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反逆の大地-Hells of Rebelion- 第十四話:凱旋の禊
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【連載】詠羅×リュウド×ラフォル リレープロジェクト
反逆の大地-Hells of Rebelion-

第十四話:凱旋の禊

*目次
第一話:始まりの離別
第二話:世界のあり方
第三話:捜索と出会い
第四話:冥界と言う世界
第五話:2つのあり方
第六話:偽りの仮面
第七話:結論。そして旅立ち
第八話:開戦
第九話:機械の人間
第十話:孤高なる決意
第十一話:神の審判
第十二話:偽りの神と王
第十三話:願われた神


 
著:リュウド

  暗い場所から突然出てきたことで、目が眩しく先が上手く見えない。しかし、ゆっくりと視界が晴れてくると、そこには驚くほど鮮やかな、夕焼け色の空が広がっていることが分かった。

「…………凄い」

 そんな光景に息を呑むラフォル。対するリュウドは周囲を見渡し、落ち着きがない。

「さっきの奴が居なくなってるな……ということは、あいつら上手くやったんだな」
「……さっきの?」
「あぁ『破壊神』って奴だ」

 ひどく規模が大きい話を、ごく自然な調子で言うリュウド。
 それに対し、思い出したかのようにラフォルは呟く。


「ちゃんと片付けてくれていたんだな……」


 自分の戦いで手一杯だったラフォルは、今更になってフリーデン本来の目的が『破壊神』による滅びであった事を思い出し安堵する。

「みたいだな。とにかく、一旦下まで降りて……」


 唐突に、リュウドのデバイスが音を鳴らし二人は驚く。何も考えず通信に出たリュウドは、それを耳に当てて相手を確認した。


「『リュウドさん! 大丈夫っすか!?』」


 発された声の主は、こちらに来る際に登録したジンだった。


「あぁ、ジンか!そっちは上手くやったみたいだな。こっちもラフォルを回収したからすぐにそっちに向かう!」
「『えっ!?ちょっとリュウドさ――』」


 それだけ言うと、リュウドは返事も待たずに通話を切ってしまう。


「とまぁ、そういう訳だ。もうちょっと頑張れよな!」



 鉄火山を下っていると、向こう側からジンが駆けて来るのが見える。


「リュウドさん!なんで勝手に通話切って、その後も出てくれないんすか!!」
「落ち着けよ。別に下りてくるんだから直接話せば済むことだろ?」


 悪びれた様子もなく、いつものように不敵な顔で答えるリュウドに、ジンは思わず呆れてしまう。


「それで、『破壊神』は消えたみたいだけど、結局どうなったんだ?」
「あぁ、はい。それなんですけど――」



 ――『破壊神』へ向かい庭を飛び降りたエラトスは、まるで魚のような姿に変貌し、青く、そして太陽のような光を放った。
 誰かに願われ、守ることを祈られた神は、今その役目を果たす為、人々を苦しめた『破壊神』を封印する。
 その姿が『破壊神』に溶け込むように姿を消すと、『破壊神』の輪郭はおぼろげな光の様に揺らめく。
 そして、光の粒子となって拡散し、光はその身が這い出ていた虚空に吸い込まれていく。
 次の瞬間、その穴はまるで何事も無かったかのように塞がっていた。
 気がつけば、空を覆っていた雲は晴れ、地平線の向こうから覗く黒い太陽が、驚くほど鮮やかに夕焼けの空を彩っていた。



「――ってな感じで、最後の瞬間にはあっという間に消えちゃいました」
「あんなでかい奴を一瞬で消しちまうとは……凄いもんだな」
「本当っすね……ってラフォルくん、凄い怪我じゃないっすか」
「ん?あぁ……身体のあちこち痛くて全然力入らないけど、ポーション飲んで休めば多分大丈夫です……」
「とりあえず応急処置するんで、座って」


 腰を落としたラフォルへ、ジンは回復魔法をかけ、手持ちの道具を使い応急処置を行う。
そうこうしていると、ジンとラフォル、リュウドの上空にゆっくりと小型の飛空庭が近づいて来た。ある程度距離を取り停泊したその庭から、一人の男が紐を伝って降りてくる。赤いマントを纏ったその人物は、位置情報を辿ってきたキリヤナギだった。


「やぁ、その様子を見ると、そっちも無事決着は付いたみたいだね。」


 キリヤナギがマントを翻し、ジンから応急処置を受けているラフォルに声をかける。


「はい、祠の奥にいた………………フリーデンさんは、オレが倒しました……」
「そっか……」
「フリーデンさんが……!?」


 ジンの驚きの言葉に対し、ラフォルは何も答えない。そんな姿を見て、キリヤナギは小さく微笑むと、表情を正し、その場にいる全員に告げる。


「さっき部隊から連絡があった。DEMとの戦闘も無事終結したそうだ。そして破壊神も封印され、この時をもって冥界全土を震撼させた大戦は終結した。この勝利は皆の尽力によるものである!!」


 キリヤナギの告げた勝利宣言に、その場にいた全員は、喜びと安堵に包まれる。
 ラフォルも、その言葉にほっと一息つくと、傍らで眠るドラッキーをそっと撫でる。ラフォルの為に想いの力を使い果たし、モンスターの姿に戻ってしまったドラッキー。
 そんな二人の姿を見たジンが、思わず声をかける。


「……その娘がドラッキーちゃん?」
「はい……今は想いの力を使い果たしちゃったのか、モンスターの姿に戻ってますけど」


 エミル界ではよく見知った、コウモリのようなモンスターの姿。そのドラッキーを、ラフォルはとても優しく、愛おしそうに撫でる。


「……本当に大好きなんすね」


 そう静かに呟いたジンは、自分の大切な人のことを思い浮かべる。エミル界に残してきた大切な人。今頃怒っているだろうか、心配しているだろうか。
 空を見上げ、遠い別の世界にいる彼女の事を想う。


「さぁみんな、一緒に帰ろう!」


 そうこうしていると、キリヤナギが全員に声をかける。その後一行は、グランジ、カロンと合流し、DEMにより機械化された鉄火山を後にする。
 背後に映る、冷たい機械に侵食された山。それは、暖かな夕陽を受け、まるで機械の支配から開放されたかのような、そんな優しい色に染まっていた――




著:詠羅

 DEM軍の排出が途切れ、静けさが戻りつつある戦場でホライゾン、また航空部隊を含めた地上部隊も安堵の空気が流れていた。旧アクロポリスからの砲撃も止まり、改革軍の応援から帰ってきた十番艦から通信が入る。


「『ホライゾン大佐。改革軍副長、アルフレッド卿より入電です。指揮官と話がしたいと』」
「改革軍から? 繋いで」


 オペレーターが通信を開くと、そこには青髪の好青年が映りホライゾンは驚いた。下手をすればジンよりも若くみえる彼が、改革軍副長のアルフレッド・エイム。


「『お初にお目にかかる。私はレジスタンス改革軍副長。アルフレッド・エイム。貴殿は治安維持部隊における、最高司令官だろうか?』」
「お会いできて光栄です。私はアークタイタニア・ホライゾン。治安維持部隊における副長。この度の大戦の指揮を執っておりました」
「『副長?  最高司令官は留守か?』」
「はい。今現時点では破壊神討伐に向け、鉄火山に遠征をしています」
「『破壊神だと……』」


 アルフレッドの衝撃的な表情に、ホライゾンは手ごたえを感じた。これは、『破壊神』をアルフレッドがあらかじめ認識していた、とする確信だ。


「『……治安維持部隊副長、ホライゾン殿。冥界に対しての活動に心から感謝をする。見事だった』」
「有難きお言葉、感謝致します」
「『貴殿らを信頼した証として、一つ託したいものがある』」
「託したいもの?」


アルフレッドが一歩下がると、そこには赤髪の皇国軍の軍服を着る女性が立っていた。


「『彼女は、我が軍に姫の意向を伝えに来た勇敢な兵だ。彼女の身柄をレジスタンス皇国軍へ送り届けてほしい』」
「何故我々に?」
「『私はイヴリース姫に会うつもりは無く、大戦を終えた今、すぐに本拠に戻らなければならない。よって彼女を貴殿らに託す』」
「我々治安維持部隊は、イヴリース姫に貴方を皇国軍へ連れ帰って欲しいと要請を受けています。一度顔を見せられては如何か」
「『その言葉は、姫が冥界の軍を分かつことになった理由をご存知ないようにも取れる。詭弁は大概にされよ』」
「では、アルフレッド卿。貴方がここで戻れば、冥界は外界の支援を受けられなくなる可能性があります。それでもこのまま戻られるおつもりか?」
「『それはすでに斥候から聞き及んでいる。この場で返答するならば、レジスタンス改革軍は、外界の支援を望まない』」
「!」
「『よって支援は不要だ。我々はサウスフィールドへ帰還する。治安維持部隊副長殿。これを受諾されよ』」


 返す言葉がなくなり、ホライゾンは黙るしかなかった。素直に従うべきかと悩んだ時、オペレーターが外部通信を受信する。迷わず回線を開いた時、映ったのは、


「『割り込みを失礼する。ご機嫌よう、貴方がレジスタンス改革軍副長。アルフレッド・エイム卿だろうか?』」


 ウェストフォートから通信を繋いだカナトだった。カナトは飛空艇の十五番艦から改革軍からの連絡を受けたと聞き、即座に回線を繋いでホライゾンとの会話を終始聞いていたのだ。


「『私はアークタイタニア・カナト。天界とエミル界より、冥界へのこれからにおける対応の意思を伝えにきた使者です』」
「『なるほど、カナト殿。お初にお目にかかる。いかにも、私がレジスタンス改革軍副長アルフレッド・エイム。外界より支援を心から感謝する。だがこれ以降、改革軍へ支援は不要だ』」
「『我々天界は、冥界に対しての支援に準備がある。何故それを拒否される?』」
「『レジスタンス改革軍は、何よりもDEMを憎み、嫌う。よって彼らを受け入れ共存を望む限り、あなた方を受け入れることはできない。また、それを許す天界の支援を受けるつもりはない』」


 建前だと、カナトは感覚で察した。その上で、アルフレッドとイヴリースは考えが真逆だとも理解する。イヴリースは、皇国の再建を望み冥界の発展を望むが、アルフレッドは、この土地を捨て、全ての民を安全な他世界へ移住させようとしているのだ。なるほど、とカナトは初めて危機を感じる。


「『だが、アルフレッド卿。貴方の本拠は元DEMの生産プラントだ。領土を改修する前に生産されたDEM達が貴方の手助けにおいて、亡命したという証言を得ている』」
「……」
「『つまりアルフレッド卿。貴方はDEM族を亡命させ、他世界へそれを押し付けていたという事になる。ここで支援を断るならば、亡命したDEM達を冥界へ送り返すという選択肢を取る事になるがどうされる?』」
「『無論、我々改革軍にとってDEM族は宿敵。彼らがこちらへ戻るというならば、国家に仇なす一派として扱うだろう』」


 手ごわい、とカナトは感じた。しかし同時に『らしい』という感情も抱く。
 アルフレッドは、自らが冥界の『改革派』であるという姿勢を体現し、それを譲る気は無いという事なのだ。過去の決定から実現された、DEMを許せない国民のための大規模な疎開計画。それは領民の内乱を防ぐという意味合いも、恐らく含まれていたのだろう。アルフレッドはその意志の筆頭に立つものとして、これを曲げるわけにはいかないのだ。


「『ではアルフレッド卿。貴方が外界に望むことは?』」
「『無論。私が望むことは冥界の全国民の他世界への移住。この劣悪な環境からの解放。だがそのような要求は通らないことは重々承知している』」
「『ご理解いただけているならば話は早い。天界、エミル界共に、この世界に住む住民達を全て受け入れるような器はない。その上、貴方の発言は根本から矛盾している。DEMを受け入れられないという前提のもとで移住を望むことは、ほかならぬ民の意志にそぐわないのでは?』」
「『これ以上の話は平行線。要求は伝えた、それにおける譲歩がないというのであれば、私がこの戦場にとどまる意味はない。これより皇国軍兵を小型船にてそちらへ護送する』」


 そう通信が切られようとしたとき、横で画面を見ていたイヴリースが突然カナトを突き飛ばした。
「『何故だアルフレッド!』」


 突然の姫の出現に通信を切断しようとしていたアルフレッドの手が止まる。


「『お前は、私を支えると言ってくれた。あの時の言葉はどうした! 私は、ずっとお前がいてくれるから今までやってこれたのに……』」


 カナトは姫には絶対出てこないでくれと念を押していた。それはこの対面において王族が顔を出すことは、臣下である彼らにとって絶対的な強権となり、逆らうことができなくなる卑怯な手になるからだ。この場でアルフレッドが姫の意志にそぐわないことを言えば、それは反逆として扱われる可能性も秘めている。カナトはそれをイヴリースにも説明していたのだが、


「『……姫。貴方は何も分かっておられない』」
「『……!』」
「『冥界というこの世界はすでに人が住むにはそぐわない。それは手紙でお伝えしたはずです。また支援も必要ないと』」
「『だが、私は姫だ! この世界を納める義務がある!』」
「『貴方はそうでしょう。だが民は違うのです。彼らは貴方の意地には無関係。いつまで巻き込んでいるおつもりですか?』」
「『冥界には故郷を取り戻したいという国民も多数いる。彼らの為にも、私は……』」
「『貴方の言葉は理想です。しかしその理想のためにどのぐらいの兵が犠牲になったか一度振り返られては如何ですか?』」
「『……それはっ』」


 思わず脳裏によぎったのは、先ほどの大戦における犠牲だった。『破壊神』が出現したとき、平原にいたほとんどの兵士たちが飲まれ消えた。DEM軍を相手取り、何度も戦ってきた彼らが一瞬で消えたのだ。皇国軍、そして改革軍と共に大損壊ともいえるだろう。
そんな様子を見ていたカナトの脳裏に像が浮かんだ。エミル界は『唐突な大多数の難民の受け入れ』には対応ができない。だがもし、それが『緩やかなもの』になり、かつ『一時的なもの』ならどうだろうか。


「『イヴリース姫。アルフレッド卿。お二人の話において天界からの提案があります』」
「『……!』」
「『アルフレッド卿の要求となる『全国民の移住』には対応はできません。ですが、エミル界を含め天界は、『冒険者』達による『一時的な移動』については、対応することができる』」


 二人はその話を聞いて、言葉を失ったようだった。


「『冥界を愛する国民は冥界、ウェストフォートとサウス地方にとどまり、益を求め支援を受けたいとする国民は『冒険者』となりエミル界へ出稼ぎへと赴く、この状況は現時点で当たり前のように行われていることではありますが、『冥界』として公式に受け入れる事には意味があるかと』」
「『……なるほど、いい提案を感謝する。しかし冥界は世界移動の手段をもたない。世界移動における『塔』を通れるほどの力を持った国民は、すでにエミル界にて『冒険者』となり亡命している』」
「『天界におけるルシフェル。我が家メロディアスは、天界の外交を司る熾天使。その上でメロディアスはビジネスとして天界とエミル界をつなぐ『航路』としての役目にも準じている』」
「『……!』」
「『この三世界をやり取りするための定期便の航路に『冥界』を設定し、世界観移動でのハードルを下げる。冥界から『出稼ぎ』へ向かった彼らがいつでも故郷へ帰れるという基盤を作り、国民はみな冥界を本拠にしつつ活動する。結果的に冥界の経済はそれにより潤うだろう。如何か』」
「『……カナト。お前は』」
「『姫、これは私自身にもとてもメリットがある。世界間移動が増える事で我が家もまた航行費によって利益を得ることができますから』」


 イヴリースは返す言葉もないようだった。ただ眼に涙が滲み目をそらしてしまう。


「『アルフレッド卿。私からの提案は以上だ。これが飲まれないのであれば、天界は今後支援を止め、レジスタンス改革軍への干渉を控えよう』」
「……」


 一時の沈黙がその場へと広がった。画面の向こうにいる彼は、しばらく無表情を貫いていたが、ゆっくりと表情が緩んでいくのが分かった。想定外だったのは、まさか『冒険者』の集まりから、国民の『冒険者化』を推奨されたのだ。これが笑わずにいられるわけがない。思わず吹き出して笑い始めるアルフレッドに、周囲の兵たちは思わず肩の力を抜いた。


「『なるほど、ルシフェル。いや、情報によると次期ルシフェルか。そちらの提案は了承した。その話し合いに向けて、これよりアルフレッド・エイムは、ウェストフォートにてさらなる会談を希望する!』」


 その場の空気が一気に沸き、イヴリースが思わずカナトに抱き着きかけたが、代わりにスィーがそれを受け、イヴリースは満足した。そしてこの大戦における、すべての行程が終了し、全軍は一度ウェストフォートへの帰還を始めた。途中、鉄火山から戻ってきたキリヤナギの高速船と合流し、治安維持部隊はレジスタンス改革軍の本隊と共に一度本拠へと帰還する。



 ウェストフォートではまるで祭りのごとく賑わっていた。短時間だが街は飾り付けされ、小規模な祭りのようなものが開かれていた。その中でカナトは一人、部隊の飛空艇に乗り込み、エミル界にいる父へと連絡を取る。繋がるまでかなりの時間はかかったが、応答した父はカナトの提案を問題ないとし、メロディアスの旅行部門の一課として扱う事となった。


「感謝します。父上」
「『メリットしかねぇしなぁ。でも、冒険者の戦争参加にはきつめに制約つけとけよ。移動した連中が死んでくれたら困るからな』」
「はい。分かっています」


 この件についてはカナトも課題だとは思っていた。移動が楽になることは、危険な場に赴く人間が増えることに他ならない。これは経済が活性化する代わり、危険な状況にさらされる冒険者が増えるということだからだ。その匙加減も始める前に決める必要がある。
連絡を終えたカナトがほっと息をついた時、ふと扉の方から気配を感じた。誰だろうと思い確認に向かうと、左腕の袖をひどく破いたジンがいる。


「ジン! 戻ったか……」
「カナト……」


少し元気がない。だが無事であるならそれでいい。


「よく戻った。ありがとう……」


ジンから見るカナトは、何故そんなに嬉しそうなのかわからなかった。色々ありすぎて整理がつかず落ちつかなくて、スィーに居場所を聞いてきてしまったが、


「ただいま……」


居るだけで喜んでもらえる事にここまで安心したのは、ジンも生まれて初めてだった。
その後、キリヤナギを含めた騎士組、ラフォル、リュウドもキリヤナギと同じ宿で休息をとる事になり、ラフォルは未だ目を覚まさないモンスター状態のドラッキーとルームにて休む事になる。
その間カナトは、鉄火山から戻ったキリヤナギと部隊を率いたホライゾンで再び姫へと謁見し、ここで改めてアルフレッドと顔を合わせる事になった。


「なるほど、貴殿が治安維持部隊最高司令官キリヤナギですか」
「はい、お初にお目にかかります。私が治安維持部隊総隊長。キリヤナギです。この度はご挨拶が遅れ失礼を」
「私はレジスタンス改革軍副長。アルフレッド・エイム。貴殿は鉄火山にて『破壊神』を討伐されたと聞きましたが……」
「はい、それは確かに出現しました。しかし討伐には至っておらず再封印を行なった次第です」
「再封印? そんな事が可能だったのですか?」
「出現した破壊神は、エミル界においてタイタニア族が独自に観測していた災害の一つであり、我々はその備えを行使したに過ぎません。しかし幸いが重なった事での成功でした。今後あの封印に触られませんよう」


念を押すキリヤナギに、アルフレッドは更に驚いた表情をみせる。そしてまるで諦めたようにため息をつき、言葉を紡いだ。


「……なるほど。キリヤナギ、貴殿は気付いていたのですね。我兄、フリーデンがその手引きをしていた事を……」


玉座で聞いていたイヴリースが絶句したのに、カナトは目を合わせることが出来なかった。皆ある程度は気付いていたから、


「アルフレッド……お前は」
「姫。ご安心を、私は察していただけであり、ただのおとぎ話だと考えていただけです。」
「そもそも存在しないと認識していたと?」


頷いたアルフレッドに、姫は表情を変えない。


「フリーデン・サウザード卿は以前から不審な動きが目に余り、私も独自に調査を行っていました。鉄火山プラントは地熱発電所に再開発を行うとされていましたが、発電所であるその場所には地熱発電の機能はなかった。私はその事実を知ったことで、単身で大戦に望むよう命じられ、此方へと赴いた次第です」
「……そうだったか」
「調査を続け、出立する間際、鉄火山プラントに捕らえられていた斥候兵を見つけ、彼女から全てを聞きました。外界との結託と、斥候を捕らえたフリーデンの事を……つまり、破壊神がいなくとも、フリーデン卿が国家に仇なす可能は十分に存在しました。よって斥候兵を送り届け、支援を停止する事でフリーデン卿の策謀を止めようとしたのです」


通信での彼の話は、全ての策謀を止めるためのものだったのか。アルフレッドは自らの貴族としての誇りをもち、それを守るべく戦っていたのだ。それならば彼の先程の態度も全て分かる。その上でアルフレッドが一刻も早く戻りたいと話したのには、カナトも察しはついていた。


「キリヤナギ卿」
「はっ」
「貴殿は鉄火山プラントにて、フリーデン卿と会いましたか?」
「私は顔を合わせておりません。しかし今回嘱託として参加した冒険者。ラフォルがフリーデン卿と相対したとは耳に入っています」
「彼が……フリーデンを捕らえたと言わないのは、そういう事ですね……」
「……死んだのか!? フリーデンが!?」
「姫。すでにフリーデンは諸悪の根源であり、生存していたとしても、我々の軍の半数を犠牲にした戦犯となります。ここはむしろ、武の達人と合間見え、生き残った彼らを賞賛せねばなりません」
「アルフレッド卿……」


隙のないその口調にキリヤナギはしばらく呆然としていたが、ラフォルから渡されたものを思い出し、はっとした。彼がフリーデンから手渡されだという記録デバイスだ。


「これを、フリーデン卿から?」
「はい、託されたと……中身は存じません」
「後で確認します。これが証拠となるのなら、それでいい」
「私は、フリーデンが悪いとは、まだ思いたくない……」
「イヴリース姫。既に冥界は、この二人に返しきれない恩を受けています。我々冥界にできる事は、彼らが行使した正義を認める事と、冥界とエミル界の『航路』開通によって訪れる、一般の冒険者達を戦火から守ることでしょう。これが行えなければ、彼がつけた道を踏みにじる事になります」
「ご理解頂けて光栄です。仰る通り、我々は冒険者の戦争参加には消極的だ。貴方がたが、それを目的とするのならば、この『航路』のお話は白紙とせざる得ません」
「だがそれでは兵が足りない……皇国軍だけでは、とても」


イヴリース姫の深刻な表情に、横のクラウスも思わず頭を撫でた。この大戦で皇国軍は大半の兵を失った。元々が足りないのに、更に減ってしまったのだ、自分達で補うのは難しい。


「……フリーデン卿が討たれたならば、彼の隊は自ずと私の傘下に入ります」
「……!」
「トンカ地区の兵は五千前後でしたが、フリーデン卿の兵は数にしておよそ一万五千。私は今回の大戦に生き残った彼らと、皇国軍寄りの兵の一部を貴方にあずけ、フリーデン卿の代わりにサウスフィールドを治めます」
「違うんだ。アルフレッド……私は」


淡々と話すアルフレッドを見て、姫の瞳が潤んで行く。立ち上がった彼女は、階段上にある玉座から降りて、ゆっくりとアルフレッドの手を握った。


「私はお前に、ここにいて欲しい……。私は、何も出来ないが、アルフレッドとなら出来る気がするんだ……だから、ずっと側にいてくれ」


願うように手を自分の頬へ持って行くイヴリースに、彼は少しだけ驚いたようだった。幼い頃から知るイヴリースは、昔からとても泣き虫で、気にくわない事があるとすぐ泣いて使用人を困らせた。だが、戦火にて身内がどんどん消えて行く中で、彼女はいつしか泣かなくなった。
アルフレッドは大人になっただろうと、思ってはいたが、その根本はまるで変わってはいない。
姫からの願いにアルフレッドは武器を床において片膝をつく、左手を右胸に当てた彼は優しい声で続けた。


「姫、この私が一度でも貴方を裏切った事がありましたか?」
「ない! どんな時も、お前の言葉は私の夢に見たものと同じだった。民を守り、冥界を守るにはアルフレッド、お前の力が必要だ……」


カナトもまた、アルフレッドは冥界に必要な人物である事に確信を得ていた。フリーデンに仕え、その行動を監視しながら、皇国の姫にそれを伝えようとした忠義の軍人。情報だけに躍らされはしたが、未来を見ることができる数少ない人材だとすら思う。


「ですが、私はサウスフィールドに残した民を守らねばなりません。フリーデン卿がいなくなった今、彼らを支える者は私しかおりませんから」
「私は……」
「イヴリース姫。心からお慕いしております。我が身の全ては貴方のものです。御身の一部である私は、離れようともあなたの国を守るでしょう」
「……!」
「どうか堂々と、冥界の希望となられ、ウェストフォートの民の夢となってください」


アルフレッドに抱きついて、イヴリース姫は泣き出してしまった。彼は改革派の強硬な考えを持ちつつも、それは自身の領民の為であり、冥界を心から思う貴族の一人なのだ。



その後、会談から解放されたキリヤナギは再びふらふらになって宿に戻り、まるで死んだように眠った。明日には打ち上げが開かれるとは言うが、セオの姿は見えないし、グランジに至っては左腕を吊ってそのまま眠っている。カロンとコウガもぐったりしているのを見ると今日は見張りも無しかと思ったが、カナトが着替えようとした時、ノックが響いた。現れたのは、軍服を着崩しラフな格好で現れたアルフレッド。


「アルフレッド卿……」
「やぁ。夜分に失礼します、皆疲れているのでしょう。皇国軍から警備兵を借りてきたのですが、どうですか?」
「……構わないのですか?」
「あまり眠れていないと、イヴリースから聞きました。今晩だけは皆で休んでください」
「ありがとうございます」
「……彼女に会えて良かったと思っています。引き止めてくれてありがとう。差し支えなければ、呼び方を教えてくれませんか? カナト卿では変でしょう?」
「カナトで構いません。皆にその名で通っていますから」
「そうですか、ではカナトさん。良い夜を、明日また王宮で」


アルフレッドはそう言って警備兵を残し、去っていった。全員が床についたあと、カナトもまた皆と同じように眠りにつく。
そんな中、カナトの宿の下の階に泊まるラフォルは、ドラッキーをベッドに寝かせてその様子を見守り続けていた。だが限界をとうに超えたその意識は、いつの間にか途切れそのままベッドに突っ伏し眠りに落ちるのだった。



著:リュウド

「…………ま……」


 誰かが身体を揺すっている。手の主は自分を起こそうとしているのだろうが、小さくて暖かな感触に落ち着き、つい微睡んでしまう。


「……じさま……主様……」


 ぼんやりとしていたその声は、次第にはっきりとしていき、それがとても大切な人の声だと気が付くと重いまぶたを開ける。


「主様、そんな所で寝ていたら風邪をひいてしまいますよ」


 目の前に、彼女はいた。訳も分からず奪われ、必死に戦って、ようやく助け出した愛する人。


「……おはようございます、主様」


 朝の日差しを浴びて、優しく目覚めの挨拶をする彼女。その姿に思わず涙を流し、挨拶を返す。


「……おはよう……ドラッキー」


 直後、感情のまま彼女を抱き締める。


「ドラッキー……遅くなって、ごめんな……」
「そんな事無いです、主様……小生は信じておりました」


 温かい彼女の体温が、とても懐かしく感じる。自分の全てと言っても過言ではない彼女が、大きな怪我もなく無事だったのは不幸中の幸いだった。


「そういえば、人の姿に戻れたみたいだけど、大丈夫だったの?」
「はい、一日休んだら力も戻ったみたいで。一度変質した魂は、再度アルマ化した時のような事が起きない限りそうそう変わりはしない、とデ……受付嬢も言っていたです」


 そんな話を聞きほっと胸を撫で下ろす。
 そうしていると、窓の外から賑やかな音楽や破裂音が響いてくる。覗いてみると、簡易ではあるが、ウェストフォートの街は飾りつけられ、お祭り騒ぎが繰り広げられていた。
 興味深そうにそれを眺めるドラッキー。ラフォルが声をかけようとした時、部屋の扉が突然ノックも無しに開かれる。


「目が覚めたみたいだな。食事もってきたぞ、朝飯だ」


 不躾に現れたのはリュウドだった。相変わらずデリカシーが無いと、ラフォルは呆れてしまう。リュウドが持ってきてくれた食べ物は、どれもエミル界では見ないものばかりで、ドラッキーも興味深くそれを眺めている。


「ドラッキー、もう調子は大丈夫なのか?」
「はい、リュウドさん。小生は十分に休みましたので、もう大丈夫です」
「そりゃ良かった、しかしいつの間にアルマに戻ったんだ? 全然気づかなかった」
「目が覚めた時には、もう力が戻っておりましたので」
「なるほどな。それよりラフォル、ウェストフォートの広場で治安維持部隊と皇国軍、改革軍が入り混じって模擬戦やってるらしいんだ。俺達も参加しようぜ!」
「へぇ、親善試合って感じなのかね、面白そうだな」
「主様は、演習がお好きですからね」


 声をかけられ視線を移すと、ドラッキーが楽しそうに笑っており、その姿につい見とれてしまう。こんな一時が、やはり今の自分にとっての幸せなのだと感じる。そんな風に考えていると、昨日と今日でまだやり残した事があった事を思い出す。


「そういえば、キリヤナギさんって上の階に泊まってるんだっけ?」
「ん? あぁ、そうみたいだな。 警備兵もいたしまだいんのかなぁ……何か用事か?」
「あぁ、まぁそんな所だ。そんな訳で、悪いが模擬戦は止めとく事にするよ」


 ずっと心に残っている事がある。言葉にするのは難しいが、ケジメをつけなければならない事。後悔はしていない、間違っていたとも思わない、だがその事実を告げ、答えを聞かなければいけない相手がいる。
 自分が殺めたフリーデンの右腕であり、彼を心から慕う、その弟分とも言うべき人、アルフレッド・エイム――



 宿には既にキリヤナギはおらず、他の治安維持部隊の面々もいないため、結局ウェストフォートで行われていると言う模擬戦の場へ向かうことにした。
 ラフォルはドラッキーと共に、リュウドに聞いたウェストフォートの中央部へ進んでいく。目的の場所に到着すると、そこは地下シェルターの上蓋が開かれた広大なスペース。その中では、ドミニオンを含めたエミル族やタイタニア族が、段上からのギャラリーに見守られつつしのぎを削りあっていた。
 まるでコロッセオを思わせるその場所で、ラフォルとドラッキーはキリヤナギ達を探す。観客席を回りながら戦いの様子も見るが、そこに見知った顔はいない。そんな時、一際人が集まっている場所がある事に気が付く。ラフォルはドラッキーの手を引き、人混みを掻き分けてそこを目指した。
 人混みの中を進んでいくと聞き覚えのある声が響いてくる。


「キリヤナギ卿。次はどちらに賭けますか?」
「ん〜、ヴァルは部隊長としてはカリスマに溢れてるんだけど、タイタニアだからなぁ」
「へぇ、意外な反応ですね」
「ここはアルフレッド卿の躍進を期待して改革軍へ」
「なら僕は、そちらの勝利を願いましょうか」


 テーブルに金銭を積みながら観戦する二人に周りから声が湧く。ラフォルはドラッキーの肩を抱きながらそんな分厚い人の層を潜り抜ける。
 そこにはキリヤナギ以外にも、本来の目的である人物が待っていた。


「しかし、キリヤナギ卿。貴殿は本当に勘がいいですね、まるで先を見ているようです」
「未だ四戦二勝ですよ。改革軍兵は洗練された兵ばかりで驚いています。皆いい刺激になるでしょう」
「此方も、このような機会はめったにありません。たまにはDEM以外の相手も必要ですからね」


 キリヤナギが職服を着崩している様を、ラフォルは以前も見た覚えがある。話しかけるべきか少し迷っていると、アルフレッドの隣にいたドミニオンがこちらを見て叫んだ。


「イ、イヴリース姫!?」


 途端、周囲がざわめき二人の周囲が空いた。ドラッキーは驚いて、思わずラフォルの後ろに隠れる。


「なんでこんな所に姫が?」「あの格好、まさか姫も戦うの!?」「そんなわけ無いだろ!こんな場所まで姫が来るんだぞ?変装とかだろ」


 群衆はドラッキーに視線を集め、口々に思いを述べる。突然の出来事にパニックになるドラッキーをラフォルが庇う。


「あー……あの!この娘はイヴリース姫ではなくオレの――」


 キリヤナギとアルフレッドもその声に驚いて振り返った。


「君は……」


 アルフレッドがこちらを向くと、群衆はぴたりと静まる。
 キリヤナギは、少しだけ不安そうな表情でアルフレッドを伺うが、ラフォルの顔を見た彼の表情が緩んだのを見逃さなかった。


「……すみませんキリヤナギ卿、この勝負は中止とさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「えぇ、またの機会に」


アルフレッドはキリヤナギと言葉を交わしラフォルへ向き直る。


「ここじゃ目立ち過ぎてしまう、場所を移しましょうか」



 アルフレッドに連れられた先は、皇国軍王宮の一室であった。
 ドラッキーと共に立つラフォルは、真剣な眼差しでアルフレッドを真っ直ぐに見据える。


「人払いはしてあります、君が僕の所に来たって事は……兄さんの事、ですよね?」


 ラフォルの視線に、アルフレッドも真っ直ぐな視線で応える。


「はい。フリーデンを殺したのはオレですから」


 口を開いたラフォルは淡々と告げる。


「そうだね、話は聞いているよ」


 アルフレッドも単調な言葉を返す、だがその顔から笑みを崩さない。


「……あんたが望むなら、オレは刃を交える覚悟が出来ている。憎いと思うのならかかってくると良い」


 敬語を崩し、粗雑な言葉で煽るラフォル。しかし、それでもアルフレッドは笑みを崩さなかった。


「無理にそんな言葉を使わなくても良いんですよ、むしろ僕は君に感謝している……それどころか、君には謝りたいんだ」


 予想外の言葉に、ラフォルは思わず険しい表情を崩してしまう。


「兄さんが何かを企んでいる事は、感づいていたんだ。なのに僕は何もしなかった。君達に協力すると言っておきながら、僕は兄さんを最後まで信じようとして、何もしなかった。君達からしたら、僕も兄さんと同じ裏切り者だろう。だから、憎まれるのは僕の方だ」


 アルフレッドから語られた予想外の事実に衝撃を受ける、だが――


「……確かに、その話を聞いて、少しだけど裏切られたと思いました。けど、フリーデンさんを含め、貴方達の協力がなければドラッキーを助け出せなかったのは事実です。誘拐した張本人のフリーデンさんに対して、こういう言い方をするのはなんか変な気がしますけど……」


 ラフォルはいつもの口調に戻り、アルフレッドの言葉に対し自身の答えを返す。


「今更ですが、あの人はずっと、オレが壁を超えられるのか、試していたように感じたんです」
「試す……?」
「はい、あの人は大切な人を亡くした事を悔やんで、それを守らなかったこの国だけじゃなく、守れなかった自身も憎んでいるように感じました。だからオレに対して、大切な人を本当に守れるのか、自分を止められのかって、そう問いかけていたんじゃないかと…………って都合よく考えすぎですね」


 俯きながら語ったラフォルは、自嘲気味に自分の言葉を打ち切る。


「すみません、急に変なことを言い出し……えっ!?」


 おもむろに視線を上げると、アルフレッドの頬には一筋の涙が伝っていた。


「っ……すみません……君は……僕なんかよりも、ずっと兄さんの事を……理解していたんですね……」
「は!?いやいや、これは勝手なオレの思い込みっていうか……!」
「いえ、きっとラフォルさんが言ったとおりなんだと思います……僕はずっと兄さんの側にいたはずなのに、兄さんの気持ちに気づけなかった。ラフォルさんが兄さんから受け取ったデバイス、アレには兄さんの計画の情報が入っていたんです。そんな物を処分せずに持っていた、そして計画が失敗したからとは言えそれをラフォルさんに託した。きっと兄さんも心のどこかでは、世界を滅ぼしたいなんて思ってなかったんだと思います。ただその怒りを、憎しみを、どこにもぶつけることが出来なかっただけで……なのに僕は……!」


堰を切ったように想いを吐き出したアルフレッドに、ラフォルもドラッキーも声をかけることが出来なかった。


「…………取り乱してしまってすみません……ありがとうございます、兄さんの事を聞かせてくれて」


 涙を拭い、アルフレッドはまた微笑む。


「いえ、オレがもっと強ければ、もっといい結果になっていたかもしれなかった……」
「君は立派に戦ってくれたよ、むしろ僕が最初から協力してくれていれば、もっといい結果に――」
「アルフレッドーーーーーーーーーーーーー!!」


 突如、叫び声と共に扉が轟音を立てて開かれる。
 そこには鬼のような形相をしたイヴリース姫が、肩で息をしながらこちらを睨んでいた。


「午後の舞踏会の準備で忙しいっていうのに一体どこにいって!ってうわ!私がいる!!」


 叫んだと思えば、今度はドラッキーを見て素っ頓狂な声を上げるイヴリース。


「えっ?……わぁ」


 眼の前に現れた自分そっくりなイヴリースの姿に、ドラッキーも静かに驚く。


「えっ?えっ?もしかしてこの娘がお前の言っていたドラッキーって娘なのか!?」
「あっはい」


 ものすごい勢いで詰め寄られ、思わず真顔で答えてしまうラフォル。


「ほぁ~~確かにコレはそっくりだなぁ、どうだ!お前私の代わりに公務を――あだっ」
「何バカなこと言ってんだこのおてんば姫は、準備中に急に逃げ出しやがって!」
「何をするのだクラウス!それより見てみろ!私がもうひとりいるぞ!」
「あぁ?強く叩きすぎたか?その年でボケるにはちょっと早すぎるぜ姫……ってうぉ!」


 イヴリースに続き嵐の如く現れたクラウスが、同じ様にドラッキーを見て驚く。


「これがあんたの言ってたドラッキーって娘かぁ……こりゃあ確かにそっくりだ!」


 クラウスは先程のイヴリースと全く同じような反応をし、そんな姿にラフォルとアルフレッドは思わず笑いだしてしまう。


「あうぅ……あうあうあう……!」


 二人の好奇の視線にさらされている本人は焦ってしまい、それどころじゃないようだ。


「あっそうだ!ドラッキーの事も気になるが先にアルフレッド!お前もちゃんと舞踏会の準備を手伝え!」
「逃げ出した姫がそれを言うかよ!まぁいいや、アルフレッド卿。貴殿がいてくれるなら姫も逃げ出さんだろうし、こちらとしても助かる、協力してはくれんだろうか?」


 そんな二人の仲睦まじい姿を見てアルフレッドは微笑む。


「そうですね、姫たってのご希望とあらばこのアルフレッド、断るわけにはいけません。是非ご一緒させていただきます」
「お、おう……!?」


 突如片膝をつき一礼するアルフレッドにイヴリースは赤面して狼狽する。


「よし、話もついた所でさっさと戻るぞ!」


 クラウスが声をかけ二人は部屋を出ていく、そんな姿をラフォルとドラッキーは呆然と見ていた。


「おいおい、お二人とも何をぼーっとしてんだい?あんたらにも当然手伝って貰うぜ!」


 無茶苦茶な発言に思わずラフォルとドラッキーは視線を交わす。
 直後、呆れたように二人は笑い、ラフォルがクラウスに返事をする。


「そうですね、乗りかかった船です。こうなったら最後までお供しますよ!」


 そうしてラフォルとドラッキーは、新たな一歩を踏み出した冥界の三人と共に、お手伝いとして王宮の廊下を歩んでいく。
 ふと廊下の窓から外に目を向けると、そこには良く見知った者の姿があった。青い装束に金髪の男。
 こちらの視線に気付いたのか一瞬だけ振り返ってくる。
 目線だけで交わした言葉。そこにどんな想いを乗せたかは余人には伺い知れない。
ラフォルは、どこかの戦場でまた彼と出会う、そんな気がした。



著:詠羅

 その後午後の準備を終えた彼らは、カナトとキリヤナギを交え、冥界を行き来する定期便の打ち合わせを行うことになった。ターミナルの建築から、ダイヤまでのスケジュールを取り決め、建築費用は冥界が、運航する飛空城はカナトの実家、メロディアス家が用意することになった。また、サウス地方と飛空城のターミナルに発着する定期便も視野に入れるとし、突発的に行われた打ち合わせは終了する。
 数時間をかけたその会議から解放されたカナトは、ルームに戻ってきてぐったりとソファに身を預けた。一時間後には、冥界の有力者達が集まる夜会がある。周りを見れば皆正装に着替えていて、そこにはラフォルもいた。


「ラフォル殿。リュウド殿はどうされた?」
「あぁ、リュウドさんは……多分逃げた」
「ウェストフォートの外には何が起こるかわからないので、小生は心配です……」


 あの男がその辺の盗賊におそわれる図が想像できないなと、カナトとラフォルの考えはシンクロしていた。気がつけば、昨日いなかったセオが、いつの間にかジンの礼服を着せてくれている。キリヤナギから体調を崩したと聞いていたが大丈夫なのだろうか。


「ゆっくり休んだらなんとかなったよ。ただ魔力が突然持っていかれた反動で、しばらくは魔法禁止になったけどね……」
「大丈夫かよ……」
「騎士組で礼装着せられるの、僕しかいない時点で察して……」


 うつろな目のセオにカナトは言い返せなくなってしまった。一応カナトも着せる事はできるが、手伝おうと手を伸ばしたとき、先に自分で礼装をきたカロンが見せびらかしてくる。


「一応俺も着せられるぜ?」
「じゃあ何も言わずに隊長を着替えさせてください」


 よくも悪くも平和だと思い、カナトはラフォルの礼服を手伝う事にした。


「僕行きたくないなぁ……」


 嫌そうなキリヤナギは、昼間はとても楽しそうだったのに、今は相当沈んでいる。エミル界から来た騎士であり、『破壊神』を再封印した彼は、すでに冥界での『英雄』にも等しい。カナトと同じく引っ張りだこにされるのは目に見えているからだ。


「どちらかと言えば、ラフォルのが『英雄』だよね」
「オレは個人的な事情で戦っただけの、しがない冒険者ですよ」
「そっか……。こういうのあんまり参加できないだろうし、たのしんでね」
「隊長! 着替えるぜ」


 カロンに促され、キリヤナギはようやくグランジと一緒に着替えを始めた。
 そして、日が完全にくれた頃、王宮の敷地内で大戦の勝利を祝う夜会が始まる。イヴリース姫に招かれていたドラッキーは、着替えもあってラフォルと会場で合流する手筈だった。イヴリースと色違いの煌びやかなドレスで現れたドラッキーを、ラフォルはしばらく直視できなくなってしまった。


「どうだ? かわいいだろラフォル。二人で存分に楽しむといい」


 この姫は明らかに楽しんでいる。ドラッキーも恥ずかしいのか目を合わせないが、もったいないとすら思ってしまった。


「と、とりあえずドラッキー!行こうか……!」
「はい、主様……!」


 差し出した手を、彼女は迷わずとってくれる。まるで異世界のような、品位の高い環境に押し負けてしまいそうにもなるが、最後まで付き合うと言った手前、逃げる訳にはいかない。
 ラフォルとドラッキーが城を散策に行く中、夜会は進行していき、カナトを含めたキリヤナギとラフォル、ドラッキー、リュウドを含めた計十一名の彼らは、イヴリース姫から称号を手渡されることになった。一人ひとりそれを付けられていくが、イヴリースの手元にリュウドのために用意した称号が余ってしまう。


「逃げただと!なんてやつだ……」
「すみません……」
「仕方がない、ラフォル。お前が渡しておいてくれ……」


 リュウドの称号を受け取ったラフォルに続き、イヴリースは彼の横に立つドラッキーと目線を合わせる。見た目がそっくりな二人は、並ぶと本当に姉妹のようにも見えた。


「今回は私の代わりに大変な目にあったな……すまなかった」
「い、いえ……貴方のせいでは、ありません」
「形は違えど、臣下の責任は私の責任だ。こうして無事に戻ってきてくれたことに心から感謝をしている。ありがとう……」


 イヴリースは微笑みながら、ドラッキーの胸に称号を付けてくれた。そしてイヴリースは何も言わず、ドラッキーの額に口づけをする。思わず真っ赤になってしまうドラッキーを皆は微笑ましく眺めていた。
 そうして冥界の夜は更けて行き、人がまばらになって行く中、イヴリースは一人会場のベランダでウェストフォートの街並みを眺めていた。


「……姫。夜風はお体に障りますよ」


 そう呼んでくれたのは、正装に着替えたアルフレッドだ。その優しい笑みにイヴリースはいつも安心を得る。彼がいたから今まで強くあれた、彼が居たからこれからも在る意味を見いだせる。


「……みな、明日には帰ってしまう。アルフレッドもだろう?」
「はい」


 イヴリースは、辛くなって目を逸らしてしまった。ここは祝いの場であり、涙を流す場ではない。明日、皆を笑顔で見送ると決めたのに、彼との別れだけは耐えられる気がせず、イヴリースは顔を見せることができなかった。
 何も言えず俯いてしまったイヴリースに、アルフレッドは静かに寄り添うと、彼女の遊んでいた手の甲へと口づけた。


「お慕いしております……」


 イヴリースは何もしなかった。
 ただアルフレッドに任せ、近づいてきた彼を受け入れる。白く輝く満月を背にした二人は、人の少ないその場所で静かに唇を重ねる。
 逆光によりシルエットで浮かび上がるその光景に、カナトは絵画のような光景だと思った。これにより、二つに分かれた冥界は今再び一つにまとまり、また新しい国家を築いてゆくだろう。皆が平和に暮らせる世界になっていくのなら、カナトにとってこれ以上の成果はないから、
 夜会の全行程が終わり、祭りの余韻が残るウェストフォートでは少しずつ片付けが始まっていた。ルームに戻ったカナトも、荷造りを始め明日正午の城にのりエミル界へ戻ることになっている。


「やっとゆっくり寝れる……」
「よく頑張ったと思うぞ」


 ソファで力なく倒れたキリヤナギを一応は誉めておく。ドラッキーと共に礼装を返しにきたラフォルもまた、何処かすがすがしい表情をしていた。


「ありがとうございました」
「楽しめたなら何よりです。明日、我々はエミル界に戻りますがご一緒されますか?」
「明日ですか?」
「ラフォルー、一緒に帰らないならイリス武器返して……」


 ソファのキリヤナギから声が聞こえてくる。そういえば忘れていた。


「……俺も冥界にこれ以上用事はないし、明日一緒に帰りますよ」
「なるほど、わかりました。では明日の朝にここへお越しください。帰りましょう」
「はい」
「よろしくお願いします」


 そうして話は纏まり、ラフォルを含めた計十名は、午前のうちに宿を出て、ウェストフォートの入り口に向かう。早めにでた皆は、街の商店を出入りして軽く観光をしつつ定刻に出入り口へと着いた。するとそこには、見送りに来たのかクラウスとアルフレッドを連れたイヴリース姫がいる。


「カナト、キリヤナギ。騎士組の皆、お前達のおかげで冥界は救われた本当に助かった」
「こちらこそ、貢献できて何よりです。姫」
「またいつでも冥界に顔をだすといい、私たちはもう友人だからな」
「はい。またお会いできる機会を楽しみにしております」


 イヴリースを含めた、アルフレッドとも握手を交わすカナトに続き、キリヤナギもまた挨拶をしていく。そしてラフォルも握手をかわそうとしたときだ。


「ラフォル」


名を呼んだアルフレッドは右手を差し出し、笑顔をみせる。


「また、冥界に顔を見せてください」
「えぇ、またいつか……!」


 強く握り返した握手に、皆が笑顔を見せ一同は帰りの庭へと乗り込む。そこから城に乗り換えたラフォルは、キリヤナギにイリス武器を返却し、広い城の中をドラッキーと共に散策することにした。城内の通路を二人は手を繋いでのんびりと歩いていくも、一緒に乗っているはずの部隊員の姿がみえず、どこも閑古鳥が鳴いている。皆疲れているのだろうと思いながら内装を眺めていると、急にドラッキーが立ち止まり、その身をぐっと寄せてきた。


著:リュウド


「……ドラッキー?」


 気が付けば、ドラッキーはすがるように手を握り、震えながら俯いている。


「小生は、誰かの助けになりたくて、苦しい思いをした人達が少しでも楽になればと思って、こちらの世界に来ることを望みました……」


 震えた声で語るドラッキーの想い。この世界に来るときの会話から、それはラフォルにも良く分かっていた。ラフォル自身も、ドラッキーのそんな想いに応えたくて、冥界へ行くことを望んだからだ。


「けど、実際には小生は何も出来なくて……それどころか、小生が原因でより多くの人が犠牲になって……ぐすっ」


 ついにドラッキーは泣き出してしまう。ラフォルはドラッキーの正面に屈み、両肩を掴むと、真っ直ぐに目をみてその言葉を否定する。


「そんな事はない。あの人は、オレ達がいなくてもきっと同じことをしていた。下手をすればウェストフォートに攻め込む強硬手段にでる可能性もあったし、ドラッキー以外のアルマが犠牲になっていたかもしれない……!」
「……主様」
「だからドラッキーが悪いなんて事はないんだ、むしろオレがもっと強ければ、オレがもっとしっかりしていれば……!」
「…………ごめんなさいです、いっぱい頑張ってくれたのに、こんな事を言ったらそれこそ失礼でした。それに主様はお強いですよ?ちゃんと小生を救ってくださいました」
「まぁ結局最後は、ドラッキーに助けられたようなもんだけどね……」
「いいえ、助けてもらったのは小生の方です……」


 そんな風に言葉を交わしていると、ふとドラッキーの顔がとても近くにあることに気付く。先程まで泣いていたせいか、ドラッキーの目は潤んで宝石のように輝いており、心なしか頬も上気している様に見える。
 ――……う……まさかあの、その、この雰囲気は……キッ……キス……って奴をする場面……なのだろうか……!確かにオレはドラッキーの事好きだし、ドラッキーもオレの事を慕ってくれている、でもそう言う好きじゃなくてこう家族とか友達的な好きかも知れないし!でも物語とかだと確かにこういう場面は……!!


「…………主様?」
「ふぁいっ!?」


 そんな邪な想いにかられていると、沈黙を不思議に思ったドラッキーが声をかけ思考が断ち切られる。


「いや別に変なことを考えてたとかそんな事は決して……!」


 あたふたと弁明をしていると、ラフォルは唐突にある事を思い出す。
「あっ、そういえばドラッキーに返さなきゃいけないものがあったんだ!」


 そう言うと腰につけた小型のポーチから、青いチョーカーを取り出す。


「それは……!」
「ドラッキー、多分だけどわざと落としていったんだろ?ここにいたって伝える為に」
「ちゃんと気付いてくれてた……やっぱり主様は凄いです……!」


 それは冥界に来る前に、ラフォルがドラッキーへ買ったお揃いのチョーカーだった。


「あはは……今の今まで返すの忘れててごめん」


ドラッキーは喜んでいるが我ながら格好つかないな、と思いつい項垂れてしまう。


「と、とにかく。ほら、つけてあげるよ」
「えっ!そんなわざわざ主様のお手を……ぁぅ……はい、お願いします……です」


ドラッキーは恥ずかしそうに俯いてしまったが、すぐに顔を上げてそれを受け入れる。


「改めて、これでお揃いだな」


ラフォルが立ち上がり、自分の首につけたチョーカーを見せて笑うと、ドラッキーも自分のチョーカーに触れ、嬉しそうに笑顔を返す。


「結構時間も潰したし、そろそろ部屋に戻ろうか」


そうドラッキーに提案し、二人は誰もいない通路を、またのんびりと歩き出す。


著:詠羅

城のルームに戻るとカナトとキリヤナギを含めた皆が、各々でリラックスしたように眠っており、言い換えると、


「死屍累々、だな……」
「縁起でもないです主様!」


ドラッキーの言うことは最もだが、ラフォルはそう言わずにはいられなかった。
そこから、更に三時間程城で過ごし、エミル界についたのは日も陰る夕方で、一瞬、冥界ではないかと錯覚はしてしまう。
だが、帰ってきたのだ。自分達の世界へ……


「カナト、この後どうする?」
「あぁ、今日は一度実家に戻る。貴様はどうする?」
「うーん、僕も君の家に泊まっていい?どうせ朝報告しないとだし」
「わかった。ラフォル殿は……」
「庭でアクロポリスに帰ります。カナトさん、キリヤナギさん。ありがとうございました」
「君の力になれて嬉しかったよ。リュウドにもよろしく伝えて」
「はい、それとジンさん」
「俺?」
「はい。短い間とは言え、一緒に戦えて嬉しかったです。また機会があれば、一緒に戦いましょう」
「え……もちろん、またタイミングあえば!」


飛空城が世界移動を終了したアナウンスが流れ、一番始めにラフォルが庭を呼びだしアクロポリスへと戻ることになった。カナトを含めた、キリヤナギ、ジン、グランジ、コウガ、スィー、カロンに見送られ、ラフォルはドラッキーと、自分の庭へと戻る。


「それじゃ、皆さん。またどこかで!」
「またいつでも、気軽に連絡をして下さい」
「ラフォル、協力ありがとう。またね!」


庭のエンジンをかけたラフォルは、ゆっくりと城から離れて行く。横にいるドラッキーもそれを名残惜しく見送り、ラフォル達を見送った彼らも移動用の庭に乗り込んでいった。


「中に入ろうか、ドラッキー」
「はい、主様!」


まだ夜の風は冷たい。しかしこれからゆっくりと暑い季節がまたやってくる。これからもずっと、どんなに季節が映ろうとも、その手に重ねられた大切な人の手を離さない、そうラフォルは誓うのだった。

Fin
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本編 | 【2019-05-03(Fri) 20:00:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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