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(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

メイドおじさんの過去を振り返る話

出演:ハルカさん、クランジさん

あらすじ
普段通り酒場から討伐の依頼をうけたカナトとジンは、
マザードラゴを討伐するためにマイマイ島へと訪れていた。
久々の討伐の仕事に二人は慎重に敵を追い詰めはするものの、
ジンが油断した合間に敵に囲まれてしまう。
カナトと協力しなんとかその場をやりすごそうとはしたが、
対処をする前にジンは自らを”おじさん”と称する女性にであうのだった。

参考
ジンがスランプになる話


 

曇天が広がる小さな島。
生い茂る草むらは大の大人をすっぽり隠し、マイマイ島に現れた2人の冒険者を匿ってくれていた。
背中に光砲・エンジェルハイロゥを背負う冒険者、エミル・ガンナーのジンと、真上のバオバブの木の陰から覗く黒羽のアークタイタニア・ジョーカーのカナトは、騎士団が発注する定期的な討伐の仕事を受け、このマイマイ島へと足を運んだ。

「いねぇなぁ……」
「”上からも見えない。バオバブの木の陰にかくれているのかもな”」

ナビゲーションデバイスに繋いだヘッドホンに聴きなれた声が響く。
討伐対象は、マザードラゴだ。
マザードラゴは、このマイマイ島に住むワイルドドラゴ達を統率し、食料を求めて島の集落を襲いにくる為、騎士団が、定期的に治安維持部隊へ討伐依頼を出していたのだが、ここ最近、その仕事が冒険者へ解放されることになったのだ。

基本的にジンは、同居中のカナトに仕事の決定権の丸投げしているが、この依頼は数年前、リゼロッテがジンを鍛えてやると称し、ついでとして受けた事がある。
部隊員として準じたもので、勝手が分からず大概ひどい目にあったが、そんなクエストを再びカナトと受けることになったのも何かの運命か。
カナトにそんな仕事の話はしていない手前、不思議な気分にもなった。

「”いたぞ、ジン。森の中央付近だ”」

カナトの新しい言葉に、ジンは身を引き締める。
経験済みである分、気持ちには余裕があるが、マザードラゴは取り巻きを連れており、さらに周辺にも群れていることが多い。
数が多すぎてはさすがに対処しきれなくなる。
リゼロッテは、木の上から弾丸の雨を降らし大量に殲滅をしていたが、身軽な方であるにしても、真似できるほど器用ではないとジンは自覚していた。

「突っ込む?」
「”構わないが……、あまり自信がない”」

群れの相手に対し、ジョーカーのスキルは単体を中心とした小範囲に展開し、かつ敵の体力を吸収できることから、性質上の相性はいい。
しかし、ワイルドドラゴは腐っても恐竜の末裔だ、その強靭な皮膚は、相当な力がないと刃が食い込まない。
カナトの”自信がない”は、刃を叩き込む力が足りないかもしれないと言う意味だ。
しかし、ジンもライフルで、巨大なマザードラゴにダメージが通るとも限らない。
威力的には皮膚を貫通できるだろうが、肉の壁に阻まれればダメージもでないからだ。
かといって、ジンがヘイトを引き受けても地上だと逃げる場所が少なく無理がある。
できれば空に逃げ道を持つカナトに敵を引きつけてもらいたい。

「別にヘイトとってもくれれば何でもいいぜ?」
「”……そうか”」

敵の意識をカナトに寄せ、ジンが地上から討伐する。
破裂音が響く銃は、連打すると位置がバレやすい為、カナトに撹乱してもらえれば、より安全に的を討伐できる。この手は以前、リゼロッテがジンに見せた方法とほぼ同じだ。

「ヤバイと思ったら逃げろよ?」
「”……言われるまでもない”」

背中の長剣を抜き、カナトは空中で強化スキルを唱える。
”神の加護”と”ジョーカーディレイキャンセル”は、ジンにも恩恵がある便利なスキルだ。
カナトは、地上のジンが光砲・エンジンハイロゥを構えたのを確認すると、翼を垂直に立て、急降下する。
マザードラゴの首元へ叩きつけられた長剣は、鈍い音を立て、刃先から黒い光を発した。
途端、周辺のドラゴが雄叫びを上げはじめる。
殴られたマザードラゴも、後ろから来た衝撃から、前のめりにバランスを崩し倒れた。
頭部を押し込み、着地したカナトに向けて取り巻きが一斉に襲いかかる。
それを見たジンは、ボルトアクション式の光砲・エンジェルハイロゥに弾丸を装填。

カナトが地を蹴り飛び上がるのを確認した直後。引き金を引いた。

爆音。
射出された弾丸は、テンペスト効果で幾つにも分散。
その場にいたドラゴへと押し寄せ、側面にいたドラゴを一掃した。やはり貫通は無理か。
着弾した弾丸を確認したジンが一泊数えると、ドラゴに食い込んだ弾丸が破裂。
マイマイ島の一部に小規模な爆発が起こった。
そんな様子を空から静観していたカナトは、半ば言葉を失い状況を見下ろす。

「貴様この方法は誰に聞いた?」
「”へ? リゼさんだけど……”」

カナトは口をつぐみながら心から納得した。
任せておけと言って作戦には乗ったが、やり方が、派手すぎて流石に引く。

「人がいたらどうする!? 夜ならまだしも昼間だぞ?」
「”そ、そこ!? でも立ち入り制限はあったし”」

マザードラゴの発生で立ち入りは制限されているが、万が一のこともあるのに後先を考えない男だ。
しかしそれでも数は減っている。後で話せば問題ない。

「今はヘイトを取る。敵を落とすのに集中しろ」
「”わかってるよ!”」

カナトが再び急降下して、体を起こし始めたマザードラゴにちょっかいをかける。
初手で頭を殴り、ダメージが入ったのか動きが鈍く十分に余裕がある。
ジンは射程に入った取り巻きの足を打ち、移動しながら数を減らして行った。
だいたいの数を減らして、ジンもカナトもマザードラゴへターゲットを集中する。
しかし、硬い。
皮膚に弾力もあって刃は入らず、点の力でなければ突破ができない。
カナトが突きによる攻撃に切り替えても、振り回され危うくバランスを崩しかけた。

「無茶すんな!」
「”ち……”」

火を吹き暴れ始めたマザードラゴに、カナトはうまく接近できない。
まだ討伐に時間がかかると一息ついた手前、マザードラゴが再び雄叫びを上げた。
島全体に響き渡る遠吠えのような叫びに、空中のカナトが思わず耳を塞いだのがわかる。
何事かと思った直後だった。
ジンの後ろから床を揺らすような地鳴りが響き、ワイルドドラゴがぬっと姿を見せる。
とっさにハイロゥに投げ出し、前転してドラゴの突進回避した。
左脇の短銃をぬいたジンは、弾丸を装填。
最大威力で発砲すると、ドラゴは吹っ飛ばされバオバブの木に激突した。
しかし、地鳴りはまだ治らない。

「”ジン、敵が仲間を呼んでいる! その場で隠れろ”」
「無茶振りすんな!」

しかし、このままでは囲まれる。
茂みの先には、どこにも巨大な影がちらつき追い詰められているのが分かった。
一度撤退すべきかなやむが、投げ出したハイロゥが恋しい。
数分走り数匹の影と対峙して、ジンが再び撃ち抜こうとした時、脇から赤色に輝く弓矢が数匹のドラゴに突き立った。
そしてさらに追い討ちをかけるよう、風を纏う矢が放たれると、赤の矢を中心にスパークのような閃光がドラゴを襲う。
アーチャーの基本スキル。”ウィンドアロー”だ。

「横殴り失礼します!!」

高らかなさけび声に続き、現れたタイタニアの女性は、羽をモチーフとされた金の弓をもち、新たに現れたドラゴに火矢を立てて行く。
”イグナイツアロー”により、炎を付与されたドラゴ達は、たった一発の風属性の攻撃で沈んで行った。
山になるドラゴの残骸にジンは思わず茫然として、その場を見渡す。

「ごめんなさい。手間取られていたようなのでつい手を……」
「あ、その、すんません。ありがとうございます。助かり……ました」

真っ白な羽を持つ長身の女性だった。
年上を思わせる風貌と、膨よかな胸に細い腰。
白と黒をベースにしたメイド服の彼女は、安心したように微笑んで、乱れた髪を梳いた。

「”ジン! 大丈夫か!?”」

カナトの事を忘れていた。
心配しているのか焦った声色のカナトに、ジンは一度無事を伝え、討伐に戻る事を伝える。

「ご友人ですか?」
「えっと、そうっす。マザードラゴの討伐にきてて……」
「討伐……。じゃあ先ほどの爆発は……」
「俺です……」
「なるほど」

「”ジン! まだか!?”」

カナトがうるさい。
しかし、制限区域で人に出会うとは思わなかった。今度から気をつけたい。

「私でよろしければ、加勢させていただきましょうか?」
「へ?」
「ここでお会いしたのも何かのご縁ですから」
「えーっと……」

「”ジーン!!”」
「うるせぇ!! 今行くよ。切るぞ!!」

仕方がないので、ジンは女性と共に光砲・エンジェルハイロゥを回収して、2人でカナトのいる現場に戻った。
すると、倒した取り巻きが、仲間を呼ばれた事で復活しており、先程の討伐前に戻っている。
やり直しか……。うるさかったのも少し納得した。

「申し遅れました。私はアークタイタニア・ホークアイのハルカと申します。ラストネームとしてムラサメ。ハルカ・ムラサメです」
「俺はジンです。エミル・ガンナーのジン」
「二次職の方でしたか……」
「あぁ、いや。ホークアイって弓の人と混合されるんで……」
「なるほど、確かに」

「”ジーン……?”」

怒鳴ってカナトの元気がなくなっていた。
早くきて欲しかった気持も理解できたので後で謝ろう。
ジンはカナトに説明する前にハルカをパーティへ参加させると、大方の事情を話す。

「”了解致しました。ハルカ嬢、つかの間ですが、よろしくお願いします”」
「はい。どうぞお構いなく、私も興味本位で見にきただけですから」

興味本位で制限区域に足を踏み入れてくるのも大概だと思う。
しかし、冒険者なら案外珍しくないのかもしれない。

「ジン君、イリスカードは使っていますか?」
「え、使ってないっす」
「なら、風のイリスカードがありますので、使って下さい。火属性を付与します」

属性の相互関係は、アーチャーの訓練時代に習ったが、考えるのが面倒になり、銃に逃げた事もある。
自分で考えるのは難しいが、イリスカードを使うだけなら出来るか。
渡されたカードは市場でも価値が低い有り触れたカードだった。これなら気を使うまでもない。

「了解っす」
「頑張って倒して下さいね」

討伐はあくまて自分なのか。しかし、任されたなら全力を出そう。
ジンは言われた通り、渡されたカードで銃に風属性を付与し、ハルカの矢が立てられた敵を撃ち抜いてゆく。
火属性を纏ったドラゴが、風属性の弾丸を受ける事で、まるで感電するように倒れていった。
先程は頑張っても3発は必要だったのに、早い。

「いいセンスです」

女性に言われたら照れてしまう。
返す言葉に迷っていたら、狙いが少しズレた。やはり気を散らしてはいけない。
ハルカの付与により速いペースで敵が減り始める中、2人は再びマザードラゴへとターゲットを変えた。
カナトの攻撃によりかなり弱ってきてはいるが、油断はできない。

「一気にやりましょうか」

ハルカは腰から三本の火矢を抜き、”イグナイツアロー”を放つ。
マザードラゴの三ヶ所に突き立った火矢は、巨大なドラゴの全身に火属性をもたせた。

「「”ミラージュ!!”」」

同時に連写された矢と弾丸は、連鎖するように雷を放ち、マザードラゴを眩しいほどの閃光に包んだ。
一瞬で黒く煤けた敵は、その巨躯をゆっくりと横に倒す。

「お疲れ様です」

笑顔で言われて、ジンは思わず目をそらした。

その後降りてきたカナトと合流した3人は、騎士団にマザードラゴ討伐が完了した事を報告し、本土に戻るための定期便へ乗り込む事になる。
またハルカも、丁度アクロポリスへ戻る予定だったらしく、同じ便で戻る事になった。
そのまま座っているだけでもアクロポリスに着くが、一緒に乗り込むハルカを見て、ジンは小さく口を開く。

「ハルカさん。あの……よかったら、一緒に飯でもどうっすか?」
「貴様ついに見境いが……」
「ちげーよ! 助けてもらったんだよ!」

「食事ですか?」
「えっと……はい。なんつーか、お礼したくて」

「……確かに、褒賞を山分けするタイミングは欲しかった」
「気にされないで下さい。私も銃声が気になって見にきただけでしたから……」
「なら尚更、もう少しお時間を頂きたい」
「えっと……」
「私も貴方に興味が湧きました。今しばらく時間を共にしたく思っております」
「……そんな、やだ私なんてもうあなた達のお母さんぐらいの年なのに」

頰を染め、目をそらすハルカにカナトは微笑を崩さない。
これがカナトなりのナンパなのかと思うと、ジンは何故かストレスを感じた。

「わかりました。是非ご一緒させて下さい。私は、アークタイタニア・ホークアイのハルカです」
「アークタイタニア・ジョーカーのカナトです。ハルカ嬢、以後お見知りおきを」
「よろしくお願いします」

差し出された右手に、カナトはギョッとして退いた。
ハルカは握手のつもりなのだろうが、カナトは何故か二歩ほどさがる。

「カナト……君?」
「ご、誤解されぬよう。私は、その……」

直後。定期便が動き出し、着地していたカナトが前につんのめった。
バランスを崩しまま重心を支えきれず、ハルカへと倒れこむ。

「うわぁぁぁぁあ!!」

定期便に響き渡った悲鳴に、他の利用客の視線が向けられるのだった。

@

「女性恐怖症ですか……なるほど」

頭を抱えるカナトに、ジンはバツ悪そうにカナトを睨む。
気絶したのをみたジンがカナトを支えたものの、結局意識を飛ばしてしまい、定期便に常設されている簡易なカフェで、3人は軽食を取ることにした。
”辻リザレクション”でようやく復活したカナトは、手を組んでうつむき、どんよりとした空気を放っている。
事故とはいえ、女性に抱きつくなどジンからすれば複雑な気分にもなった。

「私としたことが大変失礼を……」
「気にされないで下さい。歩くのは大変なのは理解していますから……」

「……ダッセェ」

ジンの追い打ちが刺さったのか、さらに空気が重くなる。
しかし、このままの状態でアクロポリスまで帰るのも癪なので空気を変えていくか。

「ハルカさんは、何でマイマイ島にきてたんすか?」
「私は、神託の風穴の観光ですね。帰り道に銃声が聞こえたので、興味が湧いて……」
「それ、危ないっすよ。流れ弾に当たるかもしれないし……」
「いえ、むしろ流れ弾がありそうな爆音だったので、必要なら注意しようと……」

思わず息が詰まって返す言葉が消えた。
カナトの視線が痛い。

「すんません……」
「いえ、確かに銃では大変な相手でしたから、仕方ありません。余計なお世話でしたね」

苦笑いが尚更傷つく、討伐にイリスカードを利用したのも余計な被害を出さない為だろうか。
面倒とまでは思わないが、人を呼んでしまう可能性にジンは少し反省した。

「あの、少しいいですか?」
「……な、なんすか?」
「今更ではあるのですが、私の事は”ハルカ”ではなく、”おじさん”と呼んでください」

…….?
ジンは一瞬、何を言われたのかわからなかった。
言い間違いだろうと思い首をかしげ、しばらく待ったが、彼女は笑顔をみせ訂正する気配を見せない。

「……ハルカさんって、天然なんすね」
「えっ……」
「だって、女の子なのにおじさんって性別ちがうし」
「天然ではありません! 私は大真面目です!!」

机を叩き声を荒げたハルカに、二人は驚いて退いた。カナトも思わず顔を上げ、立ち上がってハルカを宥めに入る。

「ご、ごめんなさい。すみません。そうですね、確かにちょっと変ですから……」
「す、すんません……お、おじさん?」
「はい、私がハルカおじさんです」

二人は余計にわからない。
言動に迷うジンをみて、カナトが恐る恐る続けた。

「失礼ですが、何かの病から……でしょうか?」
「い、いえ、違うんです。私が単純にそう呼んでほしいだけで……」
「なら、差し支えなければ、理由を伺いたいのですが……」

顔を上げたハルカに、目の前の二人は真面目にこちらへと向き合っていた。
初対面の相手から、この様な対応をされるのは珍しい事ではない。
だからこそ、相手のからかう態度にひどくストレスを感じ、声を荒げてしまう時がたまにある。
今日もまた、マイマイ島の観光パーティで茶化されて腹が立ってパーティを抜けた。
結果、次の定期便までの時間を持て余してしまい、たまたま聞こえた銃声を見に行ったのだ。
観光パーティで出会った彼らは、こちらの事情なと興味がなさそうだったのに対し、目の前の二人は真面目に訳を聞いてくれている。
かなり長い間、冒険者としてやってきはしたが、この話を真面目に聞いてくれた人間は本当にごく僅かで、稀に出会うたびにハルカは、救われた気分にもなった。
が、ハルカにはそれでもすぐには話せない理由がある。

「躊躇うのであれば、無理には申し上げません」
「えっと、す、すいません。なんかその……気分悪くさせちゃったみたいだし……」

何も知らなくて当たり前の事なのに、謙虚な子だと思う。
まだ出会って1日も経過していないのに、知らなくて当たり前なのに、取り乱してしまった自分が情けなくも感じた。

「私も、ごめんなさい。ちょっと、変でしたね」
「……えーとぉ」

お世辞も言わない正直なジンに、ハルカは何故か安心した。
人を喜ばせることより、言葉の真実を優先する姿勢は、からからかいに来る彼らより、何倍も信頼ができると思ったからだ。

「気にされないで下さい。私はただ、とある人に私を見つけてほしいだけなのです」
「とある人……? 人を探しておられるのですか?」
「はい、これは私の新米冒険者の頃からのお話になるのですが……。この世界に降り立つ前の私は、貴族階級でも末弟で、家庭はお世辞にも裕福とはいい難いものでした」
「貴族なのに、貧乏……?」
「はい……。使用人も殆ど居ない家庭の環境上、礼儀や作法などの心得がなく、男の子のお友達が多かったものですから、口調も男らしく、女性らしさの微塵もないと、従兄弟のお兄様やお姉様に疎まれたものです」

優しく語るハルカは、白と黒のエプソンドレスを纏い、ジンには女性らしさの塊にすら見える。
カナトは身分上か、彼女の話を何も言わず聞いていた。

「そんな私が、実家を飛び出し冒険者になったのですが、身なりも仕草も男らしい私は、当時からおっさんとか、女の子らしくないと周りから言われておりました」
「なら、おじさんと言う呼称も……」
「はい、その中のドミニオンの友人が、私の事をからかって”おじさん”と普段から呼び始めたのが始まりです。当時の私はもう慣れていましたので、呼び名は気にもしなかったのですが……」

「……」
「そのドミニオンの友人、オルディは、冥界の大戦に加勢すると言って、一人冥界へ帰ってしまいました。そこで私は、彼が呼んでくれた”おじさんと言う愛称をもつ女性”として有名になれば、冥界から帰ってきた彼にすぐに見つけて貰えると考え、皆さんにそう呼んでほしいとお願いしているのです」

「……そうでしたか、深い事情に納得致しました。ありがとうございます」
「ご理解頂けて、とても嬉しいですわ。ありがとう」

「それって、人を待ってる? 探してる?って事……かな?」
「もう何年も連絡がないので”探している”が、近いかもしれませんね」
「探せる……かな?」

「ジン、あまり深入りするのは失礼になる」
「あ、あの。気にしないで下さい。ジン君」

「でも、今は冥界って戦争してないって……」
「冷戦だ。一時的な同盟の締結によって、衝突は避けられてはいるが、いつ戦闘が始まってもおかしくはない」
「それなら、帰ってきてる可能性は充分あるんじゃ」

カナトが意味深な表情にジンは違和感を覚えはしたが、それでも可能性があるなら、探って見る価値はあると思う。


「でも、一体どうやって……?」
「捜索の手続きってもうやった……のかな?」
「いえ、彼が会いたくないなら迷惑かなって思って、まだ……」
「じゃあもし会わなくても、生存確認ぐらいならできたと思うし、俺が本部に連れて行きます」

「本部……?」
「潔いな」

「普段から言うこと聞いてるし、このぐらい聞いてくれるって」

楽観的だとは思うが、キリヤナギの反応を見てみたくもなり面白いとは思った。
ハルカには助けられ、その恩義を返したい気持ちもあるからだ。

「まぁいい、付き合おう」
「サンキュ、カナト!」

「あの、一体どこへ?」
「俺の上司を紹介します。悪い人じゃないし、大丈夫っすよ」

首をかしげるハルカと共に、アクロポリスへと戻っ二人は一度彼女を自宅へと招いた。
そこでカナトの着替えだけ待ってもらって、三人はアクロポリスの中心にそびえるギルド元宮へと赴く。
受付のリュスイオールは、ジンを見て少し驚いた表情を見せたもの、その表情は一瞬で普段の物にもどった。

「ご機嫌よう。カナト様、6thジン様、ようこそギルド元宮へ」
「リュスイちゃん久しぶり! 元気だった?」
「ジン、世間話もほどほどにしろ」
「……うるせぇ。とりあえず、総隊長いる?」
「確認致しますので、今しばらくお待ちください」

リュスイオールが連絡を飛ばす間、ジンは脇のテーブルに常設してある捜索依頼の書類をハルカに渡して、一通りの受付を済ませた。
執務室に来るように促された三人は、エレベーターを介して最上階で待つ彼の元へと赴く。

「……やぁ、よく来たね。ジン、我が君」

午後の事務作業をしていた治安維持部隊総隊長キリヤナギは、三人を心よく部屋まで通してくれた。
週末からか少し疲れを見せるキリヤナギに、ジンはちょっとした違和感を覚えたが、突っ込むべきか悩んでしまう。

「そっちのタイタニアさんは? 友達?」
「えっと、ハルカさんです。ちょっとお願いがあって」

「始めまして、アークタイタニア・ホークアイのハルカです」
「こんにちは。僕はエミル・ガーディアンのキリヤナギ。この治安維持部隊の総隊長をしています」
「お会いできて光栄ですわ」

気がつけば、グランジがお茶を出してくれていた。
席を進められて座った三人だが、キリヤナギは座ったまま事務作業を再開する。

「それで、今日はどうしたの? 僕に友達を紹介してくれるのかな?」
「い、いや、その……ちょっと頼み事があって……」
「頼み事? ジンからなんて、珍しいね」

焼菓子を食べていたグランジもジンに視線を送る。
キリヤナギを含めた立場の違う相手に対し、ジンの態度は大体受け身だったからだ。
自分の意見を常に内にしまっていたジンが、こうしてあえて頼みに来るのは初めてかもしれない。
大方の事情をきいたキリヤナギは、ハルカの書いた書類を受け取り、目を通しながらジンの話をきいた。

「ハルカさんの友達なんですけど、やっぱり普通じゃ探しきれないみたいで」
「そりゃ、本人が探されることを望まない可能性もあるし、親族以外からの申請は部隊的にあまり乗り気になれないからね……うーん」
「なんとかならないっすか?」
「このオルディさんが、ジンの友達か古い親戚みたいな言い訳にできるなら、探しても構わないけど……」
「なんすかそれ……」
「色々事情があるの」

「部隊として動く為には、何かしらの裏づけが必要だと言うことだ」
「身内の知り合いとかならいいんだけど、なんの関連もない第三者を僕が探すことは、何処かしら悪い影響を与えかねないからね。このオルディさんにあらぬ疑いがかかる可能性もある」
「そこは私から、提案がある」
「……へぇ」

「ハルカ嬢。つかの間ではありますが、貴方を、私を救った恩人として実家へ招きたいと考えております」
「え……」
「僅かな時間ではありますが、是非、我が家へお越し下さい。少しばかりの謝礼をご用意しております」

「あまり軽はずみな行動は避けられた方がよろしいのでは? 我が君」
「好きに言うといい、助けられたのは間違いはなのだから」

「え、え??」

混乱するジンにキリヤナギはため息をついて、再び書類の情報に目を通した。
流し見ていたが、再び上から丁寧に読み直すと、キリヤナギはふとした数字に目がいく。
その数字に示された情報にキリヤナギは納得し軽い呆れに近い感情すら覚えた。
カナトの思惑は分からないが、唯の”確認”ならば一週間で事は足りるだろう。

「なるほど、我が君の恩人ならば致し方ありません。一週間程お時間を最善を尽くしましょう」
「助かる、お前に任せよう。キリヤナギ」
「仰のままに、我が君」

キリヤナギの了承に、ジンの表情が明るくなる。
ハルカもまた立ち上がり、スカートを上げ一礼するのだった。

その後カナトは、ハルカを一度実家へと招き、彼女を恩人として実家へ歓迎することになる。
実家にはジンも付き添い、カナトのフィアンセのリフウも顔を見せてくれた。
相変わらずの高貴な空気にジンは緊張しつつも、笑顔で迎えてくれた彼女に安心する。

「リフウ、突然ですまない、数日だけハルカ嬢を任せたいんだが……頼めるか?」
「ハルカさん……お話は聞いています。助けていただいたのですね」

「とんでもありません。たまたま合流し加勢させて頂いただけですから……」
「ありがとうございます。危険な場所へ赴くカナトさんはいつも自分実力を過信されがちですから、私からも感謝致します」
「リフウ……」

彼女は笑っていた。
確かに、カナトもジンも冒険者にはあまり向いていない所があるとは思う。
普段はスムーズだが、たまに予想外の事態に遭遇し、対処しきれないときもあるからだ。
エントランスでの世間話に花を咲かせていると、リフウの後ろから髪をツインにした女性が階段を駆け下りて来る。シンプルなドレスを纏う彼女に、ジンは見覚えがあった。

「姫さま、シャロン様がお呼びです」
「シュトラーセ、ごめんなさい。今戻りますね」
「早くハルカ様に会いたいと仰せです……」
「あらあら……」

「……それでは、リフウ。ハルカ嬢を頼む」
「分かりました。気を付けて」

そんなやりとりを終えて再び2人は家を出てしまった。
ある程度準備もして実家にもきたのに、ジンは少し拍子抜けした気分にもなる。

「泊まるんじゃねーの?」
「キリヤナギだけに任せておけないだろう? 私達も探す。実家を拠点にしてもいいが……それは明日からだな」

カナトの言葉に、ジンは少し驚いた。
丁度ジンもキリヤナギだけに任すのは、忍びないと思っていたからだ。

「あれ? でもなんで明日から?」
「食材の賞味期限が切れる」

冷蔵庫の中身の問題だった。
時々みせるこの拘りに理解が追い付かない時がある。

「さっきのシュト……ちゃんは、新人?」
「戴冠式の時に、母上が護衛騎士として引き抜いたそうだ。全く……」

ようやく思い出した。
そういえばエドワーズに負けていた気がする。
エミル界に来ていたならまた話す機会もあるだろうか。
ジンが何か考えているのを察し、カナトはジト目になりながらも話を続ける。

「恐らくキリヤナギは、まず冥界に帰ったドミニオンの洗い出しから始めると思う。その間に私達は、各所の詰所で手がかりを探そう」
「ハルカさんは?」
「女性は女性に任せたほうがいい」

安置だとは思ったが、正しいとも思った。
三人で探せばいいのに、カナトの女性嫌いも面倒だと思う。
ハルカに渡された顔写真を手に、2人は次の日から、カナトの実家を拠点にして、各国の国境にいる兵や冒険者達に地道な聞きこみを始める。
一日置きにノーザン、ファーイースト、アイアンサウス、モーグ、トンカと、似た名前のドミニオンを探して、聞いて回った。
しかし、ドミニオン・コマンドのオルディと言う人間を、聞いたことがある人はいても、殆どが老人や老婆で、顔を知るものが殆どおらず、本人である確証が全く得られない。

一日ごとに、五カ国を含めたダンジョンを周りこんで、2人は毎日ヘトヘトなって実家に戻っていた。
そんな中でカナトは、ジンが休む横でその日集めた情報をノートにまとめ、整理する作業を始める。
その日、ハルカの旧友がいると言うモーグを訪ねると、彼は懐かしみを得つつオルディについて詳しく話してくれた。
ドミニオン・コマンドのオルディの出身地は、当然冥界ではあったが、難民としてエミル界へ亡命しモーグ地方で育っていた。
そこで病気を患った親の為に働き、冒険者となったが、間も無くして唯一の肉親の母が他界し、その後にハルカと出会ったらしい。
オルディについてよく知っていたタイタニア老人は、貧しいながらも純粋で友人を大切にする人間だったと話していた。

そんな内容をカナトがまとめ一息つくと、ノックからメイド服のハルカが、ワゴンを押して入ってくる。
普段からエプロンドレスの彼女は、給仕をする様に違和感がない。

「カナト君。ありがとう……」
「ハルカじょ……おじさん」
「はい、私がハルカおじさんです」

慣れないと思う。
しかし、本人が呼んでほしいと思う以上、希望には答えたいものだ。

「モーグのご友人に会ってきました」
「そうですか……彼は元気でした?」
「はい、オルディ殿に関して沢山話して頂きました。人望に熱い方であったと……」
「……はい」

優しい微笑は何か悟ったようにも見え、カナトは言葉を続けるべきか迷った。
オルディについて探れば探るほど、カナトの予想は現実味を帯びてきていて、言葉にする事すら躊躇ってくる。

「……何故、彼を待っているのですか?」
「そうですね……。私の最初で最期の……恋だったのかもしれません、心のどこかで彼が帰ってくると信じていたい……。でもカナト君、私はもう十分です。ありがとう」
「……もう少し、探させて下さい。まだキリヤナギにも結果は聞けていません、私もこの現実を見届けなければいけない気がするので……」
「………そうですか……わかりました。ありがとう」

微笑をみせるハルカに、カナトも少し安心した。
少しの希望があるならば、探して見たい。
できる事があるなら、手を貸したいと思えたからだ。

「ん……ハルカ、おじ、さん?」

横になっていたジンが、ようやく体を起こしてくる。
数日間、朝から動き詰めの日々に、ジンはまだ眠そうだった。

「ジン君も探してくれてありがとう」
「え……別に俺はやりたい事してるだけだし……」

ハルカはそう言って、押してきたワゴンの蓋を上げた。
するとそこには、軽くではあるが数人分の食事が用意されている。

「これ……」
「お二人ともいつも夕食に間に合って居なかったので、今日は私が作ってきました。ささやかでありますが、是非召し上がってください」

「……ありがとう、ございます。ハルカおじさん」
「ハルカさ……おじさん。さんきゅ!」

明日もまた情報を探して出掛けよう。
再び会いたいと願う彼女の想いを大切にしたいとジンは思った。
次の日も、2人はモーグ地方へと向かい、庭に乗って巨大な塔が聳える島へ聞き込みに行く。
冒険者の中で当然のように周知されたこの場所には、異界を行き来すり人々があつまり、様々な服装の彼らが集まっていた。
また塔の周辺には鎧を着たドミニオン兵が駐在していて、冥界のレジスタンス勢力への勧誘に勤しんでいる。
数人居ると思われた勧誘チームだが、鎧の色が違う二つの勢力があって、同じであるにもかかわらず目も合わせずお互いに無関心にもみえた。

「仲悪いの……?」
「私も深くは分からないが、冥界のレジスタンス勢力は、主に元皇室を支持する”旧皇国派”と、分裂した民主主義を主張する”改革派”に別れているらしい。大きな違いとしては近年に出現した”心を持ったDEM”を、許容できるか否かの問題のようだ」
「そんなん……」
「この世界にいる全ての人間が、DEMを同じ人間として許容できるとは限らない。今はそう理解しておいた方がいい」

ジンの返答を聞く前に、カナトはレジスタンス兵の元へ向かう。
どちらがどちらなのかは分からないが、ジンはカナトの護衛である事を思い出して横に着くことにした。
直感では分かるが、巻き込まれてはいけないと分かる。

「ご機嫌よう、あなた方は冥界のレジスタンス兵の方でしょうか」
「ご機嫌よう。アークタイタニアさん。如何にも我々は”改革派”の一派”レッドウィッグ兵です。以後お見知りおきを」
「私はアークタイタニア・ジョーカーのカナトです。人探しをしているので、失礼ながらお声を掛けさせて頂きました」
「なるほど、私はドミニオン・エイジ。この世界にはまだ慣れておりませんが、多少ならお力になりましょう」
「感謝致します。早速ではありすが、ドミニオン・コマンドのオルディという方を、エイジ殿はご存知ありませんか?」
「オルディ……。今すぐに覚えはありませんが、どこかで聞いた響でもあるような……」

「本当すか!?」
「えぇ、しかしこの場で確認は致しかねますので、我々と共に冥界へご同行頂けるならば……」

「なるほど、名に覚えがなければ結構です。突然失礼致しました。また機会があれば伺いますのでその場で」
「わかりました。お力になれず申し訳ありません。またの機会に」

「へ、カナト?」

カナトはジンを強引に引っ張り、庭を呼び出して無理やり乗せて発進させた。
あまりにもそっけないやりとりに、ジンはあっけに取られてしまう。

「エイジさん、なんか分かるかもって言ってくれてたんじゃ……」
「覚えが無いという時点で知らないと言う意味だ。あれ以上は取引になる」
「は……」
「付いていけば、エミル界に帰れなくなるぞ。覚えておけ」

ぞっとした。
確かに冥界にこれば教えると言われたなら取引になるのだろうか。

「わかんねぇ……」
「1人でも味方を増やすために必死なんだ。今は触れるべきでは無い」

カナトのいいたいことは分かる。
自分達の居場所はエミル界にあるし、ジンもやらなければいけない事がある。今は冥界にいくべきではない。
彼をみて思うと、戦争のない平和な世界に自分達があるのは、恵まれているのだろうと思った。

そんな話をした後。カナトのナビゲーションデバイスに着信音が響く。
気軽に応じたのは知り合いだからだろうか。
直ぐに通信を切って、カナトは西に舵を切った。

「キリヤナギからだ。オルディの事が分かったらしい」
「まじ!?」
「定時上がりで、私の実家へ来ると……」
「見つかったのか!?」
「分からない、だが……何を言われてもいいように覚悟を決めておけ」

思わず言葉を噤んだ。
数日探しただけの相手に情はわかない。が、ハルカはどうなのだろうか。
実家へもどり、二人はキリヤナギを迎える為に礼装へ着替えた。
その間ハルカにも、オルディについて分かった事も伝えたが、嬉しそうな表情をみた反面。
ジンはカナトの言葉が引っかかって、正面から向き合うことができずにいた。

「ご機嫌よう。我が君」
「わざわざ悪いな。此方から行っても良かったが……」
「お気遣いを感謝致しますが、それは私の役目です」

キリヤナギの敬語に、ジンは何故かぞくぞくとした悪寒を感じる。恐怖とは違うがこの威圧はなんだろう。
現れたキリヤナギとグランジを、三人はエントランスで迎え、応接室へと通した。
そこで一枚の書類を出される事になる。

「春の花はもう見に行かれましたか……?」
「世間話はいい、本題は?」

むっとしたキリヤナギに、ジンはようやく安心した。
普段のキリヤナギに戻ったからだ。

「じゃあもう結論から行くけど、まず第一に、ドミニオン・コマンドのオルディと言う人間は、確かに存在したよ」
「そうか……」

「存在した?」
「こう言う行方不明の案件を調べる時は、まず本当にその人がこの世界に居たかどうかと言う裏付けから入るんだよね。連盟って結構誰でも入れるから、1人で偽名使って二重登録してたり、架空の人物を装われたりするから……」

ジンには、過去に思い当たる事がある。
ランカーとして居たはずのカロンだ。
彼の事情は全てきいたが、確かに彼は存在していたのに、カロンと言う人間は存在しなかった。

「その上でオルディは第三者からの裏付けが取れて、本当にいた人物ではあったよ」
「それで?」
「第二に、連盟の名簿から彼のナビゲーションデバイスを探したけど、ドミニオン・オルディは確かに存在したが、オルディのナビゲーションデバイスは存在しなかった」
「へ……」

カナトが何も言わず俯いたのは分かる。
ナビゲーションデバイスは、連盟への加入時に渡されるものだ。
自分から手放すことはできても、名簿には必ず名前だけはのこる筈なのに、それが存在しないと言う。

「第三、これが最後だけど、彼の記録は、連盟に加入した25歳が最後の記録、そこから冥界へ行ったんだろうけど、ナビゲーションデバイスの配布の手続きが始まった際に、彼は更新せず連盟から除名されている」
「……」

心臓の音が徐々に高鳴ってくる。
ハルカもまた静かに聞いていて、ジンは言葉すら出なくなっていた。

「連盟の記録が更新されないまま、一応50年はアーカイブに残されていたらしいけど、それも期限切れだったね」
「……オルディが除名されたのは何年まえの記録だ?」
「……約30年前にオルディは連盟から除名されていた。つまりドミニオン・コマンドのオルディという人間は、ドミニオン族の寿命、約100年を考慮するのなら、現在の生存の可能性はほぼないでしょう」

ドミニオン族のオルディが25歳で冒険者になったなら、50年後に連盟から除名され、さらに30年経っている?
軽く100年前後経過していた事実に、ジンは混乱して言葉が出なかった。
そんな中で、ハルカは笑い小さく口にする。

「キリヤナギさん。ありがとう」
「貴女が旧友に再会出来ない事が、残念でなりません……」

定型文だ。あらかじめ用意された社交辞令。
そんな言葉、いらない。

「なんで……」
「ジン君。ごめんなさい……。ありがとう」

目の前のキリヤナギはもう目を合わせるのは避けているようだった。
困った表情を見せるハルカと、何も言わないカナトは、この結末をわかっていたのだろうか。
冷静な2人の態度に行き場のない感情が込み上げてくる。


また、何も出来なかった。

キリヤナギが帰り、カナトの城に残ったジンは、気持ちの整理をしているのか、ずっと日のくれた空を見つめている。
カナトは、話を聞いた直後からある程度は察していた。
ハルカがタイタニアである時点で、彼女には有限ではあれど時間が有り余っていて、探すならいくらでも探せたはずだからだ。
だからこそカナトは、ジンに深入りはしないよう止めた。
が、ハルカが思いの外乗り気であり、可能性を信じてさがした。

「ジンさん、大丈夫ですか?」

横でバイオリンを弾いていた、カナトの双子の弟カナサは、ずっとベランダで黄昏るジンを心配してくれているようだった。
当然だと思う。
天界の一件から現在まで、カナサは普段から元気なジンしかしらないからだ。

「今は一人にさせてやってくれ……」
「…………はい」

今は構うべきではない。
種族差における寿命は、誰にどうにかできる問題でもないし、見届ける側になるタイタニアのカナトが何を言っても、説得力のカケラもないからだ。
何も言えずもどかしい気持ちはあるが、今は吹っ切るためにも音楽に浸りたい。

「合わせるか? カナサ」
「はい、是非!」

いい音を出せる自信はない。
だが、気持ちは前向きで有りたくて、カナトはバイオリンの弓を引いた。

@

暖かかった気候がゆっくりと冷えてきて、気がつけば星空が広がっていた。
キリヤナギの結果を聞いた時の心境は酷いものだったが、夜風に当たり広い庭園を眺めていると、徐々に心が落ち着いて冷静になれてくる。
結局、今回はジンだけが何も気づいて居なかったのだ。
カナトが乗り気でない発言をしたのも、ハルカが遠慮したのも、全部ここにつながっていて、
何を一生懸命だったのかと、自分が馬鹿みたいに思えた。が、

ハルカは、ありがとうと言ってくれた。
何故お礼だったのかは、よくわからないが……。
自分は何か彼女に出来たことがあったのだろうか。

「あまり夜風に当たると冷えますよ」

高い声にジンが思わず振り向くと、上着を持ったハルカがまるで待っていたかのようにそこに居る。
何を話せばいいか分からない。
背を向けたが、彼女は横に立って上着を着せてくれた。

「……ごめんなさい」
「……しってたんすか? オルディさんの事……」
「知ってたと言うと、嘘になります。またしらなかったと言っても嘘になりますね」

そうだ。ハルカは探していると言っていた。
事実確認が出来ないまま何もせずにいたのなら、知っていたとはまた違うのかもしれない。

「……私も、怖かったんだと思います」
「怖かった……?」
「連絡がない事に甘えて、信じて、彼がこの世界にいないことを知るのがとても怖かった。受け入れてしまえば、私の中のオルディが消えてしまう気がして、ずっとその現実から逃げていたのだと思います」
「……そっか」
「でも、ジン君とカナト君が、毎日出かけて探してくれるのを見ていたら、私も立ち止まっていられないなって思ったの……」
「……辛くなかったんすか?」
「とても……勇気がいりました。でも私以上にびっくりして、悲しんでくれた人がいたら……流石に迷ってはいられないなって思って……」
「俺は……」
「騙してごめんなさい。だけど、ジン君のおかげで私はようやく前に進めた気がするから……」
「……」
「ありがとう……」

無駄ではなかったのだろうか。
ふと彼女をみると、以前の微笑ではなく明るく笑顔でこちらに微笑んでくれていた。
肩の荷が下りたような、何かから解放されたような本来の笑顔。
ジンとカナトが動くことで、彼女の抱えた重荷が下りたなら、それは確かに十分な成果かもしれない。

「ハルカ……さん……」
「のんのん、違います。もう一度」
「……ハルカおじさん」
「はい! 私がハルカおじさんです」

こちらは続けるのか。
成果は出せなかったが、彼女がそれで満足しているのならジンが悩む問題でもない。
少し気が楽になって一息つくと上の階からバイオリンの音が響いてきた。
二つの音色が聞こえるのは、双子のものか。

「このお屋敷の方々はみんな良い人ばかりですね」
「え、……ま、まぁ、カナトの家だし……?」

しぶしぶ口にするジンは、ハルカの優しい笑みに目を合わせられなかった。
その後ハルカに連れられて、ジンはカナトの元に戻り、次の日には実家をでて自宅へと拠点を戻した。
ハルカとは、実家をでた時点で別れたが、ジンは同じホークアイの縁もあってか連絡先を交換したものの、なにを話せばいいかわからず、結局何もしないまま時間だけが経過する。
そんな日常が戻る中、ある日カナトが、キリヤナギに向けた粗品を用意しているのが目に入った。
珍しく、料理ではなくティーセットで、ジンは新鮮味を感じる。

「何してんの?」
「今回は私事で奴を使わせたからな、キリヤナギにお礼を用意した。届けに行くつもりだが、ついて来るか?」
「え? いくいく」

行かないとサボったことになる。
普段通りルナをつれて、二人はキリヤナギの自宅を訪ねた。
今回はちゃんと連絡を入れたらしく、身なりを整えたキリヤナギが、玄関から迎えてくれて、自室ではなく応接室に通された。
その中ジンは、何故か緊張して体が強張るのがわかる。

「以前の件は助かった。ありがとう、キリヤナギ」
「当然です。あんまり気にされなくても良かったのに」
「私情で動いたことで、風当りが強かったんじゃないのか?」
「私情というか、僕がこの地位になる前の連盟のデータベースって、まだデジタル化されてなかったから、ある意味整頓するいい機会だったよ。セオが大変なことになってて申し訳なかったけど……」
「……セオにも礼をした方がいいか?」
「そこは僕の仕事だし、気にしないで」

労力を使わせたのは間違いないらしい。
カナトが用意したティーセットは、ガーディアンのマークが入ったオーダメイドの品で、キリヤナギは目を輝かせて喜んでくれた。

「早速使ってみてもいい……?」
「構わないが……」
「じゃあ、グランジ。メイドさんに渡してきてくれてもいいかな?」

後ろに立っていたグランジが小さくうなづき、ティーセットを持って部屋を出て行った。
ジンは今日のグランジが、何も食べずずっとおとなしいことに余計落ち着かない。

「ジン、大丈夫? 緊張してる?」
「え、あ、はい……」

ちゃんとしなければいけない気がして、どうすればいいか分からない。
見知った三人の空間なのに、部屋が違うだけでこんなに緊張するのか。
言葉がでてこなくて、ずっと俯いていると応接室に長身のメイド服の女性が入ってくる。
長い髪を下ろす彼女は、ジンとカナトを見て一礼した。
またジンも顔をあげ、現れた女性に言葉を失う。

「こんにちは、失礼します」
「は、ハルカさ……」
「いえいえ、違いますよ。もう一度」
「ハルカおじさん……」
「はい! 私がハルカおじさんです!」

「それみんなにやるの……」

キリヤナギが呆れていた。被害者は複数いたらしい。

「なんで、おじさんが……」
「久しぶりにカナトさんの実家で給仕の手伝いをさせて頂いて、とっても肌に合っていたので、続けて行くことにしました」
「え……」

「ほら僕の屋敷って、カナトの家からメイドさん回してもらってるから………」
「なるほど……」

「キリヤナギさんには、オルディを探して頂いてとても感謝しています」
「僕はカナトに頼まれただけだけどね」

「じゃあ、ハルカさ……おじさんは、ずっとここで?」
「所属はメロディアスの家だけど、気に入ったら居てくれるんじゃないかな……」

目が泳いでるキリヤナギを見るに確証はないのか。
後ろからティーセットを乗せたワゴンを押すグランジが現れると、ハルカは綺麗な手つきで給仕を始める。
その様は確かに板につき、まるで絵に描いたようだった。

「またいつでも会えますね」

確かにいつでも会える。
抱えていたしがらみが溶けた彼女は、生き生きとしていてジンも何故か安心した。

「貴様はわかりやすいな」
「なにが?」

「落ち着いたなら良かった」

心配されていたのか。
気がつけばグランジも座ってお菓子を頬張っている。
なにも心配はない、そう思えたら一気に気持ちが楽になって、安心できた。

「別に何もないぜ?」
「よく言う」

ハルカの淹れてくれたお茶は、いい香りがしてとても美味しい。
一つの悲しみを乗り越えた彼女にまた会いに来よう。新しい季節がくるこの月にいい出会いがあったものだと、ジンは思った。

END





*Gest
96xqHLRJ.jpg

アークタイタニア・ホークアイのハルカ・ムラサメ

いつでもどこでも同じメイド服、同じものを何着も持っているらしい。

年齢:1××歳(長生きの秘訣は余計なことを詮索しないことですよ♪)
身長:162cm
性別:女性もしくはおじさん
誕生日:6月12日

性格
メイド服を着た謎の女性。
基本的に誰相手でも丁寧語、敬語で話すが、結構冗談も好きで親しい相手であればからかったりすることも。
自らを「おじさん」と呼んでもらうことに並々ならぬ執着を見せているが…?
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本編 | 【2017-04-20(Thu) 21:00:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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