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(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

ジンが一人になる話
出演:コタロウさん、ハクさん、クオンさん、ぬえさん、セオさん、

ロケ地:南アクロニア平原、ギルド元宮

あらすじ
コタロウ達とともに、南平原へ遊びに来たジンとカナトは、この時期に現れるシナモンの希少種。
逆襲シナモンと遭遇する。そのあまりの大きさに二人は苦戦しつつも勝利を収めるが、
シナモンの落し物を狙っていた冒険者から、拾ったアイテムを渡せと要求される。

参考
ジンが怪我してかっこ悪い話
ジンが本部へ行く話


 「さって、よくみてろよ」

南アクロニア平原。
ここのひと気のない小川付近で、5人の冒険者達が集まっていた。
その中で平原に座り込み、淡い色の鉄の銃を構えるのは、平均的な身長を持つ男性エミルだ。
彼は、紋章紙を貼り付けた一本の木にスコープ無しで狙いを定める。
それを緊張した様子で眺めるのは、水色の髪を持つ狼耳の少年と、
白羽のドミニオン、さらにに黒羽のタイタニア二名だ。

数秒間、誰もが緊張して、銃を持つ青年と的となる紋章紙を交互に見る。
銃を構える彼は、神経を研ぎ澄ませ、集中。
自分の技量を見るために、スキルはあえて唱えない。
だが、自分の心へ絶対の自信を持ち、、エミル・ガンナーのジンは引き金を絞った。


パンッ

白羽のドミニオンが思わず耳を塞ぐ、小規模な爆発によって押し出された弾丸は、
まっすぐな軌道を描き、紋章紙へ命中。一瞬だけ紙を波打たせた。
そして立て続けに2発目、3発目と打ち込み、一息。
安全装置をかけるのを確認し、少年たちが紋章紙へと駆け寄っていく。
残されたのは、黒羽のタイタニア・ジョーカーのカナトとジンのみだ。

「見事だ。ジン」
「この距離から見えんの?」
「紙が動いたのがわかった、命中もしている。しかも……」

「じんー! 穴一個しか空いてねぇぞー!」

白羽のドミニオン。イクスドミニオン・アストラリストのハクが、大声でこちらへ叫ぶ。
紋章紙は薄いので着弾はわかりやすい、3発すべてが命中したことは、4人にも確認できただろう。
しかし、弾丸によって空いた穴は一つ。針の穴に糸を通すとはまさにこの事だ。

「この距離ならまぁ、できるやつはごまんといるさ」

距離にして約30m前後、紋章紙の大きさは縦横正方形の20センチ。
この距離からみると、何とか赤いラインが視認できる程度だ。簡単にできるとは思えない。

「実践じゃ止まった敵なんて居ないぜ?」
「それはそうだが……」

「ジンー、あと二つはどこ言ったんだ?」
「ちょっとした、手品っすよ。消えた弾丸ってね!」
「手品なのか!? どうやったんだ!?」
「じゃあ、正解でアイス一個ってことで!」
「アイス! 絶対解いてやるからな!」

そう言ってハクは、未だ紋章紙の付近にいる少年たちのもとへ戻る。
一緒に首を傾げるのはエミル・ブレイドマスターのコタロウと、
アークタイタニア・ジョーカーのクオンだ。

「こたろー、くお! 分かったらアイスだって!」
「シロ、また我儘いったの!?」
「じんがいったんだぜ!」
「アイスはいいけれど、どんな仕掛けなんだろう。薬莢はちゃんと落ちてたし……」
「「やっきょう?」」
「銃の弾丸は弾、一発一発に火薬が込められてるんだ。
銃はそれを爆発させて弾丸押し出すから、撃った後には、火薬が空になったものが残る。それが薬莢っていうんだよ」
「「へぇー」」
「ジンさんが撃った後にも、ちゃんと薬莢は出ていたし、空撃ちって事はないとおもうんだけど……」
「ワザと外して見つけられないようにしたとか……」
「それだと、紋章紙は波打たないし、コタもシロも見たよね」
「うん……」
「当たってた気がするぞ」

着弾は確認できたのに穴がない。弾丸は何処へいったのか。

「分かったかい?」

余裕綽々に出てきたジンに、ハクがむくれる。そんなにアイスが欲しいのか。

「絶対見つけてやるからな!」
「シロ、我儘はだめってあれ程……」

「ともかくお昼にしましょう。話でもしながらゆっくり考えればいい」

そうやってカナトは持ってきた。大量のサンドイッチと飲み物を広げた。
ジンには作りすぎではないかとも言われたが、食べ盛りの3人は目を輝かせているので問題無いだろう。

「ジンはこっちだ」

カナトに渡されたのは、小さめの弁当箱。
中身は明らかに彩りがおかしい具材のセレブウィッチだった。

「なにこれ……」
「手伝うといって、月光花さんが作ってくれた」
「俺なの!? 手伝わせたのお前なのに!?」

「じんっ、美味いぞ! くわないのか!?」

モノが違いすぎる……。
渡された飲み物がマルチコンディションである時点で、
死ねと言われている気分だ。

「でもジンさん。さっきの弾丸、本当どこに行ったんですか?」
「こたろー降参かよぉ……」
「それはまた夕方にでも……」
「当たってはいると思うんだけど……」


うーんと首をかしげるクオンを尻目に、形の定まらないセレブウィッチと戦おうとした時、
足元に茶色い物体がいることに気づいた。
丸いボールにのった、長い耳を持つモンスター、シナモン。
通常サイズよりえらく小さいが、つぶらな瞳でこちらを見上げ、手に持った異色のサンドイッチを見上げている。

「これほしいの?」

視線を逸らさない。
すると突然、手に持っているそれにかぶりつかれ、セレブウィッチが取られた。
直後シナモンは青ざめ、泣きながら逃げて行く。

「モンスターにも食えないって……」
「ジン。どこを見ている?」
「いあ、なんでもない……というかそっちのくれ……」

そういって、まともな色をしているサンドイッチに手を延ばした時、突然足元が暗くなり日が陰った。
コタロウとハクが固まり、クオンとカナトすらも、口を開けて何かを見上げている。
ジンが不信におもい、ゆっくりと振り返ると、
通常の10倍はある大きさの巨大なシナモンが、バランスポールを掲げてこちらを見下ろしていた。

「「うわぁあああ!!」」

カナトはとっさに、コタロウの手を引き、ハクを持ち上げて退避。
ジンも離れていたクオンを抱え無理矢理回避させた。
持ってきたお弁当が一瞬で下敷きにされて、下がった5人が青ざめる。

「なんだこいつ!!」
「逆襲シナモンだ! この時期の満月の夜に出現する希少種!!」
「意味わかんねぇ!!」

即座に武器を抜き、ジンも銃をぬいた。
ハイロゥは退避させる余裕もなく、つぶされるギリギリの場所に放置されている。
構えている暇はない。また修理などカンベンしてほしいので、即座に右脇の銃を抜いた。

「“オーバーレンジ!!”」

両手で構え、ボールの上に狙いを定める。首元に狙いを定めを唱えた。

「“インパクト!!”」

どんっ
銃とは思えない音が響き、命中。敵が大きくのけぞった。
そのタイミングを見計らい、カナトが剣を逆手に持ち、突っ込む。

「“ジョーカー!!”」

ボールの上の敵をカナトが殴り落とす。
その瞬間。ゆっくりと輝き出したシナモンは、膨らんでいた圧力を凝縮させ破裂する。
ジンは即座にコタロウ達を押し倒し、伏せた。
暴発。吹き飛ばされそうな暴風が一瞬で彼らの上を通過し、空中へ浮いていたカナトが一気に吹っ飛ばされる。

「カナ!!」

バランスを崩し落下、林もない平原は受け止める木々もなく。
カナトは背中から地面に叩きつけられた。予想以上の衝撃に、思わずむせかえってしまう。

「カナト! 大丈夫か!?」

体が動かない。ジンに無理矢理起こされて、ようやく感覚が戻ってきた。
翼がクッションとなったらしい。

「平気だ……」

自分の力で起き上がったカナトに、ほっと安堵。
もともと体重が軽いタイタニアは、上空からの落下には強いが、
流石に痛かったらしく、剣を杖にして起き上がった。

幸い全員怪我はなく。ほっと安堵のため息を落とす。

「じん、あれなんだ?」

ハクの突然の言葉に5人が顔をあげた。
彼の視線の先には、淡く輝く何かがあり、拾ってみると三日月形のイヤリングが小さな光を放っている。
触れた瞬間、イヤリング光を失い、ただの金属にもどった。

「なんだこれ……」
「イヤリングみたいですけど……」

「……逆襲シナモンの落し物だ。月の女神の持ち物として人気がある」

どう見ても女性向けのアクセサリーだ。カナトに付けさせれば、案外に似合いそうでもある。
コタロウが見せてほしいと言い出したので、ジンが彼らにイヤリングを渡したところ、
突然、後ろから「討伐おつかれさん」という、新しい声が響いた。
現れたのはジンと同い年ぐらいの男三人。
短剣、両手剣、弓ということは、スカウト系、剣士系、アーチャー系か、
近接はさておき、アーチャー系の銃器に警戒し、とっさにサラマンドラを見えない位置へ隠す。

「あんたら強いな。尊敬するよ」
「どちらさんすか?」
「名乗るほどのもんじゃ無い。この辺をナワバリにしてるリングだ」
「ナワバリ?」
「そそ、逆襲シナモンが女神の使いである証。そのイヤリングを手に入れるための陣取りみたいなもん。
簡単に言うと、ここで倒された逆襲シナモンの落し物は俺たちのモノってこと」
「何を言ってるのか理解出来ないんだけど……」
「はっ、勘弁してくれよ。もう一週間ここに張り込んでんだぜ? 人間的に考えて、順番待ちは当たり前だろ?」

高圧的な態度に、後ろのハクとコタロウがジンの後ろに隠れる。
クオンは、カナトに肩を貸してくれているのでこちらは心配なさそうだ。

「ギルド評議会、全ジョブ共通公約第50条。
各ギルドの修練スキルを用いてのアクロポリス周辺における略奪。または、独占の行為を禁ずる」
「は?」
「おまえら、職業ギルドに加入する時の加入規約、読まなかったの?
アクロポリス周辺、つまり他国の国境までの地域は、冒険者が勝手に独占したらダメって事だよ」
「お前こそ、なにいってんだ?」
「職業ギルドに属さない俺の相方ならまだしも、ギルドに入れて貰ってスキルマニュアルもらってる癖に、
一番最初の規約を忘れて好き放題か……。そんなんだから半端者って言われんだよ」
「お前にそんな事言われる筋合いはないな」
「じゃあ、親切な俺が直球に言ってやる。……失せろ」

相手を睨み。背を向ける。
その瞬間。草を踏むわずかな音、軽い足音はアサシンの物か。
背中に来るスキルは“奇襲”。
演習なら受けても構わないが、手を抜けばこちらが怪我をするので、一歩進んで銃を抜いた。
“奇襲”をスカしたアサシンは突然消えた相手に動揺し、更に一歩前にいる相手の銃口を見る。

どん。という銃声。
終わった。とおもう。
何もされなければ見ないふりをできたのに、どうして彼らはこんなにも無垢なのか。
弾丸はアサシンの額当てを弾き飛ばし、こめかみに血を滴らせる。

「悪い、カナ。仕事が入った」
「馬鹿が……」
「コタ君達を頼む」
「……夕食は?」

間を置く。
成り行きを頭でまとめたところで結論が出た。帰宅は夜になるか。

「いらない」
「分かった」

即答が有難かった。
カナトは、3人が人質にならぬよう後退させる。
ジンの向かいには、今にも向かってきそうな二人と、冷や汗を流すアサシンがいた。
すると、数歩前にいるアサシンが驚いた声でジンの武器を凝視する。

「烈神銃・サラマンドラ……」
「なんだよそれ、」
「こいつ、治安維持部隊のランカーだ……」
「な゛……役人サマかよ」
「ギルド評議会・治安維持部隊、ギルドランク5th。実働兵エミル・ガンナーのジンだ。
規約違反の現行犯として、お前らを拘束する」
「やってみろよ!!」

向かってくる剣士。遅い……。
これなら、以前戦ったデオスの方が何倍も手ごわかった。
“居合い”を構え、大ぶりに振り回される剣を、後退して交わす。
後ろのアーチャーが弓を構えるのは、剣士が引きつけている間に、止めを刺す安易な戦法か。
モンスターならまだしも、人間へも通じると思われているとは心外だ。
剣士の攻撃を交わしつつ、横目でアーチャーに発砲。弓の持ち手を破壊した。

「あ゛」
「なにやってんだ馬鹿!」

戦っている最中に余所見とは、偉く平和ボケしている。
視線がそれた瞬間。ジンは剣士の手首を引き寄せ、膝で腹に一撃。
ドスっと鈍い音がして剣士がむせ返った。
さらに地面に寝そべった相手へ発砲、両足の腿へ打ち込む。

これを見たカナトが、反射的にハクの視線をさえぎった。

剣士が倒れたことで、座り込んでいたアサシンが動く。
ディレイキャンセルを使ったのは間違いではない。だが、

(……フェイント!?)

“連続突き”もすでに遅かった。クナイを突き出した矢先、ジンの腕が首元にはいる。
綺麗なラリアットを決められ、地面へ後頭部を強打。
脳震盪をおこし、見上げる視界のなかへ銃口がみえる。発砲。
両肩に打ち込まれた。これでもう武器は持てない。

あまりにも無駄のないスムーズな動きに、後ろのアーチャーがすでに固まって震えている。
一歩近づけば、相手は座り込み、恐怖を訴えるようにこちらを見た。

あっけない……。腰でも打てば降参するかと思い、銃口を向けた瞬間。
後ろから、首元へ赤い長剣の刃が突きつけられた。

「なんのつもりだよ。カナト……」
「貴様、今、誰の前で、自分が何をしているか分かっているか?」

そう言われ、我に帰った。
振り向けば、二名が出血して倒れており、痛みに声をあげている。
動けなくなるよう、痛む部分を撃ったのだからある意味当然だ。

だがその声を聞いて、震えている二人の少年に、ジンは酷く後悔する。
しまったと……。

「先に戻る……」
「……」

ジンは答えない。振り向き、ハクをみれば絶句した表情のまま固まってしまっている。
怯えているのかと思い、近づこうとすると、声を上げて走り出しカナトへと抱きついた。
その瞬間。彼の恐怖の元凶が自分だという事に気づく。

言葉が出てこない。

何も言わず背を向け、ジンは本部へと連絡を入れた。

「ハク殿。帰りましょう」

声を押し殺しボロボロと涙を零すハク。
ジンは漏れてくる声を背中で聞き、カナトはハクを正面から抱きかかえた。
コタロウは、未だ痛みを訴える冒険者を呆然と眺め、クオンがそんな彼の目を隠す。

「コタ……」
「クオ、ごめん……」
「うん。でも今は帰ろう……」

そう言って、4人は後ろを向くジンを残し、アクロポリスへと戻る。


**


倒した冒険者を見張り10分程経過したところで、ジンはアクロポリスから来る数十名の人影を確認した。
先頭に立つ四枚羽の女性タイタニアは、ジンの姿を確認すると、「あっ」と声をあげて、優雅に舞い降りる。

「やっほー! ジンさん!」
「あれ? ぬえさん!?」
「ご苦労様~。お手柄だね」
「え、いやまぁ……」

目の前に降り立ったのは、ジンと同じく治安維持部隊ランク4th。タイタニア・フォースマスターのぬえだ。
いつもは、最高責任者のスイレンが来てくれるのに、珍しい。

「スイレン最高責任者は……?」
「あぁ、あの人は忙しいらしいから代わりにきた」

「驚きましたよ。貴方の名前を出すと、誰もついてこようとはしないのですから……」
「セオさん……すみません」

後ろから現れたエミル。彼もまたギルドランク6thのエミル・アストラリストのセオ。
そしてもう一人。ドミニオンの彼がいる。

「リカも、わざわざ……」
「……気にしなくていい」

彼はランク9th。イクスドミニオン・ガーディアンのリカルド。
知り合いの知り合いである分、個人的にはランカーの中で最も信頼できる。

「3人を抑えたっていうから、人数を多めに連れてきたけど、そんな大変でもなかったみたいだね?」
「ま、まぁ……」
「いえ、ある意味妥当でしょう。一名は無傷ですが、残り二名はは歩けるかも怪しい……」

セオの冷静な分析に、ジンがぎくりと体を震わせる。

「時々こうして現行犯を取り押さえるのは、ある意味賞賛に値しますが、
加害者が歩けなければ、連行は面倒だといつも言っているでしょう……?」
「ご、ごめんなさい……セオ中尉……」

「ねぇねぇ、それが誰もついてこないことと関係があるのかい? ジンさん」
「えっと、それもあるみたいですけど、よくわからないです……」
「ふーん」

やっぱ苦手だ。対人になると手加減ができず、相手が動けなくなるまで攻撃してしまう。
一番ひどかったのは、友人を襲ったチンピラを下半身不随にしかけたときで、
流石にあの時はランク1thのホライゾンに怒られてしまった。

「ジンは、自分の身を守る時しか手を出さない。何かされたのか?」
「リカ……アサシンに“奇襲”されかけて、剣士さんには“居合い”、
アーチャーさんには……多分あれは“イーグルアイ”かな」

「全部喰らえば、流石に死にますね。演習ではない分、特に“奇襲”が……下手をすれば即死でしょう」
「それなら、別に怒らなくてもいいじゃん」
「しかし、我々治安維持部隊はそもそも冒険者を守る為にいるのであって……」
「はいはーい。セオ中尉。拘束終わったみたいだし本部戻るよ~」
「ぬえさん。私の話はまだ……」
「人呼んでくれてありがとね。本当感謝してるよ!」

半ばぬえに連行される形で、二人はアクロポリスへと戻る。
治安維持部隊は、階級によって連れて行ける部下の人数が限られているため、
少尉以上の階級をもつ、ぬえとセオが変わりに来てくれたのだろう。
動けない二人が、タンカで運ばれていくのを見つつ、ジンは一人俯いた。

「……ジン。なにがあった?」
「いや……何でもないんだ。リカ」

そう言って目を逸らそうとすると、リカルドの右手がジンの頬へと伸びてきた。
突然の出来事に驚き、恐怖すら感じて固まる。だが、離れたリカルドの指には赤い液体が滲んでいた。

「アサシンにやられたのか……?」
「あ……」

気づかなかった。
連続突きを食らった時か、交わしきれず頬を切ってしまったらしい。

「手当するから、本部にいこう」
「サンキュ……」

そうして彼らは徒歩で本部へと戻り、簡単な事情聴取を受けた。
逆襲シナモンを独占していた3人は、初めは当然、事実を否定したが、
持ち物調査にて、大量のイヤリングが発見されたため自供。
乱闘に置いては、スキル上危険であったとして、正当防衛が認められることなりジンはお咎めは無しとなった。
頬の怪我は軽度であることから、治癒魔法よりも自然治癒がいいとして、
リカルドにファーストエイドを貼って貰おうと思ったのだが、
それを見ていたランク7thのリゼロッテが、ジンの想い人にも等しいランク3thのナハトへ頼んでやると意気込み、
危うく軽度の怪我が重症になりかけた。

結局、リカルドに絆創膏を張ってもらい、ジンはラウンジで食事を取る。
珍しい人物がいることに、ランカーの彼らは興味本位で声をかけてくれるが、
ジンはカナトと共に帰宅した三人が気になり、食も進まない。心なしか美味しいとも思えなかった。

「ジン君がめずらしいじゃなーい。ここで食事なんて、相方君と喧嘩でもしたの?」
「リゼさん……ちょっと色々あって」
「何々? お姉さんに話して見なさいな? 話すだけでも心が晴れるってもんよ?」

ずいずいとすり寄ってくるリゼロッテは、同じ椅子に座ろうと押してくる。
何もしないでいるとセクハラをされかねないので、ジンは椅子を移動し、口を開いた。

「友達に……怖い想いをさせちまって……」
「……あらら、どうしてまた?」
「俺は守りたかったんですけど、やっぱり手加減が出来なくて」
「ふぅん」
「すこし複雑です……」
「ようするに、ボコボコにしてるのを見られちゃった?」

一連成り行きを知るリゼロッテに、隠し事などできはしない。
押し黙ってしまったジンをみて、リゼロッテは頬杖をつくと、
ジンのスプーンを奪って、食べかけのカレーを口に含んだ。

「り、リゼさん。それ俺のーー」
「どうせ美味しくもないんでしょ? そうね、あえていうなら、最初から合わなかったって割り切ってもいいと思うけど?」
「確かに……それはそうですけど、というか俺の晩飯」
「悩むぐらいなら、さっさと帰って仲直りしなさいな」
「それは……出来ません……」
「……」

いつに無く深刻な表情でそう返したジン。

今帰れば、また怖がらせてしまうかもしれない。
そう考えると、帰路に入ることもできず、ジンはうつむいたまま頬杖をついた。
流石のリゼロッテもこれは重症だなと想い、素直にスプーンをかえす。
二人が沈黙し、ジンが再び無言でカレーを食べ始めた頃、ラウンジの窓からポツポツと水の音が響いた。
徐々にそれは早くなりアクロポリスでは珍しく雨が振り出す。

「雨なんて珍しいわね。梅雨でもないのに……」
「……」
「帰れなくなっちゃったわね」

そうしてジンは、残りのカレーを口へ掻き込む。


***


ざぁざぁという雨音が響き、タイタニア・ジョーカーのカナトは、思わず食器洗いの手を止めた。
後ろでは、ふわふわの絨毯に寝転ぶ、エミル・ブレイドマスターのコタロウと、
それに寄り添うように丸くなる、イクスドミニオン・アストラリストのハクがいる。

ジンと別れた3人は、泣き出してしまったハクを落ち着かせる為、カナトの家にお邪魔させてもらうこととなった。
冒険者の家とは思えない彼の自宅は、家主がジョーカーであるためか、倉庫に様々な武器が揃えられており、
コタロウやハクにとっては、まるで博物館にでも来た気分にもなったが、
今日はジンのこともあり、武器を見ても気分が高揚する事もない。

「カナトさん。洗濯物を取り込めました」
「クオ殿。助かります」
「突然振り出しましたね」
「えぇ、通り雨だといいのですが……」

床には眠そうな目で天井を見上げるコタロウ。少し考えるとつい先ほどの事が蘇り怖くなる。
響く銃声。痛みを訴える悲鳴。懐かしくも感じるその恐怖に、思わず両腕で顔を覆い苦しい気持ちを抑えた。
そんな様子を見兼ねたカナトは、一人で二回の居室へ向かい、黒の四角いケースをリビングへと持ってくる。

「カナトさん。それは?」
「少し気分転換をと思いまして」

出てきたのはバイオリンだった。少し違った空気感に、コタロウとハクはゆっくりと起き上がる。
バイオリンを手にしたカナトは、床に座る二人へ一礼すると、窓の外から響く雨音を背景に、弓を引いた。
曲は、以前弟と弾いたもの。穏やかな、少し寂しさの混じる曲だ。
今は居ない相棒へ、心配していると言う想いを込め弾いた。

そうすると、奏者本人の心が、音に乗り、曲に乗り、自然とそれが聞き手に向かう。
ゆっくりと奏でられて行く空気の微動は、純粋な心を持つ彼らへとダイレクトに影響を与えた。
遠退き終幕となる曲へどこか名残惜しさを覚えるものの、コタロウは最後までそれを耳に焼き付け、一息。
弾き終えたカナトは、微笑をみせて一礼した。

「かなと、寂しいのか?」

ハクの率直な質問に、カナトは苦笑。そっと頭を撫で口を開いた。

「少し……しかし今は、貴方方が居るので平気です」
「カナトさん。……ジンさんは、帰ってきますか?」
「どうでしょうね。暫くは帰らないと思いますが、そのうち戻るでしょう」
「いつだ?」
「そのうちですね」

ハクの顔に不安が見える。成長しきれない幼い心は、ちょっとしたことで不安を増長させて、寂しさを煽った。
再び泣き出してしまいそうハクの表情に、カナトは戸惑ってしまう。
こういう時何を話せばいいのか分からない。ジンなら上手くやってくれるのに……、

「カナトさん。僕、ジンさんを探してきます」
「!? ……しかし、外は雨です」
「ジンさんもきっと、雨で動けないと思いますし、迎えにいけばいいんだよ。ね、シロ!」
「こたろー……」

立ち上がろうとしないハク。コタロウはそんな彼を目線を合わせ、改めて聞いた。

「シロは、ジンさんがこわい?」
「こ、こわくねーよ。あいつ……弱いから……」

本人が聞いたらどんな顔をするだろうと思ったが、ここはあえて何も言わない。

「うん。シロが守って上げないとね。だから雨の中に捕まってるジンさん、助けにいこうよ」
「……っ! ジンつかまってるのか! 助けたいぞ!」
「僕もだよ。一緒に行こう。シロ」

どうやら方向性は決まったようだ。
クオンまた、元気になったコタロウを見てほっとする。

「奴ならおそらく、元宮にいると思われます。外は暗いですし、4人で行きましょう」

そう言って人数分の傘をもち、ジンも傘も一本持って、4人は家を出た。


***


頭が痛い。ラウンジにきてどの位の時間がたっただろうか。
雨は止んでおらず、カレーの皿は未だ片付けられていない。
リゼロッテと話した事までは覚えているが、彼女も報告書の作成があるといって、既に席を立った。
結局行く場所もなくなり、やることもなくなり、途方にくれラウンジの机に突っ伏して眠ってしまった。
しかしそれでも、あまり時間は経過していない。どうするか。
そんな思いを走らせ、ゆっくりと顔を上げると、目の前のイスに人影が見える。

「おきた?」

にっこりと笑う。白服のエミル。
装飾の入ったティーカップをもち、くつろいでいるのは、レースつきのイヤリングをつける男性。
寝ぼけ眼で相手を見て、ジンは一瞬誰だか分からなかった。
だが、序所にはっきり見えてくる視界に背筋が冷える。
ギルド評議会管轄、治安維持部隊総隊長。エミル・ガーディアンのキリヤナギだ。

「うわああぁぁ!!」

思わずイスごとひっくり返る。
誰もいないラウンジでやかましい音が響き渡り、ジンやようやく眠気から冷める。

「ジン! 大丈夫!?」
「そ、総隊長!? ど、どうして!」
「ジンが帰ってきてるってきいたから見に来たんだけど……怪我してない?」

安易だ。
しかし、違反者を取り締まったのだから、彼の耳に入っててもおかしくはないか……。

「だ、大丈夫っすけど……」
「そっか。ちょっと伝えたいことがあって……」
「つ、伝えたいこと?」
「本当は掲示板に貼り出すんだけど、ジンは本部に来ないからさ。明日メールしようと思ってたんだ」

そういってキリヤナギは、脇においていた紙袋を取り出し、ファイリングされた書類を数枚取り出す。
辞令と一番上に書かれたその書類は、短い文面でこう書かれていた。

「『ギルドランク5th。エミル・ガンナーのジンを、現階級“実働兵”より、“少尉”への昇格を許可する……』」
「うん! おめでとう! じん!」

両手をあげて一人でワーといわれても、正直どこから突っ込めばいいのか分からない。
それ以前に……、

「え、昇格ですか!」
「うん。この一年で何度か違法犯を捕まえてるし、最高責任者のみんなも納得で昇格がきまったんだ。
“実働兵”じゃなくて“少尉”になれば、3人の部下がもてるし、お給料もあがるよ!」
「え? え?!」
「おめでとう! おめでとう! あ、でもその書類にサインして僕に渡してくれないと昇格できないから、
昇格したいタイミングで提出してね」
「……」

どうしよう。むしろ突っ込み待ちなのかそうじゃないのか。
しかし書類は本物だ。総隊長本人が渡したのだから、これはおそらく間違いない。

「ふくざつ?」
「あ、いえ。うれしいです。ありがとうございます。でもちょっと……」
「少尉になったら、部下を持てる分、管理もあるからね。部隊のお仕事ちょっとふえるんじゃないかな」
「俺は今が気楽で……」
「ジンはランカーだよ?」

そうか。ランカーなら命令の義務は発生しない。
しかし、

「少尉になったらどうなるんですか?」
「うーん。僕はある程度経験があるって認識だから、結構高度な任務をまかせたいかなぁ。
武器の密輸の摘発とか、暗殺組織の壊滅とか」

あるいみ命に関わりそうな気がしないでもない。

「人が使えるようになるからね。結構面倒な仕事がおおいかも」
「ランカーならそれは受けなくてもいいんですよね」
「うん。義務じゃないからね。ただ“実働兵”とは違って本部から仕事の依頼がくるようになると思うよ」

ギルド評議会、治安維持部隊における。階級。
それは治安維持部隊そのものの貢献度からなる階級であり、加入時の“実働兵”から始まり、
“少尉”“中尉”“大尉”“少佐”“中佐”“大佐”の七つの地位に分けられている。
階級が上がればあがるほど、よりたくさんの部下を持つことはできるが、
ネックなのは、多数いる“実働兵”より上の階級となるものは、任務ごとに必要な人材を“選べる”ということ、
つまり、部隊員達は自分より上位階級の者に“使ってもらう”事で、下の階級の者は実績を積むことができるのだ。

「ジンは一番下の“実働兵”だったけど、ランカーになって外でいろいろ貢献してくれたからね。
ランカーなのに仕事してるって、最高責任者のみんなも喜んでるよ」
「そ、そうですか……そんなつもりはないんですけど」

上から好かれている事に悪い気は起こらない。
だが、実働兵時代。自分は周りの同職に嫌われ、一度も任務で使ってもらったことはなかった。
ようやく使ってもらえたと思ったときには、ディメジョンダンジョンに突き落とされ、散々な目にあっている。

「とりあえず、おめでとう。ジン。」
「あ、ありがとうございます」

何度も言われ、ようやくまともな言葉がでてきた。
うれしくないわけじゃない。今までやってきたことが認められたのだから、喜ぶべきだろう。
しかしなぜか、どう喜べばいいか分からず、ジンは立ち上がり一礼をすることしかできなかった。

「ふふ、ランカーのみんなに伝えたら喜んでもらえるかな~」
「か、カンベンしてください……」

何が起こるかわからない上、どんな扱いを受けるか……。
そう思った時、突然キリヤナギのナビゲーションデバイスに音が流れた。
普通の音ならまだしもココッコーの泣き声だったので、ジンは思わず冷や汗を流す。
通話だったのか、キリヤナギは通信にでてきょとんとしていた。

「用事ですか?」
「うーん。よくわかんないけど、元宮の入り口にジョーカーのアークタイタニアさんが来てるんだって、
受付の人が対応できなくて困ってるみたい」
「!?」
「ジンの知り合い?」
「アークタイタニアですよね。たぶん……」
「そっか。じゃあ僕はそろそろ帰るよ」
「はい、ありがとうございました。総隊長」
「うん。またね。ジン!」

ジンはそう言って一礼。カナトが来ているのか、ギルド元宮はあくまで職業ギルド加入者に向けての場だ。
職業ギルドに加入しない冒険者、ジョーカーは、各ギルドの規約的な縛りを持たないために、部隊員が取り締まることができない。
危険人物としての拘束は、国際法から認められてはいるものの、基本的な行動制限をまったく持たないため、
治安維持本部としては非常に厄介な存在でもあるのだ。
明確な身分証明がなければ、捕まって事情聴取される可能性があるのに、それでも来るとは……。

大急ぎでエレベーターを降り、ロビーへと出たジンは、人だかりのできている入り口付近に視線を持っていかれた。
そして、その中央にいる少年達の存在に、思わず言葉を失う。
ハクとコタロウとクオンだ。彼らはエレベーターから出てきたジンを発見し、人ごみを掻き分けこちらへと駆け出す。
そんなぬれた靴で走ったら、転んでしまうかもしれない。それでもハクはとまらず、勢いのままジンへと抱きついた。

「じん! 助けにきたぞ!」
「……シロ君!?」

後ろから更に、エミル・ブレイドマスターのコタロウも追いついてくる。
ジョーカーのカナトは、案の定入り口で足止めされており、彼は目線が合うと持ってきた傘を振って見せてくれた。
わざわざ迎えに来てくれたのか。クオンのほうは、身分証明があったらしくカナトを心配そうに見つめている。

そんな中、ふと下を見れば、抱きついたまま泣き出してしまったハクがいて……。
もう会えないと思っていたのに、それでも彼らはこうして自分へ会いにきてくれた。
うれしくて、言葉が見当たらず、何も言わずかがんだジンは、
二人と目線を合わせ、そっとやさしく二人を抱きしめる。
そして、ずっと留めていた思いを、口に出した。

「怖い思いさせて、ごめんな……」
「ジンさん……ごめんなさい。僕……」
「じん~。おいら…こわくないぞ」
「そっか……ありがとう……」

目にじわりと涙を溜めるコタロウ。
そんな彼の頭を優しく撫でると、ジンは案内係と話をつける為に人だかりへと入っていった。
ランカーの武器を見せて、身分証明を行えば安易に開放してもらえるとは思ったが、
同じタイミングで、部隊の総隊長から通達があったらしく、思いのほかすぐ解放してもらえた。

「さって、帰りましょうか」
「「はい」」
「おー!」

時間は既に夜だ。未だ雨が止まず、5人は傘をさして元宮をでる。
それでも、ジンの心はなぜか晴れやかで、思わず前の相方へ声をかけた。

「カナ」
「?」
「来てくれてありがとな」
「俺は彼らをつれて来ただけだ。行こうといったのはコタさん、礼はそっちに言え」
「そっか、サンキュ」

「そうだ、ジンさん。お昼の手品のタネ。分かりましたよ!」
「ヘェー、クオ君。さすがっすね」
「本当か! くお、どうなってんだ!?」
「シロ君。アイス断念っすか?」
「お、おいらもわかったんだよ!」

「昼の話はさておき、アイスはちゃんとあるのでご安心を」
「本当か! やったぞ、こたろー!」
「もう、シロってば……」

「カナト。それってこの前、俺が買い置きしといた5個セットの奴?」
「そうだが?」
「あれ俺、昨日一個食ったんだけど……」
「もう一つ食べたのなら、二個めはいらんだろう」
「は!? なんだよそれ!」
「貴様がアイスを賭けたのだ。自業自得」
「ひ、ひっでぇ……」

「へへっ、おいらたちの勝ちだぜー! じん」

そういって水溜りで遊びだしたハクは、あっという間にドロだらけになり、3人ともカナトの家へ泊まることになった。
帰宅して月光花も加わり、3人は久しぶりに賑やかな夜を過ごすことになる。




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本編 | 【2012-09-06(Thu) 18:00:00】 | Trackback:(0) | Comments:(0)
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