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Royal*Familiar:第四話
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Royal*Familiar

第四話:策略の輪廻

前回
第一話:決意の序章
第二話:別離の序章
第三話:再開の対価


 


カナトの出て行った自宅は、驚くほど静かであり、ジンはしばらく自室から出たくなかった。
一人で留守番する事は少なくなかったものの、明日の午後までカナトは居ないのだ。
正直何をして時間を潰せばいいのか全く浮かんでこない。
ゴロゴロしていたらいつの間にか眠り、気がついた時にはもう夕方になっていた。

退屈だ。
せめてルナが居れば、話し相手にもなってくれたのに、なぜ連れて行ったのだと苛立ちすら覚える。
アークタイタニアにとって、エミル族など所詮そんなものなのか……。
そう思うと無性に腹が立ってきて、ジンは考えるのはやめた。

結構寝てしまいのどが渇いた為、ジンはリビングに下りると、冷蔵庫からフルーツジュースを取り出す。
甘いものはやっぱり気持ちを落ち着つく。

「おはようございます。ジンさん」

噴き出した。その上で、むせ込んだ。
息がつまり、気管に入り込んだフルーツジュースが猛威を振るう。
現れたのは、エミル・イレイザーのリアスだ。
彼は申し訳なく思ったのか、むせ込むジンの背中をさするも、不意打ちのストレートを軽くかわす。
ぜぇぜぇと肩で息をするジンは、半ばキレ気味にリアスを睨んだ。

「大丈夫ですか?」
「てめぇ……」

全く悪びれてない。
こいつは絶対楽しんでいる。

「カナトさんが実家に帰られたと聞いて、見に来ました」
「あぁ、帰ったよ!! お前も帰れ、ばかやろう!」
「喧嘩でもされたんです?」
「してねぇよ!」
「じゃあ何で帰られたんですか?」
「てん……てめぇには関係ないだろ!」
「なるほど、天界ですか」
「くっそ……」
「カナトさんは、戻ってくるんですか?」
「戻ってくるよ!」
「いつですか?」
「明日の午後、カナトに用事なら出直しやがれ!」
「別に用事はありませんから」

なんかすごいイライラしていると、リアスは思った。
カナトのいないジンは、情緒不安定になりやすいとおもう。

「ジンさんは、カナトさんが居ないと短気になりますね」
「誰のせいだよ!」
「寂しい気持ちはわかりますが、おれに当たるのは止めて下さい」
「寂しくねぇし! 誰の所為でイライラしてると思ってんだ!!」

叫けぶのが不毛に覚えてきた。
大声をだすエネルギーが勿体無いし、リアスは腹がたつが、本人に悪気はないこともジンには分かっている。
余計な事ばかり考えていたのも事実だ。
何ができるか考えても、どう動けばいいか見当がつかない。
もっとわかりやすくリフウを連れだす方法は無いのだろうか。
苛立ちを押さえつつ、自身で冷静になる努力をしているのに、じっとこちらを見るリアスがいる。

「なんだよ……」
「カナトさんは実家の方へ向われたのでしょう? 戻られると仰られたなら、おとなしく待てばいいのではないですか」
「分かってるよ。どうせ部外者だし、カナトにでも頼らなきゃ天界にも行けねーしな!」
「何も出来なくてもどかしい気持ちはわかりますが、この手の問題は、先手をとると不利になります。焦らないほうがいいかと」
「てめぇに何がわかんだよ!」
「ここに来る前に、カナトさんのお父上を捕まえてお話を伺ってきました」

!?
リアスの言葉に思わず息を飲んだ。
いつかは忘れた、だが、リアスはウォーレスハイムと個人的な連絡先を交換していたきがする。

「おれの話をきいて、まずカナトさんが行動を起こそうとされていることに驚かれていました。それで、あいつが動くなら、自身の出番はないとも」
「自身?」
「ウォーレスハイム様自身のことですね」

カナトが動くことで、ウォーレスハイムの出番がなくなる?
確か、ウォーレスハイムはカナトの父だ。カナトの父はルシフェルだから、ルシフェルの出番がないとなる。

「カナトさんがルシフェルを継ぐことは、もう確定でしょう」
「まだわかんねぇだろ……。俺はまだ聞いてねえ!」

意地の張り合いだ。
自室に戻ったジンは、部屋着のパーカーからモッズコートへ着替えると、ふてくされた様子でリビングを出て行く。

「お出かけですか?」
「お前が帰らねーなら。俺がでていく、……頭冷やしてくるよ」

大人しくしたかったが、リアスの所為で台無しだ。
もともとマトモに話せた試がないし、今の自分は何を言うか分からない。

家を空けると言われたリアスは、素直にカナトの庭から降りると、まるで当然の様にジンへ着いて行く。
徐々に日が落ちてきているアクロポリスは、もう春である筈なのに妙に冷えて、ジンは肩をすくめた。
すると、後ろから赤い布が肩にかかり驚く。
最近気に入って買った赤いマフラーだ。

「忘れ物です」
「……さんきゅ」

これだから、憎めないし嫌えない。

「リアス、お前カナサ君て知ってるか?」
「カナトさんの弟ですね。それがどうかされたんですか?」

ジンは先ほどの出来事をリアスに言うべきか迷った。しかし、他に聞いてくれる人もいないかと思い、ジンはカナサに言われた事を、話す。

「ノブレスオブリージュですか。なるほど、確かにお兄さんが自由にしてるのに、自分はずっと城にいるのですから、もどかしさも感じるでしょう。弟様の去勢が強いのは羨ましさもあるのかも知れませんね」
「……俺、貴族とか、毎日美味いもん食って豪華な服きてさ、ただ偉そうにしてる連中だと思ってた……けど」
「貴族としての権力や立場は、ただ高いだけじゃないですよ。本来なら土地を納める事で、地域を平定するのが役目です。その為に王から権力の一部を分けられているにすぎません」
「納める?」
「維持管理すると言う意味にしましょう。例えば人が住むためには、土地と水源が必要ですが、納める土地を任された貴族は、その住民から税金を取ることで、水源の開発や土地の開拓を行う義務があるのです」
「義務か……」
「王政が敷かれた時代から、各貴族達はそのような義務を全うしてきたため、ノブレスオブリージュと言う言葉が生まれたのでしょう」

”権力は義務を強制する”
確かにその通りか。

「そいや、総隊長も貴族だっけ?」
「一応騎士階級の貴族ですね。 本来の騎士は、貴族とは言えませんが、総隊長は部隊の総括で天界とも繋がりがあることから、その存在を放置できないと判断されたのでしょう。しかし、キリヤナギ総隊長は仕える王がいないので、アクロポリスが生んだ異例の貴族だとおもいます」
「ふーん」

異例の貴族と言われて違和感を覚えたが、詳しく説明されても恐らく分からないだろう。
何も考えず歩いているが、リアスは何処までもついてくる。
なんだかんだで心配してくれているのか。

「ジンさんが寂しそうなんで」
「寂しくねぇよ……」

嘘ばかりだと、自分で思った。
誰もいない広い家で一夜を明かすのが、心の何処かで嫌だった。それだけだ。

「酒場に飯食いにいくか……」
「奢りですか?」
「……あんま食うなよ?」

先週給料が入ったし、多少なら大丈夫だ。
アクロポリスの北稼働橋にでて、階段を降りていると、リアスが突然足をとめた。
すでにとっぷり日は暮れて、空は真っ暗、可動橋のライトのみで照らされている。

「どうした? リアス」
「……ジンさん、武器ありますか?」
「! あるぜ?」
「場所を変えたいところですが――」

リアスがそう言った瞬間。
限られた灯のなか、黒い影が二人の間に落ちた。アップタウンの城壁から飛び降りてきた敵は、紫の翼を羽ばたかせ、ジンの腹へ肘を入れようとする。
ジンは、後ろへ飛び、階段下へ着地。
現れた敵を凝視した。
真っ白な紋章付きの見たことが無い服に、レイピアを指している。

「ジンさん後ろ!」

リアスの声に、ジンは反応。武器を突き出してきた相手を左脇で捕まえた。
そのまま背中の自動式をぬき、敵の足を打つ。
オートマチック式ピストルの乾いた発砲音が響きわたり、捕まえた敵が膝をつく。
しかし今度は右側にもう一人現れ、ジンは後退して再び突きを交わした後、腹に膝を入れる。
それでも終わらない、
更に後ろから右側腕をつかまれたので、体を勢いよく回転させて、現れたもう一人にぶつける。
5人。
最初の1人はリアスがなんとかした。
ジンは抜いた自動式を両手に構え、まだ気絶していない二人に向ける。

レイピアに見覚えがある。
突きのみに特化したその武器は、昨日食らってちょっとしたトラウマになっていた。
名前は忘れた。だが痛みは忘れない。

「ジンさんとまらないで!!」

リアスの言葉に、息を飲む。
首に入れられかけた一撃をギリギリで回避。
だが回避した先で、背中に体当たりをくらい。床へ押し倒された。
何人いるんだ。
右手を捻られ起き上がれない。

「ジンさん!」

リアスもまた多勢に無勢だ。”ヴェノムブラスト”も敵のマスクに阻まれて、意味を成してない。
目視だけで10人。リアスの相手も含めれば15人はいる。

「間違いないか?」
「あぁ、こいつだ」

なんの話だ。
こちらに居るだけで5人、リアス一人では無理だ。

「くっそ、てめーら何もんだ!!」
「黙らせろ」

髪を掴まれ、首をむき出しにされる。
指で押さえ付けられた位置に気付いた時には遅かった。
頭痛が、意識が強制的に落ちていく。
リアスは逃げてほしい。
一緒にいなけば、巻き込まれなかったのに。
ごめん。謝れなくてごめん。
付いてきてくれて本当は嬉しかった。

そんな事を思いながら、ジンは意識を手放した。





レミエル、ジェラシアの居城には屋敷の屋根のてっぺんに象徴色である紫の旗が立てられ、今入口に現れた彼らを歓迎する。
まるで王宮にも見えるそこは、庭園に巨大な屋根付きの歩道があり、美しい庭を眺めながら内部まで歩くことができた。

リフウ・フォン・フィランソロ。
彼女はその名前を背負い、執事のエドワーズと共にゆっくりと王宮へと歩をすすめた。
王宮というのは、各七大天使達が、天界において象徴的存在でもあり、各領地を治める最高権力者であることにも踏まえ、そう呼ばれているのだ。
天界を治める7人の王の中の一人、レミエル、ギルバート・フォン・ジェラシアは現れたリフウに頬を上げると、ようこそと笑みでむかえてくれた。
リフウはそれに応じドレスの両側を持ち上げ、深く頭を下げる。

「ご機嫌よう……。レミエル・ギルバード陛下。この度は母の件でご迷惑をおかけしております」
「ようこそ、リフウ姫殿下」

金髪に輝く赤い瞳は、まるでこちらを射抜いているようで、緊張とともに恐怖も感じた。
手を差し出したギルバードは、こわばっているリフウを諭すように、笑顔で続ける。

「お疲れでしょう。歓迎の準備ができています」

リフウは手を取らず、一礼したあとに歩みを続けた。
歓迎は受けない。一つの意志表明として、自分は母に会いに来ただけであると、誇示する。

「ふふ、なら、母君の元へご案内させましょう」

ギルバードの笑いが少し怖い。
何を考えているのだろう、察したくもないが、知りたいとは思う。

連れてこられたラファエルの居室はとても豪華なものだった。
普通の部屋に何十倍はあるその部屋の中央に、ラファエル、セレナーデは呼吸器をつけて眠っている。
痩せた母は、痛々しく、真っ白な肌もいまは色が青い。

「お母様……」

手が冷たい。しかし、脈は感じた。
母の手を取り、自分の頰で温めたいと思う。
そう思っていると、リフウはベッドの向こう側にある、ガラスケースに入れられた花を見つけた。
花瓶ではなく、水もない。
剣山に刺され、ガラスケースに包まれたその花をみて、リフウが思わず息を飲んだ。

七色の絹の花だ。
フィランソロに伝わる禁忌の花。
無尽蔵なその力で、その人のありとあらゆる怪我を治癒できる。
しかし、その対価としてフィランソロは自身の生命エネルギーを消費し、寿命を縮めてしまう。

「お母様、そんな、どうして……なんで……!」

訳が分からない。
ただでさえ短い寿命を縮めるとは、正気の沙汰ではないと思う。
どうして? と言う言葉がリフウ中にこだまし、とうとう彼女は泣き出してしまった。
ベッドに顔を埋め、エドワーズが羽織をかけてくれる。
小さく、嗚咽するように泣いていると、目の前の腕が浮いて、リフウの髪を撫でた。
これにはっとした彼女が顔をあげると、うっすら瞳をみせる母がいて、更にボロボロと涙が溢れる。

「お母様、リフウです。リフウが、戻りました……!」
「リフウ……おかえり……」
「お母様、なんで……なんで、花なんて……」
「貴方に、残したかった……」
「いらない……お母様、私……」
「立派になって……」
「!」
「幸せになって……」
「お母様、ごめんなさい。もう、どこにも行きませんから……」

ふぅ、とラファエル、セレナーデの意識が落ちる。
眠っただけだ。
元々眠っていて、リフウをみて安心したのだろう。
聞きたいことは沢山あるが、今の母に聞くのは酷過ぎてとてもできない。
ボロボロの母を前に、彼女は悲しさと辛さと怒りの全てが込み上げてきて、どうすればいいかわからなかった。

「お嬢様……」

エドワーズに呼ばれて顔を上げると、居室の入り口に先程のレミエル・ギルバードが立っていた。
彼と話さなければいけない。
自分のことと、フィランソロの事、セレナーデを連れ出した事、冷静になってすべて聞こうと、リフウは心に決めた。

ギルバートに連れられ、リフウはテラスへと案内された。
広いテーブルにティーセットにお菓子が広げられ、日よけのパラソルまで完備されている。
座るだけでも憂鬱だ。どんな顔をすればいいかも分からない。

「母君様、セレナーデ陛下は、後一週間もつか持たないかだと医者が話していてね……」
「そんな……」
「僕も手を尽くしてはいるが、他ならぬ彼女自身に生きる気力がなくて、困ってしまった。何もできなくて、すまない」
「いえ……しかしギルバード様は何故、母をここへ?」
「どうにか彼女を一日でも長く延命できるよう。画作していた。力を使って寿命をすり減らしてしまう君たちの助けになりたいと思っただけだよ」
「あ、ありがとうございます」
「医療の全てを彼女が背負うのは重すぎる。だから、少しでも彼女の手を軽くするために、ある程度は薬や他に任すことはできないかと思ってね、セレナーデ陛下と一緒に製薬会社を立ち上げていたんだ」
「そうだったのですか……」

返答に困っている彼女に、レミエルは笑みをみせる。

「……リフウ姫は、ラファエルを継がれるのですか?」
「……まだ、迷っております。母は私が継ぐ事を、望んでいるようですが」
「そうか。君が知っている通り、今現在ラファエルの権限は僕にある。君が継ぎたくないのなら、このまま僕が、ラファエルを引き継いでもいいんだよ?」
「そんな事は……、ラファエルの称号は、我がフィランソロ家に、古より継承してきたものです。他家に任せるなど……あっては、なりません」
「そうか、……すまない。ちょっといいすぎてしまった。君を連れかえってくれた護衛騎士がね、君が帰りたくないと言っていたと聞いたから、確認をしたかったんだよ……」
「そう、だったのですか……」
「……リフウ姫は、エミル界を旅されていたときいたが、君はそんなに、エミル界が気に入ったのかい?」
「……はい。何もない、技術も天界には及ばず、何もかもが未発達の国々ばかりですが……、彼らは、そんな私を一人の人間として接してくれていました。私はそんな人たちと友達でありたかった……」
「なるほど、だから帰りたくないと……」
「はい……」
「そうか。なら、エミル界に住めばリフウ姫は幸せになれるのか……」
「へ?」

突然の発言にリフウから思わず声がでた。
ギルバードは、向かいの席を立ち、リフウの前に跪づく。
これに、彼女は慌てて席を立った。
リフウの右手を取ったギルバードは、優しく彼女の手の甲へ口付ける。

「リフウ姫。僕ならば貴方を、エミル界へ住まわす事ができます」
「!? そんな、こと……」
「どうか、この僕の妻となり、ラファエルとしてエミル界に真の楽園を作る手助けをして頂けませんか?」
「らく、えん……?」
「エミル界は、現在多数のエミル族が支配していると聞きます。彼らを滅ぼし、エミル界へアークタイタニアの新しい楽園を、貴方の為に……」

あぁ……。
この人とは一生分かり合えないのだと、リフウはすべてを、諦めた。
それでは意味がない。同じ事である筈なのに、何故彼は、それに気づかないのか。

「違うのです。支配しては意味がないのです陛下。私は、そんな事は望みません……」
「? エミル界がお好きなのではないのですか?」
「もちろん私は、あの世界を愛しています。しかし、その上で私は、あの世界に住む人々や街も愛しています。天界が支配しては、そんな彼らが可哀想です……」
「お優しい、流石はラファエルを継ぎしお方だ。しかし、エミル界の下等種族は、僕達の高尚な考えなど、到底理解出来ないでしょう。たった100年もいきられないその寿命では、蓄えることの出来る知識も限られているのですから……リフウ姫のご友人も、貴方が領主とあらば、お喜びになられると思うのですが……」
「エミル界へ行った事がない貴方には、理解出来ないでしょう。……私も生まれつき短命であり、生まれた時から腫れ物を扱うように育てられました。毎日辛くて、死ぬのが怖くて……でもエミル界の彼らは、そんな私よりも更に半分以上短命だった。でも、彼らはとても幸せそうでした」
「……」
「毎日を楽しんで、笑って、喧嘩して、泣いて……私が泣いていたら……助けてくれた」

ストーカーが怖くて、思わずカナトの自宅へ飛び込んでしまった時の事を思い出す。
怖くて、それでも雨が冷たくて、ジンが出てきたときに思わず抱きついてしまった。
するとジンは、何も言わず抱き返してくれたのだ。

「だから、私は、彼らに平和に暮らして欲しい。彼らの平和が壊されるぐらいなら、私はずっと天界でラファエルとして生きます。ギルバード陛下、有難き申し出ではありますが、お気持ちのみで結構です。ありがとうございました」
「そうか。……せっかく譲歩したのに、強情な姫君だ」
「……!」
「シャロン姫もそうだ、貴方はまだ話の分かる方だと信じていたのに、嘆かわしい……」
「レミエル陛下……?」

いけない。
この流れはいけないと体の全身が訴えている。

「フィランソロはフィランソロとして、今後はメロディアスと共にラファエルとしての立場を、確立して参ります。……間も無く日が暮れるでしょう、私は母と共に居城へと――」

リフウが席を立とうとした時、傍にいた蝶ネクタイの給仕係が、立ちはだかる。
此方を睨みつけるのは、まるでおどしているようだ。

「せめてもの譲歩として提案しましたが、貴方とは分かり合えないようだ。もう少しだけ、ラファエルの家督はお預かりさせてもらいます」
「レミエル陛下! 何故!?」
「貴方こそ、何故メロディアスへ肩入れする? 下級天使無勢が、熾天使に成り上がるなど、僕は認めん!」
「姉が嫁いだ家は、もう私の家族です! それに彼らは……短命な私たちを特別視はしなかった。それ以上、何が必要だと言うのですか!」
「奴らの生まれは熾天使ではない! 血の交わりも、貴族としてのプライドや立場を何一つ理解していないのだ。そんな連中が僕と同じだと……? 反吐がでる」
「……くだらない。そんな物、ただの飾りではないですか」
「ならばそのくだらない物を、僕が預かることにしよう」
「レミエル……」
「……連れていけ」

リフウは、瞳から涙が零れる。
そして彼は一人になったテラスで、残った一名の執事に述べた。

「エミル界で、リフウ姫を庇ったエミル族がいると言ったな。エドワーズ」
「はい。手練れているのか。騎士達の武術を、巧みに受け流していたのを記憶しております」
「もう一人は、メロディアスの王子だったか……。なるほど、エミル族にしては使えそうではあるな」
「如何致しましょう?」
「ルシフェルとラファエルに通じているなら、家畜として飼うだけでも価値はありそうだ。エドワーズ。お前が必要だと思う人数を派遣し、捕獲してこい。出来るだけ怪我をさせないよう。無傷なら褒賞を出すと伝えろ」
「仰せのままに、我が主よ……」

エドワーズの顔に笑みはなく。
冷たい瞳が、レミエルの背中を睨みつけていた。






カナトは、久しぶりの実家の自室で、窓際のテーブルセットに寄りかかり寛いでいた。
落ち着いて冷静になり、実家や貴族について学び直そうと思っていたのが、事態は驚くほどめまぐるしい変化を見せたのだ。
本当なら、今夜から明日の午後まで歴史の復習をするつもりが、目の前の本に全く意識を持っていくことが出来ない。

もう一時間ほど、テーブルの”ナビゲーションデバイス”と、窓の外を交互に見直している。

ジンは無事だろうか。
胸騒ぎが収まらず、何も頭に入らないのだ。
居城の3階からアクロポリスを見下ろすと、切れかけの街頭が、チカチカとちらついている。
ジンの安否もあるが、明日、戻る時間を早め天界行きに備えるか。
心配事があるときは頭を動かすより、体を動かす方がいい。

そう、何度目かのため息をついた時、部屋側で物音がした。
首を回してみると、獣型のルナにもたれ、そのまま寝ているカナサがいる。
ジンの事は心配だが、キリヤナギが出て行ったのだ。友人としての確認もした分、信頼は大きい。
今は待っていようと思う。

そんな事を思い、カナトが再び窓の外をみていると、ノックなしで突然扉があいた。

「カナトいるかー!」
「!? ……父上」

殴るように開け放たれ、爆音にも近い音が響く。
カナサが起きてしまった。
部屋着で現れたウォーレスハイムは、両手に本と何か大きめのシートを抱えていてカナトはしばらく唖然としてしまう。

「よし、いるな」
「なにか御用ですか?」
「あぁ、座ってろ。あと。ワーウルフ・ロアは?」
「ルナでしたら……」

「ん……父上?」
「カナサ、お前そんなとこで寝たら風邪ひくぜ? さっさと部屋で寝ろ、部屋で」
「はぁい……、兄上。おやすみなさい」

「おやすみ……」

ウォーレスハイムは、そんなカナサを追い出し、仕切り直しをするように、椅子に座るカナトをみた。
上から見下ろしたかに見えれば、膝をついて目線を合わせたり、軽く手をかざしてみたりする。

「なんかおかしいな……」
「おかしい?」
「さっき言ったろ? ロアについて見てやるってさ」
「そのお話でしたか」
「お前のロア。なんかおかしいんだよ。なんつーか半分になってんだ、そこにはいるんだが……」
「半分……? ルナも似たような事を言っていた気がしますが……」
「お前も?」

「メインシステムと俺の本体のデータはカナトの心へ、武器化の際の実体化シーケンスはジンの心へ、宿った」

人型となったワーウルフ・ロアのルナは、普段と変わらない服装で、2人の前に立つ。
ルナの発言をきいたウォーレスハイムは、「はぁ?」と、驚いた様子を見せるとふてくされたようにつづけた。

「そんなん、おまえ武器化できねーじゃん」
「ジンが居なければ無理だな……」
「なるほどなぁ……」

「どう言う事ですか?」
「ロアって奴のモノにもよるんだが、オリジナルシリーズのロアは、治安維持部隊に渡されてるロアよりも、いかんせん容量がでかすぎてな……一体許容しようとすると、心に負荷がかかり過ぎて危険なんだよ」
「心への負荷?」
「さっきのビンの話。誰のビンも詰め込める量は限られているってことさ。こいつは自分の分離できるところでシステムを分轄したんだろ。そのおかげで、お前は武器化したワーウルフは使えないが、容量いっぱいで苦しむってことは避けられてんのな。獣型も、分轄して余裕できたから出来るようになったんだろ?」

「カナトが、ペットを飼いたがっていたからな……」
「 ……珍しい趣味だな」
「ご、誤解しないでくれ……」

慌てるルナは、もうこの環境に慣れたか。
何もかもが違い、環境の変化を心配したが、思ったよりも大丈夫そうだった。

「けど、どっちにしろ。存在概念が不安定なのには代わりねぇ。カナト、今のお前はワーウルフ・ロアが消えたら、道連れを食らう。ジンにシステムの一部が共有されてるなら、ジンも同じた。お前もワーウルフ・ロアもそれは嫌だろ?」
「それは、ジンが倒れた場合も……?」
「ジンの場合は、システムの一部欠損するだけで、影響はしれてるだろ。俺が言うのは、ワーウルフ・ロア自身がダメージを受けた時に、システムの消失と同時にお前とジン心も一緒に消滅するってこと、こわいだろ?」
「た、確かに」
「それにただのペットにするなら、武器化する必要もない! だろ?」
「は、はい」
「よし、きまり!」

何を決めたのか。
突然現れた父は、持ってきたシートを居室の床へ広げ、いそいそと何かを準備している。
縦横で大体1.5mはありそうなシートには、新生魔法の魔方陣がチョークで描かれていた。

「これは?」
「ワーウルフ・ロアの根本的なシステムを書き換えるための構築式。存在概念を共有してる今の状態から、独立できるようにする」

「独立だと……そんな事が可能なのか?」
「ワーウルフ・ロアの時代の技術じゃ無理だろうな。だが天界じゃ、凝固した魔力は、質量を得るって100年以上前の論文で証明されてんだ。安心しろ」

システムの話をしたかと思えば、科学のような話になった。
しかし、魔力の凝固については、フォースマスターの”フォトンランチャー”や”レイビングソード”を見れば、大体納得がいく。

カナトはウォーレスハイムに促され、魔方陣シートの中央へ立った。
ウォーレスハイムに表情をみると実験台にされている気分にもなる。

「それじゃ、一旦システムを落とすがいいな? ワーウルフ・ロア」
「構わない……しかし――」
「お前自身の設定は、出来るだけ引き継げるようにしてやる。狼の方もな」
「助かる。ありがとう……」

「ルナ……?」
「平気だよ。ちょっと眠るだけだ、すぐに戻ってくる」

ウォーレスハイムはそう述べると、自身の魔力を魔方陣へと注ぐ。
真っ白な七色の光を帯びた魔方陣は、ふんわりと優しい力を帯びて、カナトを優しく包んだ。

ふと、カナトは魔方陣の中央からルナをみる。
彼はゆっくりと目をつむり、足元から砂のような結晶へ変わって行った。
カナトは思わず手を伸ばすが、それは間に合わず、ルナは目を瞑ったまま、光の結晶となり消える。
同時に新生魔法の淡い光も収まった。

「よっしゃ、やるぜ」
「ルナは何処へ?」
「お前の中だよ。居るだろ?」

堂々と言われても分からない。
しかし確かに、見えなくなっただけと言うのは分かる。目の前から消えたのに、喪失感も寂しさもない。

「それじゃ、ちょっといじるぜー。時間かかるから本とか持ち込んどけ」

そう言われて、カナトは”ナビゲーションデバイス”と天界の歴史書を魔方陣の中へ持ち込んだ。
ついでに飲みかけのティーカップも持ち込むと、ウォーレスハイムが苦い顔をする。

「溢すなよ……」
「善処します」

カナトが再び魔方陣の中央へ立つと、ウォーレスハイムは直ぐに魔方陣を発動させる。
そして自身の”ナビゲーションデバイス”を取り出し、サイバーインターフェースから、何かを参照した。

「げぇ……ベーシックEじゃねーか。まだこんなん残ってたのかよ、しゃねえなぁ……。あ、座って良いぜ? 楽にしてろ」

カナトが首を傾げる。
楽にしろと言われても魔方陣の中央は正座か、膝を抱えるスペースしかない。
ルナは消えたし、暇つぶしは持ち込んだものだけか。
ウォーレスハイムも床へあぐらをかき、デバイスのサイバーキーボードを叩き始める。

「ベーシックEは、プログラム名ですか?」
「おぅ、エミル界が次元震でやられた後ぐらいに作られた言語でな……当時の連中は、僅かに残った文明遺産との互換性と扱い易さを両立させる為、初心者でも扱いやすいプラットホームで開発できる言語を作った。それが、ベーシックE」
「……」
「昔は、それでこそ画期的で扱いやすかったから、エミル界でのプログラマーの育成にも貢献したりして、結構流行ったんだがなぁ……いかんせん。できることが単調すぎて、書いた分だけ容量を食うもんだから、小型のデバイスとか日用品には向かなかった」
「なら現在の”ナビゲーションデバイス”の言語は……?」
「それはEコード。ベーシックEの後にできたやつな。ベーシックEで難しかったシステムの効率化とか画像まで扱えるようになった、俺も割とお気に入りの言語だぜ? でもそろそろ潮時かねぇ……」

よく分からなかった。
なんの作業をしているのか分からないが、悪いものではないと思う。
ルナもすぐに戻ると言った。
そう信頼できるのも、ウォーレスハイムがカナトの父であると言うことと、彼は自身の利益や立場より人情を重んじると言うことが分かったからだ。
立場以前に、世話になったなら助けに行けと言われた。そんな父が言うとおりにしないと危ないというのだから、ここは素直に従うことにする。

話すこともなくなり、カナトは正座を崩して、持ちこんだ歴史書黙読する。
必要な部分は、”ナビゲーションデバイス”に記録して七大天使の各家のしきたりや歴史を頭に入れていった。
分からない言葉を、デバイスからWebで調べていると、扉からノックが聞こえてバトラーが顔を出す。

「おやおや、遅くまでお疲れ様でございます」
「邪魔すんなって言っただろ?」
「しかし、カナト様とウォレス様がお二人でいるのを一度見ておきたかったのです」
「物好きだね〜。別に久しぶりなだけだろ?」

バトラーが持ってワゴンには、追加のティーセットと軽食が用意されており、彼はティーカップに紅茶を用意するとカナトの座るシートの上に置いた。
外から渡されるのは大丈夫らしい。

「俺はコーヒーな」
「かしこまりました」

コーヒーもあるのか……。少し後悔した。

カナトは本を読み、ウォーレスハイムはタイピングしているのを見てバトラーは思う。
この親ありきこの子か……。

「やはり親子でおられますね」
「うるせー……」

バトラーは嬉しそうに笑っていた。
そこから何時間たっただろう。
カナトも少しずつウトウトしてきて、本もデバイスもシートに置き、膝を抱えていた。
時間をみると23時前になっている。
しかし、ウォーレスハイムは未だ画面に向き合いタイピングを続けている。
まだかかるだろうか。

またウォーレスハイムも眠そうにしているカナトをみて、我に帰る。
夢中で作業していて時間を忘れていた。しかし、もう8割は終わっている。
ここまでやったなら最後までやった方がいい。
バトラーが目の前で、カナトに毛布をかけてくれる中、ウォーレスハイムはもう一度コーヒーのおかわりをもらい作業を続ける。

そうしてシステムが完成した頃には、日付がとっくに変わっていた。

「まぁ、こんなもんか……」
「お疲れ様でございました」
「ミカエルにロアのソースコードを回しといて貰ってよかったぜ。これなら分割されてても、とりあえずは武器化もできるし、システムが壊れても道連れはないだろう」
「よく出来たものですなぁ……」
「こういうのは俺よりミカエルが得意だがね。でもあいつは天才すぎて、ろくな事考えねぇ」

彼にカナトを見せたら、書き換えのついでに武器の拡張とかもっと別のオプションやプラグインを付けられそうで、ウォーレスハイムは少し心配だった。
ミカエルは天才だ。
それでこそ、彼の作ったものが今、このエミル界の冒険者がつかう”ナビゲーションデバイス”として普及している程に、優秀で頭がいい。
しかしそれ故、個人的な事となるとやりすぎる。
ロアの話題を切り出した時の食いつきは、今でも恐ろしくて忘れられない。
そんな彼が何かの拍子にカナトと顔を合わせでもしたら……、

「どうかされましたか? 旦那様」
「いや、何でもない。ミカエルは天才だが、度合いの加減が分かってねぇからな……」

必要なシステムを必要なだけ積めばいい。
ロアは武器だが、カナトは戦ったとしてもモンスター止まりだ。
ワーウルフが武器である必要はない。

「さて、さっさと動作確認して俺も寝るか……」

そう言ってウォーレスハイムは、バックアップを確認し、上書き保存をすると、システムそのものを終了させ再び立ち上げた。
膝を抱え小さく寝息を立てるカナトの前に、再び白い砂が集まって凝縮していく。

「……よ、ワーウルフ」

目の前に表れた新しい影に、ウォーレスハイムは笑みをこぼした。




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本編 | 【2015-05-28(Thu) 12:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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