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裏切りの背徳者:第三話 始動
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連載企画:詠羅と結城隆臣さんとのリレーシナリオ

前回
裏切りの背徳者:第一話 胎動
裏切りの背徳者:第二話 苦悩

第三話 始動


 著:詠羅

どんっ
と言う爆発音と共に、発砲された弾丸は、木に吊るされている、紋章紙の中央を突き抜けた。
タイタニア・ジョーカーのカナトの自宅。
ここに居候するジンは、日課で射撃訓練を行っているが、今日は二回目だった。

再び太い銃声が響く、ギルドランク5th以上の人間に配布される武器、烈神銃・サラマンドラは、
短銃であるにも関わらず、スキルによっては対物ライフル並みの威力を出せる為、発砲するたびに銃とは思えない爆音を響かせる。
片手で撃つ事ができるのは、自動装填のギミック部分に魔法石が埋め込まれており、発砲時の反動を吸収してくれているからだ。
また、次弾発砲時に、吸収した反動を上乗せして発砲するため、
この銃の本領発揮は二発目から、通常発砲での殺傷能力は低いが致命傷を与えるだけなら十分だ。

そう考えたところで、ジンは我に帰った。
人外戦をメインで生活を始めたのに、未だ対人の考えは抜け切らない。
危機管理ができない不安もあるが、危険だとも思う。

そうして、爆音を立てて毎朝訓練をしているのに、相方のカナトは、そんな音で起きるほど安易ではなかった。
時刻は12時前。そろそろ起きてくる時間だ。
普段なら、朝の七時前後にやる訓練だが、本日は二回目。
先日、リカルドからきいた忠告が、あまりに現実味を帯びていて不安になったのが大きい。

カナトが狙われている。

アークタイタニアが攫われる事件は、昔からあったものだ。
それでこそジンの故郷が例でもあり、予想していたことでもある。
だが、ここ最近それは公になり始めたのは何故だ。
話を聞くと、アークタイタニアの男性ばかりが狙われている。
もしも、ジョーカーであるカナトが攫われてしまえば、助けることもできない。
カナトは危険だ。
苦い記憶だが、以前イーストダンジョンで、守り切れなかった記憶がよぎる。
もう、失いたくはない。

そう思い、ジンが軽装でリビングへと戻ると、丁度自室からカナトが出てきたところだった。
彼は虚ろな目で"ナビゲーションデバイス”の時刻を見せつけてくる。

「10分早く起きた」
「お、おう。がんばってんじゃん」

満足したらしい。
不安定な飛び方で机に座ろうとするカナトへ、いつも通りのコーヒーをいれた。
ジンは苦手だが、カナトはお気に入りらしい。
コーヒーメーカーは、カナトと始めて会った頃からあり、掃除をした時に引っ張り出したものだ。
苦いものが好きなら、甘いものは苦手なのかと思ったが、あながちそうはなく。
暇な時にクッキーも焼いて食べているので疑問におもったが、聞いてみると一緒に食べるのがいいらしい。

「……何?」
「なんでそんな苦いもの飲めんだ?」
「慣れだ。目が覚めるからな」

思いの外、具体的な返答が帰ってきて返答に困った。
カナトのために簡単なお昼を作って、二人は向かい合わせに昼食を取る。
本音を言うと酒場へ食べに行きたいが、カナトがこんな状態なので仕方が無い。
最近は上達してきて、レパートリーも増えてきた。
食が進み、徐々に目が覚めてきているカナトへジンが口を開く。

「前の、イーストダンジョンのこと覚えてっか?」
「……だいこん?」
「そっちじゃなくて……」

一瞬、目が輝いて続けるのを迷ってしまった。
カナトがつくった大根料理は、確かにびっくりするぐらい美味だったが、

「アークタイタニアが狙われてる……」
「……」
「昨日、リカがわざわざ警告にきてくれたんだ」
「リカルド殿が……」
「あぁ、」

言いたくないと思った。
情けないともおもう。だが、プライドなんてどうでもいい。

「カナト、連盟に加入して本部の保護をうけよう」
「いやだ」

……。

「なんで……ってか即答かよ」
「貴様こそどうした。らしくない……」

思いも寄らない返答だが、予想できたことでもある。
らしくないとも言われ、その通りだとも思った。

「たしかに、俺らしくないかもしれねぇけど……」
「……」
「心配なんだ……前に俺は、何もできなかった」
「……あまり、覚えていない」
「眠らされてたもんな……でもあの後、本部の仲間がこなかったら、どうなってたか想像もつかない。だから」
「加入したくない」
「なんでだよ」
「父が運営管理の役職を持っている……だから、父の手は借りたくはない」
「でも、カナ。俺は……」
「貴様こそ、普段から散々評議会を卑下にしている癖に、何様だ」
「……!」
「情けない……。特別な思いなどないのでは無かったのか?」
「そうだけど……俺のことはどうでもいいんだ。カナ。俺はお前を守りたい、それだけだ」
「たかが一度や二度やられたぐらいで、そうやってへたれこむ貴様の神経を疑う」
「……何を言われたってかまわねぇ。
情けないことだって分かってるよ……俺だって頼りたくないさ。でも……俺じゃあ」
「……話にならん」

カナトとここまでかみ合わない会話をしたのは初めてだ。
しかし、引くわけには行かない。ここで引いたら、いつか必ず後悔する。

「もしなんかあったら、お前はどうすんだよ……。攫われて、なにされてもいいってか?」
「どうもしない。運命は受け入れるが、足掻くだけだ」
「甘すぎるんだよ。その考えが……どうにもならないことだって、あるんだ」
「……貴様に言われたくない」
「殺されてもいいっていうのかよ……」
「……それが運命ならば」

そう言った瞬間、ジンが音を立てて立ち上がる。自身で地雷を用意したことは分かっている。
でもそれを、まるで躊躇わず答えた事が、ジンにとっては許せなかった。
音を立てたことに、カナトは少し驚いたようだったが、すぐ冷静になり口を開く。

「本部の馴れ合いが、そんなにも楽しいか、ジン」

この言葉にジンが動いた。拳を握り、カナトへと突き出す。
しかし途端強張った彼に、ジンは直前で止めた。
初めてあった時は、微動だにしなかったのに……。

何も起こらないことに、カナトはうっすら目を開ける。
ゆっくりと降ろされる拳に、おどおどとしながらも、カナトはこちらを見ていた。
少し、冷静になりたい。

「悪い……。ちょっとでてくる」

そう言って、ジンはホルスターを掴みリビングの出口へ向かった。
すると、突然扉の方から開き「はーい」と明るい声が響く、

「ゲッカちゃんきたよー! ってジン。どこいくの?」
「散歩」

そう言って、目も合わせずに出て行ってしまった。
キョトンとする月光花の前で、カナトが掌にひたいを乗せる。

「カナト君どうしたの!? 大丈夫!?」
「いえ、なんでもありません……」
「顔色悪いよ……?」
「……」

素直に感じた恐怖に、カナトは悔しくなった。
何度か見たことがある瞳、対人の時にだけ見せる容赦の無い視線。
自分に向けられることなど、考えた事が無かった。

「ジンに何かされた?」
「いえ、特には……」
「うーん。何かされたら言ってね。私がとっちめるから!」

何故だろう。驚くほど頼もしい。
相変わらず、突然現れた月光花は、聖堂管理協議会の休日らしく、暇になったので遊びに来たということだった。
お昼がまだだったらしく、ジンが多めに作って置いた昼食を装う。

「イーストにいた頃は、料理なんて全くできなかったのに、練習したわねー」
「そうだったのですか」
「うんうん。カナト君と住み始めて、なんか一人で勉強してたみたい。暇だからって」
「料理を?」
「うん、わたしは、好きなものを食べればいいじゃない? って言ったのだけど、
偏るって言って聞かなくって、本部の人によく相談相手になってもらってたみたい」
「……」
「聞いてくれれば、わたしもアドバイスしたのになぁ……」

月光花の言葉はさておき、知らなかったことに罪悪感を得る。
何も考えず食べていたのに、ちゃんと考えてくれていたのか。
美味しそうに昼食を食べる月光花をみつつ、カナトが食器を片付けようとした所、突然、来客を知らせるベルが鳴った。
食器を片付け、大急ぎで出たが、そこに人の姿はなく、ユーラシアトランクのみが置き去りにされている。
忘れ物か。

「月光花さん。すこし待っていて貰えますか?」
「いいけど、どうしたの?」
「忘れ物がありました、下を見てきます」
「そっか、すぐ戻ってきてね! 寂しいから」

そう言われ安心した気分で、カナトは庭を降りた。
まだそう遠くへ行って居ない筈だ。
用事があったなら、必ずもう一度くるだろうし、忘れ物にも気付くだろう。

庭を降り周辺を見回すと、路地へ入って行く人影を確認し、カナトはその後を追った。
ちらちらと覗ける人影に誘われるよう、カナトは奥へ奥へと入って行く。
そうして行き止まりに当たった時、人影はようやく立ち止まった。

「貴方ですか? これが置き去りにされていたのですが……」
「おや、わざわざありがとうございます」
「いえ、私の自宅でしたが、なにかご用でしょうか……」

「はい。お会いできて光栄です。カナトさん」
「何故、私の名前を?」

そう発言した直後、何十人もの視線がこちらを向いていることに気づき、ぞっとした。
ひと気のない路地裏。姿は見えないが、みんなこちらを見ている。
クローキングか。
目の前には人間が一人。不敵な笑みを浮かべ気分が悪い。
そう思った直後、突然ユーラシアトランクが膨らみ破裂した。
白い煙が充満し、カナトは床を蹴って飛び立とうとするが、足が浮いた直後。
突然、紐を足首に絡みつけられ、空中にてバランスを崩されてしまった。
途端に制御を失い、カナトはうつ伏せになって床へと叩きつけられる。

そのまま、頭を押さえつけられ、腕を後ろに回された。

「アークタイタニア・ジョーカーのカナトさん。迎えに来ました」

意味がわからない。
強い力で押さえつけられ、呼吸しかできない。
うっすらと見える敵のブーツはボロボロで、よくみればコートも安物だった。

「放せ……」

そう発言した直後。首元にひんやりとしたものが押し付けられ、カナトは同じ感覚を思い出す。
以前、イーストダンジョンで、メイオウから引き摺り降ろされた後に感じたもの。
一瞬の痛みから、急激に眠気がきた。

「ジョーカーであって、ありがとうございます」

その瞬間、首元に痛みが走り、カナトの全身から力が抜けた。
遠退いていく意識に、抵抗しようとしたが、敵うわけがない。
だから、これだけは願った。
悪かったと、言い過ぎてしまったと……。

すまない……。ジン





もういくつ拠点を潰しただろうか。
最初は数えていたが、いつの間にか数える気力もなくなり、イクスドミニオン・イレイザーのガーヴィンはため息をついた。
職服は血でよごれ、既に乾燥してしまっている。応急処置はしたが、痛みは残っておりこのまま動くのは危険だろう。

ようやく4割といったところだろうか。
どちらにしろ、この怪我では万が一のことがあるため、ガーヴィンは、一度カロンとして本部へと足を運ぶことにした。
アクロポリスの検問をすり抜け、クローキングのまま本部へと向かう。
途中、カナトの自宅がみえて足を止めた。
見に行くべきだろうかと考えたとき、突然扉が開きタイタニアが姿を見せる。
カナトだ。
無事である事に安心感を覚え、ほっと肩をなでおろしたが、
武器も持たず放置されたカバンだけを持ち、カナトは庭を降りる。

ジンはどこへ行ったのか。
不安を煽られ、ガーヴィンはカナトに気配を悟られぬよう、十分に距離をとりながらあとを追った。
そうして追うたびに、どんどん人気のない場所へとカナトが連れ込まれていく。
やがてその危惧は、序々に現実味を増していき、突き当りに差し掛かったところで、ガーヴィンは、自分が最も恐れていた自体と遭遇する。
足をとられ、地面に押さえつけられたカナトは、見事な手際で麻酔銃を打ち込まれた。
そのまま後ろ手に手錠をかけられ、呼び出された飛空庭に連れ込まれる。

飛び込みたい。だが、このケガではあの人数を相手にはできない。
そう感じることができたのは、長年の経験とあの集団から感じた、どこか懐かしい気配。
巨大なブーストが装着された庭は、ゆっくりと方向転換を行い東方面へと動き出す。
ガーヴィンは、大急ぎで元宮周辺にある駐輪場へ向かい、サイドカーバイクにまたがった。
急げ。
そう心に念じ、彼は東方面へむけてアクセルを踏み込む。




アクロポリス中央噴水広場。
この場所のベンチで、ぼーっと空を見上げるジンは、賑やかな広場で、ひとり浮いた表情を浮かべていた。
真っ青な青空、今日は晴天、雨が降る気配もない。
いくら考えても、心境はひどく複雑だ。
最善の考えで答えを出して、プライドを捨ててカナトに話したのに、
等の本人はそんな気持ちを知る由もなく、皮肉まで言われてしまった。
それが、ジンの本心に気づいていたからなのか。それとも、ただの嫉妬なのかはわからない。
カナトならどちらでもありえるばかりか、ジンが考えつかないことを考えているのかもしれない。
それほどまでに、ジンとカナトの思考回路には差がある。

そこまで思い、ジンはいろいろ考えても仕方がないとおもった。
効力はなかったとしても、ランカーであるジンが横についていれば、多少の牽制にもなる。
烈神銃・サラマンドラを、敢えて隠さず、見えるような位置に持てば、連中もおそらく自制はしてくれるだろう。
そう思い、ジンはポケットに手をつっこみ立ち上がった。
殴ろうとしてしまったし、なんて謝ろうか。
情けないなぁと思い、もう一度空を見上げると、後ろから足音が響く。

「ジン」

振り向くとそこに金髪のドミニオン。
ネクタイを締めフォーマルな私服姿のイクスドミニオン・ガーディアンのリカルドだった。

「リカ、昨日はサンキュ」
「カナトさんは?」
「あいつなら、家に――」
「これが、落ちていた」

差し出されたものに、ジンは見覚えがあった。
スライド式の、だいこんのストラップがついた”ナビゲーションデバイス”。
何故大根なのか、この一年ずっと謎だったが、この前ようやく理解できた。

「これ、カナトの……」
「! やはり間違いないか……?」

間違いない。今朝もこれを見ながら昼食を食べていた。
電源をいれると”Welcome to KANA”とでて、待機画面があらわれる。
その待機画面が現れた直後、突然月光花から着信がきたので、ジンはためらわずその通信を取った。

「”どうした? ゲッカ”」
「”あれ、ジン? なんで?”」
「”カナトのデバイスを友達が拾ったんだ。カナト、そっちにいる?”」
「”それが、カナト君、お客さんの忘れ物を届けるっていって戻ってこないの。そろそろ30分経つのだけど……”」
「”誰か来たのか!?”」
「”うん。出たけど誰もいなくて、忘れ物だけあったみたい……”」

まさか、という嫌な予感が全身をよぎる。
リカルドが後ろから肩を持ってくれて、動揺しそうな心に安心をくれた。

「”そっちに居ないの?”」
「”あぁ、デバイス。落としちまったらしい……”」
「”えぇ! 大変じゃない”」
「”……とりあえずゲッカ。カナトがもどるかもしれないし、お前はそこにいてくれ”」
「”……わかった。二人で帰ってきてね”」

少し返答に困った。
だが、月光花は未だ何が起こっているか分かっていない。
ならば変に心配させることもないだろう。

「”当然だろ。またどっかで昼寝してるんだろうし、おぶって帰ってくるさ”」
「”うん。気をつけてね”」

そういって、ジンはデバイスの通信を切った。
直後突然立ちくらみがきて、後ろからリカルドに支えてもらう。
だめだ。ひどく動揺している。

「無理してないか?」
「悪い。リカ、少し冷静になる」
「一度本部行こう。情報がある筈だ」

そう言って、ジンは意識をはっきりさせ、リカルドと共に本部へと向かった
本部では、すでに人が動いており、リカルドとジンは邪魔にならぬよう受付を済ませ、エレベーターに乗り込んだ。

「とりあえずリカ。どうするんだ?」
「……問題を起こしそうな組織のリストがある、そこから手がかりが見つかるかもしれない」
「そうか……」
「……カナトさんは、いつも出かけたらどのくらいでもどる?」
「……一人では、あんまり出かけない奴なんだ。
一年前まで寝ちまう悪癖がひどくて、途中でぶっ倒れることもあったから……、
前に、弟に合うとか言って出かけたことはあったけど……そのぐらいだな」
「癖は治ってるの?」
「少なくとも倒れることはなくなった。だけど、一度眠ったらやっぱり結構な時間おきられなくて……」

どこかで昼寝しているだけだといい。むしろそうであってほしいと願う。

「セオに聞こう」
「セオさん。いるのか?」
「最近は忙しくて、ずっとこっちにいる。セオの能力なら見つかる筈だ」

それだけ事件が増えてきているのか。
セオのもつ空間認識能力は人探しなどにとても役立つため、総隊長が迷子になった時にもよく頼られる。
しかし、カナトは連盟に加入していない為、手を貸してくれるかどうかは分からないが、
ランカーであるなら聞いてみる価値はあるだろう。
そんな期待を胸に二人は、セオがいるシャーマン系の部署へと向かった。
聞いてみると、いつもどおり資料室にいるらしい。

リカルドが手持ちの認証カードを使い、薄暗い資料室の中へ入ると、
中央へ置かれている巨大な机に、大量ファイリングケースが山積みされていた。
確認してみると、連盟に加入する冒険者一人一人の個人情報で、
そんな大量の資料に埋もれるようにして、机に突っ伏しているエミルがいる。
杖を立てかけて眠っているのはランキング6th。エミル・アストラリストのセオだ。

「失踪事件が増えているから、酷使されてるようだ……」

リカルドの言葉に、ジンは申し訳ない気分になった。
普通の冒険者でも一杯一杯なのに、協力を求められるか。

「セオなら、力を貸してくれる」
「……」

リカルドの言葉にほっとする。
起きるまでは待つべきかと考えたが、後ろの気配に気づいたのか。
セオは「ん……」と声を上げ、体を起こした。

「……何か御用ですか」
「カナトさんが居なくなった。探して欲しい」

直球だな。とジンは突っ込みたくなったが、同じ事なのであえて何も言わない。
起き上がったセオは、後ろにいるジンをみると軽くため息をついた。

「いつもなら、さっさと加入させないのが悪いと言うべきですが、昨日と今日です。説得も出来なかったのでしょう?」
「すいません……」
「……攫われたかどうかはまだ分からない」
「なら何の用でここへ?」
「アクロポリスに居れば、俺が迎えに行くので、探してもらえないでしょうか?」
「…………仕方在りません。特徴を教えてください」
「黒羽で四枚羽の茶髪です。身長は俺と同じぐらい、あと右耳にパンキッシュイヤーカフ」

そう念を押されジンは、救われた気分になった。
セオ自身としては、一度危機を感じなければ、問題の重要性に気づかないことも理解はできる。
だからこそ、セオは一回のチャンスを与えることにした。
神経を研ぎ澄ませ、アクロポリス全体を視野範囲に収める。
貴族街、小道、一般住宅街、路地、様々な人間はいるが、記憶にある黒羽のアークタイタニアは視界に映らない。
ダウンタウンにも、一通り視野を広げ確認したが、

「居ませんね。男性であり黒羽のアークタイタニアさんは一名確認しましたが、茶髪ではありません。
身長もあなた程高くはない。この方は知り合いですか?」
「多分、友人です……カナトじゃない……」
「そうですか……その友達の名前は?」
「えっと、クオン君です」

それを聞いてセオは、種族別に登録されているファイルのアークタイタニアの部門からその名前を探した。
アークタイタニア・ジョーカーのクオン。連盟には登録している若い冒険者か。

「なるほど、私が探した限り、あなたの探し人はアクロポリスにはいない」
「……」
「どうされるつもりですか」
「探します」
「手掛かりは?」
「……リストがある」
「いくつあると思っているのです」

ぐっと拳を握る。こうしている間にも、どうなって居るか想像がつかない。
するとセオは、リカルドの持っていた書類を取り上げ、羅列されている名前へと斜線をいれて行く。
返された時には七割ほど削られていた。

「アクロポリスに拠点を持つものを省きました。あとは自分でなんとかしなさい。私も暇ではないので」
「……ありがとう」
「借りは、貴方のお友達に返してもらうことにしましょう」

そう言ってジンとリカルドは、資料室を出る。
途端駆け出そうとした、ジンをリカルドは強引に掴んだ。

「ジン。落ち着いて」
「これが、おちついてられっかよ!! 殺されるかもしれないんだぞ!」
「大丈夫だ。人攫いは、すぐには売りつけない」
「……!?」
「いろんな相手と交渉して、好条件の相手に売る。だから必ず数日かかる」
「……」
「それに人身売買は、死んでいたら意味がない。だから殺されない」
「……」
「必ず助ける。協力させてくれ。一人では行くな」

訴えるように言われ、ジンの肩からようやく力が抜けた。
どうすればいいか分からない。
ただ虚しくて、起こってしまったことに後悔をする。
一瞬、目を離しただけでこのザマだ。情けない。
何がランカーだとおもう、目の前の仲間ですら守れないのに……。

俯いてしまったジンへ、リカルドは何も言わず肩を貸すと、二人でひと気のないラウンジへと向かった。



痛い。
薄っすらと意識が戻ってきて、最初に感じたのは?の痛みだった。
布生地の感覚はあるが、薄く硬いので圧迫されて痛みを感じる。
周りに響いてくる雑音は大勢の話し声か、タバコの匂いも、戻りつつある意識の中で感じた。
直感的に理解したのは、自宅ではないということ、
なぜこんな場所にいるのかと考えた時、首筋の痛みで直前の記憶が戻ってきた。

「やっと起きたかい? ジョーカーさん」

突然、胸倉を掴まれ横になっていた身体を起こされた。
目の前に居たのは見覚えのない顔、初めて見る相手だ。
放して欲しいと思い、腕を動かそうとしたが、軽い金属のこすれる音にカナトは、何も言えなくなってしまう。
後ろ手に手錠を掛けられて、足首には靴を脱がされ足枷のような物がついていた。

「何時間ぐらい寝てた? コイツ」
「軽く4時間ぐらい? 麻酔銃って大体一時間ぐらいなんだけどね、効果」
「おねむだなぁ……」

何者だと思ったが、考えるまでもない。連れ去られてしまったのか。

「何か喋れよ。アークタイタニア・ジョーカーのカナトさん」

何を話せというのか。会話など成立する訳がない。
壁に押し付けられ、首を垂れたカナトは、未だ目が覚めず、意識が不安定なままだ。

「ねぼけてんじゃないの? よく寝てたし」
「毎度楽しみなんだけどなぁ、いろいろ聞くの。どんな気持ち?って」

毎度。つまり初めてではないのか。
ジンが言っていたアークタイタニアがさらわれる事件、その一部に巻き込まれたか……。

「でもさぁ、さっきも言ったけど、何でアークタイタニアなの? タイタニアならいっぱい居るのに」
「なんでも、羽におまじないの効果が在るらしいぜ。願いを叶える的な」
「なにそれ、すごい」
「詳しくはわかんねぇが、貴族サンたちはアクセサリーとして使うらしい、特に黒羽や色付きの羽は値が張るってな」

黒羽。つまり堕天か、たしかに堕天は、エミル界へ降り、
延べ200年以上経過するか、禁忌を犯さなければ現れることはない。
カナトの場合は、約三百年近くエミル界に居たアークタイタニアの息子であるため、生まれつき堕天だった。

「たしかにあんま見ないよな。というか初めて見た」
「しかもジョーカーなんでしょう? こうして捕まえても、助けがこないんだから、そりゃみんな探すわ」

この言葉でカナトの背筋がぞっと冷えた。
そうだ。冒険者連盟に加入していなければ、治安維持部隊の助けはこない。

「ランカーと一緒に居るって聞いて、だれも手を出せなかったみたいだけど、一人なら案外ちょろいもんね」

ジンが一つの牽制になっていた?
それなら、彼が家を出て行った直後に、来客が来たのも理解ができる。
ずっと見られていたのか……!?

「なんだ、びっくりしてんな。別に珍しいことじゃねぇよ。
他の同業者は曖昧な情報から探って、勝手に自滅しててるみたいだが、俺たちは、完璧にこなす主義だからな。
だから怪我もさせねぇ、そんな事したら、逆に価値が下がるからだ……。
でも、その羽は……別に抜かれてもすぐ生え変わるんだろ?」

そう言われた瞬間。カナトは背中の翼を硬く畳んだ。
再び胸倉を掴まれ、今度は床に倒される。
力が強い。二人掛かりでうつ伏せに押さえつけられ、身動きが取れなくなった。

「へぇー、すっげぇ綺麗じゃん。そこのやさぐれタイタとは大違い」
「おい」
「欲しいんだろ? 黙っとけよ」

重い。動こうとするがそれも叶わない。
力を入れるが、付け根から乱暴に掴まれ広げられた。
羽の付け根には、空中で方向転換するために、繊細な神経が通っている。
触られればくすぐったくも感じ、引っ張られれば酷く痛い。

「放せ……っ!」
「喋れんじゃん。飛ぶ為に必要な風切り羽ってのがあるんだろ? 教えてくれよ」

教える訳がない。風切り羽に何かあったら、飛ぶ事が出来なくなってしまう。
彼らはそれを知って居るのか……。

「でもタイタニアって、羽いじったら命危ないんじゃ……」
「ある程度枚数残してれば、平気らしいぜ? たしか何枚かあるんだっけなぁ。
一応きっといた方が、手間も省けるっつって喜ばれるみたいだし、やっとくか」
「ハサミで切らないと超痛いんだけどそれ……」
「めんどくせぇ」

逃げる手段を無くすつもりか。
翼の一枚一枚に触れ、探されたが、力が緩んだところでばたつかせ、払いのけた。

「おとなしくしろよ! すぐ終わるんだから!」
「抵抗しない方が可笑しいわよ……」
「しょうがねぇ。固定すっか」

嫌な予感がした。
羽に触れるのを諦めたと思ったが、突然仰向けに寝かされ、目隠しをするように顔を押さえつけられる。
首元に何かを巻きつけられ、今度はそれを引っ張られた。
痛い。引っ張られた方へ体が向いて、うつ伏せになる。
目の前に見えたのは銀のチェーンだった。

「短いとこういう時に役立つな」

引っ張られて痛い。
背中には先ほどの人間が跨ってきて、両手も一緒に押さえつけられている。
跨がってきた男は、鼻歌を歌いながら硬い翼を無理やり開かせると、
翼を支える大きめの羽を選び、力を込めた。
痛い。

「う、ぁ……」

髪の毛を何十本も抜かれるような痛み。
軽い力では抜けない為、更に痛みは増して行く。
痛い、痛いっ、痛い!!
じわりと涙が滲んだ所で、ぶちっという生々しい音と共に、一枚の羽が毟られた。
その途端、力が抜けたが、滲んでくる液体に敵は、「げっ」と声を上げる。

「血でんの!!」
「当たり前だろ、神経通ってんだから……」
「血なんて付いてたら疑われちまう。おい、ハサミもってこいハサミ」

圧力から開放されたカナトは、余りの疲労で息が上がっている。
首元の引力が消えたため、ゆっくりと身体を起こすと、
首輪のようなものを付けられ、一メートルほどのチェーンが垂れていた。
じんじんと痛みが響き、むしられた場所へ変な空間を感じる。

「血がでるなら、言ってくれれば良かったんだよ。全く……」

ポタポタと滴る鮮血を感じ、カナトはいろんな意味で絶望をした。
家族と離れた時も、ダンジョンに閉じ込められた時も、ここまでの恐怖を感じたことはなく。
どれほどまでに、自分が平和だったことを思い知らされてしまう。
それが誰のおかげであったかと気づいても、既にもう遅い。

戻ってきた相手は、再びカナトの首元へと手を伸ばす。
抵抗が出来ない、繋がれて逃げることもできない。

右手にあるハサミは、ただの道具なのに、かつてこれほどまで恐怖を感じたことがあっただろうか。

「血で服が汚れたら、大変だろ」

そこまで言われ、カナトは再びチェーンを引かれうつ伏せになる。
その瞬間カナトは、もう抵抗する気力を無くした。
ぐったりとしなった翼は安易に開き、男は何事もなかったかのように羽を探す。
そうして、無抵抗の翼へハサミを入れられる直後。

カナトは一年前と同じ感情を抱いた。
永遠に、何年も何百年も、生命が尽きるまで、眠りたいと……。
そう願い、瞳から一滴の雫がこぼれる……。

ジンは、どうして居るだろう……?


To Be Continued…
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本編 | 【2012-11-22(Thu) 00:00:00】 | Trackback:(0) | Comments:(0)
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