プロフィール

詠羅P

Author:詠羅P
Lupi鯖:ダウンタウン
アイコン:セロさん

*更新情報
eco_JK ログ
カウンター
最新記事
お話一覧(時系列順
カテゴリ
拍手
web拍手 by FC2
リンク
JKツイッター
最新コメント
アンケート
QRコード
QR
権利表記

(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

Royal*Familiar:第七話
RF01_rifu.jpg
Royal*Familiar

第七話:穢れた使命

前回
第一話:決意の序章
第二話:別離の序章
第三話:再開の対価
第四話:策略の輪廻
第五話:望みの代償
第六話:無力な再会


 



リフウは1人庭園にいた。
城のエントランスから二階へ上がり、中央の廊下を進むと、庭園に出られる巨大な階段がある。
そこは、豊かな自然や小さな森があり、沢山の動物達も生息していた。
しかし、空を見れば鉄格子がアーチ状に組まれており、まるで鳥籠のように空間を仕切っている。
この場所は、まさに天界にある作られた自然だ。
リフウはそんな場所で1人、鉄格子の間から見える空を眺める。
リフウの翼は、飾りではなく飛び立つためにあるものだ。しかし、今は飛ぶ気になれない。

「手土産の方は、気に入って頂けましたか?」

後ろから響いた声に、リフウは優雅に頭を下げる。
レミエル。ギルバート・フォン・ジェラシアだ。

「この様な場所へ、御足労を感謝致します。レミエル陛下」
「無礼な扱いで、申し訳ないと思っている。……彼は一緒ではいのかい?」
「体調不良だと……部屋で休まれています」
「エドワーズを付けているのに体調不良とは、贅沢なエミル族だ」
「突然の環境の変化に、耐えられていないのでしょう……。彼はエミル界で自由に生きて居ましたから」
「自由か……。だけど、彼も慣れればきっと天界をも愛してくれるさ」
「……今すぐ、彼をエミル界へ帰してあげてください!」
「何故? 君は彼と友人だと言っていたじゃないか……それを追い出すのか?」
「彼、ジンさんは、こんな場所に居ていい人じゃない。あの人の幸せは、こんな場所に、ないから……」
「……よくわからないな。彼はこれから何一つ不自由がない暮らしを約束されているのに、君はそれを台無しにしようとしている。それでは彼が可哀想だ」
「貴方の物差しで、人の幸せを計らないでください!! 彼にも友達がいるんです……私なんかより……沢山の……だから……」
「リフウ姫殿下。なら貴方の幸せは何処にあるんだい?」
「私は、彼がエミル界で平和に暮らしていれば……十分です」
「姫……」
「私は、貴方の為に、ラファエルを継ぎます。妻にもなりましょう。だから、帰してあげて……」
「リフウ姫殿下、僕は君を悲しませる為に、彼を連れて来た訳じゃないんだ……だから、泣かないでほしい」

一歩前に出てきたギルバートに、リフウは逃げるように一歩退いた。
怖い。
ついさっきは、ジンに抱きついても平気だったのに、今は目の前の男に酷く恐怖をかんじる。

「また明日くる。次は彼と一緒に会おうか……」

そう言い残し立ち去る彼は、どこまでも悲しそうで辛そうにも見えた。
階段を上るギルバートとすれ違うエドワーズは、一礼して道を開けると、リフウの元に上着を持ってきてくれる。

「エドワーズ……ジンさんは?」
「大分参っておられています……。私の食事にも殆ど手をつけられませんでした」
「……そう。仕方ない事だと、思います」

ある日突然さらわれて、こんな檻にいれられたのだ。
何も悪いこともしていないのに、ただリフウを、当たり前のように庇っただけなのに、ジンは巻き込まれてしまった。

「ジンさんは、……帰れると思う?」
「現時点では絶望的かと、あの方がここに居る限り、レミエル陛下はお嬢様だけでなく、その影響をメロディアスにも与えることが出来る。おそらく彼らに動きがないのもその為かと……」
「カナトさん……」
「メロディアスの飛空城が出港したと言う知らせはまだきておりませんが……」
「……おそかれ早かれ、お母さまが亡くなれば、事態は動くでしょう。ラファエルの称号が、私ではなく姉様にうつれば、ジンさんも……」
「お言葉ですが、たとえシャロン様がラファエルとなったとしても、レミエル陛下はあの方をメロディアスへの交渉カードとして使うでしょう。その時はおそらく、生死すらも対価として……」
「エドワーズ。私は何をすればいいの? どうすれば、ジンさんを助けられるの……?」

わからない。
考えても考えても、どうしようもない。
芝生に座り込んでしまったリフウへ、エドワーズは優しく寄り添う。

「……今は、メロディアスの出方を待ちましょう。彼らは、アークタイタニアの中でも短命なあなた方を、心から救ってくださった方々です。セレナーデ様やシャロンお嬢様やリフウお嬢様へ、世界を見ることを許し、自由に生きる事を示してくれた方々でもある」
「エドワーズ……」
「エミル界で再開した時に、ご立派になられたと心から思いました……。アップタウンを歩く貴方はとても生き生きしておられた。……あの様な笑顔を、私はこの世界へ戻ってから一度も拝見しておりません」
「ごめんなさい……」
「どうか、お嬢様が信じた方々を、信じ続けて下さい。彼らは必ず、この場所へ貴方を迎えに来るでしょう」

胸が締め付けられて、声が出ない。
だからリフウは、精一杯の力て頷いた。
必ず来てくれると、そう信じて……。


**


耳の痛い高い音が聞こえて、ジンは再び目を覚ました。
鏡付きの机に突っ伏したまま眠ってしまったのか。
目を開けた先には笑みのエドワーズがいて、今朝ジンが使ったベルを鳴らしている。

「夕食のお時間です。お洋服をお直し下さい」
「いらない……さっきちょっと食ったし」
「……お嬢様に、会って差し上げてください」

頼むようなエドワーズの言葉に、ジンは渋々席を立った。
気分はあまり良くない。
鏡をみると、首輪が見えて更に気が滅入ってしまう。

「エドワーズ……」
「何か?」
「俺に何ができる?」

服を着せてもらいながら、ジンは問う。
今まで行動しかして来なくて、何をすればいいか検討もつかないのだ。
だから、聞いた。分からないから……、

「今は、一緒にいて差し上げて下さい。この城を一緒に歩くだけでも、貴方自身、リフウお嬢様自身の心が安らぐ……エミル界では珍しい建物でしょうしね」
「うるせぇよ……」

やっぱり一言余計だ。しかし、少し落ち着いた。
ベストを再び着なおしてもらい、ジンは1人で大広間にむかう。
エドワーズは、ジンが居ない間に部屋を掃除しくれるらしい。
待遇だけはいいと思う。この首輪さえなければ……。

大広間につくと、今朝とは違う種類の料理が並べられていて、何故か気持ちが落ちて、悲しくなった。
普段食べているものより、何倍も豪華な筈なのに、作り物のようにみえてくる。

そんな料理が並べられた円卓の脇に、目が少し赤いリフウがいた。
また泣いていたのだろうか。
それでも彼女は、ジンへ笑ってみせてくれる。

「体調は大丈夫ですか?」
「えっと、大丈夫大丈夫。ちょっと寝たら治ったし……」
「そうですか……よかった。少し食べましょうか。好きな物とかはあります?」
「俺はいいや、腹減ってないし……」
「やっぱり、まだ調子が悪いんですか!?」
「え……、そうじゃなくて」

レミエルの物だと思うと、むせ返るような気分になって手を付けたくなくなるだけだ。
しかしそれを上手く伝えられない。

「……カナトさんの、メロディアスは、まだ目立った動きは見せていません」
「カナトが……?」
「それでも、私はカナトさんやメロディアスを信じています」

こんな場所に、くるのだろうか。
実家の後を継ぎたくないと言っていたのをよく覚えている。その上で、天界に来るには難しいと、リアスにも教えてもらった。
”カナトが実家を継ぐ”と言う意味が、ジンにはよく分からない。
感覚的に理解しているのは、今までのように2人であの家に住むのが難しくなると言う事ぐらいだろうか。
どちらにせよ。面白くない。

「はい」

リフウは、自身がとった料理をフォークに刺してくれる。
こちらに突き出してくるのは、口を開けろという意味か。

「い、いや。ちょっと……」

話そうとしたら無理矢理口に突っ込まれた。
ローストビーフだ。美味しい。

「カナトさんが来てくれた時に、ちゃんと動けるようにしておいて下さい」

リフウは信じているのか。
実家を継ぐとか、ルシフェル、ラファエルがどうとかは分からないが、カナトはジンと分かれる前、天界への道筋をつけると言って出て行った。
行く行くと聞かないジンの為に、なんとかして来るから待っていろと言ったのだ。

「カナトさんは、来てくれますよね?」

聞かれた。
カナトの一番近くにいたジンが、リフウのように信じないのもおかしな話だ。
待つことが嫌いな事を知っているのに、敢えて待たすとは、カナトもひどいと思う。
本当にいつも何を考えているか分からない。

「来る……と思う。いや、多分絶対くる」

待っていろと言われたのだ。
カナトのその言葉を始めに聞いたのはジンで、不安になって、聞いたのだ。
大丈夫なのかと、そしたら、笑って返された。

”尻込みしたか?” と、
思い出すと少しイラついた。心配しているのに、カナトは迷ってはいなかったのだ。
だから、必ず天界へくる。

「ジンさんが言うなら、間違いないですね」
「ごめん……。なんか俺、元気無くしてた」
「こんな環境にずっといれば、仕方ありません。酷い目に遭ってしまったのは、知っていますから……」

ジンなんかより、リフウの方がつらいとおもう。
彼女はジンとは違って、立場があり、家もある、貴族としての意味も考えるなら、背負うものは数倍重い。
どんな彼女に、いったい何をしてあげればいいのだろうか。
ぼーっとリフウを見て考えていると、彼女は動かない自分に無理やり食べさせようとしてくるので、二回目はさすがに断った。
さすがにいけないと思う。いろいろと、

「カナトさんなら、びっくりして倒れちゃいそうですね」
「た、確かに……」

ジンも対外恥ずかしい。
顔が熱くなるのが分かって、ジンは片手で顔を抑えた。
あからさまに照れているその様子に、リフウは少しほっとする。
これだから、憎めないし、安心もできるのだとリフウは思った。

背中を向けてしまったジンに、脇にある皿を手渡そうとすると、
大広間の入り口から、メイドに扉をあけられ入ってくる一人の女性がいた。
ドレスをまとう彼女は長い金髪に、紫の二枚羽をもち、悠然と大広間へとはいってくる。
ジンとリフウがいることに気付いた彼女は、手を前に整え、小さくお辞儀をすると使用人に指定の席へ案内された。

「……誰?」
「私たちと同じく幽閉されている方です……」
「ゆうへい?」
「身分が高すぎるが故に、殺したり処刑することができない人を、人目につかない場所へずっと閉じ込めておくことです。ジンさんは、私の所為でここに来ることになってしまいましたが……」
「べ、別に俺はリフウちゃんと会えたし……気にしてないけど?」
「ありがとう、ございます。……あの人もきっと、レミエル陛下に――」

レミエルが一番悪いやつということは理解した。
遠目から見ても、きらびやかなドレスをまとう麗人だ。
赤い瞳をもつ彼女は興味津々に見てくるジンへ困った笑みをみせてくれる。
あまり見てはいけないだろうか……。

「リフウちゃんは、話したことあるの?」
「いえ、まだ……。彼女とは違い、私はいずれここから出られます。そんな私が話しかけても、あの方のためにならないでしょう」

言われれば確かにそうか。
リフウがここにいるのは、あくまで一時的であると、ジンもエドワーズに聞いている。
彼女はなぜここにいるのだろう。

「そういえば、俺はここからでられないんだっけ?」
「え……」
「エドワーズに聞いたら言ってた……」
「……はい。でも、今出られるように掛け合っている最中なので、まだ」

掛け合っている?
すこし気になる発言ではあるが、リフウほど早くはないことはわかる。
話をきけるだろうか。
しかし、エドワーズに言われた言葉が頭によぎり、渋ってしまう。

「ジンさんは、優しいですね」
「へ? なんで?」
「いえ、そんなところがジンさんなんだろうなぁって……」

何かした覚えもないのに、笑われてしまった。
やっぱり悲しい顔をする彼女より、笑っていた方がかわいいとおもう。

「ジンさんなら、きっとあの人話も聞いてあげれるんじゃないでしょうか」

そういわれて、ジンはもう一度。紫の翼の彼女をみる。
驚くほどの麗人だ。金髪に赤いルビーのような瞳にある女性。
紫の二枚羽がさらにそれを際立たせている。アークタイタニアはみんなこんなにも美人ばかりなのか。

「……あの」

少しずつ近づいて、声をかけてみた。
赤い瞳の彼女は、にっこりと笑ってジンを向かいの席を進めてくれる。

「ごきげんよう……。遠慮しないでください。お友達もどうか一緒に」

あれ? と思った。
驚くほど温和な空気と、優しい声で彼女はジンを迎えてくれた。
元の場所で立っているリフウも一緒でいいという彼女に、ジンはリフウを呼び出す。
するとリフウは、ドレスを上げて深く頭を下げた。

「ご機嫌麗しゅう。私は、リフウ・フォン・フィランソロ。現ラファエルたる、セレナーデの次女です」
「私は、ナタリヤ・フォン・ジェラシア。現レミエル、ギルバート・フォン・ジェラシアを兄とする者ですわ。よろしくお願いいたします」

この自己紹介に、リフウは思わず顔を上げた。ギルバート。レミエルの妹だと彼女はいったのだ。
ナタリヤの優しい微笑が、リフウの次にジンへと向く。
ジンはまともに礼すらできず、体がこわばり、しどろもどろ述べた。

「エミル・ガンナーの……ジンです」
「ガンナー……?」

「エミル界での、銃使いをさす言葉ですわ。ナタリヤ姫殿下」
「まぁ……、天界では槍や細剣が主ですから、銃はめずらしいですね」

どうしよう。
話辛いと言っていたリフウが、彼女と普通に話している。
リフウもどこか楽しそうに笑みを見せていて、会話に入る隙間がなくなってしまった。

「エミル界は、とても汚れた場所だときいております。人々の戦争が、終わらない場所であると……」
「そ、そんなことないっすよ? たしかに、国の仲はわるいけど、べつにそんな危ないってわけでもないし……?」
「そうですか……確かに、あなたのような人がいるなら、そうかもしれませんね」

言葉が出ない。
自分のような人とはどういう意味だろうか。
ジンはただ興味があって、話しかけただけなのに……。

「私はここにきて、もう150年となります」
「ひゃく―……」
「今まで、たった一人ではありましたが、話しかけて頂いてとてもうれしいですわ……」

「ナタリヤ様……私は……」
「どうかおきになさらないで、リフウ姫……誰かに出会えたというだけで私は幸せです。……不本意であるならごめんなさい」
「とんでも御座いません。私も……失礼な気遣いをしておりました。お許しください」

「あ、あの……、150年って……」
「ふふっ……たしかに、貴方にとっては途方もない時間かもしれませんね」

笑っている。どう考えても短くはないだろう。
80年なら、カナトの年齢もあるしそれなりにとおもうが、ほぼ倍だ。
桁が違いすぎて、驚きと絶望感と無力感が重くのしかかってくる。
エドワーズの言葉の優しさが、今更ながらにこみ上げてきた。

「……ごめんなさい。特にあなたは、この三人で最も短命でありましたね……」
「い、いや。……その、す、すんません」
「お気の毒に、貴方はまだ、エミル族の中でもお若いのではないですか?」
「え……」
「可哀そうに……」

ひんやりとした冷たい手が、ジンの頬へ振れてくる。
真っ白な、柔らかい手だった。

「巻き込んで、ごめんなさい。……ギルバート兄様もただ好きであなた方を巻き込んでいるわけではありません……私の所為で兄様は、たった一人になってしまった」
「……私の……所為?」
「はい……。私も過去にエミル界へ憧れを持ちました。今思えばそれが私の一生の過ちです。ジェラシアへ穢れを呼び込んでしまい、レミエルという立場を永遠の重みとして受け継ぐことになってしまった」

穢れ? 重み?
貴族の重みをさしているのだろうか。
しかし、今のナタリヤの言葉は、その立場の意味とは違う気がする。

「その穢れって……?」
「貴方ですよ」
「へ!?」
「アークタイタニアではなく、異族との間に、子を設けてしまった。当時はまだその前例がなかったのです」
「異族……?」
「貴方の様なエミル族やドミニオン族の事です。……その為、子供はエミル界へ捨てられてしまった」
「そんな事で……、150年も? その子、どうなったんですか……?」
「わかりません……。飛空城から捨てられたときいております」

リフウが言葉を失い、思わず目をそらしてしまった。
エミル界での異族婚など、もう当たり前のように行われている。そんな日常的な事が天界にとってはそんなにも重いのか……。

「俺、天界はまだここしかわかんねぇけど、誰が誰を好きになろうが、結婚して、子供作ろうがその人の勝手じゃないっすか。それなのに……なんで……」
「そうですね……、貴方の世界では、それが当たり前なのね」
「俺の相方は……、アークタイタニアで、生まれてこの方、天界に行ったこと無いって言うんですよ。なんで天界に行ったことないのかは、わかんねぇけど……」
「貴方のお友達は、異族との子なのですか?」
「そこまでは知らないっす……けど、あいつは、種族とかそんなんきにしねぇし……実家は貴族の癖に、飯は自炊しろとか市場のタイムセールはチェックしろかうるさいし……俺なんか転がり込んでも、全く気にしなかった……、だから、納得いかねぇ」
「ルシフェル・メロディアス……」
「!」
「貴方のお友達は、そうなのですね」

小さく頷いたジンにナタリヤは納得した。
同時に、何故ここに居るのか理解する。

「ウォーレスハイム様は、存じています。確かに彼は普通ではなかった。裏切りの堕天として、忌み嫌われ、それでも自由を求めていた……。しかしだからこそ、兄様はメロディアスを許せなくなってしまった」
「……なんで」
「異族との子を許さなかった以上、今更それを受け入れることなどできませんから……」

納得がいかない。
ただ種族が違う相手を好きになっただけで、その長い一生のすべてを、こんな牢獄ですごさねばならないのか。
とても考えられない、むしろ訳が分からない。

「どうか、恨まないでください。兄様も、自身が受け継いだ立場を全うするために動いているにすぎません……」
「わかんないっすよ……そんなん」
「……貴族には、任されたその責務を何百年、何千年と全うとしたプライドがあるのです。今更他者に、その立場を奪われてしまえば、私たちは自身の意味を失ってしまうから……」
「だけど……」

「ジンさん。お願い……それ以上は、私も同じだから……」

リフウに止められて、ジンは何も言えなくなってしまった。
彼女もまた、称号を継ぐために生まれ育てられてきた中の一人だ。
生まれてから今まで、そうやって育てられてきた彼女が、自由を求めエミル界へ来たなら、それは確かにとても重い。

「貴方は本当にやさしい。貴方をここに閉じ込めたレミエルの妹である私を、こうも思ってくれる……でもその気持ちは、今あなたを必要としている人にむけてください」

何の解決にもならなっていない。
誰一人、幸せな人なんていないじゃないか。
エミル界で楽園といわれた天界は、義務とプライドに塗り固められて、形だけの平和な世界でしかない。

いつかだったか、カナトが”本人たちが楽園だと思うなら楽園”と言っていた意味がよくわかる。
くだらない。とジンは何度も心に思った。

「初めてのお食事は如何でしたか?」

部屋に戻ると、エドワーズが迎えてくれた。
まるで当たり前のようにいる彼に、ジンはどう反応すればいいか毎度迷ってしまう。

「う、うまかったけど……」
「それはよかった。着替えられますか?」
「一人でできるし、あっちいけ!」

部屋着だけ渡されて、ジンはエドワーズに腰の紐を緩めてもらいながら着替えた。
気が付くともう窓の外は真っ暗で、黄色い月が浮かび上がってきている。
もう、一日たってしまったのか。

「メロディアスって……カナトだっけ?」
「えぇ、カナト・F・フォン・メロディアス。堕天・ルシフェルの嫡男たるお方です」
「それはどうでもいいけどさ……リフウちゃんが、まだ動きは見せてないって言ってたんだけど」
「えぇ、まだ彼らは天界にも来ておられません」
「それさ、どっからもってきてんの?」
「もってきてる、とは?」
「情報源だよ。あんたもここにずっといるんじゃないのか?」
「おりますが、私はレミエル陛下、またはセレナーデ様にもお仕えしている身でもありますから……、他の七大天使達の情報も、自然と入ってまいります」
「へー、でもそれってすっごい忙しいんじゃ、俺なんかに構ってていいの?」
「セレナーデ様は、もうご自身で起き上がることすら困難である上、レミエル陛下も他の使用人がついております。今更フィランソロの執事である私が横やりをいれても、彼らの立場をとってしまうだけかと」
「そういうもんなのか……?」
「私たちタイタニアは、別名として”使命を果たすもの”とも言われます。その使命が失われれば自身の存在意義を確認することができないのです」
「ふーん……」

やっぱりよくわからない。

「ナタリヤ様とお話をされていましたね」
「うん、でもわかんねぇ。あの人、レミエルに閉じ込められているのに、恨むなって……、そいつ所為でここにずっといるのにさ……」
「……ならジン様も、自身で何かを犯してしまった時に、贖罪を受けたいとおもったことはこざいませんか?」

贖罪。
そういわれて、ジンは返答ができなくなった。
思い出せばキリがない。
死を覚悟したとき、ジンはいつも言い聞かせていた。
これは贖罪であると、そう思わなければ自分は死を受け入れられないから、

「ナタリヤ様も、その贖罪を自ら受けているにすぎません。誰に心にも罪を償いたいとおもう気持ちは必ずあるものですから……」
「けど、だからって150年も……あの人もこれから一生ここからだしてもらえないんだろ?」
「それが、ナタリヤ様の贖罪なのです」

むっと顔をしかめるジンにエドワーズは微笑でかえす。自身が干渉できないことなど、ジンも十分に理解している。
だか、ただ生まれた世界が違うと言うだけで、彼女は死ぬまで閉じ込められなければ行けないことに、やはり納得がいかなかった。

結局何も言えず、エドワーズの言葉を思い返すと、ジンは今朝とは違う彼の言葉に気づく。

「俺の名前呼んだ?」
「はい、ジン様」
「なんで様つけんの?」
「旦那様のほうがよろしいですか?」
「ねーよ!」
「じゃあ、かまいませんね」

うまく言いくるめられた気がする。
でもあれだけばかにしていた癖に、いざ名前で呼ばれると違和感がある。
しかしそれでも、少しは信頼してもらえたのだろうか。
ここで信頼してもらえたところでどうなるという話ではあるが……、

コルセットベストを外してもらったジンは、シャワー室の前にあるパーテションの中に隠れる。
エドワーズは追い出して、一人で渡された服に着替え始めた。

すると、突然ピピッっと短い電子音が鳴り、エドワーズがドレッサーに置き去りにされた”ナビゲーションデバイス”に気づく、
浮き出た画面には、エミル界のテレビ番組だろうか、開始の15分前の文面が短く表示されている。
つい昨日までは、当たり前に、平和に暮らしていたのだ。そう思うと、エドワーズとジンは出会うべきではなかったのかもしれない。

「”ナビゲーションデバイス”が鳴りましたが……」
「ただのアラームだろ? 時計だけ動いてるんだけど、圏外になっててさ……つながったりしねぇかなぁ……」
「天界のサーバーに登録されれば、おそらく通信は可能ですが、エミル界と通信する場合、次元を介すために届くのは時間がかかります」
「登録ってどうすんの?」
「デバイスの識別番号を申請する必要がありますが……私ではお力になれませんね」

肝心な時に役に立たないものだ。
そもそも捕まっているのに、外部と連絡を取らせて貰うことなどある訳ないか。
渡された部屋着を着てみたとき、ジンは再び首をかしげた。柔らかいパーカーだ。
今朝はバスローブで、さっきは礼装でネクタイを締めていた分、不思議な気分だ。
パーテションからでると、やっぱりエドワーズは笑っている。

「これでいいの?」
「当然、ちゃんとしたものもございますが、あまりお好きではなさそうでしたので、ご用意致しました」
「……さんきゅ」
「代わりに、お部屋を出る際はちゃんと礼装をお召し下さいませ」

ぬかりない。
しかしそれでも、エドワーズが気を使ってくれたのは確かだろう。
何もしていない、何もできないジンなのに、エドワーズは面倒をみてくれる。何故だ?

「貴方は、大切なレミエル陛下の人質です。人質は、生きているからこそ意味があるもの、居心地の悪さに反抗し、死なれてしまうのは困ります」
「……なんだよそれ、十分居心地わるいし、別にそんな暴れたりしねぇよ。電気も痛かったし」

生きていたいとは思う。
今までずっと、死にたくないと思って生きてきたから……、たが、

「けど、ここから一生出れないなら、死んでるのと同じなのか……」

危ない思考だと、エドワーズは冷静に受け止めた。一番怖れていた言葉だ。
長命なタイタニアに囲まれた、たった一人のエミル族。皆がその寿命を超えた年齢を話し、当たり前のように接する。
それが故、自身の死期が早いと錯覚し、絶望する。
絶望は、人の心に当たり前にあるものだが、それが続くと、人は感情を消失し普段考えられない行動を起こすと言う。
だからこそエドワーズは、命じられた。
自殺しないよう細心の注意を払えと、

今はジンも口にしてみただけだろう。
口に出し他者に話すことで、少しでも自身を守ろうとしている。
当たり前の行動だ。
まだジンは生きたいと思っている現れでもある。
今の問題は、”生きる意味を失いかけている”という事だ。

単純で鈍感だと思っていたら、1日も立たずそれに気づいてしまった。
ジンの強くみえる外面は、その弱く神経質な心を隠す仮面なのかもしれない。

「生きる事の価値観は、人それぞれでしょう。ジン様はまだお若いと存じます、今それを決めてしまうのは早すぎるのでは?」
「レミエルは、俺が死んだら困るんだろ? じゃぁ、俺が自殺しようとしたらどうする?」

懐からリモコンがでてきて、ジンはまた何も言えなくなる。
ジン自身の意思に関係なく、生かしておかなければ行けない人質。どうやら自身が思う以上にジンは重要視されているらしい。

「間違っても、早まった行動はおやめ下さい。何かあれば、次は四肢の自由すら奪われてしまうでしょう。そうなればお嬢様が悲しみます」
「……」
「それにメロディアスが来ると信じておられるなら、わざわざ死ぬ意味もありません……」
「そうだけどさ……」

何日持つだろうかと、エドワーズは思った。
また、ジン性格を見誤っていたと反省した。
彼が思う以上に、ジンは自身が弱いことに気づいていない。これは、自分の心の守り方を知らないと言うことになる。
守り方をしらないまま、ジンはこのどうしようもない絶望の中にいるのだ。
重いだろう。
重すぎて今にも潰れそうなのだ。
だから、自身を気遣うエドワーズに弱音を吐くしかない。
食事を取ろうとしない時点で気づくべきだったか……。

エドワーズはそう思いながら、手元のワゴンにあるティーカップへお湯を注ぐ。

「俺、そんなに重要なの?」
「えぇ、とても」
「どう重要なんだ?」
「レミエル陛下の目的がご存知なら、大方察しはつくのではないかと……」
「……ルシフェルが許せないって、ナタリヤさんは言ってたけど」
「ルシフェルとは、メロディアスが継ぐとされる称号ですね」
「つまり、カナトだろ? けど、カナトだけならどうでも……」
「本当に、カナト様だけですか?」

はっとした。
リフウだ。リフウはラファエルだから、

「そっか……」
「ご理解して頂き安心致しました。貴方程便利なエミル族も他には居ないでしょう。メロディアスとフィランソロ、二つの家を掌握できるエミル族は貴方しか居ません。その上、アークタイタニアの中でも短命とされるリフウお嬢様より、更に短命である貴方がいる事で、リフウお嬢様だけでなく、おそらくカナト様も焦っておられる……」
「……そんな迷惑かけてんだ。俺」

リフウに言われた”掛け合っている”と言う意味をようやく理解する。
悠長にしていたら、先に寿命を終えてしまうから……。

「しかし、貴方も不本意であり15名の騎士に囲まれては、誰であってもこうなる事は避けられなかったでしょう」
「なんで、知ってんだよ。15人って……」
「派遣したのは私です」
「は?」
「レミエル陛下に命ぜられ、貴方をお迎え致しました。だからこそ、こうしてお仕えさせて頂いております」

絶句してしまった。
しかしそれでも、今更ジンは憎めない。
今日1日だけでも、驚くほど気を使ってくれたのだから、

「現在、ラファエル・フィランソロの家督が、レミエル・ジェラシアにある以上、私はレミエル陛下の命を、セレナーデ様の命として受けねばなりません。しかし、命は受けてもその責任は私にある」
「……」
「メロディアスは必ず、数日の内に天界へくる。今現在のジン様は、貴方自身だけの責任ではない事をご理解下さい」

負い目を感じていたのか。
それでも、重い人質である事には変わらない。
カナトにもリフウにも迷惑をかけているなら、いっそボロボロになってしまった方がいいとも思った。
でも、この執事はジンだけが悪いわけではないと言う。

「俺、アンタの事信じていいの……?」
「それは、ジン様次第ではありますが……」

エドワーズは不意に、懐から何かを取り出す。
首輪のリモコンかと思えば、見たこと無いデザインの”ナビゲーションデバイス”だった。

「実は先ほど、お写真を一枚撮らせて頂きました」
「へ?」

ニコニコするエドワーズに、ジンが唖然とする。
サイバーインターフェースで拡大表示された写真は、先ほどドレッサーに突っ伏して寝ているジンだ。毛布をかけて間抜け面で寝ている。

「と、撮ってんじゃねぇよ!!」
「実は私、”ナビゲーションデバイス”に写真撮影機能がある事を最近知りまして」
「しらねーから、盗撮だろこれ!」
「今お見せしましたし、今許可を得ましたから」
「言ってねぇ!! さっさと消せ!」
「このお写真を、カナト様、メロディアスへ送信させて頂きました」
「え……」
「正確には、カナト様のお父上。現ルシフェル、ウォーレスハイム・フォン・メロディアス様です。着信までに時間はかかりますが、今頃ご覧になられているでしょう」
「なんで……」
「私は、フィランソロの執事ですから」

エドワーズは笑みを崩さない。
ジンが知らない間に、エドワーズも反抗していたのか。
敵の敵は味方とは、よく言ったものだ。
もっともこの場合、元々味方だったのかもしれない。

「ひどいぜ色々、でもなんか楽になった」
「しかし、レミエル陛下は、私がメロディアスと連絡を取っていることを大方把握しておられると思います。なので今は、おとなしく人質でいて下さい」

不本意ではあるが、仕方がない。
今のエドワーズはレミエルに逆らえないのだから、ジンが何かすれば間違いなく手元のリモコンを使うだろう。
怖いとも思うが、それがリフウの為だと思うと何も言えない。

ふとジンは、窓の装飾の奥に光る月をみる。
黄色く光る月は、エミル界のものと大分違ってみえた。


**


実家に戻ったカナトは、何故かキッチンに入って、リアスと夕食の支度をしていた。
キリヤナギの屋敷をでて、リアスと帰っていたのだが、市場のタイムセールを思い出して急いで買い物へ行ったのだ。
リアスと二人で買い物をして、帰ろうと思った時に気づいた。
実家に戻っているのに、何故買い物をしているのだと……、
結局買った材料がもったいない為、居城の専属コックとリアスと一緒にシチューを作っている。

「習慣って怖いですね」
「何故言ってくれなかった、リアス……」
「カナトさんのシチュー食べたかったんで」

この会話は二回目だ。
しかし、キリヤナギの協力も得られ、後はレミエルの出方を待つだけに等しい。
早くて明日、ながくて来週までは、この実家で過ごす事になるだろう。
それまではつかの間の休息か。
ジンの事が気になりはするものの、重要な人質として丁重に扱われているだろう。
そう思うのも、ジンは生きているからこそ意味のある人質だからだ。
殺されることは無いと判る分、心配せずとも面倒は見てもらっていると思う。

「カナトー、どこだー!! カナトー!」

後ろから響いたハスキーボイスに、カナトは驚いた。
キッチンの入り口に顔を出したのは、今朝出て行った時と同じ格好の父、ウォーレスハイム。
帰宅したばかりなのか、また着替えもせずにうろうろしている。

「父上、用があるのは分かりますが、着替えてからにしてください。余計な汚れがついたら礼装の手入れに手間がかかります」
「お前しばらく会わねえ間に、母ちゃんに似てきたなぁ……」

庶民派と言って欲しかった。
母の事は覚えていないので、何も言えないが、父は大雑把すぎるのだ。
振り回される使用人の身になってやってほしい。

「って、すっげぇ美味そうな匂いしてんじゃん! 」
「それで、何かご用ですか?」
「あっちの執事からメールきたんだよ」
「! レミエルが?」
「違う違う。急ぎじゃねえし先に食おうぜ!!」

急ぎだから呼びに来たわけでもないらしい。
今に始まったことでもないが、この大雑把さは付き合うと酷く疲れる。

「つーか、リアスも来たのか」
「こんにちは、昨日はありがとうございました」

そう言えば、二人は知り合いだったか。
”クローキング”で隠れていたリアスに気づくのは流石だと思う。

「なかなか話してやれなくて悪いなぁ、忙しくてさぁ」
「気にしておりません。お会いできるだけで光栄です」
「そーかい? 今日はどうしたんだ?」
「カナトさんの騎士になったので、シチュー食べに来ました」
「へー、お前も天界にいくの? 物好きだねぇ」
「負けて悔しかったので」
「おいおい、それは騎士じゃないぜ? リアス、騎士道って言うのはなぁ」

カナトは一人、シチューを皿によそって持っていく。食卓ではカナサとシャロンが待っているのだ。
空腹なら可哀想ではあるし、騎士ではない父が騎士道を語ってもなんの説得力もないので、付き合うだけ無駄だと思う。

「なんか言えよ。カナト!」

さっさと着替えろと思いながら、カナトは父を無視した。以前と何ら変わらないやり取りに、懐かしさがばかりが込み上げる。
大分長い間離れていた筈なのに、変わらないのはかれらも長命だからだろうか。

夕食を終えてようやく居室に戻ったカナトは、バトラーのティーセットに口付けつつ、ウォーレスハイムと向かい合う。

「それで、あちらの執事とは?」
「フィランソロの執事だよ。メールが届いたんだ、時差からして今日のお昼に送信したんだろうな」

そう言ってウォーレスハイムは、”ナビゲーションデバイス”からサイバーインターフェースを起動し、一枚に写真を表示させる。
それを見てカナトは絶句した。

ジンだ。
ドレッサーに毛布を掛けられて突っ伏すジン。
着ているブラウスは崩して、傍らには綺麗に切られたサンドイッチが置かれていた。

「一応無事みたいだぜ? よかったな」
「寝ておられますね」

ウォーレスハイムとリアスの言葉に、カナトは何も言わない。
ジンの写真である事に驚きはしたが、じっと見ていると嫌な予感がぞわぞわする。

「満腹で、寝ている訳ではないのか……?」

呟かれたカナトの言葉に、リアスが目を見開いた。
脇に置かれたサンドイッチは、殆ど手がつけられた気配がない。

「カナトさん……?」
「……」

「普通じゃないのか? ニセモノかね」
「いえ、ジンです。間違いなく……ただ」

調子がわるいのか、顔色がよくない。
服を着崩しているのは分かるが、こんな眠り方をするジンを、カナトは初めてみた。
背中を丸めて腕を組んでいるのは緊張しているからか、どちらにせよ。調子が悪いことは確かだろう。
連れ去られる時に何かされたか?

「厄介なもんつけられてんなぁ……」
「何か……」
「この首のやつ、最新の囚人用の拘束具だ。常時電波だして位置情報を送信してるのと、リモコンで粛清用の電気だせるやつ。外すには、ネットワークに接続して所有者認証しないと無理な」
「そんなものをジンに?」
「多少は改造されているだろうが、だいたいは同じだろう……大分抵抗したんだろうな」

リアスをみると、もううつむいて何も言えなくなっている。
写真にうつるジンの調子の悪さも、恐らくその拘束具の所為か。
対人慣れしている為、ある程度は予想してはいたが、ここまでとは思わなかった。

「焦んなよ。ブラフだぜ?」
「……分かっています」

過剰な拘束をしている様を見せ、こちらの不安を煽っているとも取れるが、送ってきたのはフィランソロの執事だ。
レミエルは恐らく、執事がこちら側であると知っている。
もしそうなら、今はエミル界にいるカナトは天界の動きをすぐに察知できるのだろうか。

「……私は、此処にいて平気でしょうか」
「焦んなっつだろうが! こいつ以外にも情報源はある。なめんな」
「……」
「他になんかないか? お前が一番分かるだろ?」

ウォーレスハイムに言われ、カナトは再び写真をみる。他は表情が硬く、強張っているぐらいだろうか。

「このメールに返信は?」
「一応できるぜ。その前に本文も見ろ。お前の予想は当たってる」

参照された本文メールに、カナトは小さくため息をつく。フィランソロの執事は、ジンの事を心配してくれているようだった。
騎士を数名倒すほど動いた筈なのに、殆ど食べていないと、元々食べない性分なのかと、

そんな事をはない。
食事の重要性は、一緒に生活してきたカナトよりジンの方が理解していると思っていたが、今はそんな事を考える気力すらないのか……。

「お前が、返信するかい?」
「……メールの本文が、レミエルに漏れる可能性は?」
「五分五分だなぁ……。仲介機が城にあるなら、そこでやり取りされたデータを参照できる。情報機器オタクのミカエルは、面白がって使ってるみたいだが、レミエルはあるんだろうかね……」

機器があるかないかの問題なら、あると見たほうがいい。メールを送るにしてもどう送ればいいだろう。
送るのはフィランソロの執事ではあるが、内容によっては伝えてくれるはずだ。

「仕方ねぇなぁ……ミカエルにたのんでみっか……」
「ミカエル……?」
「言ったろ。情報機器オタクだって、あいつに頼んでこの拘束具の解除用キーを複製してもらえばいい」
「複製……? 認証が必要なのでは?」
「あいつ、澄ました顔してる癖にハッキングが趣味だからな」
「どういう……」
「今に始まった事じゃねぇよ。他の連中はみんなミカエルの作ったシステムに甘んじているが、あいつ暇の時に天界でやり取りされたメールを、全部参照してんだ。あいつに聞けば天界の大体の事情は分かるよ」
「……管理が大雑把すぎるのでは」
「ミカエルが作ってミカエルしか管理できる奴がいないからな……馬鹿ばっかだから好き放題してんのさ。呆れるぜ本当……」

うな垂れるウォーレスハイムはどうやら相当のトラウマがあるらしい。
しかしそんな父が、何故ミカエルと親交があるのだろうか。

「ミカエルは軍師だからな。エミル界や冥界のリアルタイムな情報が欲しいのさ。その上で俺も情報関係は多少かじってたから、意気投合したんだよ……」
「それはつまり天界のほぼ全ての情報をミカエルが掌握しているとも取れるのでは?」
「事実上な、他の奴は気付いてねぇ。今頃ミカエルは、レミエルが面白いことやってるって、静観してんじゃないかね……」

ミカエルは、天界の中で防衛を司る。戦いの天使の称号だ。
ミカエルの称号を受け継ぐミスタリア家は、フィランソロと同じく代々でその名を受け継いでいると言う。
恐ろしい話だ。レミエルよりもミカエルの方が敵に回すと厄介だろう。

「この機器の詳しい仕様はしらねぇが、ジャックして解除するキーぐらい。喜んで作ってくれると思うぜ……いやむしろ、あいつなら勝手にハッキングして勝手解除しそうだし、うまく言いくるめないとまずいかもな」

ハッキングが趣味と言う七大天使に、カナトは頭痛がした。
しかしそれでも、キーを作る事ができるならジンと接触すれば解放できる。どのタイミングになるかはまだ決めきれないが……。

「とりあえず、俺はミカエルに連絡とる。お前は執事向けのメールを考えろ。レミエルに見られると思ってかけよ」
「分かっています。ミカエル様には私のからも何か……」
「やめとけ! 俺がなんとかする」
「は、はぁ……?」

お礼などを言いに行くべきだと思うが、カナトがミカエルに会うことは、ウォーレスハイムにとって面白くないのか、全力で否定され拒否される。
あからさますぎる父の態度ではあるが、さすがに手を煩わせてしまうし、何かしないとまずいだろう。

「お前がロアを手に入れた事をミカエルが知ったら面倒なんだよ。いろんな意味で……」
「そう言うものですか……」
「そうそう! お前もスムーズにやりたいだろ?」

ウォーレスハイム自身が、会わせたくない気持ちは伝わる。協力してもらっている分ここは素直に従うか。
小さくなったルナは、リアスを含め3人に給仕をしてくれている。やっぱり小さい。

「ご協力ありがとうございます、父上」
「つーか、なんの落ち度もないエミル族をペットにしてるギルバートが気に入らないだけだよ。昔からそうなんだ。ドミニオンとエミルを、その辺の犬か虫程度にしか思ってねぇ、この機会に一泡ふかせてやりてぇんだ」
「……他の七大天使のエミル族とドミニオン族への印象は?」
「連中は別に、他人の庭だし興味すらないさ。唯、今のエミル界をみたら、未だに戦争がやめらんねぇ、短命で哀れな種族とでも思うんじゃないかね」

居てもいなくても同じか。
確かに永劫の繁栄と平和が約束されていると唄うなら、そうだろう。
それを思うと、レミエルのジェラシアは種族と言う一つの壁に酷く敏感にも思えてくる。ジンの現状もそれが原因だろうか。

「多少はあるだろうな。ジェラシアは昔一度やらかしてるし、馬鹿だよ本当」

穢れか。
カナトもバトラーから触りしか聞いてはいないが、レミエルも今更その信念を曲げる事は出来ないのだろう。
だからこそ、エミル界へ密接に関わるウォーレスハイムやカナトを受け入れることはできないのだ。
受け入れてしまえば、今まで積み上げた信念を全て捨て去ってしまう事に等しい。

しかし、それではいけない。
捨てさせなければいけないと思う。
ジンもそうだが、レミエルをその信念から解放することは、閉鎖された貴族社会に終止符を打つことに繋がる。
義務や使命に縛られないウォーレスハイムやカナトのように、自由に生きることのできる世界に一歩踏み出せるのだから、

「じゃあ、アドレスここに書いたし、後は勝手に送れよ。俺はミカエルのメール書いてくる」
「はい。感謝致します。父上」
「晩飯美味かったぜ、シャロンに似なくて安心した」

そもそも血がつながっていないのだが……、
父にとっては些細なことなのかもしれない。

カナトは結局、リアスとルナの3人でフィランソロの執事に返信するメールを考える。
内容は執事に当てたものだ。
調子が悪そうなジンに気づき、気を使ってくれてありがとうと、レミエルやラファエルの事情には触れず、ジンを心配していると記載していく。

「カナトさん、これ……」
「やっぱりあからさまだろうか……」
「いえ、上手いと思います。ジンさん、よくランカーの掲示板で本人降臨して炎上してますから」

やっぱり馬鹿だった。
言わせておけと言いながら、実は結構気にしているらしい。
しかし、それなら今は好都合だ。

「天界の事は分かりませんが、貴族さんがジンさんのように掲示板を気にしているとは思えません。知らないと思います」
「そう思いたいがな……」

知られたとしても、あまり痛手ではない。当然のことを当然に書くだけで、重要でもないだろう。
しかしおそらく、元気のないジンにとっては、多少の救いにはなると思う。

そう思いながら、カナトは、一度”ナビゲーションデバイス”のサイバーキーボードを閉じて、足元ケースからホルスターに収納された銃をとりだした。
治安維持部隊、ランク5th以上に贈呈される烈神銃・サラマンドラだ。
カナトはそれをベッドの上に広げて、”ナビゲーションデバイス”のカメラ機能で撮影を始める。

「武器の写真、大丈夫ですか?」
「ジンの宝物なので、見れば元気になる、とでも言えいいんじゃないか?」
「武器で元気になるって……危なくないですか?」
「リアスも映るか?」
「嫌です!」

カメラを向けると”クローキング”で隠れてしまった。一緒にいたなら、安心させる為にも映ればいいのに、

「武器の写真で本文から意識をそらせるならそれでいい、ブラフならブラフでかえさないとな……」
「確かに……」

大方メールも打ち終わった。
貴族らしい文章にまとめ、リアスとルナに添削してもらうと、カナトは迷わずそのメールを送信した。
届けばいいと、必ず向かうと思いながら、



web拍手 by FC2
本編 | 【2015-06-18(Thu) 12:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する