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Heart*Lost:第十一話
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Heart*Lost
第十一話 王の洗礼

第一章
第一話:終わりの始まり
第二話:序章
第三話:失うもの
第四話:夢への入口
第二章
第五話:孤独からの再動
第六話:戦いの絆
第七話:覚悟への道
第八話:凍てついた心

第三章
第九話:目覚めの対価
第十話:矛盾を得た安息


 次の日の朝、カナトは起きてこなかった。
寝坊だとは思ったが体調が悪いと聞いていたので、ジンは昼食だけを作って家をでる。

心を消失し、眠りに着いたジンは治安維持部隊の中で療養期間中としての扱われており、戻って来ることに何の障害は生じなかった。
一応健康診断のみを受けたが、体力が多少落ちただけで体は問題ないらしい。
カナトの記憶に関しては、やはり闇の聖杯による、心を再結晶化する上での対価であり、医療上は記憶障害として片付いた。

日常の記憶が完全に抜け落ちていることに、他のランカー達は一体どんな物なのかと問い詰められたが、ジン自身うまく説明ができず一週間がすぎた。

セオに聞くと、ジンはまるで一人であの家に暮らしていたような錯覚をしており、
カナトと共に二人で出かけた事は、まるで虫食いのように記憶が抜け落ちているらしい。
その為、抜け落ちた事で産まれる一つの矛盾を解決すると、穴埋められ記憶として思い出すのではと提案された。

よくは分からなかったが、リゼロッテにマイマイ島で猛特訓させられた話を聞いたところ、初めてのキャンプでまさかの生大根を持ってきたカナトと、マラソンで無理に走ろうとして散々転び、砂だらけになっていた事を思い出した。

そのように、カナトともう一人の誰かと出かけた時は、割と話を聞くだけで思い出せるが、カナト自身から聞いた話は全く思い出せない。
つまり、カナトからマイマイ島の話を聞いても思い出せないが、リゼロッテからマイマイ島の話を聞くと少し思いだせる。
所謂、記憶の呪いにも近い現象がジンに掛かっているらしい。

「闇の聖杯の対価だろうね。禁忌と言われるだけの事はある」

ガラガラのラウンジで、遅めの昼食をとっていたセオが、大方の説明をしてくれた。
大体は理解出来たつもりだが、思い出すためには、具体的に何をすればいいのだろう。

「僕を食事に招いてくれたことは覚えてる?」
「あぁ、確かホライゾンさんと海岸でドンパチやった……」
「うん、そのあとカナトさんの家で、ジンさんが甘い物を食べてたいみたいな話で盛り上がっていたよね」
「あぁそういえば、あれからちょくちょく作ってくれたような……」

「思い出してんじゃん」
「ね」
「でもそれよ、カナトとジンが二人だけで行った記憶はどうなんだ?」
「そこなんだよねぇ……、話じゃなくて、物とかでも思い出せればいいんだけど……」

セオが口直しの紅茶をすする。
椅子に跨るカロンと二人で考えてくれているが、ジン自身はどうしようもなくもどかしい。

「あ、いけないいけない。忘れる所だった」
「セオ?」
「スィー君覚えてるかな、フォースマスターのあの子が、ジンさんが起きたって聞いて喜んでね。カナトさんにもあげたスケッチを渡すように頼まれたんだ」
「スィーさんか! ノーザンの甘味屋うまかったなぁ、でも道中寒すぎてカナトとリゼさんに散々怒られたっすね」

「へぇー……、以外とすぐでてくんじゃん」
「なんか、呪いっつっても対した事ないんじゃないすか?」

「順調だね。これがスケッチ。フィギュアにするといいってさ」





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「……」
「どうしたの?ジン」
「いや、その……」

「思い出したなら話してみろよ」
「口に出したほうが、後で混乱はしずらいよ?」

散々ボコボコにされた記憶が蘇り、恥ずかしくて口にだせない。
だが、そこで死にかけた自分を助けたのは彼だった気がする。

「いいたくないなら別にいいが、こっちだって協力してんだぜ?」
「す、すんません」

つんと返したカロンにジンが生汗をながす。
あとで二人になった時にでも話すか。

「そういえば、ジンは起きてから総隊長に会ったかい?」
「ぁー、まだっすね。今日ついでに会ってこようと思ってたんすけど」

「総隊長かぁ、最近大人しいよなぁ」
「へ?」

「前までは週3ぐらいここに見に来てたのに、一月ぐらい前、廊下でグランジつれて歩いてるのを見たっきりだ」
「最近は忙しいみたいだしね。外部とのやりとりとか、無限回廊の調査が佳境だから、前みたいな余裕がないだけだと思うよ」

「前までは余裕あったんすか?」
「余裕があるというか、休みを減らしただけさ。1日二時間の休憩を一時間にしたようなもの、デスクワークでハンコ押すだけだったのが、訓練風景の視察とか現地討伐の助っ人とかに行くようになって、部隊がようやく部隊らしくなってるんだよ。おかけでこうしてのんびりできてる……あぁ、幸せ」

どんな幸せなんだろうと思う。
普段どれだけ仕事していたのか。想像もつかない。

「部隊が部隊らしくか……確かに、前みたいなユルさはなくなってんなぁ……」
「へぇー」
「週間ノルマが日間ノルマに切り替わってたり、達成できないやつは、一週間、早朝からの午後まで訓練参加が強制。少尉以上の階級持ちは、デュアルジョブとして他のジョブの訓練も受けるようお達しかきてるし、部隊全体の強化を図ってるようにもみえるぜ」
「今までがゆるすぎたんだよ。一応治安維持を押し出してるのに、訓練が任意とかあり得ないしね」
「ま、ランカーの俺らには関係ないな」

関係がないといえば関係がない。
しかし、少し複雑な気持ちにもなってしまう。
総隊長になにかあったのだろうか。

「なぁ、セオ。今日は総隊長いるのか?」
「今日はいるよ。ここ一週間ずっと外でウロウロしてたから、今日は本部でゆっくりデスクワークしろっていってある。最近は本当真面目だから、ずっと部屋にいると思うよ」
「らしくなくないっすか?」
「今までがひどすぎたの!!」

机を殴るセオの態度は切実だ。
確かに、ひどすぎたのがもしれない。

「でもジン。今は総隊長に会うべきじゃないと思う」
「へ? なんで?」
「いや、要らぬ心配だね。あって来るといい。いろいろ聞けるはずさ」

意味深だった。
セオと仲がいい話は知っている。たがその彼が、こんなにも複雑なのは何故だろう……。
カロンとセオに別れを告げ、ジンは最上階にある総隊長の執務室へと向かった。
ジンからすれば先日会ったばかりなのだが、相手からみれば一月ぶりだ。それを前提において、ジンは執務室の扉を叩く。

すると、向こうから扉が開いて長身のタイタニアが迎えてくれた。

「やぁ、ジン君か。久しぶりだね」
「ホライゾン大佐!」

驚いた。
部屋に入るよう促され、ジンは久しぶりに総隊長キリヤナギの部屋へと訪れる。

「やぁ、ジン。久しぶり」

堂々と執務室に座る彼は、頬杖をついてこちらを見る。
感じた威厳は以前のキリヤナギとは思えず、身震いした。

「目覚めてよかった。心配していたよ」
「すいません。ご迷惑をおかけしました」
「大丈夫さ。がんばったのはカナトだからね。お礼は彼に言うといい」
「え……」

「総隊長。話はそこではないはずでしょう?」
「あぁ、ごめん。聞きたいことがあってね。ちょうどよかった」

「そうなんですか?」
「うん、一週間ぐらい前、カナトが冒険者連盟に加入したんだけど、ジンが勧めてくれたのかな?」
「へ? なんの話っすか?」
「ジョーカーのカナトは未所属だったからね。ちょっと驚いたんだけど、何もないなら気にしなくていいよ」
「えっと、全くわかんないんすけど……」

「返答として、十分な発言はもらった。何か聞きたいことはある?」
「えっとぉ、まず俺、カナトの事はあんまり覚えてないっす」
「……なるほど、少し聞いたよ」
「なんで、俺にカナトの話されても、あんまり分からないっつか……」
「そっか、なら仕方が無い。……始めから説明すると、カナトと僕は友人なんだ。それだけの話だよ」
「そ、そうなんすか……?」
「うん、だからジン。僕の変わりにカナトを守って欲しい。僕はここから動けないからね」
「ま、まぁ、治安維持部隊にとって、冒険者連盟に加入する冒険者は守護すべきであると部隊で散々言われましたし、一緒にいる限りはランカーとして動くだけです」
「そっか、ありがとう。君はそういうところは、ランカーとして相応しい、君を選んでよかったよ」
「何を今更……」

相手の笑みにごくりと唾を飲む。
こんな人だっただろうか。
まるで押しつぶされそうな威圧と存在感。
その目線に圧倒され、ジンは思わず後ずさりした。

キリヤナギは、そんな彼をみて立ち上がるとしゃらりとピアスをなびかせ歩み寄る。
すぐに止まると思ったが、距離を詰めてきて、ジンは壁に追い詰められてしまった。
キリヤナギの影に覆われ言葉も出ない。

「闇の聖杯による心の精製。あの器は封印という形で思い出を集め、形にするものだ。最終的に器も心の一部として結晶化させ心とする。つまり闇の力が心にまざるんだよ」
「え、えっと……総隊長。近い」
「大丈夫。闇は僕の力だ」

そう言われた直後。ジンの胸の付近に闇の魔法陣が出現。
途端に、無理やり意識が引きはがされるような、そんな感覚に陥る。

痛い。

「うぁ……」

立っていられず思わず膝をついた。支えたキリヤナギは、ジンを仰向けにした後、ゆっくりとジンの胸から何かを抜き取る。



心だ。
仰向けになったジンは声もあげなくなりぐったりと力を失って、眠った。

取り出された心には、細い小さな鎖が巻きついており、何かを制限しているようにも見える。

「聖杯の呪い。つきっぱなしじゃ、寿命も縮めてしまうからね」

キリヤナギが取り出された心の鎖へと触れると鎖は音を立てて弾け飛ぶ。
元の自由な輝きを取り戻した心に、キリヤナギは数秒見とれていたが、何事もなかったかのように、ジンへ心を返した。

「荒療治ですね」
「ジンには、もう少しカナトと一緒にいてくれないと困るからね」
「……何故解除を? 対価は記憶であり、取り戻せるものでは?」
「甘いよ。ホライゾン。取り戻せるものが対価として成立する訳がないじゃないか」
「!?」
「ジンが失ったのは、カナトとの関係性。全てのきっかけと、個に対する感情だよ。記憶は、その一部にすぎない。……たとえ全てを思い出したとしても、ジン自身がそれを信じる確証はないし、同じ思いを抱けるかといえば、そうじゃない。この呪いはそこに制約をかけるものだ」
「厄介ですね……」
「もう解いたよ。後はジン次第かな」

キリヤナギはぐったりしてしまったジンを抱えると、ソファーの上に寝かせた。
深く寝息を立てる彼に、ホライゾンは懐かしさも感じる。

「反動が大きいから、しばらくは起きないだろう。僕は用事があるしそろそろ出かける。留守はまかせた」
「おきをつけて」

そう言ってキリヤナギは赤いマントを羽織ると、それを翻して執務室をでる。
入り口で待機していたグランジと共にキリヤナギはエレベーターへと向かった。



色んな夢を見た。
カナトがいる夢、一年間がまるでビデオのように流れる夢だ。
カナトに演習を邪魔されたり、デオスと戦ったり、大根をとりにいったりもした。
他にもECOタウンに無限回路、氷結、ノーザン、退屈しなくて楽しかった。
そう思ったとき、頬がぺしぺしと軽く叩かれる。一回や二回ではなく何十回も叩かれ呻いた。
痛くないがやめてほしい。
仕方なく目を開けると、じと目で此方をみる見慣れた彼がいた。
一瞬だれかわからなかったが、とびおきる。

「カナト!?」
「遅い」

「ジンさん、おっはよー!!」

ぬえの声が頭の奥へ抜ける。
周りを見回すと眩しい夕日が差し込む執務室だった。
いつの間に眠ってしまったのか。

「お前、なんでここに……」
「ぬえ殿に頼んで、連れてきてもった」

「帰らないってきいてさぁ! びっくりしたけど見つかってよかった」
「なんでそこまでして……」

ジンが動揺するのを見てカナトがホッとした表情をする。
ぬえはカナトに「ねー」と何かに同意していて、ますますわけがわからない。

「前に探しに来た時は遅かったんだ……」
「遅かった?」
「あまり気にしなくていい」

それを聞いた時に、ふとカロンから聞いた話がよぎる。
以前ジンが眠った時もカナトは心配して探しに来たそうだ。
元宮を散々さがして、やっと見つけた時には遅かった。

「あぁー、わりぃ」
「よかったよかった! 」

そう話しているうちに、何故か色んな事が湯水のように返ってくる。
そうだ。
自分もカナトの事が酷く心配だった。
食事もとれず1日20時間は眠っている彼を助けようと思ったのだ。
なんだ、自分はカナトを助け、カナトは自分を助けた。
対等だ。

「カナト」
「なんだ?」
「サンキューな」
「……帰るぞ。明日から出掛けるよう予定を作ってきた」
「おぅ、てか体調は大丈夫なのか?」
「十分に眠れたので、今は平気だ」
「ならいいけど……」

「なになに!? カナトさん体調崩してたの!? 大丈夫?」
「今は平気です、ぬえ殿。ありがとうございました」

「まぁいいや。用事終わったし、帰るか。カナト」
「!? あぁ、帰ろう……」
「なんで嬉しそうなの? きもちわりぃ……」
「貴様から帰るという言葉がでるのに驚いた。呼び戻さなければ、戻らなかったからな」

言われれば確かに、デバイスの通信がなければずっと外でふらふらしていた。自分の家ではないので、呼び出されなければ返ってはいけない気がして……。
だが、いろいろ思い出した今、あの家に自分が居るのは当たり前でジンが帰らなければ夕食の準備も出来ないと言う。

「サンキュ、カナト」
「どうした?」

当たり前を当たり前にこなしてくれたカナトに、どうお礼を言えばいいのだろう。
感謝の気持ちが返しきれないが、今は、このまま自宅へ帰ろうと思った。
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本編 | 【2014-04-24(Thu) 12:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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