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Heart*Lost:第十四話
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Heart*Lost
第十四話 罪の意味

第一章
第一話:終わりの始まり
第二話:序章
第三話:失うもの
第四話:夢への入口
第二章
第五話:孤独からの再動
第六話:戦いの絆
第七話:覚悟への道
第八話:凍てついた心
第三章
第九話:目覚めの対価
第十話:矛盾を得た安息
第十一話:王の洗礼
第十二話:救済の灯
第十三話:解放への軌跡


 夜の花畑だった。
ピアノを弾いている自分、後ろには人の気配がある。

ああ、
あの時の続きだと、カナトは思った。

止めてしまった手で、カナトは再び曲を奏でる。
カナトと言う名前の由来。
それは、音楽を愛した亡き母がつけてくれた名前だった。
タイタニア族は横文字が主流だが、父が愛したエミル界の文字を取り、
奏斗。

音楽のようにありのままであれと願い、そう付けられた。

もう一人の彼はどうなのだろう。
沢山の時間を過ごしたがまだ何も知らないのかもしれない。
だから、また教えてほしい。
そう願い、カナトは奏でた。

そうして弾き終えた時、ゆっくりと後ろから手が伸びてきて、脇の鍵盤を叩く。
視線を移すと、それは見知った手ではなかった。
筋肉のついたたくましい腕。
知らない手だ。

しかし、悪いものではないと、それだけは分かる。
ゆっくりと視線を上げると、銀髪を一つにくくる長髪の大男が自分を見下ろしていた。
誰かはわからない。
だが、カナトは知っている。
知らないのに存在は理解していた。

「早く起きた方がいい……」

発された声も低い。
大男はそれだけ述べ目をつむる。

途端、空間が消えた。





「かーなとー?」

ジンの間抜けな声に、カナトがようやく気を取り戻した。
小さなテントの中で横たわり、脇にはジンがいる。

「軽い貧血ですね。しばらく休めば平気でしょう」

聞きなれない声に、カナトは状況が理解できなかった。
だが、徐々にはっきりしてくる意識にカナトはようやく理解する。
ダンジョンへ突入した直後。倒れたのだ。

「心身的な、いわゆるトラウマの所為でしょう。予想はしていましたので、気になさらずに、10分以上目を覚まさなければ、一度戻り、我々だけで進むつもりでした」
「どのくらい眠りましたか?」
「5分程です……もう少し安静に、コトラさんの”オラトリオ”のおかげで回復は早いでしょう」

早い話が卒倒したのだ。
楽器を奏でるコトラは、治癒空間をテント内へ発生させてくれている。
優しいハープの音色がテントに響きもう一度眠ってしまいそうだ。

「カナト、お前やっぱ、このダンジョンでなんかあったのか? はいってすぐ卒倒なんて、よっぽどだぞ?」
「すまない。だが私も、殆ど覚えてはいないんだ……ただがむしゃらにこの場所を目指した。どうやって助かったのかは覚えていない」

ジンがムッとする。
石を使ったわけでもなく、何かをしたわけでもない。
全ての希望が潰えた時、気がついたら病院にいた。
恐らく、ジンが何かをしたのだろうが、そんな話もしたことがない。

「動けますか? カナトさん」
「セオ殿、かたじけない……」
「トラウマであるこの場所で、何もないとは思えませんから、無理なさらずに」
「ありがとうございます」

「なんでそこまですんだよ……」
「私が行きたいからだが?」

真顔で帰されてしまった。
付き合いなら帰れといえるのに、これでは言い返しようがない。

「ジンさんも、往生際がわるいですよ。カナトさんはこういう人なのですから」
「わがままじゃねーか……」

「悪いか?」
「開きなおんな!!」

「まぁまぁ」

苦笑するコトラにジンがようやく引き下がる。カナトもゆっくりと体を起こし、出発に備えた。

「セオ殿、他の方は?」
「皆さん初めてくるダンジョンで物珍しいのか、探検してくると言って出て行きました」
「……大丈夫なのですか?」

「”大尉ー!! 地下の入り口見つけたよー!!”」
「”道中の敵もついでに掃除したわ”」

ぬえとリゼロッテの通信が、高らかにテントへ響いた。
火力組な二人にとっては、ここの敵すら雑魚に等しいらしい。

「”敵は固いですけど! あんまりつよくないですね!! 楽しいです!”」
「”クローキング”で周回しましたが、サウスダンジョン地下3階と全く同じで作りですね。デバイスのマップ情報を割り当てればいいと思います。地下二階にも行きましたがこちらも同じですね”」

何故誰も突っ込まないのだろう。
カルネオルの楽しいと言う言葉に、ジンは頭を抱え、リアスの発言が更に追い打ちをかけた。
何が楽しいのか、何でもう地下まで進んでいるのか……。

「彼らはランカーですしね」

身も蓋もない。
テントの外に出ると、もう殆どのモンスターが掃除され、視界の奥に少しちらつく程度だ。
話に聞くと、体調を崩したカナトが安全に進めるよう頑張ってくれたそうだが、何故こうも皆がカナトにこだわるのか理解できない。

「皆さん、好きでやっているのです。誰も気にして居ませんよ」

セオの発言もよくわからない。
等の本人は、久しぶりに来たディメンションサウスダンジョンに、懐かしそうな顔を見せ、興味津々に見回していた。
そんなカナトを見ていたとき、ふと倒れたカナトを思い出す。
先程の卒倒したカナトかと思った。
が、よぎったのは、瞳孔が開きぐったりと倒れこんだカナト。
翼がボロボロで動かない彼は、人間とは思えずぞっとした。

しかし、さっき倒れた時は目をつむり、自分が支えたはずで、……倒れているのはおかしい。

「ジン?」

はっとした。

「な、なんだよ?」
「?」

視線を感じただけらしい。
もし、今のが記憶ならカナトが覚えていないのは分かる。
死の一歩手前まで、カナトは行ったのだ。

「リアスさんが、二階を散策しています。私達も急ぎましょう」
「”3階の入り口を見つけたので、先に行きますね”」

「はえぇよ!?」

知りたがりのリアスとは、よく言われたものだ。
ダンジョンの中央付近で、カルネオルと合流した四人は、五人で、地下二階の入り口へと向かう。
先行したぬえとリゼロッテは、地下二階の入り口周辺の敵を軽く殲滅してくれていて、安全に到達する事ができた。

そうして、二階の散策を始めようとしたとき、圏外だったナビゲーションデバイスが、新しいナビゲーションデバイスの存在感を複数察知し、アラームをならす、
ディメンションダンジョンに、治安維持部隊の本隊が侵入したのだ。

「時間的は予定通りです。歩いて10分ですから、こちらも進みましょう」

セオとリーダーとして七人が、集団ですすむ。
カルネオルとカナトが、積極的に前に出て殲滅し、リゼロッテとぬえが後ろから来る敵を駆逐する。

一斉に襲いかかる敵だが、リゼロッテのテンションが高く。
「Shock!!」とか「Fire!!」とか叫び、ぬえはぬえでそれに乗せられ、「ぬえちゃんグレアー!」とか「ぬえちゃんShock!!!」と、叫んで、”フォトンランチャー”を飛ばしていた。
ジンは相変わらず、皆の援護射撃で、

「ジンさんも、はっちゃけていいんですよ?」
「なんで!?」

暴れたいものだが、ジンの光砲・エンジェルハイロゥはリゼロッテ程改造しておらず、モンスターへ火力がでない。
烈神銃・サラマンドラに至っては、動き回る二人が危険になる手前、前後の立ち位置が二人ずつで確立してしまっていて、今更入るのも気まずい。

「しかし、カナトさんの動きは隙が大きい。ジンさん気をつけて下さいね」
「へい!」

言われてから気づいた。
グラディエイターのカルネオルに比べ、カナトは”ジョーカー”を放つタメが大きい。
カルネオルが居るので大分抑えられ、努力次第ではなんとかなりそうだが、後ろから回られたら一溜まりもないだろう。
実際、援護射撃はカナトに向けてばかりだ。
むしろこれは、援護射撃が来る前提の動きにも取れる。
普段からそうである為、いつも通りではあるのだが、今そう感じたのも懐かしさを覚えたからだ。

同じ場所で、二人だけで、酷く切羽詰まった状況だったきがする。
そんな時、カナトが宙返りをして黒羽を大きく羽ばたかせた。
そうだ、魔法を食らってカナトは翼を負傷した。
だから、息ができなくなって、入り口に来たとき、力尽きたのだ。

そこまで思い出したとき、ジンは射撃を止めた。

止まった援護射撃にカナトが違和感を察して戻ってくる。

「どうした?」
「あ、わりぃ、なんでもない」

「何か思い出したのですか?」

流石にセオは鋭かった。
カナトの目が若干輝いてこちらを見ていて、答えるべきか迷う。

「いやその、まだ、全部じゃねえし……」

無理させてしまったのだろうか。
翼を負傷したカナトを戦わせて死ぬまで追い込んでしまったのだろうか、そう思うと負い目すら感じる。

「この辺りで私は、モンスターの攻撃で翼を負傷した」

ジンが顔をあげる。今戻った記憶だ。

「呼吸がままならなかった私は、貴様に置いていけと言ったが、『言ったなら最後まで諦めるな』と、立たせてくれたんだ。当時はもう死を覚悟したが、今では感謝している」

カナトなりの答え合わせだろう。
考えた事は間違いであり、記憶は正解だった。

「そっか」
「貴様はどうやって脱出したんだ?」
「しらねぇよ。まだ思い出せねぇし」

「思い出せないつもりで、忘れているだけかもしれませんね」
「セオお前……ちょっと手厳しくなってねぇ?」
「気のせいですよ」

つんとされた。
再びカナトが前衛に戻り、七人が奥へ進む。
地下3階入り口が近づいた時、リアスから連絡が入った。

「”セオ大尉。ベルゼビュートを発見しました”」
「本当ですか?」
「”はい。しかし、取り巻きの一匹が、我々の気配を察知したのか、入り口周辺にいます。気をつけて下さい”」
「……倒す必要がありそうですね。カルネオル君が前衛を、カナトさんの攻撃は隙が大きいので、二手目以降からでお願いします。初手は――」

「はいはい!! 俺! 催涙!!」
「”インパクト”のがいいんじゃないのぉ?」

「目くらましとしては最適ですが、同じで言いますと、”フラッシュグレネード”の方がいい気がします」
「リアス、先に行ってるもんね!」

「降りてすぐよりも、最初から下にいるリアスさんのが確実性がありそうです!」

ジンが何も言えずがっかりした。
ここまで何一つ見せ場がなく、もどかしい。

「”というか、取り巻きに目くらましが効くのですか?”」
「おそらく効かないでしょう。やはり、カルネオル君の初手、”神速切り”でお願いします。目くらまし効かない以上、此方から初手を取り、隙を作るしかない。お願いできますか?」
「もちろんです! 任せてください!」

胸を叩く少年は、ある意味尊敬に値するだろう。
細い真っ直ぐな剣を構え、カルネオルは静かに地下へと降りる。
物陰から敵を探すと、確かに入り口の目の前に、ベルゼビュートと瓜二つの悪魔がいた。
リアスによると、ベルゼビュートが召喚した分身体らしい。

「20秒きっかりで突撃します。リアスさんも、援護を」
「”はい”」

沈黙を挟み、

「行きます!」

カルネオルが飛び込んだ。
また、リアスも”マーシレスシャドゥ”を唱える。

多方向から同時に出現し、敵は二つの気配へ混乱。
カルネオルの”神速切り”と、リアスの”マーシレスシャドウ”を受けた。
初手をとり、ジンとリゼロッテが長銃を構え、発砲。
カナトが、背後から飛び立ち、弾丸からの追撃を加える。

仰け反った敵はカナトに押し込まれ、魔法を唱えた。

「いっくよー!! ”ディスペルフィールド!!"」

放たれた魔法は、カナトを中心として暴発したが、途端全員に発動したバリアに無効化された。
しかし、光によって目がくらみ、ホークアイの二人が引き金を渋る。
ボルトアクション式のレバーを入れ、ジンが思わず目をつむった。

「きついっすね」
「洞窟でやられるとやっかいね、タイミングに合わせて目をつむりなさい」

魔法はぬえがなんとかしてくれるはずだ。
そう信じて二人はベルゼビュートの分身体へ銃撃をいれる。
セオはそんな二人の後ろで、属性を付与。
”リメインエレメント”から、炎属性を敵に付与し、ぬえを除く五人へ、風属性を付与した。

「”エレメントメモリー”!!!」

属性の弾ける音がこだまする。
音が響き、敵を集めるかにみえたが、周辺の敵は掃除され見当たらない。
この時点で、ジンは全てを納得した。

皆が強いのだ。
それは個々が戦い、勝てる環境を作れる強さにある。
連射される魔法に、ジンは目をつむることで対応、徐々にタイミングをつかめてくる。

魔法が効かないと踏んだ敵は、防御のため、物理バリア”エセリアルボディ”を展開。
それを見たカナトが剣を持ち替え、大きく床から一気に飛翔。
天井ギリギリから、振り下ろす。

ジョーカーのみが使用できる、全てを破壊するスキルだ。

「”イクスパンジアーム!!”」

ぶち込んだ。
バリアがまるで、ガラスのように砕ける。
が、接近したカナトは大きく隙をみせ、反応した敵に襟首を掴まれてしまった。
必死でもがくがしっかりと掴まれ、はなさい。

「カナト!!」

カルネオルが思わずさがり、リゼロッテとジンも銃口を上へあげる。
カナトが抵抗するため、剣を切りつけようとしたが、分身体と目があった瞬間。

カナトは気を失い、剣を落とした。
そのまま光に包まれ、カナトの姿が徐々に透明になって行く。
一瞬だった。
落下した剣の音が無残にも響き渡り、その場からカナトが消える。

ジンが動いた。
光砲・エンジェルハイロゥを構え、迷わず引き金を引く。

「”インパクト!!”」

分身体へ弾丸が貫通。
壁にめり込み、巨大な亀裂をいれた。
体の貫通に気づいたのか、分身体はジンの方を向くと、テレポートを使って接近。
一瞬で目の前へ来た。
そしてそのままジンのジャケットをつかむ。

リゼロッテが止めるために突進したが、遅い。
ジンも同じく、新生魔法の七色の光に包まれ、消えた。

✳︎

夢を見ていた。
追い詰められる夢、必死に走り出口を探す夢。
場所はサウスダンジョンだった。
モンスターから逃れ逃げ込んだ場所は、先がない空間。
黒い空があるマルクト船着場だった。
モンスターはいなくて、幸い危険もない。
物資は余るほどあり、食料もあるが求めていた出口はそこにはなかった。
知っているのに、知らない場所。
出口である場所に出口はなく、まるで迷路にでもいる気分だった。
夢なら覚めて欲しいと、人がいるならあわせてくれと願った時、船着場の小屋で人を見つけた。

黒装束のタイタニア。
壁に持たれて眠っている。
人に出会えた嬉しさに、ジンは駆けよったが、
突然突き飛ばされ、武器をむけられる。
そのまま少し乱闘をして、殺されると思った直後、武器が止まったのだ。



気づいたそこは薄暗い場所だった。焦げ臭い匂いに、硬い床。
違和感があるのは腰で、ナビゲーションデバイスのバイブレーションが稼働している事に気付く。
意識が戻り、ハッとしたジンは、振動するデバイスを取った。

「セオ!?」
「”ジン! よかった。大丈夫ですか?”」
「大丈夫ってか、どうなったんだ?」
「”分身体の魔法で”テレポート”させられたようです。幸いワープ場所は同じ階層。ナビゲーションデバイスでも追える位置でした」

位置情報を確認すると確かに、ナビゲーションデバイスでも位置が確認できる。
しかし、セオ達がいる入り口付近からは大分距離が離れていた。
危機を察した敵が、一番敵意のある相手を無理やり転送したのか、厄介な相手だと思う。

「いいですか? 今、ジンの居る場所は南東の通路。そこから少し南へ行ったところにカナトさんのデバイスの反応があります。ジンは今すぐカナトさんの所へ行って合流してください。合流できれば安全な場所で待機を、私たちも合流します」
「は? 安全な場所なんて――」
言い切る前に、ジンははっとした。
安全な場所がある。見ていた夢は記憶だ。

「わかった。セオ、入り口わかるか?」
「”入り口? 入ってきた所ですか?”」
「ここの地形、サウスダンジョン地下一階にそっくりだろ?」
「”……確かに”」
「いまは、空間ちがうけど、いつものサウスダンジョンの時の入り口が、マルクト船着場になってるんだ。そこで合流させてくれ」
「”!? そこに敵は?”」
「なぜかはしんねーけど、マルクト船着場には敵も入ってこないみたいなんだ」
「”そんな根拠がどこに? 追い詰められたらにげばがありませんよ?”」
「平気だ。俺は一回ここに来たことある!」
「”!?……わかった。ジンはカナトさんと、そこまで移動してください。万が一のこともありますので、こちらも急ぎます。それと……”」
「どした?」
「”カナトさんの武器と、ジンさんの光砲・エンジェハイロゥがこちらにあります。おそらく転送の時に落としたのでしょう。だから、早く合流した方がいい”」
「!? ……わかった。すぐ拾う」
「”頼んだよ”」

心配そうな声にジンは渋々通信を切る。
早く合流をしなければ、カナトが危ない。

ジンは腰のサラマンドラを抜き、弾丸を装填。
筒を額につけ無心になると、両手に銃を持ったまま飛び出した。
懐かしい。
以前もこうして、一人で走った。
出口を探して、このまま行けばすぐ帰れると思った。
しかし、出口は行き止まりで絶望し、また希望を見つけたのだ。

幸い、敵は少なくジンは安全にダンジョンを進めた。
おそらく、中央で戦うセオ達に敵が引き寄せられているのだろう。

忍び足でダンジョンを進んでいると、壁際に倒れる人影がみえた。
カナトだ。
黒のマントで暗闇に紛れ、見つかり辛かったらしい。
姿が見えたときほっとしたが、付近にいたシュバリスがカナトを見つけて接近。
ジンが即座にスキルを唱えて、片手で発砲。

「”インパクト!”」

正確に放たれた弾丸は、シュバリスのこめかみを貫通。
脳をやられた敵は、うめき声をあげて霧散した。
他に敵がいないかを確認し、ジンがカナトへと駆け寄る。
応答はなかったが、呼吸は安定しているので一安心した。

「セオ、カナトと合流したし、マルクト船着場にむかうぜ」
「”了解です。お気をつけて”」

デバイスを腰へと戻し、ジンがカナトへと呼びかける。
息はしているが意識はない。
雰囲気としては眠っているように見えるが、”スリープクラウド”でもくらったのだろうか。
起きる気配がないため、ジンは仕方なく、カナトをおぶって進むことにした。

腕を肩へ回し背中に乗せると、過去にカナトが倒れて起きなくなった事を思い出す。
意識がないため、憑依もさせることができず、仕方が無くおぶったのが始まりだった。
時々おぶったまま帰っていると、揺れが心地いいらしく、起きても降りようとせず困った。
しかしそれでも、タイタニアは軽い。
タイタニアの男性でも、エミルの女性程の体重しかなく、結構な時間おぶっていられる。
そう思うとある意味苦労ではあったが、辛くはなかったのかもしれない。

薄暗い通路から少しずつ中央の明るい光が見えてくる。
マルクト船着場の入り口付近へたどり着きはしたが、ここから先は敵の数が増える。
さすがにおぶったまま進むのは難しい。
倒すにしても、カナトを下がらせたほうがよさそうか。

合流場所を変えるべきかとも考えたが、ふと背中に動きを感じる。
カナトが起きたのだ。

「おきた?」

眠そうではあるが、無事でよかったと思う。

「……どうなった?」
「なんかテレポートさせられたらしいぜ? 今合流しようとしてんだ」
「そうか……」

ふわりと背中から舞い上がる。
しかし、いつもの背負っている緋之迦具土がなく、寝起きもあるのか。
登りすぎて天井に頭をぶつけた。
酷い痛みに思わずしゃがみこむ。

「痛い……」
「なにやってんだよ……」
「武器が――」
「ああ、落としたからセオが持ってるってよ」
「剣がない……」
「しゃあねぇじゃん」

痛いし、眠いし、武器がないしで困惑している。
珍しく動揺しているのか、しゃがみこんでしまった。

「とりあえず憑依しろよ。なんとかなるだろ?」

嫌そうな顔をするカナトを無理矢理アクセサリーに乗せ、ジンは拓けた場所にいる敵へ向かっていった。
カナトの唱える”神の加護”と、”スタイルチェンジ”で、銃の威力と精度が上乗せされ、一発に与えるダメージが飛躍的に上昇する。
さらに、カナト自身の魂の効果もあるのか、火力として十分な力を発揮。
目の前にいるホウオウやシュバリスを”フレアショット”と”テンペストショット”で一掃した。

「カナト……」
「なんだ?」
「お前もう俺にずっとのらね?」
「断る」

即答された。
元々憑依が苦手だと言うし仕方が無い。
苦戦はしたが、二人はようやくマルクト船着場へとたどり着いた。
久しぶりの場所だ、ジンも先程思い出し、当時の記憶を呼び起こす。

黒い空、先の見えない海。
まさに空間の行き止まりだ、カナトはジンの胸から出て、空港と同じ形をしているそこを散策する。

「あの時と何も変わっていない……」
「だなぁ、また来るとは思わなかったぜ」

カナトがふっと笑った。
思い出した事がうれしいのかどうかはわからない。
しかし、どこか安心したようにも見えた。
もどってくる記憶の中で、カナトの実家が大貴族であることを思い出す。
本来高い地位である彼が何故ここにいるのだろう。

「そういえばさ、お前、なんで勘当されたんだ?」
「……そうか。お前にも話したことはなかったな」

素朴な疑問だった。
だが、以前のジンを知るカナトが、話した事はないという。
不思議な気分だ。

「天界の政治事情からの話になるがいいか?」
「わ、わかるように話せよ?」
「……努力しよう。しかし、私の話すことはあくまで私が実家で暮らしていた時の話だ。今は変わっている可能性があるので、それだけは覚えておいてくれ」
「しらねぇよそんなん、早く教えろ」
「ああ、すまない。まず天界は神を中心とし七人の天使ともう一人で政治を運営している。結論を言うならば、そのもう一人が、私の父、ウォーレスハイムだ」
「七人なのに?もう一人?」
「アークエンジェルズとも呼ばれる彼らは、七大天使と総称され、私の父の立場は、ここ数百年前までは存在しなかったんだ」

もう一人の意味は理解できた。

「存在しなかったのは、天界が鎖国状態にあり、外部からの干渉を受けつけなかった事にある。父は天界を開国させるため、アークタイタニアとして墜天となった第一人者なんだ」
「すげーじゃん」
「それを踏まえた上で、話を続ける。天界での七大天使達は、はるか昔から使命を受け継ぎ、世襲制を主としてきたが、私の父は唯一、一般の貴族から七大天使。アークエンジェルズ一員となった存在で、当然その立場は脆い」
「せ、せしゅう?」
「代替わり、親の立場を子が受け継ぐ事だ。本来、大天使以上の階級をもつアークタイタニア達は、使命の為に生み出された存在でもあり、生涯でそれを全うする。しかし、私の父上は、エミル界へ憧れ、使命を持ちながら墜天となり、今に至る。この意味がわかるか?」
「お前の親父が不真面目ってことか?」
「正解ではあるが、そうじゃない。本来のアークタイタニアが全うすべき使命を自ら拒否した。つまり、私の父上は、ルシフェルになるべくという使命を持たずにして、ルシフェルとなった、唯一無二のアークタイタニアなんだ」
「そ、それってすげーのか?」
「論点はそこではない。成り上がりを実現したと言う事は、もし、他のアークタイタニアが、ウォーレスハイムと同じ経験をしたならば、他のアークタイタニアでも、ルシフェルとなる事が可能、というわけになる」
「……」
「つまり、ウォーレスハイムの子、カナサでなくとも、その地位を得ることができるんだ。これはウォーレスハイムが引退となった場合、家自体の立場が消失。貴族の位が降格することを意味する。早い話が没落だ」
「……!」
「これを防ぐ為に、ウォーレスハイムは、私の実の母を亡くした後、同じく七大天使、ラファエルの一人娘を妻として迎えいれた」
「ん? 娘? 妻?」
「あぁ、エミル界で言うと、貴様の父が月光花さんと結婚するようなものだ」
「まじかよ……」
「政略として考えるならば、珍しいことではない。現、私の今の母上は、私とそう年が変わらないが、ここからが私の話だ」
「まさか……」
「そのまさかだな。母上がご結婚なさる前、私は母上に恋をした。最初で最後の恋であり、私は勘当された」
「ど、どこまで、い、いったん、だ?」

カナトが沈黙する。
照れた様子もなく真顔だ。

「行くところまでは……」
「てめぇ……」

勘当されて当然と言えば当然か。
しかし、話したがらなかった理由も全て通った。

「でも、そんな理由があるのにお前の親父さん、お前に継がせたがってんだろ? なんで?」
「真意はわからない。だが、父もまた自分の足で、エミル界を歩いた冒険者だ。これは憶測だが、当時の自分の経験と私を重ねているのかそれとも……」
「それとも?」
「もし私が、勘当された理由を隠し通したならば、誰も、私が勘当された事実を知らないことになる。そうなれば、私が家に戻ることで再び立場を確立することは可能だ」
「話してないのか?」
「貴様が初めてだ。そしてもし、私が実家に戻り、父が引退のタイミングで母上と離婚したなら――」
「おいまてよ。何がいいたいんだ?」
「あぁ、ただの憶測だ。やめておこう。おそらくではあるが、家で貴族として暮らすカナサより、家をでて放浪する私の方が向いているとでも思っているのだろう」
「か、軽くね?」
「元冒険者はそんなものだ。私は母上から貴族としての立ち振る舞いを教わりはしたが、父上にそのようなものは微塵も感じられない。頭だけはよくミカエルと仲がいいときいていたが……」
「ミカエルとかラファエルとか、いろいろいるんだなぁ」
「これは余談だが、七大天使としてまともに動いているのは、ミカエルとルシフェルのみだそうだ。他は皆自己の立場さえ維持出来れば、それでいいらしい」
「楽園って聞いていたけど、なんかちがくね?」
「等本人達が楽園だと思うなら、どんな場所でも楽園になるんじゃないか?」

他人事だなぁと思ったが、今のカナトは一般人だった。
彼に聞いても、全ては他所の庭の話なのだろう。

「ジン、念のために言っておく。私はあくまで冒険者だ。今更、実家にすがるようなことはしたくない。また、私の所為で、実家が没落することはしたくない」
「あぁ、それはわかってる。言わねぇよ、誰にも」
「ありがとう」

信頼しているからこそ、話したのだろう。
本来なら信頼していても話すことではない。だからカナトは今まで言わなかった。
今ここであえて話したのは、出会った場所で、自分達の関係の再確認だ。
そう思った時、ジンはリアスの存在を思い出し、辺りを見回す。
ナビゲーションデバイスの位置情報も確認し、カナトに不思議がられた。

「な、なんでもねぇよ……」
「ならいいが……」

リアスは人数が減ったセオと合流していたらしく、ジンはほっと息をついた。
彼らがくるまでの間、ジンは消費した弾丸の補給を行う。
カナトは、物資の中にあった携帯食料を頬張り、かつて自分が寝泊まりした小屋を見に来た。

自分が寝ていた寝床。
ジンに渡された食料の食べかすもそのままだった。

そこを見ていると、当時の絶望を体が思い出し、思わず足元がふらつく、だが後ろから支えられて顔を上げた。

「帰ろうぜ」
「……あぁ、帰ろう」

紛れもないあの場所だった。
崩壊してしまうなら、もう二度と来られないだろう。
最後に来れてよかったと思う。

「あ、カーナトさん! ジンさーん!」

小屋からでると、カルネオルがカナトの緋野迦具土を振り回し、合図をしている。
後ろから、セオやリゼロッテも現れ、二人は無事合流を果たした。

「お待たせしました。お怪我はありませんか?」
「平気だぜ、セオ。心配かけて悪かったな」

「お時間を取らせて申し訳ありませんでした」
「時間的には早すぎたので、問題はありません。しかし、本隊の到着が遅れているので、10分ほど休憩と討伐方法の確認をしましょう」

時刻に目を配り、セオがナビゲーションデバイスから、地図を参照する。
その間にリゼロッテから光砲・エンジェルハイロゥを渡されて一安心した。
付き合ってきた相棒がもどってきて頬ずりしたい気分にもなる。

「大尉大尉、僕たちは取り巻きの退治だっけ?」
「ぬえさん。はい、まずベルゼビュートを引きつけ、戦いを挑みます。ある程度闘ったあと、後ろからくる本隊に、ベルゼビュート本体のみを叩いてもらいます」

「取り巻きの隔離っすか?」
「それもありますが、余裕があるならベルゼビュート本体への追撃も範疇に入れています」

「つまり、みんなぶっ飛ばせばいいんでしょ? 簡単じゃない」

リゼロッテの言うとおりだが、酷く不安を感じるのは何故だろう。

「そういえば、さっきのそっくりさん倒したんすね」
「いえ、リゼロッテさんが本気だしたせいで、危険を察知したのか、テレポートで逃げました。恐らく、取り巻きとして再びであうでしょう」

どんな危険だろう。
聞こえないフリをしている本人が憎い。
作戦のことはあれど、この場所に再び来てしまい不思議な気分だ。
落ち着かないだけなのかもしれないが、懐かしい気分になる。

「不気味な場所ですね。こんな場所に何日もいたら流石に気が狂うでしょう」

不気味な場所。
確かにそうだ。空は黒く、海には先がない。
カナトはこんな場所で、一週間も生き延びた。深く考えると信じられない。

「ジンさんが、助けたんじゃないのですか?」
「へ?」

「ジン、物資の中にだいこんあった! 持ってかえっても――」
「重いからだめ!!」

突っ込みどころを盛大に間違えた気がしたが、気にしたら負けだと思った。
カナトが名残惜しそうに戻しに行くのを見送り、ジンも銃のチェックを行う。
リゼロッテも同じく、弾丸を補充した。

「そういえば、リアスは?」
「います」

ジンが悲鳴を上げてひっくり返った。
しばらく起き上がれずに居ると、後ろでだいこんを、二分して持って帰ろうとするカナトとカルネオルが見えて、ジンはあえてそれを無視する。

「す、姿みせねーから、くたばったのかと思ったぜ?」
「ジンさんのように、銃声で敵を呼ぶほど派手ではないので大丈夫です」

言い回しがいちいちイラつく。
カナトは結局、リゼロッテとぬえとカルネオルとコトラの四人でだいこんを分割して持つことに纏まったらしい。
四等分なら、重さはそんなにだし。問題ないか。

「カナトさん。討伐後に部隊がここの物資を全て回収しますので、今は回収を控えて下さい。後に任務褒賞として提供しますよ」

セオが的確すぎる。
カナトも納得したらしく、ご機嫌にこちらへと戻ってきた。

「ここにはなんでもあるな」
「ほんとにな」

「ここはアイアンサウスの輸入の拠点なのでしょう。運び込まれた物資が空間ごとそのままコピーされたのなら、これだけの食料があるのも不思議じゃない。それにこの空間は、時間という概念が狂っている。物資が劣化しないのも、時が止まり続けているからだと思います」
「時間が止まるって、なんか変な感覚だな」
「しかし、私達はここで正常です。まだまだわからない事が多い」

たしかに、時が止まっているのなら、ジンもセオも会話はできないだろう。
別の概念があるのだろうか。

「みなさん。そろそろ時間です。行きましょう」
「おぅ!」

声を揃え、8人はマルクト船着場をでたのだった。


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本編 | 【2014-05-15(Thu) 12:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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