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(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

二人で図書館に遊びに行く話
出演:デラトさん

ロアという存在を知ったジンとカナト。
武器を自称するルナ。ワーウルフ・ロアという存在にを知るために図書館へと向かうことになる。
しかし、図書館は身分証明が必要で、ルナは入ることができなかった。


 



ピピッ、っと言う電子音が響き渡り、その音はわずか数秒で停止した。
朝の優しい光は、部屋の空気を温めてくれてとても心地よい。
再び眠ってしまわぬよう、エミル・ガンナーのジンは体を起こし大きく伸びをした。
まだ眠いが、ここで眠ってはいけない。
ゆっくりと立ち上がり、ジンはスキニーパンツだけ履き替え、リビングへと下りた。
自宅の洗面台には、カナトの化粧水や日焼け止め、洗顔料がならび、脇には泡をつくるスポンジまである。
はじめは女々しいとは言ったが、使わないのはおかしいと論破され、半ば強要される形で使うことになったが、以来顔のニキビ跡が減ってとてもキレイになった。

洗顔料を使う時は、あわ立てて泡でなぜるように洗う、マッサージもするといいらしいが流石に面倒なのでやめた。
しかし、これだけ手入れをしても彼女いない歴=年齢は揺るがず、現実とは如何に厳しいものなのかと思い知らされてしまう。
メンズ雑誌を買いあさり、思い切って髪型も変えたが、肝心の女の子がみんなカナトに釘付けになってしまい、興味すら示してくれない。
しかしそれでも、隣にいる自分ですら美人だと分かるのだから、嫉妬が一周回って慣れてきている自分が嫌になる。

あぁ、彼女が欲しい……。

そう眠気と空腹でナイーブになりつつも、冷水で泡を流せばそんな気持ちもスッキリ落ちる。
ずぶ濡れのまま手探りでタオルを探していると、ようやくタオルの質感が手に触れて、ジンはそれで顔をふいた。
あまりこするなと言われたのを思い出し、軽く叩くように拭く。
自分も大分影響されているなと思い顔を上げると、長身の大男がタオルを持って立っていた。

彼がここに来てから、もう一週間になる。

「よ、よぅ、ルナ……?」
「おはよう」
「お、おはよう、今日は早いんだな」

自称武器のワーウルフ・ロア。
ルナだ。
カナトの拾った狼は、実は武器で、人型が本来の姿らしいが、カナトが獣型を気に入ったらしく、ペットとしてこの家で飼われる(?)事になった。
その為、扱いが完全にペット化し、犬小屋まで欲しいと言い出したので、ジンが空いている部屋を使わせるよう説得した。
しかし、普段は獣型で部屋もいらず、結局カナトの部屋で一緒に寝ている。

「ジンはいつも早いな……」
「そうか? 普通だと思うけど?」
「カナトはまだ寝ている」
「そりゃあ慣れてないし?」

ここ数日、ルナはカナトが起きて来るまで眠っていた。
ジンはこの時間に会話していること自体が珍しく、新鮮にも思う。

「ジンは、毎日この時間にさんぽを?」
「さんぽっつーか、ランニングだな。めんどくさい時はいかねーけど」
「朝の散歩は好きなんだ。また連れてってくれ」

そういえば初日は連れて行った。
あの時は、まだルナが人型になれるとはしらず、飼い犬を相手にするように撫でたり抱きついたりしてしまったものだが、
今のルナをみると、目も合わせられず頭を抱える。
男に抱きついてしまったのか……。

「どうした?」
「なんでもねぇよ。来たいならいいぜ。ジャージかしてやるよ」
「ジャージ? こっち方が楽じゃないか?」
「へ?」

するとルナは光に包まれて、見慣れた狼へと変わっていく。
何度見ても信じられない光景だが夢ではなく、ようやく驚きもなくなってきた所だ。
しかしそれでも、当たり前に感じてはいけないと心の何処かで思う。

その後ジンは、フード付きのパーカーを羽織り、ルナにリードをつけて自宅をでた。
庭で軽く体操をして、一匹と一人でランニングへ出かける。

朝のアクロポリスは、澄んだ空気に包まれてとても清々しい。
主人に出店を頼まれたゴーレム達が露天の準備をしたり、オープンカフェの整備が初められていたりと、普段見慣れない光景に遭遇する。
あっという間に一周し、ジンは北アクロニア平原のパーティ募集広場にて一息をついた。

持ってきたミネラルウォーターを流し込んでいると、ルナが突然淡い光を放ちはじめ、ジンは慌ててリードを外す。

「大丈夫か?」
「いきなりもどんなよ! ……ちょっと気張りすぎた。すぐなんとかなるさ」

ルナに合わせて走ってしまい、息切れが酷い。
酸欠気味だ。

「すまない。引っ張りすぎたか」
「気にすんなよ。俺が体力ないだけだしな」

獣型だと言葉を話せないことは聞いている。
何かを話したい時はいつもこうして人型になるが、前触れがないので困ったものだ。
なんでも、声帯が言葉を口にできる構造をしていないらしい。

「ジン」
「ん、どした?」
「ずっと聞きたい事があった」
「なんだよ」
「”何故、お前なんだ?”」

あ、っとジンの中で何かが動いた。
忘れていた記憶が、まるで湯水のようにあふれてくる。

そうだ。
カナトを後ろにする空間で、彼はそう聞いた。
何故、ジンなのかと。

「お前、それ前も俺にきいたか?」
「あぁ、聞いた。あの時は時間がなかったが」
「あそこって……結局、どこだったんだよ?」
「あの場所は、俺が完成する以前からあったカナトの世界だ。カナトはあの場所で、ずっとピアノを弾いていた」
「カナトの世界?」
「そうだ。誰の心にもある、自分だけの世界。カナトが俺の物語を読み、俺が少しずつ完成されて行く中で、カナトは、後ろにいる俺をお前だと勘違いしていた」
「へ?」
「でもお前は、カナトを知らなかった」

返す言葉が分からなくなった。
二年前、ジンは心を失いカナトに助けられた。しかし、その目覚める対価としてカナトの記憶の全てを失ったのだ。

二年間、ずっと一緒に居たカナトを忘れ、理解できず、ジンはカナトへ様々な言葉を投げた。
誰だと、何者だと、何故そんなにも思いいれるのかと……。
しかし、カナトはジンを見捨てなかった。

「夢でジンにピアノを聞いてもらう事が唯一の救いだったんだろう。俺をジンと錯覚していただけだが……」

頭が真っ白になって、言い返す言葉が見つからない。
目の前に居る彼は、ずっとジンの代わりにカナトを支えていたのだ。
あの時みせたカナトの強さは、周りが驚いてしまうほど強固なもので、今を思うと感心してしまう。
しかし、それは一人のものではなかったのか。

「何故お前なんだ?」
「しらねぇよ! カナトに聞け!」

聞いた当初は、本当に意味深な言葉だと思ったものだ。
しかし、確かに事情を知らなければ疑問にも思うだろう。
当事者ですら記憶がなく、訳がわからなかったのだから、来たばかりのルナに分かるわけがない。

結局答えも出せぬまま、獣型に戻ったルナとジンは、歩いて自宅へと戻った。
早く帰り過ぎたか、カナトもまだ起きておらず、自宅はひっそりとした空気が支配している。
そんな薄暗いリビングで、ルナが人型に戻って言った。

「家事の真似事ぐらいならできる。何かつくるか?」
「え、あぁ、じゃあ頼む。俺は庭でもうちょっとやってくるわ」

人狼にも料理ができるのだろうか。
聞いた話では、カナトの心を拠り所とし、記憶が共有されているらしいが、ルナ自身が体験した事は、記憶として反映されないという。
ある程度の領域があるとは話していたが、ジンは何一つ理解ができなかった。

ジンが庭で簡単な訓練とストレッチをしていると、部屋から甘い匂いが漂ってくる。
何を作っているのだろと思い、そっと覗きに行くと、きつね色のパンケーキを、丁寧にひっくり返していて思わず見入ってしまう。

「なんだ。ルナが作っているのか……」

カナトの声が聞こえてはっとした。虚ろな目でふわふわと漂うカナトは、ゆっくりとリビングへおりて来て、コーヒーをいれる。

「とても助かる。ありがとう……ルナ」
「気にしなくていい。このぐらいならできる」

机へ座ろうとしたカナトが、玄関から覗いていたジンと目があった。
ジンは甘い物に目がない。

「何をしてるんだ?」
「いや、その……別に何も?」

彼もまた、甘い匂いに誘われたか。たった一人増えただけで、こんなにも空気が変わる。
新鮮だと、カナトは思った。

「勘違いすんなよ! 運動の後の甘い物は大事なんだからな!」
「素直に嬉しいと言えばいいだろう?」
「べ、別にうれしくねぇよ!?」

「む……。ジンは甘い物が苦手か?」
「に、苦手って訳じゃ――」

「朝から甘い物が食べられると聞いてはしゃいでいるだけだ。気にしなくていい」
「別にはしゃいでねーよ!!」

カナトの言葉に、ルナは安心したようだが、完成したパンケーキに甘さは感じずしょっぱかった。


「カナト、今日はどうすんの?」
「図書館へ行きたいと思っている」
「図書館?」
「ルナの事が知りたい」

ジンが顔を上げた。
とりあえずパンケーキにバターを塗りつけるが、甘くないので複雑な気分になる。
ルナもまた、口に含んで残念な表情をみせていた。

「ルナっつっても、図書館となんの関係があるんだよ?」

「ルナは本から来たと言った。ならその本のある図書館なら、なにか分かるのではないかと思ってな」

「安直すぎねぇ……?」

「間違ってはいないが……」
「お前の事が知りたい。この一週間、私はお前と過ごしたが、他のペットと変わらないと思っている」

全然違うと、ジンは心の中で突っ込んだ。
そもそも人型になること自体がおかしいのに、カナトはその根本を理解していないらしい。

「お前は、自分を武器だと言い、人狼だと言う。人狼や獣人はこの世界では珍しくないが、私はまだ、お前が武器だと言うのを理解できない」
「……」
「だからこそ知りたい。ルナの言う武器とはなんだ?」
「……すまないカナト。それに至っては、俺自身としか答えられない」
「ルナの存在が武器なのか?」
「そうなる。が、今は武器じゃない」
「今……?」
「ジン」

ルナに名前を呼ばれ、甘くないパンケーキにハチミツをかけていたジンが顔を挙げた。
二人で何か話しているようだが、ルナがなんであろうと関係ないので、聞いていなかった。

「俺を武器にしてくれ」
「……は?」

あまりにも突飛押しがなく、皿がハチミツで浸ってしまった。

「ジンが武器にできるのか?」
「あぁ、本来ならカナトの武器なんだが、如何せんプロセスが違ってしまって、ジンでなければ使えないんだ」

「いやまて、何の話だよ?」
「やってみた方が早い」

そうしてルナは、カナトに近づき右手を前へ伸ばす形をとらせた。
横にした杖を握るイメージらしい。

「差し出したまま、呼んでくれ、ワーウルフと」

ルナに言われた言葉を、カナトは素直に口にしようとした。
だが、ルナと同じ発音を心がけたにもかかわらず、滑らかな発音で言葉が紡がれる。

「ワーウルフ」

自分の言葉とは思えずカナトは、息を詰まらせた。
横にいたルナが光に包まれて消え、ジンの手元へとそれがゆく。
驚いたジンは、ナイフを落として思わず立ち上がった。

手元に完成したのは、真っ白な曲線を形創るクロー、アサシン系の爪武器だ。
しばらくは呆然と武器を眺めるが、この武器をジンは見覚えがある。

「これ――」
「武器か……!?」
「……武器だな」

カナトが言葉に困っている。
当たり前だ。
先程人型だった彼が、武器になったのだから。

「ルナは!?」
「武器って言ってたし、これだろ?」
「しかし、これは違う……」

信じられない気持ちもわかる。
だが、目の前に起こった事を疑える訳もない。

「もどせ、ジン!」
「へ!? わかんねぇよ?」
「お前がルナを武器にしたんだろう!?」
「カナトがへんな呪文唱えたからだろうが!!」

二人がぎゃあぎゃあと口論をはじめた時、ジンの手にあった爪が弾け、光の粒となった。
そこから人型となり、中腰のルナが現れる。
すっと立ち上がった彼は、二人を見据え、申し訳なさそうに視線を落とした。

「すまない。これが武器の意味だ」
「何故ルナがあやまるんだ?」

ルナからすれば、二人は仲がいいのか悪いのかよくわからない。
しかし、己が武器である意味を伝えられたのは大きかった。

「カナトが唱えたのは、俺自身が武器になる合言葉のようなもの、外したいときは、ジンが手を離せば自動的に解除される」
「へぇー、爪ってことは、あれか、お前があの時の――」
「そうだ。あの時、武器の宿主がジンになってしまった。以来俺が武器になると、ジンの手元へ行く」

「なんの話をしているんだ……?」

カナトが首を傾げている。
ルナの言う出来事は、カナトに呪いがかかったとき、ジンはその呪いの根本を倒した時の事だ。
実体がなく、倒せない敵に対してこの武器は唯一攻撃を当てた。
その武器がルナの爪。先程のクローだったのだ。
しかし二人からすると、カナトにどう説明すればいいかわからない。

「とりあえず、ルナが俺の武器になって、カナトを助けたんだよな?」
「そうなるな……」

「素直に分からないと言えばいいものを……」

この二人に説明を求めること自体間違っていた。
やはり図書館へ行くべきだろう。

「でも武器が出てくる本なんて図書館にあんのか……?」
「ルナの言動からみるに、新生魔法系列のシステムプログラムの節を感じるが……なんにせよ、手がかりが掴めそうではある」

システムプログラムとはなんだろう?

言葉の意味がわからず、肯定も否定も出来ない。
ジンはそもそも、カナトが何処でルナ本を手に入れたかも知らないし、中身も読んではいないのだから、

「図書館には俺も興味がある。行ってみたい」
「そうか……しかし、図書館はペット禁止なんだ。すまない」
「え……?」

「ひ、人型で連れて行けばいいだろ!」

固まったルナに、ジンが慌ててフォローを入れる。
なぜそこで感心するのか。
ルナが人間になってから、カナトはどこかおかしい。
始めて飼うペットを間違えたきがする。

「ならルナ、人は沢山いるが吠えては駄目だぞ!」
「分かっている……」

「ま、まぁ、迷惑だしな……」

番犬らしく、見知らぬ来客がくると警戒して吠える。
ジンが通販で頼んだビデオソフトを深夜配達で受け取ろうとしたら、獣型のルナが起きて吠えてきたのは驚いた。
結果、カナトに隠していたものが全部ばれて、ジンを馬鹿にするネタにされている。

「ベッドの下はいい隠し場所だな? ジン」
「てんめぇぇ! それ以上言ったら怒るぞ!!」

収納場所など、クローゼットかベッド脇のチェストぐらいしかないのにひどい。
自分だって男であり、人並みにあるものはある。
隠し事の一つや二つはしたいものだ。

「ジンは制服が好きなんだったな?」
「ルナ、あまり口にするものではない。身内以外に知れたら、私達にもあらぬ疑いをかけられるかもしれないからな」

「てめぇら覚えてろよ……」

人型ペットを飼うカナトに言われたくはない。
散々な会話ではあったが、二人はその後、普段とは違う服装へ着替える事になった。
図書館は貴族街にある為、カナトは私服のジンが悪目立ちせぬよう、リボンタイの着いた正装を貸す。
青がベースであり金の装飾が入るそれは、スマートなデザインでもあり、細身のジンへ珍しく似合った。
カナトの方は、裾のながい黒がベースのサディアスベスト。
銀の飾りが胸につき、こちらも豪華だ。

「ルナはどうするか……」
「つーか、サイズないだろ。デカイし」

「俺はこのままでも構わないが……」
「しかし、あまりラフな格好だと、悪目立ちして入館を断わられる可能性が……」

「とりあえず行ってみようぜ? だめなら外でまっとけよ?」

カナトがリードの準備するのを待ち、三人は図書館へと向かった。
主に、アクロポリスへ住む貴族達が利用する巨大な図書館だ。
世界中から集められた、各国の歴史書から、最近アクロポリスで発行された雑誌まで、千差万別の本が置かれている。
最近では、オープンカフェまで開店し、貴族達の憩いの場として利用されていた。
一般でも利用は出来るが、入館料の高さと身分証明が必要であるため、大体の人々は面倒で訪れない。

「カナトは始めてなのか?」
「大分久しぶりだ。実家にいた頃はよく連れてこられ、主に国家の成り立ちや経済を学んだ」
「へー」
「と言っても、アクロポリスの歴史はまだ浅い。私が学んだのは、外交官としての考え方が殆どだがな」

元貴族の名は伊達ではない。
そんな貴族生活から一人暮らしまで経験したのだから、それなりの知識や経験はあって当然か。
穏やかな貴族街を歩き、図書館が見えてきた頃、ジンがふと歩いていた足を止める。

「カナト」
「なんだ?」
「身分証明いるんだよな?」
「あぁ、そうだな。アクロポリスで最大の蔵書量があるので安全面が配慮されているんだろう」
「それはいいんだけど……」

ジンが、目の前のルナを見る。
それをみてカナトがはっとした。
ルナは身分証明がない。
どうすべきかと思ったが、ふと図書館から、黒ぶちの犬をつれた日傘の婦人が出てきて、二人は顔を見合わせた。

@

「カナト様ですね。お顔写真からご本人と確認致しましたので、過去の会員データから会員証を再発行させて頂きます」
「……ペットの方は連れ込んでも平気だろうか?」
「一般では厳禁となっておりますが、カナト様は問題ありません。ご自由におくつろぎ下さい。では今回は、お一人で一般の方とお見えのようですが……」
「あぁ、待遇は奴と同じで構わない。ただペットを連れ込みたいだけなんだ」
「もったいないお言葉ありがとうございます。しかし、時期天界の重鎮たる貴方様を一般として扱うことは出来ません。お連れの方も同じくして、同等のサービスを提供させて下さいませ」
「そ、そうか。ありがとう。しかし出来れば、私がここに来ている事は、公にしたくない。会員証は一般で作成してもらえないだろうか……」
「なるほど、かしこまりました。では、本日限定のカードと、一般のカードを作成致します。次回また正式に再発行を受け付けにて行う形で構いませんか?」
「とても助かる。ありがとう」
「はい。お一人で来られたということは、ご家族にもお話しされて居ないのでしょう、安心してご利用下さいませ」

一礼した受け付けの女性に、カナトは苦笑いで返した。
嘘ではないが、騙している罪悪感でふらついてしまう。
認識カードを二枚もらったカナトは、ベンチで待つジンと獣型のルナにため息をついた。

「遅かったな」
「まさかここで貴族を名乗るとは思わなかった」
「いいじゃん、貴族はペットオッケーなんだろ? 待遇もよさそうだし一石二鳥」

ルナが何かを言いたげにしっぽを振っている。言葉はないが、感謝を示しているようにも見えた。

「とりあえず、資料探しだな。武器のとこにあるのか?」
「わからない。しかし――」

「行ってみる価値はあるだろう」

獣型のルナが人型になり、二人がぎょっとした。
受け付けの人間が席を外したタイミングで変わったようだが、それにジンが慌ててリードを外す。

「俺は武器だからな」

武器には見えないペットだ。
人型に戻ったルナを連れて、二人は武器の本が並ぶブースを探した。
床から天井まで並ぶ巨大な書棚には、武器の作成のレシピから、優しいファイター系の心得と言う初心者向けの入門書まである。
その中の図鑑のみが並べられたブースを見つけ、二人は背中合わせで本を探した。

しかし、ジンがいくら探しても武器の種類がかかれた本しか出てこず、一冊ずつ確かめるのが億劫になってくる。
眠くもなり筋を伸ばしていると、後ろがやけに静かでジンは趣に振り返った。
すると、カナトが踏み台に座り、熱心に本の中身を見ている。
見つけたのかと思い、覗きこむと文字がびっしりと書き込まれた武器の歴史書だった。

「カナト?」

はっとして本を閉じる。
どうやら読みふけっていたらしい。

「どうした!?」
「さぼんなよ……」
「貴様とは違う!」

本が好きなのは知っている。
気に入ったらのめり込んでしまう性格も、
ジンは文字をよむことは苦手なので、本は睡眠導入剤だが、カナトにとっては一つの趣味なのだ。
ならせっかく来たのだし、ある程度は楽しんでいいとは思う。

それから30分ほど経ち、ジンがようやく棚の1列を探し終えた頃、通路から、ルナがティーカップの乗ったワゴンを押して現れる。
軽いお菓子も添えられていた。

「サンキュー、ルナ」
「カナトのカードを見せたら見繕ってもらえた」
「へー、貴族待遇すげえ」
「そうか……?」
「だって憧れるじゃん? 毎日いいもん食ってさー、広い家で、面倒なことはメイドちゃんがやってくれんだろ?」

カナトが噴き出した。
小さく笑いだして、ジンが真っ赤になる。

「お前なら、すぐ帰りたいと言いそうだがな」
「なんだよそれ!」

カナトがツボに入ったのか腹を抱えて笑う。
大声は出せないので押し殺しているが、ジンからすれば何が可笑しいのか理解出来ない。

そっぽを向いて、ジンが再び本棚へ向き直ると、突然何かの影に覆われた。
恐る恐るそちらを見ると、大量に重ねられた本が、雪崩のように崩れ落ちてくる。

「うわぁぁぁぁあ!!」

分厚い本が降り注ぎ、あっという間に埋れてしまった。

「うわぁぁ! ごめんなさい大丈夫ですか!?」

ジンは埋れて動けない。
カナトは音に驚いたが、様子を見てため息をついた。

ワゴンで本を運んでいたのは茶髪のアークタイタニア。
黒羽の四枚羽を持っている。

「ごめんなさいごめんなさい。前がみえなくって……」
「お、重い……」

一生懸命に本をワゴンに戻す彼は、持ち上げた本を、靴の上へ落とした。
小指にクリティカルが入ったのか、走った激痛に思わず屈みこんでしまう。

「だ、大丈夫ですか?」

悲鳴を上げたいが図書館では静かにと言う張り紙が見えて、必死にこらえた。
見かねたカナトが、涙目になる彼の本の整理を手伝う。

「ずびばぜん……」
「お気に入りなさらず、しかし、この大量の本は――」

「カナト助けろぉ!!」

埋れていたジンが、ようやく這い出てきた。
仕方が無いので、三人で倒れた本を整理し、ワゴンへもどしていく。

「ごめんなさい。返却された本を元の棚に戻す作業してて……」
「なるほど、職員の方ですか」
「僕はバイトです。悪いこと出来ない顔してるっていわれて、紹介されて……」

確かにゆるそうな顔をしている。
若いのか、バイト自体に慣れていないのか、言葉使いもあどけない。

「ここブースなら、貴族さんはめったに来ないし気楽にできるんで……」
「ふーん」

ジンがむすっとしている。
確かに本に埋められれば、誰でも腹がたつだろう。

「あ、僕、アークタイタニア・ストライダーのデラトっていいます」
「アークタイタニア・ジョーカーのカナトです」
「手伝ってもらってありがとうございます」
「いえ、お気になさらず」

「デラト? お前さ、本当に貴族さんらが来ないと思ってんの?」
「え? 来ないと言うか貴族さんは一般の人とあんまり会いたくないみたいだし? それにここは武器の本のブースなんで、貴族さんは関係なさそうだし?」
「だってよ。カナト」

「あまり責めるな。私達も特権を利用しているに過ぎないのだから」
「へ?」

「お前が言うならしんね」
「あ、あの……、あの、あなたは?」
「俺はジン、エミル・ガンナーのジンだよ」
「えっと……」
「俺は関係ねぇし、そっちに聞け」

デラトが恐る恐るカナトをみる。
鼻でため息をついた彼は、ルナの入れた紅茶をすすり、青くなるデラトを見た。
受付で貴族と名乗ってしまった以上、ここで一般というのも辻褄が会わない。

「私は、アークタイタニア・カナト。天界での名は、カナト・フィランソロ・フォン・メロディアス。父は天界の熾天使ルシフェルであり、私はメロディアス家の第一後継者だ」


デラトが真っ白になるのが分かった。
ジンもまた、初めて聞いた相方の名前に息をのむ、名前の内でフォンは生まれを示す言葉だ。つまり、メロディアスは、カナトの実家の名前を指すもので、フィランソロは、母方の名前だと憶測する。

「メロディアスって、ルシフェルさんの!? フィランソロって、たしから、らふぁ……っていうか、しししし失礼を――」

「気にしなくていい」
「ああありがとうございますす」

カナトがふと笑い、正座をしたデラトに手を差し出した。
少し驚いたデラトだが、手をとってゆっくりと立ち上がる。

「そいやアークタイタニアって貴族だろ? デラトはちげーの?」
「一言で言えばそうだが、アークタイタニアはあくまで天界の貴族だ。此方に来た時点で政治的な権力は失っている」
「僕、天界では貴族ですけど、うちは、アクロニアで言う自治体のリーダーみたいなもんなんで、カナトさんにくらべれば、ぜんぜん……」

「じゃあさ、そんなちゃんとした名前があるのに、なんで言わないんだ? 理由とかあんの?」
「こちらの世界に来た時点で、フルネームはただの長い名前だ。プライドの高いアークタイタニアは名乗るだろうが、タイタニア達の大半は試練として1度記憶をけされている。フルネームで地位を把握できるのは、デラトのような同じアークタイタニアぐらいだ」

確かに、突然この家の出身者だといわれても、ジンには何がすごいのかよくわからない。
デラトは理解したようだが、天界を知らない人間に天界の立場を訴えても、エミル界にいる限り意味がないのだ。

「……所で、デラト」
「な、なんでございましょう?」
「資料を探しているんだが、よかったら探す協力をしてくれないか?」
「ぼ、僕で宜しければよろこんで!! 何の本ですか?」
「人型になる武器の資料を探している。本からで出来たんだ」

デラトが目を点にした。
ジンもこれには、流石に言葉を失ってしまう。

「そんな直接的な事言ってもわかんねーだろ?」
「しかし、他にどう言えと言うんだ?」

確かに本から出てきた事も間違いないし、本人が武器と自称するのだから、言い換えようもない。

「過去の戦士がつかった武器の資料ならあったような……」
「戦士ではなく、狼なんだ」

デラトがナビゲーションデバイスの検索アプリを起動し、ワード検索をかけている。
しかし、人型、武器、狼、とワードをいれても何一つ引っかからない。

「せめて武器の名前とかわからないですかね」
「名前か……」

「ワーウルフ・ロア」

後ろにいたルナが、響く声で答えた。
振り向いた三人は、突然の言葉に顔を見合わせる。

「それで引っかからければ、ワーウルフ・クローで検索してみてくれ」
「人狼爪ですか? ちょっとこわいですね」

「いいから早くさがせよ! デラト!」
「ひぃぃ、ごめんなさいごめんなさい」

ジンの機嫌が悪いなぁとカナトは何もいわず見ていた。
ダメ元でデラトは、言われた通り”ワーウルフ・ロア”でアプリケーションの検索を行う。
すると、一件だけ該当する資料が参照された。

「ありましたけど、これ僕の権限じゃすぐに参照できないですね……A級資料って事は、一般だと閲覧できないみたいです」
「まじかよ。せっかくきたっつーのに」

「一般では? なら、貴族ならどうだ?」

「あ」と、デラトが腑抜けた声を上げる。
その後デラトの案内により、二人は図書館の最奥のフロアへ案内された。

「あれ? さっきの銀髪の人は?」
「銀髪?」
「ワーウルフって教えてくれた人です。知り合いじゃないんですか?」

カナトは少し迷い、リードで繋いだ獣型のルナをみる。
上手いものだ。
目の触れないよう、影に隠れてうまくやってくれる。

「気が利くからな。トイレにでも行っているのだろう」
「でも、ここから先、認証があるんで待った方が良くないですか?」
「いや、大丈夫だ。気にしなくていい」

首を傾げるデラトをみて、ジンは足元のルナを見下ろす。
獣型の彼は、カナトの横へ位置を合わせぴったりと張り付き、勝手な行動をなに一つとらない。
こんな頭のいいペットも他にはいないだろうと、ジンは呆れたため息をついた。

脇にあるカードリーダーへカナトのカードを通すと、音もなくその扉が開き、三人を招き入れる。
正面に居たのは、白いドレスをきた女性。受け付けを兼ねているようだ。
彼女へ探している本を説明し、デラトが案内をするように頼むと、快く受け付けてくれて書庫の概要マップをデラトへ転送してくれた。
二人は護身用に携帯していた銃を受付へ預け、貴族しか入れないというフロアへ入る。

「うわぁ! 僕も初めてはいるんですよ。緊張する」
「でも思ったよりふつーだな」

ふとカナトをみると少し顔色が悪い。
よくはわからないか、今の状態がカナトにとって良くないことなのは分かる。
久しぶりの環境に実家の事を思い出したのか、それとも騙している事にストレスを感じているのか。
両方か、どちらにせよ。カナトは神経質だ。
ジンが悩まないところで、酷く抱え込む。

「どした? カナト」
「いや、なんでもない。少し疲れただけだ」

獣型になったルナも心配している。
早めに帰るか。

「あ、この先ですね!」

扉を通ったさらに扉の先は、少し重い扉があるだけで、鍵は掛かって居なかった。
デラトが力をこめて、扉を押し込めると、自動で天井のランプが付き、
12畳程の広い部屋が現れる。
夜空の壁紙が床と天井へ施された空間には、回転式の書架が三つ静かに置かれていて、全面の壁は、古い本や新しい本で埋め尽くされていた。
脇を見ると小さな立て札に、”イリス武器関連”と書かれている。

「イリス……武器?」

ジンが読み上げる中、カナトは中央の白い書架の前に立った時、見覚えのある数字に目を惹かれた。
下から1から13まで、連番の本がならんでいるが、右の黒い書架と左の茶色の書架には、本が飛び飛びでしまわれていて、全て揃っているのは中央の白い書架だけだ。
カナトはその白い書架の下から9冊目の本を手に取り、恐る恐る中身をみる。
数ページみた時、カナトは思わず息を飲み込んだ。

「ルナ、これは……」

振り向いたカナトに応え、入り口で待機していたルナが人型となる。
思わず硬直したデラトにかわまず、カナトへ駆け寄った。
ルナがカナトの持つ本を覗きこむと
そこには、見覚えのある物語が綴られている。

「同じだな……」
「同じ本なのか?」
「いや、違う」

「なんかみつけたのか?」
「これはルナの本だ。私が読んだ物語の本」
「は!?」

拍子が抜けた。
カナトの持っている本が、ここにもあったと言う。
同じ本なら、検索に引っかかるのも当たり前だ。

「しかし、なぜこんなにも厳重に……?」
「い、いぬが、人に!? か、カナトさんそれ……」
「あぁ、デラト。ルナなんだ。仲良くしてくれ」
「は!?」

「わりぃ、俺らにもよくわかんねぇんだ。とりあえずルナはルナって事で……」

デラトが固まって此方をみている。
しかし気にせず、カナトは壁に敷き詰められた書棚をみた。
確かにイリスカードや思いの力を基本とした、様々な資料がならべられている。
その中の一際古いファイリングケースには、イリス武器計画と書かれており、カナトは思わず手に取った

「イリス武器化計画」

「武器化?」

その資料には、想いの力をイリスカードと言う形で結晶化できるなら、武器と言う形にもできるのでは、と言う内容だった。
ボロボロの資料を丁寧にめくり、後ろにいるジンに対して続きを読み上げる。

「”武器の形にすることは容易ではあったが、思いの集合体であるそれは、新しい心となり自我を形成した”」
「自我? 心?」

「俺だ」

人型のルナが、はっきりと述べる。
彼は堂々とした様子で立ち尽くし胸に手を当てている。

「ロアについては何かあるか?」
「……ないな」
「イリス武器の開発は、第一世代、第二世代と続き、その第二世代が”ロア”とよばれている。つまり、ワーウルフ・ロアである俺は、第二世代のイリス武器なんだ」

資料をめくると、確かに第一世代の概要が書かれていたが、こちらは細かい文字が羅列されていて、読む気が起きなかった。

「第一世代についてはわからないが、第二世代、”ロア”は過去の物語をモチーフにして開発されたもので、俺のモチーフはワーウルフ、人狼だ」
「モチーフ?」
「人の想いの力とは、何かのきっかけがなければ発生しない。物語をモチーフに連想させることで、安定的に武器を形成できるようになる。あとはシステムに従いそれを具現化すればいい」
「つまり、人のイメージを書き出し、実体化させる?」
「そうだ」
「……しかし、それは人によって違いが現れないか?」
「武器の形状やロアの姿は、物語の挿絵などであらかじめ宿主へイメージをつける。性格も物語を伝って伝わるが、カナトの場合は、俺が人狼だけではなく、獣型であることもイメージに含まれていた。獣型は、本来の俺にはない姿だが、カナトの思いの力を媒体とした為に、それが反映されたんだ」

「つまり、カナトさんがルナさんを犬だと思ったから、ルナさんが犬になれるようになったってことですか?」
「俺は狼だが、間違ってはいない」

不思議な話だ。
思い描いたイメージの具現化など、誰しも夢にみることだろう。
憧れ、抱いた物をイリスの力で具現化したと言うのだ。
手元にあるイリスカードは日常品で、始めは心が発する力として抵抗があったが、暖房や冷房などの消耗品として活用するようになり、持っていた抵抗もいつの間にかなくなっている。
しかし、目の前のルナをみると、思いとはやはり心そのもので、新しい人格を形成することもできるのだ。

「面白い力だな」
「まだまだ説明が不十分だが、俺から話せるのはこのぐらいだ」

「さっぱりわかんねぇけど?」
「俺も、どこから話せばいいかわからない。そういう物だと捉えてくれ」

手元の資料はイリスカードの作り方から始まり、イリス武器については構想ぐらいしか書かれていない。
つまり第二世代の話は、この資料からさらに新しいものだと言うことになる。
しかしまさか、ペットについて調べに来て、イリスカードの資料へ当たるとは思わなかった。
厳重に管理されるのも納得がいき、長居するのも良くないと思う。

「カナト、お前ルナの事なんだとおもってんだ?」
「狼だろう?」
「そ、そうだけど……」

人型が本来の姿だと、あえて言うべきなのか。
ちゃんと話すべきなのか、どうしたものか。

すわらせて撫でるのはやめろ。
ルナも言うことを聞くなと突っ込みたい、
宿主である後ろめたさもあるのか、逆らえないのか。

「あ、僕、そろそろ休憩時間なんで、帰っていいですか?」
「デラトてめぇ……」

「あぁ、付き合わせてすまない。ジン、私達も帰るか」
「ここのバイトって全部自己管理で、時間通りに休憩とらないと、休憩けずられちゃうんですよねー」
「そうか、大変だな……」

同情するカナトは、人がよすぎると思う。
しかし、この図書館へ来てからカナトの態度に違和感を覚えていた。
具体的にはわからないが、疲れだけではない気がする。

「思ったんですけど、カナトさんって本当に貴族なんですか? 雰囲気が全然違うし」
「そうか、お前は正直だな。しかし、今言えるのは私がアークタイタニアであることだけだ。それ以上は、図書館の外で話そう」
「あ、なら僕、夕方にはバイトが終わるんで、その時に」

「なんだよカナト。用事でもあんのか?」
「……今日のジンはえらく機嫌が悪いな。嫉妬か?」
「だれがお前なんかに嫉妬すんだよ! 俺はこいつの態度が気に入らないだけだ!」
「そうなのか? 私は若くていいとは思うが……」
「やっぱりおかしいぜ、お前。ここに来てから……」
「……!? そうか、すまない。ここは父の図書館だからな……」

視線を落としてしまったカナトに、ジンは戸惑ってしまった。
いつものなら、売り言葉に買い言葉ですぐに喧嘩になる。しかし、今はそうならなかった。

「あ、あの、カナトさん? 別に今日じゃなくても……」

デラトが間に入ろうとした時、突然入り口の方から正装の係員が駆け込み、図書館の中へ走り抜けて行った。
そしてそれと同時に聞きなれないアナウンス音が響きわたる。

「”現在、一般図書の取り扱いフロアにおいて、ブーフが大量発生し、封鎖状態となっております。幸いこのフロアまでの侵入は確認しておりませんので、駆除が終了するまで今しばらくお待ちください”」

「すっげぇ冷静なアナウンスだけど、やばくね?」
「ぁぁあ!! そうだ、今日新しい古文書の搬入作業があったんだった……」
「古文書?」
「古すぎる本だと、魔力が宿ってモンスター化するんですよ。僕、魔力除去の手伝い頼まれててすっかり忘れてた……」

「ブーフならあまり強くはないが……」
「搬入する時点で大体の魔力は添いでる筈なんで無害でしょうけど、早く捕まえないと……」

「捕まえる? 倒した方が早くね?」
「だめですよ! 貴重な資料なんですから、傷つけたら一瞬でクビです!」

大変そうだ。
ストライダーなら、鞭をつかい無傷で捕まえることも可能だろう。

「とにかく、行ってきます!」
「おいおいまてよ。手伝わせろよ!」
「は?」

「乗りかかった船だ。……幸い武器は沢山ある」

なんの話だろうと、デラトが首を傾げる。
受付の正面ドアはロックがかけられ、出る事ができない為、デラトが係員の裏口へと案内してくれた。
その道中で、ジンは預けていた銃をとり、防犯用に常備されていたゴム弾を持ち出す。
ゴム弾はある程度距離があれば、貫通しない安全な弾丸だ。
うまくやれば、本に傷を付けず落せるだろう。

「カナト、お前はどうすんだ?」
「少し不得意な事をするつもりだ、フォローを頼む」
「え、おう?」

意味深だが、カナトの太刀は自宅に置いてきており、今は自動式拳銃しかない。
拳銃で普通に射撃すれば本はひとたまりもないだろう。

「あ、あのカナトさん。銃は、使いませんよね……?」
「使わないが?」
「よかった…!」

銃は使わない。
ならばどうやって捕まえるのか。
デラトに案内された係員通用路から、二人は一般のフロアへと戻る。するとそこには、浮遊するブーフがパタパタとフロア中に飛んでいた。
しかし、魔力は削がれて魔法が使えないらしく、その辺の客にイタズラをしたり、飛び間わったり、怯えて隠れたりしている。
旗から見れば、逃げた鳥が暴れているだけにも見えた。

「たのしそうだな」
「笑い事じゃないですよ! 捕まえたら正面入り口に連れてきてください。ソウルテイカーさんが魂抜きをしてくれますから!」

「よっしゃ! やるぜ!」

ゴム弾を装填したジンが、壁へ張り付いているブーフを撃ち落とす。
的は大きく、動きも遅い。
ゴム弾を受けたブーフは、衝撃で弾き飛ばされ気絶するらしい。
床に降りたタイミングや、書棚で行き詰まったブーフをジンが的確に撃ち落としていった。
また、気絶したブーフをデラトや他の係員が拾い上げ回収する。

「いいねぇ! チームワーク!」
「調子にのるな、馬鹿が」
「お前もみてねぇでなんかしろ!」

後ろにいたカナトが、ようやく前にでてきた。
何をしていたのかと思ったが、表紙には”まほう”とひらがなで書かれた本をもっている。
これはアクロポリスの小学生が魔法の学ぶ時に使う、かなり初心者向けの教科書だ。
主に使い方のノウハウが、ひらがなばかりの砕けた言葉でかかれている。

「……なんだそれ?」
「教科書だが?」
「それはわかるけど!」

ジンが突っ込んだ矢先、後ろから追い詰められた沢山のブーフが、二人の方へ流れてきた。
単体しか狙えないジンでは対応しきれず思わず退いたが、カナトは教科書を開き前にでる。

そして、叫んだ。

「ジョーカー!!」

突然、天井に赤い円形のリボンが現れ、黒く輝く柱が撃たれた。
その柱は、飛んでいたブーフを一気に巻きこみ、床へ叩きつける。

魔法だ。
黒い柱に巻きこまれたブーフは、気絶したらしく全部係員に回収された。
平然とするカナトにジンは言葉を失ったまま、固まっている。

「手が止まっているぞ、ジン」
「お前、魔法つかえたの!?」
「? 使えないが?」
「へ、だっていまの……」
「威力はないぞ? 私は物理ジョーカーだからな」

訳がわからない。
確かにブーフは気絶しただけで無傷だった。
混乱したが、数秒考えてはっとする。
武器によって攻撃の種類が変わるスキルだ。

「お前、それで教科書?」
「今更だな、気づかなかったのか?」

気づかなかったといえばそれまでか。
確かに、本を持ってきた時点で気づくべきだったのかもしれない。
しかし、魔法ジョーカーはたしか、威力的に岩を破砕出来るレベルだと聞いたことがある。
そんな強力な魔法ジョーカーの威力が、ブーフすら倒しきれない威力だと言うことはつまり、

「カナト。お前、魔法苦手なの?」

カナトの頭になにかが落ちた。

「に、苦手とか、そういう問題の話ではない! 相性というものだ! 物理ジョーカーは自己完結が可能だから私は――」
「なに必死になってんだ?」

頭はよくても、苦手なものはあるのか。
付き合いは大分長いとは思うが、未だに知らないことは多いと思った。

カナトの不得意な魔法が功を奏し、ブーフの回収がよりスピーディに勧められた。
狭い所に逃げ込んだブーフを引っ張りだすのに苦労したり、隠れたブーフを獣型のルナがにおいをたどってみつけだしたり、高いところに行き過ぎて、降りられなくなったブーフを助けたり、ようやく事態は収束へ向かった。
ブーフ全ての回収を終えた頃には、日はとっぷりと暮れており、二人は係員の打ち上げに来るかとも誘われたが、ルナを連れ込んだ貴族だとばれると面倒なので自宅に夕食があると言って断った。
ルナはその間、どさくさに紛れて図書館から抜けだし、入り口で座って待っている。
本当に気の回る飼い犬で、ジンはやはり納得がいかない。

外で一人待っていたルナを、カナトが嬉しそうに褒める。
犬ではない。狼だ。
違う、武器……? ではない。人間でもない。
混乱する。
一体なんなのだろう。

ルナをリードでつなぎ、カナトと散歩をするように帰路へ着く。
よくわからない存在だ。
よくわからないものは、この世界に沢山あるだろう。
だが、そんなよくわからないものが身近にいるのが不安なのもある。

「カナト」
「? どうした?」
「あのさ、ルナは確かに狼だけど、そりゃ人間でもないけど、やっぱり人間っぽいし人間みたいに接したほうがよくね?」

言ってみた。
カナトがルナをペットにしたいのは分かる。
羨ましがっていたし、自分で面倒をみることに、カナトは憧れていたからだ。
でもそれを、ルナに強いるのは良くないと思う。
ルナが人間と違うのは理解したが、人格や感情が極めて人間に近いのに、人としないのはいけない気がした。

カナトはジンの言葉を聞いて、少し考える。
カナト自身もわかっていた事だ。
いつか言われるだろうと思い、構えていた。

「……そうだな。ジン」
「もっと分かりやすいペット飼おうぜ、ほら、バウとか、ブラックタンとか。そしたら――」

唐突に、獣型のルナが人型に戻った。彼はこの世の終わりのような表情をみせ、座り込んでしまう。

「俺は捨てられるのか……」
「は?」

「捨てないぞ!? ルナはルナだ。私が面倒をみる! 他の犬は飼わん!」
「話変わりすぎだろ!? ルナをペット扱いすんなって話だよ!」

この犬は一週間飼い慣らされて人格もなくなったのか。

「すまない。ジン、だが実は、私も戸惑っているんだ」
「!」
「どう接すればいいかわからない。だから知りたくもあったが、分かったのは、お前が人間ではないということだけだった」
「……」
「犬、狼なら同じだ。だが違うなら、私はお前を警戒してしまう、それはルナも望まないと思った」

カナトもまた、理解していたようで戸惑っていたのか。
狼が人間になり、武器だと自称して本当に訳がわからない。

初めて見たのは狼だ。
だから、狼の姿だと必然的に安心する。
しかし、狼のイメージから一転し、人としたらどうなるか。
当然、戸惑う。
カナトは元々、人との関わりを極端に避けていた人見知りの顕著なタイプだ。
だからもし、ルナが人であるなら、カナトは自分の心を開けない、そう判断したのだろう。
狼のペットという一つの壁を解す事で、カナトは無理やりルナを受け入れようとした。
しかしそれは今、ジンに正しい形で否定された。

「望まない。それなら、今のままでも構わない」
「お前はどう扱ってほしいんだよ?」
「姿は人だが、本質は狼なんだ」
「どっちだって聞いてんだよ! ハッキリしろ!」

目を逸らすルナに、ジンは苛立ちを隠せない。
カナトはルナのリードを握ったまま、呆然と立ち尽くしていた。
その中で、返答に困っているルナを見据え小さく口をひらく。

「今すぐは無理かもしれない。だが、まだお前とは出会ったばかりだ。私も努力しよう」
「じゃあせめて、狼ってことにしてやれ、流石に犬はだめだろ」
「犬とは元々、狼が家畜化し、人間に品種改良されたものを指すのだが、飼われているなら犬と大差ないんじゃないか?」
「へ、そうなのか?」

「犬の先祖だと言われている。どちらでも気にはしない」

ならもう好きにするといい。
気を使ってやったのに、裏切られた気分だ。

「ジン。ありがとう、武器である俺を人としてくれて嬉しい」
「べ、別に噛みつかれたら困るしな。へんなことすんなよ」

リードで繋がれたままの彼に、説得力のカケラもない。
獣型にもどりカナトに可愛がられる狼は、もう人であることを放棄したのだろうか。
動き回った一日でもあり、カナトはヘトヘトで自宅へついた途端、ソファーへ倒れこんでしまう。
そう言えば晩御飯の献立を考えていなかった。

「何がつくるか?」
「お、頼むわ。こんどは調味料間違えんなよ」

疲れている時にはありがたい存在だ。
朝のパンケーキも、塩でなければ食べやすかったとも思う。
寝てしまったカナトに毛布だけをかけて、ジンが自室に戻ろうとした時、突然玄関の扉が開いた。

「ジーン! カナトくーん!」

現れたのは右手に紙をもつ月光花。
彼女は歌を歌いながらくるくると周り、まるで踊るようにジンへ抱きつく。

「ジーン! ただいまぁ!」
「は? な、な……」
「なーに? あんた意外とほっそいわねぇ。ちゃんと食べてる?」
「う、うっせぇ!!」

「ふふふ」と笑いながら離れた月光花は、キッチンにいるルナの元へ向かう。
すると後ろから手を絡ませ腰に抱きついた。
ルナは弱い腰に抱きつかれ、しっぽがぴんと立てる。

「ルナ君もちゃんと言うこと聞いてえらいねぇ、よしよし」

ルナは包丁を右手にもち、ブルブルと震えている。
ジンは直感的に、今の彼女は危険だと判断した。
リビングの騒がしさに気づいたのか、ソファーで寝ていたカナトが起きる。

まさか、とは思った。
カナトは、固まっているジンに首を傾げ数秒それを観察したが、突如横から腕を回され、ソファーへ押し倒された。

「カナトくーん!!」
「うわぁぁぁぁああ!!」

おわった。
カナトは悲鳴を上げて一気に失神する。

「ぐぉら!! 何してんだ馬鹿野郎!!」
「うふふ」

反省の色がない。
本気で怒りだしたジンに月光花はようやく暴走をやめると、持っていた紙をジンへ突き出した。

「”カーディナル選考会、合格通知書?”」
「そう! 私、カーディナルになったの!!」
「は!? お前の歌とか不協和――」

ジンの腹に右ストレートが入った。
胃液が逆流する感覚を覚えて、床へ飛び込むように倒れる。
空腹でよかった。

「そりゃぁ、”サンバ”とか”クラシック”は無理だけど? ”レクイエム”と”デッドマーチ”はかなり高評価だったんだから! 先輩達は”デッドマーチ”に一番苦労したらしいのに?」

攻撃系は流石だと思う。
しかし、元々魔法の苦手らしい彼女が、よく選考試験に通ったものだ。

「……”セイクリッドエンブレイス”は?」
「この一週間。ヴィネーラ先輩に猛特訓してもらったの!これで私も、部隊系列の任務に参加して大活躍よ!」
「間違えて味方にデトマぶち込んで殺すだろお前」
「あら、ジン。私の”デットマーチ”聞きたい?そんなに聞きたい? いいわよ! スタンして沈黙してコンフュージョンして眠るようにしね」

マイクを取り出すのはやめろ。
どす黒い彼女の笑顔には殺意が宿っている。

「とりあえず、うかったんだろ? ぉ、ぉめでとぅ……」
「ん? 何? 小さくて聞こえなーい!」
「ぉ、おめでとうっつてんだよ!」
「あはは! ありがとう」

嬉しそうに頬を染める彼女に、ジンはふと違和感を覚える。
いつも通りで当たり前のやりとりだ。
変わったところは何一つない。
しかし、そんな笑顔をみせた彼女はいつもより可愛らしくて……。

「? なーに? ジンの目やらしー」
「は? 誰がお前みたいな……」
「私みたいな?」
「…………な、なんでもねえ! メシ!」
「何よ、ジン! へんなの!」

その日、ルナの作ったカレーには、何故か大根が入っていた。

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本編 | 【2014-07-10(Thu) 12:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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