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(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

戴冠式で戦う話(後篇)

出演:グランジさん、スィーさん、セオさん、コウガさん、

あらすじ
エドワーズとの戦いで苦戦を強いられるキリヤナギをみて、
カナトはなぜキリヤナギが本気を出せないかを考察する。
人と人間の間に立つキリヤナギは、一つのしがらみをその心へもっていた。


前回
戴冠式が始まる話
戴冠式で舞踏会に参加する話
戴冠式で戦う話(前篇)

参考
(連載)長編シリーズ:Royal*Familiar
キリヤナギ総隊長の一日


 


向かい合った騎士に、キリヤナギは苦い表情を見せていた。上を見上げれば、ウォーレスハイムがこちらを見下ろし、たのしそうに手を振ってくれている。
目の前のエドワーズは、いつもの執事服ではなくプロテクター付きの騎士服で対峙していた。
どうしようかと思う。
他の騎士と違い、フィランソロの女王は、エドワーズが勝ち進むことを望んでいるらしい。
しかし、こちらも負けることはできない。

審判の合図が響いて、試合が始まる。
エドワーズはサーベルを縦に構えて飛び立ち、真っ直ぐにこちらへ向かってきた。
キリヤナギは動かず、あえて武器を盾で留め、押し返し、エドワーズの右手を狙う。
移動は翼を使い、攻撃は床に足をつく。

ホライゾンを思い出してきて、キリヤナギは冷静に敵を観察した。
負けたくはない。

「隊長、迷ってますよね……あれ」
「だね。ちょっと不利かも」

「迷っている?」
「身内を相手にして、攻め方に迷ってるんだよ。いつもの図式……大体この間に攻められて負ける」

それは不味いのではないだろうか。
繰り出されるエドワーズの突きを、ことごとく盾で流す様に、焦りすら感じる。
攻めることよりも、盾を前にだしキリヤナギは守りを固めた。
何か考えがあるのか。
しかし、魔法を禁じられた時点で、根回しは意味を成さない。

「先程までの動きは、どうされたのですか?」

エドワーズの挑発に、キリヤナギは答えない。
守ってばかりでは勝てないと、分かっている筈だ。
なら何故、攻めようとしないのか。
エドワーズが、後ろのベランダを仰ぐとウォーレスハイムとシャロンが見ている。
手を振ってくれたシャロンは、エドワーズに何かを許したようだった。

「実はわたくし、以前からエミル界のスキルに少々興味がありまして……」
「……興味?」
「魔法はあまり得意ではこざいませんが、この世界には魔法使いとしながら、魔法が不得意であっても試験に通ることのできるベースジョブがあるとか」

キリヤナギがハッとする。
その場から離れる為に動いたが、止まった先で両足が固定された。
やられた。

「”インフェルノマーク”、動きを止める事のできる便利なスキルですね」
「カバリストの……」
「シャロン様がここへ嫁がれてから、こちらでも役割が果たせるよう学んでおりました。”ダークペイン”の発動は難しくありますが、充分です。ご覚悟を……」

刻印に足を取られて動けない。
突っ込んできたエドワーズに、キリヤナギは両足で必死に受ける。
刻印の効果時間は、術者にもよるが約15秒。
押し込んでいくなら、充分過ぎる時間だ。

「エドワーズの奴ずるいってあれ! カナトもなんか言えよ!」
「勝ちに来ているんだ。攻めないキリヤナギをみて、母君がしびれを切らしただけのこと、だが……」

何故、キリヤナギは攻めようとしないのか。
つい先程までは、自分から前に出て戦っていたのに、今はもうその気配すらない。
きっと何か要因があるのだ。
仲間や友人に本気を出せない大きな理由が、キリヤナギの中にある。

カナトはまだ、キリヤナギの事を何も知らない。
弱いと聞いていたキリヤナギは、ふたを開けると規格外な実力を持っていたし、腑抜けかと思えば、絵に描いたような騎士道を持っていた。
真逆だなとカナトは思いを馳せる。
だが真逆ならば、必ず理由がある。

ようやく”インフェルノマーク”から逃れたキリヤナギは、バランスを取るために、舞台の隅まで追いやられてしまった。
キリヤナギも負けたくはない筈だ。
それなのに、何故そこまで戸惑う?

突き出されたサーベルを横に回避したキリヤナギは、首元に僅かならダメージをら受け、肩に掛けているマントが裂かれた。

再び距離をとって向き直ると、酷く焦っており難しい表情をしている。
もう戦いたくないと言う様な、悲しそうな表情でもあり、カナトは何も言えなくなってしまった。

だが、首元に覗くチョーカーをみて、カナトはピンとくる。

キリヤナギの封印には、邪悪な物が封じ込められているらしい。
ウォーレスハイムに見せられ、その存在を初めて知ったが、あの二重封印がなければ、キリヤナギは生きてはいけないのだ。
二重封印がなければ生きていけないのに、ウォーレスハイムに出会う前、キリヤナギはどうしていたのか。

父は、キリヤナギを見つけた時、フタは宙に浮いていたと話してくれた。
つまり父と出会った時、キリヤナギのフタは既に空いていたと言う事になる。

余剰した力が暴走し、それを抑える為に封印を施されていたのなら、自分の力の所為で、仲間や友人を傷つけてしまった過去があっても不思議ではない。

それゆえに、力にを振るうことへ酷く恐れを感じるのも納得ができる。
戦うの事を嫌い、模擬戦を嫌うのは、キリヤナギ自身が自分の力へ恐れを感じる現れなのだろうか。

「総隊長あんなんだっけ……?」
「また悩んでんなぁ……。気にすんなってんのに」
「悩み?」
「ジンも知ってるだろ? 隊長は根に持つんだよわりと……」

ジンは首を傾げていた。
たがカナトは、これを聞いて確信する。
これは恐らく、キリヤナギのトラウマなのだ。
もう仲間を傷つけたくないという意思の現れとも言える。

しかしキリヤナギは、ウォーレスハイムとであった。
逆らえないのも今なら理解ができる。
生きることをずっと苦悩していたキリヤナギへ、父は生命としての生き方を与えたのだ。
気まぐれに起こしたウォーレスハイムは、ただキリヤナギに責任を取り続けているだけなのに、今こうして、キリヤナギは舞台へ立っている。
苦手だと、嫌いだと言う舞台へ立つだけの忠義を、示している。

そして今現在、キリヤナギの抱える問題は、今はもう上にいるウォーレスハイムの手によって解決しているのだ。
ならばあとは、キリヤナギの心の問題となる。

「キリヤナギ!」
「!」
「誰の御前だと思っている! 貴様は一人で戦っているわけではない!」

教えてやればいい。
お前の力は我々の為にあると、たとえ暴走しても止められる人間がそこに居るのだと、
何も縛るものなど、ありはしない。
むしろ仲間であるからこそ、その力を見せるべきだ。

「……仰せのままに!」

キリヤナギが一気に押し返した。
その勢いのまま、盾を前に体当たりを入れる。
エドワーズは後ろに引いて威力を抑え、サーベルを振るってきた。

突き出された刀身に向け、盾で受けるかに見えたが、体を捻ってきて、エドワーズは鼓動が高ぶる。
やっと楽しめると頰がゆるんだ。

回避したキリヤナギは、エドワーズの胴を一閃して、プロテクターを割く。
そこから始まったのは打ち合いだった。
ダインスレイブを打ち出していくキリヤナギに対して、エドワーズは、サーベルで切りや突きを入れてゆく。
突きは回避し、切りは盾やダインスレイブについた赤いプロテクターと突起にさみこんで受ける。

上手い。
少しずつ増していく速さに、エドワーズはつられていく。

かつてここまで心踊る試合があっただろうか。
幼い頃、天界の大会に望み優勝を目指した記憶が懐かしくも込み上げてくる。
騎士の息子として生まれエドワーズは、先祖代々よりフィランソロへ仕える騎士の家系だ。
しかし、天界はあまりにも平和にあり、争いも起こらないことから、騎士はいつの間にか姿を変えて、執事として寄り添うこととなる。
故にエドワーズの身内は、皆が使用人へ姿を変え仕えているのが現在であった。
しかし使用人であり、騎士たるシュバリエ家は、現在でもその誇りは失ってはいない。
それを示すために、エドワーズは代表としてこの場へと来た。
フィランソロの騎士は、執事であり騎士であると誇示するために……、

エドワーズが再び、ダインスレイブのプロテクターで刃を止められた。
途端、剣が脇に押しのけられ、我に帰る。
同じ動作を何度も繰り返し、慣れてしまったのだ。
動作を覚えた体は、予想外の行動へ対応が出来なくなる。
いつの間にか、舞台の隅に追いやられて、シールドの体当たりを食らったエドワーズは、そのまま舞台外へ押し出され、倒れた。

ようやく終わった。

「やめ! 勝者、キリヤナギ!」

キリヤナギは肩で息をして座り込んでしまった。
思ったよりもとまどい、序盤で消耗をしたと思う。

「お見事です……キリヤナギ様」
「怪我してない? 痛かった?」
「お気遣いのおかげで、少々の打撲程度でしょう。楽しめました、感謝いたします」

キリヤナギがほっと安堵する中、カナトがベランダを仰ぐとシャロンが少し剥れている。
ウォーレスハイムが得意気に笑っているのは、何か賭けでもしていたのか。

ふらふらとテントに戻ってきたキリヤナギをみると決勝が心配になってくる。

「助かったよ。カナト」
「腑抜けが、手を抜くなと言われたばかりだろう」
「ご、ごめん」

「総隊長なんで最初だらだらしてたんすか?」
「え、色々あってさ……苦手なんだ」

なんの話だろうと、ジンは剥れている。
また話さなければ行けないだろうと思うが、カナトは本当に察しがいい。
なにも話していないのに、よく言ってくれたと思う。

「まずはその無様な首元だな……。縫い直さなければ……」
「エキシビジョンだっけ?」
「そうだな。招かれた騎士達や使い達が、母君に祝いの催しをだしてくれる一時間程あるだろう」

「へぇ……面白そう」
「一応、祝いの祭典だからな。母君への祝い品なども渡される」

外に出てみると、確かにシャロンが舞台へ降りてきて騎士達や代理の使いに挨拶や祝い品を渡されている。
リフウもまた、それに寄り添い応じていた。

「キリヤナギ、お前は、楽しめているか?」
「そこそこ、かな?」
「そうか、ならいい」

カナトは優しいと思う。
喧嘩すれば容赦はないのに、気を使ってくれるし、いつも気にしてくれている。
当たり前だとわかりつつも、慣れていないのがよく分かり、少し不器用だ。

「カナトってジンに似てきたよね」
「どこがだ……?」

「なにがすか……?」

やっぱり似てきている。
このままジンぐらいに単純ならいいのにと思ったが、それはカナトではなくなると考えてやめた。

表舞台では、天界に招かれた客人が様々なエキシビジョンを披露してくれて、会場は大きな盛り上がりをみせてくれる。
シャロンは一番前の特等席で、拍手をしながらたのしんでいた。

そうして、時刻も夕方に近づき、決勝の舞台が用意される。
キリヤナギの服は簡単に縫い直され、殆ど目立たなくなっていた。

「勝てるか?」
「エドワーズを相手にするよりも気楽だよ」

キリヤナギの笑顔に、ジンは困惑している。
先ほどの戦いで苦戦していのだから、アテにならないと思うのも仕方ないか。

「ジン、もしかして、僕が負けると思ってる?」
「そんなんじゃないっすよ! ただなんと言うか……」
「そっかありがとう……」

笑ったキリヤナギに言葉が詰まった。
まだなにも言っていないのに悠然とテントをでていく。
何に対してお礼を言われたんだろう。

「お前本当わかりやすいなぁ……」
「は、なんの話すか……!」

分かりやすいと言うコウガの言葉に、傍で見ていたセオがため息をつく。
ジンが素直なのは今に始まった事ではない。
だがキリヤナギが唯一目的を話さないと言ったのも、おそらくこの素直さの所為だろう。
素直すぎるか故に、彼はキリヤナギの真の目的を知った時、一体どんな反応を示すのか、

「ジン。少し変な事を聞いてもいいかい?」
「ん? なんだよ、セオ。改まって……」
「ジンは、英雄になりたいと……思う?」
「えいゆう? 英雄って、ゲームの?」
「……救いようのない悪を前にした時に、ジンは倒せる?」

悪と言われてジンは少し混乱した。
救いようがないといわれても、どう救いようがないか分からないからだ。

「そんなん、悪なんてよくわかんねぇし、そいつがどんな奴かもわかんないのに、倒すなんて無理じゃん? セオとかカナトが危なくなるなら、考えるかもしれないけど……」

十分すぎる答えだと思った。
この質問は、セオが騎士になってしばらくした時に、キリヤナギがセオにした質問でもある。
この質問はキリヤナギの目的が達成されたあとにどうするかを聴く、核心的な質問だ。
英雄とは、悪を倒すと言う犠牲を払い、大衆からその正義を讃えられるものを指す。

「そっか、やっぱりジンはジンだね。安心した」
「な、何が……?」

意味深すぎて、返事に困る。
コウガは面白くなさそうにこちらをにらみ、スィーは思わせぶりに目をそらしてしまった。
グランジはおやつのアップルパイを上品に頬張っている。

「とにかく、決勝が始まるよ」

そうだった。
ジンは足早にテントをでると、もうそこにはミカエルの騎士とキリヤナギが対峙している。
ミカエルの騎士は、相変わらずの軽装であれは私服だろうか。
キリヤナギもまた、先ほどのセンチネルシールドとは違い、腕の部分だけにつける小手を装着している。

「ふむ、その盾の選択は悪くない。楽しませてくれ、エミルの騎士よ」

口を開いたミカエルの騎士に、キリヤナギは驚いた。
この三回戦で彼はずっと無言を通して来たのに、今更口を開くとはどういう事だろう。

「他家の腑抜けたリーマン騎士が、どれほど馬鹿にされようが、知った事ではない。だが貴様の発言は、騎士と名乗り魔法を使う天界人、全てに該当するとも取れる発言をした。魔法は戦いにおける重要な手段の一つでもある。撤回までは言わんが、魔法などなくとも、我々は闘えると証明してみせよう」
「……」

無言で返すキリヤナギに、カナトはため息をついた。
らしいと、思うからだ。
ミカエルの騎士は、空中に手を掲げ、マインゴーシュにも見える小さな魔力の剣を作成する。
透明でガラスのようなその剣を、キリヤナギの足元へ投げ、床へと突き立てた。

「それは我が魔力の集合体。凝縮し、質量を持った魔力の剣だ。鉄ではない為、軽く、レイピアを使う際の盾にもなるだろう」

キリヤナギが引き抜くと、ガラスの様に透明な剣に確かな質量があった。
不思議なものだと思う。

「生憎、今日は武器を持ち込んでいなくてな。武器と盾だけは、魔法で作らせてもらう。代わりにその剣を貴様に託そう、好きに使うといい」
「試合の最中に、消失の可能性は?」
「分解の構築式があるならば可能だか、いくら私でも、戦いの最中にその様な余裕はない。魔力エネルギーは、金属とは違い物資の結び付きが特殊でな。人の力で破壊するにはそれなりにコツがいる。試してみるといい」

ミカエルの騎士の言葉に、キリヤナギは何故か安心した。
ここで預けた剣を途中で消したなら、確かにミカエルの騎士は、卑怯な手を使ったと墓穴を掘る。
魔法を使う上でのハンデとまではいかないが、魔法は武器のみと言う信頼の証か。
キリヤナギは、透明な魔力の剣を握り、構えた。
相手はそれに口元へ笑みをみせ、今度は自分用の剣を作成する。
まるで紙の様に薄い剣だ。
真っ直ぐに構えられれば、見えない。

「楽しませてくれ。エミルの騎士よ!」

審判の合図が響き渡る。
キリヤナギと騎士は円を描き、二人で睨み合いながら対峙した。
重い空気だ。
攻めても構わないが、天界の騎士達は何故か喧嘩っ早く、向こうからどんどん突っ込んでくる為に、攻める必要がなかった。
基礎はあるが応用がない。
やはり、実践慣れをしていないのだろうと思う。

だが、ミカエルの騎士は違った。
攻めてこない点も一つだが、しっかりと地に足を付いている。
両足で重心をとり、体重をかけているのがわかる。
手強いと、キリヤナギは本能で直感した。
ならば、此方からいくしかない。

キリヤナギが飛び出した瞬間、それは始まった。
弾き合いだ。
早くなめらかで無駄のない動きで、二人の刃がまるで、リズムを刻む様に音を立てていく。
時々キリヤナギが受け流し、ミカエルの騎士は”ソリッドオーラ”の盾でガード。
打ち合いが続く。
ミカエルの騎士もフェイントから、一閃するのを狙ったが、キリヤナギが腰を落とし回避、ミカエルの騎士の懐へ飛び込む。
だが横へと回避され、キリヤナギが足でブレーキ、
再び突っ込んで、盾に止められた。

「なかなか機転が利く。面白い!」

さっきまで無口を決め込んでいたのに、よく喋ると思う。
一歩後退したミカエルの騎士を、キリヤナギが追い、再び弾き合いが始まった。
その中でキリヤナギは武器を弾いた後、ミカエルの持ち手に狙いを定めて突き出す。
だが、ミカエルはその瞬間、あえて武器を離し、キリヤナギのダインスレイブが空を切った。

戦闘中に武器を手放すなどあり得ない。
武器を投げる人間はみたが、武器から手を離した人間は、降参以外で初めてだ。

だが、重力によって床へ落ちる剣を、ミカエルは再び掴みとる。
やられたと思い、キリヤナギがとっさに後ろへ飛んだ。
その瞬間、騎士は剣を大きく振り抜き、キリヤナギのアレスプレートを僅かに切り裂く。

「いい反応速度だ。慣れているな」

強い。
ホライゾンとはまた違う強さだ。
彼は翼や空中からの攻撃もうまく使うのに対し、この騎士は、タイタニアの醍醐味を何一つ使っていない。
手加減されているのか。

「タイタニアとの戦いには慣れているみたいだが、私はどちらかと言えば足をついたの方が得意でな。主は我々に素晴らしい体を与えてくれたと言うのに、これを使わずにどうする」

慣れているといえばそうだ。
まず互角にやりあえるのが、ホライゾンしかない時点で、一つの不安要素だった。
だから彼には定期的に、床を基準に相手をしてもらっていたのもある。

「後貴様は、下からの攻撃は苦手だな? 先ほどの反応速度、先程よりもかなり遅かった。小柄な分、足元に目がいかないのは分かるが……」

悔しい。たが、正しい。
確かに、自分より背の低い相手と殆ど戦った事がない。
メリエは滅多に会えないし、女性は大体、体力から勝っている為に、そもそもあまり苦戦した事がないのだ。
ミカエルの騎士の手元を狙い、凝視していた事で下に目がいかなかったのも大きい。

再び睨み合いながら、キリヤナギは集中していく。
冷静になりミカエルの騎士を凝視した。
構えはするが、そんな相手に全く敵意を感じない。
敵意を感じないのは、楽しんでいると言う事だと思う。
だからキリヤナギも力を抜いた。
勝ち負けよりも楽しむ相手に応えたい。

「やっと笑ったな。今度はこちらから行こう」

きた。
突きではなく下からの斬撃を、キリヤナギは後退して回避する。
更に向かってきた騎士の剣を、左手の剣で受け、刃元の突起に噛ませた。

突き出したダインスレイブは、ミカエルの騎士の脇腹を僅かに掠めたが、騎士は再び剣を離し、緩んだ剣を抜き取って距離をとる。

誰もが呆然と、その試合を見ていた。
見た事のない動作ばかりを披露する2人に、ギャラリーは釘付けとなっている。

「上手く使っているようで、感心したぞ。エミルの騎士」
「勿体無いお言葉、至極光栄の極み!」

再び甲高い金属音が、舞台へと響き始めた。
キリヤナギのダインスレイブの高い音と、ミカエルの騎士の剣によるガラスのような音。
綺麗だとキリヤナギは感想した。

その中で、キリヤナギは弾いた剣を下から回し込む、左手の短剣の突きを構え、ミカエルの騎士が盾を展開した。
それを見たキリヤナギは、あえて後退。
マントを翻し、ダインスレイブで自身マントの一部を切り裂く。
切り裂かれた赤い布は、ミカエルの騎士の上半身を覆った。

キリヤナギが床を蹴る。

いける。
狙いの銀の仮面に向け、キリヤナギはダインスレイブを打ち出した。
またミカエルは、視界を遮られたマントを剣で割き、回避は間に合わないと判断。
攻撃に転じた。

ダインスレイブは、銀仮面へヒビを入れ、また騎士の剣はキリヤナギの頬を掠め、赤い切り傷がにじむ。
また、こめかみのモーロスが、騎士の剣を受けて弾き飛んだ。

キリヤナギのダインスレイブも、騎士の仮面の支えを砕き、ズレて行くように床へ落ちた。

ウォーレスハイムは、それをみてガッツポーズをしようとしたが、露わになった騎士の顔に、メロディアスを除く、全ての騎士や貴族が言葉を失う。

キリヤナギは、間近で相手を見て、騎士には見えない麗人だと感想した。

金髪に青目の男性だ。
一瞬、その整った顔立ちに見惚れたのがいけなかった。
突き出した手首を掴まれ、キリヤナギはそのまま足元へなげられ、倒れこむ。

「ふむ、仮面が取れて驚いたか? 油断は身を滅ぼすぞ」

「勝者、ミカエルの騎士!」
「ちげーよ。馬鹿野郎!!」

ウォーレスハイムの怒鳴り声に、キリヤナギを含めた皆が我に帰る。
倒されて起き上がろうとしていたが、体が大分疲れきっていてうまくいかない。

「なんでお前が……」
「なんだ? 律儀に招待状を送ってきたくせに、私が来ては不満か?」
「うるせぇ!! 来ねえって返信してたじゃねえか!!」
「ミカエルとしては来ないと描いたが、騎士として来ないとは言ってないぞ?」
「てめぇえ、測りやがったなぁ!!」

キリヤナギはミカエル騎士の足元で正座した。
ウォーレスハイムは、ミカエルの騎士に怒っていて、ミカエルの騎士は、ミカエルの騎士としてはくるが、ミカエルとしては来ていないと言った。
つまりいまキリヤナギの目の前にいるのは、天界の軍師。ミカエル本人か。

キリヤナギは動けなくなった。
天界の七大天使に武器を向けたなど、裏切りもいいところだし、反逆罪もあり得るからだ。

「何を固まっている。エミルの騎士、私はいい試合が出来て楽しかったぞ? 貴様は楽しくなかったのか?」
「は、へ……、え!?」

「よそ見すんなミカエル!!」

ベランダに乗り上げるウォーレスハイムを、バトラーが必死に抑えている。
ジンはミカエルが来たと理解したが、カナトは驚きの余り、持っていたティーカップの中身を全て地面に溢し、エドワーズは笑顔のままカップに注ぎ続け、溢れさせている。

「はっはっはっ、私が優勝だな。なかなか面白かったぞ。そんなに怯えるなエミルの騎士。とって食おうとも思わん。マントを割いてまで勝とうとする忠義、しかと見た。その上で我が家の騎士もまにあっている。天界へ連れ帰ることはせん」

キリヤナギが半泣きになっている。
救われたような表情だ。

「ウォーレスハイム。私は騎士として来ている。文句は言わせんぞ!」
「文句も何もあるか!! 常識ぐらい考えろ!」

父が言えた事ではないと、カナトは錯乱していた。紅茶を飲もうとしたら、中身はない。
床に落ちたキリヤナギのマントは早く治してやらないと……。

「カナト、大丈夫か……?」
「キリヤナギのマントは、修繕に何日ぐらい掛かるだろうか」
「落ち着け! 深呼吸しろ!」

現実逃避が酷い。
ミカエルは凍りついたその空気を楽しそうに笑い、まるで何事もなかったかのように舞台を降りていった。
キリヤナギの手元には、渡された透明な剣がしっかりとそこへ残っている。

結局、ミカエルは騎士として参加しており、自身が優勝したとも言っていた事から、ウォーレスハイムは酷く嫌そうな顔をしてミカエルを表彰していた。
キリヤナギも一応準優勝で、ミカエル相手に良く頑張ったと褒めてもらいはしたが、本人はそれどころではなく、混乱が抜けきらないまま、なんとか表彰式を終えた。

その後、メロディアスの城で盛大な晩餐会が開かれたが、キリヤナギは疲れとミカエルの騎士の正体のショックが抜けきらず、欠席をする事になる。

「総隊長こねぇんだ?」
「仮にも一国の主に武器を向けたんだ。合わせる顔もない。私もだが……」

カナトも大分参っている。
しかし晩餐会には、ミカエルもウォーレスハイムも居なかった。
本当に父は大雑把すぎて呆れてしまう。

「それで、何をしに来た?」
「特に用はないぞ? 面白そうだったからな、騎士達を叩きなおす為にも見に来ただけだ」

黒いノートタイプの端末に向かうミカエルとの縮図は、まるで天界の時のようで、ウォーレスハイムは一瞬ここが天界ではないかと錯覚した。
確かに、ミカエルは今、護衛も使いも連れずだった1人で来ている。
立会人も連れていないのは、騎士だからだろう。

「……ふむ、”Guild”システムをちゃんとアップデートしているな。感心したぞ」
「またハッキングしてんのかよ」
「私が作ったんだ。私のシステムに私がアクセスして何が悪い」

あの完成度が高すぎるシステムにハッキングをかけるとは、ミカエルは自分用の抜け道でも用意しているのだろうか。
しかし、作ったのはミカエルであることは確かで反論もできない。

「人の騎士をボロボロにしておいて、良く言うぜ……」
「初見から、なかなか面白いものを飼いならしているとは思ったぞ。首の封印は貴様のだな?」
「そうだよ。あれ使わせたら闘技大会どころじゃなくなるしな」

楽しそうなミカエルは、ようやく端末を閉じ、紅茶をすする。
ミカエルが騎士である事に間違いはない。
役職上は軍師だが、彼自身も天界の騎士である事に間違いはないからだ。

「きかねぇのか?」
「戦いながら大方の分析は終えたからな。あの銀の封印は、私も初めてみたぞ。実に興味深いが2つある魂を強引に詰め込む蓋ならば、貴様が二重封印で留めているのも理解できる。今の技術は、所詮ロストテクノロジーからの再発展にすぎないからな」
「……なんとかしてやれないかね」
「ほぅ、偉く肩入れしてるんだな?」
「一応あいつがガキの頃からみてきたからな。今更、匙をなげるのは性にあわねぇんだよ」
「ふむ、その気持ちは分かるぞ。私も妹が赤子の頃から寄り添っていたからな。見捨てられないのはわかる」
「てめぇのシスコンは病的なんだよ……」

聞きもしないミカエルは、やはりキリヤナギとの戦いでも手加減していたのか。
かなり動いていた筈なのに、疲れを全く感じられない。

「そうだな。奴の封印の複雑さは、古代アクロニア独特の魔法構造にある。光の精霊との契約者が、新生魔法の理解を高めれば、新しい単純化されたソースコードで同じ効果を発揮できる可能性もない訳ではないが……」
「こっちの光の精霊は気難しくて、変に浮気したらそっぽ向かれちまう、そう言う意味では古代人は天才だろうな」
「この世界の人類は、何度彼らを裏切ったか数しれん。与えられた力で土地を滅ぼされれば、精霊も力を貸す事に抵抗ができるのも分かるからな。下手に力を与えるよりも、必要最低限の力で喜ぶならば、世界も平和になると踏んだのだろう」

エミル界は未だ争いに満ちている。
そう言う意味では、僅かな力でも与えてくれる彼らはとても寛容なのだろう。

「精霊のご機嫌を気にしない新生魔法は、やはり人類の英知の結晶だな」

皮肉だと思う。
新生魔法は所詮人が作ったものだ。
精霊の力が十分に使えなくなった今、人類が生み出したもう一つの武器とも言える。
様々な分野に広がりはしているが、ミカエルがこうして軍師をしているのも、ある意味それを象徴しているのだろう。

ミカエルはそれ以上、キリヤナギの封印を言及する事はしなかった。
それはおそらくミカエル自身、現状維持が最善であると判断したからだ。
光の精霊の力を十分に借りられていない今の世界では、到底成し得ない技術であるとミカエルが肯定しているにも等しい。

望みを断たれウォーレスハイムがため息をついたとき、応接室へノックが響いた。
時刻はそろそろ晩餐会が終わる時刻だ。
ならば訪れた人間も大方察しがつく。
使用人に通されて現れたのは、紫の翼をもつ熾天使、レミエル・ギルバートだ。

「こんばんは」
「よ、お疲れさん。シュトラーセは残念だったな」
「彼女は彼女で楽しんでいた。感謝している」

会話する2人にミカエルはなんの反応も示さない。
再び端末を開き、キーを叩き始めた。

「ミカエル陛下も……驚きですね」
「今の私は、ミカエルではあるが騎士として来ている。貴様と話す事はない。後日にしてくれ」
「しかし、皆ギャップに驚いています。主にどう説明を?」
「何故貴様がそれを聞く? 私がどうしようと私の勝手な話だ」
「なら今回の出来事を、私が皆に離さぬよう口止めをしましょう」
「ほう?」
「私とウォーレスハイム、ミカエル陛下との共通の情報として」
「たかが口約束を、私が信頼すると思うのか? レミエル」
「僕は信頼を……」
「ならばそうだな。貴様がもし天界にて、私の今日の事を口外にしたなら、過去に犯した贖罪をエミル界のデバイス全ての送信する」
「は……」
「口にしたくなくなるだろう? エミル界での信頼はがた落ち、ウォーレスハイムも縁を切らざる得なくなるな」

「ミカエル。せっかく纏まったんだよ、邪魔すんな。レミエルも、混ざりたいのは分かるが、こいつは容赦しない。めんどくせぇから仲良くしろ。俺が持たん」
「……そうだな。私も気を使うのは面倒だ。だが、天界の現状を理解できん口だけの熾天使無勢が、我々の話を到底理解できるとは思えん。精々こちらの世界で学ぶことだ。……私は部屋に戻る」
「おぅ、まぁせっかくきたんだ。寛いでけ」

後ろ手を振り、応接室を出て行くミカエルをウォーレスハイムとレミエルは見送った。
呆然とするレミエルは、ウォーレスハイムの向かいに座りこみ頭を抱える。

「残念だったな……」
「何故君は、彼とまともに会話ができる?」
「利害が一致してるだけだよ。俺とミカエルはお互いにメリットがあるからな」
「……ビジネスか?」
「それもあるが、ビジネスなんてただのオマケさ」
「オマケだと……?」
「そうだろ? つーかお前、そんなんだからミカエルに嫌われるんだよ。他の奴もだけどさ……」

レミエルを含めた地の七大天使がミカエルに嫌われる理由と考え、ギルバートは困惑した。
少なくともここ数百年、ミカエルはずっとあの様な態度を取り、まともな話をしてくれない。
しかし、レミエルも他七大天使もミカエルに嫌われるような行為に全く覚えはなかった。
ビジネス面でなら、ミカエルはかなり融通を利かせてくれるからだ。

「恥を承知で、聞いても構わないか……」
「……ならお前、今回の闘技大会。どう思った?」
「どう? 天界の騎士やキリヤナギが健闘したと思いはしたが……」
「健闘ね、確かにそうだな。……悔しくないのかい?」
「悔しい……?」
「キリヤナギはエミル族だぜ? 魔法を禁止して準優勝だ。初戦の魔法は、この世界じゃ素人でも使えるようマニュアル化されてるやつな。……あいつは弱くはないが、あんだけボコボコにされて、悔しくねぇ?」
「確かにそうだが……」
「ミカエルは軍師だ。天界の一般騎士を見にきたのも一つあるだろう。そんでもし、戦争になればどうなる?」
「戦争だと……? 今の時代にそんな」
「あるんだよ。冥界にはな。今は大分鎮静化したが、今度いつ力を取り戻してくるかわかんねぇ、エミル界っていう防波堤があるから、今の天界は平和を演じてられんだ」
「防波堤……? 」
「デウス・エクス・マキナ。通称DEMの侵略だ。話によれば俺たちの先祖が作ったらしい。そいつらが冥界を飲み込み、エミル界も飲み込み、天界にきたらどうなる? あのプライドばっかの騎士で勝てるとは、到底おもえねぇな」
「……寿命か。リフウ妃も話していた」
「そうだぜ? エミル界や冥界の人口は増えてるが、天界にすむタイタニアは長命な分、子孫を残す速度は遅い。しかも、今時兄弟も多くて3人だ。増えるどころか減るばかり、戦争なんてしたら、真っ先に滅びるだろうよ。俺とミカエルは、ずっとそれに悩んでんのに、てめぇらときたらビジネスの話ばっかで耳を貸そうともしねぇ……。だからもう俺は、エミル界の人材を育成して代わりに戦ってもらうことにしたさ。適当な支援だけで喜んでくれるなら、別にわざわざ戦わなくても、勝手になんとかしてくれるからな……」

ミカエルとウォーレスハイムは、天界の今後を誰よりも真面目に考えていたのか。
レミエルはずっと、天界でのビジネスの発展が今後に繋がると思っていたのに、それ以上の根本的な問題について言及されるなど、思ってもみなかった。

「……何かできるか?」
「んー。お前観光大使だしなぁ……。まぁ、適当に考えてみるといいさ、興味持っただけ評価してやるよ」

情けない。
自身の役職に自惚れていたならばそうだろう。
何百年も平和が続き、内部の繁栄ばかりに囚われて、現状の問題を理解しきれていなかった。
関わらなければいいと思っていたのに、関わらざる得ない可能性があると言われれば、確かに危機感がでてくる。

「ミカエルに聞くのは止めとけよ? あいつは自分の気に入った相手としか話したがらないからな……」
「今の僕が話しても、足手纏いなだけなのはわかるさ。少し考えて見よう。ありがとう、ウォーレスハイム」
「エミル界は広いからな、顔も広いほうが便利さ」

ウォーレスハイムは笑っていた。
その中で、ミカエルが応接室をでて行く前。
キリヤナギとカナトが、2人で応接室の前に立ち尽くしていた。
カナトは顔を洗って晩餐会にでて、ようやく落ち着いたが、キリヤナギは未だ小刻みに震えている。
手には先ほどミカエルに貰った魔力の剣をもち、返却にきたのだが、こめかみに生汗を滴らせていて相当緊張しているのが伺えた。

「無理せず明日でもいいのではないか……」
「早めに謝らないと……、僕もう、明日には出勤だし……」

しかし、とても話せそうには見えない。
だがカナトもまた、手には爆弾を抱えている。
最善は尽くしたがどうしようもないのだ。だからキリヤナギと2人で頭を下げに来た。

震える手で、ノックをしようとした直後。
突然扉の方から開き、キリヤナギはカナトと後退した。
開いた方向に逃げてしまった為、現れたミカエルは、扉を閉めてからこちらに気づく。

「ミカエル陛下。こ、こんばんは……」
「貴様は、エミルの騎士か。御曹司も、どうした?」
「昼間はご無礼を、お許し下さい。こ、れを、お返ししたくて、まいり、ました」

両手で差し出された透明な短剣にミカエルは反応に困っている。
カナトはそこからキリヤナギを跪かせ、続けて述べた。

「私からも、知らなかったとは言え、武器を向けた事に違いはありません。申し訳ございませんでした……」

ミカエルはきょとんとしていた。
カナトが頭を下げたのをみせ、彼はキリヤナギの剣を受け取ると、キリヤナギの両肩に刃を掲げ、それを返す。
再び剣が戻ってきたことに、キリヤナギはあれ? と顔をあげた。

「これで貴様も天界の騎士だ。必要ならまた頼むだろう」
「へ?」
「その剣は記念に進呈する。好きに使え、あと御曹司、カメラはすまなかった。おあいこだ」

ミカエルはそのまま、後ろ手を振って消えてしまった。
キリヤナギは、短剣を持ったまま呆然とし、カナトも惚けている。
許して貰えたのだろうか。
しかし、先程の動作は叙任式と同じものだった。
キリヤナギは俯いて見ていなかったようだが……。

「天界の騎士? 僕?」
「ミカエル陛下はそう言っていたが……」

混乱が一周回って、気がつけば逆走していたような気分だ。
訳が分からない。
未だ混乱を引きずっているキリヤナギに深呼吸させて、カナトは父の居る応接室にはいる。

「お、カナトじゃん。なんか用か?」
「父上……。レミエル陛下……」

ウォーレスハイムは晩餐会に行かなかった事を怒りにきたと思ったのに、カナトは深刻な表情をしていた。
キリヤナギもまたうつむき、視線を落としている。

「なんかあったか?」
「先ほど天界のメディア向けに録画していた物を確認していたのですが……、ファイルが破損し再生ができず……」
「あー、まじか。やっちまったなぁ……」
「母君の戴冠式は、幸い別に書き出していたので、残ってはいるのですが、闘技大会とエキシビジョンが全て……」

「じゃあ、ミカエル陛下の映像も?」
「はい……。陛下にも手伝って頂いたのに情けない限りです」

袋から取り出されたカメラは、ウォーレスハイムが用意した最新式の物だ。
細かい設定ができるため、少し操作が複雑化しているが、公衆電波にのせる上で十分な画質を維持できる。
カナトならば扱えるだろうと思ってはいたのだが、ウォーレスハイムは、カナトが述べた一言に僅かな突っ掛かりを感じた。

「陛下……? ミカエルか?」
「はい」
「あいつ、これに触ったのか」
「はい。始め録画が上手く行かず、見かねたミカエル陛下に手を貸して頂きました」
「あー、くっそ。カナト気にすんな。ミカエルの所為だよ」
「は?」
「証拠隠滅だな。全く、この手の事に関しては手を抜かねぇ……」

カナトがはっとした。
ミカエルは先ほど、去り際にカメラはすまなかったとこぼしていた。
まさか……。

「カメラを壊した? しかし……」
「壊して直したように見せかけて、録画できないよう仕向けたんだろう。やりそうな事だよ。しゃあねえ、シャロンの戴冠式だけあっちのマスコミに送るか」

おそらくスムーズに転送ができなかったのも、ミカエルが操作端末を見つけ出すための時間稼ぎか。
ウォーレスハイムは、キリヤナギの強さを見せつけるいい機会だと思っていたのに、やってくれたと思う。
しかし確かに、天界の騎士がやられる様を天界で流すのは、ミカエルの騎士すら同類に扱われる可能性もある。
ミカエルからすれば確かに面白くない。
自分が出るのなら、尚のこと隠したいだろう。

「ともかく気にすんな。今回はもう全部あいつ所為でいい。キリヤナギもな」
「は、はいっ……」
「申し訳ございません。父上、そしてレミエル陛下、参加に感謝致します」
「こちらこそ、楽しめたよ、カナト」

録画できなかったのは残念ではあったが、ミカエルの手に踊らされたと言えばそうだろう。
本当にやってくれたと思う。

キリヤナギと別れ、部屋に戻ったカナトは、一昨日と同じく、ゲームをしているジンとカナサに安堵した。
カナトは一日中走り回ってボロボロだ。
明日帰る騎士達を見送り、ようやく自宅へ戻れる。

礼装のままベッドに倒れこむと、父がなかなか着替えない訳を理解できた気がした。
確かに脱ぐのが面倒だし、動けばシャワーも入らなければならない。

「カナト、着替えるか?」
「ルナ……疲れた。もう少し休む……」

「なんだよカナト、もうねんの?」
「ジンさんまえまえ!」
「うぇぁぁ、あぶねぇ!」

楽しそうだ。元気だとも思う。
ルシフェルを継いだら、毎日こんな忙しい日々が続くのだろうか。
そう思うとこれからの将来がひどく億劫になってくる。
ルナが礼装を脱がせようと引っ張り、カナトはようやく起き上がった。
長い三日間だった。
明日が終わればまたゆっくりできる。

結局カナトは、礼装だけを脱いでそのまま寝てしまった。
ジンもカナサと散々遊んで、ソファベッドにもぐりこむ。

カナトと同じく部屋に戻ったキリヤナギは、グランジに頼んで、部隊で流行っているらしい”ナビゲーションデバイス”のアプリゲームをダウンロードしていた。
招待コードを貰えば、始めかレベルマックスのキャラクターが貰えるらしいが、よくわからない。

「気にいったのか?」
「みんなやってるから、気になるだけ」

素直ではないなと、グランジは思った。
しかし、キリヤナギは目立った趣味を殆どもっていなかった為に、悪くないとは思う。

始めはモノローグから始まり、物語がゆっくりと音読されていく。
しばらく立ち、チュートリアルのBGMが流れた所でキリヤナギをみると、端末を持ったまま眠っていた。
開始のBGMが眠気を誘ったらしい。
グランジはキリヤナギへ布団をかけ直し、自身も床へついた。

次の日、ジンとカナトはいつも通りの時間に目覚め、カナトは戴冠式の後片付けに追われる事となる。
朝のランニングを終えたジンが戻ってくると、眠そうに目を擦るキリヤナギと鉢合わせした。
出勤を控えていた彼は、結局ギリギリまで眠っていたらしい。

「眠い……」

いつものアレスプレートで現れたキリヤナギは、衣服がクリーニングされており、普段より綺麗にみえる。
しかし表情が億劫で、やはり疲れているのだろう。
大きく欠伸をする様をジンは初めてみる。

「大丈夫すか……」
「平気だよ。でもちょっと筋肉痛……」

「だらだらと寝ているからだ」

グランジを睨むキリヤナギに、ジンは息を詰めた。
この二人は、仲がいいのか悪いのかわからない。
困惑しているジンに気づいたキリヤナギは、ゆっくりとジンに近づいて肩を叩く。

「それじゃ、カナトを頼んだよ。ジン」
「へ、 あ、はい!」

靡く赤いマントには、メロディアスの紋章はなかった。
あんなに喜んでいたのに、なぜつけていないのだろう。

「マントは騎士の立場を示す意味もある。治安維持部隊で活動する時は、メロディアスの管理から離れるからな」
「離れるって?」
「立場が治安維持部隊なのか、キリヤナギ個人なのかの違いだ。ギルド評議会が治安維持部隊を丸ごと雇っているのならば、私達メロディアスは、キリヤナギ個人を雇っていると言う事になる。故にマントは、今キリヤナギがどの立場にあるかを示す名札と言う認識でいい。今は役目を終えただけの事、また必要になれば使うだろう」

ジンは理解している様子がなかった。
ジンからすれば、キリヤナギはキリヤナギであるし、混合してしまう気持ちもわかる。
自室に持ち込んだ荷物を整理していたカナトは、父から渡されたノートも詰め込んで一息つく。
ジンも、昨日の戴冠式で着ていたマント付きの礼服をクリーニングされて渡されていた。
これは元々、ジンの為に用意された物らしく、貰えるらしい。

「貴様もさっさとそれに着替えろ! キリヤナギが帰ったんだ。代理として付きそって貰うぞ」
「また着んの!?」

代理とはなんなのか。
ジャージから着替えないジンに、ルナがシャツを渡してきて、ジンは仕方なくそれに着替えた。

息苦しい。
その上から、カナトが部屋に置いてある鞘付きのサーベルをジンに持たせる。
肩にかけさせて、ようやく”らしく”なった。

「着せ替え人形じゃねぇぞ……」
「サーベルとマントは、騎士の物差しだ。舐められない為にも持っているだけでいい」

そう言う物なのだろうか。
しかしキリヤナギにも、カナトを頼んだと言われている。
持っているだけでいいならば、素直に従うことにした。
纏めた荷物をルナへ預け、ジンとカナトはシャロン、リフウ、月光花のいる部屋に向かう。
シャロンはベランダで、飛空城の第一便へ乗り込んで行く客人を見送っていた。
月光花とリフウも隣で、その巨大な城を眺める。

「すごーい。ジン、あれに乗ったの?」
「そ、そうだけど……」
「へー、いいなぁ!」

羨ましい事なのだろうか。
ジンはもう見て驚いて乗りもしたし、初めて見たときのような高揚感はあまり感じない。
しかし、あの巨大さはやはり眼を見張るものがある。
ずっと空を見上げる月光花を観察すると、日よけの帽子をかぶって、真っ白なノースリーブワンピースを着ている。

細い。
ワンピースは借り物なのだろうか。
普段全く意識していなかったのに、一昨日ダンスをしてから色々違って見えてくる。
服が違うからだろうか。

「何ジロジロみてんの? やらしー」
「は!? なんでもねぇし!」

背中を向けたジンに、月光花は違和感を覚えた。いつもなら「お前なんかに」とか「興味ない」と言われるのが決まっていたのに、今のジンは、否定せずに誤魔化した。
つまりいつもとは違う意識で見ていたのか。

「なーに? 素直になりなさいよ! かわいいっていいなさいよ!」
「か、うるせぇ! そんなんじゃねぇ!」

馬鹿だなぁと思う。しかしやはり嬉かった。
幼なじみと言う壁を少し越えられたなら、それだけで幸せだからだ。
第一便を見送ったジンは、カナトに連れられウォーレスハイムの部屋へ招かれる事になる。
ジンは何故招かれたのか分からないが、カナトによると顔を合わせるだけでいいらしい。
ウォーレスハイムは嬉しそうにジンを迎えると、向かいのソファに座らせてくれる。

「とりあえずお疲れさん。楽しめたかい?」
「へ、ま、まぁ、それなりには……ありがとう、ございました」

カナトはお茶を入れてくれていた。
ジンの隣に座り、かなり落ち着いているようにも見える。
何を話せばいいのか。

「はっは、なら良かった。気に入ったならここに居てもいいぜ? その方が助かるからな」
「それって……」
「ここに住むかどうかだよ。カナトは出て行く気満々だが、ジンがここにいるなら考えるっていいだしてな」
「カナト……」
「部屋はいくらでもあるし、別に一人二人増えようが一緒だからな。カナトの護衛なら尚更だ、月光花ちゃんも、シャロンとリフウが大分気にいってる。ふたりしてここにいても全然かまわねぇぜ?」

嬉しい申し出だと思う。
カナトの自宅に転がり込むと言う事実は同じだし、月光花も一人暮らしから解放されるなら、ジンは安心できるからだ。
だが、レミエルの城での経験を踏まえると、あまりいい印象がない。
だから確認の為にきいてみることにした。

「カナトは、どう思う?」
「好きにすればいい……ともいいたいが、貴様がこの城に住むならば、私はメロディアスとして、ジンを騎士に招きたいと考えている」
「へ……?」
「キリヤナギの雇用状態にある今から、私が貴様を正式に雇う」

「庶民から、正式な騎士になるって事だな。キリヤナギと同じさ」
「それって、治安維持部隊とか続けられるんすか?」
「どうだろうなぁ、やる気次第だと思うぜ? でも俺、ルシフェルからすりゃあ、カナトに色々やらせたいし、それにつきあって貰いてぇから、それなりに忙しくて難しそうだとは思うがなぁ……」

カナトは黙っていた。
キリヤナギと同じと言われて、三日間を振り返ると、カナトが表にいる時、彼は常に横にいた。
あれをジンがやるのならば、確かに忙しそうに感じる。

「キリヤナギには話つけたのかい? カナト」
「まだです。しかし奴も勝手にしたこと、私の勝手に文句も言えないでしょう」
「ゲスいねぇ……」

キリヤナギも大概だが、カナトも大概だと思った。
いい話だし、悪くない。
でも何故か違和感を覚える。
本能なのか何かが、あまりよくないと訴えているのだ。

「よくわかねぇけど、なんか違う気がする」
「……違う?」
「なんからしくないと言うか。……カナトは家でたいんだろ?」
「そうだな……」
「じゃあそれでいいじゃん。ルナもいるし、そっちのが気楽そうだし、ゲッカにも聞いてみるか」

ウォーレスハイムは呆然としていた。
カナトは無表情で、お茶を啜っている。
ジンは”ナビゲーションデバイス”で、月光花に通信をとばした。
彼女もまた、休憩している姉妹とお茶をしていたらしく、すぐに通信にでてくれる。
住まないかと提案してきたウォーレスハイムに、月光花は驚いたが、小さく小声で述べた。

「”うーん。すごい有難くて、いいと思うんだけど、何から何まで貰っちゃって、やって貰って、申し訳ないなって……これがずっと続くのは、ちょっと辛くなりそう”」
「そっか。さんきゅ」
「”ジンがいるなら、考えてもいいけど……”」
「俺?」
「”べ、別に深い意味はないし……とりあえずそういう事よ! じゃあね!”」

切れてしまった。
しかし確かに、月光花の言う通りだ。
言葉にならなかった違和感はこれだと思う。
月光花が、行き届きすぎたこの環境に後ろめたさを感じるなら、住んだとしても長くは続かないだろう。ジンも同じだ。
それならば、カナトの護衛として家をでて、また3人で気楽に暮らせればいい。

「そんなんで、すんません。俺あんまりこう言う所は向かないかな……」
「そーかい。しゃあねぇな、……お前の勝ちだよカナト」
「へ?」

勝ちだと言われて、ジンの表情が戯けた。
なんの話だ。

「貴様がこの家に住むならば、私がルシフェルを継ぐ時期を50年後から3年後にすると言う賭けをしていた」
「は……」
「だが、断ったのならば、予定通り50年後。追加で私達と月光花さんの生活環境の支援を取り付けた」
「……まじかよ」

「三年後に継いでくれりゃあ、俺もさっさと隠居できんのに……欲がないねぇ、ジン君」
「ともかく約束です。父上、月光花さんの使って入る私の庭の改修をお願いします」
「いいぜ。改修っつーかもう新しいの買え、古いだろうし、女の子一人暮らしだからな。それなりに防犯できるやつ選んでやれよ」

「あ、あの……親父さん?」
「きにすんな。俺が負けただけだよ。カナトの護衛なら、その為の支援はしてやるさ。キリヤナギが噛むのはちとめんどくせぇが……」

「私が雇えば、貴様はもう、エミル界の人間ではなくなるからな。そう言う意味では、今のままが一番無難ではある」

背筋が冷えた。
エミル界の人間ではなくなると言われて、只事ではないと再認識する。
安易に決意せず良かった。

「それでは父上、私はこれで」
「おぅ、達者でな。めんどくせぇだろうが、またなんかあれば来い。ジンもな」

「は、はい!」

カナトに連れられ、ジンはウォーレスハイムと別れた。
ジンは深く考えてはいなかったが、この数分で様々な物が動いた気がする。

「父は、あの場ですぐ決めると予想していたが、月光花さんに聞くとまでは考えていなかったようだ」
「そうなのか?」
「彼女をずっと聖堂に行かせているのなら、今より環境のいい場所へ即決すると……、あまり気持ちを汲み取らないとな」
「……たしかに、そうだけどさ。でもあいつ、夜来るとき楽しそうじゃん? だから俺だけで決めたらだめだと思って……」
「……そうだな。夕方には庭の清掃が終わるようだ。月光花さんの新しい庭が決まるまで、彼女を私の庭へ招く」
「は!? ……まじかよ」
「軽い引越しだぞ? 他に何処がある」

口ごもるジンにカナトは笑った。
カナトはジンを信じていたのか。そう思うと嬉しくて有難く思えてくる。

その後ジンは休憩を挟まずカナトに連れられ、メロディアスの城のエントランスへ連れてこられた。
続々と客人が城を出て行くなか、カナトは礼をしたり、挨拶をしたり忙しそうに応対している。
ジンはそれ横で棒立ちして、欠伸を必死に堪えていた。
30分ぐらいたっただろうか、第二便の出航時間が近づき、人がまばらになってくる。
メロディアスの専用の城は一機しかないが、戴冠式を主催する上でレミエル・ジェラシアの飛空城が、応援に運行してくれているらしい。
その為、第一便はメロディアスの城が出航し、第二便はジェラシア、第三便は、再びメロディアスの城が、客人を送り届ける手筈になっている。

「城が戻ってくるの大分おそくなるんだな……」
「戻ってこないぞ?」
「へ?」
「メロディアスの飛空城は、普段、天界で管理されているからな。母港は天界となっている為に、第三便は戻らない」
「へー」
「エミル界には、まだちゃんとした飛空城の母港はないからな……」

難しい事情があるのだと思う。
扉の隙間からみると、メロディアスの城より、ふた回り以上大きな城が見えて、ジンは思わず二度見した。

「あれがスタンダードだそうだ」

訳がわからない。
もう既に一つの都市が浮いているのかと錯覚するレベルだ。

「ジン!」

高い声にようやく我に帰る。
女性の声だが、月光花ではない。
誰だろうと思って振り返ると、金髪にドレスの彼女が突然抱きついてきた。
冷たい手に柔らかい肌が密着して、思わず動けなくなる。

「な、ナタリヤさん……!」
「ナタリヤ、ジンが驚いているじゃないか」

「レミエル陛下、ご機嫌麗しゅう……」
「カナト、見送りありがとう」

「ナタリヤさ……その……」
「ジン。ありがとう。どうか元気でいて下さい……」

顔を確かめるように触られて酷く恥ずかしい。
ナタリヤは、スキンシップが大胆すぎて、いつも混乱してしまう。
何も用意していない。言葉も出ない。別れの実感が沸かず、固まってしまった。

「ナタリヤ、そろそろ行こうか」
「はい、兄様……。ありがとう。ジン、また会いましょうね」

まだ何も言ってない。
どうしよう、何か渡せる物はないのだろうか。
そう思ったとき、ジンは背中に持っていた自動式拳銃を抜いた。
カナトは驚いたがマガジンを抜いて、弾丸の入った中身を全部取り出し、筒にも残りがないか確認する。
撃てなくなり軽くなったそれを、ジンは恐る恐る差し出した。

「あの、これ、俺の宝物、なんで、良かったら……」
「貴様、もう少しマシな物はなかったのか?」
「だって、何も持ってないし、用意した物でも、俺のじゃなきゃ意味ねぇじゃん……」

カナトはため息をつく。
ナタリヤは、銃を初めて見るようだった。受け取ったそれを物珍しそうに見ている。

「宝物、なのですね。構わないのですか?」
「そいつ、俺の事、何度も守ってくれたから……、きっとナタリヤさんも、守ってくれると、思います……」
「まぁ、ありがとう……。大切にします……!」

レミエル・ギルバートも呆れた溜息をついていた。
カナトも言葉でず、頭を抱えている。
しかし、ジンらしいと思った。

ゆっくりと上昇していく城を、ジンはメロディアスの庭園で見送る。
綺麗な青空は天空の都市を際立たせ、まるで怪物のように目へ映っていた。

そんなジンにカナトは、狼のルナと月光花をつれて城から出てくる。
庭園の脇には、飛び立つ準備を整えた庭があり、三人が乗り込むのを待っていた。

「ジン!」

ようやく、ジンが此方を向いた。
だからカナトはいつも通りの言葉を投げる。

「帰るぞ!」
「おう!」

月光花も嬉しそうに笑っていた。
また再び、冒険者としての日常がはじまる。



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本編 | 【2015-08-27(Thu) 12:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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