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Heart*Lost:第十話
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Heart*Lost
第十話 矛盾を経た安息

第一章
第一話:終わりの始まり
第二話:序章
第三話:失うもの
第四話:夢への入口
第二章
第五話:孤独からの再動
第六話:戦いの絆
第七話:覚悟への道
第八話:凍てついた心
第三章
第九話:目覚めの対価


 「ん?」
「お前の顔、俺はもう見飽きたんだが」
「そんな冷たい事言わないでくださいよ、カロンさん?」
「うっせぇ、美人のちゃんねーならまだしも、成人で酒も飲めない奴の顔見て何が楽しいんだよ」

けっ、と踵返され、ジンはラウンジのテーブルへと突っ伏す。
目覚めてから一週間が経過し、平和な日常が戻ってきていた、が、

目覚めたジンはカナトの事を何一つ覚えていなかった。
それも、他のランカーや友人のことは全て覚えており、カナトのみの記憶が完全にずっぽぬけている。
はじめは唯の記憶障害を疑ったものの、ジン自身名前すら聞いたことが無いといいだすので、明らかに魔法の影響であることが伺えた。

「マジで覚えてないんだな」
「覚えてたらどうなんすか?」
「早く帰らないとカナトが怒るとか、メシ作らないと口聞いてくれないとかいって、さっさと家に帰ってたぜ?」
「なんでそんな事……?」
「俺に聞くなよ。居候してるからじゃねーの?」
「確かに飯つくれるっすけど、自主トレしてたら、あいつ朝起きて俺の分まで勝手に作るし、昼飯はいるかいらないか聞いてくるし……」
「ん? カナトの奴の寝坊癖治ったのか?」
「寝坊癖?」
「前に朝おきねーおきねーって、俺に相談しに来てたじゃねーか」
「なんかそういえば話した気もするっすけど……カナトの事でしたっけ?」
「ま、治ったならいいがな」
「いいって、気まずさ半端ないっすよ!?」

気持ちもわかる。
カナトから見ればジンがいることは当たり前だが、ジンからすればカナトは誰かも、どんな人間なのかすらわからない相手だ。
そんな相手と突然同居していると言われれば流石にきまずい。
ここ毎日元宮に着ている彼は、その気まずさに耐えられないのだろう。

「しつこく思い出したか? とかって聞かれたりとかしてんの?」
「それが全く聞かれないんすよ。怖いぐらい。逆に俺が、わかんねぇっていっても、なら仕方ない、とか、気にしなくていいとか……本当にそれでいいのかっていう」
「……」
「何考えてんのかわかんねぇし……、こっちもどうしたらいいか……」

記憶がないと言われた時、集まっていたランカーの彼らは酷く困惑したが、唯の一人カナトのみが、少し驚いただけで、動揺すらしていなかった。
目覚めたジンに対し、カナトは自己紹介をすると、ここが自宅であることを説明し、ずっと居てもいいと許したのだ。
並の覚悟ではないと思う。中途半端な気持ちなら追い出したくもなるだろう。
なのにカナトは、それを許したのだ。

ランカーの彼らは戸惑うジンへカナトの事を必死に説明したが、ジン自身、カナトの記憶がなく納得がいかないらしい。

セオによれば人間の脳は忘れたとしても何かのきっかけで思い出すことはできる。
もしジンが目覚める過程で、カナトとの思い出を対価としたならば、記憶として思い出すことは可能かもれないという事だ。
その結果、カロンがカナトと関わった話をすると、確かに心当たりはあるらしい。

「確かにいろんなとこにちらつくっすけど、別に同居まではいかねーってか……なんで?」
「本部の居心地悪かったから、転がり込んだんじゃねーの?」
「居心地悪かったと言えばそうっすけど、あんなでかい家に二人とか、流石に言葉にならないっすよ……元貴族みたいだし?」
「朝起きれないカナトが心配だったんじゃねぇの?」
「なんで俺が男の介護なんてしてんすか!?」
「しらねーよ!!」

こんな会話のループだ。
もう一週間もこれを続けている。
再びテーブルに突っ伏していると、脇に置いていた"ナビゲーションデバイス"が振動した。
カナトからの着信だ。
ジンは一度カロンの方をみるも、そっぽを向かれてしまい、恐る恐る着信にでる。

「なんすか?」
「”そろそろお昼だが、昼食はいるのか?”」
「えっと……カロンさんがいるし、元宮で――」

そう言った直後。
カロンがジンのデバイスを取り上げる。

「よ、カナト。俺だぜ、カロンだ」
「"か、カロン殿!?"」
「ジンの奴、どうしょうもねぇなぁ……」
「"記憶がないのであれば、私は仕方が無いと思っています。しかし、ジン自身、今の環境に納得がいかないようで、不安なのかと……」

だろうなぁとは思う。
カナトは十分にお見通しか、この単細胞が隠し通せるほど繊細な神経を持ち合わせているとは思えない。

「お前自身はどうなんだ?」
「"私……ですか?」
「こいつ無神経だし、碌な事いってないだろ?」

目の前のジンが眉間にシワを寄せる。
自覚あるのかどうかはわからないが、カロンは繊細なカナトが少し心配だった。

「"確かに、すべての言葉が辛くないわけでは有りません。しかし、それもある意味当然だとは思っています"」

なるほど。
ならジンのこの態度もわかる気がする。

「そっか、ならジンは突き返すし、飯作っとけ」
「は!?」

「"しかし、奴も私といては――"」
「その辺は気にすんなよ。相方なんだしな。ジン。悪いのはてめーだから帰れよ」
「ちょ、そりゃないっすよ!?」
「うるせぇ! お前がそこに座ったら、俺に会いに来てくれるかわいい女の子が座れないだろうが、さっさと帰れ!」
「はぁー!?」
「それじゃあな、カナト」

「"お騒がせしました。ありがとうございます"」

取り上げたデバイスを投げ渡し、カロンはジンをテーブルから追い払う。
カナトがジンに何も望んでいないなら、彼の居場所は一つしかない。

「一度ちゃんと話せ、また二人で狩りでもいってこい」
「なんであいつなんすか、カロンさんだって……」
「俺は大人の用事があんの! ほら帰れよ、しっしっ」

そうやってジンは、元宮から追い出されてしまった。仕方なく一人で帰ってくると、エプロンを脱ぐカナトが居て、ジンは思わず息を飲んだ。
やはり気まずい。

「手洗いうがい」
「は、はい!?」

言われた通りにする。
こんな立場だったのだろうか。
家も確かに見覚えもあるし、空気も知っている。
なにより、自分の部屋は確かに自分の部屋だと分かる。
しかし、ここはカナトの家なのだ。
記憶はないが、ここに自分の部屋があるということはやはりそうなのだろう。

「カロン殿は相変わらずだな」
「そうっすねぇ、よくわかんねぇけど」
「部屋に持って行くか?」
「!」

用意された昼食は移動できるようトレイに置かれていた。
気遣いなのか、それとも……。

「カナト」
「どうした?」
「なんで俺にそこまでしてくれるんすか?」
「私が何かしたか?」
「ほら、住居とか、飯とか……」

カナトが首を傾げている。
この質問も何度目だろう。全て同じ返答だ。

「前にも言ったが、お前は恩人だからな」
「何したんすか……俺」
「導いてくれた、それだけだ」
「……」
「持っていくか?」

ジンは何も言わず腰掛け、カナトと二人でチャーハンを頬張った。
そういえば自分もこの家で作った気がする。

「これもしかして俺が教えた?」
「そうだな。美味だったので、練習した」
「俺より上手くね?」
「気に入ったからな」

普通の会話だ。そして少し思い出した。
しかし思い出してもカナトはそれに突っ込まない。
当たり前のように返してくる。

食べている間。ずっと考えた。
カナトは自分をどうしたいのだろう。なぜこんなにも自由にさせてくれるのだろう。
周りの話を聞くと、自分はカナトために早く帰ったり気を使ったりと、あまり自由ではなかったようにも感じる。
なのにカナト自身は、何もジンに求めない。
以前の自分と果たして何が違うのだろう。

そう思った時、ジンの中に一つの質問がひらめいた。

「カナトカナト」
「どうした?」
「間借りさせてもらってるし、なんか一つなんでも言うことは聞くっていうのはどうっすか? 」
「言う事?」
「俺に出来ることならなんでも!」

カナトは意味深に首を傾げるが、少し納得したらしい。
なんでもやると言われれば、きっと素直な目的が聞けると思った。
何かをさせたいがために置いているならわかりやすい。

「そうだな、なら……」
「?」
「ずっとこの家にいて欲しい」

目が点になった。
わけがわからない。

「いけないか?」
「い、いやその、ちょっとなんか矛盾してないっすか?」
「そうか……?」
「もっとこうなんか、掃除して欲しいとか……」
「それは自分でできるからな……」

カナトに悪気はないらしい。
だが何の為に自分はここにいたのか。
返す言葉が見当たらず、ジンは、そそくさと部屋へ引っこんだ。
わからないことだらけだ。
何を持ってカナトが自分をそこまで求めるのかわからない。
いや、何も求めてはいないのだろう。
何も求めてはいないのに、カナトはいて欲しいと言う。
何故だろう。

何もせずベッドでごろごろしているち、下の階から高い音が聞こえてきた。

バイオリンだ。
聞こえてくる音色に合わせて青い空の雲が流れる。
何もやることがなく、こうして窓から空をみて、バイオリンを聞く。
懐かしいとも感じる音色に、自分はここに住んで居たのだと実感し、空を掴む感覚を得る。
しかし、カナトが居た記憶がない。
何故ここに居たのだろう。

聞いてみるべきか。
そう思い、ジンはカナトが演奏する部屋を見に行くことにした。
バイオリンが終わったのか、入り口に背中を向けてカナトがピアノを弾いる。
邪魔をしないようこっそりと入り、扉をしめると力を入れすぎて音が響いてしまった。
途端演奏がとまり、カナトが勢いよく振り向く。

「うわ、すんません」
「驚いた……すまない。見に来たのか」
「えっとまぁ、そんなかんじっす。ちょっと気になることがあって、聞いていいのかわかんないんすけど」
「なんだ?」
「なんで俺、ここに住んでたんすか?」

カナトは少し嬉しそうな表情をみせる。
何故だかはわからない。でも確かに笑みだった。

「私が、助けを求めたんだ」
「へ?」
「助けてくれと、私が求めた。それだけだ」
「だから俺、ずっとここに?」
「そこまではわからない。私も、貴様に甘えすぎて無意識に縛っていたのではと思う……」
「いや俺、覚えてないし」
「そうか、なら好きにするといい」

また同じ言葉だ。
以前と同じであって欲しいのではと思うのに、何故だろう。
以前の自分は果たして縛られて居たのだろうか。
周りに話を聞くと大分振り回されていたようにも見えて複雑になる。

「じゃあ、前の俺には何か求めてたりはしたんすか?」
「そうだな……。唯、共に居たかった。いつか貴様が出て行くのでは考えると、不安を抱えてしまう程に、その思いは強かった。……だがおそらく、それでお前を縛っていたんだろう」
「……」
「甘えすぎていたんだ」

カナトがカナト自身に述べた言葉だった。
ジンが居たことはカナトにとって、マイナスだったということか。
またそれは、以前のジンにとってはどうだったのだろう。

「ちょっと、散歩にいってくるっす」
「あぁ、気をつけて」

いろんな考えが頭をぐるぐるまわる。
もともと考えることが苦手なのに、どうしてこうも考えているのだろう。

アクロポリスへと繰り出したジンは、行く当てもなくフラフラとアクロポリスを彷徨う。
冷んやりとしてきたアクロポリスの空気は、まどろんだ気持ちをスッキリさせてくれた。
しかし、よく考えればやる事もない。
ダウンタウンの銃器ショップでも見にいくかと思った時、オープンカフェのラウンジで見慣れた姿を見つけた。
サンドイッチセットをオーダーしたのか、優雅に紅茶を飲む眼帯の彼。
治安維持部隊・騎士、エミル・ホークアイのグランジだ。
視線を感じたのか。彼はこちらと目が合い、サンドイッチを口いっぱいに頬張っている。

「ど、どうも。グランジさん」
「……」

もぐもぐと口を動かしているのはお昼をとっているのか。
彼は紅茶で口直しをすると、ジンへ座るように促す。

「起きたのか」
「起きた?」
「以前、カナトさんの自宅へお邪魔した時は眠っていた」
「あ、あぁ、みたいっすね……」

「弟も居たようで遠慮したが……」
「弟……」

ふっとよぎる。
カナサだ、カナトにはカナサという弟がいる。話したこともある。
弟のカナサは兄が大好きだった。

「お前が起きたなら、またお邪魔する」
「カナトに会いに行ってたんすか?」
「カナトさんは料理が上手い」

そういえば食べにきていた気がする。
何時の間にか自宅には、ココッコーの絵柄がついたグランジ専用の茶碗も置かれていて、一つ多いことに疑問を感じたのだった。

「でも別に、俺が寝ててもカナトに会いにきて良かったんじゃないすか?」
「お前がいないと不味くなる。だから遠慮した」

どこから突っ込めばいいのか頭を抱える。
サンドイッチセットを二セット食べ終えたグランジは、デザートのケーキもオーダーした。

「そういえば、騎士って給料いいんすね? 前は飢えてたのに……」
「私兵だからな。住み込みで仕えている。不自由はない」
「へぇー、ってことは24時間勤務っすか?」
「俺の場合はそういうことになる。他の騎士は治安維持部隊と兼任していたりと、契約が違うようだが……」
「休日は?」
「ないが、呼ばれない限りこうして自由にしてもいいらしい」
「それ護衛としてどうなんすか……」
「奴は死なんからな」

どういう信頼だろう。相変わらず空気のつかめない人だ。
優雅な昼食を終えたグランジはアクロポリスの情報誌へと目を通し、お昼のひと時を満喫している。
ジンは話すこともなくなり、仕方がないので散歩を再開する事にした。
北の可動橋からダウンタウンに入り、久々に訪れたのは闘技場。
ぼーっと看板を眺めていると、ふと脇に殺気を感じた。
血の気の多い場所だ、銃に触って視線を向けると見覚えのある剣士が目に入る。

「ジンじゃねーか。何しにきたんだよ」
「ヴェリタス、お前まだ演習に出てんの?」
「当たり前だろ? おれのディスティニーだからな」

元演習仲間だ。
本部の仕事でちょくちょく参加していて目を付けられた。
かなり戦える剣士で、血の気は多いが信頼できる。

「ロキから聞いたぜ? 寝てたんだろ?」
「は? 何でお前がしってんだよ!?」
「なんでって、てめぇの相方のカナトが、お前を起こすために俺に話を聞きにきただけだが?」
「え……カナトが?」
「お前、助けてもらった癖に――」
「ちげーよ! お前がカナトを知ってるっていうのが納得いかねーの!」

「カナト自身が、俺にお前を起こす方法を聞きにきたんだよ。それだけだ。何もできなかったが、お前が起きたなら何とかなったんだろ? あとは知らね」

吐き捨てたヴェリタスは、闘技場で遊ぶつもりだったらしい。
演習の報奨金で生活している連中だ。対人好きの鏡だろう。

「カナトに言っとけよ。たまには演習こいってな」
「あいつ演習にもでんの?」
「俺が勧誘してんだよ! ジン、お前もさっさと戻って来やがれ、暇なんだろ」
「え、ん、まぁ……そのうちな」
「信頼ならねぇ……」

ジト目で睨むヴェリタスにぎくりとして、ジンは逃げるように立ち去る。
演習もいいが、今はそれどころではない気がした。
こうして少し歩いただけでも、自分とカナトは驚くほど密接に関係していていることがわかり、不思議でもどかしい気分だ。
まるで自分だけが取り残されているような。そんな感じがする。

結局、収穫もないまま街を一周して、ジンは自宅へと戻ってきた。
リビングにはいると、カナトがとても古い本を読んでいて目を離さず「もどったか」と口にする。

「た、ただいま……」

気まずい。
何を話せばいいのだろう、グランジやヴェリタスに会った話をすればいいか?
いや、他に聞きたいことはあるか。

「カナトは、なんで俺を起こそうとおもったんすか?」
「お前の生き様を見届けると、出会った時に約束した。と言えば納得できるか?」
「納得?」
「私の理屈はことごとくお前に理解されなかったからな……」
「えっと、まぁ確かによくわかんないっすね。生き様って……」
「貴様の言葉でいうなら、"私がそうしたかった"からだ」

カナトがジンを起こしたかった。

「なんで起こしたかったんすか?」

同じ質問だ。でもやっぱりわからなくて聞いてしまう。
カナトはさっき、甘えすぎていたと言っていた。
利用したかったのだろうか、しかしそれでは今の状況が食い違う。

「お前に起きていて欲しかったんだ……それではだめか?」
「うーん……」

カナトがそこに行き着くまでの過程が分からない。
こころを再結晶化させるために、カナトは何度も死にかけたそうだ。
何故そこまでして起こそうとしてくれたのか、やはり納得がいかない。

「考えるのが苦手な癖に、らしくも無く頑張っているな」
「は?」
「どうせまた、私がお前を利用している事を疑っていたりとか、この家にいるのが申し訳ないとか、利用しているなら家事やなにかを要求するのではないかとか考えているんじゃないのか?」

全部正解していた。

「だったらなんすか!?」
「私と貴様は、利害関係が一致していた」
「!」
「寮の居心地が悪く外に出たかった貴様と、睡眠障害を持ちまともに動けなかった私。住居を提供する代わりに助けを求めたのは私だ」
「お、おう……」
「当時はそうして利害関係が一致していたが、今の私はすでに睡眠障害を殆ど改善している」
「じゃあ、利害関係が一致してねーじゃん。俺いる意味なくね?」
「そういうになる……。どう取るかもお前の自由だ」

またこの言葉だ。
自由にしろと好きにしろという。

「なんでそんな回りくどいんだ? 俺を使いたいなら素直に家事とかしてくれって言えばいいじゃん?」
「言っただろう? 甘えすぎていたんだ。私が……。しかし、今や家事全般は、私自身一人でもできる。お前の記憶がなくなった今、利害関係が一致しない以上、引き止めておく理由もないといっているんだ」
「……」
「それ理解の上であえてもう一度言う。……居て欲しい」

そう言われた直後。

ジンの脳裏にカナトの同じ表情が、ざっと過った。
自分が出かけるのを嫌うカナト、姿が見えないと直ぐに連絡して来て、行動の一つ一つ酷く危なっかしかった。
か弱い癖にすぐ一人になって、巻き込まれて見ていてヒヤヒヤする。
でも、そんな日常が退屈しなくて楽しかったのだ。
でもある日、カナトは眠る前、自分を引き止めた。

ジンが何処かに行く夢をみた。

だから答えたのだ。何処にもいかないと、

「なんだ、約束してんじゃん。俺……」
「? どうした?」
「お前ってさ、割と難しいこといろいろいうけど、結構女々しいとこあるんだな」
「な"、貴様にいわれたくない!」
「お前ほどねちねち悩んだりしねーしー、俺」
「たかが同居しているというだけで、一週間悩み続ける奴がよく言う!」
「別になやんでねーし、わかんなかっただけだし」

カナトが真っ赤になっている。
顔が整っている分、女性扱いされるのが気に食わないのか。

「お前さ、孤独がだめなのか?」
「……ジンと出会う前は、あまり感じなかった。だが一緒に暮らし出して、お前が眠ったその日、とてつもなく弱くなっている自分に気づいたんだ……」
「……そっか、それなら……色々悪かったな」

カナトはしょんぼりしたまま何も言わない。
自分が一体どうして彼と出会い、彼と暮らしていたのかは分からない。
しかし、今思い出した記憶は、まるで当たり前のように「どこにも行かない」と言った自分と、それを聞いて安心するカナトの表情だった。
何故そんな事を言ったのだろうかは分からない、だが思い出した表情は、酷く切実で辛そうだった。

「ごめんな……」

大切な約束も忘れて、何もかもが真っさらで、しかし周りは知っていて、怖くなった。
思い出せば、今の自分が壊れてしまいそうな、そんな気もしてくる。
カナトはそれを察して、無理強いすることを躊躇ったのだ。
本当は思い出して欲しい。当たり前だ。

「でもわりぃ、まだよくわかんねぇ」
「構わない……。お前が出て行かないなら、無理に取り戻す必要も無いと思っている」
「は? なんだそれ」
「本人のやる気がなければ意味がない」

確かにそうだ。
思い出したいと思ったからこそ、記憶が引っ張ってこられたのもある。

「ジン」
「ん?」
「もう一度、私と組まないか?」
「組む?」
「私とお前は、いつも二人で動いていた。だからもう一度ペアを組んで出かけたいとおもう」

はっきりと述べられた言葉に、ジンは少し戸惑った。
しかしそれは、他ならぬ恩人の頼みであり、自分を助けてくれた彼の意思だった。
不思議な奴だとおもう。
何故カナトがそこまでジンに固執するのかは分からない。
でも自分を目覚めさせてくれた彼の事を、少しでも思い出したいと思った。

「いいぜ。カナト、付き合ってやるよ」
「感謝する……」
「もう遠慮しないぜ?」
「貴様の家だ。すきにしろ」
「サンキュ、明日から行くのか?」
「行きたいが……いかんせん、体調がわるい……」
「そうなのか?」

悪いようにはみえず、きょとんとしたが、席を立とうとした時、翼のバランスがとれず、カナトは横に倒れかけた。
ジンはそれをギリギリで受け止める。

「すまない。少し眠い」
「大丈夫かよ……」
「安心して、少し気が抜けただけだ……」

耐えられなかったのか。
カナトはそのまま、ジンの腕の中で眠ってしまった。
このままではいけない為、カナトの部屋へ運ぶ。
寝かせてやると顔色もかなり悪く青い、うつむいて隠して居たのか……。
確かに、一週間もお互いに気を使って過ごして空気も悪かったし、疲れが溜まる気持ちも分かる。
申し訳ない事をした。

そう思いジンはテーブルの上に目をやると、カナトが読んでいた古い本が、目に入る。
中身が気になり、ジンは最後のページを開いた。

すると、赤線の魔法陣が浮かび上がってきていて、こう書かれている。

-Lore No.09 Wore Wolf……

「ろあなんばーないん、わーうるふ?」

赤字で読めるのはこれだけだった。あとは上部に魔法陣が浮かびかけているだけで、特に意味はなさそうに見える。

珍しい本だなぁと思い、ジンはカナトの部屋へ本を返すのだった。




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本編 | 【2014-04-17(Thu) 12:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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