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(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

裏切りの背徳者:最終話 終息
banana_02.png
詠羅と結城隆臣さんのリレーシナリオ

第六話:終息

前回
裏切りの背徳者:第一話 胎動
裏切りの背徳者:第二話 苦悩
裏切りの背徳者:第三話 始動
裏切りの背徳者:第四話 奪取
裏切りの背徳者:第五話 真実


 著:詠羅


リカルド、カルネオルとともに、アクロポリスへと戻ってきたジンは、本部からの事情聴取を受けるとともに、今回の事件の全容を知ることになる。
アジトに残されていた資料から調査したところ、今回の事件のすべては、
アークタイタニアのジョーカー、カナトをターゲットにされて起こっていた事が分かり、まさに規約の隙間を狙った計画的な犯行である事が分かった。
なにかしらのきっかけで、ジョーカーのアークタイタニアがいると知った彼らは、羽を欲している貴族へ売るため、死に物狂いでカナトを探していたのだ。

そんな捕縛された人攫いの彼らは、最初カナトがジョーカーであることを述べて、
不条理だと訴えたが、アジトにあった資料から、他の誘拐事件にも関わっていたことが分かり、騎士団への引渡しが決定。事件は収束へと向かう。

救出できたカナトは、幸い軽症であり、"ジョーカーアート"の反動で気絶しているだけだったが、
切断された羽があまりにも痛々しく、ジンは言葉すら浮かばなくなってしまった。
タイタニアが羽を負傷し、失った羽を再び生え変わらせる為には、
一度、根元から抜いてしまう必要があるらしい。
その作業は、タイタニアにとって酷く痛みを伴う作業であることから、気絶している今のうちに全て済ませてしまったほうがいいと申告された。
ジンはカナトの唯一の関係者としてそれを聞かされ、承諾。
事件が収束したその日に、風切り羽を根元から抜くのを最後まで見届けた。
完治し再び飛べるようになるまでは、一週間か二週間はかかるらしい。
またジン自身も、右腕に入り込んだ弾丸が腕を縦に貫通し、複雑骨折、神経までやられてしまったので、短時間では治癒がしきれず、右腕は宙吊り状態だ。

月光花には、案の定こっぴどく叱られ、泣かれもしたが、一発頬を殴られただけで許してもらえた。
もう何度、泣かせてしまったかわからない。それでも立ち止まりたくはなくて、
ジンは、泣きつく月光花をなだめて、一日だけカナトと共に聖堂で泊ることになった。

その次の日から、本部にてランカー達の処遇が話し合われることになる。
ジン以外のランカー達は、皆、一つの事件を解決し、貢献したされたが、
ジンだけは加害者5名を致死寸前まで追いやったとして厳罰。降格処分となった。
しかしそれでも、事件解決に導いた一人として、ランキングからの除名だけ免れ、降格と共に、二週間の進呈武器の没収のみで済んだ。
昇格してから一ヶ月も経っていないのに、情けないことだとは思ったが、
本部の対応などどうでもよく、カナトが無事であったこと自体が、ジンにとっては一番の幸いで、心のゆとりでもあった。

武器も没収され、何もできないジンと、飛べなくなったまま目を覚まさないカナト。
大切なものは取り戻せたが、手元にはほとんど何もなくなってしまった。

そうして事件から三日ほどだったころに、ジンは左腰に自動式拳銃を携え、ギルド元宮へと向かう。
武器が没収されているので、受付に少し時間がかかったが、
人が騒がしくドタドタと走り回っているのを見て、ジンは何かあったのかと受付に聞いた。
女性は目をそらし話すことに戸惑ったが、関係者であるジンが目の前にいるため、渋々口を開く。

「先日の事件の加害者の一名が、つい先ほど獄中で倒れているのを発見されました」
「!?」

息が止まった。
言葉が飲み込めず、思わず絶句してしまう。
ジンは事情を最後まで聞かず、受付が終わったカードだけをひったくり、地下へと向かった。
元宮の地下にある一時的な留置施設へ向かうと、立ち入り禁止のテープが貼られており、ジンはそれを飛び越え、獄中の人物を凝視する。
そこへいたのは、まるで死んだ魚のような瞳をした。人間。
感覚的に分かったのは、”死んでいる”ということ、それが理解できた瞬間、息がつまり生汗が流れる。
さらに言葉が出なくなった事実は、つい先日ジンを含めた、ホライゾンとカロンの3人で連行した人物だったことだ。
ガクンと膝が落ちる、現場調査にあたっていたひとりが、ジンの左肩を掴んで無理やり立たせると、ジンをテープの外へと追い出した。
さらに頭が混乱する。
それでもジンは、少し冷静になったあと、憂鬱な気分でラウンジへと向かった。
そこでいつもどおりに突っ伏しているカロンをみて、ジンは声をかける事に戸惑いはしたが、
こちらに気づいたカロンに、思わず顔をあげる。

「よう、腕は平気かい?」
「まだちょっと……でも、あと三日ぐらいで完治はできるみたいです」
「魔法はスゲェな……神経やられたんだろ?」
「はい。最初は指先までまったく動かなくて……今は痛みがひどいぐらい」
「流石だなぁ……カナトは?」
「家に連れて帰ってから、一応起きたんですけど、外に出たがらなくて……」
「タイタニアはプライドが高いからな……。見られたくないんだろ」
「……カロンさん」
「おう、……ちょっと、出るか」

苦笑を交えカロンが席を立つ。
ずっとここにいる彼は、すでに見慣れたもので、組手などもよくやってもらったものだ。
だがそれでも、聞かなければいけないことがある。

東アクロニア平原からさらに外れた場所にあるウテナ湖。
エミル界で命をおとした冒険者や、寿命によって絶命した彼らを供養する場所。
人気がなく、聞かれたくないことを話すにはもってこいの場所だ。

「……なんで、カナトが攫われた事を知ってたんですか?」
「仕事に出てたんだ……。そこで見かけて、あとを追った」
「見かけた?」
「あぁ、狙われていると思って警戒していた」
「狙われてると、知っていた?」

無言で頷く。
カロンはまっすぐにこちらを見ており、言葉をすべて受け入れる態度を示している。
ジンはそんなカロンをみて一度目をそらすと、わだかまりとなっていた言葉を口にした。

「……プルートって誰なんですか?」

カロンの表情が変わった。
絶句したのか大きく目を見開き、予想もしていなかったようだ。
数秒の間をおき、一度視線を落とした彼は、あきらめたように口を開く。

「俺のことだ……。聞いてたんだな」
「偶然。ホライゾンさんに言われてすぐに戻りました」
「……そうか。どこまで、聞いたんだ?」
「秘密結社、工作員、犯罪者……人殺し……」
「……」
「あんたは、犯人と知り合いで、それで、アジトの場所も知ってて……」
「……」
「わかりません。カロンさん。一体何者なんですか?」

ジンのまっすぐな言葉に、彼は何も言えなくなってしまった。
終わったのかという思いと、自分の失態の後悔があふれてきて、思わずため息をつく。
この一年間、共にいろんなことを話して、関わってきたが……。

カロン、ガーヴィンはもう一度ジンを見直し、ゆっくりと口を開いた。





編集:結城隆臣さん


「わかりません。カロンさん。一体何者なんですか?」
ジンに言われカロン―――ガーヴィンは溜息を吐いた。
「何者……か」
確かに、そう思われても仕方がないな……。
心の中にいろんな思いが駆け巡る。
知られてしまった、話すべきか、このままジンを闇に葬り去るか……。
一通り巡ったところで、ガーヴィンは言葉を発した。
「確かに俺は……とある組織に属している工作員だ。……カロンというのは仮の名前で、その存在もすべて仮のものだ」
「……!?」
ジンが驚いた様な顔をする。
当たり前だ、今まで親しくしていた相手は存在していない作り物なのだと知ったのだから。
「ああ……、騙していて―――悪かった」
軽く頭を下げる。
「よく、わかりません……カロンさんは、カロンさんじゃ……」
信じられないと言うような雰囲気。
ガーヴィンは苦笑した。
「そう言ってくれると嬉しい。けど、本当は違うんだ……。俺はジンが聞いてしまった通りの、人間だ」
「……!」
ジンがゆっくりと首を振る、そして、片手を頭に当てながらゆっくりと口を開く。
「今朝、本部の留置施設で……捕縛した一人が殺されていたのを見ました……」
「ああ、知っている」
「あれは……カロンさんが?」
「俺が直接手は下していない、が……結果としては俺が殺したようなもんだな……」
「……」
ゆっくりとこちらに視線を向けるジン。
俺はその顔が見られず、身体の向きを変え、空を見た。
「彼は俺のことを知りすぎていた。おそらく、俺が所属している組織の誰かが障害を撤去してくれたんだろう……」
「わりません。カロンさん」
「……?」
「殺人をしたというあなたが、あの時俺を止めた。あの話を聞いて……それが連中と仲間であったからなのかとも思いました。だけど……あなたは結果的に、仲間を殺したと言う。分かりません。あなたが、なんでカナトを助けてくれたのかすらも」
ガーヴィンは覚悟を決めて溜息を吐いた。
ジンが危ない目に合うようになるかも知れない。
だが、この結果を招いたのは自分だ。
どのような事態になろうとも、相手が答えを求めている。
はぐらかして、今この場を何とかしたとしても、また再び聞いてくるのは目に見えていて、逆にランカーの仲間達に変なことを言われたりしても困る。
「……分かった。全部話す」
「聞きます」
「俺が工作員だというのは言ったな……? 得に、諜報や敵対組織に潜入して斥候の役目をしていた」
「本部で?」
「いや、そちらはまったく関係無い。俺は自分の組織の指示通りに動いて……そうか、言っていなかったな……俺は未登録なんだ。分かるか?」
ジンが怪訝そうな表情を浮かべた。
「まぁ、評議会から依頼があればやっていたかも知れないが? 俺みたいな下っ端にはそんな事は知る由も無いことだ……」
「依頼……本部からも?」
「さぁてね……エライ人は何を考えているのか分からないから……」
眉をひそめ、ジンが片手を顎に当てながら腕を組む。
ガーヴィンはゆっくり息を吐いた。
「まぁ……それで、以前に潜入した……賭博場で知り合ったのがあの死んだ男だ」
「知り合いであり、そうじゃなかった……?」
「当時、俺は『ギルフォード』と名乗っていた。ギルにとっては知り合いでも、工作員である俺自身には関係無い」
「仲間では……なかった」
「仲間ではない」
「なら、あの時、殺すなって言ったのは……」
「……カロンならああ言うだろうと思ったから」
ジンの視線がガーヴィンの左肩に流れた。
ガーヴィンが一瞬カロンの雰囲気を纏いつつ口を開く。
「もう少し下だったら、ここに当たってこっちが死んでいたかもなぁ」
心臓の付近を軽く叩きながらケラケラと笑ってみせる。
「……工作員という仕事は、俺にはよく分からない。でも、武器の威力から見ても、当たり所が悪かったら本当に死んでいたかも知れない。なのに、どうしてこんな芸当を……」
「運が良かったんだろ」
ジンの視線がこちらに戻り、ガーヴィンはまた向きを変えた。
「……カロンさんと初めて会ったとき、覚えていますか?」
「……ああ」
「あんとき俺、どこか同じ気配をカロンさんに感じてて、俺はずっとそれが何か、分からなかった。でも、ついさっき分かりました。『同じ』だったんですね」
「同じ?」
「俺も、4年前に人を殺したから……」
「ああ……前に話していたな、正当防衛の……」
「同じです……」
「まぁ……殺しに違いは無い。例えそれが、助けを求めて泣き叫ぶ相手だろうとも、自分の身を守った結果であったとしても」
「カロンさんは望んで殺しをしたんですか?」
「……」
「俺はどうしても……カロンさんが人を望んで殺しているように感じられなくて……」
「カロンは殺しを嫌がるだろうな……。そういう設定だから、仲間がそれを侵そうとした場合全力で止める。だから、ジンを止めた」
「さっきから自分を他人のように言ってますが、設定って……? プルートと呼ばれていたのも……」
「プルートと言うのは俺が所属している組織のコードネームで本名ではない」
「じゃぁ、カロンって言うのも……」
「ああ、先に話した通りだ。カロンという男は実在しない」
「偽名までつかって、本部に……実在しないと言う事は、全部演技だった?」
「ああ、そうだ」
「カロンさんはタイタニア誘拐事件に関係していなかった……なのにカナトが攫われる事を知っていたのは……、その組織が関与していたから?」
「否定はしない……申し訳なく思っている……」
「どうして……カナトを?」
「それは、詳しく話すことは出来ない。ただ、1つ言える事は……とある筋からウチに依頼があって、カナトが評議会へ加入せざるを得ない環境を作るようにした。その方法が、これだったと言うだけだ……」
「なんで……」
「さぁてな……」
「じゃあプルートさんは、カナトが入らなくても良いよう……動いていてくれていた?」
「いや……カナトが誘拐されないように、動いていただけだ。誘拐されたら評議会うんぬん所ではない……それは分かるだろ?」
「はい……」
「結果、守ることは出来ず、誘拐されてしまって……申し訳ない・・・・・」
「でも、もし連絡を貰えなかったら、本当に取り返しの付かないことになっていました」
「ああ」
「ですが、ずっと演技していたのなら、俺に連絡を入れることで、こうなることは分かっていたはずです」
「……ああ」
「それなのに、連絡したのは?」
「……何となく、簡単に言い逃れられると、思っていた。本当にカナトが攫われるところを見たのは偶然で―――攫った奴らの中に過去に関係した人が居たのは計算外だったが……。地下で声をかけられるまでまったく気付かなかったんだ。……ジンを呼んだ理由は、カナトがそうした方が安心するだろうと思って。俺が組織の連中を呼んで助け出すことは出来た、でもそれじゃぁ……カナトは別の所に誘拐されたも同然―――」
「プルートさん……?」
「……そうか」
ガーヴィンは頭を抱えた。
自分はもうすっかりカロンだとかそうじゃないとかそんな事など関係無く、ランカーのこのジンという人間に接していると言う事に気付いて。
「俺は……カロンだとかそんなのは……もう、どうでも良くなっていたのかも知れない。ばれても良いと、そう……。プロ失格だな……」
「……」
「どうする? ジン。俺は、カナトを危険な目に遭わせ、さらには偽りの情報で評議会に存在する人間だ。俺を……捕まえるか?」
「何事もなくて、きっと今回の一件がなければ、俺は迷わなかったと思います。だけど、あなた自身が悪意を持った上で今までの人物を手がけてきたとは思えなくて。俺自身、どうすれば良いか、分からなくなってしまった……。でもそれでも、貴方がカナトを助けてくれたことには変わりはなくて、俺の事を止めてくれたのも、あなた自身です」
「……ひとつ話を聴いた上で判断してほしい」
「?」
「俺は文字通りの犯罪者で、人を殺したこともあるし、騙したこともある。今、ジン達を騙しているように」
「……」
「そして、俺は未登録の冒険者だ……。これから先、俺の仕事に俺のことを知ってしまったジンが邪魔になるとわかったとき、俺はジンお前に―――お前を……殺さなければならないかもしれない……今日死んだ男のように……」
「……」
「もちろん、打ち明けたのは俺だ……。だから……組織がお前のことを目に付けた時は、全力で守る……。でも、どうしようもない時は……分かってくれるな? ……俺が死ぬか、お前が死ぬか、どちらかになると思う……。でも、俺は……俺は……もう、殺しは、したく……ない……んだ……」
ガーヴィンは自分の両手を見つめた。
何の汚れも付いていないはずなのに手のひらから赤い液体が次々に溢れ出て、手が染められていく様に感じられた。
「俺は殺されません」
「ジン……?」
「あなたは今、殺したくないと言った……なら、俺は殺されませんよ」
「……そう、だな……」
「名前を、聞いてもいいですか?」
「名前……?」
「カロンさんでもない、プルートでもない……あなた自身の名前を、聞かせてください」
「……俺の本名、名乗るのはいつ振りになるか……。名前は……ガーヴィンと言う」
「ガーヴィンさん……」
「……ああ」
「俺ももう、人は殺したくありません」
「ジンは大丈夫だろ……」
「なら、ガーヴィンさんが、人を殺そうとしたら、今度は俺が止める」
「そうか……ああ、ありがとう……」
ガーヴィンは全身の力が抜けたような気がした。
まっすぐに向けられるジンの瞳が酷く眩しく見えて、目がくらむ。
思わずその場に腰をかけて、1つ大きく息を吸い込む。
「……頼みごとがある」
「なんです?」
「この話は他言無用で頼みたい……。普段会っても俺のことはカロンと呼んでくれ……」
「組織の事情で?」
「……ああ」
「抜けることは……?」
「無理だ……。抜けようと思った、何度も……思ったが、無理だった……」
「……わかりました」
「ジン、こちらの世界には来るなよ……絶対に」
「あなたがそちら側にいる限り、俺が行くことはないです」
「それも、そうだな……」
「……そういえば、カロンさんって、俺のことどう思ってたんです?」
「唐突に何だ?」
「ちょっと、気になって……」
「友人だな……からかうと面白い、いい奴……」
「か、からかわれること前提……!?」
「じゃ、じゃあ、ガーヴィンさんでは?」
「……!? お、俺?」
ジンがうなづく
「……このような形ではなくどこかで友人として会えたらよかったと考えていた……」
「えっ、そ、そんなの当たり前じゃ……も、もう会ってるし……」
ジンがハッと気付いたように、隣に腰掛けた。
斜め下から顔をのぞき込まれて、ガーヴィンは焦った。
「でもそれって……、なんだかんだで楽しんでたってこと?」
ばつが悪く、ガーヴィンはまたそっぽを向いた。
「ああ、公私混合していたよ……だからこそ、ジンにばれてしまったのかもしれないな……」
突然、ガーヴィンのデバイスがけたたましく鳴り始めた。
見れば、そこにはホライゾンの名前が。
「悪い、もしもし」
『やぁ、カロン君。今大丈夫かな、話したいことがあるんだ、ギルド元宮まで来てくれないかな』
「大丈夫ですよ、行きます」
何となく嫌な予感がガーヴィンの中を駆け巡る。
「ちょっと呼ばれた、行ってくる」
「はい、今日はありがとうございました、カロンさん」
「いや、何、俺の方こそ」
「また本部で」
「ああ」
ガーヴィン―――カロンは、デバイスを握りしめると走り出した。






著:結城隆臣さん


ギルド元宮のホライゾンの執務室にカロンがやってきたのは太陽がそろそろ西に傾き始めるそんな頃合いだった。
ホライゾンの執務室は、こぢんまりとしていたが綺麗に整えられ、扉の正面やや奥の方にシンプルな木目調の大きなデスクと革張りのこちらも大きな椅子が置かれてあった。
椅子には柔らかいクッションが全体的に施されてあり、とても座り心地良い。
ホライゾンは、カロンに机の扉側に置かれた簡易な椅子に腰かけるよう促し、自分は革の椅子に腰掛けた。
「何ですか? 用って」
カロンが問う。
それは当たり前だった。
特に用件を伝えることなく呼んだのだから。
ホライゾンにはカロンに一つ確認しなければならないことがあった。
それの内容次第では、今後、彼の処遇を考えなければならない。
試してみるか……。
ホライゾンは言葉を発した。
「うん、急に呼び出してごめんね、『ガーヴィン』」
いつものカロンの軽い笑顔が一瞬強ばったように見えた。
「え?」
「うん……、急に呼び出してごめんね、ガーヴィン」
もう一度繰り返す。
「……」
答えはない。
ただ、ゆっくりと頭を垂れ、両手を膝の上で組んでいる。
やがて乾いた笑い声が聞こえた。
「は、はは……。やっぱりナンバー1の目は誤魔化せないっか……」
「……カロン君」
「確かに、俺はガーヴィンです……ホライゾン―――義兄さん」
カロン―――ガーヴィンが呟くように答えた。
ガーヴィンはホライゾンの妻であるペトルーシュの末の弟に当たる。
正直、しっかり顔を見合わせたのは結婚式の時だけで、外見だけでガーヴィンだと見抜くのは自信が無かった。
だが、彼と触れ合っていくうちに、身内にしか分からない事実からカロンがガーヴィンであるとホライゾンは推測していった。
今日は、それが事実であると確認するだけの予定だったが、何故か怒りがこみ上げてくる。
義弟が何故、偽名を使ってギルド本部にいるのか。
他人の振りをしてまで評議会に潜入する必要があるのだろうか?
どうして……?
聞きたいことは山ほどあった。
ホライゾンは感情を抑えるようにゆっくりと息を吸い込んだ。
「やっぱり、そうだったんだね……」
ガーヴィンがゆっくりと頷く。
「どうして分かったんですか?」
「そうだね、何となく薄々気付いていったんだ……。実はっきりとした確証はなくてね、ただ、いろんな可能性を切り貼りしていったら答えが出た。それだけだよ」
「そうですか……」
「いろいろ、聞いても良いのかな?」
「構わないですよ、さっきジンにも同じ事を聞かれてきたばかりです」
「ジン君か……最後にとらえた男を気にしていたから、何かあるなとは思っていたけど、なかなか話してくれなくてね、君に関係していたことだったのか……」
「はい」
「辛いかも知れないけど、正直に答えてくれるかな? 僕もこんな事を聞きたくはないけれど、君の処置をランカーとしても、隊を預かる大佐としても、決めなくてはならないからね」
ガーヴィンから返事はなかった、だがホライゾンは言葉を続けた。
「まず、君が偽名を名乗りランカーになった理由を……教えてくれないかな」
「俺は……、とある組織で工作員として働いていて、その組織からの指示で評議会に入りました。ランカーになったのは、純粋に功績が良かったから……じゃないでしょうか」
「とある組織と言うのは」
「言えません」
「そこでは主にどんな仕事を?」
「諜報、斥候、暗殺です」
「カロン君では評議会に登録しているようだけど、ガーヴィンはしていないの?」
「していません、未登録です」
「そうか……」
ホライゾンはガーヴィンを見つめた、気付いたのかパッと顔を上げたがすぐに視線を逸らされた。
「いつからその組織に……?」
「6歳位から」
「どうして入ることになったの?」
「DEMに両親を殺されて、アップタウンヘ避難してきた時に兄弟とはぐれて……拾われました」
「……ルーシュや、他の兄弟は君が組織にいることを知っているの?」
「知らないはずです。話したことはないですから……」
ホライゾンは席を立ち、ガーヴィンの隣まで移動した。
視線を合わせるようにかがみ込み、同じように机の向こうがを見る。
「今日、捕まえた男が1人死んだのは知っているよね?」
「はい」
「君は関わっている?」
「……はい」
「……君がやったの?」
「直接は……ただ、殺されるきっかけは作りました……」
「地下で君があの男と戦っていたのは知っていたけど、あの時何かあったんだね……?」
ガーヴィンが頷く。
「話してくれるかな」
ホライゾンはガーヴィンが話す言葉を一語一句逃さないよう気を付けた。
ガーヴィンの声はとても小さく、細く、とても弱々しく響いて、今にも消えてしまいそうだったからだ。
「そう言うことか……」
立ち上がりながら、ホライゾンはガーヴィンの頭を軽く叩いた。
「今回のこの連続アークタイタニア誘拐の件、君は得に関係していなかったのに、先日君と一対一で聴取した時、それなりに情報を掴んでいて驚いた。情報源を推測して考えると……君の組織が絡んでいそうだね?」
「はい」
「詳しくは聞かない、聞いても君は話してくれないだろう? 話せないと言った方が正しいか……」
「……はい」
「取りあえず、今回の件は急速に終息に向かっている。何かの力が働いているかのように、フシギとね……」
「……」
「分かった……。大体、どうしてこうなったのかは君の話しを聞いて推測が立った。終息に向かっている以上、これ何も言うまい。ガーヴィン、君の処遇も……君は罪を犯しているけれど、それが犯罪だと理解して後悔しているようだし、第一、未登録では逮捕は難しい。本人が認めていたとしても、確証出来る物的証拠がない。だから、当分君はこのままだ」
「……はい」
ガーヴィンは相変わらずうつむいたままだったが、肩が小刻みに揺れ始めていた。
一方は彼の墓穴でばれてしまった事とは言え、2度も話さなければならないのだ。
心中はどんなに荒れていることか……。
「組織は、やめられないの?」
「……やめられ、ません」
「どうして?」
「……言え、ません……。ホライゾン義兄さんも巻き込みたくない……」
「それは……僕もと言うのは、どう言う意味だ……?」
『しまった!』そんな雰囲気がガーヴィンから伝わって来る。
ホライゾンはガーヴィンの両肩を掴むと向きを無理矢理変えて対面させた。
顔をしっかりと見つめ、言葉を待つ。
「すみません、言えません!」
「ガーヴィン……!!」
「言えないんです……」
「どうしても……!?」
「言えません……!」
「わかった……いつか、話せる様になったら、教えて……」
「はい……」
ホライゾンは立ち上がると、机から書類を数枚取りだした。
「ガーヴィン、これ以上君の正体がランカーのみんなや、他の人に知られるのは不味いだろう? 何かあったら、僕が上手く話を付けるのを手伝う……。その代わり、僕の隊の下に付いて貰うけど、構わないね?」
「はい……構いません」
「これを本部の窓口に提出してきて、これで今日から君は僕の部下だ」
「分かりました」
「提出したら、帰って良いよ。疲れただろう……ゆっくり休んで。また連絡する」
ガーヴィンが書類を受け取ったのを確認してホライゾンは椅子に腰掛けた。
「あの……ホライゾン義兄さん」
「どうした?」
「このこと、姉には話さないで下さい……心配かけたくないので」
「心配かけたくないのなら、そう言う事はしないのが1番なんだけどね……。分かった、話さないでおくよ」
「ありがとうございます」
ガーヴィンが部屋を出て行くのを見送った後、ホライゾンは1つの手帳を取りだした。
それは彼が個人的に、最近起こった出来事を調査しているメモ帳の1つである。
そこにあらたな一文をメモすると、鍵のかかる引き出しの中にそれをしまい込み、厳重にロックした。


END


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本編 | 【2012-12-01(Sat) 00:00:00】 | Trackback:(0) | Comments:(0)
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