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(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

カナトとジンが初めて会う話(後編)
出演:ホライゾンさん、カナサ君

ロケ地:ディメジョンサウスダンジョン

前回:カナトとジンが初めて会う話(前編)

あらすじ
生死を彷徨い、かろうじてダンジョンを脱出した二人。
ジンは努力が認められランカーに、カナトも羽が治癒しそれぞれの道を歩み始めるが、
突然ジンの元へ、カナトからメールが届く。


 マルクト船着場をでたジンは再び隠れよう脇へ移動したが、
突然カナトが"スタイルチェンジ"と"神の守護"を唱えだしギョッとした。
思わず武器を持ち、身構えたが、大群へ突っ込んだカナトは、敵の群れを両断すると共に、黒い光を召喚。
爆発を起こした。
切られた敵はまるで生命を抜かれたように動かなくなり消滅。脇に居たジンは、爆風で尻餅をついた。

噂には聞いていたが見るのは初めてだ。
ギルドに属さず、行動制限を持たないジョーカーは、治安維持部隊にとってもっとも厄介な存在であるため、
本部では危険人物として警戒しろと言われている。
その理由は、ジョーカーに殺されても文句が言えず、国際法の上で危険と判断されなければ、拘束することができないからだ。
座り込み呆然とする自分へ、カナトは近づいてくる。
差し出された手を取りジンは立ち上がった。

「つよいっすね」
「……入り口の場所は北東。最短距離で向かう」
「おう、前は任せた」

そうやって二人は、中央を堂々と歩き地下の入り口を探す。
驚くほどに無駄のない動き、確実に急所を狙う攻撃だ。
モンスター戦のプロか?

「……ここにくる前は、傭兵として各軍を渡り歩いていた」

なるほど、国会維持のためにモンスターを討伐する騎士団のバイトのようなものか。
それなら確かにあり得ないことでもない。
ジンはそんなカナト動きを見つつ、"精密射撃"を唱え、目くらましを撃ったり、近づいた敵を撃ち落としていく。
驚くほどに相性が良かった。拳銃の弾丸一発では、モンスターを倒せない。だが、カナトの攻撃なら倒せる。
なら、攻撃を当てやすいよう、敵の動きを止めてやればいいのだ。

「……ジン、ネクロアーマーとノーブルアーマーは、顔の札を狙え」
「はいよ」

言われた通りに打ち込めば、二体はまるで魂が抜けたように、動きを止めた。
あれを破ることで意思を失うらしい。

「ここからそんなに動き回って平気かよ。体力は持つのか?」
「……このスキルは、敵の生命力を吸収できる。動けば動くほど、戦える」
「便利だな。羨ましいぜ」

そう言ってジンは、"バイタルショット"を使い、ドミニオン背徳者の動きを止める。
連続突きのような素早い動きで、カナトは背徳者を切り刻んだ。
早い。部隊員に引けを取らないレベルでの殲滅力だ。
傭兵としてやって来た理由も十分に理解できる。
十分過ぎる程に強いのに、何故彼は奥へ進もうとしなかったのか。

あっという間に、サウスダンジョンの最北へたどり着き、ジンはもう一つの入り口へ触れた。
確かに見えない壁だ。真っ暗で空間が途切れている。
面白いのでペタペタ触っていると、カナトが突然身構えた。

「どうした?」
「さがれ、ジン……奴がくる」
「奴?」
「……悪魔だ。この階層の出口に巣食う敵。そのせいで、先に進めなかった」

思わず構えた。
東の通路からゆっくりと姿を見せたのは。黒と白の羽を持つ悪魔。
その殺気に身の毛がよだつ。やばい。
体がやばいと、逃げろと訴える。その気はカナトにもあるようだ。
だがこのままでは、逆に何もせず終わる。

「飛べ! カナト!!」

飛んだ。そのタイミングを狙い、ジンが催涙弾を放つ。
真っ白な煙が立つと同時、ジンは駆け出し、滑り込むように、通り抜けた。
当然、敵は追ってくる。闇の魔方陣が展開され、放たれたのはカオスウィドウ。
ジンは背中に喰らい。床に叩きつけられた。
振り向き、見上げれば目の前に敵がいる、酷い殺気だ。
自動式拳銃を両手で構えたが、魔方陣によって紫の槍が形作られて行くのに、さらにゾッとする。
そして完成した直後。ジンに向けて放たれた。
彼は身を動かすことで回避。たちあがり、全力で駆け出す。

「カナト!」
「急げ、この先だ!」

下の階層へ繋がる穴。
サウスダンジョン一階には階段がないのでどこも梯子で接続されている。
飛び込めば、逃げ切れるだろう。
そうして、カナトが下の階層へ消え、ジンも飛び込もうとした時。
彼の背中へ闇の槍が突き立てられた。

どんっという衝撃。突き落とされるのは二度目だ。
受け身も取れず、サウスダンジョンの地下二階へ叩きつけられる。
カナトは言葉を失っていた。叩きつけられた痛みはあったが、刺された痛みはない。
何故なら突き立った槍は、気流のように分解され、ジンの体に溶けたからだ。

「ってぇ……」
「動けるか?」

「あぁ」と大丈夫の意を伝えようとした時、突然胸が苦しくなった。
痛い。心が締め付けられる。負の感情。
抑えていたもの、その全てが身体中から湧き上がり、ジンは起き上がれなくなってしまった。

「おい……ジン!」

胸を抑え倒れこむ。
体そのものがそのストレスから守るため、強制的に意識を遮断させた。
完全に気絶してしまったジンへカナトは「馬鹿が」と口に出すと、後ろに居る大量の敵と対峙する。



ジンが目を覚ました場所は先ほどと同じ場所だった。
黒いマントを掛けられているのに気づき、ジンは思わず飛び起きる。
目の前にはカナトがいて、呆然としている自分を観察していたようだ。

「どの位寝てた?」
「……10分程」
「おれ、どうなったの?」
「ベルゼビュートの、闇の魔法を食らった。
死ぬ事はない魔法だが、受けた者の心身的なショックを思い出させる。
無害だとは思っていたが……」
「悪い……大口叩いときながら……」
「……酷くうなされていた」
「!?」
「……」
「聞かないのか?」
「……言いたくない様にみえる」
「まぁな……こっから出れたら、話してやるよ。足止めて悪かったな」

出来れば話したくは無い。
自身の心の問題だとはわかっているが、それでも今話すのは気が引けた。
知られればきっと彼も自分を裏切ろうとする。

カナトにマントを返し、ジンが弾丸の確認を行う。
真ん中を突っ切ってきたのに、まだ半分しか減っていない。
ありがたい話だ。

「……いくぞ」
「おう」

カナトが資材を飛び越え、溜まっていた敵を一掃する。
二階の敵は通常のダンジョンと大差はなかった。
しかし、嫌に硬い。
ブリキング系の敵は表面に弾丸が通らず、銃では跳弾してしまう。
よって必然的に関節部やキャタピラの駆動部を狙うことになるのだが、
当てにくいその場所へ確実に命中させていくジンを、カナトは感心した。
止まった敵へ命中させることは、あながち難しくもない。
だが、動いた敵へさらに動く部位に命中させることは、昨日今日の訓練でできるものではないことを知っている。
しかし、銃ではモンスターを倒しきれないため、対人を前提とした訓練をしてきたのか、
治安維持部隊に所属しているなら、珍しいことでも無い。

背中に感じる安心感にカナトのモチベーションは上がっていた。
一人で戦うなら常に後ろを警戒して、思う通りに動けないことが当たり前だが、
今、自分の後ろにはジンがいる。
始めは、流れ弾も受ける覚悟で前に立ちはしたが、
そのあまりの精度の高さに、諦めが期待にすら変わりつつもあった。
マガジンを入れ替えるのに約30秒。十分だ。

「カナト、三階の入口は?」
「……分からない。始めてくる」
「そうか、じゃあちょっと待て」

周りの敵を掃除した後、ジンはナビゲーションデバイスで周辺をスキャン、マップデータを照合した。

「この先だ。直進」

カナトが再び飛び立つ、ジンもあとに続こうとした時。
"ナビゲーションデバイス"に気を取られ、ジン後ろから赤い鬼の影に気づかなかった。
振り下ろされる大きな拳に、ジンはなぎ倒されてしまう。
すぐさまカナトが、赤い鬼、ブロックスを退けた。

カナトが後ろへ引いたところで、前にいた敵が一つの壁を突破する。
"グランドクロス"や"ファイアストーム"を詠唱し、赤と緑の魔法が飛び交った。
前後の体制が崩れ囲まれる。

「多いな」
「……一発では倒しきれない」
「とりあえず突破するぜ」

カナトが動く、敵が一番少ない場所へ羽ばたき、突っ込む。
一閃され敵がひるんだ所で、ジンは同じ場所へ催涙弾を撃ち込んだ。
真っ白な煙が立ち込め、視界が悪くなった場所に飛び込む。
突破はできた。

「カナト! 下がれ!!」

そう言われ、カナトが距離を取る。
先日ようやくできるようになったスキル。
対人においては、約10人以上を相手にする場合に使うと言われる物だ。
若干であれ、魔力を使用するので使用は難しい。
本来なら、殺さないため加減するように言われているが、ここで手を抜けば死ぬ。

「テンペスト!」

天井へ放たれた弾丸が空中で分散。雨の様に降り注いだ。
降り注ぐ鉄の弾丸は、その鋭利な刃で敵を切り刻んでいく。
敵の集団は、その数多の鉄の矢を浴び完全に動きを止めた。
惨劇の様になったその場所へ、カナトが呆然と立ち尽くす。

「……危険だ」
「普段はつかわねぇよ」

そう吐き捨てるジン。
ふと下を見ると、左足のブーツが裂けている。
なぎ倒された時に怪我したのか。

「平気だ。浅いし……」

そう言ってジンが前を歩いたのがいけなかった。
背後となったカナトの足下へ、緑の魔方陣が展開。
飛び立つ間もなく、床から鋭利な棘が突き立った。黒い羽が散る。
"アースストーム"だ。
ジンは即座に催涙弾を打ち込み。"バイタルショット"で応戦。
カナトも羽を数多散らし、敵へとどめを刺したが、直後剣を杖にして、座り込んでしまった。

「カナト!!」

再び集まり出した敵。
ジンはぐったりしてしまったカナトを担ぎ、その場から離れた。

「おい! 返事しろ、カナト!」

応答がない。
息はあるが、翼から滴る血にジンはぞっとした。

「……逃げろ」
「!?」

ボソっと呟かれた言葉。"散弾"を使用して、敵に弾幕を張る。
二階の出口まではもう少しだ。しかし一人では、敵を倒しきれない。
仕方なく、ジンはカナトを下ろし、両手で二丁を構えた。
そして広範囲の目くらましを唱える。

「インパクト!!」

二丁で同時に放たれた弾丸。
破裂し、追ってきた敵を白い煙で包んだ。
即座にジンはカナトを担ぎ物陰に隠れる。

「おい、カナト! どうしたんだ!?」

息が浅い。少しずつ力が入らなくなっているのが分かる。
うつろな目でジンの袖をつかんだカナトは、苦しい声で述べた。

「翼を負傷した……私はここまでだ……」
「どういうことだよ」
「私達タイタニアは、翼によって自分たちの環境を維持している……。
だから……このままここに居ても、……30分も持たない」
「!?」
「置いていけ……」

カナトの言葉の意味をジンは理解出来なかった。
苦しそうに息を荒げ、まっすぐにこちらをみている。
訳がわからない。

「意味わかんねぇ……」
「……この世界はタイタニアには汚れすぎている、だから置いていけ、ジン」

できる訳がない。

「中途半端はゆるさねぇって言っただろうが馬鹿!」
「!!」
「10分でも30分でも最後まで生きやがれ!
諦めんのはしんでからにしろ! 」

何を言われたのか一瞬わからなかった。
しかし、怒鳴られた声で敵が動き、ジンはカナトを担いで物陰からでる。
元々体重の軽いタイタニアではあるが、防具のせいでやはり重さはある。
飛び立つことは出来ないが、カナトは恐る恐る地へ足をつけた。
酷く苦しい。だが先ほど述べた自分の言葉を果たしたいと、そう思った。

こいつの生き様を見届けると……。

カナトが唱えたのは"ディレイキャンセル"。
担がれたまま、銃を構えるジン両手に触れ、唱えた。

「"スタイルチェンジ・アーチャー"」
「!?」
「"神の守護"……撃て、ジン」

上乗せされたスキル。
向かってくる敵の全てを一掃できるかはわからない。
しかし、カナトが載せた力を無駄にしたくはなかった。

「テンペスト!!」

地面と並行に発射された弾丸。
ミラージュ効果で分散し、何千もの弾丸が大群へ突っ込む。
ジンは立て続けに催涙弾をいれて、着弾を見ることなく出口へ急いだ。
地下への階段を降り小休止できるかとも思ったがそんな訳はなく。
入り口に魔法を乱発され、カナトはジンを突き飛ばした。
左右で散り散りになった二人は、直撃を避けたが、ジンは大剣をもつデバステイターに絡まれ、拳銃の筒でそれを受けた。
カナトはふらつきながら、ふたたびスキルを唱え、サウスダンジョンの敵を一掃して行く。

「まだ動けんじゃん……」

カナトは答えない。しかし余裕がないことはジンもわかって居た。
明らかに顔色が悪く動くも鈍い、羽を負傷し飛びたてないのか、足元がおぼついていた。
ジンはデバステイターを蹴り飛ばし距離を取る。
そして足の鎧にあるわずかな隙間に弾丸を滑り込ませ、膝をつかせた。
だが、横殴りに振られた大剣をジンはかわしきれず直撃吹っ飛ばされてしまう。
カナトはそのデバステイターの後頭部へ剣を突き立てて倒した。

直撃を左腕にくらい、酷い痛みがする。
だが、音をあげて居てもダメだ。飛び交う魔法。キリがない。
結局二人は、大群を背中に駆け出した。

滴るのはカナトの血。
飛び立てず、いつ倒れてもおかしくは無いだろう。
カナトヘ先を行かせるため、ジンは後ろの敵へ催涙を入れようと立ち止まった。
だが、新たに現れたデバステイターが、構えたジンの銃を凪落とし、バキっという金属の鈍い音が聞こえ、筒が粉砕。
大切な相棒が粉々になりジンは涙を飲んだ。
ありがとう、と心の中で思い、背中の回転式拳銃を抜く。
催涙を打ち込み。すぐ直して左腰の自動式を抜いた。
前ではカナトが、一階中央の吊り橋に溜まる敵を倒し、道を開く。
ジンも吊り橋のあとに続き、"散弾"によって弾幕を張るが、追ってきたスペルキャスターが、つり橋へ魔法を乱発し出した。

「急げ! カナト!!」

揺れる橋。下はマグマで、落ちれば全てが終わる。
落下はもう勘弁だが、それでもモンスターに容赦はなく、魔法を唱え、吊り橋を刺激していた。
カナトが渾身の力で、前に溜まっていた敵をなぎ払い、床へと出る。
ジンも続こうとした直後、がしゃんっという音がなって、足元が傾いた。
足が取られる。

「ジン!」

届かないとおもった。しかし、手は届いた。
それはカナトがタイタニアの翼で一瞬羽ばたいたからで、ジンは傾く橋を蹴り床に登る。

橋の上にいたモンスターはマグマの中に消え、再び二人は走り出した。
この先がサウスダンジョンの再奥。出口があるかは分からない。
だが、引き返すほどの時間がないことは、二人もわかっていた。
カナトは翼を負傷し、もう飛べない。ジンは左腕を壊され右手でしか撃てない。

飛び交う魔法は二人の足元を迷わせるが、がむしゃらに走った。
進行方向に現れた鬼、ブロックス。
ジンは視界に入ったと同時に目をうち、カナトに攻撃を当てさせた。
後ろから来るスペルキャスターに催涙を打ち込んだが、
足下に展開した魔法をかわしきれず焼けるような痛みが走る。
それでも、二人は進んだ。徐々に見えてくるのは、行き止まりとなった最奥。
あと数mとなり、見えた景色は辛くも溶岩の池だった。
追ってきた敵は倒しきれず何十匹という数で迫ってくる。
迷わずテンペストを唱えたが、デバステイターに弾丸は効かず跳弾するのみだ。

「ジン……」

カナトの言葉に振り向く。
彼は際奥の巨大なマグマの柱を見上げ、立ち尽くしていた。
出血により赤く染まった翼。
その背中はまるで終わりを見据えたように儚く、最期を連想させる。

「これが答えだ」

何もない。視界に入った時点で分かったことだった。

行き止まりだ。
そして同時に自動式拳銃の弾丸が切れる。
空打ちとなったタイミングを見計らい、デバステイターがジンの武器を弾いた。
それは無残にも、サウスダンジョンの床を外れマグマの中へ消えて行く。
心が折れそうだ。相棒を二つも無くした。残る銃は回転式一丁。
泣きたくなる。それでも撃った。
しかし、回転式は6発しか弾丸を込められない。先程2発撃ち込み。もう4発しかない。
目で数えた敵の数は約5体だ。"テンペスト"で一掃し倒せなかったものだけが残った。
ゆっくりと追いやられるうち、さらに周りから集まって来る。
キリが無い。倒せる敵から順に打ち込むがあっという間に打ち尽くしてしまった。装填を行う。
カナトは某然とうしろで立ち尽くし、何かが途切れたように座り込んでしまった。
またジンも、敵に展開されて行く"ソリッドオーラ"に、思わずため息が落ちた。

「カナト…前……」

すがる気持ちでそう述べた。
答えない彼の背中へ触れる、するとカナトはまるで羽のようにゆっくりと動き無抵抗にそのまま横へ倒れた。
言葉を失う。目を見れば瞳孔が開いており、ジンは息ができなくなった。
30分も持たないという言葉の意味をようやく理解。
汚れすぎる世界で、タイタニアは生きていけない。
翼はその生命維持装置だった。
反射的に心臓マッサージを行うために動くだが、
展開する魔法に、ジンは近づくことしか出来なかった。
足の怪我を抉られ、痛みがひどいそれでも、カナトへ近づこうとする。
ふと、マグマが溜まる下を見ると、まるで空間へ亀裂が入ったような光が見えた。
まさかと、ジンがハッとする。
振り返れば大量の敵だ。もう倒しきることなどできないだろう。
ならもう、奇跡に賭けるしかないじゃないか。

動かなくなってしまったカナトを、ジンは担ぎ目を閉じさせた。
魔法が詠唱され、輝き出した足元。
当然デバステイターは向かってきた。
そして、敵の大剣が横に降られると同時に、ジンはサウスダンジョンの崖へ背中から飛び込んだ。
軽いカナトは肩から離れ落下する自分のあとに続く。

無理させてすまなかった。
でも彼と出会えなければ、ここまで来られなかった。
だから心から謝りたい。ごめん。
でも、だからこそ言いたかった。

ありがとう。

光へと吸い込まれて行く。真っ黒な空にはなかった光。
その光は徐々に薄れて行き、暗転するように消えて行った。

**

うっすらと見える光に聞こえる声。
初めに見えたのは白く光るランプだった。
眩しい光で自分を照らし、もう少しぼーっとしていたいと思うが、
視界へ入ってきたもう一つの影にエミル・ガンナーのジンはホッとした。

「ジン!!」

叫ばれた声に驚く。
そんなに叫ばなくてもいいじゃないかと思ったが、無理やり起こされ抱きつかれた。

「げ、ゲッカ!?」
「ばかぁ!!」

エミル・バードの月光花。幼馴染で不器用な唯一の身内だ。
彼女はジンへと抱きつき思わず泣き出してしまう。

「え、ちょ……ゲッコウカさん……当たってる」

思いっきり平手打ちをくらい再び抱きつかれた。
意味がわからない。

「また無茶して……ここどこかわかる?」
「え……」

言われて始めて辺りを見渡す、医務室のようではあるが、
後ろの壁にはアイアンサウス連合国の国旗が飾られていた。。

「アイアンサウス本国の病院。あんた、ここへ三日前に運び込まれたの、それで……」
「呼び出された?」
「連れてきて貰ったのよ!! 馬鹿じゃないの!!」

怒られてしまった。彼女に怒られジンは徐々に記憶を回復させる。
サウスダンジョンの最奥。
行き止まりとなったその場所から飛び込み、一体どこに落ちたのかは分からない。
しかし、戻ってこられたのかと安堵すると同時に、もう一人の存在を思い出した。
カナトだ。彼は崖に飛び込んだとき既に意識を失っていた。

「ゲッカ、俺ともう一人、黒羽のタイタニアさんはいなかったか?」
「え、その人なら……」

指をさされたのは、カーテン。
そっとめくってみると、呼吸器をつけたタイタニア・カナトが仰向けで寝かされていた。

「翼の負傷でしばらくはこのまま、羽が修復するまでは目を覚まさないかもしれないって……」
「そっか、生きてたなら良かった。こいつどうなるの?」
「アイアンサウスの傭兵として登録してたみたいで、契約がきれるまでは此処で面倒見てもらえるみたい」
「そっか、なら心配ねぇな……」
「冒険者として登録されていれば、ギルド評議会経由で、うちのサービスは受けられるけど、未登録だったみたいだから……」
「……契約がきれる前にこいつが目を覚まさなかったらどうなる?」
「わからない……。自費で医療費が出せるなら、放置されるってことはないと思うけど……」

人情的な問題か。アイアンサウスでは厳しい問題だろう。
無所属の冒険者など国籍もなく自由に放浪する浪人のようなもの、
そんな人間に国が医療費を裂いている余裕が在るとは思えない。

「そういえば、本部から目を覚ましたら連絡ほしいって」
「え、だれから!?」
「スイレンさんに決まってるでしょう!! 」

当たり前のことだ。本部で気にかけてくれる人など彼女しかいない。
心配してもらっているなら、無碍にする事もできないため、ジンは"ナビゲーションデバイス"を使って本部へと連絡した。
受付に位置を確認してもらい、認証を終えてもらうとあらかじめ言伝があったのか、すぐ帰還するよう指示がでていた。
目覚めたばかりで気が乗らないものの、命令のようなものなので帰還の準備をする。

月光花に足の怪我を治癒してもらっている間、ジンは自分の"ナビゲーションデバイス"の番号とアドレスをメモに書き、
目を覚まさないカナトの枕元へおいた。

「どうするの?」
「こいつに置いとく」
「そっか……」
「ゲッカ、俺は――…」
「うん、いいよ。またすぐ溜まるだろうし」
「……サンキュ」
「でも、もう無茶しないでね」

苦笑する月光花にジンは申し訳なさそうに言う。カナトに死んで欲しくはない。
こうして生き残っているのだから、生きて欲しいと思う。
そうやって二人は、たまたまアイアンサウスへ来ていた治安維持部隊の庭へ載せてもらい、
アクロポリスへと戻ってきた。
ジンは本部へと戻り月光花もまた、聖堂の方へと向かう。
最高責任者のスイレンは自分を心配してくれていたらしく、嬉しそうに迎えてくれた。

「おかえりなさい。ジン君」
「只今もどりました。申し訳ありません、ご心配を……」
「何があったか聞かせてくれる?」
「はい、ダンジョンで迷ってしまい……」
「違うでしょう?」
「え……」
「誰に何をされたの?」
「……言えません」
「もう洗ってあるわ。突き落とされたのでしょう?」
「!?」
「あの時。銃声が聞こえたけれど……」
「……自分から手をはなしました」
「そう、良かった無事で……本人はもう除名処分になったわ」
「そうですか……」
「戻れる?」
「戻ります。目的があるので」
「そう、いいわ。この一週間休みなさい。唯一週間したらもう一度あいにきて」
「はい……。あ、スイレン総隊長」
「何?」
「武器を壊してしまったので、新しく支給してもらえませんか? レボルバ一丁しかなくて」

この言葉にスイレンが黙った。しばらく考えたのち、軽く言い放つ。

「だめよ」
「え……」
「仕事する気満々じゃない。バカじゃないの?」
「も、もう一応治癒はしてもら――……」
「死にかけて大怪我した人が必要なほど、うちは切羽詰まってないわ。
そんな体で仕事される方が迷惑です。命令よ。休みなさい」
「……はい」

喜ぶべきだが納得がいかない。
結局武器を支給してもらえず、ジンは一週間、本部へ缶詰にされることになった。
のこった回転式拳銃で訓練所に引きこもり、射的訓練や簡単な体術をおさらいして、なまった身体を元にもどしていく。
寮では、戻ってきたことで白い目で見られたが、今更なので気にしない。
相部屋となっていたのは、ジンを突き落とした張本人でもあり、
彼はきっと一緒にいる自分のせいで、心身的な疲労を抱えていたのか、
そう思うと、いろんな意味で苦しくもなってくる。
誰にも声をかけられることも無く、訓練だけの一週間は、今まで感じたどんな一週間よりも長かった。
そうして一週間立ったのちジンは再びスイレンの元へ赴く。

「体はどう?」
「大分戻ってきました。ありがとうございます」
「そう、じゃあ武器を支給するわ」
「え……」

そういってスイレンの脇にいたエミルが、赤い布をかけられた箱を持ってきた。
布が祓われ、出てきたのは彫り込まれた治安維持部隊の紋章。

「"賞与、治安維持部隊本部より、エミル・ガンナーのジンをギルドランク選抜において、ランク5thに認定しこれを証明する"」

開けられた箱には高級感のある布に包まれた装飾銃が入れられていた。
烈神銃・サラマンドラ。
そうか……。

「色々ありすぎて忘れてたでしょう?
ノルマ計算を含めて確実だとは思っていたけど、万が一もあるから黙っていたわ」
「……」
「これで自由ね。ジン君……」
「はい……ありがとうございます」

泣かないとそう決めた。
ここへ入ると決めた時点で、必ずこれを採ってやると、全てを捨てる覚悟でこれを求めていた。

ギルドランク制度。
認定されたものは認定期間中の三年間。
階級に応じての給与に加え、任務達成の賞与を同時に得ることができる。
さらに、ランニングした上での証明として、最強の武器が支給されるのだ。
そしてもう一つ。

「ランク1thから10thまでの冒険者全てに、自分より上位階級の者からの命令に義務は発生しなくなる。
つまり貴方は、それを受け取れば私の言うことも聞かなくていい」
「……」
「自由になさい」
「……お世話になりました」
「あら、なーに? 改まって……でもこの三年、除隊はできない契約だし、住む場所もまだ寮しかないでしょう」
「はい……」
「自由にできるならトンカにでもいって自宅を作りなさい。此処より何倍もいいと思うわ」
「……はい」

顔をあげることができない。
結局、加入して三年間。ジンは自分の為にしか動かなかった。
だれに助けてもらうこともなく一人で任務をこなし報告し、訓練し、毎日を淡々とこなす他なかったからだ。
仲間がいないこの場所は、本当に一人で孤独ではあったが、始めて彼女、スイレンに自分を使って貰った。

「まさか、始めての大隊任務で行方不明になるとは思わなかったけど」
「……」
「ごめんなさいね」

首を降った。嫌われている自分が悪い。
だがスイレンはうつむいたジンをそっと撫でてくれた。
顎からこぼれる水滴は、嬉しさからなのか、それとももっと意味があるのか。
ジンはその後、烈神銃・サラマンドラ二丁を受け取り、寮の自室へと戻る。
ランカーとして正式認定されるのは、一週間後。
そこまでは制度の説明やランカー同士の親睦会などが開かれるらしい。
参加は全て任意と書いてあるが、ある意味で強制だろうと心で思った。
持ち主が居なくなったベッドへ、ジンは支給された銃6丁を広げていると、突然"ナビゲーションデバイス"が音を鳴らした。
月光花かとおもったが、未登録のアドレスに驚く、カナトからだ。

**

「よぅ」

カナトからメールを受けた三日後。
アクロポリスの西噴水前で、二人は落ち合った。
待ち合わせで15分遅刻し、汚れたハルシネイションコートで現れたのは、
黒羽のタイタニア・ジョーカーのカナトだ。

「私服……」
「なんだ? 悪いかよ……」

青いファージャケットにハードレザーベルボトムとブーツ。
先日月光花に、ランカーになったお祝いとして渡された真新しい服だ。

「退院できて良かったな」
「……ジン」
「なんだよ」
「……ありがとう」
「きにすんな……」

アイアンサウスの医療機関。カナトは傭兵で入院をすることができなかった。
だか、運ばれたアイアンサウスの病院はたまたま民間企業の系列であったこともあり、治療費を支払うことでカナトは一命を取り留めた。
決して安くはなかったが……。

「ジン」
「ん?」
「助けて欲しい」
「へ?」

そう言って連れて来られたのは、カナトの自宅だった。
ひどい。この言葉に尽きる。
床には治しきれない武器が転がり、片づけられない食器が散乱。
食べきれなかった食材は放置されて、言葉通りの惨状だった。

「なんだ……これ」
「自宅……」
「そ、それはわかるけど……どうすんだ?」
「弟が来る。だから、片付けたい。でもできなかった」

片づけられない? どういうことだろう。

「あれから何もできない。ジン、教えてほしい」
「なにを?」
「前まではちゃんとできていたのに……忘れてしまった」
「……! そうか、仕方ねぇな。やるぞ! 中途半端はゆるさねぇ」

そういって物を整理するところから始まった。
ゴミはゴミで武器は武器と、少しずつものを減らして行く。
ジンが食器を片付けて居る間、カナトに物の整理を頼んだが、確かに殆どできて居ない。
種類ごとに分けるのが苦手なのか、変わりに食器を洗うのを頼んでも、重ね方が大着すぎて危険だ。

「掃除苦手なのか?」
「わからない。料理も得意だったが……できない」
「しばらく離れてたから忘れただけだろ」
「そう思いたい……」

心配だ。
ここまで何もできないとはある意味予想外で、
これが出来ないなら、片付けてもまた二の舞になることが見えている。
どうしたものか。

「弟さん。いつくるんだ?」
「明後日」
「そうか、取りあえず片付けるぞ」

そういって整理を続行しようと思った時、突然カナトが横へと倒れた。
驚き、心配して近づいたが、小さく寝息を立てて眠っている、声をかけても動かず、
仕方がないので、ジンはカナトを寝かし、片付けを続行した。
そこからゆっくりと日が傾き、時間は日没。
カナトが眠ってしまってから6時間ほど経っただろうか、
片付けがほぼ終了したジンは、無事だった食材を使い、晩御飯でも作ってやることにした。
そうしてキッチンを借りていると、ようやくカナトが目を覚ます。

「寝過ぎだぞ、お前……」
「すまない……」
「ある分でつくったの置いといてやるし食えよ」
「……ジン」
「んじゃ、俺はもう帰るぜ」

そういってカナトにかけて居たジャケットを羽織る。
心配だが、ずっといるわけにもいかない。あしたまたメールするか……。

「明日も来て……」
「仕方ねぇな……飯ぐらい食えよ」

ホッとした。
次の日の午前中、ジンは適当な食材を買ってカナトの家に来た。
無用心に紐も収納されておらず、何を考えているのかと思ったが、
テーブルへ座り込みそのまま眠ってしまっているカナトに全て納得。
作り置いた物は食べた形跡があるものの殆ど減っていない。
あれだけ眠ってさらにまだ眠るとは……。

「カナト、起きられるか?」

応答がない。
もともと期待していなかったが、ある意味で彼が「何もできない」という言葉の意味を理解する。
確かにこれでは何もできない。
起きるまでもう暫くかかると思ったが、ゆっくりと体を起こした彼にジンはため息をついた。

「お前、大丈夫かよ……」
「ジン……、帰ったんじゃ」
「帰って戻ってきたんだよ……寝ぼけんな」
「すまない……」
「お前仕事は? 傭兵だろ?」
「朝が起きられなくて、こちらに戻ってきてから何も……」
「それは前から?」
「…………うん」

すこし引っかかるが、サウスダンジョンでみたカナトの動きは本物だ。疑う余地もない。
今日はランカーの説明会の予定があったが、冒頭の10分で眠くなったので抜けてきた。
認定日のその日は親睦会だし、それに出られればいいだろう。
昼ごはんの時間が近いので、ジンは無理してお茶を入れようとするカナトをどかし昼食を作る。
手伝おうとしてくれるのは嬉しいが、そんな眠そうな顔で来られても困るので、素直に座らせた。

「ジンは、どこに住んでる?」
「本部の寮。狭いけど無いよりはマシだな」
「家は?」
「貯金中」

カナトが難しい顔をしたのをジンは見逃さなかった。
やっぱりこれは言うべきじゃないか。

「ツレがいるんで、普通の家じゃだめなんだよ。二人も住めないからな」
「ツレ?」
「実家が焼き討ちにあって、故郷がないんだ。それで……アクロポリスに流れてきた」
「……」
「きにすんなよ。俺だってお前が居なかったら野垂れ死んでたんだから」
「……」

カナトはそれから、何もしゃべらなくなってしまった。
申し訳なく感じたのか、それとも気を使ったのかはわからない。
気がかりなのは、相変わらず死んだような瞳をして居ることだ。
そんな事を考えていると、突然来客をしらせるベルが鳴る。
紐を引っ張ればなるものだ。
キッチンで料理をするジンを尻目にカナトがでると、黒い丸帽子を被ったタイタニアとタキシードをきた老人がそこへ立っていた。

「お久しぶりです。兄上!」
「カナサ」

高い声カナトに飛びついたのは、カナトと同じ顔のタイタニアだ。
ジンは驚き、思わず手を止める。

「カナ、来るのは明日じゃなかったの?」
「はい? 何を言っておられるのですか。今日ですよ!」
「え……」

ジンが固まる、これはまずいかもしれない。

「あれ、兄上。執事さんを雇われたのですか?」
「違う。ジンは恩人だ……だからそうじゃない」
「ジン……? それにしても兄上、あまり顔色がよろしくないようですが……」
「……? そんなことはない。元気だ。カナ……」

カナサと呼ばれたタイタニアは、カナトの顔をじっと見つめる。
本人はそれに困る様子もなく、首かしげ不思議そうに見ていた。

「ここは兄上の自宅なのですか?」
「そうだ」
「すこし狭すぎる気がします。兄上」
「これが普通だ」
「それでも兄上のような人が住む場所ではありません!」
「カナサ……」

無茶なことをいう弟だと思う。本人は返答できず困っているようだ仕方ない。
二人分の野菜炒めを完成させ、ジンはそれをテーブルへおく。

「そいじゃカナト。俺今日は帰るわ」
「え……」
「またメールよこせよ」

そういって帰路に入ろうとした時、
突然カナサが進行方向を遮った。
じっとこちらを見つめまるで敵のように睨む。

「貴方は、兄上のなんなのですか!」
「へ?」
「僕の知る兄上は、貴方の様な一般市民とは滅多に交流なさいません! それに」

「……カナ。それ以上は言わなくていい」
「でも兄上……僕は……」
「ジンは俺を助けてくれた。だから、それ以上言うなら許さない」

この言葉でカナサが顔をあげた。この世の終わりのような顔をして目に涙をためる。
泣き出してしまったカナサは、声を押し殺し、家を出て行ってしまった。
ついて来たバトラーも、カナサ追い、二人だけが残される。

「大丈夫かよ……」
「元々、実家から禁止されていることだ。弟のためでもある」
「何度かあってたのか?」
「年に一度。バトラーが気を使って提案したらしい。場所は毎回違っていたが……」
「そっか……お前も苦労してんのな」
「そう見えるか?」
「あぁ……」

そうして二人は一緒に昼食をとったが、カナトは再び食べてすぐ眠ってしまったので、ジンは仕方なく。
昨日処理できなかった洗濯物を全部洗った。
一日15時間以上眠り起きている時間は一日の半分以下など聞いた事がない。
何かの病気か。体質にしても、それなら今までちゃんと生活してきたという辻褄が合わない。
結局その日は、カナトが目を覚ますこともなく、ジンは彼をベッドまで連れて行き、晩御飯を作って寮へと戻った。
そこでたまたまロビーでスイレンと顔を合わせ、説明会をサボったことを叱られる。

次の日武器に関してのガイダンスは受け、ジンは午後からカナトの家へ向かった。
しかし、昨日と同じ場所に紐はなく、仕方がないので此方から連絡しようとした時、カナトの方から連絡がきた。
場所はアクロポリス、アップタウンの北東。
ひっそりとした場所に紐が降ろされており、ジンはカナトにいわれるがまま、紐を伝って上がった。
そして視界に入ったそれに思わず絶句する。家、というよりも屋敷に近いものがそこにあった。

「ジン……」
「か、カナト……これは?」
「今朝、弟から連絡があって、飛空庭のキーがポストに入っていた。お詫びらしい」

言葉を失う。さすが大貴族とも言えるだろう。
あまりの唐突な出来事に正直どうすればいいかわからない。

「どうすんの?」
「家具は全部揃っていた。キッチンとお風呂もあった」
「いや、そうじゃなくて……」
「?」
「わ、わりぃ……ちょっとついていけなくて……」
「……すまない……わからないんだ。どうすればいいか」

不安そうにカナトは俯いてしまった。
何をすればいいかなど、分かるわけがない、自分で決めることだからだ。
そんな当たり前のことをあえて聞くのは何か意味があるのか……。

「と、とりあえずよかったんじゃないか。でかい家で……掃除大変そうだけど……」
「……ジン。今の私は何もできない。だからできるようになるまで、居て欲しい」
「あぁ、それは構わないが……もうちょいしたらヒマになるし」
「寮で生活している?」
「あぁ……」
「"ツレ"は?」
「寮だけど」
「なら、二人ともここに住めばいい」

は?

「何言って……って無理に決まってるだろ。女だし……」
「女性……。なら、私が昨日まで住んでいた庭が空く。そちらで……」
「いや、だから冷静になれって……確かに家はでかいけどさ……」
「……傭兵だった私は、もうお前しか頼ることができない……だから、助けて欲しい」

心配だったのは本音だ。
この三日間。カナトは生きて行くための行動を、何一つできて居なかった。
一日20時間近く眠り、食べることもできず、何もできないまま一日が終わっている。
このままではいつか体力が低下し、再び傭兵には戻れなくなるだろう。
評議会に登録していればサービスは受けられる分、安心では在るが、カナトは無所属だ。
病気をしてしまえば頼れるものがない。
部隊に散々使われた身からすると、無所属出ある彼は、同じ同僚以上に信頼できる気がした。

「俺はお前が思うほどいい人間じゃないぜ?」
「関係ない。ジンは私を助けてくれた。サウスダンジョンからも、現状からも……」
「貴族であるアンタを利用している可能性は?」
「構わない。助けられた事実は変わらない」
「……」

この言葉に安心する自分がいて、情けなくなってしまった。
考えることも無い結論は一つだ。利害関係の一致とも言える。

「しょうがねぇな。睡眠は一日12時間以内。これを守れるならここに住む」
「……努力する」
「へいへい。じゃあ俺のツレも紹介するから待っとけ」
「ジン、ありがとう」
「よろしくな」

その後、カナトの女性恐怖症がバレてしまったのは言うまでもない話で、
親睦会を前日に控えた時、ジンは本部の寮を出る手続きを終えた。
その事実は、治安維持部隊の総隊長の耳へと入り、彼はその書類を見て「へぇー」と気の抜けた声をあげる。

「ジン、寮をでちゃったんだ。一人部屋だったのになんでだろう?」
「どうやら、お友達の家に転がり込んだみたいですよ。ジョーカーの」
「ジョーカーさんか、でもジンなら心配ないだろうけど」
「何か情報でも?」
「ジンは一人でサウスダンジョンから出てきたわけじゃなかったみたいなんだよね。
もう一人行方不明だった子と一緒に出てきたんだ」
「ほぅ……」
「それで、民間企業にその行方不明だった子について、全部調べてもらったの」
「……」
「そしたら結構すごくってさ。評議会の上層部にいるルシフェルさんの息子さんだったんだよ」
「!? ルシフェルというと、天界の?」
「うん、七大天使のなかで堕天したとされる八番目の熾天使、ルシフェル。
彼はこのエミル界に永住したけれど、数年前、政略結婚をする事で、天界での絶対的な発言力を手に入れたんだ。
現在ではこのアクロポリスと天界の政治にも食い込む重役だよ」
「……」
「そのルシフェルさんには、双子の息子がいてね。
長男がカナト君、次男のカナサ君。
でも兄のカナト君は、数十年前に勘当されていて、今は傭兵としてフラフラしてたみたい」
「……」
「勘当された理由まではわからなかったみたいだけれど、犯罪歴は無かったし、安全なジョーカーさんだね」
「よく調べましたね……」
「ふふ、それでね。向こうの人が気を利かせてくれて、
カナト君のカルテも、コピーとって回してくれたんだけど」
「……」
「カナト君。どうやら精神疾患を持っちゃったみたいでね。うつ病なのかな」
「それで、ジン君を?」
「おそらくね。カナト君自身、今まで目立たない用に生きてきたみたいだし、友達もほとんど居ないみたいだよ。
それでさ、せっかくのジンの友達だし、いい事思いついたんだよね」
「貴方のその発言は色々と前例がある分笑えませんが……」
「えー、そうかなぁ?」
「そうですよ。全く……」
「聞きたい? ホライゾン」
「貴方のその企みが、実行され始めた時に、再び伺いにきますよ」
「そっか、結構時間がかかりそうだしね。暫くは様子を見るよ」
「そうしてください」

そう言って、トップ二人の会話が終わる。



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本編 | 【2012-09-15(Sat) 18:00:00】 | Trackback:(0) | Comments:(2)
コメント

やっとここまで読んだです|ω・`)
2013-04-12 金 16:06:58 | URL | 璃羅 #- [ 編集]
だいぶ進んだんだね。またよかったら感想きかせてね!
読んでくれてありがとう!
2013-04-12 金 16:09:23 | URL | 詠羅 #- [ 編集]
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