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Amulet*Callbrand 第三話
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(連載)ちぃか。さん、hishioさん、リレープロジェクト
Amulet*Callbrand
~ただ、君の笑顔がみたいから~

第三話:羽翼 湖に沈む剣は錆ゆく道を選ぶか

前回
第一話:曇天 変わりだす世界
第二話:黄昏 踊りだす影



 
著:詠羅


ティアと別れたハルトは、一人アクロポリスの可動橋へと戻ってきていた。
雨が滴り、露天も人気もほとんどない場で、今まで感じた事のない喪失感と無力感にかられる。
最善の選択をしたはずなのに、何故こんなにも痛く、重いのか。どうにもできないストレスに、ハルトはアクロポリスの橋を殴りつける。
そんな様子をあざ笑うかのように見つめる一つの影がある。ネクタイを締めた白い礼服を待とうエミル族は、後ろに使用人を引き連れ、ずぶ濡れになるハルトを観察しているようだった。

「無様だね」

響いた声にハルトは顔を上げた。視界に現れたのは金髪に青い目を持つ貴族だろう。大きめの傘を持ち楽しそうにこちらを見ている。街灯の明かりがスポットライトのように金髪の青年を照らし、顔も身なりもよく見えたが、ハルトは話す気になれず、無視をしてそのまま立ち去ろうとした。

「アミュレット家を追い出されたんだろう?」
「っ!?」
「お気の毒に、いく場所もないんじゃないのかい?」
「……」

思わず立ち止まった。
事情を知られている事に困惑し、言葉すらもでてこない。

「私はティア姫を探しに来たんだ。見なかったかな?」
「……森の方に飛んで行った。……まだ遠くには行っていない筈だ」
「そっか、ありがとう」

相手の言葉に、ハルトは少し安心していた。
彼に任せていれば、ティアは心配いらない。貴族が連れかえってくれるのなら、幸いな事に越したことはないからだ。
何も言わず立ち去ろうとする中で、金髪の青年フレッドは、更に言葉を続ける。

「ティア姫は、君の事が本当に好きなんだね」
「……なんの話だ?」
「身分の違いの恋。素敵じゃないか、永遠に結ばれる事のない愛情……見ていてとても感動した」
「てめぇ、何様のつもりだ……!」
「怒らないでよ。せっかく私が君を雇って上げようと思ってるのに」
「は……」
「ティア姫は君と一緒に居たい。また君もティア姫と一緒に居たい。でも君はアミュレット家にはもう戻れない……」
「何がいいたい……」
「ティア姫は私のフィアンセになる……。私達夫婦の幸せを君が永遠に守るんだ、幸せじゃないか」
「ふざけんな!!」

ハルトは迷わず腰の武器を掴んだ。後ろの使用人が盾になり青年の間に入ってくる。

「野蛮な……、断っていいのかい?この機会を逃せば君はもう2度とティア姫の側には戻れないよ」
「てめぇの下僕になるよりはマシだ!! 失せろ!!」
「ちっ、低俗なドミニオンが、話ができるかと思えば所詮はチンピラどまり……残念だよ」

金髪の青年は舌打ちを残し、平原から振りかえって街に戻った。ティアは使用人に追わせハルトは更に憤りを覚えたが、今のハルトにはもう無関係だった。

@@

しっとりとした空気が立ち込めるギルド元宮で、今、エミル・ガーディアンのキリヤナギはため息をついた。
ようやく今日のノルマを終えて、一息ついたのに後ろの窓を見ると薄暗く、水が滴っている。

「雨ですね」

キリヤナギの親衛隊の1人。エミル・アストラリストのセオは、窓を見つめ億劫な表情を見せるキリヤナギに述べる。昼まではまだ曇りだったのに夕方になってから降り出してしまった。
外に出る事を日課とするキリヤナギにとって雨は億劫以上の何物でもない。

「別に僕、雨は嫌いじゃないよ」
「ほう?」
「濡れるし、乾くまでが大変だし、動きにくくなるし、風邪ひくかもしれないし……」
「嫌いじゃないと言う物言いではありませんね?」

好きでもない。
しかし、嫌いと断言するのは何か違う。恵みの雨とも言うように、必要である考えると嫌いにはなれなくなったからだ。暑い時期が来る前に、人々は水を蓄えて備える。
水がなければ、人は生きてはいられないから、

片付けを終えて椅子に座ったまま伸びをすると、
焼き菓子を食べていたエミル・ホークアイのグランジがこちらを見ている。
憂鬱で気力が湧かず、定時からかなり遅れてしまった。お腹も空いたし、帰ってまたのんびりしようと思う。

「動きたりない……でも、お腹すいた……」
「明日はきっと晴れますよ」

セオの言葉に少し心が晴れた。今日は憂鬱だったが、明日になればまた違う日がくる。
そう思えばかなり前向きになれて、元気にもなれた。外出用の赤いマントを羽織りつつ、キリヤナギがふとアクロポリスを見下ろすと、街灯が輝く広場に黒ずくめの人影が目に入った。
傘も差さずずぶ濡れになるその様に、キリヤナギがピントを合わせると、見覚えのあるロングジャケットを着ている。

「ハルト……?」
「! こんな雨の中で……?」

キリヤナギはグランジと2人で元宮を出て、男のいた場所へと向かう。すると街灯の下で雨に降られることを厭わない、イクスドミニオン・グラディエイターのハルトがいた。
何もかもが濡れていて、キリヤナギはしばらくそれを眺めた後、後ろからハルトに傘を差す。

「風邪ひくよ?」
「……っ! キリヤナギ……」
「どうしたの?」
「……すこし、一人にさせてくれ」
「いいけど、このままじゃきっと僕が保護しないとだから、僕の家で一人になろ?」

キリヤナギのまかり通った発言に、ハルトは言葉もでない。
キリヤナギはこの街の自治を守る立場だ。その街の真ん中で黒ずくめの不審な男がいれば、どちらにせよ声をかけなければならない。ハルトは俯いて、グランジの予備の傘を受け取ると何も言わずキリヤナギの自宅に向かった。
ティアの屋敷の半分以下だろう、ひっそりとした場所にキリヤナギの屋敷はあった。庭もそんなに広くはなく敷地内に小さな小屋があるだけだった。
屋敷に連れ込まれると青い執事服のバトラーが控えており、彼もまた穏やかな笑みで三人を迎えてくれる。
ハウススチュアートのタイタニア・フェンサーのディセンバルは、キリヤナギをグランジに任せてハルトを一人部屋まで連れて行ってくれた。
そこでハルトは、シャワーを浴びて服も乾かすことになる。

「どう見ている?」

先に自室で着替えたグランジとキリヤナギが、夕食を嗜みつつ言葉をかわす。広い洋室に炊飯器が傍にある異様な空間だが、今日は焼き魚のシャケとお味噌だったので、ごはんが多めに欲しい。

「喧嘩したのかなぁ……、分からないけど、元気なさそうだし」
「……屋敷を追い出されたか?」
「あるだろうけど、ハルトの場合考えにくいじゃん?」

キリヤナギの言う通りだ。グランジのように、雇い主が護衛対象なら、喧嘩やトラブルでの解雇はあり得るが、ハルトの場合、護衛対象が雇い主の娘だった覚えがある。
この場合、娘とトラブルが発生しても、雇い主が問題ないと判断すれば、契約は持続するからだ。

「雇い主と揉めちゃったのかなぁ……けど、何年も雇用してたのに、いきなり契約解除って、なかなかないと思うんだけど……」

雇い主との信頼関係をみれば、確かにその通りで、貴族や富裕層から鑑みるに、まず一般人を専属で雇う事が珍しい。
専属護衛は、いわば言い換えれば何よりも大切な人を預けられる立場でもあり、雇い主の間でかなりの信頼関係を確立しなければなしえないからだ。

「でも、きっとそのうち教えてくれるさ」
「今、話す」

部屋の入り口から響いた声に、グランジが反応する。現れたハルトは、着ていたロングジャケットから一転、キリヤナギの部屋着用のシャツとスラックスを身にまとっていた。
先程の絶望の表情から、普段の凜とした顔に戻っているのを感じ、キリヤナギはほっと肩をおろす。

「大丈夫?」
「悪い。ようやく落ち着いてきた……」
「そっか。部屋はいくらでもあるし、好きなだけいてもいいよ。昼間は使用人しかいないけどね」
「おまえ……」
「僕とグランジとディセンバルしかいないし……」

メイド達も一応いるが、夜には帰ってしまうし、今住んでいるのは3人だけだ。
これでも人数は増えた方で、グランジが来る前はキリヤナギとディセンバルの2人だけで暮らしていた。最低でも4人は必要なのに、居ついてくれる使用人がおらず、新しく招いたグランジと3人で暮らしていたが、キリヤナギの育ての親たるウォーレスハイムの息子、カナトが突然現れ、彼の実家、メロディアス家が雇用するアルバイトの使用人達を定期的に回してもらえることになったのだ。
気にいった人がいれば、引き抜いて構わないと言っているが、生活がガサツで貴族らしくないキリヤナギに仕えてくれる使用人は未だいない。
その上で3人で暮らすには広すぎる屋敷でもあり、せめもう1人2人増えればかなり賑やかなのだろうと思う。

「メリエ……」
「どうした?」
「……なんでもないよ。それであんな雨の中、どうしたの?」

ハルトは少しだまり、ゆっくりと事の顛末を話してくれた。
アミュレット家の当主。ローレンスに呼び出され解雇されてしまった事、理由は、彼女が危機に晒されると分かっていながら、彼女をコンクールへ出場させた事だ。
本来なら護衛として未然に危険を避けなければならなかったのに、自身は自分の実力を過信して事件を起こしてしまったから、

キリヤナギからすれば、祖母に向けての追悼があるとし、またハルトが古友としてキリヤナギの実力を買っていてくれた事から、協力したいとは思ったが、

「確かにそれは怒られるかも……お婆ちゃんご存命だったし……」
「何も知らなかった俺は、確かにあいつの事を何も分かっていなかったのかもしれない」

下調べ不足もあったと思う。詳しく聞いていなかった、話さなかった事にも問題があり、今回のありとあらゆる意味で大きな過失だと言わざるえない。
だがその上でキリヤナギは、ハルトが追い出されたことに対して疑問をぬぐいきれなかった。
ハルトと久しぶりに会った時、彼は屋敷のお嬢様に”気に入られていた”と話したのだ。
護衛としての実力を認められた訳ではなく、個人的な感情論において雇われ、護衛として置かれていたのなら、ある程度の過失を負ったとしても謹慎や一次的な処分で済むとも考えられたからだ。

「うーん。追い出すのは、やり過ぎかなぁって思うんだけど……」
「……ティアは近いうちに、モーグの御曹司と見合いをするらしい……」
「……ぁー、なるほど」
「俺がいたら、ティアは俺を理由にして断るだろうからな……」

見合いをするのに、好意を寄せる男が他にいれば、見合いの意味がなくなってしまう。
アミュレット家にとってハルトは信頼の置ける人間ではあったが、今回の過失と見合い相手の出現も踏まえ、ハルトの存在が邪魔になってしまったのか。
難しい問題だと思う。護衛として大きな過失を背負ってしまった以上、どう考えても再び同じ立場に戻る事はもはや絶望的だ。
かける言葉が思いつかずキリヤナギがうーんと考えていると、頭にふと考えがよぎった。
”護衛としての立場”には、もう戻れない。だがもし、”護衛じゃない立場”なら、どうだろう。

「……ハルトはどうしたいの?」
「俺か……?」
「ティア嬢の事、すごく好きになってるように見えたけど……」
「……感情的な意味ではそうかもしれない。あいつに何かあれば、俺が命をかけてでも守る覚悟はあったさ……でも……」
「うーん。死んじゃだめかな……」
「……!」
「聞いた感じハルトってお屋敷の人にかなり気に入られているような感じだし、もしかしたらそのお父さんも、二人がいいなら結婚まで考えてくれてたんじゃないかなぁって……」

キリヤナギの突拍子のない発言にハルトは驚いて言葉も出なかった。またキリヤナギもそんなハルトの態度を見て、屋敷の当主ローレンスの考えをある程度察する。

「話が飛躍してないか?」
「そうかな……けど、ティア嬢のお父さん。お見合いさせようとしてたんでしょ? ハルトを諦めさせるためにあえてお見合いの話をハルトにしたってことは、ティア嬢の気持ちとハルトの気持ちをわかってたってことだし……その前提があって、もしティア嬢と付き合ってハルトが結婚したら、ハルトは婿養子ってことじゃん? それってつまり、ハルト・アミュレット。って名前になるんでしょ? そうなると、雇い主と付き人じゃなくて、息子になるからさ……」
「……」
「ティア嬢を守っても、ハルトがいなくなったら、お義父さんお義母さん、ティア嬢がすごく悲しむし、そんな先に死んでいいとか言う人、息子にはしたくなんじゃないかな……」

自分の気持ちは理解していたハルトだが、自身を護衛だと言い聞かせる余り、それ以上の関係性を考えられていなかったのだ。
お互いに好意を寄せており、周りが認めていても、他ならぬ本人にその気が無ければ、意味がない。
その上で、護衛として命をかけるとまでにいうのだから、どちらにせよティアや周りの人間を悲しませてしまう。それではローレンスも将来任せることは出来ないと判断したのだろう。

「……まだ、分からない」
「……ゆっくり考えればいいと思うよ。自分が何のためにいるかとか、考えだしたらキリがないし、後悔しないように動くだけでもかなり違うから」

漠然とした感情しか湧かない中、ハルトは答える事ができなかった。動きたいように動いても、果たしてそれは彼女の為になるのだろうか。
戦いを忘れられない自分は、ティアの為に何ができるのだろう。忘れようと思っていたのに未だに彼女の笑みが頭によぎって離れない。

悩みこむハルトの横でグランジがカップアイスを開封する。キリヤナギもまたそれを見て自分の分も探すが、

「グランジ、僕のは?」
「ない」
「へ、それ確かに6個入りだよね。偶数だし、2個づつ食べてたし、もう一個ある筈だよね?」
「……」
「ずるい!それ僕のじゃん!」
「やらん」
「不公平だよ!返してよ!」

手を伸ばしても綺麗に回避されるキリヤナギにハルトは考えていた事が消えた。
従者とは聞いたが、どう見ても逆に見えてくる。アイスを取られて怒ったキリヤナギは、半泣きになりながら自分のベットに不貞寝してしまった。

「グランジきらい……もうしらない……」

泣くほどのことなのか。本人は気にした様子もなくアイスを楽しんでいる。
子どもようにも思え、ハルトは肩から疲れが抜けてゆくのを感じた。

@@

一方アミュレット家では、ティアが消えた事に、使用人は慌ただしく動き回っていた。
自室に引きこもり夕食の時間を過ぎても顔を出さなかった為に、ティアの兄。ディオルが合鍵を使い確認に向った。するともぬけの殻になった部屋があり、使用人総出で屋敷をさがすが見つからない。父ローレンスの話によれば恐らくハルトの事を探しに行ってしまったのだろうと考えてたが、外は土砂降りの雨。
探しに行っても見つけるのは難しい。

「参ったな……」
「林に行くのを見たとは聞きました。こちらでは今森を探しています」
「フレッド。すまない、手間をかけさせるな……」

まだそんなに遠くへは行けないはずだ。翼があるといえど、ティアは運動が得意ではない。
しかし、持っている筈のナビゲーションデバイスはオフラインでディオルは嫌な予感が収まらなかった。

「何故彼女は、そこまでしてあのドミニオンを……」
「ある程度はわかっていたんだけどね……。すぐに追い出すべきじゃなかったのかもしれない」

こんな大変な時期なのに、父ローレンスは気持ちの整理がつかないとして部屋から出てこない。昔から父は、とてもナイーブな所があり、理解はあるが娘の危機に何もできないのはどうかと思う。

「……一度、切り上げようか」
「ふむ」
「この時間だ、みんなにも悪いし、迷子ならきっと誰かに保護されていると思う」
「それは楽天的すぎるのでは?」
「そう思わないと、僕も父さんみたいになりそうなんだ……。許してくれ」

フレッドは目が笑っていないディオルに、何も返せなかった。ディオルとは違い、フレッドは一人息子である為に兄弟関係の感情はよくは分からないからだ。
一息ついたディオルは、使用人達に一度戻るよう連絡をいれていると、突然、ティアからの着信が入った。
彼は救われた気持ちで、デバイスを手に取り通信に応じる。
すると、いつもの可愛らしい声ではなくドスの聞いた男の声が耳に響いた。

@@

早朝の朝6時、キリヤナギはまだ眠っていた。
太陽はもう眩しい程に輝き、人びとに1日の始まりを知らせている。
眩しいほどに差し込む朝の光にも動じず、目を覚まさないキリヤナギの横で、ナビゲーションデバイスが鳴り始めた。
赤い警告灯が点滅するのは緊急のものだが、キリヤナギはまだ起きない。鳴り響く騒音に気づいたグランジが、音もなく部屋に現れ、かわりに出た。

「セオか、どうした?」
「”グランジ。早朝からすみません。つい先程、混成騎士団からの応援要請がありまして……”」

スピーカーの向こうから、何かを炒める音が聞こえてくる。セオもまた朝の支度をしていたのか。慌ただしく朝食を作り、セオはグランジに概要を説明する。
内容は富裕層の娘の誘拐事件だ。犯人は今日の午後までに身代金をよこせと連絡を入れてきたと言う。
ここまではよくある話だ。だが、ナビゲーションデバイスの通信記録から位置を辿るも、そこは何もない空き地で、位置を辿ることができなかったらしい。

「探すのか?」
「”違います。実はさっき、騎士団に犯人グループの位置を告げる通報もきて……”」
「……」
「”敵はモーグ海域の真ん中。飛空城を拠点にしているのが分かりました。そこで、タイタニアの部隊で協力して欲しいと……”」
「なるほど」

「ん……眠い……何?」
「応援要請だ。準備をしろ」
「へ、それ僕のせりふ……」

文句を言う暇もないまま、キリヤナギはグランジに叩き起こされてしまった。出来るだけ手早く朝の支度を強いられ未だに意識がうつらうつらしている。立て篭りは厄介だ。しかも飛空城とくれば、忍び込むのも難しい。
騒がしくなった屋敷に、ハルトもまた様子を見にくると、服を雑に着ているキリヤナギと気にせず状況を説明するグランジがいて、困惑してしまった。
また奥にはサイバーインターフェイスの向こうに、家族の朝食を用意するもう一人のエミル。
エミル・アストラリストのセオもいる。

「どうした?」
「お仕事……。あと一時間寝たかったのに……」
「”本音は身を滅ぼしますよ”」
「何も言ってないよ……。それで、被害者はどこの貴族?」
「”被害者は……フラワージュエリーのアミュレット家とは、ご存知ですか?”」

その瞬間。上着を羽織っていたキリヤナギが動きを止めた。後ろのハルトもまた絶句して固まっている。虚ろな意識が一気に冴えて、キリヤナギは後ろのハルトへ振り返った。

「”犯人はグループは、娘を捉えたと言って食料と身代金を要求しています”」
「おい!」
「ハルト!」
「詳しく聞かせろ!!」
「分かったから落ち着いて!! 大丈夫だから!」

キリヤナギもまだ状況しか分からない。
しかし、上手くやらなければならないと言う事は分かった。
ハルト自身、貴族が保護したとばかり思っていたのに、それは飛んだ勘違いだったらしい。

「助けるから!」
「”誰かおられるのですか?”」
「友達だよ。大丈夫」
「”……分かりました。混成騎士団モーグ隊は、一時間後に元宮にて打ち合わせをしたいと”」
「分かった。じゃあとりあえず、タイタニアの子を出来るだけ沢山呼んで、ホライゾンも、あと弓とか銃、飛び道具使える子もお願い」
「”了解しました。一応もう本部でも体制はできています”」
「ありがとう、すぐ行くよ」

「キリヤナギ、俺も……」
「いいよ。来てもいいから呼ぶまで待ってて……」
「今すぐいかせてくれ」
「今来てもやることないし、決まったら呼ぶ。外の人がいてもみんな困惑しちゃうから……お願い!!」

両手を合わせてお願いされ、ハルトは拍子抜けした。冷静になれと言われても無理だが、確かに昨日、必要が無いと言われたばかりだ。
大きく深呼吸したハルトは何も言わず背中を向ける。

「ごめんね。グランジ、いこ」

足早に部屋を出て行くキリヤナギをハルトは見送る事もできなかった。
何故こんなにも自分は無力なのか、彼女と一緒に居た時のあの充実感は何処へ行ってしまったのか、考えれば考えるほど答えは矛盾し、ハルトは乾かして貰った服を受け取り、1人街へ出かけた。
こうしている間にも彼女がどんな目にあっているか想像がつかない。
しかし、今のハルトには何もすることはできなかった。

「朝から時間を持て余して、君はえらく暇なんだね」

昨日聞いたばかりの声にハルトはまた絶望を感じた。後ろに使用人を控えさせている金髪の青年。
馬鹿げた条件をだしてきた貴族だ。

「ティア姫が危機だというのに、情けない」
「……本当に心配しているなら、自分で探しに行けばいい」
「丁度、今から探しに行く所だ」
「使用人がだろ……口だけしか能が無い癖に偉そうにほざく」
「偉く元気じゃないか。昨日の件、考えてくれたかい?」
「何の話だ? 俺が思い出す前に、さっさと失せろ性悪貴族!」
「……たかがチンピラ分際で……敬語すら使えないとは、ティア姫が聞いたら悲しまれるだろうね」

ハルトは舌打ちをして、彼に背中を向ける。この貴族との会話に何一つ意味はない。相手はただ、ハルトを罵りたいだけなのだ。
無様な自分を追い立て、それに優越感を感じている。

「逃げるのかい? 君もまた口先だけの低脳ドミニオンだと分かって残念だよ。これだから下界の種族は……冥界がいつまでたっても奪還されないのも分かる……」

ハルトはこの言葉に抑えていた何かが切れた。彼はハルトだけではなく、この世界にいる全てのドミニオンを罵倒したのだ。
許せない。振り返り足に力を入れた直後。

「そのお言葉は、余りにも心がありませんね……」

間から、新しい声が響いた。
現れたのは白と黒で小綺麗に纏めた黒羽のアークタイタニア。リードに繋いだ狼を連れ、脇にはもう1人のエミル族がいる。
両腰に金の銃を下げるその男に、ハルトは見覚えがあり、彼は武器に手をかけるハルトをなだめに来た。

「すんません、ここ町中なんで……」
「あんた……、この前の」

覚えていてもらえた事にジンは少し嬉しくなった。カナトと2人で散歩に来ていたエミル・ガンナーのジンは、路上で口論をする二人が気になり、観察していたのた。
面識もなくお互いに名前も知らないため、問題がないなら立ち去ろうとしたが、ハルトが激昂し武器に手をかけたため、間に入ることにした。

「何だお前達は……? 私はそのドミニオンと話をしていたのに」
「詳しい理由は存じません。しかし、先ほどのお言葉は、我々三種族が平等に暮らすこの町に不相応かと……」
「どこが不相応なんだい? 仲間の危機であるにも関わらず一人ぶらついているだけとは……裏切りも甚だしい」
「一人で動く行為こそ愚行でしょう。冥界の彼らは、ただ仲間を求めこの世界に来ているにすぎません。それを裏切りとするのは、余りにも極端では?」
「口は達者だなアークタイタニア。だが私は間違っているとは思わない。彼がこの場で何もしていないのはまぎれもない事実だからね」
「あなた方がどのような関係なのかは存じません。しかし、先程お聞きした”危機”が、あなた方にとっての共通点ならば歪み合わず協力することも大切なのでは?」
「ほう、でも私が彼に協力を求めても彼は……」
「協力と虐げる事とは違う。貴方もまたその態度を改めない限り、この溝は埋まらないでしょう。もう少しお考えになられては如何か」
「はははっ。雇うのはこちらなのに気を使えか。偉く態度のでかい下っ端だな。まぁいい、今回は納得したよ。この地にも教養はある人間がいて安心した。まともな会話ができている」
「それは光栄です……お言葉はから偉く名誉のあるお名前をお持ちなのでしょうが……」
「私はフレッド・コントラクト。モーグの炭鉱を管理する父さんの一人息子だ。私の家は沢山の人々を支えているからね。私はティア姫を迎え、将来それを継ぐ」
「ご立派な立場をお持ちで……」
「おまえの名前だけは覚えておいてやろう。私に刃向かうぐらいだ。よほど大層な家柄なのだろう?」
「名乗らず大変失礼を、私はカナト・F・メロディアス。父を堕天・ルシフェルに持つ天界人です。以後お見知りおきを」
「だ……」

フレッドの息が止まるのがわかった。ジンはいつも通りでよく分からないが、ハルトもまた言葉を失っていた。屋敷に仕えていた為に、ある程度の違いは分かるからだ。
この世界の貴族には大まかに分けて二つある。
一つは、フレッドやティアの様に両親がビジネスの成功を収め、様々な人々を支えてゆく地位にある貴族。
二つ目は、封建主義により王からその領地を守るよう任されている領主としての貴族だ。
前者は個人の成功によるものである為、社会的な権力とは別の枠に属するが、
後者は、国家的な実権において絶対的な権力者にも近い。
メロディアスはその中で、天界の領地を納めるとともにエミル界でのナビゲーションデバイスの技術提供も行う、エミル界有数の大企業だ。
フレッドの家もまた、ナビゲーションデバイスの製造過程に必要な貴金属を提供している取引先でもあり、下手に扱うとどうなるか分からない。
愚行が本家に知れれば、契約に支障をきたし最悪の場合倒産してしまう。

「確かコントラクト家からは、ナビゲーションデバイスの製造に必要な貴金属を提供して頂いていると聞いております。この場でお会いできるとは……」
「……」

フレッドが何も言わない。
当たり前だ。大きく構えた手間、引き下がることも出来ないのだ。何も口にしないフレッドの代わり、後ろの使用人が前にでてきてカナトに何度も頭を下げ始める。

「私は気にしてはおりませんが、モーグの地で未だ種族間の偏見がある事を知り、残念でなりません」

フレッドを睨むと、彼は歪んだ笑みをみせた。
複雑だろう。自分の後ろ盾がすがっている家の御曹司が今目の前にいるのだ。だが所詮、息子同士の戯言となれば穏便に済む。

「いい話ができました……。私はこれで、失礼いたします」
「またモーグにお伺いしたときに、是非」

カナトのにこやかな笑みに、ジンは初めて恐怖を感じた。いつもならこちらをバカにしたような笑みなのに、今のカナトは完全に社交辞令の笑みだからだ。正確な理屈とか立場はジンには上手く理解できないが、立場の高い人間への対応に毎度感心する。

「おまえ、そんなすごいの?」
「すごくはないぞ。相手が勝手に気を使うだけだ。今の私は、ただの一般人だからな」

こうとしか言わない。
しかし後ろのハルトも意味深な目でカナトを見ていて、やっぱりすごいのではと思う。

「カナト……さんか……すまない」
「あのような方にまとわり付かれ、苦労されたでしょう。これで諦めてくれるといいのですが……」

「あの、俺エミル・ガンナーのジンっす。剣士さんだっけ? 総隊長の知り合い?」
「あ、あぁ、ハルトだ。イクスドミニオン・グラディエイターのハルト……」
「前にすごい強かったし、カナトとも話してたんですよ! 演習でもちょっと見たことあるし!」
「そ、そうか? ……あぁ、でもコンクールでは、助かった……ありがとう。でもなんで、間に……?」

「以前、種族間でのいざこざに巻き込まれた経験があり、気に入らないと思っただけです。お気になさらず」
「……そうなのか?」
「アクロポリスはまだしも、他国にあのような貴族がまだおられる事に驚きました。今度また伺いに行きたい」

何をしにいくのだろうと、ジンは内心で戦慄した。あれ程まで怖がった相手に敢えて会いに行くのは、嫌がらせにも近いと思う。
呆然とするハルトを気遣い。カナトとジンは、近くのカフェテラスまで足を運んだ。フレッドに絡まれていた事情を聞くつもりではあったが、事態は2人の思う以上に深刻だった。

「なるほど、誘拐ですか……」
「今日の午後までに、身代金を要求されているらしい……」

「総隊長はどうしてんすか?」
「モーグの騎士団と打ち合わせをしているみたいだ、待ってくれと言われている」

「当然でしょう。動くためにもまず仲間で打ち合わせは必要です、ジンにも連絡が来るんじゃないか?」
「来んのかなぁ……」

ジンはキリヤナギから、カナトを守れと言われている。武器の使い勝手の良さから個人での頼み事も良く聞くが、カナトとは無関係な貴族の事件に果たして呼ばれるのだろうか。

「……わからないんだ」

当然ぼやいたハルトに、2人が口を噤んだ。
俯き深刻な表情をみせるハルトは、何かに戸惑い、言葉を探しているようにも見える。

「俺はあいつを今すぐにでも助けにいきたい。でもそれは……ティアにとってどうなんだ。俺が会いに行っても、もう俺はあいつの側には戻れないのに……」

絞り出された言葉に、2人は同情しか出来なかった。
失った信頼はもう取り戻せないが、一つだけ確かな事がある。

「俺、詳しい事情とかはわかんないすけど……」
「……」
「今がもし、一番大変な時期なら、自分で後悔しないようにケジメはつけたほうがいいんじゃないかなって」
「ケジメ……」
「だって、ティアちゃん……だっけ? 喧嘩してないなら話もせずに追い出されたって事だし、向こうも整理ついてなさそうだし……お互い後悔しないためにもさ……」

「ジン、あまり簡単に言うな。身分の違いとは感情論でどうにかなるものではない」
「そうかもしれねぇけど……」

「いや、ジン。ありがとう。一応キリヤナギには参加させてくれとは言ってあるんだ……冷静になり不安にはなったが、そうだな……」

「へー」
「初めから決まっておりましたか、ならあとは貴方次第でしょう」

事態がどう転ぶかはわからない。
しかし、彼女を助けたいと本能で感じたのは紛れもない事実だった。
自分勝手だろう。彼女の気持ちなんて何一つ考えていない。でもそれでも、彼女の為に何かできるなら最大限に動いてみる価値はある。

そう心に決めたハルトの元へ、キリヤナギからナビゲーションデバイスの通信が届く。


つづく

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本編 | 【2017-02-06(Mon) 00:00:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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