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(C) BROCCOLI/ GungHo Online Entertainment,Inc./ HEADLOCK Inc.

回廊で迷子になる話
出演:カズヒさん、セオさん

ロケ地:無限回廊下層

あらすじ
突然、無限回廊へ行きたいと言い出したカナト。
治安維持部隊が調査に駐在しているその場所へ、ジンは行くことを拒むが、執拗に頼み込んでくるカナトに負けて回廊へ向かう事となる。
治安維持部隊の調査任務を受けて、回廊の72階へ潜入した二人だったが、ジンが突然トラップにはまり、地下牢へ飛ばされてしまうのだった。


 「はぁ!? やだよ!!」
「何故だ?」

きょとんとしたカナトの表情に、リビングでごろ寝をしていたエミル・ガンナーのジンが叫ぶ。
ブーストを胡座にのせる、アークタイタニア・ジョーカーのカナトは、新しい酒場の仕事をジンへ見せる為、ナビゲーションデバイスのサイバーモードを使い、酒場ネットワークのリストを参照する。

「無限回廊とか、まだ連中がゴロゴロいるし……」
「あぁ……確かに、治安維持部隊が調査の為に駐在しているが、今年になって、ようやく地下42階から100階までの、十分な酸素供給が可能になったことから、一般解放されたそうだ」
「そんな下まであんの……どうでもいいけど、行きたくねぇ」
「何故だ?」
「連中に会いたくねぇんだよ。お前もいやだろ? 捕まったら面倒だし」
「……今回の仕事は、治安維持部隊が人員募集しているものだ。解放されたとしても、回廊は広すぎて調査しきれないので、一時契約の人材を募集しているらしい」
「あ……そう」
「下へ降りるにつれて、敵も強敵になる。今回は72階のを受注したいのたが……」
「行きたくねぇっつってんだろ! 絶対やだ!!」
「一般の仕事よりも報酬がーー」
「大根食いたいなら、いくらでもかってやるから!! な!?」

カナトが黙った。
すぐに諦めてくれるかに見えたが、一度インターフェースへ視線を戻したあと、もう一度こちらを見る。
しょんぼりと視線を落としてしまい、ジンは思わず焦った。
そんな顔しないで欲しい……。

「な、なんでそんな回廊に行きたいんだよ……? 理由でもあんの?」
「……回廊は昔、地下40階まで降りたことがある。当時はそれ以上先はなく引き返した」
「ふーん。というかお前、俺と会う前はバイトしてたんじゃなかったのか?」
「戦い方を、この世界での生き方を教えたくれた人がいる。貴様と出会う前の話だ……」
「……戦い方? お前にそんな奴いたのか」
「父上の、エミル界での知り合いだったらしい。勘当され、家にいられなくなった俺の面倒をみてくれていた……。父上という存在に対して、抗うことしかできなかった私へ、この世界の本質と生き方を教えてくれたんだ」
「初耳だぜ? というか、それと回廊とどう関係あるんだよ?」
「モンスターがあまり強くないという理由で、始めて連れていかれたダンジョンだった……ワープもあるため、万が一のことがあっても、すぐに地上へ戻れる。……今を思うと、それもあの方の気遣いだったのかもしれない」
「へぇー、師匠みたいなもんか。いいじゃん! いまは元気してんの?」
「10年前。あの方はエミル族としての一生を終えた」
「!?」
「火ノ迦具土を私に残し、この世を去ったんだ……。出会った時、あの方は既に50を超えていて、30年近くの間を共に過ごした。出会ったの40年以上前の話だ……」
「……」

ジンからすれば、途方もない昔の話だ。
40年前など生まれてもいない。祖父や祖母の話になるだろう。
昔すぎてピンとこないが、カナトの始めての人との繋がりの話だった。

「でも、回廊72階って地下じゃん、階層すっとばしてるし、場所ちがくね……?」

カナトがはっとする。
暫く口籠ったが、

「あの方の代わりに攻略したいと思っただけだ!」
「行きたいだけだろ、お前」

ここは冷静に突っ込んでおく。
辛い思い出を聞かせてまで、行きたい好奇心か。
しかし確かに、大貴族の長男たるカナトが、その身一つで家を追い出された事実も考えづらい。
行き場の失った貴族は、大体どこか別の家に養子へはいり、その家の家督を継ぐか、騎士として名声を稼ぐぐらいの選択肢しかないからだ。
カナトは恐らく前者であったが、本人はそれを望まなかったのか。

「じゃあ、回廊行ってもいいし、もうちょっと聞かせろよ」
「貴様……」
「俺だって、連中には会いたくないんだぜ? ギブアンドテイクだろ?」
「意味が違うが……まぁいい。家をでた私は、父上の知り合いのエミル族に引き取られた。引き取られた相手は当時、預言者としての立ち場を確立していて、父上と何度か顔を合わせていたらしい」
「預言者? 占い屋かなんかか?」
「少し違う。だが普通に考えれば、そうなのかもしれない」
「どういう意味だよ……」
「あの方は確かに、預言者、そう呼ばれていたが、その口からでる言葉に迷いはなく、まるで自分が今まで体験してきた思い出のようにそれを話す。あの方が言うその日に、それは必ず起こったんだ」
「……へぇー、よくわかんね」
「私もよくはわからなかったが、私だけには、未来人だと自称していた」
「は?」
「自分は未来からきた、エミルのジョーカーだと、若い頃の歴史がまさに今動いているのだと、いたたまれない様子で話していた。当然、信じられなかったが、ジョーカーと言う言葉が存在しなかった40年前、あの方は確かにジョーカーだと名乗っていた。今思うとあながち間違いではなかったのかもしれない」
「ますますわかんねぇぞ……」
「だから話したくなかったんだ……」
「名前は? 本部関連ならーー」
「エミル・ジョーカーのオランズと言う」
「知らねぇ」
「貴様の生まれる前だからな、預言者としての立場はあったが、その存在は公になっていない。父上が私を預けたのも、その為だ」
「それならお前、その人の養子だったんじゃないのか? 貴族ならそうだろ?」
「いや……オランズには、家族がいなかった」
「!?」
「使用人を数名雇っただけの、小さな屋敷だ。そこにはオランズと私だけのふたり。オランズ本人は、家にこもる事を拒み、自分の足でアクロポリスを歩いていた。私は、そんなオランズと同行する事で世界をしり、不安定な国々たちを見てきた」
「……」
「武器を知り、敵を知り、自分を知る。弱点なども教わり、自分でも調べ、私は勘当されたにも関わらず、孤独を知らなかった……。しかし、年数が立つにつれて、オランズの体は自由が利かなくなり、70を過ぎた時には、杖をつき出かけることすらままならなくなっていた。……私は、そんなオランズの為に、傭兵として一人で世界を周り、その成果をオランズへ伝え続けたが……それが、どこまでオランズの心に響いたかはわからない。寿命と言う時間の差は長く、堪え難い絶望があった……」
「10年だよな……どうしてたんだ?」
「オランズに託された資産はあったが、私はその資産で庭を購入し、必要最低限の生活環境のみを整え、全て実家へと送った。その後の10年は、傭兵として点々としてはいたが、考えれば一瞬だったと今は思う。貴様と出会うまではな」
「濃いぃ二年で悪かったね!! と言うか友達ぐらい作っとけよ。もし俺が助けなかったらーー」
「……もう、あの絶望は嫌だった。それだけだ」
「!?」
「助からないなら、それでも良かった。だが貴様は助けた。そういう事だ」
「ふーん。粗末にすんなよ」
「わかっている。だから回廊に来い」
「結局そこかよ!!」

身も蓋もない。
隠すそぶりすら見せなくなり、ジンは自分のわがままを諦めた。
カナトはカナトなりの絶望を乗り越えているとわかって、清々しくなったのと、ここまで素直に行きたいと言う相方も珍しいからだ。

その数日後。
ジンは背中に光砲・エンジェルハイロゥを背負い、カナトと二人で回廊へ向かう。
砂漠の中央にあるその建物へ、二人はワープ魔法を掛けてもらい地下41階へと侵入した。
下層への中間地点とされるその場所は、モンスターは完全に掃除され、治安維持部隊と冒険者たちの合流地点として利用されている。
職服をきた人間は恐らく治安維持部隊。
私服は冒険者だろう。ジンは背中の武器が見えぬよう黒のカバーを掛けているが、腰のサラマンドラは目立つため、ジャケットの影になるようポケットへ手をいれて隠していた。

「落ち着かねえ……」
「我慢しろ」

報酬がいい分、人気の仕事なのか、受注しにきた冒険者が列を作っている。
カナトが受付をするために並ぼうとすると、突然肩を掴んで止められた。
振り返ると、ジンが二枚のチケットを渡してくる。


「なんだこれは?」
「ミッションチケット。普通ならそこで受付して、これもらってエントリーするけど、面倒だし昨日本部いってもらってきた」
「それは……」
「あれは、冒険者の身分確認もかねてるんだと、要注意人物を引っ掛けるためでもあるから、面倒だろ?」

確かに、ジョーカーがきたとなれば呼び止められること間違いない。
カナトからすれば、慣れもあるので、あまり気にもかけなかったが、ジンからすれば、ただでさえ関わりたくないのに、これ以上触りたくないのが本音だろう。
今回はジンがいるので、早めに終わると踏んではいたが、そんなにも関わりたくなかったのか……。

「さっさといくぜ」

まさか。
そんな自分の意図が知られていたことに、カナトは呆然とする。
利用しようとしていた自分が情けなくて、カナトは渡されたチケットを思わず握りしめた。

「……すまない。ジン」
「? ……なにが?」

きょとんとしたジンの顔をみて、カナトはどんな顔をするべきかわからなくなった。
この相方に深い意味を期待するのが間違いなのだと、カナトは今更ながらに理解する。

回廊のワープから、地下72階へと飛ばしてもらい、二人はミッションチケットを渡して、無限回廊の深部へと足を踏み入れる。
薄暗い、埃っぽいその場所は、見たこともない壁画が続いており、濁った空気が充満していた。

「へぇー、すっげぇ!」
「空気がわるい……あまり長時間は厳しそうだ」
「さっさとクリアして、買い物して帰るぜ。晩飯はだいこん以外な」
「ジンも好きだろう?」

そう、悪意もなくいわれれば言い返せない。
好きでもなければ嫌いでもないのだが、毎度どこから突っ込めばいいのか。

「き、嫌いじゃねぇけど……」
「なら何故いやがる?」

返答に困っていると、奥の廊下から白い影がちらついた。
カナトが背中の火ノ迦具土をにぎる。
ジンも、即座にハイロゥを取り出したが、見えてきたのは、赤いグローブつけた白と黒の熊。パンダだ。

パンダは、ペットとして見かけるが、よくみると、二足で歩いている。
その小さな影は徐々に大きくなり、高さ二mの巨体が姿を見せた。
パンダはこちらの姿を確認すると、突然、腰を落として接近。
ジンは即座にハイロウの筒をつかみ、パンダの右ストレートを受け止める。
その一瞬で、カナトが飛び立ち、素手のジョーカーを唱えた。
空中に投げた火ノ迦具土をぶん捕り、上からパンダへと切り掛かかる。

しかし、刃が達すると思った直後。パンダがバックステップで後退。
カナトが勢いを殺しきれず、床へ刃を叩きつける。
途端、床から黒い光が発生。
小規模な爆発が起こり、受け身をとっていたジンが、一気に吹っ飛ばされ、壁に激突した。

「かはっ……」
「ジン!!」

後頭部を強打し、気を失いかける。
座り込んでしまった直後。
ジンが座った床のブロックが、突然光を放った。

「ジン!!」

カナトの叫び声が聞こえた気がしたが、視界が真っ白になったかと思うと、世界が暗転した。



どれくらい時間がたっただろう。
体中が痛み、動くのがつらい。
薄暗いその場所に見覚えはなく、
錆びた金属の臭いが鼻に触る。
頭は痛むが、動ける事を確認し、ジンは重い体中をゆっくりと起こした。

相変わらずカナトの魔法は、えけづない威力だと思う。
まともに喰らえば失神も免れない。
しかも、カナトは手加減を知らず容赦がない。今回も全力だろう。
未だ後頭部が痛み、まだクラクラする。

空間はちいさな個室のような場所だった。
出口らしき壁の側面は、魔法の結界がかけられていて出れそうにない。

牢屋だ。
厄介なものに引っかかってしまった。

ふと"ナビゲーションデバイス"の着信履歴をみると、不在着信が20件も入っており、掛け直す気力も失せる。
隙間から外を見ると、通路の天井至る所に"ナビゲーションデバイス"の通信用アンテナが、数m毎に設置されており、治安維持部隊も、仕事しているものだと関心した。

通信はできそうだが、どうやって合流するかを考えたとき、後ろから小さくすすり泣くような、声が響いてきた。

部屋の隅で膝を抱くメガネの少年。
彼はこちらを見て、「ひっ」と悲鳴をあげた。

アストラリストの職服を纏う茶髪の少年は、ジンの姿を見て震えている。

「あの……先客さん?」
「は、は、はい、その、えっと……」

酷く動揺している。

「だだ、だだ大丈夫ですか? 突然飛ばされてきて……きぜ、気絶してらして」
「あー、どのくらい寝てたっすか? 俺……」
「えっと、ちょっと、まってください。……た、多分15分ぐらい」

あまり時間はたっていないか。
すると、"ナビゲーションデバイス"に着信が入り、ジンは迷わずそれをとる。カナトだ。

「よ」
「"貴様突然消えておいて……"」
「はは、悪かったよ。大丈夫か?」
「"敵はあまり強くないが如何せん数が多い。それに、迷路のように入り組んでいて、デバイスがなければ、東西の把握も困難だ"」
「そりゃきっついなぁ……俺の位置はわかんの?」
「"位置情報システムと、周辺スキャンで大方の位置はわかるが、周辺スキャンが、電波環境の悪さで半径50mが限界らしい。貴様の位置までの地図は作成できなかった"」
「あのアンテナは通信専用っぽいしなぁ……」

位置はわかるが、道はわからない。
壁を伝いつつ、向こう側を目指す必要があるだろう。
ここは素直にカナトの到着を待つか……。

「あ、あ、あの……」
「ん?」

「"誰かいるのか?"」
「ぁあ、じゃあ待ってるし、こいよ?」
「"貴様、人まかせーー"」

切ってやった。
再びかかって来たが保留にして、位置情報だけ発信する。

「で、なんすか?」
「よかったんですか!? 切っちゃって……」
「バッテリーもったいないっすよ。何回もかけて来るし、うごかないって言ったんで、位置情報さえだしてればなんとかなる。それよりーー」
「あ、ごごめんなさい。治安維持部隊所属、エミル・アストラリストのカズヒです」
「エミル・ガンナーのジンっす。部隊の人って事は、調査隊の人っすか?」
「いえその……ぼく、この階層の討伐任務で派遣されたのですが、途中でトラップにはまってしまってーー」
「まじっすか……じゃあ、合流しないとーー」
「それが、合流しようとなんども脱出を試みたのですが、出る度に罠を踏んでしまって、もう三回ももどされて……」
「……」
「結局、隊長から討伐が終わったら迎えにいくと言われてーー」
「わ、わかった。わかったす!! 大変っすねー!!」

話せば話すほど暗くなるカズヒ。
膝を抱えてしまい、フォローすらむなしくなる。
しかし、ジンは脇に落ちているハイロゥがむき出しになっている事に気づき、大急ぎでそれにカバーをかけた。

「ま、まぁ、とりあえず相方が来るんでーー」
「あ、あの、一緒について行っていいですか?」
「え"、ま、まぁ、待機命令でてないなら、いいんじゃないですか?」
「あ、あ、ありがとうございます! ぼ、ぼくこんな場所でもし敵がきたら怖くてどうしたらいいか……」
「いやその、結界かかってるし、敵は襲ってこないとおもうんすけどーー」

「おい……」

後ろから、聞き覚えのある声がした。
振り返ると結界の向こうに、ハルシネイションコートを纏う彼がいる。
眉間にシワを寄せ此方を睨むのは、先程通話をしたカナトだった。

「お、カナトじゃん。早かったな」
「えらく楽しそうだな、おいて行っても構わないんだぞ」
「怒んなよ。合流できたんだしさ」

つん、と踵がえしたカナトは、どこで拾ったのか古い鍵を取り出し、牢屋の鍵を開けた。

「サンキュ」
「そちらの方は?」

「あの、エミル・アストラリストのカズヒです……」
「カズヒ殿。お初にお目にかかる、タイタニア・ジョーカーのカナトです」
「ジョーカーさん!? ですか!?」

「大丈夫っすよ。こいつ無害なんで」
「貴様……」
「治安維持部隊の隊員様だぞ。俺らの味方なんだから、悪さすんじゃねぇぜ?」

カナトがひどくイラついている。たまにはからかってやっても面白い。

「申し訳ないカズヒ殿。奴は教養が少ないが為に、あまり礼儀がーー」
「てんめぇえ、冗談に決まってんだろ!! 本気にすんじゃねぇ!!」

どうしてこうなった。

「しかし、合流できたのは良いが、下の階層への入口が分からない。歩いてはみたが、やはり迷路だ」
「迷路なら、壁伝えばなんとかなるんじゃ?」

「あ、あの、この階層は、時間におうじて、下層への出口の場所が切り替わる、らしいんです……だからーー」
「まじっすか……」

「壁を伝うのも無理……闇雲に進むしかないか……せめて地図があればーー」
「あ、あのーー」

「ん?」
「ぼ、ぼく、もってます……地図ーー」
「へ?」

恐る恐るカズヒが取り出したのは、"ナビゲーションデバイス"。
彼は、モニターを空間へ照射できるサイバーモードを起動し、データベースの中から無限回廊を参照。
地下72階の地図を広げた。
出口になるとされる場所まで印がつけられており、二人が思わず固まる。

「治安維持部隊が作成した地図なのですが……この階層だけ隊全員に渡されているもので……。あ、この時間だったら、北東の階段が空いてます。あと一時間で切り替わるので急ぎましょう」

言葉を失う二人にカズヒが首を傾げる。

「あ、えっと、ごめんなさい。お二人にデータを転送しまーー」
「さ、最初にいえよ!!」
「うわぁぁあ!! ごめんなさい!ごめんなさい!!」

そんなやり取りも踏まえ、三人はパーティを組んで回廊を回る。
カナトが前衛を引き受け、カズヒが後衛をやるが、ジンが武器を出すのに渋っていると、その間にカズヒが属性を書き換え、殲滅していく。
後ろを確認しつつ、駆け足で後について行くと、前にいるカズヒが此方へ振り返った。

「ジンさん、あの……」
「なんすか?」
「ジンさんってランカーのジンさんもいるのですけど、同名の方って本当にいるんですね」
「は!? え、まぁまぁ、そうっすねぇ! 」
「ぼく、5thのジンさんにはまだあったことないんですが、なんでも加害者さんを痛めつけて喜んでるとかで……ちょっと怖いなぁって」
「そ、そうなんすか!? 喜んではない、と思うんすけ、ど?」
「実は、その、ホルスターの刺繍で貴方がジンさんってことは、名乗る前に分かったんです……」
「へ?」
「左腰のホルスターがちょっと見えて……ぼく、ランカーのジンさんって勘違いして、ちょっとこわがってました」

言葉もない。
カナトのジト目の視線が痛い。
超痛い。

「でも、こんな面白い人が、そんな極悪非道な5thさんな訳ないですよね!」

思わず膝を抱えたくなった。
無垢なカズヒに何も言えず、カナトが同情の目でこちらを見る。
泣きたい。泣けない。いま泣いてはいけないと、必死でこみ上げる感情を抑えた。

痛む心を抑え、三人はカズヒが寄越した地図を頼りに、73階へと足を踏み入れる。
72階より暗くなり、モンスターも変わる。
みたことあるものもいるが、強敵と言えるほどではなく、カズヒとカナトで殲滅は事足りた。
流石に何もしないのもシャクなので、ジンは背中の予備銃で援護射撃を始める。
広い階層を堂々と進み、もう少しで74階へ辿り着くかにみられたが、フワリとカナトの脇を小さなモンスターが通り抜けた。
黒い卵に、羽が生えたモンスターだ。
小さくて攻撃もしてこなかったので、カナトは無視したが、後ろにいたカズヒがよそ見をしていて、飛んで来た卵。デビルエッグと衝突。
ひっくり返ってしまった。

「カズヒ殿!」
「だ、大丈夫っすか!?」

尻餅をついただけで怪我はなさそうだ。
いたいといいながら体を起こし、カズヒがひざに乗った卵をつかむ。
パタパタと小さな羽を動かすデビルエッグば、カズヒをじっと見つめ、つぶらな瞳をみせた。
だが、途端カズヒは青ざめる。

「うわぁぁぁぁぁぁあ!!」

カズヒを中心として、巨大な風の魔法陣が展開。
まばゆい閃光が走り、爆発が起こった。



無限回廊75階。
闘技場のような巨大なフロアとなるそこには、多くの職服の彼らが、駐在していた。
待機しているのは、冒険者の受け付けや補給を請け負う駐在隊。もう一つは、討伐任務にきた派遣組だ。

「セオ大尉。お疲れ様です」
「予定より30分ほど遅れてしまいました。申し訳ない」
「いえ、お気になさらず、しかし、何かあったのですか?」
「つれてきたはずの弟子とはぐれてしまって、出口でまっていたのですが、結局たどり着けず合流ができませんでした。一応来れるならこいとは伝えましたが――」
「それは……一人で平気でしょうか? 我々が代わりに救出にでも」
「いえ、結構です。私の弟子は私が面倒をみます。彼の実力ならこの程度で倒れないでしょう。そういう素質はあります」
「は、はぁ……? そういうものでしょうか」

駐在隊の言葉に、セオはふぅと息をつく。
優秀な弟子ではあるが、何処かたよりなく、自分の本質を理解しきれていない。
あともう一つはーー、

(ズズン……。)

「!?」
「なんだ!? 地震か!?」

地鳴りと共に僅かに床が揺れる。
周りの隊員達が騒然とする中、セオは一人冷静に頭を抱えた。
上層の一部から波紋のようにかんじた魔力の爆発。
慣れ親しんだ魔力の気配にセオは確信した。

「全く……待っていればいいものを……」
「セオ大尉?」
「申し訳ない。討伐は、もう少し送らせて貰っても構わないでしょうか?」
「え、えぇ。我々が入口を封鎖していますので、大丈夫ですが……なにか、用事でも?」
「出来の悪い弟子を、迎えにいってきます」

そうして、セオは一人。地下74階へ向かう。





「うわぁぁぁぁん。来ないでくださぃぃい!!」
「か、カズヒ殿! どうか落ち着いてくだーー」

飛び交う"エレメンタルメモリー"をカナトが交わす、ジンは壁の影に逃げ込んで、落ちて来る土ぼこりを払っていた。
先程。カズヒは全力で"ウィンドエクスプロージョン"を放ち、ジンは吹っ飛ばされ、カナトも壁に叩きつけられた。

何が起こったのか、カズヒは突然前も見ず魔法を唱えだし、闇雲にそれを暴発させている。
必死に呼びかけても、爆発の余韻でかき消され、聞こえている様子がない。

「どうなってんだよ!!」
「しるか!! なんとかしろ!」

周りの壁はびくともしない。
すごい強度だとは思うが床は揺れている。
落ち着かせるにしても、どうしろというのか。
真面目に頭を抱えだしたとき、ジンはカズヒの足元に浮き始めている床のブロックに気づいた。
トラップだ。
あれに引っかかれば、止められるかもしれない。

「ちっ、しゃあねぇな!!」

ジンが影から飛び出し、カズヒへ突進する。
そのまま滑り込むようにかっさらい、カズヒを床へ押し倒した。

直後。トラップが発動。二人は、再び転送される。



「よりによって、またここかよ!!」
「"馬鹿が!! 勢いで行動するなとあれほどーー"」
「なんとかしろっつたのはお前だろうが!」

喧嘩している場合ではない。
再び牢屋へ転送されたジンは、失神し、目を回すカズヒを横目でみる。
止めれたので良しとしよう。
ようやく静かになり、ホッと息をつくと、横で寝ていたカズヒが、はっと目を覚ます。
飛び起きた彼は、周りをみると膝を抱えてしまった。

「ご、ごめんなさい……」
「あ、あの、とりあえずどうしたんすか? なんかあったんすか?」
「ぼく……闇属性の敵がダメで、怖くて、みるとあんな感じに……」
「なんだそれ……」
「昔、修行だからと言って、アンデット島に一週間閉じ込められたんです。以来怖くて怖くて……みただけでも、パニックになっちゃってーー」

言葉もない。
闇属性の敵など、いつ何処にいるかわからない。
見かける度に暴れてしまうなら、確かに置いて行かれた理由もわかる気がした。

「ぼ、ぼくもう、パニックになりませんから! ならないように、するから、あのーー」
「?」
「おいて、いかないで、ください……」

厄介な物だろう。
闇属性ならどんな物にも恐怖を感じてしまうのだ、味方が傷付くかもわからない。
だか、他ならぬ彼自身はそれを負い目に感じている。
でも、それでも彼は治安維持部隊の隊員だ。
変な癖があっても、彼は部隊へ所属できている。これは一つの意味を示していた。

「誰も置いて行くなんて言ってないっすよ。ついて来いともいってないし」
「……」
「ただ、なんつーか……」
「!?」
「今の自分がやりたい事してりゃ、後悔しないんじゃないすか?」

論点が違うだろうかと、ジンは言ってから考えた。
しかし、よく似た言動をジンはカナトからよく聞いている。
何も聞いていないのに、どうだろう、とか。正しいだろうかとか、自身が取る行動に対して聞いてきて、始めは答えてやるべきか迷った。
答える事は、相手の行動をこちらが決めてしまう事になる。
それはあまりにも無責任だ。
言葉の責任を終えるほど、自分は優しくなくて、無責任でもありたくない。
だから、カナトにそう聞かれたとき、ジンは定例のようにこう答えた。

――なんでもいいんじゃね?

正解などないのだから、好きにすればいい。
むしろどちらも正解なのだから、気に入った方を選べばいい。
そんな事を続けていると、カナトは自然と選択肢ではなく、自分が決めた事を持って来るようになった。
羅列された仕事の一覧ではなく。カナトが選んだ最善の仕事を持って来るようになったのだ。

そう、改めて思うと率直に回廊へ行きたいと言ったカナトは、とても新鮮で嬉しかった。
あれぐらいわがままなほうが、暇を持て余すこちらにとってはありがたい。

「えっと、じゃあついて行きます」
「おう、合流できればいいな」
「はい!」

いい返事だと思う。
何か力になれたなら、それでいい。

「貴様……」

牢屋の外でこちらを睨むカナトと目が合う。
迎えにくるのだけは早いなぁと思った。

「カナト、お前、その鍵毎度どこで拾ってんだ?」
「道中のモンスターが、稀に持っている。記念に持って帰ろうと、沢山拾った」

気分は観光客らしい。
他にも色々拾って居るのだろうか。

「あ、あのカナトさん。石板は拾っていますか……」
「……これでしょうか?」
「あ、はい。これは治安維持部隊で調査の対象になっているので、受け付けにて納品してもらえると報酬がでます」

赤い石板には小さな絵が沢山彫り込まれていてでこぼこしている。
カナトはいい物を手にいれたと思ったのか、満足そうな表情をみせた。
しかし石板を取り出した事で中身がごちゃごちゃになり、カナトのディバックは既にいっぱいではいらない。
ジンは仕方なく、それを取り上げてハイロゥのカバーへと収納した。

「あ、そろそろ出口がーー」

カズヒの視線の先。
カナトの背後にパタパタと翼を羽ばたかせるデビルエッグ。
カズヒは再び真っ青になり、反射的に杖を取りだした。

「うわぁぁぁぁぁぁあ!」

爆発する。

「またかよ!!」
「カズヒ殿!!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさぃいいい!!」

"ウィンドエクスプロージョン"からの、"エレメンタルラース"、更に"エレメンタルカルテット"を唱え、2人が弾き出される。
再び暴れ出してしまったカズヒに、ジンが再び止めようと立ち上がるが、右足首に刺すような酷い痛みを感じ、思わず抑えた。
受け身をとりそこね、足をくじいてしまったらしい。
周りは、"エレメンタルラース"の暴風や、カルテットの球体が飛び交い、近づくことすらできない。

どうしたものかと観察していると、カズヒの真上にある"ナビゲーションデバイス"の無線アンテナが、"エレメンタルラース"の風でぐらついている。

まずい。
落下すれば直撃だ。
ジンが必死で呼びかけるも、カズヒには届かない。
銃で破壊しても、重さで垂直落下だ。
この風ではカナトも飛べない。ならば……。

ジンは手に持っていた自動式拳銃を投げ捨て、脇腹の金の装飾銃、烈神銃・サラマンドラを取り出す。
最大威力のスキルを載せて、粉々に砕けばいい。
正直、この暴風の中、弾丸が真っ直ぐに飛ぶことすら怪しい上、外せば、天井ごと砕いてさらに大惨事になりかねない。
しかしそれでも、目の前の少年を見殺しにしたくはなかった。
ジンは体制を低くとり、慎重に狙いを定める。
緊張はしていないが、風で銃身が酷くぐらつく。最悪の環境だ。
しかし当たれば、なんとかなる。

“精密射撃”を唱え、ジンはオープンサイトを覗いた。
風の勢いを考え、手元のぐらつきがとまった直後。唱える。

「"インパクト!!"」


どんっ

圧力のある音が、回廊へ木霊する。
弾丸は正確に射線を捉え、ターゲットへと向かっていくが、直後。
天井とアンテナの接続部分が外れた。
弾丸は、アンテナが外れた事で天上にめり込み。
ジンが、言葉を失う。

やめろ!

前に出ようとしても、足が痛み動けない。
庇えない。

ようやくカズヒが、こちらをの声に気づいた直後。
カズヒを中心として、まるでドームのように、空気中の水分が凍てついて行く、
卵のようにに形成され、落下したアンテナを包み込むように氷の中へ閉じ込めた。

一瞬で冷凍庫のような空間になり、息が白く、風景が青く染まる。
反対側へ弾かれたカナトも飛び出そうとしていたのか、床に倒れていた。

「全く、こんな場所で油をうって……」

平然と氷の上を歩く彼は、足元に火を纏わせ、床の氷を溶かす。
聞き覚えのある声に、ジンとカナトは、はっと顔を上げ、カズヒは目を潤ませて叫んだ。

「し、ししょぉおお!!」
「はいはい、おいて行ってごめんなさい」

師匠と呼ぶ彼に抱きつき、泣き出してしまったカズヒ。
そんな彼をみて、ジンとカナトの2人は、声も出せず固まる。

「おや? ジンさんにカナトさん? こんな所で何しておられるんですか?」

現れたのは、ギルドランク6th。エミル・アストラリストのセオだ。

「せ、セオ殿……」
「師匠、知り合いですか?」

「知り合いも何も、ジンは5thランカーですよ?」
「へ? ぇぇええ!!」

言うまでもなく、ばれてしまった。

「ど、どういう……ジンさんは別人じゃ……」
「まさか、ほら、サラマンドラを持っているでしょう?」

指さされたそれに、ジンが苦笑して両手をあげる。
降参だ。
カズヒは未だ混乱していて、挙動不審に首を降る。
カナトは、そんなカズヒをみて、ジンを睨みつけた。

「か、隠して悪かったよ……、改めてよろしく、な。ほ、ほら、怖がらせたらダメだと思ってさ……その」
「カズヒ……」

「師匠……?」
「ジンさんは、悪い人でしたか?」

セオに問われ、カズヒがもう一度ジンをみる、カナトに肩をかりて立ち上がるのは、右足を怪我してしまったからか。
混乱した自分を、身を呈してまで庇おうとしてくれた彼を、カズヒは悪いとは思えなくて、

「変な人でした」
「だろうね」

「そこ納得するとこ!? ひでぇ!!」

あはは、と笑うカズヒをみてほっとした。
何事もなくてよかったと思う。

その後、セオと合流した三人は、彼に案内され、ゴール地点の75階へとたどり着いた。
受けたミッションは、カナトがジンの捕まっている間にだいたいこなしてしまったらしく、完遂。

無事、隊に合流したカズヒは、地下75階の討伐へと参加し、2人はジンが足の治癒をしてもらっている間、フロアからそれを眺めていた。
見事に属性を使いこなすセオは、前衛に属性を配ると、自らも反属性で応戦。
数時間もたたぬうちに、回廊の敵をのしてしまった。

結局今回も散々ではあったが、石板のお陰で臨時収入があり、カナトがえらくご機嫌なのでよしとする。
ジンも早く帰って、ペットのぴよに飯を与えなければ、

「ジンさーん! カナトさん!」

出口から此方を追ってきたのは、先程の彼、カズヒだ。
討伐後はミーティングがあるといって、もう話せないと思っていたのに、

「今回はお世話になりました」
「おう、合流できてよかったな」
「はい! ジンさんのお陰です」
「なんもしてねぇって、もうはぐれんなよ」
「はい!……それで、あのーー」
「? どした?」
「さっきは師匠の前で、言いづらかったんですけど……」
「なんだよ?」
「ジンさんって、本当、怖くもなんともない、普通の人だったんですね。安心しました」

それは本気でいっているのか、全力で蔑まれているのか、もはや意味を問う気力すら芽生えなかった。
普通で悪かったよ。普通で……、

「あ、あのジンさん」
「……? まだ、なんかあるんすか?」
「あの、時々元宮に来られるんですよね。ぼく、またジンさんに会いたいです……カナトさんにも」

2人が、思わず目を見開く。
素直な、遠回しな言葉だ。だが、その気持ちは十分過ぎるほどに伝わる。

「おう、また会おうぜ! なんならーー」
「フレンド登録をしましょう。あと自宅に来ていただければ、お茶ぐらいなら出せます」

「ありがとうございます! 楽しみにしてます!!」
「"カズヒ、そろそろ点呼です。戻りなさい"」
「あ、はい。師匠! 直ぐ行きます!」

カズヒのそんなやり取りの中、カナトは自分の通信番号とアドレスを書き起こし、カズヒへと渡す。

「さって、腹減ったしかえるぜ。カナト、後は任せた」
「貴様……」
「メールに送付すりゃ、はやいだろ?」

「ごめんなさい。カナトさん。すぐ戻らないとーー」
「む、そうですか……。分かりました。また、会いましょう」
「はい!!」

「"カズヒ、早く!"」
「わぁぁ、師匠、今戻りますー!」

マイクへそう叫んだカズヒは、再び回廊へと戻っていく。
時々振り返りてを降る彼を、2人は見えなくなるまで見送った。


END




*GEST
カズヒ05

エミル・アストラリストのカズヒ

年齢:15歳

治安維持部隊にて、セオに見出され弟子になった新人隊員。
過去に修業としてアンデット島へ一週間放りこまれ、闇属性モンスター恐怖症になった。
その余りの拒絶で暴走癖がある。



Chara:和灯さん
まだまだ弱いですが、頑張ります!!



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本編 | 【2013-07-18(Thu) 12:30:57】 | Trackback(-) | Comments:(4)
コメント

カズが可愛いwwwwwwwwww
2013-07-19 金 12:26:36 | URL | 結城隆臣 #- [ 編集]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-07-20 土 03:42:22 | | # [ 編集]
> 超可愛い。描いてて愛おしくてしかたないです///
> また書きたいよぉお!
2013-07-20 土 18:40:53 | URL | 詠羅P #- [ 編集]
こちらこそ書かせてもらってとてもたのしくて、うれしかったですw ありがとう!
楽しんでもらえたらなによりだし、またでてくれるとうれしいよ!
これからもよろしくね!
2013-07-20 土 18:42:39 | URL | 詠羅P #- [ 編集]
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