脱ぎ、軽装だ。

「おはようございます……」
「お、おぅ、おはよう……リアス」
「腕、大丈夫ですか?」
「え、なんで?」
「昨日、ここへお連れしたんですけど、痛み止めがきれたのか酷く寝汗をかかれてて……」
「わ、わりぃ……」
「解毒薬も服用されておられなかったので、目覚める事も出来なかったのかと」
「……」
「しかし、普通に考えれば飲めるわけがありませんでしたね」
「……もういい。助かったし、信じねぇけど」
「もうしません、安心してください」
「信じねぇよ!」

そう言って立ち上がろうとしたが、右腕がビリビリと痛み、ぐっとこらえる。
リアスはそれをみて、タートルネックを差し出し、ジンは渋々受け取った。

「……さんきゅ」
「吊りましょう」

悔しいが、やって貰うしかない。
結局。着替えも一式手伝ってもらい、ジンはようやく自室をでた。
そして、気配のあるリビングをみて、固まる。
時計もみたが、まだ10時だ。

「起きたか、ジン」
「か、カナト? なんで起きてんだ?」
「先に起きては不満か?」
「いや、別に……」
「貴様、昨日派手に転んで痛みで気絶したと聞いている……。腑抜けが恥を知れ」

言葉がでない。確かに転んだ。
転びはしたが、カナトにはおそらくリアスにとって都合のいいことしか伝えられていないのだろう。
助けた変わりに泊まらせたのか。
後ろにいるリアスをジト目で睨むと、彼は無表情で、ジンを通り過ぎ、カーディガンで羽を隠すカナトを手伝い始めた。

「昨日貴様が気絶している間、リアスからここに来た理由をきいていた」
「へ?」
「ランカーなら、行動制限がないと聞いているからな、何の得もないのに、なぜそこまでしようとするのかと……」
「スカウト系だからだろ……?」
「私もそうだと思ったが、どうやらリアスは、私達に興味を持っただけらしい」
「どういう意味だ?」
「仲間に入りたかっただけ、ということだ」

思わず呆然とする。
カナトとキッチンへ立つリアスは、頬を赤く染めており黙々と手伝いをしていた。
筋が通らなさすぎて、いいくるめられたようにしか聞こえない。
首をかしげ、言葉すらでないジンを、リアスが横目でみると小さな声でぼそぼそとしゃべる。

「なぜジョーカーのカナトさんが、本部に所属しているジンさんと一緒にいるのか。興味がわかないかと……総隊長に言われて」
「興味……?」
「ジンさんの方は、経歴からみて、かなり真面目で任務第一の印象がありましたから、そんな人がなんでジョーカーさんと一緒にいるのか、疑問でならなかった」
「疑問ねぇ……」
「実際会ってみると、かなり感情的な方で驚きましたが」
「悪かったな……あんま深く考えるのは嫌いなんだよ」
「ガンナーらしくないですね」
「うっせぇ!」

「ともかく、リアスはリアスで護衛としてここへきているが、実際問題、私たちをみたかっただけ、ということだ」
「……でもそれって、スカウト系らしくなくね」
「ジンさんが言います?」
「お返しだよ、バーカ」

「子供か……」

好奇心旺盛なスカウト系。
自分の興味にひどく愚直で、それで他人の気持ちすら厭わない性格。
迷惑極まりないが、昨日助けてくれたことを思うと、ある程度のボーダーラインは引いているのか。

「じゃあもう、今日でリアスも帰れるな」
「帰りません」
「……なんで?」
「カナトさんが、勘当されたのにも関わらず、なぜ本部から重要視されているのか気になります」
「すっげぇどうでもよくね?」
「気になります」

この流れはもう3回目ぐらいか……。
フライパンでチャーハンを作っているカナトは、話を聞きつつも応答する気配はない。

「おい、カナトっ、お前はどうなんだよ!」
「……確かに、無視できない問題ではあるが、わたし自身、もう父上の前に立つ機会はないに等しい。
たとえ干渉されたとしても、私はそれに応じるつもりはない。筋は通す」
「……」
「あの父上だ。どうせ軽はずみな発言で引っ掻き回したんだろう」
「どんな人なんだ?」
「外交官でありながら、貴様以上に感情的な御方だ。
自分の立場も考えない発言が多く、周りはそれに振り回される」
「……」
「今思えば、そういった”うつけ”といわれる部分を、天界でも煙たがられていたのかもしれないな」
「おまえ、父さんきらいなの?」
「嫌いだ。おかげで、家を出た当時はせいせいした気分ではあったが……」

言葉を止める。
完成したチャーハンをお皿に分け、カナトは一息ついた。

「一人になり、その孤独を思い知った頃にはすべてが遅かった」

その場が沈黙する。
あまり聞いたことがなかったが、カナトのお家事情は思ったよりも複雑らしい。
戻りたいとは思わないが、軽い気持ちで手に手放してしまったものは、余りにも大きかった。
結局、三人で食卓を囲んで早めのお昼を済ませる。
カナトのチャーハンは、びっくりするほど美味しくて、どこか負けた気分にもなってしまう。
教えた覚えはないのに……


「どうした? ジン」
「あ、あぁ、これ食ったら聖堂にいってくるわ」
「早くないか?」
「ちょっと野暮用。カロンさんにあって来る」
「そうか、カロン殿か……私も行った方がいいか?」
「無理すんなって、家、出たくないだろ」
「……」

「おれも行きます」
「いや、リアスもカナトと家に居てくれ」
「……」
「信用してやっからさ」
「……わかりました……ありがとうございます」

「なんもすんなよ」

そうした会話を終えて、ジンは一人チャーハンを食べ終え家を出た。
午前中のアクロニアの空気はひんやりと冷えて、上着がなければ風邪を引いてしまうだろう。
赤いマフラーへ顔をうずめたジンは、一人聖堂へ向けて歩く。
web拍手 by FC2
本編 | 【2012-12-06(Thu) 18:00:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する