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反逆の大地-Hells of Rebelion- *エピローグ
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【連載】詠羅×リュウド×ラフォル リレープロジェクト
反逆の大地-Hells of Rebelion-

*エピローグ

*目次
第一話:始まりの離別
第二話:世界のあり方
第三話:捜索と出会い
第四話:冥界と言う世界
第五話:2つのあり方
第六話:偽りの仮面
第七話:結論。そして旅立ち
第八話:開戦
第九話:機械の人間
第十話:孤高なる決意
第十一話:神の審判
第十二話:偽りの神と王
第十三話:願われた神
第十四話:凱旋の禊



 
著:詠羅

ラフォルの庭を見送った。騎士組とカナトは、その足で一度カナトの実家となるメロディアスの城へと向かう。皆に疲労する中、実家の使用人達は、暖かく彼らをむかえてくれた。

「今更ではあるがキリヤナギ、本部に顔を出さなくていいのか?」
「部隊はホライゾンにまかせてあるから大丈夫。みんな疲れてるし、アクロポリスに着いたら一度自由解散して、明後日以降に報告会かな。その時に顔を出すよ」
「……そうか。今回も色々助かった」
「当然です。我が君」

「あっ!」

当然立ち止まったジンに、先行していた数名が足を止めた。
振り返ると、彼は懐から表面に緑のプリントがされたイリスカードを取り出して、それをまじまじとみている。


「どうかした?」
「……冥界の落し物。返しそびれてた」
「落し物?」
「探してきて欲しいっていわれた奴なんですけど、皇国軍に届けるつもりがすっかり忘れてた……」

「へぇー、なかなかいいカードじゃねえか? もらっとけよ」
「コウガさん。それはちょっと……」

「冥界の落し物かぁ……流石に管轄外だし、もらっといたら?」

キリヤナギがそれを言うのか。
しかし、ジンはもうエミル界に帰ってきてしまったし、今更冥界に戻るわけにもいかない。
腑に落ちない表情をするジンに、キリヤナギは困った笑みを見せ、呆れたように続けた。

「ジンは優しいね。頼んできた人は冒険者だったの?」
「はい、えーと、パトリントさん?」
「パトリン? もしかして、パトリオット?」
「あ!そう、パトリオットさん!」
「確かヴァルが似た名前の人を勧誘したいって僕に直談判してきた気がする」
「まじっすか!」
「本人かは分からないけど、なんか昨日のゲーム会場に乱入してきて、僕に『俺のジリオンループ7回をみてくれ』宣言した後、ソードマン部隊のジリオン無限ループを見て真っ白に燃え尽きてたよ」

本人だった。

「僕はガーディアンだからよく分からないけど、7回ってすごいの?」
「何で7回かは知らねーけど、無限ループ習得するまで結構かかるからなぁ……。つーか、隊長。俺らは奈落の敵で無限ループ覚えたんだから、一般にそれ求めたらダメだぜ?」

コウガの呆れた言葉に、キリヤナギは首を傾げる。
ジンは奈落の敵をよく知らないが、ソードマン系におけるかなり強い技術である事は理解した。
しかし、強い技なら何故今まで使われて来なかったのか。

「ジリオンループは、基本的に動かない敵に使うからな。対人には向かないのさ」
「へぇー」
「モンスターだと、回避行動をとる敵はめったにいないからね。定位置で同じ攻撃を繰り返す方がいいっていう。奈落の敵は基本的に道を阻む体力重視のモンスターばかりだから、幹部クラスはみんなできるようになってたよ」

「つーか、奈落意外じゃつかわねーよ。ボス相手でも、そんな回数まわさねーしな」

たしかに部隊そのものは、モンスターの討伐もこなすが、仕事の殆どは対人だ。人間相手に初めから殺す気でかかれないし、人間はかならず攻撃を回避しようとする。
ダメージの効率はいいが、対人のノウハウを踏まえると、使いにくい部類なのか。

「パトリオットさんって、結局部隊に入ったんすか?」
「どうだろう。ヴァルにはいつも通りちゃんと面倒みれるならとは話したけど……」

仔犬かと、ジンとカナトは心の中で突っ込んだ。

「きになるなら、また、ソードマン部隊に顔だしてみなよ。カルネオルとヒカも居るしね」

そういえばそうだった。
しばらく本部にも顔をだしておらず、ランカーの彼らの顔も久しくみていない。
カロンも返ってきたところだし、ここで様子を見に行くのもありだろうか。
使用人に促されつつ、七名がようやくリビングルームに案内されると、そこには長い髪を揺らす彼女ともう一人の女性がいる。
金髪長髪の彼女、リフウは、カナトをみて「おかえりなさい」と呟くが、隣にいた青髪の彼女は、しばらく言葉を失っていた。
そして1番後ろにいたジンをみつけ、周りを掻き分けて進む。
胸に飛び込んできた月光花をジンは何も言わず受け止めた。
か弱い体に伝わる体温は暖かい、シャンプーを変えたのか以前とは違う香りがして新鮮だった。

「おかえり……」
「ただいま」

戻ってこれたのだと、今この時に初めて実感を得る。
手は汚れてしまったが、彼女の為に生き残ってかえれたなら、ジンはそれでもいいとすら思えた。

そんなエミル界での再会を終えた彼らは、再び天界に戻っていると言うウォーレスハイムを待つ為に、数日間、カナトの実家で過ごす事になる。
その日は、騎士組の皆とゆっくり休んだジンは、次の日の早朝から、再び走り込みへと向かった。
横を走るルナは狼だが、ジンは彼をみるたびに冥界で発動したスキルが蘇って離れない。
イリス武器と呼ばれたその兵器は、あらかじめ危険なものだとは聞かされていたものの、
実際に使って体感したのは、頭に描いた事が現実に起こると言う衝撃で、1回目はすごいとか、面白いと思ったが、
2回目に使った時、それがあまりにも簡単に実行され僅かに恐怖を感じた。
他ならぬ自分の体より何十倍も巨大な『破壊神』に対し、ただ想像するだけでそれと相対できてしまった事に、ワーウルフが兵器であると言う実感が湧いてしまったのだ。

「ジン」

噴水広場で休憩していたら、人型のルナが姿を変えた。
複雑な表情を見せる彼も何か悩んでいるのだろうか。

「ジンが、俺について悩むのは分かるが、俺はユーザーのストッパーとしての役割も担っている。だから、心配しなくていい」
「……」
「ジン?」
「え、って、何だよ。突然……」
「イリス武器について、考えていたじゃないのか」
「は、ま、まぁそうだけど、なんでわかったんだ?」
「俺はジンの心に宿っている。全てではないが、俺に対しての事なら全てわかる。だからこそ見過ごせない」
「え……マジ? 悪い……まだ整理ついてなくて」

ワーウルフは首を振った。
彼はベンチに座るジンの前に跪いて、こちらを見上げる。

「俺は、イリス武器を制御する為に組まれたAiだ。だからこそ、ジンに「そう」はさせない」

ワーウルフの言葉を、ジンはしばらく理解出来なかったが、その真意がわかると気持ちがとても落ち着いた。
ジンの意思とは関係なく、ワーウルフが止めてくれるなら、たしかに安心はできるからだ。

「イリス武器の運用理念?」

一方、実家のリビングで朝食をとるカナトは、同席するセオと向かいで食事をとっていた。
当然のようにキリヤナギは起きて来ず、他の彼らも自由に過ごしている為に、ここには二人だけしかいない。

「そう。イリス武器は兵器だからね。そのぶっ飛んだ威力から、作成自体があるいみ禁忌で、使用者が暴走する可能性も秘めてるって話」
「なるほど……」
「イリス武器のAiは、基本的に使用者の暴走を防ぐ為に搭載されてるてて、ただ人形として見るならそれまでではあるんだけど、実際、使用者のメンタルさえ安定してたら暴走は防げるって言うのはあるんだよね」
「しかしセオ、それでは例外があるのでは?」
「もちろん。サイコパス的な嗜好があると、イリス武器のAiはそれを逆撫でしてしまうから、隊長も渡す人は相当選んでるよ。時々グランジに渡したのは後悔してるけど……」

あえて何も言うまい、グランジも一応は場所を選んでいるようにもみえるからだ。

「騎士団や他の勢力とのパワーバランスは……、他国を蔑ろにしてエミル界の文化であるイリス武器の開発を天界がやるのは、違和感があるが……」
「『破壊神』の問題は、エミル界だと観測記録が皆無で、共通問題とされつつもあんまり乗り気じゃないんだって、確かにエミル族からしたら、一世代で遭遇できるのが珍しいし、開発の余力もないだろうから、仕方ないのかもね」
「つまり『天界がどうにかするので、文句は言うな』という事か」
「だいたいそんなとこ。でもイリス武器がこの形に落ち着く前の原型『アナザーブック』も回収しきれてないし、まだまだ課題は多いかな」
「アナザーブックというのか、あの本は」
「うん。でもイリス武器として再開発されてない状態のアナザーブックは、処理術式そのものが古くて不具合が多い。1番古いのはイリス粒子の制御システムが搭載されてなくて、魂みたいな所謂『想い』だけが本に宿ってる状態でさ、本に『自我』があるような状態で顕現して、暴れまくったり、使用者の人間を乗っ取ろうとしたり、危険なんだよね」

何か考えるようなしぐさを見せるカナトに、セオは一度食事の手を止めた。
思い出せば、カナトもイリス武器を手に入れ、現在はそれを利用している。

「カナトさんのワーウルフは、確かノーザンで拾ったんだっけ?」
「あぁ、よく覚えているな。私もかなり前の話でうろ覚えではあるが、ジンの話によると呪いにかかっていたと聞かされた」
「呪いか、確か言い換えて妙だけど、開発途中の半端なAiと、本来、本に宿ってた亡霊が、カナトさんの中で闘ってたんだと思うよ。結果的に亡霊が倒されて消滅して、Ai側が本体を勝ち取ったのかな」
「本来居たものを倒してしまったと言う事だろうか……」
「カナトさん。それは自分を殺そうとした相手に同情してるのと同じだよ。話し合いの余地があるならまだしも、呪いって言われるぐらい体を蝕んでたならそれはどうしようもないさ。現に僕らも回収にそれなりに苦労してきたからね」
「……回収された後、それはどうなるんだ?」
「うーん。大体出て来ないよう本の中に封殺して天界に送ってるけど、イリス武器に再開発される過程でその自我をユーザーサポートに転用できるようにはなってるみたいだよ。それはまだ部隊には降りてきてないけど、そのうち1人の武器として戦ってくれるんじゃないかな」
「それは、Aiではなくなる……という認識で大丈夫だろうか」
「そうだね。自我を持たせた時点でアルゴリズムは不用だから」
「……なかなか興味深い」
「……カナトさんは、ジンのイリス武器をどう思ってるの?」
「ルナか……? そうだな。正直、手に余るとは思っている。しかし、あの災害がエミル界で発生する可能性があるなら、再び外すべきか悩む」
「そうだね。天界が部隊にモノを下ろし始める時点で、おそらく僕達の世代で遭遇する可能性があるって事だろうし、安心はできないかな……」
「……セオ。私は破壊神をこの目で見る事は叶わなかった。実際にはどんなものなんだ?」
「……それは、僕も知らないよ。現場にいなかったし、映像は途中までだったから、写真はかなりあるけどね」
「見れるか?」
「明日以降に整理するから、隊長と一緒に見なよ。ルシフェルが戻るまでは隊長もここから通うだろうし」
「……そうだな。ありがとう、セオ。私も整理しよう」
「世界を守るのは、隊長の仕事だし、カナトさんは無理しないようにね」

セオの言葉が壮大でカナトは思わず口元に笑みがこぼれた。
まだ冥界での事をまとめようと、カナトが自室へ向かっていると、ちょうど日課から戻ってきたジンと鉢合わせする。
彼は輪郭に汗を流し、軽装で首にタオルを下ろしていた。普段見ている光景なのに、背景が違うと新鮮に思える。

「カナト、ちょっと俺、本部にいってくる」
「本部? 今日は休みじゃないのか?」
「全員がやすんでるわけしゃないし、久しぶりに武器のメンテにも行こうと思って」
「……そうか。わかった、気をつけて行け」
「おぅ」

会話も普段通りのものだ、何も気に止めることはない。
ふと振り返ると、ジンは廊下の角をまがって見えなくなっていた。
何が伝えるべきではあっただろうが、もう遅い。
カナトは、足元に控えた狼を撫でると、自らも自室へと戻った。
そんな皆が各々で、朝の時間を過ごす中、キリヤナギはようやく重い瞼を上げる。
ベットの脇には、軽装のグランジがコーヒーを飲んでいた。

「おはよう……」
「遅い」

カナトに好きにしていいと言われ、つい眠りたいだけ寝てしまった。
だが頭が重く、疲れが取れていない。

「うなされていた」

グランジの言葉に、キリヤナギは思わず項垂れる。
連日の過労もあっただろう。
ずっと緊張していたし、安心など1ミリもない七日間だった。
そして、トドメがあった。

「神さまと、連絡とれてなくて……」
「……あの男か」
「神に戻るから、僕らの認識出来ないレベルにシフトするとは聞いてたんだけど……どうなったのかな」
「役目を果たしたなら、そうだろう。破壊神は消えた」

消えてはいない。あくまで再封印が成功しただけだ。
その代償と言うのか、それともその力の余波なのかはわからないが、キリヤナギの信じていた神を自称する男は消えてしまった。
ナビゲーションデバイスには、彼の連絡先だけ残っている。
当然オフラインでつながらないが、キリヤナギは趣に、彼に向けメールを送信した。
届くかどうかはわからない。
だが、もし届いたら迎えに行きたいと思っていた。

「まだ休むか?」
「ううん。起きるよ、やる事はあるしね」

空白にしてもいい日だ。休息の日、休みの日。
だが、キリヤナギへのメッセージボックスには、様々な連絡事項が届いている。
アイアンサウス軍から借りた庭の整備とか、使用した弾丸の個数とか、燃料がどのくらいかかったとか、やる事が多すぎて頭痛もする。
冥界での滞在費を皇国に請求するのも、忘れてはいけない。

「……どうした?」
「撤回。やっぱり休む」
「懸命だな」

現実をみたらやる気が削げた。
事務は苦手だし、苦手な事は得意な人にやって貰えばいいと思うからだ。
せめてメッセージだけでも確認しようと思い、キリヤナギは簡易的な報告書に一つ一つ既読をつけてゆく。
数百件以上にもなるそのメッセージを流し見て、全てに既読がついたのを確認したとき、キリヤナギは思わず言葉を失った。
あるはずの報告書が、そこには存在しなかったからだ。
ない方がいいものだが、今回はそれがないことに驚いた。

「グランジ……」
「どうした?」
「死亡報告書が……無いんだけど……」
「……!」

グランジも驚いていた。
あの時の魔方陣で、少なからず巻き込まれた部隊員がいると思っていたから、だからこそ、安心が度を超えて混み上げてくる。

「良かったな……」
「……うん」

現場に居なかったグランジは知らない。
説明してもそれを納得することしかできないから、語る必要もない。
ただそこにあるのは、全員が帰還したと言う事実だけだった。
再び横になり腕で顔を隠すキリヤナギを、グランジは久しぶりに見た。
仕えたばかりの頃は、ずっと情緒不安定で毎日のように飲酒しては一人で泣いて居たのに、今はそれも落ち着いて涙も見せなくなっていた。
涙をストレスの解消でなく、ただ感情として表せるようになれたなら、それは悪い事ではないとグランジは判断する。
だから、何も言わず、目を合わせず、グランジはただ横にいた。
誰にも見られないよう感覚を研ぎ澄ましながら……



「あのー、ジンさん。俺、来ても良かったんですか?」
「もちろん、というかせっかくだし? ドラッキーちゃんも、気になってたし」
「小生ですか?」

ギルド元宮の治安維持部隊本部。
ジン、ラフォル、ドラッキーの三人は人気の少ない廊下を、歩いていた。
少ないと言っても、冥界に来なかった部隊員達とは時々すれ違うが、ランカーであるジンが招いた為に、気にすることでもない。
今日は受付にリュスイオールの姿もなく、気軽に二人を本部に招くことができた。
仲良く手を繋ぐ二人に、ジンは少しだけくすぐったい気持ちになりつつも、長い廊下を進んでゆく。

「なんか、隊長の話によると、パトリオットさん? 部隊に入ったらしくて」
「え、パトリオットさんが?」
「そうそう、それで、せっかくだからラフォル君とカード返せたらなって」
「そうだったんですね……」
「でも、昨日帰ってきて今日だから、加入手続きは完了してないみたいでさ。代わりに、勧誘したって言うヴァルサス部隊長が、今日本部に出てるみたいで会わせてもらえないかなって」
「なるほど……知り合いなんですか?」
「実は、初対面……」

ラフォルが苦笑しているのを、ジンは見ないふりをした。
昨日のキリヤナギの話と、パトリオットを勧誘したと言う気前の良さから、きっと気さくな人物だろうという予想がつくし、一応キリヤナギの親衛隊なので無碍にはされないと思うからだ。
最悪パトリオットに会えなくても、渡しておいてくれればいい。

「あ、あの。ジンさんですか?」

後ろのラフォルとは違う声が聞こえて、少し驚いた。
目の前には、ソードマン系の人職服をきた少女2人が、肩を寄せてこちら話見ている。

「そうだけど……」
「え、本当に! うれしい! 今日はどうされたんですか? 」

「え、ちょっと用事……」

「あの、よかったら案内しますから!お話させてください!」
「ちょっと!踏み込みすぎだから!」
「めったに会えないんだからこの機会に聞かないと!」

目の前で口論が始まったことに、ジンは頭が真っ白になる。
言葉の意味をうまく理解できず、混乱していると、ラフォルが居ることを思い出して、はっとした。

「ごめん。俺、ちょっと急いでるから! ラフォル君、こっち」
「えぇ、せめて連絡先だけでも……っ」

聞こえないふりをして、ジンは廊下の十字路を曲がり2人の視界から消えた。
目的地はこの先の練兵場なので問題はない。

「ジンさん。人気なんですね……」
「いや多分あれは、何かの間違いと言うか人違いだと思う……」
「だけど、ジンさんって……」

嫌がらせの可能性を考えてしまったなど、ラフォルに言える訳もなく、ジンはこれ以上の言及を避けた。
最近の本部の空気はどこかおかしい。
以前までは酷く避けられていたのに、一転して皆が寄ってきて驚いてしまう。
しかも同じホークアイならまだ分かるが、何故かクラスの違う部隊員にも見られ話しかけられ、訳がわからない。

「だ、大丈夫ですか?」
「ごめん。最近周りが何考えてるか分かんなくて……」

ラフォルは何故か、ジン周り人間関係に不安を覚えた。

「小生は、あまり悪い方達には見えませんでしたが……」
「そうだよな。アイドルみたいな……」

絶句した表情のジンに、ドラッキーは思わずラフォルの後ろに隠れた。

「ぜ、絶対ない」
「そうですか」

ラフォルはある意味大人の地雷を理解出来た気がした。
ジンの後に続いて、廊下の突き当たりを目指すと、その扉の先には練兵場のエントランスらしき場所があり、奥のホールには、2人のタイタニアが、何やら武器を振り回しているのが見える。
ジンが扉の影に隠れるのに習い、ラフォルもその後ろで覗き込んだ。

「あの人かな?」
「……何で隠れるんですか?」
「え、別に、そんな気は……」

小声で影に入るのは、隠れているのではないだろうか。
ラフォルも一応、治安維持部隊の情報をある程度集めてはいたが、そこの情報にジンの経歴がある程度載っていて感心したものだ。
だから、今回本部に呼ばれかなり誇らしいとは思ったのに、何故か同情しか湧いてこない。

「普通に挨拶すれば良いんじゃ……悪い事してないし」
「そうだけど、邪魔したら悪いし……」

ラフォルからすれば、ランカーでも気を使うのだろうかと疑問に思う。
色々あるんだなぁと、ドラッキーと顔を見合わせている中、ふと背中を向けていたタイタニアが此方に振り向いた。

「誰だい? 見学ならこっちこいよ!」

はきはきした、よく通る声だった。
ジンはその声にようやく立ち上がって姿を見せると、声を上げた彼は手招きをして3人を呼び寄せてくれる。
アークタイタニアには珍しい黒髪と一対の翼。そしてその奥にもう1人見覚えのあるタイタニアがいる。

「あ、あんた……!」
「こんにちは、パトリオットさん!」

「なんだい知り合いか?」
「すいません。あの……」
「知ってるぜ。エミル・ホークアイのジン。ランカーとキーリの私兵だろ? 俺はアークタイタニア・ヴァルサス。グラディエイターだ、ヴァルでいいぜ?」
「ヴァル隊長。訓練中にすみません」
「訓練? 違うぜ? 部隊に入る前の予行練習さ?」
「へ? そんなんあるんすか?」
「最近加入者が増えてきて、毎年度全員取れなくなっちまってなぁ、スペルユーザーならまだ余裕あるんだが、ソードマン系は人気で倍率が高いんだよ。だから今度の入隊試験用の特別訓練って訳さ」
「へぇー」

「あんた達。部隊員だったんだな。一眼見たときから只者じゃなさそうだとは思ってだけど、やっぱりだ!」
「パト、舐めんなよ。ジンは部隊じゃ滅多に顔を見せない隠し球みたいなもんだ。実力はお墨付きだぜ」

「なんすかソレ……初耳なんすけど」
「ん、無自覚かい? 俺はキーリとは長い付き合いなんだ。ジンの事は、入った当初から一応知ってるぜ」
「え、そうだったんですか……」
「おう、てめぇが部隊で何をしてきたか、何故そうなったかって事もな」

何の話をされているのだろうと、ジンは一瞬わからかった。
だが、彼の青い目を見たとき思い出したくない記憶がざっと脳裏に駆け巡ってくる。
だが、今日は後ろにラフォルがいるあまり内情を話すべきではない。

「あのヴァルサス部隊長」
「おっと、友達の前か。その話はまた別の機会にしよう。それで、パトリオットに用事かい?」
「あ、はい、パトリオットさんに渡すものがあって」

記憶を振り払い、ジンは懐から一枚のカードをを取り出した。
そしてその絵柄を見たとき、パトリオットの表情が唖然から歓喜に変わる、そして、涙すらも流れてきた。

「お"れ"の"イ"りズがぁぁどだぁぁぁあ!!」

嗚咽にもなった叫びに、パトリオットは興奮を抑えきれずジンに抱きついた。
そしてそのまま押し倒して、ジンが背負っていたハイロゥで背中を強打する。
だが必死に痛みに耐えジンはパトリオットを受け入れた。

「ありがとう!ありがとう!! あんたは恩人だ!!最高だ!親友だ!ありがとう!」

まだ痛みで起き上がれない。
パトリオットはジンの上に座ってぼろぼろと涙を零している。
そこまで喜ばれたら、今更痛いなんて言えないじゃないか。

「おかえり"俺のカード! もう無くさないから、ちゃんとしまうからなっ」

起き上がれないので、早くどいて欲しい。
しかし何も言えず待っていると、ヴァルサスはパトリオットの後ろ襟首を掴んで剥がした。

「おいおい、困ってんだろうが、嬉しい気持ちはわかるがよ」
「ヴァルサスさん! すんません。でも俺、こんな優しくされたの久しぶりで……」
「そうかよ、良かったな」

止めどなく流れるパトリオットの涙に、ジンは何故か達成感を得た。
冥界では何気なく引き受けた事だったが、これ程までに喜んでもらえるとは思わず、自分までうれしくなってくる。
ラフォルもまたそんなパトリオットを見て安心しているようだった。

「ジンさん! 俺、部隊員になったらあんたの部下になって、一生力になります!! 絶対強くなって、恩返しさせてください!!」
「へ??」

「ほー、いい目標じゃねーか」
「ヴァルサスさんの言う通り、ジリオンループだけじゃ、すぐゴールになるし、俺、部隊員になったらジンさんの部下になって貢献する」

「なんで??」
「よかったじゃねーか。ジン、お前、部下持った事ないんだろ? いい機会だぜ?」
「でも俺、部隊じゃ下っ端で……」
「は? 騎士は無条件で大尉だろ? ま、コイツの努力次第だが」

「ヴァルサスさん。俺絶対試験通りますから! って、そっちの赤髪の……」
「俺は、見学なので部外者です。気にしないで下さい……」
「そうか……でもありがとう。イリスカードを取り返してくれて、俺は君への感謝の意を込めて、ジンさんにつくからな」

何故だろう。ジンはラフォルに見放されたような感覚を得た。

「ジンさん。待ってて下さい。俺、強くなります!」

そうして、彼の熱意を上手く消化出来ないまま、3人は練兵場を後にする。
持ってきた武器を窓口に預けたジンは、その足でランカー専用のラウンジに二人を招き、昼食を振る舞うことにした。
三人で席を取り座るも、終始空気の重いジンに、ラフォルとドラッキーは戸惑いを隠せない。

「よかったんだろうか……」

ジンのやるせない表情に、ラフォルとドラッキーは明らかに困っている。彼らは部外者で、事情なんて分からないしお門違いではあるのだが。

「俺は、パトリオットさんの目標になれて、いいんじゃないかなって……」
「そう、かな?」
「誰かに影響を与えるって簡単にできる事じゃないし?」

「そうですね。素晴らしいと小生は思います」

確かにあまり考えた事は無かった。
むしろ自分本意で好き勝手に生きてきたから、非難されても仕方がないと思っていたし、誰かが自分を目標にするなど、考えもしなかった事だから、

本来なら喜ぶべきなのだろう。
成長したと、大きくなれたのだと、だが自分は果たしてそれを許されるのだろうか。
目の前の2人が楽しそうに食事をする様に、ジンは何故か安心した。
色々ありはしたが、生きて帰ってきたからこそ今がある。これからの為にも、心を強く持ちたい。

「あれ、ジンじゃねーか」

ふとエレベーターから顔を出した影に、ジンが驚いた。
昨日と同じ、職服を着たカロンがそこに居たから、

「お前ルシフェルの家にいないと思ったら、こっちかよ」
「カロンさんもなんで?」
「俺も暇だったんだよ。ラフォル君もよく来たな。ゆっくりして行けよ」
「はい、ありがとうございます」

隣に来るかに思えたカロンは、なぜか離れた席に座り、ラフォルは不思議そうにそれを観察していた。
すると、現れたウェイトレスと楽しそうに談笑を始め、ある程度察した。

「ラフォル君、どうかした?」
「あ、いやなんでも」

見ていないドラッキーも首を傾げているが、これを見るのは自分だけで良いと、ラフォルは思った。

「ところでジン、ついにお前にもモテ期がきたんじゃねーか? 」
「は……?」

席が離れている為に、カロンの声はまるで叫ぶように聞こえてくる。
大声でする会話でもないが、ラウンジには誰もいないので気にするだけ野暮だろうか。

「下の階で、今日珍しくお前がきてるってちょっとした話題になってたぜ。ここに来る道中で、これを渡してくれと頼まれた」

綺麗に投げられたそれは、まるで吸い込まれるように3人のテーブルに乗った。
ジンがスプーンをくわえながらそれを開くと、名前とアドレスが何列も箇条書きにされている。

「なんすかこれ……」
「アドレスだよ。大体女の子、3割男だな」
「なんで……」
「なんでって、お前と友達になりたいんだろ?」
「え……。よく分からないすけど……何かの間違いじゃないっすか?」
「は? 何を間違うんだよ」
「だって、ダミーアドレスかもしれないじゃないすか……」

カロンは、ジンの言葉を聞いて大まかな心境を察した。
この言葉は、ジンにとっての言わば心の傷なのだ。
深くえぐられた、人格にすら焼き付けられた傷。
本部という場所は、ジンにとってそういう場所であり、今更それを払拭するなど簡単には出来ない。
だから、突然好意的になった彼らを疑い、全てを信じられないのだ。

ちゃんと話すべきだろうかと、カロンは迷ったが目の前の少年がいる事に口を噤ぐ。

「何勘繰ってんだよ。ま、登録するかしないかは、好きにしたらいいさ」

ジンはそれを聞いて、紙を握りつぶしポケットに突っ込んだ。
捨てなかった事だけは評価できると思う。

「ラフォル君は、この後どうする?」
「えーっと、パトリオットさんにも会えたし、買い物でもして帰ろうと思います」
「そっか、俺は武器引き取らないとだし、もうちょっとここにいないと……」
「じゃあここまでですね」
「休みじゃなかったら、ソードマン部隊の訓練とか見れたんだけどな……」
「いえ、ドラッキーがアルマなので、人が多いと困るし、部隊長さんに会えただけで十分です。ありがとうございました」

わざわざ呼び出して置いて申し訳なくも思ったが、そもそもの目的がパトリオットではあったし、良かったのだろうと思う。
やる事は終わり、帰るというなら無理に引き止める事もないからだ。
食事を終えた二人を、入り口まで見送ったジンは、再び1人で元宮のランカー専用ラウンジへと戻る。
少し歩くだけでも背中に視線を感じ、怖くなってエレベーターへと逃げ込んだ。
カロンが戻り以前のように楽しい日々が始まると思っていたのに、以前より不安になって落ち着かない。

エレベーターを降りて、ふたたびラウンジに戻るとカロンの横に新しい影が増えていた。

「ジン。お前に客だぜ」
「よ!」
「ヴァ……ヴァルサス部隊長?」

カロンの向かいに座るヴァルサスは、何故かカロン以上に気さくに挨拶をしてくる。
さっき会ったばかりなのに。

「パトリオットさんは?」
「帰ったよ。明日の試験の為にな。俺も休みだし、休憩さ」
「そ、そうっすか……って、用事って?」
「んー、まぁ、元2ndから聞いたが、さっきは言い過ぎた。撤回するよ」
「な、何が?」
「もう忘れたのかい?」

「悪いね。部隊長、こういう奴なんだよ」
「……なるほどな、まぁ仕方ないか」
「なんですか、二人して……」

「誤解してただけさ。だがそんな誤解は、お前にはどうでもいいんだろ」

分かるように話してほしいが、確かに、どうでもいい。
ヴァルサスに対して何かを誤解されて居たとしても、別にそれでもいいと思ってしまうからだ。
誤解されていようがいまいが、態度は同じで、何が変わる事でもない。

「また顔出せよ。体動かすのが好きならうちは大分楽しめるぜ」

ヴァルサスはそれだけいい残して、ラウンジから消えてしまった。
残されたカロンは、聞こえないフリをして再びウェイトレスと触れ合っている。
久しぶりで懐かしくもなり、ジンは再びラウンジへと戻った。



正午を回った頃だろうか。
腕時計の時刻を確認して、カナトは開いていたボロボロのノートを閉じた。
キリヤナギの封印の研究を始め、それなりの時間が経過している。
基礎から順番に、開発、出力、運用の根本的なものを理解するにつれ、キリヤナギの封印がどのように運用されているかがわかってきたのだ。
またその上で、カナトは一つ矛盾に遭遇していた。

以前父は、キリヤナギの封印を、ただの『蓋』だと言っていたが、もし本当に『蓋』ならば、キリヤナギは、中に存在する『モノ』から、魔力を引き出す事が出来ない筈だからだ。

元々キリヤナギが封印を必要とするのは、旧人類たるハイエミルの魔法適性の低さから、モンスターを体内に宿す事でそれを補い、他の種族と同等の力を得ようとした事にあるが、そのリスクとして、中のモンスターが成長し精神を乗っ取る可能性を秘めているからだ。

また前提として、心にモンスターを宿すその性質上、感情によって放出する魔力が常に不安定であり、最悪の場合それは暴走する。
つまり、キリヤナギの喜怒哀楽によって、ある時は落ち着き、ある時は膨大な魔力を放出するために、要となる封印が無くなれば、キリヤナギはとても人間として生きる事は出来ないという訳だ。
その状態をウォーレスハイムの託したとされるチョーカー型の封印具によって抑えられ、漏れ出す魔力を押さえ込んでいるならば、確かに『それ』は『蓋』と呼べるだろう。
だがキリヤナギは、カナトの前で『蓋』をしたまま何度か魔法を披露している。
『蓋』とされるチョーカーをつけたまま、光属性の乗ったスキルでさえも器用に使って見せていた。

エミル界における属性魔法の出力方式は、基本的に契約した精霊に力を借り、精霊が契約者の魔力を吸う事でその力を示す。
その魔力量が大きければ大きいほど、精霊はその力に答えるが、キリヤナギの場合。
魔力の炉心に蓋をされている為に、精霊に魔力を供給することが出来ない筈なのだ。
しかしそれでも、キリヤナギは周りと変わりなくそれを使っている。
当たり前のように、封印など、言われなければわからない程、それに不自由があるようには見えない。
つまり、父が蓋と言っていたそれは、言葉だけで表現するなら『穴が空いた蓋』であり、実際には高度な新生魔法によって作られた『魔力制御端末』ということになる。
それがどのような匙加減で調整され、運用されているのか、カナトは考えただけでめまいがしだが、今回の冥界入りによって、新しく理解が進み、その端末の本当のコンセプトが見えてきた。

自室を出て、キリヤナギの泊まる部屋に訪れたカナトは、一度嘆息して扉をノックした。
楽にしてほしいと思っていた為に、あまり尋ねる気は無かったのだが、ジンが外出している今のうちに話しておきたい事がある。
グランジに招かれ、カナトがキリヤナギの部屋へ入室すると、彼は軽装で昼食をとっていた。

「突然すまない。控えようと思っていたんだが、用事ができてしまった」
「いいよ? というか気にしすぎだよ。オフだし?」

態度が、と言う意味にとり、カナトは席を勧められるも、長居はしたくないので断った。
すぐに済ませなければならない。

「貴様と、また交渉がしたい」
「交渉?」
「結論から言う。ジンを解放しろ」

グランジの僅かに顔を上げ、キリヤナギもまた手を止めた。
まだ真意はわからないが、意味はわかる。

「それは、僕にジンを騎士隊から除名しろと言うことかい?」
「それは違う。ジンは少なくとも、貴様を含めた騎士組の彼らを心から信頼している。辞めさせろとは言わない」
「なら、君の望む解放って?」
「ジンが除隊を望んだ時。それを受け入れる権利、または、それを選択できることを望む」

なるほどと、キリヤナギは何も言わずに関心した。
元々キリヤナギも、辞めたい相手を止める気は無いが、キリヤナギにとってジンはある意味例外だからだ。
特別視と言うわけではないが、カナトの側にいる事のできる数少ない存在として、騎士ではなく別の形でそれを支持する可能性を秘めていると言うことだろう。

「元々僕は、ジンが辞めたいなら無理な引き止めるつもりはなかったよ?」
「論点が違う。お前は、辞めたいと思わないよう、ジンを誘導しているだけだ。皆を使ってな……」

キリヤナギは笑ってみせた。
だがそれは普段の笑みではなく、少しだけ困ったような、複雑な表情だ。

「僕はジンと仲良くなりたいだけだけどね」
「貴様のジンへの対応の違いは、今回の冥界行きで十分に理解した。だからこそ、私はあえて望む。ジンを解放しろ」
「んー。カナトには、そう見られても仕方がないのかな……」
「……どういう意味だ?」
「僕からは説明しにくいけど……何というか、ジンは人の善性を信じてないんだよね」
「善性……?」
「治安維持部隊って組織は、基本的に確固たる縦社会で成り立ってるから、いい意味で家族、悪い意味で身内社会みたいな……だから、ジンみたいに一人浮いていたりすると、徹底的に仲間はずれにされたりしてね……」
「……それは」
「あれ、聞いてない?」
「居心地が良くないとは、兼ねてから聞いていたが」
「あれを居心地が良くないで済ますのは、ちょっと可哀想かな……」
「……何があったんだ?」
「僕はわからないよ。だけど、それほどまでにジンは、人の善性を知らない。カロンが初めてだったんじゃないかな?」

そしてそのカロンも、ジンを騙していた。
ジンは物心ついてから数年間、人に裏切られ続け、一時は命すら落としかけている。
信頼できる人間を、まだ彼は知らないのだ。

「ジンは僕の騎士になる事で、治安維持部隊のみんなから信頼を勝ち取ることができた。僕はそれを望んだわけではなかったけど……、やっぱり複雑だよね」

カナトはキリヤナギの言葉の真意を上手く汲み取る事ができなかった。
部隊組織で、何があったのかは知らない。
だがキリヤナギの言いたいことは分かる。
彼もまた、ジンとの距離を模索してるのではないかと、

「お前も、気を使っていたのか?」
「カナトはそれを疑ってるんじゃないの?」

そうだ。当たり前になって忘れていたが、ジンの場合、深層心理に壁をつくっていると言うことだろう。
ジョーカーと言う限りなく中立なカナトこそ、許されやすかった面もあったのかもしれない。

「騎士組のみんなは、ジンに偏見がなくていいんだよね。でもジンは、やっぱり心を許すのは苦手みたいだから」
「……」
「……ジンの話はまたにしようか。そもそもなんで解放? カナトはジンと一緒に居たいと思ってたのに」
「……以前までなら、そうだったかもしれない。だが、ジンはエミル族だ。月光花さんと言う最愛の人もいる。だから、いつまでも縛りたいとは思わない」

キリヤナギは言葉を失った。
グランジもキリヤナギが見せた返す言葉もないような表情に、わずかな呆れを見せる。

「そっか……。なら君がジンの自由意志を望むなら、どうするんだい」
「……私はお前の全てを許す」
「!」
「今までの全てを、私に絡みつく全てのしがらみを水に流そう。お前の全てを受け入れ、自宅に来てくれても構わない」
「……それって」
「ウォーレスハイムではなく、私に仕え、お前自身が私を守れ、キリヤナギ。父の言葉通りの事を堂々と果たすといい」
「……!」
「これでお前は、ジンに拘る意味はないはずだ」

理にかなった言葉にキリヤナギは、眉を潜めた。
本来なら喜ぶべきなのだろう。信頼を勝ち取る事ができたのだと、だがその心情は限りなく複雑だった。

「……そうだね。でもまだ仕えるには早いかな。君だけじゃ僕は生きていけないし」
「なるほど、なら……」

途端、カナトの足元に白銀の魔方陣が現れ、グランジは混乱した。
そしてそのターゲットはキリヤナギの首を捉える。
首に熱を感じたキリヤナギは、少しだけ辛そうな顔をして首を抑えた。

「カナトさん、何を……」
「グランジ、私はずっと考えていた。キリヤナギの封印がどんなものであるか」
「どんな物?」
「……キリヤナギ、お前は頻繁にそれを外すが何故だ?」
「熱い……何故って、魔力を、使うため?」
「そうか、だがお前は、それを外さなくても魔法が使えるはずだ」
「少しなら使えるけど……」
「少しではない。使えるはずだ。外そうが外さまいが出力は変わらない」
「そ、そんな訳……」

話している間に気がつけばキリヤナギのチョーカーは、まるで分解されるように朽ち、グランジの背筋が冷える、
冥界行きに伴い、キリヤナギはウォーレスハイムに『抜いて』もらうタイミングを作れていなかった。
今日泊まっていたのも、エミル界からもどり直ぐ処置してもらう為であり、今外すのは危険だ。
漏れ出して来る邪悪な力に、キリヤナギの目が虚になってゆく。

「カナトさん。今キリヤナギの封印を外すのは……」
「……グランジ。キリヤナギは何故魔法を使えると思う?」
「カナトさん?」
「それは今の封印に穴が開いているからだ。蓋とされるものに穴が開いているなど、本末転倒だがな」

ずっと魔力封印にばかり目が行っていて、気づかなかったことだ。
この場におけるキリヤナギの問題は、『魔力暴走によってキリヤナギが自我を保てなくなる』ということであり、逆に言えば、『自我さえあればそれは制御できる』のだ。
ストレスで暴走しても、人としての自我さえあれば、いずれ落ち着いて元に戻る。
人間の人体として考え、自我が人間のどの位置にあるかと考えた時、答えはでた。

脳だ。

「つまり、心にある魔力が体を侵食し、脳に行くまでのそれを封じれば、中身はキリヤナギの自我を奪うことは出来ない。つまり、それを外すこと自体、お前の弱さだ。キリヤナギ」

チョーカーの全てを焼き切り、カナトは更に唱える。
魔法は得意ではない。だが新生魔法は、本来魔法適性の低いエミル族が編み出した技術魔法だ。だから、魔力量は関係ない。

「セット!!」

途端首に魔方陣が締まり、キリヤナギの首に透明な目に見えない何かが嵌められた。
闇の魔力が集約し、キリヤナギは何事もなかったかのように座り込む。表情は何が起こったのかわからない顔をしていた。

「あれ、あれ?? 僕のお守り……」
「外した。もう必要ないからな」
「ええ! なんで、あれないと僕……」

グランジが絶句してキリヤナギを見ている。
本人もまたも自分を見直していた。正気でいるからだ。

「お前は、二重封印である事は知っていても仕組みまでは知らなかったんだな」
「僕の力を押さえてくれてると思ってたけど……」
「なら何故、外す必要がある?」
「だって、魔法でないから……」
「出るだろう?」
「出にくいの」
「残念だが、ただの思い込みだ。チョーカーの封印は、中身の魔力が脳を侵食しない為のダムの様な物であり、魔力の蓋ではない」
「じゃあ外したら漏れ出してくるのは……」
「魔力侵食が脳に達して、半モンスター化しているだけの事。つまり、あれを外すのは今の貴様にとってのリスクでしかない。よって私が、今外せない蓋をした。抜く必要はあるが……」
「そんなの勝手に決めないでよ!!」
「自分の犬に首輪をして何が悪い?」

返す言葉がなくなり、キリヤナギはまだ受け入れきれてないようだった。
チョーカーがなくなったことにも違和感があるのか首を気にしている。

「重ねて言うなら、首は人間の重要な神経が集約する部位でもあり、心があるとされる胸から、脳に行くまでの首に封印があるのは理にかなっている。誰も顔から魔法は使わないだろう?」
「待って、僕、今生きてきて、それなりのショック受けてるから受け入れる時間をちょうだい」

本当に知らなかったのか。
少しずつ表情が沈んでいくキリヤナギに、カナトは何故か罪悪感が湧いてきた。
ウォーレスハイムは知っていたのだろうが、キリヤナギがこぼした『お守り』としての機能を果たしていたのだろう。
幼い頃からキリヤナギを見ていた父は、自分で自分の力に恐れていた彼に、お守りとしてチョーカーを付けた。
付けていれば力が落ち着くそのアイテムに、キリヤナギが今まで安心して生きてこれたなら、それを外すのはある意味キリヤナギの弱さだ。

「大切なものだったか?」
「割と……でもどこかのタイミングで思い出を取り出して、イリスカードにして売ろうと思ってたから……言うほどでもないけど……、これからどうしようかなって」
「私に仕えろと言っている」
「それは別件! 本部とかで色々あるの!」

うなだれているキリヤナギは、まだ混乱している。
グランジもまた反応に困る中、カナトは仕方なく空いていた椅子に座った。

「カナトさん。キリヤナギは、もう暴走はしないと言うことでしょうか?」
「しないと言うなら語弊がある。父の言う通り、それは『蓋』だ。中身の成長次第で圧迫され限界はくる、その点はチョーカーと同じだ」
「しかし、あれを外す事で、キリヤナギの力はある程度強化されていたのは間違いありません」
「それは当たり前だ。魔力侵食で人体のストッパーが外れるのだから、本来の限界以上の魔力を振るえるようになる。だがこれにはリスクしかない。父は許していたみたいだが、危険だとわかっていることを許すほど、私は甘くはないぞ」
「……」
「なんと言われていた?」
「生きるも死ぬも好きにしろって……自分の人生だから……」

白状な話だが、相手がキリヤナギである事に、カナトは返す言葉に渋った。
極端に言えば、いつでも死ねるようにしていたと言うことだからだ。

「ならば今後、私はそのような行動をすることは許さない」
「……なら僕の中身のメンテナンスも?」
「それはまだだ」
「はーー!?? 君そんなので僕の封印しにきたの??」
「貴様の命に関わる事だからな」

なんて傲慢なのだろうと、キリヤナギは呆れすら通り越して、何故か笑いすら込み上げてきた。
気持ちの問題はあるが、たしかに首輪を付けられたなら、仕方ないか。

「……仕方ないね。ジンの事は分かったよ。でも、まだ君の命令には従えないかな。僕が全てを捧げているのは、僕を生かす君のお父さんであり、君は、彼が僕に与えた唯一の頼み事だからこそ、従っているに過ぎない」
「……そうか。なら今はそれでも構わない」
「全てを許して貰えるなら、今はそれで十分さ。嘘も沢山ついたし、酷い事も言ってしまったからね」
「……私は、お前の事をどれほど理解できているのか分からない。だからこそ、私から歩み寄ることにした」
「なら、僕はそれに答えよう。でも、ジンが一緒に居てくれるなら、いままでと同じだろうけどね」
「そうだな」

何も変わらない。だが意味は大きくかわる。
ジンが月光花と交際するのなら、それはカナトにとってもまた幸いだと思うからだ。
そう話がひと段落した時、キリヤナギのナビゲーションデバイスが振動する。
そして画面をみたキリヤナギの顔に、カナトは意表をつかれた。

「グランジ、庭出せる?」
「出せるが……」

「どうした?」
「ごめん急用。夕飯には戻るから!」

そう言ってキリヤナギは、珍しい私服に着替えて、居室から飛び出していった。
私服である手前、仕事ではないのだろうが、いつになく忙しないキリヤナギ珍しい。
残されたカナトは、キリヤナギが置いていった食器をワゴンにのせ、一人片付けにキッチンへと戻る。

@

カナトの実家を飛び出したキリヤナギは、グランジの庭に乗り込み。
冒険者に紛れる形で、西を目指していた。
庭でモーグ領に入るには、国境の混成騎士団員に申請が必要になる為、キリヤナギはグランジの庭の奥に隠れ、彼の許可証でモーグ領へと入った。
そして、モーグ島の向こうにある塔へと向かう。
どこまでも巨大な天まで続く塔にたどり着いた二人は、その麓にいる一人の男性にホッと息をついた。

「遅かったな。信者第1号。キリヤナギ」
「おかえりなさい。神様!」

彼、エラトス神は再びアクロポリスの土地神として顕現した。


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本編 | 【2019-05-10(Fri) 20:00:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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