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(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

迷い犬を拾ったら大変な事になった話
出演:セオさん、リアスさん、ぬえさん、リュスイオールさん、カルネオルさん、
リヴェンツェルさん、ヒカさん、コトラさん

あらすじ
第四期ギルドランク選抜が終わり、一年が経過したある日、
ジンは夕飯の買い出し中、突然本部からの呼び出しを喰らった。
それは、アクロポリスの屋敷が襲撃され、立てこもっている事件の応援要請であり、
流石に危険だと判断したジンは断ろうとするが、断るために本部へ向かったあと、
待っていたカナトがセオに捕まってしまう。
たまたま作戦内容を聞いてしまったカナトは後戻りができなくなり、二人で応援に向かうことになった。



 夜だった。
月が輝いているが、視界は暗く、明かりが無ければほぼ何も見えない場所。
普段なら、白い壁がある美しい町並みを、金の街頭が照らしてくれているのに、今日は拳銃の流れ弾によって砕かれ、中身が剥き出しになっている。

事態は緊迫していた。
アップタウンの北東にある、貴族街のど真ん中。
ここで治安維持部隊がバリケードを敷いて、銃撃戦をくりひろげている。
弾丸が飛び交う街で、実働隊は地上にて応戦。指揮官は上空の飛空庭でオペレートを行っていた。

向かいは全国にネットワークを広げる通販会社の社長の屋敷で、敵は屋敷へ乗り込み、人質をとって立てこもっている。
治安維持部隊が呼ばれたのは、混成騎士団が下手に介入すると貿易の公平性が損なわれると言うことから、中立な立場として出動することになった。

屋敷前。
前線のバリケードへ隠れる治安維持部隊は、日頃の訓練もあり綺麗に弾丸をやり過ごしているが、
その中に一名、皆がホークアイの青い職服をきている中、私服で応戦しているエミル族がいた。

「なんつー状況だよ……」
「”この調子なら弾切れになるのも時間の問題でしょう。それまでは耐えて下さい”」
「だからって、リュスィちゃん! なんで俺がここなんだ? 他に回ったほうがよくね?」

バリケードへ身を隠すエミルの青年は、身を小さくしながら弾丸をやり過ごす。
平凡な顔立ちをもつ彼は、自らの持つ金の装飾銃へ、新しいマガジンを装填した。
イヤホンコードから聞こえる声は、まだ若い少女のもので、透き通った高い声が耳へ響く。
リュスィと呼ばれた彼女は、デバイスの向う側にいる相手へ、上空の飛空庭から応答した。

「”6thジンさん。貴方の命中精度と経験を踏まえた結果、裏方よりも、前線で派手に暴れる方が好きなのではないかと判断しました”」
「どんな認識だよ……」

彼女の手元には、畳一畳分はある巨大な入力デバイスと、さらにその倍はあるインターフェイスモニターが配置されている。
画面左には、彼女が声で受け取った言葉を文字として出力した、膨大な発言ログと、”ナビゲーションデバイス”周辺スキャンから割り出した地図。
更に全ての味方の位置に加え、敵の位置が”unknown”と表示されている。

「素晴らしい成果ですね。リュスィオールさん」
「ランカーとして当然です。セオ少佐」

出力していた手を止め、リュスィオールが座ったまま椅子を回す。
彼女と入力デバイスは細いコードで接続されている為、座ったまま一礼した。

「ご無礼をお許しください」
「構わないよ。でも君なら、無線接続でも十分だとは思うけど?」
「無線通信も可能ではありますが、空気抵抗や湿度に応じて通信速度が変化します。より迅速な対応を行う為、この方法を選択しました」
「なるほどね。君らしい」

リュスィオールが、再び視線を画面へと戻した。
ガラス窓へ投射される周辺地図には、アクロポリスの美しい星空が透けて写っている。
しかし、その真下は"フラッシュライト"に照らされる戦場だ。

「”敵勢力は恐らく40名前後と推定。この前線には、現在15名ほど出ていますが、内5名は行動不能の模様、まもなく、別働隊が突入を開始します」

別働隊とは前線部隊とは別に屋敷へ突入する小隊の事だ。
本作戦は、治安維持部隊のホークアイ隊が屋敷正面にて銃撃戦を行い、敵の主力を引きつけ、その間に別働隊が屋敷へ侵入。
人質の救出と壊滅を行う流れだ。
その中で人質の救出を、始めに行わなければいけないのだが、

「カナトの奴、うまくやってんのかねぇ……」
「”脈拍、意識レベル共に正常。問題ありません。位置も作成通りです”」

体調を気にしているわけではない。
彼なら自分よりうまくやるだろう。気も回るし、下手なミスもするとは思えないからだ。

「”ジンさんは、やはり心配なのですか?”」
「別にあいつは上手くやると思うけど、なんか嫌な予感するんだよなぁ……」

リュスィオールは首をかしげ、ジンと呼ばれた彼は、再び銃撃戦を開始する。

一方、暗い空をふんわりと舞う影があった。
月が雲に隠れ、明かりがなくなれば、その影は闇夜に紛れ気配さえも曖昧になる。
黒い装束に4枚の黒羽、さらにフードまでかぶれば、白く淡い肌も完全に隠れてしまった。

銃撃戦が繰り広げられる正面から、ゆっくりと反対側へと周り、黒い影は屋根の上へと着地。
屋敷の屋根は、隠れられるだけの十分なスペースがあり、影は窓脇の暗闇へ身を隠した。

気づかれぬよう、地上の敵へ意識を向ける。
腰へ吊るした”ナビゲーションデバイス”から聞こえるオペレートは、分かりやすくとても頼もしい。
いちいち画面をみなくとも、敵の位置が把握できるし、手に取るように状況が分かる。
優秀なオペレータだ、それなりに場数もこなしているのだろう。

突入する窓へ案内され、影はベランダ付きの窓の上で待機、指示を待った。
すると、地上にいた見張りが何かに気づいたように持ち場を離れ、影は音もなくベランダへ着地。
銃撃音が響く中、窓ガラスを剣で突き破り、外から鍵を開け中へ侵入した。
屋敷の居室は豪華な装飾のはいった白い壁とカーテン付きの巨大ベッドがある。
懐かしくも感じるのは、自分が元貴族だからだろうか。

ベッドの脇を見ると、家具の足から鎖に繋がれる一人の女性がいる。
突然侵入してきた自分に怯え、座り込んでしまったようだ。
仕方が無いと思い、影は月光を背にしてかぶっていたフードを取る。

途端、茶髪と淡く輝く光輪が現れ、女性は思わず言葉を失った。
黒羽、四枚羽のアークタイタニア。
真っ白な肌に青い瞳の彼は、月光に照らされて凛々しい。

「お怪我は?」

声もまた、青年のものだ。
しばらく見つめていた女性は、追い詰められていた恐怖から解放され、思わず前に出る。
茶髪の彼へ抱きつき、押し倒してしまった途端。

「うわぁぁぁぁぁあ!!」

悲鳴が響いた。



「カナトさんの意識レベルの低下を確認! 気絶されました」
「”ぁー……”」
「なぜですか!? 先程までは正常だった筈なのに……セオ少佐!?」

「まぁ、うん。仕方ないんじゃないかな……」
「へ!? なんでですか!?」

「”というか誰だよ。あいつ行かせたの”」

リュスィオールが慌ててオペレートに戻る。
しかし、慌てているのは彼女だけで、他の半数のランカー達はジンに突っ込むだけで誰も驚かない。

侵入した部屋には、悲鳴を聞きつけた敵が駆け付け、人質が増えてしまった。

「”おれが行きましょうか?”」
「いや、リアス君は、もう少し屋敷の内部の偵察を、他の部屋にも人質がいるかもしれない」
「”セオ少佐、了解しました”」

「”こちら、リヴェンツェル隊のリラ。屋敷南側の見張りの制圧に成功しました”」
「リラさん、ありがとうございます」

「”西側も完了したよー!”」
「”見張りと思われる5名の捕縛を完了しました”」
「ぬえさん、カルネもお疲れ様」

「”東側、問題ないですよ”」
「ヒカさんもありがとう。時間もない。突入しようか」

「”カナトどうすんの?”」
「カナトさんなら、心配するまでも無い気もするけど?」
「”どっちにしろ人質救出が最優先だろ? なんなら俺がちょっと行って女の子掻っ攫ってきてやるぜ?」

確かに人質の救出は最優先だ。
人質の安全が確保出来なければ、突入も難しくなるだろう。

前線の戦力が削がれるのは、苦しくもあるが、今、一番動きやすいのも彼で、セオは味方の位置をみながら少し考えた。
そして数秒後、結論をだす。

「仕方が無い。10分以内に人質の部屋までいける?」
「”おう! まかせろ!”」

「なら、6th、エミル・ホークアイのジン。今すぐ人質の救出を、他のランカー全員は10分後に屋敷内へ突入。他の人質を救出し制圧に入る」

「”了解”」

「各班の最短経路計算が完了致しました。ナビゲーションデバイスを確認しながら進んでください。敵マーク作業が終了した為、座標を転送します」
「各班10分待機。それまでに敵を発見した際は、すぐ制圧するんだ!!」





薄暗い屋敷の居室だった。
気絶した影は、案の定敵に見つかり人質となる。
しかし、アークタイタニアである彼は価値があるとして、傷つけられることはなく、首に鎖をかけられただけで何もされる事はなかった。
そもそも、彼が突入することになったのも、殺される確立がとても低いと判断されたからであり、想定通りの結果とも言える。

居室の隅へ座り込む女性は、左足へ足枷をかけられ、固定された家具へと繋がれている。
彼の方は、足枷の予備がなかったらしく鎖で簡易な輪を作り、首が通らない長さにして南京錠をかけられていた。
女性は、彼を自分の膝枕へ寝かせてはいるが、本人は生汗をかいて、酷くうなされている。

何故こんなにもうなされているのか分からず、女性は困惑したが、悪い夢でも見ているのだろうと思い汗だけを拭いていた。

そう心配をしていると、ベランダの方から金属がこすれる様な音が響いてくる。
よく見るとベランダの向こうから鉤爪のついたロープ垂れていて、一人の男がよじ登ってきた。
不器用に登ってきた彼は、逆光に照らされこちらと目が合う。

「お待たせ! 怪我ない?」

軽いと思った。
だが途端、声を聞きつけた見張りが、居室の入り口から現れ、拳銃を此方へむけた。
引き金が引かれ、ガラス窓が粉砕。
エミル・ホークアイのジンは、室内へ飛び込み回避した。
敵は二人。
両方とも銃を持っているが、いけると思った。

銃は強い。
なぜなら直径20ミリ前後の小さな弾丸一つで相手を再起不能、または死へ至らしめることができるからだ。
剣や魔法なら一撃とは行かない。
鈍器なら可能かもしれないが、銃ならそれらを構える前に倒すことができる。

しかしそれでも、お粗末な武器だ。
構えた筒の角度によって、射線はきまり、人間の僅かなミスで当たらない。
動く相手に当てるのは、魔法でも載せて追尾性能をもたせなければ不可能だろう。
数を打てば当たるということわざもあるが、それを体言したのが、アサルトライフル。
連射を想定とした武器だ。
ジンはこの武器がきたなら、勝てないので逃げようと思っていたが、敵はハンドガン。
いける。

安全装置を外す間に、ジンは壁沿いへ走り、烈神銃・サラマンドラへ弾丸を装填。
タイミングを読み、引き金を引いた。

どん。
と、脇にいた女性が耳を塞ぐ。
威嚇で壁へ打ったつもりが、敵の拳銃をはじきとばし壁にめり込む。
屋敷の壁を突き破り、大穴を開けた。
壁が爆発したような音と風圧に、その場にいた全員が固まって、言葉を失う。
銃とは思えない威力だ。

二人とも止まったのを狙い、ジンが前に出る。
武器を離した敵は置いておき、もう一人の利き手を打った。
しかし、敵の弾丸が先に打たれて、ジンの左腕の止めベルトを切断、頬へ切り傷を作った。

だが、動じない。
同時にジンの弾丸も敵の腕に命中、腕の中へ入り込み、赤い液体が飛び散った。
悲鳴をあげて膝をつく、更にうつむいた敵の顔面を蹴り込み、壁に激突。
気絶させた。
途端脇にいたもう一人が逆上して突っ込んでくる。
止まって見えるのは、日頃の訓練の賜物だろうか。
自分がここまで強くなれたのは、自分だけではなく周りが居たからだ。
弟のように鍛えてくれた2人は、今はもう別々の道にいる。
だから、それに応えるように強く有りたい。
そう思い、ジンは敵の足を引っ掛けた。
顔面から床へ突っ込み、再び起き上がろうとする敵の太ももを撃つ。
聞こえる悲鳴はもう聞き飽きた。

更に威嚇射撃として床にわざと弾丸を打ち込むと、敵は這うように怯えだす。

「鍵は?」

表情ひとつ変えず、そう述べた。
臆病な敵だ。向かってきたくせに情けない。
ガクガクと震える敵に、もう一発打ち込んでやろうかと思ったが、ポケットから小さな鍵を二本取り出す。
投げ渡した敵は直ぐ逃げようとしたが、ジン力いっぱい腹へ蹴りをいれ、気絶させた。

動かなくなった敵を見据え、ジンがふと人質の方をみると、女性は完全に怯えて、震えている。
突然現れた男が、目の前で敵を容赦なく痛めつけたのだ。
次は自分ではないかと思うだろう。

ジンはそれを見て何も言わずカナトの南京錠を外し、女性の方も無理矢理外した。
すると音に気づいたのかカナトがうっすらと目をあける。
カナトは目の前にいる女性に、再び悲鳴を上げた。

「なにやってんだよ」
「ジン、すまない……」
「しょうがねぇなぁ」

当然のように行われた動作に、彼女は呆然とそれを眺める。
自分を助けに来てくれた黒羽の彼は、女性の顔をみた瞬間、怖がってジンの後ろに隠れてしまった。
この動作で、女性は自分の所為だと気づく。

「あの、ありがとうございます。すみません」
「え、俺にいってくれてんの!? 照れるぜ」
「いえ、その、タイタニアさんが、私を苦手みたいで……」

ジンが真っ白になった。
流石に、目の前で流血沙汰を起こした人間にお礼を言う気にもならないか。

「気にしなくていいっすよ。こいつ女の子苦手なだけなんで、恐怖症ってやつ?」
「恐怖症ですか?」

カナトがどんな働きをしたのだろうと問い詰めたい。が、今は時間がなかった。
敵が来るかもしれない。
案の定、後ろのカナトが何かの気配に気づき、入り口をみた。
ジンもすかさず、前にでて警戒したが、見えたのは見覚えのある影で、

「あ、ジン君。間に合ってたか」

入り口から現れたのは、長身の青年。
ドミニオンの翼を持っている彼は、脇へ仮面のエミル族の男性と、アークタイタニアの男性を連れている。

彼は、ギルドランク8th、エミル・グラディエイターのリヴェンツェル少尉のチームメイト、イクスドミニオン・アストラリストのリラだ。

「リラさん! お疲れっす」
「間に合ったみたいでよかった。人質は無事?」
「無事っすよ! 今助けたところ、リラさんは?」
「こっちも大体は無力化できた。
今は残党を探してた所、そっちも人質救出お疲れ。カナト君も無事?」
「なんとか! すんません、こっちの相方が――」
「ははは……、それじゃ、救出隊がくるまでここで待機していてくれないかな。そのうち連絡がくるから」
「了解す!」

リラを含めた三人が、廊下を走り抜けて行った。
思ったよりも早く終わりそうだ。

「あの、あなた方は一体?」
「俺は――」

「失礼。忘れておりました。私は、タイタニア・ジョーカーのカナトです。奴は、エミル・ガンナーのジン」
「カナトてめぇ……俺の唯一のアピールチャンスを――」
「何を考えているかはしらんが、この方は令嬢だ。礼儀をわきまえろ」
「うるせー! 自分の名前ぐらい自分で言わせろよ、この見栄張っぱりが!」
「貴様の口調が失礼だから言っている。身分が上の相手に対しては――」
「しらねぇよ!!」

ぎゃあぎゃあと口論を始めた二人に、彼女は一人呆然とする。
たが、先程暴力を振るったジャケットの彼に少し意外性を感じた。
悪い人ではないのだと……。

そんなやりとりをしているうちに、ジンのナビゲーションデバイスへ通信が入る。
全容疑者の確保を完了したため、帰還の指示がでたのだ。

「んじゃ、帰るか」
「おい、お連れしろ」
「お前の方が礼儀分かってんだから、お前がお、つ、れ、すればいいだろ」
「な”、貴様、私が苦手だと知っていながら――」
「俺はしんねーもん、仕方ないだろー! ばーかばーか」

殴りたい気持ちにもなるが、カナトはぐっと拳を堪える。
そんな中、カナトは脂汗をかきながら女性へ向き直り、震えながら手を差し出した。

「も、申し訳ございません。お連れ致します」
「あ、ありがとうございます!」

そう、女性手を取った瞬間。
カナトの全身にゾッと鳥肌が立ち、固まったまま後ろに倒れる。
そのまま倒れるかに見えたが、女性から手を話したカナトを、ジンが後ろから支えた。

「しょうがねぇなぁ!」

女性は無理だとへたり込んだカナトは置いておき、ジンは仕方なく、女性に毛布をかけ屋敷の外まで連れて行く。

外は既に後片付けに追われていて、治安維持部隊は撤収の準備をしていた。
ジンはカーディナル達がいる救護テントへ彼女を連れて行くと、直ぐに身を翻しテントをでた。
あとは任せればいいと思ったが、立ち去る直後、突然呼び止められてしまう。

「あの、貴方は何者なのですか?」
「俺? 俺は、ジン。治安維持部隊ギルドランク6th。エミル・ガンナーのジンっす!」
「ランカーさん!?」
「そそっ、よかったらフレンドに――」

後ろから突然重い衝撃がきた。
カナトが、太刀の背でジンを軽く殴ったのだ。
シャレにならないほど痛い。

「いってぇぇぇ!!」
「油断も隙もない! 帰るぞ!」

腕を掴まれ、ジンは連行されるように救護テントを離れるのだった。

そんな大乱闘から一夜明けて、事件解決に加わった彼らは本部へと集合する。
広く、白いテーブルが置かれた会議室には、9名のランカーが集合していた。
中にはリヴェンツェル少尉のチームの2名ともう1名、飛び入りで嘱託隊員として参加したカナトだ。

「とりあえず、昨日はお疲れ様。こうしてみんなが集まるのも久しぶりぶりだね」
「みんなといっても、ホライゾン大佐がいないけどね!」

セオの声から始まり、返したのは前回のランク4thたる、現ランク7thのアークタイタニア・フォースマスターのぬえだ。
彼女の素直な言葉にセオはふっと笑うと、早速頬杖をついて寝かけているジンが目に入る。
ぬえ以上に、身体に素直なのだとある意味感心した。

「皆様、お疲れ様です。この度はご協力ありがとうございました。お陰様で迅速な対応ができ、予想を遥かに上回る結果となりました。しかし――」

立ち上がったのは、セオの隣へ座っていた彼女。
長い銀髪を揺らし、胸を抑えるのは、現ギルドランク3rd、DEM・リュスィオール。
治安維持部隊で、とても数の少ないDEMの彼女は、今季初めてランカーとなり、今回の作成の発案者でもあった。

「協力して頂いたカナトさんを人質にさせてしまうという失態、この場で謝罪させて下さい」
「リュスィオール殿……、私も恐怖症に関して伝え損ねていた不備があります。お気にならさず」
「しかし、人質の精神状態を踏まえると、抱きつかれることは不思議ではありません。人質が女性である確立が限りなく高い中で、そもそも女性恐怖症であるかどうかを問わなかった事に問題が――」

「リュスィちゃん! きにすんなって、こいつしょっちゅうだし、大したことねーよ」
「6thはそうかもしれませんが、防げた事でもあります」

「カナトさんの件については、一昨年のランク選抜から継続になった人しか知らないことでもあったしね。起こるべくして起こった。対応もできた。よかったじゃないか」
「セオ少佐……」

セオの言葉に誰も文句は言わなかった。納得したのか、必要ないと判断されたのかどうかは分からない。
しかし、この話題だけを続けることは無意味だとリュスィオールは理解していた。
その上で彼女は、ランカーが揃う彼らの前で一礼する。

「ありがとうございます」

6thがひらひらと手を振ってくれる。
気に入ってもらえることは悪いことではないが、6thに関しては女性のみに特別な対応をしているようにもみて、リュスィオールは複雑にも感じた。

着席したリュスィオールの隣には、浮かない表情を浮かべる少年がいる。
頬へ絆創膏をはり、額に包帯を巻く彼は、元ランク10thの現ランク5th、アークタイタニア・グラディエイターのカルネオルだ。

「カルネ、怪我は大丈夫かい?」
「……はい。ごめんなさい。油断していました」

「カルネオルは手加減をし過ぎですね。 倒せては居たけど敵は無傷でしたし」

むすっとした表情で会話に入ってきたのは、同じくグラディエイターのランキング9th、エミル・グラディエイターのヒカだ。
ピンクの長髪に赤い瞳を持つ彼女は、スカウトとしての訓練を積んだにもかかわらずソードマンになった逸材でもある。

「殺したくない気持ちはわかります。でも向こうもこちらを殺しにきているのですから、こちらも同じ気持ちで臨まないと逆に倒されてしまいますよ」
「それはわかっています。でも、僕は……許せなくて」
「それでも、死んだら終わりです」
「……」

カルネオルの苦い表情をみて、ジンは思わず姿勢を正した。
ランカーの再選抜がおわって一年になるが、自分達が再び選抜される時、治安維持部隊の規約が変わった。
それは、対人においてやむ負えない場合、その場の判断で殺人を許可するというもの。
今まで、全ての任務において殺人が厳罰とされてきた中で、これは部隊全体の空気を変えた。
生命の危機のある大尉以上の隊員からは、当然だという意見が多数だったが、中尉以下の隊員からは今まで通りやる、いわゆる”殺さない派”と、やむを得ないなら仕方ないという”殺す派”に二分されたのだ。
当然、意見が食い違いで衝突する。

「やりたくないなら、やらなくても止めません。しかし、覚悟は決めるべきです」

カルネオルが向かいのヒカを睨みつける。
ヒカはヒカでぷいっとそっぽを向くが、首を振った手前、ジンと目があった。
ヒカは目のあったジンを、殺気を込めて睨みつけ、つんと踵がえしてしまう。
何かしただろうか……。

「規約が新しくなり一年経ちましたが、最初の衝突はあれど、大差はない気がします」
「そうですね、リアスさん。僕も癒しの立場ではありますが、正当防衛は認められるべきものです。規約改定はあくまでそれを許したものであり、過剰防衛は厳罰の対象になります」
「問題なのは、過剰防衛が”誰に”過剰防衛だと判断されるかですね。”死人に口無し”と言うように、仲間内で口を合わせれば、正当防衛として通すことができる可能性があります」
「第三者を同行させるのも手ではありますが、仲間内で人材を割いては本末転倒です」

そう話すのは、元ランキング8th。現ランク4thのエミル・イレイザーのリアスと、現ランク10thのエミル・カーディナルのコトラだ。
顔を見合わせる二人へ、仮面の彼が視線を向ける。
エミル族であり、顔にやけどの跡をもつ彼は、帽子をかぶったままはっきり述べた。

「……最善を尽くせばいい」
「そうそう、毎度悩んでもきりがねぇしな」

「貴様が言うと、まるで説得力がないな」
「うるせーよ!」

ランク8th、エミル・グラディエイターのリヴェンツェルはたった一言述べただけで黙る。
脇で聞いていたカナトもこの件には何か思うところがあるらしい。
そう、カルネオルにフォローはいれたものの、彼の浮かない顔は晴れる事はなく、ジンは少し不安にもなった。

「だけど、傷が軽くてよかった。今回は皆の協力があってこその結果だよ。ありがとう」
「セオ、ホライゾン大佐は参加してなかったのか?」
「大佐は別件で用事があってね。僕がホライゾン大佐の部隊を借りていたんだ。実動隊」
「へー」
「強かったでしょ?」

確かに驚くほど対人慣れしていた気がする。
元ランキング6thの彼は、今回2ndまで上り詰め、現在は少佐の地位にいる。
治安維持部隊での少佐は30名までの隊なら自由に率いる事が出来るが、
今回セオは自分の隊とは別のギルドランク1st、アークタイタニア・ガーディアンのホライゾンの隊を率いていたのだ。
身近に少佐がいるのも便利だとはおもうが、都合のいい話で、

「管理職みたいになっていくから、次の選抜は無理かも……」

セオに昇格の話をすると、こうしてげんなりする。
そう思うと、ホライゾンのランキング1stの継続は驚くほど偉大に感じた。

「優秀な人が集まりすぎてる隊でもあるかなぁ、他は人数がいなかったり、失敗したりとかが多いみたいだからね。信頼もダントツだし、難しいものばかりこなすから、必然的に1位になるんだよ」
「あ、そっか。隊の奴が任務達成したら一番上の大佐にもポイントがいくんだっけ?」
「そういうこと、ホライゾン隊はよくバックアップとしての立場で呼ばれたりもするから、余計じゃないかな」

当然、受注隊員にもポイントは入るが管理者として隊長にもポイントがはいる。つまりホライゾン大佐は何もせずともポイントが入ってくるのか。

「何もしてない訳じゃないよ? 最近は事務の合間に総隊長と回廊へ行ってるみたい」
「へー」
「自分の隊の管理と、総隊長のおもりと、時々任務でやってれば、そりゃ1位だよ。大体大佐なんて、自分の隊の管理だけで時間を食われるし……」
「じゃあ、セオも?」
「昇格は嬉しいけど、自分の隊に加えてホライゾン隊の人まで見ないといけなくなってきたから、ランカーなのにそろそろ自由が利かない……」

大変そうだ。
顔が広いとそれなりに苦労も多いらしい。
部隊本部の話の流れにしびれを切らしたのか、ジンの隣にいたカナトが手を挙げた。

「セオ殿、買い物に行きたいのでそろそろお暇してもよろしいでしょうか?」
「あぁ、いいよ。報酬はジンに渡せばいいかな?」
「構いません」

「カナト、俺も帰る!」
「ジンはダメ。反省会と屋敷の壁壊した器物破損の書類提出」
「まじかよ!?」
「今回は仕方がなかったとして本部側が修理費だしてくれるんだから、ちゃんと書かないと自費になるよ」
「うぐ……」

「では、先に帰ります」
「かなとぉ……」

泣きそうな相方は置いておき、カナトは一人で元宮を出た。
ここは元王宮である分、実家と空気が似ていて懐かしい気分になる。
空気は過去を呼び起こし、無意識にも気分が落ちてしまうのだ。
戻りたいとは思わない。だが、寂しいとは思う。
家族や身近にいる人々の暖かさは、失ってから初めて気づいた。

空を見上げ、カナトはため息をつく。
暖かい。
帰って洗濯物を干してから買い物に行こうか。
一人で行くよりも、ジンという荷物持ちがいた方が動きやすい。
奴が戻るのを待ってから、出かけよう。
そうして一度自宅へ戻ろうとした時、カナトの足元から鼻を鳴らしたような小さな声が聞こえた。
大きな青い瞳でこちらを見上げてくるのは、銀色の毛並みをした狼。
ホークアイの冒険者が、揺動の為に召喚する灰狼だ。
灰狼は本来、主人の庭や私有地で飼いならされている筈なのに、何故こんな場所へいるのか。

「どうした? 主人とはぐれたのか?」

灰狼は動かない。
カナトが床へ足をつくと、突然上着の裾へ噛み付き、引っ張られて倒されてしまう。
尻餅をついてしまったカナトに、灰狼は驚いて距離をとった。

街のど真ん中で情けない。
しかし、狼の心配そうな表情をみてカナトは咎めることができなかった。
いきなり噛み付くとは、お腹でも空かせているのだろうか。

「仕方が無いか……」

自宅に連れ込めば食べ物はある。
灰狼を抱き上げ、カナトは普段使わないロープを使って庭へと登ると、
冷蔵庫から何か食べられるものはないかと探した。
ちょうど昨日余らせた肉があり、カナトはそれを皿に乗せて与える。
灰狼は出されたものに尻尾をふりながらがっつき、カナトは真剣にそれを眺めていた。

どうしたものか。
灰狼なら必ず主人がいるはずだ。
しかし、あの周辺にはホークアイらしい人間の姿はなかったし、そもそもいつから居たのだろう。
それ以前に、灰狼にしては毛色が若干薄くも見える。
言葉にするなら、銀狼だろうか。

うーんと考えていると、皿を空にした灰狼が再びこちらを見据えてくる。
腰をおろし背筋を伸ばす様は実に凛々しい。こちらも座っているので、目線は同じだ。

「美味しかったのか?」

灰狼は答えない。
喋れないのだから、当たり前だ。
ゆっくりと身体を伏せ、灰狼はカナト膝へ顎を置く。
懐かれてしまったか。
そっと撫でると、しなやかな毛並みが指を通り抜け、触り心地がとてもいい。
この手の動物に、こうして懐かれるのは初めてだ。
実家にペットは居たが、全て使用人が世話をしていた為、カナトは撫でる程度にしか構ったことはない。
こうして自分で餌を与え、世話をするのは学んだこともなく、ずっと夢に見ていた。

そんなことを考え、一匹と一人で床へ座っていると、外から紐を巻き上げる音が聞こえてくる。
「ただいまぁ」と疲れた声で入ってきたのは、先程別れたエミル・ガンナーのジンだ。

「ジン、早かったな」
「めんどくせぇから、書類だけ書いてかえってきた。付き合ってたら、おわんねーしな」

ランカーが再選抜され、メンバーが入れかわってから、ジンは以前のように本部へ通うことはなくなった。
前回の2nd、イクスドミニオン・イレイザーのカロンが除隊したのも大きいが、何よりも今の本部の空気が気に入らないらしい。

「てか灰狼じゃん、どうしたんだ?」
「お腹をすかせていたので、拾った」
「リアスみたいな事いうんじゃねぇよ……」
「しかし、灰狼は主人がいるものなのだろう?」
「あぁ、まぁな。主人に忠実な種類ではあるけど、凶暴な所があるし、飼うならホークアイ以上のジョブがいる。あと、放し飼いは厳禁、街で連れ歩くなら首輪とリードつけないとだな」
「首輪?」
「普通は、首輪つけて他の灰狼と区別がつくようにするけど?」

首元を探っても、この灰狼に首輪は見当たらない。

「野良なのか……まじかよ。よく噛みつかれなかったなぁ。大体逃げ出したやつは野生化して手がつけられなくなるし」

確かに噛みつかれたが、意味合いが違う気がしてカナトはあえて黙っていた。
懐いているのをみると、性格は大人しい方ではあるらしい。

「主人が居るなら、返してやりたいが……」
「首輪ないと見分けつかねぇしなぁ。本部に預けて迎えがこなかったら、そのまま新しい主人とこにもらわれるだろうし?」

行く先は同じか。
目印がないのはそういうことなのだろう。
街にいた分、捨てられた可能性もあるが、どちらにせよ、この灰狼に帰る場所はないのか。

「お前は、灰狼の知識はあるのか?」
「俺? まぁ、一応ホークアイだし? 多少なら……」

これを聞いたカナトは数秒考える。
脇の灰狼と目を合わせ、真剣に言った。

「……うちに、来るか?」
「やっぱり飼うのかよ!?」

そう言うジンもまんざらでもなさそうだ。
カナトに撫でられる灰狼は、おとなしく床へ伏せている。
灰狼とは言うが毛色が違い、ジンは違和感をぬぐいきれない。

「つーか、そいつ本当に灰狼なのか? 色違うくね?」
「同意見だが、灰狼ではないならなんなんだ?」

ごもっともだ。
他の品種に白狼と金狼がいるが、明らかに色が違う。
そのため、色が近いから灰狼と認識したのも分かる。

「灰狼であってもなくとも、帰る場所がないなら、ここで飼いたい」
「俺は別にかまわねーけど……お前の家だし?」
「私は犬を初めて飼う。協力してくれるか?」
「それぐらいなら。でも俺もちょっと訓練しただけで、飼うのは初めてだぜ?」
「十分だ。よろしく頼む」

任されてしまった。
カナトは以前から、犬をうらやましがっていたし、カナトが飼いたいなら飼ってみるのも悪くないと思う。
この家に暮らし出して四年目になるが、そろそろ新しい刺激がほしいと思っていた所だ。
ちょうどいい。

その後二人で買い物へ行く事になり、カナトは灰狼を庭へ放して出掛けた。
そこでカナトは、ネームプレート付きの首輪と、ベルトから装着できる伸縮性のリードを購入して帰宅。

聖堂の業務がおわった月光花と帰宅した。
家にいる灰狼に、月光花は嬉しそうに飛びつき抱きしめたり撫で回したりもするも狼は何一つ動じない。

「かわぃいい! 始めてみたよー!」
「意外と図太いなこいつ」
「ふわふわふさふさじゃない。気持ちいい!」
「 あんまベタベタすると怒るぜ?」
「大丈夫だって、なんかこの子からは、すっごいお兄さんオーラを感じるもん」
「なんだそれ……」
「えへへー、そうだ。カナト君、もう名前はつけたの?」

「名前ですか?」
「うんうん、呼んであげてる名前!」

「そういやつけてねぇな」
「ジン二号とかどう?」
「犬と一緒にすんな!」

確かに、名前をつけなければ区別がつかないだろう。
ペットフードを皿へ盛り、カナトは少し考えた。
灰狼の元へと歩み寄ると、何かを期待するような目でこちらをみている。
カナトの名前が音を意味するように、この狼にも何か意味を持って欲しい。

「ルナ……」
「るな?」
「月だ。前読んだ本に、狼にとって月はシンボルだと書かれていた」

「へー、かわいい! この子女の子なの?」
「付いてるもんついてんじゃねーか」

月光花がジンを蹴り飛ばした。
毎度思うが、月光花は殴りの才能があると思う。
ペットフードをルナへ与えようとしたとき、殴られたジンがもどってきて、カナトから皿を取り上げた。

「こういうのは最初にどちらが偉いか分からせる必要があるんだよ!」
「偉い?」
「そうそう、こいつらは群れで上下関係を作るからな。飼うなら人間サマが1番だって教えんだよ!」

ジンはそう言って、灰狼をルナと呼んだ。
頭がいい、すぐに振り向いた。
ジンの足下で座り、まるで指示を待つように此方をみる。
座ることは心得ているらしい。

「おて!」

ルナが左前足を上げ、ジンの手に乗せた。

「おかわり!」

ルナが右前足をジンの手に乗せる。

「ふせ!」

伏せた。

「すごーい!」
「頭がいいな」

教えるつもりが全部出来てしまった。

「おすわり!」

顔を上げ、座った。
前に飼われでもして居たのか、全部できるとは思わなかった。
悔しくは思うが、撫でて褒めるとジンはペットフードをルナに与える。
謎の多い狼だ。

「とりあえず、人間がえらいって教える必要があるんだよ!」
「どうみても、ルナが貴様に付き合っているようにしか見えなかったが」
「うるせー! 舐められたら噛みつかれるぞ!」

普通なら名前を覚えるだけでも一週間から一ヶ月はかかるのに、頭がよすぎる。
まるで自分達の会話すら全て聞いているように思えた。

ルナが食事に入り、三人も夕食を取る。
夕食後は、買ってきた首輪へ名前を書き、カナトのデバイスの番号も書いて付けてやった。
これではぐれても、誰かが連絡をくれるだろうということらしい。

「おすわり」

ジンがやっていた事をカナトもやる。
ルナは素直に座り、カナトは優しく撫でて褒めた。
餌がなくても嫌に従順で、ジンはすこし悔しさも感じる。
だがカナトのペットではあるし、介入するのも野暮だとは思った。

「そいや、明日はどうすんだ?」
「あぁ、一応予定通りだ。午前中に討伐したい」
「いいぜ。寝坊すんなよ」
「以前の私ではない」

カナトの言葉にジンが笑った。
寝坊癖がなくなり、カナトは大分健康な日々を送っている。
最近はジンの訓練に付き合い、すこしずつ体力もついてきていた。
この調子が続くといいが、時々寝坊するので朝が不安になることがある。

平和だ。
当たり前に毎日がきて、当たり前に生きている。
訪れる変化に戸惑いはするが、それでも、こうして平和に過ごす今を大切にしたい。

月光花が自宅へ帰り、二人はその日も素直に眠ることにした。
カナトは自室にルナの為の毛布をしいてやり、いつも通りベッドで眠る。

春の気候だ。とても寝心地が良い。
カナトは熟睡し、寝返りをうって身体の半分以上が布団から出てしまっていた。

そんな時、脇の狼が目を開ける。
静かな夜だ。
小さな物音でも驚くほど良く響く夜。
しかし、カナトは深く眠りにつき、多少の音では目覚めない。
立ち上がった狼は、月明かりを受けてゆっくりと形を変えた。
狼だった影が、ゆっくりと縦に伸びて長身の男へと形を変える。
その影の首には、狼の名前が書いたネームプレートがあり、月光をきらりと反射させた。
そうした中、影はそっとカナトへ布団をかけ、再び狼へと戻る。

次の日。
いつも通り、早朝に起きたジンはルナだけをカナトの部屋から連れ出し、ランニングに出かけた。
腰からリードを伸ばし、ルナの首輪へ繋いでアクロポリスを一周する。
流石は灰狼、このぐらいでは疲れすらみせず、平原でプルル相手にすこし遊んで帰った。
自宅に戻ると酷く寝ぼけているカナトがおり、ジンはコーヒーだけのませて、朝ご飯も作った。

「ルナと散歩に行ったのか?」
「おう! せっかくだしな。一人よりもモチベーションが上がっていいぜ?」
「そうか。ならジン。今日の討伐にルナも連れていきたいんだが……」
「あぁ、大丈夫だと思うぜ? プルルぐらいなら余裕だったし」
「貴様だけにやらせたくないからな」

散歩に行けなくて悔しかったのか。
機嫌が悪そうなカナトに、ルナが周りをウロウロするが、カナトに宥められ安心したようだった。

2人はその後、討伐の為に出かける。

目標はジャイアントコッコーだ。
ルナにリードをつけ、2人は東アクロニア海岸へ訪れる。
広大な水平線がある海は、思わず深呼吸をしたくなり、心が踊った。

「海はいいねぇ! ロマンがあるぜ!」
「あまり近づくな、インスマウスが見ている」

脇を見ると確かにインスマウスが監視している。
古の契約により、エミル界の人間は海へ入ることができない。
誤って入ってしまった場合は、着ていた衣服を全て脱がされ下着一枚にされたまま、金インスマウスの神輿に縛り付けられ、アクロポリスまで運ばれるため、冒険者は怖がって海に入ろうとしなかった。
話によると、数年前までは全裸でアクロポリスまで連れて来られていたらしいが、誰かが「冒険者を全裸にするとインスマウス達に変態のイメージがついてしまう」と説得しそれからは下着だけを残す事になったらしい。

そんなことを考えていると、カナトが後ろでルナをリードから放していた。
街から一歩でれば、もうリードでつなぐ必要はなくなるため、自由に動いても構わない。
ルナは全力で海岸を走り、グリーンプルルやコケトリスも倒しながら進んだ。
でかクローラーも相手にしたが、なんの苦もなく倒してしまい、2人は感心する。

「こいつ意外とできんなぁ」

褒めれば尻尾を振って喜ぶ。
違和感があるが、狼といっても犬とは大差ないのか。
ジンがその辺に落ちていた棒を投げ、ルナに取りにいかせてあそんでいるとカナトがじっとそれを見ている。

楽しそうだ。
昨日寝る前ペットの飼い方を調べていたが、確かにジンの遊び方も乗っていた。
しかし、道具は棒ではなくエアリアルレイだったので、また購入する必要があるだろう。

「お前もこいよ! ルナ楽しそうだぜ?」

確かにテンションが上がり、早く投げろと急かしている。
ジンが渡してきたものを思い切り投げると、回転がはいり遠くへとんだ。
するとルナが、全力疾走をしてとりにゆく。

「おぉー! よく飛ぶなぁ!」
「お前はとりに行かないのか?」
「なんで俺なんだよ! ルナの遊びだよ!」

棒だけであんなに楽しそうだったのに……。
ルナはすぐに戻ってきて、棒をカナトへ返した。
遊んではいたいが、敵も探さなければ行けない。

「すまないルナ、先にやる事があるからな」
「よっしゃー、探すぜ」

準備運動ができてよかった。
うーんとジンが伸びをした矢先、目の前の茂みに紫の羽毛が見える。
見慣れずまさかとは思ったが、直後、甲高い鳥の鳴き声が響き渡り周辺のコケトリスが襲いかかってきた。
さらに、目の前の巨大なコッコーまで魔法を唱える。

ジャイアントコッコーだ。
現れてくれたのは願っても無いが不意をつかれた。
気づくのが遅れて、コケトリスの”マジックストーン”に足元が固められる。
ジンが銃をぬき安全装置をはずしたが、大量のコケトリスがつついてきてうごけず、その間に足元から石化が進む。
カナトも同じだ。
唯一、狼のルナが魔法を交わし、ジャイアントコッコーへ体当たりを加えている。
しかし、これでは銃が使えない。

「ルナ! さがれ!」

カナトの声を聞き、ルナがさがる。
ジンが銃を構え仕留めようとしたが、オープンサイトの先に標的はいなかった。
叫んだカナトの声に驚き、そちらへと突進してきたのだ。
足が固められ、カナトは飛び立てない。またジンも、動く相手に照準が定まらない。
カナトが剣で防御の構えを取った直後。

ジャイアントコッコーが、横へ吹っ飛ばされた。
クチバシ脇に右ストレート。
筋肉のついたたくましい腕が、それをぶち込んだ。
突然の衝撃に、ジャイアントコッコーは失神したらしく動きを止めている。

恐る恐る2人が脇をみると、銀髪に長身の大男が、ネームプレート付きの首輪を下げ、素手で構えていた。

誰だ?
2人の感想はそれだった。
しかし首から下げているネームプレートには、間違いなく”ルナ”とカナトの筆跡で書かれていて、しかも、アクセサリーのように余裕を持ってつけられている。

「覚悟してもらおう!」

大男はそう言い放ち、ジャイアントコッコーへ突っ込んでいった。
気がつくと周りのコケトリスは全て倒されており、2人の石化の魔法も解けている。
だが、2人はまだ動けなかった。
呆然と、首輪を下げる男とジャイアントコッコーとの戦いを見据え、数分後、ジャイアントコッコーは気絶する。

「倒したぞ! カナト!!」

嬉しそうに振り返った。
しかし固まる2人に、大男は何かに気づき同じく固まる。

ついに誰も喋らなくなり、ようやく現実が滲むように理解できてきた。
するとカナトが、何かを思い出したように叫ぶ。

「ルナ、おすわり!」

さっと、無駄のない動作で大男は中腰になった。

「ジン! ルナだ!」
「とりあえず落ち着け!!」

しかし、気持ちもわかる。
頭の回転が追いつかず、カナトはふわりと支えを失い倒れた。
ジンが受け止めたが、ルナらしい大男も心配して駆け寄ってくる。
動かなくなったカナトにかわり、ジンが質問をした。

「えっと、ルナなのか?」
「……あぁ、ルナだ。すまない。驚かせるつもりはなかった。唯、飛び出すなら今しかいましか無いと思った」

最悪なタイミングだと思ったのは、自分だけではないと思う。

「人間なのか?」
「少し違う」
「狼か? 犬?」
「武器だ」
「は?」

カナトが失神し、ぐったりとしてしまった。
討伐は終わったので起こす必要もないが、ジンも気絶したい気分に駆られる。

「とりあえず狼だろ? お前」
「狼……というよりは、人狼だ」

人狼。
ゲームでよく聞く、あの人狼か。
人が殺され。疑いながら人狼をさがすゲーム。
しかし、今はそんな事を考えている場ではない。

「人狼……? さっきの狼は?」
「あれは2人を驚かせない為のカモフラージュだ。しかし、あまりにも気に入られすぎて、タイミングを見失った……すまない」

言葉にできない罪悪感がこみ上げてくる。
つまり今が、本当の姿ということだろう。
昨日から今までの記憶が、走馬灯のように駆け巡り、なんとも言えない心境だ。
一瞬で名前を覚えたのも、直ぐに芸ができたのも、そういうことか……。

「なんか、わりぃ……」
「い、いや。歓迎されたのは、嬉しかったんだ……でも、この姿をみせた時にどうなるか、ずっと心配だった。すまない」

謝られても困ってしまう。
犬が飼えると聞いて、一番喜んでいたのはカナトだ。
このタイミングで、犬ではないと知ったらどうなるか想像もつかない。
結果、気絶したわけだが、ジンも未だに訳が分からず夢ではないかと思う。

「とりあえず、かえっていいか? 夢なら覚ましてぇ……」
「そ、そうか。分かった」

ジンがカナトをおぶろうとすると、ルナが横から割り込みカナトを担いでくれた。
そのまま背中へおぶり、ジンが呆然とする。

「疲れているだろう。任せてくれ」
「お、おぅ……」

戸惑いはしたが、悪い奴ではないらしい。
平原のカウンターにて討伐の完遂報告をし、ジンは自宅へ戻った。
カナトをベッドに寝かせ、ジンも夢を覚まそうとソファで昼寝をしたが、一時間後に起きるとルナが部屋の掃除をしてくれていてようやく理解する。

「大丈夫か?」
「わりぃ、サンキュ……」
「コーヒーメーカーがあったので、いれておいたが、」
「まじかよ。すげぇ嬉しいけど、俺はコーヒー苦手なんだ。カナトは好きだけど」
「そうだったか……」
「でも飲むぜ。ミルクいれたら平気だしな」

らしくない話をしていると思った。
話さなければいけないと思うジンがいて、はたまた聞いてはいけないと気を使うジンもいる。
何から聞くかと考えていると、気がついた時には注いでいたミルクが溢れていた。

「まだ動揺しているな」
「ペットが突然人間になって、平常心でいられる奴に会ってみたいぜ……」

コーヒーを口へ運ぶ気にもなれない。
目の前のルナはよく見ると獣耳がついている。人間の耳はなさそうだ。

「人間じゃないのか?」
「人間ではない」
「人狼って言ってたよな?」
「形はそうだ。だが本質は違う」
「なんだそれ……」
「俺はワーウルフ・ロア。カナトの心を拠り所にする武器だ」

訳がわからない。

「ワーウルフ?」
「人狼と言う意味だ」
「ロアは?」
「武器の種類だ」
「カナトの武器?」
「俺はカナトの心を拠り所としているんだ」
「なんで?」
「そういう武器らしい。俺自身でも説明は難しい」
「いつの間にそうなったんだよ?」
「二年前、カナトにかかった呪いを食い止めた」
「!」
「そのために無理矢理割り込んだ。以来ずっと居た」
「今まで出て来なかったのは?」
「存在が不安定で、実体化できなかったんだ」

ある程度は理解できた。
ルナの言う呪いは、二年前。
カナトが本を介した呪いを浴びたことに始まる。
そのときに、相談した魔女、ロキは呪いを何者かが食い止めているといっていたのだ。

しかしそれでも、わからない事だらけで頭を抱える。

「とりあえず、人間じゃないんだな?」
「あ、あぁ、そうだな……?」
「じゃあお前はカナトのペットだ! おわり、万事解決!」

考えると頭痛がしたのでやめた。
首から下げるネームプレートは、間違いなくルナと書かれていて、カナトが拾った狼であることは間違いない。
しかし、スッキリはしないのでジンは机へつっぷしてしまう。
聞いたこともない言葉ばかりだ。
二年前の記憶は確かにあるが、そこまで詳しくは覚えていない。
ロキの家で派手にやらかしはしたが、それ以外はさっぱりだ。

うーんと呻きながら記憶を辿っていると、二階部屋の扉が開き、目を覚ましたカナトが出てきた。
狩り用の鎧だけを脱がせた、肌着だけのラフな姿で出てきたカナトは、翼を使ってふわりと一階へおりる。

「カナト、起きたか?」

ジンの声に頷きはしたが、向かいへ座る人狼をじっと見つめていた。
誰だろうという目だが、人狼は何も言わず立ち上がり、カナトと距離をつめる。

「さっきは、おどろかせてすまない」

カナトは何も口にしない。
そっと両手を伸ばし、人狼の耳へ触れる。
短く固い毛が生えてざらざらしているが、たしかに耳だ。

「本物?」
「あ、あぁ……」
「人獣?」
「人狼だ」

カナトが少し驚いてたじろぐ。
不安そうな表情をみせるのは、怯えているのか。

「ひ、人を食べるやつか?」
「俺はその手の人狼じゃない」

ほっとした。
聞きたいことが山ほどあるが、なにから聞けばいいのかわからない。

「カナト、俺はカナトの武器だが、カナトが望むなら、出て行くことも出来る」
「……? なんの話だ?」

「カナト。おまえ前に、呪いでぶっ倒れただろ? ロキになんとかしてもらったやつ、あの時の呪いを食い止めてたんだと」
「! じゃあ本の?」

「あぁ、そうだ」

まさかとは思った。
こんな形で出会えるとは、夢にも思わなかった。
当時は、夢に少しだけ姿をみせていたが、ある日を境に全く夢にでなくなっていた。
何故だかはわからない。
容姿も今は殆ど覚えてはおらず、夢は夢であると諦めていたのに、


「そうか、お前だったのか。ありがとう」
「放っておけなかっただけだ……」

うつむいてしまった人狼へカナトがそっと手を差し出すと、人狼はそれを受け入れるように、首元を触らせた。
生え際付近をかくのが心地よいらしい。

「あの本の人狼ということは、本当の名前はルーカスか?」
「いやそれは、あくまで俺が物語の中で名乗った名前だ。本当の名前はワーウルフ・ロアという。でもこの名前も、武器の型番を表す名前なので少し違う」
「型番……?」
「武器の名前だ。俺は武器だからな」

人狼の武器と言う意味だろうか。
しかし、武器だと自称されても、こうして話しているだけではピンとこない。

「でも俺は、ルナのままがいい……」

話の意図が分かり、ようやく筋が通った。
武器と自称しても、本から来たとしても、彼はルナで居たいと言う。
それはきっと、今のまま側に居たいと言うことで、彼自身が自分の意思でここに居たいという意味ともとれるだろう。
まだ、訳がわからない事が多いが、彼自身がそうしたいなら尊重したい。

「そうか。ならルナ、お前がここに居たいなら好きにして構わない」
「ありがとう。感謝する」

「何かよくわかんねぇけど、とりあえず狼ってことでいいのか?」
「今はそれでいい」

「しかし、人狼はなにを食べるんだ? ペットフードでいいのか?」
「ペットフード……」

「人食いって言うぐらいだし、肉じゃねぇの……?」
「肉か……」

「たしかに野菜は苦手かもしれない」

カナトがこの世の終わりのような表情を見せる。だいこんか。

「だが、苦手と言っても作り方次第だろう。やりがいがある」
「カナト、お前今、すげぇ無理してるだろ」

犬は肉食であるため、野菜を受け付けない犬種もいる。
ルナは狼だというが、果たしてこのアークタイタニアは狼と犬の違いを理解しているのだろうか。
カナトの態度はきになりはするが、彼なりに努力だろうとあえてつっこまなかった。
その後、ルナは2人の目の前で、狼の姿をみせてくれて、改めて彼自身がカナトの拾った狼であると理解した。
帰ってきた月光花も、突然現れた長身の大男にどうしたらいいかもわからず困惑していたが、昨日から居た狼だとわかると、頭をなでたり尻尾を触ったりと昨日と同じような態度へ戻った。
そんな様子を見ていると、彼女の感じたお兄さんオーラというものもなんとなくわかる気がして、女の勘を舐めてはいけないのだとジンは心に刻み込んだ。

そうして二人がいつも通りの日常を終えた頃、エミル・アストラリストのセオは一人ある部屋にいた。
何もない個室。真っ白な窓のない部屋。
中央にテーブルがあり古い本が置かれている。
そこに一人で立つセオは、ナビゲーションデバイスのイヤホンコードから自らが仕える王の声を聞いていた。

「よくこんなものを入手できましたね?」
「”ギルド評議会のイリスカードの技術をウォレスさんに話したら、是非天界で応用したいって言われてね。向こうの軍事系列を総括するミカエルが開発段階の物をこちらに回してくれたんだよ”」
「評議会の認可は……?」
「”一応おりている。ただ、あまり表立っては使うなってさ”」
「なるほど、しかしこれはオリジナルにも見えますが……」
「”構想そのものはかなり昔からあったみたいで、エミル界で開発された試作品が何冊も世界へ散らばっているらしい。でも、それはとても不安定で、場合によっては心を潰しかねないから、危険なんだよね”」
「ほぅ」
「”セオの目の前に有るものは、治安維持部隊が回収し、天界でより洗練されたシステムへ再構築されたものだ。安心していい”」
「そうですか。ありがとうございます」

イリス武器。と、研究者達は言う。
古代アクロニアにて開発されていた技術は、心が発する想いの力を結晶化するものだ。
しかし、更にそれを応用し武器化するという構想があったらしい。
結晶化された想いは、凝縮される事で心となり自我をもったと言う。
しかし、その存在は酷く不安定で物質化は難しいとされていた。

「”第二世代になって、ようやく完全な物質化と安全面が配慮されたからね。治安維持部隊では君に託すことにしたよ”」
「ありがたく頂戴致します」
「さぁ、儀式を始めよう」

キリヤナギの言葉に合わせ、セオがゆっくりと本を開く。
すると淡い光が溢れ出し、文字列が湯水のように吹き出した。

「”本は面白かったかい?”」
「えぇ、孤独な魔女の話でとても考えさせられました。学ぶものは沢山あったと思います」
「”そうか。失った君の力の代わりになることを祈ろう”」

キリヤナギがそう述べ終えた直後。
セオの右手に、先端にクリスタルのついた杖が構築される。

また目の前にもう一つの姿が浮かび上がってきた。
文字列が、つま先から組み込まれ流ように構築されていき、煌びやかな衣装を待とう、金髪の女性へと姿を変える。
髪の毛の先端まで完成された時、セオの手にある杖が消えて女性へと渡った。
ゆっくりと目を開けた彼女は、優しい微笑みを見せ、一言。

「ごきげんよう、貴方がマスターですか?」

この瞬間。一つの武器が完成した。


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本編 | 【2014-07-03(Thu) 12:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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