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Royal*Familiar:第十一話
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Royal*Familiar

第十一話:迎えの喜劇

前回
第一話:決意の序章
第二話:別離の序章
第三話:再開の対価
第四話:策略の輪廻
第五話:望みの代償
第六話:無力な再会
第七話:穢れた使命
第八話:無謀な勇気
第九話:騎士の在る意味
第十話:影と光の格差


 



リアスと共に屋敷の外周から分館へ向かったカナトは、”クローキング”をするリアスに憑依して先を急いでいた。
”ナビゲーションデバイス”の周辺スキャンを利用し、地図と重ねながら走ってはいるが、もう茂みの中を大分進んでいるのにまだ抜けない。

「なかなか抜けませんね……」
「だがもうすぐだ。頑張ってくれ」

カナトはリアスへ憑依しつつ、”ナビゲーションデバイス”で、常に位置情報を確認する。
リアスはブーストを使っている為、大分速度がある。
このペースならあと5分程で分館には着くだろう。
そう思い、カナトが皆の位置情報を参照すると、パーティ登録とは別に、もう一つ、見慣れたデバイスの反応が僅かに移った。

「これは……!」
「どうかしましたか?」

それを見た瞬間、カナトはリアスから憑依を解除する。
すぐ様無線通信に切り替え、発信した。





春の暖かい陽気は眠気を誘い、ジンは”ナビゲーションデバイス”を握りしめながらドレッサーに突っ伏していた。
エドワーズが置いていってくれた昼食で、空腹が満たされたのもあり、待ちくたびれてそのまま寝てしまったのだ。
彼の手の中のデバイスは、位置情報を知らせる救難信号の画面で点滅しており、外部からその応答を待っている。
その中でデバイスは、周辺約250m前後の範囲で此方に発信されてくる電波を受け取った。
救難信号を発する自機に、もう一つ新しい機器からの反応があったのだ。
救難が来たと言う知らせをユーザーへ知らせるため、自機は甲高い音を部屋全体に響かせる。
まるで防犯ブザーのような高く喧しい音に、ジンは思わず飛びおき、デバイスごと床へひっくりかえった。
眠気と驚きで訳がわからず、とにかく音の発信源を探すと、デバイスに表示される画面に、見知った名前が表示されている。
両手でデバイスをもち、数秒それを眺めていたジンは、恐る恐るその通信に出た。

「”ジン! 無事か!?”」

あぁ、久しぶりの、四日ぶりの声だ。
ずっと待っていた……だから、ジンはすぐに応えられなかった。

「”何か言え! それとも口が利けないのか!?”」

急かす相方の声に、更に言葉が出なくなる。
だから、せめてもの否定のために、口を開いた。

「おせぇよ……。馬鹿」





カナトはホッとしていた。
バッテリーがあったのは奇跡だと思う。
理由は分からないが、連絡を取れるなら十分だ。

「今、私とリアスがそっちへ向かっている。すぐにでられるよう。出入り口にむかえ」
「”本当かよ! つーか、鍵かかっててでれねぇんだけど……”」
「貴様が触らなければ、ロックはかからないと聞いている。離れて待っていろ!」
「”なんか今日は、結婚式の準備があるから、ずっとロックがかかってるって……”」
「なんだと……」
「”使用人がみんな出払うんだっけな。とにかく、開かないって”」

甘くはないか。
始めからロックがかかっているのなら、離れている意味もない。

リアスと共に茂みからでると、2人はようやく分館を視認し、たどり着いた。
写真どおりではあるが、色あせ焦げた茶色の外壁は少し不気味にも見える。
簡単にかけられたフェンスを乗り越えた2人は、扉にある押しボタン式のロックに、息を飲んだ。
形状をみるに、解除キーを差し込み、さらに番号を押さなければ開かないものだ。
試しにリアスが引き、押してみるが、やはり開かない。

「ロック、かかってます。ぶち破りますか?」
「それしかないか……」

「”カナト! 居るのか!?”」
「ジン!貴様は下がっていろ。 力ずくで破る!」

扉の向こうから、駆けつけたらしいジンの篭った声が聞こえてくる。
扉のノブに触れると電気が流れるのはしっている。ジンに触らせるのは危険だ。

「カナトさん。扉の表面、これ綺麗にプリントされていますが、鉄です。銃では危険かと」

牢ならば普通そうだろう。
カナトは、リアスが持ち込んでくれた緋之迦具土を手に取り、”スタイルチェンジ”から”神の守護”を唱える。
そして、地に足をつき、力いっぱい振り下ろした。

「”ジョーカー!!”」

ガギンと言う鈍い音が響き、真っ黒な光が発生する。しかし、その光は扉の中央にある何かに吸収されてきえた。

「馬鹿な……」

カナトの中に、かつてない程の絶望がよぎる





「む……?」
「どうした、ミカエル?」

レミエルの居城へむかう自動車に揺られ、ウォーレスハイムは後部座席の隣に座るミカエルに、視線をむけた。
楽しそうにデバイスの動きを観察していた彼は、突然眉間にしわを寄せて、キーボードを叩きだす。

「レミエルのセキュリティシステムに警告がでている」
「なんだそれ」
「確認すると、分館の扉に物理的な衝撃が加えられているようだ」
「は? なんでそんな事……」

ミカエルなキーボードを叩き、システムの構造を再び割り出す。
どうやら、普段は開いているはずのロックが、今日はしまっていたらしい。

「なるほど、出払うために閉めたか。攻撃しているのは差し詰めお前の息子だろうな……」
「ちとまずいな……そのうち警備兵くるだろ」
「10分以内にはくるだろう……ふむ」

カナトが捕まるとまずい。
ウォーレスハイムは、今回の件に未練はないが、カナトまで捕まると後々の交渉が面倒だ。
なんとか扉が壊れてくれないものか。

「開いたぞ」
「ん?」
「ぬるいものだな。もっと複雑かと思えば……」
「お前なにしたの?」
「扉を開けただけだが?」

ウォーレスハイムは、理解するのに数分かかった。





カナトは開かない扉に、酷く体が緊張するのを感じた。
何度も攻撃するうち、扉が警告を発しだしたのだ。
おそらく、警備兵に知らせている。急いで壊さねばまずい。
だが、力ずくで壊そうにも魔法エネルギーは吸収され、物理的なダメージでしか衝撃は加えられない。

「くっ……」
「カナトさん……!」

緋之迦具土は殴り続けたせいでボロボロだ。
刃は欠け、これ以上振ればいずれは折れてしまう。
だがそれでも、カナトは振るった。
彼を助ける為にここまで来たのだ。
必ず行くと、助けると、待っていろと言った。
だから、諦めたくなかった。

ジンも内側から、体当たりを加えているのか、衝撃があるのが分かる。
ノブに触れぬよう気をつけているならいいが、調子が悪いくせに馬鹿だとおもう。

「ジン、離れていろ! 勢いをつけて破壊する」
「”大丈夫かよ!”」

緋之迦具土が持つかは分からない。
だがこんな物よりも、取り戻したいものがある。
カナトは、助走をつけ、一気に扉へと突っ込んだ。
そのまま振り下ろし、攻撃を加えようとした直後、点滅していた赤いランプが緑にかわり、まるで自動ドアのようにスライドして扉を開いた。
カナトはそのまま、翼のブレーキをかけられず離れていたジンへ飛び込む。
ぶつかった2人は、一回転したあとそのまま床の絨毯へ突っ込んだ。

「大丈夫ですか!?」
「いってぇ……。なんか突然空いた? つーか両開きかと思ったら横かよ」

「ジン! ジン、大丈夫か!」
「大丈夫だって……」
「早く首をみせろ!」
「へ?」
「リアス」

リアスは扉が閉まらぬよう固定し、カナトへリュックを投げ渡す。
カナトは、ジンの上に跨ったまま、鞄から小さな小袋を取りだすと、中なら小さなリモコンを取り出した。
ジンはそれに、少し顔を強張らせたが、カナトに無理矢理ネクタイを解かれ、首元の拘束具へリモコンを近づける。

長押し5秒。
赤いランプを点滅させた機器は、ジンの拘束具と反応し、レミエルの紋章が、まるで割れるように外れる。

「へ?」
「よし、走れるか?」
「……お、おう!」

手際がよすぎて、呆然としてしまう。
しかし、扉は空いた。首輪も外れた。出られる。
カナトに助け起こされたジンは、リュックを渡され、3人で分館を脱出した。
林へ逃げ込み、姿を隠した所で、警備兵が続々と分館へ入っていく。
危なかった。

「リュックの中身を確認しろ」

走りながら言われてジンは、速度を落としつつ中身を確認する。
金の装飾銃、烈神銃・サラマンドラ二丁と自動式。
写真に添付されていた。そのものだ。

「さんきゅ!」
「使えるか?」
「触ってないから、期待すんなよ」

礼装の上から、ジンは手早くホルスターを背負った。
弾倉も3個入っており、サラマンドラの弾倉を入れ替え、鼓動が高鳴る。このワクワク感がたまらない。

「ジンさん、にやにやして気持ちわるいですね」
「うっせえ!」

リアスは正直だと、カナトが思った直後。
ジンが足をもつれさせ、林の地面へ転倒した。
数日間閉じこめられ、運動力が鈍っているか。

「大丈夫か!?」
「悪い……」

「動けていないなら、仕方ありません。憑依して下さい、ジンさん」

草まみれになってしまったジンに、リアスが手を貸していると、カナトのデバイスに通信が入った。
セオからだ。

「”カナトさん。結婚式がまもなく始まります。急いで下さい”」
「セオ、分かった。今から向かうが――」

「おれはジンさんを憑依させて追いかけます。カナトさんはタイタニアで飛べますから、空から急いで下さい」
「しかし、2人で大丈夫か?」
「カナトさんとジンさんが入れ替わっただけですから、平気です」
「……分かった。ジンを任せた、リアス」

「カナト、お前またどっかいくのかよ!?」
「リフウ嬢を連れ戻す道筋をつけてくる。貴様はリアスと来い」
「お前に憑依すんのは?」
「この世界は、人口の9割以上がタイタニアだ。空を飛べば目立つ。囮にもなれるだろう」
「お前の方があぶねーじゃん!」
「貴様が再び囚われる事の方が、リスクが高い。……写真は見た、貴様は戦うな」
「は?」
「警告はしたぞ。……ではリアス、先に行っている」

「はい」

カナトはそう言い残し、林を真っ直ぐに進んだ後、天空へと飛びたっていった。

「戦わせたくないなら武器持ってくんなよ……」
「持って来なかったら怒ってたんじゃないですか?」
「そうだけどさ……」
「おれも今のジンさんが戦うのは、自殺行為だと思います。ジンさんはレミエルさんにとって一番便利な立場にいる。多分警備兵は、カナトさんを放置してでも、あなたを見つけ出すのに必死になっている筈です。だから、逃げましょう。おれも手伝います」
「それはそうしたいんだけど……」
「なんですか?」
「俺、リフウちゃんに一緒に帰るって約束したんだ。だから逃げる前に1回顔を見ときたい。カナトがいるなら、帰れるんだろ?」
「うまくいけば、間に合うか次第です」
「なら1回連れてってくれ、リアス。そしたら、ちゃんという通りにするからさ」

リアスは少し考えた。
ジンがホールに行くことは、いろんな意味で危険だ。
しかし、リフウがおり、他の貴族達もいるなら、ダウンタウンの時のように嵌められることもないか。

「分かりました。一度、結婚式会場にむかいます。ただ危険なのでホールに着くまでは憑依して休んで下さい。”クローキング”で走ります」
「さんきゅ、ありがとな」
「帰ったらごはん奢ってくださいね」
「分かってるよ!」

ジンはリアスに憑依を終え、彼は再びブーストを点火し庭園を駆け出した。



空を飛び立ったカナトは、すぐさま自分を追う警備兵が現れた事に気付いていた。
ジンが解放されてしまった今、レミエルの勝ち目はカナトを囚え、身動きを封じる事で無理に結婚式をあげさせるか。ジンを再び手に入れ、カナトを従わせるかのどちらかしかない。

「セオ、式のホールはどこだ?」
「”居城の南東です。しかし、ホールから出入りできる場所は、まず居城に入らなければいけません。リアスさんのように”クローキング”がなければ、みつかります」

どうする。
入り口から入れば警備兵もいる為、捕まってしまうだろう。
後ろから追ってくる敵は、カナトを捕らえるためにさらに速度をあげている。
追いつかれるのも時間の問題か。
すると、居城の南東のホールのような場所をカナトは視認した。
ステンドグラスが貼られた天井は、太陽の光を取り込み、ホールを七色に彩るのだろう。

後ろには数名の警備兵がいる。
もう形振りは構っていられないか。
カナトは意を決して、上空から一気に急降下した。





リフウは、1人控え室で全身鏡に映った自分を見ていた。
淡い紫のドレスの自分。
ジェラシアのシンボルカラー紫のウェディングドレスは、フィランソロの血をひくリフウをジェラシアの色に染めている。

今朝ドレスに着替えたリフウは、早めに訪れた貴族達へ挨拶に行こうと思ったものの、レミエル・ギルバートにそれを止められ、もうずっとこの部屋にいる。
しかし、ただ穏やかな時を過ごすだけだと思うと、余り苦ではなかった。

正午を過ぎてしばらく経つと、廊下で使用人達が慌ただしく走り回っているのが聞こえる。
耳に入って来たのは、エミルの騎士と言う一つの単語だった。
メロディアスがきたのか……。

しかし、たかが異族の騎士が来たからと言って、此処まで騒ぐものだろうか。
それとも自身がエミル界に居たから感じる違和感なのだろうか。
どうでもいい。なるようになるだろう。

そんな半ば諦めの気持ちで、再び鏡をみると、エドワーズがワゴンに昼食とティーセットを押して現れた。

「エドワーズ。何が起こっているの?」
「メロディアスが到着し、エミルの騎士を連れてきたと……また、カナト様かと思えば、弟君がカナト様のフリをされていたとか」
「どういう……」
「これ以上お伝えすることは、レミエル陛下より禁じられてしまいました」

話すことを禁じられる?
レミエル・ギルバートにとって、リフウに知られてはまずい事が起こったのだろうか。

「カナトさんは、来たの?」
「案内人から、双子の両殿下が来られたとは聞きました。しかし、ホールへ来たのは弟君だけだったそうです……」
「じゃあ……カナトさんは……?」
「レミエル陛下と対面されたのは弟君。カナト様は今、警備兵と使用人が必死に捜索しております」

使用人と警備兵の両方がカナトを探す?
信じられない話だ。

「この部屋の前が騒がしいのは、恐らくお嬢様の元へカナト様が会いにくる可能性があるからでしょう」

リフウはエドワーズに与えられているヒントから、彼が伝えたい事実を探った。

ギルバートがリフウに伝えられて困る事。
カナトと弟のすり替え。
消えたカナトを大捜索するギルバート。
カナトが姿を消したのは何故だ?

そう考えた時、リフウは一つの結論にたどり着いた。

「ジンさん……!?」

エドワーズの満面の笑みにリフウは胸から気持ちが込み上げてきた。
カナトはジンを解放できたのだろうか。
解放出来ていないのなら、ギルバートがカナトを探す意味がない。
きっとジンがいるか確認に向かい、姿がなかったのだ。
だから、カナトを捕らえようと必死になっている。

リフウはホッと肩をなでおろし、安堵の溜息を落とした。
直後、突然後ろの扉が勢いよく開け放たれ、金髪に赤目の彼、ギルバートが現れる。
彼はリフウの姿をみつけると、乱暴に腕を掴み部屋から連れ出した。

「来い!」
「きゃっ! 旦那様……」

強く掴まれて痛い。
リフウを無理矢理ホールの脇へ連れていくと、使用人達が大急ぎで、ヴェールと飾りを付け直し、儀式の準備を終えた。

ジンが助かったならそれでいい。
元々彼が解放されるなら、自身はどうなってもいいと思っていた。
だがら、後悔はない。後悔などないのだ。

そう心にいい聞かせ、リフウはギルバートと共に、祭壇の方へと歩を進めた。
スポットライトに照らされるギルバートとリフウは、集まった貴族達の拍手を浴びて彼らの前に姿をみせる。
1番手前にはシャロンが居て、リフウは涙が溢れそうな気持ちを必死に抑えた。
後悔などない。後悔なんてしない。

これは自分で選んだ道だから……。

そう言い聞かせていると、ギルバートはリフウの顔にかかっていたヴェールを上げる。
まだ何も始まってはいない。
誓いの言葉すらないのに、そっと抱き止められて、リフウは力をぬいた。

あぁ、もう帰れない。
せめてもう少し、ちゃんと挨拶がしたかった。
最後の時まで、リフウをエミル界へ連れ帰るといい続けてくれたジンに、ありがとうといいたかった。
巻き込んでごめんなさいと、もう会えないかもしれないけど、幸せになって欲しい。

そう願い、リフウはギルバートの口付けを受け入れようと目を瞑った。

直後。
物凄いガラスの破砕音が天井から響き、リフウは思わず耳を塞いだ。
ギルバートも強張ったリフウを庇い、彼女を後ろへと追いやる。

天井から勢いよく現れた黒い影は、受け身を取って赤い絨毯へ着地すると、緋之迦具土を掲げ、目の前にいるリフウとギルバートへ叫ぶ。

「私は、カナト・F・フォン・メロディアス!!
今ここに、望まぬ婚姻を強いられるリフウ嬢を、迎えに参上した! 」

ライトが落とされ、薄暗かった大ホールに、破壊された天井から太陽の光がそそぐ。
粉々になったステンドグラス欠片が、まるで宝石のようにカナトの周りへと零れていた。

カナトに発した言葉に、ホールに居た貴族達がどよめき、皆が顔を見合わせる。
だが、これを聞いた直後。
カナトを追ってきた警備兵が、割れた天井からホールへと突っ込んできた。
カナトは驚き、一歩下がろうとしたが、それよりも早く、キリヤナギが盾で警備兵の武器を受け止める。
武器を跳ね返したキリヤナギは、赤絨毯の上で突き出されてくるレイピアをダインスレイブで何度も弾き返し、まるで踊るように押していく。
そして大きく後退した相手を、片足で蹴り飛ばして倒した。

皆の視線がキリヤナギに集まる中、スィーはホールの脇で銃を構える人間を視認する。

「カナトさん!」

スィーがカナトの前に出て”ソリッドオーラ”を唱える。
何発かを弾き、後ろにいたグランジが、ハンドガンライフルを抜いて、発砲した敵を打ち抜いた。
また、カナトの後ろを狙った敵を、コウガが間に滑り込んで受け止める。

セオはしゃがみこんでしまったカナトを引っ張り出し、
更に向かってきた敵を視認すると、カナトを後ろへ突き飛ばし、唱えた。

「”フロスティゲイル!!”」

凝縮した水分が凍てつき、向かってきた警備兵の足元から腰までを床へ固定。
だが、床へ倒れたカナトに向けて、近くに待機していた騎士が武器を構えて突っ込んでくる。
キリヤナギが駆け出したが、カナトへ降りかぶった騎士は、横からの突然、ピストルの破裂音が響き、吹っ飛ばされた。
また、立て続けに響いた弾丸は、吹き抜けの大ホールの二階に潜み、ライフルを構えていた敵を撃ち落としていく。
入り口に現れたのは、礼装を着るジンとリアスだ。

その姿にリフウは言葉を失い、またレミエル・ギルバートが舌打ちをする。
キリヤナギはすぐさま、カナトの前に立つと、こちらを睨む警備兵と対峙した。

この時点まで、騎士隊は何一つ動いていない事を皆は静観し黙っている。
動いていないと言うのは、カナトに危害が及ぶと思われた時にだけ、動いているという事。
レミエル・ギルバートの顔が苛立ちを募らせているのが分かる。
警備兵をこのまま戦わせても墓穴を掘るだけで、なんの意味もない。
初撃でカナトを倒せなかった時点で、事故とも言い訳ができないからだ。

「両者武器を収めなさい! こんな場所で、醜いとは思わないのですか!」

シャロンの叫びに騎士隊が嘆息し、武器を収め始めた相手に応じる。
ジンとグランジは、リアスに後ろを警戒させながら、カナトを狙う物がいないか敵をさぐった。
しかし、敵はいても武器は降ろされていて、ジンはようやく肩を撫で下ろす。

静まり帰った大ホールで、カナトは再び中央へ向かい、祭壇の前にいたリフウの元へ歩み寄る。
右手を差し出して跪いたカナトは、彼女に向けて口を開いた。

「リフウ姫殿下。どうか、私と共にエミル界へ……。決して天界のように永劫の平和を約束された場所ではありませんが、共に乗り越えて行きたいと考えております」
「……!」

リフウの中へ、抑えていた感情が丸で湯水のように噴き出してくる。
望んでもいいのだろうか。
自由に生きていいのだろうか。
大好きな、いろんな人の居るあの世界で、カナトやジンの居る世界へ戻ってもいいのだろうか。

否。
リフウは許されたのだ。だから、決めた。
自分のやりたい事、望んだ事を実現させる為に、リフウは迷わすカナトの手を取る。

手を取ったカナトは、階段の上にいたリフウを引き寄せそのまま抱きとめた。
そして、彼女が足をつけたのを見計らうと、再び叫ぶ。

「今ここに、カナト・F・フォン・メロディアスは、先の未来にリフウ・フォン・フィランソロを妻として迎え、堕天・ルシフェルと後継となることを宣言する!」

リフウは言葉が出なかった。
カナトはそのままリフウの顔を引き寄せ、皆が見ている中、口付ける。

メロディアスの第一後継者だと宣言した男が、フィランソロの次期ラファエルと誓いを立てたことに、その場の皆から拍手が起こった。

誰も文句は言わない。
元々、フィランソロはメロディアスと結ばれると決められていた。
だから、当たり前の成り行きで、それが今ここで証明されたに過ぎない。

その中でジンは入り口から、公衆の面前でキスをする相方をみて固まっていた。
城の中を”クローキング”で走ったリアスとジンは、思いの外早くカナトのいる大ホールへたどり着き、なんとか此処まで間に合ったのに、目の前に現れた絵図に、言葉もでない。

「ジンさん、大丈夫ですか?」

相当ショックを受けていると、リアスはジンの心情を察した。
幽閉されている間に何があったのかは知らないが、リフウにかなり思い入れがあったのだろう。
しかし、カナトから離れたリフウは安心した表情を見せていて、ジンも辛くあれど飲み込んだ。

「終わりだ。僕は一体これからどうしていけばいい……」
「レミエル陛下……」
「何故貴様達は何もかもを奪う……! 僕は、リフウ姫の幸せを願っていただけなのに……」

悲痛な叫びだった。
喚きにも聞こえるその叫びに、カナトは何も言うことは出来ない。
奪ってしまっと言うなら確かにそのとおりで、何も否定など出来ないからだ。
リフウは悲しそうなカナトをみると、一人、彼の元へ歩み寄る。

「ギルバート陛下、どうか頭をお上げください」
「リフウ妃よ……僕は、何を間違っていたんだ? なぜ貴女は、こんな無様な僕へ……」
「私は、エミル界でメロディアスと、彼の地へ住む異族達と共に暮らしたかった……」
「……!」
「ギルバート陛下に、理解して頂けるかは分かりません。でも、貴方の掲示した幸せでは、私は幸せになれないから……」
「リフウ妃……」
「ごめんなさい。……でも、ありがとう」

座り込んでしまったギルバートを、リフウは優しく抱きしめた。
彼はただ不器用なだけで、自身の使命と役目を守るために動いていたに過ぎない。
ギルバートもまだ、この世界の義務と使命に囚われた被害者に過ぎないのだ。

結局、婚姻の儀式はそのまま中止となり、レミエルの居城から、続々と貴族達が帰ってゆく。
先程の乱闘でレミエルの騎士を退けたキリヤナギは、女性のアークタイタニアや他の騎士達に声をかけられ、エミル界の事に関する質問攻めにあっていた。
またシャロンと数十年ぶりに再会したリフウは、嬉しさと緊張と感動が一気に押し寄せ、再び泣いてしまった。
またカナトも、緊張がほぐれ行く中、ジンの元へ向かう。

「無事か、ジン」
「お、俺は平気だよ。でもあいつらが、ずっとこっち見ててさ……」

ジンの言う方をみると、確かにレミエルの騎士が数名ジンを見ている。
一応武器を持っているのだ。監視もしたくなる。

「さっきまで人質だったんだ。貴様が変な動きをしないか見張って居るんだろう……。だがもう、貴様を捕らえることに意味は無い。助かった。ありがとう」
「……こっちのセリフだよ。来てくれて、ありがとな」

カナトがジンと居ることを確認し、囲まれていたキリヤナギがカナトの元へと戻る。

「総隊長……なんで」
「僕が居ては不満かい?」

「私が連れてきたんだ。貴様を解放するのに一役買ってくれた。……先程の乱闘、見事だった」
「恐悦至極、当然です。我が君」

よく分からない言い回しに、ジンはきょとんとする。
しかし助けに来てくれた事は確かだろう。
どうお礼すべきか……。

「……ジン、私はもうしばらくリフウ嬢と此処に残る。先に戻るか?」
「まだ残るの……なんでだよ」
「……リフウ嬢の母君に、婚約を知らせに行かなければならない」

婚約と言う言葉をきいて、ジンの胸に何かが刺さる。
しかしそれ以上に、リフウの母と聞いてはっとした。エドワーズも何か話していたきがする。

「……母さん?」
「余命僅かだそうだ……この城に居ると聞いている、もう待ってはくれないだろうからな」
「……俺も行ったら迷惑かな?」
「来たいなら来い。貴様も呼ばれている」
「へ?」

カナトが振り返ると、そこにはカナサとリフウ、エドワーズ。
もう一人はリフウと同じ髪色と目をした金の羽の女性がいた。
どことなくリフウと似た面影をもつ彼女は、乱闘中に武器を収めろと叫んだ女性だ。

「ご機嫌よう。あなたがジンですか?」
「は、はい。そうっすけど……」
「息子の恩人だと聞いています。カナトの母のシャロンですわ」
「は……」

「姉さん。あまりからかわないで……」
「あらリフウ、そんなつもりはなくってよ」

花のように笑うリフウとシャロンを、エドワーズは嬉しそうに眺めている。

若い。
話には聞いていたが、本当に若い。

「兄上、早く参りましょう。ギルバート伯爵も居られるそうです」

カナサに口にされた名前に、ジンが少し強張る。
首のものはもう無いが、思わず雑に結んだネクタイを握りしめた。
ジンの服の乱れに気づいたエドワーズは、何も言わずジンのネクタイを結び直し、泥を払う。

「一日でこんなに汚されてしまうとは、流石にございますね」
「うるせぇよ」
「レミエル陛下がお呼びです……。貴方に謝罪したいと仰せですが、無理はなさらず」

謝罪と言われて少し戸惑う。
首のものはもうない。
だが無意識な恐怖を感じている事に、エドワーズは気づいていたのだろう。
昨日はエドワーズしか居なかったが、今はキリヤナギもカナトもいる。
一人ではないと思うと、ジンは少し勇気が湧いた。

「行く。でも許さないからな! 超痛かったし!」
「それでいい。レミエルには、それを贖罪として背負って貰わねばならないからな」

贖罪という言葉を聞いて、ジンはまた息が詰まった。
ナタリヤが頭によぎり、複雑で憂鬱な気持ちにもなる。
うつむいて歩を進めようとすると、グランジがジンの背中を軽く叩いてくれた。
急かされるようにして、7名はラファエルの居室へと歩を進める。


連れてこられた部屋で、皆は息をつめてラファエル・セレナーデと対峙した。
セレナーデの傍には、背もたれ付きのチェアに座るギルバートも居て、彼もまた寝かされている彼女を見ている。
リフウとシャロンは、2人でセレナーデに寄り添い、母の手を握りしめていた。

「リフウ、シャロン……」
「お母様、お久しぶりです」
「元気そうで……、ギルバートから、全て聞きました……。リフウ、おめでとう」

「母様……! ごめんなさい、私は……せっかく許して頂いたのに……」
「いいのです。私も、貴方の顔が見たくて……ギルバートに無理をいいました……」
「母様……!」
「……カナト」

名を呼ばれてカナトが前に出る。
2人に道を開けられたカナトは、セレナーデの御前に跪いた。

「お初にお目にかかります。カナト・F・フォン・メロディアスです。この様な形で初対面となる愚行、どうかお許し下さい……」
「メロディアス……、シャロンを、ありがとう。あなた方なら、きっと、大丈夫ですね」

「かあさま……」
「リフウ、幸せになって……カナト、リフウを、頼みました」

「この名に恥じぬ為にも、リフウ姫をお預かり致します……母君」

カナトの言葉を聞いて、セレナーデは安心したようだった。
ゆっくりと目をつむり吐息したセレナーデは、そのまま眠るように息を引き取ってゆく。

カナトは俯き何も言わない。
シャロンとリフウは、堪えきれずぼろぼろと涙を零していた。
レミエル・ギルバートは、それを見て席を立つと、少し離れた位置にいるジンの元へ歩み寄る。
そして、ポケットからジンを粛清していたリモコンを取り出した。
ジンはそれに思わず強張ったが、グランジがジンを下がらせるのを見た後、レミエルはそれを床に落し踏みつけて壊す。

「許せとは言わない……、すまなかった」

それだけ述べて、レミエル・ギルバートはジンの横をすれ違う。
だが、ジンはまだ言いたい事をいっていない。

「待てよ!」
「!」
「俺は絶対許さねえ。忘れねぇ! ……でも」
「……」
「ナタリヤさん……出してやってくれよ。そしたら、許すからさ」

俯いていたカナトが顔を上げた。
本当にジンは馬鹿だと思う。
あれほど許すなと言ったのに、酷い事をされたのに、それを彼は許そうと言うのか。
レミエル・ジェラシアが背負い続けた穢れを、断ち切ると言うのか。

「君たちは、本当に何もかも奪っていく……」

役職も、名誉も、権力も、愛情も、そして穢れすらも、奪うと言うのか。

「……ありがとう。メロディアス、そして、ジン」
「! 絶対出してやれよ!」

レミエル・ギルバートは顔を隠し、ラファエル・セレナーデの居室を出て行った。


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本編 | 【2015-07-16(Thu) 12:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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