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反逆の大地-Hells of Rebelion- 第十話:孤高なる決意
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【連載】詠羅×リュウド×ラフォル リレープロジェクト
反逆の大地-Hells of Rebelion-

第十話:孤高なる決意

*目次
第一話:始まりの離別
第二話:世界のあり方
第三話:捜索と出会い
第四話:冥界と言う世界
第五話:2つのあり方
第六話:偽りの仮面
第七話:結論。そして旅立ち
第八話:開戦
第九話:機械の人間


 
著:リュウド

ボロ布のマントを風に舞わせて、短身痩躯の男、リトルボーイが俊敏にナイフを突き出して迫る。ジンは構えたバレットセイバーの刃でそれを受け止めると、金属が擦れ合い二人の眼前で火花が散った。

「ヒッヒッヒ……!お前、あの二人ほど実力はないみたいだなぁ!動きが遅い!遅すぎるぞ!」
「ぐっ……」

 ジンは背中に冷や汗を感じる。機械の身体を持つ小人の殺人鬼は、とてつもない速力でこちらを攻め立ててくる。
 速力、ジンにとって力の指標となる要素。
 これまで経験してきた数々の戦いにおいて、彼は自分より速い者に勝ち得たことはない。
 ジンの脳裏に浮かぶのはカロンやキリヤナギ、そして直前で共に戦ったラフォルの動き。目が自慢の彼ですら動きを捉えられない速度。
――自分が彼等と戦って勝てるだろうか?
 リトルボーイの俊敏な動きは凄まじく、そうした者達とも遜色のない速度だ。並んだ大砲の間を駆け抜けジンを翻弄する。この速度は眼で追い切ることは出来ない。培った経験は内心で大きな警鐘となって駆け巡る。

「どうしたどうしたぁーッ!!全然これっぽーーっちも殺気が籠ってないぜぇ!!」

 閃光のように奔る刃がジンの身体をじわじわと刻んで行く。
 軽量な小型武器の強みを生かした圧倒的速度と、その手数の多さにジンは防戦一方となる。
 バレットセイバーを器用に盾としながら、致命傷だけは避けている。だが、このまま攻め立てられるのはまずい。致命傷では無くとも傷は蓄積している。守っているだけではいずれは押し切られ、そのままやられてしまうだろう。
 応戦するように、左手に携えた大型拳銃のサラマンドラから二発の火線が迸るが、それらはあえなく回避される。

「急所を狙えよ!!急所を!!そんなんじゃ虫も殺すことはできねぇぜぇ!!」

 最初に狙ったのは右肩、そして左足。戦闘力を奪おうとしたジンの思惑、それを見透かしたかのように甲高い声で嘲笑う。

「くっそ!!」

 思わずジンは毒づく。
 ――どうする!?相手は人を殺すことに躊躇いの無い殺人鬼。それを見越して、今回は殺害許可が出ている。だが……本当にそれしかないのか、殺すしかないのか!?
 サラマンドラのマガジンを取り換えつつ、自問自答するジン。
 自分が人を殺したのは、かつて起きた故郷への襲撃事件。あの時は自分が生き残るために、そして月光花のために、実行犯を返り討ちにした。そのことを正しさという形で受け入れることは未だに出来ない。きっと、その時の決断で残ったものは今も消えないし、これからもずっと自分の中で残り続ける。

「……」

 『生き残る』こと。
 戦うことを選んだ以上、生き残るしかない。カロンの言葉がジンの心の中で反響する。
 分かっている。自分がここに来たのはラフォル達の力になりたかったからだ。これはDEMとの大戦とは違う。でも、決して平易に解決できるようなことでもない。
 それでも彼は、リトルボーイを殺害ではなく制圧でもって対処するつもりでいた。
 しかし、それは極めて難しい。
 リトルボーイの戦闘力は並みの人間のそれではない。そして、その異常な精神性もだ。
 ジンは、己の精神を鼓舞するように、銃を硬く握る。身構え、今度は殺す覚悟を決める。
 ――俺は……撃つ!
 力強く正対するリトルボーイを睨み付け、銃口を急所へと向けようとし――目の前が霞がかったように視界がボヤけた。
 突如として、走った猛烈な違和感、急速に力が失われて行くように身体が崩れる。

「なっ……んだ、これ……」

 吐き気と共に意識が遠のいて行くのを感じるジン。

「ヒッヒッヒ、甘いなぁ……くそったれなチョコバナナサンデーみたいな甘ちゃんだぁ!」

 その上から覆いかぶさるように侮蔑の籠った言葉が投げかけられた。

「くぅ……うっ……」
「効いてきたようだなぁ。このナイフには遅行性の毒が仕込まれていたのさ。上手い事捌いてたつもりかもしれないが駄目だぜぇ……油断をしていたらよぉ?」

 震える身体でジンはなんとか身体を動かそうと足掻き、身をよじる。
 その様子を心底愉快そうに笑い、手に持ったナイフを弄びながらじわりじわりと近づいてくるリトルボーイ。

「俺が何で遅行性の毒を使っているか教えてやるよ!!ヒヒ!!即効性の猛毒じゃあまりに呆気なさすぎてつまらないからだよぉ!!お前みたいに毒にのたうち足掻いてる奴を!!俺の、この手で切り刻む!!それこそが楽しみよ!!ヒッヒッヒ!!」

 ジンの傍まで歩み寄ると、殊更にゆっくりとナイフを振り上げる。

「精々、良い声で泣き叫んでくれよぉ!!」

 言葉と同時に一気に振り下ろされる鈍い光。
 その瞬間のことだった。苦悶に苦しむジンの瞳はカッと見開かれ、地面を転がりながら邪な刃からその身を躱す。

「なっにぃ!?」

 身を転じさせながら行われたジンの射撃が火線を描き、回避のために後退を余儀なくされたリトルボーイは驚愕に目を見開いている。

「へへっ……キュアポイズンっすよ、迂闊っすね!あんたこそ甘いんじゃないっすか!!」
「ぬひっ!」

 ジンの見せた気迫に一瞬怯んだかのように後ずさるリトルボーイだが、そのことが彼自身の憤激を誘発した。
 ――上手く行った、元よりデュアルジョブでカーディナルのスキルを取得していたことが、この局面で大きな優位になった。

「な、脅かしやがるんじゃねぇ!!ビビって慄くのはお前なんだよぉ!!」

 再び、高速の挙動に移ると、毒のナイフによる襲撃を仕掛けてくる。
 ジンは極限の集中力を見せて、リトルボーイの姿を追う。やはりだが圧倒的な彼の速力は眼で追って対応できない。
 これがグランジであれば、常に相手の動きを予測して上手を取りつつ対処することも可能だっただろう……そんな考えがよぎり、心の中でかぶりを振る。
 だから何だというのだ。自分はグランジではない!だから彼の取る戦法を考えても、参考にはならない。
 ならば――
 ジンは左腕の位置を少しだけ下へと降ろす。
 それに反応してか、ジンに向かって高速で迫る凶刃。
 邪悪な心を剥き出しに笑うリトルボーイ。あっという間に両者の間合いは詰まり、その刃はジンの胸へと突き立てられる。
 リトルボーイの目の前に飛び散った鮮血。しかし、その顔に張り付いているのは勝利の確信とは程遠い。
 何故なら、リトルボーイのナイフはジンが胸の前に差し出した左腕によって阻まれていたからだ。更に突き刺さったナイフが抜けないよう左腕の筋肉を強く締め上げて、慌てて後退しようとするリトルボーイを阻む。

「ぬぅ、この!!て!!てんめぇええええっ!!」
「あんたが!!どんなに早いと言ってもっ……この状況じゃ対処はできないだろう!!」

 左腕を囮に使ったカウンター攻撃。
 速力で勝る相手に勝つ唯一の手段でリトルボーイの優位に立ったジンは、バレットセイバーの銃口を彼の眉間へ向ける。
 しかし……
 その優位の中で、彼はその照準を眉間から肩へと移動させようとする。刹那の戸惑いが生んだ行動は、またしても状況を悪化させる。

「ヒィハァ!?やっぱりお前は甘ちゃんだぁあああ!!ヒッヒッヒ!!」

 その致命的な隙をリトルボーイは見逃さなかった。ナイフを手放し、身体を上に向かって回転させながらバレットセイバーを蹴り飛ばすと、着地と同時に即座に地面を蹴って突進を仕掛けて来た。喜悦を浮かべたリトルボーイは左腕に仕込んだ針のような剣を突き出し迫る。
 自らの甘さが呼んだ危機的な状況、迫る死の予兆を前にしてジンの心は酷く平坦な思いだった。思えば、故郷が襲われたあの時、自分は何故あれほどまでに必死で抵抗して生き延びたのか。何故あれほどまでに……生きることに執着をしたのか……
 瞬間、ジンの脳裏に浮かんだのは一人の女性の顔だった。
 ――そう、そうだ!あの時自分が戦ったのは、他人の命を奪ってまで生き残ろうとしたのは……!自分の命だけじゃない。大切だった、その決断を下す程に彼女の存在が。当たり前になっていた。彼女の笑う顔も、泣いた顔も、近くにいてずっと気付いていなかった。でも、これからも、この先も、自分は未来を求めている。月光花と共に在る未来を。そのためならば、今また過去と同じ選択をすることができる。後悔をするかもしれない。罪を、傷を、背負い続けるかもしれない。だが、だとしても――
 ジンの身体は恐ろしい程の自然な動作で左脇のホルスターからサラマンドラを抜き放つ。奇声を発して襲い来るリトルボーイの姿に、過去にジンの故郷を襲撃した者の姿が重なった。その時の恐怖を払う様にジンの瞳に闘志が満ちていく。
 ――俺は、生きる!!絶対に生き延びて

「ゲッカの元へ帰るんだぁあああっ!!」

 決意を込めたジンの咆哮。それと同時に、リトルボーイの額に銃口を向けたサラマンドラが火を噴いた。

「ひぎっ……!」

 眉間に穴を開けた痩躯の男が間抜けな声を漏らす。

「ぁ……ひ……ぁ……」

 焦点がズレ、虚空を見るような瞳。縋り付くようなうめき声を上げたリトルボーイは、突き出した刺突剣を地面に落とし、そのままジンにもたれ掛かるように倒れ込む。
 奇怪な小人の殺人鬼の命は、ここに散ったのだった。



著:詠羅

 グランジ、カロン、ジンに繋いでもらった道をひた走り、ラフォルとリュウドは鉄火山をひたすら登り進んで行く。進むほどに濃密になる邪悪な気配に、二人の顔は自然と険しくなって行く。

「心配するな、あの三人ならすぐ追い付く。お前は目の前のことに集中しろ」
「分かってる。オレはドラッキーを助ける、そのためにここにいるんだ」
「あぁ、そうだな。迷わず突っ切れ!」
「当然……!」

 幾多の機械により侵食された山岳地。
 エミル界の鉄火山に慣れた二人にとって、登山はさしたる障害ではないが、突如として二人はその速度を落とす。
 両者の中心を真空の刃が奔るが、二人は冷静に左右に分かれてそれを避ける。

「ヒャッハアアア!!久しぶりだなぁ」

 眼前に現れたのは悪辣なモヒカンの男――これまで立ち塞がった者達と同様に身体を機械に変えている。

「まぁ、やっぱいるよな……」
「お前等に会えるのを心待ちにしてたぜぇ!ここでお前等をまとめてぶちのめせると思うと笑いが止まらないぜ……ヒャッハッハッハー!」

 リュウドの言葉はまるで聞いていないようだ。舌なめずりをするモヒカンの男は一方的に捲し立てる。邪魔立てするものは全て斬り伏せんと、ラフォルの気迫が極限まで高まりその手に剣が伸びる。しかし、それよりも早くリュウドが剣を抜き放ち、ラフォルの前へと進み出ていた。

「先に行け。こいつは俺がやる。ドラッキーが待っているんだろ?」
「……あぁ、ここは任せた!」

 リュウドの言葉に頷くと、ラフォルは更に先へ進むために駆けて行く。

「おいおいおいおい!逃がすと思ってんのかぁあああ!?」
「悪いがアイツは先約があるんでな。お前の相手は俺がしてやるよっ!」

 先に進まんとするラフォルを狙う凶賊の剣。だが、間に入った影がそれを許さない。蒼月色と鈍色。両者の剣光が鋭い速さでぶつかり合った。



「ヒャッハアアアア!!最強の力を得て生まれ変わったこのエッジマン様と一人で戦うつもりかぁ!?何で俺が最後に待ち構えてたか何も考えなかったのかよぉ!!」

 悪辣なるモヒカンの男が持つチェーンソー型の剣が、唸りを上げて空気を引き裂く。
 リュウドは蒼月色の剣を振りかざし、無数に奔る鈍色の剣閃を次々と叩き落とす。
 以前に戦った時に比べて格段に力を増したモヒカンの男、エッジマン。
 確かに、その力は以前に四人組のアジトで戦った時とは比べものにならない程増している。その事を打ち合う度に確信させられる。
 人間の限界を超えるための機械の身体。そして人間として培った剣技。それらが融合した彼らは、人間でもDEMでもない。最早別の悪しき存在へと変化していた。
 肌に感じる殺気。大技の予兆を感じたリュウドは先んじて身を躱すと、その背後にあった巨岩が無数の剣圧を受けて粉微塵に吹き飛ばされる。
 エッジマンが使った技はジリオンブレイド。だが、その威力は通常のモノとは比較にならない域へと達している。

「ヒャーッハッハッハッハァアア!これが俺のジリオンブレイドだぁ!人間では到達できない破壊力を見たかぁ!?」

 耳障りな哄笑と共に自分の剣技を自慢気に語る。
 確かに眼前に示された破壊力は凄まじい。グラディエーター最大の奥義を、DEMと同じ機械の身体で放てば如何なることが起きるか。それを目の前で証明した存在がこれだ。塵へと分解された巨岩。その威力は、凄まじい修練を積んだ達人が使うそれを優に超えている。
 だが、リュウドはそれでもなお、眉一つとして動かさなかった。

「気に食わねぇ面だなぁ……あぁ!?おいテメェ!!今のを見てなかったのかよぉ!?」
「見たさ、確かに大した破壊力だ」

 規格外のジリオンブレイドの破壊力。だが、それを見てもリュウドの内心は驚く程静かだった。
 一方、その反応を自身の技を軽んじたと感じたのか、こめかみに青筋を立て怒りを交えた笑い声を上げるエッジマン。

「ヒャハァ!その割には随分と薄い感想じゃねぇか!もっと驚けよぉ!?まさか以前戦った時みたいに俺を簡単に倒せると思ってんのかぁ!?甘えぇ……甘えぇよぉ!チョコバナナサンデーより甘ぇえええんだよぉおおおお!!俺は以前の俺とは違う!お前等みたいな冒険者とは立っているステージがそもそも違う存在になったんだよぉ!!」
「俺は、お前の力を見誤ってはいない」

 突き出すように剣を構えるリュウドは、大気が揺らぐ程の圧力を発してその眼に鋭い光を奔らせる。

「気に入らねぇなぁ……その眼ぇ!!まるで俺に勝てる気でいるみたいじゃねぇかぁ!!」
「負けるためにここに来たわけじゃないんでな!!」

 リュウドの剣閃が描く光芒は凄まじい力でエッジマンの剣撃を弾き、その身体を大きく後退させる。地面を擦りながら、その衝撃に抗ってエッジマンは体勢を立て直すと、ますます憤激を強めた。

「ヒャハッ……!お前の都合なんか知った事かよぉ!いいぜぇ??それならもっとスゲェものを見せてやるよぉ……これを目に焼き付けろ……そして、あの世に逝ってもブルって泣き続けなぁぁああぁぁあああああっ!!」

 凄まじい叫びと共に、エッジマンの身体に紫電が迸る。
 機械の骨格に巡るそれは、確たる力の奔流。DEMがその力の限界を更に超える為に備えた機能。

「オー!バー!クロォォォオオック!!こいつは他の三人も持っていない!俺が大将に頼んで特別に付けてもらったスペッッッシャルな機能だぁあああ!!他の奴らは機械の身体を得ただけで満足しちまったみたいだがよぉぉ……俺は違うぜぇえ!?強くなれるなら何だってする!!何ぁぁああんだって取り入れるぅ!!」

 ブォンと風を切るような音が響き渡った。ただ無造作に振っただけの剣が、烈風の如く圧を発し岩肌をごっそりと抉り取る。

「ちょいと反動はキツイが半端なパワーじゃないぜぇ……何しろ軽く振っただけでこの威力だぁ!!あぁ!!そうだ!!この力!!直に!!受けて!!確かめやがれぇえええっ!!」

 轟音と共に凶賊の剣士は視界から掻き消える。瞬時に間合いを詰めるや、正面からの大振りの斬撃が炸裂音を立てて地面を引き裂くと、視界には砂煙が立ち昇る。

「おせぇえええええええ!!」

 剣を避けて横に飛んだリュウドに対し、一瞬で回り込むエッジマン。雷光を迸らせた身体から溢れ出す超パワーを存分に発揮し、剣を盾にして受け止めようとしたリュウドをそのまま弾き飛ばす。
 衝撃を殺すように自ら後ろへ飛んだリュウドは、追撃を避ける為にすぐさま転身するが、もう目前には機械の凶賊が剣を振りかぶっていた。
 上半身と下半身を両断せんと、横薙ぎに繰り出された鈍色の斬撃を正面から受け止める蒼月色の剣。激しい火花を散らして両者が鍔迫り合いをする中、エッジマンは唾を飛ばさんばかりに吠え猛る。

「ヒャッハアアアアアアアアア!!どぉぉおだぁぁあああああ!?」
「……」

 機械化によるパワーアップに加えて、オーバークロックにより更に出力上げたエッジマンの力は尋常なものではない。競り合うリュウドの身体を圧し切ると、他者を圧倒する悦びに打ち震えるようにその顔に邪悪な笑みを浮かべる。
 圧倒的と言える力。打ち合ったリュウドもそれはしっかりと感じていた。人を超越したパワーとスピードの両立。確かにそれは他の三人にはないものだろうと推察できる。

「さぁ、一気に行くぞぉおお!!ヒャァアッハアアアアアアアア!!」

 踏み込みで大地を陥没させると、エッジマンは超高速で突進を仕掛けて来た。
 リュウドもまたそれに応じるように、その身を神速の領域へと飛び込ませる。
 両者は山道を駆け抜けて激しく斬り結ぶ。交差する剣光がぶつかるその都度、凄まじい程の火花を散らし、遅れて響く大気の音が荒れ狂う。
 とてつもない速さで応酬し、競り合う二人の剣撃。果たして、その天秤は時間と共に一方へと傾いて行く。

「ぬっふぅぅぅっ!!んぉぉおおお!!」

 怒声を響かせてエッジマンは更に剣速を引き上げる。途端、総倍に引き上げられたそれは嵐の如き猛々しさを伴う太刀筋へと転じる、だが――

「くそぉぉぉおおお!!なんでだぁああああ!!」
「それは、お前が自分の力で得たものじゃないからだ」

 その全てを蒼月色の剣光が阻む。鈍色の剣光を叩き落とし、隙を縫って繰り出される蒼の光芒は、憤激で攻め立てるエッジマンを逆に後退へと追い込む。

「はひっ……ひっ…ひぃっ……ひっ……」
「お前の身体はDEM同様の力を得た。だが、剣技自体は何も変わっちゃいない。以前、ラフォルにあっさり斬り捨てられた時のままだ。だから、どんなに凄い力を得ても、お前自身はそれを使いこなせていない。ただ後付けの力に振り回されている」

 疑問を湛えた視線にリュウドは口を開いて返した。機械化によるパワーアップ。破壊力そのものは確かに凄まじい。しかし、それだけの力を活かす技術がエッジマンにはない。どれほどの大きな力を得たとしても、それをコントロールし運用ができなければ、無駄な力になってしまう。

「お前と同じ位の力を持った者と剣を交えたことが何度かある。そいつ等は皆、途方もない修練の果てに自分の力を鍛え上げて剣技を高めていた。だからこそ確かな強さだった」
「くっそぉおおおお!!くそがぁあああああああ!!」

 振り抜いた鈍色の剣閃は、強烈な衝撃波を発して周囲の木々を薙ぎ払うが、肝心な対象は一向に捉えることが出来ない。

「くっそぉぉぁぁああああっ!!ならぁぁ…………こいつでどうだぁああああああッ!!」

 叫ぶや、エッジマンはその全身から溢れ出す力で放電現象を引き起こし、周囲に迸らせた。

「ひゃははははははははは!!どれだけの剣速であってもこれは防げないぃぃそしてぇ!!どれだけの速力があってもぉぉぉこいつを躱すことは出来ねえぞぉおおおおお!?」

 哄笑と共に全身を震わせ、最大級の力を放出させんとチェーンソー型の剣を腰だめに構える。鞘こそないが、これは居合いの構えに酷似したものだ。

「くらいやがれぇえエエエエ!!これがぁああ!!これこそがぁああああ!!俺様のぉぉぉぉおお!!スゥゥゥゥパァアアアア!!ジリオォォォオオン!!ブゥゥゥウウレイドォァァアアアアアアア!!」

 咆哮を引き金に繰り出された一撃は、電磁力による超加速を加え、最大出力となったジリオンブレイド。それ等は刃の塊と化してリュウドへと迫る。前方空間の全てを包み、逃げ場を封殺して、空気を斬り刻む。
 制止した時間の中、桁違いの範囲に展開されたジリオンブレイドが引き起こすであろう現象が脳裏に駆け巡る。だが、高密度の斬撃の嵐を前にしてもなお、リュウドはそれに立ち向かう。そして、総身の力を用いて繰り出した剣撃は、同じくジリオンブレイドだった。
 ぶつかり合うのは、両者の”力”に対するそれまでの現身。勝者のみが押し通るただシンプルな世界。
 超高速で激突する両者は明瞭たる決着へと向かう。
 全てを破砕せんと侵攻する斬滅空間に、一筋に収束された剣光が滑り込み凄絶な断層が作り出された。
 絶対の自信を持って繰り出した己の最大の技に起きたその現象に、理解が及ばず歪む凶賊の顔。
 駆け抜けた剣閃がエッジマンの頭上から真っ直ぐに走り、機械化された身体を縦一文字に両断する。
 大地に凄まじい剣閃の痕が残り、凶賊と蒼の剣士は剣を振り抜いた姿勢で位置を交差させていた。

「おっおぉぉぉ……おれっの……勝チ……カッカチ……ダ」
「いいや、お前の負けだよ……」

 絶命の瞬間、呆けた声で紡がれる言葉。自らをすり抜けるように吹き荒れた剣の嵐が、力を失い四散する中、リュウドはその言葉に背を向けたまま答えた。



 迫る妨害を仲間に任せて、鉄火山エネルギープラントを駆け抜ける。そのほとんどが機械化された山頂の近く、一部だけ岩肌が露出している。そこから続く洞窟の最奥――封印の間。破壊神を封印するという祠が安置されている場所にドラッキーはいた。祠に繋がる鎖で繋がれ、彼女の意識はない。
 すぐさま、駆け寄り助けたい。だが、目前には黒の六枚羽に仮面を付けたドミニオンの姿。これまで、幾度となく行動を阻んできた男。
 予想通り待ち構えていた相手に、ラフォルは黒銀の剣を突き出し口を開いた。

「……あんたなんだろ、フリーデンさん」
「……」

 返ってくる言葉はない。
 代わりに、男はフードを外し、仮面を脱ぎ捨てる。

「捕らわれの姫を救おうと、勇敢な騎士様の登場か……何時気づいた?」

 そう言うと同時に一瞬だけ漆黒の翼が光ると、その漆黒が剥がれ落ちる。暗闇の内側から現れたのは真紅の六枚羽。
 そこにいるのは、紛れもない改革軍のリーダー、フリーデン・サウザード・ルシファーの姿だった。

「最初は、あんたがステップ砂漠の小屋に現れた時だ。あの時ほんの僅かだが、耳を怪我していただろ」
「あぁ、あれはなかなか良い剣撃だった。私としたことが失態だったな」
「まさか、と思ったさ……けど、その後破壊神とやらの話を聞いて確信したよ。そして極めつけはあのカラスもどきのデータ……何故引き下がった」
「わざわざ隠す必要が無くなったからだよ。あの時本当は君を始末するつもりだったのだが、失敗してしまったのでね。そのご褒美とでも言っておこうか。言っただろう?君達には出来うる限り”協力”しよう、となぁ」

 フリーデンの嘲るような言葉に対し、ラフォルは怒りを堪らえ力強く奥歯を噛みしめる。

「……目的は……破壊神とやらの復活か」
「フッ……愚問だな。君も既に分かっているのだろう?だが、あえて聞きたいというのなら答えておこう。そのとおり、破壊神の復活だ」
「冒険者から奪ったイリスカード、ドラッキーの誘拐、そんなもんの為に想いの力を利用しようってのか!」
「その通りだとも。手違いではあったが、君達は素晴らしい情報を私に提供してくれた。想いの力、そしてアルマ……くはははっ!姫ではないが、この娘は破壊神復活の鍵となってくれた!」
「そんなこと、させると思っているのか?」
「させるさせないではない。もう鍵となったのだ。既にな」

 瞬間、祠を中心に魔方陣が展開され、蒼褪めた光が天へと立ち昇る。

「……うぅ……あぁああああ!!」
「ドラッキー!?」

 あの魔方陣のせいなのか、苦しげな呻き声を上げるドラッキー。
 立ち昇る光に呼応するかのように大地が鳴動を始める。そして描かれた魔法陣から滲みだす忌まわしい気配は、封印の間から溢れ出し、鉄火山全体へと広がっていく。

「さぁ、神の復活の時だ。滅びの礎となってくれた礼に、君も、君の大事な者も!共に同じ場所へ送ってやろう!!」



 赤い血が、ゆっくりと左腕の袖口に染みてきて、まるで痛みが広がるように衣服が染まっていく。ジンは目の前に倒れこんだ敵を見て、何も考えられずにいた。ひどい痛みもわからなくなるほどに、頭が真っ白になって、心臓の鼓動音だけが自分の中にこだまする。
 その上でジンは一度膝をつき、右手を左腕の傷口に当てた。そしてわずかな魔力でもある一定の治癒力を誇るスキル『リカバリー』を唱える。幸い腕は動く。まだ戦えるとは思ったが、これ以上にまだ戦わなければいけないのかと思うと、なぜか気持ちが億劫になっていった。しかしそれでも、先に進まねばならない。ジンは仕方なく重い足取りで、リュウドとラフォルが走っていった方向へと、歩を進めることにした。
 正しかったのかは分からない。正しいとは思えない。だがもしあの時に引き金を引けなければ、間違いなく死んでいた。でもジンは、死ぬわけにはいかなかった。だから引き金を引いた、それだけなのだ。歩いていて冷静になってくる自分も嫌になるし、仕方なかったと正当化する自分はもっと嫌になる。だがそう思わずにはいられなかった。何分ぐらい経っただろうか。少しだけ丘になった場所を越えると、開けた場所に、青い鎧の青年が山道の外側から顔を出す。こちらを見つけて「おっ」と顔を上げ、彼は笑顔でこちらに手を振った。

「ジンか、終わったのか?」
「リュウド……さん」
「俺も今終わったところだ」

 終わったとはどういう意味だろう。だがジンの価値観とリュウドの価値観は違うため、ジンは言及するのをやめた。
彼へかける言葉が見つからず迷っていると、突然地鳴りが響き、大地が震動した。地震の揺れに思わず腰を落とすと、林の向こうから巨大な何かが生えるようにせり上がってくる。ゆっくりと起きるように立ち上がったそれは、先端が二つに割れた双葉のような形をしていて、空へと高く持ち上がった。

「何だあれは!!」

 リュウドの感想もわかる。ジンすらも言葉がなく他に感想が浮かばない。

「『破壊神』……?」
「あれが……!」
「わかんないっすけど……」

 だが、それ以外に選択肢がない。もしそうだとしたら、祠にはキリヤナギの予想通り誰かがいて、目覚めさせたということだろうか。あれをどうにかしなければならないのなら、二人とも合流しなければならない。

「……ふむ、アレが破壊神って事なら……悪いな、イリス武器を預かってない俺はラフォルの後を追わせてもらう」
「えっ――……」
「すぐに後ろの二人も追い付いてくるだろう。それじゃ、あとは頼んだぜ!」
「まっ、リュウドさん!!」

 一瞬、行かないで欲しいと思ってしまった自分が情けない。あっという間に見えなくなった彼を追う暇もなく、ジンはその場に一人残される。



「そんな、フリーデンが……?」
「はい。証拠も確証もありません。しかし今日鉄火山に向かった彼らの中の一人は、それを確信しているようでした」

 イヴリースは返す言葉を迷っているようだった。ただ眼を逸らし、直面した言葉を受け入れようとしている。彼女は心から信じていたのだ。自分の臣下が民を守ると。だからこそ、尚更受け入れがたい気持ちになるのはわかる。

「カナト、お前の言いたいことは分かった。だが……私は姫なんだ」
「はい」
「姫であるからこそ、彼らを信じなければならない」
「それは、違います……臣下が道を踏み外そうとした時、それを律するのも上に立つ者の務めでは」
「だが、私に何ができる! 冥界にはお前たちのような通信技術も人も、金もなにもない!! 私は信じていることしかできないのに……」

 姫が目に涙をため、そう叫んだ時だ。

「カナトさん! イヴリース姫! 映像を見てください!」

スィーが二人の名前を叫び、画面上の大戦の様子へと誘導する。そこにはまるで、染み渡るように赤く、赤く染まっていく平原が映っていた。



 そしてその同時刻。旧アクロポリスを中心とする四つの平原に血のように赤い魔法陣が、まるで炎を纒うように出現する。

「いけない!!」

 誰もが赤い大地に驚く中、飛び出したのは地上に降りて援護を行なっていたセオだった。彼は前線を飛び出し、後退してくるソードマン部隊の隊員とすれ違つつ、最前線で手に握るイリス武器を突き立てる。

「護りなさい!!『 アヴァロン!!』」

 前線のセオを中心とし、巨大な結界が治安維持部隊の全ての隊員を包み込んだ。途端結界の外側で、ありとあらゆる草木がしなび、枯れ、死んでゆく。こちらに進軍していたDEM軍も、まるで異次元のエネルギーに溶かされるように魔方陣の中へ消えていった。西側と南側で悲鳴のような叫び声も響き渡り、赤く赤く燃えるその瞬間は終わってゆく。
 間一髪で滑り込んだセオの後ろの剣士は、腰を抜かしてしばらくは動かなかったが、セオの発動したスキル『アヴァロン』が消滅したと同時に、我に返った。

「セオ少佐!!」

 しばらくは立っていたセオだったが、体からごっそり持っていかれた魔力量に耐えられず、そのまま横に倒れる。



「何が起こった!? 皇国軍は、改革軍の状況は!?」
「わかりません! 一番艦、二番艦、応答してください!!」

 十五番艦の指令室でのキリヤナギの叫びに、オペレーターが必死で連絡を取る。キリヤナギにも何が起こったか分からなかった。平原に魔法陣が出現した直後、その範囲内にいるDEM軍が一瞬で全滅。地面に飲み込まれるように消滅した。セオの貼った『アヴァロン』によって、滑り込んだ地上部隊と上空の庭は守られたが、一時通信が完全に遮断され、再接続に追われている。

「『総隊長、前線でセオ少佐が』」
「わかってる! はやく七番艦のシュトラールの所へ」
「一番艦、二番艦の現存を確認。航空部隊に損壊なし、映像出ます!」

一番、二番の上に飛ばされた気球のデバイスの通信が復旧する。するとそこには、平原の約半分が魔法陣に染まり、その部分だけがごっそりとDEM軍、皇国軍と共に消滅していた。

「……そんな」

 何が起こったのか整理がつかない。分かるのは魔法陣の上に存在した人間、または敵の全てがいなくなったという事。無事だったのは、セオが守り切った地上部隊と庭の上にいた迎撃舞台だ。

「……総隊長」
「……」

 言葉すら出ない。思わず固まるキリヤナギに、誰も声をかけられずにいた時、突然地鳴りのような音が庭に響いて、現実へと引き戻される。

「キリヤナギ総隊長! 鉄火山を監視していた混成騎士団より通信。映像出ます!」

指令室の画面に鉄火山の画像が表示された時、キリヤナギを含めたその場の全員が息をのんだ。鉄火山のシルエットが見えるその方角には巨大な尾ひれのようなものが、ゆっくりと仰ぐように動いている。

「……これは!」
「……『破壊神』」
「DEM軍第三陣。旧アクロポリスから排出を確認、指示を!」

 再び画面が戻ると、DEM軍が平原を進み、こちらへと向かって来ている。人型DEMと同じくジェットエンジンを背負ってはいるが、ウイルスの影響下もあってか、その速度は僅かに落ちているようにも見えた。

「全艦。魔法での遠隔迎撃を開始、地上部隊は一度退避! 魔法陣の外からの迎撃を──」
「総隊長。それでは前線がもちません」
「……だけどあの魔法陣は」
「大丈夫です。落ち着いてください。部隊の損害は少ない……」
「皇国軍と改革軍は……」
「彼らは貴方の仲間ではない」
「……!」
「セオ君がすべて守ってくれました。私たちも同じように守るべき場所を守らねばなりません」
「ホライゾン……」
「地上はDEM軍がこちらに進軍している時点で、問題ないと判断します」
「『魔法迎撃チーム。詠唱が間に合わず一部DEMが防衛線を突破しました』」

 もうすでに迷ってはいられないところまで来ている。地上部隊をどこまで危険に晒すかはわからないが、もう引き返せはしないのだ。

「地上部隊、引き続き平原中央にて前線を維持! 前線維持のために突撃せよ!」

 人のいなくなった平原で、地上部隊が再び突撃を開始する。ぎりぎりまで詰められた前線だったが、ソードマン系の彼らの殲滅力と、アーチャー部隊の掩護により再びその前線はもち直した。
 そんな様子を、ウェストフォートにいたカナトとスィーは、愕然とした様子で見守っていた。一番艦、二番館から配信される映像で、皇国軍の大部分が消えたのを、カナトの横に座っていたイヴリースは見てしまったのだ。

「今のは何だ!!」
「イヴリース姫!」
「何が起こった!? 説明しろ、カナト!!」

 わからない。飛びつかれたその恐怖でカナトは思わず身が強張った。スィーがそれを止めに入り、イヴリースを宥めてくれる。

「姫、落ち着いてください。僕たちもわかりません。何が起こったのか……」

 パニックを起こしたイヴリースだったが、途端小さな声でぼやく。

「……楔? 楔なのか……あれが……?」
「くさび……?」
「クラウスは!? どうなっている!?」
「姫、ごめんなさい。僕たちは自分たちの隊にしか連絡が取れません」
「くっ……ここまで、お前たちの技術に嫉妬したのは初めてだ」
「イヴリース姫……」
「すまない。カナト、スィー。私は……何もできないんだな」

 イヴリースが泣き崩れる姿をカナトは茫然と見ていた。そしてそこから追い打ちをかけるように、頭に浮かんだ言葉が出てくる。

「……私が、私がウイルスを作らなければ」
「……! カナト、それは違う。お前は」
「しかし、姫、私が……」
「違う……。姫としてそれだけは違う……!」

 イヴリースが掴んできた腕を、カナトは思わず振り払ってしまった。カナトはそれにはっとして、思わず頭を下げて跪く。

「申し訳、ございません。……私は――」
「カナト……」
「姫、ごめんなさい。カナトさんは女性が、その、苦手で……」
「……!」
「イヴリース姫……どうか、もし私を許して下さるのならば……ご自身を責めずおいでください。貴方に許されなければ、私は……」

 嗚咽のような声に、イヴリースは言葉もないようだった。スィーもかける言葉が見当たらず、ただ背中をさすって落ち着かせようとする。

「カナトは、女が苦手だったんだな。気づかなくて悪かった……」
「姫……」
「お前が、冥界のために尽くしてくれたのは分かっている。その上でそんなことを言われたら、憎むことなんて、できるわけないじゃないか」
「……っ!」
「顔を上げてほしい。私は今、お前を許すために前を向くと決めた。だから……」

 カナトは頭上で響く姫の言葉を、確かに聞いた。

「最後まで、この冥界のために戦ってくれ!」
「……はい。姫」

 許されるのだろうか。結果として返された事実に押しつぶされてしまいそうだが、まだ、戦争は終わってはいない。カナトがゆっくりを顔を上げ始めたとき、突然地鳴りのような音と共に、かなり大きな揺れがルームを襲った。咄嗟にスィーが二人をテーブルの下に押し込み、『ソリッド・オーラ』を唱える。

「何だ? たて続けに……」

イヴリースの言葉に続き、スィーのナビゲーションデバイスが着信音を鳴らす。そしてそれは結論だけ告げられた。

「鉄火山に『破壊神』の出現を確認したそうです!」

その場が再び騒然となった。



 ジンは、いまだに目に写ったものが信じられずにいた。頭上には雲を仰ぎ、宇宙にも届きそうな巨大な尾鰭のようなもの、そして聞いた事のないような高い鳴き声も響き始めている。

「ジン、大丈夫か!」

 後ろから聞こえた声にようやく我に返った。だが、せっかく合流できたのに、まだ現実を飲み込めず、返事ができない。

「なんだあれ! あれが『破壊神』か?」
「……」

 言葉が浮かばない。目線を合わせないジンに、カロンは大方の流れを察していた。気さくに応じれば大丈夫だろうとも思ったが、やはり整理しなければジンは動けないらしい。

「……よく生き残ったな。大丈夫だ、お前は強いよ。ジン」
「……! カロンさん。俺は、正しかったんでしょうか……」
「正しくはない。正しくはないが、生き残ることは正しいと思えるってことだ。だから、黙って前に進んどけ、ジン」

 何故だろう。もう泣かないと決めたのに、ジンは堪える事が出来なかった。ずっと溜め込んでいた事が涙を通して全てが出てゆく、こんなになってしまった自分を受け入れてくれる人々がいるのだ。
 声を出さず、ただ涙だけを流すジンを支え、カロンは後ろの気配に気づいた。
 グランジだ。彼は少しだけ出血した体で、悲しそうな目をしていた。



「それにしてもでかいな! あれが『破壊神』か」
「……なんか、宇宙まで届きそうな大きさっすね」
「早速、喧嘩売ってみるか」
「難しい」

 グランジの突然の否定に二人が思わず視線を送る。すると彼の足元に見慣れたツインテールの少女が現れた。彼女は『アルカード』、グランジのイリス武器に搭載されたAiだ。

「難しいですわ。ここのイリス粒子はとても薄い」
「薄い? 」
「変な力にイリス粒子が『引っ張られている』……のが正しいのかしら」
「アルカードの言う通りだ」

 何もないところから、突然ワーウルフも姿を見せジンも驚いた。連れてきた覚えがなく、いることに混乱はするが、それを疑問する余裕もなく彼は言葉を続ける。

「イリス武器は、宿主の心のエネルギーの他に空気中のイリス粒子へも働きかける。外の粒子が少なければ、威力が変動しかねない」
「弱くなる?」
「そうだ」
「はぁ? 持ってきた意味がねーじゃん」
「ここまで濃度が低いのは珍しい……誰かが使っているのかもしれない」
「使うって? イリス武器を?」
「ジン、それは違う。イリス粒子、想いの力だ。イリス武器ならすぐに気づく」

 イリス武器を持たない人間が、想いの力を使用している? ジンは訳がわからないが、グランジとカロンは、顔を見合わせ何かを察しているようだった。

「ま、とりあえず、俺たちはアレをなんとかするために来たからな。根本はラフォル君達がどうにかしてくれるさ」
「根本……?  任務はそうっすけど……」
「深く考えんなってスキルが出ないなら場所変えてみようぜ」
「そんな安直にいくんすか……?」
「やってみなきゃわかんねーだろ? ほら、行くぜ!」

逃げるように走るカロンをジンは追い、グランジも呆れながら後に続く。

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本編 | 【2019-04-05(Fri) 20:00:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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