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(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

反逆の大地-Hells of Rebelion- *後日談エピソード

出演:カルネオルさん、ヒカさん。ヴァルサスさん。

あらすじ
冥界から戻り、皆が日常へ回帰していく中、
ジンは冥界で出会ったタイタニアの少年。パトリオット・コールタワーと再会する。
彼は、イリスカードを見つけ出したジンを恩人だと謳い、
治安維持部隊に加入することで、ジンの部下になりたいと言い出した。
しかし、いまだ本部に複雑な気持ちをもつジンはそれを強く拒絶する。


 


「へぇー、チョーカー辞めたのか」
「はい。必要はないと判断しました」

何もつけていないキリヤナギを見て、向かいに座るカナトはまるで当然のように述べた。
キリヤナギ本人は、ソファへ横になり、ウォーレスハイムの手で魔力を抜く作業をされている。
部屋に三人だけがいる珍しい状況だが、既に報告は全ておわり騎士組も自由解散していた。

「初めてにしちゃなかなかの出来だが、やっぱりちとツメが甘いな」
「そうですか?」
「コイツ見掛けによらず見栄っ張りだから、力使えるって分かると無茶するんだよ。想定する耐久の倍は持つようにしとかねぇと、すぐこわすぜ?」

「ま、まだ一回も壊したことないですけど……」
「当たり前だろうが!! テメェのやりそうな事は想定済みなんだよ! メンヘラ拗らてんじゃねえぞバカ」
「……」
「言う事あるだろうが!」
「ごめんなざぃ」

また叱られている。
カナト本人より、こちらの方が親子らしく見えてきてしまうのは、必然だろうか。
抜く作業の合間に、ウォーレスハイムはカナトの封印のソースコードの修正を行い、数分足らずで全てを終えてしまった。
キリヤナギも解放されて、無理矢理剥がされた服を治している。

「俺の魔力で補強したし、これでまぁ大丈夫だろ」
「え、チョーカーは!?」
「まだいるのかい? 自分で買え」

「構わないのですか?」
「俺は責任を取ってるだけで、コイツを飼った覚えはないしな。お前がどうにかしたいなら好きにしろ」
「ありがとうございます」

「ぼくの、僕の今までの努力は――!!?」
「おー、よく頑張ってるぜ。これからも頑張れ」

ウォーレスハイムを前にすると、キリヤナギは毎回泣いている気がする。
しかし、彼が子供の頃から面倒をみているのなら、この関係もあながち不思議ではないと思えた。

「父上、イリス武器に関してなのですが……」
「あぁ、アレか。欲しかったんじゃねーのか?」
「はい、ですがやはり私の手には余ると認識しております」
「そーかい。んじゃ、外したくなったらジンを連れてきな」
「……破壊神への対策に、必要となる可能性は?」
「それはお前の仕事じゃねぇ、いいか? 俺がお前を自由にしてんのは、あくまで社会見学だ、若いうちに世界渡り歩いて、どの国がどんな情勢かとか勉強してこい」
「アクロニアの各国ですか?」
「おうよ。アクロポリスはただの中立地帯だからな、結局、交友だの貿易だのは、全部別でやってんだよ。面倒くさいったらありゃしねえ」
「四か国……?」
「四か国プラス一国だな。身分隠せるうちにやる事が山ほどあるだろ?」

たしかに冥界や天界へ貴族として向かった時は、自由にみて回る事が出来なかった。
息苦しいとは思わなかったが、自分の足で見て回れなくなる前に、また足を運ぶべきだろう。

「上手いこと顔広げて恩売って、逆らえないようにしたらこっちのもんさ」
「それは対等とは言い難く思えますが……」
「あん? 国家の食い合いに対等も何もない。相手を尊重したいなら、こちらも堂々と立ち回れ、温情は奢りだ」
「!」
「譲歩と哀れみは違う。相手はプライドの全てを賭けてんだ。それに答えねぇ何が対等だよ。 そんなん、ただのボランティアさ」
「……それは毅然と向かい合うことこそが、天界流であると?」
「天界流? そんなのしらないね。俺流だ。だからカナト、俺は俺のやり方を教える。うまくやれたからな、その上でどうやるかはテメェで決めろ。でもその前に、俺たち天界人が何故エミル界と仲良しこよしでやってきたか考えるんだな」

授業だと、カナトは父の言葉を脳裏に焼き付けた。今まで頑なに跡継ぎに関して触れてこなかった彼が、いま始めてカナトに先の未来を告げた。
若いうちに何を成すか、何をすべきかを指し示したのだ。
無視はできない。やれる限りやらなければ、

「カナトが何処かいくなら、ちゃんと付いてくし言ってね」
「お前が来るのか……?」
「え、ダメ?」

あからさまに嫌そうな顔をされ、キリヤナギは何故か傷ついていた。
カナトとしては、無駄に目立つし、出かけるならジンと行きたい。

「なんだカナト。こいつ嫌いなのか?」
「そうではないですが、キリヤナギだといささか面倒だとは思っただけです。混成騎士団と仲が悪いと聞いているので」
「なるほどな」

「別に悪くないし、南軍に嫌われてるだけだし……」
「それを仲が悪いと言うんだぞ」
「他の三軍とは仲良いんだよ!! よく応援頼まれるぐらいには……」

「南軍は力あるからな。プライドが高いのさ。そもそも同等権力のある人間が5人いる時点でおかしいんだよ。まとめ役でも作ればいいのにな」
「キリヤナギでは、できないのですか?」
「アクロニア最大の軍事国家が、それを許すと思うかい? ただでさえコイツ、南軍のセレモニーを一回台無しにしてんだ。何もしないにしても戦線布告と同等のカルマ背負ってんのさ」

「南以外の3国は、別に冒険者に混じって国境超えてもスルーしてくれるのに、アイアンサウスだけは迂闊に入ろうとすると、捕まって目的を言及されるから本当めんどくさいし、やっていけない」
「南軍とやりあえる戦力を見せつけた時点で、コイツがリーダー気取れば、何するか分からねぇって話だな。無難に無能演じてれば、今頃仲裁役にでもなれてただろうに」
「色々と限界きてたんですよ。演習で部隊を疲弊させて、部隊員の士気を削ぐやり口は、あの時の僕には我慢ならなかった。面倒ではあるけど、後悔はしていません」

視線を合わせずに述べられた言葉に、カナトは深い意味を感じた。
本部が地位の低さを理由に、混成騎士団から理不尽な扱いを受けていたのはある程度知っている。
そこから信頼を勝ち取っていく中で、認めず歩み寄ろうとしない相手を敵とみなしたと言えばそうだろう。
あの時キリヤナギは、安定の全てを捨て、戦って行く道を選んだ。

「でも実際に僕の事が大嫌いなのは、アイアンサウス本土にある軍の偉い人だけだから、世代交代さえしてくれたら、どうにかなるかも」
「いいのかい? そんな事言ったら、連中が暗殺された時にてめぇが疑われるぜ?」

楽しそうに語るウォーレスハイムに、キリヤナギが身を小さくして震えている。

「キリヤナギはそのような事に無縁なのでは……」

ふと、ウォーレスハイムの表情がおどけた。
驚いたような、意表をつかれたような表情に、カナトは数秒固まってしまう。

「父上?」
「あー、言われたらそうだな。コイツなんだかんだでお人よしだし、言いすぎたよ。悪かったな……」

「い、いえ……大丈夫です」

雑に頭を撫でられるキリヤナギは、カナトからみれば完全に子供扱いだ。
齢300歳を超えたウォーレスハイムから見れば、未だ二桁しか年を数えないキリヤナギも幼く見えるのかもしれない。

「無駄話してる場合じゃねぇ、そろそろ出かけねぇと」
「今日はどちらへ?」
「今言ったアイアンサウスだな。こいつが借りた庭の経費類の清算だよ」
「僕がいくと嫌がらせに割り増しになるからね……」

「それは、手間を取らせます」
「経費は冥界から落ちるっつても、どうせ支援金だし同じなんだよ。今度行く時は、マシな結果にしてくれな」

息が詰まった。
当時はそこまで頭が回らなかったが、冥界の資金は外貨なのだ。資金繰りの話をされた時点で、相手にとってノーリスクであり、一枚上手にだったのか。

「ちゃんと天引きするし、気にすんな。航路取り付けた時点で、家は黒字確定だし」
「付かぬ事をお聞きしますが、これ以上資産を増やされて何を?」
「んぁ? 社会貢献だろ? ノブレスオブリージュ。貴族なら当然。税金もかなり納めてるし、うちの金で部隊維持してるようなもんだぜ?」

「僕も一応領主だけど、あるいみウォレス様の方が地主色つよいですよ」
「地主なら、税金納めて欲しいぐらいだがなんで払ってんだろうな??」

冗談のつもりなのだろうが、彼の場合本当に不満がありそうで、カナトはコメントを控えた。
一応父も、望んでエミル界にいるのだから、不満はあれど、その為に努力していると思うからだ。

ウォーレスハイムが去った後、カナトは窓の外が聞き慣れた声が響いているのに気付く。
正門から最奥の部屋に当たるここの窓からは、使用人が出入りする裏口が見下ろせるのだが、その入り口付近で、二人の男が口論をしていた。
声を張り上げていたのは、武器を下げたジンと、カナトは初めて見るタイタニアだ。

「あれ、パトリットだ」
「知り合いか?」
「知り合いっていうか、冥界で会った感じ? 友達になったのかな」

それにしては、大分嫌がっている。
友人なら招いてもいいと思うが、逆に気を使わせそうでもあり、行動に悩んだ。

「ジン、困ってるみたいだし、様子見に行こうよ」

キリヤナギは柔軟だと思う。迷うカナトに対して、素直にそう言えるのは自分に自信があるからだろうか。

屋敷の裏口からでて、二人の様子を見に行くと、ジンはこちらをみて、張り上げていた声をとめた。

「ジン、おかえり。どうしたの」
「えーとぉ……」

「お!アンタ、冥界でみた! 俺の事覚えてる?」
「パトリット君だっけ?」
「パトリオット・コールタワーって名乗ってたけど、実はこれ、芸名なんだ」
「芸名?」

「なんか、そうみたい?」
「改めて自己紹介すると、レイジ。アークタイタニアのレイジ。最強のジリオンブレイド使いとしてやってたんだけど、井の中の蛙って思い知ってさぁ! 部隊員になれば、もっと上を目指せると思って、ジンさんにアドバイスお願いしてたんだ」
「へぇー、でも教えてくれはするけど上を目指すっていうのかなぁ?」

困惑するキリヤナギは、説明に迷っているようだった。たしかに自治組織で上を目指すのも、何か違うきがする。

「あとあと、部隊ってコネがないと偉くなれないって聞いたから、ジンさんに詳しく教えてもらいたくて」

「俺はホークアイだから無理だって!!」
「嘘でしょ? だって、ヴァルサスさんが、“ジンさんは特別だ”って言ってたし、他のやつに聞いても、口を揃えてすごい人って絶賛だったっすよ!?」

ようやく話は見えてきたが、カナトからすればジンとキリヤナギから聞いていた話と、相違がある為、率直な疑問を口にした。

「失礼ですが、何故芸名を?」
「お! いい質問! パトリオット・コールタワーはアクロニア一のジリオン使いだったから、何かの悪い奴に狙われたら大変でしょ、だから、身を隠せるようにそう名乗ってたんですよ!」
「な、なるほど」
「で、アンタ誰?」

「カナトはこの家の……」
「私はアークタイタニア・カナトです。レイジ殿となんら変わりない冒険者です。カナトとお呼びください」
「その喋り方懐かしいなぁ。天界の実家を思い出すぜ」

ジンが不満そうにこちらを睨んでいる。
身分を隠すことが不満なのだろうか、立場の所為で、話辛くなるのはさけたい。

「部隊の事なら、キリヤナギの方が詳しいんじゃないか?」
「詳しい? たしかに詳しいんだろうけど、入ってからの話しか出来ないからどうなんだろ?」

「試験の内容どんな感じなんだ? 部隊員なら知ってるだろ?」
「え、うーん。ソードマンだよね? ヴァルが勝手に決めるからわかんないなぁ」
「お、大雑把だな?」
「その職を知らない人が判断するより、よく知ってて、かつ面倒見る人を取る方がやりやすいと思って」
「大丈夫なのか?」
「合わないって思ったら、大体直ぐやめちゃうしね」

「なるほど、すげー厳しいんだな……」

レイジの厳しいと言う言葉に、キリヤナギは眉間に皺を寄せていた。
たしかに、意味合いが微妙に違う。

「それなら部隊長に媚び売る方がいいじゃん?」
「ヴァルサスさんには、もう話をつけたし、加えてジンさんの力もあればきっと無敵っしょ! 入ってからも、俺一生ついてくって決めましたから! お願いします!」
「ヴァルサス部隊長は苦手だって……それに俺、普段は本部にいねーし!」
「ランカーなんですよね! 知ってますよ! 第6位! 静かに活躍し続ける影の存在……! 超かっこいいじゃないですか!!」

ジンが助けを求めるようにこちらをみている。
だがカナトも、何故か黙って静観していた。キリヤナギに至っては、

「レイジってなんでジンがいいの? ヴァルともう話してるのならそれでいいとは思うけど……」
「ジンさんは、俺の大事なイリスカードを取り返してくれたんです。冥界で絶望して、俺もうダメかと思ってたけど、ジンさんは助けてくれた。だから、今度はそんな優しいジンさんの助けになりたくて、部隊に入ろうと思ったんです!」

「俺はそんなん責任もとれないし、困る……」
「俺が勝手について行きたいだけです。だから」
「勝手にするなら頼るなよ!! 俺は関係ないだろ!」

勢いよく振り払ったジンに、レイジは尻餅を着いてしまった。
場が凍りつき、騒然と静まり返る。
ジンは何かに気づいたのか、何もいわず屋敷に戻ってしまった。
座り込んだまま、呆然とするレイジにキリヤナギはそっと歩み寄り、目線を合わせる。

「大丈夫? 怪我してない?」
「え、平気です。ジンさん怒らせちゃったかな……」
「ちょっと不味かったね。ジンって優しいんだけど、結構繊細だから」
「じゃあ、謝らないと……」

「今は、そっとしてやってくれませんか。また後日、私が話しておきますから」
「……カナトさんだっけ? ジンさんの仲間?」
「えぇ、それなりの付き合いです。キリヤナギとも」
「そっか、じゃあまた明日来る」
「えぇ、またここにお越しください」

レイジが見えなくなるまで見送った二人は、ふたたび屋敷に戻り、ジンが居るであろうカナトの自室にむかった。
キリヤナギは気を使わせるからと言って、自分の部屋に戻り、カナトはティーセットを乗せたワゴンを押して部屋に戻る。
部屋には、ソファに横になりデバイスを触るジンがいた。

「今日出かけたのは、武器のメンテナンスだったか」
「うん。殆ど使ってなかったし、すぐ終わったけど、帰りに練習終わったアイツと会ってさ……しつこく付いてきて面倒だった……」
「普段なら困っている人をほっておけない貴様が、あそこまで嫌がるのは珍しいと思った」
「……別にそんなつもりはないし、確かにもっと別の話なら、助けてたかもしれないけどさ……本部は、あんまり関わりたくなくて……」
「……私と出会ったばかりの頃は、ひたすらに本部を避けていたのは、覚えているが……」
「うんまぁ、今はカロンさんと会ってランカーのみんなもいるし、マシにはなってたんだけど、最近また気味が悪くて……」
「そうなのか? レイジ殿はかなりいい噂を聞いたと言っていた」
「ありえねぇよ。何もしてないし……覚えがないのに媚びられるって気味が悪いし……。また何か考えてんだろうなって」
「考えている? 何をだ?」
「しらねぇよ、とにかく、何されるかわからねぇし、本部にはあんまり関わりたくない……」

キリヤナギの話を思い出す。
カナトが、居心地が悪いと言ったことに対し、キリヤナギはそれではかわいそうだと返したのだ。
まだ、カナトには知らないジンの感情がある。

「ジンは、キリヤナギが嫌いか?」
「え、別に? 優しいし、今はなんか下手に気を使わなくていいし……好きとは違うけど……」
「信頼しているか?」
「……信頼っていうのかな? でも、総隊長がいれば何とかなるって言う安心感はあるから、そうかも?」

あくまで仕事上の話と言う事だろうか。
ジンにとって、キリヤナギとは所属する組織の上司であり、打ち解けてはいるのだろう。

「好きか嫌いかって、なんで?」
「信頼できる上司を助ける為に、お前が一人の部下を取り、助けるのも筋なのではと思っただけだ」
「それは確かに理にかなってるけど、私兵と部隊員両立してるし、護衛だし、流石にやりきれねぇよ」
「我が家に来るぐらいなら、全く問題ないぞ?」
「そう言う問題じゃねぇから……と言うか、コネ作ろうとしてるだけだろ?」
「キリヤナギの話か聞いてないが、縦社会ならよくある話じゃないのか?」
「そうだけど、俺の下についたって煙たがられるだけだし、デメリットしかねぇよ」

レイジと言っていた話とは全く逆で、カナトは首を傾げた。だがレイジも未だ部隊員ではなく、情報に信頼性がない為、信じるには足らない。

「あいつ、総隊長の前でコネの話してたよな」
「そうだな。加えるなら、敬語でもなかった」
「大丈夫か、あいつ……」
「心配なら口利きしてやったらいいんじゃないか?」

別に合格を願っているわけでもない。
ただ少しだけ手を貸しただけだった。
いつも通り、当たり前のことをやっただけだったのに、レイジは恩人だと譲らない。

「明日またこられるので気持ちを一応伝えたらいい」
「明日もくんの……。アイツお前の立場知らないけど大丈夫かよ」
「あまり気を使わせたくはない。一般人でいさせてくれ」

少し納得はいかないが、カナトの身分をレイジに明かせば間違いなく尻込みするのは分かる。
ジンはジンで、それで諦めてくれればと期待していたのに少しだけガッカリしてしまった。
だが、カナトがレイジと対等に話したいというなら伝えるべきではないのかもしれない。

「明日は自宅にも帰るので、タイミングはいいだろう。買い物も必要だ」

たしかに10日ほど空けており、自宅には何もない。レイジが城に入らず自宅にくるなら、バレる事もなさそうだ。

「そいや、今回はパーティーとかやるの?」
「打ち上げは私も考えたが、キリヤナギがもう明日から出勤らしくてな。部隊本部で適当にやると言っていたのでナシだ」
「へぇー」
「だが、数ヶ月以内に冥界から来賓がくるとすれば、我が家でまたやる可能性もある」
「くんの!?」
「本来は天界でやるのが筋だが、いかんせんメロディアスは天界に領地をもたないので、見せられるものがないし、フィランソロと共同管理している土地を我が物顔で語るのは違うだろう?」
「土地??」
「天界に呼んでも、連れて行く場所がないという意味だ」

よくはわからないが、カナトが言うならそうなのだろうと、ジンは素直に理解した。
貴族の建前は分からないが、パーティーがあるなら、身構えたいと思ったのだ。

「打ち上げがしたいなら、来週にでもキリヤナギを呼びつけてやっても構わないぞ?」
「別にやりたいわけじゃねぇし、苦手だからさ」
「私もだ」
「……マジ?」

半ば信じられない言葉が返ってきて、しばらく固まった。
理由がきになるも作業を始めたカナトを邪魔する気が起きず、ジンも明日自宅に戻る準備を始めた。

そして次の日の朝。
ウォーレスハイムの御前。母のシャロンやリフウ、月光花がみな広いテープルで食事を終える頃、ずれた時間帯にジンは現れる。

「あら、お寝坊さんですこと」
「えーと……」
「おはようございます。ジンさん」

リフウとシャロンは、髪型でしから見分けがつかない。
優しい雰囲氣の二人がいる横で月光花も食器を片付けていた。

「おはよ。ゲッカ」
「おはよ! 今日帰るんだっけ?」
「そそ」
「ちゃんと準備できてるー?」
「できてるし、手間かけさせねーよ」
「ふふ、ならいいけど」

「月光花さん。一人暮らしなら、まだ居てもいいのよ」
「寂しくありませんか?」
「ありがとうございます。でもこいつ、最近よく来てくれるから、家に居たくて……」

目を合わせられて、思わず逸らした。
確かに家に居てほしいと勝手に思っていたからだ。

「あら、微笑ましいこと」
「ねぇさん!」

この姉妹はどこかやり辛い。
姉妹と月光花が部屋に戻るのと入れ違いで、カナトが食事を持って現れた。
ジンが、この時間にきたのはあらかじめ3人がいたことを聞いていたため、気まずいのでずらしてもらったのだ。
情報誌を読み、事の顛末をすべて聞いていたウォーレスハイムはコーヒーを飲みながら口を開く。

「女と話すのは苦手かい? ジン」
「え、ま、まぁ……」

何もかもわかっていそうな目に少し怖くなる。
カナトは、自分の分の食事と一緒にジンともうひとり分をトレイで出してくれた。

「キリヤナギはまだなのか……」
「アイツ出勤だろ? 大丈夫かい?」

「だいじょうぶです……」

ふらふらと壁伝いで現れたのは、まともに寝癖を直せていないキリヤナギだ。
服もシャツとスラックス一枚で、自宅にいるのとほぼ同じで驚く。

「総隊長、いいんすか……?」
「ぇー……何が?」
「服……」

「きにすんな。コイツ、ガキの頃はここが家だったんだ。今日は客もいねぇし、構いやしねぇよ」
「眠い……」
「相変わらずだなぁ。大丈夫かい?」
「しごといきたくない……」
「諦めろ。俺もいきたくねぇ」

二人でげんなりしている様に、ジンが言葉を失っている。
キリヤナギの朝の残念さは、彼を古くから知るウォーレスハイムにとっては周知の事実なのだろう。テーブルに突っ伏したまま二度寝をやりそうなキリヤナギを、ウォーレスハイムは心配そうに眺めている。

「昨日抜いたばっかだしなぁ。辛いだろ」
「なんか、わからないけど普段よりきつい……」
「封印の性質が変わったから、意識レベルで何かあるんだろうな」

「何か違いが?」
「付け替えは基本的に平常時のがいいんだよ。端的に言うなら内圧があるのを前提で組まれてるから、中身が弱いと過剰に押さえつけるのさ。タイミング悪かったな」
「ぅう……」
「チョーカーなら外せたが、慣れるしかないな」

脱着ができるのはその為でもあったのか。
カナトは表情を変える事もなく、自分で作ったらしい朝食に手をつける。
あまりに自然で気づかなかったが、テーブルをみると、ウォーレスハイムを含めた四人分の食事が用意されていた。

「これ、カナトが作ったの?」
「そうだが……」

「朝は料理人がいなくてな、普段はバトラーに任せてるが、カナトがいりゃ自分で作るし助かるねぇ……」
「父上はバトラーに頼りすぎです。少しは自分の事をされてはどうですか?」
「雇ってる側が仕事取っちゃダメだろ?? 」

カナトが眉間にしわを寄せている。
この親子の会話は微妙に噛み合わなくてヒヤヒヤする。

キリヤナギがかなりローペースで食事をする中、ジンは自分達以外の面子が現れない事に気づいた。
キリヤナギはいるのに、騎士組はいない。

「……昨日の報告が終わった時点でみんな帰ったよ。グランジもね」
「そうなんすか?」
「僕も帰るつもりだったんだけど、様子見て貰う必要ができて……」

「何かあれば、よそに迷惑がかかるからな。二週間くらい。安定期に入るまではこっちにいろ」

キリヤナギがカナトを睨んでいるのに、本人はデバイスでニュースを見ている。
ジンは何があったのだろうと色々察した。

「ウォレス様はなんでカナトを……」
「あん? てめぇは俺の責任だからな。封印が変わっても同じだ。それとも何か? もういらねぇなら、やめるぜ?」
「えっ、いります! カナトまだできないみたいだし……」

ジンがキリヤナギの首元に目を向けると、チョーカーがなくなり銀のチェーンのみになっている。
心なしかスッキリしているようにも見えた。

「そのうちやれるように、努力する」
「そうだな。まぁ俺も、安定した方法を確立するのに数年はかかったし、てめぇなりの方法を探すといいさ」

コーヒーを飲み終えたウォーレスハイムは、情報誌をカナトに投げ渡し、立ち上る。
まるで待っていたかのように現れたバトラーは、彼にジャケットを着せていた。

「んじゃ、またな」
「御機嫌よう、父上」

ウォーレスハイムが出かけてもキリヤナギはまだ眠そうだ。
心配にはなるが、レイジとの約束があるために、カナトとジン、月光花は午前中に城を後にして、買い出しに出かける。
月光花も少しだけ買い出しに付き合ってくれたが、出勤時間に合わせて別れた。
正午近くに再び、城の裏口まで戻ってくると、昨日会った彼がそこに待っている。

「ジンさん! 昨日はごめんなさい!」
「は、えーと……」
「そうですよね。勝手についていくとか言って、頼るとか、俺、間違えてました。やっぱり一人でがんばります!」

第一声がそれなのかと、突っ込みたくはなったが、考えていた事であった為、返答に困ってしまう。

「御機嫌よう、レイジ殿」
「昨日の、謝る機会作ってくれてありがとうございます!」
「カナトです。貴方が納得したのであればよかった。荷物を置いて参りますのでお待ちを」
「あ! 手伝だわせてください!」

「いいって、俺がいくし……」

レイジは気にした様子もなく、庭の下で待っている。
納得して帰るのかと思えばそうではないらしい。

「どうすんだよ!」
「さぁな」
「さぁなって、カナトが呼んだんだろ?」
「ジンも話したい事があったんじゃないのか?」

気にしていなかったと言えば嘘になるが、許せば付け上がりそうで触れたくはなかった。
言葉にできずストレスを溜めているジンをみて、カナトはもう一度庭から降りて行く。ジンも仕方なく後に続いた。

「レイジ殿は午後の予定などは?」
「ない! 何もないなら試験の練習しようと思ってたんだ」
「練習ですか」
「ま、どんな試験か分からないけど!」

ジンをみても、知らないらしい。
キリヤナギもわからないと言っていた為に、試験内容は秘密とされているのだろうか。

「ジンも分からないなら、知っている方に聞いてみましょうか」
「なんで助けるみたいな流れになってんだよ……」
「レイジ殿がジンの下につく事と、入隊試験は別だと思うが……」
「ええ……まぁそうだけどさ……」

目をキラキラさせたレイジに、ジンは何も言う事が出来なくなった。
カナトの視線を受け、ジンはしぶしぶデバイスを取り出し、登録されている番号に通信をとばす。

@

「御機嫌よう、カナトさん!」
「なんで私まで来なきゃダメなんですか……」

集まったのは東アクロニア平原のパーティ募集広場だった。
カナト、ジン、レイジの3人の元に現れたのは、部隊本部所属のランカー、アークタイタニア・カルネオルと、エミル・ヒカの二人。

「カルネ君、ヒカちゃん。久しぶり」
「本当に久しぶりですね、6th。というか、貴方と知り合いになった覚えないんですけど?」

「ヒカさんは僕が連れてきました。グラディエイターについて知りたいと聞いたので」
「うんまぁ、そこのレイジが新しく部隊に入りたいらしくて? どんな試験内容か知りたくてさ」

「加入試験なんて、当日まで明かされないのに、セコい手口つかいますね」
「明かされないというか、部隊長が毎回思いつきでやるので、そう思われてるだけですけど……」

「思いつきなの……」
「はい。トーナメントだったり、技術力だったり、筆記だったり……でも筆記は問題作りと採点面倒すぎて二度とやらないと言っていました」
「前回はトーナメントでしたね。でも優勝者が部隊長をクソザコだと煽って落とされて、代わりに最下位が通っちゃったりして、SNSで大炎上してましたね」

何があったのだろうか。
キリヤナギから聞いて予想はしていたが、聞けば聞くほど残念で言葉が出ない。

「すんげー厳しいじゃないっすか。俺不安になってきた……」

レイジの発言に頭痛がしてくる。

「それはもう、技術や能力よりも人柄で判断してるんじゃないのか?」
「そうですね、カナトさん。総隊長も志がしっかりした人を選んでる印象があるので、ヴァルサス部隊長もきっとそうだと思います」

「ちなみに、二人の時は?」
「僕の頃は……たしかまだ人数が少なかったし試験はなかったです。総隊長と部隊長に会うだけでした」
「私もそうですね」

カルネオルは一体いつから部隊にいるのか気になるが、無垢な瞳を疑うのは野暮だろう。

「ならここは面接の練習の方がいい気もするが……」
「あまりオススメしませんけど、的を射ていると思います。でも総隊長に演技する意味はないので、自然がいいと思います」

「その総隊長ってどんな奴なんだ? すごそうじゃん」
「どんな奴っーか、お前昨日会っただろ?」
「へ?」
「私服だったけどさ……」

「キリヤナギ総隊長と会ってるなら、別に心配要らないんじゃないでしょうか。合わなかったら割とすぐ無理って言う人だし」
「キ……キリヤナギ?」

「キリヤナギ総隊長だぜ?」
「もしかして、昨日カナトさんの隣にいた?」
「ええ、奴です」
「はぁぁぁぁあ!! お、俺、普通にタメではなしちまったよ!! 助けてジンさん!!」

「しらねーよ! お前こそ何で分からねーんだよ!」
「キリヤナギは別に気にしていなかったが……」

「元々ゆるい人ですからね……」
「たまにイライラしますが、嫌いじゃないですね」

「つーか、何だと思ってたんだよ……」
「ジンさんって確か実働兵だし、下っ端だと」
「あ"ぁ!?」

「ジンさんは、総隊長の私兵でもあるので部隊本部では実働兵でも、大尉と同格なんですよね」
「そうなの!?」
「馬鹿にすんじゃねぇぞ!」
「ひぃ、ごめんなさい」

「キリヤナギは、貴方をご存知のようでしたが……」
「うん、なんか冥界で座ってたから、俺のジリオンをみてもらったんだよ。首かしげてたけど……」

その状況で何故気付かないのか、
色々言いたい気持ちをカナトに抑えられ、ジンは渋々自重する。
このレイジはジンが今まで会ってきた人間の中でも妙に癪に触る。

「あんたら二人、総隊長と一緒って何者だよ……。しかもカナトさんは、キリヤナギと一緒に出てきたし」
「ただの友人です。しかし、私は彼らと違い部外者ですので……」
「本当? まだ隠し事してないよな。キリヤナギ総隊長みたいに、実は……とかはナシだぜ?」
「私は少なくとも、ただの一般人です。無礼を働いた所で、何かあるわけでもありませんよ」
「そ、そっか……」

なかなか話が進まないことにもイライラする。
カナトが気を使わせたくないと言うのもわかるが、そんなの対等ではない気がするし、納得がいかない。
もちろん。身分を明かすリスクがあるのも理解しているが、この気持ちはなんだろう。

「面接の練習でもされますか?」
「ん〜実は、そう言うのあんまり好きじゃないんすよね。でもせっかくジンさんが呼んでくれたし部隊の事聞いてもいいすか?」
「いいですよ」
「それぐらいなら」

カルネオルとヒカは、ジンに変わってレイジに治安維持部隊の事を分かりやすく説明してくれていた。
元は、リングから派生した冒険者の自治組織。キリヤナギによって作られ、勢力が増えた事でギルド評議会の傘下に入った。
そこから功績を重ね。現在ではアクロポリスの自治を騎士団と同等の立場で守る、いわば領主の一人となった。

「騎士団と肩を並べてから、部隊員は一気に増えて、今では2500人を超えてますね」
「試験が必要なわけだな……」
「はい、特にソードマン系は人気で300人はいるので、毎年とる人数は一人か二人になってます……」
「倍率は?」
「去年が最大で20倍だっけ?」

「10人取るといいつつ、採用は一人でしたね。だから炎上したんですけど」

それは確かに不誠実だ。
何が基準とされているのかは分からないが、全ては部隊長の匙加減なのだろう。

「あと体質的に、知り合いからの推薦はかなり有利ですね」
「やっぱり?」
「友達と一緒に希望してたりすると、二人揃って入れたりします。チーム前提の組織なんで、初めからペアだと仕事も回しやすいですから、もちろん、総隊長の合う合わないは有りますけど」

「個人が、やりやすい相手を呼び寄せる事ができる。という認識でいいか?」
「はい。なのでもし僕がレイジさんと仕事がしたいと推薦すれば、かなり有利ですよ」

「本当っすか! でもすいません。俺もうジンさんについてくっていう予約してて……」
「自分で頑張るんだろ?」
「はい!」

「しかし、カルネオル殿がそう言うなら、やはりジンの推薦が一番に思える」
「そうですね。特に騎士は、総隊長が一番信頼してますから、部隊員よりも影響力がありそうです。でも騎士組って基本的に総隊長しか見てないので、推薦は聞いたことありませんね」

確かに、ジンも騎士になってカナトとキリヤナギしか見ていない。
ランカー達との関わりすら無くなっているのは、自然な流れなのか。

「別に俺じゃなくても、ヴァルサス部隊長にコネあるならいいじゃん」
「そうなんですか? レイジさん」

「練習みてもらいはしてたけど……」
「ヴァルサス部隊長は、基本的に気に入った人は、声掛けますけど、最終的に加入まで行く人は、殆どいないのでどうなんでしょう……」
「そうなのか!?」
「大体総隊長が落とすんですけど……」
「またキリヤナギかよぉ! 俺もうダメじゃん!」

「あまり悲観的になられず、結論的に偽っていなければいいと言うことでは?」
「そうですね」

レイジが涙目で見てきて、ジンは目をそらした。
カルネオルの言う事は残酷だが、たしかに部隊長が安易に新人を受け入れるのも違う気がするからだ。

「部隊長が推薦するのに、キリヤナギは信頼してないんだな……」
「部隊長と総隊長は、たしかかなり長い付き合いだったと思うので、信頼をしていない訳では無いとは思うんですが、総隊長、最近はかなり採用に消極的になってしまった気がします、何かあったのかな」

元リングの体質だろうか。
カナトに詳細はわからないが、今はキリヤナギよりも珍しく非協力的なジンの方が気になる。

「ジンは何故そこまでして本部を避ける?」
「うるせぇ、嫌なもんを嫌っていって何が悪いんだよ」

機嫌も悪いらしい。
ヒカは無表情だが、カルネオルが苦笑しているのをみるとやはり理解しがたい壁があるのだろう。

「じゃあこれだけは教えてください。ジンさん」
「まだなんかあんの?」
「ジンさんは何で、部隊に入ったんですか?」

意外な言葉に、ジンは少し意表をつかれた。
たしかにしばらく考えていなかったが、忘れたことはない。

「俺みたいな奴を、出さないためだよ……」

カナトはこの時、ジンが戦う理由を知った。
何故知らなかったのだろうと、自分を悔やんだ。
こんなにも長い時間、苦楽を共にしてきたのに、

「かっけぇ……、やっぱり俺、ジンさんに出会えて良かったです!」
「は……」
「俺みたいな奴ってなんですか!? なにがあったんですか!! もっとジンさんについて、知りたいです! カナトさんとの関係も……」
「なんでそうなるんだよ!」
「だって、治安維持部隊って、冒険者を助ける組織でしょ! それで、俺みたいな奴って、やっぱりこれ以上負の連鎖を断ち切りたいっつことじゃない? 違う?」
「よんな! 気持ち悪い!!」
「俺なら絶対憎んだり、復讐したいとか、思うのに……すごいっすよ……」

「……レイジ殿?」
「すいません。部隊に入りたいって言うのは間違い無いんです。でもやっぱり俺、冥界で、あそこまでボコボコにされて、ちびって、何かの間違いだって思ってたけど、治安維持部隊の剣士に色々見せつけられて、悔しくて仕方なかった。だから、見返してやりたいって言う気持ちもあったのかもしれません」
「……」
「実は部隊長にも、今じゃ無理ってはっきり言われてて、どうしたらいいかわからなくてついジンさんに……頼ろうとしてしまった、でも確かに、こんなただ見返してやりたいって気持ちで、入るのは何か違う気がしてきた」

「確かに、ちょっと違うかもしれませんね。あくまで人助けですから……」
「部隊員は部隊員との協力が必要不可欠です。競うのは自由ですが、意地を張られるのは困ります」

「あはは、やっぱり」

カナトは、これでこの話は終わりだろうとため息をついた。
レイジが目指すものと、部隊の方向性が合わないのなら、違う道を探した方がいいと思うからだ。だが

「いや、むしろその方がいいんじゃね?」

カナトを含めた、カルネオルとヒカが息を潜めた。
今まで頑なに意見をまげず、非協力的なジンが、前向きな言葉を口にしたのだ。

「部隊本部なんて、週間ノルマこなしてりゃ除隊させられることもないし、そう言う目標があった方が、長続きするだろ?」
「でもそれじゃ、上に上がれないんじゃ……」
「俺、人を管理するの億劫だし、別に気にしねぇや」

カルネオルは、気づいた。ジンは普通ではなかったのだ。
かつて部隊で、一人だけ誰とも組まず誰ともつるまない部隊員がいた。
彼は友人がおらず、助けてもらえる人もいず、ただ部隊員のストレスの捌け口にされていた。
上官と絡めば贔屓を妬まれ、怪我をして帰れば嘲笑われる。
カルネオルは、噂だけを知っていた。
詳しくは知らずにいた中、ふと何かのタイミングでそんな話を聞かなくなり、脱退したのだろうかと思っていた。
が、彼はランカーになり活動拠点を変えていたのだ。

「なんでみんなこっち見んの……?」
「えーと、たしかにジンさんの言う言葉も一理ありますけど、偉くなるとやっぱり仕事が手に負えなくなるし、チームになった方がいいかなって……」

「特に対人の場合、1人では危険ですからね。6thは永久の実働兵なんですから、もう少し相手の立場を考えて言ってください。無責任です」
「別に一人でも10人超えなきゃどうとでもならね?」
「なりません。騎士組の方々と一緒にしないでください。部隊本部からみれば、あれは化け物たちの集いです」

散々な言われように、ジンは何故か傷ついた。

「そこまで実力差があるのですか?」
「新人実働兵なんて、基本的に対人や狩には無縁な人が大半ですから、そんな事をしたら返り討ちどころか殺されます。変わって騎士組は、対人や狩の経験数何桁も違いますから、動きも当然変わってきます。普通に強いだけでは辿り着けませんね」

「それ褒めてくれてんの?」
「貶しています。一般部隊員を同列に扱わないでください。勘違い部隊員が空回って事故になります」

なぜか更に傷ついた。

「確かに俺、結構がんばってると思ってたけど、ランカーや騎士の人に勝ったこと無い」
「6thが最弱ですか? まぁそうでしょうね」

「ジンさんの場合。周りが化け物なんですけどね……」

ヒカの容赦の無い言葉に、ジンは目も当てられないほどに凹んでいる。
ジンを弱いと認識した事は無かったが、確かに冷静に考えれば強さの基準がずれてきていたのかもしれない。

「ヒカ嬢。ジンはこれでも私の父が強さを認めておりますから、そのぐらいに……」
「……? よく知りませんが、騎士組に入った時点で、その強さは間違いないとは認識してますよ。ただあの基準を押し付けないでください。迷惑です」
「ご、ごめん……」
「あと、レイジさんでした?」

「はい!?」
「6thはあー言いましたが、根本的に誰かを助けたいと言う気持ちがなければ、部隊本部では生き残れません。これは部隊員全員が助け合い。誰かを救いたいと願っているからでもあります。6thみたいな例外も稀にいますが、ランカー、そして騎士まで登りつめたのに、未だに実働兵である時点でお察しでしょう。レイジさんはレイジさんのやり方で進んで下さい。でも、迷惑はごめんです」
「ヒカ……さん」
「私は帰ります。試験うけるなら頑張って下さい。でも加入したとしても、自分の野心しかない貴方を……私は知りません」

カルネオルの引き止める声に応じず、ヒカは背を向けて町に戻ってしまった。
レイジの呆然とした表情が印象的だが、座っていたジンも何故か辛そうな表情を浮かべていた。
ヒカの言葉は、レイジだけでなくジンにも刺さったのだ。

結局、話は進まず解散し、ジンは気分が戻らないまま夜を明かすことになる。
次の日の朝、カナトが目を覚ました時にはすでにジンはおらず彼は1人、部隊本部に足を運んでいた。
朝の本部は、皆が訓練をしていて人が少ない。
受付はがらがらで空いており、ジンはこっそりとリュスイオールの元へ向かった。

「リュスイちゃん」
「ご機嫌よう6th・ジン様。最近はよく来られるのですね」
「ま、まぁ、えーと、ちょっと知りたい事があって」
「如何されましたか? 総隊長でしたら、訓練中ですので……」
「違う違う! リュスイちゃんに……」
「? 何でしょう」
「部隊員って、新しくはいる奴を推薦できるんだよな?」
「はい。推薦状をお書き頂ければ、総隊長が確認します。内容にもよりますが、明確な理由があれば受理されるでしょう」
「受理って、合格?」
「あくまで参考にするという意味です。主に推薦者の人格、階級、貢献度などが見られますね。6thには、推薦されたい方がおられるのですか?」
「え、いや別に、でももし推薦するなら俺の場合どのくらい有利なのか知りたいなって」
「ランカーや騎士からの推薦は、未だ前例がありませんので具体的には不明です。しかし、騎士は立場上、キリヤナギ総隊長が最も信頼されていますから、その効力は絶大でしょう」
「そうなの?」
「言い換えるなら、キリヤナギ総隊長の命令に対し、好きな助っ人を連れていきたいとお願いするようなものですから、そこに疑いは発生するとは思えませんので」

書類を通すといえど口約束程度なのか。
しかし、キリヤナギの性格を考えると、確かに推薦があれば、許してくれそうにも思える。

「しかし、推薦システムは、少尉に昇進した部隊員が、部下を作るために使う方が大半です。ですから、6thのように、普段本部にいない方には相性はよくないかもしれません」
「そうかも、レクチャーとか必要だったり?」
「時期によります。来週からはじまる加入試験に合わせられるなら、一斉採用した部隊員の研修がありますので不要ですが、時期がずれれば、推薦者にレクチャーをお願いする事になるでしょう」

面倒だなと思った自分にジンは我に帰る。
何故こんなにもレイジを気にしてしまうのか、分からない。

「こちらが推薦状です。私に提出していただいて構いませんが、ジン様の場合、総隊長に直接渡していただいた方が早いかと」
「そっか、ありがとう。ちょっと考える」
「ハイロゥを背負わないジンさんを見るのは、久しぶりでした。また何なりとお申し付けください」

最近のリュスイオールは以前の様な硬い雰囲気が消えていて、何故かとても安心する。
ジンは一人エレベーターを使い、カロンがいるであろうラウンジに向かうが、開店した直後だからか、まだだれもいなかった。
仕方なく一人で入り、リュスイオールに渡された書類を見直す。
プロフィールに加え、能力的なものが必要なのかと思えば、推薦理由や関係などの表記が必要で、自分とレイジで考えるとなかなか描きづらいものが多い。また注意事項に、推薦理由は配属先も考慮されるとの表記もあって、下手にかくとどうなるかわからない。
勢いだけできたが、ジンにはハードルが高かったか。
ジンは少しだけ悩み席を立って、1人エレベーターへと乗り込んだ。
訓練中で人が居ない本部は気楽でいい。
向かったのは、ソードマン系のフロアにある訓練ホールだ。練兵場としても使われていて、かなりの広さがとられている。
汗ばんだ匂いも、このフロア独特の空気だ。

ジンは出来るだけ気配を消して、ホールを除くと広いホールをギリギリまで使い訓練をする部隊員がいる。
以前ジンは、キリヤナギのいるフェンサー系にも顔を出したが、比べものにならない人数がいて、おもわずしりごみした。

「お、よく来たな」

叫びかけた声を殺し、ジンは驚いて息を詰まらせた。
真後ろから肩を叩いてきたのは、白羽に黒髪のアークタイタニア。シャツ一枚の彼はジンもしる、ソードマン系の部隊長。ヴァルサスだ。

「なんだよ。来るなら言えよ」
「ヴァルサス部隊長……」
「見学かい?」
「え、えーとそうじゃなくて、ちょっと聞きたいことがあって、でも今訓練中だし、今度でも?」
「俺に用事か? 別に、俺も会議から戻ってきたばっかだし、今でもいいぜ?」
「会議?」
「冥界のだよ」

忘れていた。
キリヤナギはたしかに報告会をすると言っていたからだ。

「ま、ここじゃまる聞こえだし? お前、部隊員が苦手なんだろ? 休憩室で話そうぜ」

何故知られているのか。
案内されるがままついていくと、ホールの隣にある小部屋に入り、ヴァルサスはお茶を入れてくれた。
一応部隊長なので、敬うべきだろう。

「それで、なんだい?」
「レイジが昨日、俺に会いにきて、部隊長に加入無理だって言われたって聞いたんですけど、なんでだろうと思って……」
「は……ぶ、ははははは! お前そんなん気にすんのか。レイジ気に入ったんだな!」
「別に気に入った訳じゃないっすけど、俺の時は試験なかったし、入れない事がそもそもピンとこなかったから……」
「そうかい。たしかにかなりでかくなっちまったからな。俺も不思議なぐらいだ」
「……! ヴァルサス部隊長って結構部隊に人を誘うって」
「おう、見込みのある奴はな。でもキーリがあんまりいい顔しなくてさぁ。俺の選んだ人材はだいたいアウト。部隊長の面目丸つぶれだぜ」
「なんで……?」
「さぁ、俺にもわかんね。でも確かにあいつの直感はなかなかだからな」

立場をわきまえていると言う意味だろうか。
しかし、キリヤナギに会う前に、ヴァルサスがレイジに言った理由がよくわからない。

「納得いかないって顔してんな」
「枠がないってわけでもないんですよね?」
「ギリギリだかそうだなぁ。でも公募はやっぱり
目的が噛み合わない奴もくるし、うまくいかねぇわ。去年も、結局ひとりだったしな」
「トーナメントの……」
「ほぅ、意外と本部の事知ってんのな。外じゃ色々いわれてるが……」
「ヒカちゃんから聞いたんですけど、なんかあったんすか?」
「おおあり、当時部隊本部でとあるソードマンリングに目をつけててな。各ダンジョンを独占して、狩りにきた冒険者を脅してる、きな臭い連中がいたんだよ。直接的被害も出ないし、立件できないしで、本部じゃお手上げだったんだが、連中調子乗ったのか、部隊本部のトーナメント入隊試験を、自分達腕試しに使おうとしやがったんだ」
「は……?」
「10人から15人ぐらいだったか。加入希望者20人のうち半分以上がそいつらのリング所属で、流石にきーりも半ギレだったが、一応試験はしたんだよ。面接じゃ、まぁ普通。でも本戦に部隊員を紛れ込ませて調査したら、嫌がらせや不正三昧。連中意外の希望者は怪我や武器のすり替えをされてて、結果的にトーナメントで勝ち残ったのはそいつらばかり、散々だったさ。でも優勝者になったやつが煽って来やがってな。ぶちのめして、全員、嫌がらせ行為とルール違反で一週間軟禁してやった」
「大分やばくないっすか……」
「明らかにやばいし、繰り返されたら困るから、外部には、あてにならないソードマン試験として通すことにしたんだよ。採用は一人ってことにしてあるが、無関係なやつは全員採用したんだぜ? これオフレコな」
「へぇー」
「キーリはそういう根回しがよくするんだよなぁ。俺からすりゃ別に隠すこともねーのにさ」
「悪いイメージつくのに……」
「いいイメージの方が、的外れな奴を呼び寄せちまうんだとさ、悪いイメージの中にある本質を知ってる人だけ来てくれたらいいと、よく言ってるぜ」

少しだけ感心してしまった。
確かにレイジは、部隊本部のいいイメージしか知らない。
何をしているか、何が目的なのか、カルネオルやヒカに聞いて初めて理解しているようだった。

「何かわかった気がします」
「そーかい? ま、レイジを取らないのは、今のあいつ自分の事だけだからな。強くなりたいだけなら、別にここじゃなくていいさ」

何故だろう。ふと、ジンは我に帰った。
思い返せば、ジンもまたレイジと同じだったから、

「俺、特殊だったんすね……」
「そうか? でも確かに、キーリ本人が誘ったのはお前だけだったからな」
「そうなんすか?」
「当時はまだ、来るもの拒まず精神だった部隊で、唯一、キーリが自分から勧誘したお前は、悪い意味で目立っただけの話さ」

何も返す事ができない。
しかし、確かに目立ってはいたのだろう。
そうでなければ起こらないことが、沢山あったから、

「けどそれは過去の話さ。今はキーリと同じ方向をむいて頑張ってんだろ? 周りも認めてんだぜ?」
「そんなん、今更フェアじゃないっすよ……」

ジンの本音を聞いて、ヴァルサスは何故か鼻で笑う。
まるで分かっていたかのような、全てを知ったような笑みだ。

「じゃあどうしたら、フェアになるんだい?」
「えーー」

予想外の返しにジンは混乱した。
何も考えなかったわけじゃない。でもそれを実行に移す勇気がないだけだ。

「俺がレイジの面倒をみる……とか?」
「いいじゃねぇか。あいつやる気だけは人一倍だぜ?」
「でも、落とすんじゃ?」
「お前が推薦するなら、キーリも嫌とは言わないだろうさ」

つまりレイジの可否は、ジンの手にあるのだ。
自分が誰かの運命を握るなど、考えた事も無かったし、気持ちの整理がつかなくなる。
結局何も進展がないままヴァルサスと別れ、ジンは徐々に人の気配が出てきた本部に焦りを感じ、逃げるように自宅へと戻った。
優雅な午前を楽しむカナトは、情報誌から目をそらし返ってきたジンに安堵の表情を見せる。

「おかえり。出かけていたのか」
「うん、まぁ……ちょっと、推薦書をもらいに?」
「レイジを推薦するのか」
「まだ決めてないぜ? 説明聞きに行っただけだし……」
「そうか」
「でも、推薦理由が具体的じゃないとダメそうでさ。俺とレイジじゃ、かけそうな事が思いつかねぇ」
「私はそもそも貴様とレイジがどこで知り合ったかも知らないが……」
「お前そんなんであいつに協力してたの……」
「困っていたからな」

部隊員でなければ、何も考えず手を貸していたと思えばそうだろう、ジンは無意識のレベルでどこか部隊本部を嫌悪しているのだ。
仕方がないため、ジンはカナトにレイジとの関係性を一から説明する事になる。

「なるほど、貴様らしいな」
「本部に入るってきいて、ちょっとした運命も感じたけど……そこまで親しいってわけでもないし」
「友人じゃないのか?」
「ちげーよ。知り合いだけど」
「知り合い以上友人未満?」
「知り合いだよ。それ以上じゃないし……」
「なら、ジンの中の友人の基準はどこにある?」
「えっ……考えたことねぇ……」
「例えば私はどの位だ?」
「カナト? カナトは相方?」
「月光花さんは?」
「……彼女」
「カロンは?」
「先輩? 兄貴みたいな?」
「グランジは?」
「グランジさん? うーん、助けてくれるし、保護者?」
「素直に友人と言ったらどうだ?」
「だって本部絡みじゃん! 同僚だし、友達とは少しちがうくね?」

理解はできるが、納得はできない。
ジンの中で、友人と呼べる存在はそこまで貴重なのだろうか。

「なら、私を相方と言ったお前は、一応私の事を友人認識しているんだな?」
「え、まぁ、確かにそうかも? 気を使わないし?」
「カロンでもそうじゃないか?」
「そうだけど、あの人は特殊なんだよ。だから付き合えるというか……」

目を合わさないのは、別に理由があるからだろうか。
あまり触れてはこなかったが、ジンの中で友人という括りがあまりにも狭く驚いた。
が、同時に思い出した。

ーージンは安易に心を許さない。

父が言っていた事だ。
当時はよく分からず流してはいたが、恐らく一目会ったその時から、父は察していたのだろう。

「リアスとお前は仲が良いが、友人じゃないのか?」
「誰があんな奴と友達だよ!! 知り合いでもねぇ!!」

怒った。
カナトからすればとても仲良くみえるのに、意外だ。
またジンも、カナトに聞かれ友人という言葉に疑問を得た。
カナトは友人だ。間違いない。いる事が当たり前でなんでも話すし、敵になる事はない信頼がある。
なぜなら何度も、命がけで助けてくれたからだ。

カロンはどうだろう。
カロンは確かに友人だが、彼の本質をジンはまだ理解しきれている自信がない。だからこそうまく表現できない。

グランジに関しては、よくわからないのが一番だが、彼が居れば何があっても助かると思える。いわば支えだ。たがそれを友人かと言われると疑問に思う。なぜなら友人は助け合うものだからだ。
グランジには一方的に助けられていて、助けた事はない。だからわからない。

リアスは論外だ。バカにしてくるし煽ってきて、怒るのをみて楽しんでくる。イライラするが、……本当に困っている時に何度も助けられている。辛い時、寂しさを感じた時、リアスはバカにしながらも側にいた。

「私からみれば、リアスが一番友人に近くみえるが」
「わかんねぇよ」

分からない。
でもジンは、カナトとの間にある絆が特殊なものだとも分かっていた。
この関係を友人とするなら、他の関係の全てが知り合いレベルの顔見知りになってしまう。

「親友?」
「どうした?」
「俺とカナトの関係」
「光栄だな」

カナトは笑っていた。
呆れたような笑みで微笑し、納得する。

「カナトで親友なら、リアスは友達になるかもしんね」
「あまり差をつけるものではないが、友人とする定義をみつけたならいいと思う」
「カナトはなんかあんの?」
「何かとは?」
「友達と知り合いの差?」
「そうだな。私は気軽に連絡を取れるか否かだな。キリヤナギやグランジは、入り用になればすぐに連絡するので、遠慮はない」
「へぇー」

目から鱗だ。
たしかに連絡できる相手を友人と定義するなら、ジンもランカー達が友人になる。

「いいじゃん、俺もそれにする!」
「いいのか……?」

あまりにも安置で不安になったが、言動から鑑みると友人の定義がよくわかっていなかったのだろうか。
ナビゲーションデバイスの一覧をみて、少しだけ機嫌が良くなるのも彼らしい。

「話を戻すが、レイジはどうするんだ?」
「わかんねぇ、でも部隊長に話聞いたらさ。たしかにあいつには合わねー感じがするんだよ。このまま入っても俺みたいに苦労しそうって思ったら、なんか踏み切れねぇ」
「お前が面倒を見ればいいだけじゃないか?」
「そうだけどさ……その責任を担げる自信がねぇや……カナトの事もあるし」
「その件は、気にしなくていいぞ」
「え、」
「私がキリヤナギに掛け合いお前の自由意志を尊重できるようにした。私の護衛はジンでなくとも構わないと」
「そうなのか……」
「元々、私のわがままだったからな。キリヤナギが苦手で、距離を取りたかったが、奴は私の父の養子にも近く、疑う事すらお門違いだった」
「でもそれもそれですっげぇ微妙な関係じゃ……」
「養子とは言ったが、キリヤナギはあくまで従者だ。父が奴を育てたのは、私を含めたメロディアスの家の為であり、キリヤナギは誰よりもそれを理解している。奴が私を守りたがるのは、当たり前で当然の行動だったんだ」
「……」
「お前が長く家を空けるなら、グランジが融通を利かせてくれるそうだ。私も一人になりたいことはあるし、自由にするといい」
「……そっか」

少しだけ肩の荷が下りたのを感じたと同時に、やるせなさも感じて、複雑にもなる。
役目を下されたとは違い、重要度が下がったと言う事だろうか。

「月光花さんの庭に泊まるときは言ってくれ」
「な、なんだよ。まだそんなんじゃねーし」

からかうような笑みが憎い。
しかし、確かに少しだけ我慢していた。
カナトが起きるまでの時間に会うだけたったのが、自由にして良くなったのはありがたい。
結局書類はジンのプロフィールのみを埋めて、その日、レイジの事を考えるのはやめた。
数日悩む頃には週が明けて、ソードマン部隊の一次試験が始まる。
一次試験の次の日に面接があり、書面は今日キリヤナギに渡さなければ考慮されない。
結局内容は埋まらなかったため、ほぼ白紙だが、ジンは重い足取りで試験の見学に訪れた。
訓練ホールを見渡せる二階に上がり、会場を見渡すと既に沢山の志願者が集まっている。
ジンの周りにも数人の見学者がいて、視線がひどく痛い。
話しかけて欲しくない空気を出しつつ、ジンはレイジを探したが、受験者とやたら目があって、こちらも視線が痛い。
手を振られても、自分でなければ恥ずかしいと思い無視していた。

どこにも見つからないレイジを探すと、集団の隅に緊張で青ざめるレイジがいる。
周りは仲間と雑談するなか、知り合いがいないのか浮いていて少しだけ気の毒に思えた。
だが、ふと誰かに気付かされる形で、レイジがこちらに気づき目を輝かせたのが分かる。

「ジンさん! 俺、絶対がんばりますから! 見てて下さいね!!」

ホール全体に響く声に、驚いて少し引いたが、緊張した表情とはうってかわり、元気になったレイジに安心した。
流石に大声で返すのは気が引けて、身振りだけで返事をしておくと、彼は嬉しそうに周りに打ち解けた。
話せる仲間ができたなら、それだけで価値があると今なら思える。ジンもまた様々な人に助けられて、ここにいるから、

部隊長・ヴァルサスが提示した試験は、ホールに立てられた標的をより短時間で10本全て倒すという試験だった。
演習に参加するジンにはかなりわかりやすい技術試験だが、受験者の中ではどよめきが起こる。
ヴァルサスはそれを見て、神速斬り、ジリオンブレイドの間を挟まない立ち回りの動作を解説しはじめ、ジンは少し驚いた。
このコンボは、敵を切り倒した後、瞬間的に次の敵へ移れることから演習仲間の中ではかなりメジャーな立ち回りでもある。
だがそれは、あくまで演習でメジャーなものであり、モンスター相手には、あまり意味を成さないかなりマイナーな立ち回りなのだ。
解説を終えたヴァルサスが、部隊員らしき人間にストップウォッチを持たせ、自ら剣を抜き、動く。
その速さに、ジンは驚いた。
ターゲットら神速斬りのみでは落ちず、ジリオンブレイドと一閃を加えて初めて落ちる。
パワー次第ではジリオンブレイドのみで破壊できるが、3つのスキルが必要にもかかわらず、ヴァルサスはものの10秒もかかわらず、ターゲット10本を破壊しきってみせた。
ヴァルサスは間違いなく演習の経験者だと、ジンは呆れる。
また、このコンボはグラディエイタークラス皆伝の人間しか出来ない動きである為、ある意味出来ない前提の試験にもなる。
面接が控えているとは言っても、理不尽な試験だとジンは見学して呆れた。

そうして始まった試験では、一応皆伝しているがコンボが途切れたり、ジリオンが使えず他のスキルを使ったり、時間を気にせず丁寧に破壊する受験者もいて、個性豊かだった。
一人だけ、ヴァルサス並みに高速斬りを見せるものもいて驚いたが、やはり彼は演習にでているらしいと、見学者が噂している。終盤になり、ようやく番が来たレイジは、武器を構え遅くともステップをつかい、らしい動きをみせる。
ヴァルサスとの練習の成果だろうか。
受験者が騒然と見守り全体では二位の成績をのこす、悔しくは思うがレイジは間違いなく努力家だとジンら感心していた。

「ジンさん! どうでした、俺のうごき!」
「なかなかよかったじゃん。練習した?」
「めちゃくちゃ頑張ったんすよ!。それなりに硬い敵さがして、繋がるコンボ研究しました」

部隊本部の食堂で珍しく昼食をとるジンは、未だ感じる視線に耐えていた。
帰りたいが、レイジに確認したい事があり、話していたかった。

「明日面接だけど、やっぱり謝った方がいいっすかね……」
「総隊長なら、気にしないと思うけどなぁ……」
「そうなんすか?」
「しらね」
「どっちですか!」

その突っ込みはもっともだが、それ以上いいようがないのだから、仕方ない。

「そいや、お前は何で部隊にはいりたいんだ?」
「そりゃ、強くなりたいしジンさんの部下になりたいからっすよ!」
「そうじゃなくてさ、入ってから、やりたい事とかねぇの?」
「やりたい事……あんまり考えなかったんですけど、ヒカさんに言われて、仲間が困ってたら何かしたいとは思ったっすね。今日、緊張してたら声かけてくれた人がいて、俺もそうなりたいなぁって」
「へぇー」
「まぁ、俺、絶望的なんで……!」

あえてコメントせず、ジンは続けた。

「レイジ、俺との関係ってどういうもんだと思ってる?」
「決まってんじゃないすか! 恩人ですよ。あと先輩?」
「まだ部隊員じゃないだろ……」
「はは、でも友達とはまだ違う気はするし? でも、観に来てくれるとは思わなくてすげー嬉しかった! 周りもびっくりしてたし!」
「そりゃあんな声出したらびびるって、気をつけろよ」
「声もそうだけど、ジンさん、めったに本部来ないって聞いてたからそれも……」
「来ないことも無いけどなぁ……」

首を傾げられても反応に困る。
しかし、少しだけ考えがまとまった気がした。

「明日面接だっけ?」
「はい」
「総隊長。身長の話題は地雷だから気をつけろよ」
「え、そうなんすか。気をつけます」

これ以上のアドバイスが思いつかないのが、情け無く思えた。
初めは本当にそりが合わないと思ってはいたが、冷静になると、ジンはレイジを一人の人間としてみれば嫌いではないのかもしれない。
部下になりたいと言ってくれるのは嬉しいが。自分と同じ苦労を、レイジにはしたくないとおもったからだ。

「くると思ってたよ」
「なんで……」
「だって、ジンのことだし」

いつもの執務室に、キリヤナギはいた。
セオとグランジの間の机に座る彼は、いつになくらしく見える。

「レイジの推薦?」
「はい、その……どうなのかなって……、」
「僕はまだちゃんと話してないけど、知る限りだと勘違いしてそうだったからなぁ」
「一応、ちゃんと話して説明は出来たと思います」
「そっか、なら会うのが楽しみだよ……」

推薦書を意味ありげに受け取るキリヤナギに、ジンは何故か緊張を隠せなかった。
目の前で、自分の書いたものを読まれるのも、なかなかもどかしい。

「こんな文面の少ない推薦書初めてみた……」
「え゛っ」
「普通こーいうのって、書くことなかったら大体でっち上げるのに、ジンは真面目だね……」
「そんなん意味ないし、総隊長大体知ってるじゃないすか……」
「ジンの場合、べつに僕が関与しなくても、同じ事しそう」
「それは……」

そうだろうと、ジンは自分を諦めた。
たしかに嘘なんて書いても説明できる自信はないし、取り繕うのも上手いとは思っていないからだ。

「なんで推薦を?」
「あいつ、俺の部下になってくれるって言うんで……」
「そういえばそんな事言ってたね。本当なのかな?」
「え……」
「ジンってお人好しだからさ……ちょっと心配で、本当に大丈夫?」

少しだけ、悩んだ。
でも思い出せば、彼は約束を守り、アドバイスを聞き、試験でも上位を撮って見せた。
協力したくないと言う自分にしつこく絡んできて、恩人とまで言う。
まだジンはレイジの事を何もしらないが、一つだけ、決めた事はあった。

「確かに俺、まだあいつの事、全然知らないけど……あいつ、俺が避けても自分で、一人で頑張るって聞かなかったし、練習もヴァルサス部隊長にしてもらって頑張ってさ。試験、かなり良かったんですよ。だから……」
「……」
「とりあえず、信じてみたくなりました……」

目を合わせずに述べる彼の、本音の言葉だろう。
キリヤナギからすればあまりにも安置で、危険だとすら思うが、

「そっか、そうだね。ジンを利用する気だけなら、入ってすぐわかるだろうし、試しに通してみるのもありかな?」
「なんすか。それ……」
「だってこの流れって、工作員が紛れ込む一般的な手口だし……ジンに推薦されやすいってなったら、絶対騙しに来る人増えるよ? 前例作りたくないんだよね」
「レイジを疑ってるんすか……」
「当たり前じゃん。自覚ないかもしれないけど、一応僕って抑止力なんだよ? 僕がいなくなって喜ぶ人いるんだから、僕の私兵に近づいて何かしようって考える人いるだろうしね」
「う……」

何故か酷く傷ついた。
たしかに何度も騙されてきているし、自分の直感が信じられなくなる。
しかし、横にいるグランジが書面を睨むキリヤナギを何故か興味深そうに覗いていた。

「どうする?」
「何でグランジが嬉しそうなの……」

「ジンにランカー意外の友人ができるなら、良い機会では?」
「セオ、それどう言う意味だよ……」
「今はいいけど、ジンが一人で騎士の仕事やる時に本部の人間を使えないのは不便でしょ、冥界の時みたいな大規模な戦闘の時に、騎士は大隊ぐらい引っ張れないと話にならないからね」
「は、それどういう……」
「部隊本部は基本、クラスで隊が分けられてるけど、実際に仕事でチームを組むときはごちゃ混ぜになるじゃん?」
「なるな……」
「その時に部隊本部の隊とは別で、キリヤナギ隊を作る時に幹部としてまとめないといけないって事。まだ人数的に大規模な数にはならないけど100名は超えるからね。人柄がわからない相手についてくる人はいないよ」
「ちょっと理解がおいつかない……」

「実際それやってるのセオだけだけど……」
「誰もやらないからでしょう?? コウガはまだしもグランジとスィーはもう少し有事の時の事を……」

キリヤナギが耳を塞いでいる。
セオも話題がずれている事に気付き、話をやめた。

「とにかくジンの部隊本部のコミュ障を治すきっかけになるならいいのでは?」
「……セオ、流石に直球すぎて引くからやめてあげて」

何故キリヤナギにフォローされているのか。
どこから突っ込めばいいか分からずジンはうなだれるしか無かった。

「ジンは、レイジの面倒みるつもりある? 無くてもいいけど」
「え……いいんすか?」
「ランカーだし? 部隊本部に居づらいのに、そんな酷な事しないよ……レイジは知らないけど」
「……うーん、流石に申し訳ないし、本部に顔出す時にはまぁ……」
「そっか。なら、僕も考えてみるよ。でもきっちり身元調査するし、許してね」
「はい。よろしくお願いします」

「まぁ明日の面接で、隊長の地雷さえ踏まなければ、大丈夫ですよ」
「地雷? 僕なんかある?」
「人間、思いもよらない言葉に傷ついたりしますからね」
「確かに……」

セオの返しが上手い感心しつつ、ジンは彼に忠告して正解だったと再確認した。
それから数日は平和な日々が続いた日。
銃の部品交換のために本部を訪れたジンは、まるで誘われるようにソードマン系のホールへと足を運んだ。
大勢いて流石に分からないかと諦めかけたとき、ホールサイドで、ヴァルサスに個別指導を受ける2名がいた。
かなり距離があり識別に苦労はしたが、ジンは安心をして何も言わずその場を後にする。
そんな一瞬で消えた影を、ヴァルサスの向かいで気づいた一面が顔を上げた。

「どうした? ヤマト」
「部隊長。今なんか外に誰かいたきがして」
「ん、見学か?」
「もう出て行ったけど」
「早く教えろよ」

「へー、全然気づかなかった」
「お前はもうすこし、周りに注意をはらわねぇとなぁ……レイジ」

「部隊長も気づいてなかったじゃん?」
「俺は指導に真面目なんだよ。敬語はいいが、新人なんだから空気読め空気」

「空気っすね! 任せて下さい。この元パトリオット・コールタワーが、空気をさえも切り刻んでみせますよ!」
「そう言う意味じゃねぇよ! それに芸名はやめろつっただろうが!」

ヴァルサスの賑やかな声に、他の部隊員も呆れている。
ヤマトとレイジ。ソードマン系の新しい二人に皆は期待をこめていた。

「死なない程度に鍛えてやる。覚悟しろよ!」
「「はい」」

新しい風と共に、彼らは人々の当たり前を、今日も守ってゆく。


END
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本編 | 【2019-06-05(Wed) 20:00:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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