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(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

二人の一年間の話
出演:カロンさん。カナサさん。ホライゾンさん。スイレンさん。

ロケ地:ギルド元宮

あらすじ
ランカーの親睦会が終わり、ジンはカナトと二人で生活することになる。
カナト自身のあまりの生活力のなさに呆れの感情を抱いていた。
一日20時間以上眠り続けるカナトを心配し、ジンは知り合ったばかりのカロンへ相談を持ちかける。

参考
カナトとジンが初めて会う話(前編)
カナトとジンが初めて会う話(後編)


 始めて彼とあったのは、ランカーの認定式だった。
私服でも構わないという話ではあったが、同じ部隊員としての立場を考え、
ジンは最後とも思える職服で認定式へ望んだ。
他のランカー達の殆どが私服で、少し後悔してしまったのがあったが、自分ともう一人、職服だった男性。
認定が始まる時に聞いた名前はカロン。
彼だけ他のランカー達とは違う雰囲気をまとい、自分同じ空気をジンは感じていた。
それがなんなのか未だに良く分からない。
しかし彼の持つ空気は、何故か安心ができて、自分も同じ人間であると再確認ができたのだ。

「アンタ、本部では見なかったな。名前は?」
「エミル・ガンナーのジンです。カロンさん」
「へぇ、なんでしってんの?」
「認定式で呼ばれますし、同じ職服だったんで……」
「あぁ、ちゃんとした服で来ようと思ったんだが、用意するのわすれてさぁーって、
ジン君って、あのソロ任務だけで5thの!?」
「え、はい。そうですけど……」
「がんばったなぁ……というか、ソロでここまでってことは中尉さん?」
「いえ、実働兵で昇格許可もないですけど……」
「は? ありえねぇ。普通少尉昇格なんて一年ちょっとで……」
「えっと……お、俺嫌われてたので、今年で四年目っていう……」

ある意味驚かれても無理はない。
昇格は基本的に、少尉以上の任務の経験と、隊長の評価から検討されるものだ。
隊の経験の無い自分は、基本的に昇格とは無縁で、機械的なポイント集計によって選抜された。

「隊経験なしでランキングだけ5thって……本当頑張ったなぁある意味すごいぜ?」

この人の感覚でいうなら、ゲームのファーストステージで、得点上限を目指すようなものだろうか。
三年という時間は長かったが、加入して始めての選抜へ滑り込めたのは、ある意味幸運だったのかもしれない。

「ランカーっていいましても、上の人みたいな経験はありませんし、そんなには……」
「何いってんだよ、対人の任務に経験も糞もない。問題なのは相手にした人間の数、ここが重要なんだ」
「同じに聞こえますけど……」

この言葉に、カロンが偉く不気味な笑顔を浮かべたのは忘れない。
今を思えば、質より量で稼いだと言いたかったのか。

カナトの家に居候を始め、ジンはある意味、全てから開放された気分だった。
部隊員としての給料はでるし、週間ノルマは気にしなくていい。
任期満了まで何もせず、だらだらするのもありだとは思っていたが、
遊べる程のお金はなく、動かなければ余裕もない。
部隊員としてやってきたジンは、本部の経験しかないので、冒険者は初心者に近かった。

そのため、経験者に話を聞かなければいけないのだが……。
その経験者は、一日15時間は眠る問題児でもある。
夜は21時に休み、起きるのは正午。酷い時は夕方まで起きない。
21時に休めば、お昼に起こしに行くとある程度起きれる事には、最近気付いた。
だが21時以降に眠るとだいたい夕方近くまで引きずる。

ここに住む前に、睡眠は12時間とは決めたが、すぐ治せないのも分かるので、あまりしつこくいう事もしなかった。
そんなカナトの生活週間を理解し始めた時。
ジンはなんとかカナトを外へ連れ出し、簡単な酒場の仕事をこなすことにした。
始めはカナトの悪癖が酷く、配達中に突然倒れたり、
採取の最中に昼寝をして行方不明になったりと、ある意味苦労の連続だったが、
部隊員として任務をこなしていた事を考えると、これ以上無いぐらいに平和で気楽な毎日だった。
しかし、そうして余裕がでてくると、逆にカナトへ心配の感情を得てしまう。

眠るだけならまだいいが、起きない。
それでこそ、死んだのかと思う事もあった。
今でこそ慣れては来たが、病気だったとしても、無所属のカナトは治療を受ける事は出来ない。
それだけが気がかりで、ジンの一つの心配でもあった。

「ジン……」
「ん?」

背中にぐったりとするカナトを背負い、ジンが帰路につく。
モーグ方面に配達へ行った帰り道だ。
今日は夕方近くに仕事を受け、徒歩でモーグへと向かったので現在は夜。
寝てばかりで体力が落ちていると思い、あえて徒歩を選んだ。
つい先ほどまでは、普通に歩いてはいたのだが、案の定、途中で眠いといってふらつき、倒れた。
モーグに着いた当たりからうつらうつらしていた為、頑張って歩いた方だろうとおもう。

「起きてるなら、歩けよ」
「無理……」
「はいはい」
「すまない……」
「きにすんな。お前がいなかったら今の俺は居ないんだから」

その言葉が届いたかはわからない、言い終わった頃にはすでに眠ってしまっていた。
その時の時刻は23時、次の日に駄目元で正午に起こしに行った所、
カナトは眠そうにしつつも起きたので、治す努力は認めていた。
しかし結局、その次の日には正午すぎても起きなかったので、
ジンは久しぶりに本部へと足を運ぶことにする。
目的は、光砲・エンジェルハイロゥのカスタマイズ。
支給された銃6丁は、短銃二丁づつの1セットとライフル2丁。
アーチャー部隊であるため、弓の支給もされたが、これは使わなさそうなので断った。

そうやって手に入れた6丁の銃の内、気に入ったのは烈神銃・サラマンドラと光砲・エンンジェルハイロゥ。
他の二種、魔神銃・アキシオンは、威力は申し分はないものの、反動が大きすぎて使いづらく、
穿竜砲・ヤタガラスは、銃とは思えないほどの威力ではあるが、
構造が複雑すぎて使いこなす自信が無かった。

5thランカーであるにも関わらず、光砲・エンジェルハイロゥを持ってきたジンへ、カスタマイズ窓口のマエストロが首を傾げる。

「あれ、ジンさん5thなのに、ヤタガラスではないのですか?」
「え、はい。こっちのがシンプルで使いやすいんで……」
「へぇ、先日、同じランカー7thのリゼロッテさんから、
ヤタガラス並の火力を実装しろってやかましく言われたところなんで、
てっきり貴方の武器を確認したのかと……」
「このライフルにヤタガラスって……構造的に無理がないっすか……?」
「私もそうだと思ったんですけど、あの人こちら側の人みたいで、
細かい稼働構造からパーツの色まで全部指定されてきてなんかもう……」

どんな銃マニアだ。人の事も言えないが……。

「それもうハイロゥじゃないんじゃ……」
「えぇもう完全に別物です。身分証明も兼ねてるのに、大丈夫か心配ですよ」

リゼロッテとは認定式以来であってない。
しかし、雰囲気からしてあの女性は肌に合わなかったとおもう。
そんな受付で話すマエストロは、本部時代からここでよく話す相手で、
銃についていろいろと教えてもらった。
今は修行中ではあるが、いつかは独立して武器を作るのが夢らしい。

「でも?武器は自分の肌にあったのが一番ですよ。
なれない武器を使って、もしもがあれば対応できませんし」
「俺もそう思います」
「ジンさんはランカーになって、私はもう少しかかりそうですが、しっかりと技術盗むので、ジンさんも頑張ってください」
「もちろん。期待してるぜ」

そうしてカスタマイズの書類をみた相手は、
あまりにシンプルな内容に目を丸くしたが、ジンらしいと言ってすぐに処理してくれた。
そんな用事を終えて、ジンがラウンジで食事をしようとむかうと、
ランク2ndのイクスドミニオン・イレイザーのカロンが、空いたお皿を放置して、机に突っ伏していた。
声を掛けるべきか迷ったが、一応認定式以来なので、挨拶だけはすることにする。

「カロンさん。こんにちは」
「……ん、お。ジン君か久しぶり!」
「お久しぶりです。お昼ですか?」
「おう、食ったら眠くなっちまってなぁ、ジン君も昼メシか?」
「はい」
「そっか、とりあえず座る?」
「あぁ、すいません。失礼します」
「あれから、また何か話したいと思って探してたんだが、寮じゃなかったんだな?」
「あぁはい。認定式の前日に手続き終わらせたので……」
「ふーん。実家ぐらし?」
「いえある意味、自宅です。居候してて……」
「居候って、……息苦しくね?」
「まさか、本部に居た頃よりは大分」
「へぇー、どんな奴なの?」
「え……えっと…」

首を傾げるカロンにジンは言葉に詰まる。
カナトはジョーカーだ、本部に知られてもいい事はない。

「もしかして、ジョーカーとか」
「は? ……なんでですか!?」
「ここに所属して、報告したくない相手といやぁ、そのぐらいだろ? あとは犯罪者とか……?」
「犯罪者じゃないですけど……ジョーカーです……」
「やっぱりか。まさか成績優秀だった君がジョーカーさんとねぇ……」
「ジョーカーといっても悪いやつじゃ無いですよ。真面目だし普通です」
「そういう意味じゃねぇよ。どんな奴なんだい?」
「うーん。寝てばっかの奴ですかね……」

カロンの表情がポカンとするのがわかる。
何故だろう。話せば話すほど墓穴を掘っている気がする。

「寝てばっかって……?」
「一日15時間近く寝て、起きないんですよ。それで……」
「15時間て……ねすぎだろ」
「ですよね……」
「病気か何かなのか?」
「体質みたいですけど、病気かどうかは無所属でどうしようもなくて」
「無理に起こせば、普通起きるもんだぜ? それでこそ病気だったら起きないからな」
「とりあえず、15時間前後寝れば起きれるみたいではあるので……どうなんでしょう」

微妙ではある。
出会った当初は本当に起きなくて、突然倒れてしまうのにも驚いた。
現在は、生活週間をつけることで大分マシになった気もするが、
それでも今日のように起きない時は起きない。

「まぁ体質なら生活週間だな。あと運動。メシ。朝日は浴びる。これだ。ジン君ならできるだろ」
「はい。一応それで改善には向かってるみたいです。唯まだ歩いてると、突然ぶっ倒れたりとか……」
「そりゃ問題だな。ある意味、本部にいた時よりも大変なんじゃね?」
「本部の頃は、自己習慣ノルマきめて必死だったので、それを思うと平和すぎてなんというか……」
「またハードルが高そうな……。でもそんな生活をしてたんじゃ、
対人の感覚なんて忘れちまうだろ」
「カナトが起きるまで時間があるんで、射撃場訓練は続けてます。
あと朝の自主トレ、でも、前線に立たなくなったので、対人の勘が少し不安ですが」
「へぇ、俺でよけりゃ、時間ある時に相手してやってもいいぜ」
「本当ですか!?」
「おぅ、けどま俺もそんなにだけど」
「いえ、ありがたいです。自分の身ぐらい守れないと、周りを守るなんて無理ですし……」
「さすが、よくわかってんな」
「俺だけ死んでも、つらいおもいさせるだけっすから……」

この言葉にカロンは微笑をこぼした。
結局その日は、夕方ごろまでカロンに付き合ってもらい。ジンは自宅へともどる。
カナトは起きていたが、料理をしようとして出来ず、台所をメチャクチャにしていた。
相変わらず虚ろで死んだような瞳。
カナトの感情は未だによく見えないが、気持ちは行動で理解できる。
夕食の準備をしようとしたのか、ジンはしゅんとしているカナトをみて、すれ違い様にのべた。

「サンキュ、カナ」

はっと、カナトが振り返る。
カナトが弟を呼ぶ時の愛称だ。よく覚えている。
驚いているのかと思い、ジンがカナトを見直すと、無表情で目に涙をため座り込んでしまった。

「な、ちょ大丈夫か!?」

声はない、唯涙のみがこぼれ、ポタポタと床へ落ちている。

「カナト……」
「実家で、弟と母上、そして父上と、共に暮らして居た時を思いだした……」
「……!?」
「とても……幸せだったと思う。だが私は勘当され、一人になった。とても……辛かった」
「……そうか、寂しかったんだな」

自らの感情を表す言葉に、カナトは救われた気分になった。
辛いとしか表現出来なかったものが、一つの感情であると理解し自身に教えるように、口に出す。

「寂しかった……」
「そ、そうか、突然出掛けて悪かったよ。ただお前だって早く起きねぇと、俺も行動出来ないぜ?」

うんとうなづく。その日からカナトは、めざましの音に大体反応ができるようになり、
21時前後に眠れば、遅くとも13時には目を覚ますことができるようになった。
微々たる変化であるもののある意味それは大きくもある。

「へぇー、改善してきたのか」
「なんとか、最近は深夜0時に寝て12時には起きれるようになりました」
「まだ12時間か、倒れたりするのかい?」
「それが、一ヶ月ぐらい前からそういうのを殆ど見なくなってて、暇になると眠ってしまう程度ですね」
「いい事だな、もう半年だっけ?」
「ですね。突然泣き出したり、キレるツボがわかんなかったりで、色々苦労はしましたけど……」
「泣き出してキレるって……」
「つ、つまりなんというか、感情がはっきりして来たというか……」
「よくわかんねぇが……」

変化そのものが微々たるもので有る為、やはり表現が難しい。
忘れられないのは、サウスダンジョンでみたカナトの死んだ様な瞳。
あの頃を思えば、今は大分改善し、生命感も戻ってきているようにも見えた。
月に一度、こうしてカロンと会うたびにカナトの話をしていると、
無意識な小さな変化も、不思議と大きく感じられた。
元宮をでて、中央広場に出ると買い物を終えたカナトが端のベンチに座っていた。
寝てしまわない為に、付近に売っていた新聞を購入し読んでいる。
集中力さえ続いていれば、眠らずにいられるらしい。

「待ってたのか?」
「買い物で近くを通りかかった」
「そっか、ゲッカもまってっし、帰るか」
「……元宮には、なにしにいってるんだ?」
「へ? 訓練だけど……」
「月光花さんが、ランカーに訓練はないと言っていた」
「あぁ、前線から引いたから体がなまるだろ? だから知り合いに頼んで、鍛えてもらってんだ。世の中物騒だし」
「前線?」
「本部の任務。対人がメインで違法者捕まえたりとか」
「必要なものなのか?」
「俺は、必要最低限は必要……だとはおもうけど……」

キョトンととするカナトにジンは困ってしまった。
よくわからない気持ちも、分からなくはない。
傭兵あがりで討伐や採取、運搬の仕事ばかりをこなしてきたカナトは、
未だ対人における危機的な状況に陥ったことがない。
ならば、その必要性を理解出来ないのはある意味当然だ。

「ま、あんま深く考えんな。俺が何とかしてやるよ」
「ジンが、前話していたことと関係があるのか?」

前に話したこと、数日前にジンは、カナトへ自分がアクロポリスに流れ着いた理由を話した。
帰る場所がなくなり、部隊で必死に訓練してきたこと、自分の手がすでに汚れている事も、ジンは話した。
遅いとは思ってはいたが、同居する当初、自分がどんな人間でも関係ないと言ってくれたことが忘れられず、
落ち着いてきたこの時期にようやく話すことができた。
下手をすれば出て行く覚悟もあったが、その時ははじめてカナトが怒りの表情を見せ、
ファーイーストにいくと言い出すので、気持ち的な意味でも落ち着くまで待てと言って止めた。

「まぁ、多少は……自分以外の人も守ろうとすると、やっぱ倍の技術はいるし、妥協したくないんだ」
「……手伝えるか?」
「気持ちだけで十分。お前は人外専門、俺は対人専門。適材適所のが効率もいいし、無駄もなくせる。頼りにしてるぜ」
「……わかった」

そうして庭を呼び出そうとした時、ジンはカナトの後ろで、何かが物陰に隠れたのが分かった。
カナトがキーを取り出し庭を呼び出している間、その影はひょこひょこと動いてこちらを伺っている。
カナトはどうやら気づいて居ないようだ。

「どうした? ジン」
「わりぃ、カナト。先に帰っといて、ちょっと用事を思い出した」

そう言い残し、ジンは遠回りをしてその影に近づく。
犯人はカナトが庭に消えるまで見送り、じっと眺めていたが、それを追って飛び立とうとした時に、ジンが腕をつかんだ。
突然腕を捕まれ、悲鳴をあげたのは、以前はちあわせしたカナトに弟。アークタイタニア・カナサだ。

「カナサくんだっけ、久しぶりだな」
「なんですか、貴方は!? ぼ、ぼくを誰だとおもって……」
「カナトの双子の弟だろ? こんな場所でなにしてるんだ? しかも一人で……」
「唯のエミルである、貴方にいう必要はありません」
「アークタイタニアは人口が少ない。攫われでもしたら笑い事じゃーー」
「あなたに心配される筋合いもありません。
それに僕は、なぜ兄上が、貴方のような人と一緒にいるのか理解ができません。
見たところ一緒に住んでいるようですが、あの家は僕が兄上に差し上げた自宅です。
速やかに出て行っていただけませんか!」
「出ていけと言われれば出ていくが……カナトから住んでいいって言ってきたんだぜ?」
「な"……貴方が兄上と住んで、なんのメリットがあるのですか!  信じられません!」
「メリットというか、なんというか。
自炊も洗濯も掃除もできない上、ましてや一日の半分が睡眠のカナトに、
一人暮らしが出来るとは思えないんだが……」

冷静に真実を述べたが、カナサは信じた様子もない。
むしろ更に視線を尖らせこちらを睨みつけた。

「兄上はそんな方ではありません。
僕たち兄弟は、万が一の時の為に、一般的なエミル族の文化を学び、一人でも生活ができるよう教えられてきました。
僕よりも優秀だったな兄上が……何もできないなんてあり得ません……!」
「そう言われてもだな……」
「貴方は兄上を利用したいだけなのでしょう! 僕には分かります! 貴方なんかより、僕の方が……」
「……カナサ。そうだな、君にそう思われても仕方ねぇとは思うけど……。
俺は、あいつをほっとけない。
俺がでてったら、まだあいつ自炊ができねぇし、病気しちまう可能性もあるから、暫くは様子を見たい。だめか……」
「だからそれが、信じられないと言っているのです……」

平行線だ。おそらく何を言っても受け入れてはもらえないだろう。
言える言葉がなくなり、ジンは小さくため息をついた。

「僕だって先日、ギルド評議会の冒険者連盟に加入しました。これで、貴女方と立場は同じです!」
「へぇ」

冒険者連盟は、一般的に職業ギルドに加入する冒険者が入るものだ。
これに所属することにより、冒険者は聖堂の機能を利用できたり、治安維持部隊の保護を受けることができるようになる。

「だから、貴方が兄上と一緒にいる必要なんてありません! 僕も冒険者です!」
「じゃあ、直接カナトに頼めよ。俺にいっても仕方がないだろ?」
「そ、それは……」

カナサが突然言葉に渋った。
ジンからすればよくわからないが、彼なりの事情があるのだろうか。
カナサの返答がなく、ジンがどうやって戻ろうかと考えた直後。
突然後ろから、カナサの名を呼ぶ老人が現れた。カナサは驚き、逃げるようにジンの後ろに隠れる。

「こんな場所におられたのですか? 本日のピアノのレッスンのお時間ですよ」
「バトラー! 僕は冒険者になると決めた。だから家には……」
「そのご決心はとても関心はいたしますが、カナサ様は将来、ルシフェル様のあとを継がれる大事な御人。
この世界の平和のためにも、貴方存在が必要なのです」
「でも僕は、兄上と一緒に……」
「カナト様を想われるお気持ちは十分に察しますが、カナト様だけでなく、
カナサ様までも家を出ていかれてしまえば、お父上のあとを継がれる御人がいなくなってしまいます。ここはどうか……」
「いやだ、僕は……」

お家事情も複雑であることは大体理解した。気持ちはわからなくもない。
しかし、後ろに隠れるカナサとは別に、ジンは目の前のバトラーに違和感を感じていた。
服の生地がえらく安っぽい。
カナトの父はたしか、天界の外交官だときいた、外交官はエミル界の政治にも大きく関与できる立場であり、
おそらくその執事も、天界の名誉保持のため、そのみなりを怠ることはありえないだろう。
カナサは本人だと間違えているようだが、礼服の艶、生地からみても、
市販で販売されている冒険者が気分できるものだ。
変装か……。本物がどこにいるのかはよくわからない。
しかし、不幸中の幸いは、カナサが言い合いをそっちのけて、自分の方に逃げてくれたことか。

「さぁカナサ様、帰りましょう」
「う……」

苦い表情を浮かべるカナサは、ジンを見上げる。
ジンは困ったように顔をしかめ、何も言わずカナサの前にでた。

「なんのつもりです」
「えっと……とりあえず、今は帰ったらどうです? 説得して、あとでおくっていくっすよ俺」
「何者ですか? 見ず知らずの方にカナサ様を預けるわけには……」
「治安維持部隊。ギルドランク5th、実働兵のエミル・ガンナーのジンです」

そう述べ、安全装置をかけたままの烈神銃・サラマンドラを取り出した。
街中で小競り合いを起こしたくはない。素直に帰ってもらえればいいが、

「何かあれば本部が責任をとりましょう」
「……」

無言で見上げるカナサ。
ジンは守るように手をおき、相手の動きに備えた。
バトラーと呼ばれたその男は、ジンを睨んだように視線を動かすと、

「……仕方ありません。カナサ様、本日のレッスンはお休みにすると先生にお伝えしておきますので、夕食にはお戻りください」
「……」

そっぽを向くカナサ。この言葉に、ジンはある意味ほっとした。
どうやら話のわかる相手ではあるらしい。
あとで顔を合わす必要があるかと思った矢先、敵が一瞬こちらをみたことを、ジンは見逃さなかった。
「今回は勘弁してやる」とも言いたげだ。
本気で狙いに来なかったということは、片手間で見かけたので、うまくいけば儲けものという話だったのだろう。
カナトではなくカナサであれは、うまくいけば身代金も攫える。

「とりあえず、カナトに会うか?」
「貴方にいわれなくても、ひとりで会いに行きます」

世話の焼ける弟君だが、貴族なんてみんなこんなものだろうとも思う。
カナサをつれて自宅にもどると、カナトは、待ちくたびれたのか机につっぷし完全に眠っていた。
説得してもらおうとおもったのに、これはあんまりだ……。

「兄上、兄上! カナサが参りました。起きてください」

起きない。それがカナトだ。
ジンは仕方なく、カナサへ紅茶をいれてテーブルへとだす。
その間も、カナトは起きる気配がなく、カナサはようやく諦め、カナトの横へと座る。
ジンはとりあえず、ジャケットをカナトにかけ、夕食の支度を行うことにした。

「兄上は、いつもこうなのですか?」
「あ、あぁ……暇になるとな。先に帰らせて放置しちまったし、買い物してつかれたんだろ」
「……」

何も言わない。起きない兄にカナサは複雑な心境のようだった。

「兄上……どうされてしまったのですか?」

問うように声をかけても、カナトが起きることはない。
結局そのあと晩御飯を食べて帰るかとも聞いたか、いらないと一点張りをされ、
諦めたカナサと共に、ジンは実家へと向かった。
道案内をされ、たどり着いた屋敷は、屋敷というよりも城にちかく、
庭から城までも広大な敷地がひろがっており、門前には、先ほどの敵、そっくりの人間が迎えにきた。
屋敷から出てきた人間は、皺一つ無い高級そうな礼服を纏っており、
ジンはある意味ほっとする。

「カナサ様!? どこへいっておられたのですか!! 屋敷内におられると思い、一日探して……」
「え、バトラー。さっき迎えに――」
「それじゃ俺、帰ります」
「はい。こんな場所までありがとうございました。カナト様によろしくおつたえください」

そんなやり取りをして、ジンはカナトの家にもどった。
不思議そうな顔で見送るカナサに振り替えらず、夜道を一人で帰宅する。
その日の夕食は、酒場でかったサンドイッチで済ませ、カナトは結局、次の日の正午に起きた。
12時に起きる癖がついてきたことに、改善の余地を感じ、
そこからまた3ヶ月ぐらいたった頃には、カナト自身も家事ができるようになっていた。
そのお陰で、討伐の仕事もこなせる様になり、今度は逆に本部へ行く事が殆どなくなった。

「そいや、ジン。最近来ないな。今日も久しぶりだし」
「はい、カナトが普通に生活できるようになってきて、最近は討伐の仕事ばっかやってます」
「なるほど、そりゃ忙しそう……というか普通の冒険者やってんのな」
「それなりに、ようやく家事もできるようになってきて、昼は俺、晩飯はカナトって感じで役割分担もしてます」
「楽そうだなぁー。うらやましいぜ」
「楽でいいんですけど、逆に暇が出来てきたっていうか、遊ぶにも遊び方わからないってか」
「へぇ。女の子とか興味わかないのかい?」

取っ組み合いをしながら、ジンがカロンの言葉に答える。
余裕はあまりないが、会話をするときはどっちもお互い様だ。
女性に関しては興味がないわけじゃない。
月光花とは長い付き合いだが、そういう目でみたことはなかった。

「ないわけじゃ、ないっすけど……今までそんな余裕なかったというか」
「ならこの機会に、いろいろおしえてやろうか……」
「マジっすか! あぁでも俺……」
「ナハトだろ? やめとけやめとけ! あいつと付き合っても自分の精神すり減らすだけだって」
「えぇ……」

そうして答えをしぶった直後、カロンが突然ジンの肩を組み小声で続けた。

「なら、本命は本命でおいとけ、それまでにやっぱ欲しいだろカノジョ」
「そ、それは……ほしいですけど」
「今時、経験値がステータスになることもあるんだぜ?」
「え、そうなんですか!?」
「当たり前だろ! そんな男と二人暮らしなんて現状、そういう関係が疑われても仕方ねーし」
「そ、それはマジ勘弁してほしいというかやめてください!」
「疑われてもしかたねぇっていってんだよ。珍しくないぜ」

ぞっとした。
カロンにいわれると、ある意味現実味が帯びてきて危機感を覚える。
カノジョができないのはそのせいか……。

「女の子はそのへん敏感だからなぁ……もう遅いかもしれないぜ?」
「……」

言い返せない。
変な不安がこみ上げてきて、ジンは言葉がでなくなってしまった。
そう言われて以来、女性についていろいろ勉強して、
月光花に直接とんでもないことを聞いて殴られたり、ある意味今まで以上に賑やかになりつつ、白い目で見られるようにもなった。

そう思うと、この一年間はあっというまで、ジンは思いを馳せながら久しぶりの元宮へ訪れた。
カナトの12時間睡眠は健在だが、それでも毎日が平和で、いつかこの時が、一番幸せだったと思いたいほどでもある。

そうしてジンは一人、治安維持部隊の総隊長の部屋へと赴いた。
しかし、ノックしても人の気配がなく、どうしたものかとつっ立っていると、脇から現れた長身の男性に思わず見上げてしまった。

「やぁ、ジン君?」
「ホライゾンさん! お久しぶりです」
「報告書引き受けたってきいたよ。お疲れ様だね」
「あ、ありがとうございます」
「総隊長は任務かな、いつも暇してるのに珍しいよね」
「え、えっとぉ……」
「なにか用事があるなら、僕が代わりに報告しておくけれど、どうかしたのかい?」
「えっと、書類を提出に来たんです。それで……」
「書類っていうと報告書かい?」
「いえ……」

目を合わせないジンをみて、ホライゾンはにっこりと笑顔をみせると、
「見せて」と笑い。ジンは遠まわしに脅された気分になった。
しぶしぶ、ファイリングされた書類をだし彼にみせると、ホライゾンは感心した声をだす。

「昇格おめでとう。ジンくん。いや、ジン少尉」
「あ、ありがとうございます……!」

ホライゾンに言われたことが嬉しくて、思わずうつむく。
本日、昇格書類を本部に提出したジンは、階級実働兵から少尉に昇格した。


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本編 | 【2012-09-25(Tue) 20:00:00】 | Trackback:(0) | Comments:(0)
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