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Heart*Lost:第二話
HL_01.jpg

Heart*Lost
第二話 序章

第一章
第一話:終わりの始まり


 午後を回り、カナトがリビングへ下りると、そこにはラップをかけられた朝食とコーヒーメーカーが置かれていた。
ジンが午前中に出かけるのはいつもの事だが、残されたメモ書きによると元宮へ向かったようだ。
とりあえず、メールに起きた。とだけ送り、朝食をとる。
しかし、眠い。食べたらもう一度眠ろうか。

そう考えながら、ナビゲーションデバイスのスケジュールツールを確認していると、今日のスケジュールに仕事の受注がある。
そういえば午後から、ジンと酒場に行く予定だったか。
起きる前には帰ってほしかったが、仕方が無い。

朝食を食べて、シャワーを浴び、私服に着替えたカナトは、汚れた食器を片付けて、洗浄をする。
ついでに、床の埃もはらって、換気もして、布団も干した。
ジンの布団も干して、シーツも替えて、ゴミもまとめた。
途中ジンの部屋のベッドの下から、見慣れない収納ケースが出てきて、開けてみると、男性向けの雑誌やビデオが大量に出てきて、カナトはそれを庭へと出し、雑誌類は紐で括ってまとめた。
更に、床モップがけをして、クリスマスにカナサからプレゼントされたピアノもみがき、バイオリンもワックスで磨く。
また、倉庫だった部屋も整理して要らないものを庭へまとめた。

思いつく限りをやって、一息。

ジンが帰らない。
時間を見れば15時を回っている。
カナトはゴーレムを呼び出し、要らないものを中古品として出すと、太刀の刃を砥いでから、再びデバイスを見た。

遅い。
夜まで帰らない気なのか。


つぶやきツールをみても、11時前後を最後に発言が見えない。
迎えに行くか。
誘拐事件から、あまり一人でうろつくなとも言われているが、迎えに行くぐらいなら平気だろう。
個別通信にもでず、少し腹が立つ、遅くなるなら連絡ぐらいよこせと思った。

飛空庭のダストボックスに、雑誌を含む燃えるゴミを突っ込んで、カナトは一人。
背中に大剣と腰に自動式拳銃を携えて、庭をでた。

賑やかな街をまるで風に乗るように進み、述べ数分でカナトは元宮の前へたどり着く。
こっそりと中を覗くと、受付待ちの冒険者が数名いるが、カナトはジョーカーであるため、はいることができない。
入口付近にいる警備兵にも顔を覚えられているので、カナトは仕方がなく。
元宮の前のベンチへと座った。
メールももう一通出し、つぶやきツールで愚痴でも吐いてやろうかと思ったが、
途端、視線を感じて、カナトは元宮の入り口を見る。

「あれ、もしかしてカナトさん!?」
「え、は、はい。そうですが……」
「わぁぁ……カナトさんだ。なんでここにいるの!?」

ピンクの髪に目隠しをするアークタイタニアの女性。
彼女は空中へ舞い上がり立ち上がったカナトをまじまじと見た。
一瞬顔が間近にきて、思わず尻餅をつく。

「あ、女の子だめなんだっけ? ごめんね」
「あの……貴方は一体?」
「……そっか、ごめん。僕と前にあった時は気絶してたもんね」
「!?」
「改めて始めまして、僕はアークタイタニア・フォースマスターのぬえ、ギルドランク4thだよ」
「ランカー? ジンの……」
「そうそう。ジンさん、カナトさんがよく迎えにくるって言ってたけど本当だったんだね、今日もジンさんを?」
「えぇ、戻らないので迎えに……」
「そっかそっか、でもジョーカーさんだよね、入れるの?」
「いえ、そうはいかず……」
「そっか、ジンさん。どこにいるの? わかるなら呼んできてあげるよ」
「助かります。ですが、位置情報が元宮としか表示されないので……」
「あー、なるほど、確かにこれは面倒だね。元宮って仮想空間で部屋を作って継ぎ足ししてるから、人によっては迷路だし……」
「……」
「あ、そうだ。よかったら、一緒に探しに行く?」
「え……」
「一人より二人で探した方が効率がいいっていうし、一緒に探そう! そうしよう!」
「しかし、私はジョーカーで……」
「大丈夫。少尉以上の階級なら、部外者をゲストとして呼んでも平気なんだ! 手続きしてあげるから一緒にきて!」

そう、ぬえに手首を掴まれカナトが悲鳴をあげた。
ぬえに連れられ、ゲストIDを発行してもらったカナトは、首からバーコードカードを下げて元宮を回る。

元王宮というだけに豪華な壁紙やシャンデリアなどの装飾が目立ち、カナトにとっては、まるで実家に帰ったような気分だ。

そんな複雑な心境になりつつ、ぬえとエレベーターを降りたカナトは、
目の前のオープンラウンジの席に座る黒い影に視線を持っていかれた。
黒を基調とするイレイザーの職服を纏う彼は、一番奥の席に突っ伏して寝息を立てている。

「あ、カロンさーん」

ぬえの呼び声にのっそりと顔をあげる。
ラウンジと廊下の仕切りを飛び越え、そちらへと向かうぬえを、カナトは急いで追った。
ぬえをみて、うーんと体を伸ばしたカロンは、目の前に降り立った黒羽をみて、体を伸ばしたまま硬直。肩の筋がつった。

「うぉぁぁいてぇぇかなとぉお……」
「悲鳴と言いたい事が混ざってるよ!!」

しばらく呻いていたカロンだったが、カナトに肩をほぐされ、なんとか落ち着ついた。

「いってぇ……というかカナト!? 何でお前……」
「ジンさん迎えきたんだって、」
「そうなのか、ってなんで入ってきてんだよ!?」
「ゲストゲスト、僕が招いたんだ」
「へ、あぁ、そういえばそんなんもあったな……」

「お邪魔しています」
「カロンさん。ジンさんしらないかな? 元宮にいるみたいなんだけど……」
「ジン? 今日はみてねぇなぁ、約束もしてねぇし、てかなんか用事あったのか?」

「わかりません。出かけるのはいつものことですが、戻らず……」
「ふーん。大体あいつの用事は俺か銃の洗浄だし、一度上にいってみたらどうだ?」
「上ですか?」
「武器の修理・改造・メンテナンスの受け付けカウンターさ、あいつそこのマエストロとも仲がいいから何かしってんじゃね?」
「そうですか、分かりました。ありがとうございます」
「世話焼き女房も、ほどほどにしてやれよ」
「わ、わたしは、男です!」

一瞬ポカンとしたカロンだったが、数秒後に吹き出し必死に笑をこらえる。
カナトは何のことかさっぱりだったが、結局お礼だけ述べて二人は武器修理の受付カウンターへと向かった。

室内へ入った瞬間、金属の香りがして工房も兼ねているのだろうとすぐにわかる。
ぬえに受付役を呼び出してもらうと、バンダナをつけたマエストロが足早にカウンターへと現れた。

「やぁ、こんにちは!」
「あれ、たしか4thのぬえさんですよね。スペルユーザーの方がどうかされたんですか?」
「あのねあのね、ジンさんと友達なんだよね? ジンさん、しらない?」
「ジンさんですか?」

マエストロと目が合ったカナトは、挨拶のように低くお辞儀をする。
その動作で相手はなにか納得したようだった。

「あれ? もしかして、あなたがカナトさんですか?」
「え、えぇ、私ですが……」
「ジンさんの言った通りの方ですね、黒羽に茶髪。あ、変な武器使ってるって本当ですか?」
「変な武器……ですか?」
「普通より長い太刀を使っておられると聞いています」
「あ、あぁ、緋之迦具土神ですか。確かに刀身は長めですが珍しいものでもないと……」
「緋之迦具土神といえば、アストラリスト系の鍛冶屋さんが特注で作るブランド品じゃないですか!! 作成は常にオーダーメイドで決して安いものではないですよ!!」
「そ、そうですが、私のものは譲り受けたもので……」
「こういう仕事やってると、自営業系の鍛冶屋さんの武器は滅多に回ってこなくて……もしよかったら見せていただけませんか!!」
「は……その……」

「いいじゃん、カナトん。どうせジンさん見つけるまで元宮に居るでしょ、貸してあげたらどうかな?」
「ぬえ殿……その呼び名は―」
「貸して頂けるんですか!! 僕で良ければ研がせてください是非!!」

キラキラと輝くマエストロの瞳に負け、カナトは渋々背中の武器を下ろした。
赤く燃えるような刀身を持つ緋之迦具土神は、刃が常に熱を持ち、敵を切った時の油を溶かしてくれる。

「火の精霊と契約した人だけに付与できるものですね……炎の召喚石が打ち込んであるんでしょうか。すごいなぁ、僕もこんなの作りたいなぁ……」

何処かで見たことある光景だ。
このマエストロがジンと知り合いであることは間違いないらしい。

「武器を貸してあげるのはいいけど、マエストロさん。ジンさんこなかった?」
「ジンさんですか? 今日は見てないですね。でも昨日、銃の完全分解をした後だったので、今日くることは無いとおもうんですが……」
「銃の完全分解?」
「他の近接系の武器と違って、銃は撃つたびに汚れが付着するデリケートな武器なんです。日常的なメンテナンスも必要ですが、頻繁に使うなら、一度分解して洗浄してあげないと長持ちしないのです」
「へぇー」
「ジンさんは週に一度ここにきて、完全分解と部品のチェックをしているのですよ」
「なるほど、わからない!!」
「……」

笑顔で固まったマエストロに、言葉もない。
ともかく、必要なことであることはわかった。

「今日、ジンさんを見てないなら仕方ないかー。なら心当たりとかないかなぁ」
「必要な時は、武器だけ預けて報告書とかだしにいっていますけど……」
「報告書かぁ、じゃあセオさんかな。ありがとうマエストロさん!」

「あの……武器は――」
「帰宅される際に寄ってください。それまでにはお返しします」
「大丈夫。この人は助手だけど、絶対返してくれるから」
「そこですか……。ぬえさんひどい……」
「……わかりました。よろしくお願いします」

ジンの面影が所々にちらつくが、やはり見当たらないのは不安だ。
ぬえと共に、武器修理の受付カウンターをでてエレベーターを待っていると、上がってきたエレベーターから、一人の少年エミルが現れた。
「おや」と驚いた少年に、カナトとぬえは道を開ける。

「あ、大尉大尉。ちょうど今、会いにいこうとしてたんだ」
「ぬえさん……何故?」

「お邪魔しております」
「……ゲストですか。ジョーカーの方を招くとは貴方も思い切ったことをされますね」

「いいじゃん。ぼくランカーだしっ」
「どういうことでしょうか?」
「普通なら、ジョーカーさんはゲストでもはいることは出来ません。
しかし、少尉以上かつ、ランカーが招く場合のみ、信頼を置けるとして許可されています」

「そうだったのですか……」
「気にしたら負けだよ。ところでさ、ジンさんしらない?」

「ジンさんですか? 今日は見ていませんね」
「そっかー。ここにはきてないのかなぁ……」
「どうかされたのですか?」

「約束の時間になっても戻らないので……」
「なるほど、位置情報は?」
「元宮としか書かれておらず……」
「そうですか……」

セオは少し考え込み、自分のナビゲーションデバイスを取り出した。
ジンの位置情報を参照すると、確かにギルド元宮と表示されている。

「セオさんじゃないなら、ホライゾン大佐かなぁ?」
「そうですね……ともかくこちらにはきておられません」

「ありがとうございます」
「……。総隊長の権限であるならナビゲーションデバイス精密な座標においての位置特定は可能ですが――」
「!?」
「ナビゲーションデバイスの管理会社TTRBは、民間企業ではありますが緊急事態には協力体制となるよう規約があります。その権限の行使は、総隊長が緊急と判断した場合のみ使用が許可され……これ以上は辞めましょう。一度ホライゾン大佐に会ってみてください。話はそれからで」
「おっけ、ありがとうセオ大尉!」

「セオ殿。ありがとうございます」
「では私は武器の調整がありますので」

カナトが一礼し、セオが武器修理の受付カウンターへと入って行く。
残された二人はエレベーターへと乗り込み、ホライゾンが居るとされるフェンサー系の階層へと向かった。
職服を纏う部隊員が多数行き交う中、ゲストカードを下げた上、私服で黒羽をもつカナトは、えらく注目を集める。何者かという視線だ。

「夕方近いし、みんな帰ってきて訓練も休憩の時間だしね。ゲストなんて滅多にこないから、みんな珍しいんだとおもうよ」
「……そうですか」

居心地がわるい理由もわかる気がする。
確かにいつも見慣れた顔つきの中に知らない顔が居れば、嫌でも目立つだろう。
人通りの多いロビーから徐々に離れ、二人は最奥の執務室へと訪れた。
ぬえが「いるかなぁ」と口にだし、軽く扉をノックすると落ち着いた優しい声が帰ってきた。
ぬえはそれに対し嬉しそうな声をあげると「失礼します!!」と大声をあけて、敬礼。
扉をあけた。

「治安維持部隊! 4th! 少尉・ぬえであります!」
「あはは、軍隊のまねっこかい? 似合ってるよ。ぬえちゃん」

楽しそうに笑い。席を立つのは長身の男性タイタニア。
一対の白羽持ち、真っ白な騎士服を纏っている。
アークタイタニア・ガーディアンのホライゾン。ランキング1thだ。
彼は後ろにいるカナトと目が合うとにっこりと微笑んでくれる。

「こんにちは」
「お初にお目にかかります。アークタイタニア・カナトです」
「僕は会うのは二回目だけど、仕方が無いか。今日はどうしたんだい?」

「あのさー、ホライゾン。ジンさんしらない? 」
「ジン君かい? みてないなぁ……」
「そっかー。来てるかなっておもったんだけど……」

タメ口なのかと突っ込みたくなったが、ぐっとこらえる。
ランカーどうしの会話では当たり前なのか、カナトにとっては信じられない。

「報告書かなにかの用事があるかなと思ってさー、来てないならしかたないかー」
「探してるのかい?」
「うん。何処にもいなくってさー。カロンさんもセオ大尉もしらないっていうし」
「カロンの所に行っていないのは珍しいね。来てないんじゃないのかな?」
「それが、ナビにはちゃんと元宮って書いてあるんだ」
「……そうか。すこし心配だね」

「心配……ですか?」
「元宮にデバイスを落として、何処かに行ってしまったのかもしれないし、デバイスが手元にないなら絶対探すんじゃないかい?」

「確かに……」
「落としたにせよ。届けてあげないと困るだろう。とにかくデバイスを回収してから、受け付けで館内アナウンスでもして貰えばいいんじゃないかな?」
「おぉ、さすがホライゾン。あったまいい!!」

「……ありがとうございます」
「君にとっては大切な人だろう……連れては帰れなくても、会うだけ会って帰りなさい」
「はい……」
「デバイスの位置は、治安維持部隊の総隊長キリヤナギに頼めば、見つけられるよ。温厚だからすぐに聞いてくれるはずさ」
「キリヤナギ……殿ですか……」
「……? どうかしたのかい?」
「い、いえ、なんでもありません。感謝します」

「じゃあカナトん。総隊長のとこ行こ。ホライゾンありがとう! まったねー」
「またね。ぬえちゃん」

楽しそうに出て行くぬえにはっとし、カナトも一礼し執務室を出た。
ぬえは元宮をうろうろして楽しくなってきたのか、風を切るように彼女は廊下を突っ切る。

「ジンさんいないねぇ……」
「はい……」
「でも、総隊長なら見つけてくれるし大丈夫! いそごう」
「……ありがとうございます。ぬえ殿」
「えへへー、ジンさん、迷子のお呼び出しー」

そういって二人は、フェンサー系の階層から総隊長のいる階層へとむかう。
エレベーターの最上層に訪れた2人は、ノックしても返事がない部屋に首を傾げた。
こっそりと扉を開けて中にはいると、誰も居らずあれ?と思う。しかし人の気配はあった。

「いないのかなぁ?」

ぬえが興味本位で、部屋中を飛び回り、ソファーの裏から本棚の隙間。
棚の中まで探す、そして最後に執務机の上に乗り上げて見回すと、その真下にうずくまる白い服のエミルがいた。
音を立てまいと息をひそめる彼は床にうつった影にはっとすると、突然壁へと背中を付ける。

「うわぁあぁああ、ごめん、仕事ちゃんとやってたよよおお!」
「あは、総隊長! みつけた」
「あれ……ぬえ!?」

はっとして顔を上げたのは、レースの付いたイヤリングを付けるエミル。
彼は治安維持部隊総隊長、エミル・ガーディアンのキリヤナギだ。

「なんだー。びっくりした」
「どうしたの総隊長? なんか怖い人がくるの?」
「ううん、違うんだ。いつもこの時間は、その……な、なんでもない」

よくわからないが、キリヤナギにとっては面白くはないらしい。
彼はぬえに、コーヒーを入れるように頼むと入り口に突っ立っているカナトに視線を移した。
此方をみるその微笑に、カナトは思わず息を飲む。

「やっぱり来たね。治安維持部隊へようこそ、カナト」
「こんにちは、お邪魔して居ます」
「今日はどうしたの? ジョーカーの君が来るなんて珍しいじゃないか」

浮かべられる微笑にカナトは返答すら出来なくなった。
必ず必要とする。そう言われその通りに来てしまったのだ。

「あ、総隊長~。ジンさん知らない」
「ジン? ジンって5thの?」
「うん、位置情報には、元宮ってかいてあるのに何処にも居ないんだ」
「へぇー、わかんないなぁ、来てないし……」
「そっかぁ、でも総隊長ならデバイスの場所がわかるってホライゾンが言ってたよ」
「うん、一応ね」
「ねぇねぇ、ジンさんのデバイス探せないかなぁ」
「ジンのデバイスを?」

首を傾げたキリヤナギは、ぬえに言われてカナトをみた。
大方察してくれたらしい。

「ジンを探しにきたんだ?」
「はい……」
「ふーん。じゃあさぁ、協力する代わりに、僕にも友達として協力してくれない?」
「!?」
「部隊に入れとは言わない。だから、友達になろう。僕はそれだけでいいよ」
「……」

言われた言葉の意味を、カナトは一瞬で理解した。
関係性を持てと遠回しに言われているのだ。形はどうあれ、避けるのを辞めろと、関わりを深くもてと取引を持ちかけている。

「ねぇねぇ、なんの話?」
「ぬえ。そのままの意味だよ。僕はランカーじゃないから、自由に動けない。だから友達にならないと、カナトに協力できないんだ」
「へぇー、でもさ、僕カナトさんと友達だし、総隊長とも友達だから、友達の友達は友達じゃない?」
「あ、そういえばそうだね!」

「お待ちを……」

危ない流れだ。
なにも言わなければ、承諾したことになってしまう。

「何故私を? 何か意味があるのですか?」
「今言った通りだよ」
「……!」
「君が欲しい。望むなら常に手元へ置いておきたい程にね。でもそれは、情報だけを求める君にとって、あまりにも対価が大きすぎる。だから今は、あくまで関係性のみを僕は望もう」
「……」
「どうかな?」

妥当。いやキリヤナギからみれば、かなりの譲歩か。
そもそも、無条件で協力を求める方が間違っている。
ある程度は覚悟して赴いたが、予想通りだ。

「……」

答えが出せない。
父の背中が頭に過ぎり、言葉が出なくなってしまった。

「ウォーレスハイムさんとは、よく話すよ」

はっとした。
なにも言わないカナトに、痺れを切らしたか。

「僕のこのチョーカーは、ウォーレスハイムさんがつけてくれたものだ。あの人が居なければ、今の僕は居ない。今でも時々調子が悪くないか見てもらってる」
「……」
「でも僕は、あの人に忠誠を誓った訳じゃないし、崇拝してる訳でもない。治安維持部隊は、元はただのリングなんだ。それに首輪を付けられた、言わば犬みたいなものだよ」
「……」
「でもね。犬は必ずしも、飼い主に従順するわけじゃない、噛み付くことだってある」
「……反逆ですか?」
「まさか。でも僕は、ウォーレスハイムさんは好きだよ。僕の思想を理解してくれるのは、あの人ぐらいだしね」
「そこまで父上との関係性を持つ貴方が、何故私にそれを望む?」

キリヤナギの表情が突然おどけた。その表情にカナトは、はっとして目を逸らす、バカな事を聞いた。

「彼じゃ意味が無いんだよ。カナト。君じゃなければ意味が無い、すべてがね」

代替りだ。
ウォーレスハイムと関係性を持った所で、いずれ世代が変わり、関係性が失われる。。
年齢的にウォーレスハイムは、後50年前後で引退を迎えるだろう。
なら、次にその立場に立つのは、双子のどちらかになる事は明らかで、

「私は……」
「勘当の話は知ってるよ。でも、話聞いたらカナサ君だと、やっぱり不安なんだって」
「な……」
「話がズレたね。どうだい? 僕と友達になるか。それとも……」
「……!」
「自分の立場を認めて、僕が従順する事を望むかい?」

冒険者と言う立場での交渉か、後の権力者としての交渉か。
前者なら今のままで通りの生活を送れる、キリヤナギの譲歩だ。
しかし後者は、実家へと戻り貴族としてやり直す事が前提となる。
選択肢は三つだ。
関係性をもつか、実家に帰るか、このまま背中を向け、自宅に帰るか。

ふとジンの背中が頭に過る。
世話の焼ける奴だ、ずっとふらふらしている。
腹は立つが、信頼できるし、唯一その手で救おうとしてくれた他人。
相方と言う言葉を教えてくれたのも奴だった。

目の前のキリヤナギは、ぬえの入れたコーヒーを冷まし、口付ける。
しかし突然噴き出した。

「ぬえ、もしかして粉をそのままいれたこれ!?」
「え、違うの?」
「ちゃんと紙通さないと、ってコーヒーメーカー壊れてない!?」

慌ててコーヒーメーカーを洗うキリヤナギと、机のお菓子を頬張るぬえ。
逆じゃないかと思う。

「ざらざらだよー。せっかくセオに良いの選んで貰ったのに……」
「この粉がコーヒーになるんじゃないのー?」
「それは、コーヒー豆を削った粉。お湯を通すだけだから入れちゃ駄目!」
「にっがぁぁああ!! まずい!!」
「飲んじゃだめだよ!? お腹こわすよ!!」

にぎやかだ。
どちらにせよ見てられなくなったので、カナトは、キリヤナギの洗ったコーヒーメーカーを組み立て、ろ紙をセットし、粉をいれ、水もいれてスイッチもいれた。
半分がコーヒー豆だったコーヒーも、水分だけ捨てて処理する。

「カナトは器用だね。ありがとう」
「いえ、友人なら当然です」

キリヤナギの表情がぱぁと明るくなった。
うまくやれるかは分からないが、折角の譲歩を受けたいと思う。

「えへへ、嬉しいな、あ、友達ってメアド交換するんだよね。フレンド登録しよう!」
「は、はぁ……?」
「本当はみんな登録したいんだけど、遠慮されてるのか断られちゃうんだよね。嬉しい」
「……」

上司に位置情報を見られるのが嫌なのだろう。
知らぬが仏とはこの事か。

「かなとーん。僕も登録したい!」
「私でよければ……」
「やったー!」

「じゃあ、おやつ食べたら、ジンのデバイスを探そっか」
「うんうん。見つかるといいね、かなとん」

「はい」

そうして三人の会話が終わり、コーヒーメーカーにコーヒーが出来上がる。
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本編 | 【2014-02-13(Thu) 12:30:00】 | Trackback(-) | Comments:(0)
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