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Royal*Familiar:第一話
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Royal*Familiar
(連載)長編シリーズ:ロイヤル*ファミリア

第一話:決意の序章

あらすじ
リフウをストーカーから匿い、二週間が経過していた。
全く音沙汰がなく、被害もないために二人はリフウを外へ連れ出す決意をする。
しかし、それは彼女との別れのきっかけでもあった。

*目次
第一話:決意の序章
第二話:別離の序章
第三話:再開の対価
第四話:策略の輪廻
第五話:望みの代償
第六話:無力な再会
第七話:穢れた使命
第八話:無謀な勇気
第九話:騎士の在る意味
第十話:影と光の格差
第十一話:迎えの喜劇
第一二話:日常への回帰(エピローグ)



 

Royal*Familiar

リフウがカナトの自宅にきてから、そろそろ二週間がすぎていた。
早起きなリフウは、ジンが訓練から戻ると決まった時間に朝食を作ってくれる。
初めは照れくささもあり、戸惑いはしたが、ようやくこの日常にも慣れてきて、まともに顔あわせができるようになってきた。

ジンが自宅に戻ると、寝巻き姿のカナトが、獣型のワーウルフ、ルナと共に二階のロフトから降りてくる。
ふわふわと重量を感じさせない飛び方で、リフウと顔を合わせるカナトもまた慣れがきたのか、強張る様子もない。

「いやー、リフウちゃんが来てくれてから色々たすかるなぁ、カナト!」
「そうだな。しかし、家事を任せきりでとても申し訳なくはある……」

「いえ、そんな。今の私にはこれぐらいしかできませんから……」

申し訳なさそうに俯く彼女に、カナトとジンも複雑な表情を浮かべる。
一応ストーカーから匿ってはいるが、この二週間、全く音沙汰がない。
リフウ自体も、ここに来てから気配も感じていないようだし、そろそろ羽を伸ばしていい頃だとは思う。

「そうですね……。そろそろ、諦めてくれていれば……いいんですが」
「恐ろしいなら、無理されずとも構いません。広い家です。一人増えれば賑やかになるのでありがたい」

「そうだぜ、リフウちゃん料理うまいしな!」

二人はこう言ってはくれるが、いつまでもここに居てはいけないと思う。
足取りを探られたくなくて、聖堂には何も言わず出てきたし、ここ二週間、町にすら降りていない。
広い家とは言っても息苦しくなるのは確かだ。

「少し、聖堂に行って見ようと思います。管理者の方にメールは出しましたが、見ていた患者さんが少し気になるので」
「さすがリフウちゃん……優しいなぁ!」

「分かりました。私も同行致しましょう。ジンは?」
「いくに決まってんだろ! リフウちゃんは俺が守る!」

無駄に叫ぶ彼の言葉も、今はとても頼もしい。
今や外を歩く恐怖もわすれ、以前のように散歩ができると思っていた。

久しぶりに降りたアクロポリスはとても新鮮で、リフウはしばらく呆然とその景色を眺める。
いつもの風景だ、当たり前の賑やかな街。
でも彼女にはとても真新しくて……。

「リフウちゃん、行こうぜ!」

差し出された手に、思わず頰がゆるんだ。
暖かい街と優しい日差しは、閉じこもった心を元気にしてくれる。

「はい!」
「ちゃんと、お連れして差し上げるんだぞ」

「うるせー! 別にどこもいかねぇよ!」

ジンが先導して三人は、迷わず白の聖堂へと歩を進めた。
次期はもう春だ。新しい季節が訪れ、新米の冒険者もちらほら視界にはいる。

その中で、白の聖堂が視界に入ったときカナトがハッとして立ち止まった。
リフウもまた翼にブレーキをかけて、ジンを止める。
ジンの手を握りしめ、リフウはジンの後ろへ隠れた。

「カナト……?」

カナトは何かを探っている。
ジンには分からないが、街中だ。武器はだせない。
リフウを背中に隠し、ジンはカナトの行動を待った。

「ようやく、見つけました……!」

ため息のような、何かを達成したような満ち足りた声で、その言葉は発された。
2人の目の前に現れたのは黒髪に二枚の翼を持つタイタニア。
腰にはレイピアを携えている。

「誰だてめぇ……」
「……エドワーズ」

リフウから発された言葉に、ジンとカナトはハッとした。
知り合いなのか。

「お元気そうで何よりです。お嬢様」

エドワーズと呼ばれた男は、さらに後ろへ二人のタイタニアを引き連れている。
知り合いなら構わないが、リフウが後ろから出ないことにジンは嫌な予感がした。

「セレナーデ様が、お探しでした為、天界よりお迎えに上がりました次第です」
「お母様が……、今更何故? じゃあずっと見ていたのは……」
「申し訳ございません。確証がなく、探らせて頂いておりました」

深々と頭を下げるエドワーズに、ジンは困惑した。
これがリフウのストーカーなのか?

「リフウちゃん……どう言う――」
「その口調はいささか無礼ですね、エミル族」
「っ!?」

「やめなさい、エドワーズ。この方は私の友人です」
「しかし、下界にすむ下級種族が貴方に触れるなど、セレナーデ様が悲しまれます」

エドワーズの言葉にジンは苛立ちを隠せない。
しかし、脇のカナトをみて驚いた。
今までに見たことないほどに、表情が凍りついている。
分からないのは、ジンだけらしい。

ジンはそれに舌打ちすると、堂々とリフウの前に立ちはだかった。
絶対渡さないと言う眼だ。

「ほぅ、威勢がいい、無知は罪とはこの事ですね」
「やめなさい。エドワーズ、私が誤解を解きます」

「リフウちゃん?」

リフウは意を決したようだった。
しかし、その小さな体は強張って震えている。
カナトはその心情を察したのか、弱々しい声で口をひらいた。

「セレナーデ・フォン・フィランソロ……」
「は?」

フィランソロ、何処かで聞いた響きだった。
しかし今は思い出せない。
ぐっと何かに堪えるリフウは、カナトの言葉に怯えているようだ。

「天界を納める七大天使。ラファエル称号を代々受け継ぐ家系だ……。私の母君の性にあたる」

ジンには理解できない。
カナトの母? どう言うことだ。
これにはリフウも、思わず顔を上げる。

「母君……なるほど、貴方様が、ルシフェル・メロディアスの……この様な機会ではありますが、お会いできて光栄にございます」
「……」

カナトは返答をよこさない。
しかしあの表情は、自分の無力さを絶望している表情だ。

「次期ルシフェルとされる貴方様なら、我々がここに居る理由をわかって頂けますね」
「カナト!?」

「……っく」

ぐっと食いしばるカナトに、余裕はない。
何がカナトを支配して、何を我慢しているのか、
理解できないまま、ジンは再び立ちはだかった。

「なんの話かしらねー、でも俺はリフウちゃんを怖がらせてるお前なんかに、絶対わたさねーからな!」
「怖がらせている? 追っていた折につきましては、大変申し訳ございませんでした。しかし、事は一刻を争います。天界へ――」

「わ、私は姉様に会うまでは……帰りません!」
「……! なるほど、シャロン様を探されていましたか、ならば尚更、天界にもどられた方が――」
「シャロン妃は、天界にはおられない」

口を挟んだカナトに、エドワーズが視線を向けた。
氷のような凍てついた瞳に、カナトは全く動じない。
またその顔をみた時、カナトは何かに気づいたのか表情を変えた。

「私の母君、シャロン妃は現在、アクロポリスの私の実家におられます。お会いしたいなら掛け合いましょう」
「カナト……さん!」

「お嬢様……」
「お会いするだけなら、時間も僅かでしょう。何か問題でも?」

「いくらルシフェルの嫡子といえど、現在の貴方にそのような権限があるとは思えませんが……」
「ならば、弟である。カナサに取り次ぎましょう……、それとも、今すぐお連れしなければいけない理由がお有りか?」

「カナトさん?」
「お気をつけをリフウ嬢。彼らはラファエルの使者である可能性が低い」

リフウが目を見開いた。
エドワーズは、リフウが幼い頃から面倒をみてくれた執事だ。
そんな彼がラファエルの使者ではないなど、考えられない。

「ルシフェル・ウォーレスハイムの次男。カナサ様は、とても素直な方ではありましたが、兄君はそうではないのですね……」
「エドワーズ……?」
「ご安心を、リフウお嬢様。ラファエル陛下は心よりお慕いしております。しかし今は、レミエル陛下の命においても、貴方様をお迎えに参上致しました」
「レミエル……なぜ……」
「これ以上は、お戻りになられてからお話しましょう」

この言葉をきいて、ジンの横にカナトが出た。
彼もまた、エドワーズの間に立ち塞がる。
その表情をみて、リフウはぐっと苦いものをかみしめた。
カナトもまた、察したくない現実を察してしまったのだから、

「我が母君の血縁たるリフウ嬢の、フィランソロ使いならば、私も同じ名を持つものとして、受け入れましょう。身内の、家族の問題だからです。しかし、レミエル……他家の話が絡むのならば、別……。メロディアスの名に置いて、無理に連れ帰ることは許さん」

エドワーズの表情は落ち着いていた。
当然の反応だからでもあり、次期ルシフェルの器へ関心を示す。
僅かな綻びから、見抜いてくれたことにエドワーズは心から感謝した。
連れ帰ることは、本位ではない。
全ては、緻密な政略に過ぎす、高い立場もつが故の権力闘争。
リフウは、その意味のない戦いに巻き込まれているに過ぎない。

動かないエドワーズに、後ろの二人は顔を見合わせ、指示を待たずカナトとジンへ向かっていった。
街中で武器は使えない。
ジンはとっさに前にでたが、迷わず腰の武器を抜いた敵に、青ざめた。
突き出された敵の武器をかわす。
レイピアだ。それも刃がない、突きのみに特化したもの。
突き出された敵の腕を掴み、勢いを殺さずに投げる。
しかし、もう一人は味方が投げられたことに動じず、ジンの脇腹を先端で切り裂いた。
赤い血がにじむ、切り裂かれた痛みで思わず膝をついた。
また、投げた一人が、カナトを捕まえ腕をひねる。

「くっそ……」
「ジン!」

「やめて、やめて!! エドワーズ……ごめんなさい」
「お嬢様……。申し訳ございません。ご無礼をお許しください」
「お母様は……、どうして……エドワーズも……」

「セレナーデ様とリフウお嬢様を、私は心からお慕いしております。しかし、いまやセレナーデ様は、余命を僅かとされており、レミエル陛下が、セレナーデ様の代理を……」
「お母様……が、そんな、レミエル? 代理……?」

エドワーズのゆっくりとした言葉。
リフウはそれを飲み込むのに時間がかかった。
姉に会いたくて飛び出した実家。
満ち足りてはいたが、毎日同じ事の繰り返しで過ごして、退屈な日々を送っていた。
その中で唯一の楽しみが、ルシフェル・メロディアスへ嫁いだ姉からの手紙。
天界にない色んな事が書かれていて、リフウにとっての未知の世界がそこにあった。
だから、リフウは実家を飛び出し、姉に会うためにエミル界へきたのだ。
思えば、今まで音沙汰がなかったのが不思議なぐらいで、エドワーズもまた会えたことを喜んでいるようにも見える。

「リフウお嬢様。フィランソロの執事として、どうか天界へお戻り下さい……」

リフウの頰から涙が溢れた。子供のように泣きじゃくる少女。
エドワーズはそんな彼女へ跪く。

「帰りたくない。帰りたくないの……でも、お母様ぁ……」
「大丈夫です。お嬢様が戻られれば、きっと元気になられます」
「うん……」

「リフウちゃん!!」

「ジンさん、カナトさん、ごめんなさい」


どうして……――?

「……さよなら」

そう言ったリフウの顔は赤く、精一杯の笑顔を映していた。


***



「おばかねぇ、天界の人に喧嘩うるなんて」
「うるせぇよ」
「あ、反省してない」

白の聖堂の治療室で、エミル・ガンナーのジンは、幼馴染みの月光花に、先程の怪我を見てもらっていた。
レイピアでの攻撃は割と深くまで達しており、ズキズキと未だに痛みが響く。
彼らは天界の使者としてアクロポリスに来てはいたが、内密であった事もあり、ジンも手は出していないことから、唯の冒険者同士の乱闘として片付けられた。

「下手したら一週間は軟禁されてたかもよ?」
「しんねーし」

天界とエミル界。
天界に住むタイタニアが、エミル界へ訪れることは、もう今の時代珍しくはない。
しかし、エミル界へ、来賓や国賓できた場合ならば意味合いが違ってくる。
月光花はおそらく、その事を言っているのだろう。
脇腹に”リカバリー”を唱えてもらうジンは、ベッドへ横になり。
壁に持たれるカナトへと視線をむける。
何処か後悔したような眼差して俯く彼は、ジンの視線に気づいているようだった。

「カナト」
「……」
「なんか言えよ……」
「すまない。何もできなかった……」

そこを責めているのではない。

「俺が何を言いたいか、わかってんだろ?」
「……そうだな。整理しなければいけない」
「まず、メロディアスって?」
「それは私の実家の名前だ。私のフルネームは、カナト・フィランソロ・フォン・メロディアス。フィランソロは母方の性で、フォンは貴族を指す。つまり名前だけで、私はメロディアスに生まれた、フィランソロの子供だと示している」
「ふーん……」
「名前だけで言えばそうだが、リフウ嬢の場合ならばリフウ・フォン・フィランソロとなる」

カナトがメロディアス。
リフウはフィランソロ。
とりあえずここまでは理解した。

「メロディアスは私の父上の代から、称号ルシフェルを預かる家だが、フィランソロは、それ以前からある由緒正しい貴族。代々でラファエルの称号を受け継ぐ名家だ」
「ふんふん」
「最後のレミエルもフィランソロと同じくして、古の時代から名を受け継ぐ貴族。名をジェラシア。エドワーズの話を聞く限り、リフウ嬢を連れ帰る際の黒幕だろう」
「黒幕ねぇ……、ジェラシアって他人なんだろ? なんでそんな奴がリフウちゃんを?」
「わからん。しかし、ラファエルのフィランソロは、太古より純血主義が色濃く、その力も強い事から、他のアークタイタニアよりも短命とされている。そのために、今回初めて私の母上がメロディアスへ嫁ぎ、他家の関わりを持つことになったのだが……、フィランソロの動きに、ジェラシアが噛んでいる可能性がエドワーズの言葉でみて取れた」
「なんか悪いのか?」
「フィランソロの現ラファエル、セレナーデ様の余命が僅かに迫っているならば、リフウ嬢を連れ戻し、後を継がせる準備をしなければいけない。ここまではいいが、ジェラシアが現在のラファエルの権限を握っているのならば、リフウ嬢がラファエルの名を継ぐ前に、ラファエルの称号がジェラシアへ移る可能性がある」
「それって大変なのか?」
「大変も何も、リフウ嬢の実家がなくなってしまう。あの執事エドワーズはそれを危惧していての行動だろう。後ろに居たのは、おそらくレミエルの、ジェラシアの騎士だ……。場合にはよるが、エドワーズの態度からみて、手遅れかそれとも……」

何故だろう。
カナトのこの話は、聞いていてイライラする。
今一つ理解しづらいのも大きいが、リフウ自身の話より、何故実家の話をされているのか。

「なんかよくわかんねぇけどさ……。リフウちゃんは泣きながら、帰りたくないって言ったんだせ? 俺にも聞こえるようにさ」

帰りたくない……!

カナトも耳の奥へ焼きついている。
母の現状を突然知らされた絶望と、葛藤がせめぎ合う声だ。

「だから、俺は連れ戻しにいくぜ?」
「天界へか?」
「当たり前だろ! お前はいかないのかよ」

カナトは黙った。
この男は自身の立場や身の上を全く理解していない。
天界の問題は天界の問題であり、エミル族が関与するなど、あり得ない話だからだ。
下手に手を出せば国家反逆にもなりうる。
しかしそれは、カナト自身の立場から見ればの話だ。
カナト自身は、メロディアスとしての性があり、勘当と言う話も今やうやむやになっている為、自身の身の上から考えて動かなければいけない。
が、ジンは違う。
ジンは天界と無関係の一般人だ。
そんな彼が、連れ戻したいと願い。当然のようにこちらにふる。
呆れてしまった。
当然の態度なのに、呆れてしまったのは、立場を考えて踏み止まる自分自身にだ。
貴族と言う一つの囲いから抜け出し、カナトはもう自由に生きているのだと思っていた。
しかし、実家の影は何処にでもちらついてくる。

「なんか言えよ、カナト!」
「……すまない。ジン、考えさせてくれ」
「はぁ!?」

「おばか! 天界に行くにしても、あんたその怪我治してからでしょ!」

月光花の高い声を聞きながら、カナトは聖堂の治療室をでた。
少し一人になりたい。
ジンは性格上、連れ戻し行くと言う意見は曲げないだろう。
ならば、カナト自身はどうすればいいのか。
何も考えず天界へ赴いても、彼女、リフウを悲しませるだけだ。
結論をだすには早すぎると思う。

カナトは一人で自宅にもどり、普段使わないベランダへ登った。
カナサが提供してくれた自宅は、タイタニア用に設計されていて、天井が高く広い作りとなっている。
そのため、ベランダは入り口脇にある階段を登らなければいけないため、ジンもカナトもあまり利用していなかった。
そんな場所で珍しく夕日を眺めるカナトを、帰宅したジンは見つける。
月光花に散々文句を言われつつも、曖昧な返事しか返さないカナトに苛つき、喝を入れてやろうとも思ったが、虚ろで何処か考えごとをしているカナトをみると、何も言えなくなってしまった。

「カナトさん悩んでおられますね」
「そうだな……て、リアス!?」
「こんばんは、もう驚かないんですね」

神出鬼没であることに、慣れてしまった。
何か事件があると、リアスは必ず様子を見にくる。

「残念です」
「てめぇ……」

一言が余計すぎる。
しかし、リアスならカナトの考えは分かるだろうか。

「天界の使者と喧嘩されたのは本当ですか?」
「あぁ、本当だよ」
「元ランカーのリフウさんが、同行したのは?」
「それも本当」
「ジンさんはどうするんです?」
「連れ戻したい。だけど……」

カナトをみるジンは、哀愁に漂い何かを待っているようだ。
リアスはそんな様子をじっとみて思う。
いつもと何か違う。

「ジンさんもしかして、頭を強くうったりしました?」
「何言ってんだお前」

いつもなら問いただして喧嘩になるのに、今日のジンはえらく素直だ。

「俺がいわねーと、お前カナトに聞きに行くだろ?」
「ジンさんのように、突然聞きに行ったりはしません。空気は読みます」
「そうかよ……」

いちいち腹がたつ。
しかしそれでも、もう何時間も空を眺める彼は何を考えているのか。

「天界の使者は、かの七大天使。ラファエルの使者と聞きましたが、何故そんな方々がカナトさんに?」
「カナトじゃねーよ。リフウちゃんだ」
「へ?」

戯けたリアスにジンは違和感を覚える。
リアスのこの顔は珍しい。

「何故、リフウさんを? ラファエルの使いがカナトさんに会いに来たんじゃ……」
「ちげーよ、リフウちゃんを迎えに来たってさ、フィランソロとかメロディアスとか、わかんねーけど……」
「フィランソロ? リフウさんを迎えに? リフウさんはフィランソロ?」
「そんな話してたなぁ……」
「ジンさん、貴方もう少し重く受け止めていいのでは?」
「あ? しんねぇよ。関係ないだろ」
「リフウさんが次期ラファエル候補であるならば、使者が連れ戻しにきたのも合点がいきます」
「そうかもしんねーけど、俺は――」
「フィランソロは、カナトさんの身内。もし、ジンさんが無理やりリフウさんをつれもどせば、カナトさんの実家もフィランソロと同じく没落する可能性がある」
「……そもそも、没落ってなんだよ」
「貴族階級から、領地や権力を奪われてしまう事です。血統主義の天界の場合、家が廃れると起こりうる」
「……」
「リフウさんだけじゃないんですよ。ジンさんの軽はずみな行動で、カナトさんまで巻き込まれる。もう少し冷静になるべきです」

繰り返すように述べるリアスに、ジンはようやく冷静になってくる。
二つの家がなくなる。帰る場所がなくなると言ったのはそういう意味か、

「でも最後は、カナトもリフウちゃんかばってたぜ?」
「何故ですか?」
「なんだっけ。アリエル? ジェラシー?」
「もしかして、ジェラシアのレミエルですか? 天界における観光大使ですね」
「なんか、ラファエルのエドワーズが、レミエルになんとかみたいな話もしてたけど……」
「エドワーズ?」
「リフウちゃんの執事?」
「ラファエル側の執事がレミエルに仕える……? まさか」
「なんか、あるのか?」
「ラファエルのフィランソロ家が、レミエルのジェラシア家に実質骨抜きにされているとしたら……」

リアスまで分からない事を言い出した。
しかし彼なら、分かるように言い換えてくれそうではある。

「リフウちゃんの母さんが、余命短いって……」
「……ジンさん。貴方はもうこの件に関わらないほうが、いいと思います」
「はぁ! リフウちゃんは帰りたいって言ったんだぜ?」
「個人的な感情ならそうでしょう。でも……」

リアスは、ベランダで風にあたるカナトを仰ぎ見た。
悩むのも仕方がない。むしろ、目を背けたいのではと思う。
それ程までに、この目の前いる男は愚直でデリカシーがない。

「カナトさんを放っておいてあげて下さい」
「……!」
「この問題はジンさんの手に余る、ただ連れ戻すだけでは、だれもかれもカナトさんもリフウさんも不幸になります。だから……」

うつむいたリアスは、聞いた事を後悔しているように見えた。
お得意の演技が、いや、自分を説得する方法を考えているようにも見える。
分からない事だらけなジンは、リアスの切実な思いだけは受け取った。

「リアス、お前ならどうする」
「おれなら、カナトさんに任せます。エミル界に住みエミル族である限り蚊帳の外は免れませんから」
「カナトなら、なんとかできるのか?」
「方法を問わないのであれば、いくらでもあるでしょう。しかし前提としてメロディアスの名を使わなければいけないので、無事リフウさんを連れ戻したとしても、カナトさんは貴族としての立場を誇示した分、これまで通りの生活ができる保証はありません」
「!」
「今もこうして、自由にできているのが不思議なぐらいです。おそらく、現状でルシフェル様が御現存なのと、メロディアスの家柄もあるのでしょう」
「家柄?」
「カナトさんのお父上は、元冒険者です。若いうちは好きに生きろと言うことなのでは?」

ルシフェルの、カナトの父の話は知らない。
しかし、リフウが連れ帰られたのを見れば確かそうか。
本当なら、カナサのように屋敷で暮らし、次期ルシフェルの器として教育をうけるべきなのか。

「しかし、よくラファエルの執事が、レミエル側についていると気づきましたね。何か意思表示もあったのですか?」
「カナトが気づいてたぜ? 俺はしんねー」

なるほど、とリアスは心から納得した。
ルシフェルの器として育てたと、ウォーレスハイムはリアスに言った。
もう数年前に連絡を取り、自分の中にずっと秘めているカナトの立場。
勘当されたかどうかの話はされなかったが、どんなに実家から離れようと、どんなに本人が拒絶しようとも、その才能に自ら気づく時がくるとウォーレスハイムは言った。
外交は交渉が全てだ、いかに自国に利益を得て今後に繋げるか、これが一であり全てでもある。
天界の場合、冥界の仲介地点にあたるエミル界は重要だ。エミル界との交友を絶たないため、またその上で天界を反映させるために、カナトは育てられたのだと……。
もしルシフェルが、初めからカナトをエミル界へ放り出す気でいたのなら、今のカナト自身は、ルシフェルの器として更に成熟させる為の父の試練を受けているだけに過ぎないのかもしれない。

ゆっくりと日が落ちかけても、カナトはベランダから動かなかった。
綺麗な夕日を眺め、実家での生活を思い出していたら、気が付けば空が暗くなっていたのだ。

リフウを救いたいと思う。
帰りたくないと言ったのだから、当然カナトも連れ戻すことには同意見だ。
しかしその為には、自身も覚悟を決めなければならない。

天界の問題は複雑すぎてジンに理解を求めるのは無理だろう。
ラファエルの執事がレミエルの命を受けている時点で、ラファエルの家督はすでにレミエルの物となっていると見える。
レミエルがリフウを求めたのは、ラファエルの権限を完全に掌握する為か?

しかし、リフウが天界へ戻り、もしリフウがラファエルを継ぐと宣言したならば、また話は違ってくる。
リフウがラファエルとなったならば、ルシフェルもまたラファエルも穏便にすむ、あの執事はその僅かな希望にかけているのか。

しかし、そう簡単にいくだろうか。

レミエルの狙いがフィランソロの家督権限の全てならば、代理とされている今の時点で目標は達成されている。
完全掌握はできずとも、権限をすでに手に入れている時点で目標は達成されているのだ。
この段階で、リフウが戻りラファエルとなるなら、実権は改めてフィランソロに戻るため、レミエルの動きが、意味のないものになる。

レミエルは何故リフウを連れ戻した?

放置し、リフウを居ないものとした方が良かったはずだ。
現ラファエル、セレナーデの死後に、娘リフウも行方不明。
フィランソロの後継は、メロディアスに嫁いだシャロンのみとなる。
カナトが勘当された時点では本来、カナサがフィランソロへ婿養子となり、ルシフェルとして、リフウとカナサの子どもが次期ラファエルとされるはずが、
リフウが行方不明になることで、フィランソロからラファエルの後継がメロディアスへ嫁いだシャロンのみとなるのだ。

カナトは考えた。
レミエルは何故、リフウを求めた?
レミエルが、リフウを手に入れるメリット。
メリットだけではなく、こちらのデメリットを考える。
ラファエルの権限がレミエルに移るならば……、

「まさか……」

思わず声に出た。
レミエルの狙いが、ラファエルの家督を権限ではなく、ルシフェルの実権ならばどうなる?
ルシフェルの称号は、未だカナトの父、ウォーレスハイムが一代で築き上げたものだ。
それまでは観光大使のレミエルが引き受けていたと言う。

カナトは自分の”ナビゲーションデバイス”のアーカイブから過去に学んだ自身のノートを参照した。
もう60年近く前のノートだが、カナトも興味があった為に残していたもの。
そこには家庭教師から学んだ。ルシフェルと言う称号の繊細な情報が、雑にまとめられている。

ルシフェルと言う称号が出来る前、外交は、観光大使のレミエルの担当だった。
しかし、ウォーレスハイムが天界へ確かな利益をもたらし、その実績が認められ、外交は堕天たるルシフェルとされたと言う。
何をしたかは、若い自分のノートには書かれていない。
もし、レミエルがメロディアスに自身の意義を奪われ、それを怨んでいるならば……。
ラファエルの家督を掌握し、リフウを手に入れることで、メロディアスとフィランソロの関係を絶たせる。
これにより、メロディアスは貴族としての器でないとされ……。

「カナト」

我に返って、カナトは振り返る。
後ろには、人型になったルナが上着を持ってきてくれていた。

「夜風は冷えるぞ……」
「……ルナ。すまない、ありがとう」

上着をかけてもらい、混乱しかけていた自分に反省した。

「ジンはどうしてる?」
「リアスに、事を説明してもらっていたな」

リアスが来ていたのか。
考えることには夢中になりすぎて、来客に気付かなかった。
しかしまだ、部屋に戻りたいと思う気持ちになれない。

「カナトは、どうしたいんだ?」
「……救いたいな。だが、本当にそれでいいのか、分からない」
「……」
「私はこの暮らしが好きだ。ルナも、月光花さんも、ジンもいるこの暮らしが……でもそれも、永遠に望んではいけないこともわかっている」
「カナト……」
「私は、まだ85歳。タイタニアでいうなら寿命の五分の一にも達していない。だから尚更、彼らとの時間を大切にしたい……」
「そうか……」

いずれ来る別れを、避ける事はできない。
エミル族と生きる時点で、それはどう足掻いても訪れる宿命だからだ。
これからも、また色んな事があるだろう。
泣いて、笑って、怒って、悲しんで、悔いて……。
そのすべてを肌に感じて、心に残しておきたい。
忘れない為に……。
悲しみの喪失を跳ね返すほど、たくさんの思い出を作っておきたい。

「いつまでそこにいんだよ! メシ片付けっぞ!!」

怒鳴り声が聞こえて、カナトはベランダの真下を見た、ジンはいけ好かない顔でこちらを見上げている。

「あぁ……、すぐ戻る」

信用出来ないのか、ジンは階段を登りベランダへ上がってきた。
カナトは背中にいるジンに向けて、独り言のように口をひらいた。

「ジン」
「なんだよ」
「リフウ嬢のこと、好きか?」
「な……」

あまりに突拍子がなく、ジンは顔を真っ赤にする。
突然なにをいいだすんだ。

「す、好きだぜ! 当たり前じゃん!」
「それは友人としてか? 恋人にしたいからか? それとも、家族にしたいからか?」
「そ、そんなんまだわかんねぇよ!! おまえは好きなのかよ……」
「私に聞くのか?」
「誤魔化されねーぞ! 質問に質問すんな!」

考えれば、カナトは経験者だった。

「そうだな……、彼女は家庭的だ、家族にしたい女性ではある」

冷静に帰されてしまい、目が点になってしまう。
つまりどういうことだ?

「り、リフウちゃん。狙ってんの……?」

まさか、女性嫌いなカナトがそんな……。

「そう見えるなら、そうじゃないか?」

ジンの頭に重いものが一気に落ちた。
キザに上手いこと言われた気しかしない。
が、カナトはジンに誤解を生む発言はしない。
今までがそうだったのだから。

ふわりとベランダを降りていくカナトを、ジンは顔を真っ赤にして見送る。
しかし、我に返って叫んだ。

「絶対まけねーからな! 絶対わたさねーかんな!」

カナトそんなジンを鼻で笑い、自宅へと戻る。
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本編 | 【2015-05-07(Thu) 12:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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