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(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

歌姫と過去の敵の話

出演:ティアさん ハルトさん グランジさん セオさん


あらすじ
アクロポリスの貴族街。ここの屋敷の庭園にいる一人の少年は、イクスドミニオン。
そんな彼の後ろから、一人の小さな少女が真っ白な翼をはばたかせて現れた。
彼女の手にあるのは、アクロポリスで開かれる歌謡コンサートのチラシ。
アークタイタニア・カーディナルのティアは、交際相手であるハルトに、そのコンサートで出場したいとお願いするのだった。



 

アクロポリスの貴族街。この傍に高い声が響いていた。
小鳥がさえずる様な声は、そよ風に流れ、手入れされた庭園の隅々まで響きわたってゆく。
その声に誘われた様に、今1人の青年も足を止めた。
黒のレザージャケットは花々が咲く庭園中での一点の黒で、背中に生える黒い翼もまた邪悪な雰囲気を纏っている。

彼がこの場に来たのは、何者でもない彼女に会う為だった。
それに何の理由もない。
ただ話したいが為にここへ来たのに、彼女はいつもそれを心から受け入れてくれる。

途端、歌が消えた。
こちらに気づいた彼女が歌を辞めたのだ。
残念とも思ったが、

「ハルくん。待ってた」

このひまわりの様な笑顔もまた、青年にとっての宝物だった。

@

「コンクール……か?」
「うん。メイドさんが、こんなのあるよって」

昼下がりの午後。
屋敷に専属護衛として仕えるドミニオンの青年イクスドミニオン・グラディエイターのハルトは、この家の一人娘たるアークタイタニア・カーディナルのティアと共に、午後のティータイムを楽しんでいた。

ティアが持ち出したのは、アクロポリスの富裕層が集まる歌謡コンクールのチラシで、ハルトは少し驚いた表情をみせる。
アミュレット家の娘。ティアは、普段から歌のレッスンを続けてはいるが、自分からこのようなコンクールへ出たいと言い出したのは、初めての事だったからだ。

珍しいと感じながら、チラシを読み込むハルトの横で、獣耳の青年リュクスは、怪訝な瞳でこちらを睨んでいる。
リュクスは、アミュレット家に雇われており、彼女の身の回りの世話を任されている使用人だ。
そんな彼がハルトを睨むのは、リュクス自身コンクールに関して協力的ではなく、ハルトに対し断って欲しいと言う一つの意思表示だろう。
深い理由はわからないが、目の前にはにかむ彼女をみてハルトは素直な感想がうかんだ。
彼女の歌が聞きたい。

「いいんじゃないか……」
「本当に! ありがとうハルくん。……それでね。一つお願いしたい事があるの……」

ティアは少し困ったように、ハルトの目を見つめ直した。

@

「う、わ……」
「? どうかされました?」

アクロポリス。ギルド元宮の執務室でキリヤナギがかつてない反応を見せた。
部屋の掃除に来ていたセオと、お菓子を頬張るグランジがその声に反応して視線を移す。
だが、何も言わないキリヤナギはそっとデバイスを閉じて、机においただけだった。

「どうかされました?」

2回目の問いは、若干苛立ちが混じっている。
反応してしまった手前、何もないとは言いづらい。
キリヤナギは少し悩み、しどろもどろして口にした。

「懐かしい人から……メールが、来た」
「ほぅ、どちら様です?」
「え、えんしゅうの人が……会いたいって」
「演習……? 合同演習はもう終わったのでは?」
「そうじゃなくて、昔の……僕が一般人だった時の……」
「おや、懐かしい。何年前ですか?」
「軽く10年は空いてるかも……、当時、結構競りあってたんだけど……、絶対嫌われてると思ってたのに」

「なぜだ?」
「僕がガーディアンなのに、物応じせず向かってくるし、見かけたら周り構わず突っ込んでくるし、なんどやられたか覚えてないし……」
「負けたのか?」
「演習は一回だけじゃないよ。勝ちもしたし、負けもしたさ。でもそれでも、なんかすごい敵視されてるみたいだったから……」

「そんな方が何故今更」
「わかったら苦労しないし……」

キリヤナギからすれば複雑な仲だったのだろう。
当時、敵として競っていた中で、キリヤナギは何も言わず演習をやめた。
もし相手がまだアクロポリスに住んでいるのなら、キリヤナギが今どのような立場であるかも理解している筈なのに、今更連絡をよこしたのは何故だろう。

デバイスと睨めっこする様を見て、グランジはクッキーをつまむ手を止めた。
しばらく黙り、まるでぼやくように口にする。

「……会えるうちは、会った方がいい」

つぶやかれたグランジの言葉に、キリヤナギは顔を上げた。
確かに、いずれ会えなくなるかもしれないなら、会えるうちに会った方がいい。

グランジからそう言われれば、説得力も倍増ししてキリヤナギは顔をしかめたまま、述べた。

「じゃあ……会ってみる」
「喧嘩を売られても買わないで下さいね」
「もう子供じゃないし……」

彼と知り合ったのは、キリヤナギがまだ10代の頃だ。
ガーディアンの試験を首席で通り、その強さを買われて誘われた。
ある程度戦えて、ガーディアンとしての立場を守るキリヤナギは、軍でそれなりに重宝されたが、演習に関して強さを求める彼には、受け入れがたい存在だったらしい。
しかしそれでも、人数の調整から同軍でやったこともあるし、友人経由でアドレスは交換していて、顔も見たくないと言う程でも無かったと思う。
全く知らない相手とはまた違うが、そんな相手に対し、キリヤナギはなにも言わず演習から去った。
相手がこちらを敵視し、ライバル視していると知っていたのに、なにもしなかったのだ。
なにも言わず、リングを纏め貴族になってこの場にいる。

「怒られるかな……」

帰宅し自宅のベッドでキリヤナギはそうぼやいた。
相手に了解のメールを返すと、思ったよりも気さくな対応で帰ってきて、すぐにスケジュールも決まり、今週の休日に会う事になったのだ。
当時は殆ど話したことはなく、安心はしたが、やはり不安はぬぐえない。
タルトを嗜むグランジは、こちらを見ようともしないキリヤナギに吐きすてる。

「……知らん」

そうだろう。
グランジに出会う前の知り合いだ。
会った事のない相手の反応など分かるわけがない。

「……元気なら、それでいいよね」

久しぶりに会えると思うと、楽しみにもなってくる。
元気だろうか、何をしているのかと興味がわいてきたが、当時を思い出すとびくびくしていた自分もいて、キリヤナギは複雑な心境のまま眠りについた。

@

「何故隠れる?」

当日、待ち合わせ場所となる西側の噴水広場を前にして、キリヤナギはグランジの後ろで尻込みしていた。
休日なので私服だ。
身分を隠す為にワイシャツに武器を下げただけのラフなもの。
グランジには迷子防止の為に同行を頼み、盾になってもらっている。

「やっぱり恐いぃ……」
「何故だ?」
「だって、怒られそうだし、嫌われてそうだし、なに言われるかわかんないし……」

ため息をつくグランジは、何も理解していない顔だ。
こちらの心配など知った事じゃない。

キリヤナギが、グランジの肩の向こうになる噴水広場を眺めていると、彼がふと、東側の噴水広場に目線を向けた。
待ち合わせ場所を間違えただろうか。
前に乗り出し、東側の噴水も確認していると、突然キリヤナギの肩に手が載せられる。

「うわぁ!」

驚いて尻餅をついたが、見上げると黒服に黒髪のドミニオンがこちらを見下ろしていた。

「悪い、驚かせたか……?」

懐かしい声だ。
10年前から少し低くなった気がする。

「はる……と?」
「あ、あぁ、久しぶりだな」

グランジを見上げると彼はそっぽを向いている。
彼は、近くにいたハルトに気づかせる為にあえて東側をみて、キリヤナギをよく見えるようにしたのか。
油断して嵌められてしまった。

「おまえ、変わってないな」
「へ、そ、そんなことないし……」

ハルトは笑って手を差し伸べてくれる。
懐かしい。
彼はイクスドミニオン・グラディエイターのハルト。
当時、他軍の主力として名を馳せた剣士だ。
同軍で初めて戦う時、キリヤナギはハルトを怖がっていたが、本隊後に座り込んだキリヤナギを、こうして気遣ってくれたのを覚えている。

懐かしい気持ちで手を取り、助け起こされたが、恥ずかしくもなり、キリヤナギはハルトと目を合わせる事ができなかった。
そんな中、彼は横にいるグランジに目を向ける。

「そっちの人は?」
「えっと……グランジ。僕の従者……」

グランジは黙っている。
一礼するのを見ると気を遣ってくれているのか。

「グランジさん、こいつまだ迷子になる?」
「なる」

「即答しないでよ!」

容赦がなかった。
そうして三人は、付近のティーラウンジに入り、カフェテラスに席を取る。
グランジは軽食を注文して、2人はアイスティだ。

「なんかすごい不思議な感じ」
「……そうか?」
「うん。当時はこんな時間なかったし……」
「まぁ、演習でしか会わないしな」
「今は何してるの?」
「一応、専属護衛として屋敷に仕えてる」
「傭兵じゃなくて? すごいじゃん」
「屋敷のお嬢様に気に入ってもらえたんだ。もう大分長い」
「へぇ……、身分を考えると大変だったんじゃ」
「そうだな……。でも今は大分信頼されたし、十分ではある。おまえは?」
「えーと、知っての通りだと思うけど……」
「どういうのなんだ?」
「うーん。僕のリングがギルド評議会の傘下に入ってたんだけど、最近は自治権限において騎士団と同じぐらいかな。アクロポリスの周辺地域は、僕の権限で守るようになったよ」
「……すごくないか?」
「そうかな?大変だったけど、今は落ち着いてるよ」

グランジはもくもくとサンドを頬張っている。
数秒の無言の中、キリヤナギはハルトの視線が下を向いたのに気づいた。

「……おまえに、頼みがある」
「僕に?」
「今度、貴族街で歌のコンクールがあるのは知ってるか?」
「あぁ、部隊でも警護する予定だけど……」
「キリヤナギ。お前にも来て欲しい」
「へ……なんで?」
「俺が仕えている屋敷の令嬢が、祖母に渡された品を持ってコンクールに出たいっていうんだ……」
「形見?」
「エミル界には存在しない鉱石らしい。何度も奪われかけたが、守り抜いてきた……」
「騎士団の人も何人かいくよ?」
「騎士団を当てにしたくはない。演習は確かに楽しませてもらった。けどあんな娯楽にしか本気を出さない連中は信用できない」
「……そうかもしれないけどさ」
「だから、お前に頼みたい……。守るのは得意だろ?」

真っ直ぐな目線に問われ、キリヤナギは何も言えなくなってしまった。
キリヤナギは戦うのは苦手だ。が、確かに、守るのは得意だからだ。
当時は殆ど話したこともなかったのに、今キリヤナギはハルトに、当時の実力で買われている。

戦闘において、戦うことと守ることは混合されがちだが、大人数における本隊戦に関しては、役割に大きな差異がある。
戦うことは、相手をねじ伏せ、敵の戦闘力を削ぐことだ。
逆に守ることは、自軍の戦闘力の保持を役割とする。
演習という一つのゲームでは、いかに自軍の戦闘力を削らず、敵の戦闘力を削ぐかによって本隊戦の勝敗が決まるのだ。

ハルトはグラディエイターであり、敵の前衛をねじ伏せるのが得意だった。
逆にキリヤナギはガーディアンで、自身が盾になり、後ろに控えるスペルユーザーを守るのが得意だった。

ハルトはそれをずっと覚えていたのだ。
お互い何度も戦って、お互いを知りすぎているから、今その実力を買ってくれている。

「俺は、俺を受け入れてくれたティアの願いを叶えてやりたい。だから、キリヤナギ。俺と一緒にティアを守ってくれ」

かつての敵に頼まれてしまった。
何も言わず消えたのに、何かをした覚えもないのに、ただ実力を試しあっていただけで、人はここまで信頼されるのか。
10年と言う時間を超えた願いに、キリヤナギはしばらく呆然としたが、

「……いいよ」
「……え」

拍子抜けしたハルトの反応にキリヤナギもまた、拍子抜けした。

「へ?」
「い、忙しくないのか……?」
「忙しいけど、なんとかするよ?」
「え……」
「な、何その……うれしいのか、がっかりかよくわかんない感じ……」
「お前……」
「だって、そんな風にいわれたら断りようがないし……、そうやって説得されたの初めてだから」

前に出るばかりで忘れていた。
キリヤナギは、戦いは得意ではないのだ。
あくまで守るのが得意なだけで、人を倒すのは苦手だ。
必要に駆られ、戦えるようにはなったが、何かが違うと心のどこかで思っていた。
それが、戦うことと守ることの違いなら、ハルトは、キリヤナギがずっと忘れていた事を思い出させてくれたことになる。

「ありがとう。キリヤナギ」
「こちらこそ、僕、戦うのは苦手だけど、守るのは得意だし……任せてよ」

「誰を出す?」

グランジの横槍に、キリヤナギは少し考えた。
今回はハルトの個人的な話で、総隊長としての権限は使えない。
ならば必然的に騎士隊の彼らに頼む必要がある。
敵の規模も考え、対応できる彼らを選ばなければならない。

「ティアをつけ狙う窃盗集団の目星はついてる。アレを屋敷から出すのは今回が初めてなんだ。絶対にくる」
「……そっか。なら確実に抑えようとするだろうし、できるだけ大人数に対応出来ればいいね」

まずグランジは必要だ。飛び道具を持ち体術もできるなら、狭い屋内でも十分に動けるだろう。
セオは広範囲に強いが、屋内での魔法は他の来訪者を巻き込む可能性もある上、性質上、近距離での対応も難しい。
スィーなら被害はないだろうが、彼自身、守るタイプでもあり戦うのが苦手だ。
必要なのはコウガと、

「……」
「どうした?」
「うーん……」

メリエが恋しい。
キリヤナギと同じガーディアンである彼女は、戦いも守備もこなす優秀な戦士だ。
彼女が居てくれれば、どれだけの人数に対応できるだろう。
しかしやはり、現実は非情だった。

「何でもないよ。僕を含めた3人でなんとかする」
「……そうか。お前がいるなら安心できる。頼むぜ」
「僕も戦えるようになったし、任せて」
「そうなのか……? 俺としてはティアの盾になって欲しかったんだが」
「盾にもなるよ、でも武器にもなれたら強いでしょ」
「そう、か……」

ハルトは納得してくれたようだった。
懐かしむような清々しい表情で、2人はもう一度握手をして別れる。

@

当日、キリヤナギは早朝から自宅に近衛騎士を招集した。
現れたのはとタイタニア・グラディエイターのコウガと、

「ここ最近はえらく貴様に会う機会が増えたな」

キリヤナギは目を合わせたくなかった。
フォーマルな礼装に身を包み、胸へ花を刺す黒羽の彼は、アークタイタニア・ジョーカーのカナト。
彼は現在、一般人ではあるが、キリヤナギが仕えた家の跡取りでもある。

「ジン……」
「だから期待しないでってメールにかいたじゃないっすか!」

新人の言い訳が煩い。
カナトと共にいるのは、キリヤナギが雇う近衛騎士の一人、エミル・ガンナーのジンだ。
ジンは普段、一人暮らしをするカナトと同居してもらっている為に、普段は声はかけないようにしているが、今回は状況的に銃が必要になる為に呼び出した。
ジンと仲がいいカナトは、おそらく今回の件を聞き出し興味本位でついてきたのだろう。
キリヤナギ、グランジ、ジンの3人で、コンテスト会場を警護するつもりではあったが、カナトが来てしまっては守る手間が増えて厄介である為、ジンにコウガと交代するように伝えていた。

「コンクールの話は、ジンに聞く前から耳には入っている」
「へー……」
「私の音楽の師が、審査員として参加されているので、楽曲の演奏しないかと誘われていた。ジンに聞いて断ったが、顔だけは出した方がいいと思ってな」
「よく出来た言い訳に聞こえるけど、いいよ。あんまり派手に動かないでね」
「私も火中に飛び込むようなことはしない」

火中になると分かっているのに、あえて来るとはどう言うことなのか。
しかしここまでは予想できた事だ。
キリヤナギは、カナトの護衛をコウガに任せ、別働の一般客としてジンとグランジと会場へと向かう。
今回キリヤナギは、数名の部隊員と別にコンテストに招かれた貴族として会場入りする事になった。
よって、彼を含めた三名も礼装にマントを羽織る貴族の私服できている。

「グランジ分かる?」
「まだ分からん」

「何がっすか?」

会場の外から、紛れ込んだ敵を探る。
殆どが武器を持たない一般客ではあるが、懐に武器を隠し膨らみがある人間がちらほらおり、護身用なのか、それともこれから始まるの事のための物なのかはわからない。
特定まではいかないが、目的がはっきりしているのによくわかっていないジンは鈍いなぁと思う。

「入り口どっちだろうって……」
「えぇ……」

ジンはわかりやすい。
悟られない為にも、ジンには教えない方がいいとキリヤナギは判断した。
余計な心配をするのは、キリヤナギとグランジだけでいい。
ジンに案内地図を渡し、キリヤナギもまた会場入りする。

@

コンクール会場の控え室は、様々な貴族達が集まるとても広い部屋だった。
明るい大広間にはパーティ会場のようにライトが輝き、花や多少の軽食まで用意されている。
専属護衛であるハルトは、ティアの付き添いで社交界の経験もあるためにあくまで緊張はしていなかったが、
周りから感じる視線に、ハルトは警戒していた。
ティアと共に会場に入りしてからと言うもの、周辺のありとあらゆる場所から視線を感じ、周りの空気に違和感を得た。
何処からか誰がそうなのかまでは分からないが、此方を意識するような気配でもあり表情が強張る。

「ハルくん……?」

メイクをしていたティアがふと此方へ目線を向けた。
不安そうなその瞳は、此方を心配するように見上げていてハルトは思わず我に返った。

「ハルくん、ずっと怖い顔してる……」
「……そうか? 悪い」
「なんかごめんね」
「ティア……」

ここへ来てからずっと落ち着かず、周りの気配を探るのに気を取られていたのは事実だ。
いつ敵が現れるのか警戒し、牽制として周りに威圧をおくる。
その結果、控えていたボーイや使用人すら寄り付かなくなり、ティアは自分でメイクをする事になってしまった。

昔の血が騒ぐと言うのもあながち間違いではなく、キリヤナギと肩を並べるのが久しぶりで、楽しみとすら感じている節もある。
が、今日は違う。
確かに戦うかもしれないが、今日は守るために来ているのだ。
ゲームをする訳ではない。
敵を倒すゲームではなく。彼女を護衛する為にきているのだから、彼女の心もまた大切にしなければいけない。

ハルトはそっと、ティアの肩を抱き彼女へと寄り添った。安心させる為に優しく抱き締め周りに聞こえないよう耳元で優しく囁く。

「早く順番来るといいな……」
「え……」
「早く、ティアの歌が聞きたい」

元気付けるいい言葉なんて思いつかない。
だから、素直な気持ちをそのまま伝えた。
いつも通り、その声を聞いているだけでハルトは幸せだから、

「ハルくん、ありがとう」

彼女は笑ってくれた。
朗らかな花のような笑みをみせてくれて、ハルトもまた肩の力を抜く。
それに安心したのか、ティアは胸に下げるペンダントを握り願いを込めた。

「聞いていて下さい。おばあちゃん……」

間も無く彼女のコンクールが始まる。


@

照明が落とされた会場でジンは必死に眠気に耐えていた。
コンテストの出場者達の歌が、総じて美しく心地よくハイレベルだからだ。
寝不足ではないが、薄暗い中で座り心地のいいソファに、室温もちょうど良く耐えるのにも苦労する。
うとうととおほ杖をつくと、突然耳を引っ張られ、ジンは叫びたい気持ちを抑えた。

「帰ってから寝ようね?」

隣に座るキリヤナギが厳しい。
グランジは別行動だが、ジンも出来れば別が良かった。
しかし、眠い。
あの歌声で眠ればどれだけ心地いいだろう。
大半は知らない曲ばかりだが、歌詞だけでもいい曲であることは分かった。
入れ替わる出場者の歌声を跳ね除けていると、ふとアップテンポな者が流れ出して、一気に目が覚める。
デイジーのデビューソングだ。

嬉しいがはしゃいでは行けないため、落ち着きながら聞き入るが、フルコーラスまでは行かず少しがっかりした。
しかしそれでも少し嬉しい。

キリヤナギはそんなジンをみて、少し呆れていた。
一人前にはほど遠いなぁと思いながら、周囲の気配を探る。
問題は、薄暗い会場で照明が段上のみと言う点だ。
事が起きた際に、非常灯で明かりは着くだろうが、それが回復するまでがネックで目を慣れさせて置かなければならない。
間も無く護衛対象の出番がくる。

ふと前を見ると前列の観客が頭を垂れていた。
また、後ろの席から寝息のような者が聞こえきて、振り返ると周辺の観客の殆どが眠っている。
隣の席も首が垂れており、キリヤナギは驚いた。
その眠っている客の傍には、希望者に配られるコーヒーカップがある。

「総隊長、俺もコーヒーもらっていいすか……」
「……だめ。ジン、くるよ」

へ、と言う間抜けな声が聞こえた時には、もう彼女が、段上に上がっていた。
途端会場の照明が落ち、影が動く。
観客席から黒服の人間が数名立ち上がり、壇上を目指して移動を始めたのだ。

舞台袖にいたハルトは、ティアを後ろへ押し込み、登ってきた黒い影に応じて、僅かな光に反射した金属を受け止めた。

その中で、ハルトは天井から接近しようとする人間に目が行っていない。
上から近づく影に、キリヤナギは急いだが、突然銃声が響き、上から降りてきた人間をグランジが撃ち落とした。

銃声が響いたことに、動揺していた観客は騒然とし、出口へと逃げ出す。
明かりはまだ着かないが、キリヤナギは向かってきた黒い影の短剣を、左腕にうけた。
礼装が割かれ、服の中に付けてきた簡易な盾にその刃が止まる。
そして、敵が下がったタイミングで”ブロッキング”を唱えた。

途端非常灯がついて、下がった敵は、構えていたジンの弾丸で撃ち抜かれる。

キリヤナギはそれを見て段上へ飛び乗り、武器を抜いた。
敵が武器を振るう前に踏み出し、短剣を回避したあと、敵の腿に細剣を突き刺す。
すぐに抜き、緩んだ手首から短剣の持ち手にある輪に切っ先を引っ掛けて武器を取り上げた。

そんな中で、ハルトが数名の敵と睨みあっていると、舞台袖がもう一人現れ、ティアを後ろから掴み上げる。

「ティア!」

振り返る一瞬で構えた敵が殴りかかってくる。
ハルトは、武器を抑える中。
ティアは首から下げたネックレスを離さまいと必死に抵抗していた。

「いや!」

取り上げられないとわかったのか、敵はネックレスのチェーンで首を絞め始める。

「やめろ!!」

ハルトが向かおうとした時、ティアを押さえた敵が後ろから蹴り入れられた。
頭蓋が揺れた敵は、前のめりに倒れ気絶する。
後ろから現れたのは、ジンだ。
ハルトはそれを見て、自分を抑える敵を押し返す。

「任せれるか?」
「へい」

ハルトは銃をもつジンにティアを任せ、後ろからキリヤナギに参戦した。
”殺界”で牽制し、突っ込んできた敵の武器を落として切りつける。
ジンは、後ろで耳を塞ぎ震えるティアへジャケットをかぶせると、ハルトが抑えきれなかった敵を撃ち抜いていった。
しかし、止めをささず倒しきれなかった敵がゆっくりと起き上がってくる。
ハルトと共に、数十名の敵に囲まれたキリヤナギは背中合わせ、敵と対峙した。

「手加減してるだろ?」
「わ、分かる?」
「きにしないでくれ、あいつは大丈夫だ」

気がつくとティアはジンに庇われている。
心配ではあるが、最も彼女を知るハルトがそう言うのなら、信じるしかない。

「……分かった」

キリヤナギは一泊おいて、敵に接近。
武器を交わし、腕に細剣を突き立てた。
またそのまま振り抜き、敵を斬りこむ。
途端キリヤナギの白い礼装に赤い模様が写り込んだ。
それを見た周りの敵が一歩さがり、キリヤナギが更に追い討ちをかけてゆく。

ハルトはそれを見て掻き立てられるのを感じた。

懐かしい。
かつての彼は、人を倒すことにすら躊躇いがあったのに、今はもう迷いはない。
変わったのだろうと、ハルトは思った。

当時、ハルトは確かにキリヤナギをよく思っていなかった。
演習という戦いの場で、守ることしかせず戦おうとしない姿勢はハルトにとって間逆の考え方だったからだ。
敵は、倒さなければ勝つことはできない。
勝つ為には倒さなければならないのだから、守ってばかりではいけない。
なのにキリヤナギは、結局最後まで戦うことをせず、消えた。
始めはせいせいした気分だったが、気がつけば淡々と敵を倒す為に演習にでている自分がいた。
何も考えていない訳ではない。
しかし、戦場で対峙して気分が高揚する相手がいなくなってしまったのだ。
絶対に倒すと、今日こそ自分の考えを分からせてやると向かっていた相手が消えていた。
その時にようやく自身の身勝手に気づき、ハルトは演習を止めた。
ティアに出会ったのもあっただろう。
キリヤナギが守ると言った意味も、今なら理解ができる。
そしてその上で、キリヤナギもまた学んだのだ。
学び、必要な敵は倒すと、お互いに欠けていた物を10年でお互いに学んだ。

強いだろう。
当たり前だ。10年前から認めていた戦友だから、

ハルトは”大車輪”から、敵を吹き飛ばし、ひるんだ敵を次々に切り刻んで行く。
キリヤナギと同じく、白い肌に赤い彩りを得て染まってゆく。

敵の数が一気に減りはじめ、逃げ出そうとした仲間が騎士団に抑えられていった。
襲ってくる敵の全てを片付けたとき、キリヤナギは少し辛そうだったが、今のハルトは、キリヤナギのその意思を理解できる。
戦うことが苦手な彼は、人を傷つける事を好まないからだ。

「ありがとう。キリヤナギ、助かった」
「僕も強くなれたかな?」
「俺のがつよいぜ?」
「ぇえ……」

負けず嫌いなのは、相変わらずだ。
派手に暴れはしたが、死人はいない。
みなギリギリで止められ窃盗集団は騎士団に捕縛された。
その後、コンクールは中止になり、出場者には参加賞のみが配られる事になる。
窃盗集団は、この機に壊滅しずっと屋敷を悩ませていた問題も解決した。
同席していたカナトは、コウガと共に一度会場から避難しており、事が終わった後にジンを含めた彼らと合流する。
そこでティアは、カナトを含めたキリヤナギ隊と始めて顔を合わせたが、間が悪いという事になり、後日また顔をあわせる事になった。

事件から数日後。キリヤナギはハルトに令嬢ティアの屋敷へと招かれる事になる。
同席したのはカナトとジンは、キリヤナギと同じく礼装を纏い、手には菓子折りを下げていた。
久しぶりに来た貴族の屋敷に、ジンは酷く緊張していて、生汗をかいている。

「えらく落ち着かないな……」
「慣れねえ……」

カナトに背中を差すられてようやく落ち着いてきた。招かれた側であるため大雑把でいいと言われたが、使用人の待遇が余りにもよく逆に戸惑う。
屋敷の正面玄関から突き抜けて庭園へでると、そこには朗らかに笑うアークタイタニアの少女と、ハルトがいる。

「こんにちは、この度はたくさんありがとうございました」
「ごきげんよう。この度はお招きして頂きありがとうございます」

「貴方が……メロディアスの? いらっしゃいませ」
「カナトと申します。こちらが、ジンと……」

「ご無事で何よりです。ティア嬢」
「貴方がキリヤナギさん?ハルくんの仲良しさんだ!」
「仲良し……かな。ハルト、僕のことなんて?」

「戦友と言ってある」
「違ってるような……あってるような……」

「ハルくん。お友達紹介してくれるの珍しいから嬉しい」
「そう……か?」
「そうだよー」

太陽のような笑みを見せる彼女にキリヤナギもまた安心した。
ハルトが変わった理由も、彼女をみれば納得が出来るからだ。
カナトがティアと共に世間話へ花を咲かせる中、キリヤナギはハルトの横でそれを眺める。

「ハルト、丸くなったよね?」
「そうか……?」

「あっ、グランジさんとジンさんも、のんびりして行って下さいね」

こちらに微笑まれた事に、ジンは思わず頬を染めてグランジに合わせて頭をさげる。

「ティア……」
「うん。大丈夫だよ。ティア・アミュレットは、皆様を心から歓迎します」

ティアはそう口にすると、深呼吸して庭園の中心へと降り立つ。
驚いた蝶が舞い上がるなか、彼女は鳥がさえずる様に歌い始めた。


……花が咲き誇る。パティオには……、

鮮やかな春が、降り注ぐ……。


コンテストで聞きそびれた歌を、彼女は心から奏で声に載せる。
首から下げる祖母の贈り物に思いを込め、歌に込めた。


願いはそう……いつかは、叶うの……


楽しそうに歌う彼女は、幸せそうに小鳥と遊び、飾りの様に蝶が止まっていた。
響き終えた歌に拍手をして、観客は彼女の歌を締めくくる。

「天国の祖母に届くといいですね」
「え? おばあちゃんは生きてるけど……」

……。
ハルトを含めた皆が固まった。



END






ティアたん(あちゅさん用)

アークタイタニア・カーディナルのティア
年齢:17歳
身長:152cm
誕生日:3月3日

アミュレット家の一人娘。
いつでも笑顔を絶やさず、明るく優しい安らぎを感じさせる女の子。
時々ズレたことを言ってしまうため、天然キャラと思われている。
人懐っこく男女関係なくフレンドリー。
感受性が豊かでとても感動しやすいが、ちょっとした変化に敏感に気づき傷つきやすい。
自分の意見は言うのが苦手で、流されてしまうことが多い。





ハルトさん(あちゅさん用)

イクスドミニオン・グラディエイターのハルト

年齢:25歳
身長:181cm
誕生日:6月12日


アミュレットに仕える傭兵。
クールな性格で、気持ちを表情に出さないが基本優しい。
いつも物事を冷静に判断する。
イケメンすぎるくらいイケメン。
物事の道筋が通らないことを嫌い、何事においても自分の考えや理論を持ってる。


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本編 | 【2016-05-22(Sun) 21:32:55】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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