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裏切りの背徳者:第一話 胎動
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詠羅と結城隆臣さんとのリレーシナリオ、JKな奴ら:裏切りの背徳者(連載)です。
二人でペアとなり、交互に執筆いたしましたのでぜひご覧くださいませ。

目次
裏切りの背徳者:第一話 胎動
裏切りの背徳者:第二話 苦悩
裏切りの背徳者:第三話 始動
裏切りの背徳者:第四話 奪取
裏切りの背徳者:第五話 真実
裏切りの背徳者:第六話 終息

第一話:胎動

あらすじ
イーストダンジョンの一件から少しづつ現実味を帯びてくる、アークタイタニアが誘拐される事件。
ゆっくりと現実を帯びてくる現状ににジンへ、セオはカナトに連盟へ加入するよう呼びかける。
しかし、その裏でカロンは……。

参考
カナトが狙われる話
ジンの誕生日の話
ジンが特訓する話
ジンがスランプになる話


 著:詠羅

世界の中心アクロポリス。
ギルド評議会により、治安が保たれているにも等しいこの町は、
アイアンサウス・ノーザン・ファーイースト・モーグの四国に分割統治され、騎士団によって治安が保たれている。
しかし、騎士団そのものはそのアクロポリスにおける領有権の主張から、町の治安維持以外には殆ど関与せず、都市以外ではギルド評議会目下の組織、治安維持部隊が平定に乗り出していた。

そんな微妙な利権が渦巻く町で一人、部隊本部があるギルド元宮前で立ち尽くす青年が居る。
眉間にしわを寄せ、軽い紙袋を携えているのはギルドランク5thのエミル・ガンナーのジンだ。
彼は小さくため息を落とすと、重い足取りで元宮の中へとはいっていく。

本当なら、あまり積極的に訪れたくはない場所だ。
無関係でありたいはずなのに、複雑な立場と個人的な心境を持ち合わせ、どうしても関わらずにはいられない。
今すぐにでも除隊すればいいのだが、ランカーとして籍がある限り、それは出来ない契約だった。
3年のうち残り2年だが、やはり思ったよりも長く感じてしまう。

簡単な受付をすませ、ジンは、先日の事件の報告書を提出するためにエレベーターを登った。
たまたま降りる階で、同ランカー3thのアークタイタニア・ソウルテイカーのナハトと鉢合わせしたが、
挨拶しても返してもらえず、半ば雰囲気に追い出される形で彼はエレベーターを降りた。
ラッキーなのかそうじゃないのか、すでに自分でも判断がつかない。

ランカー専用の受付窓口がある階層で、ジンは脇のラウンジへと視線を移した。
ラウンジは各階層に小さなものがあるが、基本的にここは、
ランク2th、イクスドミニオン・イレイザーのカロンのすみかだと認識している。
ジンがくる時は、ほぼ必ずと言ってもいいほど、このラウンジの決まった席でつっぷしており、
ここにこれば大体彼に会えるからだ。
本人に聞いて見たところ、時々は仕事で居ないそうだが、ランカーは仕事を選ぶ権利がある上、
夜の仕事が多いイレイザーのカロンは、昼間時間がくるまで此処で仮眠をしているらしい。
ランカーになってまで仕事をするとは、ジンにとって考えられない話ではあるが、こうして通っている自分をみて、人のことは言えないとも思えた。
そんなことを考え、ジンは外からラウンジの中を眺める。
しかし、いつも居る筈の彼の姿が見えない。
不思議に思って更に奥をみようとした時、脇から高めの声が響いた。

「あれー、ジンさんじゃん」

聞き覚えのある声だ。ピンクの髪にドレスを纏う四枚羽の女性。
目隠しが印象的なのは、ランク4thのアークタイタニア・フォースマスターのぬえだ。

「ぬえさん、こんにちは」
「最近よく見るねー。そういえば昇格したんだっけ! おめでとう」
「あ、ありがとうございます、ぬえさん……」
「これで同じだね~。大変だろうけどランカーなら大差ないのかな?」
「大体は同じみたいです。義務がないので」
「いいね~お給料もあがるもんね。今日はどうしたの? また武器でも壊した?」
「いえ、今日は報告書を出しにきただけで……」
「そっかそっか、そういえば、セオ大尉が探してたよ。なんか言いたいことがあるって」
「セオさ……セオ大尉が!?」
「うんうん。ランカーのみんなに、見かけたら来てくれって伝えるようメール回してた。
ほら、ジンさんだけセオ大尉のアドレスを登録してないでしょ」
「そうですけど、……というか、メール貰えればすぐに行きますよ。おれ……」
「大尉的には、報告書任せた時点で、来るって把握してたんじゃないかな? ここに来れば大体ランカーの誰かとあうし」

ごもっともだ……。

「それに、無理に呼び出すこともしたくなかったみたいだよ。
ジンさん、来たくないといいつつ、呼び出されたら絶対来るし」
「ま、まぁ、ランカーと言えど上官ですし……、
いつも色々世話になってるんで、無碍にもできないというか……」
「ぼくとしては、来てくれると賑やかになるから嬉しいんだけどね」

「ありがとうございます」と苦笑し、ジンは再びラウンジの中を見た。
やはりカロンの姿が見えない。

「ぬえさん。カロンさんは?」
「今日は見てないなぁ……。大体此処にいるけど、珍しいこともあるね」

いつも見えているのに居ないと、やはり少し不安になってしまう。
そんな気持ちを抱え、ジンはぬえと別れて、スイレンの元へと向かった。
顔を見た瞬間スイレンは、にっこりと微笑み「おめでとう」といってくれて、ジンは思わず目をそらしてしまう。
何も言えず、恐る恐る報告書を差し出すとスイレンは待っていたというように、書類をうけとってくれた。

「確かに受け取ったわ」
「今回の件もありがとうございました」
「毎度巻き込まれて大変ね。ファーイーストは久しぶりだったのでしょう?」
「はい、4年ぶりぐらいでした。相変わらず平和ですねあの国は……」
「そうね。でもやっぱり人里を離れると危険だわ。今回の件みたいに……」

スイレンの言葉に、何か含みを感じる。
やはり気にしてくれているのか、直前まで迷ってはいたが、ジンは意を決したように口を開いた。

「ここ最近のアークタイタニアがさらわれる事件は、いつから……?」
「……そうね、酷くなったのは二週ぐらい前からかしら、それ以前はあまり公には出ていなかった見たいだけど」
「……」
「言いたいことは分かるわ。貴方の故郷もアークタイタニアの貴族が納めていたものね。
結論から言うと、その一族はまだ見つかってはいないわ」
「そうですか……」
「一緒に殺されたんじゃないかと思ってはいたけど、住民票から調べても、彼らの一家だけ死体が出なかった……」

村を潰したのは、大方に証拠隠滅のためか。
4年近く前の事件に今までかかったのは、ファーイースト側が未だに事件の開示を拒んでいるからだ。
自国の問題は自国で解決しなければ、国政的な意味で不利になる。
ジンは被害者ではあるが、冒険者になったことで国籍を放棄したため、口出しの権利を失った。しかし、

「ここ数日で攫われたアークタイタニアの中に、冒険者連盟に登録したアークタイタニアが数名いたわ。
だから当然、私たちは動かないといけない。ある意味チャンスでもあるわね」
「……はい」
「焦らないでね。まだファーイーストと、人攫いの事件の関連性については証拠がない。
今動いてもこちらが不利になるだけよ」
「分かっています」

冒険者連盟は、おもに職業ギルドに所属した冒険者のことを指す、
ここに登録していれば、評議会が提供するほぼ全てのサービスが受けられるようになるのだ。
もちろんその中に、人権の保証と救助に行く権利も含まれている。
しかし、ジンにはひとつ突っかかりがあった。
今回の報告書は、あくまでジンが負傷した事で事件にはもっていけたが、
カナトが攫われかけたことに関しての報告は、内容の内に入れることはできなかった。
カナトは、冒険者連盟に属さない”ジョーカー”であるため、何かあったとしても本部からの助けを得ることができない。

報告書の提出が終わり、ジンはほっと肩を撫で下ろした。
故郷を潰したファーイーストの貴族が、アークタイタニアを誘拐する為に、村ごと潰して証拠隠滅を図ろうとした。
ジンと月光花は生き残ったが、国籍を放棄したことで関連性がなくなったため、向こうは放置してくれているのだろう。
もしあの時、国籍を持ち帰れば本当にどうなって居たか、今では想像がつかない。
壁に持たれ大きく深呼吸を行い、ジンはようやく廊下を歩き出した。
これをきっかけに出来るかもわからない。
だが、自分の隣にいるカナトと月光花を守る為に、動かなければ行けないと心に思った。
つよく在りたいと、もう何度願っただろう。

そうしてジンは、早足でセオの元へ向かった。
シャーマン系の部隊本部に居るとは思ったが、大尉の彼は調べ物の為、資料室へ向かったらしい。
実働兵時代は、資料室の入室にも許可が必要だったが、
ランカーの権限でいつでも入室可能になり、ジンはすんなりとセオを見つけることができた。

「思ったより来られるのが早くて、驚きましたよ」
「こ、こんにちは、先日はありがとうございました」
「私は仕事をしただけです」

難しい人だと、いつも思う。

「俺を探してると、ぬえ少尉から伺いました」
「えぇ、自らを過信しすぎているあなたへ忠告をします。
悪い事はいいません。貴方の友人を、今すぐに冒険者連盟へ加入させなさい」

予想できたことだ。
むしろスイレンに言われないのが不思議に思えたほどに、

「今回の件は、あくまで"貴方自身が襲われた"ことで、敵を確保することができた。
もし貴方が負傷せず、襲われたと言う証拠を持ち帰れなかった場合、
立場上、部隊そのものの存続にも関わっていた可能性があります」
「……」
「私は、貴方の過去には口を出す権利はありません。
しかし、あなたと関わるランカー達の個人的な関与によって、
本部全体が立場、存在価値が揺らぐのは、日々活動する冒険者たちの安全にも関わる問題です。
もう一度言います。ジョーカーの友人を連盟に加入させなさい」

セオの優しさである事をジンは心に受け止めた。
言い換えれば、加入させれば二人一緒に守ってやると言ってくれているのだ。
ありがたい話でもあり、しかし結論を出しにくい話でもある。
今までこうして言われ、言うとおりに行動してきた全ては、
何もかもが本部にとって有益な事ばかりだった。
そのため今回のこの話もなにか裏が在りそうでならない。

「セオ大尉は、どうしてそんなことを俺に?」
「私はジョーカーが嫌いなだけです。下について頂けるなら別ですが」
「それ遠回しに部下になれってことですか?」
「ほぅ、そうなれば面白い。私にかかれば一ヶ月で少尉には昇格させて差し上げますよ」

ぞっとした。
連盟はありだとしても、本部への誘いは心から遠慮したいと思う。
セオの思わぬ後押しに、ジンは少し戸惑ったが、本人へ相談すると切り出し、この話はおわった。

「そういえば、昇格されたようですね。おめでとうございます」
「あ、えっと、ありがとうございます」
「昇格したということは、2年後もこちらにのこるということですか?」
「え!? なんでそうなるんですか?」
「……いえ、今のは私の思い違いでした。お気になさらず」

突然聞かれた質問に、ジンは思わず首をかしげた。
なんだかんだで気にしてくれているのか。

「勘違いなさらず、ランカーであるということは、貴方は有益な人間だと判断しているだけです」
「そ、そうですか……」

おもわぬセオの発言にジンは驚いてしまったが、気にしてくれていることをおもうと少し申し訳ない気持ちになってしまう。
そうして彼は、セオと話を終え帰路についた。






著:結城隆臣さん



「ビー?」
ルフィアンに呼ばれてガーヴィンははっと我に返った。
ここはガーヴィンの自宅、その寝室だ。
上半身を露わに、ベッドサイドに腰掛けている。
一方ルフィアンはベッドの上で布団を腰まで掛けて体育座りをしていた。
Tシャツに短パンとラフではあるが衣服はちゃんと着ている。
起きたのはとうに前の時間だが、どうやら長い間考え事をしていたらしい。
時計を見るとすでに昼前だ。
「最近何だか変だよ?」
「変?」
『うんー』と、ルフィアンが頷きなから、膝に顔を埋めた。
「表の仕事、辛い? 裏の仕事している時よりもストレスが溜まっているように見えるよ」
「……」
実際、そうかも知れない。
ガーヴィンは思った。
ガーヴィン……彼は、とある組織(Семь звезд:シン・ヌズビオスタ)の工作員である。
だが、現在はそれを休業し、今は評議会のランカーとして務めていて、ランクは二位だ。
彼は、組織の命の危険に何度も合う仕事に疲弊しており、組織を辞めたいと思っていたが、組織はそれを許してはくれなかった。
そのかわりに一つ提案された。
組織を無期限の休業扱いにし、その間に評議会に登録し、そこで満足するだけ仕事をこなしたら、戻ってくるのはどうかと。
ガーヴィンは1つの妥協点だな、と思った。
何より無期限で休業して良いというのが魅力的だった。
評議会の仕事については以前から興味があり、様々なルールや法で縛られてはいるが、命に対する危機感……いつ死んでもおかしくはない仕事―――はほぼないことも知っていた。
彼は組織の提案を受け入れ、自分から望んで評議会に登録した……と、思っていた。
だが……(これは後から知ったのだが)実はガーヴィンが休業する話は彼が休みを求める以前からの決定校であり、変わりに評議会の仕事をやると言うことも全て仕組まれていたことだった。
つまり、彼の組織の仕事に対する精神的な限界と、この任務がガーヴィンに降りてくる時期が上手いことぴったり重なっただけのことだった。
休業と同時に渡された新しいデバイスと偽りの自分の身分、設定された性格に行動・嗜好品のデータの書類、そして新しいカロンという名前。
この時点で気付くべきであったとガーヴィンは自分を呪った。
まさか、自分の組織の上役と評議会の一部の上役が裏で繋がっていたなんて。
確かに何度か公的な組織から仕事を請け負ったことはあった。
たまたま白羽の矢が気まぐれで当たったのだろうと思っていただけだったが、実のところはそうではなかったらしい。
上の希望として自分の存在は評議会と組織の綱渡り役を期待しているとか……。
この事実を知ったとき、ガーヴィンは何もかも悟った。
組織が行っていたとある任務は殆どが評議会からの依頼のもので、それを行う事で、うちの組織は犯罪者集団であるとの認識から免れ、長く存在していられたと言うこと。
そして、この繋がりが世間に知れ渡ったときに起きるであろうと推測される、数々の悲劇に対する危機感。
つまり今の自分は今までよりもいっそう責任の重い仕事をしている。
ランカーの二位に収まることができたのは自分の努力の結果だと信じていたのに、もしかするとそれも、全部、全部……何もかも……。
いつの日か辞められるかもしれないと期待した非道徳的な仕事の鎖からは一生抜け出すことは不可能かも知れない。
そんな絶望感がガーヴィンを襲い溜息を吐いた。
「ビー?」
心配そうな表情でルフィアンが自分の腕に触れてきたので、ガーヴィンは安心させようとその手を握った。
「大丈夫だ、大丈夫」
ルフィアンに言ったその言葉はガーヴィンの耳には自分に言い聞かせているモノのように聞こえた。



「こんにちは」
品の良い大人の男性の声が玄関の方から聞こえて、ガーヴィンはワイシャツを羽織りながら玄関へ向かった。
声は小さい頃から聞き覚えのある、ガーヴィンにとって1番会いたくない存在からのモノであった。
ルフィアンが後をついてきたので、慌てて戻るよう身振りで指示をする。
ガーヴィンは声の主にルフィアンの存在を知られたくはなかった。
いや、知られたくないと思っていても、おそらく彼はガーヴィンとルフィアンの関係を既に知っているだろう。
だからこそ余計に、彼の前にルフィアン出してはいけないと思った。
不思議そうな顔をしてルフィアンが寝室へ戻ったのを確認し、玄関へ急いだ。
ゆっくりと扉を開くと、そこにはオーダーメイドの高級なスーツを身にまとったひとりのエミルが立っていた。
年の頃は20代後半~30頭といったところか、黒い長髪を後ろに束ね、銀縁のメガネをかけたその男性は、微笑みながら『お久しぶり』とガーヴィンに声をかける。
ガーヴィンは自分の表情がこわばっていくのを感じた。
この男性はガーヴィンの組織に所属する人間で、各工作員に指示を伝えることが主の仕事という者であったが、組織内での権力は高く、ほぼNo.2の地位は確立しているも同然な存在であった。
「何の用です?」
「そんな急かさなくてもいいじゃない」
男性が細い目をさらに細くしてニッコリと笑う。
「今日は君とゆっくりお話をしたいと思って来たのだからね」
ぞわっとガーヴィンの背筋を冷たいものが走った気がした。
嫌な予感がして心臓が早く鼓動する。
「シン・ヌズビオスタの影のナンバー2が、私と話……? 何かの間違いでしょう……?」
「いやぁ、ちょっと面白い話があって、君も知っておくべき内容だから……」
ニコニコと笑顔を絶やさない男性。
この笑顔が彼の考えている内容、感情をカモフラージュして全く読めない。
「プルート、君……『カロン』の方でランカーの5位の子と仲がいいんだって?あと、その彼のお友達とも」
「それが……何か」
ガーヴィン(組織ではプルートと呼ばれている)は眉をひそめた。
「いや、良いことだよ。すごく良いことだ。例え『カロン』として関係を深めた間柄でも、『プルート』がお友達と思っていれば、彼らは『我々の友達』でもあるからね」
「……何が、言いたいんですか」
「うんーそれがねぇ……。プルート、君は……その二人のことが好きかな? 大事? 『カロン』じゃなくて『プルート』としても」
「何を言って……」
「大事だよね? 大好きだよね? 言わなくてもわかっているよ、ちゃんとわかっている、君はすごく良い子だから、きっと長く付き合っていくと『カロン』としてじゃなくて『プルート』でも好きになっちゃうってことは。だからね、だからこそ、君に伝えないといけないことがあるんだ」
男性が悲しそうな表情を一瞬浮かべて、大きくため息をついた。
「彼らを注意して見守って欲しいんだ……特に5位の子のお友達をね……」
「カナトを……?」
「かなと? そう、彼はカナト君というのだね、良い名前だね。その、カナト君が危ない目に遭うかもしれなくて……」
「どういう意味です……?」
しゅんと申し訳なさそうに男性が肩をしぼめる。
ガーヴィンは自分の体が緊張で固くなっていくのを感じた。
口や喉が渇いて唾も出ていないのにゴクリと喉を鳴らす。
「ちょっと、カナト君の情報を人攫いの連中にリークしたんだ。アークタイタニアのジョーカーがいるよー、貴族に売れば儲けられるよーって小さくてその上ピンボケした誰なのか判別し難い写真付きでね」
「な……ん、で……」
一瞬ガーヴィンは頭を鈍器で強く殴られたような気がした。怒りがこみ上げ身体が震える。
「わー! プルート怒らない、怒らないで! これにはふかーい事情があるんだよ」
顔の前に両手を合わせてペコペコと男性が頭を下げる。
だが、雰囲気はどう見ても謝っている風ではない。
「でも、怒るって事はやっぱり、『プルート』の方でも……彼らが大好きってことの現れだね? ホッとしたよ。『プルート』が彼らを好きじゃなかったらこんな話意味ないからね。『カロン』には僕らは関われないし? うん、僕は君の完璧に見えて完璧になれない所、気に入っているんだ」
にっこりと男が微笑む。
ガーヴィンは自分の感情を弄ばれているような気がして心の中で唇をかみしめた。
「ごめん、ごめん、脱線したね。事情を説明しよう。実は評議会がカナト君を欲しがっているんだ。理由は君には言えないけれど。それでね、僕らの所にどうにかしてくれーって連絡が来たんだよ。でも、僕らも『プルート』がお友達だと思っていたら……そんな彼ら相手に手荒なことはしたくないし? だったら、カナト君の方から評議会へ行かねばならない環境を作ればいいのかなーって思って。危ない目に遭えば保護を求めることになるでしょう? ね? 良いアイデアだと思わない?」
『でしょ?』と、男性がにっこり微笑んだ。
ガーヴィンの頭の中で男の声が反響する。
声にならない感情が心の中で渦のように回り出し、ガーヴィンは男を見つめることしかできない。
「だからね、カナト君はこれから危ない目に何度も遭うと思う。でも、捕まっちゃって売られちゃったら……評議会へはずーっと登録できない事になるかもしれないから、そうなっちゃうと僕らも彼らもみんな困っちゃう事になる。だからね? 『プルート』にカナト君を守って欲しいんだ。もちろん、『プルート』に頼むんだから僕らも手助けするよ? リークした所はどこなのかというリストと、僕らの持つ犯罪者集団のリストのデータを貸してあげるね? もちろん、僕らの本拠地にあるデータベースにアクセスするのも許してあげる。後は……カナト君に常時一人、見張りをつけようね、気付かれないように。見張りの報告は定時で『プルート』に報告させよう。ちなみに、コレは『カロン』は知るよしも無いことだから、『カロン』として働いているときはカナト君は守れないけど……僕らが精一杯フォローするからね? うーん、これで大丈夫かな……彼らを守ってくれるよね?」
しおらしい表情で男性に見つめられ、ガーヴィンは何とかため息をついた。
精一杯の平静を装い、ギリギリ何とか言葉を放つ。
「……こんなことをして、関係ないアークタイタニアまで……誘拐されるんじゃないんですか?」
「そう、そうなんだよー! 関係ない人まで巻き込んじゃって本当に申し訳なくって!」
「……思っていないくせに」
「いやぁ、分かっちゃう? 敏くて話が早いからプルートは大好きだよ。じゃぁ頼んだからね、『プルート』」
「わかりました……」
嬉しそうに微笑む男性に向けてガーヴィンは一瞬殺意が芽生えたような気がしたが、首を振ってなんとか自分を押さえ込んだ。
「そういえば、プルート。奥の部屋に一人誰かいるね? アークタイタニアのルフィアン君かな?」
男性の口からルフィアンという言葉が飛び出てくるとは思わず、ガーヴィンは反動で彼の襟首を掴んでしまった。
「わ、わ、びっくりしたなぁ、もう。でも、君がこうするって事はそこにいるんだね? ルフィアン君ってプルートの大事な人だよね? そ、そんな怖い目で見ないでよー。1個話忘れたことを思い出しただけなんだから。さっき、『プルートのお友達』は『僕らのお友達』って言ったでしょ? だから、手荒なことは絶対にしない……約束する、って。だけど……どうしてもそれを守れない時もあるってこと……プルートは言わなくても分かっているかなって思ったけど、一応ね? ね?」
ガーヴィンは頭の中が真っ白になった。
つまりはガーヴィンが組織の言うことを聞かなかった場合はルフィアンを盾にをするという……脅迫である。
男性は家の奥へ向かって『ルフィアンくーん』と、楽しそうに名前を呼んでいる。
「あ、来た、来た」
男性の声に部屋の奥を振り返ると、廊下の角に不思議そうな表情をしたルフィアンが立っていた。
ガーヴィンは血の気が音を立てて落ちていくのを感じた。
「いつもプルート……じゃなかった、ガーヴィンがお世話になっています。ガーヴィンの直属じゃないけど上司のベガと言います、よろしくね?」
きょとーんとするルフィアンにニコニコと笑いかけながら男性が言葉をかける。
「そうだ、プルート。ルフィアン君も危ないかもしれないから、ルフィアン君に護衛を付けてあげようか?」
「……護衛は要らない……俺が、守る。絶対」
ガーヴィンは自分の声を絞り出すだけで必死だった。
「本当に不要? だって、カナト君を守らなきゃなんだよ? まープルートならできるか、うん、精々頑張ってよね。じゃ、僕はこれで戻るから、何かあったら連絡してね、また来るよ」
元気よく手を振って男性が去って行く。
ガーヴィンは何故か意識が遠のいていくような感覚を覚えてタイミング良く駆け寄ってきたルフィアンの腕の中に倒れ込むように体を崩してそのままゆっくり目を閉じた。


To Be Continued…
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本編 | 【2012-11-16(Fri) 00:00:00】 | Trackback:(0) | Comments:(0)
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