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Royal*Familiar:第六話
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Royal*Familiar

第六話:無力な再会

前回
第一話:決意の序章
第二話:別離の序章
第三話:再開の対価
第四話:策略の輪廻
第五話:望みの代償


 


ピピッ、と聞きなれた高い音で、ジンは目を覚ました。
”ナビゲーションデバイス”の短いアラームだ。
いつもこの音で起きているために、自然と意識もすぐ戻る。
眠い。
鳴り続けるアラームを消すため、枕元を手探りで探す。
幸いすぐに見つかり、画面をみると圏外との表示があり、自立時計で動いている事に気付いた。

あれ?
意識がはっきりしてきても、ジンはしばらく呆然とする。
ここはどこだろう。
豪華な装飾のついた壁紙と、二人は余裕で眠れそうな巨大な天井付きのベッドのある部屋に、ジンは寝ていた。
床は全て絨毯で、部屋の出口が驚く程遠くにある。
どこだ?
何があったかまだ思い出せない。
とりあえず痛かった。腕が外れそうな痛みは覚えている。
でもその痛みも今はない。
そうして身体を見たときに、ジンは初めて自分の格好に気づいた。
バスローブなんて初めて着た。
しかも、着付けがしっかりされていて、寝相ぐらいでは脱げないようになっている。
だが、このままではどうしようもない。
とにかく着替えたいと思い、広い部屋を見回すと、ベッドの脇のチェストに、小さなガラスのベルがある。
持ち手に掛けられたメモには、”鳴らして下さい”と書かれていた

鳴らす?

ベルなのだから、鳴らすのは当たり前だ。
何かのサンプルだろうか。

そんな事を思いながら、ベルを揺らすとガラス作りの高い音が、耳の中を刺すように響いた。
高すぎて耳が痛くなる音だ。

そう思った直後、広い部屋の扉にノックが響き、返事を確認する前に開け放たれる。

「おはようございます。ご体調は如何ですか?」

笑みで現れたタイタニアに、ジンは言葉がでなかった。
黒髪に執事服のタイタニアは、ワゴンを押してジンの前に来ると、床へ足を付きお辞儀をする。

「本日より、貴方様のお世話を任されました。エドワーズです。お見知り置きを」
「エドワーズって、リフウちゃんの……!?」
「はい。私の一族は先祖代々、フィランソロに仕えております。エドワーズ・シュヴァリエ、エドワーズとお呼びください」

フィランソロ?
たしか、リフウの事だったきがする。
しかし、エドワーズがいるなら一緒に連れて行ったリフウもいるはずだ。

「あんたの事はどうでもいいけど、リフウちゃんは?」
「お嬢様は大広間におられます」
「大広間……?」
「えぇ、しかし、お会いする前にお洋服をお召しにならなければ……」

確かにこんな格好では出られない。
とりあえずシャワーを浴びろと言われたので、仕方なくジンは言う通りにした。

気持ち悪い。
前に会った時は、散々バカにしてきたエドワーズが、あんなにも温厚な態度をとっていることに、納得がいかない。
何かがありそうだが、まずここはどこだ?
シャワーから出ると再びバスローブを着せられ、ジンはドレッサーとなる鏡つきの机に座らされた。
何をするかと思えば、エドワーズはタオルで髪の水分を取ると、ドライヤーで髪を乾かしはじめる。

「ここ、どこなんだ?」
「ここはレミエルの居城。分館となっております」
「レミエル……?」
「七大天使の中の一人、ギルバート・フォン・ジェラシア様です。貴方は彼に選ばれ、招かれた」
「招かれた?」

ドライヤーの音で、エドワーズの声が聞こえづらい。
しかし、七大天使と言う言葉をきいて、ジンはやっと飲み込んだ。

「ここ天界!?」
「はい」
「カナトは……?」
「七大天使の嫡子たるお方を呼び捨てとは……、貴方も随分な御身分をしておられる」
「うるせーよ! お前らの事情なんてしらねぇ!」

威勢がいいとエドワーズは思った。
しかし、こんなにも無礼なエミル族にリフウは強く思い入れている。
一体、何が彼女をそうさせたのか、エドワーズは興味があった。
ドライヤーを終えて、エドワーズが用意された服を着せようとすると、彼はあからさまに嫌な顔をする。

「俺の服は? 着てきたやつ」
「ございますが……」
「こんな堅苦しそうなの、着てらんねぇよ」

エドワーズは何も言わず、ワゴンに乗っていたジンのモッズコートをとりだした。
ボロボロと言う表現が、一番正しい。
あちこち擦り切れ、ほつれ、汚い床に寝転んだのか泥だらけだ。
赤いシミもついているのは、おそらくダウンタウンでもみ合いをした騎士の返り血。
中に来ていた毛糸のセーターは、脱がされた時に切られたのか、真ん中から縦に裂かれ、こちらも黒く汚れてしまっている。
スラックスは大丈夫かとおもいきや、こちらにも返り血がべっとりついていた。
高かったのに……。

「そのお洋服では、謁見の際に失礼になります。今は此方をお召し下さい」

えっけん……?
よくわからない言葉ばかりだ。
しかし、こんな服でリフウと会いたくない。
ジンは仕方なく、エドワーズの持つブラウスを羽織る。

部屋の脇から全身鏡をもってこられ、似合わないブラウスを着せられている自分が映った。

そこで気づいたのは、ジンの首元に金属で出来た筒状のものが嵌められていること。
緑のランプが点滅しているそれは、まるで首輪のように紋章が刻印されていた。

「なんだこれ……」

繋ぎ目がない。
鏡がなければ、気づかなかっただろう。
それ程までに軽く、息苦しさもない。

「発信機です。どこにも行かぬよう主からの気遣いでしょう」
「は? なんでそんなん……」
「あまりどの過ぎた行動はお控えください。貴方の全ては、今やこの城の支配者。レミエル陛下の物です。抵抗をすれば、リフウお嬢様にも危害が及ぶかもしれない」

思いも寄らない発言に、ジンは言葉を失った。
リフウに危害が及ぶとは、どう言う意味だ?

「……その時はこの私が貴方の左胸を突きます」

エドワーズの左越しのレイピアが、逆光の光を浴びてきらりと光る。
ジンは、少しずつ戻ってくる昨晩の記憶に、唇を噛み締めた。
人質か。

「なら、なんで今すぐ切らないんだよ? 俺はアンタにいわれても、この口調、辞める気はないぜ?」
「それが、レミエル陛下のご意志であるからです」

殺さないのはレミエルの意識で、殺したいのはエドワーズの意志。
ジン自身は、生きているからこそ価値のある人質らしい。それなら確かに、この待遇の良さも納得ができる。

ジンの着付けをするエドワーズは、すぐ笑みに戻り作業を続ける。
レミエルの事をエドワーズが嫌いなのは何と無く理解できた。
だからこそ、ジンに脅しをかけるのも理解はできるが、今こうして服を着せてくれているのは何故だ?

「あんたは……どっちの味方なんだ?」
「前に申し上げましたでしょう? セレナーデ様やリフウお嬢様を、心からお慕いしていると……私は、それ以上それ以下でもございません。不本意ではございますが、貴方が生きている事はリフウお嬢様にとって一つの救いにもなる……。立場をわきまえ、背丈に合った発言を心得て下さい」

人質なら人質らしくしろ。
オブラートに包んではいるが、エドワーズの言いたいのはそう言う事だ。
悔しい。しかし、今ここで彼をどうにかしても意味はない。
エドワーズは少なくとも、リフウを慕っているといったのだから……。

ネクタイを締め、髪も整えてもらい、ジンは生まれて初めて貴族としての礼装を着た。
発信機も上手く隠され、見えないようになっている。
服の全てが身体に密着していて、圧迫感があり息苦しい……。
しかし、用意してもらった分、贅沢は言えない。

「それでは、ご案内させて頂きます」

笑みをみせるエドワーズに、ジンは苛立ちを隠せない。
自分で連れてきて、こんな服着せて、首輪までつけるとは、まるでペットにされている気分だ。
いや、人質ならそうなのだろう。

エドワーズに連れられて歩く城は、驚くほど広く。
廊下には、高そうなツボとか、綺麗な花瓶が一定間隔で並べられている。
窓はもちろんあるが、両開きにはならず、中央のレバーをずらすとガラスの部分だけが開くもの。
つまり、装飾の様になっているものは、窓から脱出を防ぐための鉄格子としての役割があるようだ。
つまりこの城全体が、一つの豪華な檻か。
気分が悪い。

廊下からでて、玄関のような吹き抜けのエントランスにくると、入り口と思われる両開き扉がある。
あの扉が、この城の出入り口か。

「あそこから出られんの?」
「試してみられますか?」

エドワーズの笑みが悔しい。
意地を張って、扉に手をかけると、静電気を強力にしたような痛みが首筋と手首に走る。
火傷したような熱さと痛みで、ジンは扉から跳ね返された。

「いってぇ……」
「貴方の発信機と反応し、外側から自動ロックがかかります。一度ロックがかかると、10分は開きません」
「は?10分!?」
「この出入り口は使用人や私も利用しますので……あまりご迷惑がかからないようお願い致しますね」

力強くで破れないかと思ったが、これが発信機なら近寄れば締まる仕組みか。
エドワーズが大人しくしろと言った意味を徐々に理解できてくる。

「ここからでられずとも、他の扉にあの様なものはありませんので、探検してみては如何ですか」
「……」

呑気な話だ。
しかし、今のジンには武器もない。

「俺がアンタの武器を奪ったらどうなるんだ?」
「その時は、貴方を気絶させるよう仰せ使っております」

懐から取り出されたリモコンに、納得してしまう自分がいた。
おそらく、全ての使用人がもっているだろう。
スタンガンと同じ原理だ。
この発信機の内側に電流を流すものがついていて、必要になれば放電する。
首は、頭に近い。
下手をすれば1日動けなくなる。

「こちらに来られる時、相当抵抗されたのでしょう? 騎士達がもう相手にしたくないと嘆いておりました」
「うるせぇ、旧式の武器で向かってくる奴が悪いんだよ」
「ならせっかく招かれたのですから、お寛ぎください」

お前は負けたと言われた気がした。
右手が放電の残滓がのこり少ししびれている。
一瞬ならこの程度ですむが、ずっと触ると危険なレベルだ。
ジンはまだ死にたくはない。

リフウに合ったあとにこれを外す方法を考えよう。
そう思いながら、ジンはエドワーズに、エントランスの突き当たりの部屋へ案内された。
扉を開ける前に止められ、エドワーズに崩してしまった首元を治される。

まず、謝らなければいけないか。
あっけなく連れて来られてしまったこととか。何もできないこととか、いいたいことは沢山ある。
ちゃんと言わなければ、

そう心にきめて中へ入ると、エントランスの二倍はある大広間がそこに広がっていた。
豪華な食べ物とか、ステージとか、確か元宮であったランカーの親睦会がこんな感じだったきがする。
しかし、今はだれもいない。
リフウは何処だろう。
そう思った矢先、高い声が聞こえた。

「ジンさん!」

金のドレスの彼女は、ジンを見つけた瞬間駆けだし、迷わず抱きついてきた。
雨にふられたあの時のように、小さく震えて、泣いている。

あの時は訳が分からなかった。
突然の出来事で、なんの幸福かと思ったものだ。
でも、今は違う。
彼女は、ジンの所為で泣いている。
自身の立場に苦悩して、ジンが居ることを悲しんでいる。

何もできない。
そう思うと、ジンはリフウを抱き返す事は出来なくなった。
今の自分に、その資格はない。

「ごめん。リフウちゃん……ごめん……」
「私も、ごめんなさい。ジンさんが、ジンさんが巻き込まれるなんて……私……」
「俺はいいぜ。でも、ごめん……」
「ジンさんは悪くないの! だから……ごめんなさい」

どうしよう。何も言うことができない。
用意した話したい事など、どうでもよくなってしまった。

「怪我は? 体調は、大丈夫ですか?」
「それは、なんか治されたみたい……?」
「そう、ですか。他に何かされましたか?」
「俺はいいって、リフウちゃんこそ大丈夫?」
「レミエル陛下にとって私は、大切なラファエルの娘です。ここで大人しくしている限りは、何をされることもありません」
「そう、なの……?」
「私より、ジンさんは、何かされていませんか?」
「平気だって、発信機つけられたぐらい?」
「! どれですか?」

言及してくるリフウに、ジンは逆に気圧されてしまう。
ネクタイを上手く解けないジンに、リフウは手を貸し首元に隠されたそれを確認した。
レミエルの紋章が刻印されたそれに、リフウは苦い表情をみせる。
手土産として渡したくせに、所有権はレミエルだと主張しているのだ。

「これ、なんかあるの?」

言うべきだろうか。
しかし、何も知らないままでは、きっともっとひどい目に遭ってしまう。
どう答えればいいか分からない。理解してもらえるかも分からない。
でもここで伝えなければいけないと、リフウは決意した。

「それは、ジンさんの所有権が、レミエル陛下にあることを証明するものです」
「は?」
「それをつけている限り、ジンさんはここで、何一つ不自由なく暮らせるでしょう」
「ちょっと待って……エドワーズもそうだけど、なに言ってるか……」
「ごめんなさい……」
「リフウちゃん……?」
「お願い、ジンさん……私は貴方がボロボロになるのはもう見たくない。だから……」

また、泣いてしまった。
何もするなと言われたのは分かる。
ボロボロか……。
確かに、先程の服を見ればボロボロだ。
扉も、無理に触れば身体が持たないと思うし、抵抗しても、リモコンが使われれば終わりだ。
そんなジンへ、リフウはやめてほしいとジンに懇願している。
なんでも勢いで動いてしまう、ジンを知っているから……。

「俺も、死にたくないしさ……、エドワーズも俺がなんかしたら殺すって言うし、怖いぜ……」
「ごめんなさい……。でも、今はそれがいいの。私にとっても、ジンさんにとっても」

よくわからない。
確かに何もしなければ、怪我も気絶もする事はないだろう。
こんな場所にいつまでも居たくはない。
でも今その為に動くことは、リフウをもっと悲しませてしまうのだろうか。
そう思うと、ジンは何も言えなくなってしまった。

結局何も話せないまま、ジンは目覚めた居室へ戻った。
鏡のある机に座り、首元の発信機を指で触る。
厄介な場所だ。
無理に壊そうとすれば、首を怪我してしまうし、
放電できるほど蓄電しているなら、感電もする。
壊しても、気絶しているのが見つかれば同じで、エドワーズも時々見に来る。
本当に何もできない。

どうしようかと、机に突っ伏していると、ノックからエドワーズが現れた。
ご丁寧にワゴンを押して、軽食を運んでくる。

「おや、もう脱いでしまわれて……」
「息苦しいんだよ……」

ベストを脱いだ今は、肌着と前を全開したブラウスとパンツのみだ、靴下もぬいでいる。

「思ったより大人しくされて、安心致しました」
「あんだけ言われたら、流石にどうしようもねぇよ……リフウちゃん、泣いてたし」

笑みを見せるエドワーズと、ジンは目を合わせたくなかった。いっそ彼に切られた方が、リフウも解放されるだろうか。

「お食事をお取りください。食べなくてはお身体に差し支えます」
「食べたくねぇ……腹へらねぇし」
「広間に用意された食事は、レミエル陛下が用意させたものですが、こちらは私、フィランソロの執事が作らせて頂いたものです。リフウお嬢様に為にもここは……」

フィランソロの執事。
これはつまり、大人しくしていた分のエドワーズの好意なのか。
親玉のレミエルではなく、彼が作ったのなら、少し許せる。
銀の皿の上に載せられたサンドイッチは、綺麗に三角形に切られており、ジンは一つだけつまんだ。

「……うまい」
「ありがとうございます」
「……俺さ、いつまでここにいんの?」
「それはもうずっとですね」
「ずっと……?」
「えぇ、ずっとです」
「何年ぐらい……?」
「エミル族の寿命は、大体80年前後だった気がしますが……」
「そ、それって、死ぬまで……?」
「はい」

笑顔で言われた。

「り、リフウちゃんは……?」
「ラファエルを継がれるならば、すぐにでも出られますね」
「じゃあなんで継がないんだ? 俺の所為?」
「半分正解であり、半分は違います。リフウお嬢様がラファエルを継ぐ事は今の段階で、ほぼ確定しておりますから」
「じゃあなんで、 リフウちゃんはこんな場所で閉じ込められてんだ?」
「ラファエル陛下の権限は、今現在、レミエル陛下の元にあります。その上で、本来の管理者となるべきお嬢様がいる事で、レミエル陛下はラファエルの権限を、リフウお嬢様へ返さねばならない。今のレミエル陛下にとって、リフウお嬢様は、邪魔者なのです」
「自分で呼び戻したくせに……?」
「……ラファエルの権限が、リフウお嬢様に戻るその日まで、リフウお嬢様もここからでられません。しかし、貴方ほど野蛮ではありませんので、発信機はつけられておりませんが」
「うるせぇよ!」

一言余計だ。
机に突っ伏し、渡された軽食もこれ以上手をつける気になれなかった。
昨日まで、あんなにも天界に行きたいと言っていたのに、いざきてみればこのザマだ。
情け無いにもほどがある。

「……死ぬまでって、マジなの?」
「……私達タイタニアにとって、エミル族の貴方はとても尊いものです。だった100年など、生まれた子犬が成犬となり死んでいくことに、変わりません」
「……」

タイタニアの彼らにとって、ジンの寿命ぐらいたった一瞬にすぎないのか。
意地を張れば何とかなると思っていた自分が恥ずかしい。巻き込まれて初めて、カナトが考えさせてほしいと言った意味が少しわかったきがする。

エドワーズは、突っ伏したまま何も話さなくなったジンに毛布をかけ、部屋を出ていった。

たった一人の広い部屋だ。
自宅では誰もいないのか寂しくて、リアスに当たってしまった。
でもリアスは、帰らず一緒にいてくれた。
察しのいいイレイザーだといつも思う。
察しがよすぎて、いつもイライラしていたが、ある意味それも楽しんでいた。
しかし、今はそんなリアスもいない。
ルナも月光花もいない。
ここからは会いに行くこともできない。
だから、ジンは思った。


早く来いよ……カナト。


***



自身の庭を降りて、実家に荷物を預けたカナトは、獣型のルナとリアスと共に、貴族街にある屋敷へと向かっていた。
リアスにはいく場所を告げてはいないし、ついてこいとも言っていないため、彼は自身の意思で、カナトに付き添っている事になる。

「カナトさん」
「どうした?」
「いえ、行く場所……なんとなくわかったんで」
「そうか。無理しなくていいぞ」
「おれ、ついていくってきめましたから!」

リアスの決意か。
考えさせてくれといった分、来るなとも言えない。
むしろ、これから会う相手はリアスがいてくれた方がいいかもしれない。

貴族街のひっそりとした場所に、小さ目の屋敷がそこにあった。
鉄格子の門に、整えられた花壇があるそこは、庭もそんなに広くはない。
ここは治安維持部隊総括。総隊長。エミル・ガーディアンのキリヤナギの自宅。
カナトはここへ、キリヤナギへ頼みごとをするために来た。

「総隊長は昨日、朝まで出ておられたので、今日は半休です。おられるとは思いますが……」

一日徹夜して、帰宅したばかりという計算になるか?
治安維持部隊の業務体系はわからないが、居るならそれでいい。
カナトは迷わず、入り口の呼び鈴を鳴らし、中の執事を呼んだ。
すると、数分と待たず一名のタイタニアがでてくる

「ごきげんよう……どちら様でしょうか?」
「カナト・F・フォン・メロディアスだ。騎士・キリヤナギに用があって来た」
「……カナト様。なるほど、仰せつかっております」

仰せつかっている。と聞いて、カナトは安心した。キリヤナギも、来ることは予想してくれていたのか。
執事はにっこりと笑うと、入口を開き、リアスとカナト。ルナも招き入れてくれた。
エントランスへ通されると、二階の壁に寄り掛かる眼帯の彼、グランジがいる。
彼は、エントランスに現れたカナトとリアスとみると、何も言わず二階の奥の廊下へ消えた。

「応接室でお待ちくださいませ。およびいたします」
「できればすぐ、キリヤナギの部屋へつれていってくれないか?」
「……しかし、それではキリヤナギ様が困ってしまわれます」
「休んでいるなら、それを邪魔したくない。私は友人だからな」

タイタニアの執事は、困った笑みをうかべ一礼すると、3人を二階の廊下へと案内した。
執事は、中にいるキリヤナギと少し話をすると、3人を招き入れてくれる。

薄暗い部屋だった。
白と黒で統一された家具と、その中央にあるベッドにキリヤナギは、ワイシャツにスラックスの軽装で横になっている。
ベッドの向かいには、グランジが腕を組んでカナトを見据えていた。
警戒をしている様子はない。

「やぁ、カナト。……悪かったね」
「キリヤナギ……。こちらは感謝している、朝まで探してくれたようだな」
「大したことじゃない。騎士として当然のことだよ」

職服を着ていない彼も新鮮だ。
ゆっくりと上体を起こしたキリヤナギは、疲れた様子で座ったまま頭を下げる。

「ご無礼をお許しください」
「キリヤナギ、おまえは私の友人だ。そのぐらい無礼だとも思わない。体調が悪いなら寝ていろ」
「別に体調は悪くないよ。寝不足なだけさ……」

ベッドに座り片足を抱える。
寝不足なのか、やはり体調がわるそうだ。
カナトは、キリヤナギに向かいのソファを勧められ、リアスと並んで座る。
またルナもカナトの足元へ伏せた。
それを見たグランジは、ベッドに座るキリヤナギの横へ立つ。

「それで、何の用だい?」
「……キリヤナギ。私はお前を、エミル界の騎士として天界へ連れて行きたい」
「……ほう? それは君が、僕の王になるということかい?」
「一時的にそういうことになる。天界で私の身を守ってほしい」
「カナト自身が来たということは、それはウォレスさんの意志じゃないんだね」
「……」
「僕は確かに騎士だ。でも騎士であると共に、グランジや僕の従える親衛隊の王でもある。この意味がわかるかい?」
「承知している。一人で来いとも言っていない。貴様が従える彼らも、私の騎士として連れて行きたいと思っている」
「……」
「私と共に天界へ赴き、エミル族の立場を誇示すると共に、エミル界だけでなく天界でも騎士として有れるようになるといい」
「天界での騎士か、悪くはないね。不安定なエミル界よりかは、だいぶ安定しそうではある……」

「キリヤナギ……?」

横のグランジが、確認するように名前を呼んだ。
キリヤナギは少し考えて、”ナビゲーションデバイス”のスケジュールを確認する。

「僕の返答を聞く前に、聞いておきたい。何故僕なんだい? 君ほどの立場があれば、ウォレスさんの騎士を回してもらうことが出来たはずだ」
「確かに、父に頼めば造作もないこと、しかし、私は自分の意思で天界へ向かうときめた。そんな我儘に、無関係な彼らを巻き込みたくはない。私は私自身の力で、ジンとリフウ嬢を取り戻す、そうでなければ意味がない」

自身の力。
父が繋いだものではなく、カナト自身の繋いだ糸をたどろうとしているのか。
面白い。
無限回廊の奈落階層攻略も終わった。
これのおかげで、治安維持部隊も混成騎士団と同等の権限を得ることもできたし、
ここで天界へ赴き、カナトの騎士として立場を誇示すれば、エミル族の天界の騎士として、キリヤナギは一つの立場を得る。
王のいない騎士が、王を得る事ができる。
これは、現在の不安定な貴族の立場から、封建騎士としての確かな立場を確立出来るということだ。
もっともそれは、カナトがルシフェルになってからだが……。

「君はルシフェルになるのかな?」
「実はまだ、決めきれていない」
「へ?」
「私がルシフェルとならなければ、キリヤナギ、お前が私と組む意味がないことは理解している。だからこそ、こうしてここへきた」
「そう言う意味か……、うーん。そうなるとあんまりメリットがないなぁ」

「奴らに仕返ししたかったのではないのか?」

突然のグランジの発言に、キリヤナギが身を震わせる。
カナトも思わず表情が戯けた。

「そりゃあ、あんだけ好き勝手されてさ。挙句うちのランカー攫ってくし、愚痴も溢したくなるよ」
「ランカーという立場にも意味が?」
「ランカーは、僕と最高責任者の彼らが、部隊に有益な人間を選ぶものだからね。ランカー達の性格や行動パターンの全てが、僕にとって有益なんだよ。だから、一人でも欠けてくれると困るんだ」

「ならそのジンを取り戻す為に、天界へ向かうのは悪くないと思うが」
「……グランジ、もしかして苛ついてる? 天界に行きたいの?」

そっぽを向いたグランジに、キリヤナギは頭を抱えた。グランジも、連中に先を越され納得がいかないのだ。
カナトの命をうけ、アクロポリス中を探したキリヤナギだったが、見つけたのはダウンタウンで傷だらけのリアスだけだった。
リアスは泣きながら気絶していて、残されたのは烈神銃・サラマンドラ二丁と、剥き出しの自動式だけ、
すぐに天界に問い合わせたが、結局音信不通で今に至る。
連絡先は教えるくせに、自身の目的以外は話そうとしない。取引すらしようとしない。
傲慢な連中で、思い出すだけでも反吐がでるが、それを思うと、同じ立場、いやそれ以上の立場のカナトは、どれほどまでに寛容なのか。

「僕が同行する事で、カナトの立場は大丈夫なのかい?」
「愚問だ。私がそうはさせない、だが、キリヤナギ。お前に負けてもらうのは困る。そこは理解して欲しい」
「それこそ愚問だよ。僕は飛び道具じゃなければ大丈夫さ」
「模擬戦でよく負けていると、ジンから伺っているが……」
「模擬戦は嫌いなんだよね、敵ならまだしも、仲間が怪我するのは嫌だから……」

カナトはよく分からなかった。
キリヤナギはおもむろに、何かのリストを参照すると、カナトにメールをだす。
受け取ったカナトが参照すると、キリヤナギの親衛隊(騎士)のリストが表示された。

「彼らは僕に絶対服従を誓っている。その僕が仕えることで、恐らく存分に力を発揮してくれるだろう」
「ありがたい。頼りにしている」
「君が次期ルシフェルとなるのを楽しみにしているよ」

含みのある言葉だが、間違いではない。
横で聞いていたリアスは、何かいいたそうにカナトを見上げていた。

「どうした?」
「カナトさん。僕もカナトさんの騎士になりたいです」
「騎士に?」
「総隊長とグランジさんだけ、ずるいです。おれも……」
「しかし……」

「僕は気にしないよ? グランジは?」
「……どうでもいい」

キリヤナギの助け船に、リアスは目を輝かせる。
この流れでは断れない。

「仕方ない、来るかリアス」
「行きます!」

「いつ出るんだい?」
「一週間以内に出発することになると思う。ジンが囚われた時点で、レミエルが私、メロディアスと接触を取りたがっている可能性があり、安易に動けないんだ……」
「不利な取引の押し付けか。厄介だね。ギリギリまで粘っても、出待ちされれば逃げられない」
「不意をつくならば、レミエルが動けないタイミングで行くしかないと思っている」
「へー、そんなタイミングがあるの?」
「レミエルの目的は、恐らくメロディアスと没落と、ラファエルの家督権限の掌握だ。そのために、レミエルはリフウ嬢へラファエルの称号を継がせ、彼女を妻として迎えようとするだろう」
「リフウがラファエルか……なるほど」
「恐らく、リフウ嬢にラファエルの家督が戻るのは、彼女の母、セレナーデ様が絶命した後だ。レミエルはそのタイミングを狙い、自身とリフウ嬢との儀式を上げると思う」
「同時か、その後か……。もしかしたら、権限が移る前に儀式をするかもね。ジンが人質なら、リフウはラファエルを継ぐ以外に選択肢はない。……天界からの情報源はあるのかい?」
「あるにはある、だが次元を解しているためか、時差があるので不安だ。しかし、天界の婚姻の儀式は、恐らくメロディアスを除いた、全ての七大天使が招待される。その為の準備に少なくとも3日か4日はかかるはずだ」
「なら、もうあまり時間はないかもしれないね」
「!」
「僕なら、ジンを人質にした時点で、すぐに準備するよ。君に悟られないよう、招待状を送って、1日でも早く物にする。結婚式は質素でも、ちゃんとしていれば十分だからね」

一理ある。
たしかにそんなに時間はないと思えてきた。

「僕は少なくとも、明日か明後日には動きがあると思うよ。時間的にも、リフウはジンと顔を合わせているだろうしね。天界に捕まったジンを見て、出来るだけ早くエミル界に返して欲しいと懇願するんじゃないかな……飲んで貰えるかは分からないけど」

無理だろう。
ジンは、リフウだけでなくカナトの恩人でもある。
ジンがレミエルの元にいる限り、メロディアスもフィランソロも、レミエルの思いのままだからだ。
そんな人間をすぐに解放するとは思えない。

「ジンさんが自力で脱出する可能性は?」
「リフウ嬢がいる限り難しいな。連れ去られるときに抵抗したのなら、相応の拘束を受けていると思う。その上で、散々リフウ嬢を連れ戻すと意地をはっていたんだ。一人で逃げるなど無様な真似は出来ないだろう」

「相変わらず、仲がいいね」
「グランジさんのいるお前に言われたくはない」
「僕、結婚したんだけど……」

グランジに睨まれたキリヤナギは、もう訳なさそうに身体を強張らせる。
しかしそれでも、役者は揃った。

「明日、僕の隊のみんなを招集するよ。顔を合わせたいなら来るといい」
「分かった」
「本当は今夜がいいんだろうけどね」
「眠っていないのだろう? 休むといい」
「それもあるけど……とりあえず明日で」

よくわからなかった。
キリヤナギの隊には、カナトの知っている名前が並び、殆どが顔見知りだ。
しかしそれでも、知らない名前が数名いる。

「とにかく、リストは確かに預かった。進展があれば、また連絡をいれる」
「仰せのままに、我が君」

笑みをみせるキリヤナギが、この時はとても頼もしく見えた。
しかし、このままここにいてもキリヤナギは休む事は出来ない。用件は終えたので、カナトは素直に帰路へつくことにした。

「あ、ディセンバルに一階の客間に案内してもらいなよ。せっかく来たしね……」

一瞬なんの話か分からなかったが、ディセンバルはキリヤナギの執事の事らしい。
いつの間にか現れ、カナトとリアスを一回の客間へ連れて行った。
たがそこには、生活感はあるものの誰もいない。

「カナト君!」

客間のソファにすわろうとした時、高い声が聞こえた。
青髪に青いワンピースをもつ彼女は、カナトをみると眼を輝かせる。
エミル・カーディナルの月光花。
そうか。キリヤナギが巻き込まれないよう匿った
と言っていた。

「よかった。カナト君……また会えた」
「月光花さんも無事でなによりです」
「ジン、またどっか行ったって本当?」
「……えぇ、本当なら一緒に行くつもりが、先に行って……しょうがない奴だ」
「いくいく、ってうるさかったもんね……」

ジンが不本意であることを、月光花は知っているだろう。
それでもあえて言わないのは、彼女が天界を知らないため、伝える事が余りに酷すぎて辛かったからだ。

「あんまり辛気臭い話はやめて欲しいものだな」
「メリエさん」
「帰ってきた時に、 お菓子を作るんだろう? なら、もっと練習しないとな」

肩に届かないボブヘアーに、後ろへ少しだけ髪を流した女性が、エプロン姿で客間に表れた。
背が高く筋肉もついた身体は、圧倒的存在感を持っている。

「貴方は……?」
「エミル・ガーディアンのメリエだ。旦那がいつも迷惑をかけているようで、すまない」
「旦那……? 貴方が」

「そうそう、総隊長のお嫁さん」

カナトは思わず、先程渡されたキリヤナギのリストを見直した。
リストには確かにその名前がある。彼女もまた、キリヤナギの親衛隊の一人か。

「アークタイタニア・ジョーカーのカナトです。お見知りおきを……」
「……そろそろクッキー焼けるかな」

「もう出来ていたぞ、時間を間違えたのか真っ黒になっていた」
「えぇぇえ!」
「あれは、流石にグランジも無理だな……」
「ごめん、カナト君。キッチンに行ってくるね」

そう言って月光花は、スカートの裾を持って出て行ってしまった。
残されたカナトにむけて、メリエは微笑をみせる。

「思ったより、元気そうで……」
「そう見えるだけだ、取り繕い、何かをやらないと気が済まないんだ。だから空回りして同じ失敗ばっかりしてる。もう3回目だ」
「……そうですか」
「……わたしは、天界には行かない」
「!」
「あの子と一緒に居てやりたいんだ。元々ここにもめったに帰れない身の上、夜しか居られないが……」
「……ご主人をお借りします」
「ご主人? 奴がやりたい事に私は口出ししないがな」

強い。
何処の家でも嫁は強いものなのだろうか。
彼女達と話していると、色々悩んでいた自分が情けなくなる。
シャロンとメリエはカナトとは違い、確かな意志のもとでそこにいるのだから、

「カナトさんは、やっぱり冷静ですね」
「なんの話だ? リアス」

キリヤナギの屋敷をでて、カナトはリアスと共に実家へ歩を進める。
外出用のケースはリアスが運んでくれて、カナトは手ぶらだ。気を遣わせて申し訳ないと思いつつも助かっている。

「ジンさんは、待つのが苦手みたいでしたから……」
「……私も、できるなら今すぐ動いて天界へ行きたい。ジンのように自由な意志で動きたいとは思うが」
「それは危ないです……! カナトさんは、それが制御できるから、冷静なんです」

わざわざ意味を説明してくれるリアスは、少し不機嫌そうだ。

「そうか……勝ちに行くためにも、リアス、頼りにしている」
「了解で……仰せのままに、の方がいいのですか?」

似合わないなと思いながら、カナトはリアスを撫でた。
彼は不本意そうに顔を赤くして、目をそらしてしまう。

ジンは、どうしているだろうか……。



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本編 | 【2015-06-11(Thu) 12:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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