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戴冠式で戦う話(前篇)

出演:グランジさん、セオさん、コウガさん、スィーさん、リフウさん、シュトラーセさん

あらすじ
フィランソロ主催の闘技大会に出場することとなっているキリヤナギ。
個性豊かな面子がそろう中で、さまざまな期待していた彼だが、思わぬぬるま湯の戦いに呆れてしまう。
しかし、そんな大会を見たウォーレスハイムは、キリヤナギへある言葉を放つ。


前回
戴冠式が始まる話
戴冠式で舞踏会に参加する話
参考
(連載)長編シリーズ:Royal*Familiar
キリヤナギ総隊長の一日


 
「はははっ、それは総隊長も怒るね」
「何も聞いてねぇし……」

身体中が痛い。
戴冠式の当日、ジンはキリヤナギの騎士達と合流し、来賓の席からそれを静観していた。
式典用のマント付きの礼装を、ジンを含めた騎士隊の彼らも身につけ、また月光花もジンの隣で淡い水色のドレスをきて参列する。

「でも多分、かなり怒ってたんだと思いますよ。あの総隊長が自分で叩きこむって、僕も初耳です」

スィーまでがそういうのは、やはりよほど珍しいことだったのか。
確かに、ジンの知るキリヤナギとは思えない態度ではあったし、大分反省させられたと思う。
軽い筋肉痛か。情けない。

そんなことを話していると、大広間の入り口から、金の豪華なドレスをまとうシャロンがゆっくりと姿を見せた。
肩から勲章を下げ、横にカナサとカナトを付けてゆっくりと中央の廊下を進む。
双子はシャロンの両隣を堂々と歩き、その先には黒の礼服を着るアークタイタニア・ウォーレスハイムと、リフウが玉座の前へと立っていた。
まるで別世界であるその空間に、ジンを含めた月光花すらも魅せられ凝視する。

ものの数分で玉座の前へたどり着いたシャロンは、目をつむり、腰を下ろした。
ウォーレスハイムはそれに応えるように右手を掲げ、天井へ巨大な魔法陣を召喚。
白銀の装飾が施されたティアラを、まるで手品のようにシャロンへと乗せた。
とたんに白銀の光が舞い上がり、拍手と共に、彼女の3枚の翼へ輝きが舞い踊る。

新しきラファエル。シャロン女王の誕生を皆が祝福した。
その後、キリヤナギの騎士への叙任式と闘技大会のトーナメントがくじ引きで決定される。
キリヤナギの初戦はウリエルの騎士となり、フィランソロの騎士は、レミエルの騎士と戦う事となった。

その後会場は、大広間から舞台のある中庭へと移され、参加する騎士達が集結する。

シャロンとリフウ、カナサ、ギルバートとナタリヤは闘技大会の舞台を一望できるベランダの玉座に座り、カナトを含めたキリヤナギやジンの騎士隊は、中庭に用意されたテントと観客席に座る。

カナトも一応ベランダに席を用意されてはいたが、座る余裕などなく、戴冠式に続いて闘技大会の様子も天界へ向けて映像を録画する作業に追われていた。
バイト使用人たちは、まともに機械を扱えるものが少なく、カナトは必死に説明書を読みながら操作する。
屋外で勲章をつけ、必死で端末をいじる御曹司に、見かけた貴族たちは困惑した表情を浮かべていた。

カナトは必死だ。
説明書通りにやっているのに、うまくいかない。
つい先ほどまで問題なかったのに端末へ映像が転送されず、表示されないのだ。
闘技大会の開始までもう時間がない。

「メロディアスの御曹司よ。何をしている?」

突然声をかけられて、驚いた。
フェンサー系の仮面をつける金髪の彼は、見た瞬間にミカエルの騎士だとわかる。
それも、周りに誰も連れずたった一人で現れたからだ。

「少し設定に手間取っておりまして……」
「何故、御曹司がやっているのだ?」

言いたい事は山ほどある。が、ミカエルにそれを知られてはいけないと唇をかみしめた。
焦る気持ちを必死に抑え、カナトは誤解を生まない言葉を絞りだす、

「じ、次期ルシフェルとして、必要なことであると父から教えられていますために……」
「必要なこと……? はっはっ、なるほど。丸投げされたか、奴のやりそうなことだ」
「は……父をご存知か?」
「ふむ、多少はな。まぁいい、少し変わるといい」

カナトは言われるがままに、席を乗っ取られてしまった。
端末の前に座ったミカエルの騎士は、めまぐるしい速度でタイピングをはじめ、画面を凝視している。
コマンドから参照し、マウスを使わずに操作する様をみてカナトは唖然とした。
マウス操作が当たり前の世の中なのに、この騎士はキーボードだけ操作している。
考えられないことだ。

「なるほど、デバイスに問題がありそうだ。新しいものに変えるといいだろう」
「デバイス? カメラですか」
「屋外へ持ち出し、運ばれる際に落しでもしたのか」

カナトはすぐ、使用人に変えのカメラを持ってこさせた。
配線を間違えないよう慎重に繋ぐと、映像は問題なく転送され表示される。
必死になり、デバイスそのもののエラーに気付かなかったのか。

「そこそこ使えるようだが、まずデバイスの挙動をみることから始めるといい。なかなか深いところの設定までいじっていて感心したぞ」
「私などまだまだ素人です。しかし騎士殿。助かりました、感謝いたします」
「ほう、これに関して感謝されたのは久しぶりだ」

「ミスタリアの騎士様。今すぐ控えテントへ待機をお願いしたします!」
「もうか? 少し話したいとおもったのだが……」

「騎士殿。私もまだ他に動かねばなりません。またの機会にどうか」
「ふむ、そうか。ならば仕方ない。この大会の企画もお前か?」
「はい……一応は」
「そうか。苦労しているだろうが期待している。私も楽しませてもらおう」

カナトは首をかしげた。
楽しんでもらえるのならば確かにうれしいが、何か違う気もしてくる。
一体何者なのだろう。

闘技大会の第一戦は、天界の騎士同士のサリエルの代表とガブリエルの代表だ。
お互いに、槍と盾を構え舞台へと向き合い挨拶を交わす。
カナトはそれを確認すると、キリヤナギのいるメロディアスの控えテントに戻り、椅子へぐったりと腰掛けた。
第一回戦で、キリヤナギは最後だ。
まだまだ時間に余裕はあるために、彼もまだ軽装でいる。

「大丈夫? カナト……」
「それは私のセリフだ。貴様はまるで緊張してないな」
「僕はこういうの初めてじゃないし。演武大会だしね。適当に楽しむよ」

この余裕はどこから来るのだろう。
戴冠式が終わって、カナトはすべてのテントへ挨拶に入ったが、天界の代表たちのテントは、どれも空気がピリピリしていて挨拶どころではなく、ろくに会話もさせてくれない。
ミカエルの騎士に関しては、テントに本人がおらず諦めていたところ、なぜか向こうから声をかけてきた。
話したいことがあるなら、昨日舞踏会で話せただろうと思う。

「天界の騎士さんって大変なんだね……」
「わかるか?」
「僕の予想だと、勝てば昇進とか、追加報酬でるとかいろいろあるんだと思うよ。自分の騎士生命をかけてる人もいるんじゃないかな……」

キリヤナギに言われて少し納得した。
こんな母のきまぐれな大会に本気で臨むなんて、やはり天界は平和すぎると思う。
そういう意味では、キリヤナギを含めた、ミカエルの騎士は大会の本分をわかってくれているのだろうか。
カナトが休憩している中、キリヤナギがこっそりとテントから顔をだし、舞台の様子を観察しだした。
気を使ったバトラーが、礼装のジャケットだけを持ってきて着せてくれて、キリヤナギを外の椅子へ座らせる。
カナトも第一戦は見ておこうと、横に座った。
ドミニオンの審判の掛け声で、試合は静かに開始される。

はじめは盾を摺合せたかとおもえば、お互いに距離をとり、魔法を唱え始めた。
キリヤナギはそれを見て、目を真ん丸にする。

「魔法いいの……?」
「天界では当たり前らしい、魔法しか使えない騎士もいるようなのでどうしようもなかった……」

武器と防具で戦うものではなかったのだろうか。
お互い遠距離からの攻撃を繰り出す二人に、キリヤナギは呆れると、疲れでウトウトしているカナトを見る。

「二戦目のミカエルの騎士に興味がある。終わったら起こしてくれ……」

遠距離同士のこの戦いは、見る側からすればひどくつまらないものだ。
だが、本気で勝ちを望んでいるなら最終的に落ち着く形でもある。

「いたいた。総隊長」
「あ、ジン。みんな来てる?」
「きてるっすよ。あっちにも舞台あるんでそっちで遊んでます」
「へぇ、もう一個あるんだ?」

ジンが指さす方をみると、本舞台とは影になる場所へもう一つ舞台があり、コウガと天界の騎士達が戦って遊んでいる。
本舞台とは違い、武器のみで戦っている彼らに、招待された貴族たちは興味津々で人だかりを作っていた。
少しうらやましい。

「総隊長もこないかなっておもって」
「僕、こっちでないとだしなぁ。カナトも寝てるし、終わったら遊びに行くよ」
「……つまんなくないっすか?」
「つまんないけど、起こせって言われてるし、僕は気にしなくていいよ。ジンはジンで楽しんで」
「そっか……じゃあ、待ってるんで!」

ひらひらと手を振って見送り、キリヤナギは一人でため息をついた。
入れ違いにグランジが現れ、キリヤナギの隣の席へと座ってくる。

「グランジは遊びに行かないの?」
「見られるのは好きじゃない」

グランジらしいとは思った。
目の前の舞台では、相変わらず小さな魔法戦が繰り広げられている。
治安維持部隊でもスペルユーザー同士での戦いは、基本的に勝負がつかないために、あまり戦わないように指示をだしていた。
モンスター戦ならば、多少威力が余剰しても問題ないが、対人となった場合、やりすぎれば事故では済まないからだ。
そのため魔法を使う場合は、あくまで足止めとして利用し、できるだけ体術できり抜けるよう指示をしている。
その中でDEM・リュスィオールは、魔法型DEMであるにもかかわらず、その威力を人が怪我をしない絶妙な加減で調整しているために、驚くほど優秀で貴重な人材だと判断されていた。
キリヤナギ自身、威力が余剰しやすい魔法は危険だと判断しているが、受ける側がガーディアンの場合、盾を持てば大体”リフレクトシールド”ではじくことができるので、戦うときはそんなにも意識してはいなかった。
目の前の騎士は、”リフレクトシールド”を習得していないのだろうか。
そもそも天界には、エミル界のようなベースジョブシステムはないために知らないのか。
彼らがエミル界へ住む自分たちへ、ことごとく勝てない理由が理解できる。本当に情けない。

結局2,30分は魔法の打ち合いを続け、サリエルの代表が第一戦を勝ち抜く。
面白くない。

「カナト。終わったよ……」
「……もう終わったのか、思ったより早いな」
「30分近くやってたんだけど……」

眠そうなカナトは、バトラーからコーヒーを入れてもらい、目を覚まそうとしている。

「安心しろキリヤナギ、ここから少しマシになる」
「そう思えないんだけど……」
「ミカエルの騎士は、天界で最強。その後は、我がフィランソロの騎士だ。ミカエルの騎士はわからないが、フィランソロの騎士は、魔法を苦手としている。肉弾戦になるだろう」
「ふーん」
「えらく不満そうだな……」
「つまんないし……」

そうだろうと思う。
もう既に本舞台の周辺には人はおらず、脇のサブ舞台の方へ観客は持って行かれた。
上のベランダでは、シャロンとリフウが楽しそうに雑談している始末で呆れる。
だが、そんなベランダにウォーレスハイムが顔をだした。
ミカエルの騎士と聞いて現れたのか、シャロンの隣の玉座の腰かけ、足を組む。
父が見に来たのには、何か理由があるのだろうか。

「ちょっとは楽しめるのかなぁ……」

キリヤナギがようやく顔をあげる。
舞台に上がってきたのは、重装備のメタトロン騎士と先程の仮面の騎士で、
仮面の騎士は、カナトと話した時と全く同じ服装をしている。
しかも、武器も盾も、何も持ってはいない。
どういう事だろう。
ドミニオンの審判も不審に思い、思わず声をかけだが、問題ないらしい。

体術だけで戦うというのだろうか。
試合が始まり、飛びかかるメタトロンの騎士をミカエルの騎士はひらりと回避する。
途端、右手に魔力を纏わせ、剣の形へ圧縮。
それを振るい始めた。
メタトロンの騎士は、それを盾で受け止めて防御。
剣で殴り掛かるが、左腕に纏わせた物理バリアにより、それを止める。
七色のその光に、キリヤナギは見覚えがある。
”ソリッドオーラ”だ。
ソーサラーの物理攻撃を無効化するバリア。
本来なら自分の周辺にそれを展開して防御するのに、部分的に盾として展開するとは驚いた。
ミカエルの騎士は、武器を受けた直後に、相手の腕をつかんで倒す。
その時点で勝負は決した。

「驚いたか?」
「……そうだね。ちょっと面白くなってきたかも」

ようやく、キリヤナギのほおが緩み、嬉しそうな表情へ変わった。
壇上のミカエルの騎士は、何も言わずテントへ去り、先ほど話したと思えない態度だと思う。

「カナトカナト、今のやつだれ?」
「なんか変な武器使ってなかったか?」

ジンとコウガが、後ろからひょっこり顔をだした。
やはり、肉弾戦ならば興味があるらしい。

「勝ったのがミカエルの騎士だ。天界で最強とされているらしい」
「へー、つまんねぇやつばっかかと思ったけど、動ける奴もいるんだな」

ジンも上着を脱いでいるのは、遊んでいたのか。
サブ舞台の周辺には、ダウンした騎士達が数名座り込んでいる。

「コウガさんが容赦なさすぎて……」
「あいつらがバカにするから悪いんだよ! タイタニアでもアークタイタニアでもかわらねぇっての!」

傲慢な彼らになら、いい薬だろう。
サブ舞台は、騎士達の練習場として用意していたが、第二の遊び場になりかなり賑わっている。
闘いを控える騎士から、闘い終わったので騎士まで一緒になって戦っていた。
今はまた、天界の騎士同士の魔法戦をしていて、二人はその退屈しのぎに見に来たのだろう。

再び舞台へ視線を戻すと、壇上へ上がってくるレミエルの騎士に、ジンは視線を持っていかれた。
ピンクの長い髪を、高くサイドに上げているのは、紫の翼をもつ女性騎士だ。

「私は、シュトラーセ・トワイライト・フォン・ジェラシア。参ります!」

ジェラシアと名乗った彼女にはっとする。
ベランダにいるレミエル・ギルバートとナタリヤは、嬉しそうに彼女へ手を振っていた。

「ジェラシアの分家にあたる、ギルバート陛下とナタリヤ姫の従姉妹だ」
「へー、今時珍しいね」

かわいいと、ジンは素直に思った。
継承権で言えば、恐らく三位以下にあたる姫だろう。
王政が厳密に敷かれていた時代では、王の家系から離れれば離れる程に、その立場は弱くなりがちだった。
末弟となる王族のかれらは、国に報いるために騎士となることも珍しくなかったが、現在では家族と言っても四人か五人で、妻を何人も迎えるような事もしていない。
その為近年では、継承権は低くとも大切にされていると聞く。
その上であえて騎士となるとは、珍しい。

カナトは興味でシュトラーセを見ていたが、ジンも同じく凝視している。
興味があるのは分かるが、少しあからさま過ぎではないだろうか。
しかしそんなジンは、向かいに現れた相手の騎士に言葉を失う。

「ご機嫌麗しゅう、シュトラーセ姫。私はエドワーズ。フィランソロ第一親衛隊、隊長、エドワーズ・シュバリエと申します。どうかお覚悟を……」

キリヤナギがへぇと感心している。
ジンだけが驚いて、カナトは当たり前のようにそれを静観していた。

「エドワーズ!!」
「知らなかったのか? 武器を持っていただろう」

言われればそうだ。
他の使用人とは違い、エドワーズは常に左腰へ武器を携えていて、何の為に持っているのだろうと疑問に思っていた。
騎士だったならば、護衛も兼ねているのも分かる。

「まぁ、かわいらしい!」

上から聞こえた新しい声にカナトが顔をあげた。
シャロンとリフウが身を乗り出し、舞台を凝視している。

「騎士・シュトラーセ! 応援していますわー!」
「シャ、シャロンさま!?」

カナトが思わず頭を抱えた。
フィランソロのラファエルが、他家の騎士を応援するなど自由すぎないかとすら思う。
シュトラーセもまた、突然の指名に戸惑い反応に困っていた。
エドワーズに至っては、楽しそうなシャロンをみてこちらも笑っている。
本当にいいのか……。

「カナト様。シャロン陛下の我儘を聞いて頂き、感謝いたします」
「!」
「我らフィランソロの騎士は、ずっとお二人の幸せを願い続けていました。その中で今現在、お二人は笑顔の耐えない日々を送っておられます。短命と言う終わらない絶望の日々から解放して下さった貴方方へ心からの感謝を、そして、救いをもたらしたこの世界へ祝福を……」
「……そうか。お前も楽しむといい。エドワーズ。私もそれを望もう」
「御意……!」

エドワーズが抜いた武器は、レイピアではなく刀身がしっかりとしたサーベルだった。
対するシュトラーセは、他の騎士と同じレイピア。
武器だけを見れば、シュトラーセが少し不利にも見える。

キリヤナギは試合を次に控えた為に、彼は残念そうにテントへと戻っていった。

コウガは空いたサブ舞台の様子を見に行き、ジンはシュトラーセに興味があるのかカナトの横に座る。

「戻らないのか?」
「おもしろそうじゃん! エドワーズだし、あの子お姫様なんだろ?」

安置だなぁと思う。
横のグランジは、脇のサンドイッチセットを頬張ってずっと黙っている。
上をみれば、シャロンかリフウが呼び出したのか、月光花がカナトの席に座っていた。
カナトは上にいくつもりもないし、問題はない。

審判の合図で、試合が始まる。
始めの感想は、二人共、床を歩いている所だった。
先ほどの二戦をみても、ミカエルの騎士以外は皆空中から攻撃していたのに、シュトラーセとエドワーズは床を歩いて進む。

「飛ばねぇの?」
「一対一の近距離の闘いの場合。体重や重心を移動できる方が有利だからな……」
「そうなんすか? グランジさん」
「空中戦ならば、タイタニアに敵はいないが、それはあくまで飛び道具を使っている時だ。接近を前提とするなら、空中で闘う意味はない。戦い方によっては体重をかけた方がいいものもある」
「へー」

ジンからすれば、飛ばれたら当たらないし厄介だが、逆を言えば、たしかに剣や打撃武器なら接近しなければ攻撃ができない。

「同じタイタニア同士なら空中で闘うこともあるかもしれないが……」

しかしそれでは、支えがなく踏ん張れないと思う。
受け止めたり、体重をかける為には、確か地に足をつけた方がいい。

考えている間に舞台は動いていた。
エドワーズはサーベルを振るい、シュトラーセはそれを盾で受け止める。
払いのけて、細剣を突き出しても、そこにエドワーズは居らず、盾をもつ死角へと移動していた。
シュトラーセは飛び立つ事で距離を取ろうとしたが、それを見計らい、エドワーズが唱える。

「”グラヴィティフォール!!”」

シュトラーセを中心とした範囲に、重い圧力がかかる。
広げた翼は羽ばたけず、バランスを崩したシュトラーセは、止む無く床へと着地。
目の前にいたエドワーズが、サーベルを振り下ろしてきた。
盾をかざしガードはできたが、足元のバランスが取りづらい。

「騎士ならば、翼に頼らずとも戦えるはずです」
「く……」

エドワーズの武器を払いのけ、シュトラーセが一度さがる。
彼女が唱えたのは、魔法だった。
エミル界で言う闇属性の魔法。
”ダークワールウィンド”をまるで”フォトンランチャー”の様に繰り出す。
しかしエドワーズは、向かってくるランチャーの全てをサーベルでぶった切った。
またそれが、後ろのテントへ直撃。
小規模な爆発を起こす。
シュトラーセはどうやら、魔法の方が得意らしい。

土煙が舞う中、シュトラーセがエドワーズを見失った。
舞台の隅で、いつでも防御できる体制を取ったが、真横の銀の刃に、背筋が冷える。

盾を持つ反対側から、サーベルを突きつけられシュトラーセは動く事ができず、静止した。

「目くらましは使い方によって仇となります。お気をつけますよう……」

呆然としたシュトラーセは、緊張が解けたのか、力無く舞台へ座り込んでしまう。

「勝者! フィランソロ・エドワーズ!!」

エドワーズは手早くサーベルをしまうと、跪き彼女へ手を差し伸べだ。
一瞬戸惑ったかに見えたシュトラーセだが、恥ずかしがりつつもそっと手を取る。

「ありがとう、ございました……」

舞台外では、倒壊したテントを使用人が必死に治している。
幸いレミエルのテントであり、見ていたウォーレスハイムが、バリア魔法と”ソリッドオーラ”を唱え大事にはならなかった。

「派手にやったな……」
「……冷静すぎんだろ」

テントを立て直す作業がもう終わりかけている。
まるで準備していたように手際がよく、ジンは感心した。

「騎士・シュトラーセ! 素敵でしたわー!」

ハンカチを振るシャロンに、シュトラーセが苦笑している。
カナトは、それを見上げ楽しそうで何よりだと思った。
一息つき、カナトが再び席に座ると、後ろにキリヤナギの騎士隊が戻ってきている。
彼らもやはり興味があるのか。

「総隊長、大丈夫かなぁ……」
「楽しみにしてたし、真面目にやるとは思いますよ」

「楽しみにしてたって?」
「カナトさんとルシフェルさんに見てもらえるんだ。褒めてもらえるなら全力だすと思うよ」

よく分からない理由だと思う。
ジンにも理解てきるよう話してくれたのは分かるが、褒められる為だけにキリヤナギが出るのかと思うと、まるで子供のようだ。

ゆっくりと舞台へ現れたキリヤナギは、いつもの職服にメロディアスの家紋を背負い、堂々と壇上へ参上した。
敵はウリエルの騎士。
白銀の鎧へと身を包み、顔も隠している。

「カナト、相手どんなやつなの?」
「護衛騎士第27番隊隊長とある。警備兵の幹部だろう。娘が二人いるらしい」

お父さんだった。
基準は分からないが、とりあえず強そうだと思う。
しかし、キリヤナギは総隊長だし、格ならばキリヤナギの方が上なのか。

じっと敵を観察するキリヤナギをみていると、彼もなかなか武器を抜かない。
ウリエルの騎士は長剣を構えているのに、キリヤナギは見ているだけだ。
試合開始の合図があっても、見ているだけで動こうとしない。

すると相手騎士が羽ばたき、突っ込んできた。
それに対し、キリヤナギは敢えて前進、頰に僅かな切り傷を受け、その血を指に取る。
大振りの動きでスカした敵へ、”血の烙印”を叩きつけた。

この瞬間、後ろで見ていた騎士隊の三名が「あ」と間抜けな声をあげる。

「……私はちょっと飲み物を取ってきます」
「へ、見ないんすか……」

「だって終わりだろもう……」

バトラーに止められお茶を貰ったセオは、仕方なく元の席へと戻った。
呆れた表情をみせる騎士隊だが、カナトだけは熱心にキリヤナギの試合をみている。

壇上のキリヤナギは、敵の背中を取ったが、武器を振るってきた相手の攻撃をステップで回避。
再び距離をとると、胸に手を当て、小さく魔法を唱え始めた。

「バフ炊くとか、余裕すぎんだろ……」
「あれ、もしかして”イビルソウル”?」

「そうだよ。ジン」
「総隊長、ガーディアンじゃ……」
「デュアルジョブ。 大分前に通知あったでしょ?」

そう言えばあったきがする。
キリヤナギのデュアルジョブはソウルテイカーなのか。
しかしたしかに、”血の烙印”を入れて”イビルソウル”など、普通の対人では見られない。
大体は唐突に始まるし、対モンスター戦ぐらいでしか唱える暇はないからだ。

魔法を唱え始めたキリヤナギに向けて、騎士は再び床を蹴って突進。
キリヤナギは即座に武器を抜き、ダインスレイブ垂直に構え、射た。

「”ライトオブダークネス!”」

キンと言う高い音が響き、全てが止まる。
ウリエルの騎士は静止し、キリヤナギもまた武器を突き出したままで止まっている。
何が起こったのだろうと思った直後、ウリエルの騎士の鎧に亀裂が入り、甲高い音が響き始めた。
ヒビはまるで植物の枝葉のように広がり、それが全身に及んだ直後、それが一気にはじけ飛ぶ。
のけぞった敵は、そのまま力を失ったように床へ倒れた。

終わった。
騎士達は呆れ、ジンを含めた初見の者は茫然と口を開けている。

訳が分からない。
血剣・ダインスレイブは細剣のはずだ。
鎧に素で突き出せば折れてしまう筈なのに、キリヤナギの手にあるそれは、折れた気配も何もなければ曲がってもいない。

「……つよいな」
「わかりますか? カナトさん」
「敵は無傷だろう?」

ジンがはっとする。
檀上をみると、担架で運ばれる騎士は確かに気絶してはいるが無傷だ。
鎧をバラバラに砕くほどの衝撃があったのに、何が起こったのか。

「魔力は非物理エネルギーだからね。大雑把に使えば危険ではあるけど、逆を言えば理解度次第で融通がきくんだよ」
「だからってめちゃくちゃな……」
「ジンは総隊長を舐めすぎ、だから怒られたんじゃないのかい?」

セオの釘に、思わず口ごもってしまった。
するとカナトが、セオに向けて答え合わせのように述べる。

「ダインスレイブに魔力エネルギーを纏わせ、武器では触れず、魔力の部分だけで突いた、と言う認識で構わないか?」
「流石カナトさん。物理エネルギーとは違って、魔法は威力を分散できる。鎧が壊れたのは、生身の人間の代わりに鎧が威力を受け止めたからだよ。元々”血の烙印”で闇属性が通りやすくなってたからね」

「一回食らった事あるが、無傷っても衝撃やばいから2、3日は聖堂おくりだかな……」
「あの時の総隊長は、まだコントロール苦手だったんだよ。今は……久しぶりだけど、まぁ……」

それは無傷とは言わないのではないだろうか。
コウガとセオが青い顔をしているのは、何か深刻な出来事があったようにも見える。

再び舞台をみると、ベランダを見上げるキリヤナギが、玉座へ座るウォーレスハイムへ礼をしていた。
しかし、彼の表情は眉間にしわを寄せ、酷く不満そうな雰囲気が伺える。

「つまんねぇ試合しやがって……」

唐突に響いた声に、カナトが顔をあげた。
玉座に頬杖をつくウォーレスハイムは、ふてくされた表情でキリヤナギを見下ろし、叫ぶ。

「他の騎士が魔法使ってるからって、同じことやってんじゃねえよ。馬鹿野郎!」
「ぇ……え?」

キリヤナギが困惑している。
カナトもまた、父の突然の叫びに言葉を失った。
何を言いだすのだ。

「キリヤナギ!」
「は、はい……」
「お前は魔法を含めたスキルも禁止。使ったら、騎士の話もなしだ!」
「な、なんで――!!」
「俺がつまんねぇからだよ。騎士なら騎士らしく体と武器で勝ちかやがれ!!」

「何を申されますか、父上。それ以上は他騎士達に失礼です」
「うるせぇ! つまんねぇもんをつまんねぇって言って何が悪いんだよ! ちゃんと見ててやるから、その力を示せ。キリヤナギ!」

無茶苦茶な指示だと、ジンは戦慄した。
また、ざわついている観衆にも不穏な空気を感じる。
目の前のキリヤナギも抵抗するかに思えたのに、何故か驚いたようにウォーレスハイムを見上げて、その表情には嬉しさすらも伺えた。

「見ててやるか。総隊長、負けられないね」
「セオ。なんで総隊長は嬉しそうなんだ?」
「ウォーレスハイム様は、さっきまで居なかったでしょ? 元々はこのイベントには興味ないんだよ」
「へ?」

「本当は来る気はなくて、きまぐれで見に来たけど、つまらなかったって事ですよね」
「そうだね。でもウォーレスハイム様は、総隊長に”スキルを使わないなら見ててやる”と言った。つまり総隊長は、うまく立ち回った功績をウォーレスハイム様に直接見てもらえて、評価して貰えるってこと」

「そんな重要なことなのか……」
「相手にもよるけどね。キリヤナギ総隊長は、基本的にウォーレスハイム様には逆らわないけど、ウォーレスハイム様はキリヤナギ総隊長を騎士としては見れないみたいだから……、親しすぎて、まともな評価をされていない中、見てもらえる事で、認めて貰えるかもしれないと思うと、やっぱり嬉しいだろうね」

個人的な主観の問題なのか。
確かに、ウォーレスハイムのキリヤナギへの扱いは、様々な意味で酷かった。
今もそうだし、たった一言でプライドをズタボロにされれば、辛い気持ちもわかる。

「総隊長は嬉しいけど、他の騎士は大変だ」
「なんで?」
「手加減されるって事だよ。魔法を使えば、それに甘んじる卑怯な騎士になる。プライドがあるなら、体で向かって来いっていうウォーレスハイム様の挑戦状かもね」

面倒な話だとは思った。
言われればウォーレスハイムは、皆に聞こえるように声を張り上げて述べた為に、聞いていなかったなどと言い訳はできないだろう。

「それとも、ウォーレスハイム様はあえて総隊長に魔法を使わせない事で、ルシフェル・メロディアスとしてのあり方を、誇示したいのかもしれない」
「そうだろうな……。騎士と認めないと言ったのも、メロディアスの騎士は、天界の騎士とは違うと言いたいのだろう。天界の騎士が当たり前に使う魔法を、あえて使わせない事で、そんなものが無くとも強く在れると示す。……父上らしい」

舞台中央に佇むキリヤナギは、しばらく呆然と上を見上げ、はっと何かに気づいたようだった。
ウォーレスハイムは眉間にしわを寄せ、怒っている。
あの表情は、キリヤナギが無茶をした時の怒りではなく、立場上、筋の通らない事をした時に見せる表情だ。
筋を通し無茶をしたならば、ウォーレスハイムは怒ってもすぐに許してくれる。
しかし、間違った所で力を使えばウォーレスハイムはそれを許さない。

奈落回廊の時は散々怒られた。
だがあの時は、キリヤナギ自身もひどく悩んでいた為に許してもらえたが、今は違う。

キリヤナギは、おもむろ舞台で跪いた。
ウォーレスハイムにとって、許されざる事をしたのなら、キリヤナギは謝らなければならない。
今の自分自身は、メロディアスの武器と盾なのだから……、

「閣下、レギュレーションに甘んじ、恥ずべき戦いをした事をどうかお許しください」

この瞬間。会場が一気に凍りついた。
玉座に座るレミエルもまた、生汗を額ににじませる。
負けた騎士に対しての最大の侮辱を、キリヤナギは述べたのだ。
だがウォーレスハイムは、それに嬉しそうな笑みを見せ、続ける。

「それでいい。次から気をつけろよ」
「……仰せのままに」

キリヤナギが壇上から降りてゆく。
やってくれたと、カナトは心底から呆れていた。
ただの運動会のような感覚だったのに、ウォーレスハイムの所為で全てがひっくり返ったのだ。
もうこの戦いで、楽しむことは許されない。
騎士のプライドがぶつかる、本気の決闘が始まるだろう。

キリヤナギは、少し疲れた様子でテントに戻ってきた。
その表情からは先ほどの顔とはまるで違い、深刻な顔をみせている。

「えらく思いきった発言をしたな。キリヤナギ」
「謝らないと、どうなるかわかったもんじゃ無いよ。ウリエルの騎士さんには、申し訳ないけどね……」
「天界側も、この大会をあまり真面目に捉えていなかったのだろう。代表としているが、実力を見るに、中の下がいい方だ。舐められていた分いい薬になる」
「カナトは怒ってないんだ?」
「つまらないのは確かにそうだからな。あまり波風は立てたくはなかったが、父が来たならば、そうもいかん。……勝てるか?」

キリヤナギが苦い顔で目をそらすと、その視線の先にエドワーズが居た。
彼はいつもの笑みで、皆の前に現れると飲み物をキリヤナギへ差し出してくる。
勝ち抜いたキリヤナギは、次にエドワーズと一戦を交えるのだ。

「その様なお顔は、少し残念に思います。キリヤナギ様」
「辞退とか……むりだよね?」
「ご冗談を、我が主、シャロン女王は、私が勝ち進む事を望んでおられる。また貴方様をメロディアスではなく、フィランソロへお迎えしたいと仰せです」
「それこそ、冗談じゃ……」
「おや、天界でのご自身の言葉をお忘れですか?」

あ……。と、キリヤナギは絶望した。
「お役に立てればいい」と言ってしまった気がする。

「シャロン女王は、正式な形で望んでおられます」
「そ、そっか。嬉しいけど、取り敢えずは保留で……」
「我がフィランソロへ仕える事は、封建騎士となる事に同じ、貴方がカナト殿下に仕えた理由に等しいのではと存じますが……」
「ま、まって、ちゃんと戦うから……話はそれからで……」
「ならば、その結果から答えを伺うと致しましょう……」

エドワーズの笑みに、キリヤナギが冷や汗をかいている。
母が望みそうな事だと思う。
頻繁に城へ出入りし、ウォーレスハイムの息があるキリヤナギは、裏切らないし信頼ができるからだ。
だがウォーレスハイムに直接頼んだ所で、キリヤナギが動かないと分かっているだろうし、そう考えると、母がこの闘技大会をやりたいと言い出した理由はこれなのかもしれない。

振り返れば、ジンはもう理解を諦め、コウガと一緒にチェスの駒で遊んでいる。
ルールを知らないくせに、楽しめているのだろうか。
テントのデバイスから投影されている映像をみると、ミカエルの騎士が1分もかけずサリエルの騎士を打ち負かしていた。

一回戦が終了し、ミカエルの戦いが終わった今、キリヤナギかエドワーズのどちらかが、ミカエルの騎士と戦うことになる。

「連戦だが、休憩は十分ある。安心するといい」
「助かるよ……」

キリヤナギの浮かない表情をみて、ジンは少し心配をした。
キリヤナギは仲間と戦うのは嫌いだ。
エドワーズを相手にげんなりしているのも、それがあるからだろう。
大丈夫なのだろうか。

「ジン、またあっちの舞台見に行こうぜ!」
「コウガさん……」

「コウガ、行ってもいいけど気をつけてね」
「隊長は引きこもりすぎなんだよ! いくぜ」

「えぇ! ちょっと……!」

コウガに引っ張られ、ジンがテントを出て行く。
キリヤナギは、それをみてまた一つため息をついた。

「心配なら、止めた方がよかったんじゃないですか?」
「うーん。でもセオ。きにするだけ裏目にでるだろうしさ……」

そうだろう。
先程のキリヤナギの発言は、ある意味での戦線布告だ。
キリヤナギが居なくとも、同じメロディアスの騎士となるジンやコウガにも影響がおよびかねない。
乱闘騒ぎにならなければいいと思う。

「ウリエルの騎士は三名招いている。貴様が相手にした騎士と、もう2人だ。礼儀正しく悪い印象はなかったが……」
「大事にならなければいいけどね……」

グランジとスィーも、テーブルにつき頬杖をつくキリヤナギを心配そうに見ていた。

コウガに連れ出されたジンは、驚きはしたかが乗り気ではあったため、手を離されてもコウガへとついていく。
コウガはジンと少し似ていた。
彼も難しいことはあまり好きではなくて、ただ単純に尊敬という形でキリヤナギに仕えているという。
そこまでの経緯はまだ知らされてはいないが、なんとなく通じるものがそこにある気がした。

「なんか嬉しそうっすね」
「だってよ、あっちから戦いに来てくれるかもしれないんだぜ? ワクワクしないか?」
「あっちから?」
「見ただろ。隊長、ウリエルのとこの奴を挑発したんだぜ? 俺たちがこの紋章を見せびらかしてうろうろしてたら、絶対報復にくるって」
「んな、物騒な……、昨日、カナトのとこの人と、ちょっと話しましたけど、そんなことするような人達じゃなかったし……」
「なんだよ。つまんねぇなぁ。……ん? 大将のとこ?」
「カナトの所の騎士……だっけな?」
「あーあー、あいつらか、確かに隊長はきにいってたなぁ……。でもそっちの騎士はそうでも、ウリエルのところは違うかもしれないだろ?」
「そうかもしれないっすけど……」

コウガの不満そうな表情に、ジンは戸惑ってしまう。
体を動かすのは好きだし、模擬戦も嫌いではないが、変な私情を持ったまま戦うのは好きではない。
感情のままに戦っても、それは私怨しか生まないからだ。

「お前、意外と冷静だな。噂だけきいて戦闘好きかと思ってたが?」
「訓練とか演習ならまだすきっすけど、そんな何でも戦えばいいってもんでもないし? 勝ち負けできまるならわかりやすいけどさ……」

勝ち負けならば確かに分かりやすい。
でもそれでは、解決できない問題もあるとも知っている。
だから、戦う前に一度考えたほうがいい。

コウガの後を着いて行っていると、突然彼が足を止めた。
誰かが居たのだろうかと思えば、少ない人だかりの中で道を開けられている事に気づく。
先に居たのは、2名の騎士だ。

「お迎えとは、律儀だな」
「ご機嫌よう。メロディアスの騎士殿」

ウリエルの騎士と同じ紋章をつける彼らは、既に舞台に立ち、こちらを待っている。
コウガは嬉しそうだが、ジンは呆れた。

「やんのかい? 俺はいいぜ」
「話が早くて助かります。あの侮辱を受けたまま、我々は帰ることはできませんから……」

「なんでっすか……」
「我々のどちらかが、貴方方に勝てれば、隊長が負けたことをまぐれであると証明ができます」

「なら負けたらどうなんだ? 言ってみろよ」
「……貴方方が、真の強者であると認めざる得ない」

プライドが高い。
しかし、キリヤナギの言葉で彼らが怒っているなら、なんとかしなければいけないだろう。

「コウガさん。総隊長よびます?」
「あん? なんでだよ」
「だって、総隊長のせいだし?」
「わかってねぇなぁ。誓約書ちゃんと読まなかったのかよ……」
「へ?」
「自分を全部渡すって書いただろ? つまり俺らの行動は全部。隊長のもんなんだよ」
「えっと……」
「俺らが勝てば、隊長の勝ちになるってこと! ったく……言わせんな!」

そうなのだろうか。
いまひとつ実感が湧かず、ジンは首をかしげた。
しかし、行動の全てがキリヤナギの責任になるなら、ここでの結果もキリヤナギのものになるのは分かる。

「今俺らが逃げたら、隊長まで負け犬扱いだぜ? それに、さっきの試合がまぐれにされちまうんだ。責任重大だろ」

確かにそうだ。
ウリエルの騎士もそう言った。
舐められるのは腹がたつし、逃げたと言われるのも確かに気分が悪い。
しかしそれでも、ジンは一つ疑問が浮かんだ。

「コウガさん」
「なんだよ。まだなんかあんのか?」
「どうせなら、油断してくれた方が勝ちやすい気が――」

直後、ジンの腹にコウガの一撃が入った。
吐き戻しそうな痛みが襲い、ジンが床に倒れこむ。

「今戦わずいつ戦うんだよ。馬鹿野郎!」

痛い。いきなり殴るのは酷いと思う。
だがいつ戦うと言われて、ようやく気づいた。
彼らは天界の騎士だ。
今は、理由があってエミル界にいて、恐らくもうジンと会う機会はない。

彼らはジンよりも長命なのだ。
ここで負けたなら、ジンが死んでも勝ち誇り、自慢される。
そう思うと、少し悔しくなった。

「痛い……」
「俺はいいぜ? でもお前は違うだろ?」
「そ、そうっすね……」

二回目はない。
なら、あえて負けて油断させる必要もない。
天界と戦争している訳でもないし、同じなら強者と思われる方がいい。

「……仲間割れか?」
「バカな新人に説教しただけだよ。気にすんな」
「そうか……。なら、その新人が、どの程度であるのか測りたい」

「はぁ? プライドと糞もねぇな。失望したぜ」
「順番に相手をする。新人ならば、いい物差しだろうといいたいだけだ」

大分舐められていた。
しかし、コウガのストレートは速くて、距離も近く、回避が間に合わなかった。
ウリエルの騎士が見えていたのなら、彼らは早いのだろうか。
そう思うと少し身震いがする。
ジンの中で、一番早いのはカロンで、次にキリヤナギがきてグランジ、リゼロッテ、リアスが続く。他は知らない。
カロンは早すぎて、反応が追いつかない。
キリヤナギは、ギリギリで対応は出来た。が、こちらも追いつかない。
グランジは、動きに無駄がなく予想が出来なくて、反射神経だけが頼りになる。無理だ。
でもリゼロッテは、集中すればガードはできる。
リアスは、見失わなければなんとかなる。

コウガは、リアスと同じぐらいだろうか。
リアスはイレイザーだが、コウガはグラディエイターだし、早い方だと思う。
ウリエルの騎士がコウガを見えていたのなら、すくなくともそのぐらいは早いのだろう。

「何見てんだ?」
「コウガさんって、早いのかなって……」
「あ”? 何がだよ」

説明は難しい。
しかし、早い人はだいたい強いし、間違っていないと思う。

「メロディアスの新人よ」
「俺?」
「私と戦い、その力を我々に示せ!」

相手にしろと言うことか。
だが昨日、勝手に強いと思い込んで、キリヤナギに酷く怒られてしまった為に、少し抵抗がある。

「あの……」
「なんだ?」
「騎士さんって早いのかなって……」
「早い……?」

「何聞いてんだよ……。馬鹿かおまえ」
「だって昨日、総隊長がちゃんと相手の動きみてから対応しろって……、訓練してるなら、早そうだし……?」

「我々に終えぬ動きはない。翼を使い、何処までも追い詰める」

大きくでたと思ったが、それなりに早そうだ。
さっきは結局準備だけして、順番が来なくて遊べなかった。
昨日、レミエルを殴ってがっかりもしていたし、本気をだせるなら、嬉しくもある。

「俺、武器が銃なんで体術でもいいすか?」
「……成る程。仕方ない」

あれ? とジンは首を傾げた。
武器を仲間に預け、構える様に呆然とする。
しかし、それは当たり前だと気付いた。
キリヤナギが以前、銃でもいいと言ったために違和感を得たのだ。
冷静になると、キリヤナギの強さは大分おかしい。
銃なのに負けた自分が、今でも情けなくなる。

「少し残念そうだな……」
「へ、そんな事ないっすよ!?」

顔に出やすいのは損だ。
もう少し冷静に在りたいと思う。

コウガに銃を預け、ジンはカッターシャツ一枚で舞台へ上がった。
構えは合っていてほっとした。
嘘は付いていないのだと思い、ジンも構える。

相手は鎧だが、プレートの部分は胸と足と腕で、重そうだ。
しかし、さっきのキリヤナギのような攻撃を食らえば、鎧を着ていてもあまり意味はなさそうに感じてくる。
ジンだって、光砲・エンジェルハイロゥを最大威力使えば、ひびぐらいいれられると思うからだ。
そう考えると現代は、鉄の鎧が少ないのもわかる気がする。

ジンが顔を上げると、開始の合図を待たず、敵の騎士は大きく羽ばたいて突っ込んできた。
ジンは驚き、反射的に身をかがめ、向かってきた相手のプレートで隠されていない胴体へ、肘をいれる。

ゴッ、と、鈍い音が聞こえ、ジンが意表をつかれた。

あれ?
敵は、肘に押し出された勢いでふっとび、床へ倒れた。

……あれ?

振り返るとコウガが呆然としている。
見回せば野次馬も言葉を失っている。
目の前の敵は、ぐったりと倒れている。
また、やってしまった。

「な、なんで突然くるんすか!! 合図なかったし……」
「ぁーぁ……。お前以外と容赦ないのな……」
「こ、コウガさん!? 早くウァテスさん呼んで……」
「落ち着け、不意打ち入れようとしたんだから自業自得だ。どうしようもねぇな」

不意打ちと言われて、ようやく気づいた。
脇に合図役はいたし、ジンは待っていたのに、それより早く向かってきた。
ジンは、目でみた敵の接近に対応する為、かがんで押し返そうと全力で肘をいれた。
突っ込んできた勢いと、ジンが押し込んだ勢いで、二つの威力が騎士に入った。
反動もあるかと思ったのに、騎士は軽くてふっとんだ。
元々浮いていて、床との摩擦がないからだろうと思ったが、鎧を着ていたのにふっとぶなんで、タイタニアはどれほど軽いのか。

「残念だったな……。いい鎧使ってるみたいだが
仇だぜ」

いい鎧は、たしかに軽くて強度がある。
固くて強いのに軽い為、ジンの全身をバネにした攻撃には弱いのか。
しかし、安直に突っ込んでくるなんて無用心すぎる。
初手は交わして様子を見ようと思ったのに、そんな暇すらくれなかった。

「つーかお前、よく反応できたな」
「ぇ……?」

コウガは呆れていた。
不意打ちを狙った敵にやられたと思ったが、ジンは咄嗟の回避ではなくカウンターをいれたのだ。
普通なら、動けないか、線から逸れるか。
よく動けて、投げるかぐらいだろう。
しかしジンは、その場から動かずあえてカウンターを選択した。
動いて間に合わないと判断したのか。
本人に自覚は無いらしい。

「とりあえず、早くウァテスさん探しにいかないと……」
「ほっとけよ。向こうが悪いんだから勝手になんとかするだろ」
「また総隊長に怒られるじゃないすか!!」

そう言えば、ジンは何度かキリヤナギと戦ったらしい。
前に戦ったのがキリヤナギなら、体が攻撃の回避を無理だと覚えていて、あえて回避を選択しないのも分かる。
回避しても、その先を予測されれば回避は意味を成さないからだ。
キリヤナギは、治安維持部隊のリング時代から培った、対人の経験が桁違いに多い。
その為に、ありとあらゆる場合において対応ができて、強い。

そんなキリヤナギと戦ったのなら、回避するよりも、あえて受けて、勝機を掴もうとするのは分かる。
しかしそれは、ジンの中で無意識らしい。
おそらく、今まで早い敵とばかり戦ってきて、速度では負けきたのだ。
だから、感覚に余裕があれば回避出来るが、出来ないときは、体が受けを選択する。
正しいと、コウガは思った。
人間は本来、条件反射で回避を選択しがちなのに、ジンは受けを選択できる。
大分いい環境で成長してきたのだろう。

早いかどうかを聞いていたのは、ジンの中での強さの基準か。
毎度キリヤナギは、騎士に変な人材を連れて来ると思う。

ウァテス系を呼びに行こうとするジンを、足で引っ掛けて止めると、彼は不満そうにこちらを睨む。
アルバイトのメイドにウァテスが居たため、呼びに行く必要もない。

「さてどうする? 一人は再起不能だが、同じ目に会いたいなら、相手するぜ?」

コウガが舞台へと登った。騎士もまた同じだ。
後ろには、壇上から下ろされぐったりとしている騎士がいる。
音からして、肋骨をやってしまったか……。

「あ、あの……」
「なんだよ……」
「騎士さんって何人でエミル界にきてるんすか?」
「あ”? こんな時になんの話してんだ!」
「だって、2人とも倒れたら……助けてくれる人居なくなりそうで……」
「あいつらは敵なんだよ! 戦わせろって言ってんだからいいだろ!」
「だけどさ……」

「そのような慈悲は、我らに対する侮辱だ! ここで無様に逃げ帰るぐらいならば、散ったほうが本望と言うもの、情けは要らない」

我儘ではないかと思う。
見栄とプライドばかりで、先を全く考えていないではないか。

「本当に、ちょっと心配で見に来てみたら、また倒してるし……」

ジンの背筋が冷えた。
恐る恐る振り返ると、そこにはキリヤナギが、カナトと二人で立っている。
彼は職服にメロディアスの紋章を背負い、呆れていた。

「ジン、またやったの……?」
「す、すみません」

「連中、不意打ちしてきたんすよ。カウンターであのザマ」
「へぇ……」

ジンは、複雑な表情をしていた。
ずっと倒れた騎士を心配そうに見て、状態を伺っている様にも見える。
レミエルの時とは、少し状態が違うらしい。

「騎士・キリヤナギ。私と戦え!」
「いいけど」

「は!? 隊長まじすか?」

キリヤナギはジンを見る。
彼もまた、いいと言ったキリヤナギに驚いているようだった。

「ジンは勝ったのに、嬉しくないの?」
「嬉しくないっすよ。あんなんになって、だれも喜ばないし、誰も嬉しくないし……」
「そっか。……だけど彼らは、騎士である以上、戦うことしか出来ないんだ」
「そんなん……」
「だからこちらは、それに答えなければ行けない。答えることは、彼らが勇敢であると証明することになるからね」
「勇敢……?」
「うん。勝てなくても、諦めなかったと証明できる。ジンに一撃でも入れれたら十分だったんだと思うよ。ジンが攻撃されることは、僕に攻撃が入ったとも解釈できるからね」

たった一撃の為に向かってきたのか。
確かに、一発殴ると言う意味ではそうなのかもしれない。

「勘違いはしないでね。ジンは悪いことをしていない。君は、今ここにいる僕を含めたカナト、コウガ、ウォーレスハイム様の名誉を守ったんだ。自信を持っていいよ」

名誉を守ったと言われて、少し安心できた。
そんな褒め方をされたのは初めてで、恥ずかしくもある。
だがそれでも、自分がいい事をしたとも思えない。

「でも、総隊長……」
「どうかした?」
「あの騎士さん、俺に負けたけど、天界に戻ったらどうなるんすか?」
「うーん。雇用方法にもよるけど、今回の場合。解雇されちゃったり、位を剥奪されたりはあるかな。だからせめて仕返ししないと、示しが付かないのかも……」

大変な話だ。
そんな全てをかけているなら、確かに引けない気持ちも分かる。
やっぱりあまり喜べることではない。

「ジン、貴様が気に病むことではない。ここからは私の番だ」
「カナト……?」

ゆっくりと進み出たカナトは、目の前のウリエルの騎士を見据える。
父の気まぐれの所為で、酷い迷惑をかけてしまった。
しかし、始めから真面目にやっていれば、起こらなかった事でもあり、責任は企画を考えた自分に在ると思う。
だからこそ、その責任を取らねばならない。

「ウリエルの騎士よ。メロディアスの次期・ルシフェルは、戦いにおける解決を望まない」
「……!」
「その上で、我が騎士へ戦いを挑んだ勇敢さを認め、現在、エミル界へ来ている3名を、我がメロディアス騎士として招きたいと考えている!」
「なんだと……」
「拒否権は、私が認めよう。ここで戦い、ウリエル陛下の元へ完全な敗北を伝えに天界へ戻るか。我がメロディアス騎士とし、さらに腕を磨くか決めるといい」
「我々は、負けはしない! ここで騎士を打ち負かし、前言の撤回を求める!!」
「そうか……。確かに戦ってみなければ分からない事もあるな」
「は……?」

「なに納得してんだよ……」

横のキリヤナギが、ジト目でカナトを睨んでいる。
目の前で負けるかも知れないと示唆されれば、流石にいい気分ではないだろう。

「結論を急がなくてもいい。ここで負けた後でも、決して遅くはないからな。天界に一度戻った後でも構わない」
「我が主君を裏切る事はせん!」
「その忠義と志に、私は敬意を示そう。我が騎士を持ってそれに応える」

キリヤナギ本人が、ゆっくりと前に出る。
壇上へ上がり武器を抜いた彼は、堂々と敵へ向かいあった。
先ほどとの違いは、盾の代わりに小手をつけている事ぐらいか。
傍にいたコウガが、二人の真ん中へ立ち、開始の合図を叫ぶ。

床と平行にダインスレイブを構える様は、ジンが以前、訓練ホールで見たものと同じ形だ。
その時は軽装ではあったが、マントを羽織、職服のキリヤナギは別人のようにも見える。

敵は静止するキリヤナギを見据え、飛び立った。
細剣を真っ直ぐに構え、向かってきた敵の武器へ、キリヤナギが刃を這わせる。
懐に入り込み殴り込もうとしたが、騎士は翼で羽ばたき空中で前転。
受け身を取って着地した。

後ろを取られぬよう、すぐに振り返ると目の前に敵がいて、キリヤナギが小手でガード。
足で蹴り込み、ダインスレイブ突き出していく。
大きく後ろに飛んだ敵は、再び距離をとりキリヤナギを凝視した。

かなり慎重な動きをしていると思う。
しかしジンも、今のキリヤナギと向かい合えば、前になど出られない。
次にどんな対応がくるか予想できないからだ。

動かない敵に、キリヤナギは武器を下ろした。
そしてそのまま、ゆっくりト歩いて近づいてくる。

怖い。と、ジンは思った。
攻めてこない相手に、武器を下ろし接近してくるなど、プレッシャー以外の何者でもない。
間合いに入られたら終わりだ。
敵は即座に武器を構え、大きく弧を描いて接近。
床から離れた敵は、身体を完全に宙へ浮かせ、向かってきた。
キリヤナギはそれを軽く回避して、左手でタイタニアの翼を軽く凪ぐ。
途端、敵がバランスを崩して地に足をついた。
騎士は即座に振り返り、武器を構えた直後。

キリヤナギのダインスレイブが、騎士の武器の持ち手に滑り込んだ。
甲高い音が響き、騎士の手元から武器をがら弾き飛ぶ。
騎士の手から離れた細剣は、舞台の床へ高い金属の音を立てて転がった。

キリヤナギは、騎士にダインスレイブを突きつけ静止する。

「終わりだな。お疲れさん……」

コウガの言葉になにも言わず、キリヤナギは武器をしまい壇上から降りていく。
残された騎士は崩れ落ち、呆然としていた。

「よかったのか……」
「同情は侮辱にも等しい。騎士を続けるならば、また会える」

そうだ。
カナトは、実家の方で彼らを雇いたいと言っていた。
断られはしたが、いつでもいいと言って、

「でも、戦って負けたぐらいで、やめさせられるって……」
「それは名誉の問題だな。キリヤナギが舞台で、恥晒しな戦いだと言った事で、ウリエルはそんな恥晒しな騎士を雇っていると言うことになる……。だがキリヤナギも、あの場で謝らなければどうなっていたかもわからない。責任は父と、主催した私だ」

ジンは、何も言えなくなってしまった。
何を言ってやればいいのか、分からない。
むしろ何も言ってはいけないのだと思う。

ジンは仕方なく、テントへ戻るらしい皆を追おうとした所、後ろから小さく声が聞こえた。

「ありがとう。メロディアス……」

思わず振り返ると、もうそこに騎士はおらず、まばらな人だかりがあるのみだった。
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本編 | 【2015-08-20(Thu) 12:30:19】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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