プロフィール

詠羅P

Author:詠羅P
Lupi鯖:ダウンタウン
アイコン:セロさん

*更新情報
eco_JK ログ
カウンター
最新記事
お話一覧(時系列順
カテゴリ
拍手
web拍手 by FC2
リンク
JKツイッター
最新コメント
アンケート
QRコード
QR
権利表記

(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

キリヤナギ総隊長と猫との出会い
出演:ククリールさん、グランジさん、セオさん、

あらすじ
お忍びでダウンタウンまで出かけていたキリヤナギとグランジは、
黒猫のラオに連れられ二人でダウンタウンのスラム街へと入っていく。
そこで出会ったのは、猫の耳に狐のしっぽをはやした一人の少女だった。



 



「疲れた……」
「無理に来る必要も無かった」
「たまには外食したいって言ったのはグランジでしょ」

ダウンタウンの中央路地を、2人はゆっくりと並んで歩いていた。
時刻は夜。部隊員の中で話題になっているラーメン屋があり、治安維持部隊の総隊長、キリヤナギはグランジと共に屋台があるダウンタウンへ足を運ぶことにした。
騎士服から着替え、軽装に武器だけ下げるキリヤナギは、グランジから見ても何処にでもいる平凡なエミル族で、いまだ人々の足が途絶えないダウンタウンにも溶け込んでいる。
一応貴族である為に、余り出すぎた事は出来ないが、冒険者から貴族になっても、キリヤナギはジャンクフードが好きだった。
部隊員に勧められたラーメンの屋台は、流行っているのか大行列ができていて、キリヤナギは思わず立ち止まったが、当然のように並ぶグランジになにも言えず、結局2時間近く並んで夕食をすませた。

酷い空腹からの食事で、眠気がひどい。
グランジに起こされつつ夜道を歩いていると、後ろから舌を巻いたような小さな鳴き声が聞こえてきた。

「ラオ……」

ケット・シーだ。
頭に王冠をのせた黒猫は、周りの人気を察して、言葉を話すことを控えている。
ラオは、グランジと一緒にキリヤナギの自宅へ住み着いているが、グランジやディセンバルには懐くのに、キリヤナギを酷く嫌っていて、大体グランジと居ると姿を消しているのに珍しい。

「どうしたの?」

ラオは身を翻し、ダウンタウンの狭い路地へ姿を消した。
後を追いはじめたグランジに、キリヤナギも仕方なく続く。
古い建物が並ぶ路地を進むと、少しずつ人気はなくなってゆき、気が付けば誰もいない小さな広場にでた。
また、その脇に小さな空き家があり、ラオはその空き家の開いた窓から中へと入ってゆく。

人の気配がない静かな場所だ。
グランジがラオを追って扉を開けると、壁際のベッドらしき場所に、ボブヘアーの一人の少女が横になっていて、キリヤナギが息を詰める。
駆け寄ろうとしたが、グランジが左手でさえぎり足を止められた。

暗闇でわかりづらいが、少女の後ろには体の半分以上にもなる9本のしっぽが生えている。
獣人はこの世界では珍しくないが、人と差別されない為に、その正体を隠していることが多い。
ここまで曝け出しているのは初めてだった。

「九尾……?」
「本物なら、危険かもしれない」

強力な魔力を持つとされる九尾は、知能が高く人間をも凌駕すると言う。
だが、賢すぎるが故に人を化かし、それが裏目に出てしまうことも少なくはなかった。
穏やかな表情で横になる九尾の彼女は、ラオにほおをくすぐられその大きな瞳を覗かせる。
人の気配を察したのが、驚いて飛び起きてしまった。

「誰!?」

九尾の狐、だと2人は思っていた。
だが、起き上がった彼女の頭には、狐の尖った耳では無く、三角の耳がついている。
その耳は、狐ではなくラオと同じ猫のものだ。

「こんばんは……、ごめん。びっくりした?」
「な、なんですか。貴方達は」

「その猫の飼い主だ」
「猫……。あぁこの子の、おまえここは内緒だよって言ったのに」

ラオを抱き上げ優しく撫でる彼女を、2人はしばらく見ていた。
黒を基調としたラフな衣服をまとい、後ろには武器らしい剣も携えている。

「女の子がこんな場所で一人なんてどうしたの? なにがあったの?」
「こんな場所って、ここは私の根城だし?」
「根城? ここに住んでるの?」
「住んでると言うか、たまたま見つけた感じ?」
「見つけた? 家は?」
「もってない」
「へ?」

唖然とするキリヤナギを、少女は気にも留めない。
キリヤナギはよくダウンタウンへ足を運ぶが、この少女の顔を見るのは初めてだ。
最近ここへ来たのだろうか。

「女の子がこんな場所で危ないよ」
「どうして?」
「襲われたらどうするの! この時間は騎士団も出入りしないし、獣人さんは攫われちゃうよ……せめて、アップタウンに……」
「アップタウンは、人がいっぱいいるから……」
「……? 人が苦手なの?」
「そ、そう言うんじゃないけど……」

少女は目を逸らしてしまった。
グランジはなにも言わず、キリヤナギの動きを見ている。

「ともかく、この時間のダウンタウンは危ないし、一度僕の家に……」
「あ、その方が怪しい、怖い……」
「へ?」
「貴方、いま攫われれるかも知れないって言ったし……」
「言ったけど、それは君がこんな場所で……」
「知らない人怖い。貴方こそ、私を襲うきなんじゃないですか?」
「なんでそうなるの、僕は……」

「キリヤナギ、自分の服を見ろ」

グランジに言われて我に帰った。
ばれない為に、今は私服で着ていたのだ。
いつも顔だけで通るので忘れていたが、初対面の相手に声を掛けられれば、確かに疑われても仕方がない。

「僕はキリヤナギ、このアクロポリスの自治を司る。治安維持部隊総隊長。この街で君に何かあることは僕のプライドが許さないんだよ……」
「へぇ……、なんか聞いたことあるけど、変態さんなんだ」
「なんでそうなるの! やめてよ!」
「だって、出逢い頭に俺のうちに来いって絶対おかしいし……」

「キリヤナギ、貴様、馬鹿だな」
「グランジ! 君が僕をここに連れてきたんだよね? この扱いひどすぎるよ!」

フォローすら入れないグランジは、間違いではなく方法の単純さに呆れているのだ。
腑抜けて紳士的な対応をしなかった自分が悪い。
誤解を解く手段を失い、キリヤナギが頭を抱えると、前の猫耳の少女が吹き出した。
小さな声で笑い、涙まで滲んでいる。

「あなた面白い……」
「面白くないよ……。僕に保護されるのが嫌なら、女の人よぶから待って」
「いいよ。悪い人じゃなさそうだし、ちょっとだけ付き合ってあげる。私はククリール。後ろの人は?」

「エミル・ホークアイのグランジだ。キリヤナギの近衛騎士として仕えている」
「え……騎士? 本物?」

「そうだよ……。だから誤解しないで……」
「 キリヤナギさんってそういう……」
「だからちがうよ!!」

「馬鹿だな……」

なにをしているのだろうと思う。
気がつけばラオは姿を消しており、三人は一度アップタウンにあるキリヤナギの屋敷へと戻った。
屋敷をみたククリールは、キリヤナギの述べた事が事実である事を知り、しばらくは呆然としていたが、現れた執事をみてようやく我に返った。

「おや、珍しいお客様ですね」
「ディセ、メリエの服あったっけ? 」
「ございますが……」
「明日まで保護するから、貸してあげてよ。僕は嫌われてるから、代わりに面倒見てあげて」

「別に嫌いじゃないけど……」

じっと睨むキリヤナギに、ククリールは何故か笑みで返す。
そのままなにも言わず、キリヤナギはククリールをディセンバルとメイド達に任せ、グランジと自室へと引き篭もった。
グランジは、ククリールの名前と種族から連盟に登録されているであろうと身元を捜していたのだが、

「セオから連絡がきたが、……ククリールと言う名前の冒険者の名前は存在しなかった」
「……」
「獣人としても登録されていない」
「保護して正解かなぁ……」
「九尾の知能は、格によって人間すらも凌駕するとされる、9本の尻尾から恐らく最上位かとは思うが」
「頭がよくても、一人じゃ限界があるよ。人里に下りてきたばかりなら、連盟の存在すら知らないかも」

ククリールは、冒険者連盟に加入していなかった。
武器を持っているのは、自身の生命の危機を自分で乗り越えてきたからか。

「……加入すると思うか?」

グランジの核心的な問いにキリヤナギは返答に迷った。
連盟の知名度など関係ない。
未加入と言うことは、彼女にそれを聞いた時、帰ってくる返答は二択になるからだ。

「……わからない。人嫌いみたいだし」
「拒否されたらどうする?」

キリヤナギは何も言えなくなってしまった。
返答に迷っていると、寝室の扉かノックされ、夜食を運んできたディセンバルと、メリエのネグリジェを着たククリールが入ってくる。

「やぁ、どうしたの?」
「部屋ひろいですね」
「そうかな? あんまり大きい方ではないんだけど、」
「と言うかグランジさんと2人……不潔」
「なにそれ……君の話をしてただけだよ」
「私の話?」
「冒険者連盟はいってないって」
「あぁ、面倒なやつだっけ、この街にきたばかりの時に勧められたけど……」
「入らないの? サービスも受けられて便利だけど」
「うーん。あんまり好きじゃないかな……って何で知ってるんですか?」
「名簿から探しただけだよ。偽名では無さそうだったし、僕は建前上、連盟に加入している人しか守れないからね……」
「へぇ……じゃあ私を保護するって?」
「それは僕の個人の話。僕が勝手に君を、この自宅で匿っているだけだよ。君なら寝込みを襲われても対処できそうだしね」
「なにそれ、私の事ナメてます?」
「ナメてるも何も、君だって僕に何されても文句言えないんだから同じでしょ」
「あ、開き直ってる。変態!」
「そんな危機感があるなら、明日元宮にいって連盟に登録してきなよ。君が連盟に入らない限り、何を言おうと説得力はないからね」

むっとするククリールに、キリヤナギはため息をひとつ落とす。
挑発にのって素直に加入してくれればいいと思う。
言いふらされるのは面倒だが、仲間の悪ノリに比べれば安いものだ。
疲労の眠気でウトウトしてきたキリヤナギは、ククリールを背にしてベッドへと横になる。
腰掛けていたグランジも、自室に戻るために立ち上がった時だった。
キリヤナギは、存在の流動を感じ、枕元のダインスレイブを掴む。
飛び起きて座ったまま持ち手を掴んだ直後、目の前にしゃがむ彼女に驚いた。

「へぇ、早いですね」
「自分からベッドに登ってくるなんて、えらく積極的じゃないか」
「ちょっと腹がたっただけ、マガイモノでもそれなりに動けるから」
「マガイモノ?」

ククリールは黙ってしまった。
キリヤナギの武器を見て、彼女は素直にベッドから降りる。
グランジはおそらく見えていて、キリヤナギが反応できると分かっていたのだ。
だからあえて動かず、見えないふりをした。

「速さには自信があるだけ、耳も尻尾も本物だけど一応ベースはエミル族なの」
「クォーター?」
「近いけど……違う」

首をかしげるキリヤナギを、ククリールは微笑で返した。
しかしその目は、とても悲しそうにも見える。

「ごはんと寝床をありがと、おやすみなさい」
「おやすみ。別に期限とかはないから、気がすむまで居るといいよ。出て行く時は一言言ってくれると嬉しい」
「んー。覚えてたらね」

ククリールはそう言って颯爽と部屋を出ていった。
眠気と油断で反応が大分遅れたと思う。

「お前は本当に眠気に弱いな」
「勘弁してよ……、それに僕が強すぎたら、君のいる意味ないでしょ」

睨まれた。
別に悪いことは言っていない。
キリヤナギは何も言わずグランジに背を向け、横になった。

次の日の午前中。
休日のキリヤナギが起きてきた頃には、既にククリールの姿はなかった。
ディセンバルによると、朝食は食べたそうだが着替えると言ってメイド達を追い出した後、すでにいなくなっていたらしい。
気紛れだとも思ったが、彼女自身、キリヤナギに関わられる事に疎ましさを感じるのなら、それはただの迷惑でしかない。
守れない事は歯がゆいが、関わる事はできたし、必要になれば来るだろうと思っていた。

@

「改造人間?」
「”えぇ、グランジから聞いた冒険者・ククリールの身なりから、過去のデータベースを漁っていたのですが、数百年前の火事により焼失した人体実験場。その研究者の何名かが行方不明になっています」

午後になって、セオからの通信を受け取ったキリヤナギは、グランジと共にその話を聞いていた。
人体実験は、過去の戦乱の時代において、一個軍隊の戦力強化の為に行われたものだとされるが、大体は遺伝子の配合上、短命や身体異常が酷く実用化には至らなかったとされる。

「”研究されていたのは、未だ生命にもなっていない一つの卵子に、他種族の遺伝子を組み込むもの。回収した資料のなかで唯一の成功例ではないかとされていたそうですが……”」
「その卵子が、何者かによって培養されて、育てられた?」
「”分かりません。しかしこの実験場が機能していたのはもう数百年以上も前なので、隊長とグランジがみた少女とするにも、まだ裏づけがありませんね”」
「うーん……それは関係なさそうだけど、彼女は人嫌いみたいだからなぁ」
「”生命として生まれ、人間に育てられてきたのなら、逆に人嫌いと言う感情も産まれるとは思えません。考えられるなら九尾にも関わらず猫の耳を持つが故の同種族からの迫害か……」
「……セオ?」
「これは私の憶測ですが、元々エミル族であった彼女に猫と九尾の遺伝子を配合された……とか」

キリヤナギの背筋が、ぞっと冷えた。
つまり人体実験の被験体ではないかと、セオは述べている。
たしかに、九尾の尾に猫の耳、極め付けにククリールは述べたのだ。

両方本物であると、

何も言わなくなったキリヤナギに、画面向こうのセオは続ける。

「”カイトのように、自分の研究成果を試そうとする研究者も少なくはありません。冒険者・ククリールの人嫌いが、一体どこから来たものなのかは存じませんが、被験体となったつらさから人との関わりを避けるというのなら、安易に想像がつく……”」
「……分からないけど、彼女は自分の速さを見せたとき、少し寂しそうだった。もしかしたら、普通じゃない自分の事にコンプレックスがあるのかも」
「貴方と同じようにですか?」

画面向こうのセオは笑っていた。
確かに、キリヤナギも同じだからだ。人とは違い、人間とは少し違う自分にコンプレックスを持っている。

「分かり合えるかな……」
「それは彼女次第でしょう。貴方とメリエもまた、そうであったように」
「……そうだね。でも今は距離を置かれたし、また明日、根城を見に行って見ようかな」
「猫の気分ともいいます。ある程度振り回されるのは覚悟した方がいいかと」
「猫って数百年前に絶滅したって聞いたけど、ラオとか、ククリールをみてると案外いるものだと思うよ」
「ネコマタと言うお化けの存在が立証されている時点で、ネコと言う存在は周知の事実ですからね。モチーフとしてネコグルミや、ネコを模した衣装ブームも来ましたから、今更、いるか居ないかなど些細な事でしょう」

セオの言葉にキリヤナギは心から納得した。
確かに、巷にはネコグッズが溢れている。
その可愛らしさから、当たり前のように目にする為、人々は絶滅したと言う事実を忘れているのかも知れない。

「グランジのケット・シーが、良い例ですよ。ラオは気に入った膝枕を探して、よくアップタウンをうろうろしてますから」

確かにククリールもラオを知っていた。
一匹しか居ないのに、堂々と街を歩いているのだから、人々にとっても当たり前になるだろう。

「ところで、メリエには今回の件は話したのですか?」
「え、話してないけど……」
「気持ちは分かりますが、誤解されないよう願ってますよ」
「何言ってるの!?」
「自宅に女性を連れ込むなど、誤解しか生みませんから、今のうちに言い訳を考えては?」
「僕はメリエ意外は……」
「メリエはどう思うでしょうね」

息が詰まる。
頭痛もしてきて、考えたくなくなった。
本当なら一緒に住みたいのに、どうしてこうも現実は厳しいのか。

「会いたいなぁ……」

叶わない願いだとキリヤナギは小さくため息をついた。
次の日の朝、本部へと出勤したキリヤナギは、昼休みに街に出てダウンタウンへと足を運んだ。
しかし、ダウンタウンまで来て気づいた。
どの路地を歩いたか覚えていない。
そもそも、東西南北にあるどの場所から歩いて向かったのかもわからない。
ラーメンの屋台は、確か南の方にあって、帰りはグランジと貴族街に近い北の階段から戻って帰った覚えがある。
ダウンタウンは円状に街が展開していて……、

「西側も東側も同じ形状じゃないか……」

どちらに行っても同じような路地がある。
キリヤナギは初めて、自分がよく迷子になる理由を理解した。
このアクロポリスは何処を歩いても、対称で同じ街並みが広がり、目印になるものがない。
自分が今、東西南北のどの位置にいるかすら混乱して分からなくなるのだ。

行く場所がわからなくなり、ナビゲーションデバイスを片手にふらふらと彷徨っていると、ようやく北を示す青い階段がみえた。
ここはダウンタウンの北側だ。
一度南側まで歩いて、南階段から探した方が見つかりやすい。
直進するよりも、壁沿いに地道に歩いた方が確実にたどり着けるはずだった。
回れ右をして、キリヤナギが西側から南へ向かおうとすると、昨日聞いた舌をまく鳴き声が聞こえた。
振りかえって足元をみると、頭に王冠をのせた猫がいる。

「ラオ?」

思わず周りにグランジや知り合いを探した。
しかし、周辺には赤いマントのキリヤナギを珍しそうに見る冒険者と、目があって手を振ってくれる親子連れがいるだけだ。
グランジも部隊員もいない。
珍しいと思い、再びラオをみると、黒猫は身を翻し、走り出した。

「待って!」

グランジが黒猫を追った時も、こんな気持ちだったのだろうか。
猫に誘われるように、キリヤナギは再び奥の路地へ入り込んでゆく。
いつの間にか見覚えのある路地に来て、ふと前を見ると昼の太陽の光に照らされた空き家が立っていた。
夜来た時は気づかなかったか、アップタウンの地下にあるダウンタウンで、唯一外の空間が覗ける小さなベランダだ。
下にはカルデラ湖の水が波打ち、見上げれば可動橋がある。
そんな広いベランダの脇にある小さな空き家が、ククリールの根城だ。

「ラオ、連れてきてくれたの?」

つんと踵返し、黒猫は再び空き家へと消えて行く。
キリヤナギは迷わず、ラオに続いて空き家の中へはいった。
以前は暗く、どんな場所かよくわからなかったが、昼に来ると僅かな生活感が残っているのがわかる。
脇テーブルには、買ってきた食料のゴミとか僅かな食器が放置され、ククリールが寝ていたベッドは、来客を迎えるためのソファーだった。

「ククリール、いるー?」

声を出してみたが、返答はない。
だが人の気配はあり、視線を感じていた。
隠れているのだろうと思い部屋に足を踏み入れると、後ろの天井から黒い影が飛躍する。

「がぉぉー!!」
「わぁぁぁぁぁあ!」

肩に着地され、一気に床へ叩きつけられた。
掃除されていない床の埃が舞い上がって、キリヤナギの白い騎士服が一気に真っ黒になる。
キリヤナギの上に座りこんだククリールは、驚かせた事に満足したのか、座ったまま降りてくれない。

「いだぃ……」
「びっくりした? 油断するからだよ」

少女1人に背中を取られるなど情けないにも程がある。
確かに油断していた。

「ど、どいて……」
「やだ! なんで来たの?」

ククリールに問われ、キリヤナギは仕方なく、左手に持っていた荷物を指差した。
ギリギリで横に倒さないよう守った荷物だ。
ククリールはそれにきょとんとすると、荷物を手に取るためにキリヤナギから降りる。
中身は、布に包まれた大きめの容器と水筒、透明なパックに入った。
お寿司の詰め合わせだった。

ようやくククリールから解放されたキリヤナギは、起きあがってあぐらをかくと、服の埃を払いながら続ける。

「差し入れ、お昼たべよ」

不思議そうな表情を見せるククリールに、キリヤナギは、テーブルの食器をどけてお弁当を広げた。
ククリールは珍しいのか、じろじろとそれを見ている。

「なんでお寿司なんですか?」
「猫ってお魚が好きだって昨日ウェブでみたんだ。でも狐なら油揚げだろうし、いなり寿司も入れたんだけど……」

なんて安直な考えだとククリールは呆れた。
しかし間違いではない。お寿司は嫌いではないからだ。

「飲み物もあるよ」

並べられている飲み物はお茶と、炭酸飲料ラーメン味と書かれた謎の飲料だった。
水筒の中身は、飲み物かと思えば味噌汁で、キリヤナギは自前の箸を使い、昼食をとり始める。

「なんですかこれ……」
「うちのファーマー部隊のみんなが開発した試作品なんだよね。みんな嫌がって試飲してくれないみたいで、僕に回ってくるんだ」

それはただの実験台の間違いだとククリールは冷静に思った。
ククリールの中のキリヤナギ像が混乱をきたし、思わず口をひらく。

「キリヤナギさんって、その組織の中で一番えらいんですっけ?」
「え、そうだけど……」

味噌汁をすすり、こちらを見るキリヤナギはまるで嘘がない。
当たり前のことを当たり前に答えた返答で、ククリールは再び首を傾げた。

「忙しいんじゃないんですか?」
「やることはあるけど、大体事務だし? 僕が出張る任務って言ったら、大体100人越えの規模の演習とか討伐かなぁ、そんなのめったにないし、普段はアクロポリスをうろうろしてるよ」
「パトロール?」
「ん? 散歩」

なんなんだ。
そもそも平日の真昼間に、下町に来る貴族と言う時点でおかしい。
しかも、以前は私服だったのに今は騎士服だ。
貴族だと一目瞭然なのに何故わざわざきたのか。

「こんなところに来て大丈夫なんですか……?」
「僕がこうして暇なのは、アクロポリスが平和な証拠だよ。なにか事件があれば、騎士は真っ先に駆り出されるからね」
「それ、自分の存在価値否定してません?」
「僕は成り上がりだからさ。世界が本当に平和なら、僕もこの身分になる必要なかったんだろうし……世界は残酷だよ」
「なんの話ですか……。そもそも戦争してないし、平和だし」
「そうそう、この時間大事にしてこ」

なんの話をしているのだろうと、ククリールはこうべを垂れた。
昨日とは違い、何処か言動がおかしい気もしてくる。たが、お弁当を上品に頂くキリヤナギをみると分からない事が更に泥沼になりそうな気がした。

「食べないの?」

問われてククリールは迷ったが、空腹ではあるし素直に箸を割った。
嫌いではない。むしろ好きだ。

「……ありがとう」
「どういたしまして、」
「一つ聞いていい?」
「何?」
「なんで来たの?」
「へ? 差し入れ」

ククリールは更に混乱した。
本当このエミル族は何も考えていないのか。

「連盟に勧誘しにきたとか、部隊に入ってほしいとかじゃ……」
「別にそんなつもりないけど……無所属なら、なかなか生活し辛そうだなぁって思ったから………」

間違ってはいない、間違ってはいないが、
行動理由が安直すぎる。納得がいかない。

「僕、時々アクロポリスうろうろしてるし、何かあれば言ってね。出来る限り対応するし」
「どうやって? 無所属の私は、連絡手段ないですよ?」
「じゃあ、その辺の人に僕を探してるって聞けばいいさ。そしたら多分なんとかなる……かな?」

何を言って居るんだろう。
確かに知名度は譲るが、なんとかなるとはなんなのか。
ククリールは心底呆れ、質問の意味を失った。
幻滅した表情を見せるククリールに、キリヤナギは少し考えると、新しい容器に味噌汁を注ぎククリールへ出す。

「じゃあ、僕が君に会いたかったって事で、どう?」
「会いたかった? なんで?」
「似てるから?」

何処が似ているのか。
考え方も性格も似ていない。
一致する要素が何一つ思い浮かばない。
が、ククリールはふとキリヤナギに初めて会った自分を思い出した。
獣人であると、明かしたのだ。

「貴方も、獣人なの?」
「獣人ではないけど、似たかんじかなぁ。でも僕の場合もう一人じゃ生きていけないから、その点では君との大きな違いかもね」
「ふーん。病気とか?」
「病気と言うよりは呪いのが近いかも? 解いたら死ぬから、どうしようもない感じ」
「呪いで生きてる?」
「だいたいあってる」

核心は言わないのか。
でも妥当だと、ククリールは思った。
詳しい話はこちらも望んでいない。

「なんか変なの。貴方、あんまり辛そうに見えないし」
「気が付いてた頃にはもうあったからね。今更どうしょうもないし、生きたいなら付き合って行くしかないでしょ? 周りは迷惑かもしれないけど、苦ではないみたいだからいいのかなぁって、それなら結局、僕次第だよね」

ククリールは少し納得した。
一人では生きていけないなら、必ず誰かがそれを背負わなければならない。
その重荷を周りが背負うと言うならば、それ以上は本人のどうしたいかと言う意思になるからだ。
生きたくないなら、死ねばいい。
生きたいなら生きていればいいと、周りが支えている。

ククリールは思った。
羨ましい。

「物好きな人たちですね」
「かな? でも確かにそうかも、だけど彼らのおかげで今の僕があるし、今はそんな彼らの為に生きてるかなぁ」

お弁当を完食したキリヤナギは、両手を合わせると、満足したように容器を片付ける。
そしてお茶をククリールにとられたキリヤナギは、謎の飲料のフタを捻った。

「ククリールの人嫌いも、僕みたいな感じ?」
「私のは別に……1人じゃ生きていけない訳じゃないけど……普通じゃないし」
「猫と狐?」
「それも……いろいろ半端なの。猫と狐のいいとこ取りかと思えば、見た目だけだし、猫の自分勝手な感じと、妖狐のずる賢さだけが残って、女友達はできなかったし、へんな趣味の男ばっかりよってきてさ……」
「ぁぁー、それも大分面倒くさいね……」
「何もかもが嫌になって、もういいかなって」
「……そっか。辛かった?」
「割り切ってるから、今更どうも思わないけど、人間にも獣人さんにもなれない私って、結局どっちなのかなぁって、まぁどっちでもないモンスターだろうけど」
「……そっか、モンスターなら、呪いがないと生きられない僕も、ある意味人間を超越してるし、逆を言えば呪いがある限り死なないから、はたからみたらモンスターかも」
「……不死身?」
「条件を満たせば死ぬし、死のうと思えばいつでも死ぬるから、完全不死身とは違うかなぁ……。割とゆるいから、弱点は言わないよ?」

知りたくもない。
だが、確かに似ていると思った。
ククリールもキリヤナギも人間や普通の獣人とは違う。
だが、大きく違うものもある。

「さぁ、昼休み終わるし、僕は帰るよ」

帰る場所と支える仲間がいる。
ククリールも、友達がいない訳ではないが……、キリヤナギは、何も言わずとも支えてくる仲間がいるのだ。
羨ましい。嫉妬すらする程に……。

「まずい……、なんでニンニクの匂いがするのこれ……精力はつきそうたけど……」」

支えられているが、被害者でもあるのかもしれない。
気がつけば、ラオがまたいなくなっている。
消えたのかと思えば入り口の方から鳴き声が聞こえて、キリヤナギは窓から顔を出した。
すると、ラオに尻尾を巻きつけられるグランジがいる。

「グランジ!」
「セオが早く戻れと言っている」
「……いつからいたの? 」
「初めから」

つまり待って居たらしい。
ラオがここに連れてきたのは、グランジの意思か。
しかし、待っていたと言うことは、昼休みの間は控えてくれたのだろう。
呆れる程に優秀な騎士だ。

「じゃあね、クク、また遊びにくるね」
「えっ、あ、うん。……ありが、とう」

しどろもどろした態度に、キリヤナギは笑みを見せ出て行く。
空き家をでてアップダウンに戻ってから、キリヤナギは小さなため息をついた。

「別にラオに頼む必要なかったんじゃない?」
「俺も昼を済ませていた。それにまた迷子になれば昼休み中に本部へ戻れないからな」
「君っていつから僕のマネージャーになったの?」
「……それはいいが、先週からアクロニア大陸の各地でモンスターびっくり箱で召喚されたモンスターが放置されている」
「! 放置?」
「始めは冒険者が娯楽のために使用したとされ、あまり関与はしていなかったそうだが、討伐した冒険者が召喚したわけではないらしく対応を考えているそうだ」
「……少し、危ないね。実行犯探せるかな」
「召喚されている地域が、人気のない大陸の南東や北西でなかなか掴みづらい」
「モンスターびっくり箱って、あれ新生魔法の召喚演算処理が絶対にいるから、その製造番号とかで入手経路探れないかな」
「探してみよう」
「交換で入手してるなら難しいけど、頻繁してるなら、ゴーレムの取り引きデータベースから、びっくり箱の取引履歴を調べていいかも、でも被害でてないなら検挙難しいかなぁ」
「注意だけならできる。話が通じるならな」

話が通じる人間がこの世界で何人いるのだろうとキリヤナギは思う。
倫理観や感情論に共感する人間が、人へ迷惑をかけることは少ない。
だいたい何かを起こすのは、被害を考えない無責任な人間や己の価値観に他人を含めない人間。
きわめつけは、無知による悪意だ。
無知ならば、多少のヒアリングで済ますが、前者なら、被害が広がる前に抑えなければいけない。

「どうする?」
「うーん。とりあえず皆には伝えて、張り出すんじゃなく口で、部隊員から一般冒険者に噂が広まれば、通報件数増えるだろうし。暇な冒険者の皆が、スタンプとかブースト狙いで探しに行ってくれるさ。それで倒せないなら、僕達が行けばいい」
「……そうだな」
「グランジも行きたい? わかるよ。自分の力か今どのくらいか知りたいなら、モンスターが一番だし? 有り余る力はたまには放出したいもんね。僕は苦手だけど、好きに……」

肩を叩かれ、キリヤナギが振り返ると人差し指で頬を突かれた。
何かと思えば無言で此方を睨んでいる。
グランジが怒った。

「な、なに!? 君は僕とは違うんだし、興味あるんでしょ! 君から仕事の話題なんて今初めてきいたし! 絶対行きたいくせに!!」
「興味はあるが、暴れたいわけではない」
「じゃあ何がしたいの……」
「スタンプが欲しいだけだ」
「それ同じだよね!? スタンプが欲しいってそれ普通の冒険者と同じだから!」

酒場ネットワークが大規模に行っているモンスタースタンプラリーは、ここ最近新しいラインナップが増えて再流行している。
だがスタンプそのものは酒場ネットの社長が、自分でモンスターに持たせに行っているために、非常に入手が難しく、ボスシリーズのスタンプは特に困難を極める。
一部では高額な値段で取り引きされていると聞くが、

「ブーストパパが欲しいの? 君の生活見てると普通に取り引きで買えそうだけど」
「集めることに意味がある」

キリヤナギには理解できなかった。
しかし、グランジはキリヤナギの雇う私兵達の中で、もっとも融通の利く自由な立場であるために、十分な時間と余裕があるのは判る。
こうして道に迷わないよう見張ってくれているのも、ある意味気遣いだろう。

「気になるなら探してきたら?」
「お前を元宮に送り届けてから向かう」

保護者か。
だが、確かに迷子になるのでいい返せず、キリヤナギはその日素直に元宮へ戻った。

@

砂漠が広がる荒野に、ククリールは1人、指を咥え口笛を吹く。
何もないこの場所は南風が吹き、サウス方面へと音が響くのだ。
丘の上から見えるのは、際立つ青い青い空と砂の茶色。その奥には僅に海の色も見える。

すると青い空の向こうから、火の粉を散らす赤い何かがこちらへと滑空して来た。
ククリールはそれをみて、もう一度口笛を鳴らし、大きく手を振りかえす。
現れたのは体調2メートルはありそうな巨大な鳥。
二足の足で立つ、赤いホウオウだった。

「シラヌイ! 久しぶり元気だった?」

現れたホウオウはククリールの前に降り立ち、再開を喜んでいる様にも見える。
サウスリン地方に住むこのホウオウは、ククリールの唯一の友人だった。

「きてくれてありがとう。ちょっと会いたくなってさ。一緒にあそぼ!」

シラヌイと呼ばれたホウオウは、ククリールに自身の足を掴ませアクロニア大陸の滑空を始めた。
手始めに二人は、砂漠にいるキングローパーを討伐し、次に海岸のブリキングMk2を破壊する。
フィールドにいるモンスターを相手に楽しもうとしていた2人だが、ブリキングを討伐した所で、シラヌイが何かに気づいた。

「どうしたの?」

ブリキングの残骸からブーストを探していたククリールは、北を向くシラヌイに首をかしげる。
すると北から、ホウオウに似た鳴き声が高く響いた。
興味が湧き、ククリールはシラヌイに捕まって、空に飛び立つと巨大な白い鳥が林から顔を出している。

「ライオウ!?」

位置は南開拓村の林。
珍しい事もあると思う。
ライオウには、シラヌイと同じホウオウが取り巻いていて、ククリールは迷った。
最近スタンプが再流行していて倒したいが、ライオウは巨大だ。その分強い。

シラヌイに至っては同種族だし、仲間として思う所があるだろう。
素直に避難すべきか。

ククリールがシラヌイを見上げた時、ライオウがこちらに気づいた。
シラヌイは自身を見上げ、ライオウに気づいていないククリールを高度を下げ、緑の生い茂る森へ払い落とす。

「きゃっ」

ククリールは暴れだしたシラヌイに捕まって居られず、落下。
だが目で追った矢先。
シラヌイにライオウの風魔法が炸裂する。

「シラヌイーー!」

ククリールは林の中へ振り落とされ。
枝を掻い潜りながら落下した。
衝撃が緩和され、背中を強打するだけで済んだがさらけ出した素足が枝にかすり傷だらけで痛い。
だが見上げれば、ライオウの取り巻きに攻撃されるシラヌイがいる。

「やめて!」

ククリールは、武器を抜こうとしたが、落下の際に外れたのか武器がない。
周辺にも見つからず、見上げれば同種族に攻撃されているシラヌイがいる。

「いや……」

ククリールはただ呆然と見上げていた。
痛みで体がうまく動かない。
いつもなら木に登るなんてすぐなのに、足も挫いて立てない。
肝心な時に、動けすらしない。

「やめてよ……!」

たった一人の友人が今にも倒されてしまう。
いやだと思った。
でも、何もできない。
モンスターのシラヌイは人間では助けてくれはしない。
そう思った時、ククリールははっとした。
人間は助けてくれない。
なら、人間じゃないなら、どうだろう。

「キリヤナギ……さん」

彼は人間じゃないと言っていた。
ククリールと同じ、モンスターかもしれないと、

ククリールは何も考えず、木を支えにゆっくりと体を起こした。
自分ではどうしようもない。なら誰が助けてくれるだろう。
ククリールは何かあれば言えと言っていたキリヤナギしか思い浮かばなかった。

ようやく林からぬけたとき、ククリールは林へ入ろうとする2人組を見つけた。
話ができるかはわからない、だがキリヤナギは言っていた言葉がずっと響き、がむしゃらに進んだ。

何かあれば、人に自分の居場所を聞けと、
ククリールは、足を引きずりならがジャケットの彼へ飛びつく。
銃を抱える彼は傷だらけのククリールに絶句したようだった。

「キリヤナギさんは! どこですか!」

#

「うわぁぁぁあ!」

突然現れた女性に、アークタイタニア・ジョーカーのカナトは悲鳴を上げた。
飛びつかれたのが、横にいたエミル・ガンナーのジンで幸いだったが、真横である為に一気に飛び退く。

「き、貴様誰だその女性は!」
「し、しらな……って怪我してる?」

「キリヤナギさんはどこ?」
「総隊長? 総隊長なら本部だろうけど……と言うか血もでてんじゃん。カナト、お前なんか持ってねぇの?」

「私はいいんです! 早くしないと友達が……シラヌイが……」

今にも泣きそうな少女に、ジンとカナトの顔色が変わる。
急ぎであるらしい。

「じゃあとりあえず連れて行って、あ、憑依して貰えばいいか」
「キリヤナギさんは……?」
「俺、総隊長に雇われてるんで……」
「へ……?」

「ジンはキリヤナギの騎士です。その意思はキリヤナギの物になる」
「そそ。カナト、お前あっちライオウひきつけといて、雷食らいたくねぇし」
「構わないが、貴様ちゃんと狙えるのか?」
「空中移動してない限りなんとかなるって」

カナトと呼ばれた黒服黒羽のタイタニアは、半信半疑の表情を浮かべつつ、空へと飛びたった。
ジンはククリールを憑依させ、彼女に指示された場所へ急いだが、
案内された場所は、ホウオウに囲まれるホウオウがいてゆっくりと高度を下げている。

「シラヌイ!」

これが彼女のいる友達らしい。
ジンはライフルを諦め、脇のハンドガンを抜いた。
だがホウオウの中で、どれが彼女の友人なのか見分けが付かない。
しかも、よりによって空中だ。
当てるなど不可能だろう。しかし、やるしかないか。
ジンは意を決して引き金をしぼり、威嚇射撃として一発撃った。
すると音に驚いたホウオウが散会し、離れた一体が力無く落ちてゆく。
ジンはその落下地点にククリールを送り届けると、一人、ライオウの元に戻るホウオウの群を追った。

林を駆け足で進み、カナトが見える開けた場所まで向かうと、後ろから新しい人影が現れる。

「ジンか……カナトさんも」
「グランジさん!?」

現れたグランジは、風魔法を暴発するライオウを涼しい顔で見ている。
ジンは取り巻きがカナトに向かないよう、威嚇射撃で散会させているが、らちが明かない。

「ジン、加勢して構わないか?」
「いいっすけど……」

カナトが殴っても、ホウオウが邪魔をして勢いが殺されている。
未だバランスは崩せず、ジンが新しいマガジンを取り出した時、グランジが一歩前に出た。
そして右手を差し出し。招ぶ。

「アルカード」

唱えられた名前にジンがはっとした。
振り返ればグランジの手にコウモリが溢れだし、血のように赤いブレードが構築されてゆく。
槍に形作られたそれを手に取り、唱えた、

「ヴァン・スピアニア!」

槍から赤い閃光が放たれ、それがライオウを貫通。
内部破裂するように、さらに赤い光が炸裂した。
途端ライオウは、大きく仰け反り、林の中へ倒れてゆく。
体長7mはある巨大鳥が、ゆっくりと南開拓村の林へ堕ちた。
ジンとカナトは、今だ何が起こったのかわからない。
グランジが赤い槍を放すと、武器は再びコウモリとなり、美しく長いツインの髪の少女が姿に変えた。
アルカード・ロア。
イリス武器の中の一つだ。

ライオウを落としたグランジは、空から降ってきたブーストを捕まえたが、それをジンへ投げ渡してくる。

「い、いいんすか?」
「目的のものじゃなかった」

普段街から出ないグランジの目的は何だろう。
珍しいなと思ったが、ブースト渡したグランジに変わり、カナトがポケットから何かを取りだす。
カナト差し出したのは、虹色のスタンプだった。

「ならグランジ。ここにふんどしマンスタンプがあるのでこれを……」
「……いいのですか?」
「こちらはダブっている。これでいいなら使ってくれ」

カナトから素直にスタンプを受け取るグランジを、ジンは呆然と見ていた。
無表情なのに、喜んでいるのが分かる。
元々今日は、カナトの愛用しているクッション用のブーストを見てジンが羨ましくなり、たまたまグランジからフィールドにボスがいると言う情報を聞いて探しに来ていた。
カナトもボススタンプが欲しいと言う収集欲から大分乗り気で、人気のなさそうな開拓村周辺を探しに来た結果、ライオウに遭遇した。

そこまで考えて、ジンは先ほど遭遇した少女を思い出す、足を怪我していた彼女を、迎えに行かなければいけない。
回れ右をして林に向かおうとすると、空からホウオウに捕まる彼女がゆっくりと降りてきていた。

「あの、ありがとうござい、ます。……って、グランジさん?」
「あれ? 知り合いっすか?」

「キリヤナギのな……」
「それは、知ってるけど……、そうだ。怪我怪我、えーっと……」

カナトが不満そうな表情でみてくる。
ジンはポケットからメモを取り出して、何かしようとしているが、ククリールは意味深な表情で首を傾げるだけだ。

「やはり貴様にはまだ難しいな」
「うるせー! イレイザーならまだしも、カーディナルの魔法なんてわかんねぇよ!」

「貴方ガンナーじゃないんですか?」
「デュアルジョブで、ウァテス系かじってんだけどまだ勝手がわかんなくて……、ごめん、もうちょっと……」

「聖堂へお連れした方が早い」
「うるせーよ! カナト。ちょっと黙ってろ!」

手当しようとしてくれていたらしい。
唱えられた魔法は治癒までに至らなかったが、助けようとしてくれている事が嬉しかった。

「ありがとう……」
「こんなかわいい女の子はほっとけないって! 俺はジンって言うんだけど、よかったらフレンドにーー」

「聖堂が先だ。口を慎め」

武器を向けられるジャケットの彼は、デバイスを取り出したまましばらく固まっていた。
キリヤナギ並みに積極的だと思う。

その後。結局ククリールはジンに憑依してアクロポリスまで戻ったが、非加入でありサービスを受けられず、1度カナトの自宅に戻る事になる。
カナトは、知り合いのカーディナルがいると言ってリフウを自宅に呼び寄せようとしたが、リフウだけでなくカナサもくると言い出した為に、カナトは仕方なく、庭を実家の庭へと移動させた。

だが実家だと言われた場所は、キリヤナギの屋敷の何倍もある城で、ククリールはキリヤナギの時以上に驚き、多すぎる使用人達に尻込みしてしまう。

リフウとカナトは久しぶりに戻った2人を歓迎したが、あまりにも高貴な空気にククリールが固まってしまい、エントランスに来た所でようやくカナトがククリールの様子に気付く。

「ククリール殿、どうかされましたか?」
「あ、あの、すみません。私かえります……」
「しかし怪我の手当てが……」
「む、むしろあなた方に助けて頂くことでも……わ私は非加入だし……!」
「私も一時期、非加入冒険者でしたので、そこは気にされず、生活も難しいでしょうから、足が完治するまではここで……」
「け、け、結構です。連盟ですよね! 入るの忘れていただけなので、大丈夫です! ありがとうございます! すみませ……」

話している間に奥からドレスを着た金髪のアークタイタニアが現れた。
金の髪に金の翼を持つ彼女は、カナトの許嫁のリフウだ。
ククリールはさらに固まると、何も言わず怪我だけを治して貰い、ジンの背中を蹴って着地する。

「あ、ありがとうございました!!」

そのまま玄関から飛び出し、出て行ってしまった。
根無し草の野良猫にはあの様な空間は向かない。
取り残されたカナトとリフウは呆然とそれを見送り、ジンだけが床に倒されていた。

城を飛び立し敷地から脱出したククリールは、追い手がいない事に安堵して、ようやく立ち止まる。
日が暮れたアクロポリスは、街灯が夜道を照らし人気もまばらだ。
その中でククリールはつぶやく。

「連盟、悪くないのかな……」

見上げれば、翼を広げたシラヌイが無くした武器を持って舞い降りてきて、ククリールはそっと首を抱いて頬ずりをした。
必要な時、キリヤナギは来なかったが、確かになんとかなった。

ククリールは少し考え、アクロポリスの夜道にきえる。


@


「へー、ククリール。連盟にはいったんだ」
「”はい、あなたの話を聞いて、加入者名簿に目を通していましたが、つい昨日。新規加入者の中に彼女の名前が新しく登録されていました''」

グランジと共に、再びダウンタウンのラーメンを食べに来ていた帰り、キリヤナギはセオから、通信を受け取っていた。
セオは、ククリールを気にしていたキリヤナギに変わり彼女の名前を探していてくれたらしい。

「説得でもされたのですか?」
「特に何もしてないけど、ちょっと煽ったぐらい? 」
「理由は知りませんが、仕返しに気をつけて下さいね」
「仕返しをされる事でもない気がするけど……ともかく、ありがとう。セオ」
「貴方の御心のままに……、ジャンクフードもいいですが、ちゃんと野菜も摂取して下さいね」
「わかってるよ!」
「それと、ニンニクの匂い漂わせて本部には来ないでください。気が散ります」
「あれはファーマー部隊の皆にイタズラされたんだって、ひどい!」
「明らかにおかしい飲料を素で受け取るのもどうかと、普通断るでしょう?」
「だからって理不尽だよ! みんなして僕をおもちゃにして……」
「控えるようには言っておきますが、どうせ許すのですから疑う事を覚えて下さい」

セオの言葉が正論すぎて言い返す事もできない。
確かに何をされても許してしまうし、大体次の日には忘れている。
しかも度合いは理解されているのか、ギリギリで業務に響かない程度に手加減されていて、周りは誰も責めない。
完全に遊ばれているが、キリヤナギもすでに諦めていた。

デバイスをポケットになおし、キリヤナギは大きく伸びをする、
鼻歌まで歌い出した彼を、グランジは横目でみていた。

「スタンプは順調かい?」
「もう直ぐ完成だが、珍しいものばかり残っている」
「そっか。別に僕は気にしないし、好きに出掛けてきて構わないよ。事前に言ってくれると嬉しいけどね」

偉く機嫌がいいと、グランジは素直に感想した。
普段からキリヤナギは、自分の思う通りに事が運ぶと、嬉しいのか上機嫌となるが、今日は普段より、調子が良く見える。

「何かあったか?」
「ラーメンが美味しかっただけさ。今日は前よりは空いてたしね」

この時間は、いつも疲れて元気がないのに珍しい。
帰宅して、着替えようとした時、ベランダに物置が聞こえた。
顔をだしたのは三角耳の彼女だ。

「きゃー!着替えてるー!変態!」
「ここ僕の家だから!! なんでなの。やめてよ!!」

何故なのか。
自宅で着替えていて、入ってきたのは彼女なのに理不尽にも程がある。
仕方なくバスローブだけを羽織り、キリヤナギは現れたククリールに応じた。

「連盟に入ったって聞いたけど?」
「ぇー、知ってたんだ?」
「名簿に載ってたみたいだし、良かったよ」
「また変態発言してくれたら、通報できたのに」
「君は僕を貶めたいの……? 九尾らしいとは思うけどさ」

しっぽを揺らす彼女は、落ち着かないのかソファーの肘掛けに座り、横目でキリヤナギをみていた。
キリヤナギ自身は使用人がよこしてくれたブランデーを嗜み、かなりリラックスしている。

「部外者が入ってきたのに、余裕ですね」
「へ? だってもう寝る時間だし? 明日も早いからね。ククリールも、早く着替えて休みなよ」
「それ泊まる前提で話してます?」
「違うの?」

この男は、ククリールが寝床を求めてきたとナチュラルに察したのか。
こちらはそんなつもりはないのに、憎めないとは思う。

「そんなことしてたら、住み着かれちゃいますよ?」
「別に構わないけど、ククリールはこういう上流階級の屋敷とか城は苦手そうだし、その居心地の悪さに慣れるのが大変そう」
「なんで私の今後まで考えるんですか……別に聞いてないし、住むとも言ってないし」
「ここはディセンバルとグランジがくるまで、僕の1人暮らしだったからね。今は人が増えて、メイドさんも合わせたら6人ぐらいだけど、メイドさんは住み込みじゃないし、実際住んでるのは、僕とグランジとディセンバルだけだから」
「じゃあ、別にこんなに広くなくてもいいんじゃ」
「貴族って面倒くさくてさ。ある程度の立場を誇示する為に、その権力に見合った家や物を揃えないと、同じ立場の人達に嫌われちゃうんだよね。他にも、ちゃんとしてなきゃ立場の裏付けが取れなくて、本来なら発生しない誤解も生むから……」
「へー、なんか大変そう」
「昔は当たり前な生活だったんだけど、一度一般市民になって、自由で気楽な毎日がすごく楽でさぁ……、まさかまた成り上がるなんてね」
「好きで貴族になったわけじゃないんだ」
「誰しも進んで義務を背負いたいとは思わないさ。
貴族は昔から、与えられた使命に誇りとプライドを持つ事で、その義務の重みから自身を守っているんだよ。在るべき形を維持して、人々に讃えられ、賞賛される事こそが、僕を含めた彼らの動力源になる。だけど僕は、一度没落したからね。自身の権力と引き換えに自由を差し出しだ貴族達は、僕からすればある意味被害者に見えた。世界が本当に平和なら、貴族も騎士団も要らない。僕が貴族になったのもくだらない領地争いを続ける各国の領主が、僕という存在を畏怖したに過ぎないからね」
「畏怖? なんで?」
「さぁ、ただのリング派閥が、気がつけばアクロポリスの人口の半分を超えていたから、独立戦争するとでも思ったんじゃない? 実際は500人程度だったけど、住民の人達は騎士団よりも僕を支持し始めてたからね。今は……結果的に僕がこのアクロポリスの領主の一人になる事で落ち着いたけどさ」
「理解できるけど、複雑……」
「だけど確かに、4国の領主の考えは間違いじゃない。あの時に動いていれば、もっと単純に全てを手に入れれていたかな……」
「? 何をですか」
「なんでもないよ。色々話したけど、後悔はしていないかな。天職だと思ってるし、身分隠せばそれなりに自由にさせてもらってるからね。運命の相手にも出会えたし、あとは一緒に住みたいな……」
「へ、結婚してるんですか?」
「言わなかったっけ? メリエっていうんだけど、美人でさー。料理上手いんだよね。すっごい稀だけど、帰ってきてくれた時の手料理が忘れられない……」
「……」
「今どうしてるのかなぁ……。前に会ってから半年はたつし、そろそろ会いたーー」

「呼んだか。キリヤナギ」

新しい凜とした声が響いて、キリヤナギは固まった。
ククリールは、キリヤナギの後ろの扉から入ってきた女性に、ピンと背筋を伸ばした。
キリヤナギは思わずガラスコップを落とし立ち上がって振り返る。

赤髪の女性が、そこに居た。
言葉にならない感情が込み上げてくる。

「メリエ……」
「いい加減、その涙もろい性格をどうにかできないか?」
「だって、メリエがいるんだよ。僕、嬉しくて……」
「会いたがっていると聞いた。何か思って来てみれば酒に頼っているとは……お前らしくない……」

キリヤナギは何も言わずソファーを飛び越えて、強引に彼女の腕を取る。
腰に手を回し抱かれたと思えば、そのまま迷いなく唇を奪った。
ククリールはそれに両耳をピンと立てる。
それから何秒ぐらい経っただろう。
メリエが動いて、ようやくキリヤナギが名残惜しそうに離れた。

「もう一回……」
「もういい、少女が来ていると聞いて見に来ただけだ」
「そんなのどうでもいいよ。今日は帰さないから」

再び抱きついてきて、メリエは呆れた。
寂しさを紛らわせていただけらしい。
あえて見せつける当たり、キリヤナギらしいとは思った。

「ククリールか、悪いな。この男が……」
「え、ベ別に……、奥さんですか?」

「どうやらそうらしい」
「どうやらじゃなくて、そうでしょ!」

会うたびに20分は抱き着かれ、いい加減鬱陶しくもなる。
嫌がれば離れるが放置しても進展するので、メリエはキリヤナギを無理やり剥がした。

「あまり時間がないんだ」
「いいじゃん。ここ君の家だし、居たら?」
「仕事がある」
「管理職でしょ?」
「同じじゃない」
「じゃあ尚更ーー」

再び抱きつこうとして、額に平手打ちを食らう。
痛い。

「それではククリール、こいつ頼む」
「え、な、なんですか?」
「愚痴をまた、聞いてやってくれ」

「君が居れば全部解決なのに、まってよメリエー!」
「また時間が合えばくる」
「前もそう言って半年じゃないか! やだー!」

メリエは何も言わず、部屋を出て行ってしまった。
入り口の脇でことの顛末を見ていたグランジは、床に這いつくばるキリヤナギにため息をつく。
情けない。

「会えて良かったな……」
「現実が厳しすぎて心が折れそうだよ」

体に残った温かみが虚しい。
その温もりを逃がしたくなくて、キリヤナギはベットに潜り込んだ。

「もう寝るんですか?」
「寝る。明日も出勤だし……、寂しくなる前に寝る」
「キリヤナギさんて、もしかしてかなりの寂しがり?」
「うるさいな、それが何か悪い事でもあるの……?」

グランジは何も言わずキリヤナギを見ていた。
彼はキリヤナギが孤独に弱い事を理解している。
そして、その理由も……、
ククリールは、ベットに入り背を向けたキリヤナギを見据えると、戸惑うように口を開く。

「しかたないなぁ、私でいいなら、フレンド登録してもいい、よ」
「へ」
「ほら、連盟に入ってデバイス貰ったけど、アドレス帳が真っさら……だし、登録してあげてもいいかなって、キリヤナギさん、頼りないし? ついでにソードマンになってきたから……」
「……ククリール?」
「べ、別に同情した訳じゃないし? キリヤナギさん登録したら便利そうだから」

見せられたのは、機種変更もされていない真新しいナビゲーションデバイスだった。
ククリールは未だ使い方がわかっていないのか、サイバーインターフェイスを立ち上げ、ゆっくりと文字を打ち込んでいる。

「そっか、ククリール、よろしくね」
「でも今日は泊まらないし、帰りますからね!」
「……どこに?」
「言わない」

猫らしいとキリヤナギは思った。
web拍手 by FC2
本編 | 【2016-01-25(Mon) 12:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する