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(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

Heart*Lost:第十二話
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Heart*Lost
第十二話 救済の灯

第一章
第一話:終わりの始まり
第二話:序章
第三話:失うもの
第四話:夢への入口
第二章
第五話:孤独からの再動
第六話:戦いの絆
第七話:覚悟への道
第八話:凍てついた心
第三章
第九話:目覚めの対価
第十話:矛盾を得た安息
第十一話:王の洗礼


 「カナト!! トドメいれろ!!」

広大で薄暗いサウスダンジョン、ここの最下層で二人は、巨大ボスライオウと戦っていた。
もう一時間は戦っている持久戦だ。
関節に弾丸を打ち込み、動きは鈍らせてはいるが、魔法を乱発してきてカナトが攻撃を入れられない。
視覚を奪おうと催涙を打ち込むも、巨大ボスには無意味だ。
しかしカナトは、サウスダンジョンの天井ギリギリから落下の勢いをつけて滑空。
ライオウの股の間を抜けて足首を太刀で切り裂いた。
痛みでライオウが膝をつく。
カナトが翼の角度を変え、急上昇を掛けた。
そこから体をねじり、一気に振り下ろす。

「”ジョーカー!!”」

真っ黒な光が、ライオウを飲み込む。
そのまま敵は押し倒され、ようやく討伐が終わった。
ジンが銃を下ろして一息つくと、カナトもゆっくりと降りてくる。
珍しく足をついたと思ったが、そのまま膝をつき倒れてしまった。

「お、おい。大丈夫か!?」
「……すまない……疲れてしまった……」
「ここじゃ運べねぇから憑依しろ!」

ジンはカナトに武器だけ持たせ、自分のアクセサリーへ載せた。
ここ最近、多い。
体力が落ちたのか、カナトは出かけた帰りや討伐の終わりに倒れてしまう。
終わるまで我慢しているのは分かるが、出る時はぴんぴんしていて、外出を控える事がなかなか出来ない。

始めは自宅に帰るまで持っていたのに、ここ数日はこの様子だ。
流石に心配になってしまう。
一応、聖堂の健康診断を受けさせたが、消耗がひどいだけなので、休めば治ると診断された。
しかし、消耗しているにしろよく倒れる。

ジンは結局、カナトを載せたまま完遂の報告へ向かい、帰宅した。
アクセサリーを外して追い出すと、カナトは硬い鎧を着たままベッドへ投げ出される。

「着替えとけよ! 俺はシャワーあびてくるから」

返答は無かったが少し動いたので、意識はあるらしい。
長期戦で動き回り、服は汚れまみれだ、多少は気にしないが髪に汚れがあると決まらないので、ジンは素直にシャワーを浴びる。
軽く洗い流してもどってくると、カナトが未だに鎧をきており、癪に触った。

「だぁ! もう着替えるぐらい自分でしろよ!!」

デバイスを持ったままうつ伏せで寝息を立てている。
仕方が無いので、鎧を引っぺがしていると、カナトのこめかみの付近に、赤い線が浮かんでいることに気づいた。
刺青だろうか。
ウトウトしているカナトを、頬を叩いて無理矢理起こす。

「カナトカナト、お前刺青いれてんのか?」

首を傾げる。
何のことだろうと言いたげだ。

「頬の後ろに、なんか文字みたいだけど?」

ジンに言われて確かめようとするが、自分では見えない為、首を傾げるばかりだ。
どうやら、本人も認識していないらしい。

「わからない……」
「知らないうちに彫られたとか?」
「覚えはない……」

眠そうなカナトを起こしておくのも酷に思えて、ジンは寝巻きにだけ着替えさせ、そのまま寝かせた。
以前、介護していた理由がわかった気がする。

そんな事を思い、ジンが部屋を出ようとすると、ふと視界に古い本が目に入る。
そう言えば似たような赤い文字に覚えがあり、ジンはおもむろに古い本をひらいた。
すると、以前みた赤い文字が消えて、代わりに魔法陣が浮かび上がっている。
文字があったスペースは空白になっていて、嫌な予感がした。

まさか……とは思う。
しかしここで読んだ文字とは違う刺青であるため、ジンは考えるのはやめた。
世話をしすぎるのは良くない。
カナトも甘え過ぎていたと言っていたし、以前と同じ事はやめよう。

そんな事を考えた時、来客を知らせる呼び鈴がなった。
念のためホルスターを付けて、慎重に扉を開けると二人の姿がそこにある。
一人は長身の執事服のタイタニア。もう一人は黒羽だ。
黒羽の彼は目をまんまるにして、まるで確認するようにこちらを見る。

「カナト!? いや、違うか。カナサ、君?」

アークタイタニア・カナサ。
カナトの双子の弟だ。彼は何も言わずジンをまじまじと見る。

「本物ですか!?」
「は? なにが?」
「ジンさんですか?」
「そ、そうだけど……」
「お元気そうで……何よりです」
「へ? あ、サンキュ」

「ジン様。お目覚めになられてよかった。心配しておりました」
「バトラーさん……? あ、あぁ、すんません俺――」

「ジンさん。兄上はどこですか?」
「カナトなら、さっき帰ってきて寝てるけど?」

カナサが、酷くがっかりした表情をみせる。
仕方が無い。

「起きるまで待つならお茶ぐらいだすっすよ?」
「……おじゃまします」

えらく素直だなとジンは感心した。
しかし、何故夕方にも近いこの時間に、カナサが来たのか。

「兄上にお話したいことがあったのです。それで、夕食前なら居られるかと……」
「あぁ、確かにこの時間ならいつも起きてるしなぁ……」

カナサと普通に会話ができていることに、ジンは僅かな違和感を覚える。
以前あった時は、発言を何一つ受け入れて貰えず苦労した。
が、今のカナサもこちらを睨み殺意を送ってくる。
唯の嫉妬である分かわいいものだが、落ち着かない。

「そう言えば、カナトの家って刺青とか入れる風習あるんすか?」
「な……その様な下賤な風習があるわけがないでしょう? バカにしているのですか!?」
「わ、わりぃ。カナトにさ、赤い刺青あったから気になったんだよ!?」
「兄上がそんなもの……アークタイタニアの体に刺青など、神より賜りし肉体を穢すようなもの……あり得ません」
「そっか、ならいいけど……」
「なんなんですか、貴方は兄上に救われたのですよ!? 少しはその恩義を返す努力を――」
「わかってるよ……こう見えて感謝してんだ。だから心配で刺青が気になったんだよ……」

しどろもどろするジンの言い分に、カナサは納得がいかないらしい。

「なら兄上に合わせて下さい!」
「カナサ様。カナト様はおやすみ中と……」

「おきんのかなぁ……ちょっと試してみますわ」

ジンが当たり前のように、起こしに行き、カナサは目を疑った。
カナサの知るカナトは、一度眠ると何時間も起きない、 なのにジンは起こしに行くと言う。
カナサよりも起きないと理解していた筈のジンが、あえて起こしに行こうとするのは何故だ?
そんなカナサの疑問を他所に、ジンがカナトの部屋へ消えてゆく。
カナサは翼で後を追い、起こされている兄をみた。

「カナト。客きてっぞ、弟」

自分の知っている兄は起きない。
そう思っていた。だがカナトは、ん、と鼻で応答し布団を頭までかぶってしまう。

「寒い」
「起きろよ! カナサ君がきてんだよ!」

確かに最近冷える為、出たくない気持ちもわかる。
が、起きた事にカナサは驚いた。

「カナサ……すまない。こんな――」
「いえ、兄上。お疲れだったのでしょう? 無理なさらず」
「ありがとう」
「それであの、ジンさんから刺青があると……」

「左のこめかみの近くに文字ねえか?」

カナトが掻き上げて見せると、確かに赤い文字がある。
カナサは驚いて言葉を失った。

「わからないが、何かあるのか?」
「なんか模様みたいなもんがあんだよ。刺青か?」
「刺青は好かない。入れた覚えもないが……」

触れて見ても凹凸を感じない。
ペイントでもなさそうだったが、カナトに心当たりがないのは気になる。

「ともかく、よく来てくれたカナサ。以前は……すまなかった」
「いえ、その……僕も突然飛び出して……」
「父上は、帰られたのか?」
「明日、母上と戻られるようです。だから、僕もまたしばらくはお会いできないかと……」
「そうか、少し寂しくなるが、父上と母上によろしく伝えて欲しい」
「あ、あの、兄上」
「? どうかしたか?」
「僕の気のせいかもしれませんが、その……ジンさんもいて兄上もいるのに、この家の空気が、以前お二人がいた時と全く違う気がします……。兄上が兄上じゃないような、ジンさんがジンさんじゃないような………」

「俺からすれば、カナサ君が名前で呼んでくれてるのがなんか不思議だけど……?」
「そうだな。カナサ、空気は常に変わるものだが、目の前の相手は同じだ。安心するといい」

「は、はい……ごめんなさい」
「カナト、晩飯どうすんの?」

「眠い」

布団に逃げ込まれた。
剥がそうとしても、抑えられて剥がせない。
結局バトラーが用意してくれることになり、帰ってきた月光花と合わせた5人で夕食を頂く事になる。
その間もカナサは、ジンをじっと睨みつづけ、終始いたたまれない空気でもあったが、結局何も話せず、バトラーと共に帰っていった。

そこから一息ついた後、机で本を読むカナトへジンが素朴な疑問を問う。

「言わなくてよかったのか?」
「何をだ?」
「何って……」
「貴様の記憶については、あえて話すことではない。態度で感づいてはいるみたいだがな」
「マジかよ……」
「大貴族の一人息子として、様々なプレッシャーを受け育った弟だ、私よりも相手の感情に敏感で酷く神経質なところがある」
「……」
「少しでも相手の態度が変わると、それを敏感に感じてしまう。だから貴様が私への態度を変えたことに不安を感じた。それだけだ」
「……よくわかんねぇ」
「貴様は考えもしないことだろうな」

少しイラついてカナトを見ると、こめかみの刺青が目に入る。
思いのほか先程より濃くなっている気がして……。

「すまない。今日も調子が悪いので休む……」
「お、おぅ。というか刺青は? 放置すんの?」
「あぁ、明日、聖堂に行って消せないか試したい。付き合ってくれ」
「いいぜ」

カナトは古い本を持ち、自室へと戻る。
帰宅して眠ってまた眠る。
睡眠障害は改善したと聞いたのに、再発しているのだろうか。
しかしそれにしては顔色が悪く体調も良くなさそうにみえる。

「カナト」
「なんだ?」
「その本、何処で買ったんだ?」
「これか……これは、私がノーザンに行った時に土産としてもらった本だ」
「土産?」
「あぁ、忘れて帰ったつもりが、好意で持ちかえってくれた。感謝している」
「へぇー」
「治安維持部隊の彼らだがな」

ふっと笑うカナトに、ジンは目を見開いた。
感じた事のない自然な笑み。
記憶に無いだけなのかどうかは分からない。
埋められて行く記憶には、部隊へ文句を言う彼の姿や言葉しかなく。
カナトから治安維持部隊へ述べる感謝の言葉はこれが初めてだった。

一人になったリビングで、ジンは数分呻いていたが、結局いてもたってもいられず、次の日の早朝、ギルド元宮へと足を運んだ。
ラウンジには、夜勤から戻ったカロンが突っ伏していて、そっと向かいに座る。

「ん、カナトとなんかあったのか?」
「第一声からそれっすか?」
「おめーが来る理由なんて、武器かそれぐらいしかねぇし」
「確かに今回もカナトっすけど……」
「仲直りはしたんだろ?」
「したっすけど、なんか体調が悪そうっていうか、狩の後に突然倒れたり、1日10時間以上寝たり……」
「それ前と同じじゃね?」
「同じっすけど、なんか違うと言うか……」
「ふーん、飯くって朝起きて、朝日浴びて寝てれば治るだろ」
「朝は起きるんですよ。8時ぐらい、でも最近、その時間に起きるために早く寝すぎるっつーか……」
「どんなスケジュールなんだよ?」
「朝起きて、午後から狩り行って16時ごろに帰ってそのまま寝て、19時ごろに飯食って22時には寝るみたいな……先週は0時ごろまでは起きてたんすけど……」
「ちと多いな……でも体調も悪いならそんなもんじゃね?」
「でも聖堂でみてもらったら異常なしみたいで……」
「異常なし……睡眠時間が増えてるのはちょっと気になるな」
「病気っすかね……」
「病気なら、睡眠障害で結果でるはずだろ?」
「……確かに」
「あーみえて、聖堂の連中は優秀だしな。大体の体調不良は結果として出してくれるから、なんとかできはする。でも、そんな連中でも唯一異常なしとしかだせない部類がある」
「なんすか……」

「呪いだ」

「!?」
「魔法の力を使った人為的な呪いは、体の異常を治す聖堂の連中にとって専門外だからな。どんな精密な健康診断でも体に異常がないのに悪いのはおかしい」
「……」
「覚えあるか?」
「ないっす……」
「お前が寝てる間になんかしら貰って帰っちまったのかもな」
「そんな簡単にかかるもんなんすか!?」
「意外と多いぜ? 古い魔法陣の上に残された魔力が人に映ったり、赤の他人が仕掛けた呪いが何百年と放置されて、今の人間にかかったり、年に20件くらいは被害として報告がきてるらしい」
「呪いかどうかっていうのは分かるもんなんすか?」
「ものによるな。身体に刻印やら異常がでる類なら、強力すぎてすぐわかるし、聖堂側も紹介はするだろうが、ゆっくりと体力をすり減らしたり、心を食いつくす呪いは、目立った外傷もない分わかりづらい。気が付いたら心が食われ、体が乗っ取られたまま本人じゃなくなる事例も、ないわけじゃないぜ?」
「……」
「聖堂で異常なしなら、一応それ専門の奴に聞いた方がいい。なんもないなら、それでいいしな」
「専門……ナハトちゃんとかすか?」
「ナハトは、闇の魔法については詳しいが、呪いについてはどうなんだろうな……。部類はおなじだけど、扱い方が違う。普段から人に呪いをかけてる連中のが詳しそうなきもするけど」
「そんな物騒な知り合いは――」

ジンがそう言いかけた時、ハッとした。
一人居た。対人に明け暮れた魔女が、知り合いにいる。

「お前、知り合い物騒だな」

言葉もない。
しかし、彼女は自分達を嫌っている。
果たして話を聞いてくれるだろうか。

「お前ってさ。なんだかんだで、カナトの面倒ばっかみてるよな」
「は!?」
「褒めてんだよ」
「!?」
「あいつの事、全部忘れてるくせに、結局助けるんだろ?」
「えーっとなんつーか、こう見えて感謝してるんすよ? だから、困ってたら助けたいぐらいだし?」
「いいんじゃねぇの? やりたいことやった方が後悔しねぇさ」
「そうっすね!」

記憶はなくとも、これがジンなのだ。
困っていたり、助けを求めている人がいると放っておけない。
特別な感情があるわけでもなく、ジンは助けたいと思った相手を必ず助ける。
カナトは、それをわかっているからこそ、彼を見捨てなかったのかもしれない。

「そう言えば、お前起きてから、カナトの事、愛称で呼んだりしてんのか?」
「愛称? カナトにっすか?」
「まだ思い出してないか、思い出したら呼んでやれよ。きっと喜ぶんじゃね?」

カナトに愛称なんてあっただろうか。
そもそもカナトという名前自体が呼びやすいし、略しようもない。
考えはしたが、結局思い出すことはできず、ジンは午前中に自宅へと帰宅した。
流石に起きているだろうと思ったが、リビングに気配がなく嫌な予感がして起こしに向かう。

頬を軽く叩いて起こそうとするが、反応が浅い。
数分続けてようやく声が聞こえた。

「ジン……」
「よぅ、起きれそうか?」
「酷く眠い……」
「大丈夫かよ」
「すまない。……起き上がれそうに……ない」
「カナト!」

意識の混濁が酷い。
嫌な予感が更に増し、ジンは恐る恐るカナトの左頬へ手を伸ばした。
髪を掻き揚げてそれを見ると、赤い文字がまるで血文字のように滲み、原型を失い欠けている。

思わずぞっとして、ジンは再びカナトへ呼びかけた。

「カナト、ちょっと連れて行きたいところがあるんだ、憑依出来るか?」

ジンの言葉に、カナトは目をつむったまま憑依準備を始める。
これが、呪いの刻印かはわからない。だが、形状が変わるのは明らかに異常だ。確かめる価値はある。
まるで肌を侵食している刺青をながめていると、ふとカナトが光になってアクセサリーへ消えた。

いつかは忘れたが、憑依は好まないと言っていた覚えがある。
特にエミル族に憑依すると、慣れない縦揺れで気分が悪くなるらしく、よくおぶって帰っていたものだ。
ここ最近はずっと憑依ばかりで、動く事すら辛いのはよくわかる。
やはり、放ってはおけない。

カナトを憑依させたジンは、自宅を出てアクロポリスの脇にある屋敷へと向かった。

ジンが来るのは二回目だ。
以前来たのは、月光花の訪問治療の付き添いに来た時で、パイレーツタイニーに散々な目に遭わされた。

今日こそは穏便に帰りたいと思い、恐る恐る呼び鈴に触れようとした時、屋敷の扉のほうからゆっくりと開いた。
現れたのは、執事服を身にまとうタイタニア。

「ヨ、ヨルさん?!」
「お久しぶりです。ジン様。窓からお姿を確認したのでお迎えに上がりました」

ヨルムンガルド。
この屋敷に仕えるタイタニアの執事だ。
彼は笑顔でジンを招き入れると、何も言わず屋敷の姫のもとへ案内してくれる。
ここは、演習の魔女イクスドミニオン・ソウルテイカーのロキの屋敷だ。
ヨルムンガンドに案内されて、ジンが際奥の部屋へとくると、甘い苺のショートケーキを頬張るイクスドミニオン・ソウルテイカーのロキが、ベッドへ寝そべっていた。
以前会った時とは、雰囲気が大分変わり黒髪をツインテールにしている。

「なんでゲッカちゃんがいないの?」
「ゲッカはまだ仕事中だよ」
「あらそう。ならザコは帰って」
「ザコじゃねぇ!!」

「ロキさま。せめてお話ぐらいは聞いて差し上げれば如何でしょう? 仮にも月光花様の友人でおられます」
「……まぁ、そうね。何しに来たの?」
「呪いについてなんかしらねぇかなって思ってさ……」
「呪い……呪いならいつもかけてあげてるじゃない。”アブレイション”とか、”テラー”とか……」

確かに彼女は演習で容赦なかったが、今日は演習の話をしにきた訳ではない。

「カナトが、呪いにかかったかもしれねぇんだ……見て欲しい」
「カナト……あぁ、前のカラスね。軽い呪いなら、すぐ解けるじゃない」
「ここ数週間、ずっと調子悪いみたいで、聖堂じゃ何もないっていわれんだ……」
「ふぅん、まぁいいわ。隣の部屋のベッドが空いてるから、寝かせるか座らせるかしなさい」

そう言われ、ジンは言われた通りにカナトを隣の部屋へ寝かせた。
寝巻きのままつれてきたが、本人は熟睡しているらしく目覚めない。
ロキは顔色の悪いカナトをみて、少し難しい顔をすると、小さなため息をついた。

「まためんどくさいものを貰って来たわね」
「呪いっすか?」
「……そうね。呪いと言えば呪いだけど、モンスターの陰が乗り移って身体を乗っ取ろうとしてる」
「!?」
「かなり位の高い悪魔の魔力ね。その辺のウォーロック系じゃ、余波が小さすぎて分からないかも……」
「マジすか……」
「古い物とか呪いの魔法具なんかを使ったりしなかった?」
「古いもの?」
「魔法を使う時に必要な、魔力を帯びたものよ」

わからないと言おうとした。
だが、ジンは昨日のカナトが古い本を読んでいたのを思い出す。
表紙が古びた、もらったと言っていた本だ。

「それよ。今すぐここに持ってきて」

ロキの心強い言葉に押され、ジンは屋敷の敷地内へ庭を呼び出すと、古い本だけを持ち出した。
ロキはそれを受け取り、カナトの刻印も見て納得をする。

「おそらく、前の所持者が自分の呪いをこの本に移したんでしょう。それをこのカラスが触って、被ることになった感じかしら」
「だから、その刺青がでたのか?」
「……呪いが原因ではあるけど、そうではないわね。それはこの本が元々持っていたものよ」
「元々?」
「この本の中には、魔力とは別に、もう一つ何かが込められてる。何かは分からないけど、その力が、カラスの体を蝕む呪いのストッパーになっていいて、刻印は、中にいる何かが異常を知らせる為に浮かび上がらせたんだと思う」
「……解除できるか?」
「……できるわ。でもリスクはある」
「……」
「貴方の心の半分を使って、呪いを半分にするわ、そうすれば呪いは力を失って自然消滅するかも?」
「!」
「そう、カラスと呪いを半分こにするの。そうすればカラスは助かるわ」

言葉が出ない。
また心を差し出す事になるのだろうか。
しかし、カナトが起こしてくれたのだ、それを返したい。

「ロキ、それをしたら俺はどうなるんだ?」
「死にはしないんじゃない? 疲れやすくはなりそうだかけど?」

「ならやる」
「何故?」
「俺はカナトに起こされた。カナトが起こしたかったから、起こされたんだ。ならカナトが起きてなきゃ俺が起きた意味がないだろ?」
「……」
「どっちかが欠けたら意味がない。だから、半分引き受ける。カナトを起こしてくれ」

「……いいわ。なら儀式を始めるから、準備して」
「準備?」
「戦う準備。呪いを外にだすの、貴方はそれを倒せばいい、簡単でしょう?」

よくはわからない。
しかし、倒せばいいと聞いて、ジンは身構えた。

本の最後のページを開き、ロキが魔法を唱える。
するとカナトがうなされだし、生汗をかき出した。

「ジ……ん……」

そう小さく聞こえた時、カナトから淡い紫の魔力が抜けてきた。
その魔力は空中を動き、ジンと対峙できる場所へ集まる。

ゆっくりと形を変える魔力は四枚の翼をもつタイタニアのシルエットへ変わり、長い太刀を携えた。
最悪だ。

「よりによってあいつかよ……」

アークタイタニア・カナトのシルエットをとった敵は、長い太刀を構える。
近づかれたら終わりだ。

そう思って銃を抜いた時、敵が動いた。
ジンが速攻で打ち込むが遅い。
突っ込んできた敵の突きを交わし、さらに後ろから引き金を引く。
爆音が数発響き、壁に穴を開けるが、天井に逃げられて交わされた。
当たらない。
天井からキックで床へ突っ込んできて、ジンは前転で回避。
催涙弾を打ち込む。
そこから動きをみるが、後ろへと回り込んできて、振られた太刀を銃の筒で受け止めた。
丈夫な武器だ。これぐらいでは壊れない。
左で受けた中、右手の銃で追撃。
命中し、壁に叩きつけた。
そこからさらに打ち込もうと連射するが、直ぐに羽ばたいて天井に逃げられる。
弱点は何処だ?

弾数には限りがある。
天井に逃げた影を、発砲することで床へとへと追いやるが、やはり早くて当たらない。

ならば、

ジンは広い寝室の窓際へ移動し、銃を下ろした。
敵は空中から武器を構え突っ込んでくる。
一瞬で目の前に来た影の真下をすり抜け、ジンが後ろを取った。

「”テンペスト!!”」

面として放たれた弾丸が、翼をもつ影の背中にぶちこまれた。
巨大な壁がぶち抜かれ影も外へ押し出される。
だが、影は壁に手をかけてよじ登ってきた。
背中の翼はボロボロ、飛行能力は潰した。あとは反撃するのみ、

ジンはサラマンドラの弾倉を入れ替え、振るってくる剣を交わす、ここでようやくわかったのが、この影は限りなくカナトに近い動きをしている。
歩けているのは自身が魔力の塊で、重力を受け付けていないからか。
しかし、それを踏まえても立ち回りがよくなっている。
自分がいない間に少し強くなっているのかと思うと感涙深い。
一人になって本当に辛かったのだろう、だから強くなろうとして空回りして、何度も危ない目にあったのだ。
一人にした分、守ってやりたい。
自分のように、なるべくしてならぬよう、共に生きていきたい。

そう、カナトの事を思い出す中で、ジンは覚悟をきめた。
やる。

腕を掴み、一気に背負って投げる。
床へと叩きつけ、額へ弾丸を打ち込んだ。
人間ならこれで死ぬが、影は這い上がり、太刀を上から振り下ろしてくる。
ジンは左手のサラマンドラを捨て、大振りに振り下ろしてきた相手の胴へ一撃。
バランスを崩した敵の背中へ、さらに打ち込んだ。

貫通して、”フレアショット”が使えない。
だが、手首に弾丸をぶち込み武器を握れなくした。
そうすると敵は、素手でなぐり掛かってきて、弾丸を幾つも貫通させて抜けてくる。

反則だとおもった。
向けられた拳をなんとかガードしたが、弾丸が効いていない事にパニックになる。

隠れる場所はない。
すでに服も傷だらけで部屋はボロボロ、頬には掠めた切り傷がある。
それでも勝たなければいけない。
敵は歩幅の会わない足で突っ込んでくる。
本当に反則だ。
翼を破壊すれば勝ちだと思ったのに、歩いていても歩いてはいないのに突っ込んでくる。
でも負けてはいけない!

そう思い、ジンは向かってくる敵に対し銃をホルスターへ戻す。
素手の姿勢をとり、敵の拳を交わした。

「起きろよ!!」

そう叫んで、敵の顔面へぶちこんだ。


ざくり、という。
意表をつく感覚にあれ?と顔をあげる。
すると、影にジンの拳が届いておらず、爪のようなものがいつの間にか装着されていて、影の顔面へ突き刺さっていた。
ざくりと感じたのは、影に突き刺さるその感覚だったのだ。

数秒呆気に取られたが、徐々に突き刺している感覚はなくなり、影は霧散して消えた。
爪は手に残ったが、ジンが手を放すとまるで霧散するように消える。

「お疲れ様。よく頑張ったわね」

脇に避難していたロキが、ヨルムンガンドど出てくる。ズタボロになった部屋に何も言わず涼しい顔だ。

「気にしなくていいわ。覚悟していたし、この家はお父様の魔力が施されているから、明日には元に戻ってるはず」
「そ、そうなんすか……疲れた」
「まさか、半分になるとはね……」
「呪い?」
「呪いじゃないわ」
「へ? さっきと言ってる事が……」
「あれは嘘よ。半分になったのは本に元々あった方……」
「嘘? じゃあ半分ってなんすか!?」
「あんたの覚悟が見たかっただけ、まさか本当にやるとは思わなかったけどね。私のフェンリルに飲み込んでもらえばすぐだったし」

言葉がでない。
もう何が本当で何が嘘なのか分からず頭を抱えた。

「そのうち分かるわ。でてくるんじゃない?」
「何が!?」
「半分になったモノよ」

ますますわからない。
しかし、ふとカナトをみると普段通りの寝息を立てていてホッとする。
今更になって思い出したが、一度眠るとなかなか起きないのだ。
でも、今はもうそんな事はなくて、

「カナト、カナト。起きれっか?」

揺らすと、カナトはうっすらと目を開ける。
大きくあくびをすると眠気眼で起き上がり、ジンをみた。

「ジン、何故そんなボロボロなんだ……?」
「これ!? い、いや、ちょっとどんぱちやったんだよ。それより刺青は?」

髪をかきあげカナトがみせてくれる。
そこには、先程色濃くあった文字がなくなり、綺麗な肌のみがあった。

「消えた?」
「おう、ロキに消してもらったんだ」
「そうか……感謝いたします」

「べ、別に何もしてないわ。次はゲッカちゃんを連れてきなさいよ」

初めは取り合って貰えないと思っていたのに、本当は優しい少女だった。
その後カナトから聞いた話によるとジンが戦った影は、カナトが夢の中で具現化したものであり、
翼を壊して飛べなかったのは、他ならぬカナト自信が、翼がないと飛べないと認識しているからで、歩いたのはカナトが歩きたいと思ったから、弾丸が効かないのは、痛みを感じないからだとわかり、よく勝てたなとジンは自画自賛した。

協力してくれたロキに少しでも恩を返そうと、ジンはロキの自宅に月光花を呼び出し、四人で夕食を済ませ三人は帰路へとつく。
寝巻きで出てきてしまったカナトは、ヨルムンガンドに紳士用のジャケットを借りてはいたが、体力の消耗が激しく、ジンに憑依して帰宅した。
ベッドへ横になり、虚ろな表情をみせるカナトは今にも眠ってしまいそうだ。

「ジン……」
「どした?」
「すまない……」
「なんで謝んの?」
「また、世話になってしまった……。私は、本当に何も出来ない」
「また、なのかは知らねぇけどさ。いいんじゃね、別に、人間なんでも出来る奴はいねし、もし助けてもらったら、ありがとう、でまた返せばいいんだよ」
「……ありがとう」
「おぅ! 明日は起きろよ!」

それを聞いて、カナトは安心したのか。
スッと眠りに落ちてしまった。
カナトが眠り、ジンも着替えて眠ろうかとしていると、日付が変わる直前に、来客のベルが鳴る。
ホルスターを手に持ち、寝ぼけ眼ででると茶髪のエミルがそこにいた。
あからさまに嫌な顔をする、ジンに目の前の彼は無表情を決め込む。

「何しに来たんだよ……リアス」
「こんばんは、本部から緊急で連絡があったので、ジンさんの対応が気になりました」
「本部から?」
「夕方に一斉送信されていますが……」

だれか彼の好奇心を止めてくれと思う。
しりたがりのエミル・イレイザーのリアスに、ジンは数秒呆れたが、確認をしてみると、確かにメールが届いていた。

「サウスダンジョンに、ディメンションダンジョンが発見されたみたいですね。ベルゼビュートの討伐の参加要請です。どうするんですか?」
「行くわけねーじゃん」
「? カナトさんと初めて会った場所だと、聞いているのですが?」
「!? あいつと?」
「まだ思い出されてないなら、カナトさんと行った方がよくないです?」

首を傾げるリアスはやはり癇に障る。

「カナトは一般人だろ? そんな危険な場所に連れて行けるわけ――」
「カナトさんには、総隊長から個人的にメールが行っているはずですが」
「メール? なんでだよ?」
「おれも最近知りましたが、カナトさんとキリヤナギ総隊長は友人です。いつからかは知りませんが」

そういえば以前キリヤナギが言っていた気がする。
しかし、よくよく考えてみると、カナトは治安維持部隊の事を酷くきらっていたはずだ。
それなのに、いつの間に友人になったのか。

「リアス……」
「なんです?」
「俺が寝てる間に……あいつ、なんかあったのか?」
「なんか、ですか? カナトさんの記憶は殆どないと聞きましたが」
「確かにわかんねぇけど、ちょっとずつ思い出してはいるんだよ。マイマイとか、ノーザンに行った時の事とか、……でも、その時はあいつ、部隊に関わりたくないとか言って避けてたきがすんだ。それなのに、友人ってなんでそうなってんだ? 分けわかんねぇ」
「……詳しくは知りません。でも、カナトさんは一度、ジンさんを探して本部に来て、キリヤナギ総隊長と接触したという話を聞きました。おそらくその時に取引をしたのではないかと」
「は? なんだよ、取引って」
「キリヤナギ総隊長の考えはわかりません。しかし、そこでカナトさんがキリヤナギ総隊長と友人となったなら、対価はそれだったのでしょう」
「対価……?」

頭の中がぐちゃぐちゃになる。
わけがわからないと思ったが、次の瞬間はっとした。
探していたのだ、カナトは、本部へ来て、

「……俺?」
「でしょうね。私達にとってはとても小さな対価ですが、カナトさんにとっては、立場上とても大きなものでしょう。相手が相手である分、一生背負う覚悟を決めたのだと思います」

深い事情は分からない。
が、ここで戻ってきたのは、カナトの家柄が無視されていないと言う事実だった。
そこまでを思い出して、ジンは壁をぶん殴る。
馬鹿か。

「なんでそこまですんだよ……」
「貴方がそういう人であると、知っているからだと思いますが?」

あぁそうか。
ジン自身よりも、カナトはジンを信頼しているのだ。
だから、起こしたくて、忘れられても見捨てなくて……。
こちらは、カナトの事など何も覚えてもいないのに……。

ふっと力が抜けて、ジンはリビングソファに腰掛けた。
言葉にならない無気力さが押し寄せ思わずため息をつく。

すると、小さく二階の扉が開く音が聞こえた。

「……リアス。来ていたのか」
「カナトさん。こんばんは」

「カナト……」
「ジン。すごい音が聞こえたが、なにかあったのか?」

殴った音で起きてしまったのか。
子どものような事をしたと思う。

「カナトさん。総隊長からメール着てますか?」
「あぁ、着ていた。しかし、少し体調を崩しているので、今は決めかねている」
「なるほど、お大事にしてください」
「すぐ返答が出来ず悪いな。リアス」
「いえ、行くなら教えてください」

何故カナトは、こうも普通にリアスと会話ができるのだろうか。
ジンが会話すると必ずモメるのに少し悔しくもなる。

「ジンは、どうかしたのか?」

起きたばかりなのか虚ろな表情をみせる。

「カナト。お前はサウスダンジョンに行きたいって思ってんの?」
「出来れば、行きたいと思っているが……」
「……俺さ。大分お前の事も思い出してきたんだけど、実際まだよくわかってねぇんだ。むしろそれが時間がたって客観的になっちまって実感がないっつーか……」
「そうか」
「だからぶっちゃけると、俺、ベルゼビュートとか、すげー強そうだし、絶対やだぜ? 死ぬじゃん」
「そうだな……」
「お前だってさ、さっきまで死にかけたくせに、ちょっと無茶だろ?」
「それは、すまない……」
「別にさ、良いんだぜ? それがお前ならもっと胸はれよ。行きたいなら行ってもいい。でもさ」
「?」
「俺は死にたくないんだよ」
「……!」
「ある奴はこいつの為なら命掛けるとか、死んでも守るとか、そうやって立派なこと言うけど、俺は死にたくない。誰かの為にとか名誉ある殉職とか、そんなの絶対嫌なんだよ。それならいっそ、全部守って生きていきたい。だからさ」
「ジン……」
「死ぬ気で生きるのはやめろ。俺が居ない時でも、必死になるのはやめろ、片方が生き残っても苦しいだけだろ……」
「……そうだったな。すまない、ジン、でも私はタイタニアだ。寿命が違う」
「……そうだな。でもだからと言って、自分から死に急ぐとか許さねぇぜ? 俺は」
「……ジン」
「なんだよ」
「私を見張っていてくれ」
「いいぜ。お前は?」
「私は貴様が殺人をしないよう見張ろう。必ずとめよう」
「そっか、わかった。頼りにしてるぜ! 相棒」

拳をぶつけて約束する。
カナトは初めてやったらしく不器用だ。
時間はかかったが、これでようやく対等になれた気がする。

「ま、突然悪かったな」
「おそらく以前の貴様からは、聞けなかった発言だろう。ありがとう」
「は? なんでお礼なんだ?」

「いつも思いますが、ジンさんはデレカシーのカケラもありませんね」
「んだよ、リアス。言いたいこと言ってわるいかよ!?」
「タイタニアであるカナトさんが、どういう気持ちで貴方と居るかなど、考えた事もなさそうですね」
「はぁ!?」

「リアス。ジンがここに居るのは、私が望んだからだ。それ以上は求めん」
「……ジンさんは、カナトさんにもう少し気を使った方がいいと思います」

返す言葉もない。
確かに言われれば、寿命など考えた事がなかった。

「それでは、返答が聞けたので帰ります」
「今日は泊らないのか?」
「最近拾った捨て犬バウがいるので」

犬を飼い始めたのか。
羨ましいとは思ったが、この家にはすでにココッコーのぴよがいる。
浮気をするわけには行かない。

「犬か……少し羨ましいな……」
「なんだよ。飼いたいのか?」
「最近読んでいる本の物語が、従順な狼の話なので、ついな」
「犬じゃなくね?」

流石に狼は無理だろう。
カナトの言葉は、時々真面目なのかボケなのか分からなくなる。
サウスダンジョンへ再び赴くと決めた二人は、次の日から遠出の準備を始めた。

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本編 | 【2014-05-01(Thu) 12:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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