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(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

キリヤナギ総隊長の話(前編)
 出演: ホライゾンさん、メリエさん、チャドウィッグさん

あらすじ
キリヤナギが初めて目覚めた場所は棺だった、がんじがらめに封印されたその眠りを彼は受け入れた。
そして目覚めた先で、彼は普通の人生を歩み始める。




 
眠っていた。
長い時をずっと眠っていた。
気がついた場所では、見知らぬ人間達が真っ青な顔で、横になっている自分を覗きこんでいる。

この感覚は二度目だった。
前に目覚めたときも、皆同じようにこちらを覗きこんで驚いていた。
だから、自分が目覚めていることは驚かれることなのだと知った。
そしてその理由も知っていた。

自分は目覚めてはいけない人間なのだと、
それ以前に、人間として生きることは出来ないのだと、目覚めていては人を傷付けてしまうのだと、
そう思って彼は自分の意志で再び眠りについた。
眠らせてくれた人々は、生きられる時代がくるまで安息の眠りを約束してくれた。
自分は、人を傷付けなければ、誰かが悲しまなくていいならそれでいいと思った。
だから、ずっと眠っていたいと思っていたのに……、

「気分はどうだい?」

低いハスキーな声が聞こえた。
自身は、人間用の大きめの柩の中で、頭の上に両腕を持って行った状態のまま、邪悪な色に染まった銀の鎖でがんじがらめに縛られている。
だから起き上がろうとしても、腕と足は全く動かせない。

すると、パキンと言う何かが弾ける音が聞こえて、縛っていた鎖の全てが緩んだ。
ずっと眠っていて、時間の感覚がない。
つい昨日縛られて、今日起きた気分だ。

「起きれるか?」

がたいのいい、タイタニアの男だった。
ゆっくりと起き上がって見ると、対で3枚羽をもっている。
この男が、自分を目覚めさせたのだろうか。

「俺はウォーレスハイム。お前は?」
「……キリヤナギ。エミル・ダークストーカーのキリヤナギ」


これは18年前の話だ。

ウォーレスハイムに起こされたキリヤナギは、一度、彼の自宅へと案内された。
大貴族らしい彼の自宅は、まるで城のように広く豪華な作りをしている。
応接室に連れてこられ、キリヤナギは執事服のタイタニアに小さな箱にはいっているベルトを見せられた。

「これがお前の新しい封印具な」

渡された物にキリヤナギは困惑した。
見た目はボタン式のチョーカーだろうか。
じっと見ているキリヤナギにしびれを切らし、ウォーレスハイムは無理矢理それをキリヤナギへ装着する。

「これでお前の中身は大丈夫。簡単だろ?」

中身と言われて、キリヤナギは返答に困った。
たしかに、中身はいる。
だがこの男は、どこまで知っているのだろう。

「騎士団から聞いたぜ。心にモンスターを住まわせてる怪物を封印してるってな。興味がわいたんで見せてもらったのさ」
「何故……起こした?」
「俺が起こしたかったんだよ。それ以外に理由がいるかい?」
「私は危険だ……。私は、この時代に居てはいけないから……」
「ファーイースト王家の話もきいたよ。ハイエミルがよく生きてたもんだな」

キリヤナギ・オーセン・ロー・ファーイースト。
ファーイースト王家の血を引く、キリヤナギは最後の一人だった。
心に住むこの力も、王族であるが故に宿されたものでもある。

「ハイエミルをエミルが危険視するのは分かるぜ? 力の差がありすぎるからな、だから封印されてたんだろう。でも、今おまえの前にいるのは誰だい?」

再びウォーレスハイムと言う男を見たときに、キリヤナギはようやく気付いた。
漆黒の3枚羽は、タイタニアの上位種族、アークタイタニアだ。

「俺はアークタイタニア、熾天使、堕天・ルシフェルのウォーレスハイムだ。エミルの上位がハイエミルなら、タイタニアの上位となるアークタイタニアの俺は、少なくともてめぇと同じ土台にいるんだぜ? この俺ならやろうと思えばお前を止められるよ」
「なら何故、私を殺さなかった……。私は、目覚めても人を傷つける事しかできないのに」
「本当にそうかい? 人を傷付けるために、お前は生まれたのか?」
「違う! 私は、ファーイースト国の国民を導き、彼らに平和と幸せをもたらす為に生まれ、育てられた……、いつかは王として、人々の為に生きたいと……ずっと願っていたのに……」

もう今はそんな国はない。
ファーイーストは共和国なのだ。
城は廃れモンスターが巣食っている。

「じゃあ、傷付けなければいいんじゃね?」
「!」
「その封印つけてりゃ、前みたいに中身が目覚めても、暴走はしねぇよ」
「これが……?」
「封印外した時に暴れるのかと思えば、何も起こらなくて拍子抜けしたね。そいつはもうお前自身なんだな……」

ウォーレスハイムの言葉は正解だった。
初めて目覚めたばかりの頃は、封印が力を押さえこみ、なんの問題もなかったのだが、年数が経つごとに封印が緩んで、中身の物が目覚めた。
そして、キリヤナギの体ごと全てを乗っ取ろうとした。

「私は、共に生きたいと願っただけだ。私が消えれば、一緒に消えてしまうと思ったから……」
「そうだろうよ……。よく頑張った方だと思うぜ?」
「……」
「まぁいい。しばらくはここにいろよ。久々の外だろうしな。やりたい事できたら、自由に出て行くといいさ」
「何故……」
「俺が起こしたんだから、それは俺の責任だろ? ずっといるなら、俺の護衛騎士にでもしてやるから、もっかい冒険者にでもなってフェンサーギルドからやり直してこい」

訳が分からない。
確かに目覚めたばかりの世界だ、以前眠ってから何年経ったのか分からない。

封印が緩むのを防ぐために、キリヤナギは時間を止める魔法をかけられていた。
だから、一体何年眠ったのか、自分は何歳なのかも分からない。
そんなキリヤナギに、ウォーレスハイムと言う男は、自由にしろという。

生きていいのだろうか。
初めて目覚めた時、この世界は驚くほどに変わり映えて、全く別世界が広がっていた。
しかしキリヤナギは、その世界で友達ができた。
彼らは何も分からないキリヤナギに様々な事を教えてくれた。
キリヤナギはそれが楽しくて、嬉しくて、十分に幸せだったのに、自分の心の中に住むモノは、そんな仲間を許してくれはしなかった。
自分の意志とは別の意志が、自分の体を掻き立てて飲み込んで暴れた。
仲間は自分を止めてボロボロになってしまった。
それを見て、自分は危険なのだと、傷付けてしまうのだと絶望した。
だから、キリヤナギは止める仲間に黙って、眠りを受け入れたのだ。

元気にしているだろうかと思う。
ウォーレスハイムなら知っているのだろうか。
しかし、聞いても会えるかも分からない。

城の窓から街を眺めるキリヤナギに、バトラーは”ナビゲーションデバイス”と冒険者連盟の紹介状を渡してくれた。
前も同じような機械を持っていた。
でもそれとは大分形が違っていて、やはりかなりの年数が経過しているのだと、キリヤナギは理解した。
王族生まれで細剣と槍が得意だった彼は、前はダークストーカーと名乗っていたが、まともにギルドに入ったことはなかった為、キリヤナギはウォーレスハイムに言われた通り、フェンサーギルドに入った。
そこで、槍や細剣、レイピアについて学びなおす事にする。

「へー、フェンサーからのクラスアップ試験首席か、すげーじゃん。流石王族だな」

すごいのだろうか。
元々は王宮での訓練の賜物であるのも大きい。
時間を止めて眠った為に、運動能力も落ちず、そのままの状態なのだ。
ハンデもない。

「とりあえず、これでナイトだな。お前ならダークストーカー飛び越えてガーディアンになれんじゃね?」

ウォーレスハイムは、何故かキリヤナギに期待していた。
起こした責任の意味を、キリヤナギは未だに理解ができていないのに、何故か彼は許してくれる。
自分以上にウォーレスハイムは喜んで褒めてくれて、それが何故か嬉しかった。
将来、彼の護衛騎士になるなら、それも悪くはないのかもしれない。

ウォーレスハイムが起こしたくて起こした自分は、一体なんの為にいるのだろう。

キリヤナギのクラスアップは、そんなに時間を要しなかった。
しかし、ダークストーカーの試験の時、キリヤナギは魔法が全く使えず、試験もままならないまま落ちてしまった。

「あぁー、その首の奴のせいだなぁ……」
「これ……?」
「そうそう。外してみ?」

これまで外した事はなく、キリヤナギは怖かった。
ウォーレスハイムのこの封印のおかげで、これまで普通の人間として生活できたのだ。
だから外したら、どうなるかわからなくて怖い。

「俺を誰だと思ってんだい?」

顔を上げた。
ウォーレスハイムは、熾天使・アークタイタニアだ。
彼は無口であまり話さないキリヤナギを、ずっと観察して言いたいことを探ってくれる。
ウォーレスハイムからいわせれば、外交官としての経験の賜物らしい。

そんな彼が目の前にいるのだ。
キリヤナギは意を決して、首のチョーカーを外す。
すると、じわりと言う感覚から闇の力が溢れてきた。

だめだ。
キリヤナギは押さえようと、しゃがみこんでしまう。

「怖がんな、そんなに強くないぜ?」

強くない?
どういう事だろうか。滲み出る魔力の流動は止まらない。

「共存してんだろ? お前が受け入れてやらなかったら、そいつはまたお前を食うぞ?」

そうだ。
前も怖くて押さえようとしたら、暴れてどうしようもなくなった。

「お前自身なんだから、受け入れてやれ……」

ウォーレスハイムの言葉にキリヤナギは力抜いた。
確かに、これはキリヤナギそのものなのだ。
強く思えば思うほど、魔力が暴走して暴れてしまうなら、強く思わなければいい。
心を落ち着かせて、大丈夫だといい聞かせる。
もう拒絶はしないと、暴れなくてもいいと願う。
そうすると、魔力は漏れ出していても不思議とこわくなくなった。

「平気だろ? ネタばらしすると、その封印、実はそんなに強くないんだぜ? そいつはお前の溢れてる力に蓋をしてるだけて、メインはその銀の方な。そっちは壊れると命に関わるから、気をつけろよ」

闇の魔法と言う力に、何かしらの恐怖を感じていたのは事実だ。
確かにこれをつける前、落ち着いていたキリヤナギは、魔力が漏れ出すこともなかった。
だが、久々に封印を外すとこれだ。
封印がある事に安心して、無意識にも拒絶していたのかもしれない。

「そのチョーカーがあると、多少心の動きがあろうが平気なだけさ。怒ったり悲しんだりしたときに不便だからな」

キリヤナギの心そのものならば、確かにそうだろう。
溢れ出る力が、キリヤナギの抱いていた恐怖なら、恐怖を感じる度に魔力が漏れ出してしまう。
確かにそれでは、まともに生活できない。

「拒絶したらそいつは力貸してくれないぜ? ちゃんと受け入れてやれば、外す必要もないぐらい軽い封印だからな」

平気だと分かると、確かにどうともないのかもしれない。
この力が自分自身なら、確かに受け入れなければコントロールなど出来ないだろう。

その数週間後、キリヤナギは再びダークストーカーの試験を受け通った。
少しやりすぎて、ウォーロックでは無いのかとも聞かれたが、魔法は不得意だと言うと困惑された。
ウォーレスハイムの城へ報告に帰ると、キリヤナギは城のテラスでバイオリンを弾く青年をみつける。
何処か寂しい音色を響かせるバイオリンにキリヤナギは少し聞き入ってはいたが、青年はキリヤナギがいる事に気づくと、逃げるように中へ入ってしまった。

「カナサだな。俺の息子だよ。双子の弟だ」
「弟……」
「上の方が今、家から出ててなぁ。仲良かったから、さびしがってんだよ」
「……」
「上は今、好き勝手してるみたいだが、てめぇなら何かの縁で会うだろう。見かけたら命落とさねぇようにだけは、頼むわ」

そもそも会う機会などあるのだろうかと、思ったものだ。
しかし、自分を起こしたウォーレスハイムが頼むと言うのなら、探してみる価値はあると思う。

ガーディアンの訓練を受けるようになり、キリヤナギにもようやく友人が出来るようになってきた。
無口で感情表現が苦手なくせに、人一倍正義感がつよく、弱いものを放ってはおけないキリヤナギは、自然と周りに人が集まりだして、いつしかそれは一つのリングと言う枠を超え始めていた。

ウォーレスハイムは、そんなキリヤナギをまるで当たり前のように静観する。

「まだ、目覚められてからまだ半年だというのに、随分と立派になられましたな」
「だろ? バトラー。あいつはどの時代でもあーなんだよ。だからみんな怖がるのさ……」

どんな人間でも、関われば無意識に支配されて、服従していく。
キリヤナギは気づいてはいない。
だが、ウォーレスハイムは飼いならす意味を十分に理解していた。
元王族としてのその才能は、この不安定な世界の救世主となると、確信していたのだ。

「そうだな、言葉にしてみるなら……王の器、とでも言うか」

数ヶ月に一度、ウォーレスハイムはキリヤナギの封印をみていた。
友人ができて以来、キリヤナギは自分の庭を持ち、そこで生活を始めた為、以前程の頻度はさがっていたのだが、
リングが拡大し、分割され始めてから、ウォーレスハイムは月に一度は来るよう、キリヤナギへ指示をだした。
魔力そのものは、ほぼコントロールはできている為、問題はない。
だが、心の情動が激しくなりキリヤナギの感情が顕著に現れるようになってきたのだ。
その為、キリヤナギの中のモノがそれに比例して力を持ち、チョーカーの封印がはち切れかけていた。
ウォーレスハイムは、漏れ出したその力を抜く為に、専用の魔法を開発する。

「なんか悩んでんのか?」

何も話そうとしないキリヤナギに向けて、ウォーレスハイムは趣に口をひらいた。
心が大分疲れている。
この時にはもう、治安維持部隊の一部とするリングは10を超えて、述べ400人を超える冒険者が、キリヤナギの下に傘下となっていた。
しかし、キリヤナギはそんな人間関係に悩んでいる様子はない。

「騎士団に、ギルド評議会の傘下に入るよう指示を、受けました……」

ウォーレスハイムの表情が、珍しく濁った。
キリヤナギは、今までで一番重い決断を迫られている。

悩むだろう。
断れば、反組織の可能性があるとして騎士団から目をつけられることになる。
そんなつもりはないのに、国境など関係なく皆を理不尽な現実から、守りたかっただけなのに、拡大しすぎたリングは、自由を奪われようとしているのか。

「……そうなるわなぁ」
「私は……ただ皆を守りたかった。だけなのに……何故、その自由を奪われようとしているですか」

ウォーレスハイムは何も言えなかった。
少なからずとも、こうしてキリヤナギと自分が会っている事も騎士団は知っているのだろう。
ウォーレスハイムは、天界の外交官、堕天・ルシフェルだ。
そんな彼と個人的な深い繋がりを持ち、かつ、述べ400人以上の冒険者を統率するリングのマスター。
放置される訳がない。
裏ではおそらく天界側の独自勢力である可能性も示唆されているだろう。

予想できた事だ。
キリヤナギの無意識な行動と結果は、ウォーレスハイムにとっても想定していた事でもある。
だからウォーレスハイムは何も言えない、が、何も言わないのは自分らしくないと、ウォーレスハイムは思った。

「好きにしろよ」
「……!」
「お前の思う未来に近づける方にしろ。認められたんなら、良かったんじゃね?」
「……ギルド評議会の傘下となれば、私はもう冒険者じゃなくなってしまいます。騎士団の一つの手駒として、いいように使われるでしょう」

評議会側の要請は、悪いものではなかった。
むしろ、ボランティア状態だったものが、完全に組織となり管理される事になる。
キリヤナギはその組織の管理者としての立場と地位を得るだろう。
ハタから見れば、何故断るのかと疑われる話ではあるが、傘下に入ると言う事は騎士団が治安維持部隊を使えると言う意味もある。
いいようにされて、逆らえなくなる。

「私は貴方の護衛騎士に、なれなくなってしまう……。私を起こしたウォレスさんに、何も返せてはいないのに……」

そんな事を悩んでいたのかと、ウォーレスハイムは思った。
ただ興味がでて、きまぐれで起こして、出世すれば便利だろうと思って居た。
予想通りに事が運び嬉しかったものだ。
だが、確かに治安維持部隊が評議会の傘下に入ればウォーレスハイムが、キリヤナギの率いる治安維持部隊に直接指示をだせなくなる。
エミル界側にはその思惑もあるのだろうか。

「そんな事気にしてたのかよ。俺はすっかり忘れてたぜ」
「……」
「別に気にすんな。俺は天界側だし、お前がどうしようが気にしねえよ。それにあんな面倒な連中まとめてんだろ? 俺は面倒くさくて無理だわ」
「私は……」
「自分について来てくれる奴は、責任持って面倒みろ。てめーのその体は、もうてめーだけのもんじゃないんだぜ?」

キリヤナギは思わず自分の首に触れた。
確かにリングが分割された時点から、キリヤナギはもうキリヤナギだけのものではなかった。
仲間の為にある自分を守らなければ、仲間など守ることは出来ない。

「ま、俺はきにすんな。強いて言うなら、俺の上の息子だな。そろそろ帰ってくると思ったら、まだ戻らねぇんだ」
「……」
「会ったらとりあえず、てめーは貴族だって喝入れてやってくれ」
「……はい。ウォレス様、ありがとうございます」
「下に着くのは楽だぜ? しばらくはゆっくりしな……」
「……はい」

その数日後。治安維持部隊は評議会の傘下となり、キリヤナギは条件としてギルドランク制度を導入した。
治安維持部隊の元幹部達が、部隊に有益な人間を選出する異例の制度でもあったか、それが10名と言う少ない人数であったが為、許されたのだ。
その中キリヤナギは、管理者として正式なアクロポリスの騎士となり、その証となる赤いマントを羽織る。

「全く、騎士団も評議会も偉く弱気なものだ。たかが冒険者の組織に首輪をつけるとはな……」
「……メリエ。ごめん」
「気にするな。私は私で動く、用があれば好きに使え」
「ありがとう」
「ホライゾン、お前はどうするんだ?」

「僕は一緒に、流石に心配だからね」
「ホライゾンも……すまない」
「懸命な判断だと思う。だから、気負いはしないて下さい。キリヤナギ総隊長」

メリエは、治安維持部隊の分割リングの一つを率いていたガーディアンの女性だった。
またホライゾンも、リングを数個束ねる幹部の一人でもある。
メリエは治安維持部隊が傘下へ入ると同時に、自身が総括していたリング”シエリジオ”を解散させ、キリヤナギの元から去った。
ホライゾンはキリヤナギと共に、ギルド元宮を本拠とする活動が始まる。

それから数年は平和な日々が続いた。
ウォーレスハイムとは月一で会い、相変わらず封印のメンテナンスをして貰っているのだが、評議会の傘下に入ってからというもの、更に人数は拡大し、気がついた時には1000人を超える冒険者かキリヤナギの元へ集っていた。
リング時代は、加入者一人一人に会って話し、名前や性格まですぐに覚えることが出来たのに、今はもう書類で一気にくる。
一応全てに目を通してはいるが、覚えるのも骨が折れ始めていた。
その為に、面接で顔を合わせた後、こっそり抜け出して見に行ったり、体を動かしたくて散歩にでていったりしていると、大体道がわからなくなって迷子になる。

それでうろうろしていたら、同じく迷子になっていた子供の親を探したり、階段を登るのを苦労している老人を助けていたら、大体ホライゾンが迎えにきてくれる。
こんな事が日常茶飯事でよくあり、キリヤナギはいつの間にか間抜けで天然な総隊長であると部隊全員に知れ渡っていた。

そんな総隊長でも、元気が無さそうな隊員を見つけては悩みを聞いたり、問題があるなら解決に乗り出すので、皆が皆、総隊長としての一目置くのは変わりがなかった。

「で? 本日はどちらまでお出かけされていたんです?」

チャドウィッグのゆっくりとした低い声に、キリヤナギは体を強張らせた。
今日はデバイスを忘れたことに気付かず、街へ出かけ、飼い犬を捜すマダムと一緒に犬を探していたら気がついたら夕方になっていた。
案の定、ホライゾンが迎えにきて、一緒にさがしてくれたため、すぐ見つける事はできたのだが、フェンサーの新人に向けた模擬戦の予定を見事にすっぽかしてしまったのだ。
変わりにホライゾンがやってくれたと聞いて安心していたのに、チャドウィッグは半ば怒りをあらわにするように此方を睨んでいる。

「ペット探しなど、新人に任せればいいのです。やるべき事があったはずですよ?」
「だけど、マダムの目の前にいるのは、僕だけだったから……」

いつから一人称が変わっただろうと、キリヤナギは想いを馳せた。
リング時代は、大体対人を主にこなしていた為、自然と身が引き締まり、毅然としていたのに、評議会の傘下となり、危険な任務を隊員へ任せるようになってから、大分気持ちが緩んでいる。
でもだからと言って、ずっと座っているのは嫌だった。
少しでも、誰かの為にありたくて、出かけたくなる。
ホライゾンは、そんなキリヤナギの唯一の理解者だ。
リング時代の無口なキリヤナギからは、今は考えられない程に口を開き、普通に会話をしているのだから、

「立場を理解しているのかいないのか……。最悪、依頼が来てからでも遅くはないはずです」
「チャド。今に始まった事じゃない。これは総隊長の性分なんだ。理解してあげなよ」
「まだ水曜日だというのに、すでに3回目ですよ。週に何度迷子になれば気がすむのですか。頻度が高すぎます。指示を出すなどやりようがあると思うのですが?」

アークタイタニア・カーディナルのチャドウィッグは、ちょくちょくいなくなるキリヤナギにしびれを切らしているようだった。
真面目な部隊員なら当たり前の反応だろう。

「……管理職が持ち場を離れてどうするんです。それ程まで部下を信頼できないとは、我々も嘆かわしい限りですよ」
「……!」
「例えばですが、新人にパトロールさせるのはいかがですか? 良い研修にもなると思いますし」
「……チャド。それは、強制にならないかな?」
「はい?」
「僕はいいけど、やっぱりやれと言われてやっても、受ける側は嬉しくないよ……」

恐る恐る述べたキリヤナギに、ホライゾンは微笑を零す。
これが述べ1000人以上の冒険者を集めた総隊長なのだ。

「ごめん。今度は約束守るからさ」

素直に謝った総隊長に、チャドウィッグは呆れて何も言えなくなってしまった。
反省しているなら、これ以上責める意味もない。

「分かりました。では来週に入れ替えておきましたので、次こそはよろしくお願いします」

模擬戦は確定らしい。
結局、新人達には何一ついい所は見せることができず簡単に負けてしまった。
本当に情けない。ちゃんと訓練しようと心に思う。

「また、真面目に戦っていませんでしたね?」
「だってホライゾン。当たったら痛いじゃん……」
「痛みを知るから、回避や対応をしようと思うのもあると思いますが……」
「みんな普段の訓練で十分痛い思いしてるよ……。そこに僕はまた痛い思いさせるなんて……」

これだから憎めない。
訓練室の脇のベンチに座るキリヤナギは、ダインスレイブに寄りかかり絶望している。
キリヤナギは一応、フェンサーにつづき、ガーディアンの試験も首席で通っている。
実力は申し分ないのに、模擬戦になるといつもこうだ。

「僕はまだ、うまく手加減できるほど強くないから……」
「なら、努力しかないですね」
「……うん」

そんなことをホライゾンと話していると、目の前のフェンサーの一人に槍の攻撃が直撃し、跳ね飛ばされてしまった。
キリヤナギはそれをみて、ダインスレイブを鞘にしまい、急いで駆け寄る。
魔法は得意ではないと言う総隊長の”ライトヒーリング”を、皆は黙ってみていた。
ホライゾンはそんな様子を観察し、模擬戦は十分な成果があったと、ため息をつく。

そんな平和な日々が続くなかで、キリヤナギは東の方で小さな町が襲撃された事件を耳にした。
珍しく大きな事件だ。
国境付近ではあるが、ファーイーストの緑盾軍の応援要請を受け、治安維持部隊も現場へと向かう。
生き残りは子ども2名だけだった。
恐らく証拠隠滅を図り、皆殺しを測ったのだろう。
生き残った15歳の少年は、襲撃した実行犯を数名返り討ちにしていた。
血だらけの服で、二人は納屋の隅に隠れていた。
何もしなければ、二人はファーイーストの孤児として処理をされていたが、
国境付近の場所の襲撃事件と考えた時、キリヤナギは嫌な予感がした。
町を納めていたのはアークタイタニアの家系だ。
当時は貴族達の間で、アークタイタニアの翼がお守りとして流行しており、誘拐や拉致事件アクロポリスでも増えていた。
だからキリヤナギは、ファーイーストの自治体に掛け合い。子どもを一度、治安維持部隊で保護することを提案した。
事件に関与していたのが、ファーイースト側の豪族だった場合、生き残ったことが知れれば殺されてしまう可能性がある。
もちろん。確証はないが、十分にあり得るとしファーイースト側は、治安維持部隊が連れ帰ることを許してくれた。
少女の方は、当時パニックでとても話せたものではなかった為に、キリヤナギは少年を呼び出して話をする。

突然目の前に起こった絶望を、少年はまだ理解できていないようだった。
当然だろう。
つい先日まで家族と幸せに暮らしていたのに、一夜でそれが終わったのだ。
だからキリヤナギは、少年に生きる道を与える為に嘘をついた。
大人の事情など、15歳の彼に理解できる訳がない。
首都とは違う場所にすむ少年が、同じ国の人間に殺されるかもしらないなど、理解できる訳がない。
目の前の現実すら飲み込めていないのなら、時間が必要だと思った。
これが、15歳のジンとキリヤナギの出会いとなる。

「下手な嘘を……彼女に聞けばすぐばれるとおもいますが」

少年が去った横で、金髪にメガネのアークタイタニア・チャドウィッグが述べた。
2人を守るためには、国籍を捨てさせ、事件の発言権を全て放棄させなければいけなかった。
それも、あの村は首都から離れ、ファーイーストの自治が殆んど及んでなかった事にもある。
またもしも、主謀者がファーイーストの政治関与する重鎮だとすれば、二人が逃げても、死ぬまで追われる可能性があったから。

「今は難しい理屈より、生きて行く意味をみつけて貰わないとね……」

少年は少女と一緒に治安維持部隊へ入った。
しかし、少年は己の過去を引きずり、ずっと一人で何もかもを無心でこなしていた。
キリヤナギには考えられない事だ。
ウォーレスハイムを始めとする、様々な人々に助けられてきたキリヤナギにとって、全てを抱えるジンは、驚く程に孤独な存在に見えたから、

「また、例のジョーカーさんが、治安維持部隊につかまって居ましたよ?」

ジンが自分で書いた履歴書に目を通し、キリヤナギはホライゾンの言葉にため息をついた。
冒険者連盟に加入しないジョーカーが、このアクロポリスに定住している。
無害なアークタイタニアのジョーカーだ。
本来なら放っておくべきだが、キリヤナギはそのジョーカーを放置しておけない理由がある。
その為、常に監視をつけて行動を伝えてもらっていた。

「う~ん……」
「面倒ですか?」
「いや、苦ではないよ。ウォレスさんが好き勝手してるっていうのが理解できただけ」

ウォーレスハイムには、今も月一で見てもらっている。
平和な日常をもう何年もすごし、心もだいぶ落ち着いて全く問題はなかった。
だがその中で、キリヤナギはウォーレスハイムから息子の事をかいつまんで話されていた。
喧嘩したという話と、勢いで勘当だといった話も、親子の問題に部外者である自分がかかわるのも変な話ではあるが、「頼む」と任されている分には、放置することができない。
キリヤナギは騎士なのだ。このアクロポリスに住む冒険者を含めた彼らを、守ることを義務とする。

しかし、自分がジョーカーであるとわかっていながら連盟に加入せずふらふらしているのは、
本当に自分の立場を理解できているのか疑いたくなるものだ。
危ういとおもう、なんとか打破しなければウォーレスハイムとの約束を果たせない。
ランカーの誰かに話をつけて、友人を装い近づいてもらうか……。
そんなことをしても意味はないことはわかる。
冒険者連盟に加入しない時点で彼はウォーレスハイムの息が届く治安維持部隊を嫌っているのだ。
冒険者連盟は、ウォーレスハイムの監修の元にできた制度でもあるから……。

「珍しく悩んでおられますね」

ホライゾンの笑みに、キリヤナギは複雑な表情を見せる。
普段そんなに悩んでいないように見えるだろうか。
だが考えることがなければ、キリヤナギは大体外へでていく。
考え事があれば、ずっと机に座っている。
ホライゾンが察しているのは、おそらくその違いだろう。

キリヤナギがジンのことを心配していると知ったホライゾンは、ちょくちょく見かけるジンを気にかけ、多少の面倒も見ていた。
不器用ながらも強くなろうとするジンに、気持ちながらも力を貸していた。
キリヤナギは、当時ジンに嫌われていると思っていたがために、深く干渉することを避けていたが、第四期ギルドランク選抜がおわり、ジンが5thランカーとして認定されることになる。

キリヤナギにとっては驚くほど悲しい結果でもあった。
友人をつくらず、たった一人でジンは、ランカーの候補に上がったのだ。
元々治安維持部隊の組織が縦社会であるのも、対人という一つの戦いは、たった一人で乗り切ることはできないという考えのもとで作ったものであった為に、
ジンという、たった一人で成し遂げてしまったこの結果は治安維持部隊の一つの特異点であるのではないかとも思われた。
しかし、それでもキリヤナギはジンをランカーに選んだ。
このランカーになる一つのきっかけで、彼が何か変わればいいと願っていたから。

そんな中で、監視していたはずのジョーカーが忽然と姿をけし、キリヤナギは大急ぎで彼の所在を探した。
自分の使える手のほとんどをつかって、北、東、西、南と探し続けたが、数日たっても彼の姿はみつからなかった。
どこへ行ってしまったのだろうと頭を抱えてしまう。

しかもランキングが確定したとき、ジンすらも突然姿を消した。
サウスダンジョンの地下一階で行われたアイアンサウス軍との模擬演習の際、どさくさに紛れて中央の大穴に突き落とされたらしい。
絶望的だと思った。
真っ暗でなにも見えない大穴の中に、ずっと孤独でいた彼が落ちてしまったのだ。
必死で探させたのに、結局何も出てこなくて、キリヤナギはどうしようもなくなってしまった。

「二兎追うものは、一兎も得ず……、昔の人はよく言ったものだね」
「昨晩サウスダンジョンの大穴を、スイレン最高責任者の元で搜索しましたが、彼とおぼしき遺体も所持品もみつかりませんでした」
「……そうか。こんなに人数がいるのに、たった一人も見つけられないなんてね……情けないよ」
「総隊長。搜索したのはスイレン最高責任者です」
「ごめん……。でも悔しいんだ」

結局、人数が増えただけで、何もできない。
ジンもウォーレスハイムの息子も消えてしまった。
大切にしていたと思っていたのに、二つのものを同時に無くして、今まで以上の無力感を知った。
ウォーレスハイムになんて説明しようか。また、ジンと一緒にいた少女になんと言おうか。

そんな事を考えた時、キリヤナギはジンが見つかったという報告を受ける。
また、ウォーレスハイムの息子も同じく発見され、監視役からアイアンサウスの私営病院のカルテを回してもらった。
ウォーレスハイムの息子は、もう一人暮らしが出来ないほどに心身はボロボロになっていた。
また同時に、ジンが寮を出ると言う話もきいて、少し驚く。
ホライゾンから聞くとジョーカーの自宅へ転がりこんだようだった。

「うれしそうですね」
「そうかい? 本当、彼が無事でよかったよ。ジンには、頑張ってもらわないとね……」

キリヤナギには再び平和な日々が訪れたと、ホライゾンは思っていた。


つづく
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本編 | 【2015-04-23(Thu) 12:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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