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Heart*Lost:第八話
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Heart*Lost
第八話 凍てついた心

第一章
第一話:終わりの始まり
第二話:序章
第三話:失うもの
第四話:夢への入口
第二章
第五話:孤独からの再動
第六話:戦いの絆
第七話:覚悟への道


 「それが聖杯ですか? カナトさん」
「はい、しかしまだ半分もたまってはいませんが……」

自宅へ訪ねてくれたセオに、カナトは自ら入れたお茶をだす。
バトラーとカナサが出かけた留守の間、カナトはセオを自宅へと招いていた。
内容は、彼への現状報告と、もう一つ……。

「今で、四割ぐらいかな?」
「えぇ、徒歩で回れる範囲でいったのですが、なかなか……」
「一人でいったのかい?」
「リアスと二人で、心配をかけてしまっているようなので……」
「当然だよ。一人だといったら怒ってたぐらいだ」
「……ありがとうございます」

一度さらわれてしまったのだから、心配されるのも無理もない。
自宅にはカナサとバトラーが居るが、心配したランカー達は時々家に訪ねてきてくれる。
ありがたい半分、申し訳のなさが先立つが、自分だけの問題ではないとは分かっている為、断るのも忍びなかった。

「ところで、セオ殿。リアスから聞いたのですが……」
「なんだい?」
「ノーザン地方出身とは本当ですか?」
「あぁ、隠れ里のような辺境だけど、一応ノーザンだよ」
「もしよろしければ、ノーザンダンジョンへ同行してもらえないでしょうか」
「ノーザンダンジョンに?」
「はい、ジンと以前訪れた事があります。しかし……一人ではとても」
「確かに、タイタニアさんは寒い場所苦手だものね。一緒に行こう」
「助かります」
「あ、そうだ。もう一人呼んでもいいかな?」




「ハロー! カナトん、久しぶり!」
「ぬえ殿、お久しぶりです」

ノーザンプロムナードの飛空庭ターミナルにて、カナトとセオは、ギルドランク4th、アークタイタニア・フォースマスターのぬえと落ち合った。
彼女は、極寒のこの地方への助っ人として駆けつけてくれたのだ。

「ヒーティングなら任せて!」
「助かります。よろしくお願いしますね」

「セオ殿、すぐに出発はできるのでしょうか?」
「出来るといえばできます。しかし、もう一つ用事が――」

「セオさん――! 探しましたぁ!」

新しく聞こえた声に三人の視線がもっていかれた。
四枚の黒羽を持つ彼は、ノーザン魔法学校の研究員。アークタイタニア・フォースマスターのスィーだ。

「スィー殿……」
「カナトさん、お久しぶりです!」

「スィー、ありがとう」
「セオさんのお願いなら、断れないですよー」

「あの……スィー殿?」
「あ、ごめんなさい。僕、お……キリヤナギさんの騎士として頑張ることにして、治安維持部隊の隊員へ転勤したんです。それでこっちのノーザンを拠点に、ディメンジョンダンジョンの研究をやってます!」
「騎士に?」
「はい! それで昔の知り合いと顔合わせして、流れでそのまま……、セオさんとは同じ騎士としていろいろお世話になっています」

「よく本部でも会うよー! スィーってね。変な呪文叫ぶのが好きなんだよ! かっこいいよね!」

変なのかかっこいいのかどちらなのだろう。
すこし考えたが、どう突っ込めばいいかわからないので、カナトは何も言わず流した。

「聞いてください、カナトさん!ディメンションダンジョンの謎が最近明らかになってきたんです!」

カナトが顏をあげた
ディメンションダンジョンは何らかの原因で発生する異空間。
カナトとジンは、以前ここへ閉じ込められることで出会った。

「実は、ディメンションダンジョンについて研究しているディム博士が、ディメンションダンジョンは、常時存在しているという事を突き止めたんです」
「常時……?」
「はい、まるで鏡に移したようなディメンション空間は、通常、干渉余地が無いだけで、通常空間とは常に対の状態で存在しているのです」
「あんな危険なものがですか……?」
「確かに危険だと思われがちですが、ディメンション空間は、何かしらの魔法エネルギーが加わらない限り、通常空間と干渉する事はあり得ません。前にカナトさんと僕とリゼロッテさんで行った時は、やはり第三者が実験に利用していたのだと考えられます」

「つまり入り口さえ発生させることができれば、いつでも入ることが可能と言うことだね」
「はい!」

「なるほど! わからない!!」

ぬえの素直な回答に失笑はしたが、再びはいれることができるとわかり、心が踊る。
ここにジンが居るかは分からない。が、同じ場所なら確実性はありそうだ。

スィーとセオに連れられ、四人は”ヒーティング”を維持しながらノーザンダンジョンの入り口へとやってきた。
地下へと続く階段へ、いそいそと魔法陣を書いたスィーは、膨大な文字が書かれた本を広げる。
全て手書きされている文字は、魔法を発動させるための言わばプログラムだ。
空間魔法は、これを発動させる事で起動する。

おもむろに、ポケットから取り出されたのはイリスカード。
スィーはそれを指に挟むと、弾く事で砕いた。

「……イリス・マジックブレイズン」

スィーの心に魔力強化の力が付与される。
本へ流し込まれるその力は、何百ページにもなる本のページをめくり、全てのシステムを読み込んだ。

「システム.unknown No.0002564! 展開!!」

キン、という電子音に始まり階段の入り口が真っ黒に染まる。
異空間への入り口が完成した。

「ここから侵入して、あとは安定石を使えば抜け出せます。気をつけて!」
「スィー殿は?」
「行きたいのですが、実験のレポートを書かないといけないので、ここで御留守番です」
「……実験ですか?」
「はい、ディメンションダンジョンの限界時間を記録するのです。敵を倒し切る強い人が必要だったのでお願いしました。なので、僕は持続時間とか、経過とか……あと魔力供給ですね。この白い魔力宝石から今は魔力供給しています。これがいつまでもつか計測しないといけなくて……」

大変そうだ。

「この実験がおわったら、プライベートダンジョンって名前で売りに出すとかって話にもなってるので、ちゃんとやらないと……でも、協力できて嬉しいです! ジンさんが見つかるといいですね!」
「は、はい。ありがとうございます」
「……そうだ。カナトさん。実験への協力のお礼、と言ってはなんですが、最近図鑑でみたすごいかっこいい敵をスケッチしたんです。よかったらもらってください!」







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「……ホルスゴーレムですか?」
「はい! かっこよくないですか!?」

可愛らしいイラストだ。
カナトは絵を書かないが、これは部屋に飾りたい。

「カナトーん! おいてくよ!」
「では行きましょう、カナトさん」

「はい、今行きます」
「おきをつけて!」

二人に促されカナトがゆっくりと魔法陣へと足を踏み入れる。
前の二人は、階段をおりているように見え、カナトもそれに続こうとした。
しかし、足を踏み入れた直後、キンという高音が響き、あるはずの足場が消滅、ガクンと体重をすべてもっていかれた。
素早く翼でバランスをとろうとするが、感じた重力に抗う事ができず、カナトは真っ黒な闇へ吸い込まれる。

「カナトん!!」

ぬえが追おうとしたのを、セオが服を掴んでとめる。
彼女まで巻き込む訳にはいかない。
落下するカナトは、そんなぬえが小さくなるのを見届け、暗闇に飲まれた。




どのくらい気絶していただろう。
さらさらと聞こえる水のせせらぎが聞こえカナトは目を開けた。
エメラルドのように透き通る木の葉やそれを生やす枝の上。
巨大な樹の上へ引っかかりながらようやく意識を取り戻した。

真上には自分を受け止めた樹がさらさらと木の葉を鳴らしている。
水の音が心地よく、しばらくはそうしていたが、感じた冷たい風にカナトの意識が冴えた。
ノーザン地方で眠ると凍死する可能性がある。
しかしこの場所は、極度に寒いわけではないようだった。
翼を上手く使い、絡まっていた枝を抜けたカナトは、音をたてず床へ足をつける。
自分を救ってくれた大樹だ。
驚くほどに立派な樹で樹齢1000年はありそうにも思える。
手のひらでその幹へ触れるとゴツゴツとした表面が感じられ、同時に小さな鼓動も伝わってきた。

生きているのか。
生命があるならば、救ってくれた事に礼を言わなければならない。
気絶した自分を受け止めてもらえなければ、硬い床へぶつかりいま自分はここにはいないのだから、

「ありがとう……」

そう礼を述べた直後。
腰に釣っていた闇の聖杯へキラキラと何かが零れた。それも一滴や二滴ではなく。
たくさんの思い出がそこへ集まる。
まさかと思い、カナトが大樹を見上げるが、大樹は何も言わず木の葉を鳴らすだけだった。

「ありがとう……」

おかえり。
そう心に思い、カナトは周辺の散策を始める。

ドーム状に広がるこの場所は、大樹を中心に広がっており、天井から抜ける風が洞窟へ抜けているようだった。

一度上から抜けて外を見ようとしたが、結界に阻まれ抜けることができない。出口は地上の洞窟しかないようだ。
洞窟から吹き込む風で、今度こそ凍えてしまう。
カナトはセオに予備で渡されたホカホカ石を取り出し、寒さに備えた。
が、ホカホカ石を準備したとき、カナトは後ろに人の気配を感じる。
振り向くと、出口の直線上に氷漬けにされた、赤いドレスの姫が眠りについていた。

この時点でカナトは、全てを察する。
ここはノーザン王国なのだ。
あの大樹が、何かしらの魔力をもっているのなら、ジンの心がここにあったのも頷ける。
カナトは、何も言わず女王へ一礼するとホカホカ石を使い洞窟へ入った。



全ての壁が氷で出来た洞窟。氷洞。
その場所は、まさにその名前が適した場所でもあった。
ホカホカ石がなければ、あっという間に翼が凍りついてしまうだろう。
石があるにもかかわらず、身の凍るような寒さを感じ、カナトはもう一度洞窟で暖を取り救助を待つべきか迷った。
しかし、後ろを振り返ると、通ってきたはずの通路が消え、行き止まりの壁が広がっている。
思わずその壁にふれると、ひんやりと氷で覆われていて、後戻りできないことを思い知らされた。
まるで夢のように一瞬で終わった時間ではあったが、送り出してくれた事に意思を感じ、カナトは蔓延るモンスターを蹴散らしながら進むことにする。

1人で狩りにでるのも、とても久しぶりだった。
ジンと出会ってからずっと2人行動だったし、後ろも気にする必要がない。そのため常に安心感があったが、今はそれがない。
後ろを取られないよう、神経を尖らせながら出口を目指した。

しかし、敵が減らない。
倒しても倒しても先には敵がいて、途切れる所がない。
モンスターハウスなのは分かる。
だが間違って奥へ紛れ込んでしまったのではないか。
そんな不安すらよぎる程、敵の数が多い。

ナビゲーションデバイスを参照しても、周辺スキャンで一本道しかでてこず、無意識に引き返しているわけでもなさそうだ。
進むしか選択肢がなく、カナトは武器を握りしめる。

いつぶりだろうか。
とても懐かしい。サウスダンジョンへ迷い込んだ時も、こうしてがむしゃらに戦って出口を探した。何十時間も戦い、疲れ果て、完全に心が折れた時に、ジンと出会って助けられた。

だから今度はこちらが助ける番なのだと、何度も自分に言い聞かせてきたのだ。
ジンは気にしないというだろう、が、それでも救いたい。
何をやっても、どんなに苦しくとも、取り戻すときめたのだ。
だからやり遂げてもう一度生きよう、二人で、

武器をふるっているうち、手のグローブが徐々に擦り切れてきた。
外せば寒さで握れなくなるので、気にせず武器を構える。
しかし、突如目の前に、氷の塊が出現。
これまで倒してきた敵とは違う巨大な敵だ。
図鑑でみたことがある、アイスベルクだ。
敵は二手に分かれた通路の中央を陣取り、まるで通るなら倒していけとも言いたげに立ち尽くしている。
戻るべき道はもうない。

ならば戦って勝つしかないじゃないか。

カナトは、緋之家具土を離し素手のジョーカーを唱えると、ホカホカ石を携えて飛びたった。

床スレスレを滑空し、勢いをつけて切り上げる。
だが、硬い体表をもつアイスベルクに刃が食い込まず、弾かれてしまった。
仕方なく体制を立て直し、今度は上から振り下ろすものの、こちらも表面をわずかに削っただけでダメージが入らない。
内部から破壊する必要があるが、点の攻撃ができるジンが今はいない。

カナトは高度を上げて、ポケットから火のコロンを取り出し、大剣へとふりかけた。
倒さなければ先へは進めない、倒して帰らなければいけない。
待っている人がいるのだから、

カナトは武器を握り直し、天井から勢いをつけると剣を縦に構えて再び滑空。
勢いのままに、アイスベルクへと突っ込んだ。
熱を帯び、火のコロンの影響をうけた剣は、見事アイスベルクの中央腹部へ突き刺さったが、
敵の目がぎょろり光りカナトはゾッとする。
突き刺した剣が刃からピキピキと凍りつき、引き抜こうとしても引き抜けない。
やむ負えず手放そうとした直後。
アイスベルクから大量の水が溢れ出し、カナトは背後の壁まで押し流されてしまった。
氷洞のど真ん中で冷たい風が吹き抜けるそこは、ずぶ濡れになってしまったカナトを少しずつ凍てつかせてゆく。
胸のみがホカホカ石で暖を得ているが、胸以外の手足の感覚が痛みと寒さでなくなっていく。
また、翼の根元に水がつかり、ここも凍てついて羽ばたけない。

終わるのだろうか。
こんな場所で、まだ何もしていないのに、1人では結局なにもできないまま終わってしまうのか。
どれほどまでに自分は弱くて、なさけないのだろう。
ここで眠れば、もう一度彼に会えるだろうか。

そう思いカナトは目を閉じた。
耳も遠くなり、殆どなにも聞こえない。
小さくきこえてきた声も遠くなり、カナトは意識を手放した。



何もない場所だった。
夜。白い花が沢山咲く花畑。
先が見えないほど広く、目の前にポツンと一台のグランドピアノが置かれている。
月光を反射するピアノは、まるで弾いて欲しいと言うように、椅子をこちらへ向けていた。

周りには誰もいない。
弾いても構わないのだろうかと思い、カナトはおもむろにそこへと座って鍵盤を叩く。
調律はされているらしい。

ゆっくりと息を整え、カナトは弾いた。
何も考えず、心のままに音を奏でてゆく。

すると、後ろから人の気配がした。
誰かはわからない。
だが、カナトは気にせず弾いた。
聞きたいなら好きにすればいい。
音楽は表現するものなのだから、聞きたくなければ、立ち去ればいいだけの話だ。

しかし、後ろの気配はいくら時間がたっても消える気配がない。
曲ももう終盤だ、最後までいる気なのだろうか。
長い曲なのに物好きだと思ったが、ふと、今の自分を振り返った。

何故ここで、ピアノを引いているのだろう。
後ろに人がいるからだろうか。

自分は今、大切な探し物をしていたのだ。

そう思い、演奏をやめたときだ。

「なんだ、やめちまうのか?」

はっとして振りかえった直後、

カナトは、分厚い布団の上で目をさました。
視界に入る古びた天井は、始めて見るもので、自宅ではないことがわかる。

暖かい空間だった。
ゆっくりと体を起こすと、簡易な携帯ストーブが三台ほど置かれていて、部屋の温度を維持している。

「大丈夫かい?」

初めてきいた声だった。
大人びた男性の声。
目を合わすと優しく微笑んでおり、黒い翼を持っている。イクスドミニオンだ。
左目の瞳孔が開いており、少し驚いたが、人であると認識してほっとする。

「気付いてよかった。もう少しで凍傷になるところだった」
「貴方は……?」
「ん? ああ、俺はリラ。イクスドミニオン・アストラリストのリラと言う。治安維持部隊の調査任務で氷洞へ来ていたのだけど、途中で倒れている君を見つけたんだ」
「そうですか。……私は、タイタニア・ジョーカーのカナトです」

リラと名乗った彼は、ふわふわと湯気をだすカップをカナトへ差し出してくれる。
暖かいコーンスープが入ったそれを、カナトは冷たい手で受け取った。

「低体温症かな。暫く休めば動けるようになる。死亡する可能性があったから、急遽ここまで運ばせてもらった」
「……面目ありません。ありがとうございます」
「とにかく意識が戻って良かった」

「余計なことを……。リラ、さっさと本部の応援をよんで連行してもらうべきだと思うが?」
「チャド、彼はまだ起きたばかりで混乱している」
「関係ない。聞いただろう? そいつはジョーカー。何故ここに居たのか、聞きたいものだ」

声を荒げているのは眼鏡をかける金髪のアークタイタニアだった。
彼はカナトを敵のように睨むと、はっきりと述べる。

「第一、このノーザン地下都市は、いまだ一般公開はされていない。そんな場所に我々以外の人がいること自体がおかしいじゃないか」
「ただ、迷い込んだだけかもしれないだろう?」
「氷洞にか。 氷洞へ行くためにはまずこのノーザン地下街を抜ける必要がある。今現在でそれ以外の侵入方法はない。つまりだ、こいつが何らかの方法で侵入し、奥へ進んだとしか考えられない。こいつが来れるということは他者も同様。今すぐ拘束すべきだとは思うが?」
「……。リヴはどう思う?」

更に新しい名前が聞こえ、カナトがリラの視線の先を見る。
本棚の本を広げ中身を流し見ている彼は、インペリアルコートに帽子を被り顔の半分を仮面で隠していた。
名前をよばれた事で、本を棚へ戻した彼は、何も言わないカナトへ視線を向けると低い声で口にする。

「あそこで何をしていた?」

何をしていただろう。
確かジンの心を回収するためにノーザンへいって、大樹の上へと落ちた。
そして、凍てつく氷の洞窟をひたすらすすんで……。

「……出口を、さがしていました」
「出口?」
「ノーザンダンジョンへ足を踏み入れたのですが、気が付いたらここに」
「ノーザンダンジョン……? そこからどうやってここに来れる?」
「……わかりません、気づいたらあの場所に」
「氷洞には、この地下街を抜けなければ行けないと、先程言ったはずだが?」

金髪の彼の発言に、カナトが押し黙る。
どう説明すればいいのだろう。
樹から来たとも言えばいいのだろうか……。
金髪のアークタイタニアは、言葉をつづけないカナトをみて踵かえす。

「とにかく、我々以外の人がいた以上、国際問題に発展しかねないですよ」

金髪のアークタイタニアの態度をみて、カナトは徐々に現状がわかってきた。
いるはずのない場所へ居た事実から、不審者として疑われていることと、彼等に生命を助けられたこと。

指先や足先に包帯が沢山巻かれており、翼の付け根にも手当の跡を感じる。
携帯ストーブが焚かれているのも、自分を温めるためだろう。
つくづく助けられてばかりだと思い、カナトはいろんな意味で反省した。

「お三方、この度は危ない所をありがとうございました」
「俺は指示に従っただけで、決めたのはリヴ、エミル・グラディエイターのリヴェンツェル隊長だ」

リラの視線の先には腕を組むエミルの男性がいる。
彼は話を聞くだけで、何も話そうとしない。

「リヴェンツェル殿。心から感謝致します」

カナトのその言葉をきいたリヴは、何も言わず組んだ腕をほどくと、そのまま寝室を出てしまった。

「けっこう、唐変木なところがあるんだ。嫌いになったわけじゃないから」
「ありがとう、ございます。重ねて失礼ですが、そちらの方は……?」

「……アークタイタニア・カーディナル、名はチャドウィッグ。リヴの指示に従い、容態を診させていただきました。意識昏睡まで体温が落ち込んでいたので助からないと思ったのですが……そこのアストラリストがいろいろしてくれたので、よかったですね」
「チャド!」
「とにかく、拘束するためにも平熱に戻るまではここから出しませんよ」
「……君の身分を確認しようにも、ここは地下でナビゲーションデバイスの電波も入らない。救助隊がくるまではここで待ってもらう以外ないんだ」

事実上の軟禁状態ということだ。
しかし、見知らぬ土地で遭難し、救助されて拾った命。
拘束と言う形でもアクロポリスに帰れるのであれば、遭難していた身としてはとてもありがたい。
地上にさえ出られれば、セオと連絡がついてどうにかなりそうなものではあるが、

「さて、じゃあ俺は一度地上にでて、本部に応援要請をしてくるよ」
「大丈夫だと思うが油断するな」
「リヴがいるから平気さ。チャド、お前もカナトにあまりつらく当たるなよ」
「容疑者と仲良くおしゃべり出来るほど、寛容な心は持ち合わせてはいないのでね」

「あの、リラ殿はどちらへ?」

「俺はリヴと二人で、先に地上にでて応援を呼んでくる。それまではチャドと二人で待機。君の容体が悪くなることへの配慮だ」
「……! 感謝致します」

「何かあってはこちらが困りますから」

睨みつけられてしまい、カナトが押し黙る。
分厚いコートを着込んだリラは、カナトに笑みを見せた後。
そっと扉を閉じて階段を降りていった。

残されたカナトは、チャドウィッグに安静にしろと睨まれて素直にベッドへ横になる。

そこから数時間たっただろうか。
ふと目が覚めると、チャドウィッグがランプを付けて本を読んでいる。
小さな明かりで本を読む彼は、此方が目覚めた事に気づいたのか、ランプの明かりを少し弱めた。

「眠っておけと言った筈ですが?」
「……ありがとうございます。しかし――」
「眠り過ぎて眠れない。休めというのに患者は何故かそう述べますね」
「……」
「僕がここにいることが気になり、それがストレスとなる……。わからなくもないですがね……」

あれ? とカナトの中で疑問が生まれて消えた。
同時に理解して安堵する。

「いえただ、たまたま目が覚めてしまっただけです」
「図太い神経が羨ましい……」

嘘ではなかった。
夢もみず、ぐっすり眠った。
時間は短いが頭はすっきりしている。当分は眠れないだろう。

何も言わず読書を続けるチャドウィッグをみて、カナトも寝室にある本を探す。
すると、扉の付近の本棚に、古く分厚い本が沢山並べられていた。
倒れないよう、ゆっくりと立ち上がり、翼でバランスを取りながら二本足で本を取りにいく。
壁に伝いながら本棚をみると、シリーズものの短編集が沢山並んでいるにもかかわらず、カナトはまるで吸い寄せられるように、中央の本を抜きとった。

「そこの本は、もう持ち主のいない置物状態らしいので、自由にしていいみたいですよ」

後ろからのチャドウィッグの言葉に、カナトは少し安心した。
持ってかえってもいいと言う意味だろうか。

何も言わないチャドウィッグだが、
カナトがベッドへもどると、そっとランプの光を強くしてくれて、カナトとチャドウィッグは二人で読書をはじめる。
そこから、再びウトウトしてきた所で、カナトはもう一度横になることにした。

そうしてようやく眠った事にチャドウィッグもため息をつく。

本を閉じ、容態をみるためにカナトの頬へ触れると若干の熱を持っている事に気づいた。
低体温症からは、回復している。
しかし、それにしては熱い。

そんな事を考えた時、廊下から足音が響いた。
リヴェンツェルとリラだ。

「お待たせ」
「大分遅かったな」
「ちょっと雪が酷くてね。時間がかかった……」
「それで本部は?」
「明日、本部の救助隊がくる。カナト君に関しては、迷い込んだ遭難者としてノーザン側に理解されたよ」
「よくもまぁ、そんな言い訳が通ったな」
「今日のお昼に、何か時空がゆがむ挙動を、ノーザン側が確認したらしい。そこに人が一人落ちた気配もね。実験の実施日でもあったらしいからそれだよ」
「なるほど、しかし、治安維持部隊もジョーカーの割にえらく温い対応ですこと」
「その件だけど、本部に確認をとったら、どうやら総隊長絡みの友人らしい」
「あの無能隊長のか……」
「よろしく頼むと言われたさ……」
「気持ち悪い。何を考えているのか検討もつかん」

リラとチャドウィッグが話す横で、リヴェンツェルが寝室へと視線を向ける。

「容体は?」
「良好。低体温症からは回復しています。ですが、今度は少し熱がでていますね。体温が下がったことで免疫力が落ちたのかと、ここの衛生面はあまりよろしくありません。早く連れて帰り、聖堂へ突っ込みましょう」

「……わかった。明日、一次帰還する」
「「了解」」

時刻は深夜0時を回っていた。そうして世が明けて、午前8時を回ろうとした頃。
無線電波を頼りに治安維持部隊の救助隊が到着する。
カナトはその間もずっと眠っていたが、騒がしくなった宿屋に気づき目を開けた。
やけに寒い。

「カナトさん! カナトさん! 大丈夫ですか!?」

体を揺すられ起こされると、目の前には茶髪の彼がいた。

「ジン……」

声に出たが、ぼやけた視界が戻り、青い瞳が見えた。

「セオ殿……」

寒いが、熱い。
額に貼られた冷却ジェルシートや声の枯れ具合に驚いた。
動けない。

周りで沢山の人間が騒いでいるのが聞こえる。
入り口には、職服をきた冒険者が出入りし、治安維持部隊の応援が来たことまでは理解した。

「カナトさん。起きた所ごめん。憑依できる?」
「憑依……」
「ここはノーザン地下なんだ。早くここからでないとカナトさんが……」

よくはわからなかった。
だが他に考える余地もなく、カナトはセオの胸アクセサリーに憑依する。
セオは、アクセサリーへ向けて“ファイアオーラ”を唱え、救助隊とノーザンプロムナードへと帰還した。

聞いた話によると、プロムナードで救助要請していたセオとぬえが、リヴェンツェルとリラの話を聞き、地下に迷いこんだのがカナトであると断定できたらしい。
そこからセオとぬえの二人が数人の救助隊を率いて現れ、カナトを回収したのだった。
通常なら聖堂へ連れて行くべきではあるが、立場上セオは迷わずカナトを自宅へ連れて行き、休ませる事にする。

「すみません……」
「兄上、どうか無理に話さず……」

「聖堂にいったら多分取り調べがはいるし、一週間はかえってこれないからね」

どうお礼を言えばいいのかわからない。
しかしそれでも、カナト中に昨日の三人の姿がよぎる。

「リヴェンツェル隊長は、僕が連れて帰ることに何も言わなかった。一応疑いは晴れていたからだろうけれど……とにかく、体調が最優先だ」
「すみません……」

「もぅ、謝らないでください! 兄上は、そんな……」

弟の前で情けないとおもう。
こんなにも助けられて迷惑をかけて、何をしているのだろうか。
手の甲で目を押さえてしまうカナトに、カナサが顔を上げる。
どうしようもない悔しさともどかしさで、胸が張り裂けそうだ。

「カナトさん。これだけは忘れないでください」
「……」
「貴方の目的は、決して貴方一人の問題ではない。カナトさんがいてこそ意味がある、僕はそう思う。だから、必ずカナトさんがジンさんの心を戻して欲しい」

あぁ、そうだ。
ジンは一人ではない。
自分を含めた、沢山の人と関わっている。
皆が関係者で、仲間で――

「はい。感謝致します」

こみ上げた涙を、カナトはこらえきれなかった。
流れる水滴に、カナサは見てはいられず部屋をとびだしてしまう。
二人きりとなった部屋で、セオはおもむろに口に出す、

「カナトさん、氷洞の再奥で何かみたかい?」
「……何かとは?」
「わからないならいいんだ。でも、もし見ていたら絶対に人には言わないで欲しい。あれが広まったら王国は滅びてしまうから」
「……わかりました。私は何もみていません。ただ一つ言えるのは――」
「!?」
「とても優しい力でした」
「うん。だから僕も守りたい」
「私の分までお願いします」
「わかった……」

何も見ていない。
嘘ではないのだ。
何かを見たというなら嘘になる。
あの先には壁しかなかったのだから……。




「ただの風邪ですね」

次の日。カナトはリフウに訪問治療を頼み、彼女を自宅へと招いた。
リフウは笑顔でそう述べると、きょとんとするカナトに続ける。

「体が冷えた事と、ストレスでしょうね……。ずっと切り詰めていたのではないですか?」
「はい……」
「目的も大切ですが、体は資本ですくれぐれも大切に」
「ありがとうございます」

「兄上」

扉の方からカナサに呼ばれ、顔を上げる。
リフウへ優しい微笑を見せた後、一礼をして部屋を出て行った。

「どうした? カナサ」
「……僕と家に帰りましょう。ジンさんの為の部屋も僕が用意すれば――」
「カナサ……」
「兄上だって、危ない目に合わずにすむ……」
「すまない……カナサ」
「!? 何故ですか!? 何故ですか! 兄上! 家に帰れば、父上に頼めば、ジンさんだって、目を覚ましてくれるかもしれない! なのに、どうして兄上は、そこまで……」
「私がやらなければ、意味がないんだ」

カナサはこの言葉に顔をあげ、勢いのまま部屋を飛び出してしまった。そしてそのまま家からも出て行き、バトラーが後を追う。
すでにわがままだ。
あえてリスクがある方法ばかりを選んで空回りして、情けない。
しかし、カナトの父ルシフェルがエミルを救うなどあり得ない話で、カナサの必死さも伺える。

周りを悲しませてばかりだ。

その後、カナサは結局家にはもどらず、バトラーのみが自宅に荷物を撮りに来る。
話を聞くと、あと半月ほどで両親も家に帰ってくるらしく、丁度今朝、帰ってくる日時をカナサへ伝えたらしい。
ある意味、当然のながれで決まっていたものではあるが、賑やかな空間がまた静かになってしまった。

「カナト君」
「ゲッカさん、ようこそ」
「大丈夫? 少しやつれてる」
「風邪です。あと弟が――」
「あぁ、カナサ君。帰っちゃったんだ」
「はい」
「寂しいね……」

何も言えない。
素直に答えようかと思ったが、くだらないプライドが邪魔で言葉がでなかった。

「痛いの痛いのとんでけー!」
「!」
「これでカナト君は無敵です。負けません。なぜなら、どんな痛みも吹き飛ばしてしまうからです!」
「……」
「おまじない」
「ありがとうございます」

少し嬉しかった。

「あのね、カナト君」
「なんでしょう?」
「ずっと……考えてたんだけど、カナト君イースト地方にはあんまり行かないよね」
「はい。確かに……」
「私さ、ジンと幼馴染でイーストの生まれなんだよね」
「…………!」

「もしかしたら、ジンがイーストにもどってるかもしれない、かなって……」
「……確かに」
「確証はないし、ほら、ジンあんまり昔のこと話さないでしょ? だから、少ないかもしれないけど」
「……」
「カナト君が来てくれるなら、……私、案内したい」

ジンの故郷。
確かに穴だった。今までカナトは自分が知る土地をのみを歩いてきたが、ジンの故郷をカナトはしらない。
行くべきだろうとは思うが……、

「ゲッカさんは、平気なのですか?」
「わかんない。でも、私、まだこっちにきて一度も帰ってないんだ」
「……」
「見に行きたい」
「……分かりました。しかし無理をなさらず」
「うん、ありがとう」

その月光花の笑みは何処か曇っている。
テーブルの上の聖杯は、もう8割近く集まり、もう少しで全てが溜まりきるだろう。
最後の場所としては、確かに的確だ。

「イーストへいくのですか?」
「リアス……!」

突然現れてやはり少し驚いた。
彼は玄関から上がり込み白い袋をカナトへ渡す。

「サプリメントをもってきました。食事ができない時にどうぞ」
「すまない。リアス、心配かけたな……」

じっと睨みつけてくるのは怒っているのか。
何かを言いたげに此方を見ている。

「なんでノーザンへ連れて行ってくれなかったんですか?」
「リアスは寒い所が苦手だろう?」
「好きではないですが、放って行かれて納得できてません。怒ってます」
「す、すまない。しかし、大人数は避けたかったんだ。迷惑をかけたな」
「別に迷惑とはおもってないです。ただ……おれがいれば、カナトさんが危ない目に合わずにすんだのかとおもうと、悔しくて」
「そうか。お前は素直だな。ありがとう」
「……イーストにいくんですか?」
「あぁ、行こうと思っている」
「護衛さんは決まってますか?」
「まだだが、リアスがいればなんとかなるだろうと思っていた」
「嬉しいですが、おれは総隊長絡みで気になることができました」
「そうか……残念だ。失望させたならすまない」
「失望はしてないです。なので、セオさんにカナトさんが、護衛が欲しがっていたと、伝えておきます」
「そうか。ありがとうリアス」
「……カナトさん。最近の貴方はとても危ないです。なので少し落ち着いてください」

リアスにまで釘を刺されてしまった。無意識にも必死だったらしい。
自分ではわからないものだ。

「とりあえず風邪なおしてからですね」
「そうだな……」

「リアス君、だっけ? かわいいね」
「可愛くないですよ!? おれはおれです。かわいいはないです!」
「あっは! かわいいリアス君かわいい!」
「なんなんですか! カナトさん!」

自分に聞かれても困る。
しょんぼりしていた月光花が元気になったのはありがたい。

そうしてイーストへと向かう約束をした数日後。
二人は、彼の故郷へとゆく
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本編 | 【2014-04-03(Thu) 12:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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