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(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

ジンがスランプになる話
出演:リゼロッテさん、カルネオルさん

ロケ地:マイマイ島

あらすじ
過去の夢を見てしまったジンは、調子を狂わされ得意の正射ができなくなってしまう。
憂鬱な気分になり、何もかもがうまくいかなくなってしまった中。
突然リセロッテが、訓練してやると家におしかけてきた。


 



赤い光が見えた。周りが暗く、光以外何も見えない。
徐々に目が慣れてきて、ゆっくりと浮かんできたのは、赤い光を揺らす民家。
鮮明になってくる視界の中で、認識できたのは炎だった。
燃えている民家。増えるも数秒で、炎が視界を覆い尽くして行く。
逃げなければいけないと、隙間を探したが、見当たらない。
路頭に迷い一歩下がると、突然後ろから、すすり泣く高い声が聞こえた。
ふり帰ると、青い髪のワンピースの少女が座り込んで泣いている。
昨日まで一緒に遊んでいた幼馴染だ。
こんな場所にいてはいけないと、声をかける為に前に出たが、突然少女の後ろへ大きな影が現れた。
巨人だ。
ガタイのいい男、汚れた服。
15歳の自分からみれば、その影は大きすぎて、壁にもみえる。
言葉が出ない。
だが、男は背中にある武器を取り出し、大きくそれを振り上げた。
下には少女がいる。幼馴染がいる。
だめだ。いけない。
止めなければと思う、だが体が動かない。
ゆっくりと振り上げられて行く武器に、ジンは息ができなくなる。
生汗がしたたり、振り下ろされた瞬間。

ピピっという高い音と共に、エミル・ガンナーのジンは、目を覚ました。
視界には見慣れた天井。明るい自室が広がり、いつも通りの風景がそこにある。
一瞬、ここがどこか分からなかった。
だが、上がっていた呼吸を整えると、徐々に整理もついてきて冷静になれる。
カナトの家だ。ここは相方に貰った自室で、自分はここへ居候をしている。
そこまで考えたところで、ようやくジンは夢について思い出すことができた。
治安維持部隊に加入したばかりの頃は、毎日のように見た夢。
幸い一年ほどで落ち着き、ここ数年はうなされることも無かったのに……。
ゆっくりと起き上がり、ジンは寝巻きで汗を拭う。
眠った気がしない上、落ち着かない。
再び横になって落ち着こうと思ったが、ぴよぴよぷぷぷと鳴き声が響き、目を空けた。
脇をみると、枕元に黄色い羽毛を持つコッココー。
つい先日、家にきたばかりのペットだった。
まだ名前もつけていないが、ユニオンミールを買ってきて一応育てている。

「……メシ?」

力なく聞くと、ぴよぴよぷぷぷと鳴いた。
ジンは仕方なく、床のユニオンミールの袋を開けて、小皿にそれを装う。
コッココーはもう一度、ぴよぴよぷぷぷと鳴くと、喜んでそれをつつき出した。
ペットにおこされてしまった為、ジンは普段通りに体を動かす、
先日、カルネオルに教わったバレットセイバーへ重点を置き、近接から、装填、発砲までを無駄なく動けるように考えた。
別のことを考えれば気分も晴れるかと思ったが、夢の事もあり、憂鬱で思い通りに動けない。
当然、射撃では的にも当たらず、植木に穴をあけてしまったため、ストレッチに切り替えた。
今日もまた一日フリーなので良かったものの、どんな顔でカナトと向き合えばいいのかと思う。

そんな気持ちで、失敗した目玉焼きを処理しようとした所。
ジンの部屋からコッココーが降りてきて、添えてあったレタスをつつく。
さっき食べたばかりなのに、よく食べるなぁと思ったが、
2時間区間のユニオンミールだったことも思い出した。
ぼーっとココッコーを眺め、一枚のレタスを食べ切ったところで、ジンはそっとココッコーへ触れた。
嫌がられるのではと思ったが、案外そうではなく、おとなしく撫でられてくれる。
外に連れ出せないのが残念だが、そのうち小屋でも作ってやるか……。
そう考え、最近登録した呟きツールを目を通していると、後ろから来客を知らせるベルが聞こえた。
まだ着替えていないので出られない。
大急ぎで自室に戻って着替えようとすると、机に忘れた"ナビゲーションデバイス"へ着信が入る。
仕方なく取りに戻って出ると、響いたのは女性の声だった。

「"はぁーい、ジン君? 起きてる? 起きてたわね!"」

聞き覚えのある声に、嫌な予感が走った。
治安維持部隊ギルドランク7th。イクスドミニオン・ホークアイのリゼロッテだ。

「"今アンタの家の前に居るの。開けて頂戴な"」
「"リゼさ……って、家の前!? マジっすか? ってなんで?"」
「"アンタ昨日、カルネ君に短剣について教わったんでしょう?
水臭いわねぇ~、ここにプロがいるんだから、わざわざ教えにきてあげたのよん!"」
「"え、そうなんすか? 嬉しいですけど……"」
「"でしょう? だから早く開けて!"」
「"ジンさん! 僕もいますよ!"」

ギルドランク10th。アークタイタニア・グラディエイターのカルネオルの声も聞こえる。
これはまずい。こんな格好で出られる訳がない。

「"ちょ、ちょっとまっ……今着替えるんで"」
「なんだ、あいてるじゃなーい」
「あ、ジンさん。起きたばっかりですか?」

おわった。

「あらやだ。以外と派手なのはいてるのね」
「ジンさんに合ってますよ!!」

どうして彼らは皆、こうも歯止めが聞かないのか。
いろんな意味で諦め、ジンは2人コーヒーを出したあと、自室に戻って着替えた。
憂鬱な気分が再び戻ってくる。

「元気なさそうね。何かあったのん?」
「……誰のせいっすか」
「ふふ、パンツ見られたぐらいで凹むなんて、女々しいわねぇ」
「別に凹んでなんか。呼んだ覚えもないし、突然来るなら言ってくれれば――」

そう口走り、はっとした。
ぱっと前をみると、キョトンとした顔で二人が此方をみている。
らしくなかったか、やはり今日は不調だ。

「ま、折角来たし、見てあげるわ。おねーさんの訓練は厳しいわよ」

そこから始まり、ジンはリゼロッテに渡されたゴム製のナイフを持ち向き合った。
普段は軽装で臨むジンだが、実戦を考慮して、ジャケットを羽織ったままリゼロッテへ向かっていく。
普段から軽装であるリゼロッテはジンの斬撃を軽くかわし、触れることすらできない。

「ほらほら、大振りになってたら読まれやすいわよ。坊や」

坊やといわれる年でもない。
イラついて動きがおおざっぱになっているのか。
冷静になるために、なるべく小さく動く、しかしそれでも当たらない。
そして目の前へリゼロッテが来たとき、ジンは思いっ切ってナイフを突き出すが、
あっけなくかわされてしまい、前にでた直後、足を引っかけられて倒されてしまった。
痛い……。

「大振りの攻撃っていうのは、入念な下準備をしたときくらいじゃないと、
同格、格上にはおろか格下にだって通用しないかもしれないわよ。
のびきった四肢は回収しなきゃ、次の行動に移れないから・・・、ん・・・?」

言い返せない。しかしそれでも、突然来ておいてどうなんだ。
迷惑とは思わないが、今日はどうしても調子が悪い。

「すみません……」

ストレスを抑え込むのに必死で、それ以上言葉が出なかった。
リゼロッテはどこか浮かない顔を浮かべるジンに気付き、きょとんとした表情を浮かべる。
ナイフを投げ捨て、座り込んでいるジンへ手を差し出してくれた。

「なにかあったの?」

聞かれた。答えるべきだろうか。
返答に困り、答えることもできず、ジンは一人で立ち上がる。
負けっぱなしは嫌だと思い、もう一度構えるが、上からカーテンを開ける音が聞こえて顔を上げた。
するとそこには、二階の窓から顔を出すアークタイタニア・ジョーカーのカナト。
時間を見直すと、まだ11時を回ったところだ。

「カナ、起きたのか?」
「……誰?」
「本部の関係者だよ」

ぼーっとした目でこちらを見下ろしている。
すぐ部屋に戻ったので、ジンは駆け足で自宅に戻った。
いつも通り昼食を作ってみたが、やっぱり失敗。
リゼロッテとカルネオルに作ったものも、茶色くコゲてしまったチャーハンを出した。

「……苦い」
「わりぃ……」

もくもくと食べるカナトの横で、意味深な表情を浮かべるリゼロッテとカルネオル。
ジンはそんな二人と目を合わせまいと、視線をそらし軽くため息をついた。どうしようか……。

「アンタ、いつもこんな調子なの?」
「カナトは……」
「カナト君じゃなくて、ジン君よ、ジン君。あんな動きで、今までやってきたの?」
「えっと……まぁ……」
「でも、ジンさん。昨日はすごく良かったですよ」

そんなカルネオルのフォローも今は重い、ただの一般人である自分に期待されても、
できる事なんてたかがしれているし、応える実力もない。
それなら、最初から何も求められないほうが、気持ち的には楽なのに、

隣に座るカナトは、失敗したチャーハンをもくもくと食べている。
美味しくない筈なのに、それでも食べてくれるのは、理解があるからなのだろうか、どちらにせよありがたかった。
そんなカナトの横で、自分のチャーハンも処理しようとした時、
向かいに座るリゼロッテが、此方をじっとジト目でにらみ付けていた。

「な、なんすか……リゼさん」
「アンタ、カロンと定期的に訓練してんでしょ?」
「してますけど……」
「それにしちゃ、動きが大雑把すぎて、危なっかしいわ」
「……不調なんですよ最近……。弾あてられねーし……」
「あら、スランプ?」
「そんな、大それたものでもないような……」
「心配ね」
「な、なにが……」
「ふぅん、仕方ないわね。少し荒療治だけど、鍛えてあげるわ」
「へ?」

リゼロッテが、一人で進める会話に嫌な予感を覚える。
この流れは、ろくな事がない。

「スランプは一日じゃ治らない。なら、治るまで面倒見てあげようじゃないの」
「え、えっとぉ……どういう…」
「そうね。三日間マイマイ島でサバイバルとかどうかしら?」
「リゼさん、冗談きつい……」
「あら、失礼ね。私は本気よ」
「無理ですよ。カナトがいるし……大体三日間もなにするんすか」
「私が徹底的に鍛えてあげるっていってんのよ。カナト君も一緒にね」

思わず視線を向けた。
両手でカップをもち、コーヒーをのむカナトは、話を聞いている気配がない。
カナトの体力の無さは、昨日カルネオルと、訓練したことで明るみになったが、いきなりサバイバルなどできるわけが無い。

「ねぇ、カナト君。三日間だけジン君をお借りしちゃだめかしら?」

まるでねだる様に尋ねるリゼロッテ、カナトはそれに動じた様子もなく、言葉の意味を考えた。
三日間借りる。ジンが、三日間帰って来ないと言うことか。
それは少し困る。主に食事的な意味で、しかしジンは不調で、まずい飯が続くのも困る。

「カナト?」
「私も、着いていって良いなら構わない」
「マジかよ……なんで?」
「飯がまずいのは、困る」

実に分かりやすい。

「分かりました……。でもここ出るの、昼頃でお願いしても良いっすか。
多分朝は、こいつ起きれないし……」
「……いいわ。明日の早朝6時には来るし、起こせるなら起こしましょう」
「カナト、起きれっか?」
「無理」

カナトのこの即答は正しく。
次の日は結局、昼過ぎまで起きられなかった。
三日間泊まると言うので、ある程度の食料をもち三人はマイマイ島へ向かう。

「目的は、マイマイ島のマザードラゴと奥にいるレラカムイの討伐よ。
マザードラゴは夜になれば出会えるけど、レラカムイは希少種だからね。
探すのに二日はかかるでしょう」
「マジっすか……」
「二匹とも倒すまで返さないから、カナト君も覚悟しときなさい」
「善処する……」

何が起こるかも予想がつかないが、マイマイ島は久しぶりだ。
以前リカルドに呼び出されてきた時は、急ぎだった上、夜だったので景色もまともに見られなかった。
外界から隔離されたこの島は、住んでいる人間も少数で、無人島にも近い。
騎士団が駐屯地構えはしているが、利用すると酷くぼったくられてしまうので、三日間はテントを貼って野宿だ。
島に上陸し、荷物を下ろす頃には夕方で、リゼロッテは一人、海を眺めて仁王立ちをしている。
こんなに男らしい女性もそうは居ないだろう。
カナトはカナトで、遠足気分なのか寝袋をいそいそと取り出していた。

「さぁジン君。やるわよ!」
「え、何を?」
「組手に決まってるでしょ! カナト君は、晩ご飯お願いね!」
「承知した」

楽しそうなのでいいか……。
そう思ってジンは、ジャケットを脱ぎ、砂浜でリゼロッテへ向かって行った。
足場の悪い砂浜は、直ぐにバランスを取られ踏み方を間違えると転びそうだ。

「遅い遅い。そんなもんじゃないでしょう!」

はじめの頃は女性だと思い、油断していた時期もあった。でもそれが、甘かった。
リゼロッテは冥界の元傭兵。つまり、実際の戦場を駆け抜け生き残ってきた張本人だ。
そんな彼女相手に、日々訓練だけでやっている自分が、どこまでやれるかという話で、勝率も当然、まだ一度も勝った事がない。
カロンも対外だが、彼は彼で体術が本職であるため、こちらも勝率はゼロだった。
そう考えると、上があり過ぎて……。

「動きにぶってるわよ!」

考えるのはやめよう。
自分を弱いと思えることに感謝して、勝ちたいと思える今に全力を尽くす。
超えるための目標があるなら、それを目指そうじゃないか。
そう気持ちを切り替え、ジンはリゼロッテへ再び向かって行った。

そうやって体を動かして行くうちに徐々に日が陰り、気がつけば空には星が輝いている。
ジンは、すでにジャケットとタートルネックを脱ぎ捨て、砂浜へ倒れ込んでいた。

「体力ないわねぇ……」

覗き込まれむっとする。
あるかないかといえばある方ではあると思のに、この人の基準はぶっとんでいると思う。
同じガンナーなのに、生い立ちの環境でここまで変わるものなのだろうか。
目を合わせず起き上がり、砂を払う、もう一戦頼もうと思ったが、砂浜の隅でカナトが何か作っているのが見えた。

「晩ご飯作ってくれてるみたいだし、テントはりましょ。
女の子には中々難しい作業なのよねん」

突っ込みたいがあとが怖い。
リゼロッテに貼り方を教わりつつ、ジンは誰でもテントを使って二つのテントを貼った。
思ったより難しい。一つ貼るのにも時間がかかり、全部貼り終わるころには、やはりヘトヘトになってしまっていた。
カナトはそんな様子を、鍋を混ぜながら眺め、ぐつぐつとなにか白いものを作っている。
手元には飯盒の説明書とか火の起こし方マニュアルがあり、リゼロッテは感心した。

「カナト君すごいじゃないっ、器用なのね!」
「ソロ時代が長かったもので、多少は、器具は初めて使います」
「これだけ使えれば十分よ! 隣に座っていい?」
「そ、それはどうかご勘弁を……」
「あら、残念……。所で何を作ってるの? この白いものはなにかしら?」
「だいこんです」

……。

「……なんでだいこん?」
「持ってきた」
「いや、それは分かるけど……」
「だいこんシチューなんて始めてだわ私」

どこから突っ込めばいいのか……。
リゼロッテも、流さず突っ込んで欲しかった。
そうしているうちに夜行性モンスター達が徐々に姿を表す。
ジンはいつでも出られるよう銃メンテナンスを行い、リゼロッテと弾の数を確認していた。
そうして大方の確認作業が終わりかけた時、ふとジンは肩に重みを感じる。
横で説明書を読んでいたカナトが、ゆっくりと横に倒れて来たのだ。

「眠い……」
「おいおい、まだ仕事できてないぜ……」

そう言われても眠いものは眠いか……。
10分ほどそうしたところで、カナトは結局寝てしまった。
寝袋で寝たかった癖に、これは骨が折れる。

「本当にすぐ寝ちゃうのね」
「……いつもよりは起きてた方だと思います」
「ふぅん。可愛い……」
「世話焼けますけどね……」

苦笑し、ジンはカナトを寝袋の上に寝かせ、黒マントを掛けてやり、更にジャケットを載せておいた。
夜の孤島は冷えるが、これで風邪は引かないだろう。

元の場所へ戻り、眠らないようコーヒーを口に含んでいると、
頬杖をついていた、リゼロッテがおもむろに、口を開いた。

「前の誕生日の日、覚えてる?」
「はい、でも俺、知らないうちに寝ちまったみたいで……あんときは色々ありがとうございました」
「なんだ、覚えてないのね」
「? なんすか?」

リゼロッテの微笑に思わず首を傾げる。
いつもの悪巧みの笑みとは違う、その微笑にジンは多少の不安を感じた。
そしてそれが、現実になる。

「ジン君。人を殺したことあるのね」

思わず、言葉を失った。
背筋が一瞬で冷えて、鼓動が高鳴る。声を出せない。

「なんで……」
「お酒飲んだ時に、口走ってたわよ」
「マジっすか……」

笑われた。
笑われるタイミングではない筈なのに、にっとするリゼロッテ。
だがそれは、すぐに溶けて、寂しくつらそうな笑みに変わる。

「……引きましたか?」
「うーん。あながち予想がついてたから、そんなに、ね。
なんとなく分かるっていうか。同属って同じ気配あるじゃない?」
「同じ気配? じゃあ、リゼさんも……」
「昔、戦場でね。生きる為になんでもやったわ……」
「なんでも……」
「えぇ、なんでも……」

繰り返す意味をジンは問いたくなかった。
怖くないと言えば嘘になる……。
戦場の過酷さなど平和なエミル界で育った自分に、理解できるわけがないのだから、

「人間、どこか一線を超えると別の生物みたいになっちゃってさ。
態度も、性格も、雰囲気も違うように思えちゃうのよね。
普通の人は何も感じないみたいになんだけど……」
「……」
「同族は、やっぱり惹かれ合うのかしら」
「でもリゼさんは、俺は人を殺せないって……」
「今はそうね。殺人をして殺人の重さを知っているのよ、貴方は……」
「……」
「辛かったんでしょう?」
「……はい」
「時々、思い出す?」
「最近は落ち着いて、でも昨日、夢に見ちまって……すこし」
「なるほどね。スランプな訳だわ」
「何もかもが一瞬で、普段は何があったのか、なにをしたのかすら、記憶が曖昧なのに、
夢ではそれが鮮明すぎて……武器を握る度に考え事を……」
「そう……」
「弱い自分を許したくはない、だけどそれでも、人を傷つけたくはない……。
守る為に選んだ武器は、何処までも無慈悲に生命を断つ、だから、多分また俺はいつか……」
「大丈夫だよ。いったでしょ、アンタに人は殺せない。あたしが保証する」
「……」
「だから今は、守りたいものをちゃんと守れるように、強くなりんさい」
「……はい」

頭を伏せてしまったジンを、リゼロッテは優しく撫でてくれる。
どうして彼らは、こんなにも暖かいのか。
ゆっくりと顔をあげ、目の前のリゼロッテを見たとき、彼女の視線が森へ向いている事に気づく。

「どうやら、お出ましみたいよ。明日の晩御飯は、マザードラゴの肉でもいいわね」
「ご、豪快っすね……」
「あら、この島では名物じゃない。香ばしくて美味しいわよ」

改めて言われると生々しい。
ジンは付近にいた騎士団員にカナトを見ていてくれるよう頼むと、リゼロッテと二人で銃を握り、森へ入った。
夜行性のモンスターがはびこり、森は不気味な雰囲気に支配されている。
所々に見える大きな影は、夜に活動を始めるワイルドドラゴ。分厚い皮が身を包んでおり銃で倒すのは至難の技だ。

「私たちが相手にするのは、あれのふた周りぐらいでかい奴だから、覚悟しときなさい」
「そ、それたおせるんすか?」
「私のハイロゥ、舐めんじゃないわよ」

人間相手じゃないのに、本当に大丈夫だろうか……。
ワイルドドラゴ達に見つからぬよう、二人は草むらに隠れつつターゲットを探した。
すると、森に入って一分ほど歩いた場所に、ワイルドドラゴより、更に巨大な影がぬっと姿を見せる。
マザードラゴだ。

「マザードラゴがいると、周りのワイルドドラゴ達が集落を襲うから、本部は月一で部隊を派遣して討伐してるらしいわ」
「へぇ~、騎士団がいるのにっすか?」
「騎士団の面倒な仕事をやるのが、うちらの役目でしょ」
「……そうでしたね」

軽くウィンクをして、リゼロッテが隣の木へとよじ登る。
何をするかと思ったが、腰に装着していたロープを取り出し、5mは離れた向かいの木の枝へ巻き付けた。
そうして固定されたことを確認すると、”ナビゲーションデバイス”の回線を開き、パーティー通信へと小声で話す。

「"そいじゃ、いっちょドンぱちやるし、援護射撃よろしくね"」
「リゼさん、そんなとこ登ってなにするんすか?」
「"あーら、ここまでやってもまだわかんないなんて、女子力がたりないわね"」

訳がわからない。だが、まさかと思い確認したかっただけだ。
そう言っている間に、リゼロッテは、片手でハイロゥを抱え、ロープの先の輪へ足を、腰はスイッチで外れる固定具を装着した。
そして、そのまま一気に飛び降りた直後。連射式ハイロウの砲塔を開く。
スガガガガと、金属のこすれる音と破裂音が響き渡り、大人しかったドラゴ達が咆哮を上げた。

しかし、リゼロッテは空中で振り子のように揺れており、ブランコのように様々な方向へ動くので、
ドラゴ達は届かないばかりか、目で追うことすらできていない。
リゼロッテはそんなドラゴ達を、片っ端から撃ち込み殲滅して行った。

えげづない狩り方だが、効率はいい。
ジンは銃の爆音が響き続ける中、スコープを覗き込み照準を定める。

「インパクト!」

強烈な反動が全身へきた。
狙いマザードラゴ正面額だが、狙いは大きくそれ、脇に居たワイルドドラゴを吹っ飛ばす。
舌打ち。やはり当たらない。
即座に次弾装填を行い、2発。3発と打ち込むもどれも外れ、かすった程度だ。
焦りがにじむ、何をやっているんだ。

「"落ち着きなさいジン君。当てる事だけを考えて……"」

言われなくたって分かる。
おちつけ、おちつけっ、おちつけ!

揺れる照準やはりいつも以上に安定せず、当たる気がしない。
しかし、それでも当ててこそのガンナーだ。当たらなければ意味がないのだから、
不安定なリズムで、連射を続けるジン。
リゼロッテは一瞬射撃をやめ、隣の木へと乗り移ると、マザードラゴヘ集まってきた、ワイルドドラゴ達へ狙いを定める。
そして、「ふふっ」と鼻で笑うと、軍用ポーチから楕円型のものを取り出した。
手榴弾だ。ジンとの距離は十分。ここなら影響はないと判断。
刺さっている安全ピンを口で抜き、スイッチをいれて投げ込んだ。

ぱぁん。
と強烈な破裂音が響き、ジンが爆圧に耳を塞ぐ。
危ない。

「くらいな!!」

銃が構えられる。狙いは周辺のワイルドドラゴ達だ。
こいつらを殲滅できれば、邪魔者も消える、だから一気に片付ける。

「テンペスト!!」

そう叫ばれ、ジンが反射的に後退。木陰へと隠れた。
その直後に、鉄の弾丸がドラゴたちの群れへ降り注ぐ。

「Shock!!」

破砕。降り注いだ弾丸の一発一発が粉砕し、島の地面をひどくえぐりこむ。
土埃が吹き荒れ、一分ほど立ったのち、木陰から這い出して再びハイロゥを構えた。
無茶をする。巻こまれたら八つ裂きになっていただろう。
リゼロッテは満足したのか、再びロープへ捕まり、上からマザードラゴヘ射撃する。

そうして引きつけてもらっているうちに、ジンも”精密射撃”を唱え、慎重に狙いを定める。
もう外したくはないが、高鳴ってくる鼓動は自分では抑えることができず、指先に迷いを得た。
ようやく命中したのは、尻尾の付け根。急所でも何でもない。
それでもなぜかホッとしてしまった自分がいて、情けなさにため息が落ちた。

「"ジン君! いったん下がりなさい!"」
「"こんな状況で、下がれるわけないじゃないっすか!"」
「"こっちの弾が切れんのよ!!"」

つまり囮がいなくなるということか。
リゼロッテの射撃が無くなれば、当然敵はこちらに来る。
しかしジンは、それでも射撃を辞めたくなかった。当てられないなんて、ガンナー失格じゃ無いか。

「ジン……」

生の声に思わず身が震えた。
銃を抜きかけたが、聞き覚えのある声だったので振り返ると、眠そうな目で、フードを被るカナトが居る。

「カナ、馬鹿、隠れてろ!」

こっちはかまっている余裕がない。もう一分もないうちにリゼロッテの弾が切れ、此方へ敵がくる。
そうなればカナトも巻添えだ。

「くっそっ、あっちいけ!!」

あとで謝るから、いまは自分から離れて欲しい。
でないとプレッシャーで潰れてしまいそうだ。
ようやく、マザードラゴの後頭部へ二発目の弾丸が命中したが、威力が足りず貫通まではいかない。
がむしゃらに撃ち込み、外した直後。
リゼロッテが、ロープから草むらへと消えた。弾がきれたのだ。
そして、思わず引いてしまったもう一発の弾丸で、マザードラゴが此方へと振り返る。

当ててやる。
すでに意地だった。
おちつけおちつけおちつけ。

草むらではリゼロッテが即座に弾倉を装填。
飛び出して、撃ち続けるがターゲットはジンのまま変わらず、此方へと突っ込んでくる。
スコープへどんどん近づいて行く敵に、ジンが一瞬諦めの感情を覚えた直後。
ハイロゥのボディへ、カナトが手を添えてきた。

「"スタイルチェンジ・アーチャー"、"神の守護"……」
「!?」
「撃て、当てろ……ジン」

その一瞬で、ジンが”インパクトショット”を唱え、撃った。
正確な照準で定められた弾丸は、まっすぐな軌道を得て、マザードラゴのひたい中央から後頭部へ突き抜ける。
またその強烈な威力から、体ごと後方へと吹っ飛ばした。
何百キロという巨体がマイマイの地を叩き、地響きを立てて静寂を取り戻す。

ジンは、あまりの緊張から、しばらくその場から動けなくなってしまった。
呼吸のみがこだまし、肩のみが上下している。

「ジン?」

名前をよばれようやく正気に戻った。後ろには、眠そうな目で膝を立てるカナトがいる。

「わり……ちょっと動転してた」
「?」
「サンキュー、助かった……」
「ならいい……」
「この、馬鹿!! なんて、無茶するのよ! 自分の立場わかってる!?」
「リ、りぜさ……」
「もう、あったまきた。あんた一週間はここに隔離して、徹底的に鍛えてやるわ!! 覚悟しときなさい!」

思いっきり頬殴られ、吹っ飛ばされた。
しかし、確かに下手をすれば死んでいたかもしれない。

「というか、カナ。お前寝てたんじゃ……」
「……誰かに見られている気がしたので、探しにきた」

騎士団員か。
行く場所もなくパーティーの所在地を見ながら、こちらにきたのだろう。

「ともかく、助かった。ありがとな」

そう、にっと笑っていると、後ろからリゼロッテ締められた。
もう数十分もすれば、日付も変わるし、おそらくカナトは限界だろう。
テントの場所まで戻り、カナトは、寝袋にくるまって寝てしまった。

次の日は、早朝の朝五時ごろから、リゼロッテに叩き起こされ、
マイマイ島の海岸10週とか、筋トレ各種30回5セットとか、
散々なメニューをカナトが起きるまでやらされた後、リゼロッテに信託の風穴へと、連れてこられた。

この場所は、マイマイ島の管理を行うトンカから、自然保護区に指定されており、
去年までは立ち入り禁止区域とされてきた場所でもある。
しかし、観光事業と銘打ち開放されたため、二人は始めてこの場所へきた。

一面に緑の壁が広がり、カナトが興味津々にあちこち飛び回っている。
しかし、ジンは一人数歩歩くたびに膝を抱え、足をガクガクさせていた。

「だらしないわよ。ジン君」
「俺、さっき何キロ走ったと……」
「たった十周でしょ!! それと屈伸100回」
「150回ですよ! 殺す気っすか!?」
「ふふ、一回死なないと体力はつかないもんよ。毎日1.5倍していくから、覚悟しなさい」
「な"………」

本気の微笑み思わず硬直した。
スキップしながら距離を取る彼女とカナトを痛む足で追いかけようとした時。踏み込んだ場所の床が突然抜けた。
そしてまるで吸い込まれるように、地下へと落ちて行く。

「うわああぁぁあぁ…………」

遠のいて行く声が虚しい。吹き出したのはリゼロッテだ。
彼女は大声で笑うと、面白がって穴へと飛び込んで行く。
羽で風を受け綺麗に着地した彼女は、草まみれになって動けないジンを更に指をさして笑った。

「ばーかばーか、引っかかった。ジン君ドジー! ぷっぶー」
「だぁああ、もう何歳っすか、リゼさん!!」

今日のジンは、いつも以上に元気だなぁとカナトは思った。
その後、まともに歩けないジンを連れ、その日の散策は終えた。
海水で足を休ませるジンを尻目に、カナトが最後の缶詰とマザードラゴのジューシー肉で夕飯を作る。
リゼロッテとしては、戻ってから組手をやりたかったらしいが、まともに歩けないジンをみて、渋々釣竿を渡された。
これで明日の昼ご飯を確保しろということらしい。

「一応レラカムイの討伐にきたんだから、明日はちゃんと探しなさいよ!」
「誰のせいっすか!!」
「体力のないジン君」

即答に、言葉もない。
そうして彼女と二人で釣りをしていたが、ジンは結局釣れず、
リゼロッテのみが、タコを釣り上げ明日の昼ご飯が決まった。
その後ジンとカナトは生まれて始めて、ジューシーな燻製肉を口へ運ぶ。
ある意味、予想以上の美味で誰もしゃべらなくなってしまった。
マイマイ島にきて、三日目の朝。この日もカナトが起きてくるまで散々動き、午後からがマラソン。
カナトも軽装になって参加することになったが、普段飛んでいるせいか、砂浜をまともに走れず、さんざん転び、
一周でダウンしてしまったので、見かねたリゼロッテは、仕方なくストレッチに切り替えた。
それでも硬い。
いたそうに声を上げるカナトをマラソンで通りかかる度に眺めるも、
気がつけば何週目か分からなくなり、彼女に聞くと、

「あ、私もわすれたちゃったし、時間あるからもう12週ぐらいでいいわよ」

こんな感じで増えるので、次の日からは自分で印をつけることにした。
三日目の散策で、ジンは普通に歩けるものの、筋を伸ばされて全身がビリビリするカナトを前衛にして行ったものだから、
前としての役割が果たせず、虫に噛まれてかゆみと戦ったり、人間の三倍はある巨大な敵とも遭遇したりもしたが、
油断して踏み込んだ場所が、またも落とし穴で、三人はその日も奥までたどり着けずテントまで戻ってきた。
午前はひたすら体を動かし、午後は奥地の探索で、三日滞在して居たが、
四日目になったところで、月光花に帰って来いとせがまれたので、
リゼロッテがもう一日伸ばし五日目の夜にようやく帰宅することとなる。

「残念ねぇ~。あと二日ぐらいいてもいいと思ったんだけど」

正直勘弁して欲しい。毎日体力が限界で、全身が痛い。
そのうち動かなくなりそうだ。

「じゃあ私はご飯探してくるし、ジン君は島15周。カナト君は素振り100回3セットね」

適当に言っているとしか思えないのに、抗議すると増えるので二人とも文句も言えなくなっていた。
そうしてノルマを終えて、その日も散策のために、信託の風穴へと入る。
数日きてわかったことは、まさに大自然が作り出した迷路だ。
地下は歩いていれば出口へつくが、上層は迷路。
それも落とし穴があり、時々無理やり外へ追い出されてしまう。
これはまるで、精霊たちが人間の立ち入りを拒んでいるようにも感じた。

「本当、不思議な場所よね」
「なんなんでしょうねここ……」
「マイマイの先住民たちが崇めた精霊たちの住処だ。霊的なものが居てもおかしくない」
「なんだよそれ、きもちわりぃ……」
「あーら? ジン君お化け怖いの? かわいいー」
「別に怖くないっすけど、そういうのあんま信じないってか不気味ってか……」

説明に困る表現だなぁと思った時、突然後ろから突風のようなものが、3人を一気に通り過ぎた。
カナトは翼の所為で若干浮き数メートル飛ばされる。

「なんだ?」

リゼロッテが「おっ」と声をあげてかけ出した。
ジンとカナトも大急ぎで後を追う。
リゼロッテが飛んだ場所は、大体落とし穴があるので、気をつけ慎重に進んだ。
そして大きな広場へと出たと思った時。
先ほどの突風が竜巻をつくり一匹の精霊へと姿を変えた。
青い犬のような顔を見る風神。レラカムイだ。

「来たわよ!」

即座に武器を抜いた。
カナトが飛び出し、スキルを唱える。
初撃からスキル"ジョーカー"を唱えたが、殴りかかろうとした時。
突然起きた風圧に、カナトが一気に吹っ飛ばされた。

「カナっ!!」

即座に装填。リゼロッテが弾幕を貼ろうとするも風の精霊は実態がなく、弾丸が着き抜けて壁に命中。
言葉を失った。

「どうやってたおせってのよ!」
「俺が知ってるわけないじゃないっすか!!」

そう言っているうちにレラカムイが動く。
攻撃がくるかと思ったが、風が渦を巻いて溶けるように散った。
その場には何も残らず、二人が呆然と立ち尽くす。

「あれ……」
「消えた?」

吹き飛ばされたカナトも、大急ぎで戻ってきたが、すでにレラカムイの姿はなく。
硬直している二人に首を傾げるだけだった。
出会うことはできたが、討伐ができなかったことに三人ががっかりした気分で、テントへと戻ってくる。
特にリゼロッテは自分の武器が聞かなかったことに納得が行かないのか。
ムッとむくれて頬杖をついている。
トレーニングを忘れているのかと思い、安心して釣りでもするかと思ったが、
ジンが前を通ると突然殴りかかってきて、カナト抜きの組手をして一日が終わった。

「あぁー。せっかく会えたのになぁ」
「レラカムイの討伐って、本部のですよね。このまま帰って大丈夫っすか?」
「本部? なんのこと?」
「え……」
「本部の任務はマザードラゴだけだけど?」
「は? え、じゃあレラカムイって……」
「あいつの氏族にさ、マリオネット・フウジンっていうのがいるのよ。そいつが欲しくってね」
「おもいっきり私事じゃないっすか!」
「ついでよついで、でも滅多に会えないっていうし、今回は諦めるわー」

言葉が出ない。いろんな意味で脱力してがっくりとする。
明日は帰れるし、もう振り回されることもなくなるか。

「あ、帰るのは明日の夜だからね。今日できなかった分きっちり取り戻すし、
覚悟しときなさいよー」

忘れてなかったのか。
ニコニコと楽しそうに笑う彼女を、かつてここまで恐ろしいと思ったことはない。
そうして次の日は、朝四時半に起こされ、ジンは早朝からマラソンと筋トレ。
カナトが起きるまでは組手と、短剣で動いた。
お昼になって起きてくると、ジンはマラソン二回目でカナトが転びながら二周走った。
リゼロッテは一度、カナトとジンで組手をさせて見たが、カナトは全く反応できず、
すぐに腕を掴まれジンに投げられたので、若干の不安すらも覚える。

そうして日がくれるまで動き回り、荷物を持つ二人は、既に返答する気力もない。
下手に反抗すれば、もっと酷い目に会うと分かったので文句すら言えなくなっていた。
うつむいてしまっている二人に対し、リゼロッテは強引に肩を組む。

「よくがんばりました! おいしいものを食べて帰りましょう!」
「リゼさ……」
「うわぁああああああ!!」
「あら、意外と元気なのね」

尻もちをついたカナトをみて、リゼロッテの怪しい笑顔に青ざめたが、流石に許してもらえたのか。
トンカとマイマイ島を結ぶ夜の定期便で、二人はゆっくりと眠らせてもらえた。
しかし案の定カナトが起きなくなり、夕飯はお預け、後日3人で行こうと言う事でまとまった。
ふらふらになり、自宅についたころにはすでに日付が変わっていた。

「リゼさん。今回はありがとうございました……」
「疲れすぎよ。ジン君。慣れないのは分かるけど、あれぐらい楽にこなしてもらわないと、」
「お、おれガンナーっすよ!?」
「ガンナーがなによ? レジスタンスにいたときなんて、あれの倍以上の訓練やらされてたんだから」
「そ、そうっすか……」

疲れすぎて言い返す気力もない。
がっくりと肩を落としていると、「ふふっ」っとうれしそうな声が聞こえて、頭をぐしゃぐしゃになでられた。

「スランプ、なおってよかたわね」

はっとした。走ることや筋トレに夢中ですっかり忘れていた。
想えばすでに四日目の段階で、調子は完全に戻り、マイマイの奥地で遭遇した敵には確実に弾も当てられていた。
あまりにも当たり前で違和感がなく、気にも留めなかったのに、

「思い込みって結構くるもんだからね……。またなんかあったら言いなさいな」

ただの考えすぎだったのか。
言われれば確かに、余計な事ばかり考えて、集中できていなかったきもする。
集中力と平常心、これが正射にもっとも重要なものだ。

「ありがとうございました」
「守りたいものを、きっちり守れるようになりなさい!!」

後ろ手に手を振り、リゼロッテが帰路に就く。
ジンは彼女が帰宅した後、夕食も取らず死んだように眠ったが、その裏で彼女は一人。
深夜の街を歩いた。ファーイーストの屋敷からもらった、ちょっとした休暇。
有意義に過ごせて満足だったが、六日前、彼らの自宅に訪れた時から、妙な気配を感じる。
その気配は、マイマイ島にもついてきてずっと自分たちを監視していた。
ジンを見ているのかとおもったが、そうではなく。
カナトを置いて森へ入るとその気配は消えて、カナトが現れると再び感じた。
ジンも気づくかと思ったが、性格的に一点集中タイプで周囲の気配には鈍感らしい。
カナトは逆に周辺察知に優れているが、一点集中が苦手なタイプだ。
「見られている気がする」といったのも、おそらく気配に感づいたから、周辺察知に敏感な人間は基本的に孤独を拒む傾向があるので、
「探しに来た」という言葉を、リゼロッテは「寂しかった」と受け取り、彼女はある意味この性格に安堵した。
一人の時間が長いと、何をされていたかわからない。そんな危惧を覚えるほど、感じた気配は邪悪だった。
その為、彼らと別れた後、一発喝を入れてやろうとは思ったが、家に入り電気が消えたことを確認すると、その気配は霧のように消えてなくなり結局何もできずとり逃してしまう。
ただのストーカーならまだいい。そうであってほしいと願う。
しかし心配はぬぐえない。そのためにリゼロッテはジンを徹底的に鍛えてやったのだ。

「守りたいものを守れるようにか……」

そう、一人でぼやき、リゼロッテは深夜の街へと消える。

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本編 | 【2012-11-14(Wed) 18:00:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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