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(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

ジンの誕生日の話
出演:カロンさん。カルネオルさん。リゼロッテさん

ロケ地:ギルド元宮

あらすじ
いつも通りの朝を迎えたジン。
普段通りの朝を過ごしていると、突然月光花が自宅に現れた。
彼女が突然鳴らしたクラッカーにジンは驚き、何事かと考えるものの、10月1日となるその日は、ジンの誕生日だった。

参考
ジンが本部へ行く話
カナトが狙われる話


 ピピッと言う短い電子音と共にエミル・ガンナーのジンは、目を開けた。
目覚ましにしている”ナビゲーションデバイス”の時刻は、朝6時。
本部時代に叩き込まれたクセを未だに維持しているのはいいが、
隣の部屋で寝る相棒は、お昼ごろにならなければおきてこないので、
暇をもてあましてしまう時間帯でもある。
起きあがり、水を摂取して、簡単な運動と射撃訓練を行い、朝ごはんをほおばった。
アクロポリスに本社をおく民間企業、”ナビゲーションデバイス”の通信管理会社"Technical Transmit RB(テクニカル トランスミット ラボ)”、通称、TTRBは、アクロポリスにて日刊新聞を発行している悪路社と提携しており、
デフォルトでニュースアプリがインストールされている。
その為、ほぼ日常的に最新の情報を得ることができるのだ。
そんなナビゲーションデバイスが表示したここ最近のニュースは、
治安維持部隊の調査チームが、無限回廊地下40階のさらに下層を発見し、一般冒険者にも開放がなされたという話だった。
基本的にダンジョンのような危険な場所は、万が一の大事故を防ぐため、一度治安維持部隊が調査するしくみとなっている。
隊経験のないジンは、その調査隊に赴いたことはなかったが、100人で向かい100人が帰還するのは稀で、
最低5、6名は命を落とし、2、30数名は重症で帰還するケースも珍しくはない。
しかし、大半の隊員達は、未知の場所へ一番に踏み込める好奇心と貢献度の習得ポイントの高さから、誰もが喜んで調査隊に志願するが、
ジンからすると、そんな浅はかな好奇心で生命を落とすぐらいなら、
アクロポリスのペット探し任務をやったほうが、よほど安全で確実に貢献度を稼ぐことができるともおもっていた。

パンと卵焼きで朝食を済ませたジンは、大きく伸びをしてカナトの部屋の入り口へ視線を向ける。
相変わらず起きてくる気配はない、起こしに行くべきかいつも迷うが、
12時間という約束があるし、これ以上はカナトの気の持ちようだろう、
出来れば後5時間ぐらい早く起きて、一緒に朝食を取りたいと思う。
そうして、汚した食器を片付けようとしたとき、音を立てて扉が開かれた。

「はーい! 月光花ちゃんきたよー!」

固まった。
現れたのは、青い髪に水色のワンピースを纏うエミルの女性。
彼女はジンが少年の頃から時間を共にした、いわゆる幼馴染だ。
現在ではカナトが提供してくれた一人用の庭に住んでおり、夕食だけは3人で取るようにしている。
普段は、ウァテス系の本拠地ともなっている冒険者のための病院、
聖堂管理協議会にて、勤務しているのになぜ来たのか。
鉢合わせとなったこちらは、白生地に銃のプリントがされて居る柄パンと、一枚と背中にドミニオンの羽の柄がついたTシャツのみで、
とても月光花の前で出る格好ではない。

「なんて格好してんの……」
「ば、ばかやろう!! 突然くるんじゃねぇよ!!」
「あ、でもある意味ちょうどよかったかも」
「は? ちょっとまて、着替えてくるから――」

大急ぎで自室に戻ろうとしたが、月光花はにっこりと微笑み、進行方向をふさぐ。
後ろに何かを隠しているかと思えば、突然クラッカーを取りだして、紐をひっぱった。
ぽんっと火薬の破裂音が響き、ジンは思わずしり込みする。

「ハッピーバースディ! ジン!」
「へ?」

思わず言葉を失った。
楽しそうに笑う月光花をみて、ジンはゆっくりと力を抜いていく。

「去年は忘れてたもんね。忘れてたというか、任務だったんだっけ?」
「えっと……」
「何歳?」
「じゅ……20……」
「おめでとう!」

さらにもう一個のクラッカーがなる。
秋の中ごろとなる10月1日。誕生日だ。

「今日朝の九時から、聖堂管理協議会の朝礼があるんだけど、その前によっとこうとおもってさ。
これ、誕生日プレゼント、服だから着てね」
「服?」
「そうそう、あんたファージャケットの白色しかもってないでしょう?
着てくれるのはうれしいけど、汚れてきちゃってるし今度からこっちを着なさい」

渡されたのは、白い紙袋だ。
ラッピングするつもりだったのか、リボンが固結びでくくられていて、解けない。
仕方がないので、ジンはハサミできって開封した。
出てきたのは、黒く厚めの生地で作られたジャケット。

「ファージャケット黒……」
「かっこいいでしょー」
「いや、同じじゃね……?」
「なーに!? もらったくせに文句言うの? ジン君もえらくなりましたねぇ」
「あぁあーもう、わるかったよ! ありがとうございます。月光花さん!」

そういって、大急ぎで着替えに自室へもどった。
いつも壁に掛けた、ジャケット白を眺め、新しい黒ジャケットに着替え
る。
色だけでも大分変わるものだと思い、銃のホルスターと共にリビングへと戻った。

「うん。似合ってる」
「サンキュ」
「買ってもらうんじゃなくて、自分でも服選びなさいよ? 一張羅じゃすぐぼろぼろになっちゃうんだから」
「わかってるって……」
「あ、そういえば、夕太さんから、今日来られるなら本部に来て欲しいって伝言をもらったよ」
「今日?」
「うん。ズレてもいいけど、できれば今日だって」
「嫌な予感しかしねぇなぁ……」
「お世話になってるんでしょ。ちゃんと行きなさい」
「わぁかってるって……カナトの飯つくったら行ってくるよ」

そういって月光花を朝礼に送り出した後、ジンは体にホルスターを装着し、カナトへ軽食をつくって家をでた。
昼には戻りたいものだが、まだ朝8時だし4時間もあれば用事も済むだろう。
カナトに二度寝でもされたら、今日一日何もできなくなってしまう、それだけは避けたい……。
そんな不安を胸に、ジンは再び本部へと戻ってきた。
見慣れた場所だ。
以前は月に一回でくるか来ないかだったのに、最近は週に一回のペースで来ている。
一ヶ月で武器を3回壊したのもあったが、報告書やら何やらで無駄に用事の多い場所だ。
義務なんてないのに、何をやっているのだろう。
複雑な心境で、ジンは受付を行いエレベーターで登った。
呼び出した人物の名前を、聞き忘れたとは思っていたのだが、
まさかの治安維持部隊の最高権限をもつ管理者、キリヤナギとは思わず、
ある意味、聞かなければ良かったと後悔もしたが、
名前を聞かずともきてしまった自分を呪い、ため息をついた。

部隊隊長の執務室は最上階であるため、ジンは憂鬱な気分でエレベーターが到着するのを待っていたのだが、
途中の階で止まって扉を空いた時、突然クラッカーを持ったドミニオン3名と、同じくクラッカーをもった背の小さな少年が目に入った。
見覚えのある4人に、ジンは驚いたが、響いた高い破裂音に目を丸くする。

「ハッピーバースディ! ジン君!」
「はい? 」
「今日誕生日なんでしょぉ? 水臭いわーだまってるなんて!」
「リゼさん!?」
「おめでとう」
「リカも!?」
「ジンさん! おめでとうございます!」
「カルネ……くん!?」

そうやって驚いている間に、ジンはカロンに腕を掴まれ、
エレベーターから引き摺り降ろされてしまった。

「20歳になったんだって!? ジン君も ついにおっさんだなぁああ!」
「おっさ……勘弁してくださいよ……」
「うふ、20歳なんてまだまだ若いわよ? むしろこれからが、大人の始まりってやつね!」
「そうそう、酒も飲めるしな!」
「基準そこなんですか……というか、何で俺の誕生日……。
「あぁ、さっき総隊長がきて、今日ジンがくると思うから、誕生日を祝ってやれって」

確信犯すぎて言葉が出ない。

「それでリカルドさんに、頼んでクラッカーを用意してもらったんです」
「以外と簡単だったぞ、半分かってきたが」

半分は失敗したらしい。


「まぁせっかくの誕生日だし、メシぐらい奢ってやんよ! ラウンジこいラウンジ!」
「えっと、俺、総隊長に呼び出し食らってて……」
「総隊長は、さっき自分のペットがまた脱走したって言って本部でてったから、当分もどらねぇよ」
「要約すると、戻ってくるまで引き止めとけって頼まれてるの、付き合いなさい」
「あ、今日一緒に探しに行ったのは、ホライゾンさんなのできっと大丈夫ですよ」

いろんな意味で終わった。
ペット探しに1stのホライゾンがついて行ったということは、急を要さないということ、
それでこそ6thのセオなら、視野の広さのおかげですぐ見つかるのに、
戦闘系のガーディアン二人など、この広いアクロポリスで見つけられる訳がない。
ジンはどうしていいかも分からず、がっくりと肩をおろし、すべてを諦めた。
カナトが起きていればいいなぁと願って……。

「なんだ? ジン。元気なくなったな?」
「迷惑でしたか。ジンさん?」
「突然すぎて、びっくりしすぎたのかしら?」
「ジン……?」

そんな4人の言葉に、ジンが顔を上げた。
なにを考えているのだと思う。
彼らはランカーだ。総隊長の言葉に従う義務はない。
それなのに、4人はこうして居てくれているのだ。
これのどこが迷惑と取れるのか。
この3年間、任務ばかりで、月光花にも誕生日には会えなかったのに、

「すいません。こうして祝ってもらえるなんて久々すぎて、どう答えたらいいか……」
「何でもいいわよ」
「へ?」
「今の気持ち、言ってみなさいな」

少し考えた。
でも、一つしか浮かばない。
普通の言葉ではないかもしれないが、今はそれを伝えたいと思った。
昔の様に、家族で祝ってもらった時には分からなかった言葉を……。

「幸せ……です」
「なんだ、じじくせぇなぁ!」

頭をかき回され、痛い。でもそれでも、嬉しかった。
そんなやり取りをしていると、突然脇から黒羽のタイタニアが舞い降りてくる。
異様な存在感を放つ彼女は、エレベーター前でたむろして居る5人を睨み、対峙した。

「よう、ナハトちゃん。こいつ誕生日なんだよ。なんか言ってやってくんね」
「興味ないわ。そんな場所で騒がないで、通行の邪魔よ」

相変わらずだ。
彼女ほど他人に興味がない人間は知らない。

「何処いくんだ?」
「総隊長が迷子になったの。探しにいくだけよ」
「またか!? ナビゲーションデバイスは?」
「ホライゾンさんが落としたのを拾ったから私もでるの。いつもの事よ」
「確かに、いつもの事だけど……ってことは、セオも?」
「えぇ、位置は聞いているわ、モモンガの場所もね。早くどいて頂戴」

それを聞いて道を開けるとナハトはなにも言わず、エレベーターを降りていった。
キリヤナギの方向オンチは天性だ、それでこそ見慣れた道ですら迷わせる程に……。
普段ならホライゾンの様に誰かがついて行って回避出来るのだが……。

「デバイス持ってるからって、安心したんだろ……油断ならねぇな」

全くカロンの言うとおりだと、ジンは思った。
その後5人は、ラウンジへと移動し、カロンがあらかじめ頼んで置いてくれたホールケーキを頂いた。
4年振りの誕生日ケーキに懐かしさを覚え、ランカーになる前の話に花を咲かせる。
同じアーチャー部隊のリゼロッテの話によると、難しい任務ばかりこなしてきたジンは、
技術面での嫉妬と態度で、同僚から距離をおかれて居たらしい。

「女の子には人気あったんだけどねー。一匹狼で、でも誰かが変な噂流してみんな怖がっちゃってたわ」
「噂?」
「任務で毎回、人殺しをしてるって、上と仲が良いから揉み消してもらってるってね」
「……!」
「ランカーになって、始めて話したけど、アンタは性格的に、殺人は出来ないタイプだね。それでこそ、自分を殺そうとした相手ですら、躊躇うぐらい。だから確信したの、唯の噂だってね」
「そうだったんですか……」
「ま、私も現役のときは、隊長にくっついて任務に走ってたし、話す機会も無かったしね」

今更になっての事だが、あながち間違っては居ないことに少し驚いた。
治安維持部隊でジンの過去を知るのは、キリヤナギとホライゾン、
そして目の前に座る、ドミニオンの彼のみのはずなのに、噂とは怖いものだと思う。


「どうした? ジン」
「あ、すいません、何でもないです。カロンさん」
「あんま気にすんなよ。終わった事だろ」
「はい。ありがとうございます」

ありがたい言葉だ。
しかしそれでも、なかなか自分の事を話せないのが悔しい。

「とりあえずだ。せっかくの誕生日だし、急ぎでいいもの買ってきてやったぜ」
「い、いいものってカロンさんそんな……」
「気にすんなよ。ほんの気持ちだよ」

そういって足元から取り出されたのは、茶色い瓶。
悪路酒とラベルが貼られているそれは、酒場でも高級なものと言われるお酒だ。

「さ、酒!?」
「そうそう20歳といえばこれだろ! 持って帰って相方と飲め!」
「あら、悪路酒じゃない。いいわねぇ~」
「始めてのむなら、これぐらいの酒じゃねぇとな。なんなら此処で開けてもいいぜ?」
「ここ本部ですよ!?」
「大丈夫だって。俺らランカーだし!」
「あ、でもカロン。飲むのはいいけど、キリヤナギちゃんの用事が終わってからの方がいいんじゃないかしら」
「そういえばそうだな。あとにしとくか」

相変わらず自分そっちのけで進む会話に、突っ込む勇気がでない。
机の上に置かれた酒は、2リットルはあるだろうか。
大勢で飲むために持ってきたらしく、どうやって処理しようか悩んでしまう。

「それじゃ、私からもプレゼントよ!」
「り、リゼさんも、すいません」
「ふふ、もう少し時間があればよかったんだけどねー」

不敵な笑みの後ろから出てきたのは、大量の箱だった。
宝箱ではなく、紙の箱。
いつも銃のメンテナンスをしているジンならわかる。
実包の100発セットパックが3箱。色の違いで4種類あった。
これを見た瞬間ジンの目が輝いたことに、3人は目を丸くする。

「まだ発売してない最新型の実包。属性弾よ。
知り合いに、使いたいって言って回してもらったんだけど、ストライカーの属性矢並みの威力は出たわ。
腕のいいガンナーさんが誕生日なのって言ったら、各属性300発ずつ格安店で譲ってくれたの。
これだけあれば、正式販売まで持つでしょう!」
「すっげぇー!! 属性弾ですか! 初めて見た!」
「内部構造としては、弾丸の先端部分に召喚石の欠片を込めて、加工した感じかしら、
手間がかかっている分、少しお高いけれど、その分の威力は保証する。
属性なんて、いままでストライカーの物だったけれど、これで狩りのときも楽になるんじゃない?
「うわぁ! ありがとうございます! いつも威力が出なくて、すっげぇ困ってたんです!」
「人と人外じゃ、生物の構造が違うのだから当たり前でしょう。
あんたのハイロゥも、人外用に火力あげればいいのに」
「ハイロゥは十分過ぎるぐらい威力ありますって!」
「威力はあっても、突き抜けたらそんな致命傷にならないでしょう。
やるならマガジンの実包全部使いきるレベルで打ち込まなきゃ」
「そんな大量のマガジンなんて持込ませんよ」
「いつまでもボルトアクションなんて使ってるからでしょう。
旧型なんだから、さっさと連射式のアサルトライフルに変えちゃいなさいよ」
「ボルトアクションだから! 撃ってるって感じがするじゃないですか!
連射式じゃ、反動が大きすぎて狙った場所に当てられないですよ!」
「そんなちっさい的に当てる機会すらないでしょうに」

不毛な言い合いに、他の3人がぽかんとしている。
カロンがナビゲーションデバイスの着信音をわざと鳴らしたところで、二人の口論は止まった。

「とりあえず演習では使っちゃだめよ」
「わ、わかりました」
「ジンさん。銃だいすきなんですね!」
「え、あ、うん。すき……だな!」

カルネオルに言われると、何故か止めを刺された気分になった。

「ジンさん。僕からのも受け取ってください」
「え、カルネくんも……」
「はい! 今朝産まれたばかりの子なのですが……」

生まれたばかり?
よく分からなかったが、差し出された両手に4人は釘付けになった。
丸くふわふわしたそれは、黄色い体表をもち、ぴよぴよぷぷぷと鳴いている。

「あら、かわいい」
「ココッコー……」
「はい! 実家でコッコーがたくさん居て、時々その卵が孵るんです!
よかったら、里親になってもらいたくて……」

ペットか、ストライカー時代に、訓練の一環でロック鳥を育てたことはある。
現在では返却してしまったが……。

「だめですか……」
「いや、嬉しい。ありがとうカルネ君。でも俺、居候してて……」
「それは確かの複雑ね」
「鳥嫌いではなかったとおもいますけど……ちょっと心配というか」
「じゃあ、直接聞いて見たらどうだ? 現物みたら考えるだろう」
「そうですね。カルネ君、サンキュ」
「えへへ」

そういって机に乗ったココッコーは、食べかけだったジンのケーキをついばみ始める。
くちばしに真っ白な生クリームをつけて一生懸命啄む姿は、実に愛らしい。

「ジン」
「リカも?」
「これ、カナトさんと食べてくれ。俺は苦手だからな……」

そんなリカルドの右手にあったのは、にんじん8本とだいこん2本と葉っぱつきじゃが芋10個だった。
そのあまりの存在感におどろいたが、野菜嫌いのリカルドにとっては、処理が難しいものかもしれない。

「サンキュー、リカ。カナトも喜ぶぜ。でも野菜苦手なのになんで……?」
「特売をしていると、つい買い込んでしまう……食べなければいけないのだが……」

よく分からない病気だなぁと、ジンは素直に感想した。
そうやって机は何時の間にかものでいっぱいになっていて、ケーキが場所を追いやられているほどだ。
こんなに沢山。持って帰ることが出来るだろうか。

「幸せ者だなぁ! こんな沢山貰って」
「はい、もうどうお礼言えばいいか……ありがとうございます」
「もうここまできたんだから、もう少し力抜きなさいよ」
「え……」
「いっそ敬語じゃなくていいのよ? 昇格したんだから」

そういえばそうだった。
以前書類を提出し、一応”実働兵”から”少尉”へ昇格したのだ。

「ジンが俺より上官ねぇ、偉くなったな」
「半ば給料目当てですけど……」
「いいんじゃない? 別に私たちも、昇格許可は降りているし、人は使うより使われた方が楽だしね」
「でもじゃあジンさん。なんで敬語なんですか?」
「そりゃ、年上だし……なんというか言葉きたないタチなので……」
「良いわよタメ口でも、ランカーで気にする人なんて、セオぐらいしか居ないわ」
「そ、そうですか?」
「あぁ、かまわないぜ?」
「なら、とりあえず……これからも、よろしく!」
「なに照れてんだよ! こっちも恥ずかしくなるだろうがっ」

複雑ではあるが嬉しかった。普通といえば普通だと思う。
だが、ジンにとってはある意味、普通ではなかった。
そんなやり取りをやっている内に、カロンのもとへメールが一通届く。
内容はキリヤナギがようやく本部へ戻ってきたと言うことだった。

「キリヤナギが戻ってきたみたいだぜ?」
「思ったより、早かったわね」
「総隊長なら、ある意味仕方ないとは……」
「まぁ、総隊長だしな。どうする。いってくるか?」
「そうっすね。そろそろカナトも起きるし、一応メシは作って来たけど……二度寝されたら」
「相変わらずだな」

そういってジンは、4人に荷物を任せ総隊長元へと向かった。
途中のエレベーターにて、帰還したばかりのホライゾンと鉢合わせし、
すこし複雑な心境になったが、彼も急いでいたらしく、少し挨拶しただけで終わった。
何のために呼び出されたのかは、未だに良くは分からない。
だが、総隊長が呼び出したのだから、ジンは覚悟を決めつつ扉を叩いた。

帰って来た返事が思いのほか大きくて、ジンは恐る恐る扉を開ける。
ぽんっと響いたのは、本日三度目のクラッカーだった。

「あれ? びっくりしない……」
「えっ、あ、ごめんなさい! ありがとうございます」
「おめでとう! ジン!」

いつもの満面の笑みだが、この笑顔には何故かいつも不安を感じる。

「僕が呼び出したことは、受付まで言わないでって言っといたんだけど、やっぱりばれた?」
「いえ、受付で知りました……」
「そっか。よかった。今日は非番だったし助かったよ」
「あの、用事は……?」
「うん。僕からの個人的なプレゼント!」
「へ!?」
「毎年、ランカーのみんなにプレゼントしてるんだ。みんな頑張ってくれてる人だから」
「そ、そうだったんですか……」
「でも内緒だよ。びっくりさせたいから」

この人のいう言葉は本人に対して絶大な信頼があるが、他の人物から見れば信頼度皆無だ。
そんな返答に困る会話をしていた時、ノックと共にもう一人のガーディアンが、部屋へ入ってきた。
先ほどエレベーターですれちがった、ギルドランク1stのアークタイタニア・ガーディアンのホライゾン。
彼は両手では余りそうな長方形の箱を持ち込み、机へと置く。

キリヤナギはすぐに開けようと手を延ばしたが、ジッと見ていることに笑みを見せ、思わず赤面。
相手は楽しんでいるらしくどこか複雑だ。

そうして、ゆっくりとフタが開けられ、出てきたのは、剣だった。
1メートルはある、長いブレード。
青い背をもち、持ち手が菱形をして居る。長剣にも見えたがギリギリで短剣の長さだろうか。
そこまで確認した時、ジンは持ち手にある引き金と、ブレードの背にある銃口に目を丸くした。
ブレードと銃口。銃剣だ。

「バレットセイバー。無限回廊の下層から出土したものを解析して、現在のパーツで組み直してもらったんだ」
「銃剣……!?」
「うん。大昔に使われていた武器で、今まで歴史書でしか無かったけど、
今回初めて現物が出てきたから、どんなものかなと思って」

まじまじと見る。
艶のある光沢を放っている刀身は、触れれば指先が切られてしまいそうなほど鋭利で、
駆動部分も実にシンプルな構造をしている。
武器の上部にスライド出来そうなパーツがあるため自動装填タイプの銃か。

「もってみる?」
「い、いいんですか?」
「うん、ジンのだし」

そう言われ恐る恐る触れる。
白い反射光を出しており、触れて指紋をつけるのは勿体無いとも思った。
特殊な菱形のグリップを掴むと、銃とは思えないほど軽い。

「特殊な金属で出来てるんだ。
短剣と言うより、レイピアに近いかも、突き刺して撃つ感じなのかな?」

短剣にしては長く、長剣にしては短くて軽い。
垂直にそれを掲げ、刀身を見上げた時、ジンは初めてその扱い方法を理解した。
突き刺して打ち込む。
0距離接射が前提の武器か。ならば使う場合、戦うスタイルが大幅に変わってくるだろう。

「短剣は使えるんだよね?」
「はい、ある程度は……でもこの武器は…」
「だよね……強そうなんだけど、だれも使えそうな人が居なくてさ。スカウトの人たちも刀身が長すぎて使い辛いっていって投げちゃったし、アーチャーのみんなも、どうせならライフルにしろっていわれるし……」

たしかに、治安維持部隊のアーチャー部隊の訓練は、自衛として短剣の扱いも教え込まれるが、
それは短剣の使い方であって、この銃剣の扱いではない。
0距離で発砲など、銃である必要はないからだ。

「そんなかんじでウチでは使えそうにないんだよね。
でも一応、大量生産の発注はしたから、趣味武器として売り出そうと思ってるんだ。
あ、これはプロトタイプとして最初に作った特注品だから、売られるものより強度は強めだよ」
「強度ってどのくらいですか?」
「うーん。マエストロの師範に、本気で作ってって頼んだら、一緒に出てきた回廊の素材で作りたいって言われて……」

嫌な予感がした。

「冒険者へ市販されている武器じゃ、傷一つ付かなくなっちゃった」
「良いんですかそれ!?」

つまり、ランカーの武器並みの耐久力があると言うことか。
本部の武器ならまだしも、ランカーの武器でもないこれを自分がもってもいいのだろうか。

「いいよいいよ。ジンはランカーだし、それに斬撃も銃撃も、
威力面では普通の短剣と普通の銃だから、もしも時の防衛手段にしても良いんじゃないかな」

つまり使い方次第では、最強になりかねない武器と言うことか。
全ての武器の共通する唯一の欠点。それは破壊されることだ。
どんな銃でも、筒が破壊されれば暴発するように、剣も刀身が壊されれば斬れなくなる。
つまり破壊された時点で、こちらの負けは確定してしまうのだ。
そのため大半の冒険者は、メインの武器と同時に予備を所持している。

「総隊長。これの内部構造のマニュアルは――」
「あるよ。ジンに渡すっていったら、助手さんが大急ぎで作ってくれた。仲良しだね。
あ、専用ケースもあるよ。肩掛けタイプと腰につけるベルト式」
「ありがとうございます! 総隊長」
「うん。大事にしてね」

綺麗な武器だ。
使ったことはないものの、考えれば考えるほどワクワクしてくる。

「今日はこれからどうするの? お昼だけど……」
「あぁ、用事があるので、そろそろ戻ります」
「そっか、誕生日。楽しんでね。この一年間も、ジンにとって幸せな一年であるよう祈ってるよ」

この言葉にジンは何も言わず一礼した。
ホライゾンにも頭を下げ、ケースに入れてもらったバレットセイバーと共に部屋を出る。
ホライゾンはそんなジンの足音が消えるほぼ同じタイミングで、口を開いた。

「楽しそうですね」
「うん。楽しいよ。ジンのこと好きだし、喜んでくれて嬉しかったなぁ……」
「バレットセイバーのあの強度は、普通のモンスター戦のものではありませんよ」
「わかってるよ」
「あれは対人用。殺人のために作られた武器です。
攻防一体の武器、敵の攻撃を防ぎ、反撃する為に作られたもの……」
「だね。過去の内戦時代に開発されたものだ。でもジンなら、うまく使ってくれるよ」
「対人にですか?」
「僕達は冒険者を守る組織だよ? 対人以外に何があるんだい?」
「……そうですね」
「でも、そうだね。ジンには死んでもらったら困るから、色んな意味で」
「ならあえて聞きますが、何を考えておられるんです?」
「うーん……"世界征服"かな」

にっこりと笑う総隊長に、ホライゾンは呆れるしかなかった。
相変わらずこの人は何をいうか分からない。

キリヤナギの執務室から出たジンは、バレットセイバーを片手に、ランカーたちが待つラウンジへと戻ってきた。
大きめの武器を持って戻ってきたジンに、4人は目を丸くし感心したように声をあげる。

「ほぉ、これが銃剣かぁ……よくできてんな」
「火力というより防御武器みたいで、まだサッパリ……」
「つかっていくうちに慣れていくものでしょ、私もキリヤナギちゃんにたのんでみようかな」
「うわぁ……。かっこいいですね!」
「ジン、似合ってる……」
「サンキュ」
「それじゃまぁ、用事もおわったことだし、お楽しみといこうかね……」

にやりと輝くカロンの笑みに、ジンは思わず冷や汗を流した。
なんとか回避しなければ、

「か、カロンさん。あの、俺、カナト待ってるんで帰りたい……」
「カナト? なんか約束でもしてんのか?」
「いや、二度寝されたくなくて……」
「あぁー、だからか……」
「なになに? カナトってジン君の相方?」
「そうそう」

そうやってカロンが間にはいり、彼は簡潔にカナトのことを説明してくれた。
朝は起きず昼まで寝ていることと、昼寝をすると基本5時間はねること。
先日3時間でおきてきて驚いたが、12時間睡眠は健在だ。

「それじゃあ、しかたねぇなぁ」
「もうしわけないっす」
「カナトの家でやるか」

へ?

「あら、カロン、名案じゃない!」
「だろ! だからジン、つれていけ」
「う、うちですか!? そんな突然……」
「いいだろー。見たことはあるが、話したことはないし、この機会にぜひ会わせてくれよ」
「え、だけどあいつ……」
「なんかあるのか?」
「……な、ないです」
「そっか、じゃあいくか!」
「ボクもいっていいですか!」

断る理由がないことがこんなにも苦しいとはおもわなかった。
しかし、どちらにせよ一人ですべて持って帰ることはできないし、カナト次第では断ることはできるか……。
そんな淡い期待を胸に、ジンが食べかけのホールケーキを包もうとした所、
自分が座っていた席に、白い箱が置かれていた。
見覚えのない家紋と黒いリボンがあしらわれている。

「あの、これ誰の?」
「あれ? そんなもん、さっき無かったぞ?」
「リボンってことはプレゼントじゃない? 開けてみなさいよ」
「でも、誰のものかも分からないのに……」
「中身確認してわかる場合もあるだろ」

カロンのいう通りだ。
幸いフタは固定されておらず、ジンは机に置き直しそっと蓋を取った。
白い紙に包まれていたのは、淡いバラの装飾が施された銃ホルスター。
二丁用に二つはいっていた。

「へぇー、銃ホルスターじゃねぇか。しかもこれ数の少ないブランド品だぜ」
「カロンさん。しってるんっすか?」
「おう、貴族さん御用達の老舗で作られるオーダーメイド品で、すっげぇ丈夫なんだ。
防弾素材で作ることもできるらしい」
「なんでそんな高級品が……!?」

ふと箱の中を見直すと、脇に小さな二枚折りの紙が挟まれて居た。
〝Jing”という綴りと共に、発注されたリクエストのリストが参照されている。

「やっぱおめぇのじゃん」
「でも、誰が……こんな高いもの」
「さぁ~。ランカーの誰かとしか思えねぇけど、俺じゃないぜ? 金ないし」
「実働兵の給料じゃむりね、これは」
「僕も違いますよ」

リカルドをみても首を傾げるだけだ。
どうしたものかとも思うが、放置しておく訳にも行かないため、
梱包を崩さないように持ち帰ることにした。

結局ジンは、4人に荷物を頼んで、重い足取りで自宅へともどってくる。

ちゃんと起きて、着替えていてくれと心から願い、ジンは後ろに4人を待たせて扉を開けた。

「……ジン」

閉じた。
おきていた。おきていたが、寝巻きのまま、ひどい寝癖でいつもどおりのカナトがいた。
ほっといたら二度寝されるパターンでもある、眠そうだった。

「どうした? ジン」
「すいません。ちょっと目冷まさせてくるんで……」
「おきてたのか、よかったじゃん」

そういわれつつ、ジンは一人で自宅へと戻った。
自分でコーヒーを入れようとして、立ったまま寝かけているカナトがいる。
動かないので無理矢理どかし、コーヒーだけ入れて渡した。

「カナト、表に本部の関係者がきてんだけど、入れていいか?」
「……」

首をかしげている。
眠くて頭が回っていないのか、いつもどおり過ぎて、対策も思いつかない。
ちびちびとコーヒーを飲むカナトは、何かしらあせっているジンをみて、不安を覚えたのか、
眠そうな目のままボソっと口にした。

「好きにしていい……」
「悪い……サンキュ。とりあえず目覚めるまで自分の部屋に……」
「……ごはん」

あきらめたくなった。

「ジンー。まだかー?」
「ジンくーん」

そういって扉を開けられ、ジンは全てをあきらめた。
入り口に現れた4人に、カナトは驚いた様子もなくぼーっとそちらをみると、「誰?」とこちらに聞いてくる。

「本部の関係者だよ……俺の誕生日にわざわざ……」
「誕生日?」
「……とりあえずメシ出すから座っとけ」

おじゃまします。という言葉とともに4名が自宅へあがりこむ、
カナトは彼らをみて、ようやく理解してきたのか、一度コーヒーをもって自室へともどった。
扉が閉まり、家主がいなくなったところで突然カロンが肩をくむ。

「あいつ、いつもあんななのかい?」
「はい。起きたばっかは……」
「超かわいいじゃないの! なんで今まで会わせてくれなかったのー!!」
「とても眠そうでしたけど、大丈夫ですか?」

当然といえば当然の反応だ。
タイタニアの中でも階級の高いアークタイタニア達は、冒険者の中でも一割に満たない。
そんな希少な種族がジンと同居しているのだから、驚かれても仕方がないだろう。
案の定質問攻めにあい、職業とか趣味とか好きな物とか性格とかを細かく聞かれ、
カナトが戻ってくる頃には、げんなりしてしまった。

等の本人はちゃんと着替えてリビングへと戻ってきたのだが、
ネクタイジャケットのネクタイが締められておらず、肩の位置もずれている。

「眠い……」
「大丈夫かい?」

カロンに声を掛けられうつろな目でじっとみる。
何も発言しようとしないカナトに、カロンは不思議そうな視線を送ると、
結べていないネクタイを締めて、ジャケットも直してくれた。

「これでいいか?」
「ありがとう……」
「カナト! メシ!」

ふわふわと不安定な動きで、カナトが席に着いた。
これをみたランカー組みは、まずい時間にお邪魔したことを察したらしく、4人で絨毯に座る。

「ジン……なんていうか。悪い……」
「ちょっと本当におじゃまだったみたいね……」
「カナトさん朝よわいんですね……」
「……ジン。大丈夫?」

いろいろと手遅れだが、仕方がない。
カナトに二杯目のコーヒーをだしたジンは、どうしたものかとあたまを抱え、無言で昼食を食べているカナトを見ていた。
すると、目があったカナトは、キッチンの戸棚の上を指差す。

「お茶ださないのか?」
「へ、あぁ、分かった」

目が覚めてきたのか。
来客がいるにもかかわらずカナトはいつもどおりだ。
そこから序々に意識がはっきりしてきたらしく、食器を自分で片付け始める。

「ジン、俺は席をはずした方がいい?」
「いやいや、カナト君。君も一緒にいようぜ?」
「? 貴方は?」
「おう、イクスドミニオン・イレイザーのカロン。ランキング2ndだ。ジンからいろいろ聞いてるぜ」
「ランカー……治安維持部隊ですか」
「私は、7thのイクスドミニオン・ホークアイのリゼロッテ。よろしくねん」
「ボクは10th。アークタイタニア・グラディエイターのカルネオルです!」

「タイタニア・ジョーカーのカナトです。……ようこそ、見苦しいところをお見せした」
「突然、悪い……」
「? 構わない。……この時間はいつも起きられない。今日は何用で?」

「ジンの誕生祝いで、ちょっとね。お酒煽らせてやろうとおもって」
「カロンさん……昼からですか?」
「別にいつでもいいだろ。カナト君もどうだい?」
「酒……あまり進んで飲んだことはありませんが……」
「なら、なお更、味を覚えておくべきだぜ」

「っていうか、カナト。お前何歳だっけ? 一応20歳からしか飲めないことになってるんだけど……」
「80歳だが?」

……。

「失礼した。エミル界でいうと、18~20歳前後と認識していただけるとうれしい」

カルネオル以外の全員が言葉を失った。
そういえばタイタニアは、エミルやドミニオンよりも長命だ。
成長の速度もそのぐらい遅いのだろう。

「カルネ坊は……。何歳なんだ?」
「ボクですか? ボクはエミル界でいうと11歳ぐらいですよ?」

実年齢を聞くのが怖くなり問うのをやめた。
カロンはジンに小さめのコップを持ってこさせると、カロン、リゼロッテ、ジンに酒を注いでいく。
カナトはおきたばかりなので、ジンがとめてやめさせた。

「じゃあま、20歳おめでとう。ジン君」
「ありがとうございます。カロンさん」
「ついでに昇格もね」

改めて言われるとやはりうれしい。
カナトはまだ眠そうだが、しばらくすれば目もさめるだろう。
深く考えることなく、ジンは初めて透明なアルコールに口をつけた。
熱い、口に入った液体がのどに流れ、熱を帯びて落ちていく。
これが酒か。

「くぅ~やっぱうまいね。悪路酒」
「本当ね~。しみるわぁ」

そんな二人の会話をジンは理解することができなかった。
舌に触る独特の辛味が一瞬で、確かめる為に何度も口へ含む。
そうしていると、いつのまにか紙コップの中身はなくなっていた。

「ジン?」

名前を呼ばれた。でも頭が重くなり、返す気力が起こらない。
カロンならきっと自分のことをわかってくれているし、このぐらい気にしなくても平気だろう。
うっすらと眠気も差してきて横のカナトにもたれる。
カナトなら平気だ。リゼロッテがいるので、女性恐怖症がでないか不安ではあるが、カナトはカナトなりに回避しようとするとおもう。

「どうした?」

どうもしない。
ただ眠いだけ、すこし体重をかけすぎたのか肩からすべって、カナトの膝に倒れてしまった。
ちょうどいい高さだ、気分がいい。

「大丈夫か?」

大丈夫。なんともない。

「なんかいわねぇと、わかんねぇぞ?」

あぁそうか。でも、起き上がるのは少し億劫だ。

「平気です……」
「そっか。ならいいが……」

後ろで数名が何かしゃべっている声が聞こえる。
でも、その内容はよく分からなかった。分かりたいともおもわなかった。

「気分はどうだい?」
「……悪くはないです」
「そっか……少し回っちまったみたいだな」

よく分からない。
気分は悪くはないし、むしろ良いとも思えた。

「俺たちがランカーになって、そろそろ一年だなぁ。色々あったけど、やっぱり不安だったりしたかい?」
「……ランカーになる上での不安はありませんでした、ただ……」
「ん? 聞いてやんぜ。話してみろよ」

聞いてくれると言っている。信頼できるだろうか。
でも、ここで話して嫌われた方が、本部を離れる時に、心残りはないかも知れない。
そう思うとなぜか一瞬心が軽くなり、ジンは、すこし息を吸って口を開く。

「また、人を殺さないか不安です」

その場にいた全員が息を呑み。空気が冷えた。
意味を理解するのに時間がかかったのか、だれもが手を止めてこちらをみた。
しかし、ジンにとっては予想通りの反応であるため、無心で述べる。

「俺は人殺しです。だから、傷つけることに抵抗を感じない」
「それはどうしてだ?」
「4年前に人を殺したから……」
「……何故殺したんだ?」
「ゲッカを守りたかった……」
「なら、正当防衛だろ?」
「人殺しをした事は同じです。だから……俺はまた、誰かを殺してしまうかもしれない」

4人は言葉を失うしかなかった。カナトも驚いて絶句しているのが分かる。
酒でリミッターが外れたことは分かるが、そこまで思いつめていたのか……。

「傷つけたいとは、思いません。……でも、そうしないと――」

自分が殺されると言う危機感か。
染み付いた防衛本能は、そう簡単にぬぐいきれるものではなく、
必要以上に攻撃してしまうのも分かってくる。
少しずつかすれていく声は、ジンの心を映しているようにも聞こえた。

「殺したくない。でも、仲間が殺されるのは、もっと嫌だ。だから……」

うつろな瞳でこぼれた涙を、カナトは見たくなかった。
でもそれでも、じっと言葉を受け止める。初めて見た、ジンの涙だから……。

そんな様子を見たカロンは、泣き出してしまったジン宥め、優しく言葉をかける。

「大丈夫。お前に人は殺せないよ。……変なこと聞いて、悪かったな」
「……」

そういいわれジンは安心したのか、うつろだった瞳を閉じてしまった。
そこから数秒だった頃には小さく寝息をたて、カナトの膝を枕にしたまま眠ってしまう。

「カナト君、知ってたか?」
「過去については聞いていました。しかしここまで思いつめていたとは……」
「本部じゃ、本音は話せないしな……」
「まさか、このためにお酒を?」
「いや、ちょっとしたノリだよ。泣き上戸だとは思わなかったけど……」

楽しそうに笑うカロンをみて、カナトは少し呆れた。
しかしそれでも、秘めていた事を知れたのは大きいか。

「カナト君も飲むかい?」
「いえ私は……結構です。家事がありますので」
「あら残念」

そうして、コップ一杯で潰れてしまったジンを枕に寝かせ、3人は帰路に入ることにした。
主役が眠ってしまった以上、やることがなくなってしまったからだ。
リカルドは一人、家に残って家事をしてくれている。
そこから、3時間ぐらいたっただろうか、リカルドとともに晩御飯の献立を話し始めたころ。
毛布を掛けられていたジンが、ようやく目を覚ます。
ひどい頭痛があるのか、「うー」とうめき声をあげ、隠れていたココッコーが、頭にのってきた。
まるでジンを起こすように、ぴよぴよぷぷぷと鳴くと、ゆっくりと起き上がり、
ココッコーが転がり落ちる。

「いってぇ……」
「おきたか」
「カナト……リカ。俺どうなったの?」
「酒で潰れた」
「あぁー。悪い……」
「大丈夫?」

頭がぼーっとする。思いのほか、調子はいいとは言い難い。

「泣き上戸だな」
「へ?」

思いも寄らないリカルドの発言にキョトンとした。
カナトは不思議そうな顔をしてこちらを見ると、まじまじと顔を見てくる。

「覚えてないのか?」
「カロンさんとちょっと話したとこぐらいなら……いい気分だったんだけど……」

泣き出したことは覚えていないらしい。最初から、度の強い酒を飲み体が驚いたか。
置き去りにされたココッコーがジンのあぐらに乗ってきて、
存在を主張するように、ぴよぴよぷんぷんと声をあげる。

「ココッコー……?」
「あぁ、カナト。こいつ飼っていい?」
「構わないが、私はわからないぞ?」
「サンキュ。何とかなるって」

「いつものジンだな。よかった……」
「? リカ、俺なんかしたか」

首を横に振る。
意味深な発言だと思ったが、やはり頭痛が酷いので、もう少し横になっていたい。
放置されていた枕へ再び顔をうずめると、脇に入ってきたカナト目があった。

「おめでとう。ジン」
「……サンキュ」

その後、晩ご飯の支度はリカルドとカナトに任せ、ジンは自室で休むことにした。
そしてその日、彼は過去の夢を見る。
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本編 | 【2012-10-07(Sun) 18:00:00】 | Trackback:(0) | Comments:(0)
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