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キリヤナギ総隊長の話(後編)
出演:ホライゾンさん、セオさん、グランジさん

あらすじ
ウォーレスハイムに息子を守れと言われたキリヤナギは、過去のツテを使って工作を始める。
しかし起こった事件は取り返しのつかなくなるものだった。


 



ウォーレスハイムへ治安維持部隊のランカーがカナトのもとへいったと報告すると、これまで以上に褒めてはもらえたが、ただの偶然であると言うと撤回された。

「しかしあいつ、まだ連盟に入ってないのかよ……」
「……部隊自体もおそらくかなり嫌われているみたいなので、当分は」
「やっぱ多少痛い目みないとわかんねぇよなぁ……お前何か出来ねぇの?」
「えぇ!? 流石にちょっと……、勧誘なんて素直に受けてくれるとは思えないですし」
「じゃなくて、根回しだよ」
「へ?」
「連盟に加入する理由をつくれねぇの?」

ウォーレスハイムの言葉に、キリヤナギはかつてない程、混乱した。
つまり、手段は選ばなくていいと言われたのだ。
根回しは、やろうと思えばできるが、どうしたものか。

キリヤナギは、少し悩むと小さなメモを書き置き、執務机の脇にある本の下に置いた。
それから数週間後に発生した誘拐事件にキリヤナギは驚き、ジンの武器を没取、リアスを二人の監視につけた。

小さく納めるつもりが、思ったより大きくなりキリヤナギは後処理に終われる事になる。

「本当、僕の見えない所で色々起こって終わっていくね……」
「少しやり過ぎでは?」
「反省してるよ……僕が軽率だった。なんの成果もなかったし、もうしない。素直に見守るよ」
「まさかとは思いましたが……」
「すまない。迷惑をかけたホライゾン。失望したなら見捨ててくれて構わない」
「……ルシフェルに恩があり、それを返す為とは存じています。ですが、貴方はエミル界の騎士である事を忘れず」

ホライゾンは、時々みせるキリヤナギの危うさに人知れず気付いていた。
キリヤナギは、自身の目的が絡むと手段を選ばなくなる時がある。
ちょっとしたきっかけでリミッターがはずれ、取り返しのつかない事になる事もしばしばあった。
だからキリヤナギには、止めることが出来る人間が必要で、今のキリヤナギには、ホライゾンしかいない。

「明確な手段は掲示したのですか?」
「いや、彼を連盟に加入させる口実をお願いしただけだよ……それがまさかね。彼らは本当に優秀だ……」

ホライゾンは、自身に知らされていない事があるのだと判断した。
しかしそれをここで話す事はない。
むしろ話す事で、全てがなくなってしまうのではないか。

「無理していますね……」
「……!」
「圧力ですか?」
「僕は総隊長だよ。どこから圧力を受けると言うんだい?」
「ルシフェル、評議会、騎士団……、汚れ役がいるのではないですか?」
「……世の中は矛盾だらけだからね」

否定しない事実に、ホライゾンは唇を噛み締めた。
あんなにも人が傷つく事を嫌っていたキリヤナギが、この事実を否定しない。
抱えこんでしまうのも当然だろう。
殺人など、キリヤナギは今までしたことはなかったのだから。
評議会や騎士団に暗殺を要請されていたなら、その要因があり、思い切った行動に出てしまうのみも、合点がいった。

「いつ頃からですか?」
「傘下に入った辺りから、示唆はされていたんだ。実際に指示がでたのは、前のランカー選抜の時ぐらい」
「……キリヤナギ総隊長。どうか自身の守るものを見失わず……」
「ありがとう。でも僕は、もう真っ黒だよ……」

部隊が平和だったのは、全ての負をキリヤナギが抱え込んでいたからか。
総隊長がやりそうな事だと思う。
相談なんて出来るわけが無いだろう。
それでも、この世界に必要な悪がある。

「ひでぇ仕事を任されたもんだな、冒険者の組織に暗殺か……部隊でやってんのかい?」
「いえ、治安維持部隊とは別の専門組織へ全て委託しています」
「評議会にその存在は?」
「報告はしてあります。僕の息があるので問題はないと……」
「元々持ってたのか?」
「違います。彼らは、元々自分の意志で活動していました。僕はもう無縁だと思っていた……」
「そうか……まぁ落ち着け、間違ってない。誰も咎めねぇよ。傘下になる時点で、命令責任は上にある。これは理解しろ」

キリヤナギは小さく頷いた。
これ程までに温和で寛大な人間をウォーレスハイムは知らない。
キリヤナギはウォーレスハイムの屋敷にきてから、ずっと泣いていた。
ずっと隠して堪えていたのだ。

「人々を守るべき僕達が、何故人を傷付けているのですか……? なんの意味があるのですか……? そんなことの為に、今までやって来たわけではないのに……」

そうだろう。
どんな人間でも生きている意味がある。
しかし、生きる事で人々を殺してしまう人間も、この不安定な世界には必ず存在する。
そんな彼らから、弱い者を守っていく事も必要なのだ。
評議会からすれば便利だろう。
騎士団に委ねれば、国家間の問題があるが、キリヤナギは元冒険者だ。
中立な立場がある便利な彼が、使われない訳がない。

「どうしようと思ってる?」
「僕は何も出来ません……今はただ従順に、飼い慣らされた犬ですから……」
「……」
「でももし、出来るなら、……いっそ全てを手に入れてしまえばいいのではと、思っています」
「ほぅ……、良案じゃねぇか」

キリヤナギは顔を上げた。
怒られると思ったのに、顔をみればウォーレスハイムは笑っている。

「そうなったら、俺は色々と助かるな」
「ウォレス様……?」
「なんだよ。自分で言った癖に、……俺は悪くないと思うぜ? 俺もお前相手なら色々楽だからな」
「……」
「でもま、結論出すには早いだろう。若いうちは悩むといいさ、もう10年以上お前をみてるが、人並みに背も伸びて成長してるし、ハイエミルと言えど寿命の壁はあるんだろうな」
「寿命……」
「そうそう、エミル族の平均は80前後だな。おまえ今は何歳なんだ?」
「……分かりません。いつ眠りについたのかも、曖昧で」
「そうかー、当時バトラーの話じゃ、推定12歳から15歳ぐらいって話はしてたが……」

感覚としては20台中盤前後だろうか。
明確な年齢は不明だが、確かにフェンサーギルド同期たちは、みなキリヤナギと年齢差はあまりなさそうだった。

「でもお前、男にしては背がちょっと小柄だよなぁ、もうちょい伸びると思ってたが」

キリヤナギの胸に痛いものが刺さる。
確かに少し小さめだ。ホライゾンは常に見上げてるし、元幹部のメリエにも抜かれている。

「成長期にナイトの鎧着てたからだろう。あんま気にすんな」

そう言うウォーレスハイムは、大分背が高くて、キリヤナギからすれば壁にも見える。
しかし、憂鬱で気分が沈んでいたキリヤナギは、彼の話で気持ちが解けた。
身長の低さに悩めるのは、キリヤナギが人間であると証明することにも繋がる。

必要悪の現実を知ったキリヤナギは、自分と同じく殺人の重みに悩むグランジと出会った。
銃を扱う彼は、キリヤナギを殺す為に、ケット・シーの力でハイエミルとして再びこの世界へ蘇ったらしい。

悲しいと、キリヤナギは思った。
キリヤナギは部隊として、要請された依頼をこなすが、グランジは、キリヤナギたった一人を殺す為に、生まれていたのだ。
しかも記憶がなく、ただ言われるがままにそれを遂行している。

キリヤナギ自身は、もう十分に生きている上、簡単には死ねない為に、殺されても構わないと思っていたが、グランジがキリヤナギを倒した後、彼自身はどうなるのだろう。
目的を達成されたグランジは、果たして本当に幸せになれるのだろうか。
そう思った時キリヤナギは心に抱いた。

彼、グランジの為に、生きる事は出来るだろうかと、
グランジの最終目的がキリヤナギの死なら、キリヤナギが生きれば、グランジは死ぬ事ができなくなる。
キリヤナギもまた同じだ。
だからキリヤナギは、彼に選択を委ねた。
何も生まない死を受け入れるか。
それとも共に生きるか。
グランジは、キリヤナギと生きると望んでくれた。

グランジは必要悪に悩むキリヤナギをみて、自分自身を客観視しているようだった。
己の手を汚し罪悪感に溺れるキリヤナギは、記憶のないグランジが、その重さを理解するには十分だったから……。

「グランジ君を、騎士にですか?」
「うん、僕の親衛隊。自由に動かせる人が欲しくてさ」
「護衛なら、部隊の大尉達がやってくれるのでは?」
「うーん。あんまり巻き込みたくないんだ……。大分、我儘になってしまいそうだから」
「我儘と分かりながら私兵とは、ずいぶんですね……」

キリヤナギの話に、ホライゾンは少し困惑した。
危うさとは違う別の感覚だ。
キリヤナギの意識の中で、治安維持部隊が切り離されている気にもなる。
しかし、治安維持部隊はすでに1000人超の巨大組織だ。
大きすぎるが故に、キリヤナギの身の回りにはあまり意識が向かなくなってきている。
その上で私兵という形で周りに置く事は、ある意味正解なのかもしれない。

「メンバーは?」
「とりあえず、セオとグランジとメリエかなぁ、後はその内集めるよ」
「……以前伺った貴方の目的は、進みましたか?」

ホライゾンの趣な言葉にキリヤナギはきょとんとした。
そういえば以前、ジンが寮を出るときに話したきがする。

「……興味あるの?」
「少し気になっただけですよ」
「うーん、実はまだ迷っててね。全然かな……」
「そうですか。進展したらまた教えて下さい」
「あまりいいものじゃないけどね……」

苦笑するキリヤナギを、ホライゾンは少し心配になった。
キリヤナギの迷いごとは大体が重い。
大切なものを天秤にかけて重さを計っているような、そんな危うさを兼ね備えている。
治安維持部隊が評議会の傘下になる時や、必要悪の存在。ルシフェルとの約束もそうだ。

キリヤナギはまだ若い。
その重さを理解しきれてはいないまま天秤にかけても、正しい答えは選べない。
相談してほしいとは思う。
だが、相談できない理由があるのも分かる。

「ありがとう。ホライゾン……すまない」
「少し冷静になられて下さい。最近の貴方は、とても危うい……」
「じゃあ暫くは、おとなしくしてるよ。来週から、グランジがうちに住むし」
「そうですか。よかったですね」
「ウォレスさんに言われて立てた家だけどね。広すぎて寂しかったから、少し嬉しいな」
「ハウス・スチュワートは、雇わないのですか?」
「何度か雇ったんだけど、みんなすぐ辞めちゃってさ……、今は最後の人が雇ってくれた執事さんと、今二人だよ……」
「そうでしたか、グランジ君が居てくれるといいですね」
「……うん。ありがとう」

グランジの事を、ホライゾンはあまりよくは知らなかった。
だがキリヤナギが、グランジに何かを感じて居るのは分かる。
ホライゾン自身が越えられない壁をグランジが越えているなら、グランジもキリヤナギのストッパーになり得るからだ。

グランジがキリヤナギと同居を始めてから、キリヤナギは以前のような穏やかさを取り戻し始めていた。
穏やかな暖かい気候に誘われ、またアクロポリスに出掛けては、部隊の中で発生したいじめを解決したり、失礼な態度をとった部隊員と一緒に謝りにいったりもした。
騎士団の態度が気にくわないという部隊員にも理解を求め、たとえ逆らうことが出来なくても、目的は同じである事を伝えた。

うまいものだと思う。
誰しもがキリヤナギに惹かれ、無意識についていく。
恐ろしいとも思った。
だがそれは、キリヤナギを崇拝ではなく客観視できている証拠だと、ホライゾンは自身へ言い聞かせる。

そんな当たり前の日常が戻った頃。
キリヤナギは、セオからの応援要請を心配し、自身もモンスターの討伐へ参加する。
その時に、ホライゾンは始めてキリヤナギの中身を見た。
居る事は、リング時代から聞いては居たのだが、実際に見たのはそれが始めてだった。
今まで頑なに見せようとはせず、その存在すら疑っていたのに、見せられたそれは酷く邪悪な力を持つモンスターだった。

静観していた皆は思っただろう。
あんな化け物が、この組織のリーダーなのかと……、
ホライゾンは部隊が揺れるのではないかと、思った。
しかし、数名の脱退者はいたものの、キリヤナギはあれが何であるかを聞きに来た隊員に、一人一人説明していた。
人間ではない自分のこと、怖いなら止めてくれても構わないと、説明を求めた隊員は、キリヤナギの普段を知っているものばかりだ。
温和で、間抜けな、天然の総隊長。
悩んでいれば声をかけてくれて、怪我をすれば直ぐに助けてくれる。
そんな人間を、一体誰が嫌えるだろう。
見捨てることが出来るだろう。

「ホライゾンは、びっくりした?」
「しました。怖くもなりましたが、あれも貴方なのでしょう?」
「……うん」
「……隠していても始まらないのでは?」
「ぇ――」
「皆は貴方について来ている。貴方自身が信頼していなければ、何も進展はしません」

首の封印に触れるキリヤナギは、ホライゾンの発言にもかなり迷っているようだった。
キリヤナギも充分に理解していることをホライゾンはあえて述べたから、

「隠してたこと、怒るかな?」
「怒って貰えたら……いいのかもしれませんね」
「……そうだね」

皆に怒って貰えるなら、それはそれで喜んでいいのかもしれない。
本当の恐怖や恐れを感じたなら、きっと何も言わず何処かへ消えてしまうから……。

それからまた、目立った事件もなくイリスカードが部隊員に浸透していく中、キリヤナギに南軍から封書が届いた。
合同演習の参加要請だ。
模擬戦が嫌いなキリヤナギにとって、最も嫌いなイベントでもあり、いつも頭を抱えている。
そんな中、キリヤナギの中にピンと何かが走った。

「また、碌でもないことでもおもいついたか? キリヤナギ」
「グランジ、僕はまだ何も言ってないよ?」

合同演習を利用して、ウォーレスハイムの息子と話をする事は出来るだろうか。
もし会うことができれば、少なくとも話はできる。
執務室まで呼び寄せれば、恐らく立場を理解させるぐらいは出来るだろう。

「グランジ、もし良かったら、これからジンの所に定期的に通ってくれないかな?」
「何故だ?」
「僕は嫌われてるみたいだけど、グランジは知り合いだし、僕、ちょっと心配してるんだよね。月一ぐらいで十分だよ」
「……構わないが」

カナトの料理は美味しかった。
焼き魚の焼き加減とか、味噌汁の濃さも好みで、メニューも大分バランスがいい。
あの味がまた楽しめるなら、通うぐらいどうともないとグランジは思った。

キリヤナギは、普段あまり言う事を聞かない彼があまりにもすんなり受け入れたことに、暫く呆然としていた。

合同演習のスケジュールが決まり、ランカーにメールが出された事を確認したキリヤナギは、グランジにも直接連絡を取るために、通信を飛ばした。

が、出ない。

グランジは基本的に、キリヤナギからの通信は無視する。
だからいつも、大体30回は鳴るまで粘る。
鳴っている事はグランジも分かっている筈だ。
鳴らすことで重要だと理解して貰えるならいくらでも鳴らしてやる。
そう思って以前50回粘って悲しくなり、涙目になったのは記憶に新しい。
執事にきいたら、デバイスを自宅に忘れていたそうで救われた。

10回で出ない。
いつもの事だ、まだめげない。
命令を聞いて貰えないのは、キリヤナギが未熟だからだろうか。
こんな情けない総隊長だから、グランジは信頼してくれないのだろうか。
彼の為に生きて欲しいと願ったのに、余計なお世話だったのだろうか。

そんな事をおもい、半ば諦めの境地で、鳴らしていると、14回目がなり掛けたとき、呼び出し音が止まった。
出てくれた!

「グランジー! 今どこにいるの?」
「”キリヤナギ、10回鳴って出なかったら諦めろと言ったはずだぞ?”」

忘れていたが、救われた。
嫌われていないと思えるだけで幸せだった。

通信に出たグランジは、ちょうどジョーカーの自宅へ居たらしく。
キリヤナギは彼に、ジンとすぐ来るように伝える。
やはりジンは優しい。
ジョーカーは、キリヤナギに借りを返したいと言っているようだったが、その要因がキリヤナギ自身であることを彼は知らない。
しかしそれでも、会えるなら充分だった。
まだ顔も見たことがない、任されたもの。
ウォーレスハイムがキリヤナギを目覚めさせた意味だといつの間にか思っていた。
まだ何も返せていない。そうじゃないかもしれない。
だが、行動理由としては十分だった。

アークタイタニア・カナト。
ウォーレスハイムと同じ髪色と、同じ目の色をしている。
間違いないと思った。ずっと会いたかった。

「やぁ、こんにちは」

穏やかな笑みを見せ、キリヤナギは彼に笑う。
ずっと見ていたと、守っていた事を伝えた。
キリヤナギにとっては当たり前の行動であることも、
しかしカナトは、それを望んでは居なかった。
当たり前だとおもう。
勘当されたと認識しているなら、関わりなど望まないだろう。
しかしキリヤナギは、カナトがジンへ大分思い入れていることを知っている。
何年も一人暮らしをしていたのに、カナトはジンを許して同居させているのだ。
特別視しているのは一目瞭然で、ジンがこちらにいる限り、必ずカナトは自分を頼る。
だから今は、会えるだけで十分だった。

「やっとあいつと会ったか。思ったより遅かったなぁ……」
「嫌われていたみたいなので……普通だとは思うのですが」
「だからってなぁ、本当なんも考えてねぇ。悪いな」
「当然です」
「そんで、来週は演習か。アイアンサウスもご苦労なこった。今年は何か考てるのかい?」
「……ティーを、見せようと思います」
「ほぅ……、まぁいいタイミングじゃねぇか。振るいにかけることもできるだろう」
「僕は……」
「怯えてたらはじまんねぇぜ?」

治安維持部隊に加入し、3年を超える隊員はすでに部隊の7割以上を占めている。
このタイミングでキリヤナギの中身を見せることで、彼らが本当にキリヤナギを信頼しているか、試すこともできるだろう。
また他国にも、自身の存在を誇示できるなら、また違った形での動きを見ることができる。
元々評議会と混成騎士団がキリヤナギを封印していたのだ。問題は、知らない彼らがどういう反応を示すかにある。
賭けだとおもう。
怖くもあるが、総隊長として続けていくうえで今後隠し通せるという確証もない。

キリヤナギは演習の当日、自分の私兵を表へ出し、中に眠る彼を起こした。
ナイツ・オブ・ラウンドはそんなに強くはない。
見世物としては十分だった。
キリヤナギは、ナイツ・オブ・ラウンドを倒し、トルマリンを破壊。
その呪いのすべてを、自分の体へ取り込んだ。

死ぬかと思ったが、一部始終を確認したウォーレスハイムが自宅へ飛んできてくれて、呪いのすべてを魔法で”抜いて”くれた。
そこから先は眠っていたため覚えてはいない。
キリヤナギはウォーレスハイムに、今までで一番怒られたが、トルマリンの呪いはキリヤナギの魔力とまじりあう事で、呪いはまき散らさず終息した。

その後の治安維持部隊を、キリヤナギはひどく不安にもおもっていたが、脱退者はいたものの、元々うわさが広がっていたという事もあり、キリヤナギが深く語らずとも理解してくれる隊員はおおかった。
キリヤナギ自身はとても大きな決断をしたと思っていたために、数日間は執務室からでてこなかったが、見かけなくなったキリヤナギを心配して見に来てくれる隊員がおおく、いろんな意味でキリヤナギ自身も救われていた。

「大した事なかっでしょう?」
「ホライゾンはわかってたの?」
「別に貴方が何であろうが同じです。人間でもモンスターでも、貴方であることには変わりはない」
「そっか……ありがとう」

グランジにも、同じような事を言われていた。
脱退者がいた事に愚痴を吐いたら、怖がらない奴を集めればいいと、道を踏み外さないように見張ると……。
間違おうとする自分を止めてくれる周りがいるのなら、あとは自分自身の決意次第だ。

部隊のほぼ全員にキリヤナギの中身が知れ渡り、その話題も薄っすらと消え始めた頃、
アークタイタニア・カナトが、ジンが居ないと言ってキリヤナギを尋ねてきた。
話だけを聞いたキリヤナギは、嬉しかったものだ。
しかし、デバイスの位置が地下のイリス研究所である事が分かり、キリヤナギは酷く嫌な予感がした。
研究所と治安維持部隊の橋渡しをしてくれているカインロストは、その情熱的な研究思考で、確実成果を伸ばしてはいたのだが、ここ最近で、その研究が度を過ぎているとし、研究所そのものに立ち入りを禁止していたのだ。
カナトがキリヤナギに頼りに来たのは、丁度研究所が休みの日でもあり、まさかと思いつつも、
キリヤナギは平静を装いながら、カナトとぬえと共に、地下へと向かった。

予感は当たっていた。
キリヤナギは直ぐ執務室へもどり、セオから詳細な情報をうけ、グランジを緊急通信で呼び寄せた。
イリスカードの浸透を目的としていた評議会は、カインロストが犯した人体実験によりイリスカードの悪いイメージがついてしまう事を恐れていた。

キリヤナギは愕然とした。
人体実験に使われたのが、治安維持部隊所属のランカー、ジンであるにも関わらず、評議会はそんな事よりも、イリスカードのイメージの方に意識を向けていたのだ。

訳がわからない。
自分が飼う犬よりも、使われる武器が大事であるというのだろうか。
キリヤナギは、なにも言えなくなってしまった。
悲しみ以上に、怒り以上に、立場の理不尽さを酷く憎んだ。
動揺して、激怒するキリヤナギに向けて、評議会は、まるでとってつけたように、カインロストの暗殺を指示した。
亡命されれば、評議会はもうカインロストを拘束できなくなる。
また4国にイリスカードの技術が流出してはいけないと言う判断だった。
ますます訳が分からない。
結局、キリヤナギが率いた部隊を、評議会は便利屋としか思っては居なかったのだ。
キリヤナギは、グランジを派遣し、自分は執務室で座っていた。

今までずっと、耐えて耐えて皆に理解を求めてきたのに、仲間すら守れず終わってしまうのか。

ずっと一人で孤独だったジンが、ランカーになってようやく友達ができて、幸せにしていたのに、彼はまた、仲間に裏切られてしまった。

ウォーレスハイムはそれを聞いて、キリヤナギの頭を撫でてくれた。
今まで何度も、キリヤナギが泣いたら撫でてくれた。
間違っていたら叱ってくれたし、正しい事は褒めてくれた。
キリヤナギにとっては、もう血の繋がらない父親のように重ねていた。

ウォーレスハイムから見れば、ここ数年でキリヤナギの封印が常にはち切れ掛けており、情緒が安定して居ないのは目に見えていた。
落ち着いていれば問題無いはずなのに、その落ち着きを心が忘れているのだ。
キリヤナギもそれは理解してはいるようだが、理解だけで抑えられるなら、誰も苦労はしない。

「キリヤナギ、封印。変えてやろうか?」

キリヤナギは、少し驚いたようだった。
今のままの封印では、いつはち切れてもおかしくは無い。
最悪のタイミングで壊れれば、多分また食われてしまうかもしれない。
一つの選択だった。

「ウォレス様は……、僕が生きる意味は、あると思いますか?」
「あ”? なに野暮な事きいてんだ。生きるか死ぬかなんて、てめぇの勝手だろ」

これがウォーレスハイムだ。
起こした時から、好きにしろと言ってキリヤナギを野放しにした。
当時のキリヤナギは、心の何処かで、普通に生きたいとずっと願っていた。
仲間に囲まれて、友人の輪の中で、幸せを願いたいと考えていた。
だから生きる為に、こうしてウォーレスハイムの元に通って、封印を見てもらっていたのだ。
生きていたいから、ウォーレスハイムもそれを知っているから、見てくれる。
封印を変えると提案したのも、キリヤナギが生きて行くために必要であるから聞いたのだ。
本当に野暮な質問をしたとキリヤナギは思い直し、キリヤナギは顔を上げた。

「ごめんなさい……。お願いします……」
「おう、ま、また落ち着いたら戻せばいいさ。とりあえず横になれ」

チョーカーの封印に込められた魔法へ、魔力を注ぐ。
キリヤナギの銀の封印は、太古の遺産並みに貴重なものだ。
それも本来、闇の力に銀の物質的な封印を施した場合。
時間が経つごとに物質は侵食されていく、キリヤナギが目を覚ます前、彼を封印する為に縛っていた銀の鎖は、キリヤナギの邪悪な闇の魔力に侵され紫に染まっていた。
時間は止められていた為に、一定の位置で止まっては居たが、縛られてから封印されるまでの僅かな時間でも、あそこまで黒く染めてしまうのは普通ではない。
しかし、キリヤナギの首に元々あったこれは、キリヤナギが何年付けていようとも魔力に侵されず、錆びることもなくその形を保っている。

今の技術では考えられないものだ。
ウォーレスハイムはあえてその封印に触れず、上から蓋をするだけに留めた。
この銀の封印は、キリヤナギが心にモンスターを宿す上で、自我を保ち、かつ魔法が使用できる絶妙な匙加減で封印されていたのだ。

だが、人の心は成長する。
本来なら、施した人間が、宿主成長に合わせて封印の匙加減を調整する筈が、キリヤナギにはもうそれがいない。
合わなくなれば、封印は力を抑えきれなくなる。
だからウォーレスハイムは、そのキリヤナギの成長に合わせた、自身の二重封印を施した。
キリヤナギの成長に合わせて必要になるもう一つの蓋。
難しい魔法だと思い、ウォーレスハイムは、キリヤナギのチョーカーへ再び封印を施した。

「ウォレスさん……」
「なんだ?」
「僕に、全てを望む価値はあると思いますか?」

キリヤナギの言葉に、ウォーレスハイムは頬を緩めた。
一つの決意の言葉だろう。
元々ウォーレスハイムはそれを望んでいた。
王の器たるキリヤナギは、いずれそれを望み、必ずここへ帰ると確信していたから、

「全てか、大きくでたなぁ。でも俺は、お前がそれを求めるのは、時間の問題だと思ってたぜ?」
「じゃあ、僕を起こしたのは……やっぱり」
「それはきまぐれ。俺はアークタイタニアだし、今の生活で満足してるしな。ここ50年、息子が出て行くぐらいの事しか起こらなくて、暇だったのさ。お前が出世してくのは面白かったぜ? もっと楽しませてくれよ」

アークタイタニア・ウォーレスハイム。
確かに自由人であると、キリヤナギは何度も思った。
自由すぎて何を考えているのか、どこまで考えているのか全く察しがつかない。
しかしそれでも、ウォーレスハイムがキリヤナギを起こした事には変わりなく、キリヤナギが全てを望む事をウォーレスハイムが時間の問題だと考えていたのなら……。
キリヤナギの望みは、ウォーレスハイムが望んでいる事に変わりはないのかもしれない。

新しい封印が施され、キリヤナギの心は再び落ち着きを取り戻した。
暫くは封印が重く、眠かったり魔法が使えなかったりはしたものの、ウォーレスハイムの数回の調整のおかげで以前のような元気は取り戻していた。
しかしホライゾンは、ジンが眠ってからのキリヤナギの心情の変化を心配していた。
部隊員に殺人を許さなかったキリヤナギが、正当防衛における殺人を許すと言いだしたのだ。
ジンが眠ってしまった事で、優しさが身を滅ぼすことをキリヤナギは学んだ。
リング時代と同じ空気をキリヤナギに思い、懐かしさすら感じる。

またカナトが、再び行方不明になりかけた事をきっかけにようやく冒険者連盟に入った。
以前は、入って貰えば飛び上がるほど喜ぶと思っていたのに、実際はようやくと言う諦めのため息と、多少の安堵しか得られなかった。

「訓練、増やされるんですか?」
「うん、お願い。僕もやるからさ……」
「模擬戦は?」
「やるよ。真面目に出る……。必要な時は呼んで」
「……今日も無限回廊へ?」
「……うん。グランジと行ってくるよ」

カナトがジンを目覚めさせる為に、各地を渡る間、キリヤナギはずっと無限回廊へ通いつめていた。
元々地下100層までは、治安維持部隊の攻略が終わり解放されていたのだが、それより更に地下の攻略をキリヤナギは進めている。

「これ以上の攻略に意味があるとは思えませんが……」
「前に評議会と騎士団に話をつけた時、僕達に発言権がないのは、相応の実力が見えないからだと叱咤されたんだよね」
「そんな事が?」

くだらない話だと思った。
殺人を任せるくせに、権利を求めれば実力がないという。しかしこれは、委託しているからとも取れるか……。

「実力を認め、騎士団と対等の立場を得る条件に、無限回廊地下300層の攻略を示された。やれる訳ないと思われているんだよ……」
「しかしそれは、手段が目的になっているようにも取れますが?」
「僕は焦っていないよ。元々前から進めていたし、見てみたい気持ちもあるから、ホライゾンは僕が留守の間、部隊をお願い」

そう言っていつもボロボロになり、キリヤナギは本部へと帰ってくる。
命がけだ。
100層まで行く途中にも何人も死者が出ている。
キリヤナギがその度に悩み、ずっと苦悩している事をホライゾンは知っていた。
だから今のキリヤナギが、とても回廊の攻略を望んでいるようには思えない。

「騎士であり、守護を義務とする貴方が、冒険者まがいの事をやる事に疑問しか浮かびません。どうかもう一度考え直されてみては?」
「……そうだね。なら今日が終わったら、素直に休む事にするよ」
「攻略を辞めると言う選択肢は?」
「僕は、仲間すら守れない人間には、なりたくはないから……」

それで仲間を滅ぼしては意味がない。
評議会が掲示した奈落階層の攻略は、キリヤナギの持つ戦力を削ぐ事も含まれているのではないか。
そもそも自治組織に、階層の攻略を任せることが間違っている。
様々な意味で矛盾だらけだ。
掌で踊らされているようにしか見えない。

結局。ホライゾンの言葉を押し切り、キリヤナギは奈落階層250層まで到達した。

だが、キリヤナギは数日の無理が来たのか、珍しく倒れてしまう。
原因は過労とストレスだった。
ホライゾンは、初めてキリヤナギが倒れたのを見た。
今まで対人関係の悩みなど無縁だったキリヤナギが、珍しく悩み倒れてしまったのだ。
自業自得だとも思ったが、同情もしていた。
本部には一月は来るなと言って、ホライゾンはキリヤナギを締め出し、キリヤナギのいない治安維持部隊が一カ月間続いた。
素直に従ったキリヤナギに、ホライゾンは安心したが、危うさは未だ抜けてはいない。
しかし、隊員達は本部に来ないキリヤナギを心配していた。
自宅に尋ねる者も居たらしい。
それでも、やめてしまった隊員達は今まで以上に多かった。

そんな中で、目を覚ましたジンは、カナトと共にディメンションサウスダンジョンへの攻略へくると言う。
キリヤナギはまだ謹慎中で、代わりにホライゾンがバックアップに向かった。
残されたキリヤナギは何を思うだろう。
彼が心配していたジンは、もう心から信頼する友をつくり、一緒に笑っている。
カナトもまた同じだ。
すくなからず、キリヤナギはこの二人へきっかけを与え、その二人が幸せを感じている事を分かってほしいと思う。

「反省しましたか?」
「……した」

久々に出勤してきたキリヤナギは不機嫌だった。
隊員にも怒られた、会えないと思っていたメリエにも怒られた、ウォーレスハイムにはもっと怒られた、
キリヤナギを知る人全員が怒っていた。
だからキリヤナギも、負けた。
グランジにも距離を置かれていて、最近ようやく帰ってきていた。

だから今日くるのもあまり乗り気ではなかった。
総隊長なんて辞めようかとも初めて思った。
でも、キリヤナギは戻ってきた。

「奈落階層の攻略は、止めろとはいいません」
「へ?」
「貴方は貴方で考えていたのは知っていますから……」
「……でも、みんな怖いから、しばらくはやめる」

それでいい。
時期は、第5期目のギルドランク選抜が始まっていた。キリヤナギが出勤したのもその選抜があったからだ。
名を連ねた彼らの中には、以前と同じ顔もいる。
ホライゾンは相変わらずだ。
1stの彼はキリヤナギと部隊の事を知りすぎている、またキリヤナギを謹慎にできるのもホライゾンだけであると証明され、キリヤナギ以外の最高責任者達の満場一致で逆らえなかった。

「悔しい……」
「また、よろしくお願いします。総隊長」
「何度も同じ人を選ぶなんて僕は感心しないね!」

このやり取りはもう何度か繰り返している。
これ程まで、総隊長へランカーの権限を行使する人間はいない。
喧嘩した時に命令したキリヤナギを、ホライゾンは謹慎にしたのだ。
普通ではない。
ランカーであるからこそだろう。
しかしそれも、キリヤナギが自分にストッパーが必要であると理解しているからにもある。

「……ありがとう」

キリヤナギはまだ若い。最近また、ようやく落ち着きを取り戻してきた。
その中で、キリヤナギの左手薬指には銀のリングがはまる。
プロポーズは質素なものであったが、彼女は苦笑しつつも受け入れてくれた。

また再び平和な日々がくる。
キリヤナギがのんびりしていれば、治安維持部隊は平和だ。

「来週また、フェンサー部隊に新人が入ってきます。模擬戦をしてあげて下さい」
「えぇ……、痛いのやだなぁ」

以前のキリヤナギだ。
模擬戦が嫌いな。戦う事が嫌いなキリヤナギが戻ってきた。
正当防衛の殺人の許可も評議会からの認可も降りて、キリヤナギも皆の身を守って欲しいと願い行使する事にした。
らしくないとも言われたが、自分の為に、仲間の為に守ってほしいと理解を求めた。

それからしばらくは、奈落階層の攻略も休んでいたが、中々動かない総隊長に痺れを切らした隊員達が誘いに来た。
地下を見たいと、300層まで行って、騎士団を見返したいと言いだした。
キリヤナギは諦めかけていたが、彼らの為に今度は少しずつ進めた。
週に一度だけ、任務と訓練はちゃんとして皆を引っ張る。

過酷であるはずなのに、キリヤナギは久しぶりに楽しかった。
気が向いた時は、ホライゾンも来てくれた。
たのしそうにしている皆に引かれて、無関心だった彼らも参加しにきた。
また、それに比例して皆がどんどん強くなっていく。
奈落階層はいつの間にか隊員達の息抜きになっていた。
力試しに100層で遊んでいる彼らもいる。

「堅いんで、いいサンドバッグですね」
「セオ、あまり無理させちゃだめだよ?」

200層付近のセオの趣な言葉に、キリヤナギが戦慄した。
彼は自分の部隊の強化の為に、奈落を利用している。
キリヤナギは大分苦労したが、皆強くなり200層ぐらいなら壁にも感じなくなっていた。

「もうすぐ300層ですから、貴方の悲願の為にも全力で行きます」
「ぇー、僕そんなに……」
「誰がいいだしたか覚えていますか?」
「ご、ごめん……」

セオは本気らしい。

「ありがとう……」
「当然です。我が王よ」

すこし照れたようなしぐさを見せるキリヤナギもセオは久しぶりだった。
グランジもセオも、キリヤナギの事を王と呼ぶ、そう呼び始めたのもキリヤナギが、自分の最終目的を親衛隊の彼らに話してからだ。
キリヤナギは総隊長でよかったのだが、混合するからという理由でそう呼ばれるようになった。
親衛隊としてキリヤナギを呼ぶときは王と、また部隊員として呼ぶときは総隊長と、呼び変えた。
このおかげでキリヤナギも、セオが部隊員としてなのか、親衛隊としてなのかを理解できる。

「貴方の目的が達成されれば、貴方は王になります。今でこそそれに近いでしょう」
「……そうかな。僕はまだ総隊長だよ。ドジで方向音痴で間抜けな、」

困った笑みに、セオは笑って返してくれた。

「そこに不真面目も追加してください」
「ひ、ひどい……」

気が付けば、皆がキリヤナギを呼んでいる。
300層までは、残り10層となっていた。もうすぐ、ようやくすべてが達成される。
ここに来るまでにだいぶ無茶をして、いろんなことがあった。
泣いて、悔いて、悲しんで、別れて、それでもあきらめずに来られた。
だからキリヤナギはこれからもずっと生きていくと決意する、すべてを手に入れるために……。

それから一週間後。
治安維持部隊・奈落階層攻略隊は、悲願の300層目に到達する。


END
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本編 | 【2015-04-30(Thu) 12:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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