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Royal*Familiar:第一二話
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Royal*Familiar エピローグ

第12話:日常への回帰

前回
第一話:決意の序章
第二話:別離の序章
第三話:再開の対価
第四話:策略の輪廻
第五話:望みの代償
第六話:無力な再会
第七話:穢れた使命
第八話:無謀な勇気
第九話:騎士の在る意味
第十話:影と光の格差
第十一話:迎えの喜劇


 



ラファエル・セレナーデが他界したことで、メロディアスは急遽、彼女の葬儀を主催した。
リフウやシャロンを含めた、メロディアスやジェラシア、ミスタリアも黒服を纏い参列する。
葬儀には、キリヤナギがカナトの護衛として同席したが、ジンを含めた騎士隊は、身内でもなければ知り合いでもないため、天界のメロディアスの居城にて待機していた。

ジンは数日間閉じこめられた疲労があったのか。
天界のメロディアスの城へ戻ってから、酷く体調を崩してしまい。
カナトはジンの体調が戻るまで、天界にいる判断を下す。

「エミル界じゃ、医療の技術はまだまだ天界に勝てねぇしな。いい判断だと思うぜ」
「なにから何まで、ありがとうございました。父上」
「お前はお前なりのケジメをつけたんだ。なんの文句はねぇよ……」
「……その件ですが」
「あぁー、わかってるぜ。そのうち帰ってくるんだろ? 好きにしろ」
「はい。……所でミカエル陛下は――」
「あいつはあいつなりに楽しんでたぜ……気にすんな。唯の愉快犯だから」

愉快犯と言われてカナトはピンとこなかった。
しかし、ジンの拘束具を解除し、閉じ込めていた分館の扉を開けてくれたのは、どうお礼を言えばいいか分からない。

「お礼なんてしたら調子のりだして、なにすっかわかんねぇんだよ……」

そう言うウォーレスハイムの表情は、酷く切実だった。
ミカエルの話をすると、父はいつも深刻な表情になる。
少し残念ではあるが、やはり父に任せるしかないか。

「そんでジンの調子はどうだい? 面倒みてんだろ」
「はい。軽い栄養失調になりかけていたようで、免疫力も低下してしまっていたようです。一応起き上がれはするようですが」
「よくねぇなぁ……、それは確かにここにいた方がいいわ」
「緊張で体を保っていたのでしょう。回復には数日かかりそうです」
「そっか、まぁ良かったじゃねぇか。若いし美味いもん食ってりゃ治るよ」

父はやはり大雑把だとは思う。
しかし、天界は少なくともエミル界より平和だ。空気も清浄で技術も確信的なものがある。
だからしばらくは、ここにいた方がいい。たが、ここに長く居る事はジンにとってはどうなのだろう。

「帰りたい」
「あまり我儘は過ぎず、ジン様」
「てめぇがいると解放された気がしないんだよ、エドワーズ!」
「それはあんまりなお言葉ではありますが、確かに図としては同じかも知れませんね」

エドワーズとルナに囲まれて、ジンが声を張り上げた。
カナトとジンがメロディアスの居城へ戻る上で、シャロンと同じく、リフウもメロディアスの方へ戻っているのだ。
それも、居城の持ち主、セレナーデが暫く留守にしていた為、今あの城には管理する必要最低限の使用人しかいなかった。
その為に、フィランソロの執事エドワーズも今メロディアスの居城にいる。

「ジン。せめてちゃんと治さないと、エミル界に戻った時に痛い目をみるぞ」

ルナの追撃に思わず口ごもった。
帰れないのには、色々理由はあるらしいが、この広過ぎる部屋での生活も酷く息苦しい。
レミエルの分館と違うことと言えば、服に制約がないことと自由に出入りが出来ることだろうか。
しかし、身体がだるく。まだ食欲もそんなに戻らないことは自分でも理解している。
早く帰りたいが、贅沢は言っていられないか。

「全く忙しないな。ジン」
「カナト! だってすげー息苦しいんだよ。広過ぎて落ち着かねぇし……」
「いつだったか、貴族の生活に憧れていると聞いていたが……?」
「俺が悪かった。だからその話はやめろ……」

図書館に言った時だったか。覚えているカナトが憎い。

「ジン、お前はいつ帰りたい?」
「へ?」

カナトに問われて思わず聞き返した。
帰りたいと言ったその場で、いつ帰りたいと聞かれたのだ。
何か意味があるのか?
ジンは少し考えて、逆にカナトへ聞いた。

「お前はいつ帰った方がいいと思う?」
「……貴様が今すぐにエミル界へ戻っても、私の自宅では十分な事が出来ないからな。せめて食欲が戻るまでは、ここにいた方がいいと考えている」
「じゃあなんで聞いたんだ?」
「自宅と環境が違い、それがストレスなら、早めに戻ったほうがいいからな」

なんだかんだで考えてくれていたのか。
別に幽閉されていた時ほどストレスは感じていない。
カナトもいるし、リフウもいるし、リアスが時々からかいにくるぐらいか。
考えるとイラついたが、エミル界に戻って倒れた場合、月光花の方が怖い。

「いた方が……いいか」
「……そうだな。私も、色々やる事がある。貴様はしばらく休んでいろ」

そう言ってカナトは、ジンに小さな小袋を投げ渡した。
中には小さな手紙も入っている。

「なんだこれ?」
「今朝、レミエル・ジェラシアの使者が届けに来た。ジェラシアは本業の観光業をやる傍ら、天界の清浄な土地を利用して製薬事業を進めていたらしい。貴様の容態をきいて、気を使ってくれたようだ」

袋の中身は、栄養剤や整腸剤などが入っていて、今のジンの為に調剤してくれたようにも見える。
説明書も同封されており、少し驚いてしまった。

「ラファエル・セレナーデ様の負担を減らすために開発をしていたそうだが……、一応続けては行くらしい」
「へー、いい奴じゃん」
「……貴様やっぱり馬鹿だな」

何をされたか自覚あるのだろうか。
しかし、ジンは条件付きではあるが、ギルバートを許した。
ジンが許したのに自分が許さないのも気がひける為、カナトは深く考えるのはやめた。
袋にはナタリアからの手紙も同封されていて、彼女も無事に城から出してもらえたらしい。
色々ありはしたが、丸く収まったと思う。

「エドワーズ、俺どのくらいで治る?」
「ご無理されなければ、3日あれば十分でしょう。ジン様はお若いのでもう少し早いかと」
「ふーん」

起き上がれるのに、休んでいろと言われても酷く退屈だ。
しかし、外に出ようとしても体力が落ちすぎていて体が持たない。
情けないと思う。こんな事ならちゃんと食事をとっておくべきだった。

何もできずどうしようもなくて、ジンがベッドでうなだれていると、ベランダの方から聞き覚えのある音色が聞こえてきた。
いつも聞く音とあまり聞かない音。
風に乗るように聞こえたその音は、一つはカナトの音色であるとジンはすぐに分かった。
二つの音色を聞いて気づいたが、奏者によってバイオリンの音色はこんなにも違うのだとジンは初めて知る。
ルナと一緒にベランダへと出て、下の庭園を見下ろすとカナトにカナサ、キリヤナギ、リフウ、シャロン、バトラーが集まって双子のバイオリンを聞いていた。

「やはり出てきたか」

見上げてきたカナトは、ジンが出てくることを予想していたのか。
すこし悔しい。

「悪いかよ!」
「退屈ならくるといい」

カナトに言われるがまま、ジンはルナに上着を羽織らせてもらって、城の庭園へとむかう。
こんな優雅な空間をジンは初めて見た。
カナトとカナサは色違いの礼装をきて、キリヤナギは職服、ドレスのシャロンと笑顔で話している。
皆が煌びやかなその空間のなか、ジンは部屋着に上着を羽織っただけのスタイルだ。
場違いすぎる、とても近づけない。

「ジンさん。体調は平気ですか?」

横から声が聞こえて、ジンは驚いた体を必死に抑えた。
迎えにきてくれたリフウは、こわばっているジンを小さく笑うと、6人のいるその空間から離れた場所へ座らせてくれる。

「ありがとう、ございました」
「へ? なにが?」
「ジンさんが居なかったら、わたしもうとっくに諦めて、ギルバート陛下のところに行っていたとおもいます」
「でもリフウちゃんも、俺の事を助けようとしてくれてたし、ごめん……」

リフウは首をふってくれた。
自分の運命を受け入れてまで助けようとしてくれたのに、ジンは結局、何も返せていない。
それが悔しくて、こんな情けないことになってしまって、とても顔を合わすことなんてできなかった。

そんなことを考えていると、うつむいたジンの頬に何かが来た。
やわらかくて暖かいもの。
それがリフウの唇だと気付いたとき、ジンは全身の血が沸騰したような気がして動けなくなってしまった。

「ありがとうございました。ジンさん」

考えていたことが全部真っ白になった。
真っ赤になって何も言えなくなっているジンを、カナトは横目で見ている。
女性に耐性がないくせに、よくあれほどまで意地を張れるものだとおもう。

「嫉妬が過ぎますね。我が君」
「口を慎め、キリヤナギ」

シャロンは笑っていた。
カナサとバトラーは反応に困っているようだが、構いはしない。
今はすべてが終わった後だ。この安らかなひと時を大切にしたい。

「思ったより回復早いですね。ジンさん」
「当たり前だろ!ずっと寝てなんていられっか」

1日たって、大分動けるようになったジンは、リアスと一緒に天界を歩いてみることにした。
着てきた服はボロボロであったために、ジンは用意してもらった、ガーデンベストとカジュアルボトムを着て、天界の首都、エル・シエルへと繰り出す。
真っ白な塔のような造りをしたその町は、タイタニアとアークタイタニアが何の隔たりなく関わり、少数ではあるが、エミル族やドミニオン族の姿も見えた。

「ジンさん。犬カフェはこっちです」

リアスに服を引っ張られ連れて来られたのは、犬と戯れながらお茶を楽しめる専門店だった。
動物に好かれるらしいリアスは、入った瞬間、犬に飛びつかれたが、ジンは吠えられてしまい慣れて貰うまでに大分時間がかかってしまった。
よくわからないカフェだ。
しかし、奢ると言ってしまったので断れず、仕方なく席へ座り、オーダーをする。

「そう言えば、カナトさんはどうされるんでしょうね」
「どうするって?」
「ルシフェル、継がれるみたいなんで、実家に戻られるのかなって」

パフェのスプーンを口に入れたジンが、固まった。
すっかり頭から抜け落ちていた。
そう言えば、式の時に宣言していたきがする。

確かに、今のカナトはどうみても貴族として動いている。
昨日も今日も、ルナとキリヤナギを連れて何処かへ出かけ、大体夕方には帰ってくる。
話を聞く限りでは、ジェラシアと揉めた件での後始末をしていると言っていたが、

「後始末もあるでしょうが、大方、ルシフェルを継ぐ準備も兼ねているのではないかと思います。カナトさんは天界に初めて来たと言ってましたし、他の七大天使様へ挨拶回りをされているのでは?」

あの真面目で律儀な性格ならあり得る。
実家を継ぐか継がないかの話は、天界へ来る前から聞いていたことだ。
驚くことでもないとはおもうが、いざ目の当たりにすると困惑してしまう。

「ジンさんはどうされるんですか?」
「どうって……」
「カナトさんが実家に帰られたら、寝床とかは?」
「そうなりゃ、また寮だな……。でも、ローンでも組めば庭も作れそうだけど……わかんねぇ」

今は考えたくなかった。
せっかくの甘いものが楽しめなくなってしまい。
ジンは、複雑な心境でメロディアスの居城へと戻ってくる。
広い城だ。真面目に歩かなければ迷子になるため、ジンは道を思い出しながら慎重に歩く。
すると、廊下に面する庭園にキリヤナギがいた。
いつもカナトと居るのに珍しく一人だ。

「やぁ、ジン。体調は平気?」
「もう、大分平気っすよ!」
「そっか、エドワーズに黙って出掛けたみたいだね。カナトが怒ってたよ」
「うぇぇ、まじすか……。というか、総隊長、一人?」
「今はね。カナトにはスィーが付いてるよ。珍しいかい?」
「ずっとカナトと居る感じだったんで……」
「こっちではそうだね。僕は今、カナトに雇われているだけだよ。エミル界に戻ったら、また総隊長にもどるさ。そうしたらジンにまたバトンタッチするね」
「な、なんの話っすか!?」
「ルシフェル・メロディアスの正統な跡継ぎとして、カナトは準備している。エミル界での周りの空気が少し変わると思うよ。だから、これからもカナトを守ってね。ジン」

守っているより、むしろ守られていた気がして、ジンは返事が出来なくなった。
この総隊長は一体何を考えているのだろう。

「そういえば、グランジさんとかは?」
「スィー意外の騎士隊の皆は、天界のバカンスを楽しんでるよ。グランジはセオと一緒にエル・シエルに出かけたみたいだね」
「へ~」
「皆、次いつ来られるかわからないから、今のうちに楽しんでおけと言ってあるさ」

つまり簡単な休暇ということか。
たしかに、ジンはここにいるし、ジェラシアももう喧嘩を売ってくる心配もない。
襲撃を受けたとも聞いたが、あくまで理由があってのことではあるし、キリヤナギも問題ないと判断したのだろう。
キリヤナギが一人でここにいるのは、体を休めているのか。

「総隊長は遊びに行かないんすか?」
「僕? 僕はグランジや皆がいないと迷子になるから……」

そうだった。
この総隊長は一人で歩かせると禄なことがない。
ジンも今は無理できないし、一緒に行くのは難しいか。

「それに、ぼくが遊んでたらみんなに示しがつかないしね。元々やりたい事もないから大丈夫だよ」

やりたいことがないなら、ジンが手助けできることもないと思う。
たしかにこの総隊長は、何かに趣味があり、熱狂的に打ち込むというタイプでもなさそうだ。
ペットは好きでモモンガを飼ってはいるようだが、そのぐらいか。

「そうだ。総隊長もこっちの騎士と戦ったって……」
「うん。ちょっとだけだけどね」
「強かったすか?」
「……すっごい弱かった」

あれ?

「基本なってないし、応用効いてないし、反応遅いし、僕が前にいるのにゴリ押そうとするし……」
「えっ、え……?」
「ちょっと信じられないかな、見た目だけというか」

聞いていて負けてしまった心にズキズキと響く。
普段、模擬戦すらでない総隊長が弱いと言う事に、ジンは動揺をかくせない。

「ジンは何で負けたの? 動き遅くなかった?」
「えぇっ、ま、まぁおそかったすけど……」
「何人ぐらいに絡まれたの」
「確か15人ぐらい?」
「やっぱり数で押してたんだね。卑怯だよ。じゃあ、ダウンタウンの血はジンのじゃない?」
「あぁ、それは俺が銃つかったから」
「15人も呼ばないと、人間一人捕まえられないとか、騎士として恥ずかしくないのかなぁ……」

キリヤナギのあんまりな言いようにジンは言葉もない。
暫く茫然としていると、そんな様子をみたキリヤナギが続ける。

「エミル族を相手の戦い方に慣れてなさそうだったかな。ほら、タイタニアって基本浮いてるから、高さがちょっと上になるんだよね」
「あぁ、確かに……」
「地面に重心を取るのが苦手な感じ? 僕はよくホライゾンとかに相手してもらってるから高さはあんまり気にならなかったけど、とりあえず実践慣れしてないかんじだったね」
「……」
「……ジン、もしかして僕の実力信用してない?」
「え、えぇ!? そ、そんなことないっすよ。でも、模擬戦でよく負けてたし……」
「ひどいなぁ。僕こう見えてガーディアンの試験主席で卒業してるんだよ?」
「……え?」
「あ、信じてない? 信じてないよねそれ!」
「冗談すよね?」
「本当だよ! 信じてよ!!」

ガーディアンの試験は、模造武器を使って戦い、トーナメントを行って上位10名が合格とされる。
この場合の首席とは、おそらく優勝を示すのだろう。
普段フェンサーの新人にすら、あっけなくやられているキリヤナギが、そんなトーナメントで優勝など考えられない。

「サバ読んでないすか……」
「ひどい! じゃあもう帰ったら本部きてよ! ホライゾンが証明してくれるから!」

怒っている。
しかし、戦う上での高さの違いは、確かにそうだと思う。
ジンの身長は平均だが、同じぐらいのカナトと組手をしたとき、確かにタイタニアは浮いていて、目線が少し上だった。
平均であるジンは、大体同じぐらいか、ちょっと上の身長を持つ敵と戦う事が多い。
そんなことを考えながら、不機嫌なキリヤナギを見ると、彼の目線がちょっと上を向いていることに気付いた。
ジンはキリヤナギとあまり会わない。
会っても、大体座っていたので気付かなかったが、目の前にいる総隊長はジンを少し見上げている。

「総隊長、もしかして身長170センチない?」
「え……、な、ないけどそれが何!?」
「俺、170ぐらいだったきがするんですけど、何センチすか?」
「ひゃく、ろくじゅっせんち、ちょっとぐらい……」

小柄だった。
なんとなくではあるが、小さくて小回りが利くと思うと、なぜか納得がいく。

「その目何!? 僕の身長を聞いてなんで納得してるの!」
「小さいと確かに動きやすそうな気が……」
「僕の実力と身長を混合しないでよ! 関係ないでしょ!」

目の前の総隊長は、身長を気にしているらしい。
久しぶりに話した気がしたが、相変わらずこの総隊長は緩い、かしこまるだけ無駄なのだと理解できて、ジンは少し安心した。

レミエルにもらった薬を摂取してから、普通に動ける程に回復し、ジンはもう次の日には、運動ができるまでに体力は戻っていた。
午前中から、軽い運動をしていると、カナトが現れてため息をつく。

「本当に単純でわかりやすい体をしているな。貴様は……」
「うるせぇよ」
「まぁいい。明日にでも発つか」
「おう! お前は用事終わったのか?」
「私は気にしなくていい。問題は貴様だ」
「俺?」
「ナタリヤ様に、会っていくか?」

カナトに問われジンは返答に渋った。手紙はもらったのに、返事をしていない。
ナタリヤが幽閉されたのは150年も昔で、その頃にはまだ”ナビゲーションデバイス”はなかったのだ。
だから、直筆の手紙をジンに寄越してきた。

「次に天界に来るのがいつになるかも分からないからな……。特に貴様は、もう会う機会もないかもしれない」

カナトもこちらの世界に気軽にこられる訳ではない。
ジンだって不本意だったのだ。来られたのはある意味運命もあるだろう。
その上でもう一度会うことになるとすれば、いったい何年先になってしまうのか。

「明日会いに行くなら、庭を用意させるが……」
「……いや、いいや。ナタリヤさん、俺に会ったとき、自分で贖罪を受けてるって言ってたし、きっと余計な事したって思われてる」
「……そうか。私は彼女に会った事はないが、貴様が言うならそうなのだろう。……明日の正午にはこちらの世界を発つ。後悔のないようにな」

その言葉を、そのままカナトに返したかった。

次の日の午前に、ジンは天界への準備をしようとしたが、もともと拉致という形で連れてこられたために、ほとんど荷物もなにもなく。
持ち物はカナトが持ってきてくれた銃と”ナビゲーションデバイス”、血だらけの洋服に留まる。

ジンが積み込まれていく大量の荷物を眺めている中で、カナトは、飛空庭の甲板にあるテーブルセットで優雅にお茶を飲みながら情報誌を読んでいた。
足元には狼のルナを伏せさせ、その風貌はどう見ても貴族に変わりはない。
またキリヤナギも同じテーブルセットに頬杖をつき、大分リラックスしている。
周辺に立ち込める優雅な空気に、ジンへ寄るに寄れなかった。

「よぅ、お前ジンだろ?」
「誰すか?」
「タイタニア・グラディエイターのコウガだぜ。災難だったな」

キリヤナギの私兵の一人らしい、彼もまたジンを心配してくれていたのか。

「ジンさん」

振り返ればそこに金髪の彼女がいる。
真っ白な外出用のワンピースに、大きな帽子をかぶる彼女は、側から見れば富豪の令嬢にすらみえた。
いやむしろ、彼女は大貴族なのだ。

甲板に表れたリフウにコウガは、ジンの背中を叩くと気を使って席を外してくれる。
彼女はカナトの婚約者なのだ、ジンが気を使って貰える立場でもない。
しかし、カナトはカナトで全く気にしてはいないのか、リフウが居るのを理解しつつも、キリヤナギと何かを話している。

ゆっくりと飛空城のターミナルへ向かう庭は、分館でみた時以上の開けた大地をみせてくれて、ジンはリフウと一緒にその鮮やかな大地を見下ろしていた。
一緒に帰る。そう約束した事を思い出して、少し恥ずかしくなる。

「リフウちゃんは、これからエミル界にずっと?」
「はい。カナトさんの実家の方で姉さまと」
「そっか」
「これからは、いつでも会えますね……」
「おう」

リフウは笑っていた。心地よい天界の風をうけて、彼女の長い髪がふんわりと揺れている。
一緒に帰ると言う約束を守れたなら、ジンはそれで満足だ。
後悔はない。後悔はない……。
だが、リフウがカナトの実家に入るなら、尚更カナトが、実家に戻ることに現実味がでて、ひどく複雑になってくる。
本人に聞いてみれば早いのに、どうしてこんなにも悩んでいるのだろうか。

リフウは横で、両腕に顔を埋めてしまったジンを見ていた。
ジンの事は全て、仕えていたエドワーズに聞いている。
リフウがいない場でも粛清されていたらしいが、ジンはそれにも怯まず、一緒に帰るといい続けていたそうだ。
話をきいた時は、そんな事無理だと思っていたのに、今こうして一緒に帰っている。
そっと背中をさすると、ジンは顔を上げた。
彼には元気でいて欲しいと思う、これからもずっと……。

飛空城のターミナルの巨大さに、ジンは予想通りの反応をみせ、リフウはそれをみて笑っていた。
まるで絵本にも出てきそうな巨大な怪物だ。
しかしジンが静観していると、エドワーズがすぐに乗り込むよう急かしている。
出航まであと一時間以上あるのに忙しないと思ったが、カナトは大方、ミカエルが来ているのだろうと察していた。

「なかなか面白かったぞ! ウォーレスハイム」
「それは良かったな、ミカエル」
「なんだ? 没落を免れたのに、嬉しくないのか?」
「お前が来たからだよ、馬鹿野郎……」
「ふん、誰のおかげだと思っている? そもそも私が手を貸さなければ成功しなかった作戦だろう?」
「へーへー、そうでした。感謝してるよ」

ターミナルにあるカフェテラスを貸し切り、ミカエルとルシフェルはバトラーに付き添われ会談をしていた。
会談と言う程でもないが、七大天使同士が会う場合そう表現される。

「貴様がいう騎士。思ったより頼りなさそうだったな、確かに私が会うまでもない」
「それはいいが、俺もそろそろ帰るし、お前も早く帰れよ……」

ラファエル・セレナーデの葬儀にて、ミカエルは初めてカナトとカナトの騎士の顔をみていた。
葬儀の場であった為に話す機会はなかったが、ミカエルとしては満足しているらしい。

「それで、次期ラファエルは連れ帰るそうだが、フィランソロ領の管理はどうする気だ? 貴様は8人目の熾天使ゆえに、管理すべき領地もないが、フィランソロはちがう。領主が居なければ民は悲しむぞ」
「あぁ、とりあえずセレナの残した遺言状に、シャロンかリフウが好きにしていいって事が書いてあったし、しばらくはうちで管理するって事で落ち着いたさ。不本意だがしゃあねぇ……」
「なるほど、メロディアス兼フィランソロ領か。ただの形だけの貴族だった貴様が、いまや土地を治める事になろうとは……」
「不本意だつってんだろ。どっちかがラファエルを継いで、居てくれりゃ助かるのに、あの姫姉妹、二人してエミル界で住むってききやしねぇ」
「ならば貴様しかいまい。幸いフィランソロ領の民は温和だ。メタトロンのような雑な管理をしなければ、手を焼くことも無いだろう」
「あいつまだサボってんの? つーか政治下手すぎねぇか?」
「今に始まった事では無い。テンペランス家のメタトロンは、まだ貴様の息子と年は変わらんからな。経験のなさ故に不器用だ。そう言う意味では、未だ100歳にも満たないラファエルを領主に据えるのは、いささか頼りなさそうではある。せめて彼女らが成熟するまで、貴様が管理するのは正しくはあると思うぞ?」
「出来れば早めに継いで欲しいんだがなぁ……寿命もあるし……」
「貴様こそここ数百年、エミル界で散々サボっていたんだ。引退する前にしばらくは天界に腰を据え、政策に従事するべきではないか?」
「俺、ルシフェルなんだけど?」
「私はいっそ、ルシフェルをさっさと貴様の息子に明け渡し、貴様がラファエルの代行人としたほうが良いとも思うが……」
「エミル界に帰れねーじゃん。てか何でそんなに俺が天界に住む事を押すんだよ」
「私がつまらないだろう?」
「てめぇ……」

この男は、相変わらず自分が中心に世界が回っている。
ここ数か月は領主たるセレナーデが、レミエルにあずかられたこともあり、フィランソロ領はレミエルが管理していた。
メロディアスは外交大使という立場において、領地をもたず治める必要もなかったのに、フィランソロの姫を二人とも妻として迎えた事で、彼女達の領地がメロディアスと共用されることになったのだ。
しかし、今ミカエルと話したように、フィランソロの姫二人はエミル界にいたいというため、ウォーレスハイムは領主としてこの領地を治めることとなる。

「しかし、レミエルの婚姻の儀式を、まさかルシフェルの婚約発表会にしてしまうとは、よもや誰も予想していなかっただろう。貴様の息子はエンターテイナーの才能がありそうだな」
「だれもてめぇの為にあんな事した訳じゃねぇよ……」
「次期ルシフェルは、七大天使へ顔見せに行ったと聞いているが……、何故私のところには来ない?」
「挨拶しなくても勝手に来る奴に、いちいち会いにいかねぇ!」
「ふむ、つれない奴だな。しかしよくやったとは思うぞ。あの強情極まりないレミエルを改心させ、穢れまで払うとはな。今まで奴は、我々七大天使の最大の汚点ではあったが、今回の件でようやくまともに会話ができる」
「エミル界に興味がない癖に、何言ってんだよ」
「貴様は知らないかもしれんが、天界の人口は、いま減少傾向にある」
「ほぅ?」
「試練と言ってタイタニアをエミル界へ落とす習わしの所為で、戻って来るはずの天使達が、そのままエミル界へ定住してしまう事例が増えていてな。レミエルを含めた七大天使達の企業が、軒並み赤字まみれだ。そこで我々も、エミル界にビジネスを広げようと画作している」

ミカエルにいわれてウォーレスハイムは少し合点が行った。
カナトがこちらの世界に来た際、”ナビゲーションデバイス”の招待シーケンスをミカエルはすでに開発していたのだ。
つまりもともと、世界移動の見込みがあったということになる。
また、デバイスを登録して招待シーケンスを終えると、自動で観光を主としたウェブサイトにつながった。

「レミエル・ジェラシアが、ウェブサイトを表示させるよう言ってきたので、一応いれてやりはしたが、一画面はどうあれ、検索結果の画面がでるだけ手抜き仕様だ。これを機会に真面目にやってほしいものだな」
「……ビジネスねぇ。確かに人口が増えてるエミル界なら展望はありそうだな」
「その為にも、エミル界とはこれから何度か馬を合わせて行く事になるだろう。そんな中、奴の現状を公に晒したくはなかったからな」

異族を迫害した過去のあるレミエルが、エミル界でビジネスをするなど、確かに都合がよすぎる。
もしそんな事実が、エミル界の人々に知れ渡れば軒並み信頼を失い、ビジネスどころではなくなってしまうだろう。

その上で、カナトがルシフェルを継ぐと言う事になり、ウォーレスハイムが付き添って七大天使達の元へあいさつに行った所、驚くほど好意的に迎えられた。
レミエルの事件について、引っ掻き回してしまった謝罪もかねていたのだが、だれもメロディアスを責めることはせず、フィランソロとの婚約のお祝いと、ジェラシアの穢れを払ったことを称賛してくれた。
その理由が、エミル界でのビジネスの発展ならば、だいたい合点はいく。
彼らとは違い、常にエミル界にいるルシフェルは、七大天使の中でだれよりもエミル界の事情に敏感だからだ。

「貴様はこれから忙しくなるだろう。息子もな」

そうだろう。
ゆっくりしたくてエミル界へ定住しているのに、余計なものがついてきたものだ。
しかし、天界側のエミル界への意識が変わりつつあるのは大きい。
ただの他人の庭ではなく、ビジネス相手としてみるなら、それは天界にもエミル界にも恩恵があるからだ。

「ミカエルはなんかしてんのか?」
「私は”ナビゲーションデバイス”と”ナビゲーションデバイス”の管理システム”Guild”の特許だけでもう十分だ。きまぐれにアップデートするだけで、先方は驚くほどよろこんでくれるからな。新規アプリケーションの開発をユーザーに任せるだけで、何もしなくてもビジネスは成立する。楽なものだ」

ぬかりない。
しかしウォーレスハイムも、ミカエルの開発したシステムをエミル界で運用したり、富裕層向けに簡単な旅行ツアー会社を運営している。
観光は本来、レミエル・ジェラシアの仕事ではあるのだが、彼らは天界内のタイタニア向けのツアーや旅行しか扱っておらず、旅行会社としてかゆいところに手が届いていなかった。

「貴様とレミエルは手を組めば、悪くないビジネス仲間になれるとおもうぞ?」

ビジネスとしては確かに相性がいい。
七大天使たちは皆、天界の政策大臣をやる傍らで皆がそれぞれに企業を立ち上げてビジネスをしている。
ジャンル問わずそれは多岐にわたり、皆が皆天界へ貢献していることは間違いないが、企業を立ち上げ運営したとしても、天界の人口がいなければ、サービスを受ける客がいなくなり、企業は倒産してしまう。
従来までは天界の人口で賄えていたはずが、人口の減少により客が減ってしまったのだ。だから七大天使たちも人口が移動しつつあるエミル界を無視できなくなってきた。

「我々の種族は長命である変わり、戦は苦手だからな。戦わずして勝つためにも根回しは重要だ」

ミカエルとこうして、真面目に天界の話をするのも大分久しぶりだとおもう。
普段、馬鹿な会話しかしていないが、ミカエルはウォーレスハイムにとって重要な情報源だ。
ミカエルもおそらくそれは理解しているのだろう。
だから、気軽に何でも話すし、突然家にきて勝手なことをして帰っていく。
悪くはない。迷惑ではあるが……。

ノートサイズの端末を閉じたミカエルは、時計を確認するとウォーレスハイムのほうをみる。
そろそろ出航の時間だ。カナトももう乗り込んでいるだろう。

「まぁいい、今回も楽しませてもらった。またいつでもこい」
「何様だよ……。そうだ、ラファエルの戴冠式はエミル界であげるがいいよな?」
「好きにしろ。場所などどこでも同じだ。重要視している者がいるなら、勝手にそっちへ行くだろう。主には私からつたえておく」
「おう、助かるぜ。ミカエル、じゃぁな!」

後ろ手をふり去っていくミカエルを、ウォーレスハイムは見送った。

飛空城は、カナトを運んだ時と同じように、出航シーケンスからゆっくりと動き出していく。
ジンは甲板から、少しずつ離れていく天界の大地を見送っていた。
ほんの少しの期間しかいなかったのに、なぜこんなにも名残惜しいのだろう。
しかしそれでも、やっと帰れると安堵の溜息がおちた。

そんな中、ジンが再びターミナルのほうをみると、金髪に赤目のアークタイタニアが目に入る。
見覚えのある彼女は、白いスーツの同じ髪色の男と一緒に、離れていくこちらを見ていた。

ナタリヤ・フォン・ジェラシア
彼女は兄、レミエル・ギルバートの腕を抱きジンへと手を振ってくれている。
ふと、彼女の口が動いたが、距離が離れすぎていて聞こえない。
でも笑っている彼女から、悪い言葉が出ているとは思えなくてジンは安心すると共に嬉しくなった。
精一杯に手を振りかえしつつ、飛空城はゆっくりと下の世界へ降りていく。





一週間ぶりに戻ってきたエミル界は、どこか懐かしい空気と匂いがあり、ジンはようやくほっと肩をなでおろした。
カナトとリフウ、騎士隊とともに、エミル界へとたどり着いたジンは、カナトの自宅のある庭へと乗り換え、エミル界のメロディアスの居城へと戻ってきた。

「ジン、貴様はわたしの庭を使ってキリヤナギを自宅まで送ってやってくれ」
「お気遣いは無用です。我が君」
「いや、どちらにせよ。キリヤナギの屋敷にジンは用事がある」

これを聞いてキリヤナギは納得したようだった。
ジンは一人首をかしげて、城へ向かうカナトを引き留める。

「お前はかえらねーの?」
「私はまだ野暮用がある。お前には話さなければいけないこともあるからな。キリヤナギをおくったら、自宅でまっていてくれ」

話さなければいけないことときいて、ジンは少し息が詰まった。
何も言えず固まっているジンを置いておき、キリヤナギはカナトの前にたつ。
ゆっくりと頭を下げた彼は、小さく口を開いた。

「我が君、これにて私はお役御免です。また何かあればいつでも……」
「よき働きを感謝する。騎士・キリヤナギ」

にっこりと笑った彼は、マントを翻しカナトへ背を向けた。
ジンはその様子を呆然と見ていたが、カナトに背中を押され大急ぎで屋敷の庭からでる。

「総隊長って、カナトに仕えることになったんすか?」
「さぁ、今回は雇われただけだからね。また必要になれば呼ぶんじゃないかな」

意味深な発言だ。
久しぶりにもどった自宅は、音符のかたどった紋章が刻印され、床やすべての家具が新しいものに変えられている。
ジンが置いて行った荷物は、きれいに棚にならべられていて、隠していたものは全部表に出されており、ジンは帰って早々絶望した。

また出入り口の扉にも、紋章の形をした看板のようなものが掛けられており、この庭全体がそれを示すかのようにもみえる。

「メロディアスの家紋だね。カナトの家だって証明してるんだよ」
「へー……」

屋敷にしては小さい家なのに、まるで貴族のようだと思った。
いや、間違いなく貴族なのだ。カナトは……。
しかし、数日前まですぐ隣にいたのに、いつのまにか遠くに行ってしまったような気分にもなってきて、ずっと心にわだかまりが残っている。

「総隊長。寮ってまだあいてるんすか?」
「ん? 空いてると思うけど、カナトと一緒に住まないの?」
「えっとまぁ、ずっと頼ってもいられないかなぁって……」
「そっか、ちょっと残念」

「カナトさんが継がれるなら実家に帰られると思うので、この庭もお役御免では?」

リアスが割り込んできた。
運転中に突然後ろへ立つのはやめてほしい。

「それにしては、大分住む準備が整えられてると僕はおもうけどね」

キリヤナギの不敵な笑みは、なぜかいつも怖いものがある。
普段はあんなにもどんくさい態度をしていたキリヤナギなのに、この笑みは意味深だ。

「総隊長は、俺にカナトといてほしいんすか?」
「まぁね。ジョーカーは狙われやすいし、カナトはあぶなっかしいから、ジンがいてくれると助かるんだよ。色々と」

牽制という意味では確かにそうなのかもしれない。
狙われやすいというなら確かにその通りで、特にカナトは対人が苦手だ。
これから貴族として生きていくなら、尚の事その危険がでてきそうでもある。

自身の屋敷までもどってきたキリヤナギは、騎士隊たちを解散させ、グランジとともに自宅へと戻る。
ジンはそのまま屋敷に招かれ、用事があるといわれた理由をまっていると、後ろからお玉が飛んできて、ジンの頭にクリティカルヒットした。
軽くはあるが、一応アルミなのにひどく痛い。

「馬鹿ジン!!」
「ゲッカ!?」
「何よその顔!! 私がいたらいけないっていうの。人がまた心配してまってたっていうのに、また勝手にどっかいって……」
「ごめんごめん、悪かったって、でもちゃんと帰ってきただろ」

泣きそうな月光花に、ひたすら下へでる様をキリヤナギは笑って見ていた。
その中で彼は、グランジとともにエントランスの奥へとかえっていく。
自由解散ということらしい。

「キリヤナギ総隊長にかくまってもらってたの……一緒に連れて行かれる可能性があったから」
「……そっか。えっと、悪かったよ」
「馬鹿……今度行くときはちゃんと言ってよね」
「わかってるって……」

言い訳はしたくなかった。
不本意であっても一人にしてしまったことは確で、彼女を心配させないためにも、もっとちゃんと動けるようになりたい。

「カナト君は? 一緒じゃないの?」
「え”、まぁ、あいつ今実家だし……泊まって帰るんじゃね。一回もどるとは、言ってたけど……」
「そうなの? じゃあ早く帰らないと大変じゃない」

どうしよう。
彼女にどう説明しようかと考えても、いい言葉が思いつかない。
月光花はお世話になったという執事のディセンバルへあいさつすると、ジンを庭まで引っ張り込んだ。
そこでまた、様変わりしている家におどろいてしまう。

「すごーい! きれいになってる。別の家見たい」

その通りだ。
前に住んでいたとは思えないほどに、空気も雰囲気も変わっている。
壁紙もおそらく張り替えられたのだろう。
ジンがなぐって凹ませ、カレンダーで隠していたものもすべて消えている。

「ジーン! 冷蔵庫の中身からっぽだよ?」
「空!?」
「うん、何も入ってない」

彼女に言われてみると確かに何もない。買い置きしていたおやつも、フルーツジュースもない。
カナトが出払うときに回収したのか。

「晩御飯どうする?」

どうしよう。
カナトが返ってくるまで待ったほうがいいのか。むしろ、待っている間に買い出しに行くべきか。
しかし、カナトがここに住まないのならそんなことをする意味はない。

何か考え事をしているジンを、月光花はジト目で見上げる。
ジンの考え事は、大体はどうでもいいことで、リンゴを右手に持つか左手に持つかの違いにも等しい。
どっちでもいいことを、ジンはなぜか悩む。
そんなこと、聞くだけ無駄だし、カナトは一度戻るといったのだ。
どちらにせよそこで聞くことができると思い、月光花は心配せずにいた。

「ジン、もどったぞ」
「こんばんは~」

いつのまにか庭が動き出し、庭の出口のほうから突然声が聞こえた。
来客のベルもなにも聞こえず、カナトとリフウは突然自宅へと戻ってくる。

「呼び鈴が新品のままで固定具がはずれていなかったぞ……全く」
「そ、そんなところまで変えられてんの!?」

カナトは、ヒト型のルナにトランクケースを持たせ、
リフウとカナトは両手いっぱいにビニール袋を持っている。

「リフウさん! こんばんは」
「月光花さん、こんばんは、お待たせしてごめんなさい」

「何だよ。その荷物」
「冷蔵庫の中身がなかっただろう? 買い出しに行ってきたんだ」
「買い出し!?」

帰宅したカナトは礼装のままでありつつも、態度に何の変りもない。
ルナと一緒に、買ってきたものを冷蔵庫に直すさまは、つい先週もみたものと同じだ。

「お前、話したいことあるっていったじゃん?」
「言ったが?」
「な、何の話なんだよ?」
「あぁ、リフウ嬢……こちらへ」

ふわりと舞い上がったリフウの手を、カナトが取る。
それを見た瞬間。ジンははっとした。

「お前、女嫌いは?」
「儀式のときに覚悟はしたのだが、思いの他平気だった」
「治ったのか?」
「わからない。だが―」

「カナトくんすごーい!」
「うわぁあああああ!」

リフウの手を取っているカナトにむけて、月光花が飛び込み一気に押し倒した。
ジンは、なぜか安心してその様子をみる。

リフウだけか……。
カナトはそのまま失神してしまい、夕食はルナとリフウが作ってくれることになった。
真新しいソファーで寝かしておいたカナトは、青い顔でうなされている。

「で、それだけなのか?」
「それだけだが?」

ルナの発言に拍子抜けする。実家に帰るのではなかったのだろうか。

「実家に戻るかもしれないという話はきいたが、実質問題、現在のルシフェル・ウォーレスハイムが引退するまで、カナトの出番はないからな」
「へ?」
「あくまで継ぐと決めただけで、それまでは自由にしてはいいそうだ。だが、世継ぎということもあるために、それなりの弊害はでるだろうと聞いた」

つまり、継ぐとは決めても今ではないのか。
ルナが言いたいのは、実家を継ぐうえで根回しをしてくる連中が必ず寄ってこないとも限らないといいたいのだろう。
面倒な話だ。今までが自由すぎたとリアスが言っていたのもわかる気がする。

「カナトがルシフェルを継ぐのっていつなんだ?」
「早くて50年後だそうだ」

……。
早くてと言われた年数に、ジンは混乱した。
ジンは今25歳だし、カナトが継ぐ頃にはもうお爺さんになっているのか。
それは確かに、カナトが伝える意味もないと考えるのもわかる気がする。
すくなくともジンと月光花が生きている間は、自由にしていいといわれているようなものだ。

「しかし、今回の天界行きで貴族であるはずが、余りにも庶民になりすぎているので、それなりの気品や態度などを磨くようにとも言われている」
「それって態度がでかくなれってこと?」
「自分の立場の自覚や、あるべき意味、相手によっての態度をわきまえ方だな」
「なんでルナがそんなん?」
「バトラーが面倒を見られない代わりに、紳士執事として俺がカナトに仕えるということになった。ある程度教わってきたので、よろしく頼む」
「……お、おう」

唯のペットだった狼がえらく出世して帰ってきた。
しかしルナは以前から、家を留守にしているときに家事をいろいろやってくれては居たし、形は違えどほぼ同じではないかと思う。

女の子になど縁がないと思っていた相方が、こんなかわいらしい彼女をつくって帰ってきた。
先を越された気がしてならない。いやむしろ、横からかっさらわれた気がしてならない。
それでも、料理をするリフウはどこか幸せそうで、考えていたことなどどうでもよくなってしまった。

彼女を連れ帰った相方は、今後ろで寝ている。
そのうち起きてくるだろう。おきてきたら、またからかってやろうと思う。
これからまた同じ日々がおくれるのか、そう思うとジンはほっとした。

「なにニヤニヤして、気持ち悪い」
「うるせぇ!」

もうすぐ夏が来る。
そしたらまた、プールをだして遊んでやろうとおもった。


END
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本編 | 【2015-07-23(Thu) 12:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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