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(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

友人を助けようとしたらネコマタが原因だった話

出演:マーキッシュさん、チャドウィッグさん、リラさん、ティアさん、ハルトさん、ヴィネーラさん、セオさん、カズヒさん。

あらすじ
黒蜥蜴に訪れたカナトとジンは、ここ数日間料理店黒蜥蜴が回転していないことに衝撃を受けた。
ザークシーズの話によると、料理長であるマーキッシュが体調を崩しているらしい。
お見舞いを頼まれた二人は、ザークシーズに地図をかいてもらい、彼の自宅へと向かう。


 


アクロポリス、アップタウンの繁華街を歩く二人組の男がいる。
一人は青をベースとしたファージャケットに身を包むエミルと、ほぼ同じ身長の黒羽のアークタイタニアだった。
げんなりと疲労した表情を浮かべる二人は、賑やかな街中でさらにため息を落とす。

「なんだったんだ……」
「酒場の人選ミスだろう。仕方がない」
「仕方ないっつーか……理不尽ってレベルじゃねーぞ」

独り言のように口に出したエミル・ガンナーのジンは、横にいるアークタイタニア・ジョーカーのカナトに諭されるも、ジンは気分を逆なでされたような気分になる。
今日もまた酒場ネットワークの軽い仕事を受注したのだが、約束の時間に店に向かったのに結局やることをやらないまま門前払いされてしまったのだ。

「クライアントが女性を希望していたんだ、仕方がない」
「てめーは、ちやほやされて良かっな」
「嫌味か?」
「さぁね」

派遣された場所での仕事は、店での軽い接客だと聞いていたのだが、いざ向かうと女性による女性の為のエステサービスの店であり、必要とされていたのは、男性ではなく女性だった。
店側は、男性二人が来た事に激怒して、まともに話も出来ないまま返されてしまった。
その中でアークタイタニアのカナトをみた周り女性店員が、連絡先をしつこく聞きにきたり、手を握ろうとしてきて、カナトは相変わらずの悲鳴を上げ、事態がさらに泥沼化。
逃げるように退散してきた後である。

「朝っぱら散々だよ」
「私のセリフだ」

横の奴ともめても、無駄な体力を消費するだけなのはお互いにわかっている。
それだけ長い時間を付き合って、周りに助けられつつ今までやってきたのだ今更喧嘩しても意味は薄い。
お互いに会話する気にもならず昼の繁華街をあるいていると、視線の先に見覚えのある看板が目に入った。
黒のトカゲのシルエットがある看板は、料理店黒蜥蜴。

「気晴らしに寄っていかね?」
「……構わないが、人の気配がないぞ?」

え? とジンが店の前に向かうと、たしかにカナトの言う通り、シャッターがおりて閉まっていた。
定休日かと思ったが、看板に書いてある日とも違っていて、ジンはしばらくそれを呆然と眺める。

「休み?」
「出直しだな……」
「ついてねぇなぁ……」

散々な日だと、さらにため息をついたとき、店の脇から人影が現れた。
黒髪にメガネをかけるエミルは、看板を直しにきたらしいエミル・ダークストーカーのザークシーズ、黒蜥蜴のオーナーだ。

「やぁ、ジン君にじゃないか。カナト君も相変わらず美人さんだね」
「は……!?」

思わず声を上げるカナトに、ザークシーズは笑う。数秒返事に迷うが、カナトは咳払いをしてごまかした。

「ご機嫌よう。ザークシーズ殿、今から店にお邪魔させていただこうと考えておりました」
「あぁ、ごめんね。ちょっと料理長のマーキッシュ君がここ数日病欠で店をあけれなくて……」
「マーキッシュ殿が……?」

「へー」
「ここは、彼の味の店だから、新しい人も雇えないし回復するまで待っていたんだけど、今日もダメなようだ。一応看板だけは準備していたんだけど」

黒蜥蜴には、カナトとジンも常連で月に2度はきていた。
マーキッシュもまたその度に店の奥に見かけてはいたが、疲れているそぶりを見たことがなく珍しく感じる。

「……マーキッシュ殿は、一人暮らしをされているのですか?」
「一応同居人はいるみたいけど、詳しくは分からないかな。心配なら僕の代わりにお見舞いに行ってくるかい?」

「お見舞い?」
「俺の顔はもう飽きちゃってるだろうしね。二人が顔を出せば、きっと少しは元気になるんじゃないかな」

ザークシーズはそう言ってポケットからメモを取り出すと、軽く地図を書いてジンに渡した。
迷わず書かれたその地図に、カナトは思わず感心する。

「もし行くなら、きっちり直して戻って来いと伝えて置いて欲しい」

マーキッシュとは、黒蜥蜴にきてもそこまで頻繁に話す機会は無かった。
しかし体調を崩していてかつ数日休んでいると聞けば心配にもなる。

「貴様はどうおもう?」
「へ? ……うーん。まぁ、心配……かな。お前は?」
「……少し顔を見たいとは、思っている。ここが閉まっているのは、物足りない」

シャッターが閉まった黒蜥蜴は確かに以前の活気はなく、くらい空気になってしまっている。
何か特別な感情があるわけでもないのにそう感じたのは、カナトの言う物足りないが表現として正しい。

「……行ってみっか」
「そうだな。見舞いだけなら迷惑にはならないだろう」

「ありがとう。よろしく伝えてね」

そうして2人は、ザークシーズと別れた後。
受け取った地図を頼りにしてマーキッシュの庭のある場所へと向かう。
途中、冷却ジェルシートとかミネラルウォーターなど、必要なものを揃えて向かうと、本通りから外れたひっそりとした場所に、マーキッシュのものらしい庭の紐が確認出来た。
しかし、庭の紐は、タイタニアならまだしも地を歩くエミルやドミニオンには届かない位置にまで引き上げられていて、来客を拒んでいるようにみえる。

「いねぇのかな?」
「一度鳴らすか」

紐を引けば一応、来客のベルを鳴らせる。
届かないジンの代わりに、カナトが高度を上げて、来客のベルを鳴らした。
しかし一分ほど待っても応答がなく思わず首を傾げる。
だが直後、響いてきた機械音と同時に一気に紐が巻き上げられ、カナトは暴れだした紐から後退、
怪我免れた。

「大丈夫か!?」
「私は平気だ!」

ジンも心配性だなぁと思った中、カナトは上から小さな声を聞いた。
何かを叫ぶような小さな声。
ジンに一声をかけてカナトが庭の位置まで上昇すると芝生に座り込む少女がいる。

「ごめんなさい、大丈夫ですか?」

ピンクの髪に三角耳の彼女は、登ってきたカナトに少し驚いたようだが、背中の羽を見て納得したようだった。
チェック柄のチュニックの似合う少女に、カナトは軽く挨拶をすると軽く庭の操作を教え、ジンもまた庭へと引き上げる。

「すみません。何時もマーキッシュ君が出してくれていて……」
「貴方が、同居していると言う……」
「えっと、そうなのかな? 私はゆっこといいます」

「エミル・ガンナーのジン。マーキッシュさんのお見舞いに来たんだけど……」
「お見舞い?」

「ザークシーズ殿から、倒れていると伺っております」
「ザークシーズ店長から……そうでしたか」
「マーキッシュ殿の様子を伺うことは、できますか?」
「あ、……はい。でも、あまり良くなくて……話せるのかな」

深刻な表情を見せるゆっこに、二人は不安にすら刈られてくる。
ゆっこに案内されるまま、自宅へと上がると片付けが出来なかったのか生活に必要なありとあらゆるものが散乱していて、清掃が出来ていないのが一目で分かった。

「ザークシーズ店長が、たまに来て掃除をしてくれているんですが……私、家事がからっきしで」
「気にされないでください。それよりマーキッシュ殿は……」

カナトに推されゆっこが奥へと駆け込んで行く。
改めて部屋を見渡すと、散らかっているだけで、ひどく汚れているわけでもない。
食器も溜まっているが最近の物だし、二人でやるなら……。
ふとジンの視線を感じて振り返ると、じっとこちらを睨んでいる。

「……なにかいいたいか?」
「べ、別に……」

察されている。
家事は嫌いではなういし、最近はルナが大体やってくれるため物足りなさを感じていた。
しかし、ジンにすら察されているのは自分も分かりやすくなったものだと自覚する。
ジンの場合は分かりやすくなったと言うよりも、付き合いの長さくる経験則だろうか。

「あの……」

恐る恐る顔を見せたゆっこに、2人が顔を上げる。
あまり良くはないのだろうか。

「すみません。今はまだ寝てるみたいでした……」
「……そうでしたか。なら、少し待たせて頂いても構いませんか」

ジンが、ため息をついたのが分かる。
反論すらしないのは、1人だけ帰るわけにもいかないし、拒否する気もないからだろう。

「先に帰るか?」
「1人で帰らせんな!」

普段通りだった。
どちらにせよ今日は、仕事をドタキャンされて一日空いているし、ジンも暇なのだ。
掃除をして一日つぶせるなら、それもいい。
待つ間に清掃をする旨をゆっこへ伝えると、彼女は少し戸惑ったが、自分が苦手である事を鑑みて、快く応じてくれた。

上着だけを脱いで軽装になったカナトは、ゆっこに三角巾とエプロンを借りて、ジンと共に部屋の掃除を始める。
カナトに食器洗いを任せ、ジンは衣服を纏めたり、掃き掃除を始めた。
ゆっこも手伝ってくれているが、思えばカナトと出会った当初もこうして掃除をしていた。
当時はものの分類すら出来なかったカナトなのに、今は様々な事をジンよりも効率よくこなす。
病気であったと後で聞いたが、今思えば、確かに同じ人間とは思えないぐらい真面目で、几帳面だと思う。

ゆっこに指示を出しつつ、大方の清掃を終えるとキッチンのカナトが何かを作っていた。
時間的にお昼時だし、マーキッシュの為に作ったのだろうが、本当に物好きだし、お人好しだと思う。人の事は言えないのかもしれないが……。

「いい匂い……」

小さく動くゆっこの耳は、顔の横ではなく頭の上についている。
つけ耳かと思えば、後ろから隠れていたらしい尻尾が除け、ジンは突っ込むべきか悩んだ。
飾りにしてはかなり動いている。

「ゆっこ殿の分もあります。お二人でどうぞ」
「どう感謝すればいいか……頂きます!」

ゆっこの分をよそって配膳を始めるカナトを観察していると、寝室から物音が聞こえて彼女が立ち上がった。
音もなく向かう彼女に続き二人が後を追うと、酷く顔色に悪いマーキッシュが項垂れて寝台に座っている。

「マーキッシュくん。大丈夫……?」
「……ゆっこか。悪い……」

虚ろな目をする彼は体調がよろしくないのか、人の気配がある空間を目だけで観察する。
開かれた扉の向こうにある影に、彼は少し困惑したようだった。

「……5th? もう一人は……いつかの」
「今は6thだけど……」
「そいや更新されたのか……わりぃ」

「お久しぶりです。マーキッシュ殿……マイマイにてご一緒した、カナトです」
「そんな事もあったな……でもすまん。いまは記憶も辿る気は起きねぇ……」
「かまいません。お大事にされて下さい……」
「……ゆっこ。今日は何曜日だ?」

「水曜日だよ」
「……10日か。いい加減出勤しねぇと」
「そんな体じゃだめだよ。店長もしっかり治してって言ってたでしょう!」
「………うるせぇ」
「!?」

「マーキッシュ殿?」
「わりぃ、お前らの事じゃないんだ……ここ最近、耳元が騒がしくてな……」
「幻聴ですか?」
「いや、俺が望んだんだ。文句はいえねぇ」
「望んだ……?」
「相手出来なくてわりぃな……。店長には新しい料理人を探してくれと、伝えてくれ……」

マーキッシュはそう言って再び床に伏せってしまった。
彼が最後に述べた意味深な言葉にカナトはわだかまりを持ちながら掃除を再開する。
猫舌だというゆっこの為にも雑炊は冷ますことになった。

「なにからなにまで、ありがとうございます」
「いえ、気にされないで下さい。しかし、 望んだとは……一体」

目線を下ろすゆっこに、カナトは少し意味深な気配を感じる。どこかしらの罪悪感を抱えているようにも見えたから、

「実は……私……人間じゃないんです」

小さく告げられた告白に二人は思わず首を傾げる。
人間ではないと言われて驚くのは確かに普通だが、アクロポリスの街に耳と尻尾の生えた、いわゆる獣人は、正体は明かさずとも人社会に当たり前の様に紛れている。
今更告白することでもないというのは、人間側としての共通認識だからだ。
しかしその上で、彼女があえて告白したのはどういうことだろう。

「ゆっこ殿は珍しい種族の獣人でおられるのですか?」
「え、あ、ごめんなさい。違うんです。私は……獣人では……ないんです」

小さな三角の耳と、長い尻尾を生やす少女の言葉に二人は更に混乱して行く。
人間でもない、獣人でもない、なら彼女は……。

「私は、マーキッシュ君に取り付いた幽霊……ネコマタと呼ばれています」
「ねこまた……」

カナトは言葉を知っているようだが、
ジンには初めて聞く単語で思わず聞き返してしまう。

「マーキッシュ君って実は結構、霊感が強くて……」
「……。幽霊……しかし今は私にも、ゆっこ殿を認識できるのですが……」
「マーキッシュ君も始めは声しか聞こえなくて、ずっと声だけで話していました、でも、もっと一緒にいたいって願った時に、突然この体を貰って……、始めはとっても嬉しかったんですけど、少しずつマーキッシュ君の体調が悪くなって……」
「……」
「もしかしたら、マーキッシュ君。私の所為で元気が無くなったのかなって……」

考える素振りを見せるカナトに、ジンは戸惑いを隠せない。
目の前の少女が幽霊とは、にわかに信じがたいが本人が言うなら間違いないのだろうか。

「ごめん、ゆっこちゃん。ネコマタって?」
「……えっと」

「この大陸にかつて存在した動物の幽霊だ。見える者が限られて居るので、口伝てでしか語られてはいないが……」

カナトは、数年前に聞いたことがある。
それでもあくまで話を聞いただけで、見たことはなかった。

「本来なら目に見えない貴女が、我々にも見えて居るには何かを理由が……?」
「私も詳しくは分かりません。でも、私がこうして実体化するには何かしらのエネルギーを消費して居ることは何度か指摘されました……それが何かなのかは……」
「……」

「……一度聖堂に診て貰っては?」
「それは……」

「ゆっこ。あんまりペラペラ話すんじゃねぇよ……」

寝室から起きて来たマーキッシュが、壁づたいに姿を見せる。
ふらつく足元はおぼつかず、駆けつけた彼女に支えられた。

「聖堂の連中なんて、原因がわかりゃ祓えとしか言わねぇ」
「でもこのままじゃマーキッシュ君自身が……」
「姉妹に会えなくなるが、いいのか?」
「それは……」

「姉妹?」
「私には姉妹がいて……マーキッシュ君はその姉妹も抱えてくれてるんです……。もし、私達が原因だったら……」

ゆっこの姉妹。つまり幽霊の姉妹という事か。
この部屋にはゆっことマーキッシュしかいないように見えるが、見えない2人には肯定も否定もできない。

「カナト、なんかしってるか?」
「私も見えないからな……詳しくはわからない。だが、このまま放置していても悪くしかならないのではと……」

「うるせぇ、知ったような事ほざくな。俺は好きでこうなってんだ。赤の他人のてめぇにとやかく言われる筋合いはねえ!」
「マーキッシュ君! カナトさんは心配してくれてるんだよ!」
「ゆっこ、消えたいって言ってんのか!?」

「お待ちを」

体調を崩しているマーキッシュをこれ以上興奮させるのは忍びない。

「私はまだ何も言ってはおりません」
「は……なら余計な心配はいらねぇ……」
「身内に、聖堂へ所属するカーディナルがおります。彼女なら見えない事案であれど、理解を得れるでしょう……」
「どう言う意味だ?」
「原因がネコマタにあるにしろ、無いにしろ、探ることに無駄は生じません。ネコマタ意外に原因があるのなら別の解決策を打てる。一度診てもらっては……」

「……」
「マーキッシュ君、診てもらお? このままじゃ死んじゃうかも……」
「バカ言うんじゃねえよ、ゆっこ。誰のために生きてると思ってんだ……」

涙ぐむゆっこを残し、マーキッシュは再びふらついた。
ジンと二人で支えたが、触れた瞬間、明らかに体温が高い事が分かる。
ジンはマーキッシュを背負って寝室まで運び、自身のナビゲーションデバイスを取り出した。
身内のカーディナルときいて、二人浮かんだが、

「ジン、ゲッカさんを呼べるか?」
「リフウちゃんじゃねぇの?」
「人が増えるぞ?」

ごもっともだ。
マーキッシュの環境を考えても、月光花に来てもらった方が早い。

「一応キリヤナギにも伝えるか……」
「なんで?」
「元ランカーだろう?」

そうだった。
伝えておくことに越したことはない。
カナトもジンも、何度か体調を崩したことはあるが、人の体調不良に関しては無知だ。
ここは詳しい人間に任せた方がいい。

一度部屋から離れ、キリヤナギにメッセージを入れたカナトだったが、思いの外レスポンスが早く、すぐに通信が帰ってきた。
時間的には昼休みで、休憩していたらしい。

「”マーキッシュが倒れたの?”」
「少し熱を出しておられる。一応、カーディナル殿を呼んだところだが、……キリヤナギ。ネコマタについて、なにか知っているか?」

唐突に、キリヤナギが黙った。数秒間の沈黙は肯定にも取れる。
聞く相手に間違いはなかったらしい。

「”カナトは見えてるの?”」
「私は見えない。が、”見えるネコマタがここいる”」
「”……うーん。わかった。じゃあ一応わかる人手配する”」
「まだ原因かはわからないぞ?」
「”そういう問題じゃないよ……”」
「? どう言う意味だ?」
「”ネコマタは、その存在そのものが人の生命力を吸うんだ。だから宿している限り、宿主は死ぬまでその生命力を抜かれつづける。祓わないとマーキッシュは衰弱してそのまま死んじゃうかも……」
「……!!」
「”……マーキッシュは一度僕に相談しにきたよ。でも祓うしかないって言ったら、怒っちゃって、そのまま部隊を抜けちゃった”」
「……そうか」
「”カナトはどうしたいの?”」
「あえて聞くのか?」
「”……じゃあ一応、”その話に興味がある人”にお願いする……僕は気まずいから大変になってから呼んで”」
「分かった。助かる」
「”仰せのままに、我が君”」

望んだ事。
マーキッシュは、確かにそう言っていた。
だがその望みで、一体誰が幸せになるのか、そこに悲しみしかないのなら、何故それを望む必要がある。

「そいや、幽霊ならなんでゆっこちゃんだけ見えるの?」
「わかりません。気がついたらこの体になってて……」
「……触れる?」

差し出した手にゆっこが手を乗せると、確かに実態があり、体温も感じる。
ジンが関心して感触を確かめていると、ゆっこは赤面して手を引っ込めてしまった。
どこまで不器用な男なんだと、カナトは心の中で罵倒した時、カナトの中にワーウルフのルナが過った。
思えば彼も実態がないが、触れることができる。
本来なら存在しない物を実体化させる技術に関して以前キリヤナギはある単語を零していた。

「イリス粒子……」
「……なんだそれ」

気になって少し調べだが、この世界の空気中に漂う粒子の一つであり、生物の心理的なエネルギーに反応する粒子の事だった。
この星の大気の内、約78%が窒素。約20%が酸素で構成されているが、残りの約2%がイリス粒子と呼ばれ、イリスカードの触媒などに利用されているとも読んだ。
もし、ゆっこの姉妹がマーキッシュの生命力を蝕んでいるのなら、ゆっこの様に人の体を得ればあるいは……。

「……こんにちはー」

玄関から新しい声が聞こえて、カナトは顔を上げた。
現れたのは月光花と、黒髪のアークタイタニア。
優しそうな面持ちの彼にカナトはほっと肩を下ろした。

「カナトさん。お久しぶりです」
「スィーか。来てくれてありがとう」
「はい。僕、こう言う案件は得意なので任せて下さい」
「ゲッカさんも」

「カナト君、気にしないで、患者さんは……?」
「ゲッカ来た? こっちこっち、スィーさんもどうも」
「もー、呼んどいて何それ!」
「なんだよ………」

この二人は仲が良いので、心配はない。
月光花はすぐさま、マーキッシュの状態を確認し持って来た体温計を使用して、感染症の検査を始める。
その間にスィーもまた、魔法を使用して容態を確認している様だった。

「良くないですね……。少し衰弱しています。結構動かれていました?」
「さっき……」

「少し興奮されたようでした……」
「……無理が出たんでしょうね。 心配です」

難色を示すスィーの横で、簡単な検査をしていた月光花も表情が硬くなっている。
また横になるマーキッシュに表情も睡眠とは違う表情になってきていた。

「ごめんなさい。私では手に負えないかも、本部に……連絡させてもらえませんか?」
「……それは」
「私の先輩が、事情を理解してくれるとおもいます……」

月光花の話によると、もう自宅では手に余る話であり、設備のある場所で見てもらうべきとの事だった。
幸い、月光花がこちらにくる前に先輩のヴィネーラとも話をしてくれていたことから、マーキッシュは寝かされたまま病室に運ばれる事になる。
病室に運ばれたマーキッシュを囲み、スィーが新生魔法の術式で解析を進める中、少しずつマーキッシュの呼吸が浅くなって行くのがわかった。

「スィー、何かわかるか?」
「……分からないと言えば嘘になります。でもあまりはっきりとした表現ができなくて……断言できないと言うか……」
「かまわない。分かる事を感覚的にでもおしえてくれ」
「……なら、えーと……マーキッシュさんを中心にものすごいエネルギーの塊がもやもやしてて、それが生命活動を奪ってるかんじです……ゆっこさんの話が本当なら、これがネコマタなのかな……」

「多分……私の姉妹です……。ごめんなさい」
「ゆっこさんが、悪いわけじゃ……」
「……祓ってください」
「……!!」
「マーキッシュ君はすぐ怒って、いつもとんがった事ばかり言うけど……、本当はすごく優しくて、ずっと離れ離れになっていた私と姉さんや妹と再会させてくれました。私はすごく幸せだったけど……そのせいでマーキッシュ君がいなくなるのは、違う……」

「ゆっこ殿……」
「祓って下さい……」
「……スィー、ネコマタは祓うとは具体的にどうなることを言うんだ?」

「言葉の意味としては、邪悪な目に見えない何かを取ると言う意味です。でもネコマタの場合は依り代から剥がされるので、生命力の依り代が無くなって存在できなくなります……」
「……消えてなくなる?」
「はい……」

「幽霊なら成仏するとかじゃ……」
「それは人間の考え方で……個人の価値観なんです……」

ジンが首を傾げている。
成仏や輪廻転生は確かに人間の価値観だ。
具体的にどうなるかなど死んでからでしか分からない。
しかし、ゆっこにとっては、姉妹の別れとマーキッシュの生命が天秤に掛けられているのだから、半ば受け入れがたい気持ちもわかる。

「スィー」
「? カナトさん?」
「イリス粒子を知っているか?」
「……! ……知っています。しかし今現在それを実現したのは、イリス武器とカードぐらいで、人格の形成はアルゴリズムからのレプリカが限界だとは……」
「アルゴリズムは必要ない」
「……それなら……でも今から全て組むのはマーキッシュさんが……」
「イリス武器のソースコードを、私の父が持っている。全ては難しいだろうが、出力だけならどうだ?」
「でも、イリス粒子だけで出力しても人格が伴わないとただの人の想像で生み出したマリオネットにしかならないですよ」
「ゆっこ殿がいる」

スィーが振り返り、静かに涙を流す彼女をみた。
初めは技術的なものかと思ったが、改めてみたときにスィーは気づいた。
人の気配では無い。
魔法的な何かをもつ彼女の涙を拭くと、暖かい涙がスィーの肌に触れた。

「キミは、人間じゃない……?」
「はい……。私もネコマタです」
「ちょっと、調べさせてもらってもいいですか? 何か鍵になるかもしれない」
「は、はい!」

スィーが持ち込んだ古い本を開き、魔力を注いで術式を起動する。
そして差し出された手を、ゆっこがとると暖かい光が彼女を包んだ。
そしてデータベースウィンドウが開いて様々な詳細データが参照されて行く。

「ゆっこさんの身体は殆ど人間と変わりません。……でも、身体を維持するエネルギー代謝にに魔法的なものがありますね」
「それは……」
「根元はやはりマーキッシュさんです。恐らくネコマタだった時の名残りだと……、でも今現在マーキッシュさんを取り巻くエネルギー体に比較すると、マーキッシュさんに依存性は1%にも満たないので、ほぼ独立状態です」
「ゆっこ殿には、もう1人の人間として生きておられる?」
「はい。恐らく依存しているのは存在概念ですね。自分がここにあり、この存在でありたいという願いの意思。この願いをイリス粒子が叶えている。アイデンティティのようなものでしょうか……」
「それが無くなればどうなる?」
「依存性が半数以上なら消滅の可能性がありますが、この割合だとむしろ完全独立される気がしますね」
「そうか……できるか?」
「やったことないです……が、やります!」
「ありがとう。何が必要になる?」
「ソースコードがいります。あとは僕が」
「分かった」

会話がマニアックすぎてついてこれない人々いる。
しかし心なしかスィーもカナトも楽しそうでジンは何故か安心した。

「カナトさんよくご存知ですね。勉強されてるんですか?」
「まだ趣味の範囲だが少々読める。組みたいとは思うがなかなか難しい……」
「こう言うのは慣れが全てですからね……任せてください!」

カナトは早速、実家に連絡をとり通信を父ウォーレスハイムに繋いでもらった。
しかし、ロアのソースコードの提供について珍しく父が難色を示す。

「”ネコマタ……幽霊の出力か……、また大変なもん思いついたな”」
「大変、ですか?」
「”目に見えないもんは、この世界には無数に存在する。俺でも全ては把握できねぇ、が、奴らは常に増え続けている。この意味はわかるか?”」
「……はい」
「”人の中には、未練タラタラの連中も混ざってる。そんな奴らが、その技術を知ればどうなるかなんて、言わなくてもわかんだろ?”」
「見えない者に、狙われる……ですか?」
「”甘いぜ”」
「……」
「”死んでもまた肉体がもどる。そんな事がまかり通るんだ、人間にとっての絶対の終わりである”死が軽んじられる”神にでもなりたいか? カナト”」

考えたこともなかった言葉に、カナトは息がつまるのを感じた。
未だイリス武器が公にならないのも、イリス粒子の存在が曖昧にされているのも、これが理由なのか。
確かに、あってはならないだろう。
人が人として生きるならば、目の前の現実は受け入れなければならない。
イリス粒子がそれすらも実現させるなら、それは必ず考えなければいけない課題だ。

「”おまえ、イリス粒子の存在はそもそもどこできいたんだよ”」
「ウェブで……イリスカードについて調べていた所からですが」
「”ふーん……。まぁ、おまえん家にロアいるしな、イリス武器っつってるし、察するか。俺の息子だもんな”」

複雑な心境にもなるが、下手に言えばキリヤナギに矛先が向くとカナトは察した。
こう考えると、キリヤナギは口が軽い方なのかもしれない。

「父上、天界にてイリス粒子の出力が道徳的な問題を挟んでいるのなら、この世界でのイリス武器の運用は一体どのようなものが?」
「”おまえ、ソースコードの集合体に人権を挟む気か? 気持ちは分かるが……1からソースコードを組むのと、幽霊みたいな非科学的なものを出力じゃ、分野が真逆だし、同じに考えるなよ。危険だぜ”」
「しかし、それではDEM族を否定することになる……私はルナを含めた彼らを一つの生命として認めたい」
「”そうか、おまえがそうならそれでもいいが、お前が救おうとしているネコマタはどうすんだ……? 生命として認めるなら道徳的にまずいぜ?”」

カナトは返す言葉に悩んだ。
また父を信頼しすぎていた自分にも反省した。
これは久しぶりの父のテストだと思い、カナトは冷静に物事を整理する。
ゆっこは人型をしていたが、ネコマタとは本来どのような存在なのだろう。
父、ウォーレスハイムと通信を繋げる横で、カナトはネコマタについて検索をかける。
ネコマタの記事は殆ど無かったが、文字の一部から拾った記事から興味深いものがでてきた。

「父上、ネコマタの元は人ではないのですか?」
「そうだな……。ネコマタってそのものの語源は、この大陸に原始に合った猫の幽霊が、何百年もたって尻尾が二股になった妖怪を指す。オリジナルは人間じゃない、愛玩動物だな」
「……猫」

絶滅したとされる猫と聞いて、カナトはピンときた。
ネコマタでしか使えない理由がある。

「分かりました。父上、私は今日、この瞬間から絶滅したとされる猫を復活させ、イリス粒子の力で人とします。猫から生まれたネコマタと言う文化を取り戻す為に……」
「ほう……」
「かつて存在した猫は、現在でも形をかえこの世界の人々に愛されている。それが人となることは、この世界にとっても有益であり、天界の技術誇示にもなるのでは?」

ウォーレスハイムの沈黙にカナトは手ごたえを感じた。
父が渋るのが、自分の唯のわがままに過ぎないものだとしたら、協力におけるメリットを掲示すれば良い。

「30点だなぁ……」
「さん……」
「まぁいい線はいってるが、全く足りないぜ。そもそもあんまり知れて欲しくない技術だからな」
「そ、そうですか……」
「いいか、カナト。イリス武器は兵器だ。おまえにとっては人かも知れないが、あれは武器にするために開発されたもんだ。おまえは見た事ないかも知れないが、一機あるだけで街一個滅ぼしかねない威力があるな」
「……」
「そんな兵器の技術を安易に別の場所に投げる事は、未だにいがみ合ってるアクロニアじゃぁ、火に油ぐようなもんだ。すぐには無理だよ」
「では何故、そんなものをキリヤナギに……」
「必要なのさ。それ以外ないだろ」

カナトの中に悪寒が走った。
この平和な世界にそんな強大な兵器がどこに必要なのか。
今の知識だけでは全く見当もつかない。

「けどまぁ、人口が増えるのはたしかにメリットではあるぜ。そこだけ30点な」
「そ、そうですか……」
「理由はわかるかい?」
「エミル界の人口が増えることは、冥界からの侵略者に対しての戦力が増加すると共に、ビジネス面における交易の発展につながる……?」
「なんで自信なくしてんだ? それは100点だぜ」

安心はしたが嬉しくはない。
逆に言えば、それしかメリットがないと思うと道は絶たれた気分になる。

「イリス武器のソースは渡せないが、そうだな。俺がこの前、おまえに打ち直したルナ・ワーウルフの元ソースをやるから、あとは自分で友達と組め。おまえはミカエル程、頭はぶっ飛んでねぇから人間を出力するのは無理だろ」

けなされたのか褒められたのかわからなくなり、カナトはひどいストレスを感じた。
懐かしくて余計に苛立つ。

「父上。ルナの管理コードを頂けるならあとはこちらで……」
「だぁめ。まだテメェには早い。キリヤナギの面倒を見れるようになってからまたいいな」

聞かなければよかったと余計に後悔した。
しかし30点の妥協点なら受け入れるしかないか。
送られてきたソースコードを確認し、まずカナトはその膨大な量に息を飲む。
これは直ぐにすむ作業ではない。

「つーかなんで幽霊なんて救おうとしてんだ? お前見えないだろ?」
「その為に自分の生命を犠牲にしようとする友人がおります、放置すれば共倒れになると……」
「……意地はってんのか。なるほどな」

父の声のトーンが変わり、カナトは不思議に思ったが、今は考えている余裕はない。
マーキッシュの生命力がどこまで持つか分からないのだ。やるしかない。

「それでは父上、お忙しい中失礼しました」
「おぅ、ソースは使ったら消せよ」

言われるまでもない。
カナトはその場からすぐにスィーの元へ戻り、寄越されたソースコードの解析を始める事にした。
自宅に戻り、スィーの持ち込んだノート型の端末を数台広げ、本を広げながら開発を始める。
流石にスィーは早いが、カナトの理解速度が追いつかず、時間がとても足りない。
勉強はしていたが、慣れが追いついていないのだ。
気疲れにやられ、カナトがベッドで休んでいると、ナビゲーションデバイスに先程のウォーレスハイムからメールが届いていた。
本文もなくテキストの添付ファイルだけのそれを開くと、ロアのソースコードに指示のアドバイスが書き込まれたもので、
カナトは思わず父に通信を飛ばしたが、彼は結局通信には出てくれず、カナトとスィーは、2人で読み解かれたそれの再開発を始める。
その間でゆっこは一人マーキッシュの病室に残り、ずっと彼の横へと寄り添っていた。

「カナト」

再開発をはじめ一日が経過し、本を読みながら休憩しているカナトへ、ジンが名前を呼んだ。
複雑な顔をするジンは、昨日からせわしなく動くカナトに対し何もできない事に温度差を感じているのだ。
何もできないわけじゃない。
しかし、開発に至ってはスィーのように理解が追いつかなければ介入しても足を引っ張るだけだ。
だからこそカナトは、ジンに何も説明しなかった。

「……おまえ大丈夫なの?」
「平気だ。このペースなら明日にはできる」
「そうじゃなくてさ……」
「……?」
「カナトのやりたい事っていうのは、分かる。でもそれで……無理するのは何か違うんじゃね?」

ジンなりの心配か、考えがまとまっていないようにも感じるのは気のせいでは無さそうだ。
やめてほしいとは言えず、かといって無茶をしろとも言いたくはない複雑な言葉。
外野から見ればそうだろう。
救えるかも知れない僅かな可能性を模索する中で、それを否定する事は裏切りにも等しいからだ。
カナトは少し考えた。
ジンがあえて声をかけてきたのは、何も出来ない心配からだとすれば、自ずと返答は決まってくる。

「何かしたいか?」
「へ、そ、そりゃ、なんか出来るなら……」
「なら、ジンはプログラムについて、どこまで知っている?」
「えーと、ナビゲーションデバイスを動かすための……なんかだろ」
「そうだな。文字列と言えばいいが、プログラムとはあくまで0と1で形成される機械語を人が読める形に翻訳したものだと思えばいい」
「機械語……?翻訳……?」
「0は0で1は1。スイッチのオンとオフしかないと言えばいいか、機械は0と1の並び、組み合わせによって信号をやりとりしているんだ」
「……???」
「つ、つまり旗上げ体操で、赤を一度あげれば"あ"を意味するとするなら、赤を上げてから下げる動作は"い"と意味するようなイメージだ」
「あげる?下げる?? 旗上げなら白はどうなるんだよ」

だめだ。
カナトにすらうまい解説方法が出てこない。
理解を得るのが難しいと判断し飛ばすことにした。

「機械語は我々人間には理解しにくい。これを人が理解しやすい形にしたものが、プログラム言語になる。言わばデバイス用の言葉だな。それを書いて、コンピュータに再翻訳"コンパイル"をする事で、書かれた命令が実行される」
「……」

話すこちらも悲しくなる。
ジンに開発を持ちかけたのが悪いと考えなおし、カナトは別の事を考えた。
無理に新しいことを強いるよりも得意な事はあるだろうか。

「開発においてはそんなイメージだが、貴様はあんまり向いてはいなさそうだな」
「……さっぱりわかんねぇ」
「ならこちらは構わず、聖堂にいるゆっこ殿を支えてみたらどうだ? 昨日からずっと横についていると聞いている」
「……そっか」
「差し入れでも作るか」
「へ……」
「気分転換をしたい」

カナトのいつもの笑みに、ジンは少し安心した。
疲れはあるが、普段の空気に戻り、カナトはジンを送り出した後、仮眠から起きてきたスィーと共に開発を再開する。

自宅はルナに任せ、1人聖堂に訪れたジンはマーキッシュの病室にいるゆっこの背中を見て何を話すべきか悩んだ。
昨日とはうってかわり、人がおらず横になるマーキッシュとゆっこの2人。
もう何時間そうしているのだろう。
タイミングを考え扉の前で考えていると突然後ろから肩を叩かれた。

「何してるの?」
「ゲッカ……」

出来るだけ小声にして、ジンは現れた月光花に振り返った。
思えば彼女の職場で、会わないのが無理な話か。

「1人? お見舞い?」
「うん、まぁ、カナトからだけど……」
「カナトくん、開発するって言ってたけど大丈夫なの?」
「大丈夫……とは言ってたぜ? よくわかんねえけど」
「どっちよ……」

説明がひどく面倒で、ジンは思わず目をそらした。

「ゆっこさん、昨日からずっとなの。だから私も心配で……」
「……そっか」
「私も点滴を変えに来たし、アンタがいるならいいわ、ついてきて」
「お、おう」

促されるままに、月光花はゆっこに挨拶をしてマーキッシュの病室へ入ってゆく。
後ろに続いたジンは、ゆっこと目が合い思わず視線を逸らされてしまった。

「ど、どうも……」
「こんにちは、昨日は、あのありがとうございました……」
「えっと、こちらこそ……」

何を話せばいいかわからない。
作業をする月光花の視線が痛い。

「私……迷惑かけてばっかりで……」
「それはないと、思うけど、……ゆっこちゃんは昨日からずっと?」
「はい、姉さん達とお話ししていました……」
「幽霊の……?」
「はい、……本当にマーキッシュ君と出会って、色んな事がありました。姉妹をさがしたり、冒険もしたり、姉妹以外のネコマタにも出会ったり……」
「私の姉妹全員が揃った時は本当に夢のようで、幸せで胸がいっぱいだったんです、でも……マーキッシュ君はその幸せの代わりにずっと全てを背負って居てくれて……私はそれにずっと、ずっと気づかなかった……。聖堂の方々はみんなすごいとよく持っていると言っていて、それだけの重さを、私は……」

泣き出してしまったゆっこに、月光花はそっと寄り添う。
マーキッシュの強情な性格は少し話しただけでも分かるぐらいに強いものだ。
だからきっと、彼女に心配を掛けさせないために、ずっと黙っていたのもわかる。彼女の幸せを自身のせいで壊したくない意地もあったのかもしれない。

「俺はマーキッシュさんじゃねぇから、よくわかんねえけど……」
「……?」
「マーキッシュさんは唯、あんまりかっこ悪いところを、女の子に見せたくなかったんじゃねぇかな。ずっと幸せにしてるゆっこちゃんを見ていたくて、我慢してたんじゃないかなって……」
「……」
「だからあんまり、悲しんでたら……ずっと我慢してたのにマーキッシュさんが報われないっつーか……」

「あんたねぇ……」
「え?! な、何だよ……」

月光花の視線が怖くなり、ジンは言葉をやめた。
悲しむなとは言わない。しかし、罪悪感は持ってほしくない。
言いたいことは分かるが、伝わるのだろうか。

「ごめん。ゆっこちゃん、これカナトから差し入れ。あいつ頑張ってるから、俺は何もできないけど!」
「あっ、逃げる気!?」
「逃げねぇよ! 用事思い出しただけだから、また来る!」

言いたい事を言っただけなのに、何故こんなにも恥ずかしいのか。
半端な気持ちで来るべきではなかった。
ひどく後悔するジンの横で、呆れた月光花だったが少し表情のほぐれたゆっこがおり、彼女は少し安心した。

「月光花さん」
「どうかした?」
「男の子って難しいですね」

苦笑する彼女は思い当たる節があっだのだろうか。
カナトの差し入れは小さな一口サイズのパンケーキで、ゆっこはマーキッシュの横でそれを口に含む。

@

「おはようございます」

お昼時が近いその日に、スィーはジンと共に病室を訪れた。
あらかじめ連絡をされたその場には、月光花にヴィネーラ、チャドウィッグ、セオ、リラ、カズヒもいる。

「お集まり頂いてありがとうございます。今回やるのはイリス粒子からのネコマタの出力ですが、僕だけではちょっと力不足なのでお願いすることにしました」

「さっさと祓えばいいものを……回りくどいですね」
「チャド、助かる人が増えるならそれに越したことはない。そのために来たんだろう?」

「すみません。ありがとうございます。チャドさん、リラさん」
「私は大方話は聞いていますが……イリス粒子での出力ならば魔力自体不要に思えたのですが……」
「セオさん……はい、出力すること自体に魔力は不要です。しかし、この本を介してレンダリングするエネルギーが別に必要で……今回、ゆっこさんの姉妹を全員となれば、1人につき1人分のエネルギーは確実に必要なんです」
「なるほど……」

「しゅつりょく? レンダリング……?ですか?」
「出力は実際に書き出すこと、レンダリングは演算処理の事です」

「カズヒ、また帰ったら解説します。今は聞いていなさい」
「師匠……わかりました」

「スィー君、具体的にはどうすればいいのかしら?」
「ヴィネーラさんもあまり難しくは考えず、本の前に立ってに支援魔法を使い続けて貰えればオッケーです。あとは自動で魔力が吸収されて出力されます。しかしやり過ぎるとご自身が危険なのである程度で交代して下さい」

「あの……スィー君。カナト君は? ジンはいるのに」
「カナトさんは、昨日夜通し開発されていてご自宅で寝ておられます起きたらこちらに来ると書き置きがありました」
「そっか、わかった。私もやってみるね」

「お願いします! じゃあ月光花さんからお願いしても構いませんか?」
「え"、私から?」
「すみません。本当は僕がやるべきなんでしょうけど、初めはどうしても起動に不具合があってはいけないので……」

注がれる視線に顔を真っ赤にする月光花だが、幹事の頼みとあらば、仕方ない。
深呼吸した月光花は覚悟を決めたようだった。

「あの……私は……」

小さな声で前に出て来たのは、隅っこに座っていたゆっこだった。
人が増えて来た病室で、落ち着かない彼女も何かしたい衝動に駆られているらしい。

「ゆっこさんは、出力に参加するとご自身の存在概念に影響する可能性があります。なので……、ご家族がちゃんとマーキッシュさんから独立できるように、説得して下さい。イリス粒子はなによりも当事者の意思がなければ出力が不可能なので……」
「……! わかりました。やります」

力のこもった返答にスィーもまた肩に力が入る。
魔方陣が書かれたシートを広げて、マーキッシュの上にもリンク用の魔方陣と、もう一枚出力先の陣を設置。魔力を注いで起動させた。

「魔力流入OK、起動確認、出力先リンク完了。対象エネルギー体の容量は……」

そこまで述べたあと、スィーの言葉が止まった。
バーチャルディスプレイを広げ、割り出された数値に絶句している。

「スィーさん、どうしたの……」
「全く……たりない」
「え……」
「ジンさん、総隊長に連絡してください。足りません魔力が」
「えっと……」
「一人当たりの出力に必要な魔力量を100とします。この数値は一般的な魔法使いさんが、少し疲れる程度のものとして下さい、でも……マーキッシュさんのエネルギー体は……」

指を刺された数値にジンもまた言葉が消えた。

「1600……」
「は……」

先に声を上げたのはチャドウィックだった。
囲う彼らも言葉がなく、黙ってしまう。

「冗談じゃない。この聖堂から10名以上もここに付き合わされれば、他の業務にも支障がでる。現実的ではない」
「チャド! 」

「わかっています。だから……」
「俺、ちょっと総隊長に連絡してくる」
「……お願いします」

「また身内でだらだらと……、これ以上他の所から人材を割いて、肝心な所に目がいかないのはウンザリだ!」
「待つんだチャド! 彼らは間違ってはいない。これは見えない問題じゃないんだ。僕は、見えない問題が解決されない矛盾を悔いるなら、まず目の前の問題を解決すべきだと思う……お前もそうじゃないのか?」
「く……、少し頭を冷やします。好きにしてください」

病室を出て行くチャドウィックを、皆が揃って見送っていく。
チャドウィックの言葉は間違っていない。
単純計算で16人のスペルユーザーが必要なのだ。片っ端から当たるしかない。

「兎に角、マーキッシュさんの負担を減らすためにも、出力を始めます。月光花さん初めましょう」
「はい!」

@

カナトは眠っていた。
夢も見ずにうつ伏せで、暖かい布団に包まれて眠っていた。
ナビゲーションデバイスも、リビングに置き去りにされ、起こされる気はさらさらなかった。
ただ足元で、狼のルナが主人の安眠を守る部屋。
そんな平和な部屋で、狼のルナは唐突にピンと耳を立てる。
主人しかいない自宅での物音は、リビングに放置されたナビゲーションデバイス。
ルナ・ワーウルフは、二回のテラスから飛び降りて、ナビゲーションデバイスをカナトの元へ運んだ。

「カナト、起きれるか?」

起きない。カナトの寝覚めが悪さはいつもの事だ。ルナは狼になり、ゆっくりとカナトにのしかかる。
途端息苦しくなってカナトが唸り初めた。

「おも"い……」

この状態で吠えれば起きる。
ようやく寝返りをうったカナトに、ルナは人型へ戻ると枕元のデバイスを差し出した。

「ジンから着信が来ている」

受け取って画面を確認すると、たしかに着信歴が表示されている。
しぶしぶ起き上がってかけ直すと、待っていたのかすぐに相手がでた。

@

「起きた?」
「"眠い……"」

そうだろうな。
眠そうな声は毎日聴いているから分かる。
キリヤナギに連絡を入れた後、ジンは迷わずにカナトにも連絡を飛ばした。
キリヤナギに任せれば事足りると慢心していたが、案件の規模的に無理があるとも濁されたからだ。
部隊絡みで一声を上げれば確かにすぐに集まる人数ではあるが、マーキッシュとキリヤナギの微妙な溝と、本人の意地との兼ね合いで派遣出来るのは騎士組や、ランカー達に留まるとも告げられた。
始めはあんまりかとも思ったが、2人の間にある溝をきいたジンは何も言えず、ジンも人集めに人力することになる。

「"不具合でも、でた?"」
「いや、魔法は順調みたいだけど、魔力足りないみたいで……」
「"魔力……? スィーの想定なら5人いれば大概は何とかなるとは……"」
「それが、10人位足りないみたいで、お前アテない?」

カナトが黙った。
10と聞いて考えているのか、聞いた言葉を処理しているのかわからない為、ジンは気長に返答をまつ。

「"は……"」

後者だった。
一気に目が覚めたのか、低かった声のトーンがすみわたる。

「"意味がわからない"」
「俺のがわからねぇよ。ボケてる暇ないし……」
「"10人?"」
「えっと16人分?」
「"そんな人数を想定して作ってはいない……"」
「とりあえず、もう初めてるし、お前の知り合いでどうにかしてくれ」
「"母上は無理だ。リフウのみに声をかける"」
「じゃあそれで、俺はランカーを当たるし他は任せた」

一度通信を切って、ジンはアドレス帳を一覧するが、名前はあっても頼める人がいない。
どうすべきか悩んでいると、マーキッシュの病室から白い光が漏れ出しているのが確認できた。
急いで見に行くと、魔法を使う月光花と足元から華奢な少女が少しづつ形を帯びて行く影がある。
足、スカート、白い肌、大きな目に、頭には耳が付いていた。
その場に現れた緑の少女は自身の体がある事に戸惑いをみせ、また注がれている視線に顔を真っ赤にする。

「緑!!」

抱きついたゆっこに緑と呼ばれた少女は、さらに戸惑うが、目を潤ませて二人は泣き出してしまった。
まずは1人目。

「ひとまず成功です。よかった……」
「ありがとうございます……!」
「まだ油断出来ません。マーキッシュさんの為にも、次はヴィネーラさん。お願いします」

「はい」
「月光花さんは、お疲れでしょう……少しお休み下さい」
「私はまだ大丈夫……だけど」
「気疲れは後から来ますから」
「スィーさん……ありがとう」

人が増える気配を感じ、月光花が部屋の外に出ると、様子をうかがっていたジンと鉢合わせする。
このタイミングで顔を合わせても何を話せばいいかわからない。

「何? 目を逸らして。何か後ろめたい事でもあるの?」
「ねぇよ! 」
「聖堂で叫ばないの」

子供か。しかし月光花は正しい。
壁際のベンチに座り再びアドレス帳を確認していると、月光花が横に座ってきた。

「平気なのか……?」
「うーん……確かにちょっと疲れた。でも普段から訓練はしてるから……」

どんな訓練だろうと思うが、ジンも一応は続けている。
同じではないにしても、彼女にあったものならそれでいい。
しかしそれよりもスペルユーザーの友人に、アテが全くないのが問題だ。
いっそ昔ナンパした女性にも声をかけるべきかと悩んだとき、ジンは唐突に肩に重みを感じた。
優しい香りが漂う青い髪。体温を感じるのは寄りかかってきた月光花だった。

「ごめん、ジン。ちょっと寝る」
「え"……」

返答をかける暇もなく。
月光花は小さく寝息を立て始めてしまった。
どうしようか戸惑っていると、病室からヴィネーラがでてくる。

「あらあら、お疲れ様」
「あ、あの……」
「いま掛けるもの持ってきてあげますね」

ヴィネーラは何も問わず、月光花に毛布を掛け持ち場に戻ってゆく。

@

その後も作業は続き、リラ、セオ、カズヒ、ジンに呼ばれたコトラ、ぬえと、皆がマーキッシュのネコマタの出力に協力してくれた。
7人目の出力が終わり、流石にスィーの表情にも疲れが見え始める。

「スィー君、大丈夫かい?」
「リラさん、すみません。ちょっと維持がきつくて……」
「僕が変われたらいいんだけど……」
「読める方じゃないと、少し難しいかもしれません。でももうすぐ半分なので、頑張ります……!」

「全く本当に物好きですね……」
「チャド……」

疲れを見せるスィーを見ていたかのように、チャドウィッグは再び姿をみせた。
人型になったネコマタ達を見据え、再びスィーと向き合う。

「そもそも、貴方はそのドミニオンとは無関係のはず……あのど天然総隊長のわがままに付き合わされて、大変ですね」
「……チャドさん。確かにこれは、隊長の意思でもあります。でもこれは、隊長の意思でもあり、僕の意思でもある、僕がやりたいと思うことが、隊長の意思である事に違いはありません」
「よくできた詭弁だ。さぞかし苦労が絶えないのでしょう……」
「とんでもありません。僕は、キリヤナギ総隊長の親衛隊の一人。契約の時から、僕の全ては隊長の全てです。それが揺らぐことはありません」
「私には到底理解しがたい考えです。決して案入れない平行線。これからも交えることはないでしょう……」

言葉はここで終わるかに思えた。

「だが、平行線であっても、人を救いたいと言う意思は同じ……」

病室の中央へ立ったチャドは、懐から伸縮式の杖を取り出し魔法の詠唱に入った。
部屋の敷地のギリギリにまで呼び出された魔方陣は、その場にいた全ての人々へ、安らぎを与える。

「"サルベイジョン!"」

魔力放出により疲弊した彼らへ、魔力が戻ってくる。またスィーも疲労感が消えて体が軽くなっていくのがわかった。

「私の力を使わないのですか?」

スィーがハッとして、急いで魔方陣を発動させると、一瞬で一人のネコマタが出力され、さらにもう一人、深緑色のワンピースのネコマタが、降り立った。

「2人……!?」
「……思ったよりも応えますね」
「当たり前です、チャドさん……無理されないで下さい」
「貴方に言われたくないですよ」

後ろでリラが小さくため息をついて、少し疲れた表情をみせるチャドを見守っていた。
ネコマタが半分を超えてようやくマーキッシュの容態に変化が見えてくる。
浅かった息が戻り、顔色にも心なしか力が戻ってきていた。
しかし、現時点で呼び出したスペルユーザー達はみな作業を終えてしまった為、
カナトとジンの2人が人を集めるまでは、作業が止まる事になる。
自分自身のアテはあるだろうかと、記憶を辿り始めた時、廊下から人が騒つく気配を感じる。
ゆっくりと静まり返るその空気から現れたのは、つばの長い麦わら帽子を被った真っ白なワンピースの女性だった。

「ご機嫌よう、お久しぶりです。チャド室長。マーキッシュさんのお部屋はこちらですか?」
「貴方は……」

「リフウ!」

遅れて駆け込んで来たカナトに、リフウと呼ばれた女性は当たり前のように振り返った。
長い金髪がふわりと揺れて、優しい香りが漂う。

「一度私の自宅によって欲しいと言っただろう……?」
「あら、だけど急がないと危ないと聞いていたし、先に様子を見に来ようと思って」
「私は後回しか……」

間違ってはいない。
間違ってはいないが、少し悲しい気持ちに駆られる。
昼に起きたカナトは、急いで身支度を整えて実家のリフウへと通信を飛ばした。
事情を話すと彼女らしく快く応じてはくれた為、実家まで迎えに行こうとしたのだが、
彼女は手間だからと意地を張り、妥協して待ち合わせにしたにも関わらず、何故か聖堂に直行した。

「カナトさん、リフウさん……」
「出遅れて悪いなスィー。操作は私が変わるので、横で休んでくれ」
「ありがとうございます。一応現時点では9名。のこりは700でしょうか」
「リフウで600と考えても、まだ足りないか……」

「大丈夫ですよ。気にせず始めましょう」

リフウの笑みにカナトは何故か嫌な予感を得た。
来る前にメッセージツールで大方説明はしたが、それでも要領がよすぎるからだ。
しかし、疑っても仕方がない為、カナトは合図をして魔法陣を起動させる。

小声で詠唱をする彼女は普段通りに魔法を使っているようにも見えたが、数値に換算すると倍の数値が出ていて、カナトは1人首を傾げた。
始めは彼女個人の才能の数値かとも考えたが、そもそもこの100という数値は、システム上の人間に対して割り当てられた数値だ。
今回はあまり期間に余裕がなかっため、各個人の魔力の計算の導入は諦め、ある一定量に到達した段階で一度停止するように組み、停止した段階で、余裕があれば次に持続できるように組んだ。
この一定量もかなり大雑把で、一応ウェブのウァテス系の魔法"ヒーリング"に必要な魔力量から、スィーが割り出した人一人当たりに必要なエネルギーを適当にあてたに過ぎない。
つまりこのシステムの基本は、魔法"ヒーリング"を5分間使い続ければ、イリス粒子の出力に必要な魔力を補えるだろうと言う推論からのものであり、人が1人なら、才能が有ろうが無かろうが100としか表示されない筈だ。
それが今は何故か200と表示されている。
どこかで組み違えたか、バグなら早い目に消したいとは思ったが、再びリフウを見たとき彼女が胸のネックレスを大事そうに握っているのが分かった。

まさか……。

「スィー、午前中にこれを運用して不具合はなかったか?」
「特には………ソースが大雑把なので不安はありましたけど、その分動作には余計なラグがないのでスムーズでした」

システムに問題はない。
だが、自分のこの手の勘には何故か根拠のない自信ある。

「スィー」
「はい、なんですか?」
「リフウに憑依者はいるか?」

スィーは言われてから、自身のスキャニングを使ってリフウを確認した。
すると胸アクセサリーに、もう1人誰かが憑依している。

「います。カナトさん、なんで分かったんですか……」
「いや……勘だ。たまたまだが……」

ふとシステムをみると、ネコマタがゆっくりと形を見せ、さらにもう1人がゆっくりと地面に降り立った。
この時点で10人を超えて病室には収まり切らなくなってきている。
カナトはゆっこに、ネコマタ達を庭へ誘導するように頼み、自身はリフウの元へ向かった。

「わざわざ助かった。ありがとう」
「こちらこそ、私に出来る事があって、嬉しかった」
「そうか、それは良かったが……母上もおられるのか?」
「え"」

リフウの胸アクセサリーが光を放ち、アクセサリーからカジュアルなワンピースに身を包む女性が姿をみせた。
長い髪を束ね肩に流す彼女は、リフウの姉であり、カナトの血の繋がらない母、シャロンだ。

「さすがはカナト、勘が鋭いでね。我が息子ながら感心です」
「私の組んだソースに2人分の数値が出ていただけのこと、リフウだけならまだしも……」
「あらカナト、母は心配なのです。たまには自分の目で貴方の友人に会いたいと思っただけですよ」
「ただ面白そうだから遊びに来たようにしか聞こえません」

執務をほって何をしているとも言いたいが、今は充分有難い。
これで大半のネコマタの出力は終わったか。

「残り容量は推定で400前後ですね。単純計算であと4人ですが……」
「こちらのアテが、あと1人いる。もうすぐこられる頃だろう……」

「スィーお久しぶりです。お元気そうでなによりですわ」
「こちらこそお久しぶりです」
「また我が家のカナトがわがままを言っていと聞いて、様子を見に来ましたが、お友達の命がかかっているなら、気持ちは分かりますわ」

「母上、友人達の前なのでどうかご勘弁を……」
「あら、むしろ私からもお友達にお礼を言わせて下さいな。フィランソロ当主、女王シャロンとして、息子のわがままを受け入れて下さり心から感謝致します、粗末な息子ですが、これからも仲良くして下さいね」

恥ずかしくて言葉もでない。
授業参観のような空気に、穴があれば入りたい気分だ。その後リフウのナビゲーションデバイスに、専属の執事、エドワーズから連絡があり、彼女達は早々にカナトの実家へと帰って行ったが、若すぎる女性のまさかの母親発言に、周りの目線が痛い。
開き直るにもこのショックは大きすぎる。

「か、カナトさん。元気出して下さい……もう少しですから……」

スィーの言う通りだ今は凹んでいる暇はない。
カナトはその1人を待つ間、システムのメンテナンスチェックを始めた。
徐々に回復しつつあるマーキッシュをヴィネーラは細やかに見てくれてはいるが、来たばかりの時よりも容態は落ち着いてきているらしい。
スィーの推論によると、ネコマタの吸収するエネルギーにマーキッシュの生命力が上回れば全てを出力しなくとも一応活動はできるようだが、

「それは最善とは言い難いですね。人間の生命力は単なる生きる力ではありません。活動力、免疫力、精神力、体力、全てを混合し生命力と呼びます。
慢心してこのまま放置すれば助かるものも助からない可能性がある。祓うか出すかのどちらかにしぼるべきです」

チャドウィッグの言う通り、生きるか死ぬかの問題に妥協はゆるされない。
カナトもまたこのまま放置する気はさらさらないが、あと三人をどうするか……。
カナトまた再びアドレス帳の一覧を広げる。

@

どのくらい経っただろうか、
肩で眠ってしまった月光花はまだ目覚めない。
むしろ更に息が深くなり、熟睡している。
夜更かしでもしていたのだろうか、そもそも疲れていたのだろうか。
分からないが、カナトの様子が気になる。
先程ネコマタらしき少女達がぞろぞろと病室をでていき、作業自体は順調なのだろうが、まだ時々光がちらつくのを見ると終わっていないのか。
しかし、色々考えても今のジンに出来る事はない。
昨日のカナトの解説も全く理解出来なかったし、そもそも魔法がよくわからない。
普段から魔法を使う月光花が、ここまで疲れているのなら、ジン自身が何をしても力足らずなのはわかるからだ。
だから今は、何かを成し遂げた月光花の枕になるのが、向いているのかもしれない。

ジンは素直に、端末ゲームでも立ち上げようとした所。廊下から、見覚えのある黒のレザージャケットのドミニオンが見えた。
赤目の、左腰に剣を指す彼はジンを見つけ表情がゆるむ。
また、その腕をだく彼女もぱぁっと明るい表情をみせた。

@

束の間の休息に、朝から動いていたスィーは、ベンチへ横になり仮眠を始めていた。
元々交代で管理する予定で、カナトも変わるつもりだったが、リフウや知り合いに連絡していて時間がかなりズレてしまった。
すこし無理をさせてしまった分取り替えさなければならないが、カナトもまたアテがない。
いっそ酒場から人雇うべきかと考えたとき、入り口に黒服のドミニオンが姿をみせた。
頭にヘッドホンを付ける彼の傍らには、ドレスを着た少女も同行している。

「失礼ですが、マーキッシュさんの病室はこちらでしょうか?」
「はい、お久しぶりです。ティア嬢。ハルト殿」

「ご機嫌よう、カナトさん」
「この度は突然の呼び出しに応じて頂き、ありがとうございます」

「構わない。この方がネコマタの?」
「はい。概要は……」

「ハルくんから聞きました。あたしも猫は大好きだから助けたいって思って」
「ありがとうございます。ティア嬢のご協力があればマーキッシュ殿もきっと救われる。しかし、お体に多少の負荷が掛かるのも懸念されます、構いませんか?」

「その時は俺も手を貸す、才能はないがティアの影響で多少は学んできた」
「安心致しました。是非よろしくお願い致します」

「ハルくん、ありがとう!」

そうしてティアはハルトに手を引かれ、魔法陣の上へと立った。
光りだすその魔力におされ、高い声の歌が響き渡る。
音の響きが癒しの波動になるのは、まさにこの事だろうか。
周りにいたチャドやリラ、外にいる月光花やジンもその歌に安らぎを得る。
そしてその歌に呼ばれたように、置かれた魔法陣から青の服を着たネコマタがゆっくりと形作られた。

「成功です」
「わぁ、かわいい……!」

ティアは思わずネコマタの手を取って、抱きつき感触を確かめた。
偽物ではなく、人として出力されている事にハルトもまた関心する。

「すごい技術だな……」
「難しい事はしていませんが、原案者は天才だと思います」

ティアは青服のネコマタがとても気に入ったようだった。
2人と一人で座り、ハルトとティアが休憩する中、ついにカナトとジンの2人のツテがなくなってしまう。
残りは300。
三人だが、誰がいるだろうか。
頭を抱え、どうにかスペルユーザー以外ででも、魔力を引き出せないか考え始めたとき、開けられていた病室の扉から全身黒ずくめのアークタイタニアが、ふと姿をみせた。
驚いたのは、黒服に黒羽。
三枚羽であり、カナトの父、ウォーレスハイムと同じ翼だからだ。

「朝からずっとここを騒がしているのは、あなた方か……」

だれだ?
カナトには初対面で、顔も名前もしらない。
挨拶をしなければと思ったが、座っていたチャドウィッグとセオが、じっと彼を見つめている。2人には、知り合いらしい。

「管理長……」

チャドウィッグの言葉に、カナトは息を飲んだ。
管理長。
聖堂で確固たる地位のあるチャドウィッグがそう述べることに、カナトは思わず身が固まる。
つまりこの黒服の男は……。

「君は、ここで何を?」
「……名乗らずに失礼を、私はアークタイタニア・カナトです。マーキッシュ殿の友人としてこの場におります」
「カナト……。キリヤナギの雇い主か。この場で何をしていた?」
「……マーキッシュ殿に取り付いたネコマタを、人に変えていました」
「ネコマタを人に?」
「祓いたくないというマーキッシュ殿の意思を尊重する為に……人を集めておりました。お騒がせして申し訳ございません……」
「……皆、頑なに話してくれなかったのはそれか。確かににわかには信じがたいが……」

彼は部屋を見渡し、ネコマタらしき姿の三人をみた。そして寝かされたマーキッシュの容態を確認する。

「良くはないが、悪くもない……」
「失礼でなければ、名前をお伺いしても構いませんか?」
「あぁ、そうだった。私はアークタイタニア・カーディナルのシュトラール。治安維持ウァテス部隊代表。この場、聖堂管理協議会の管理長だ。……カナト、キリヤナギから君の事は聞いている」
「キリヤナギから……」
「この手の話がある時は、いつもキリヤナギから連絡が来るが、今回はなかったので様子を見に来た……ネコマタは、私にも見えないので、祓うしかないと思っていたが……」
「……」
「カナトの方法で、ネコマタが消えず新たに人へ変わることが出来るなら、それはこの世界にとっての幸いだ」

思わぬ言葉に、カナトは肩の力が抜けるのを感じた。
自分達はただ他人に対して疑心暗鬼になっていただけなのかもしれない。

「しかし、管理長。彼らが開発した技術は些かリスクが大きく思えます」
「そうなのか……?」

「……一人の出力に、一人分の魔力エネルギーが必要です」
「……それは確かにコスパが悪いが、魔力が足りないならキリヤナギを連れてこればいいんじゃないか?」
「は……」
「あれはたしか、その手のことに関して電源コンセントのようなものだろう?」

チャドウィッグが言葉に困っている。
またカナトも言動の意味が分からず返す言葉が出てこない。
管理長曰くシュトラールは、自分のナビゲーションデバイスを取り出し、バーチャルディスプレイを通じてキリヤナギに通信を飛ばした。

「”シュトラールじゃん。どうしたの?”」
「キリヤナギ、ネコマタをどうにかしたいと、カナトがこちらに来ているんだが……」
「”知ってるけど……”」
「魔力が足りないらしいから、こっちに来て供給してやったらどうだ?」
「”へ……でもマーキッシュでしょ。僕嫌われてて……”」
「そうなのか……良く知らないが、お前はその手の人間が多いな」
「”シュトにいわれたくないんだけど……それに、僕がいってもマーキッシュが怒るだけだろうし……?”」
「本人の意思どうでもいい。生死が関わるなら、生かす方が大切だ」
「”ごもっともだけど、……そういう君はもう協力したの?”」
「そんなわけがない」
「”そのタイミングでなんで連絡してくるの!? いつもの事だけど僕のことなんだとおもって……”」
「得意分野な上、話だけを聞いたらコントロールをする必要はないみたいだからな。適任じゃないか」
「”得意も何も、確かに魔力は多いほうかもしれないけど、そんな電源みたいな扱いやめてよ……”」
「違うのか?」
「”君ほどぼくのデリケートな問題にズカズカ入ってくるカーディナルはしらないよ!!”」

ひどい。いろんな意味でひどい。
むしろ笑いすら出てくるやり取りに、こらえるのに苦労する。

「いいか、キリヤナギ。ネコマタ一人に対して必要なランニングコストがスペルユーザーひとりなら、キリヤナギがいるだけで、ネコマタがいる分だけのコストが削減できる。これはとても大きい。ネコマタも救え、さらには一人の命も救うことができるんだ、これ以上の社会貢献はない」
「”コスパだけで僕を見ないでよ。それにいちいち僕に頼るよりもシュトが協力した方が丸く収まるよ、マーキッシュ的にも……”」
「それはそうだろうが、これがきっかけで関係が修復できることもあるんじゃないか?」
「”え……、そ、そうかな”」
「どんな人間かは知らないが、信頼を失っているなら、名誉挽回のいい機会だ」
「”……うーん”」

悩んでいる。
幸い、マーキッシュの容態はかなり安定しているため時間の余裕はかなりあるが、キリヤナギにとってシュトラールがどれほどの存在かというのも大体は理解できた。
しかし、毎度キリヤナギの返しは上手いと思うことはあるが、その理由があながち理解できて来た気がする。

「”……じゃあ、あとで様子だけみにいく”」

ちょろい……。
シュトラールはキリヤナギをよく理解していると、カナトは思った。

「来るならすぐ来てほしい……」
「”実は一昨日にカナトの家に行ってきたばっかりでさ、あんまり手助けできないと思う。魔法ほとんどでないし、だからシュトも手伝って”」
「……そうか、ならやれるだけやっておく」

あっさりと、シュトラールは通信を切ってしまった。
コメントすらできず固まっているカナトをみて、首を傾げる。

「キ、キリヤナギと仲がよろしいのですね……」
「付き合いだけは長いな……今更遠慮するものでもない。それよりも、人が必要だと……」
「はい」
「では久しぶりに本気を出そう……」

シュトラールは翼をたたみ。自身の足で、床へと足をつけた。するとその直後、床に収まりきらなかった巨大な魔方陣が、床、壁、天井にまで広がって光を放つ。
カナトもとっさにシステムを起動させると、莫大なエネルギー量で満たされ、彼が詠唱を始めるまでもなくレンダリング が始まる。
杖も振らず、動作もなく、紡がれる詠唱に、カナトは言葉が出ない。
周りに淡い青の光が舞い、溢れたエネルギーが霧散している。
そしてあっという間に一人が出力され、二人目に入った。
エネルギー供給率も下がらない。

「シュトラール殿、あまり無理は……」
「まだ始めてすらいない……」
「は……」

話している間に2人目が人型になり、バランスを崩した彼女は、尻餅をついた。
だか、その痛みも魔方陣のなかではすぐに消えて来く。
とんでもない力だ。
シュトラールにはこれだけで、2人分の魔力エネルギーがある事になる。

「"ゴスペル"」

青の光が金に変わり、周辺の空気が一気に変わった。
眠っていたスィーがめざめ、また消耗していたチャドウィッグも身体の疲れがとれた。
体のありとあらゆる不調が彼の魔法で治癒されきえてゆく。
そしてその詠唱が終わりかけたとき、マーキッシュの中の最後のネコマタが、光に包まれるなかで完成した。

「何故……」

わけがわからない。人間の所業ですらないと思う。
カナトが言葉を失うなか、休憩していたセオが後ろから肩を叩いた。

「びっくりした?」
「あ、あぁ、すごいお方だな……」
「部隊じゃ不動の要塞みたいにいわれてて、魔法での消耗より回復力がそれを上回ってるから出来る所業みたい、戦うのが苦手でめったに前には出てこないけど、彼がいれば心が折れるまで働かされるから、みんな一緒に行きたがらないんだよね……」

部隊事情はよく知らないが、大変そうだ。
しかし、消耗を回復力で元を取っているのも本来なら考えられない所業であり、いわば彼が1人居れば不屈の兵隊が完成する。
どちらにせよとんでもない事には変わりない。

「カナト、まだ必要か?」

シュトラールに声をかけられ、カナトが我に帰る。
1人で永久機関になりえた彼は、いつまでも魔法を使い続けられるのか、本当に恐れ入る。

「シュトラール殿。ありがとうございます」
「この程度でよかったのか……これは始めから私が来た方が良かった……か、いや、始めからキリヤナギの方が良かったな……」

どっちもどっちだ。
思いの外ゆるい人物で安心はしたが、突っ込んでいいものか悩んでしまう。

「……シュトラール殿は、ネコマタは見えないとお話されましたが、何故私の話を信じてくださったのですか?」
「……聖堂には、毎日色んな人々が負傷し、消耗して訪れる。その中には、目に見えない呪いや、原因不明のなかで苦しむ人々もいる……。ウァテス系の我々は、怪我等の外科的なものであるならば治癒できるが、病気や呪いに至っては原因が分からない限り、魔法での治癒は難しい。我々が直せないものの苦しみは本人にしかわからないのに、それを否定したくない」
「それは……」
「もちろん。私を騙しに来た人間もいたが、チャドウィッグを含めた皆が窓口となり、それもなくなった……今はとても助かっている」

「貴方は人を信じすぎます、もう少し疑ってかかることを覚えて下さい」
「……善処するが、今回は素直に伝えて欲しかったな。この為に10名前後のスペルユーザーが、投入されたと思うと……」

シュトラールのあまりに残念そうな表情に、カナトは罪悪感すら感じてくる。しかし、目標は全て達成した。
あとはマーキッシュの意識が戻るのを待つだけに思えたが、入り口から赤い物がちらついて、カナトは思わず口を噤ぐ。

壁を少しだけノックして顔をだしたのは、シュトラールに呼ばれたキリヤナギだ。

「こんにちは、人がいっぱいいる……」
「き、キリヤナギ」

「やっと来たか……遅かったな」
「とりあえず来たけど、何をすればいいの?」

「すまないキリヤナギ、もう全て終わった……」
「へ……」
「シュトラール殿が全て終わらせてくれた……」

……。

「さっきのは、私の分が終わっただけではなく……全てだった?」
「はい」

キリヤナギがひどく不満そうにシュトラールを睨んでいる。呼び出したのはシュトラールだ、カナトは悪くない。

「何人も必要だと聞いて本気を出したが、それも必要なかったか」

入り口にはグランジもいる。
漂う微妙な空気の中キリヤナギは眠っているマーキッシュに歩み寄り様子を確認した。

「もう大丈夫なの?」
「生命力が削がれなくなったからな、あとは本人の体力次第だろう。まだ若いので心配は無いと思う」
「そっか……よかった」

手違いがあったとは言え全てのネコマタが救われたのかと思うとカナトもホッと安堵した。
その後、来てもらった皆をジンと月光花が庭で送り、リラやセオ、カズヒも各々の持ち場へと戻っていく。
月光花とヴィネーラはマーキッシュの担当となり、またカナトとジンも一度自宅に戻る事にした。
賑やかだった病室に人気がなくなり、その場はゆっこと、キリヤナギとグランジのみが残される。

「キリヤナギさんは、どうして……?」
「僕はまた何も出来なかったから……皆が頑張ってくれたのを、ちゃんと説明したいだけだよ」
「……でも私、マーキッシュ君がキリヤナギさんとちゃんと話せるのが、想像できなくて……」
「……そっか。じゃあ代わりにお願いしてもいい?」
「ごめんなさい。私……」
「大丈夫。僕が迷惑なことをしてるだけだから……またね」

キリヤナギは赤マントを羽織り、未だ目覚めないマーキッシュの病室を後にした。

マーキッシュが目覚めたのは次の日の朝だった。
意識が戻った彼は、何年も聞こえていたネコマタの声が消えている事に衝撃を受けたが、
17人全員が見舞いにきて、更に衝撃を受けていた。
全てを見ていたゆっこと、試行錯誤していたカナトの話をきいて、マーキッシュは一人一人の自宅へと挨拶周りに来る。

「今回は、その……助かったぜ」
「私もマーキッシュ殿の意思に添えてよかった。その後のネコマタ達の程は?」
「流石に18人いたら喧しくて、数人はもう独立したいって言って出て行った。憑いてた時は消えたくないって弱音ばっか吐いてたのにな……」
「そうですか。寂しく思いますね」
「別に、ずっと耳元でにゃんにゃんうるさかったから、今はもう快適だぜ。サンキューな」

「幽霊って本当にみえるんすか? ゆっこちゃんが言ってたけど」
「取り憑かれた俺が言うのも可笑しいが、ネコマタはまだ信念とか意思が強い部類で、まだ見えやすい幽霊らしいぜ? 霊感って言ってもネコマタしか見えない奴が割と高い割合でいるんだってよ」
「へー」
「よくわかんねーけど、お前の思いついた方法すげーな。キリヤナギに話しても諦めるしかねぇって言われたのに」

「思いついたのは、キリヤナギがきっかけでもあり、私が開発できたのも彼に仕える騎士の方の助力があってこそでした。逆を言えば彼の部隊の協力がなければ成し得なかったでしょう」

バツの悪い表情をみせるマーキッシュに、ジンは思わず苦笑いをする。
関係的に複雑な気持ちはわかるからだ。

「あのさ、あいつ……結局どうだったんだよ」
「どう……とは?」
「正直、どうしたらいいかわかんねぇんだ。本人は心配してたとか、関わらないようにしてたとか言うけど……、その、お前の言う騎士、スィーだっけ? そいつにきいても、キリヤナギの意思だってさ……、何もしてないなら割り切れるはずなのに……節々にあいつの名前がチラついて、イライラすんだ……、助けられた筈なのにな」

ジンはマーキッシュの言葉を、感覚的に理解した。
何かのきっかけで信頼できなくなり、そこから絶縁した筈の相手が知らないところで自分を助けている。
自分は求めたつもりはない分、ありがた迷惑なのだ。

「それはマーキッシュさんの、判断次第ではあると思いますが……、キリヤナギは貴方にそう思われるであろうと協力を拒んでいました。だからこそ、管理長であるシュトラール氏に連絡はせず、我々の知り合いのみで貴方を救う為に動いた。結果的にかなり効率は落ちはしましたが、結局呼び出され、現場にきました。貴方を助けるつもりで……」
「そうかよ……」

「あのさ……、納得いかないならせめていいたいこと言ってみても……いいと思うんだけど……」
「……まぁ、そうだな。ケジメはつけねぇと」

思い切って口を入れたジンだが、マーキッシュの言葉に不穏な空気を感じる。
ケジメとは一体どんなケジメなのか。

「それじゃあこれからキリヤナギのとこに行くか」
「普段通りなら本日奴は自宅にいるでしょう。道はご存知で?」
「曖昧だけど、まぁなんとかなるだろ。あと……」
「?」

「ゆっこの姉妹は、みんなこのアクロポリスには一応居座るんだとさ見かけたらよろしく頼むわ」
「それはご安心下さい。私も顔を合わせるのを楽しみにしております」

マーキッシュはそう言ってカナトの自宅を後にする。
なにかを考えるまでも無く当たり前のようにアクロポリスの街を歩いた彼は、一度庭に戻り、得意の斧を携え、キリヤナギの自宅へと向かった。
見覚えのある屋敷、ランカーになった際、一度だけ訪れたことがある。
マーキッシュは少し遠回りしたが、無事キリヤナギの自宅へとたどり着いた。

迎えてくれた執事は、迎え入れてくれようとはしたが、マーキッシュは断り庭で待つと言って、キリヤナギの屋敷の庭で待つことになる。
貴族の屋敷にしては狭い庭だが、それでも馬で走れるほどの広さはある。
潔く地面に武器を下ろしてまっていると、
始めに姿を見せたのは、眼帯をした長身の男だった。
何か話すかと思えば、彼は屋敷の壁にもたれそのままなにかを待っているようだったが、足元からコウモリの陰があふれ、少女の姿をに形作る。
ツインの髪の彼女は、マーキッシュをみて不敵な笑みをこぼし、顔を隠すようにフードを被った。

「マーキッシュ!」

裏口から出てきたのは、私服だろうか。
簡単シャツに短パンだけを履いた、軽装のキリヤナギだった。
裏口から出てきた為靴ではなく、簡単なサンダルを履いている。
肩から武器をかけているのを確認したマーキッシュは、覚悟を決めた。

「どうしたの? 上がってくれた方がゆっくり話せるのに……」
「必要ねぇ……」
「な、何が……」

自身の身長と同じぐらいある斧を、マーキッシュは肩に担ぐ。
キリヤナギは経験の直感から、傍へと跳躍した。
途端マーキッシュの神速切りが空振りする。

「な、何……」
「ケジメだ」
「は!?」

今度は斧の重量を使い、上から振り下ろす。
重さを使った同作に、キリヤナギは後ろへ飛んでまた交わした。

「ま、ま、ま、まって! ちょっと!」
「うるせー!」

居合が来る。
受け止めて彼の動作を止めたいが、キリヤナギの武器はサーベルだ。斧なんて武器を受ければ、受けるまでもなく重さでおられてしまう。

ゆっくりとした斧の動作に、キリヤナギは軌道を予測して回避を続けるが、切り返しの手段が攻撃しかない。
サーベルを受けるプロテクターも盾もなければ、大怪我は免れないと思うと、キリヤナギはとても武器を抜けなかった。
しかも足元はサンダルで、滑りやすくうまく踏ん張りが効かない。
再び回避をしようとしとき、キリヤナギは地面の芝生に足を取られた。
しかし、マーキッシュは止まらない。
意を決してキリヤナギは唱えた。

「ルチフェロ」

キリヤナギの両手に、両刃の大剣が出現。
サンダルで踏ん張り、クロスさせて斧を受けた。
何もないところから現れた剣に、マーキッシュは一度後退する。

「変な魔法使いやがるな」.
「君が理不尽なだけでしょ! 戦いたいなら初めから言ってよ!」

見せたくない武器だったのに、ずるいと思う。
しかし、予測出来なかったのも悪いか。

「それがアレか? 俺をどうにかしたやつの武器は」
「……そうなの? よく知らないけど」
「カナトが、お前の言葉をヒントにしたって言ってたから、気になっただけだ」
「僕はよくしらないよ。だけどそれで、君が助かったなら、良かった」
「……!」
「まだやるなら、相手するけど……靴だけ履き替えていいかな……」
「もういい。……アレだ。……ありがとうな」
「……! 僕は何もしてないよ。久しぶりだし、良かったら中で話たいんだけど」

マーキッシュは少し悩んだようだった。
何を話せばいいかもわからないが、

「しゃあねぇな、15分だけだぞ」
「ありがとう、マーキッシュ!」

キリヤナギは武器を仕舞い、
マーキッシュを自宅へと招くのだった。

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本編 | 【2017-11-07(Tue) 00:00:00】 | Trackback(-) | Comments:(4)
コメント

こうして言葉を残すのは初めましてになるかと…
いつもお世話になっておりますyamimuiです。

一通りのお話を読ませて頂き、そして今回のお話。
ECOの世界観と、その世界観に関する考察。
どれも無知な自分では到底思い浮かばないスケールばかりで、頭を抱えながらも興奮しながら読ませて頂きました。
そして、今回のお話は特に登場人物が多いかと。
にも関わらず、1人1人の個性・役目・特徴などの多くの魅力が伝わり、賑やかで臨場感さえ味わえるお話だったな、と…。

細かく内容に触れ出すとかなりの長文になりそうなので抽象的に感想、となりましたが最後に…

もの凄く!!面白かったです!!!
2017-11-07 火 01:21:33 | URL | yamimui #- [ 編集]
丁寧なコメントありがとうございます!
大変幸せな感想を頂いて感無量です!
久しぶりの新キャラの登場でもあり、うまくなじめるかも不安ではありましたが、
楽しんで頂けたなら私も苦労した回がありました!
これからもマイペースで作品を作り続けることになりますが
是非よろしくお願いいたします!
2017-11-08 水 21:18:31 | URL | 詠羅P #- [ 編集]

ネコマタ爆誕で色んな仲が丸く収まったみたいでスッキリしてました(*´ω`*)
自分の中ではもうマーキッシュパパって印象ですw

人がいい雰囲気のシュトラール殿いいですね。きっと癒し系・・・!

また来ます!
2017-11-12 日 20:15:44 | URL | ゆくもん #- [ 編集]
ゆくもんさん
この度は、このような長いお話を読んで頂いてほんとうにありがとうございますw
お恥ずかしくはありますが、今回初めてネコマタを題材にしたお話を初めて掲載させていただきました。
どのように登場させるか大変試行錯誤を致しましたが、ゆくもんさんが楽しめていれば私も幸いです!

2017-11-14 火 21:33:33 | URL | 詠羅P #- [ 編集]
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