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(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

キリヤナギ総隊長の一日

出演:リアスさん、ホライゾンさん、セオさん

あらすじ
エミル界から戻り数日後。様変わりした自宅に戸惑うジンではあったが、
突然現れたリアスに、総隊長が会いたがっているという事実を知らされる。
普段めったに起こらないキリヤナギが起こるとは何事か、ジンは確かめるために本部へと向かった。

参考
(連載)長編シリーズ:Royal*Familiar



 


朝の平和な日常が、戻ってきていた。
穏やかな朝の空気は、夏の日差しも混じりとても暖かく、体を動かしているともう汗すらかいてくる。
朝の訓練を終えて、カナトと朝食を食べるジンは目の前に座る相方の変貌に少し戸惑っていた。
一度実家にもどり、家具や内装が完全にリフォームされた自宅は、食器も机もソファも全て、貴族が使う豪華なものに変更されていて、カナトのコーヒーを飲むカップも、大きめのマグカップから、金の装飾がついたティーカップへ変わっている。
ジンが独占していたマグカップや、カナトがグランジの為に用意した、専用のお茶碗も残されてはいるものの、家事手伝いしかしなかったルナが、いまや家事のほぼ全てを当たり前にこなし、カナトの分だけでなく、ジンの分までティーカップでたすので、マグカップの必要性が皆無になってしまっていた。
目の前の相方は、優雅にコーヒーを飲みつつ、日刊のアクロポリスの情報誌を読んでいる。

「ジン、フォークとナイフが逆だぞ」

ワーウルフのルナが用意してくれた朝ごはんも大分しっかりしている。
今までずっと箸で食べていたのに、並んでいたのはフォークとナイフだった。

「ルナ、ジンには箸でいい。あまり押し付けるな」
「すまない……」

コメントの仕方にも困ってしまう。
自宅に帰って来たはずなのに、ここは本当に自宅なのだろうか。

「……偉く落ち着きがないな」
「う、うるせぇ、だって……なんか色々違うし」
「実家に預けて、色々と取り替えられてしまったからな……すまない」
「なんであやまんの?」
「帰りたいと言っていたのに、あまりにも代わり映えてしまったからな……貴様が思っていた自宅ではないのではないか?」
「別にそんなんじゃねーし……、いつか実家に帰る為に修行? するんだろ?」
「……そうだな。これから先、いつ天界の使者が、来てもおかしくはない。毅然とできるよう環境から慣れろと言うことだろう」
「それって?」
「自己の立場を理解だな。私と貴様が話すなら差も遠慮もないが、相手が貴族の場合。相手の立場を踏まえた上で話さなければならない」
「えーっと……?」
「例えばこのティーカップは、天界の老舗がつくるオーダーメイド品だ。メロディアスの家紋が刻印されていてこの世に二つとない。天界の貴族の中では、このような物が当たり前にある」
「へー、すげぇの?」
「すごいかどうかは別に、これがあるか無いかの違いで、その場所が、その家にとってどれほどの重要性があるかを図ることができる。あればここはメロディアスの後継の庭であるとの証明にもなり、無ければ、ただ自称しているだけにもとれる。ティーカップは客に出すものでもある、よって見せつけるには十分なものだからだ」
「……」
「他にも、家具や自宅にある物が新品のように美しければ、その家の権力や立場の高さ、豊かさを誇示できる……。メロディアスは、フィランソロと言う名家を、二代に渡り妻へ迎えることになったからな。よってフィランソロの為にも恥にならぬよう配慮されたのだろう……、肩身狭い思いをさせて申し訳ないとは思っている」
「へ? べ、別に気にしてないぜ? でも家具がすごいのと立場はなんの関係があるんだよ?」
「そうだな。貴様の言葉で言うなら”舐められることが無くなる”と言えばいいか?」
「!」
「貴様が天界に連れて行かれた時の扱いはどうだ?」
「最低だった……。なんかすげぇ飼いならされてるような」
「だろうな。それは貴様が一般庶民であり、レミエル・ギルバートが、あの扱いで十分だと認識していたからだ。食べることに困らず身の回りを世話する者がいれば何をしても構わないと……」
「意味わかんねぇ……」
「しかしもし、囚われたのが私だったなら話は違う。立場があり発言権を持つ人間の場合、理不尽な扱いをすると、囚えた側へのデメリットにもなってしまうことがある。よって丁重に扱われ身の安全も保証される」

確かリフウも似たような事を言っていた。
自身がラファエル・セレナーデの娘である限り、何もされないと、

「逆を言うならば、私が一般庶民と誤解され理不尽な扱いを受ける可能性もなきにしもあらず、この自宅は、私が実家をでていようともその立場を示し、守る意味も兼ねているんだ」

守るといわれて、ジンはキリヤナギの言葉がふと頭によぎった。
大分、住む準備が整えられていると……。

「けどさ~。そんな堂々としてたら逆に狙われそうなきもするんだけど……」
「そこは貴様が同居している時点で、私は気にしてはいない。またキリヤナギが、私の騎士として一度仕えたことで、奴の息の及ぶ治安維持部隊が私を無視できなくなった。この時点で、私を誘拐したうえでのメリットよりデメリットの方が大きい」
「……デメリット?」
「治安維持部隊に加入する述べ1000人規模の人間が、実行犯を捜すんだ。この広いアクロニア大陸でもさすがに逃げ切れるとは思えんな」
「お前よくそれを自分でいえんな……」
「ならばキリヤナギに直接聞いてみるといい、奴と私はもう切っても切り離せないからな」

あまりにも堂々と言い張るカナトに、ジンは困惑する。
しかし、総隊長がカナトの護衛として天界に行ったことは事実ではあるし、それをきっかけに意識が変わったのも考えられそうだ。
飲み終わったティーカップをまじまじと見てみると、確かにメロディアスの家紋が刻印されている。この家の家具の全てに意味があるなら、なぜ初めからそうしなかったのか。

「当時はまだ私が継ぐと言う話ではなかった筈だ。下手に誇示すれば裏目にもなり、利用される可能性もある」
「俺、あんまり意味があるようには思えないんだけど?」
「それは貴様の価値観だろう。私もこれは、望んだ訳ではない……」

カナトの言葉にジンは口を噤んだ。
言われれば確かに、カナトは初めから実家を継ぐ事に乗り気ではなかった。
しかしリフウが天界にもどり、ジンが拉致された事で、迷ってもいられなくなったのだろう。
そう思うと、いたたまれない気持ちになる。

「父上はそもそも、メロディアスが七大天使として栄える事を望んではいなかった。故に私が戻らなくとも、ラファエル・フィランソロのみ存続させるつもりだったらしい」
「へ……」
「だがそうした場合、リフウ嬢はもうエミル界へ戻る事は叶わなくなる。貴様もまた同じだ。私はそんな犠牲を払ってまでエミル界で生きたいとは思わない」
「……」
「せっかく戻って来たんだ。もう少し楽しませてくれ」
「な、何様だよ!」

カナトは笑っていた。
大きな決断をした筈なのに、以前のように笑っている。
リフウがエミル界に戻り、ジンもまた一緒に帰ってきた。
この結果の為に払った代償をカナトが後悔しているようには見えなくてジンはまた安堵する。
本人がこれで納得しているなら、十分に意味があるのだろう。
ジンのティーカップを回収したルナは、手早くそれを洗い、専用の食器入れに戻した。代わりにジンには使い慣れたマグカップを渡してくれる。
ジンはやはりこっちがいい。

そんな事をしていると、真新しい来客のベルが響いた。
カナトはキッチン側で遠いため、ジンが出たが、そこにはだれもいない。

「ご機嫌よう、ジンさん」
「うわぁぁぁぁあ!!」

「リアスか」
「カナトさん、おじゃまします」

扉を開けた筈なのに、”クローキング”をしたリアスはジンの後ろへ回り込んできた。
もうリアスは、ジンを驚かす為に立ち回っているきがする。

「天界の件は助かった」
「いえ、気にされないで下さい。でも護衛の報酬が凄くてびっくりしました」
「あぁ、必要経費だ。気にせず受け取るといい」
「報酬?」
「キリヤナギを含めた、6名の騎士達の雇用費だ。今回私は、メロディアスの名で天界に向かったからな。天界の財政を担うサリエルから、各七大天使達に護衛を雇わせる分をまわしてもらえた」
「税金……?」
「そうなるな……」
「お前いつの間にそんな偉くなったんだよ……」
「なんの話だ?」

リアスがジト目でジンを睨んでいる。
まるで理解していないと言われた気分だ。

「それでリアスは、また知りたい事でもできたのか?」
「いえ、総隊長がジンさんに会いたがっていたので、呼びに来ました」

「俺? カナトじゃねーの?」
「そう言えば貴様、天界でキリヤナギを相当馬鹿にしたらしいな」
「へ?」
「奴め、随分と落ち込んで泣いていたぞ? 一応貴族である分、もう少し敬意を示すべきではないか? 謝って来い」
「なんでそこまでボロクソに言われてんの俺……」

「総隊長、珍しく機嫌が悪かったんで、呼び出される前に行った方がいいのでは?」

何を怒っているのか。
あの緩い総隊長が不機嫌なこと事態、まず考えられない。
そもそもそんなひどい事を言っただろうか……。

「ジンにガーディアンとしての実力を信じてもらえなかったとは、言っていたな……」
「それなら、ガーディアンの試験首席って言うからまさかって思って……」

カナトが此方を睨んできた。

「そう言えばジンさん、総隊長の戦うとこ見てませんでしたね」
「謝って来い! 失礼にも程があるぞ、貴様!」

「だから! 小柄だし有利だと思って……」
「ジンさん、なんでそんな綺麗に総隊長の地雷踏めるんですか?」

「とにかく行って来い! 奴を馬鹿にするのは私が許さん」
「なんでだよ!?」
「仮にも生命を助けられ、名誉すらも守られたんだ。その下につく貴様が……」

呆れている。
言葉も出ないような顔でカナトは頭を抱えてしまった。
ジンはただ普通に話していただけのつもりだったのに事態は驚くほど深刻らしい。
結局、追い出されるようにして、ジンはリアスと二人で本部に向う事になった。
あの時は深く考えもしなかったのに、どうしてこうなってしまったのか。

「総隊長の身長は、今まで誰もが気を使って突っ込まなかったのもありますね。ホライゾンさんと並んでも明らかに小柄なので……、気にしてるのは一目瞭然なのに、実力と混合して結びつけるとか、どれだけデリカシーがないんですか?」
「だって、模擬戦とか全然でてこないし、俺負けたとこしか見た事ないんだけど……」
「対人ではそうですね。でも、フェンサー部隊ではキリヤナギ総隊長とホライゾンさんの模擬戦は有名でしたよ。やりたがらないのは実力差がありすぎて、余計な怪我をしかねないからとか……」
「おまえ前に、実力も分からない謎の人物とか言ってたじゃねーか……」
「過去の話ですね。今の総隊長は、自分の秘密を隠そうとしていません。聞きに行ったら丁寧に説明してくれました」
「へぇ、じゃあリアスは、総隊長が戦ってるとこ見たことあんの?」
「ないです。週一で戦ってはいるようですが……」
「結局見てないんじゃねーか……」
「同じ人と何度も戦うのは、体が覚えてしまうので良くないですしね。週一で戦うと行っても、各部隊最強の人が週一で挑んでいるようなもので、ホライゾンさんと戦うのは12週に一度。その中でも互角に渡り合えるのは、ホライゾンさんしか居ないと聞きます」
「強いのか……それ?」
「むしろなんで疑うんですか?」

各部隊における最強の実力者など、気にしたことがなかった。
実力も動きも理解出来ないのに判断しろと言われても困る。

「そもそもなんで週一?」
「総隊長は模擬戦が嫌いですからね。ホライゾンさんとは大分昔から続けているみたいですが、他の部隊から挑戦者を募ったのは、まだ最近です。初めは武器の違う相手に慣れず勝機はあったみたいですが、最近は慣れてきてそろそろ勝ち目がなくなってるとか」

口だけで言われてもよくわからない。
とりあえず強いということは理解できた。しかし物差しがまだない。

「せっかくなので、総隊長の1日を密着してみては? 色々見えてくるとは思いますよ?」
「密着?」
「1日一緒にいてみる感じですね」

悪くないかもしれない。
カナトは自分から謝りに行けと追い出したし、今は自称執事のワーウルフ、ルナもいる。
1日離れていても、恐らく問題はない。
それに、リアスといるなら居心地の悪さも気にならないだろう。

ギルド元宮は朝の賑やかな空気に満たされ、出勤してきた部隊員や冒険者で溢れている。
また受付のリュスィオールも窓口の開ける準備をしていた。

「6thジン様。4thリアス様。おはようございます」
「おはよう! リュスィちゃん」
「本日はどちらへ?」

つれないと思う。
無表情で言い切った彼女は、またジンをじっとみつめていた。

「今日は三丁なんですね」
「なにが?」
「受付終了しました。行ってらっしゃいませ」

お辞儀をしたリュスィオールに問いただそうとすると、リアスに無理矢理連れて行かれてしまう。
これから話をしようとしたのに……、

「邪魔すんなよ……」
「並んでいたので迷惑です、リュスィオールさんはジンさんの武器の数を数えただけですよ」
「武器?」
「ジンさんはいつも沢山持ってるんで、今日は少な目だと思ったのでは?」

三つで少なめとは大概だと思う。
武器の数は確かに正しい。サラマンドラ二丁と自動式を背中に持っている。

「リュスィちゃんって透視できんの?」
「DEMさん独特のものです。視覚を電子的に捉えて物質を見極める。組合せと形で、その人物がいくつ武器を所持しているか一目で分かります」
「へー、すげぇ便利じゃん」
「それを踏まえ、リュスィオールさんはランカーなのでしょう。他にも理由はありそうですが」

リュスィオールは、ジンがランカーになる前から受付をしていたと聞いている。それを踏まえるなら、確かに他にも理由はありそうだ。
やっぱりいつか一緒に遊びにいきたい。

「そんで、どこに向かってんの?」
「フェンサー部隊の訓練ホールです。午前中はどの部隊も訓練なのでキリヤナギ総隊長も一緒でしょう。あの人も一応はフェンサー部隊ですから」

朝から事務をしているわけではないのか。
ジンがいた頃は任意だったが、今は必須らしい。そう思うとかなりちゃんとしたと思う。

訓練ホールは思ったよりも広く、覗いてみるとかなりの人数の隊員が整列し。基本動作を掛け声と共に繰り返している。
すごく気迫だ、入るのに抵抗がある。

「ざっと100名前後でしょうか」
「なんか懐かしいなぁ……」

ジンもアーチャー部隊であの中へ混ざっていた。
当時は必死で、周りに目を向けすらしなかったが……。

「ジンさん、奥のベンチに総隊長いますよ?」

リアスに言われて、目を凝らしてみると、入り口から一番離れたベンチに座るキリヤナギがいた。
ホールの壁にもたれ、目をつむり足と腕を組むキリヤナギは、普段の職服ではなく、プロテクターのような物を着ている。

「大分機嫌悪そうですね……」
「悪いのか……?」
「いつもならちゃんと指導してくれると聞いているのですが……」

ふと顔を上げたキリヤナギは、何も言わず立ち上がると、動作が遅れる隊員を指導している。
見慣れないその様は落ち着いていて、隊員へ強く何かを言っているわけでもなさそうだ。

「あんまり厳しくないの?」
「指導は優しいみたいですよ。しかし、総隊長もあくまで訓練の為にきているので、本当に厳しいのは教官ですね」

この場合、キリヤナギは補佐のようなものか。
あんなに沢山人数がいるのに、キリヤナギは違いがわかるらしい。
ジンにはさっぱりわからないが、それを見つけることが出来るのもやっぱり経験の差なのだろう。
しばらく見ていると、フェンサー部隊が二人でペアを組んで模擬戦をはじめる。
キリヤナギも一緒にやるかと思えば、じっとその様子を眺め動く気配がない。
何を見ているのか。

「あれ、リアス君にジン君?」

ジンとリアスが隠れていた扉の向こう側に、もう一人、ベンチに座る彼がいた。
ジンはびっくりして顔をひっこめたが、リアスは当たり前のように応じる。

「こんにちは、ホライゾン大佐」
「やぁ、見学かい?」
「総隊長がジンさんに会いたがってると聞いたので、連れてきました」
「あぁ、なるほど……」

アークタイタニア・ガーディアンのホライゾンは、扉の奥に隠れたジンを見つけ、うれしそうに笑った。
キリヤナギは、ジンに馬鹿にされたと言っていたが、会いに来てくれたと言うならきっと相殺されるだろう。

「総隊長、機嫌悪いすか?」
「いや、いつも通りだよ。体を動かすのが好きな分、真剣になってるだけさ」

キリヤナギは相変わらず、隊員に指導を続けている。一緒に武器も振り始めて確かに楽しそうに見えた。
優しいホライゾンの面持ちにジンは恐る恐るホールへ入るとすこし申し訳なさそうに口を開く。

「総隊長、ガーディアンの試験首席って……」
「あぁ、本当だよ。ただ戦うのは苦手と言うか嫌いだから、普段は基本練習ばかりだけどね」

模擬戦はやらなくても、練習はしているのか。
そう思うと確かに少し納得する
再びキリヤナギを観察しようとすると、キリヤナギの視線とジンは目があった。
気付かれてしまった。
そもそも隠れていたわけでもないのに、動けなくなる。
キリヤナギは、指導していた隊員に、練習を続けるよう促すと、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。

「やぁ、ジン、リアス」
「ご、ごめんなさい」
「僕まだ何も言ってないよ……」

「リアス君が連れてきてくれましたよ。総隊長」
「へぇ、見に来たの?」

「ちょっと興味がでて……」

どうしよう。
謝れと言われて来たのにタイミングを間違えた。

「総隊長が会いたがってたので」
「あぁ、確かにね。でも見てもらわないと信じて貰えないかなぁってぼやいただけだよ」

「その、なんというか……」
「つまり、あれだよね」
「へ?」
「小柄とかどうとか、それ以前の動きで戦えばいいんでしょ? 簡単だよ」

……超怒ってる。
ジンは固まって動けない。
凍りついた空気にリアスも黙り込んでしまった。

「総隊長、やりますか?」
「構わないよ。ホライゾンなら身長差もあるし十分」

「あ、あの……」
「なに? 他に何かリクエストある?」
「……ないっす」
「じゃあ黙って見ているといいさ、それで納得してくれるなら安いもの」

怖い。
なんだろうこの空気は、知らないうちにとんでもない地雷を踏んでしまったのか。

「あの、総隊長」
「なんだい? リアス」
「ホライゾン大佐と総隊長の実力は互角だと聞きます。このまま戦っても、ジンさんは物差しが無いので分からないのでは?」

確かに、測るものがなければ比べようもない。
ジンはガンナーなのだ。分かるなら短剣を用いた接近戦や銃の命中精度だろう。

「ここは一つ、ジンさんに身をもって体験して頂くと言うのは」
「リアスてめー! 人の死亡フラグ立てんじゃねぇよ馬鹿野郎!」

「確かにそうだけど、銃は飛び道具だし、有利すぎてもジンは手加減しちゃうでしょ?」
「なら、短剣でいのでは? 銃だと確かに距離的にも卑怯ですし」
「別に僕は銃でも構わないよ? アーチャー部隊とも、ペイントを使って時々戦ってるからね」
「それなら、物差しとしては十分だと思います。よかったですね。ジンさん」

「よくねぇよ! 勝手に話すすめんな!」
「ジンはどうする? 僕はまだまだ動き足りないし、やってみるなら相手するよ?」

どうしよう。
キリヤナギの自信に尻込みするレベルだ。

「そうだ。折角なら何か賭けようか」
「へ?」
「ジンが勝ったら、僕なんでも一つ言うこときいてあげるよ」
「え……へ?」

「いいんですか? この戦い、総隊長が不利ですよ」
「構わないよ。本気で向かってこられない方が困るからね」

「なんでもっすか?」
「うん、でも変わりに僕が勝ったら……」

皆の視線がキリヤナギに集中する。
戦う上で賭けるもの、述べ1000人近い人間を率いる彼は、何を望むのか。

「ジンは僕の騎士になる。どう?」

言われた言葉を、ジンは理解できなかった。
騎士と言われて、一瞬、カナトの騎士を思いうかべたからだ。
だがこの言葉は、キリヤナギから発された事で違う意味を持つ。
キリヤナギの騎士は、絶対服従を誓う彼の私兵だ。

「なんで!?」
「え、駄目?」
「だめっつーかなんで!? グランジさんは!?」
「飛び道具は、グランジしかいないからね。もう一人欲しいと思ってたんだ」

思わず生唾を飲み込んだ。
キリヤナギの近衛騎士の話は有名だ。その強さも各々の役割があるという。
リアスもまた、キリヤナギに発言に驚き、言葉を失っていた。
言い換えれば己の全てか。
しかし、得意の銃で戦えるなら、勝機はあるのかもしれない。
リアスからも卑怯だと言われているのなら、実力差はあろうとも、こちらが勝つのは当たり前だからだ。
そんな当たり前の戦いでの敗北は、確かに無様すぎる。

「受けるかい? ジン」
「……やります。じゃあ俺が勝ったら、もう一度少尉にして下さい」
「へ? そんなんでいいの?」
「ぇっ」
「もっと、僕が服従するとか、私兵が欲しいとかじゃないの?」

「総隊長。それ墓穴掘ってますよ?」

突拍子もないキリヤナギの言葉に戸惑った。
キリヤナギがジンに服従すれば、確かに全てを自由にできるだろう。
だが、そんなもの意味はない。私兵も同じだ。
今でも十分幸せなのに、それ以上を望んで今を壊したくはない。

「俺、今が気に入ってるんで、給料あがるなら十分かなって……それに、そんなん言っても誰も得しないし?」

「……そっか。ジンはやっぱり優しいね。でもだからこそ僕は、君を望もう」

突きに特化した模造細剣をキリヤナギは抜いた。
ジンはホライゾンにペイント弾を渡されて、それを烈神銃・サラマンドラの弾倉へ入れる。
ペイント弾の色は鮮やかなオレンジだ。
白いプロテクターを着るキリヤナギは当たれば一目瞭然だろう。

ホライゾンに促され、ジンはキリヤナギと同じプロテクターを着せられた。
思ったよりも軽い。動きにも支障はなさそうだ。

「あんなやる気マンマンの総隊長は久しぶりだよ」
「そ、そうなんすか……?」
「普段から乗り気ではないからね。よほどジン君を手に入れたいみたいだ……」
「なんで俺……?」
「さぁ……、私兵になれば、教えてくれると思うよ」

よく分からない。
しかし、銃を使う以上、負けられないと思う。
戦った時、必ず勝てるよう選んだ武器だった。
少しでも有利になるために、間合いが取れて、また取られても対応が出来るよう努力してきた。
最後までカロンには勝てなかった。リゼロッテにも未だ勝てない。
それでも、勝つべき時には勝ってきた。だからそれを示す為にも、勝ちたい。

向かい合ったキリヤナギは、笑っていた。
プロテクターを着たジンをみて、偉く嬉しそうにもみえる。
しかし、一度目をつむり武器を構えたキリヤナギから笑みが消えた。
武器と床が平行になるよう細剣を構える。

レミエルの騎士はキリヤナギと戦う時、こんな気持ちだったのだろうか。
ジンは全てをみてはいないが、負けた理由も分かる。空気の全てが、まるで彼の味方をするように重い。

ジンの銃は左脇。
抜くところから始まる。すでに安全装置は外し、装填済みだ。
いつでも打てる。

「両者構え!」

ホライゾンの声が響いて、身構えた。
全てを賭けた戦いが掛け声と共に始まる。

「始め!」

キリヤナギとジンが動いたのは、同時だった。
ジンは脇腹の銃を抜き、発砲。
だが、その先にキリヤナギはいない。
気がついた時には、真横に居た。

早い。
ジンはサラマンドラの筒で、狙われた右肩を防御。
一撃が重い。
あの細い腕から出るとは思えない力だ。
ジンは、間合いに入ってきたキリヤナギに向けて、左手でさらにホルスターの銃を抜き、発砲。
左手で銃に触った事に気付いたのか、キリヤナギはまた消えた。
キリヤナギは横に倒れて前転。
ジンの後ろへ回り込む。

背中にきた気配に、ジンはとっさに身体を捻った。
突き出された細剣は、ギリギリで交わされる。

「あれを避けれるのか。ジン君やるね」
「カロンさんとリゼロッテさん相手に、よく組手してたみたいです。恐らく回避だけで言うならイレイザー並かと」

回避したジンは、捻った身体のまま、左手のサラマンドラで発砲。
床に鮮やかなオレンジの着色料が飛び散る。
その中でジンは、腰を落としたキリヤナギが再び前転をして前に出ると思い、右手のサラマンドラの筒は逆側に向けていた。
だが、違った。
ペイント弾を回避する為に、床を蹴ったキリヤナギは、ジンの目前で止まり、
そのまま、細剣の反動を殺さず一回転すると、ジンに対して再び突きの構えをとった。
そのままジンの交差された両腕の隙間から左胸へ、キリヤナギの模造細剣が突き立つ。

突かれた力に押され、尻餅をついたジンは呆然と座り込んでしまった。
キリヤナギはこちらに、模造細剣を突きつけていて静止する。
そんな彼は今までにない程に嬉しそうで、

「これで君は、僕のものだ」
「え、……へ?」

「勝負あり!」

ホライゾンの声が響いても、ジンはまだ動けない。
むしろ反射神経だけで動いていたので、何が起こったか理解できていなかった。
だが、武器をしまい、手を出してくるキリヤナギをみて、はっとする。
負けたのだ。

「銃はやっぱり面倒くさいね……。色々賭けだよ」
「……」

「それでもすごいと思います。ジンさん二丁なのに」
「二丁をここまでうまく使う人を見たのは、ジンが初めてだ。上手いと思うよ。立てる?」

「え、は、……はい」

負けた。
勝って当たり前なのに、負けた。
負けてしまった。

「もしかして沈んでる? ショック受けてる?」
「ジンさん気持ちは分かりますが、普通ですよ。むしろ回避出来るのがすごいんですよ?」

リアスのフォローがフォローに聞こえない。
負けてしまったのだ。
得意な武器で、しかも賭けた手前、何も言えない。

「大丈夫。悪いようにはしない。もう少し見ているといいよ。ね、ホライゾン」
「連戦で平気ですか?」
「平気平気、ジンよりもホライゾンの方が消耗するからね」

ジンの中にまた重い物が落ちた。
カナトになんて言おうか。
むしろこれから今まで通りやれるだろうか。

「リアス君、掛け声お願いできる?」
「はい」

リアスはジンを引きずってベンチに座らせた。
キリヤナギはジンが顔を上げたのを確認すると、再び笑ってみせる。

「ジン、君がこれから仕える僕が、どの程度にあるか見極めるんだ。よく見ていて」

はっとした。
気がつけば彼らの周りにフェンサー部隊の皆が集まっている。
キリヤナギとホライゾンが戦うときいて、教官が許したのだろう。

「両者かまえ!」

100名以上のギャラリーに囲まれた二人は、また堂々と武器を構える。
ジンを相手にした時と同じだ。
ホライゾンもまた鏡に写したように同じ構えをしている。
ジンはそれを何も言わず見ていた。
見極めろと言われても分からない。
負けた事でキリヤナギは強いと身をもって理解したし、これからは絶対服従しなければいけないのだから……、

「始め!」

リアスの掛け声に始まり、二人が動いた。
円を描くように出方を伺う。
先に前に出たのは、キリヤナギだった。
突き出した模造細剣を、ホライゾンが切っ先で弾く。
また今度は、ホライゾンが突き出した模造細剣をキリヤナギが弾く。
ジンと戦った時とは全く違った。
金属の交わる高い音が、訓練ホールに延々と、まるでリズムを合わせるように響き始める。

早い。

「高度な読み合いですね。お互い隙を探してます」
「読み合い?」
「あえて武器を止め、止めさせながらタイミングを見計らっている感じです。テンポに慣れだした後が勝負かと」
「すげぇの?」
「普通ならこんな何度も続きません。神経が持ちませんから」

確かに、ホライゾンもキリヤナギも表情にまるで余裕がない。
ジンは早すぎて目で追うのがやっとだ。
そんな事を考えていると、ある一瞬で、キリヤナギが細剣を止める事なく受け流した。
一回転して間合いへ入り込み、突き出す。
が、それを見計らったようにホライゾンが後退し、羽ばたいて飛び立ち、回避。
キリヤナギの後ろをとる。

キリヤナギは、床を蹴って一度距離をとり、再びホライゾンの細剣を弾いて止めた。
再び、読み合いの駆け引きが始まる。
誰もが呆然とそれを見ていた。
両者一歩も譲らない。
その中で前に突っ込んできたホライゾンの細剣を、キリヤナギが刀身で止めた。
十字に交わり二人の動きが止まる。
細剣は細い為、刀身で受け止める事は出来ない。交わったのは持ち手ギリギリの部分だ。

「やっぱり疲れてますね?」
「この程度でへばらないよ。僕は!」

ホライゾンを押し返し、再び読み合いが始まる。
だが、これを続ければ続けるほど、一度戦っているキリヤナギは不利になる。
勝負に出なければ終わらない。
リアスはそれを見ていて、キリヤナギがあまり戦わない理由を察した。
ホライゾンとの戦いはすでに戦闘ではなく、消耗戦だ。
最初に体力を削ぎ落とされた方が負ける単純なもの。
それをお互い理解しているから、あえて戦う事を避けていたのだ。
とんでもない戦いを見ていると思う。
技術差があれば勝負がつく筈なのに、付かないのだ。
完全な互角。終わらない。

そう思った直後、キリヤナギが動く。
ホライゾンと細剣を自身の細剣で抑え、這わせたまま接近、懐へ入ったキリヤナギはホライゾンの左胸を狙う。
キリヤナギの声が響き、真っ直ぐに細剣が構えられた。
だが、ホライゾンは羽ばたくと共に、突き出されたキリヤナギの腕を掴む、そのまま勢いを殺さずに投げた。
受け身を取り、前転したキリヤナギは、直ぐに立ち上がって構える。

「やめ! ストップです!ありがとうございます!」

リアスは迷わず二人を止めた。これ以上は意味がなさすぎる。
消耗戦なら、キリヤナギが不利で負けるのは目に見えているからだ。

キリヤナギはそれを聞いて、まるで倒れるように膝をつき模造細剣に寄りかかる。
物凄い汗を流し、床にまで滴っていた。

ホライゾンも同じだ。
彼は立ってはいられるが、同じく肩で息をしている。

「くやじぃ……」
「だから忠告したじゃないですか……」

ホライゾンの小さな叫びが響いた。
動かないキリヤナギをみて、ジンは呆然とする。
何が起きていたのか分かっていない表情だ。
だが、目の前で酷く息を切らすキリヤナギをみて、思わず駆けだす。

「大丈夫すか……?」
「きつい……もうだめ」

立ちあがれないのか。
ジンはキリヤナギに肩を貸して、ベンチへと連れていき寝かせた。

「ジンは、優しいね……」
「へ?」
「カナトも優しかった……」

なんの話だろう。
しかしジンが先ほど負けた相手が、こうしてダウンしているのも新鮮だった。

「総隊長。ごめんなさい……」
「……いいよ。あんまり気にしてないし、普段真面目に戦ってないのもそうだし、見に来てくれただけ嬉しかったから、でも身長は関係ないよ?」
「は、はい」

やっぱり気にしていた。
この地雷を踏んではいけないと、ジンは心へ言い聞かせた。


午前中に来たはずなのに、気がつけばもうお昼だ。
フェンサー部隊の訓練は終わり、皆が着替えに帰ってゆく。帰り際に、声をかけてくれる隊員にむけて、キリヤナギは力なく手を振り返して応じている。

「起き上がれそうすか?」
「まだ無理……」

結局ホライゾンが持って来てくれたスポーツドリンクをがぶ飲みして、キリヤナギは10分ほどそうしていた。

その後ジンとリアスは、キリヤナギが着替える間、ホールの外で待つ。
プロテクターも返して、大体30分ぐらい待っただろうか。
しばらくすると、いつも通りの職服に赤いマントを羽織ったキリヤナギが出てきた。

「あれ、まだ居たの?」
「今日一日、総隊長に密着すると決めたので」
「へー、ジンも?」

「え、ま、まぁ……」
「そっか。じゃあ一緒にお昼ごはんにしよ。お腹すいた」

いいのか。
しかし、先程とはうって変わり緩い。
ラウンジかと思えば、キリヤナギは迷わず食堂へ向かった。
ジンもよくここでお昼を済ませていた。
しかし、何度か足を引っ掛けられてぶちまけたことがあり、あまりいい思い出がない。

「ジン、元気ないけどうしたの? もしかして負けた事きにしてる?」
「い、いや。何でもないっす。ただ、ここいい思い出なくって……」
「……そっか。じゃあジンは席とりしててよ。リアスと買って来るから」

「何にしますか? 今週の闇メニューは、親子カレー丼ですよ」

毎週、謎の組み合わせの闇メニューは、地味に人気があった。懐かしい。
他にも味噌親子丼とか、親子卵とじうどんとか、名前だけ聞けば美味しそうなのに味は酷いものが多い。

「じゃあ僕、親子カレー丼にしよ」
「勇者すぎませんか総隊長」

「俺はなんでもいいや、とりあえず普通のヤツで……」
「分かりました」

にぎやかな食堂は、皆誰かと一緒に食事を楽しんでいて、少し懐かしくなった。
当時はそんなものに興味はなくて、だれとも話さず誰ともいず、ただ黙々と物事をこなしていた。
それが当たり前で、他は何も気にならなかったのに、何故今こうしてここに来る事がこんなにも切ないのか。

うろうろと席を探すジンを、リアスは横目で観察する。
キリヤナギはここへよく来るのか。隊員に挨拶されたり、前の隊員がトレーを渡してくれたりしている。
キリヤナギがどこに居ようとも、何をしていようとも、やはりキリヤナギは総隊長なのだ。
リアスは改めてキリヤナギの人気を実感する。

「総隊長。ジンさんの事、実はけっこう知ってるんじゃないですか?」
「ある程度はね。でも僕は、当時ジンに避けられてたから、聞いた話しかわからないかな。……こればっかりは僕の力じゃどうしようもないよ」

キリヤナギがジンに距離を詰めれば詰めるほど、ジンの立場は狭くなる。
キリヤナギもそれは十分にも理解しているのか。

「でも僕は当時ほど心配してないよ。リアスもいるしね」
「ジンさん、いい人です」
「でしょ? 仲良くしてあげてね」

そういうキリヤナギは、いつも以上に楽しそうにしている。
ジンは一人、窓際の席に座ってカナトにメールを出していた。
お昼はいらないというと、カナトも納得したのか晩御飯の惣菜を買って帰れという。

天界に戻ってから、酒場の依頼をさぼってはいたが、基本的に出かけるきっかけがないと、カナトは外に出たがらない。
あまり休みすぎると、引き篭もりになりそうだ。

そんなことを考えていると、トレーをもった総隊長とリアスが戻ってきた。
何が来たのだろうと思えば、カレーにラーメンが付いたセットで、なぜ主食が二つあるのだろうと頭を抱える。
やっぱりこの食堂はどこかおかしい。

「ファーマー部隊の皆が、日夜新しいメニューを考えてくれてるんだ。協力してあげないとね」
「何かの実験とはき違えてないですか?」

リアスの突っ込みは正しい。しかし、頼んでしまった手前、残せない。
総隊長と昼食なんてあり得ないと思っていたのに、えらく新鮮だ。
親子カレー丼は、やはり見るからに酷い。

「……総隊長」
「なんだい?」
「もし、カナトがまた誘拐されたらどうします?」
「誘拐? なんかあったの?」
「いや、なんかカナトが、自分が誘拐されてもデメリットの方が大きいっていってたんで」
「……そうだね。僕はもう無視出来ないし、ありとあらゆる人脈を使って探すかな?」
「けど、部隊での誘拐事件の解決っていっても、別にそんな大規模じゃなかったような……」

「カナトさんの場合、地位が高すぎるのもあります。キリヤナギ総隊長が、堕天・ルシフェルの後継だと知りえた上で、それを放置する事は、天界を裏切ったに等しい」
「僕はカナトのお父さん。ウォーレスハイム様には、人生捧げても返し切れない恩があるからね。彼の実子であるカナトは、僕の全てを賭けてでも守らなければならない人だ。もし何かあれば、この治安維持部隊の全ての人材を投入して取り戻しにいくよ」

キリヤナギの堂々とした返答に、ジンは息をのんだ。
つい先ほどカナトに言われたことを、そのまま返されてしまい、どう返せばいいのかもわからなくなる。

頬杖をついて述べたキリヤナギの親子カレー丼は全然減ってはいない。
やっぱりやせ我慢していたのか。
先ほどあんなに動いたのに、箸が進まないとはどういうことだろう。
ジンはカレーだけでおなか一杯ではあるし、どうしたものか。

「総隊長、……ラーメンいります?」
「ジンは優しいね……。ありがとう」

ラーメンをもらったキリヤナギは、驚くほど幸せそうだ。

「総隊長は、この後どうされるんですか?」
「新規加入者の書類きてるから、ちょっと目を通すぐらいかなぁ。でもいい天気だよね、外でてみる?」
「怒られません?」
「平気平気、ちょっと気になる事もあるんだ。付き合ってよ」

気になる事とはなんだろう。
三人は苦労しつつも、キリヤナギの頼んだ親子カレー丼を処理して、アクロポリスの町へ繰り出した。
すると首輪を付けた小さな犬が、元宮前を横切っていく。
キリヤナギは、その犬を凝視して駆け出した。

「総隊長、どうかかされましたか?」
「あの子、何処かで見覚えあるんだ。リアス捕まえて!」
「了解です」

リアスは持ち前の足の速さで、犬の前に回り込み、抱き抱えるように捕まえた。
追いついたキリヤナギが撫でていると、メリーとかかれたネームプレートを下げている。

「やっぱりこの子、三丁目のマダムのとこの子だ。よく脱走するんだよね」
「へー」

「よくご存知ですね」
「もう何回も捕まえてるからさ、連れてってあげよ。マダムが心配してるから」

「総隊長。そっち逆です」

三丁目とは逆の道へ向かうキリヤナギを、リアスが止める。
ジンはキリヤナギがいつも迷子になる理由がわかる気がした。

マダムの元へ犬を連れて行くと、彼女も丁度探しに行こうとしていたらしく、お礼と言って人数分のクッキーを分けてくれた。
またその後も、木に絡まった風船を子供の為に回収したり、道に迷っている初心者さんを学校まで連れて行ったり、飛空庭に乗るのに難儀している老人の手助けなど、ジンとリアスはキリヤナギと一緒に見える範囲のすべてを手助けした。

赤いマントを羽織るキリヤナギは、当然のように目立つ。
町の人は、キリヤナギが通ると何処で何があるか、何が起こっているかを伝えてくれる。
キリヤナギはそれに応えるように、迷子なら親を探し、落とし物なら騎士団と本部に問い合わせをして探す。
思ったより忙しい。
一度元宮をでると帰ってこない理由が十分に理解できた。

「総隊長はいつも一人でこんな事を?」
「そうだよ。でもうろうろしてたら部隊の皆と会ったりして、手伝ってもらったりとか、僕一人の時だと迷子になっちゃうし、こんなに沢山こなせたのは初めてかな」
「総隊長がくると、皆さん嬉しそうです」
「僕もよく助けてもらってるんだよね。落とした”ナビゲーションデバイス”が、僕より先に帰った事もあったし……」

方向音痴も周知の事実か。
しかし、キリヤナギの格好なら確かに目立つ。

「キーリちゃん。今日は一人じゃないんだね」

また新しい声が響いた。
アップタウンの露店商だ。
初老の女性は、キリヤナギを見つけ手を振ってくれる。
キリヤナギは、それにぱっと表情が明るくなると、菓子や軽食を販売している彼女へ歩み寄った。

「こんにちは、カーラさん!」
「こんにちは、丁度良かった。相談したいことがあったの」
「相談? 僕で力になれますか?」
「最近、ダウンタウンの小さな市場で、若い人がたむろっててね……。楽しいのはわかるんだけど、その付近の材料屋さんが店を開けられないみたいなの。私じゃどうにもできないから、キーリちゃん、せめて移動するようにお願いしてくれないかい?」
「そっか。お店開けれないなら大変だ。ちょっとみにいってみます」
「ありがとう。私は材料屋さんと仲がいいから、落ち着いたらまた店を開けるようお願いするよ」
「うん、教えてくれてありがとうございました」

ジンとリアスを促し、キリヤナギはダウンタウンへと向かう。
そんな三人をカーラは引き止め、販売していたキャビアまんを分けてくれた。
クッキーにキャビアまん、他にも手伝ったお礼に色々もらっている。
美味しそうに頬張るキリヤナギは、やっぱりラーメンだけでは足りなかったのか。

しかし、カーラの話は本当に小さな悩みだとは思う。
溜まり場なんて良くある事なのに、何かする必要があるのか。

「カーラさんにとっては大変な事なの。迷惑してる人がいるなら、伝えないとね」

不思議だと思う。
ジンは今まで、自分の為に、生きる為にしか動いて来なかった。
部隊に入ったのも生きる為だし、酒場の依頼も報酬の為に引き受けているからだ。
だがキリヤナギは、なんのプラスにもならない事を町でさがし、率先してこなしている。
キリヤナギはそれを苦にしている気配はない。
むしろ、頼まれて喜んでいるようだ。
何故だろう。

訪れたダウンタウンは、アップタウンとは違う貧相な空気を持ち、柄の悪そうな冒険者が至る所にいる。
キリヤナギはそれに動じず、堂々と歩を進めていた。

「あ、キーリちゃんだ。こんにちは」
「こんにちは、かのん!」

また声をかけられた。今度は、女性の若い冒険者。
アークタイタニアの彼女は、キリヤナギをみるなり、ふんわりと目の前に舞い降りる。

何もしなくても、キリヤナギの周りには人が集まってくる。
本当に不思議な光景だ。

「今日はどうしたの? 久しぶりな気がする」
「うん、ダウンタウンで、市場の店の前に冒険者さんが陣取ってるってきいてさ。見に来たんだ」
「あ、それ知ってる。材料屋さんが抵抗したんだけど、お店めちゃくちゃにされたって……」
「そんなに酷かったの?」
「うん、騎士団が止めに乗り出したんだけど、騎士団演習で活躍してるみたいだから、強く言えないって……材料屋さん。いい人なのにかわいそう」
「それいつから?」
「事件があったのは先週ぐらい……、きーりちゃんに連絡しようと思ったんだけど、オフラインで……」
「ごめん。僕、先週は天界に出張してたんだ。何かあって騎士団が対応したって聞いてたから……」
「騎士団はあてにならないよ!! でも、きーりちゃんが見にきてくれたなら、安心かな」
「僕、何か出来るか分からないけど、様子みてくるね」
「うん。それじゃ、演習だからまたね!」
「わかった。教えてくれてありがとう。楽しんできてね!」

演習の参加者だと聞いて、ジンが凍りついた。
あんな可愛いのに、対人が趣味なのか。

「総隊長って、演習に出てる人にも面識あるんですね」
「ダウンタウンをうろうろしてると、自然とね」
「演習に出てる人は、怖いイメージでしたが……」
「彼らはあくまで、演習と言う一つのゲームを楽しんでいるだけだよ? 誰かに迷惑をかけて、誰かの大切な物を壊してまで楽しもうとしてる人よりは、ずっと良心がある人達だと思う」
「……確かに」

「じゃあ、総隊長の気になることって……」
「この辺りで、アサシン用の服毒を改造して、販売してる連中がいるって教えてもらってね。町の人経由で色々情報を集めてたんだ」

「なるほど、部隊員が見に行っても確かに雲隠れされそうです」
「露店一つ乗っ取って売ってるなら、とりあえず納得したよ。問題は何処で作ってるか……、この辺りの冒険者が出入りしてる庭は、アップタウンにはないみたいだし、ダウンタウンの何処かなんだろうけどなぁ……」
「そんな情報まで?」
「うん。調べてるっていったら、教えてくれた」

流石だと思う。
しかし確かに、あれだけ人助けをこなし、アップタウンやダウンタウンをうろうろしているのなら、何か異常があれば知らせに来るだろう。
キリヤナギが何もしなくとも、必要があれば情報の方からキリヤナギに来るのだ。

「僕よりも町の人の方がこの町に詳しいからね。みんな優しいから、助かってるよ」

この総隊長は、どうやら無意識にそれを実行しているらしい。
流石だと思い、恐ろしくも感じた。

「どうされます?」
「とりあえず会ってみるかな……。ジンとリアスも来てくれる?」

「いく!」
「1日密着するってきめたんで、いきます」

「ありがと」

キリヤナギの嬉しそうな笑みに、ジンは何故か安堵した。
こんなに長い時間をキリヤナギと過ごしたのは初めてだか、自分達の総隊長は、思ったよりも頼りになる。

元材料屋の露店があった場所へ、三人が向かうと、確かに数名の冒険者と、新しい看板の立つ露店があった。
客引きを行い、商品をみせている。
キリヤナギは迷わず歩み寄り、その商品を凝視した。

「いらっしゃいませ、今タイムセール中だよ。ナイトさん」
「こんにちは」

「あ、きーりちゃんだ」
「ルゼ、こんにちは」

先に露店を見ていた女性は、やはりキリヤナギの知り合いらしい。
本当に顔が広いと、ジンとリアスは感心した。

「お客さん、知り合いかい?」
「うん、よく話すんだ。君たちは、最近ここに来たの?」
「へい、先週ようやく店を構えたものです!」
「そっか。ところで、ルゼは何をみてたの?」

「演習に便利な飲み物ってきいて、気になってきてみたの……」
「はい、疲労回復にも効果があるんで、是非是非!」

「へー、ちょっと匂いだけかいでもいい?」
「匂いだけならいいっすよ! でも試飲はやってないんで、仰いでくださいねぇ……」

ジンが、ポーションの瓶に詰められた液体の匂いを嗅ぐと、まるで薬剤のような鼻に通る匂いが突き抜けた。
この独特の匂いは、たしかにアサシン用の薬剤の匂いに近い。

「きついねこれ……。何が入ってるの……?」
「企業秘密っすよ。でも効果は保証します!」
「こんな匂いの飲み物をつくる企業なんて知らないなぁ……。何処の会社?」
「実はまだ起業してないんですよー! リングでやってて、これで成功したらいいなって感じっす」
「へー、何処のリング? ちょっと興味があるんだけど」
「ラビアンローズってとこです。ほらこの薔薇のエンブレムが目印」

馬鹿だ。
ジンとリアスは、この露店商は天性だと呆れていた。
しかし、初対面で何も知らされていないなら、キリヤナギを唯の冒険者と間違えるのも仕方ないのかもしれない。
部隊員はみな職服を着てはいるが、職服そのものに制約はないため、一般冒険者でも着ている者は少なからずいるからだ。

「僕、アルケミストの知り合いは多いけど、こんなの作ってる人は初めてだよ」
「きーりちゃんこんなのに興味あるの? 私は匂いきつくて無理。ごめん、演習があるから先にかえるね」
「あ、うん。ごめんね。ルゼ、気をつけて」

この反応なら、確かに客引きしたい気持ちがわかる気がした。
本当に売れているのだろうかも怪しい。

「もしよかったら、製造工程はいいし、リングマスター紹介してよ。会ってみたいな」
「本当っすか! マスター、分かり合える人が居ないって嘆いてたんで、喜びます! お前ら、案内たのむ!」

脇にたむろしていた二人が敬礼をして、三人をダウンタウンの北東まで案内してくれた。
道中を見ていても、どんどん空気が怪しくなってきて、ジンやリアスですら悪目立ちする。

「あの辺りって、演習でてる人の溜まり場すけど、演習にでてるんすか?」
「演習なんて宝石を納品するだけのゲームでしょ! ここだけの話、あれやるだけで騎士団が超優しくなるんですよ。今や顔も覚えてもらえて、余裕です」
「へ、へぇ……、そ、そうなんすか……」

キリヤナギは黙って聞いている。
思ったよりも悪質だ。騎士団に見逃して貰うために演習に出ているなら、彼らは自分達が悪いと自覚している様にも取れる。
知らなかったならまだしも、根が深そうだ。

連れてこられた場所は、貧困街の片隅にあるひっそりとしたボロ屋敷。
内装もそんなに広くはなさそうで、二階からリングメンバーらしい冒険者が、三人を見下ろしていた。

「リンマス! お客さんを連れてきました!」

案内してくれた二人の内一人が、ボロ屋敷の中へ消えていく。
ジンは二階の窓をじっとみて、中に何人いるかを数えた。
大富豪をしているのか、手にはトランプをもち、その枚数は少ない。大富豪は人数が増えれば増えるほど、手元のカードの枚数が減るゲームだ。
正確な人数は分からなくとも、目安にはなるだろう。

大体10人前後だろうかと目測していると、暗いボロ屋敷の奥から、白衣に眼鏡の男がでてくる。
キリヤナギは現れた男に笑みで応じた。

「こんにちは」
「あんたが、俺の発明を理解してくれた人かい?」
「うーん、実はそうじゃなくて、アサシンの服毒の改造は規約違反で、危険だからやめてほしいんです。あと、薬を売ってる場所。元は材料屋さんの場所だから、返してあげてくれませんか?」
「は?」

空気が凍りついた。
当たり前だ。
理解したと言ってきた相手が、販売をやめろ掌を返したのだ。
誰でも驚く。

「あの場所は材料屋さんの場所です。アクロポリスの管理権限がある評議会にも申請されています、だから、占拠するのはよくない。それに服毒は、最低アサシン以上のジョブがないと、心身が危険なので、ばらまくのはやめてほしい……」
「……」
「今すぐ、あの場所にいる彼らを呼び戻してくれませんか?」

キリヤナギはあくまで温厚だった。
驚くほどに優しく、諭すように話している。
ジンは信じられなかった。身なりや態度を見ても、話が通じる相手には見えないのに……。

「なんでお前にそんなこと言われないとダメなんだ?」
「皆が迷惑しています。だから僕はそれを解決するために来た」
「うるせぇ、帰れ! 一口も飲まねえ奴、知った口を叩くな!」

当たり前の反応だと、ジンは思った。
キリヤナギも呆れているかと思えば、彼は驚くほど悲しい表情をしている。
しかし、放置はできない。

「そっか……。どうしても、止めてくれませんか? もっと、体に良い、皆を幸せにする薬を作りたいとは、思いませんか?」
「そんな物より、依存させれば早いんだよ! 使わないとやって行けなくなれば、嫌でも金を落とすんだからな!」

悪質だ。
彼は始めからそのつもりで、薬品を作っていたのか。
尚更放置はできない。
頭に血が上り、歯止めが効かなくなるなら、材料屋が被害にあったのもわかる。

キリヤナギは小さく嘆息すると、ポケットからチェーンに繋がれた”ナビゲーションデバイス”を取り出した。

「騎士団に通報するか? あ? あいにくだが、うちのリングは騎士団と顔みしりだ。意味ないぜ?」
「そうですね……。通報はしません。だから僕は仲間を呼びます」
「仲間?」
「僕はキリヤナギ、治安維持部隊、最高管理者、総隊長。エミル・ガーディアンのキリヤナギ、有害な薬物を販売する貴方を、危険人物とし拘束します」
「んな……」

ジンとリアスが身構えた。
キリヤナギが”ナビゲーションデバイス”の位置情報を発信しようとすると、案内した冒険者がキリヤナギへと殴り掛かってきて、ジンとリアスがそれに応じる。
ジンは、1人を掴み投げ、リアスも腹へ一撃を入れて、倒した。
すると、騒ぎを見ていた二階の仲間が、窓から飛び降りて、続々とこちらへ突っ込んでくる。
ジンは、向かってきた4、5名の敵を見て思った。

遅い。
キリヤナギの何倍も遅く、スローモーションにすら見える。
むしろ何故、こんな動きで向かってきたのか理解できず、呆れた。
銃を使うまでもなく、ジンはリアスと二人で10名の冒険者を熨す。

「ありがと、ジン、リアス」
「てめぇら……」
「ごめんなさい。僕はもう貴方を放置できないから……」

これを聞いた敵は、小さな屋敷の中に逃げ込み、フラスコに入った薬品を抱えて出てくる。
キリヤナギはそれを見て、武器を抜いた。
一瞬で間合いに入り込んだキリヤナギは、持ち手で敵の腹を殴り込んで倒し、血剣・ダインスレイブを突きつける。
その時の冷ややかなキリヤナギの瞳を、ジンは思わず息を詰めた。
後ろからは、騒ぎを聞きつけたリングの仲間が現れ、ジンは敵を抑えるキリヤナギの代わりに応戦。
武器は使わずに事態は収束する。

それから、ホライゾンが率いる応援が現れて、服毒以外にも開発されていた薬品を大量押収し、乗っ取られ、ボロボロになった露店もキリヤナギ意向により、ジンとリアスが部隊員と一緒に修繕した。

「ランカーなのに、ありがとう。ジン、リアス」
「当然です。壊れたままだと後味わるいので」

「俺も、なんか理不尽だし、手伝えるかなって……」

キリヤナギを見ていると、一緒に何かができる気がする。
今まで気にもとめず、興味すら湧かなかったのに、キリヤナギといると、自分に行動の全てに意味があると思えてくる。
何故だろう。

露店の修繕を終えて、皆が本部に戻って行く中、同じく手伝ってくれていたホライゾンが、ジンとリアスの肩を叩く。

「総隊長、また居ないと思ったら、ジン君達と一緒だったんだね」
「あ、はい。アップタウンで、いろいろ……」

「大分うろうろしてました」
「どうだった?」

「どうって……」
「面白かったです。総隊長、町だと有名でした」

「キリヤナギ総隊長は、もう10年以上昔からあれだからね。もうお馴染みだから、探しにいくと大体すぐみつかるんだ」

そうだろう。
ホライゾンもまた、キリヤナギを探しに行くのは日常茶飯事だし、歩いていれば居場所を教えてくれるそうだ。
いろんな意味で納得がいって、様々な意味で感心する。

「でも、総隊長。犯人捕まえたのに、少し元気なくなってるような……」
「あれもいつものことだよ。敵に感情移入して、少しナイーブになってしまう。あまりよくはないけど、そういう人なんだ」

ジンにはよく分からなかった。
しかし、キリヤナギ自身は驚くほどに温厚で、虫をも殺せない人だと言うのはわかる。
皆がそれを知っていて、皆がそれを支えている。
1人でやってきたジンには、考えられない事だ。

「ジン、リアス。僕、カーラさんの所に報告に行くけど、くる?」
「密着しているので、行きます」

「お、俺も……」
「ありがと」

「では私は、先に本部へ。セオ君がまた心配していました、早めに戻って下さいね」
「う……、分かってるよ。ホライゾン」

ホライゾンの笑みから、総隊長を頼まれた気分にもなってくる。
何故だろう。今日1日、ずっと疑問に思いっぱなしだ。
三人でカーラへ会いに行くと、彼女も騒ぎを聞いていたのか、キリヤナギの行動を絶賛して喜んでくれた。
それでも、キリヤナギは材料屋が安全で居られるよう部隊員が時々見回りにいくよう約束する。
何故そこまでするのだろう。
何の関係もない人を、何故そこまで助けるのだろう。
分からない。

「……総隊長」
「何? ジン」

リアスについて行く総隊長へ、ジンはおもむろに口を開いた。
キリヤナギがアクロポリスの人々に信頼されているのは分かった。
それ故に、皆が彼に頼るのだと、
しかしキリヤナギは、その為に皆を助けている様には思えない。
ならば何故彼は人を助けるのか。

「何で、ずっとこんな人助けしてるんすか?」
「へ? 困ってたら、助けるのは当たり前じゃない?」

……。

「総隊長ってやっぱり天然ですか?」
「リアス、それよく言われるけど、本当にお手伝いしてるだけだよ? 僕……」

「でも、忙しくて手が回らない事だってあるんじゃ……」
「そりゃあ、部隊が評議会に吸収されてから、手が回らなくて大変だったけど……、その分、皆が代わりにやってくれたり、できなかったら一緒に謝りにいったりしてさ。みんな手伝ってくれてるのに僕がやめたらだめでしょ?」

確かにそうだった。
ホライゾンも街の人も、皆がキリヤナギを手伝っている。
露店の修繕を手伝ってくれた部隊員もそうだ。
キリヤナギが治したいと願った露店は、ちゃんとなおされている。

「僕は僕の正しいと思うことを続けてるだけだよ。だから、ジンもジンの自分が正しいと思う事をやればいい。君が僕の行動を正しくないと思っても、咎める言われはないからね」
「そう言う意味じゃなくて……、俺、部隊がそんな所だって知らなかったから」
「別に、僕の行動を手伝う組織じゃないよ? ちゃんとしたら依頼を受けて報酬が出るのは確かだからさ」
「そうすけど……」
「ジンは生きるための手段として治安維持部隊に来たのなら、僕はその君の力になれただけで、十分さ」

なんでだろう。
何もして来なかっのに、ただ必死に生きてきた自分が、情けなくなる。
こんなにも暖かいのに、自分は何一つ、彼らを信頼していなかった。
阻害されるのも、扱いが酷いのも、突き落とされてしまうのも、当たり前だ。
誰だってそうだ、信頼してくれない人間を、誰が信頼できる?
情けない。

「ジンさん、泣いてます?」
「泣いてねぇ……、でも、何も分かってなかったから」

「……ジンは悪くないよ?」
「……だけど」
「僕は、ジンの今までをずっと見てきたから、君がそう簡単に人を信頼できない理由も知ってる。だけど、部隊の皆は、知らないからね」
「……」
「ランカーの皆は、ある意味ジンと似たような考えを持つ人が多いからさ。きっと大丈夫だって思ったんだ。仲良くなれて良かったって今は思ってるよ」

今までの全部が、そうだったのか。
ただ武器が欲しくて目指したランカーだったのに、本当に何も考えられていなかった。

「おれ、ジンさん嫌いじゃないですよ。面白いんで」

やっぱりリアスは殴りたくなる。
キリヤナギは笑っていた。

「じゃあ、早く帰ろ! ホライゾンが待ってるし」

キリヤナギに手を引かれ、ジンとリアスは再び本部へと戻る。
東稼働橋からアップタウンに戻ってきたのに、キリヤナギは迷わず南へジンを引っ張るので、リアスが軌道修正する事で、何とか帰ってこられた。

気がつけばもう夕方だ。それでも、大分密度の高い1日だったと思う。
ジンとリアスがキリヤナギと元宮を歩いていると、カドを曲がったキリヤナギが、突然立ち止まった。

「遅い!!」

廊下に宝杖・レッドルナを叩きつけたのは、治安維持部隊ギルドランカー2nd、エミル・アストラリストのセオだ。

「また勝手に散歩にいって! 報告書がどれだけ溜まってると思ってるんですか!! 今週中に全部処理すると昨日約束したでしょう!!」
「わー! わー! ごめんなさいごめんなさい!」

この安心できる感じは何だろう。
セオは、現れたキリヤナギを引きずるように執務室へ連れて行き、ジンとリアスも続く。
彼は二人がいることに少し驚いてはいたが、安心もしていたようだった。

キリヤナギを無理やり執務室の机に座らせたセオは、何も言わずにコーヒーを入れ始める。
一緒にいたジンとリアスも、セオに座るよう促された。

「全く、出かけたい気持ちはわかりますが、ちゃんと時間を決めてください。もう夕方ですよ……」
「ご、ごめん……」
「町で何か問題があれば、我々が代わりに行きます。私も見に行きますから、自分のやるべきことに優先順位をつけ考えて行動してください」
「は、はい」

「で、でもセオ。総隊長一応、現行犯捕まえてたし……?」
「それも知っています。ホライゾン大佐が応援に行ったのも知っています。庇いたい気持ちもわかります。その上で話をしているのです!」

怒っている。
しどろもどろするキリヤナギは言い返す言葉もなさそうだった。
むしろ言い返してはいけない空気をだすセオへ、何も言えないように見える。
しかしセオも、これを延々と続けることは無意味だと理解していた。
部隊発足以降からあるこの癖を、そう簡単に治せるわけがない。
むしろ、これを直したらキリヤナギがキリヤナギではなくなってしまうとも思う。
だからこそ、誰もしつこく咎めない。助けられている人は必ずそこにいるから、

「貴方のために考えたスケジュールがあるでしょう? ちゃんと散歩もできるように組んでありますから、あれを参考に少しずつ合わせてください」
「……分かった。ありがとう、セオ」

嘆息したセオは、キリヤナギにコーヒーをいれて、ジンとリアスにも入れてくれる。
町でもらったお菓子を広げると、大皿いっぱいになって、のりきらなかった。
これは今日1日のキリヤナギの成果なのだろう。

「そうだ、ジンに渡すものがあったんだ」
「なんすか?」

キリヤナギの合図を受けたセオは、戸棚から高級感のある、書類用のケースを取り出す。
シルク加工されているそれは、万年筆のようなものと一緒についていて、ジンの目の前に置かれた。
開いてみてみると、羊皮紙にナイトのエンブレムが刻印されていて、目に付いた大き目の文字に凍りつく。

”誓約書”と書かれている。

「総隊長、これ騎士のですか?」
「そうだよ。今提出してくれるとありがたいかな」

1日歩いて、すっかり忘れていた。
カナトになんで言い訳しようか、むしろ言い訳をさせてくれるのだろうか。
賭けに負けたなど、言えるわけがない。

「すごいですね。部隊のとは全く違います」
「部隊は元リングだし、そんなに厳密に決める必要もないからね。でも騎士は、僕の私兵だから何もかものすべてを僕に預けてもらう必要がある」

「なにもかも……」
「その体を含めた感情、意志もすべてさ……言ったでしょ、僕のモノだって」

返す言葉がない。
脳裏にレミエルの城での日々が蘇ってきて、頭を抱えた。
キリヤナギは、そんなジンを見て笑うと自身の事務処理を始めたが、手元の内線用デバイスに通信が届く。
サイバーインターフェースを参照し、表示されたのは、ギルド元宮の受け付けを行うDEM・リュスィオールだ。

「リュスィオール、お疲れ様」
「”お疲れ様です。キリヤナギ総隊長。お帰りになったばかりであるにも関わらず、ご無礼をお許し下さい”」
「平気だよ。僕にお客さんかな?」
「”はい。ご自身をカナト・F・フォン・メロディアスと名乗る。ジョーカー様がお見えです。早急にお会いしたいと……”」

ジンが固まっている。
キリヤナギは、それに苦笑してリュスィオールに返した。

「分かった。丁重にお連れしてくれ。失礼のないように……」
「”かしこまりました”」

カナトが来てしまった。
待ちきれなかったのだろうか、引き篭もると思っていたのに、

「相変わらず心配性ですね、カナトさん」
「二回も行方不明になってますし、仕方ないと思いますよ」

何故みんなカナトの味方なのだろう。
これも日頃の行いなのだろうか。
目の前の誓約書は、未だ決意が固まらない。

「あれ、総隊長。この誓約書、雇用条件が空欄ですよ?」
「そうだよ。僕の騎士は基本的に自由だからね、グランジは住み込みで24時間になるけど、セオは治安維持部隊と兼任してるから」
「なるほど」

「私は本部にいるとき、及び、総隊長が隣にいる際に適用されますので、治安維持部隊とほぼ同じですね」
「スィーは僕と一緒にいる時だけかな。コウガは必要な時だけ、ジンはどうする?」

「えーっと……」
「そうだなぁ、ジンは24時間だと、僕は嬉しいな……」

息を飲み込んだ。
何故そんなにも期待されているのだろう。
万年筆を持ったまま、ジンはただその書類を見つめる。
これにサインしたら、もう前の暮らしは出来なくなるのだろうか。
誰かに仕えて服従するなんて考えたこともない。
しかし、それでも負けてしまったのだ。

諦めうな垂れていると、執務室にノックが響き、ホライゾンと共に、もう一人アークタイタニアが現れる。
銀狼を連れた黒羽の彼は、貴族らしい礼装を纏い優雅にここへ現れた。

「ご機嫌よう。我が君」
「突然の来訪、失礼する」

「カナト……」

狼のルナを連れ、キリヤナギの執務室に現れたカナトは、キリヤナギを見て唸りだすルナのリードを抑えている。
カナトは執務室を見回し、その場に居る人間を確認していると、何かの書類へサインしようとして居るジンに目がいった。
カナトはそれを見て、再びキリヤナギを睨む。

「ジンを騎士にとは、また回りくどい事を考えているな。キリヤナギ」
「突然です。我が君。彼を貴方の元へ置くための手筈にすぎませんが……」
「余計な事はいいと、以前話した筈だが?」

「カナト、何の話してんだよ?」
「ジン、こいつは貴様を騎士にする事で、私の元に送る気だ」
「は……」

「僕は24時間勤務で、カナトの護衛をお願いしようと思ってただけだよ?」
「監視の間違いではないのか?」
「そう見えるかい? でも僕は賭けに勝ったからね。ジンに拒否権はないよ」
「貴様……」

「ご、ごめん……」

沈んでいるジンを見てカナトは、それ以上文句を言えなくなった。
相手がキリヤナギである時点で、上手く嵌められたのだとは大体予想はできたからだ。
初めから、ジンを騎士にするつもりで呼び寄せたのなら、まずその事実における結果を破棄させねばならない。

「ならばキリヤナギ、今すぐその”賭け”における結果を破棄しなければ、私が貴様と結んだ”友人”契約を撤回する」
「なら此方は、友人から絶交された場合、ジンを僕の近衛兵とする事で、常時本部勤務を命じよう」

「へ? へ……?」

訳がわからない。
思わず二人を交互にみると、お互い真剣な表情で睨み合い、火花を散らしている。

「セオさん、これなんか物凄いジンさん争奪戦が繰り広げられてませんか……?」
「ハタからみるとそうですけど、一応ちゃんとした取引ですから……」

リアスとセオが他人事すぎて、助けてとすら言えなくなった。
しかしカナトが、なかなか戻らないジンを心配して来てくれたのはわかった。
キリヤナギも、今日1日関わって、ジンの幸せを願ってくれているのも分かった。

でもカナトは、ジンが賭け事をなかった事にする為に、キリヤナギと友人の契約を破棄、つまり絶交すると言う。
カナトとキリヤナギが友人になった理由を、ジンはよく知らない。
でもキリヤナギは、友人としても総隊長としても十分に信頼にたる人物だと、ジンは今日思った。
カナトはジンの知る限り、友人は少ない。
だから、キリヤナギと絶交するのは、あまり良くないと思う。

キリヤナギはキリヤナギで、カナトがキリヤナギと絶交したら、ジンを騎士にした後に”常時本部にいろと命令する”といった。
これはジンが困る。
ジンは、今更本部での信頼など取り戻せる気もしないし、あまりここには居たくない。
カナトはカナトで、将来貴族になる為に堂々としなければならないのなら、また何処かで事件に巻き込まれる可能性もある。
ジンがいる事で、その可能性が抑えられるなら、やっぱり一緒に居た方がいい。

だからこの二人の話は、誰も幸せにならないと思う。
全て問題は、ジン自身が賭けに負けてしまったから発生した事だ。
なら、その責任はとらければいけない。

「あのさカナト。お前、また俺を探しにきたんだろ?」
「リアスから、貴様が騎士になると言うメールをもらってな、急いできた」

またお前か。
リアスを睨むと、彼はセオの後ろに隠れて”クローキング”をする。
しかし今はその話ではない。

「俺、今更本部とかやだし、カナトが総隊長と絶交するのも、あんまり良くないと思う。お前友達少ないし……」
「貴様……」

睨まれた。
だが、ジンの知る限りではそうだから、

「だからカナト。俺、負けた責任は取ろうと思う……。受けた俺が悪いし、そのせいで今変わるのは嫌だし……」
「キリヤナギの思う壷だがな……」

「僕はジンの全てを望んだだけだよ? それ以上は、君の受け取り方次第かな……カナト」
「キリヤナギ……」

「総隊長。俺、本部に居なくていいの?」
「構わないよ。ただ立場が、僕の騎士で、僕の命令を受けたカナトの護衛になるだけ、一緒にいる事が君の義務になる。それだけさ」

「私の身の回りに起こる事柄の全てを、ジンを介して監視、報告する……だろう?」
「僕がそれを知って何かするとでも? でも気になったら聞くかも知れないね」

否定せず、キリヤナギは笑っていた。
いつもの笑みで、楽しそうに笑う。

カナトは、キョトンとしているジンをみてため息をついた。
この男をカナトは見捨てる事ができない。
キリヤナギはそれを知っているのだ。
だからいくらでも利用されて、踊らされてしまう。
しかし、そんな中でジンは、カナトとキリヤナギの二人の言葉を聞いて言った。

本部にはいたくないと、カナトにもキリヤナギと絶交するのは良くないと言った。
確かに絶交すれば、部隊からのバックアップをカナトは正式にうけられなくなる。
またキリヤナギも、カナトの騎士としての話がなくなり、天界の騎士としての立場もなくなる。
確かに誰も得しない。

キリヤナギは、ジンを騎士として雇用する事実を意地でも手放さないだろう。
ずっと機会をうかがっていたか。拒否権が発生しないタイミングを計っていたのか。
しかしそれは、今考える事でもない。
ジンが責任を取るというなら、口出しするだけ野暮か。

「……好きにしろ」
「わりぃ、カナト……」

「懸命だと思うよ。我が君……」

キリヤナギの笑みに殺意すら湧いてくる。
どれほどまでに踊らさされればいいのだろうか。未だ行動理由が不明なキリヤナギは、一体何を考えているのだろう。

慣れない万年筆をもち、ジンは丁寧に名前を書いていく。

「雇用条件は24時間でいいかな?」
「えーっと……?」
「カナトと一緒にいられるよう、融通は聞かせてあげるよ。何かあればすぐ知らせて、僕も必要になったら呼ぶから」
「は、はい……」

返されたケースを、キリヤナギは嬉しそうにみている。
本当に何を考えているのか、予想できたものではない。
足元のルナは、未だ機嫌がわるく、ずっとキリヤナギを睨んでいる。
心を共有しているのだ、カナトが怒ればルナも怒る。まさに写し鏡だろう。
これ以上ここにいる意味はない。

「ジン。帰るぞ……」
「へ、もう?」
「まだ用事があるのか?」

「いいよ。ジン、もう夜だしね。気をつけて帰るんだよ」
「え、はい。総隊長、ありがとうございました」
「こちらこそ、今日は楽しかった。またね!」

「おれも帰ります」
「うん、リアスも気をつけてね」
「お疲れ様です。おやすみなさい、総隊長」

出て行く三人を、キリヤナギは手を振って見送った。
一連を見ていたホライゾンとセオは、半ば呆れた表情でキリヤナギをみる。

「守りたい気持ちは分かりますが、少し過保護ではないですか?」
「そう見える?」
「とても」

「あの二人の関係は自然に生まれた物です。それを囲い込むのは感心しませんね」
「僕はカナトを失う訳にはいかないんだよ。ジンの場合、こうでもしないと僕を頼ってくれないからね……、何か起こった時に、知らせてくれるだけで十分さ」

「じゃあ例の目的の件は?」
「僕は必要ないと考えてるよ。ジンはカナトのそばに居てくれるだけでいい。この不安定な世界で、僕の未来の王を守ってくれればね」

堕天・ルシフェルがカナトに移るのは、まだ半世紀も先だ。キリヤナギはその前にやるべき事がある。

「とにかく、明日は外に出しませんから」
「分かってる……」

まだ当分は、平和な日々が続くだろう。

ギルド元宮をでた。カナト、ジン、リアスの三人は機嫌が悪いカナトを先頭にして帰路についていた。
何も話そうとはしない。呆れているのだろうか。

「キリヤナギに、謝ったのか?」
「ぇ、と、とりあえず謝ったけど……」
「そうか……」

「総隊長。すごい機嫌悪かったんで、ジンさんと戦えば相殺できると思ったんです」
「リアス……?」
「ジンさんの件、おれも悪いです」

目を合わせないのは負い目を感じているからだろうか。
ジンもこれには少し反応に困っていた。

「……私は、言うほど気にしてはいない。今まで気にも止めていなかった当たり前が、義務になることに不満があっただけだ」
「不満?」
「状況は同じだろうが、本質的な意味あいが変わる事で生じる問題もある、貴様がキリヤナギの従者になる事で、自分の意志ではなく、義務で私についていることになるからな……」
「えーっと?」

まるで理解していない。しかし、謝って来いと言って送り出したのはカナトだ。
立場が変わり、こうなる事を予想できなかったのも迂闊だった。

「まぁいい。この際利用させて貰おう」
「利用?」
「キリヤナギが私に私兵を寄越したと言うことは、奴にとって私は”失う事ができない価値のある人間”という事になる。意味合いとしては主君にも近いだろう」
「主君って?」
「仕えるということだ。奴は騎士だからな」

キリヤナギの騎士とジンの騎士が混合してくる。
カナトは分かりやすく私兵と言ってくれるが、ジンは今一つ理解ができない。
朝、謝りに行けと追い出したカナトが、さっきは絶交すると言い出したのだ。
まず仲がいいのか悪いのかわからない。

「お前さ、総隊長の事、実質どう思ってんの?」
「このアクロポリスの守護を義務とする騎士、として見ている。同じ貴族として便利な友人だろう」
「そう言う意味じゃなくて……、好きか嫌いかだよ!」
「個人的な感情で言うならば、好きか嫌いかよりも、”苦手”の部類に入るのかもしれない。貴様やリアスを含めたこの町の住人は、奴に守られるべきアクロポリスの住人ではあるが、私は将来、堕天・ルシフェルとなる天界の人間だ。故に、奴の義務の本質的な対象ではない」
「それって?」
「……私が言いたいのは、キリヤナギは、自身の義務において貴様達を抱擁しているだけだと言う事だ。その為に貴様自身はキリヤナギへ好感があるかもしれないが、私にはそうは思えない」
「総隊長はお前を守るために俺を寄越したんだろ? カナトだって守られてんじゃん」
「それは奴が私を守ることで、何らかの利益があるからだ。父、ウォーレスハイムと親交があり、私と言う存在を把握しているなら無視はできないからな」
「もうややこしい事いいから、総隊長と仲良くしろよ。すげー恥ずかしかったぞさっき」
「貴様、人が丁寧に説明しているのに何だその言い草は……」

リアスが同情の目でこちらを見ている。
そもそも理解を求めるのが間違いだったか。
しかし、ジンのこの単純思考から考えるなら、ほんの数日前に天界で仲良くしていた二人が、今日絶交するかしないかの話をしてきたのだ。
間にいるジンからして見れば確かに驚くし戸惑いもするだろう。
キリヤナギの思い通りに事が運ぶのは少し気に食わないが、目的がわからず、動きようもない。
一度冷静になってみるか。

「……ジン。貴様はキリヤナギの目的を聞いた事はあるか?」
「目的?」

「以前は、無限回廊、奈落階層地下300層を目標にしていましたが、もう達成されましたね。聞いてみたら騎士団と同じ立場として部隊を認めさせたとか」
「認めさせる?」
「騎士団の様に堂々とする事が許されたんです。今は協力体制で騎士団に応援を要請されたり、したりするようになりました」

「へー、俺の時は下っ端の下っ端ぐらいだったのに」
「このおかげで治安維持部隊全体の士気が上がってますね。皆さん誇りを持って任務できるって」

立場が一つ上がったとも言う意味だろうか。
数十年間の大人しく仕えていたのに、何故今ここで昇格を図ったのだろう。
何かがキリヤナギを変えたのだろうか。

そんな考察を巡らせていると、カナトの”ナビゲーションデバイス”が、タイムセール15分前の通知をよこす。
しまった。すっかり忘れていた。

「ジン、買い物にいくぞ。間に合わなくなる」
「お、おう」

「カナトさん、手伝うので晩御飯一緒にしてください」
「あぁ、それぐらいなら構わない。リアスも付き合ってくれ」
「はい!」

「切り替え早すぎだって、待てよ!!」

ジンはあっと言う前に置いていかれ、大急ぎで二人を追って行く。




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本編 | 【2015-07-30(Thu) 12:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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